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平成23年7月22日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成21年(ワ)第30649号損害賠償等請求事件
口頭弁論終結日平成23年4月19日
判決
東京都千代田区<以下略>
原告株式会社町田電機商会
訴訟代理人弁護士金森仁
同井上明子
東京都世田谷区<以下略>
被告株式会社マチデン
東京都江東区<以下略>
被告B1
東京都世田谷区<以下略>
被告B2
東京都墨田区<以下略>
被告B3
東京都江戸川区<以下略>
被告B4
東京都葛飾区<以下略>
被告B5
被告ら訴訟代理人弁護士江藤鉄兵
主文
1被告らは,原告に対し,連帯して497万7642円及びこれに対
する被告株式会社マチデン,被告B1及び被告B2においては平成2
1年10月8日から,被告B3及び被告B4においては同月14日か
ら,被告B5においては同月7日から各支払済みまで年5分の割合に
よる金員を支払え。
2原告の被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。
3訴訟費用は,これを20分し,その1を被告らの負担とし,その余
は原告の負担とする。
4この判決の第1項は,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1被告らは,原告に対し,連帯して1億0310万8594円及びこれに対す
る被告株式会社マチデン,被告B1及び被告B2においては平成21年10月
8日から,被告B3及び被告B4においては同月14日から,被告B5におい
ては同月7日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2被告株式会社マチデンは,「株式会社マチデン」の商号を使用してはならな
い。
3被告株式会社マチデンは,東京法務局世田谷出張所平成21年6月11日受
付の被告株式会社マチデンの設立登記中,「株式会社マチデン」の商号の抹消
登記手続をせよ。
第2事案の概要
本件は,原告が,原告の監査役の地位にある被告B1(以下「被告B1」と
いう。)が,いずれも原告の元従業員である被告B2(以下「被告B2」とい
う。),被告B3(以下「被告B3」という。)及び被告B4(以下「被告B
4」という。)並びに原告の下請会社の取締役である被告B5(以下「被告B
5」といい,また,上記被告5名を総称して,「被告B1ら」という場合があ
る。)と共謀の上,原告の配送センターから原告所有の営業用資産を無断で運
び出し,原告の業務から一斉に離脱するとともに,原告の顧客住所録等の重要
書類をすべて奪って原告の営業活動を停止させ,更にこれらの重要書類を用い
るなどして新たに設立した被告株式会社マチデン(以下「被告会社」という。)
において原告の取引先への営業行為を行い,原告の顧客を横奪したことが,原
告の営業用資産の所有権侵害及び営業利益侵害の共同不法行為(被告B1につ
いては,選択的に監査役の会社に対する任務懈怠)に該当し,また,被告会社
の商号「株式会社マチデン」(以下「被告商号」という。)の使用は,原告の
営業表示として周知な「株式会社町田電機商会」の商号(以下「原告商号」と
いう。)又はその略称である「町電(マチデン)」と類似する営業表示の使用
として不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項1号の不正競争行
為に該当するなどと主張し,被告B1らに対し,民法719条,709条(被
告B1については,選択的に会社法423条1項)に基づく損害賠償を求め,
被告会社に対し,民法719条,会社法350条,不競法4条に基づく損害賠
償と同法3条1項に基づく被告商号の使用の差止め及び同条2項に基づく侵
害の停止に必要な行為として被告商号の抹消登記手続を求めた事案である。
1争いのない事実(弁論の全趣旨により認められる事実を含む。)
(1)当事者
ア原告は,電気,照明器具のリース及び工事等を目的とする株式会社であ
り,その主な業務は,展示会,イベント等の会場における電気工事及び照
明器具等のレンタルである。
原告は,東京に本社,名古屋に営業所を置き,それぞれ営業の拠点とな
る配送センター(以下,東京本社の配送センター(東京都墨田区緑所在)
を「緑配送センター」という。)を有している。
なお,原告は,亡C(以下「亡C」という。)が昭和35年に個人で創
業した「町田電機商会」を法人化して,昭和54年12月15日に設立さ
れたものであり,その代表取締役であるA(以下「原告代表者」という。)
の妻D(以下「D」という。)及び被告B1は,いずれも亡Cの子であり,
また,Dと被告B1は,姉と弟の関係にある。
イ(ア)被告会社は,平成21年6月11日に設立された,展示会,イベン
ト,キャンペーンに伴う電気工事及び電気,照明器具のリース・レンタ
ル,販売等を業とする株式会社である。
(イ)被告B1は,原告の監査役であり,平成21年6月末ころまで原告
の下請業務を行っていた有限会社トータルワン(以下「トータルワン」
という。)の取締役である。
被告B1は,緑配送センターを拠点としてトータルワンが原告から委
託を受けた下請業務を行い,被告会社の設立以降は,その専務取締役を
名乗って被告会社の業務に従事している。
(ウ)被告B2は,平成21年6月末ころまで緑配送センターで勤務して
いた原告の元従業員であり,被告会社の代表取締役である。
(エ)被告B3及び被告B4は,いずれも,平成21年6月末ころまで緑
配送センターで勤務していた原告の元従業員である。
(オ)被告B5は,平成21年6月末ころまで原告の下請業務を行ってい
た有限会社ピュアライフ(以下「ピュアライフ」という。)の取締役で
ある。
被告B5は,緑配送センターを拠点としてピュアライフが原告から委
託を受けた下請業務を行い,被告会社の設立以降は,その取締役を名乗
って被告会社の業務に従事している。
(2)被告B1らによる原告の営業用資産等の運び出しとその後の返却
ア被告B1らは,平成21年6月当時,緑配送センターにおいて,原告本
社が受注した業務又はその下請業務に従事していた。他方,原告代表者は,
原告の名古屋営業所に常駐し,主に同営業所における業務全般の統括に当
たっていた。
緑配送センターにおける業務は,東京近郊で開催される各種展示会やイ
ベント等の会場において,顧客からの依頼に基づき,原告が保有する照明
器具や電気資材を使用して電気工事を行うとともに,これらの器具等をレ
ンタルするというものであった。
そのため,原告は,上記業務に必要とされる各種の照明器具,電気資材,
工具類等を所有しており,平成21年6月当時の緑配送センターにおいて
