弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人安達勝清の上告趣意一について。
 本件記録に徴すると、第一審裁判所は、被告人がA等と共謀して、海賊たるB、
C外七名を殺害し、続いてCを除く爾余の八名の死体を遺棄したとの、殺人及び死
体遺棄の罪について、被告人を懲役三年に処し、三年間右刑の執行を猶予する旨の
判決を言い渡したところ、被告人及び検察官の双方より右判決に対し、控訴の申立
があり、原審は、何ら事実の取調をすることなく、被告人等がBを殺害した行為は
刑法三六条一項にいわゆる正当防衛に当るのにこれを正当防衛にあたらないとした
右第一審判決は法令の適用を誤つた違法があり破棄を免れないとして、検察官の第
一審判決の量刑は軽きに過ぎるとの控訴趣意に対する判断を省略して、右第一審判
決を破棄し、訴訟記録及び第一審で取り調べた証拠のみによつて、被告人に対し前
記Bを殺害したとの点につき無罪を言い渡したほか第一審判決と同様の殺人の事実
及び死体遺棄の事実を認定し、被告人を懲役二年に処する旨の実刑の判決を言い渡
したことが認められる。論旨は、第一審裁判所が被告人その他を直接取り調べて言
い渡した刑の執行猶予の判決を、控訴審が何ら事実の取調をすることなく、訴訟記
録を書面審理しただけで破棄して執行猶予を附さない実刑の判決に改めることは、
違法で公平な裁判所の裁判を受ける権利を保障した憲法三七条に違反すると主張す
る。しかし、検察官から控訴申立のあつた事件において、控訴審が、訴訟記録及び
第一審で取り調べた証拠によつて、その量刑軽きに過ぎると認めたときは、何ら自
ら事実の取調をしないで第一審判決の刑より重い刑の判決を言い渡しても刑訴四〇
〇条但書に違反するものでないことは昭和二七年(あ)第四二二三号同三一年七月
一八日言渡大法廷判決(集一〇巻七号一一七三頁)の判示するところである。又裁
判所の言い渡した刑が被告人から見て重いと思われるものであつてもその裁判を公
平な裁判所の裁判ではないということはできないこと、当裁判所大法廷の判例とす
るところである(昭和二二年(れ)第四八号同二三年五月二六日大法廷判決、集二
巻五号五一一頁)。論旨は理由がない。
 同二について。
 所論は量刑不当の主張に過ぎず、刑訴四〇五条の上告理由にあたらない。
 よつて、刑訴四〇八条により主文のとおり判決する。
 この裁判は、裁判官小谷勝重の反対意見があるほか裁判官全員一致の意見による
ものである。
 裁判官小谷勝重の上告趣意一に対する反対意見は次のとおりである。
 原審が、何ら事実の取調をすることなく、訴訟記録及び第一審で取り調べた証拠
のみによつて、執行猶予を附した第一審判決を破棄自判して、執行猶予を附しない
実刑の判決に改めたことは刑訴四〇〇条但書に違反するから、原判決は破棄しなけ
れば著しく正義に反するものであること、前記昭和二七年(あ)第四二二三号大法
廷判決記載のわたくしの少数意見のとおりである。
  昭和三一年一一月三〇日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    池   田       克

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