弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
       本件上告を棄却する。
       上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 第1 本件の事実関係の概要等
 1 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
 (1) 上告人は,鹿児島県揖宿郡a町において診療所を開設していたが,同地に
おいて病院の開設を企図し,鹿児島県知事(以下「県知事」という。)に対し,平
成9年9月4日,診療科目を内科,外科,脳神経外科,耳鼻咽喉科及びリハビリテ
ーション科とし,病床数を104床とする病院(以下「本件病院」という。)の開
設に関し,医療法(平成9年法律第125号による改正前のもの。以下同じ。)7
条1項所定の許可を求める申請をした。
 (2) 鹿児島県は,医療法30条の3第1項に基づいて,医療計画を定め,同条
2項1号所定の区域として,鹿児島県指宿市及び揖宿郡から成る指宿保健医療圏を
設定し,同医療圏につき,同項3号に定めるいわゆる一般病床(病院の病床で精神
病床,伝染病床及び結核病床以外のもの)に係る必要病床数を813床と定めてい
たが,同医療圏における既存の病床数は1143床であり,330床の病床が過剰
となっていた。もっとも,同医療圏には,脳神経外科を標ぼうする医療機関がなく
,同医療圏に属するa町には,病院がない。
 (3) 県知事は,上告人に対し,平成9年12月1日付けで,医療法30条の7
の規定に基づき,前記(1)の申請に係る本件病院の開設に関し,「当該病院の開設
を計画している指宿保健医療圏は病床過剰地域であって,特に同病院開設の必要を
認めない」との理由を付して,本件病院の開設を中止するよう勧告した(以下,こ
の勧告を「本件勧告」という。)。
 (4) 上告人は,県知事に対し,平成9年12月3日,本件勧告に従わない旨通
知した。県知事は,上告人に対し,同月25日,前記(1)の申請について許可する
旨の処分をした。
 (5) 上告人は,県知事に対し,平成10年1月12日,医療法27条に基づき
,本件病院の使用許可を申請し,県知事は,同月22日付けでこれを許可した。
 (6) 上告人は,県知事に対し,平成10年1月23日,健康保険法(平成10
年法律第109号による改正前のもの。以下同じ。)43条ノ3第1項に基づき,
本件病院につき保険医療機関の指定を求める申請(以下「本件申請」という。)を
した。
 (7) 県知事は,上告人に対し,平成10年3月30日,健康保険法43条ノ3
第2項により,本件申請を拒否する旨の処分(以下「本件処分」という。)をした。
本件処分の理由は,本件病院については,開設を計画している指宿保健医療圏は病
床過剰地域であり特に本件病院の開設の必要を認めないとして本件勧告が行われた
ものであるところ,昭和62年9月21日付け保発第69号厚生省保険局長通知等
の趣旨に照らして,同項所定の指定拒否要件である「其ノ他保険医療機関若ハ保険
薬局トシテ著シク不適当ト認ムルモノナルトキ」に該当するというものであった。
 2 本件は,上告人が,本件処分は違法であると主張して,本件処分に係る事務
の権限を承継した被上告人に対し,その取消しを求める事案である。
 3 原審は,上記の事実関係の下において,上告人が本件勧告に従わずに開設し
た本件病院が健康保険法43条ノ3第2項に規定する「其ノ他保険医療機関若ハ保
険薬局トシテ著シク不適当ト認ムルモノナルトキ」に当たるとしてされた本件処分
は適法であると判断し,上告人の請求を棄却すべきものとした。
 第2 上告代理人濱秀和ほかの上告受理申立て理由第1点,上告代理人宇佐見方
宏ほかの上告受理申立て理由第2,上告代理人後藤正幸の上告受理申立て理由につ
いて
 1 医療法1条の3は,国及び地方公共団体は,国民に対し良質かつ適切な医療
を効率的に提供する体制が確保されるよう努めなければならない旨規定し,同法3
0条の3は,都道府県は,当該都道府県における医療計画(医療を提供する体制の