も,上記業務に使用される原告所有の照明器具,電気資材,工具類等(以
下,これらを「営業用資産」と総称する。)が保管されていた。
イ被告B1並びにその指示を受けた被告B2,被告B3,被告B4及び被
告B5らは,平成21年6月17日から同月末ころまでの間に,原告代表
者の了解を得ることなく,緑配送センターに保管されていた原告所有の営
業用資産を数回に分けて運び出し,これらを被告会社の倉庫に移動させ
た。
その際,被告B1らは,緑配送センター内に保管されていた原告の顧客
住所録等の書類も持ち出した。
ウ被告らの代理人弁護士は,平成21年8月18日,原告の代理人弁護士
に対し,話合いの上で,緑配送センターから運び出された営業用資産を返
却する旨の書面(乙12)を送付した後,同月末ころまでに被告B1らが
緑配送センターから運び出した物品(住所録等の書類を含む。)をリスト
アップした書面(乙3,4)を作成して原告の代理人弁護士に送付し,そ
の後,同年9月末ころまでに,上記リストアップした物品を原告に返却し
た。
(3)被告会社における営業活動
被告会社は,平成21年7月,「代表取締役B2」,「専務取締役B1」
及び「取締役B5」の連名で,被告会社の設立・開業に当たっての挨拶等を
記載した「新会社設立の挨拶状」と題する書面(甲3。以下「本件挨拶状」
という。)及び「代表取締役B2」の名義で,被告会社の設立に伴い振込用
の銀行口座を開設した旨を案内する内容の「お振込口座新設のご案内」と題
する書面(甲5。以下「本件案内状」という。)を作成し,原告の緑配送セ
ンターと取引のある75の会社又は個人に対してこれらを郵送するととも
に,同じく原告の緑配送センターと取引のある41の会社又は個人(ただし,
その一部は,上記75の会社又は個人と重複する。)に対してこれらをファ
ックス送信した。
2争点
本件の争点は,次のとおりである。
(1)被告B1らが原告の緑配送センターから営業用資産を無断で運び出した
ことについて,原告の被告らに対する営業用資産の所有権侵害の共同不法行
為(被告B1については,選択的に監査役としての任務懈怠)に基づく損害
賠償請求の可否(争点1)
(2)被告B1らの一連の行為について,原告の被告らに対する営業利益侵害
の共同不法行為(被告B1については,選択的に監査役としての任務懈怠)
に基づく損害賠償請求の可否(争点2)
(3)被告会社による被告商号の使用について,不競法2条1項1号の不正競
争行為の成否及び原告の損害額(争点3)
第3争点に関する当事者の主張
1争点1(営業用資産の所有権侵害の共同不法行為等に基づく損害賠償請求の
可否)
(1)原告の主張
ア被告B1らによる原告の所有権の侵害行為
被告B1らは,共謀の上,平成21年6月17日から同月末ころまでの
間に,原告代表者の了解を得ることなく,原告の緑配送センターに保管さ
れていた原告所有の営業用資産をすべて運び出し,被告会社の倉庫に移動
させた。被告B1らが運び出した営業用資産は,別紙持出物件目録の「品
名」欄記載の各物品であり,その各数量は,同目録の「④奪取個数」欄記
載のとおりである。
なお,別紙持出物件目録の「④奪取個数」欄記載の数量は,原告代表者
が,被告B1らによる上記運び出しが行われた平成21年6月当時に緑配
送センターに存在したものと考えられる営業用資産の品目及びその数量
を明らかにするために作成した訴状添付の「持出し表(NO.1)」ない
し「持出し表(NO.3)」(以下「本件持出し表」という。)に基づく
ものである。
その後,被告らは,平成21年9月末までに,緑配送センターから運び
出した営業用資産のうち,別紙持出物件目録の「②返却数」欄記載の数量
の各物品を,被告らの代理人弁護士を通じて原告に返却したが,未だに同
目録の「④-②」欄記載の数量の各物品(以下「本件各物品」という。)
を返却していない。
イ被告らの責任原因
被告B1らの上記行為は,共同して,故意に,原告の営業用資産に係る
所有権を侵害するものであり,原告に対する共同不法行為を構成するか
ら,被告B1らは,上記行為によって原告が受けた損害を連帯して賠償す
る責任を負う。
また,被告B2は,上記行為によって,被告会社の代表者としての職務
を行うについて第三者に損害を加えたものといえるから,会社法350条
により,被告会社においても,被告B2の上記行為によって原告が受けた
損害を賠償する責任を負う。
さらに,被告B1の上記行為は,原告の監査役の地位にある者による原
告に対する任務懈怠行為にも当たるから,被告B1は,会社法423条1
項に基づく責任としても,上記行為によって原告が受けた損害を賠償する
責任を負う。
ウ原告の損害
原告は,被告らによる上記所有権侵害の共同不法行為によって,未返却
の本件各物品の財産的価値に相当する額の損害を受けた。
本件各物品の品目及びその数量は,別紙持出物件目録の「④-②」欄記
載のとおりであり(同欄に「0」以外の数字が記載された「品名」に係る
物品が未返却のものであり,当該数字がその数量である。),また,本件
各物品の単価は,それぞれ同目録の「単価」欄記載のとおりである。
したがって,原告の損害額は,別紙持出物件目録の「残存損害額」欄記
載の金額(「④-②」欄記載の未返却物品の数量に,「単価」欄記載の単
価を乗じた額)の合計額1350万4004円となる。
エ小括
したがって,原告は,被告らに対し,原告の営業用資産の所有権侵害の
共同不法行為(被告B1については,選択的に監査役としての任務懈怠)
に基づく損害賠償として,連帯して1350万4004円及びこれに対す
る不法行為の後である本件訴状送達の日の翌日(被告会社,被告B1及び
被告B2においては平成21年10月8日,被告B3及び被告B4におい
ては同月14日,被告B5においては同月7日)から各支払済みまで民法
所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。
(2)被告らの主張
ア被告B1らが,平成21年6月17日から同月末ころまでの間に,原告
代表者の了解を得ることなく,原告の緑配送センターに保管されていた原
告所有の営業用資産を運び出し,被告会社の倉庫に移動させたことは認め
るが,当該運び出しに係る物品の品目及び数量に関する原告の主張には誤
りがある。
すなわち,原告は,被告B1らが運び出した営業用資産は,別紙持出物
件目録の「品名」欄記載の物品であり,その各数量は,同目録の「④奪取
個数」欄記載のとおりである旨主張するが,その中には,被告B1らにお
いて運び出した事実のない物品が含まれており,また,各物品の数量も不
正確である。
イまた,被告らは,平成21年9月末までに,被告B1らが緑配送センタ
ーから運び出した営業用資産のすべてを,被告らの代理人弁護士を通じて
原告に返却している。
原告は,被告B1らが,別紙持出物件目録の「品名」欄記載の物品につ
