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平成19年12月26日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成17年()第17909号特許権移転登録抹消登録請求事件(以下「第1事ワ
件」という。)
平成19年()第18100号特許権移転登録抹消登録請求事件(以下「第2事ワ
件」という。)
口頭弁論終結日平成19年10月24日
判決
神奈川県足柄下郡<以下略>
第1事件・第2事件原告A
(以下「原告」という。)
同訴訟代理人弁護士吉村俊信
東京都新宿区<以下略>
(登録原簿上の表示:東京都新宿区<以下略>)
第1事件被告株式会社ハッピー・ツリー
(以下「被告ハッピー・ツリー」という。)
東京都千代田区<以下略>
(登録原簿上の表示:東京都千代田区<以下略>)
第2事件被告株式会社トゥーミックス
(以下「被告トゥーミックス」という。)
被告ら訴訟代理人弁護士杉原正芳
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1第1事件
被告ハッピー・ツリーは,原告に対し,別紙特許権目録記載1及び2の各特
許権について平成17年3月15日特許庁受付第001703号特許権移転登
録の抹消登録手続をせよ。
2第2事件
被告トゥーミックスは,原告に対し,別紙特許権目録記載1及び2の各特許
権について平成18年4月14日特許庁受付第002290号特許権移転登録
の抹消登録手続をせよ。
第2事案の概要
本件は,別紙特許権目録記載1及び2の各特許権(以下,別紙特許権目録記
載1の特許権を「本件特許権1」,別紙特許権目録記載2の特許権を「本件特
許権2」,総称して「本件各特許権」という。)について,原告が設定の登録
を受けたが,その後,原告から被告ハッピー・ツリーに対する本権の移転登録
(平成16年7月14日特許庁受付第003971号,以下,別紙「本件各特
許権についての移転登録等」のとおり,「本件移転登録①」という。なお,以
下,本権の移転登録を,単に「移転登録」という。)がされ,被告ハッピー・
ツリーから原告に対する移転登録(平成16年9月2日特許庁受付第0048
83号,以下,上記別紙のとおり,「本件移転登録②」という。)がされた後,
再度,原告から被告ハッピー・ツリーに対する,平成17年3月15日特許庁
受付第001703号の移転登録(登録年月日は平成17年7月27日,以下,
上記別紙のとおり,「本件移転登録③」という。)がされ,さらに,被告ハッ
ピー・ツリーから被告トゥーミックスに対する,平成18年4月14日特許庁
受付第002290号の移転登録(登録年月日は平成18年5月17日,以下,
上記別紙のとおり,「本件移転登録④」という。)がされている状況において,
原告が,本件各特許権が被告らに移転した事実はなく,被告らが主張する,平
成14年9月25日の原告及び米国法人グローバル・エー・インク社(以下
「グローバル・エー・インク」という。)間の売買契約及び平成15年3月1
0日のグローバル・エー・インク及び被告ハッピー・ツリー間の売買契約は存
在しない等として,本件各特許権に基づき,被告ハッピー・ツリーに対し,原
告から被告ハッピー・ツリーに対する本件移転登録③の,被告トゥーミックス
に対し,被告ハッピー・ツリーから被告トゥーミックスに対する本件移転登録
④の,各抹消登録手続を請求したのに対し,被告らが,上記各契約が実際に締
結され,それに従った移転登録がされており,原告は,本件各特許権を喪失し
ていると主張して,争っている事案である(なお,原告は,本件移転登録①に
より本件各特許権を喪失し,本件移転登録②によって再度特許権者となったこ
とを前提とする主張をするものではない。)。
1前提となる事実等(争いがない事実以外は証拠等を末尾に記載する。)
⑴本件各特許権の設定の登録
原告は,本件特許権1について,平成7年7月28日に設定の登録を受け
て特許権者となり,本件特許権2について,平成12年10月6日に設定登
録を受けて特許権者となった(甲1,2,8,9,40,41)。
⑵本件各特許権についての移転登録
本件各特許権についての移転登録等に関する事実経緯は,別紙「本件各特
許権についての移転登録等」のとおりである(甲1,2,8,9,40,4
1,弁論の全趣旨)。
⑶本件各特許権についての,被告ハッピー・ツリーと被告トゥーミックスと
の間の契約及び本件移転登録④に至る経緯
被告ハッピー・ツリーは,平成17年9月5日,被告トゥーミックスとの
間で,本件各特許権を代金4950万0008円(消費税相当分を含む。)
で売却する旨の売買契約を締結した(丙1)。
被告トゥーミックスは,同月12日に,被告ハッピー・ツリーに対し,上
記代金を支払い(丙2),被告ハッピー・ツリーとともに,平成18年4月
14日に本件移転登録④の登録申請を行って(丙4の1),同年5月17日,
本件移転登録④がされた(丙4の3)。
なお,被告らは,平成17年9月13日に,本件各特許権について,上記
売買契約に基づく移転登録の申請を行ったが,住所表示の記載間違いの補正
を怠り,平成18年5月8日付けで,登録申請が却下されたため(乙33の
3,丙3の3),同年4月14日に,再度,上記のとおり移転登録の申請を
行ったものである(乙46)。
2争点
本件各特許権の被告ハッピー・ツリーへの移転の有無
3争点についての当事者の主張
(被告らの主張)
⑴骨子
ア原因関係
原告は,平成14年9月25日に,グローバル・エー・インクとの間で,
本件各特許権等を代金6000万円で同社に売却する合意をした(以下
「本件譲渡①」という。)。また,グローバル・エー・インクは,平成1
5年3月10日,被告ハッピー・ツリーとの間で,本件各特許権を合計1
億円で同社に売却する合意をした(以下「本件譲渡②」という。)。
イ登録手続
原告とグローバル・エー・インクは,本件譲渡①において,本件各特許
権の登録名義について,グローバル・エー・インクの最高経営責任者であ
るB(被告ハッピー・ツリー代表者)の責任において自由に変更できる旨,
すなわち,グローバル・エー・インクから更に譲渡された場合にその譲受
人に,原告から直接移転登録をすることができる旨を合意した。それに従
い,グローバル・エー・インクは,上記契約の代金支払時に,原告から原
告の認印1個(検乙1,以下「本件認印」という。),同認印の捺印され
た譲渡証書(乙28,以下「本件譲渡証書」という。)及び特許権移転登
録申請書(乙29,以下「本件移転登録申請書」という。)の交付を受け
た。
本件譲渡①に先立ち,Bは,原告から,原告のアルパイン株式会社(以
下「アルパイン」という。)に対する,本件各特許権の侵害に基づき13
3億円の支払を求める損害賠償請求訴訟(以下「本件各特許権侵害訴訟」
という。)が終了するまでの間,本件各特許権の登録名義を原告のままに
しておいてもらいたい旨の要請を受けていた。そして,本件譲渡②の後で
ある平成16年7月14日,原告から被告ハッピー・ツリーに対する移転
登録の申請がされ,同月29日,中間省略登録として,本件移転登録①が
された。
ウ以上から,本件移転登録①が行われたことにより,原告は,本件各特許
権を喪失しており,本件移転登録③及び④の抹消登録手続を求めることは
できない。
⑵事実経緯
ア株式会社データフラスコの設立
Bは,平成12年7月ころ,原告と知り合い,本件各特許権等を活用し
て会社を経営することを企画し,同年10月17日,3000万円全額を
出資して株式会社データフラスコ(以下「データフラスコ」という。)を
設立し,当初,原告及びCが共同代表者となった。
イ平成14年9月ころの原告の負債
(ア)B及び株式会社ゴールデンアローに対する負債
原告は,平成14年8月10日までに,Bに対し,2283万円,株
式会社ゴールデンアロー(以下「ゴールデンアロー」という。)に対し,
100万円,合計2383万円の借入金債務を負っていた(乙26)。