確保に関する計画)を定めること(同条1項),医療計画には,主として病院の病
床の整備を図るべき地域的単位として区分する区域の設定に関する事項,いわゆる
一般病床に係る必要病床数等に関する事項などを定めること(同条2項1号,3号)
を規定している。そして,同法30条の7は,都道府県知事は,医療計画の達成の
推進のため特に必要がある場合には,病院を開設しようとする者等に対し,都道府
県医療審議会の意見を聴いて,病院の開設等に関して勧告を行うことができる旨規
定している。その趣旨は,病院の開設等の申請がされた際,当該申請に係る病院の
病床数等を医療計画に適合する方向に誘導することにより,良質かつ適切な医療を
効率的に提供する体制を確保するところにあると解される。
 2 健康保険法1条ノ2は,健康保険制度については,それが医療保険制度の基
本をなすものであることにかんがみ,その在り方に関し常に検討を加え,医療保険
の運営の効率化,給付の内容及び費用の負担の適正化並びに国民が受ける医療の質
の向上を総合的に図りつつ実施されるべき旨を規定している。同条が医療保険の運
営の効率化に意を用いて健康保険制度が実施されるべきこととしている趣旨に照ら
すと,同法43条ノ3第2項が保険医療機関の指定を拒否することができる要件と
して規定する「其ノ他保険医療機関若ハ保険薬局トシテ著シク不適当ト認ムルモノ
ナルトキ」には,医療保険の運営の効率化という観点からみて著しく不適当と認め
られる事由がある場合も含まれると解するのが相当である。
 3 ところで,原審の適法に確定したところによれば,医療の分野においては,
供給が需要を生む傾向があり,人口当たりの病床数が増加すると1人当たりの入院
費も増大するという相関関係があるというのである。そうすると,良質かつ適切な
医療を効率的に提供するという観点から定められた医療計画に照らし過剰な数とな
る病床を有する病院を保険医療機関に指定すると,不必要又は過剰な医療費が発生
し,医療保険の運営の効率化を阻害する事態を生じさせるおそれがあるということ
ができる。このような事情に照らすと,前記の事実関係の下において,良質かつ適
切な医療を効率的に提供するという観点からされた本件勧告に従わずに開設された
本件病院についての保険医療機関指定の申請につき,医療保険の運営の効率化とい
う観点から「其ノ他保険医療機関若ハ保険薬局トシテ著シク不適当ト認ムルモノナ
ルトキ」に当たるとしてされた本件処分は,健康保険法43条ノ3第2項に違反す
るものとは認められない。
 これと同旨の原審の判断は正当として是認することができ,原判決に所論の違法
はない。論旨は採用することができない。
 第3 上告代理人濱秀和ほかの各上告理由について 
 前記第2において判示したところに照らせば,医療法30条の7の規定に基づき
病院の開設を中止すべき旨の勧告を受けたにもかかわらずこれに従わずに開設され
た病院について,健康保険法43条ノ3第2項にいう「其ノ他保険医療機関若ハ保
険薬局トシテ著シク不適当ト認ムルモノナルトキ」に当たるとして同項により保険
医療機関の指定を拒否することは,公共の福祉に適合する目的のために行われる必
要かつ合理的な措置ということができるのであって,これをもって職業の自由に対
する不当な制約であるということはできない。したがって,同項を上記のとおり解
すること及び同項を適用してされた本件処分は,憲法22条1項に違反するもので
はない。以上は,最高裁昭和45年(あ)第23号同47年11月22日大法廷判
決・刑集26巻9号586頁の趣旨に徴して明らかである。これと同旨の原審の判
断は正当として是認することができる。同項違反をいう論旨は採用することができ
ない。
 その余の論旨は,違憲をいうが,その実質は単なる法令違反をいうものであって
,民訴法312条1項及び2項に規定する事由のいずれにも該当しない。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 泉 徳治 裁判官 横尾和子 裁判官 甲斐中辰夫 裁判官 島
田仁郎 裁判官 才口千晴)

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