弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

本訴平成八年(ワ)第二五三二三号損害賠償請求事件
反訴平成九年(ワ)第二四八七七号事件
口頭弁論終結の日 平成一一年七月六日
判      決
      原告(反訴被告)株式会社カネコ化学
   右代表者代表取締役【A】
   右訴訟代理人弁護士高木 肇
 同佐藤克也
同吉澤敬夫
      被告(反訴原告)ディップソール株式会社
   右代表者代表取締役【B】
    右訴訟代理人弁護士外立憲治
同間宮 順
    右訴訟復代理人弁護士   文永智子
主文
一原告(反訴被告)は、別紙第一目録記載の物件を製造し、販売してはならな
い。
二原告(反訴被告)は、その占有に係る別紙第一目録記載の物件及びその半製品
(別紙第一目録記載2の構成を備えているが、製品として完成していないもの)を
廃棄せよ。
三原告(反訴被告)は、被告(反訴原告)に対し、金一二万五〇〇〇円及びこれ
に対する平成九年一一月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払
え。
四本訴のうち、特許権に基づく差止請求権不存在確認請求及び不法行為に基づく
損害賠償債務不存在確認請求に係る部分を却下する。
五原告(反訴被告)のその余の請求をいずれも棄却する。
六被告(反訴原告)のその余の請求を棄却する。
七訴訟費用は、本訴反訴を通じて一〇分し、その九を原告(反訴被告)の負担と
し、その余を被告(反訴原告)の負担とする。
事実及び理由
第一請求
一本訴請求
1原告(反訴被告)が、別紙特許目録記載一ないし三の各特許権について、平成
五年三月一日付け許諾契約に基づき、右各特許権の存続期間中、国内全域における
無償の通常実施権を有することを確認する。
2原告(反訴被告)の別紙第一目録記載の物件の製造販売について別紙特許目録
記載一の特許権に基づく被告(反訴原告)の原告(反訴被告)に対する差止請求権
が存在しないこと及び原告(反訴被告)が別紙第一目録記載の物件を製造販売して
原告(反訴被告)の右特許権を侵害した不法行為に基づく原告(反訴被告)の被告
(反訴原告)に対する損害賠償債務が存在しないことを確認する。
3被告(反訴原告)は、原告(反訴被告)に対し、金八六六六万二五〇〇円及び
内金五〇六六万二五〇〇円に対する平成九年一月一一日から支払済みまで年六分の
割合による金員を支払え。
二反訴請求
1主文一、二項と同旨。
2原告(反訴被告)は、被告(反訴原告)に対し、金二七五万円及びこれに対す
る平成九年一一月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一争いのない事実等
1原告(反訴被告、以下「原告」という。)は、洗浄剤及び接着剤等の製造販売
を業とする株式会社であり、被告(反訴原告、以下「被告」という。)は、各種化
学工業薬品の製造販売を業とする株式会社である。
2被告は、別紙特許目録記載一ないし三の特許権(以下、同目録記載一の特許権
を「本件特許権」といい、その特許請求の範囲の請求項1の発明を「本件発明」と
いう。)を有する。
3原告と被告は、平成五年三月一日、被告が原告に対し、フラックス・油脂類の
洗浄剤の製造を委託し、原告が右委託に係る洗浄剤を製造し、被告がこれを買い取
って販売するというOEM取引に関する基本契約(以下「本件契約」という。)を
締結した。本件契約の契約書には、次の趣旨の条項がある(以下、本件契約の契約
書の条項を「本件契約第一条」などという。)。
第一条(本件契約の目的)
被告は、原告に対し、次条に定めるところにより、別紙商品目録に記載するフラ
ックス・油脂類の洗浄剤及びその同等製品(以下これを総称するときは「本製品」
という。)の製造を委託し、原告はこの委託に基づいて各製品を製造し、被告に納
入し、被告は完成した本製品を原告から買い取るものとする。
第八条(販売権及び製造権)
1被告は、本製品に関し、販売地域を問わず、販売権を有するものとする。ただ
し、本件契約に基づき原告に対しては、販売地域を問わず、非独占的、非譲渡的販
売権を許諾するものとする。
2本件契約は、原告が、本製品と同一の製品及び本製品と同様あるいは類似の製
品を独自に製造し、自社の商標を付して、販売することを妨げるものではない。た
だし、本製品と同一の製品の製造、販売の場合には、別紙商品目録に原告の商品名
を記載するものとする。
第一〇条(工業所有権)
1本件契約に基づき製造販売される本製品に関し、被告は、自ら研究開発した技
術の工業所有権の登録を行うことができるものとする。
2本製品に関する工業所有権の使用は、被告より原告に対して非独占的、非譲渡
的に許諾されるものとする。原告が、本製品に関し、改良をなした場合は、被告は
これを無償にて使用できるものとする。
第一六条(基本契約及び個別契約の効力)
1本件契約は、解除又は期間満了により終了した場合においても、本件契約に基
づき締結された個別契約の効力が生じている限りは、本件契約に定めるところによ
り処理するものとし、又、本件契約の解除あるいは終了においても、第八条、第一
〇条及び第一一条の規定は依然として効力を有し、被告及び原告を拘束するものと
する。
第一八条(本件契約の有効期間)
