弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成19年3月9日宣告裁判所書記官中間博文
,,,,,平成14年(わ)第294号第382号第776号第992号第1097号
平成15年(わ)第1106号,第1241号,平成16年(わ)第109号
判決
主文
1被告人Aを懲役20年に,被告人Bを懲役13年に,被告人Cを懲役1
2年にそれぞれ処する。
2未決勾留日数中,被告人Aに対しては1400日を,被告人Bに対して
は930日を,被告人Cに対しては750日を,それぞれその刑に算入す
る。
理由
(犯罪事実)
第1被告人Aは,指定暴力団D組長,同Bは,同Aと親交を結ぶ者,同Cは,上
記D組副組長であるが,被告人3名は,E及びFと共謀の上,同Bが恨みを抱
いていた衆議院議員Gの後援会事務所あるいはG方に火炎びんを投げ入れてこ
れらに放火しようと企て,
1平成12年6月14日午前3時13分ころ,山口県下関市a町b丁目d番e
号付近路上において,ガソリンを注入したビールびん2本の口部に布片を装着
して点火装置とした火炎びん2本にそれぞれ点火した上,H株式会社所有に係
る総合結婚式場I(鉄筋コンクリート造5階建,床面積合計約7865.22
平方メートル)を前記後援会事務所の入居する建物と間違え,同I3階東側窓
ガラスを目掛けて,これらを投げ付け,うち1本を同窓ガラスに命中させたも
のの,同窓ガラスを損壊したにとどまり,他の1本は同窓ガラスに命中させる
ことなく,その付近の壁面に打ち当てて発火炎上させたにとどまり,もって,
,,火炎びんを使用して人の財産に危険を生じさせたが現に人が住居に使用せず
かつ,現に人が居ない上記Iを焼損するに至らなかった
2同月17日午前3時ころ,同市f町g丁目h番i号の前記G方敷地内におい
て,ガソリンを注入したビールびん2本の口部に布片を装着して点火装置とし
た火炎びん2本にそれぞれ点火した上,同人所有に係る同人方車庫付き倉庫棟
(,.)鉄筋コンクリート造陸屋根2階建床面積合計約12499平方メートル
の車庫を目掛けて,これらを投げ付け,うち1本を同車庫内で,他の1本を同
車庫出入口付近でそれぞれ発火炎上させ,その火を同車庫内外に駐車中のNほ
か2名所有に係る普通乗用自動車3台に燃え移らせるなどし,もって,火炎び
んを使用して人の財産に危険を生じさせたが,通報により駆けつけた消防士が
消火したため,同車庫内壁を高熱によりはく落させ,同普通乗用自動車3台を
全半焼させるなどしたにとどまり,現に人が住居に使用せず,かつ,現に人が
いない上記車庫付き倉庫棟を焼損するに至らなかった
3同月28日ころ,同市j町k丁目l番m号の前記後援会事務所敷地内におい
て,株式会社J所有に係る同事務所(木造瓦葺及びスレート2階建建物,床面
積合計約421.25平方メートル)1階東側窓ガラスをレンチホイールで叩
き割るなどし,ガソリンを注入したビールびん2本の口部に布片を装着して点
火装置とした火炎びん2本のうち1本を同窓内側に差し入れてぜん板上に置い
て点火したものの,発火炎上することなく終わり,引き続き,他の1本は,点
火した上,同事務所1階南側窓ガラスを目掛けて,これを投げ付け,同窓ガラ
スに命中させたものの,同窓ガラスを損壊したにとどまり,もって,火炎びん
を使用して人の財産に危険を生じさせたが,現に人が住居に使用せず,かつ,
現に人がいない上記建物を焼損するに至らなかった
4同年8月14日午前4時1分ころ,同市j町k丁目l番m号の前記後援会事
務所敷地内において,ガソリンを注入したビールびん1本の口部に布片を装着
して点火装置とした火炎びん1本に点火した上,株式会社J所有に係る同事務
所(木造瓦葺及びスレート2階建建物,床面積合計約421.25平方メート
ル)1階南側窓ガラスを目掛けて,これを投げ付け,同窓ガラスに命中させた
ものの,同窓ガラスを損壊したにとどまり,もって,火炎びんを使用して人の
財産に危険を生じさせたが,現に人が住居に使用せず,かつ,現に人がいない
上記建物を焼損するに至らなかった
5同日午前4時23分ころ,同市n町o丁目p番q号の前記G方敷地内におい
て,ガソリンを注入したビールびん1本の口部に布片を装着して点火装置とし
た火炎びん1本に点火した上,同人所有に係る同人方車庫付き倉庫棟(鉄筋コ
ンクリート造陸屋根2階建,床面積合計約124.99平方メートル)の車庫
