弁護士法人ITJ法律事務所

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       主   文
一 申請人らと被申請人間の当裁判所昭和五一年(ヨ)第二九九号地位保全等仮処
分事件について、当裁判所が昭和五一年三月二六日になした仮処分決定はこれを取
り消す。
二 申請人らの本件仮処分申請を却下する。
三 訴訟費用は申請人らの負担とする。
四 この判決は第一項に限り仮に執行することができる。
       事   実
第一 当事者の求めた裁判
一 申請人ら
主文第一項掲記の仮処分決定を認可するとの判決
二 被申請人
主文第一項、第二項同旨の判決
第二 当事者の主張
一 申請の原因
1 当事者
(一) 被申請人は、申請外関東菱光株式会社で製造される生コンクリートの輸送
を目的とする会社であり、本社と営業所を横浜市<以下略>に、出張所を同市<以
下略>にそれぞれ置き、本社及び営業所の従業員二四名、生コンクリートミキサー
車(以下生コンと略す)の保有台数一七台、磯子出張所の従業員二一名、生コン車
の保有台数一六台である。
(二) 申請人らはいずれも職業運転者であり、申請人A、同Bは昭和四八年一〇
月一日、同Cは昭和四九年三月一日、それぞれ被申請人に雇用され、以来、被申請
人磯子出張所における生コン車の運転業務に従事していた。
2 解雇
 被申請人は、昭和五一年三月八日、申請人らを解雇する旨の意思表示をなし、翌
日以降、申請人らの就労を拒否し、賃金も支払わない。
3 賃金
 被申請人の賃金支払方法は、当月一日から末日までの分を翌月の第一土曜日に支
払うとの約であり、申請人らの一か月の賃金及び昭和五一年三月九日から同月末日
までの賃金は別紙債権目録記載のとおりである。
4 保全の必要性
 申請人らは、いずれも賃金収入を唯一の生活の資とする労働者であり、前記の解
雇により生活困窮に陥り、著しい損害を蒙ることが明らかである。
5 以上の理由により、申請人らは、当裁判所に、申請人らが被申請人の従業員で
ある地位にあることを仮に定め、かつ、被申請人に対し、別紙債権目録下段記載の
金員を昭和五一年四月三日に、同上段記載の金員を同年五月一日以降毎月第一土曜
日にそれぞれ仮に支払うよう求める仮処分を申請したところ、これを認容する原判
決がなされたので、その認可を求める。
二 被申請人の答弁及び主張
1 申請原因1ないし3の事実中、1の(一)の事実、同(二)の事実のうち、申
請人らが職業運転者であり、被申請人磯子出張所における生コン車の運転業務に従
事していたこと、2の事実のうち、昭和五一年三月九日以降、被申請人が申請人ら
の就労を拒否し、賃金を支払つていないことを認め、その余の事実および3の事実
を否認する。被申請人と申請人らとの間には、後記のとおり、労働者供給事業によ
る供給契約に基づく使用関係(雇用ないし雇用類似の法律関係)は存在したが、右
は終身雇用を前提とする典型的な雇用とは異なるものであり、また、申請人らを解
雇したものではない。
同4、5を争う。
2 被申請人の主張(使用関係の終了)
(一) 申請外新産別運転者労働組合は、自動車運転者を主体として昭和三四年に
結成された職業別労働組合であり、職業安定法四五条、同施行規則三二条に基づき
労働大臣の許可を得て、無料の労働者供給事業を行うようになつた。
(二) 申請人らは、右新産別運転者労働組合東京地方本部(以下新運転という)
所属の組合員として、新運転と被申請人との間の労働者供給契約に基づいて被申請
人に供給され就労していたところ、昭和五一年三月五日、新運転を脱退し、新運転
からの供給システムから離脱するに至つたため、被申請人に供給されなくなつたも
のである。
(三) 被申請人は昭和四八年一〇月一日、磯子出張所を開設するにあたり、同出
張所の生コン車の運転者全員を新運転から供給される組合員で構成することとし
た。このように、同出張所において常用運転者を一名も置かず新運転から供給され
る組合員のみを使用することとしたのは、生コンクリート輸送業務の繁閑に応じて