本件契約の有効期間は、その締結の日から一年間とし、期間満了の三か月前まで
に双方のいずれからの書面による申し出がない限り、自動的に更新されるものと
し、以後も同様とする。
4原告と被告は、平成六年二月一日、本件契約に関する覚書(以下「本件覚書」
という。)を締結した。本件覚書には、次の趣旨の条項がある。
第一条本件契約書の第一条に基づく別紙商品目録に記載すべき製品として別紙第
二目録のものを確認する。
別紙第二目録記載の各商品(以下、これらを「SC-五一シリーズ」という。)
は、イソプロピルブロマイド(以下「IPB」という。)を主成分とするフラック
ス・油脂類の洗浄剤である。
5被告は、平成五年三月からSC-五一シリーズの販売を始め、平成六年ころか
らは、SC-五一シリーズのほかに、ノルマルプロピルブロマイド(以下「NP
B」という。)を主成分とするフラックス・油脂類の洗浄剤を販売している(以
下、被告が販売しているNPBを主成分とするフラックス・油脂類の洗浄剤を「S
C-五二シリーズ」という。)。SC-五一シリーズ及びSC-五二シリーズは、
本件発明の実施品である。
6被告は、SC-五一シリーズについて、本件契約に基づき、平成五年三月から
平成八年七月まで原告にその製造を委託していたが、平成八年八月一日以降、その
製造委託を中止した。また、被告は原告に対し、SC-五二シリーズの製造を委託
したことはない。
7原告は、SC-五一シリーズを、「K-1」等の名称で販売していたが、その
後、NPBを主成分とするフラックス・油脂類の洗浄剤を「K-3-N」の商品名
で製造販売するようになり、業として別紙第一目録記載の物件(以下「イ号物件」
という。)を製造販売している(甲三二の一ないし三、弁論の全趣旨)。イ号物件
は、本件発明の技術的範囲に属する。
二本訴事件は、原告が、被告に対し、原告は本件契約によりSC-五二シリーズ
の独占的製造権を付与され、被告はその製造を原告に委託する義務があるから、S
C-五二シリーズの製造を原告に委託しなかった被告の行為は右製造委託義務に違
反するとして、債務不履行による損害賠償を求めるとともに、本件契約により別紙
特許目録記載の各特許権について通常実施権の許諾を受けたとして、右通常実施権
の存在確認並びにイ号物件の製造販売について本件特許権に基づく差止請求権及び
不法行為による損害賠償債務の不存在確認を求める事案である。
反訴事件は、被告が、原告に対し、イ号物件の製造販売が本件特許権を侵害する
として、イ号物件の製造販売の差止等とともに不法行為による損害賠償を求める事
案である。
第三争点及びこれに関する当事者の主張
一被告は原告に対し、SC-五二シリーズの製造を委託する義務を負うかどう
か。
1原告の主張
(一)原告は、平成四年九月、IPBを主成分とするフラックス・油脂類の常温洗
浄用の洗浄剤の製造販売を開始し、その売り込みのため被告を訪問したところ、右
洗浄剤に興味を持った被告から右洗浄剤を改良し、蒸気洗浄でも使用できる洗浄剤
を共同開発し、共同特許を取得することを提案され、同年一一月三〇日、右洗浄剤
の主成分がIPBであること、IPBと同様にNPBでも同程度の洗浄効果がある
ことなど「IPB又はNPBを主成分として、フロンや塩素系溶剤に代わる代替洗
浄剤の開発が可能である」という原告の基本発明を被告に開示し、被告との間で、
右基本発明に基づいてIPB及びNPBを主成分とするフラックス・油脂類の洗浄
剤を共同開発し、共同特許を取得することを合意した。その後、原告と被告との共
同開発の成果により、IPB及びNPBを主成分とするフラックス・油脂類の洗浄
剤に関する発明である本件発明がされた。
原告は、平成五年一月一一日、被告から本件発明を被告単独名義で特許出願する
と告げられたことから、右の共同特許取得の合意に反すると抗議したところ、被告
は、単独名義の特許出願の見返りとして右洗浄剤の製造権をすべて原告に与える旨
約した。
被告は、平成五年一月二五日、本件発明を被告の単独名義で特許出願した。
以上のとおり、本件発明は、原告の基本発明に基づいて開発されたものであり、
被告は、原告の基本発明と商品開発の功績に報いるべく、単独で特許出願したこと
の見返りとして、IPB及びNPBを主成分とするフラックス・油脂類の洗浄剤の
独占的製造権を原告に付与する趣旨で、平成五年三月一日、原告との間で本件契約
を締結したものである。
 本件覚書において、本件契約第一条の「別紙商品目録に記載するフラックス・
油脂類の洗浄剤」として確認されているのは、SC-五一シリーズのみであるが、
IPB及びNPBを主成分とするフラックス・油脂類の洗浄剤は、いずれも原告の
基本発明に基づいて開発されたもので、原告、被告とも本件契約締結当時、被告が
将来NPBを主成分とするフラックス・油脂類の洗浄剤を商品化するであろうこと
を認識し、視野に入れて本件契約を締結したのであり、しかも、IPBとNPBと
は化学的性質が基本的に同一であり、被告も当初からIPBとNPBを同列におい
て本件発明の研究開発を行っていたのであるから、NPBを主成分とするフラック
ス・油脂類の洗浄剤は、本件契約第一条の別紙商品目録の製品であるSC-五一シ
リーズの「同等製品」に当たる。
したがって、本件契約においては、被告の販売するSC-五二シリーズのすべて
を原告に製造委託する旨の合意が成立したというべきであるから、被告は、原告に