いて,同目録の「④奪取個数」欄記載の数量を原告の緑配送センターから
運び出しながら,そのうち,同目録の「②返却数」欄記載の数量しか原告
に返却しておらず,本件各物品が未だ返却されていない旨を主張するが,
原告が主張する上記運び出しに係る物品の数量及び返却された物品の数
量は,上記アのとおり,不正確なものであるから,未返却の本件各物品が
ある旨の原告の主張も誤りである。
ウ原告主張の損害額は争う。
なお,原告の緑配送センターに係る計算書類(乙15)によれば,原告
の緑配送センターの平成20年10月31日時点の原材料棚卸高は88
万1400円と評価されており,原告が主張する未返却の営業用資産(本
件各物品)の財産的価値を大きく下回っている。
エしたがって,原告の被告らに対する営業用資産の所有権侵害の共同不法
行為等に基づく損害賠償請求は,理由がない。
2争点2(営業利益侵害の共同不法行為等に基づく損害賠償請求の可否)
(1)原告の主張
ア被告B1らによる原告の営業利益の侵害行為
(ア)被告B1らは,次のとおり,原告の緑配送センターにおける営業活
動を停止させるとともに,原告の顧客を横奪する行為を行った。
a営業用資産等の奪取
被告B1らは,原告の緑配送センターから営業用資産すべての運び
出しを行っているところ,そこに含まれる照明器具や電気資材等は,
イベント等の会場における電気工事や照明器具等のレンタルという
原告の営業活動において必要不可欠なものであるから,これらを奪わ
れることにより,原告は,緑配送センターにおける営業活動を行うこ
とができなくなった。
また,被告B1らは,緑配送センターから顧客住所録等の重要書類
の持ち出しも行っているところ,これらの書類は,原告が円滑に営業
活動を行う上で必要なものであるから,これらを奪われることによ
り,原告は,緑配送センターにおける営業活動を阻害された。
以上のとおり,営業用資産及び重要書類を奪取した被告B1らの行
為は,原告に,緑配送センターにおける営業活動の停止を余儀なくさ
せるものであった。
b被告B1らの一斉離脱及び他の原告従業員への働きかけ
被告B1らは,原告の緑配送センターにおける業務に従事する主要
な人員であったところ,平成21年6月末ころには,いずれも原告の
緑配送センターに出社しなくなり,被告会社の業務に従事するように
なった。
また,被告B1らは,緑配送センターに勤務していた他の原告の従
業員に対しても,原告を退社して被告会社に入社するよう働きかけ,
被告会社に移籍させた。
以上のとおり,原告の緑配送センターの業務から一斉に離脱すると
ともに,原告の他の従業員をも退社させた被告B1らの行為は,営業
用資産等の運び出しと相まって,原告に,緑配送センターにおける組
織活動の停止を余儀なくさせるものであった。
c持ち出した書類を利用した原告の顧客への営業行為
被告B1らは,被告会社の業務において,原告の緑配送センターか
ら持ち出した書類を利用して,原告の顧客への営業行為を行い,現に
これらの顧客との間で取引関係を持つに至っている。
すなわち,被告B1らは,平成21年7月ころ,本件挨拶状及び本
件案内状を原告の緑配送センターにおける多数の顧客に対し郵送又
はファックス送信しているところ,その際には,原告の緑配送センタ
ーから持ち出した原告の顧客住所録を利用しているものと考えられ
る。
このように,被告B1らは,顧客住所録等の重要書類の持ち出しに
よって原告の顧客に対するアプローチを阻害する一方で,当該書類を
利用して原告の顧客に対する網羅的な営業行為を行ったものであり,
その結果,被告会社は,現に多くの原告の顧客との間で取引関係を持
つに至っている。
以上のとおり,原告の緑配送センターから顧客住所録等の重要書類
を持ち出した上で,これを利用して原告の顧客への営業行為を行った
被告B1らの行為は,原告の顧客を違法に横奪する行為というべきで
ある。
d顧客による混同の惹起
被告B1らは,原告と競業関係にある被告会社を設立するに当た
り,原告の商号と極めて類似する「株式会社マチデン」という商号(被
告商号)を付した。また,被告会社の役員及び従業員は,原告の緑配
送センターの業務に従事していた者と重なっていた。
そのため,被告B1らの営業行為の相手方となった原告の顧客ら
は,被告会社を原告が商号変更した会社,あるいは,原告と密接な関
係がある会社と誤信し,その結果,原告が受注して行った仕事の報酬
が被告会社に支払われたり,原告が受注した仕事を被告会社が行った
りする事態が生じた。
このように,被告B1らは,原告の顧客らに,被告会社と原告との
混同を生じさせ,それに乗じて原告の顧客との取引を開始したもので
あり,このような被告B1らの行為は,原告の顧客を違法に横奪する
行為というべきである。
(イ)以上のとおり,被告B1らが行った上記(ア)の一連の行為は,自由
競争の範囲を超え,社会的相当性を逸脱するものであって,原告の営業
利益を違法に侵害する行為といえる。
イ被告らの責任原因
被告B1らの上記行為は,共同して,故意に,原告の営業利益を違法に
侵害するものであり,原告に対する共同不法行為を構成するから,被告B
1らは,上記行為によって原告が受けた損害を連帯して賠償する責任を負
う。
また,被告B2は,上記行為によって,被告会社の代表者としての職務
を行うについて第三者に損害を加えたものといえるから,会社法350条
により,被告会社においても,被告B2の上記行為によって原告が受けた
損害を賠償する責任を負う。
さらに,被告B1の上記行為は,原告の監査役の地位にある者による原
告に対する任務懈怠行為にも当たるから,被告B1は,会社法423条1
項に基づく責任としても,上記行為によって原告が受けた損害を賠償する
責任を負う。
ウ原告の損害
被告B1らによる前記ア(ア)の一連の行為の結果,原告は,緑配送セン
ターにおける営業活動を行うことができなくなり,更に被告会社によって
顧客を奪われ,原告が緑配送センターの営業を再開しても顧客を取り戻す
ことは不可能であることから,緑配送センターにおける営業を行うことが
半永久的に不可能となった。
そして,原告の緑配送センターにおける平成20年度(平成19年11
月1日から平成20年10月31日まで)の営業利益は1792万091
8円であるところ,被告B1らの上記侵害行為がなければ,原告の緑配送
センターでは,平成21年6月以降5年間にわたって,平成20年度と同
額の営業利益が得られていたはずであるから,原告が受けた営業上の逸失
利益相当の損害額は,8960万4590円(1792万0918円×5
年間)である。
エ小括
したがって,原告は,被告らに対し,原告の営業利益侵害の共同不法行
為(被告B1については,選択的に監査役としての任務懈怠)に基づく損
害賠償として,連帯して8960万4590円及びこれに対する不法行為