を目掛けて,これを投げ付け,同車庫内に駐車中の上記G所有に係る普通乗用
自動車に命中させたものの,同車を損壊したにとどまり,もって,火炎びんを
使用して人の財産に危険を生じさせたが,現に人が住居に使用せず,かつ,現
に人がいない上記建物を焼損するに至らなかった
第2被告人Aは,F及びKと共謀の上,平成13年6月6日午前零時ころ,千葉
市r区s丁目t番u号所在のL方敷地内において,同所所在の同人が現に住居
に使用している木造スレート葺2階建家屋(床面積約210.59平方メート
ル)の台所出窓付近にガソリンを撒布した上,所携のライターで点火した紙を
同所に投じて放火し,よって,上記家屋を焼損しようとしたが,その火炎で,
,,同所に設置された雨どいを融解し同出窓のガラスを割るなどしたにとどまり
その目的を遂げなかった
第3被告人Aは,Kと共謀の上,千葉県四街道市v番地所在のコーポw(木造ス
レート葺2階建共同住宅,床面積合計約173.9平方メートル)x号室M方
,,に放火してこれを焼損しようと企て平成13年6月22日午前零時5分ころ
同人方玄関前通路において,同人方玄関扉に設置された新聞受けにガソリンを
流し込んだ上,所携のライターで点火した紙を,新聞受けから同人方玄関前通
路に流れ出たガソリンの上に投じて放火し,よって,同人方玄関扉表面の塩化
ビニールシート合計約0.258平方メートルを焼損した
第4被告人Aは,Kと共謀の上,
1平成13年6月27日午前3時10分ころ,千葉市y区z丁目a1番地所在
のb1公園において,法定の除外事由がないのに,前記L方に向け,所携の自
動装てん式けん銃で弾丸6発を発射し,同人方外壁等に命中させてその外壁等
を損壊し(損害額合計100万円相当,もって,不特定若しくは多数の者の)
用に供される場所において,けん銃を発射するとともに,他人の建造物を損壊
した
2法定の除外事由がないのに,前記1記載の日時・場所において,前記自動装
てん式けん銃1丁を,これに適合する実包6発と共に携帯して所持した
第5被告人Aは,平成14年1月9日正午ころ,北九州市c1区d1町e1番f
1−g1号所在の指定暴力団D組事務所において,Oに対し,その左腰付近に
湯呑みを投げ付けた上,その後頭部にガラス製灰皿を投げ付ける暴行を加え,
よって,同人に安静加療約10日間を要する後頭部挫創の傷害を負わせた
第6被告人Aは,F及びPと共謀の上,平成14年1月10日午後10時30分
,,,,ころ前記第5記載の事務所においてQに対し棍棒でその頭部等を殴打し
手拳でその顔面等を殴打した上,その腹部等を足蹴にするなどの暴行を加え,
よって,同人に加療約1週間を要する後頭部裂傷並びに通院加療約21日間を
要する顔面打撲及び腹部打撲の傷害を負わせた
ものである。
(証拠(略))
(判示第1の各事実に関する事実認定の補足説明)
1はじめに
判示第1の各事実について,被告人Aは,自己が犯行に関与したことは認める
ものの知人の暴力団組員であるRに犯行を指示したのであり被告人CE以,,,(
下「E」という)及びF(以下「F」という)には犯行の指示をしていない。。
として,C,E及びFの犯人性及び同人らとの共謀を否認し,被告人Bは,他の
共犯者との共謀を否認して,自己は判示第1の各事実に一切関与してないと主張
し,Cは,判示第1の各事実には何ら関与していないし,他の共犯者とも共謀し
ていない旨主張するので,以下検討する。なお,判示第1の1の事件を下関第1
,,,事件判示第1の2の事件を下関第2事件判示第1の3の事件を下関第3事件
,,判示第1の4の事件を下関第4事件判示第1の5の事件を下関第5事件といい
第1の1事件から第1の5事件までを併せて本件各下関事件という。
2認定できる事実
前掲関係各証拠によれば,以下の事実を認めることができる(括弧内には,認
定に供した主な証拠を摘示した。。)
(1)ア各共犯者間の関係[証人F,乙2,6,23]
,,,被告人Aは本件各下関事件が発生した当時指定暴力団D組組長であり
Cは,同組副組長であり,Fは,被告人Aの妻の弟であったことから,平成
11年11月ころ,同組組員となり,本件各下関事件が発生した当時,被告
人Aの実子分として活動していた。
Eは,平成12年の初めころから,同組に出入りするようになり,同年5
月上旬ころには,同組組員となり,同月11日に刑期を終えて出所したCの
下で活動するようになった。