対して、SC-五二シリーズのすべてを原告に製造委託する義務を負っている。
(二)仮に、本件契約の内容として原告の無条件での独占的な製造権が認められな
いとしても、本件契約は、右のような経緯で、原告の基本発明と商品開発の功績に
報い、特許権の放棄に対する対価を補償する趣旨で締結されたものであるから、特
許権放棄の対価に匹敵する程度の期間である五年間、被告は、SC-五二シリーズ
のすべてを原告に製造委託すべき信義則上の義務があるというべきである。
(三)なお、本件契約は、右のような趣旨で締結されたものであるから、本件契約
第一八条の有効期間の定めは例文と解すべきであり、被告がIPB又はNPBを主
成分とする洗浄剤の販売を継続している限り、被告から本件契約の一方的解約又は
更新拒絶をすることは信義則上許されないというべきである。
2被告の主張
(一)本件契約において、被告の販売するSC-五二シリーズのすべてを原告に製
造委託する旨の合意が成立したことは否認し、信義則上被告にそのような義務があ
るとの主張は争う。
(1)被告は、原告が売り込みに来た洗浄剤の主成分がIPBであるとの開示を受け
たが、それは、本件発明のきっかけとなったにすぎない。被告は、多大の費用と労
力をかけて単独で本件発明を行ったのであり、これに対して原告は何らの技術的、
資金的な支援、協力等をしていない。
しかし、被告は、原告の洗浄剤が右研究開発のきっかけとなったことを評価し
て、本件契約を締結し、SC-五一シリーズの製造を原告に委託したのである。
以上のとおり、本件契約は、原告の基本発明の功績に報い、被告単独での特許出
願に原告が同意したことの見返りとして締結されたものではない。
(2)本件契約において、原告の独占的製造権を認めた条項はない。
 本件契約第八条一項は、「本製品」に関し、被告は原告に対して、非独占的、非
譲渡的な販売権を許諾しているにすぎないし、「本製品」に関する工業所有権の使
用についても、本件契約第一〇条二項では、被告から原告に対して、非独占的、非
譲渡的に許諾されているにすぎない。
(二)NPBを主成分とするフラックス・油脂類の洗浄剤が本件契約第一条の「同
等製品」であることを否認する。
IPBとNPBは化学的性質が異なり、本件契約締結当時には、NPBを主成分
とするフラックス・油脂類の洗浄剤は開発に着手すらされていなかったのであるか
ら、原告、被告とも本件契約の製造委託の対象として、NPBを主成分とするフラ
ックス・油脂類の洗浄剤を予定していなかったことは明らかである。また、本件覚
書が締結された当時、NPBを主成分とするフラックス・油脂類の洗浄剤であるS
C-五二Aがすでに商品化されていたにもかかわらず、本件覚書では、本件契約の
別紙商品目録がSC-五一シリーズに限定されており、原告、被告間においてSC
-五二Aは、本件契約の「本製品」としては認識されていなかった。したがって、
NPBを主成分とするフラックス・油脂類の洗浄剤は、本件契約第一条の「同等製
品」ではない。
(三) 被告は、原告に対し、平成八年一一月七日付けの通知書により、本件契約第
一八条に基づく契約期間の更新拒絶の意思表示をし、この意思表示は同月八日、原
告に到達した。
したがって、本件契約は、平成九年二月二八日の経過により、期間満了により終
了したのであるから、被告は、原告に対して、SC-五二シリーズのすべてを原告
に製造委託する義務を負っていない。
なお、本件契約の更新拒絶が信義則上許されないとの主張は争う。
二原告は、別紙特許目録記載一ないし三の各特許権について通常実施権を有する
かどうか。
1原告の主張
本件契約第一〇条は、一項で被告が「本製品」について工業所有権の登録を行う
ことを規定し、二項で原告がその工業所有権について無償の通常実施権を有するこ
とを規定しているところ、別紙特許目録記載一ないし三の各特許権は、いずれも本
件契約第一〇条一項に基づき被告が登録を行ったものである。
本件契約第一六条では、本件契約第一〇条の規定は本件契約が終了した後も効力
を有し、当事者を拘束することが規定されている。
したがって、原告は、本件契約第一〇条二項により右各特許権について通常実施
権を有する。
2被告の主張
(一)本件契約第一〇条二項では、被告から原告に対し「本製品」に関する工業所
有権の使用が許諾されているが、これは、同条一項を受けて、原告が本件契約に従
って「別紙商品目録」に記載される「本製品」を製造販売するための必要不可欠な
前提として、その限りにおいて、「本製品」に関して被告が開発した技術に関する
工業所有権の使用を原告に許諾したにすぎない。
(二)本件契約第一六条一項は、解除又は期間満了により契約が終了した場合に、
契約終了時に製造中又は販売中の製品について、その製造販売が終了するまでの
間、その製造販売に必要な限度で第一〇条が依然として効力を有することを規定し
たものである。
したがって、本件契約の終了後に原告が新たに行う製造販売行為についてまで本
件契約第一〇条の効力が及ぶわけではない。
三原告によるイ号物件の製造販売が本件特許権の侵害となるかどうか。
1原告の主張
(一)イ号物件は本件発明の技術的範囲に属するから、その製造販売は本件発明の
実施行為となるが、前記二1のとおり、原告は本件特許権について通常実施権を有
