弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
     本件各控訴を棄却する。
         理    由
 本件各控訴の趣意は被告人らの弁護人葉山水樹、同川端和治共同名義の控訴趣意
書に記載してあるとおりであり、これに対する答弁は東京高等検察庁検事西村常治
名義の答弁書に記載のとおりであるから、いずれもこれらを引用し、これに対して
当裁判所は、次のとおり判断する。
 控訴趣意第一点、事実誤認の主張について
 所論は、本件暴力行為等処罰ニ関スル法律違反の事実を認定した原判決には、以
下(一)ないし(八)のとおり、判決に影響を及ぼすべき明らかな事実誤認がある
と主張する。
 そこで、以下所論の順序に従つて、当裁判所の判断を示すこととする。
 所論(一)について検討する。所論は原審における証人A及び被告人Bの各供述
によれば、被告人Bが東京地方裁判所玄関前に到着したのは午前九時三五分から四
〇分の間であることが明らかであるにもかかわらず、原判決は被告人Bが午前九時
一〇分ころから右玄関前においてCらに暴行を加えたと認定したのは、事実誤認で
あると主張する。しかし、原判決を正読すれば、原判決は被告人BらがDらと共
に、昭和四六年三月四日午前九時一〇分ころから同午前九時五〇分ころまでの間、
東京地方裁判所正面玄関前傍聴券交付場所付近において、Cらの公判傍聴を阻止し
ようと考え、相次いで原判示のような暴行を加えたことを認定しているのであつ
て、被告人BがCらに対し暴行に及んだ時間を午前九時一〇分ころからと特定して
いるわけのものではないことは明らかである。しかして原審記録を精査するに、原
審において被害者である証人Cは、同人が被告人Bから話しかけられ暴行を受けた
のは午前九時二〇分ころから四、五分ころの間である旨供述(原審記録一冊一七二
丁以下。以下主要な丁数の初めの丁数のみを記録する。)しており、また同証人E
は、同人が被告人Bから暴行を加えられたのは午前九時四〇分ころであり、それ以
前にCが被告人Bから暴行を受けた旨供述(二冊四一一丁)しているところに徴
し、C及びEらが被告人Bから暴行を加えられたのは午前九時二〇分ころから同四
〇分ころまでの間とみるのが相当である。所論のとおり原審において被告人Bは、
同人が裁判所玄関前に到着したのは午前九時三五分から四〇分の間であつた旨供述
(五冊一五二四丁)しているが、本件暴力事犯は被告人両名及びDら数名の者がC
ら数名の者に対し数十分の間断続的に暴力行為に出でたものであつて、その事案の
経緯、態様に徴し、関係者間に犯行時間に関し記憶違い等による若干の差異がある
ことは蓋しやむを得ないものがあるとみられるのみならず、仮りに所論のとおりと
しても、C及びEが被告人Bから原判示の各暴行を受けたことは、後記所論(二)
及び(四)において説示のとおり間違いないところと認められるから、被告人Bの
右暴行が午前九時五〇分ころまでの間に存在したと認定した原判決に格別支障があ
るものとは考えられない。所論にかんがみ更に記録全体を調査し、関係証拠を検討
しても、原判決には所論の証拠の評価を誤つたものがあるとも事実誤認があるもの
とも認められない。論旨は採用できない。
 所論(二)について検討する。所論は、原判決は、被告人BがCに対し判示暴行
の所為(原判決二丁表四行目以下)に出でたことを認定しているが、しかし第一に
Cが被告人Bから暴行を受けたという午後九時一〇分ころから一五分の間には、同
被告人は現場にいなかつた、第二に被告人BのCに対する暴行の事実はないから、
原判決の右認定には事実誤認があると主張する。そこで考察するに、右第一の点に
ついては前記所論(一)について判断したとおりであるから、この点に関する所論
は採用し得ない。右第二の点につき、原審記録を精査するに、原判決が挙げている
各証拠、殊に原審における証人C(一冊一七〇丁裏)、同証人E(二冊四一九丁
裏)の各供述によれば、被告人BはCに対し、始めはもの静かな口調で「貴方は何
しに来たのか」と尋ねたが、Cが黙つていたところ、次第に語気を荒げ「何しに来
たんだ、早く帰れ」などと言いながら、Cの左上腕部を手荒く掴んで数回前後に引
