弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主          文
 1 原告の請求を棄却する。
 2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
  被告が平成15年4月10日付けで原告に対してした平成15年度不動産取得税の賦
課決定を取り消す。
第2 事案の概要
本件は,被告が平成15年4月10日付けで原告に対して平成15年度の不動産取
得税賦課決定(以下「本件処分」という。)をしたところ,原告は,第三者の代理人とし
て売買契約を締結したものであり,当該不動産を取得していないなどと主張して,そ
の取消しを求めた抗告訴訟である。
1 前提事実(当事者間に争いのない事実等)
(1) 原告は,平成14年2月22日,「不動産売買契約書」(以下「第1契約書」とい
う。)の買主欄に記名押印した(甲2の1)。
第1契約書には,売主である鈴木殖産合名会社(代表社員A。以下「鈴木殖
産」という。)は,買主である原告に対し,別紙物件目録記載の土地(以下「本件
土地」という。)を代金6295万8000円で売却し,手付金630万円は契約締結
時に,残代金5665万8000円は同年6月28日までに支払う旨の約定が記載さ
れている(以下,第1契約書による契約を「第1契約」という。)。
原告は,第1契約締結の際,鈴木殖産に対し,手付金630万円を支払い,鈴
木殖産は,原告あての領収証を交付した(甲6の1)。
(2) 原告は,平成14年4月9日,「不動産売買契約書」(以下「第2契約書」とい
う。)の売主欄に記名押印した(甲2の2,乙3の1)。
第2契約書には,売主である原告が,買主であるB(以下「B」という。)に対し,
本件土地を代金6300万円で売却し,手付金630万円は契約締結時に支払う
(残代金の支払時期は記載されていないが,所有権移転と物件の引渡しは代金
全額の支払と同時である旨約定されているところ,「所有権移転・引渡し日」は平
成14年5月25日とされている。乙3の1)旨の約定が記載されている(以下,第
2契約書による契約を「第2契約」という。)。
Bは,第2契約締結の際,原告に対し,手付金630万円を支払い,原告は,B
あての領収証を交付した(甲6の2,乙3の2)。
(3) 残代金の支払については,第1契約の関係で,平成14年6月20日付けの鈴
木殖産から原告にあてた領収証(金額は5665万8000円)と,第2契約の関係
で,同日付けの原告からBにあてた領収証(同金額)が作成,交付されている
(甲7の1・2,乙2の2,3の3)。
また,仲介手数料の支払については,第1契約の関係で,同日付けの勧業日
土地販売株式会社から原告にあてた領収書(本件土地売買仲介手数料及び消
費税として合計204万6177円)と,第2契約の関係で,同日付けの原告からB
にあてた領収証(同金額)が作成,交付されている(甲8の1・2)。
さらに,公租公課の負担については,第1契約の関係で,同日付けの鈴木殖
産から原告にあてた領収証(公租公課の分担金40万5949円)と,第2契約の
関係で,同日付けの原告からBにあてた領収証(同金額)が作成,交付されてい
る(甲9の1・2)。
(4)本件土地については,名古屋法務局平成14年6月20日受付第28689号に
より,同日付け売買を原因として,鈴木殖産からBに対する所有権移転登記がな
されており,原告に対する所有権移転登記は経由されていない(甲1)。
(5) 被告は,平成15年4月10日付けで,原告に対し,不動産取得税(課税標準額
2443万2000円,税額97万7200円,納期限平成15年4月30日)を賦課す
る旨の本件処分をした(納税通知書番号24。甲3の1・2)。
(6) 原告代理人らは,平成15年5月7日,愛知県知事に対し,本件処分について
審査請求をしたところ(甲4),同知事は,同年11月25日,審査請求を棄却する
旨の裁決をした(甲5)。
(7) 愛知県県税条例(昭和25年愛知県条例第24号。以下「本件条例」という。)の
うち,本件に関係する部分の抜粋は,以下のとおりである(乙1)。
43条(不動産取得税の納税義務者等)    