するから、原告によるイ号物件の製造販売は本件特許権の侵害とはならない。
(二)本件契約第八条二項では、被告は、原告が「本製品」のみならず、「本製品
と同等あるいは類似する洗浄剤」一般を独自に製造販売することを許諾しており、
右の「本製品と同等あるいは類似する洗浄剤」にはNPBを主成分とするフラック
ス・油脂類の洗浄剤(イ号物件)が含まれるところ、本件契約第一六条では、本件
契約第八条の規定は本件契約が終了した後も効力を有し、当事者を拘束することが
規定されているから、本件契約は、原告がイ号物件を独自に製造販売することを契
約期間以後も認めており、これは、イ号物件について本件特許権の存続期間中原告
に無償の通常実施権を付与したことを意味する。
したがって、原告によるイ号物件の製造販売は本件特許権の侵害とはならない。
2被告の主張
(一)原告が本件特許権について通常実施権を有しないことは、前記二2のとおり
である。
(二)本件契約第八条二項は、「本製品と同様あるいは類似の製品」に係る被告の
工業所有権の実施を原告に許諾した規定ではなく、原告が「本製品」について被告
から製造委託を受け、その販売権を付与された場合でも、当該製造委託の対象とな
る「本製品」と競争関係に立ち得る製品、即ち「本製品と同様あるいは類似の製
品」について、原告が独自の技術を利用して独自に製造し、自らの名称を付して販
売することは禁止されないことを規定したものである。
しかし、イ号物件は、本件発明を利用して開発されたものであり、原告が独自に
開発したものではない。
したがって、原告がイ号物件を製造販売することは、本件契約第八条二項により
許容されるものではない。
四原告の損害(本訴請求)
1原告の主張
(一)被告は、本件契約に基づき又は信義則上、SC-五二シリーズの製造を原告
に委託すべき義務があるのに、これに違反して、次のとおり、SC-五二シリーズ
を製造販売した。
平成六年一月から一二月分一万九八〇〇キログラム
平成七年一月から一二月分三万七〇七五キログラム
平成八年一月から一二月分一一万二〇〇〇キログラム
平成九年一月から一二月分一二万キログラム
合計二八万八八七五キログラム
(二)原告は、被告からSC-五二シリーズの製造の委託を受けることにより、一
キログラム当たり三〇〇円の利益を得たはずであるから、SC-五二シリーズの製
造を原告に発注しない被告の債務不履行により、原告は、次のとおり合計八六六六
万二五〇〇円の損害を被ることになる。
288,875×300=86,662,500
2被告の主張
原告の主張を争う。
五被告の損害(反訴請求)
1被告の主張
原告は、SC-五一シリーズの原告ブランド商品である「K-1」及び「K-
2」を平成六年度に年間合計約六トン、平成七年度に年間合計約四トン製造販売し
ており、年間平均約五トンの「K-1」及び「K-2」を製造販売し、一キロ当た
り三〇〇円の利益を得ていた。
原告は、平成八年一月ころから平成九年一〇月までの間、右「K-1」及び「K
-2」に代えてイ号物件を製造販売しており、これにより右期間に少なくとも合計
二七五万円の利益を得た。被告は、この利益の額に相当する損害を被った。
2原告の主張
原告は、平成八年一〇月以降、年間五〇〇〇キログラム程度の「K-3-N」な
る商品名の洗浄剤を製造販売しているが、平成九年一〇月より前の「K-3-N」
はニトロエタンではなくニトロメタンを用いたものであり、イ号物件とは異なる。
原告がイ号物件の製造販売を始めたのは、平成九年一〇月六日以降であり、同年
一〇月より前にイ号物件を製造販売したことはない。
原告が「K-3-N」の製造販売により一キログラム当たり三〇〇円の利益を得
ていることは認める。
第四当裁判所の判断
一 争点一について
1前記第二の一の事実に証拠(甲一の一、甲二一の一ないし五、甲二六、乙二六
ないし二八、原告代表者、証人【C】、証人【D】、証人【E】)と弁論の全趣旨
を総合すると、次の事実が認められる。
(一) 原告は、平成四年ころ、フラックスにじみ防止剤やフラックスの洗浄剤を製
造販売しており、原告代表者【A】(以下「【A】」という。)とスメルター株式
会社の【C】(以下「【C】」という。)が右商品の営業活動を行っていた。
(二) 【A】と【C】は、平成四年一〇月二九日、原告商品の売り込みのために被
告の市原工場を訪れ、フラックスにじみ防止剤やフラックスの洗浄剤の商品説明を
行い、同年一一月五日、被告の東京営業所においても右商品説明を行った。
(三) その後、【A】は、被告担当者から原告のフラックスの洗浄剤が蒸気洗浄を
行う金属洗浄剤として使用できるかどうかをテストするため右洗浄剤のサンプルを
送付してほしいと依頼を受け、平成四年一一月二二日、二五日及び二八日、被告研
究所の【F】宛に右洗浄剤のサンプルを送付した。なお、そのころは、まだ右洗浄
剤の主成分がIPBであることを被告に開示していなかった。
 被告担当者は、【A】から送付された右サンプルの洗浄剤が蒸気洗浄を行う金属
洗浄剤として使用できるかどうかをテストしたが、右サンプルの洗浄剤は、加熱し
たり、これに金属片を入れたりすると激しく反応してガスが発生したり金属片を溶
解したりしてしまい、金属洗浄剤としては全く使用できないものであった。
(四) 【A】は、被告担当者に対し、平成四年一一月三〇日、原告のフラックスの
