弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を原判示第一の(1)(2)及び第二の(1)の罪につき懲役四
月に、原判示第二の(2)ないし(9)の罪につき懲役八月に処する。
     原審の未決勾留日数中三十日を前項の後の懲役刑に算入する。
     この裁判確定の日より各四年間右各刑の執行を猶予する。
     原判示第二の(2)ないし(9)の罪に対する刑の執行猶予期間中被告
人を保護観察に付する。
     原審の訴訟費用は全部被告人の負担とする。
         理    由
 本件控訴の趣意は、弁護人津田晋介作成名義の控訴趣意書記載のとおりであるか
ら、ここにこれを引用する。
 当裁判所は右控訴の趣意に対し判断する前に、先ず職権を以て原判決を調査する
に、原判決においては被告人の犯罪事実として原判示第一の(1)(2)及び第二
の(1)ないし(9)の窃盗の事実を認定し、なお被告人が昭和三十年九月六日新
宿簡易裁判所において窃盗罪により懲役一年執行猶予三年間の判決を受けた事実を
認め、右犯行に対し第一の罪については、刑法第二百三十五条、第六十条、第二百
三十五条、第四十五条、第四十七条、第十条を、右第二の罪については刑法第二百
三十五条、第四十五条、第四十七条、第十条、第二十一条を適用し、被告人を第一
の罪につき懲役七月に、第二の罪につき懲役一年に処し、未決勾留日数三十日を算
入する旨の言渡をしている。原判決の右法律の適用を検討すると、第一の罪につい
ても、第二の罪についてもそれぞれ刑法第四十五条、第四十七条、第十条を適用し
ているから、右第一、第二の各罪が各別に併合罪の関係にあることを認めた趣旨で
あることは明瞭であるが、右各併合罪が刑法第四十五条前段の併合罪にあたるの
か、或は同条後段の併合罪にあたるのか、その点正確に適条を示していないから必
ずしも明確とはいえないが、原判示第一の罪は昭和三十年五月二十六日ころの窃盗
罪と、同年七月七日ころの同罪であり、原判示第二の罪は同年九月十五日ころより
同年十一月十二日ころまでの九回に亘る同罪であつて、且つ前記のように昭和三十
年九月六日の前科を認定しているところより推察すれば、原判決においては原判示
第一の各罪は右前科の罪と刑法第四十五条後段の併合罪の関係あり、原判示第二の
各罪は同条前段の併合罪の関係ありと判断して、前記のような法律の適用をし、且
つ各別に科刑したものと解せられる。
 <要旨>しかしながら刑法第四十五条後段は、或る罪につき確定裁判があつたとき
は、その罪とその裁判宣告前の犯罪とを併合罪とするという趣旨ではなく、
その罪とその裁判確定前の犯罪とを併合罪とする趣旨の規定と解釈するを相当とす
べきところ、原判決が証拠として挙示する前科調書(新宿区検察庁検察官作成名
義)の記載によれば、被告人の前示前科は、昭和三十年九月六日に判決の宣告があ
り、該判決が同月二十一日確定したものであることが認められるから、原判示第二
の(1)の犯罪、即ち被告人が昭和三十年九月十五日ころA所有の現金百円を窃取
した罪は、右判決の確定前の犯罪にあたるものであり、従つて原判示第一の(1)
(2)の窃盗罪と共に、右前科たる罪と刑法第四十五条後段の併合罪の関係にある
ものといわなければならない。」
 然らば結局原審は併合罪に関する法律の解釈を誤つた結果、判決において前記の
ように併合罪の規定の適用を誤つたものというべく、原判決におけるこの法律適用
の過誤が判決に影響を及ぼすことは論をまたずして明白であるから、原判決はこの
点において全部破棄を免れないものである。
 (その他の判決理由は省略する。)
 (裁判長判事 谷中董 判事 坂間孝司 判事 久永正勝)

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