その後,原告は,ゴールデンアローから,以下のとおり,合計480
万円の借入れをした(乙38∼43,46)。
①平成14年8月12日30万円(乙38)
②平成14年8月15日50万円(乙39)
③平成14年8月21日250万円(乙40)
④平成14年9月6日30万円(乙41)
⑤平成14年11月11日20万円(乙42)
⑥平成14年11月28日100万円(乙43)
(イ)消費者金融会社等に対する負債
原告は,平成14年9月ころまでに,消費者金融会社等5か所に対し,
合計2754万0797円の借入金債務を負っていた(乙5)。
ウ本件譲渡①
原告は,上記イのとおり,消費者金融会社等に対する負債があり,電話
による督促を受けていたため,データフラスコに出社することもできず,
同負債の整理を希望し,Bに協力を依頼していた。原告は,そのころ,ア
ルパインに対する本件各特許権侵害訴訟の提起も考えており,訴訟提起の
手数料(印紙代)の調達も必要であった。
そこで,原告とBは協議し,原告が保有している本件各特許権及び外国
特許を,代金6000万円で,Bが代表者を務めるグローバル・エー・イ
ンクに売却し,その売買代金で,負債の整理と資金調達を行うこととした。
そして,売買代金の支払は,データフラスコが,グローバル・エー・イン
クに代わって行うこと,データフラスコは,そのための6000万円をゴ
ールデンアローから借り入れ,Bがデータフラスコのゴールデンアローに
対する同債務を保証することが合意された。平成14年9月25日,原告
とグローバル・エー・インクとの間で,本件譲渡①が締結された。
本件譲渡①の契約書(乙2の2の1,以下「本件譲渡①契約書」という。
英文のものは乙2の2の3であり,以下「本件譲渡①英文契約書」とい
う。)は,Bが作成し,同日,データフラスコにおいて,原告に交付した。
原告は,印鑑を持ってこなかったこと,日本文の契約書と英文のものとを
対比して確認したいことを述べて,両書面を持ち帰った。翌日である同月
26日,原告は,両書面を持って,データフラスコに出社した。その時点
で,両書面への原告の署名はされていたが,押印がなく,原告は,Bの面
前で,本件譲渡①契約書に,原告の実印を押捺し,証人欄のデータフラス
コ代表者としての原告名下に,データフラスコに置いてあった同社の銀行
取引用の印鑑を押捺した。なお,Bは,その時点では,データフラスコの
銀行取引用の印鑑が,同社の代表印として使われているものであると考え
ていた。
原告は,このとき,原告の,平成14年7月24日付けの印鑑証明書
(乙2の2の2)をBに交付した。
エ本件譲渡①の代金の支払
(ア)支払方法
上記ウのとおり,本件譲渡①の代金の支払については,データフラス
コが,グローバル・エー・インクに代わって行うこと,データフラスコ
は,そのための6000万円をゴールデンアローから借り入れ,Bがデ
ータフラスコのゴールデンアローに対する同債務を保証することが合意
されていたが,データフラスコがゴールデンアローから借り入れるため
には,原告のゴールデンアローに対する債務がいったん弁済されること
が必要とされていた。
その後,原告が予定していたアルパインに対する本件各特許権侵害訴
訟は,請求額が130億円余であり,訴訟提起の手数料(印紙代)が約
3000万円となることが判明し,その費用も必要となった。
Bは,平成14年11月25日,原告との間で,原告から,本件各特
許権侵害訴訟によって原告が賠償金を受領した場合に受領額の5パーセ
ントに相当する金員の支払を受ける旨の合意をしていた(乙27)こと
から,原告が必要とする上記の各金員についての資金援助を行うことと
した。
そして,結局,Bが,本件譲渡①の売買代金のうち3000万円を,
グローバル・エー・インクに代わって原告に支払い,それによって,原
告のゴールデンアロー及びBに対する債務の弁済を行い,その他,デー
タフラスコが,ゴールデンアローから6000万円を借り入れて,上記
売買代金の残金等として原告に支払うこととなった。
(イ)支払等
上記(ア)末尾の合意に基づき,Bは,平成14年12月11日,原告
に対し,本件譲渡①の売買代金の一部として3000万円を,本件譲渡
①の譲受人であるグローバル・エー・インクに代わって,支払った(乙
4)。原告は,同日,上記イ(ア)の負債のうち,Bに対する弁済として,
利息等も付して2400万円を,ゴールデンアローに対する弁済として,
利息等も付して600万円を,それぞれ支払うこととし,Bに対し24
00万円を振込送金し(甲38の4),ゴールデンアローに対し600
万円を振込送金した(甲38の2)。
そして,データフラスコは,同月16日,ゴールデンアローから30
00万円を借り入れ(乙12),原告の依頼に基づき,上記イ(イ)の原
告の消費者金融会社等に対する債務を代わって支払うこととし,合計2
754万0797円の弁済を原告に代わって行った。これにより,本件
譲渡①の代金の残金のうち,2754万0797円を,グローバル・エ
ー・インクに代わって原告に支払った。
さらに,データフラスコは,平成15年1月22日に,ゴールデンア
ローから3000万円を借り入れ(乙19),原告の依頼に基づき,本
件各特許権侵害訴訟提起のための印紙2791万7600円分を購入し
て裁判所に納付することにより(乙6の1∼6の3),グローバル・エ
ー・インクに代わって,本件譲渡①の残代金245万9203円を支払
うとともに,それ以外の2545万8397円については,原告に対す
る貸付金となった。
オ本件譲渡②
グローバル・エー・インクは,平成15年3月10日,本件各特許権を
被告ハッピー・ツリーに売却した。
カ移転登録に関する経緯
(ア)登録名義を原告に留保することの合意
グローバル・エー・インクは,本件譲渡①に先立ち,本件各特許権侵
害訴訟が終了するまで,本件各特許権の登録名義を原告に残したままに
したいとの原告の意向を受け,それに協力することとした。
(イ)認印等の交付
グローバル・エー・インクは,本件譲渡①の売買代金を全額原告に支
払った際,自社の権利を保全するために,いつでも登録名義の変更が可
能なように,原告から,本件認印(検乙1),同認印の押捺された本件
譲渡証書(乙28)及び本件移転登録申請書(乙29)の交付を受けた。
(ウ)中間省略登録
本件各特許権については,平成16年4月,株式会社一條に対する専
用実施権の設定登録がされ,この登録に原告が関与している事実が判明
したので,中間省略登録として,本件移転登録①を行ったものである。
⑶原告の主張に対する反論
ア原告が本件各特許権をグローバル・エー・インクに移転することが不自
然ではないこと
原告は,本件譲渡①よりもずっと以前から,本件各特許権についての侵
害訴訟を提起して,多額の損害賠償金を取得することを考えて活動してい
たものであるが,本件譲渡①に至る前に,グローバル・エー・インクとの
間で,本件各特許権の侵害により,本件各特許権がグローバル・エー・イ
ンクに移転するまでに発生した損害の賠償請求権は原告に帰属することを
合意した。
原告が,資金不足と自らの負債の返済のために,本件各特許権をグロー
バル・エー・インクに売却までして,本件各特許権侵害訴訟の印紙代を確
保することを考えたのは,上記のとおり,本件各特許権を売却しても,訴
訟により得られる賠償金は原告が取得できるとの前提があったためである。
イ原告が本件各特許権を有することを前提とする書面が作成されているこ
とについて
原告とBとの間で,原告が本件各特許権を有することを前提とする書面
が作成されているのは,それらが,Bにおいて,データフラスコを介する
などして本件各特許権侵害訴訟等の費用を投資家から調達する際の説明書
面であり,当該訴訟で請求している金額は原告が取得し,本件各特許権の
登録名義は原告のままで訴訟遂行がされる状況では,原告が特許権者であ
る旨を示す方が,簡単明瞭であり,投資家を説得しやすいとの事情からで
あった。
平成16年4月29日付け合意書(甲15)は,本件各特許権侵害訴訟