洗浄剤の成分がIPBであることを開示した。
(五) 被告は、右開示を受けた後、IPBを主成分とする金属洗浄剤の開発を進め
たが、その際の課題は分解性の高いIPBを安定化するための安定剤の開発であっ
た。【A】は、平成四年一二月八日、一一日及び平成五年一月七日にも、原告のフ
ラックスの洗浄剤のサンプルを被告研究所の【F】宛に送付したが、そのほかに
は、右安定剤の開発について、被告に対する技術的又は資金的な援助等を一切して
おらず、被告は自ら労力と費用をかけ、単独で右安定剤の開発を行った。そして、
平成五年一月、IPBの安定化技術に目途がついたので、被告は、同月二五日、右
洗浄剤に係る本件発明の特許出願をした。
(六) 【A】と被告担当者は、平成五年一月一一日、被告の開発したIPBを主成
分とするフラックス・油脂類の洗浄剤の製造販売に関する契約締結について交渉を
行ったが、その日は交渉がまとまらず、その後、被告から原告に契約書案が送ら
れ、同月二六日に再度、契約締結に関する交渉が行われ、おおよそ本件契約のとお
りの内容で、原告、被告間に右洗浄剤の製造販売に関する合意が成立した。
(七) 被告は、平成五年二月二三日、IPBを主成分とする洗浄剤に配合する安定
剤の種類等を最終的に確定して、右洗浄剤の商品化を完了し、その商品名を「SC
-五一」として、右合意に基づき、同年三月二日から原告に右洗浄剤の製造委託を
開始した。右製造委託は、具体的には、被告が配合済みの安定剤を原告に供給し、
原告があらかじめ被告によって定められた割合でIPBと安定剤を混合して洗浄剤
を製造するというものであり、被告は原告に対し安定剤の成分を開示しなかった。
(八) 原告と被告は、右のとおり平成五年三月二日に「SC-五一」の製造委託が
開始された後、同月一日付けで本件契約を締結したが、本件契約締結時には、本件
契約の対象となる別紙商品目録の記載はされず、平成六年二月一日に締結された本
件覚書において、本件契約の別紙商品目録の商品としてSC-五一シリーズが確認
された。
(九) 被告は、平成五年九月ころ、SC-五二シリーズの商品化を完了し、その製
造販売を始めた。SC-五二シリーズも、SC-五一シリーズと同様に、被告が単
独で研究開発し、商品化したものであった。
(一〇) 本件契約中には、原告、被告間のOEM取引の対象となるフラックス、油
脂類の洗浄剤の独占的な製造販売権を原告に付与する旨の条項はない。
2 右1認定の事実を前提として、本件契約により原告がSC-五二シリーズの独
占的製造権を付与されたかどうかについて判断する。
(一) 原告は、被告は、平成五年一月一一日、本件発明を単独で特許出願すること
の見返りとして本件発明に係る洗浄剤の独占的製造権を原告に付与することを約し
ており、本件契約は、原告の基本発明と商品開発の功績に報い、原告が被告の単独
での特許出願に同意を与えたことの見返りとして、IPB及びNPBを主成分とす
るフラックス・油脂類の洗浄剤の独占的製造権を原告に付与する趣旨で締結された
ものであると主張し(前記第三の一1(一))、原告代表者は代表者尋問においてこ
れに沿う供述をし、同人の陳述書(甲二六)にも同旨の記載がある。
(二) しかし、右1認定の事実によると、本件発明並びにその実施品であるSC-
五一シリーズ及びSC-五二シリーズの研究開発及び商品化は、被告が自らの労力
と費用をかけて単独で行ったものであり、原告は、IPBがフロンや塩素系溶剤に
代わる洗浄用溶剤となり得るとのアイデアを提供したものの、右研究開発及び商品
化に当たっては、原告の洗浄剤のサンプルを数回送付したほかは、技術的、資金的
な協力等をしていないことが認められ、これらの事実に照らすと、被告が本件発明
を単独で特許出願するについて原告の同意が必要であったとは考えられない。ま
た、本件契約の締結に至る経過は、右1のとおり、平成五年一月一一日、原告、被
告間で被告の開発したIPBを主成分とする洗浄剤の製造販売に関する契約交渉が
行われたがまとまらず、その後に被告から契約書案が送付され、同月二六日に再度
契約交渉が行われてほぼ本件契約の内容どおりの合意が成立し、同年三月に本件契
約が締結されたというものであるところ、被告が平成五年一月一一日に単独での特
許出願の見返りとして原告に右洗浄剤の独占的製造権を与えることを約し、そのよ
うな趣旨のものとして本件契約が締結されたのであれば、そのような重要な事項
は、本件契約の契約書に明記されるはずであるが、本件契約中には、原告が被告に
対し、別紙商品目録に記載するフラックス・油脂類の洗浄剤及び同等製品の製造を
委託する(第一条)とあるだけで、右洗浄剤の独占的製造権を原告に付与する旨の
条項は存在しない。
 以上述べたところに加え、本件契約の締結交渉に当たった被告側の責任者である
証人【E】は、被告が原告に右洗浄剤の独占的製造権を与える旨約したことはない
と明確に証言していることを併せ考慮すると、原告代表者の右供述及び右陳述書の
記載は信用することができず、他に本件契約が原告に右洗浄剤の独占的製造権を付
与する趣旨で締結されたものと認めるに足りる証拠はない。
(三)したがって、原告が本件契約により対象製品であるフラックス・油脂類の洗
浄剤の独占的製造権を付与されたとは認められないから、被告は原告に対しSC-
五二シリーズの製造を委託する義務があるとは認められない。