被告人Bは,本件各下関事件が発生した当時,有限会社S(以下「S」と
いう)の会長として実質的に同社を経営しており,服役中に知り合った被。
告人Aとも親交を結んでいた。
イ本件各下関事件の被害場所の状況(甲1ないし4,14ないし17,28
ないし33)
(「」。),下関第1事件の被害場所である総合結婚式場I以下Iというは
山口県下関市h1町i1丁目j1番k1号に所在し,百貨店及び専門店街が
入居する商業施設Tの南側に軒を接して建てられた鉄筋コンクリート造5階
建,床面積合計約約7865.22平方メートルの建物であり,同市l1町
m1丁目n1番o1号所在のG衆議院議員(以下「G議員」という)後援。
会事務所から北方約400メートルの地点にあり,同事務所と同じく交差点
に面した角地に立地する。
下関第3及び下関第4事件の被害場所であるG議員後援会事務所は,前記
場所に所在し,V駅東方に広がる大規模商業施設や倉庫が多くある場所に位
置する床面積合計約421,25平方メートルの木造瓦葺及びスレート葺2
階建建物である。
下関第2及び下関第5事件の被害場所であるG議員宅は,丘陵地の住宅地
域内である同市p1町q1丁目r1番s1号にあり,本宅と別宅が隣接し,
その間に被害を受けた車庫付倉庫棟(床面積合計約124.99平方メート
ル,鉄筋コンクリート造陸屋根2階建建物)がある。
(2)本件各下関事件発生前の状況
ア被告人BがG議員に対し,怨恨を持つに至った経緯(証人U,乙4,7)
自己の経営するSの資金繰りが苦しかった被告人Bは,G議員の地元秘書
でかねてから交際していたW(以下「W」という)に対し,平成11年に。
行われた下関市長選挙で自派と対立するX候補を当選させないように活動し
て貢献したと主張して金員の支払いを要求し,300万円の提供を受けた。
その後,被告人Bは,同年8月7日,借金の取り立てに絡む傷害罪で逮捕
されたところ,さらに,被告人B及びSの従業員U(以下「U」という)。
は,同月30日,Wに対する恐喝罪で逮捕されたが,同年9月21日に起訴
猶予処分となり,Uは同月26日に釈放され,被告人Bは同年10月26日
に上記傷害罪につき保釈された。
イ被告人Bと被告人Aとの面談等の状況(証人U,証人Y,甲72,73,
87,88)
,,,,被告人Bは平成11年10月下旬ころ被告人Aと再会し同人に対し
恐喝事件の件でG議員の秘書にはめられたなどと述べた。その後も,被告人
Bは,被告人Aに対し,G議員の秘書にはめられたと述べたのに対し,被告
人Aは,お金がないなどと自身の窮状について述べるとともに,知り合いの
内装工事会社の社長Y(以下「Y」という)へ仕事を紹介するよう依頼し。
た。
被告人Bは,同年11月初旬ころに,Yに対し知り合いの業者を紹介し,
そのころから同月中旬にかけて,Yに対しても,被告人Aに述べたのと同様
に,下関市長選でX候補をG議員側から頼まれて当選させないよう活動した
のに,G議員の秘書にはめられて警察に逮捕された,決まっていた仕事も流
れてしまった,その点の補償もさせる,許せんなどと恨み言を言っていた。
被告人Bは,同年11月15日前後ころ,被告人Aに対し,かなり興奮し
た様子で,G議員の秘書にはめられた,何かいい方法はないかと言ったとこ
ろ,被告人Aから「するに当たっては,先立つもんが要る。そのことをす,
るにしても,自分の下のもんがするから,それに元が要るから」などと返。
答された。
,,,,そのため被告人Bは被告人Aに対しYにほかに仕事を紹介するから
それで金になるからいいだろうということを述べたところ,被告人Aはそれ
には納得せず,先立つものがないと動けないと返答した。
被告人Aは,平成12年1月初めころ,被告人Bに対し「うちで仕事を,
して金を取りやすくしよう。あとは,あんたが交渉しない」と被告人A側。
がG議員側に追い込みをかけるので,それを被告人Bが利用してG議員側に
金銭を要求すればよいと述べた。
被告人Aは,同年3月中旬ころまでの間に,Fに対し,下関でのG議員に
対する追い込みの仕事は,うまくいけば1億円,少なくとも5000万円の
報酬が得られる旨述べた。
,,,被告人Bは平成12年1月以降恐喝で逮捕等されたことを理由として
G議員に対して民事訴訟を提起して損害賠償請求ができるかどうかを3人の
弁護士に相談し,受任を依頼したが,同年4月ころまでに,いずれも断られ
た。
被告人Bは,同年4月初めころ,被告人AやYに対し,G議員側は許せな