の係属中,原告が,本件各特許権に関する技術分析書の訴訟への提出を予
定していたところ,同分析書を依頼したネットワーク・ソリューションズ
株式会社に対する4305万円の支払ができず,その資金を得るために,
原告において,借入先への説明書面として作成したものである。その時点
では,本件譲渡②がされていたので,被告ハッピー・ツリーが,一定の対
価を得てデータフラスコに本件各特許権の専用実施権を設定することが可
能であり,また,本件各特許権侵害訴訟において原告が賠償金を得れば,
原告がBの所有するデータフラスコの株式を買い取ることにより,Bがデ
ータフラスコの借入金債務を代わって支払うことができ,上記の書面に
よって資金を提供した債権者に迷惑をかけることはないと考えたため,B
は,同書面の作成に応じたのである。
また,原告が,グローバル・エー・インクに対する実施許諾の根拠とし
て提出する書面(甲16の1∼16の18)は,いずれも,本件譲渡①の
前に,原告からグローバル・エー・インクに対する,本件各特許権の通常
実施権の設定に関する条件設定等の約定書などであり,本件譲渡①が締結
されたことによって,これに反する範囲で,従前の合意は変更されている。
さらに,「韓国内カーナビゲーション特許権取り纏め委任状」(甲2
4)は,本件各特許権に係る発明の韓国における特許権について,韓国の
企業との損害賠償やロイヤリティ支払の交渉をDに委任するための委任状
であるが,韓国においても,特許権者の登録は原告のままになっていたた
めに,原告の保有する特許権であることの記載がされたものである。
ウ本件譲渡証書(乙28)及び本件移転登録申請書(乙29)並びに本件
認印(検乙1)について
グローバル・エー・インクが原告から現実に交付を受けた譲渡証書及び
移転登録申請書は,本件譲渡証書(乙28)及び本件移転登録申請書(乙
29)であるが,実際に移転登録申請をする際に,申請書は全文を打ち直
した方がきれいに仕上がるので,作り直し,預かっている本件認印を押捺
したものである。そして,実際の申請に用いたのが,甲3の移転登録申請
書である。
⑷原因関係についての原告の予備的な主張について
原告は,原因関係について,本件譲渡①が仮に成立したとしても,無効で
ある,あるいは,失効した旨主張するが,否認する。
(原告の反論)
⑴骨子
ア原因関係
(ア)主位的な主張−本件譲渡①の不存在
被告らが主張する,本件譲渡①がされたこと及び本件移転登録①の手
続が適法にされたことは否認する。
本件譲渡①契約書及び本件譲渡①英文契約書並びに本件譲渡証書及び
本件移転登録申請書の各原告作成部分は,いずれも偽造である。すなわ
ち,原告は,これらの書面を作成した事実はなく,これらの書面や本件
認印を,被告ハッピー・ツリーに交付した事実もない。
(イ)予備的な主張1−本件譲渡①は無効
本件譲渡①契約書には,本件各特許権等と対価関係にあるべきグロー
バル・エー・インクから原告に譲渡されるべき財貨等の記載はなく,売
買契約として無効である。
(ウ)予備的な主張2−本件譲渡①の失効
本件譲渡①が仮に有効に成立したとしても,本件各特許権侵害訴訟に
おいて,原告の敗訴が確定したので,それと同時に失効した。
イ登録手続
本件移転登録①の申請において用いられた登録申請書(甲3)は,偽造
されたものであるから,それに基づいてされた移転登録は無効である。
また,グローバル・エー・インクは,原告から本件各特許権の移転登録
を受けていないため,本件各特許権を取得しておらず,被告ハッピー・ツ
リーに譲渡することもできない。そして,原告は,グローバル・エー・イ
ンクに対し,原告から直接被告ハッピー・ツリーに本件各特許権の移転登
録をすることを明示的にも黙示的にも承諾した事実はないし,移転登録を
受ける者を特定しないでした中間省略登録の承諾は無効と解すべきである。
⑵原因関係に関する主位的な主張(本件譲渡①の不存在)について
ア本件各特許権侵害訴訟の準備
原告は,平成11年8月20日,E弁護士との間で,本件各特許権侵害
訴訟の遂行等を委任する旨の契約をして,本件各特許権侵害訴訟の準備に
本格的に取り組むこととなった。
イグローバル・エー・インクとデータフラスコに対する実施許諾
(ア)グローバル・エー・インクに対する実施許諾
原告は,データフラスコ設立後(この経緯は,上記(被告らの主張)
⑵アのとおりである。)間もなくして,Bが,投資家から資金を集めて
投資し,利益を還元することを業務としており,データフラスコの設立
資金も投資家からの調達によってまかなったことを知るに至った。
そして,原告は,Bからの指示で,以下の①ないし③の合意等をし,
それらの合意等と,Bのデータフラスコに対する株式引受けの申込み
(以下の④)に基づいて,平成14年4月15日,Bが投資家から資金
を調達するために,原告及びデータフラスコが有する特許権(甲16の
16)について,グローバル・エー・インクに通常実施権を許諾した
(甲16の1)。
なお,原告は,これらについて,同月22日,Bとの間で,契約の解
釈等は日本語で作成された書面によって行うこと,紛争が生じた場合は
まず協議し,訴訟提起の場合は東京地方裁判所を管轄とすること,第三
者と紛争が生じたときは,いかなる事由,目的によるも,原告に波及さ
せることがないこと等を確認した(甲16の17)。
①原告は,平成13年12月21日,グローバル・エー・インクに対
し,原告が,グローバル・エー・インクの株式330万株以内を,1
320万米ドル以内で引き受ける旨の申込みをした(甲16の3∼1
6の6)。
②原告は,平成14年1月10日,グローバル・エー・インクとの間
で,原告が有する特許権の侵害,特許使用料に関し,グローバル・エ
ー・インク代表者のBにおいて独自に解決した件がある場合に,グロ
ーバル・エー・インクに対し,原告が受領する金額の10パーセント
をコンサルタント料として支払う旨の合意をした(甲16の7∼16
の10)。
③原告は,平成14年4月3日,Bとの間で,同人が保有するデータ
フラスコの株式2800株(発行済み株式の100パーセントに相当
する。)の51パーセントに相当する1428株を1株当たり100
万円で買い受ける旨の合意をした(甲16の11∼16の13)。
同合意では,原告に対する株式譲渡は,原告のデータフラスコに対
する原告の有する知的所有権の実施許諾と,双務的条件であること,
株式譲渡代金は,原告の有する特許権に関する侵害訴訟の賠償金や,
データフラスコから受け取る実施許諾料により支払うこと等が取り決
められた。
④Bは,平成14年4月15日,データフラスコに対し,Bが,デー
タフラスコの発行済み株式の30パーセントに相当する840株を,
1株当たり100万円,合計8億4000万円で引き受ける旨の申込
みをした(甲16の14,16の15)。
(イ)データフラスコに対する実施許諾
原告は,平成14年7月12日,データフラスコとの間で,原告が保
有する特許権等の知的財産の通常実施権をデータフラスコに許諾し,デ
ータフラスコは,その許諾料として,データフラスコが事業によって得
た売上げの60パーセントを支払うこと等を内容とする業務提携契約を
合意した(甲18)。
また,原告は,平成16年4月29日,Bから求められ,データフラ
スコとの間で,原告がデータフラスコに対し,本件各特許権の実施権を
設定すること,その登録時期は,本件各特許権の侵害者との紛争が解決
したときとすること,原告のデータフラスコの株式の持ち分は,原告が
損害賠償金の20パーセントの支払を受けるまでは80パーセントとし,
同支払受領後は51パーセントとすること,原告は,単独でデータフラ
スコの代表取締役であることを内容とする合意をした(甲15)。
ウ本件各特許権侵害訴訟の提起及びその経緯
原告は,平成14年10月ころ,E弁護士から,本件各特許権侵害訴訟
の訴状の案の交付を受けた。
そして,原告は,同年11月25日,Bに対し,本件各特許権侵害訴訟
に関し損害賠償金の支払を受けたときは,その5パーセントを報酬として