また、右に判示したところによると、被告がSC-五二シリーズのすべてを原告
に製造委託すべき信義則上の義務があるというべき事情は認められない。
3 以上のとおりであるから、原告の本訴請求のうち、債務不履行による損害賠償
請求は、その余の点につき判断するまでもなく理由がない。
二 争点二について
1 証拠(甲一の一、乙一の一、二)と弁論の全趣旨によると、本件契約の有効期
間は、契約締結の日から一年間であるが、自動更新条項(本件契約第一八条)によ
り、平成九年二月二八日が本件契約の期間満了の日であったこと、被告は原告に対
し、平成八年一一月七日付けの通知書により、本件契約の契約期間の更新を拒絶す
る旨の意思表示をしたこと、右意思表示は、平成八年一一月八日、原告に到達した
ことが認められる。
原告は、本件契約の更新拒絶は信義則上許されないと主張する(前記第三の一1
(三))が、前記一2に判示したところによると、右更新拒絶が信義則上許されない
とするべき事情は認められないから、右主張は採用できない。
したがって、本件契約は、本件契約第一八条に基づき、平成九年二月二八日の経
過をもって期間満了により終了したものと認められる。
2(一)原告は、本件契約第一〇条二項により、別紙特許目録記載一ないし三の各
特許権について通常実施権を有するところ、右第一〇条の規定は本件契約第一六条
により本件契約が終了した後も効力を有し、当事者を拘束する旨規定されているか
ら、原告は本件契約終了後も右通常実施権を有すると主張する(前記第三の二
1)。
(二)前記第二の一3のとおり、本件契約第一〇条二項は、「本製品に関する工業
所有権の使用は、被告より原告に対して非独占的、非譲渡的に許諾されるものとす
る。」と規定しているところ、前記第二の一の事実に証拠(甲一の一)を総合する
と、本件契約は、「本製品」、すなわち、SC-五一シリーズ及びその同等製品に
ついて被告が原告に製造を委託することを目的とするOEM取引基本契約であり、
右委託に関する取決めをしているものと認められるから、本件契約第一〇条二項
は、原告が被告から委託を受けて「本製品」を製造し、それを販売することが被告
が有する工業所有権の実施行為となるとしても、被告は、原告に対してその実施を
許諾する旨の条項であると認められる。
 本件契約第八条二項は、本件契約は、原告が、本製品と同一の製品及びそれと同
様あるいは類似の製品を独自に製造し、自社の商標を付して販売することを妨げる
ものではないと規定しているが、右認定の本件契約の目的及び本件契約第八条二項
の「妨げるものではない」という文言からすると、本件契約第八条二項は、本件契
約が原告に対して競業行為を禁じるものではないことを規定したにとどまり、原告
に対して本製品と同一の製品又はそれと同様若しくは類似の製品を独自に製造販売
することを保証するものとは認められない。また、本件契約第一〇条二項は、「本
製品に関する」と規定しており、本件契約第八条二項の「本製品と同一の製品及び
それと同様あるいは類似の製品」という文言とは明らかに異なる文言を用いてい
る。さらに、右一で認定した本件契約締結に至る事実経過からすると、本件契約第
八条二項が規定する原告独自の製造販売が、被告が有する工業所有権の実施行為と
なる場合に、被告が原告に対して、その実施を許諾しなければならないような実質
的な関係があるとも認められない。そうすると、本件契約第八条二項が規定する原
告独自の製造販売が、被告が有する工業所有権の実施行為となる場合に、本件契約
第一〇条二項によって、被告が原告に対して、その実施を許諾しているとは認めら
れない。
 なお、前記第二の一7のとおり、原告は、本件発明の実施品であるSC-五一シ
リーズを「K-1」等の名称で製造販売していたのであるが、証拠(乙三二)と弁
論の全趣旨によると、原告は、被告から配合済みの安定剤の供給を受け、あらかじ
め被告によって定められた割合でIPBと安定剤を混合して洗浄剤を製造した上、
これを一旦被告に納入し、被告から供給を受けて「K-1」等の名称で製造販売し
ていたものと認められる。そうすると、これらの洗浄剤の製造販売は、原告が独自
に行っていたものというよりも、製造委託により製造したものの供給を受けて販売
していたというべきであるから、原告が独自に行っていた本製品と同一の製品等の
製造販売行為について本件発明の実施が許諾されていたものということはできず、
その他、原告が独自に行っていた本製品と同一の製品等の製造販売行為について本
件発明の実施が許諾されていたというべき事例は認められない。
 そして、他に、原告が被告から委託を受けて「本製品」を製造し、それを販売す
る場合以外に、被告が原告に対して、本件契約第一〇条二項によって、被告が有す
る工業所有権の実施を許諾したものというべき事情は認められない。
(三) 本件契約第一六条一項は、本件契約が解除され又は期間満了により終了した
場合に、第一〇条の規定が依然として効力を有し、当事者を拘束すると規定してい
るが、本件契約第一〇条第二項が、右認定のとおり、原告が被告から委託を受けて
「本製品」を製造し、それを販売する場合に被告が有する工業所有権の実施を許諾
する旨の条項であることからすると、本件契約に基づいて製造委託がされた「本製
品」で、原告が製造中又は販売中のものについては、本件契約が終了したとして