の後である訴状送達の日の翌日(被告会社,被告B1及び被告B2におい
ては平成21年10月8日,被告B3及び被告B4においては同月14
日,被告B5においては同月7日)から各支払済みまで民法所定の年5分
の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。
(2)被告らの主張
ア原告の営業利益の侵害について
(ア)被告B1らが,平成21年6月17日から同月末ころまでの間に,
原告の緑配送センターから原告所有の営業用資産の運び出し及び顧客
住所録等の書類の持ち出しを行ったことは事実であるが,被告らは,同
年9月末ころまでには,これらの物品及び書類をすべて原告に返却して
いるから,上記運び出し等によって原告に営業上の被害が生ずる可能性
があるのは,平成21年6月中旬ころから同年9月末ころまでの期間の
ことにすぎない。
(イ)また,被告B1らが,平成21年6月末ころに原告の緑配送センタ
ーの業務から離脱したのは,原告が,同月20日に,被告B2,被告B
3及び被告B4を解雇し,また,トータルワン及びピュアライフとの間
の業務委託関係を解消したことによるものである。そして,このことは,
原告が,被告B3及び被告B4の平成21年7月分(同年6月16日か
らの1か月分)の給与につき,同年6月16日から同月20日までの5
日分の給与のみを支払うこととする処理を行っている事実(乙18,1
9の1及び2,24)から裏付けられる。
したがって,被告B1らが一斉に原告の緑配送センターにおける業務
から離脱することによって,原告の営業利益を侵害した旨の原告の主張
は失当である。
(ウ)被告会社が原告の緑配送センターの取引先に対し本件挨拶状及び
本件案内状を送付したこと及び被告会社が現に相当数の原告の緑配送
センターの取引先との間で取引関係を持つに至ったことは事実である
が,被告B1らが原告の緑配送センターから持ち出した書類を利用して
原告の取引先への営業行為を行ったという事実はない。
被告B1らは,原告の緑配送センターの業務を行ってきたことによる
人的関係等に基づいて,原告の取引先に対する営業行為を行ったことが
あるにすぎず,原告の営業秘密に係る情報を利用したり,原告の信用を
おとしめたりするなど,不当な方法による営業行為を行った事実はな
い。
したがって,被告B1らが,被告会社の業務として行った営業行為は,
何ら自由競争の範囲を超えるようなものではない。
(エ)被告商号は,原告商号と類似しておらず,取引先において,被告会
社と原告とを混同するおそれはないし,また,原告の取引先において,
被告会社を原告と混同して,被告会社との取引を行ったという事実もな
い。
(オ)以上のとおり,本件における被告B1らの行為は,何ら社会的相当
性を逸脱するものではなく,原告の営業利益を違法に侵害するものとは
いえない。
イ損害について
原告主張の損害額は争う。
前記ア(ア)のとおり,被告B1らの営業用資産の運び出し等によって原
告に営業上の損害が生ずる可能性があるのは,営業用資産が運び出された
平成21年6月中旬ころから,これらが返却された同年9月末ころまでの
期間のことにすぎず,その後は,原告において,新たに人員を補充して営
業活動を行うことは可能であり,原告が営業を再開しなかったのは,原告
自身の問題にすぎない。
したがって,被告B1らの行為によって,原告が平成21年6月以降の
5年間分の営業利益に係る逸失利益に相当する損害を受けたものと認め
るべき根拠はない。
ウ小括
以上によれば,原告の被告らに対する営業利益侵害の共同不法行為等に
基づく損害賠償請求は,理由がない。
3争点3(被告会社の不正競争行為の成否等)
(1)原告の主張
ア亡Cは,昭和35年の創業以来,「町田電機商会」の商号を使用して,
イベント等の会場における電気工事等の業務を行い,昭和54年12月1
5日に設立された原告は,亡Cの上記営業を引き継ぎ,「株式会社町田電
機商会」の商号(原告商号)を使用して,平成21年6月ころまで,イベ
ント等の会場における電気工事等の業務を継続して行ってきた。
しかるところ,原告商号は,平成21年6月当時,原告の上記業務に係
る営業表示として,その需要者である東京23区内のディスプレイ関連事
業者らの間で周知であった。
また,原告は,東京23区内のディスプレイ関連事業者らの間では,「町
電(マチデン)」という略称でも呼ばれており,このような略称も,平成
21年6月当時,原告の上記業務に係る営業表示として,その需要者であ
る東京23区内のディスプレイ関連事業者らの間で周知であった。
イ被告会社がイベント等の会場における電気工事等の業務において使用
する株式会社マチデンの商号(被告商号)が,原告の周知な営業表示であ
る原告商号及び「町電(マチデン)」の略称とそれぞれ類似していること
は明らかである。
また,このような商号の類似性に加え,原告と被告会社が同種の事業を
行っていること,被告会社の役員や従業員がかつて原告の役員や従業員で
あった者であることなどからすれば,被告会社の取引先において,被告会
社を原告と同一の事業主体と混同する可能性は極めて高い。
ウ以上によれば,被告会社がイベント等の会場における電気工事等の業務
において被告商号を使用する行為は,不競法2条1項1号の不正競争行為
に該当する。
そして,被告会社の上記不正競争行為によって,原告が営業利益を侵害
されることは明らかであるから,原告は,被告会社に対し,不競法3条1
項に基づく侵害の停止の請求として被告商号の使用の差止めを,同条2項
に基づく侵害の停止に必要な行為の請求として被告商号の抹消登記手続
を,それぞれ求めることができる。
エまた,原告は,被告会社の上記不正競争行為によって,営業利益を侵害
され,前記2(1)ウで述べたのと同様の営業上の逸失利益に相当する額の
損害を受けたから,原告は,被告会社に対し,不競法4条に基づく損害賠
償として,8960万4590円及びこれに対する不正競争行為の後であ
る訴状送達の日の翌日(平成21年10月8日)から支払済みまで民法所
定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。
(2)被告会社の主張
ア原告商号が,平成21年6月当時,原告の業務に係る営業表示として,
その需要者である東京23区内のディスプレイ関連事業者らの間で周知
であったとの主張は争う。
また,原告が,東京23区内のディスプレイ関連事業者らの間で,「町
電(マチデン)」という略称で呼ばれているとの事実は否認し,当該略称
が,平成21年6月当時,原告の業務に係る営業表示として,その需要者
である東京23区内のディスプレイ関連事業者らの間で周知であったと
の主張は争う。
イ被告商号が,原告商号及び「町電(マチデン)」の略称とそれぞれ類似
しているとの主張及び被告会社の取引先において被告会社を原告と同一