支払う旨を約束した(甲14の3)。
さらに,データフラスコは,同年12月10日,ゴールデンアローとの
間で,同社がデータフラスコに対し,本件各特許権侵害訴訟の費用として
3000万円の範囲内で融資すること,返済は,同訴訟の損害賠償金が入
金されたときとすること,利息は定めないこと等を内容とする合意をした
(甲14の1)。また,原告は,同日,ゴールデンアローとの間で,同日
時点で,原告個人の負債が3000万円以内であること,ゴールデンアロ
ーが原告に対し,3000万円以内で融資すること,返済は,本件各特許
権侵害訴訟の損害賠償金が入金されたときとすること,利息は定めないこ
と等を内容とする合意をした(甲14の2)。
上記のゴールデンアローからの各融資は,いずれもデータフラスコに対
して実行され,データフラスコは,同月13日及び16日に,原告の負債
合計2754万0797円を,原告に代わって支払った(乙5)。また,
データフラスコは,平成15年1月22日,本件各特許権侵害訴訟の訴え
提起に伴う手数料(印紙代)2791万7600円を原告に代わって支
払った(乙6の1,6の2)。
なお,平成14年12月11日に,Bから原告の口座に3000万円が
振り込まれたこと,同日,その金員のうち,2400万円がBの口座に,
600万円がゴールデンアローの口座に,それぞれ振り込まれたことにつ
いては異議はない
本件各特許権侵害訴訟は,同月21日に提起されたが,第1審,控訴審
ともに原告の請求が認められず,平成18年6月8日,上告受理の申立て
も認められず,原告の敗訴が確定した。
エ本件移転登録①発見後の対応
原告は,本件各特許権侵害訴訟の第1審係属中である平成16年8月こ
ろ,本件各特許権について,本件移転登録①がされていることを知るに至
り,Bから本件譲渡①契約書等の交付を受けるなどした上で,同年9月1
6日,本件移転登録①の抹消登録手続を求める訴訟を提起した(甲4)。
オ本件譲渡①契約書,本件譲渡①英文契約書,本件譲渡証書及び本件移転
登録申請書の原告作成部分が偽造であること
(ア)本件譲渡①契約書の原告名下の印影が,原告の意思に基づいて顕出
されたものではないこと
原告は,本件譲渡①契約書の原告名下に実印を押印したことはなく,
仮に,原告名下の印影が原告の印影によるものであるとしても,それは,
Bが原告の実印と酷似した印鑑を作らせてこれを使用したこと,又は,
原告の実印を冒用したことのいずれかにより,作出されたものといわざ
るを得ない。
すなわち,Bがデータフラスコやグローバル・エー・インクの経理を
担当させていたDの夫人の実家が韓国ソウルにおいて印鑑の製作販売業
を営んでいるため,BがDに命じるなどして,原告の実印と酷似する印
鑑を製作させることは可能であるし,あり得ることである。
また,原告が,Bから求められて書面に実印を押印する場所は,被告
ハッピー・ツリー事務所内のBの執務室であったところ,原告が実印を
取り出して机上に置いたまま,例えば,原告がトイレに行くとか,文言
の訂正のためにBの使用人であるFのいる別室に行ったときなどに,B
が原告の実印を押印した可能性は大いにあり得る。原告は,以前,実印
を机上に準備したときに,上記Fから呼ばれて別室に赴いたことがあっ
たが,その用事が実印の押印を中断しなければならないような重要なも
のではなく,また,Bの待つ部屋に戻ろうとした際に,扉が何かに引っ
掛かって開けられず,Bが建て付けが悪い等と言い訳をしながら開けて
くれて,違和感を覚え,いぶかしく思ったこともあった。原告は,これ
までに,実印をBに預けたり,データフラスコの事務所に置いていたこ
ともなかったので,無断使用される状況はなかったと確信していたが,
鑑定の結果を知って,Bが原告の実印を用いる機会について思念を凝ら
した結果,上記の経緯を思い出したものである。
(イ)偽造を疑わせる事情が存在すること
本件譲渡①契約書が偽造であることを疑わせる事情は,次のとおり多
数存在する。
a原告は,平成15年1月21日,自らが本件各特許権の特許権者で
あることを主張して,本件各特許権侵害訴訟を提起している。
b原告は,平成15年9月21日に,G弁護士から本件譲渡①契約書
等のコピーを受領するまで,本件譲渡①契約書の存在を知らなかった。
c原告は,本件各特許権侵害訴訟の準備と並行して,カーナビゲーシ
ョンの製造業者と本件各特許権の実施権の許諾を含めた話合いを行っ
ていた。
d本件譲渡①契約書の記載内容は,原告の対応と矛盾している。
e本件譲渡①契約書によれば,原告が受ける利益は,データフラスコ
から6000万円の投融資を受けることだけであり,直接関係のない
グローバル・エー・インクに本件各特許権を譲渡することは著しく不
自然,不合理である。
f本件譲渡①契約書のデータフラスコ代表者名下の印影は,Cが主と
して銀行取引印として押印していた印鑑によるものであるが,同印鑑
は,C退任後,Bが保管していたものである。
g本件譲渡①契約書の確定日付は,平成16年4月15日であり,書
面の作成日付(平成14年9月25日)と約1年半の隔たりがあり,
不自然である。
h本件譲渡①契約書及び本件譲渡①英文契約書の原告名の署名には,
署名の偽造の際に現れる特徴が顕著に認められる。
i原告とBとの間で取り交わされた書面は,いずれも,原告が本件各
特許権を有していることを前提とする書面であり,Bもそれを認識し
ていたものである。
平成16年4月29日付け合意書(甲15)について,被告らは,
原告が資金を調達するために作成した旨主張するが,そうであれば,
末尾のBの承諾文言は必要がない。同書面は,Bが違反しないように,
原告が記載させたものであると解するのが自然かつ合理的である。
「韓国内カーナビゲーション特許権取り纏め委任状」(甲24)も,
Bが,原告が本件各特許権を有していることを前提に作成したもので
ある。
j本件譲渡証書(乙28)及び本件移転登録申請書(乙29)各3枚
並びに本件認印(検乙1)は,原告が作成ないし交付したものではな
い。原告は,特許庁に提出する書面には実印しか使用したことがない。
本件移転登録申請書は,実際に本件移転登録①に用いられた移転登録
申請書(甲3)と,形式,字体以外の部分で相違しており,著しく不
自然である。
カ小括
以上のとおり,原告は,本件各特許権について,グローバル・エー・イ
ンク及びデータフラスコに対する実施権の許諾をしたことはあるが,譲渡
したことはない。
⑶原因関係に関する予備的な主張1(本件譲渡①は無効)について
本件譲渡①契約書には,本件各特許権と対価関係にあるべきグローバル・
エー・インクから原告に譲渡されるべき財貨等の記載はない。本件譲渡①契
約書には,「特許譲渡金額と名義変更」との表記があるが,グローバル・エ
ー・インクから原告に支払われるべき特許権譲渡代金に関する記載は一切な
い。
⑷原因関係に関する予備的な主張2(本件譲渡①の失効)について
被告らは,Bが,ゴールデンアローに対し,同社のデータフラスコに対す
る6000万円の貸金を保証している旨主張するが,その責任は限定付きで
ある。Bが保証の責任を負うのは,原告が本件各特許権侵害訴訟において勝
訴し,かつ,アルパインから支払われる損害賠償金のうち受領額の5パーセ
ントの報酬の支払を受ける場合に限定されている。本件各特許権侵害訴訟は,
原告敗訴が確定したため,原告がBに報酬を支払うことは不能に帰し,これ
に伴い,Bのゴールデンアローに対する保証責任も不能に帰し消滅しており,
Bは,ゴールデンアローに対し,何らの責任も負わない。仮に,本件譲渡①
の効力が発生したとしても,本件各特許権侵害訴訟の原告敗訴の確定と同時
に,その効力は消滅した。
第3争点に対する当裁判所の判断
1事実認定
上記前提となる事実等,証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認め
られる。
⑴本件各特許権の設定の登録及びその後の移転登録等
本件各特許権は,いずれも,原告を特許権者として,本件特許権1は,平