も、その製造販売が終わるまでの間、その製造販売に必要な限度で本件契約第一〇
条二項の効力を存続させることを規定したものと解するのが相当である。
  なお、原告は、本件契約第一六条一項は前段と後段に分かれており、前段が製
造中又は販売中の「本製品」の後始末に関する規定であり、後段はそれとは別に、
第八条、第一〇条などが契約終了後において継続的に効力を有する旨規定したもの
であると主張する。しかし、前記第二の一3のとおり、本件契約第一六条一項は、
前段で「本件契約は、解除又は期間満了により終了した場合においても、本件契約
に基づき締結された個別契約の効力が生じている限りは、本件契約に定めるところ
により処理するものとし」と規定し、後段では「本件契約の解除あるいは終了にお
いても、第八条、第一〇条及び第一一条の規定は依然として効力を有し、被告及び
原告を拘束するものとする。」と規定しているところ、証拠(甲一の一)による
と、本件契約は、原告、被告間のOEM取引基本契約であり、これに基づいて個別
契約が結ばれることが予定されていること(本件契約第二条)、本件契約は、基本
契約として個別契約の内容を補充する規定が置かれていること(例えば、本件契約
第三条ないし第七条など)が認められ、これによると、右前段の「本件契約に定め
るところにより処理するものとする」との規定は、本件契約終了の場合も、個別契
約の効力が生じている限り、その内容は本件契約の規定により補充され、契約の成
立(第三条)から製造(第四条)、納入(第五条)、代金支払(第七条)まで本件
契約に従って処理されることを定めたものと解される。そうすると、本件契約が終
了したときに製造中又は販売中の「本製品」の事後処理を定めているのが右前段だ
けであり、右後段は事後処理に関する規定ではないとすると、本件契約が終了した
ときに製造中又は販売中の「本製品」に関して工業所有権の使用に係る権利処理が
何ら規定されていないことになり、不都合な結果を生じることになる。したがっ
て、原告の右主張は採用できない。
(四) 右(一)のとおり、本件契約は、平成九年二月二八日に終了したものである。
また、前記第二の一6のとおり、被告は、平成八年八月一日以降、原告に対する本
件契約に基づく製造委託を中止したのであるから、本件契約に基づいて製造委託が
された「本製品」で、いまだ原告において製造中又は販売中のものが存するとは認
められない。
 そうすると、原告が、本件契約第一〇条二項、第一六条により、別紙特許目録記
載一ないし三の各特許権について、通常実施権を有するとは認められないから、原
告の本訴請求のうち、通常実施権の確認請求は理由がない。
三 争点三について
1 イ号物件が本件発明の技術的範囲に属すること、原告が業としてイ号物件の製
造販売をしていることは、前記第二の一7のとおりであるから、原告によるイ号物
件の製造販売は本件発明の実施に当たる。
2 原告は、本件特許権について通常実施権を有すると主張する(前記第三の三1
(一))が、これが認められないことは、前記二で判示したとおりである。
3 原告は、本件契約第八条二項により本件特許権について通常実施権を付与され
ているから、イ号物件の製造販売は本件特許権の侵害とはならないとも主張する
(前記第三の三1(二))。
 しかし、本件契約において工業所有権について規定しているのは第一〇条であっ
て、本件契約第八条二項は、特許権について規定したものではない。また、本件契
約第八条二項の規定を考慮して、本件契約第一〇条二項を解釈したとしても、原告
が、本件特許権について通常実施権を有するとは認められないことは、前記二で判
示したとおりである。したがって、原告の右主張は採用できない。
4 また、仮に、本件契約に基づき、原告が、「本製品」について通常実施権を有
するとしても、NPBを主成分とするフラックス・油脂類の洗浄剤は、次のとお
り、本件契約第一条の「同等製品」に含まれないから、原告は、イ号物件について
通常実施権を有しない。
(一) 前記第二の一の事実に、前記一1認定の事実、証拠(乙二六ないし二八、証
人【D】、同【E】)と弁論の全趣旨を総合すると、NPBとIPBは、分子構造
や化学的性質において類似点があるものの、別の物質であり、NPBを主成分とす
るフラックス・油脂類の洗浄剤とIPBを主成分とするフラックス・油脂類の洗浄
剤とでは、主成分のみならず、安定剤の成分や分量に違いがあり、被告では、別々
に商品化されたこと、本件契約当時、原告と被告の間において、SC-五一シリー
ズの製造委託について、協議が行われていたが、NPBを主成分とするフラック
ス・油脂類の洗浄剤(SC-五二シリーズ)の製造委託については、何ら協議され
ておらず、その後も、被告は、原告に対して、SC-五二シリーズの製造を委託し
たことはないこと、本件覚書において、別紙商品目録は、別紙第二目録のようにな
ったが、IPBを主成分とするフラックス・油脂類の洗浄剤といっても、さまざま
な種類のものが考えられ、別紙第二目録記載の商品に限定されないこと、以上の事
実が認められる。以上の事実からすると、本件契約第一条の「同等製品」に、別紙
第二目録記載の商品以外のIPBを主成分とするフラックス・油脂類の洗浄剤が含
まれる余地はあるが、NPBを主成分とするフラックス・油脂類の洗浄剤が含まれ