随時使用人数の調整を図ることが可能であると共に、運転者確保の困難を解消する
ためであつた。右開設当時、被申請人と新運転の各代表者の間で、(1)被申請人
磯子出張所は、生コン車の運転者をすべて新運転から供給を受け、右以外の者を使
用しない。(2)新運転は同出張所で必要とする人員をその都度責任をもつて供給
し、業務に支障を来たさないように努める。(3)組合員の労務管理全般にわたつ
て新運転が責任を持つ。(4)新運転は供給する組合員の技量、人格、服装等に留
意し、善良な組合員を供給する。以上の四点について協議が整つて合意し、右
(1)については、昭和四九年五月二日、確認書(乙第九号証)として文書化し
た。そして、被申請人と新運転との間では、毎年一回供給契約(労働協約)を締結
して、組合員の供給が続けられた。
(四) 新運転組合員の就労形態には、窓口就労(一般就労)と専属就労の二通り
があり、窓口就労は組合員が就労を希望する日毎に新運転組合事務所窓口に出頭し
て順番を確保し、供給を受けて就労するものであり、専属就労は一定の事業所に三
日以上(最長期間は一か月)継続して就労する場合である。
(五) 申請人Aは、昭和四八年六月二〇日、新運転に加入し、東部運送、柴田運
送等に窓口就労者あるいは専属就労者として供給されたのち、昭和四八年一〇月一
日より、申請人Bは、昭和四七年一一月一日、新運転に加入し、第一産業、被申請
人鶴見営業所等に窓口就労者あるいは専属就労者として供給されたのち、昭和四八
年一〇月一日より、申請人Cは、昭和四四年一〇月二一日、新運転に加入し、東部
運送、三池運輸等に専属就労者として供給されたのち、昭和四九年三月九日より、
それぞれ被申請人磯子出張所に専属就労者として供給され、以後同所に反覆して供
給されていた。
(六) ところで、職業安定法による労働者供給事業によつて供給された労働者と
供給先との使用関係は、労働者供給事業を行う労働組合(以下労供労組という)と
供給先との間の供給契約に基づく労供労組の具体的な供給によつて成立するもので
あると共に、日々の供給が継続する限りにおいて存続するものであり、当該労働者
が組合員としての身分を喪失するなどして労供労組から供給されなくなつた場合に
は、前記の使用関係が成立、存続する余地のないものである。
(七) 申請人らは、新運転と被申請人との間の供給契約に基づいて被申請人に供
給され、被申請人との使用関係が成立し存続していたところ、昭和五一年三月五
日、いずれも新運転を脱退し、新運転の組合員としての資格を喪失して、労働者供
給の対象外となつたのであるから、同日、被申請人と申請人らとの間の使用関係は
いずれも消滅した。なお、被申請人代表者は、昭和五一年三月八日、申請人らが新
運転の組合員たる資格を喪失し供給の対象とならないことが確定的となつたため、
申請人らに対し、「同月九日以降の就労は断る」旨の通告をなし、右が申請人らに
到達したので、適法に使用関係打切りの意思表示もなされている。以上のとおり遅
くとも同月八日には被申請人と申請人らとの間の使用関係は消滅した。したがつ
て、原仮処分決定は不当であるから、その取消と、仮処分申請の却下を求める。
三 申請人の答弁及び主張
1 被申請人の右主張事実中、(一)の事実を認める、(二)の事実のうち、申請
人らが新運転の組合員として新運転と被申請人との間の労働者供給契約に基づいて
被申請人に供給されていたこと、昭和五一年三月五日新運転を脱退したことは認め
るが、その余は否認する、(三)の事実のうち、昭和四八年一〇月一日磯子出張所
が開設されたことは認め、その余は不知、(四)の事実を認める、(五)の事実の
うち、申請人らが被申請人主張の日より(但し申請人Cは昭和四九年三月一日であ
る)、専属就労者として反覆継続して磯子出張所に供給されていたことを認める、
(六)、(七)の事実のうち、申請人らがいずれも昭和五一年三月五日新運転を脱
退して組合員としての資格を喪失したこと、被申請人代表者が申請人らに対し被申
請人主張の日に使用打切りの意思表示をなしたことは認め、その余は否認する。