成7年7月28日に,本件特許権2は,平成12年10月6日に,それぞれ
設定の登録がされた。
そして,本件各特許権についての移転登録等に関する事実経緯は,別紙
「本件各特許権についての移転登録等」のとおりである(同表の「登録名
義」欄は,対応する行為がされた際の登録名義を示すもので,矢印とともに
示されている表示は,当該移転登録の前の名義と登録後の名義を示すもので
ある。)(甲1,2,8,9,40,41,弁論の全趣旨)。
⑵本件各特許権侵害訴訟の提起及びその経過
原告は,後記⑶のとおり,平成11年からE弁護士に委任して,本件各特
許権侵害訴訟の提起の準備を進めたが(甲39),平成14年10月ころに,
約134億円の請求をすることなどが決まり,その手数料として3000万
円近くが必要となることも判明した(乙46)。そして,本件各特許権侵害
訴訟は,実際には,平成15年1月21日に提起されたが,第1審及び控訴
審ともに原告が敗訴し,平成18年6月8日に,上告受理の申立てが受理さ
れず,原告の敗訴が確定した(弁論の全趣旨)。
⑶データフラスコの設立
原告は,平成11年8月20日に,E弁護士との間で,本件各特許権侵害
訴訟の遂行等を委任する旨を契約し,本件各特許権侵害訴訟の準備に本格的
に取り組むこととなり,また,本件各特許権を活用した事業化も検討してい
た(甲39,乙46)。
他方,Bは,平成12年7月ころ,知人を介して原告と知り合い,同年8
月ころ,原告から,同人が計画している本件各特許権を活用した事業のため
の会社設立への出資の話を持ちかけられ,それに応じて,同年10月17日,
3000万円を全額出資して,ナビゲーションシステムの企画,開発等を目
的とするデータフラスコを設立した(乙3,46)。
⑷原告とデータフラスコ間の本件各特許権の通常実施権に関する契約
データフラスコ設立に先立つ平成12年10月10日,データフラスコの
共同代表者となる予定の原告及びCが,将来設立されるデータフラスコの代
表者の立場で,原告と,「通常実施権に関する覚書」(乙25の1,以下
「本件通常実施権覚書」という。)を締結し(乙25の1,46),同日の
確定日付を得た(乙25の1)。
その内容は,①原告がデータフラスコに対して本件各特許権の通常実施権
を許諾すること(第1条),②本件各特許権のデータフラスコに対する実施
許諾は,原告がデータフラスコの発行済み株式の51パーセントに相当する
以上の株式の取得を条件とすること(第4条),③データフラスコは原告に
対してイニシアルロイヤリティとして800万円を支払うこと(第7条),
④ランニングロイヤリティは,原告及びデータフラスコの協議によって定め
ること(第8条)などを含むものであった(乙25の1,なお,本件特許権
2については,設定の登録の直後であり,本件通常実施権覚書においては,
特許出願中の権利として記載されている。)。
そして,データフラスコは,同月26日,本件通常実施権覚書の上記7条
に基づいて,イニシアルロイヤリティとして,800万円を,原告の口座に
振り込んで支払った(乙25の2,46)。
⑸本件各特許権の事業化の試み
データフラスコは,本件各特許権を用いたナビゲーションシステムの開発
を他社と共同で試みたり,本件各特許権のライセンス交渉を行うなどしたが,
いずれも成功せず,他の事業への投資も計画したが,失敗し,結局,当面,
アルパインに対する本件各特許権侵害訴訟など,他社に対して本件各特許権
の侵害に基づく損害賠償の請求をすることが,唯一の本件各特許権の活用方
法となっていた(乙46)。
⑹原告と,データフラスコ,グローバル・エー・インク,B,ゴールデンア
ロー等との間で作成された書面
原告と,データフラスコ,グローバル・エー・インク,B等との間で作成
された書面は,以下のとおりである。
ア平成13年12月21日付け原告からグローバル・エー・インクあての
株式引受申込書(甲16の3)
同申込書には,原告が,グローバル・エー・インクに対し,同社の株式
330万株以内を,1320万米ドル以内で引き受けること,代金の支払
は特許権侵害の賠償金が入金される日とすることの申込みをしたことが記
載されており,対応する英文(甲16の4),公証人の認証等(甲16の
5,16の6)が付されている。
イ平成14年1月10日付け原告とグローバル・エー・インク間のコンサ
ルタントに関する契約書(甲16の7)
同書面には,原告が,グローバル・エー・インクに対し,本件各特許権
の侵害や特許使用料に関して,Bにおいて独自に解決した件がある場合に,
原告が受領する金額の10パーセントを,コンサルタント料として支払う
旨が記載されており,対応する英文(甲16の8),公証人の認証等(甲
16の9,16の10)が付されている。
ウ平成14年4月3日付け原告とB間の株式譲渡に関する契約書(甲16
の11)
同書面には,平成14年3月末日時点のデータフラスコの全発行済み株
式を有するBが,同株式の51パーセントに相当する株式を原告に1株当
たり100万円で譲渡すること,譲渡代金は,原告の有する特許権の侵害
に基づく損害賠償金を受領した場合や,データフラスコから原告に対する
特許権の実施許諾料を受領した場合などに支払われること,この株式譲渡
と,原告の有する知的財産権のデータフラスコに対する実施許諾は,双務
的な条件であること等が記載されており,公証人の認証等(甲16の12,
16の13)が付されている。
エ平成14年4月15日付け原告及びデータフラスコとグローバル・エー
・インク間の特許の実施権に関する承諾書(甲16の1)
同書面には,原告及びデータフラスコが,その有する特許について,ア
メリカにおける通常実施権をグローバル・エー・インクに許諾すること,
その条件として,上記アないしウの書面の記載事項としていることが記載
され,対応する英文(甲16の2)が付されている。
オ平成14年4月22日付け原告及びB間の確認書(甲16の17)
同書面には,上記アないしエの各契約等については,日本文に従って解
釈され運用されること,原告の有する特許権に基づく事業や同特許権の侵
害訴訟が円滑に行われるように,原告の経営するデータフラスコに,適切
な時期に資金が供与されること,Bは,原告とその有する特許権に関して,
コンサルタント業務等をしていることから,原告に不利益が生じないよう
に努めること等が記載され,Bの署名について,公証人の認証(甲16の
18)が付されている。
なお,上記アないしオは,一つづりに編綴されている(甲39)。
カ平成14年7月12日付け原告及びデータフラスコ間の事業提携契約
(甲18)
同書面には,原告がデータフラスコに対し,原告の有する知的財産権の
実施を許諾すること,その対価として,まず契約金5000万円をデータ
フラスコが原告に支払うこと,データフラスコは売上げの60パーセント
を原告に支払うこと等が記載されている。
キ平成14年9月25日付けの本件譲渡①契約書(乙2の2の1)
本件譲渡①契約書には,以下の記載がされており,譲渡の対象である特
許権には,本件各特許権も含まれている。
また,本件譲渡①契約書には,平成14年7月24日付けの原告の印鑑
登録証明書,契約書の英文のもの,公証人による認証が付されている(乙
2の2の2∼2の2の4)。
【特許譲渡金額と名義変更】
)A保有国際特許権利譲渡書発効日より6ヶ月以内に株式会社データ1
フラスコ社(原文では「デターフラスコ社」)よりA個人に対する投
融資金額6000万円が主要株主Bの保証により支払された時全ての
特許権は譲渡移転される。
)特許権の名義変更に関しては主要株主Bの投融資金額の保証と責任2
において何時でも変更できる。
ク本件譲渡証書(乙28)及び本件移転登録申請書(乙29)
これらの書面は,上記キの本件譲渡①契約書と同じころに,原告からグ
ローバル・エー・インクに交付されたものである(乙46)。
本件譲渡証書には,譲渡人として,原告の住所の記載とともに原告の記
名及び押印があり,本件各特許権について譲渡した旨の文言が記載されて