いとG議員側への怨念を述べて,G議員側を苦しめて金を取る,火炎びんを
投げ付ける,けん銃で撃ち込むなどと述べた。その際,被告人Aは,被告人
Bの話に同調しながら,Yに対し,G議員の家や事務所の所在地について尋
ね「仲間がいじめられとる,許さん。金にせないけん。1億くらいのこと,
はもらわないといけん」などと言った(証人Y)。。
被告人Bは,同年4月25日,下関市内の料亭「Z」において,被告人A
やYが同席する場で,いつものようにG議員への怨念を述べ,被告人Aは,
「。」,,,金にせにゃいかんなどと言い被告人B及び被告人Aは火をつける
,。火炎びんを投げるけん銃を撃ち込むなどの具体的な方法を話し合っていた
ウG議員の自宅等の下見及び地図作成等(証人U,甲71,78,79,1
01)
被告人Bは,平成12年4月27日,自宅に来た被告人A及びFに対し,
Uに指示してG議員の自宅と後援会事務所の場所を地図等を用いて教えさせ
た。その際,Uが,Fに案内を申し出たところ,被告人Bからそうするよう
に命じられ,FをIを目印として紹介しながらG議員後援会事務所前を通過
した後,G議員の自宅まで案内したが,更に後に詳しい案内地図を作ること
となった。
被告人Aは,帰りの車内で,Fに対し「そろそろ仕事をせんといかんの,
。。。」う火でもつけようかのうとりあえずお前は今日の下見をよう覚えとけ
と言った。
Fは,下見の後しばらくして,被告人Aから「Cに教えとけよ」と言,。
われたので,A組事務所にやってきたCに対し「親父(被告人Aのこと),
から聞いとるですか」と尋ねたところ,Cが「聞いとる」と答えたので,。。
メモ用紙2枚にG議員の自宅や後援会事務所の場所や目印となるIの場所を
書きながら説明した。
被告人Bは,同年5月14,15日ころ,Uに対し「明日,被告人Aと,
会うからG議員の後援会事務所と東京及び下関の自宅,筆頭秘書のA1の自
宅,G議員の山陰の実家付近の地図を作ってくれ」と命じた。Uは,G議。
員の自宅周辺,後援会事務所周辺,G議員の山陰の実家周辺等の地図を作成
し,翌日,被告人Bに渡した。
被告人Aは,Fと共に,同月11日から同月22日までの間に,被告人B
方に,G議員の自宅や後援会事務所付近の地図を受け取りに行った。
被告人Bは,同月19日ころ,Uに指示して,下関市長選に関する件及び
恐喝事件等について納得のいく回答及び説明を求める文書を作成させ,回答
期限を同月末としてG議員側に対して送付したものの,G議員側からは何ら
の回答もなかったので,同年6月1日ころに同月10日を期限として回答を
求める文書を再度送付したが,やはり回答はなかった。
被告人A及び同Bは,同年5月22日ころ,大分県の天瀬温泉のホテルで
行われたCの出所祝いの際,Yに対して,G議員側の情報を提供するように
協力を依頼した。
また,被告人Aは,同年6月初旬ころ,山口県宇部市のホテルにおいて,
呼び出したYに対し,その場にいたCを指しながら「Gの件をこれにやら,
そうと思うとる」と言った。。
(3)第1事件実行及びその前後のCの言動(甲108,乙23,25,26)
アCは,Eと共に下関第1事件を実行した。
イFは,平成12年6月14日か15日の夜中ころ,Cの携帯電話に電話を
かけたが,電源が切られていてつながらなかった。その翌日,Fは,Cに電
話をかけて,Cの自宅に赴いた。その際,Fは,Cに対し「昨日は,連絡,
が取れんやったですね」と言ったところ,Cから「仕事よ」と返答を受。,。
けたため「えーっ,声をかけてくれんやったですね。どこですか」と尋,。
ねたら,Cから「下関」と言われた。。
(4)下関第1事件後の地図送付(証人U)
,,,,被告人Bは平成12年6月14日被告人Aに会った際Uに電話をかけ
「,,。」,Aさんが地図をなくしたからもう1回作っちゃってくれなどと言い
地図を再び作るよう命じた。その後,電話を替わった被告人Aは,Uに対しA
組の事務所のポストに地図を入れるように指示した。Uは,下関市のG議員の
自宅と後援会事務所の周辺の地図を作り,それを,同日夕方過ぎ,A組の事務
所の郵便受けに届けた。
(5)下関第2事件の実行(甲110)
,,,,Fは同月16日午後5時から午後11時ころまでの間にCから電話で
「下関に行くけ,店が終わったら事務所におっとけ」と指示されたので「は。,
い,分かりました」と答え,勤務していたマッサージ店の仕事が終わった同。