いたり押したりしたので、同人は背にしていた壁ガラスにぶつかつたことが認めら
れ、原判示の被告人BのCに対する暴行の事実を認定するに十分であつて、所論に
徴し記録を調査しても、右各供述は、原判決の認定する範囲において、その信用性
にいずれも欠けるものがあるとは考えられないし、また原審における証人F(四冊
一二一一丁、一二二〇丁)、同証人G(三冊一〇七〇丁裏)、同証人H(一冊三二
一丁)の各供述を仔細に吟味しても、以上認定をくつがえすに足りるものとは認め
られず、その他記録全体を検討しても右認定を左右し得る証拠は見あたらない。原
判決には所論第二の事実誤認はなく、この点に関する論旨も採用し得ない。
 所論(三)について検討する。所論は、原判決は、被告人Iが「他二名の者と
『何しに来た帰れ』などと言いながら右Cを列から引離そうとしてその両上腕部を
掴んで強く引張りあるいは押し付けるなどし、同人が『乱暴すると許さんぞ』と抗
議するや『暴力とは何だ』と猛烈な勢いで同人を列から二、三メートル引張り出し
た」(原判決二丁表九行目以下)旨を認定しているが、しかし被告人IのCに対す
るかかる暴行の事実は存在しないから、原判決の右認定には事実誤認があると主張
する。そこで、原審記録を精査するに、原判決が挙示している各証拠、特に原審に
おける証人C(一冊一七三丁)の供述によれば、原判示のとおり被告人IがCに対
し暴行の各所為に及んだことを十分に認めることができるのであつて、所論にかん
がみ記録を調査しても、右供述は、原判決の認める限度において、その信用性に疑
いをはさむものがあるとは考えられないし、所論の指摘する原審における証人F
(四冊一二一一丁、一二二〇丁)、同証人G(三冊一〇七〇丁裏)、同H(一冊二
六〇丁、三三一丁、三四五丁裏)、同被告人I(四冊一三九五丁)の各供述を精査
しても、以上認定を動かすことはできず、その外記録全部を検討しても右認定を左
右し得る証拠を見出すことはできない。原判決には所論(三)の事実誤認はない。
論旨は採用することができない。
 所論(四)について検討する。所論は、原判決は、被告人BがEに対し判示暴行
の所為(原判決二丁表最終行以下)に及んだことを認定しているが、しかし第一に
Eが被告人Bから暴行を受けたという時間には、同被告人は現場にいなかつた、第
二に被告人BはEに対し判示暴行をしたことはないから、原判決の右認定には事実
誤認があると主張する。そこで審究するに、右第一の点については前記所論(一)
について判断したとおりであるから、この点に関する論旨は採用の限りでない。右
第二の点につき、原審記録を精査するに、所論に添う原審における証人J(四冊一
一七六丁裏)、同証人K(四冊一二三八丁裏)、同G(三冊一〇七六丁、一〇七九
丁、一〇九一丁)、同被告人I(四冊一四四二丁裏)、同被告人B(五冊一五二四
丁)の各供述は、原判決が証拠として示している証人E(二冊四一一丁)、同C
(一冊一七二丁裏)の各供述に比照して採用できないところであり、却つて右各供
述によれば、Eは被告人Bから両手拳で胃のあたりをこずかれたのであるが、大体
左手拳で胃のあたりを、右手拳で左脇腹を断続的に突かれ、最後に強く胃のあたり
を突かれ、また前かがみになつた右Eはその前額部に一回頭突きを加えられたこと
が認められ、原判示の被告人BのEに対する暴行の事実を優に認定できるのであつ
て、右各供述は十分信用性があるものと考えられ、その他記録全体を検討しても、
以上認定を左右するに足りる資料を見出し得ない。
 原判決には所論第二の事実誤認はなく、この点に関する論旨も採用の限りでな
い。
 所論(五)について検討する。所論は、原判決は、被告人Iが「Hのコートの衿
を掴んで四、五回前後に引いたり押したりし、あるいは手拳で二〇回にわたり同人
の胸部を『おれの質問に答えろ』と一言言つては強く突く行為を繰返し、またコー
トの衿を掴んで列から二、三メートル引張り出すなどした」(原判決二丁裏五行目
以下)旨を認定しているが、しかし被告人IがHに対しかかる暴行を働いたことは
ないから、原判決の右事実認定には事実誤認があると主張する。そこで、原審記録
を精査するに、原判決が掲記する各証拠、とりわけ原審における証人Hの供述(一