 不動産取得税は,不動産の取得に対し,不動産を取得した時における不動
産の価格を課税標準として,当該不動産の取得者に課する。
2項以下 略
43条の12(不動産の価格の決定等)
  知事は,固定資産課税台帳に固定資産の価格が登録されている不動産につ
いては,当該価格により当該不動産に係る不動産取得税の課税標準となる
べき価格を決定するものとする。但し,当該不動産について増築,改築,損か
い,地目の変換その他特別の事情がある場合において当該固定資産の価格
により難いときは,この限りでない。
    2項 略
   愛知県県税条例の一部を改正する条例(平成15年愛知県条例第51号)による改
正前の愛知県県税条例附則10条の2(宅地評価土地の取得に対して課する不
動産取得税の課税標準の特例)
 宅地評価土地(宅地及び宅地比準土地(宅地以外の土地で当該土地の取
得に対して課する不動産取得税の課税標準となるべき価格が,当該土地とそ
の状況が類似する宅地の不動産取得税の課税標準とされる価格に比準する
価格によって決定されるものをいう。)をいう。)を取得した場合における当該
土地の取得に対して課する不動産取得税の課税標準は,第43条第1項の規
定にかかわらず,当該取得が平成12年1月1日から平成14年12月31日ま
での間に行われた場合に限り,当該土地の価格の2分の1の額とする。
 2項以下 略
2 本件の争点
原告は,本件不動産について不動産取得税の納税義務を負うか。
(1) 不動産取得税の課税要件である「不動産の取得」の意義
(2) 原告は,本件土地の取得者に当たるか。
3 当事者の主張の要旨
(1) 不動産取得税の課税要件である「不動産の取得」の意義
(被告)
本件条例43条1項は,「不動産取得税は,不動産の取得に対し,不動産を
取得した時における不動産の価格を課税標準として,当該不動産の取得者に
課する。」と定めているところ,ここでいう「不動産の取得」とは,不動産所有権
の取得を指し,売買,贈与,交換,建築その他不動産所有権の取得原因は問
わないとされている。これは,不動産取得税がいわゆる流通税に属し,不動産
の移転の事実自体に着目して課されるものであって,不動産の使用,収益,
処分により得られるであろう利益に着目して課されるものではないからであ
り,地方税法において特に非課税とされる場合を除き,不動産取得の原因や
不動産の取得者が経済的利益を得たか否かを問わず,すべての不動産の取
得に対して課されることになる。
この点について,原告は,不動産取得税の課税対象が,不動産の実質的
所有権,すなわち当該不動産を自由に使用,収益,処分することが可能であ
り,かつこれらの行為によって得られる利益を享受することができるような所
有権の取得に限られることを前提とする主張をしているが,同主張は,流通税
の性格を看過した誤った解釈というべきである。
   (原告)
不動産取得税は,不動産を取得した者に対して課されるのであるが,不動
産取得税をだれに課すべきかという場面においては,取引相手を保護する必
要がないから,不動産取得税は,法的主体として,不動産の所有権を取得す
る意思を有している者に対して課されるべきである。したがって,第三者に不
動産を取得させるとの代理意思を有するにすぎない者に不動産取得税を課す
ことは,同一売買について,代理人と本人に二重に税金を課すことになり,違
法である。
(2) 原告は,本件土地の取得者に当たるか。
   (被告)
ア原告が,鈴木殖産との第1契約を締結したことによって,本件土地を取得
したことは,以下の事実から明らかである。
(ア) 本件土地については,売主を鈴木殖産,買主を原告とする平成14年
2月22日付けの第1契約書があり,売買代金6295万8000円のうち,
手付金630万円の支払日は契約締結時とされ,残代金5665万8000
円の支払日は同年6月28日とされているところ,手付金及び残代金とも
に確実に支払われており,第1契約は,何らの無効事由もなく有効に成
立している。そして,同契約書には,原告がBの代理人である旨の記載
はない。
また,本件土地については,売主を原告,買主をBとする平成14年4
月9日付けの第2契約書があり,売買代金6300万円のうち,手付金63