いるが,年月日,譲受人の住所,氏名等については空欄となっている(乙
28)。
本件移転登録申請書には,申請人(登録義務者)欄に原告の住所の記載
とともに原告の記名及び押印があり,特許庁長官あて,特許番号として本
件各特許権の登録番号,登録の目的として,「本件特許権の移転」と記載
されているが,申請人(登録権利者)欄の住所,氏名等については空欄と
なっている(乙29)。
ケ平成14年11月25日付け原告及びB間の確認書(甲14の3,乙2
7)
同書面には,本件各特許権侵害訴訟に関して,Bが「訴訟資金提供取り
纏め者」であるとして,原告が,Bに対し,報酬として損害賠償金受領額
の5パーセントを支払う旨が記載されている。
コ平成14年12月10日付けゴールデンアロー,データフラスコ及びB
間の投融資確認書(甲14の1,乙10)
同書面には,ゴールデンアローが,データフラスコに対し,「特許侵害
訴訟法務費」として3000万円の枠内で融資すること,利息は特に定め
ず,原告が本件各特許権侵害訴訟において賠償金を受領した時が返済日で
あること,「投融資報酬」として,「平成14年11月25日A発行㈱デ
ータフラスコ主要株主代表B殿宛発行確認書別紙添付規定内にて丙(B)
が全責任を持って処理する。」との記載がされている。
サ平成14年12月10日付けゴールデンアロー,原告及びB間の投融資
確認書(甲14の2,乙11)
同書面には,ゴールデンアローが,原告に対し,負債整理資金として,
3000万円の融資限度枠内で融資することが記載され,利息及び返済日
のほか,「報酬」については,上記ケの書面と同様の記載がされている。
シ平成16年4月29日付け原告及びデータフラスコ間の合意書(甲1
5)
同書面には,原告がデータフラスコに対し,本件各特許権の専用実施権
を設定すること,その条件として,登録手続はすべての侵害者との間の侵
害事件が解決したときに行うこと,対価(300億円)の20パーセント
の支払を原告が受けるまでは,原告がデータフラスコの株式の80パーセ
ントを所有し,同支払を受けた後は,同株式の51パーセントに減ずるこ
と,原告はデータフラスコの単独の代表取締役であること,同書面は秘密
とし,第三者に開示するときは原告の書面による承諾が必要であること等
が記載されている。
また,原告の署名押印及びデータフラスコの記名押印より下部欄外に,
「上記合意書条件⑴∼⑸条に関して株主代表Bは承諾いたしました。」と
の記載及びBの署名押印がある。
ス平成16年5月12日付けBから原告に対する書面(甲19)
同書面には,データフラスコの発行済み株式をすべて原告に名義変更す
るための条件として,平成14年4月3日の株式譲渡契約書に基づいて株
式売買契約書を作成すること,株式代金の支払に関して別途金銭消費貸借
契約を締結することが記載され,最後に「色々な提案が出ましたが現時点
で一番判り易く簡単で可能な方法で納得して頂いています。」と記載され
ている。
セ平成16年5月12日付けデータフラスコ,B及び原告間の株式譲渡書
(甲20)
同書面には,Bが有するデータフラスコの株式を,平成14年4月3日
付けデータフラスコ株式譲渡契約に基づいて原告に譲渡すること,Bから
原告に対する株式譲渡と同時に,原告の保有する特許権を原告の判断によ
り所有権移転されること,データフラスコが原告の知的財産権に基づいて
円滑に事業を推進することと原告がデータフラスコのすべての株式を取得
することのいずれかが損なわれたときは,契約が解約され,原告の知的財
産権についてデータフラスコが得ることになった権限及び利益が原告に移
転譲渡されること,株式譲渡代金は原告の有する特許の侵害に基づく損害
賠償金の入金がされてから支払われること等が記載されている。
⑺原告の負債の状況,原告に対する金員の支払,原告による支払等
ア平成14年12月11日時点における,原告のゴールデンアロー又はB
に対する借入金債務
(ア)原告は,平成14年8月10日時点で,平成12年12月7日から
平成14年7月31日までの間のゴールデンアロー又はBに対する借入
金として合計2383万円の債務を負っていた(乙26)。
(イ)原告は,平成14年8月12日から同年11月28日までの間に,
ゴールデンアローから,以下のとおり,合計480万円を借り入れた
(乙38∼43,46)。
①平成14年8月12日30万円(乙38)
②同月15日50万円(乙39)
③同月21日250万円(乙40)
④同年9月6日30万円(乙41)
⑤同年11月11日20万円(乙42)
⑥同月28日100万円(乙43)
(ウ)上記(ア)及び(イ)の結果,平成14年12月11日時点で,原告のゴ
ールデンアローに対する借入金債務が580万円,原告のBに対する
借入金債務が2283万円となっていた(乙46)。
イ平成14年12月26日までの間の,原告の消費者金融会社等に対する
借入金債務
原告は,平成14年夏ころまでの間に,消費者金融会社等に対する借入
金債務が3000万円近くあり,共同代表者として勤務するデータフラス
コの事務所にも,返済の督促の電話があるような状況であった(乙46)。
そして,その金額は,後記ウ(イ)の弁済時点で,以下のとおり,合計27
53万8067円となっていた(乙5)。
①アイク株式会社新宿歌舞伎町支店に対する借入金債務
H名義30万7597円
原告名義46万7914円
②株式会社プラットに対する借入金債務
48万5298円
③Jに対する借入金債務
100万円
④アイク株式会社渋谷駅前支店に対する借入金債務
2222万4138円
⑤首都圏ファイナンスに対する借入金債務
305万3120円
ウ原告に対する金員の支払及び原告による支払
(ア)Bは,本件譲渡①の代金のうち3000万円をグローバル・エー・
インクに代わって支払うこととし(乙46),平成14年12月11日,
原告の口座に3000万円を振込送金した(甲37,乙4)。原告は,
同金員について,同日,上記ア(ウ)の借入金債務の弁済として,利息等
も含めて,ゴールデンアローに対し600万円,Bに対し2400万円
を振込送金した(甲37,38の1∼38の5,46)。
(イ)また,データフラスコは,本件譲渡①の残代金3000万円につい
て,ゴールデンアローから借入れをして,グローバル・エー・インクに
代わって支払うこととし(乙46),同月16日,ゴールデンアローか
ら3000万円の振込送金を受け(乙12),その金員のうち,原告の
上記イの借入金債務2753万8067円及び振込手数料2730円の
合計2754万0797円を,原告に立て替えて弁済することにより,
同金額の代金の支払をした(乙5,13∼18)。
なお,上記の消費者金融会社等に対する弁済は,一部,同月13日に
行われている。
(ウ)さらに,上記⑵のとおり,平成15年1月21日に,原告により本
件各特許権侵害訴訟が提起されたが,その手数料(印紙代)として27
91万7600円が必要となった(甲39,乙6の3,46)。
データフラスコは,本件譲渡①の残代金245万9203円(600
0万円から上記(ア)における支払額3000万円及び(イ)における支払額
2754万0797円を控除した金額)の支払のために,この手数料相
当額の一部についても,原告に立て替えて支払うこととし(乙46),
同月22日,ゴールデンアローから3000万円を借り入れ(乙19),
同日,上記残代金に2545万8397円を加算して,上記手数料相当
分全額を出捐した(乙6の1∼3)。
⑻本件譲渡②
グローバル・エー・インクは,平成15年3月10日,被告ハッピー・ツ
リーとの間で,本件各特許権を,各5000万円,合計1億円で売却する旨
の合意をした(乙2の1,46)。
()本件移転登録①9
本件移転登録①は,別紙「本件各特許権についての移転登録等」記載のと
おり,平成16年7月14日に申請され,同月29日にされた(甲1∼3,
8,9,40,41)。
移転登録申請書の申請人(登録義務者)として記載されている原告名下の