月17日午前零時前後ころ,A組事務所へ行き,Cを待った。
その後しばらくして,C及びEが,C所有の自動車でFを迎えに来たので,
Fは,同自動車に乗った。同自動車内はガソリン臭がしていたので,Fは,C
に対し「どうするんですか。ガソリンでも撒いて,火をつけるんですか」,。
と尋ねたところ,Cから「後ろにびんを置いとる」と言われた。,。
Cは,自動車を運転し,関門トンネルを通って下関市内に入り,G議員宅付
近の路上に自動車を停車すると,Fに対し「お前が投げれ」と火炎びんを,。
投げるように指示し,すぐに自動車のエンジンを切った。Fは「はい」と,。
言って,Cの命令を了解し,びんに指紋を付けないために「軍手か何かある,
んですか」と尋ねたところ,Cから「後ろにあるけ」と言われた。。,。
Fは,その15分から20分ほど経って,Cから「行ってこい」と言わ,。
れたため,同日午前3時ころ,自動車のトランクから軍手及び火炎びんを取り
出し,軍手を装着後,火炎びん2本に点火して,判示第2記載の犯行に及び,
見張り役をしていたC及びEの待つ自動車の助手席に乗り込み,G議員宅付近
から離れた。
(6)下関第2事件後から下関第3事件までの関係者の言動,行動
ア下関第2事件後の被告人Aの言動(甲111)
被告人Aは,下関第2事件が敢行された後で下関第3事件が敢行されるま
での間に,Fに対し「まだ懲りとらんごとある。話が進まんごとある。ま,
だせないかんのう」と言った。。
イ下関第2事件後の被告人Bの行動(証人U)
被告人Bは,平成12年6月17日より後の日に,Uに対し「へましと,
るごとあるけIを見てきてくれ」などと指示し,I及びG議員後援会事務。
所の様子を見に行かせたが,特に変わった様子はなかった。
被告人Bは,同月26日か27日ころ,Uに命じて,電話をさせ,G議員
側に対し,改めて納得のいく説明と回答を求めたが,G議員側からは忙しい
と言われただけであった。
被告人Bは,同月下旬ころ,Uに対し,やり方が手ぬるい,自分だったら
もうちょっとちゃんとやるなどと言った。
(7)下関第3事件の実行(甲112)
Cは,同月27日の昼ころ,A組事務所において,Fに対して「また行く,
け,今夜空けとけ。B1(マッサージ店のこと)が終わったら事務所におっと
け。出る用意だけしとけ」と言い,同日の夜はA組事務所で待機するように。
命じ,Fはこれを了承した。
Cは,自動車を運転して,同月28日午前2時ころ,Eと共に,Fの待つA
組事務所に行き「そろそろ行こうかのう」とFに言い,自動車に同乗し,,。
G議員後援会事務所に向かった。
その車内で,C,F及びEは,Eの覚せい剤の未払代金や返済金についての
催促の話などをしていたが,その際,Cは,Fに対し「後ろに2本積んどる,
け。表には車の通りが多いけ,裏に回れ。裏に回って,ガラスを打ち破って,
中に置いて火をつけろ。ほっといても火がつくやろう。後ろに工具を積んどう
け,それを使え。もう1本は火をつけて投げとけ」と指示し,Fはこれを了。
承した。
Cは,G議員後援会事務所周辺を約30分から40分にわたって周回し,後
援会事務所前の路上に自動車を停車して,更に10分間から15分間ほど辺り
の様子をうかがった後,Fに対して「いいぞ」と言って,犯行を指示した。,。
Fは,Eに対し「周りを見とってくれのう」と言って見張りを頼んだ上,,。
自動車を降り,トランクから軍手を取り出して手にはめて,火炎びん2本及び
タイヤレンチを持って,後援会事務所の裏側に回り込んで,判示第3の犯行に
及び,C及びEの待つ自動車の助手席に乗り込み逃走した。
(8)S等への捜索及びUの事情聴取(証人U)
平成12年6月29日,警察により,U方及びS事務所の捜索が行われ,U
,。,,,「,は警察から事情聴取を受けたその後被告人BはUに対ししばらく
おとなしくしないといけない,盗聴されているかもしれないから,言葉には注
意するように」などと指示した。
被告人Bは,同年7月上旬ころ,Uに命じ,G議員側に再度納得のいく回答
と説明を求めたが,G議員側は回答をしなかった。
また,被告人Bは,同年7月中旬ころから8月の盆前ころまでの間,十数回
にわたり,Uに命じて,パトカー等の配備状況を把握するためG議員後援会事
務所周辺を見回りに行かせた。
同年8月10日前後以降は,パトカーがG議員後援会事務所周辺からはいな
くなっていたことから,被告人Bは,Uに対し「おらんことなったのう」,。
と言っていた。