の事業主体と混同する可能性が極めて高いとの主張は,いずれも争う。
ウしたがって,被告会社がイベント等の会場における電気工事等の業務に
おいて被告商号を使用する行為は,不競法2条1項1号の不正競争行為に
該当するものではないから,原告の被告会社に対する被告商号の使用の差
止請求,被告商号の抹消登記手続請求及び損害賠償請求は,いずれも理由
がない。
また,原告は,被告会社の不正競争行為によって,5年間分の営業利益
に係る営業上の逸失利益に相当する額(8960万4590円)の損害を
受けた旨主張するが,前記2(2)イで述べたとおり,被告会社の行為によ
って,原告が5年間分の営業利益に係る逸失利益に相当する額の損害を受
けたものと認めるべき根拠はない
第4当裁判所の判断
1争点1(営業用資産の所有権侵害の共同不法行為等に基づく損害賠償請求の
可否)について
(1)被告B1並びにその指示を受けた被告B2,被告B3,被告B4及び被
告B5らが,平成21年6月17日から同月末ころまでの間に,原告代表者
の了解を得ることなく,原告の緑配送センターに保管されていた原告所有の
営業用資産を数回に分けて運び出し,これらを被告会社の倉庫に移動させた
こと,その後,同年9月末ころまでに,被告らが,原告に対し,営業用資産
の返却を行ったことは,前記争いのない事実(2)イ及びウのとおりである。
原告は,被告B1らが緑配送センターから運び出した営業用資産の中に,
未だに原告に返却されていない本件各物品(別紙持出物件目録の「④-②」
欄記載のもの)が存在するとした上で,被告B1らの上記運び出し行為は,
原告の営業用資産の所有権を侵害する共同不法行為を構成し,これによって
原告は,未返却の本件各物品の財産的価値に相当する額の損害を受けた旨を
主張する。
ところで,被告B1らの上記運び出し行為によって,原告が原告主張のと
おりの損害を受けたことが認められるためには,被告B1らが原告の緑配送
センターから運び出した営業用資産の品目及びその各数量が特定され,その
中に本件各物品が含まれていることが前提となる。
この点について,原告は,被告B1らが原告の緑配送センターから運び出
した営業用資産の品目及びその各数量は,本件持出し表に基づいて作成し
た,別紙持出物件目録の「品名」欄及び「④奪取個数」欄記載のとおりであ
る旨主張する。
そして,原告代表者は,原告の緑配送センターにおいては,営業用資産の
種類及び数量を記載した棚卸表は作成されていないが,東京本社(緑配送セ
ンター)と名古屋営業所とは営業内容が同一であり,使用する資材もほぼ共
通(ただし,営業規模の違いにより個数は異なる。)しているので,名古屋
営業所における平成20年10月31日現在の棚卸表(甲16)を基にし,
これに緑配送センターと名古屋営業所の売上げ及び営業規模の差異を加味
して,緑配送センターに存在すると考えられる営業用資産の品目及びその各
数量を推計し,本件持出し表を作成した旨の供述(陳述書(甲51)におけ
る陳述を含む。)をする。
しかるところ,原告代表者が上記推計の基礎としたとされる名古屋営業所
の「棚卸表」(甲16)は,それ自体,いかなる経過で作成された文書であ
るのかが不明であり,その内容について,適式の会計帳簿などの客観的な裏
付けが示されているものでもなく,また,原告代表者の供述によっても,そ
の推計の具体的な方法及び内容は全く不明である。
してみると,原告が主張する被告B1らが原告の緑配送センターから運び
出したとされる営業用資産の品目及びその各数量は,結局のところ,原告代
表者の不確実な推計に基づくものにすぎず,客観性のある裏付資料に基づく
ものではないというべきであるから,これを認めるに足りない。
そうすると,原告の上記主張に係る品目及びその各数量が,被告B1らに
よって運び出された営業資産の品目及びその各数量であることを前提とし
て,未返却の本件各物品の営業用資産の品目及びその各数量を算出する原告
の主張は,全体として不正確なものといわざるを得ない。
(2)以上によれば,被告B1らが原告の緑配送センターから本件各物品を運
び出し,これが未返却であるとの原告の主張は,これを認めることができな
いというべきであるから,その余の点につき判断するまでもなく,原告の被
告B1らに対する営業用資産の所有権侵害の共同不法行為に基づく損害賠
償請求は理由がない。
また,同様に,原告の被告会社に対する会社法350条に基づく損害賠償
請求及び原告の被告B1に対する会社法423条1項に基づく損害賠償請
求もいずれも理由がない。
2争点2(営業利益侵害の共同不法行為等に基づく損害賠償請求の可否)につ
いて
(1)共同不法行為等の成否について
ア前記争いのない事実と証拠(甲3ないし7,11,12,17,21,
24ないし27,34ないし51,乙3ないし5,12,26,27(枝
番のあるものは,枝番を含む。),原告代表者,被告B1)及び弁論の全
趣旨を総合すると,以下の事実が認められる。
(ア)被告B1は,原告の監査役であり,取締役ではなかったが,平成2
1年6月当時,原告の専務取締役を名乗り,原告の緑配送センターにお
ける業務を統括していた。
被告B1は,同月上旬ころ,被告会社の開業に向け,不動産業者との
間で被告会社が業務に使用するための物件の賃借交渉を行うなどの準
備を進めていた。
その後,同月11日,被告B1,被告B2及び被告B5の3名が発起
人となって,展示会,イベント,キャンペーンに伴う電気工事及び電気,
照明器具のリース・レンタル,販売等を目的とする被告会社が設立され,
同日,被告B2を代表取締役とする設立登記がされた。
被告会社の設立に当たっては,発行済株式総数80株のうち,被告B
1が40株を,被告B2及び被告B5がそれぞれ20株を引き受けた。
(イ)被告B1並びにその指示を受けた被告B2,被告B3,被告B4及
び被告B5らは,平成21年6月17日から同月末ころまでの間に,原
告代表者の了解を得ることなく,原告の緑配送センターに保管されてい
た原告所有の営業用資産すべてを数回に分けて運び出し,これらを被告
会社の倉庫に移動させた。
その際,被告B1らは,原告の緑配送センター内に保管されていた,
①原告の緑配送センターにおける取引先の住所や電話番号が記載され
た住所録(以下「本件住所録」という。),②原告が取引先に発行した
電気工事等に係る見積書(以下「本件見積書」という。),③原告の緑
配送センターにおける日々の作業予定(作業の日時・場所,発注元等)
が記載された作業予定表(以下「本件作業予定表」という。),④原告
が過去に電気工事等を行ったイベント等の会場の図面(以下「本件会場
図面」という。)も持ち出した(以下,これらの書類を総称して,「本
件持ち出し書類」という。)。
(ウ)被告B1らは,平成21年7月以降,一斉に原告の緑配送センター