印影は,本件譲渡証書及び本件移転登録申請書の原告名下の印影と同様であ
る(甲3,乙28,29)。
⑽原告の実印の印影及び実印の保管
原告の実印の印影は,印鑑登録証明書(乙2の2の2)のとおりである
(ただし,現在の実印は,輪郭円の一部に欠損がある。)と認められ,本件
譲渡①契約書(乙2の2の1)の原告名下の印影とも同一であると認められ
る(鑑定の結果)。
そして,原告は,実印を常に自宅の所定場所に保管し,必要がある際に持
ち出して使用しており,他人に使用させたことはない(弁論の全趣旨)。
()原告による被告ハッピー・ツリーに対する本件以外の訴訟提起11
原告は,平成16年9月16日,被告ハッピー・ツリーに対し,本件移転
登録①の抹消登録手続等を求める訴訟を提起したが,同時点では,本件移転
登録②の申請がされ,平成17年2月23日において,本件移転登録②がさ
れて,本件各特許権の登録名義は原告に戻されたため,同年11月30日,
原告の訴えについて,訴えの利益を欠くものとして却下する旨の判決を受け,
同判決は確定した(甲4,乙7,弁論の全趣旨)。
2検討
以上の認定事実に基づいて,検討する。
⑴本件譲渡①の成否ついての認定
本件譲渡①契約書の原告名下の印影は,上記1⑽のとおり,原告の実印の
印影と同一であり,本件譲渡①契約書の原告名下の印影は,原告の実印によ
るものと認められる。
その上で,上記1()のとおり,原告は,実印を常に自宅の所定場所に保10
管して,他人に使用させることもなかったのであるから,本件譲渡①契約書
の原告名下の印影は,原告の意思に基づいて顕出されたものと推定される。
そして,同推定を覆すに足りる証拠はないから,本件譲渡①契約書は,真
正に成立したものと推定される。
また,上記1⑺ウのとおり,B及びデータフラスコが,本件譲渡①の代金
として,平成15年1月22日までに,それぞれグローバル・エー・インク
に代わって3000万円を支払ったことが認められ(当該各金員は,消費者
金融会社等も含めて,他者に対する借入金債務の弁済をしたり,印紙代とし
て出捐をすることを前提として,支払がされたと解される。),原告もこれ
らの支払に関して特段の異議を述べていない(原告に対し,上記金員が支払
われる原因は他に認められず,本件譲渡①の代金として支払われたものと認
めるのが合理的といえる。)。
これらによれば,原告は,平成14年9月25日に,本件各特許権及び関
連する外国特許を,代金6000万円で,グローバル・エー・インクに売却
したことが認められる。
⑵原告の反論について
原告は,本件譲渡①契約書の原告名下の印影が原告の実印によるものであ
ること又は同印影が原告の意思に基づいて顕出された旨の推定に対し,以下
のとおり反論するので,この点について検討する。
アまず,原告は,Bが,データフラスコやグローバル・エー・インクにお
いて経理を担当していたDに命じて,原告の実印と酷似する印鑑を製作さ
せた可能性を主張するが,同主張は,Dの夫人の実家が印鑑製作販売業を
営んでいるということのみに基づくものであり,推測の域を出るものでは
ないから,同主張を採用することはできない。
イまた,原告は,被告ハッピー・ツリー事務所において原告の実印を机上
に準備した際に,重要でない用事で別室に呼ばれ,戻る際に扉がなかなか
開かず,Bが建て付けが悪いと言い訳をしたとの経験があり,このような
機会にBが原告の実印を冒用した可能性は十分にある旨指摘する。しか
しながら,原告は,鑑定の実施前に,原告の実印を他人に使用させたりす
ることはなく,常に自ら管理していた旨認めていたところ,鑑定実施後に
上記の経緯を主張したものであり,その信用性に疑問がないではないし,
仮に,原告が指摘する事実関係があったとしても,それだけで,Bにおい
て原告の実印を冒用したことを認めることはできず,これも,上記アと同
様,推測の域を出るものではないといわざるを得ないから,同主張を採用
する余地はない。
ウ本件各特許権侵害訴訟は,本件譲渡①の後である平成15年1月21日
に提起されているが,そこでは,原告が自ら本件各特許権の特許権者であ
る旨主張している。
しかしながら,上記1において認定したとおり,原告は,平成11年8
月には,既に,E弁護士に対し,本件各特許権の侵害訴訟の遂行を委任し
ているのであり,それを前提として,データフラスコが設立されたり,資
金を集めるなどしていたのであるから,本件各特許権侵害訴訟は,本件各
特許権の発明者である原告が遂行していくことが予定されていたものと認
められる。そして,本件各特許権侵害訴訟で損害賠償金の支払を受けた場
合には,原告において同金員を取得することが前提となっていたものと考
えられるから,原告の名義で本件各特許権侵害訴訟が提起,遂行されるこ
とは,関係者が了解していたことと考えられ,このことと,本件譲渡①が
されたことは矛盾するものではない。
したがって,上記主張により,本件譲渡①が否定されるものではない。
エ原告は,本件譲渡①の前後に,原告とB等との間で取り交わされた書面
は,いずれも,原告が特許権者であることを前提としており,これらの書
面による合意は,本件譲渡①により原告が特許権者ではなくなることと整
合しない旨主張する。
しかしながら,上記各書面の記載内容は,上記1⑹において認定したと
おりであり,そのうち,上記1⑹キ,ク,コ,サの各書面を除いて,記載
どおりの意味を有するとはいい難いものである。すなわち,原告がデータ
フラスコの株式の譲渡を受けることについて,平成14年4月3日付けの
株式譲渡に関する契約書(甲16の11),平成16年4月29日付けの
合意書(甲15),平成16年5月12日付けの株式譲渡書(甲20)な
ど複数の書面が作成され,平成16年4月29日付けの合意書(甲15)
の記載内容(譲渡の条件等)は,他と異なるなど,必ずしも,それぞれの
関係が明らかであるとはいえない。実施権の許諾についても,原告からグ
ローバル・エー・インクに対し,本件各特許権等の通常実施権を許諾する
内容の書面(甲16の1)がある一方で,原告からデータフラスコに対し
て,本件各特許権の専用実施権を許諾する内容の書面(甲15)が作成さ
れ,それぞれの記載内容には,効力の発生に一定の条件が付されているも
のの,それらの条件に重複するところもあり,相互に整合しないものと
なっている。また,これらの書面は,いずれも,原告が本件各特許権侵害
訴訟において多額の損害賠償金の支払を受けることを前提として,その場
合にデータフラスコやBなどにどのような金員が支払われるかを示すもの
の,本件各特許権侵害訴訟において敗訴する場合の処理については何ら言
及されていないことから,本件各特許権侵害訴訟により得られる可能性の
ある金員の分配計画を示し,訴訟遂行資金や関連する資金が提供される先
である原告,データフラスコ,Bなどが多大な利益を得ることを表明して,
資金提供者からの信用を獲得することを目的としていると考えるのが自然
であって,資金提供者に向けて,必要に応じて作成された書面であると解
するのが相当である。
原告は,平成16年4月29日付けの合意書(甲15)について,末尾
にBの承諾文言が記載されていることは,資金提供者向けの書面という性
質とは相容れない旨主張するが,本件各特許権侵害訴訟や本件各特許権の
活用に関して,Bは,自ら資金を提供したり,他に資金提供者を確保する
などしていたものと考えられるから(甲39,乙46),Bの了承を得て
いることは,書面について上記の趣旨と考えることと矛盾するものではな
い。
Bが,「韓国内カーナビゲーション特許権取り纏め委任状」(甲24)
において,韓国の企業に対する損害賠償請求やロイヤリティ支払交渉に関
する委任を行うに際し,原告が特許権者である旨を示したことも,本件各
特許権に対応する韓国の特許権の名義が原告となっている以上,不自然で
はない。
以上から,本件譲渡①の内容と矛盾する内容の合意が形成されている旨
の原告の上記主張を採用することはできない。
オさらに,原告は,6000万円の対価のみでグローバル・エー・インク