被告人Bは,同月10日前後の盆前ころ,Uに対し「またそろそろあるか,
,。」,,ら1週間ぐらい旅行にでも行ってこようかねなどと話したところUが
「自分がするわけでもないんで,どちらでもいいんじゃないですかね」と返。
答した。
(9)下関第3事件後,Cらが試し投げをした経緯等(甲113ないし115)
Cは,平成12年8月4日か5日ころにFがC宅へ来た際,Fに対し「こ,
の前の件やけど,なんでつかんかったんかのう。燃えてないみたいやけ。作り
。。」。方が悪かったんかのうちょっとEに電話して作り方聞いてみいと言った
これを受けて,Fは「Eやったら知っちょるかもしれんですね。聞いてみま,
しょう」と言って,Eに電話をし,火炎びんの作り方や使用するビールびん。
の種類を教えてもらった。
,,,,またCはFに指示してスタイニーボトルのビールびん4本を入手させ
その翌日ころ,C宅車庫で「今から作るけ。投げてみらんといけんのう」,。
と言い,Fと火炎びん2本を製作した。その際,Cは,Fから「また俺が投,
。」,「,。」。げるんですかねと聞かれたのでいや今度は俺が投げるけと答えた
CとFは,その日のうちに,製作した火炎びん2本を自動車のトランクに積
んで,試し投げをするために出発し,中途で福岡県中間市にあるEの居住先に
行き,Eを同乗させた。Cは,Eが同乗した際「今から,ちょっと試し投げ,
に行くけのう。どこがいいかのう」とE及びFに聞いたところ,Eが「川。,
のところがいいんやないですか」と提案したことから,川沿いの適切な場所。
を探して,同市t1町所在のu1取水場に赴き,火炎びんの試し投げをした。
(10)下関第4及び第5事件の犯行準備と実行(甲116ないし118)
ア被告人Aは,平成12年8月13日昼ころ,A組事務所において,知人に
,「,,,。,電話をしておう兄弟車がいるけ段取りしちゃらんやろうか後で
若い者に取りに行かせるけ」と自動車の調達を依頼した。。
その後,Fは,CからEの家に来るように呼出しを受けたが,当時,謹慎
処分を受けていたことから,被告人Aに対し「副長(Cのこと)に呼ばれ,
とりますけ,ちょっと出てきます」と外出許可を求めたところ,被告人A。
は「そうか」と言うだけで,何も聞かずに許可した。,。
Cは,同日夕方ころ,中間市のEの当時の居住先において,E及びFに対
,「。()。,し今日の夜行くけ俺とトモFのことは火炎びんを作るけC1は
組長から聞いとるか,車の段取りをしとけ」と指示した。その指示を受け。
て,Fは,Eを犯行使用車両の調達先のある北九州市v1区w1まで送り,
C宅へ向かい,Cと共に,アサヒスーパードライのスタイニーボトル2本に
ガソリンを注入し,その口部に布を詰め込んで,火炎びん2本を作った。そ
の後,Fは,Cから「後で来るから,事務所で待機しとけ」と指示され,。
たので,A組事務所に戻り待機した。
イCは,Eが借りてきた普通乗用自動車の助手席に同乗し,同月14日午前
3時30分ころ,Eの運転でA組事務所に赴き,Fを後部座席に同乗させ,
Fに,火炎びん2本を渡した。
その際,Fは,自動車を運転したくなり,Eに対し「運転代わっちゃろ,
。」,,「,。」。うかと言ったところCからお前遊びじゃないんぞと怒られた
Cは,関門トンネルを抜けて下関市内に入ると,運転していたEに「事,
務所の方に行け」と指示し,車をG議員後援会事務所前に停車させた。。
,,,,Cは軍手をはめて助手席から降りFから火炎びん1本を受け取ると
G議員後援会事務所に近付き,同日午前4時1分ころ,判示第4の犯行に及
び,すぐに,Eが運転する自動車の後部座席に乗り込み,その場から離れ,
G議員宅へ向かった。
,,,CF及びEはG議員宅付近路上に自動車を停車させてエンジンを切り
,。10分ほど辺りの様子をうかがった上G議員宅前路上まで自動車を進めた
Cは,Fから火炎びん1本を受け取ると,自動車を降り,下関第5の犯行
に及び,すぐさま自動車に乗り込み逃走した。
(11)下関第4及び下関第5事件後の関係者の言動(証人U,Y)
被告人Bは,平成12年8月の盆を過ぎたころ,Uに「事件が新聞やテレ,
ビには出ていないが,ちゃんとやったんかのう。おかしいのう」などと言っ。
ていた。
Yが,同年8月終わりから9月初めにかけて,所用でA組事務所を訪れて被
告人Aが事務所にいなかった際,Cは,ぼそっと「盆も行ったもんね」と言。
った。
同年8月のお盆ころまでの間,被告人Aは,Yに対して「仕事をしたのに,