に出社しなくなり,同営業所の業務を行わなくなった。
その結果,原告の緑配送センターにおいては,平成21年7月以降の
売上げが大幅に減少するに至った。
(エ)平成21年7月以降,被告B2は,被告会社の代表取締役として,
被告B1は,対外的に被告会社の「専務取締役」を名乗り,被告B5は,
対外的に被告会社の「取締役」を名乗り,それぞれ被告会社において,
イベント等の会場における電気工事や照明器具等のレンタルの業務に
従事している。
また,被告B3及び被告B4は,平成21年7月以降,被告会社の上
記業務に関与している。
(オ)被告会社は,平成21年7月,「代表取締役B2」,「専務取締役
B1」及び「取締役B5」の連名で,被告会社の設立・開業に当たって
の挨拶等を記載した本件挨拶状及び「代表取締役B2」の名義で,被告
会社の設立に伴い振込用の銀行口座を開設した旨を案内する内容の本
件案内状を作成し,原告の緑配送センターと取引のある75の会社又は
個人に対してこれらを郵送するとともに,同じく原告の緑配送センター
と取引のある41の会社又は個人(ただし,その一部は,上記75の会
社又は個人と重複する。)に対してこれらをファックス送信した。その
際,被告会社は,被告B1らが原告の緑配送センターの業務に従事する
中で知り得た原告の取引先についての情報を利用した。
その後,被告会社は,現在までの間に,その業務に関し,上記75及
び41の会社又は個人のうちの相当数(少なくとも,甲7の1の表にお
いて,「取引OK」を表す「●」の表示が付された十数社)との間にお
いて取引関係を持つに至っている。
(カ)被告らは,平成21年9月末ころまでに,緑配送センターから運び
出した営業用資産を原告に返却した。
また,被告らは,平成21年9月末ころまでに,本件住所録及び本件
会場図面を原告に返却した。
イそこで,以上の認定事実に基づき,被告らの行為が,原告の営業利益を
違法に侵害する不法行為を構成するものといえるか否かにつき検討する。
(ア)まず,前記アの認定事実によれば,被告B1は,原告の緑配送セン
ターにおいて,その業務を統括する立場にある中で,その指揮下にある
被告B2,被告B5,被告B3及び被告B4(以下,上記被告4名を「被
告B2ら」という。)に指示して,緑配送センターに保管されていた原
告所有の営業用資産を運び出して被告会社の倉庫に移動させるととも
に,被告B2らと意を通じて,一斉に原告の緑配送センターにおける業
務から離脱したものである(なお,原告は,被告B1らが,緑配送セン
ターに勤務していた他の原告の従業員に退社を働きかけ,被告会社に移
籍させた旨主張するが,これを認めるに足りる証拠はない。)。
被告B1のこれらの行為は,原告がその業務を行う上で必要不可欠で
あることが明らかな営業用資産を原告において使用不可能な状況にす
るとともに,原告の緑配送センターの業務の中心となる人材のほとんど
を一斉に失わせるものであり,原告の緑配送センターにおける営業活動
を極めて困難とする結果をもたらすものであることが明らかである。
そして,被告B1は,このように原告の緑配送センターにおける営業
活動を困難にする一方で,前記ア認定のとおり,原告と競業関係にある
被告会社の設立・開業を主導的に行い,しかも,原告の業務に従事する
中で知り得た原告の取引先についての情報を利用して,多数の原告の緑
配送センターの取引先に対して本件挨拶状及び本件案内状を送付する
など,被告会社としての営業行為を行い,その結果,被告会社は,現に
相当数の原告の取引先との間で,取引関係を持つに至っている。
しかも,被告B1による上記各行為は,平成21年6月から7月にか
けての近接した時期に連続して行われているのであり,その経過に鑑み
れば,被告B1が,当初から,原告の緑配送センターにおける営業活動
を妨害しつつ,原告の顧客を奪って被告会社の利益を図ることを目的と
して,上記一連の行為を行ったものであることは,優にこれを認めるこ
とができる。
以上のような被告B1による一連の行為の目的,内容及びその結果を
総合勘案すれば,被告B1の上記行為は,競業者間の自由競争の範囲内
にある営業行為と評価し得るものではなく,原告の営業利益を違法に侵
害するものとして,不法行為を構成するというべきである。
(イ)次に,前記アの認定事実によれば,被告B2及び被告B5は,被告
B1と意を通じて,上記のとおり,原告所有の営業用資産の運び出し,
原告の緑配送センターの業務からの一斉離脱,被告会社の設立・開業,
原告の業務に従事する中で知り得た原告の取引先についての情報を利
用しての原告の取引先に対する営業行為といった一連の行為のすべて
に関与しているものであり,その経過からみて,被告B2及び被告B5
が,当初から,原告の緑配送センターにおける営業活動を妨害しつつ,
原告の顧客を奪って被告会社の利益を図るという目的を被告B1と共
有し,上記一連の行為に加担したものであることは,優にこれを認める
ことができる。
したがって,被告B2及び被告B5の行為は,被告B1の場合と同様
に,原告の営業利益を違法に侵害するものとして,不法行為を構成する
ものというべきである。
また,被告B1,被告B2及び被告B5による上記一連の行為は,客
観的に関連し共同して行われたものということができるから,民法71
9条1項の共同不法行為を構成するものといえる。
(ウ)また,被告B3及び被告B4は,被告B1と意を通じて,上記のと
おり,原告所有の営業用資産の運び出し及び原告の緑配送センターの業
務からの一斉離脱にそれぞれ関与し,また,原告の業務からの離脱後,
被告会社の業務に関与している事実もあるが,他方で,被告会社の設立
・開業や被告会社における本件挨拶状及び本件案内状の送付などの原告
の取引先に対する営業行為への被告B3及び被告B4の関与状況は証
拠上明らかではない。
しかしながら,原告所有の営業用資産の運び出し及び原告の緑配送セ
ンターの業務からの一斉離脱は,前記(ア)のとおり,原告の緑配送セン
ターにおける営業活動を著しく困難とする結果をもたらすものである
ことが明らかなものであって,被告B1,被告B2及び被告B5による
上記共同不法行為の重要部分を成すものであるから,上記の結果が生じ
ることを認識しながら,被告B1,被告B2及び被告B5と意を通じて
これに加担した被告B3及び被告B4の行為は,少なくとも被告B1,
被告B2及び被告B5による上記共同不法行為を幇助する行為に当た
るものというべきである。
したがって,被告B3及び被告B4は,民法719条2項の幇助者と
して,被告B1,被告B2及び被告B5と同様の共同不法行為責任を負
うものといえる。
(エ)さらに,被告B2の上記(イ)の一連の行為は,いずれも,被告B2
が,被告会社の代表取締役に就任した後に,原告の顧客を奪って被告会
社の利益を図ることを目的として行ったものであり,その中には,被告