0万円の支払日は契約締結時とされ,残代金5670万円の支払日につ
いては記載されていないが,手付金についての平成14年4月9日付け
領収証と,残代金5665万8000円についての同年6月20日付け領収
証が存在することから,第2契約も,何らの無効事由もなく有効に成立し
ている。
(イ) 第1契約の締結に当たり,鈴木殖産は,原告に対し,原告が買主でな
ければ本件土地を売らない,代理人となることも認めないと申し入れたた
め,やむなく原告が第1契約の当事者となり,中間省略登記による権利
移転を行ったことは,原告代表者自身が供述するところである。
また,鈴木殖産の代表者が,Bと顔を合わせたのは本件土地を引き渡
した時が最初であると述べている。
(ウ) Bは,愛知県税務課職員による事情聴取において,原告の代表者か
ら,第1契約書を見せられ,本件土地を購入して,賃貸マンション事業を
営まないかと持ちかけられたこと,融資を受けられなければ手付金を返
すとのことであったので応じたこと,代理とか委任の契約を結んだ事実は
ないが,売買に関してはすべて原告に任せていたこと,代理買付人とい
う言葉については説明を受けていないこと,以上のとおり述べている。
イ これに対し,原告は,Bを代理して第1契約を締結する意思を有していたに
すぎない旨主張するが,①第1契約書には,原告がBの代理人である旨の
記載はないこと,②前記のとおり,第1契約書を作成した後に,本件土地購
入の話をBに持ちかけているのであるから,第1契約締結前に,Bが原告に
代理権を授与した事実がないことは明らかであること,③第2契約書は,第
1契約書作成後約1か月半を経過して作成されているところ,「代理買付
人」なる記載についてBは説明を受けておらず,代理や委任の契約を締結
していない旨述べていることからすると,原告は,不動産取得税の賦課を免
れるため事実に反することをあえて記載したと考えられること,④第2契約
書には,原告が瑕疵担保責任を負担する旨の約定が記載されているが,
仮に原告が代理人にすぎないのであれば,そのような合意をするはずがな
いこと,これらの事実に照らせば,第1契約の締結に際し,Bが原告に代理
権を授与した事実はあり得ず,原告が代理意思を有していたとは到底いえ
ない。
また,そもそも,原告の内心における意思がどのようなものであったとし
ても,それが第1契約書に記載されていない以上,第1契約の効力に何ら
影響を与えるものでないことはいうまでもない。
(原告)
ア 原告は,Bの代理人として,鈴木殖産との売買契約を締結したのであり,
本件土地について,法的主体として所有権を取得する意思はなかった。す
なわち,実質的な売買契約は,鈴木殖産とBの間の1つだけであり(契約書
が2つ存在しているのは,真の買主に土地所有権を移転させるための手段
であった。),原告は単に契約上の名義を貸したにすぎず,本件土地の所有
権を取得したとはいえない。このことは,以下の事情から明らかである。
(ア)平成14年1月中ころ,原告は,Bから,本件土地を購入したいという申
出を受けた。そこで,原告は,当時,本件土地を所有していた鈴木殖産
に打診したところ,鈴木殖産は,原告になら売却してもいいが,第三者に
は売却しないと言った。
そのため,鈴木殖産から売却してもらうべく,原告が購入する旨の第1
契約書を作成したものであって,第1契約は,実質上,鈴木殖産とBの間
の売買契約であった。
(イ) 鈴木殖産と原告との第1契約書は平成14年2月22日付けであり,原
告とBの第2契約書は同年4月9日付けになっているが,後者は,Bが融
資を受ける都合上,作成日付が遅れたものであり,実質的には,同年2
月22日の段階で,既にBが購入することが決まっていた。
(ウ) また,①原告の本件土地購入代金は6295万8000円であるところ,
Bへの売却代金は6300万円であり,両者はほとんど異ならないこと,②
第2契約書18条の特約事項に「(本件売主は本件買主の代理買付人で
ある)」という記載があること,③本件土地売却に関するすべての費用は
買主の負担とされているが,その中には,原告の買受けに関する費用も
含まれていること,④公租公課も,通常の売買であれば引渡時を基準と
して負担するが,本件においては,すべて買主であるBが負担しているこ