るとまで認めることはできない。
(二) なお、前記第二の一の事実と前記一1認定の事実に証拠(甲一二の一、二)
を総合すると、本件発明は、IPBを主成分とするフラックス・油脂類の洗浄剤と
NPBを主成分とするフラックス・油脂類の洗浄剤の双方を対象とするものであ
り、被告は、平成五年一月二五日より前に、双方の洗浄剤の効果について実験を行
った上、同日、本件発明について特許の出願をしたことが認められる。しかし、そ
うであるからといって、右(一)で認定した事実の下では、本件契約第一条の「同等
製品」に、NPBを主成分とするフラックス・油脂類の洗浄剤が含まれるとまで認
めることはできない。
5 以上によると、原告によるイ号物件の製造販売は、本件特許権の侵害行為とな
るものと認められるから、被告は、特許法一〇〇条一項、二項に基づき、右侵害行
為の差止請求権並びにイ号物件及びその半製品の廃棄請求権を有する。
したがって、被告の反訴請求のうち、イ号物件の製造販売の差止請求並びにイ号
物件及びその半製品の廃棄請求は理由がある。
 また、本訴のうち、イ号物件の製造販売について被告の本件特許権に基づく差止
請求権の不存在確認請求に係る部分は、被告から右差止請求について給付訴訟が提
起され、これについて判断がされる以上、訴えの利益を有しないというべきである
から、本訴のうち右不存在確認請求に係る部分は、確認の利益を欠き、却下を免れ
ない。
四1 右三で認定判断したとおり、原告によるイ号物件の製造販売は本件特許権を
侵害するものであり、原告は右侵害について過失があったものと推定される(特許
法一〇三条)から、原告は、右侵害行為により被告が被った損害を賠償する責任が
ある。
2 そこで、被告の損害額について判断する。
(一)前記第二の一の事実に証拠(乙二三)と弁論の全趣旨を総合すると、原告
は、平成八年一月ころからNPBを主成分とするフラックス・油脂類の洗浄剤を
「K-3-N」の商品名で製造販売していること、被告が平成九年一〇月ころ入手
した原告製造に係る「K-3-N」なる商品名のフラックス・油脂類の洗浄剤は、
1-ブロモプロパン(九六重量パーセント)、ニトロメタン(二重量パーセント)
及びブチレンオキサイド(二重量パーセント)を含むものであり、ニトロエタンを
含んでいないことが認められ、右認定の事実に弁論の全趣旨を併せ考慮すると、原
告が平成八年一月ころから平成九年九月までの間に「K-3-N」の商品名で製造
販売していた洗浄剤はイ号物件とは異なる組成を有する物であり、原告がイ号物件
の製造販売を行ったのは、平成九年一〇月以降であることが認められ、これに反す
る証拠はない。
(二)弁論の全趣旨によると、原告の平成九年一〇月以降のイ号物件の販売量は年
間五〇〇〇キログラム程度であり、原告はイ号物件の製造販売により一キログラム
当たり三〇〇円の利益を得ているものと認められる。
(三)被告は、原告が平成八年一月から平成九年一〇月までの間にイ号物件を年間
五〇〇〇キログラム程度製造販売していたと主張し、反訴請求において右期間の損
害賠償を求めているところ、右(一)認定のとおり、原告がイ号物件を製造販売した
のは、右期間のうち平成九年一〇月の一か月間だけであると認められる。そして、
右(二)認定のとおり、イ号物件の製造販売量は年間五〇〇〇キログラム程度であ
り、その製造販売により原告は一キログラム当たり三〇〇円の利益を得たものであ
るから、原告が平成九年一〇月の一か月間にイ号物件を製造販売したことによって
得た利益の額は、次のとおり合計一二万五〇〇〇円であると認められ、特許法一〇
二条二項により被告は同額の損害を被ったものと推定される。
5,000×300×1/12=125,000
3 以上によると、被告の反訴請求のうち、特許権侵害の不法行為による損害賠償
請求は、一二万五〇〇〇円及びこれに対する不法行為の後である平成九年一一月一
九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限
度で理由がある。
4 また、弁論の全趣旨によると、本訴のうち、イ号物件を製造販売して本件特許
権を侵害した不法行為に基づく損害賠償債務の不存在確認請求に係る部分は、被告
の反訴に係る損害賠償請求に対応する債務の不存在確認を求めるものであると認め
られるところ、右債務不存在確認請求に係る部分は、被告から右債務について給付
訴訟が提起され、その給付請求について判断がされる以上、訴えの利益を有しない
というべきであるから、本訴のうち右債務の不存在確認請求に係る部分は確認の利
益を欠き、却下を免れない。
五 以上の次第で、本訴のうち、差止請求権の不存在及び損害賠償債務の不存在の
各確認請求に係る部分は却下し、通常実施権の確認を求める請求及び損害賠償請求
は理由がないから棄却し、反訴のうち、イ号物件の製造販売の差止め及び廃棄を求
める請求はいずれも理由があり、不法行為による損害賠償請求は主文三項掲記の限
度で理由があるから、これらを認容し、その余は棄却することとし、主文のとおり
判決する。なお、仮執行宣言は相当でないので付さないこととする。
東京地方裁判所民事第四七部
  裁判長裁判官森 義之
  裁判官榎戸道也
  裁判官岡口基一

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