冊二六六丁裏)によれば、被告人IのHに対する前記原判示の暴行の所為の総てを
十分認め得るのであつて、右認定に反する原審における証人F(四冊一二一三
丁)、同証人G(三冊一〇六八丁)、同被告人I(四冊一三九六丁)の各供述はい
ずれも採用し難く、同証人D(三冊九一九丁、一〇四五丁)をもつても右認定を動
かすことはできない。所論にかんがみ記録を更に調査し、原審における証人E(二
冊四〇一丁)、回証人L(二冊六七八丁、三冊七二六丁)、同証人M(二冊五五四
丁、六一六丁)、同証人N(二冊八〇九丁)の各供述並びに同証人H(一冊二四六
丁)の供述の全体を相互に比較検討するに、所論のとおりその間に相違や矛盾が存
するが、かかる程度のそごは、当時の雰囲気と情勢に徴すれば無理からぬものがあ
るというべく、これをもつて直ちに前掲証人Hの供述全体の信用性を否定する資料
となすに足りないし、また所論のとおり同証人が被告人Iから受けた暴行の詳細に
つき記憶していない旨供述(一冊二六九丁、二七〇丁裏、三三四丁、三三六丁、三
三九丁ないし三四一丁、三七〇丁)しているからといつて、これをもつて右供述全
部の信用性に消長をきたすほどのものではないと考えられる。所論は更に、H証人
が被告人Iの「実際口でだけしか言われなかつたじゃないの」との問に対し「その
とおりですね」(一冊三七七丁裏)と答えている点を取り上げているが、同証人は
続いて被告人Iの「ほとんど口で言われたのが主だつたわけでしよう」との問に対
し「そうじやないですよ」(三七八丁)と答えて、これを否定しているのであつ
て、これに同証人の供述全体を正読すれば、Hが被告人Iから原判示の暴行を受け
たことは明らかで、同証人の供述は原判決認定の範囲において、その信用性に欠け
るところはなく、その他記録全部を検討しても、叙上認定を動かすに足りる資料は
発見できない。原判決には所論(五)の事実誤認はない。論旨は採用するによしが
ない。
 所論(六)について検討する。原判決は、被告人Bが「Hのコートの衿を掴んで
押し、あるいは膝頭で同人の足を突き、押し問答の末他の二名の者と列から三、四
メートル引張り出した」(原判決二丁裏一二行目以下)旨を認定しているが、しか
し被告人BがHに対しかかる暴行に及んだことはないから、原判決の右事実認定に
は事実誤認があると主張する。そこで、原審記録を精査し、原判決が証拠として掲
げる原審における証人H(一冊二八四丁)、同証人M(二冊五六八丁)、同証人L
(二冊六八七丁)の各供述を総合すれば、被告人BがHに対し「お前刑事じやない
か」などと言つて、同人のコートの衿をわし掴みにして押し、また「刑事なら手帳
をもつているだろうから手帳を見せろ」と言い、Hが「俺は刑事じやない」と答え
るなどの押し問答の末、他の二名の者とともに、Hを列から三、四メートル引張り
出したことを明らかに認めることができる。所論のとおり、証人Hが「コートのえ
りを両手でつかまれたのか片手か覚えていない」(一冊二八五丁裏)、「一緒に引
つぱつた人が左腕を引つぱつたのか右腕を引つぱつたのか覚えていない」(二八五
丁裏)、「両腕を引かれたのか片腕か覚えていない」(一冊三五四丁裹)と供述
し、これらの点につき精細に記憶していないからといつて、当時の状況に照らし無
理からぬものがあり、これをもつて同証人の前記供述の信用性にいささかの影響を
及ぼすものではないと考えられ、また同証人が「Bに乱暴されたというのは引つ張
り出されたということである」(一冊三五八丁)との供述は、同証人の供述全部を
正読すれば、所論のように同人が被告人Bから衿を掴まれて押されたことまで否定
する趣旨のものではなく、むしろこれを踏まえてこのような乱暴を受けた結果列か
ら引つ張り出された趣旨のものであることを容易に看取することができる。なお、
所論のとおり証人Hは「B以外に引つぱつた人が二人が一人かはつきりしない」
(一冊三五四丁裏)と供述する個所もあるが、しかしそれとともに「被告人Bほか
二名のものに引つぱられた」(二八六丁裏、二八七丁、同裏)旨供述する個所も存
在するのであつて、これら供述全体を総合して考察すれば、原判示のとおりHは被
告人Bほか二名の者に列から引張り出されたと認定するのが相当である。