金が入らん,若い衆も使っとる,経費もかかっとる」などと被告人Bについ。
ての愚痴をこぼしており,被告人Bは「あんなことをしやがって」などと被,
告人Aについての愚痴を述べており,被告人A及び同BがYの面前で上記のよ
うな愚痴を述べあったこともあった(Y590項。)
被告人Bは,同年9月上旬ころ,弁護士を通じて,G議員側は被告人Bの要
求する見返りの金額は支払うことができない旨の回答を受けたために,週刊誌
や新聞社にG議員の誹謗記事を書いてもらおうとしたが,いずれも断られた。
3F,E及びUら関係者の供述の信用性について
(1)はじめに
上記2の事実認定は,主としてFの捜査段階の供述並びにU及びYの供述に
よるものである。被告人Aと同Bが本件各下関事件の敢行を共謀したことにつ
いては,Fの捜査段階の供述並びにU及びYの供述,被告人Aが同Cに本件各
下関事件を指示し,CがF及びEと共に犯行を敢行したことについては,Fの
捜査段階の供述及びEの捜査段階の供述によっている。
他方,被告人Bは,本件各下関事件について犯行の依頼を被告人Aにしたこ
とを否認し,平成11年11月15日ころ被告人Aと会ったこと,平成12年
4月27日自宅で被告人A及びFと会ってUにG議員事務所等を案内させたこ
と,その後Uに地図の作成を命じたこと,本件各事件後にUが供述するような
言動をしたことなど共謀に関する主要な事実を否認している。
被告人Aは,被告人Bから依頼されて知人の組員であるRにG議員側に対す
る攻撃を命じたことは認めているが,C,F及びEに実行を命じたことは否認
している。
Cは,本件各下関事件に関わったことを否認している。
当裁判所は,Fの捜査段階の供述並びにU及びYの供述の信用性を肯定し,
被告人B及び同Cの供述の信用性は否定し,被告人Aの供述は同Bとの共謀に
関する部分の信用性を肯定して,その余の信用性を否定したので,以下,その
判断の理由を説明する。
(2)U,Y及び被告人Bの各供述の信用性
被告人Bが経営する会社の従業員であったUの供述は,下関第1事件前の被
告人Bと同Aの接触の状況,平成12年4月27日被告人B宅を同Aが訪れ,
FをG議員事務所等に案内したこと,その後,被告人Bに命じられてG議員事
務所等の地図を作成したこと,本件各下関事件が敢行された後の被告人Bの言
動を具体的かつ詳細に述べるものであって,その内容に照らして当時の体験事
実をありのままに述べていると認められる自然なものであり,Uが当時業務上
使用していた手帳のメモ等の客観的な証拠からも裏付けられている。Uの供述
は,被告人Bと同Aの面談の状況等についてはFの供述とも符合しているし,
Yの供述とも齟齬がないものである。
Yの供述も,手帳のメモなどの客観的証拠に裏付けられたものであり,その
内容も具体的かつ自然であって,UやFの供述と整合している。
これらのことからすると,U及びYの各供述の信用性は高いと認められる。
他方,被告人Bの供述は,U及びFが一致して証言する平成12年4月27
日の自宅における被告人Aとの面会やUがFをG議員事務所等に案内したこと
等証拠上優に肯定できる事実をも否定するなど,明らかに事実に反する内容で
あり,その細部を子細に検討するまでもなく,信用性が認められないものであ
る。
被告人Bの弁護人は,通常犯人は犯行の発覚を防ぐために安易に他人に犯行
準備の進捗状況については話さないから,被告人BがUに犯行の詳細を話した
ことを前提とするUの供述は信用できない旨主張する。しかしながら,被告人
Bは,G議員側への要求文書の送付や法的手段について弁護士との相談といっ
たG議員側との圧力・交渉についてUを関与させているから,G議員側への圧
力である暴力団による威嚇についての依頼状況をUに話したとしても決して不
自然ではなく,弁護人の主張は採用することができない。
また,被告人Bの弁護人は,U供述は,被告人Bから被告人Aに対しG議員
攻撃の依頼があったと強調するもので,信用できないと主張するが,Uは,被
告人Bと行動をともにしていたという自己の体験から推測した事実を供述して
いるに過ぎないし,被告人Bの部下であり,同人に対する恩義もあると考えら
れるUが殊更被告人Bを陥れることも考え難いのであって,Uがあえて被告人
Bに不利な供述をしていることは,Uが事実をありのまま述べていて,その供
述が信用できることを基礎づけるものであり,弁護人の主張は採用できない。