2 申請人らの主張(解雇の無効)
(一) 期間の定めのない雇用契約の成立
(1) 労働者供給事業により供給された者と供給先との間の法律関係は、労供労
組と供給先との間の供給契約によつて定まるものではなく、供給された労働者と供
給先(雇用主)との間の雇用契約によつて定まるものである。即ち、供給を必要と
する雇用主は労供労組に対し労働条件を明示して供給の申込をし、労供労組は現に
就労先を有しない組合員に対し労働条件を明示して就労希望者を募集するもので、
組合員が労供労組の行う募集に応じることにより、雇用主の申込と組合員(労働
者)の承諾が合致して雇用契約が成立し、その労働条件は、雇用主が供給申入れの
際に労供労組を通じて示した条件を応募した労働者が承諾することによつて定まる
のである。このように、雇用主と労働者間の法律関係は供給契約によつて定まるも
のではなく、両者間の雇用契約によつて定まるものであり、労供労組から供給を受
けることにより、職業紹介や労働者募集の場合と同様に、通常の雇用契約が成立す
る。
(2) 申請人A、同Bは昭和四八年一〇月一日より、同Cは昭和四九年三月一日
より、いずれも被申請人から解雇されるまでの二年ないし二年五か月に亘つて、被
申請人磯子出張所の日常の輸送業務を遂行するうえで必要な作業に従事していたも
のであるが、申請人ら及び被申請人間において、期間の定めのない雇用契約の成立
していたことは次の諸点からして疑問の余地がない。
イ 磯子出張所開設にあたり、当時の被申請人代表取締役Dは、同出張所に勤務す
ることになつた申請人A、同Bを含む新運転所属の二〇名の運転者に対し、「あな
た達は、今迄は日雇運転手であつたが、そういう観念を捨てて働いて下さい。あな
た達の職場を働きいい職場に職員ともども作りあげて下さい。」と挨拶して、申請
人らを期間の定めのない労働契約で雇用する旨を明確に表示していること。
ロ 申請人らはいずれも磯子出張所の常用運転手として身分の安定が望めると判断
し、長期間に亘つて同出張所に勤務していたものであること。
ハ 自動車運送事業等運輸規則四五条の二には、「運送事業者は………事業用自動
車の運転者を常時選任しておかなければならない。」「前項の運転者は日々雇い入
れられる者………であつてはならない。」との規定があるが、被申請人において右
規定を十分理解したうえで申請人らを雇い入れたものであること。
ニ 申請人らに対しては被申請人のマークの入つた作業衣、社帽、安全帽、安全靴
を貸与し、特定のロツカーを使用させていたこと。
ホ 申請人ら一人一人に担当する生コン車を特定して当該車両の保守管理を命じて
いたうえ、運搬のみならず、輸送に先立ち生コンクリートプラント工場から建設現
場までの下見、ミキサー車のドラム内に付着したコンクリートの削り取り(はつ
り)作業、洗車場の清掃等までも担当させていたこと。
ヘ 申請人らの賃金は、昭和四九年二月一日以降(申請人Cについては同年三月以
降)、一か月単位で精算され、所得税法上の源泉徴収率が月額甲欄の適用を受けて
いること。
ト 申請人らには勤務年数が一年増すごとに休日が一日加算され最高二〇日とする
有給休暇が保障されていること。
チ 会社都合による休業の場合には休業補償がなされていること。
以上の申請人ら及び被申請人双方の意思、就労の実態からして、申請人らと被申請
人との間に期間の定めのない雇用契約の存在したことは明白である。
(二) 解雇の無効
(1) 被申請人は、昭和五〇年六月ころから生コンクリート業界の不況を理由と
する合理化計画の推進を開始し、その一環として磯子出張所に勤務している申請人
らを期間の定めのない労働契約から日雇労働契約へ切り変えることを要求した。新
運転はこれに対し申請人ら労働者の立場に立つことなく、被申請人の意を汲んで、
日雇労働契約への切り変えに反対する申請人らに悪質な説得を繰返すに至つた。そ
のため、申請人らは、労使協調の名の下に御用組合化している新運転を脱退し、真
に労働者の権利を守る闘いに取組む労働組合への加入を計画した。そして、申請人