 しかして、以上認定に反する原審における証人J(三冊一一二七丁、一一七四
丁)、同証人K(四冊一二〇三丁)、同被告人B(四冊一四八二丁、五冊一五一二
丁)の各供述はいずれも採用できず、その他の証拠全部を合わせ検討しても、叙上
認定を左右するに足りる資料を見出し得ない。
 ところで、原審における証人Hの供述を仔細に審究するに、同証人は原判決が認
定する「被告人Bが膝頭でHの足を突いた」との点を明らかに否定する旨供述(一
冊三六一丁)しており、右供述は信用し得るものと考えられる。もつとも原審にお
ける証人Mは、被告人Bが足の膝頭をもつてHの足をこずいていた旨供述(二冊五
六九丁)しているが、右供述は前掲証人Hの供述に対比して採用できず、その他記
録全体を調査しても、これを確認するに足りる証拠はない。そうすると、原判決に
は右の点において事実誤認があることになるが、これを除いても、暴力行為等処罰
ニ関スル法律違反の罪の成立には変りはないし、また刑の量定に影響を及ぼすほど
のものとは認められないから、結局右事実誤認は判決に影響を及ぼすことが明らか
なものとはいえない。
 以上のとおりで、所論(六)についての論旨はいずれも結局排斥するの外はな
い。
 所論(七)について検討する。所論は、原判決は、被告人Iが「Mの肩を手指で
突きながら、同所から約五メートル離れた同裁判所正面玄関前の石柱のところまで
押して行つた」(原判決三丁表三行目以下)旨を認定しているが、しかし被告人I
がMに対しかかる暴行をなしたことはないから、原判決の右事実認定には事実誤認
があると主張する。そこで、原審記録を精査するに、原判決が挙示する各証拠、な
かんずく原審における証人Mの供述(二冊五六五丁)によれば、被告人IのMに対
する原判示の右暴行の事実を十分に認め得るのであつて、所論にかんがみ更に同証
人の供述全体を仔細に検討しても、同人が被告人Iから右暴行を受けたことは明ら
かであつて、同人が自ら前記玄関前の石柱まで退つたものとは考えられない。
 所論が指摘する原審における証人J(三冊一一三二丁)、同証人L(二冊七八二
丁)、同被告人I(四冊一四一六丁裏)の各供述を斟酌しても、以上認定を左右す
るに足りず、その他記録全部を調査しても、これを動かし得る証拠を見出すことは
できない。原判決には所論(七)の事実誤認はない。論旨は排斥せざるを得ない。
 所論(八)について検討する。所論は、原判決は、被告人Iが「Cに対し同人の
両上腕を掴んで列から引張り出し、他一名の者と同所から約五メートル離れた同裁
判所正面玄関前車寄せに駐車中の車輌に押し付け人指指の上に中指を乗せるような
格好で胸、腹部を突くなどした」(原判決三丁表五行目以下)旨を認定している
が、しかし被告人IがCに対しかかる暴行に出でたことはないから、原判決の右事
実認定には事実誤認があると主張する。そこで、原審記録を精査するに、原判決が
挙げる各証拠、特に原審における証人Cの供述(一冊一七五丁、二〇五丁)によれ
ば、被告人IのCに対する前記原判示の暴行の所為の総てを優に認めることができ
るのであつて、所論に徴し記録を調査するに、右供述の信用性はこれを肯認するこ
とができるものと考えられ、以上認定に反する原審における証人K(四冊一二四五
丁)、同証人O(三冊一一一一丁)、同証人E(二冊四一五丁、四七二丁)、向被
告人I(四冊一四四三丁)の各供述は採用し難く、その他記録全体を検討してもこ
れをくつがえすに足りる資料は見あたらない。原判決には所論(八)の事実誤認は
ない。論旨はこれを排斥する。
 以上説示のとおりであつて、更に当審における事実取調の結果を十分斟酌して
も、原判決には所論のような証拠の取捨選択を誤つたことも事実誤認の違法が存す
るとも認められないから、論旨はいずれも理由がない。
 控訴趣意第二点、違法性に関する判断の誤り等の主張について
 所論は、原判決は、本件背景事実に関して事実を誤認し、法廷の公開に関して法
令の解釈を誤り、ひいて被告人らの所為を可罰的違法性を有する暴行であると認定
した違法をおかしたものであるから、破棄は免れないと主張する。
 所論はまず、原判決は法令の適用の項において、犯情を説示するにあたり、