と,⑤Bが,原告に代理手数料として63万円を支払い,原告と鈴木殖産
との間の売買仲介手数料も負担していること,⑥代金等の決済は,第1
契約及び第2契約のいずれについても,平成14年6月20日に,原告の
事務所において,鈴木殖産,原告,B,勧業日土地販売株式会社が一堂
に会して行われ,売買残代金及び公租公課負担金については,Bから直
接鈴木殖産に支払われ,仲介手数料については,Bから勧業日土地販
売株式会社に支払われていること,⑦本件土地の引渡しも鈴木殖産から
Bに対してなされ,所有権移転登記も鈴木殖産からBに対して直接なさ
れていること,⑧所有権移転時期は,第1契約及び第2契約のいずれに
ついても,買主が売買代金全額を支払った時とされており,残代金の授
受が行われた平成14年6月20日に鈴木殖産からBに直接移転している
ことなどの事実からも,原告がBの代理人にすぎないことは明らかであ
る。
  なお,民法100条本文は,代理人が代理意思を有しながら,これを相手
方に表示しなかった場合,自己のためになしたものとみなす旨規定して
いるところ,同規定は,代理人に錯誤があっても,相手方が不測の損害
を被らないように設けられたものであり,そのような相手方保護のための
規定を全く次元の異なる不動産取得税の課税客体の問題にも適用しな
ければならないものではない。
イ 仮に,本件土地の売買について,形式上は2個の売買契約があるとして
も,第1契約書及び第2契約書のいずれにも,所有権移転時期は,買主が
売買代金全額を支払った時とする旨の約定が存在しているところ,本件土
地の決済は,平成14年6月20日に1回行われたのみであるから,原告
は,本件土地の所有権を取得すると同時にこれを喪失していることになる。
したがって,これをもって原告に所有権が移転したものとして,不動産取得
税を課税することは違法である。
また,現実の社会においては,不動産の中間省略登記が数多く行われ
ているところ,登記面上に不動産取得の事実が現れない場合には,ほとん
ど不動産取得税が課されていないと思われるから,本件処分は,税負担の
平等原則に反する違法な処分である。
ウ この点に関し,被告は,原告が第1契約成立後にBに本件土地の購入を
勧めている旨主張するが,売買代金についても,事前にBに了解を得た上
で決定していること,事前にBという買主が見つかっていなければ,不動産
仲介業者である原告が鈴木殖産から本件土地を購入するなどということは
あり得ないことから,上記主張は明らかな誤りである。
また,代理権の授与を否定する旨のBの供述録取書があるが,同時に,
Bは,売買に関してはすべて原告に任せていたと述べているところ,第1契
約締結後であれば,任せるべき売買が存在しないから,上記供述は,遅くと
も第1契約書作成以前にBが原告に対して代理権を付与していたことの明
確な証左である。
第3 当裁判所の判断
1 不動産取得税は,地方税法が同税の課税要件として,「不動産の取得」を規定し
ていること(法73条の2第1項)から明らかなとおり,いわゆる流通税の性格を有
し,不動産所有権の移転の事実自体に担税力を見いだし,これに対して課税する
ものであって,不動産の取得者がその不動産を使用・収益・処分することにより得
られる現実の利益に着目して課せられるものではない。したがって,上記「不動産
の取得」とは,不動産の取得者が実質的に完全な内容の所有権を取得するか否か
には関係なく,所有権移転等の形式による不動産の取得のすべての場合を含むも
のであり,これにより経済的な利益の増加を意図するなど,当該不動産を取得した
動機,目的によって左右されるものではないと解される(最高裁判所昭和48年11
月16日第二小法廷判決・民集27巻10号1333頁,同裁判所昭和53年4月11日
第三小法廷判決・民集32巻3号583頁参照)。以上の理は,法73条の2第1項
が,あらゆる形態の不動産取得を一律,形式的に課税対象としつつ,その反面,こ
れにより発生する不都合を防止するために,法73条の3ないし7が非課税規定を
置いて,個々の救済を図っていることからも明らかである。
そして,法73条の2第1項の「不動産の取得」の意義について,地方税法は何ら