会社としての営業活動それ自体も含まれているのであるから,被告B2
が当該行為によって原告に加えた損害は,被告会社の代表取締役がその
職務を行うについて第三者に加えた損害ということができる。
したがって,被告B2の上記(イ)の不法行為によって生じた損害につ
いては,会社法350条により,被告会社においても,その賠償の責任
を負うものといえる。
ウこれに対し,被告らは,①被告B1らが,平成21年6月末ころに原告
の緑配送センターの業務から離脱したのは,原告が,被告B2,被告B3
及び被告B4を解雇し,また,トータルワン及びピュアライフとの間の業
務委託関係を解消したことによるものであること,②被告B1らは,被告
会社において,原告の営業秘密に係る情報を利用したり,原告の信用をお
としめたりするなど,不当な方法による営業活動を行っていないことなど
を挙げて,被告B1らの行為は,社会的相当性を逸脱するものではなく,
原告の営業利益を違法に侵害するものとはいえない旨を主張する。
そこで,被告らの上記主張の当否について,以下検討する。
(ア)上記①の点について
被告らは,原告による解雇等の事実を裏付ける事情として,原告が,
被告B3及び被告B4の平成21年7月分(同年6月16日からの1か
月分)の給与につき,同年6月16日から同月20日までの5日分の給
与のみを支払うこととする処理を行ったとの事実を指摘する。
しかしながら,上記事実の意味するところは,原告と被告B3及び被
告B4との間において,上記被告両名が平成21年6月20日をもって
原告を退職したことを前提とする給与の精算が行われたということに
すぎず,このことから直ちに,上記被告両名の退職が,原告の解雇によ
るものであるとの事実が帰結されることにはならない。
この点,前記アで認定したとおり,被告B1らは,原告の緑配送セン
ターの業務に従事しているさなかに被告会社の開業の準備や設立の手
続を行った上で,原告の緑配送センターの業務から一斉に離脱し,その
後直ちに被告会社の業務に従事又は関与するようになったものであり,
このような経過からすれば,被告B1らは,自発的に原告の緑配送セン
ターの業務から離脱したものであって,原告が被告B3及び被告B4の
給与について上記のような精算処理を行ったのは,上記被告両名の業務
離脱という結果を受けた事後的な処理であったと考えるのが自然であ
る。
以上のとおり,被告B1らが原告の緑配送センターの業務から離脱し
たのは,原告からの解雇又は委託関係の解消によるものであるとの被告
らの主張は,採用することができない。
(イ)上記②の点について
前記ア(オ)のとおり,被告会社においては,原告の緑配送センターの
取引先である100近くに及ぶ会社又は個人に対し,本件挨拶状及び本
件案内状を送付する営業行為を行っているところ,被告会社がこのよう
に多数の原告の緑配送センターの取引先を網羅する形での営業行為を
行うことができたのは,原告の緑配送センターから持ち出した本件住所
録を利用するか,又は,被告B1らが原告の緑配送センターの業務に従
事する中で知り得た取引先についての情報を利用したからにほかなら
ないものといえる(この点に関し,被告B1においても,本件挨拶状及
び本件案内状の送付先のリスト(甲7の1及び2)について,被告B1
らが原告の緑配送センターにおける営業活動の中で取引先から受け取
った名刺等に基づいて作成した旨を供述している。)。
このように,被告B1,被告B2及び被告B5が,原告と競業関係に
ある被告会社を設立・開業した上で,原告の業務に従事する中で知り得
た原告の取引先についての情報を利用して多数の原告の取引先に対し
て本件挨拶状及び本件案内状を送付するなどの営業行為を行っている
ことは明らかであり,併せて,被告B1らが,緑配送センターから原告
所有の営業用資産を運び出すとともに,原告の緑配送センターの業務か
ら一斉に離脱するなど,原告の緑配送センターにおける営業活動を妨害
しつつ,原告の顧客を奪って被告会社の利益を図るという目的の下で一
連の行為を行っていることからすれば,被告B1らの行為が競業者間の
自由競争の範囲内にある営業行為と評価し得るものではなく,原告の営
業利益を違法に侵害するものであることは明らかである。そして,この
ような評価は,被告らが主張するとおり,被告B1らが被告会社の営業
行為を行うに当たって,原告の信用をおとしめるなどの不当な方法を用
いた事実がないとしても,何ら左右されるものではない。
(ウ)以上によれば,被告らが指摘する上記①の点は,そもそも事実とは
認められないものであり,また,上記②の点は,それが事実であるとし
ても,被告B1らの行為の違法性を否定し得る事情となるものではない
から,これらに基づく被告らの上記主張は,採用することができない。
エ以上によれば,被告B1らによる原告所有の営業用資産の運び出し,原
告の緑配送センターの業務からの一斉離脱,被告会社の設立・開業,原告
の業務に従事する中で知り得た原告の取引先についての情報を利用して
の原告の取引先に対する営業行為といった一連の行為は,原告の営業利益
を違法に侵害する共同不法行為を構成するものであり,被告らは,これに
よって原告が受けた損害を連帯して賠償する責任を負うというべきであ
る。
(2)原告の損害について
ア原告は,被告らの上記共同不法行為の結果,原告において緑配送センタ
ーにおける営業を行うことが半永久的に不可能となったとして,原告の緑
配送センターにおいて平成21年6月以降5年間にわたって得られるは
ずの営業利益の合計額をもって,被告らの共同不法行為によって原告が受
けた営業上の逸失利益に相当する損害である旨を主張する。
そこで検討するに,イベント等の会場において,照明器具や電気資材を
使用して電気工事を行うとともに,これらの器具等をレンタルするという
原告の業務内容からすると,自ら照明器具等を保有するとともに,電気工
事等に当たる人員を確保することは,原告がその業務を行う上で必要不可
欠なことといえるから,被告B1らが,原告所有の営業用資産を緑配送セ
ンターから運び出すとともに,原告の緑配送センターの業務から一斉に離
脱した行為は,少なくとも原告が新たに緑配送センターにおける物的及び
人的な業務態勢を整備するまでの間においては,原告の緑配送センターに
おける営業活動を事実上不可能とするものということができ,その限りに
おいて,原告の上記主張は,これを首肯することができる。
しかしながら,前記(1)ア(カ)のとおり,被告B1らが平成21年6月
17日から同月末ころまでにかけて原告の緑配送センターから運び出し
た営業用資産は,当該運び出しの開始から3か月余りが経過した平成21
年9月末ころまでには原告に返却されているのであり,仮に,その一部に
不足があったとしても,原告においてそれらを新たに調達することは可能