(一)、「Pが更新期間の経過とともに解雇された」(原判決四丁裏七行目以
下)、(二)「Q委員会(Qと略称)が昭和四五年三月一九日外部組織と連携しR
会議のもとにS社屋に抗議行動を起した」(同四丁裏九行目以下)と認定したこと
は、いずれも事実誤認である、というのである。そこで所論(一)の当否について
検討するに、原審における証人P(三冊八九九丁裏)、同証人D(三冊九二四丁
裏)、同証人T(四冊一三一五丁)の各供述によれば、株式会社SはPを勤務成績
不良との理由で解雇したことが窺われるものの、記録全部を調査しても、原判示の
ように更新期間の満了とともに解雇されたことを確認するに足りる証拠はないか
ら、この点において原判決には事実誤認があることになるが、しかしこの点を除外
しても、被告人らがPに対する解雇の撤回を求めて斗争を行つてきたことには変り
はなく、量刑上も影響を与えるほどのものではないと認められるから、判決に影響
を及ぼすものではない。所論(二)の当否について検討するに、原審における証人
M(一冊五八二丁)、同証人P(三冊九一〇丁)、同証人D(三冊九九三丁)、回
証人F(四冊一二二一丁)、同証人T(四冊一三〇一丁)、同被告人I(四冊一三
四四丁)の各供述を総合すれば、所論のようにQが無関係であつたとは認められ
ず、原判決の右(二)の事実認定に格別誤りがあるものとは考えられない。結局論
旨はいずれも理由がない。
 所論は次に、法廷の公開に関する原判決の判断は憲法、刑訴法の解釈を誤つたも
のであるというが、本件は公判傍聴のためS社員Cらが傍聴券の交付を求めるため
平穏かつ公然と裁判所正面玄関前の傍聴券交付場所に並んでいたのに対し、被告人
らがその傍聴を妨害する意図で原判示の暴行を相次いで加えたものであつて、Cら
がSの管理者であつたとしても、かかる暴力をもつて公判の傍聴を妨害することの
許されないことはいうまでもなく、この点に関し原判決の判示するところ(原判決
五丁表一行目以下)は相当であつて、所論は独自の理論であつて採用できないか
ら、この点において既に失当であり、もとより原判決の判断は憲法、刑訴法に違反
するものではない。論旨は理由がない。
 所論は更に、本件は説得行為に伴う社会的相当行為であつて、目的の正当性と相
まつて可罰的違法性を欠くというのであるが、しかし本件のように暴力という手
段、方法により自由であるべき公判傍聴を実力をもつて妨害することが許容される
道理はなく、被告人らの所為は社会的相当性を甚だしく逸脱し、また目的において
も到底正当なものとは言い得ないのであつて、所論のように可罰的違法性を欠くも
のとは決して考えられない。
 論旨は理由がない。
 控訴趣意第三点、法令の解釈適用の誤りの主張について
 <要旨>よつて考えるに、原判決の暴力行為等処罰ニ関スル法律一条にいう「数人
共同して」の解釈に関する説示は、当裁判所においてもこれを相当として是
認することができる。即ち本件のように数名の者が共同実行の意思を共通にし、同
一の機会に同一の場所において一体的に数名の者に対し暴行を加えた場合には、そ
の間に加害者数名のうちの一名が被害者数名のうちの一名に対してのみ、それぞれ
暴力行為に出でた場合を含んでいたとしても、この各自の暴行行為はいずれも前示
のとおり右態様における他の現実の共同の暴力行為と同一の機会、同一の場所にお
いて、これと明かに分離されることなく、一体的に行われているのであつて、単純
犯あるいは同時犯とはおのずから異なるものがあり、また相手方に対する威圧感に
しても、社会不安を引き起こす形態にしても格段の差異があることなどにかんがみ
れば、かかる場合には暴力行為に出でた者をも含めて数人全員が被害者全員に対し
て「数人共同して」暴行の罪を犯したものと解するのが相当である。所論引用の判
例はいずれも事案を異にするもので、本件には適切ではない。原判決には所論の点
に関し法令の解釈適用の誤りはない。
 論旨は理由がない。
 よつて、刑訴法三九六条により本件各控訴を棄却することとし、主文のとおり判
決する。
 (裁判長裁判官 矢崎憲正 裁判官 大澤博 裁判官 本郷元)

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