の定義規定を設けていないことからすると,異なる意義に解すべき合理的理由の
ない限り,私法上の「不動産所有権の取得」と同義に解することが,租税法律主
義,法的安定性の要請を充たすことになる。
この点について,原告は,必ずしも明確ではないものの,①私法上の所有権取
得と税法上のそれとを区別した上,②不動産取得税を課すためには,不動産の実
質的所有権を取得する意思を有していたことを要するかのごとく主張するが,①の
見解が採用できないことは上記のとおりであり,②についても,不動産取得税の課
税要件として,当該不動産を使用・収益・処分することによる現実の利益を享受す
る意思を要求するのであれば,不動産取得税の趣旨,性格に照らして,採用できな
いというべきである。
2そこで,原告が本件土地の所有権を取得したかについて判断するに,前記前提事
実に後掲各証拠を総合すれば,次の事実が認められる。
(1) 原告は,不動産の売買・賃貸・仲介,建築工事の設計・施工等を目的とする株
式会社であり,かねてBから良い土地があれば購入したいとの意向を聞いてい
たところ,本件土地が売りに出されているとの話が持ち込まれたので,検討の結
果,Bに本件土地を購入させ,同地上に賃貸マンションの建築を決意させて,そ
の設計業務を受注すべく,土地代金6300万円を始めとする総所要資金を3億
7763万5850円とした試算が記載されている平成14年2月付け「収支概算表」
を交付して説明し,基本的な了解を得た(乙4,6の1・2)。
(2) 原告は,平成14年2月22日,第1契約書の買主欄に記名押印しているとこ
ろ,同契約書には,鈴木殖産が,原告に対し,本件土地を代金6295万8000
円で売却し,手付金630万円は契約締結時に,残代金5665万8000円は平
成14年6月28日までに支払うこと,所有権移転時期は,買主が売主に売買代
金全額を支払ったときであること,手付解除の期限は同年4月22日であり,違
約金は売買代金の10パーセントの629万5800円であること,十六銀行から6
000万円の融資を受ける予定であり,融資不承諾の場合の契約解除の期限も
同年4月22日であること,「売主は本物件駐車場の賃貸借契約を解除した上,
本物件を買主に引渡すものとする」ことなどの約定が記載されているが,原告が
Bの代理人である旨の記載はない。そして,同契約書には,株式会社東海住宅
販売と勧業日土地販売株式会社が立会人として表示されている(甲2の1)。
原告は,平成14年2月22日,鈴木殖産に対し,第1契約に基づく手付金630
万円を支払った(甲6の1)。
(3) 原告は,平成14年4月9日,第2契約書の売主欄に記名押印しているところ,
同契約書には,原告が,Bに対し,本件土地を代金6300万円で売却し,手付金
630万円は契約締結時に支払うこと(残代金5670万円の支払日欄は空欄),
所有権移転・引渡日(その時期は,買主が売主に売買代金全額を支払ったとき
とする。)は同年5月25日であること,公租公課分担の起算日は同年4月1日で
あること,手付解除の期限は同年5月10日であり,その場合の違約金額は売買
代金の10パーセント相当額の630万円であること,融資申込先は相談の上決
めるが,その融資額は2億8000万円であること,融資が不承認となった場合の
契約解除期限は同年5月10日であること,売主は本件土地引渡後2年間は,買
主に対して補修又は損害賠償の瑕疵担保責任を負担することなどの約定のほ
か,「①売主は本物件駐車場の賃貸借契約を解除した上,本物件を買主に引渡
すものとする。②本件売主の本物件売却(買入時も含む)に関する全ての費用
及び公租公課負担金等は全て買主が負担することを承諾する(本件売主は本
件買主の代理買付人である)。③本件買主は代理買付人(本件売主)に代理手
数料として金630,000円を支払うものとする。④本件取引は銀行融資を条件
とする。」旨の特約が記載されている(甲2の2,乙3の1)。
Bは,同年4月9日,原告に対し,第2契約に基づく手付金630万円を支払っ
た(甲6の2,乙3の2)。
(4) 鈴木殖産,原告の担当者,B及び立会業者らは,平成14年6月20日,原告の
事務所に集合し,残代金,仲介手数料(及び消費税)並びに公租公課の分担金