であったものといえる。
また,電気工事等の現場の業務に当たる人員や営業その他の業務に当た
る人員を,雇用や外注等の適宜の方法により確保することも,原告におい
て可能なことというべきである。
このように,物的及び人的な業務態勢という面から客観的に見れば,遅
くとも,平成21年9月末ころに営業用資産が原告に返却され,更に物的
及び人的な業務態勢を整備するために必要な準備期間を経た時点におい
ては,原告が,緑配送センターにおける営業を行うことは可能であったも
のと認められる。
イこれに対し,原告代表者の供述中には,営業用資産が返却された後も,
それまでに被告会社によって顧客が奪われ,ほとんどの顧客は戻ってこな
かったため,営業の見通しが全く立たず,新しく人を雇い入れることがで
きないので,原告が緑配送センターにおける営業を行うことは不可能とな
った旨の供述部分がある。
しかしながら,前記(1)ア(オ)のとおり,原告の緑配送センターにおけ
る取引先の中で,被告会社が現在までに取引関係を持つに至ったものと認
められるのは,その一部(甲7の1の表において,「取引OK」を表す「●」
の表示が付された十数社)にとどまるのであって,原告の緑配送センター
のすべての顧客が被告会社に奪われたことが認められるわけではない。
また,そもそも原告の営業活動が,従来からの取引先を対象とするもの
に限られるべき理由はないのであって,新規の取引先を開拓することも当
然考えられることである。
このように,被告会社によって原告の緑配送センターにおける顧客の一
部が奪われたという事実があるからといって,その後に原告が,緑配送セ
ンターにおける営業を行うことが不可能となったなどとはいえないから,
原告代表者の上記供述部分は採用することができない。
ウ以上によれば,被告らの上記共同不法行為の結果,原告は,緑配送セン
ターにおける営業を行うことが半永久的に不可能となったとする原告の
主張には理由がなく,これを前提として,原告の緑配送センターにおいて
平成21年6月以降5年間にわたって得られるはずの営業利益の合計額
をもって,被告らの共同不法行為によって原告が受けた営業上の逸失利益
に相当する損害であるとする原告の主張は,理由がない。
他方,上記アで述べたところを総合すれば,被告らの上記共同不法行為
の結果として,原告は,被告B1らによる原告の緑配送センターからの営
業用資産の運び出しの時点から,営業用資産の返却を受け,更にその後,
緑配送センターにおける物的及び人的な業務態勢を整備するために必要
といえる合理的な準備期間が経過するまでの期間において,緑配送センタ
ーにおける営業活動を事実上不可能なものとされ,その期間内に原告が緑
配送センターの業務から得られたはずの営業利益(逸失利益)に相当する
損害を受けたものと認めることができる。
エしかるところ,上記の期間については,被告B1らによる緑配送センタ
ーからの営業用資産の運び出しが開始された平成21年6月17日から,
営業資産が原告に返却された同年9月末ころまでの約3か月半に,1か月
程度の準備期間を加えた4.5か月間と認めるのが相当である。
そして,上記期間における原告の営業上の逸失利益相当の損害額につい
ては,原告の緑配送センターに係る計算書類から認められる直近の時期の
営業利益を基にして算定するのが相当であり,具体的には,原告の緑配送
センターの平成21年度(平成21年10月末時点)の「総合推移損益計
算書」(甲41)に示された平成20年11月から平成21年5月までの
7か月間の営業利益の合計額774万3000円に基づき,497万76
42円(計算式:774万3000円×4.5/7)と算定するのが相当
である。
(3)小括
以上によれば,原告の被告らに対する営業利益侵害の共同不法行為(被告
会社については,会社法350条)に基づく損害賠償請求は,被告らに対し,
連帯して497万7642円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(被告会
社,被告B1及び被告B2においては平成21年10月8日,被告B3及び
被告B4においては同月14日,被告B5においては同月7日)から各支払
済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で
理由がある。
3争点3(被告会社の不正競争行為の成否等)について
(1)原告は,「株式会社町田電機商会」の商号(原告商号),又は,その略
称である「町電(マチデン)」の表示は,平成21年6月当時,原告のイベ
ント等の会場における電気工事等の業務に係る営業表示としてその需要者
である東京23区内のディスプレイ関連事業者らの間で周知であった旨を
主張するが,そのような事実を認めるに足りる証拠はない。
したがって,その余の点につき判断するまでもなく,被告会社がその業務
において被告商号を使用する行為が,原告に対する不競法2条1項1号の不
正競争行為に当たるものとはいえない。
(2)以上によれば,原告の被告会社に対する不競法3条に基づく被告商号の
使用差止請求及び被告商号の抹消登記手続請求並びに不競法4条に基づく
損害賠償請求は,いずれも理由がない。
4結論
以上のとおり,原告の本訴各請求のうち,被告らに対する共同不法行為(被
告会社については,会社法350条)に基づく損害賠償請求は,主文第1項の
限度で理由があるから,その限度でこれを認容し,その余は理由がないから棄
却することとし,被告会社に対する被告商号の使用差止め及び抹消登記手続請
求並びに不競法4条に基づく損害賠償請求は,いずれも理由がないから棄却す
ることとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官大鷹一郎
裁判官大西勝滋
裁判官石神有吾

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◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
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残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
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71期修習生 72期修習生 求人
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職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
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