に本件各特許権を譲渡することは,著しく不自然,不合理である旨主張す
る。
しかしながら,原告は,上記1⑺ア及びイのとおり,本件譲渡①がされ
たころ,多額の借入金債務を負担しており,消費者金融会社等から返済の
督促を受けるなどしていたのであるし,ゴールデンアローからも頻繁に小
額の借入れをしており,金銭的に余裕のない状況にあり,本件各特許権侵
害訴訟の遂行に注力し難い状態にあったとも認められる。また,本件各特
許権の活用に関して,データフラスコを通して他社とのライセンス交渉な
ども行っていたものの,結局は,アルパインに対する本件各特許権侵害訴
訟を提起することに絞られたのであるから,原告としては,本件各特許権
に関して新たに損害賠償金やロイヤリティ収入を得る可能性はそれほど高
くないとの認識に至っていたものと考えられるところである。そうである
とすれば,当面の懸案である負債を処理しつつ,本件各特許権侵害訴訟に
専念できる態勢を整え,勝訴すれば,多額の損害賠償金を受領し得ること
の引替えに,本件各特許権を譲渡するという選択は,十分合理性を有して
いると解される。
したがって,原告の上記主張も採用することはできない。
カ原告は,本件移転登録①の申請に用いられた申請書(甲3)と,原告か
らグローバル・エー・インクに対してあらかじめ交付されていたとする本
件移転登録申請書(乙29)とは,書式等も異なり,本件移転登録申請書
(乙29)や本件譲渡証書(乙28)が事前に原告から交付されていたと
することはできず,このような経緯からも,本件譲渡①契約書は偽造され
たものである旨主張する。
しかしながら,実際の移転登録申請に当たって,手書きではなく,全体
をパソコン等で打ち直して書式を改めることは十分あり得ることであるし,
仮に,本件移転登録申請書(乙29)などを後日に作出したのであれば,
実際の移転登録申請書に用いたものと同様の書式等にすると考えられると
ころ,実際には異なっているのであるから,原告の上記主張を採用するこ
とはできない。
キ原告は,本件譲渡①契約書及び本件譲渡①英文契約書の原告署名につい
ては,署名の偽造の際に現れる特徴が顕著に認められる旨主張するが,原
告が提出する書証(甲21)から,原告の上記主張を認めることはできな
いし,他に,これを裏付けるに足りる証拠は認められない。
クその他,本件譲渡①のデータフラスコ名下の代表者印が,原告が用いる
ものではなく,銀行取引において用いられる印鑑であったこと,本件譲渡
①契約書の確定日付は,書面作成時から1年半の隔たりがあること等は,
本件譲渡①に関する上記1の認定を覆すに足りるものとはいえない。
⑶原因関係に関する予備的な主張1(本件譲渡①は無効)について
原告は,本件譲渡①契約書には,本件各特許権と対価関係にあるべき財貨
等の記載がなく,契約として無効である旨主張する。
しかしながら,譲渡契約書において,譲渡代金が明記されていないからと
いって,当該契約が直ちに無効となるものでないことはいうまでもない。そ
して,本件譲渡①契約書の文言は,「投融資」との名称を用いるなど明確さ
に欠ける部分があるが,書面全体及び金員の流れなども総合考慮すれば,本
件譲渡①において,上記⑴のとおり,譲渡代金が6000万円と定められ,
その金員も支払われたものと認められる。
したがって,原告の上記主張は失当である。
⑷原因関係に関する予備的な主張2(本件譲渡①の失効)について
原告は,Bがゴールデンアローに対する保証責任を負うのは,原告が本件
各特許権侵害訴訟において勝訴し,かつ,受領する損害賠償金の5パーセン
トの報酬を受ける場合であるところ,本件各特許権侵害訴訟は,原告敗訴が
確定したのであるから,仮に,本件譲渡①の効力が発生したとしても,本件
各特許権侵害訴訟の原告敗訴の確定と同時に,その効力は消滅した旨主張す
る。
しかしながら,本件譲渡①契約書には,原告が主張するような条件や,契
約が効力を失う旨の条項は一切記載されておらず,他に,これを認めるに足
りる証拠もないから,原告の上記主張を採用することはできない。
⑸本件移転登録①の手続
原告は,上記1⑹クのとおり,本件譲渡証書(乙28)及び本件移転登録
申請書(乙29)をグローバル・エー・インクに交付したと認められるので
あり,そうであれば,グローバル・エー・インクから更に譲渡された先に対
する移転登録も,了承していたものと解するのが相当である。
原告は,移転登録を受ける者を特定しないでした中間省略登録の承諾は無
効である旨主張するが,上記特定をしない中間省略登録の承諾が,直ちに無
効となると解すべき根拠はない。そして,中間省略登録をする場合に登録名
義に残らない中間者の利益に配慮しつつ検討すると,本件では,中間者であ
るグローバル・エー・インクは中間省略登録を了承しているのであり,原告
に対する代金も支払われているのであるから,原告による中間省略登録の承
諾時に,将来,移転登録を受ける者が特定していないとしても,それをもっ
て,登録手続に瑕疵があるということはできない。
以上のとおり,いずれにしても原告の上記主張を採用する余地はない。
3まとめ
したがって,本件各特許権については,本件譲渡①及び本件譲渡②がされ,
本件移転登録①も有効にされているから,本件移転登録①がされた時点で,本
件各特許権は被告ハッピー・ツリーに移転された,すなわち,原告は,本件各
特許権を喪失したと認められる。
第4結論
以上の次第で,原告の請求は,いずれも理由がないから,これらを棄却する
こととし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官清水節
裁判官山田真紀
裁判官佐野信
(別紙)
特許権目録
1特許番号第1955583号
発明の名称ナビゲーション装置及び方法
出願年月日平成2年8月21日
登録年月日平成7年7月28日
2特許番号第3116376号
発明の名称ナビゲーション装置およびナビゲーション方法
出願年月日平成4年6月5日
登録年月日平成12年10月6日
(別紙)
本件各特許権についての移転登録等
年月日移転登録申請・移転登録等登録名義
受付第号の移転登録申請原告H16.7.14003971
受付第号の移転登録(本原告⇒被告ハッピー・ツリーH16.7.29003971
件移転登録①)
受付第号の移転登録申請被告ハッピー・ツリーH16.9.2004883
受付第号の移転登録(本被告ハッピー・ツリー⇒原告H17.2.23004883
件移転登録②)
受付第号の移転登録申請原告H17.3.15001703
受付第号の移転登録(本原告⇒被告ハッピー・ツリーH17.7.27001703
件第1事件における抹消登録手続
請求の対象,本件移転登録③)
受付第号の予告登録(本H18.3.1005932
件第1事件の訴提起による本件移
転登録③の抹消の予告登録)
受付第号の移転登録申請被告ハッピー・ツリーH18.4.14002290
受付第号の移転登録(本被告ハッピー・ツリー⇒被告H18.5.17002290
件第2事件における抹消登録手続トゥーミックス
請求の対象,本件移転登録④。)
受付第号の予告登録(本H19.8.1006665
件第2事件の訴提起による本件移
転登録④の抹消の予告登録)

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なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
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お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

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残り応募人数(2019年5月1日現在)
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