の決済・清算を行ったが,その際,鈴木殖産から原告にあてた残代金の領収証
(金額は5665万8000円),原告からBにあてた同様の領収証(同金額),勧業
日土地販売株式会社から原告にあてた仲介手数料及び消費税の領収書(合計
204万6177円),原告からBにあてた同様の領収書(同金額),鈴木殖産から
原告にあてた公租公課の分担金の領収証(40万5949円)並びに原告からBに
あてた同様の領収証(同金額)がそれぞれ作成,交付された(甲7ないし9の各
1・2,乙2の2,3の3)。
(5) 本件土地については,名古屋法務局平成14年6月20日受付第28689号
で,同日付け売買を原因として,鈴木殖産からBに対する所有権移転登記がな
されているが,原告に対する所有権移転登記はなされていない(甲1)。
(6) 関係者の供述は,以下のとおりである。
ア原告代表者は,平成15年6月3日,原告訴訟代理人らが所属する草野法律
事務所において,弁護士丹羽正明立会いの下,愛知県総務部税務課職員に
対し,①以前からBとは付き合いがあり,Bから良い土地があれば紹介してほ
しいと依頼を受けていたこと,②不動産仲介業者から本件土地の売却の話が
持ち込まれたため,この土地上に建築するマンションの設計業務をして採算
が取れるかを検討した上で,Bに本件土地を紹介したこと,③乗り気になった
Bは,本件土地を購入して賃貸マンションを建築することになり,原告がその
設計を請け負うことになったこと,④しかし,購入段階になって,鈴木殖産が原
告でなければ売らない,代理人になることも認めないと言ったため,原告が当
事者となる形で契約を締結し,中間省略登記を行ったこと,⑤鈴木殖産との売
買契約締結の際,原告がBの代理人であることを示してはいないが,鈴木殖
産は原告の後ろにBがいたことは知っていたと思うこと,⑥残代金の決済は,
平成14年6月20日に3者が集まって,Bが原告に支払い,原告はそのままそ
っくり鈴木殖産に渡し,各種手数料もBが負担したが,原告は代理手数料をも
らっていないこと,しかし,帳簿には,売買代金の流れが記載されていること,
⑦最終的に,Bは,原告に賃貸マンションの設計を請け負わせず,本件土地
だけ自分の物にしてしまったので,原告はBの詐欺に遭ったも同然であるか
ら,後日本件土地の返還を求めて告訴する予定であること,以上のとおり供
述した(乙4)。
イ鈴木殖産の税務に関与するC税理士は,平成15年6月16日,愛知県総務
部税務課職員に対し,電話で,①鈴木殖産の代表者は,契約するときは原告
が他の人に転売するつもりらしいことは知っていたこと,②本件土地の引渡し
の際にBと顔を合わせ,この人が買うのかと思ったこと,以上のとおり供述した
(乙5)。
ウBは,平成15年7月28日,上記税務課職員に対し,①原告代表者から,本
件土地に建てるビルの提案書と第1契約書を見せられ,本件土地を購入し,
そこに賃貸マンションを建て賃貸事業をしないかと持ちかけられたこと,②融
資を受けられなければ手付金を返すとのことであったので,契約に応じたこ
と,③原告との間で代理とか委任の契約を結んだ事実はないが,売買に関し
てはすべて原告に任せていたこと,④第2契約書の「代理買付人」という言葉
については,特に説明を受けていないこと,以上のとおり供述した(乙6の1)。
3 以上の認定事実によれば,本件土地を買い受けるに際し,鈴木殖産が,買主は原
告でなければならず,原告が代理人として関与することも認めないと述べたことか
ら,原告は,自ら買主として第1契約を締結したものであることが明らかであり,した
がって,本件土地の所有権は,売買代金全額が支払われた平成14年6月20日に
原告に移転したというべきである。
この点について,原告は,①第1契約と第2契約の2つの契約は,実質上1つで
あり,原告は,Bの代理人として,契約上の名義を貸したにすぎないところ,不動産
取得税の課税客体を判断する上で,相手方保護を目的とする民法100条本文を
適用しなければならないものではないこと,②仮に,2個の売買契約が存在すると
しても,売買代金の決済は,いずれも平成14年6月20日に行われているから,原
告は,本件土地の所有権を取得すると同時に喪失しており,このような場合にまで