らは、昭和五一年三月四日、企業外組合である全国自動車運輸労働組合(その後運
輸一般労働組合と改称した。以下全自運という)に加盟し、かつ、全自運の下部組
織として申請人らのみで組織する労働組合として全自運鶴菱運輸分会を結成し、同
月五日、新運転に脱退届を提出した。更に同日、被申請人に労働組合結成通知をな
して前記分会の結成を通告すると共に、要求書を交付し、団体交渉の申入れも行つ
た。これに対し、同月八日に開催された二回目の団体交渉の席上で、被申請人は、
被申請人と新運転との間で、被申請人が新運転の組合員のみを雇用する旨を約した
確認書(乙第九号証)が取交わされていると主張し、右確認書に基づいて、新運転
を脱退した申請人らを口頭で解雇する通告を行つたものである。
(2) 右解雇は、申請人らが全自運に加入し、全自運の分会を結成したことを嫌
悪してなされたものであることが明らかであるから、労働組合法七条一項一号に該
当する不当労働行為であり、無効である。
(3) 前記確認書は、申請人らが新運転を脱退した後に作成された疑いが強く、
真実、昭和四九年五月二日に作成されたものとしても、右は、当時施行されていた
労働協約書の附属的性質を有するものであるところ、右協約がその後失効し、以後
に締結された労働協約と右確認書とが一体化しているとは認められないので、確認
書に基づく解雇は正当な根拠を欠き、無効である。
(4) 仮に、右確認書が労働協約としての独自性を有するとしても、右確認書に
は、「磯子出張所のミキサー乗務員については新運転の組合員のみを雇用する……
…」とあつて、被申請人に新運転からの被除名者、脱退者を解雇する義務を課した
ものではなく、右確認書を取交わした趣旨は、新運転所属の組合員の働く職場を多
数確保することに主眼があり、それ以上に特段の目的があつたものとは認められな
い。また、右確認書がシヨツプ協定を定めたものであるとしても、申請人らは、
「企業外既存組合」に参加し、企業内に同組合の分会を結成することを直接の動機
として従前の組合を脱退したものであるから、このような場合、シヨツプ協定の効
力は及ばず、更に、申請人らの新運転脱退は、磯子出張所における組合員の圧倒的
多数(八名)による集団的脱退であり、従前の組合の統一的基盤が失われている場
合にあたるので、シヨツプ協定の効力は及ばず、いずれにしても、右確認書によつ
て被申請人に解雇義務が存在するものと解することはできない。そうならば、被申
請人は解雇義務がないのに申請人らを解雇したものであつて、解雇権の濫用であ
り、右解雇は無効である。
四 被申請人の答弁
1 被申請人と申請人らとの間に期間の定めのない雇用契約が成立していたとの点
及び被申請人が申請人らを解雇したとの点をいずれも否認する。
2 被申請人と申請人らとの間の法律関係が雇用契約であるとしても、前記のよう
に、労働者供給事業による供給によつて生ずる使用関係であるから、典型契約とし
ての雇用とは性質を異にするものであり、また、新運転の行う労働者供給事業は日
々供給を基本原則とし、供給が継続していても日々供給の連続であるから、被申請
人と申請人らとの関係も一日限りの使用関係あるいはその連続以外にはなく、従つ
て期間の定めのない雇用契約が成立することはありえないと共に、解雇の法理が適
用される余地もない。仮に、有期の契約の連続が期間の定めのない契約と実質的に
異ならないものとしても、契約の更新拒絶に対して解雇の法理を適用するために
は、単に有期の契約が反覆継続したというだけではなく、当事者が契約の継続に対
して具体的かつ合理的な期待(期待権)を有する場合に限るべきであると解される
ところ、供給の随時性(随時の打切り)については申請人らを含めた労供労組の組
合員がよく知悉しており、その随時性の対価として常用運転者に比べ極めて高い水
準の賃金を得ていること、同一の条件で他の事業所において稼働できること等から
すれば、申請人らが終身的な長期使用を期待することに合理性があるとは認められ
ないので、本件の被申請人の前記使用打切りに解雇の法理を適用する理由は全く存