不動産取得税を課税することは違法である上,登記簿に不動産取得の事実が現
れないのに課税の対象とするのは,平等原則に反するなどと主張する。
しかしながら,①については,第1契約と第2契約はその成立時期を異にしてい
ること,手付金,残代金及び公租公課分担金の各支払について別々に領収証が作
成されていること,第1契約が,融資不承諾の場合の契約解除の期日を平成14年
4月22日と定めているにとどまるのに対し,第2契約は,融資が実行されることを
契約の条件としているから,第1契約は,第2契約の条件不成就の場合にも効力を
有すると解されること,これらに照らせば,上記の各契約は,少なくとも法的には別
個のものとして存在すると認められる。そして,原告としては,本件土地を賃貸マン
ション建築用地としてBに購入させて,その設計業務を請け負うことを意図していた
ものであり,自ら本件土地を使用・収益・処分する予定ではなかったことは否定でき
ないものの,これらの事情は契約締結の動機ないし目的に関わる問題にすぎない
上,原告は,鈴木殖産の示す売却条件を受けた結果とはいえ,これを実現する手
段として,自らが買主となって第1契約を締結し,自らの名前で代金等の決済を行
っている以上,原告は法的な意味の代理意思(すなわち,契約に基づいて発生す
る法的効果を直接Bに帰属させる意思)を有していたものではなく,自ら本件土地
を買い受けた上でこれをBに転売しようとしたと認めるのが相当である。この点につ
いて,原告が代理人にすぎないことを基礎付けるものとして指摘する諸事情(争点(
2)についての原告の主張ア(ウ))も,後に作成された第2契約書の一部に「代理買
付人」の語句(これ自体は,転売人の趣旨と解する余地がある。)が使用されてい
たからといって,第1契約の上記趣旨,内容を左右するものではないこと,最終的
な代金,諸費用等の負担者がBであることも,上記転売の認定と矛盾するものでは
ないことなどを考慮すると,上記動機ないし目的の存在を強めることはあり得ても,
本件土地の所有権が鈴木殖産から原告に移転し,その直後に原告からBに移転し
たとの法的評価を妨げるものとはいえない。
また,②については,前記のとおり,不動産取得税の課税要件である「不動産の
取得」は,所有権移転等の形式による不動産の取得のすべての場合を含むと解す
べきであるから,所有権を取得していた時的間隔が極めて短く,いわば瞬間的に所
有権が通過していったとしても,その取得の事実を否定すべきではなく,ましてや,
対抗要件にすぎない登記の有無をもって,不動産取得税の課税が左右されるもの
ではない(不動産取得が登記されない場合に,課税庁である都道府県知事が,不
動産取得税を課税しない扱いをしている事実を認めることはできない。)。
4 以上を前提に,本件処分の適否を判断するに,本件土地の固定資産課税台帳に
おける登録価格は4886万4714円であるところ(甲3の1),平成12年1月1日か
ら平成14年12月31日までの間に宅地評価土地を取得した場合には,愛知県県
税条例の一部を改正する条例による改正前の愛知県県税条例附則10条の2第1
項に基づき,同価格の2分の1が課税標準額となるから,本件土地については,2
443万2000円が課税標準額となり(ただし,地方税法20条の4の2第1項に基づ
き1000円未満の端数を切り捨てた後のもの),これに不動産取得税の標準税率1
00分の4を乗じた金額である97万7200円が不動産取得税額となる(同法73条
の15。ただし,同法20条の4の2第3項に基づき100円未満を切り捨てた後のも
の)。そうすると,これと同額を課税した本件処分(甲3の1・2)は,適法というべき
である。
5 よって,原告の本訴請求は理由がないから,棄却することとし,訴訟費用の負担に
つき,行訴法7条,民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。
名古屋地方裁判所民事第9部
   裁判長裁判官  加  藤  幸  雄
   裁判官  舟  橋  恭  子
   裁判官  尾  河  吉  久
(別紙省略)

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