しない。
第三 疎明(省略)
       理   由
第一 申請原因事実中、1の(一)の事実、及び申請人らがいずれも職業運転者で
あり、被申請人磯子出張所における生コン車の運転業務に従事していたこと、被申
請人が昭和五一年三月九日以降申請人らの就労を拒否していることは、いずれも当
事者間に争いがない。
第二 申請人らと被申請人との関係とその消滅
一 新運転が労働大臣の許可を受けて労働者供給事業(以下労供事業という)を行
う労働組合であること、申請人らが新運転所属の組合員として新運転と被申請人と
の間の労働者供給契約に基づき、申請人A、同Bにおいて昭和四八年一〇月一日よ
り、申請人Cにおいて昭和四九年三月より、前記就労を拒否されるまで、いずれも
専属就労者として被申請人に供給され、就労していたこと、申請人らがいずれも昭
和五一年三月五日新運転を脱退して組合員としての資格を喪失したことは、いずれ
も当事者間に争いがない。
二 被申請人は、申請人らが新運転を脱退して労供事業の対象外となつたので、被
申請人と申請人との間の使用関係が消滅したと主張するので検討する。
1 いずれも成立に争いのない疎乙第五、第六号証、第七号証の一ないし三、第八
号証の一ないし四、第一一号証の一ないし三、第一四号証の一ないし三、第二七号
証、原本の存在およびその成立に争いのない疎乙第二四号証の一ないし三、第五四
号証、被申請人代表者本人尋問の結果(第一、第二回)及び弁論の全趣旨により真
正に成立したものと認められる疎乙第一、第二号証、第九号証、第一〇号証の一、
二、第一二、第一三号証、第二一ないし第二三号証、第二八号証、第三四号証、第
四四号証、第五五号証(第一二、第一三号証は原本の存在を含めて)、証人Eの証
言及び弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる疎乙第三号証の二、第
四号証、第二五号証、第三七ないし第四〇号証、第四二号証、証人Eの証言及び被
申請人代表者本人尋問の結果(第一、第二回)を総合すれば、次の事実が一応認め
られ、右認定に反する証人F(第一、第二回)、同Gの各証言は前掲疎明と対比し
てたやすく措信できず、他に右認定を左右するに足りる疎明資料はない。
(一) 新運転は、昭和三五年三月、職業安定法四五条、同施行規則三二条に基づ
く労働大臣の許可を得て無料の労働者供給事業を行うことになり、業務運営規程、
同細則、事故共済規程等(乙第五号証)労供事業を遂行するために必要な諸規程を
定め、所属組合員全員を対象に労供事業を行つている。
(二) 新運転の行う労供事業により供給を希望する労働者は、新運転に加入しな
ければならず、加入に際しては新運転の定める「加入者の取り扱いに関する規程」
(乙第五号証)に基づき、加入申込書、身元保証人二名の連署による誓約書、身上
書を提出し、同時に運転免許証、印鑑等を提示する。そして、加入手続完了後に加
入講習の受講を義務づけられており、新運転の組織、規約、理念、特色、業務の運
営等全般にわたつて講習を受け、また、加入後に、組合規約、諸規程を一冊にまと
めた「組合のしおり」(乙第五号証)の配布を受ける。
(三) 新運転からの供給を受けようとする利用者は、新運転との間で労働協約の
形式をもつて供給契約を締結しなければならず(業務運営規程2)、供給契約成立
後でなければ新運転の組合員の供給を受けることができない。なお、供給の申込み
はあらかじめ供給契約を締給した利用者に限られている(同規程3)。
(四) 供給契約を締結した利用者は、必要の都度、随時、新運転の事務所に電話
又は口頭で必要な人員の供給を申込むことができ、新運転は、就労を希望する組合
員の中から後記(五)の方法で供給する組合員を決め、組合員氏名、供給先事業所
名等を記入した供給票と勤務票(乙第七号証の一ないし三)を交付して、就労させ
る。
(五) 組合員の就労形態には、窓口就労と専属就労とがある(この点は当事者間
に争いがない)。窓口就労の場合は、供給を受ける順序は当日新運転の事務所窓口
へ出頭して組合員証を提出した順番によつて決められ、供給される組合員に一日単
位の供給票と勤務票が交付される。供給票は供給先に渡され、勤務票は当日の就労
に対し支払われた賃金額等所定の事項が記載されたうえ、新運転事務所に持ち返つ
て返納される。専続就労の場合は、利用者からの専属就労の申込みのあつた組合員
に、一か月未満の期間の場合にはその就労日数分に応じた枚数の勤務票が、一か月
の場合には一か月分(二六枚綴りと一か月分を一枚にまとめたものとがある)の勤
務票が交付される。専属就労者は月末には必ず新運転窓口に戻り、専属者連絡会議
に出席して所定の手続をとり、その後に翌月分の勤務票の交付を受けて供給され
る。以上いずれの場合にも、新運転の指定した勤務票(就労票)なしで就労しては
ならない(業務運営規程細則8(1))し、利用者は勤務票なしに組合員を使用し
てはならない(労働協約書第一条、乙第一四号証の一ないし三)のである。
(六) 組合員の供給先における賃金、勤務時間等の労働条件はすべて新運転と供
給先との間の供給契約によつて定められ、組合員は直接これに関与しない。賃金は
日額をもつて定められ(その額は新運転と生コンクリート業界との毎年一回の統一
交渉によつて画一的に決せられる)、組合員の年令、経験等を問わず全員一律であ
り、一般の常用運転者に比べ相当高額である。夏期、冬期の一時金はなく、退職金
もない。なお、交通費は組合員の住所地からではなく、供給手続を行つた組合事務
所から就労場所までの往復交通実費のみが支給される。
(七) 被申請人は、昭和四八年一〇月一日、磯子出張所を開設するにあたり、二
〇名程度の生コン車の運転者を必要としたが、必要人員の確保が困難な情勢にあつ
たことや、業務の繁閑に応じて随時使用人員の調整を図ることが可能であつたこと
から、その全員を新運転から供給される組合員で構成することとした。右開設当
時、被申請人と新運転の当時の各代表者間で、被申請人磯子出張所は生コン車の運
転者をすべて新運転から供給を受け、右以外の者を使用しないことその他三項目に
ついて協議が整い合意がなされた。その後、昭和四九年五月二日、被申請人の代表
者が交替したことから、右の点を文書化して確認書(乙第九号証)が作成された
(なお、申請人らは右確認書は申請人らが新運転を脱退した後に作成された疑いが
強いと主張するが、前掲乙第一〇号証の一、二、被申請人代表者本人尋問の結果
(第一回)によれば、右認定の経緯で作成されたものであることが明らかであ
る。)。そして被申請人と新運転との間では、毎年一回供給契約(労働協約)を締
結し、新運転のなす前記の手続、態様による供給が続けられていた。
2 右事実によれば、新運転による労供事業においては、新運転所属の組合員でな
ければ供給の対象とならず、かつ、新運転による供給がなければ被申請人磯子出張
所における就労はなく、被申請人においても、右の供給によつてのみ新運転所属組
合員を使用しうるものであり、また、新運転からの勤務票(就労票)による日々の
供給とその継続の存するかぎりにおいて右の就労、使用の関係が存続していた事実
が認められ、したがつて、供給によつて生ずる供給先(被申請人)と供給を受ける
者(申請人ら組合員)との法律関係は、新運転による供給のあるかぎりにおいて成
立する使用関係(就労に対し賃金が支払われる意味において雇用関係と解しても差
し支えないが、供給の存するかぎりにおいて存続する特殊な雇用関係である。)で
あるものと認めるのが相当である。そして、被申請人及び組合員であつた申請人ら
双方において、このような新運転による労供事業の実態、仕組み等を十分知悉して
いたものであることは前認定の経過から明らかであり、したがつて、供給後の当事
者間の法律関係が前記のように供給の存するかぎりにおいて存続する使用関係であ
ることを了承のうえ、これに従う意思で相互に就労、使用していたものと認めるの
が相当であり、右当事者間に、一たん供給がなされた後は新運転の供給と離れて別
個の雇用関係が成立し、これに基づいて就労、使用する意思があつたものとみるこ
とは到底できない。
3 しかして、一般に、労供事業による労働者の供給は、「供給契約に基づいて労
働者を他人に使用させることをいう」(職業安定法五条六項)のであるから、同条
の法意に照らせば、供給によつて使用関係が成立すると共に、供給の継続によつて
使用関係をも存続させるものと解されるので、これと前記認定の事実を考え合わせ
ると、新運転による労供事業においては、供給が打切られれば、被申請人と申請人
らとの使用関係も当然終了することになるものと解するのが相当である。
4 したがつて、被申請人と申請人らとの間の使用関係は、申請人らが新運転を脱
退し労働者供給の対象外となつた日をもつて終了したものと認めるのが相当である
(なお、前掲乙第一号証、第三号証の一、第三四号証によれば、被申請人におい
て、昭和五一年三月八日に申請人らが新運転から供給されないことが確定的である
ことを知つたため、翌九日から申請人らの就労を拒否したものであることが一応認
められる。)。
三 申請人らは、被申請人と申請人らとの間に、期間の定めのない雇用契約が成立
していた旨主張するが、右両者の関係が、新運転と被申請人との間の供給契約(労
働協約)に基づき、新運転が被申請人に対してなした供給によつて生じた使用関係
に過ぎないことは前認定のとおりであつて、この使用関係は、新運転の行う日々の
供給(あるいはその継続)によつて日々成立、存続していたものというべく(専属
就労の場合といえどもこの関係は異ならない。)、右供給契約をはなれて当事者間
に別個の雇用契約が成立するものとは到底解し得ないから、申請人らの右主張はこ
れを採用し得ない。
 なお、申請人らにおいて、右主張の根拠としている各事実(前記事実摘示第二、
三、2(一)(2)イないしチの事実)は、被申請人代表者本人尋問の結果(第
一、第二回)ならびに前記各認定事実に照らして、これを期間の定めのない雇用契
約の成立を推認せしめる事由とはなし難い。
第三 解雇無効の主張について
一 申請人らは、被申請人と申請人らとの間に成立した期間の定めのない雇用契約
が解雇されたと主張するが、期間の定めのない雇用契約が成立したと認めるに足り
ないことは前記のとおりであり、他に右両者間に別個の雇用契約の存在したことに
つき何ら主張、疎明のない本件においては、右主張は失当である。
二 もつとも、申請人らの右主張は、前記の労供事業によつて生ずる反覆継続した
使用関係の打切りに解雇の法理を類推すべきであるとの趣旨と解しえないでもない
ので検討するに、被申請人と申請人らとの間の使用関係は、前記認定のとおり、新
運転からの供給のあるかぎりにおいて成立、存続すると共に、供給が打切られれば
当然終了する性質のものであるうえに、申請人らは、年令、経験を問わず全員一律
に、一般の常用運転者に比較して高額の賃金(日給)を取得でき、同一の条件のも
とに新運転と供給契約を締結している他の事業所においても稼働できるのであるか
ら、特定の事業所とのみの使用関係の継続を期待することに合理性を認めることは
できないので、このような使用関係の打切りに解雇の法理を類推することは相当で
はない。
三 したがつて、解雇ないし解雇の法理の類推を前提にしてなす申請人らの不当労
働行為等解雇無効の主張は、その余の点につき判断を加えるまでもなく失当であ
る。
第四 以上のとおり、被申請人に対し地位の確認等を求める申請人らの本件仮処分
申請は、その被保全権利につき疎明がないことに帰し、かつ事案の性質上、保証を
もつて疎明に代えることは不相当と認められるので、さきに申請人らの申請を認容
してなした前掲仮処分決定はこれを取消し、本件仮処分申請を却下することとし、
訴訟費用の負担につき民事訴訟法九五条、九三条、八九条を、仮執行の宣言につき
同法七五六条の二、一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 瀧田薫 吉崎直弥 飯淵進)
(別紙省略)

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