被告人Bの弁護人は,Yの供述につき,被告人Bが被告人AにG議員攻撃を
依頼した点についての供述が曖昧であることや,暴力団員でない被告人Bがけ
ん銃で撃ち込んだり,宣伝カーを燃やしたなどの発言をするのは不自然である
ことなどを理由として,信用することができないと主張するが,直接の当事者
ではないYが,攻撃の依頼についての記憶が曖昧であることは何ら不自然では
ないし,被告人Bが興奮の余りけん銃で撃ち込んだり,自動車を燃やしたりし
たなどと述べることも十分に考えられるのであって,弁護人の主張は採用する
ことができない。
被告人Bの弁護人は,被告人Bは,G議員側の裏切り行為によって下関市長
選に落選したD1氏の代理人としてG議員側と交渉していたのであり,また,
金銭的にも困っていないから,暴力団員に火炎びん投擲を依頼する動機がない
旨主張するが,被告人Bは,下関市長選や大手スーパーマーケットの進出のた
めに計画道路の変更を求めていたことなどを巡り,G議員側とトラブルになっ
ており,金銭的解決の要求が満たされなかったことから,本件各犯行を依頼し
たことは十分合理的であるから,被告人Bの弁護人の主張は到底採用すること
ができない。
また,被告人Bの弁護人は,被告人Aが,被告人Bから報酬をもらうことな
く,犯行を敢行していることから,被告人B以外の第三者が被告人Aに依頼し
た可能性もある旨主張するが,前記認定のとおり,報酬等の支払いを巡って,
平成12年8月のお盆までの間,被告人Aと被告人Bとの間で愚痴をこぼしあ
っていたのであり,被告人Aが,依頼を受けていない被告人Bに報酬を要求す
ることは考えられず,第三者が被告人Aに依頼したとは考えられないから,被
告人Bの弁護人の主張は到底採用できない。
(3)F,C及び被告人Aの各供述の信用性
アFは,捜査段階では前記2で認定した事実と同旨の供述をしていたが,当
公判廷では,被告人B方を訪れた際,被告人Aの指示で,Uに案内されて,
G議員の自宅や後援会事務所の下見に行ったことは認めるが,捜査段階の検
察官調書の作成経緯に関し「精神的にも肉体的にも結構追い詰められてた,
んで,嘘でも供述せざるを得なかったからです」とか,勾留されて10日。
,,,も経たないうちに自白を始めたがその間に追い詰められた旨嘘の自白で
作り話をしたとも供述している。
イそこで,まずFの捜査段階の供述である検察官調書の内容について検討す
るに,同調書は,同人が被告人Aに同道して被告人Bの自宅に行き,G議員
後援会事務所や自宅の場所の説明をSのUから受け,更に現地の案内を受け
たこと,被告人Aの指示によりG議員後援会事務所や自宅の場所をCに教え
たこと,Cから犯行を指示されたこと,各犯行現場へ向かう車内でのFとC
及びEとで交わされた会話の内容,各犯行現場の状況,各犯行状況,下関第
3の犯行後に火炎びんの作り方をEに問い合わせた状況,火炎びんの準備状
況,平成12年8月上旬ころ,Cと共にEを中間市内の居住先まで迎えに行
って,遠賀川の河川敷まで行って火炎びんの試し投げをした状況(Fは試し
投げをした場所に警察官を案内して特定している〔甲68,下関第4及〕。)
び下関第5の各犯行の前日にCに指示されて中間市内のEの居住先まで行
き,その後Eと共にx1区のE1石油まで犯行に使用する車を取りに行った
状況などを内容とするものであるところ,各犯行方法や犯行現場に赴く途中
の車内の会話などについて詳しく述べていて具体的かつ自然であり,本件各
犯行前後の関係者の言動などについてのUの供述に沿うなど,他の証拠とも
符合する自然なものであって,Fが実際に体験したことを供述したものと認
められる。
特に,Fは,その検察官調書において,下関第2の犯行で火炎びんを実際
に投げたのは,F自身である旨述べ,下関第3の犯行でもF自身が火炎びん
を置いたり,投げたりしたが,火勢が弱く意図した結果が出なかった,下関
第4及び下関第5の各犯行では,実行役のリーダーであるC自らが火炎びん
を投げたと述べているところ,各犯行についての供述内容は詳細かつ具体的
で,犯行現場の状況にも合致していて,実際に体験しなければ供述すること
は困難と考えられるものばかりであり,各犯行に至る経緯,犯行準備状況に
関する供述も具体的で自然なものとなっている。
また,本件各下関事件は,いずれも同種の小型のビールびんを用いた火炎
びんが用いられ,夜間にその犯人が分からないよう実行されたという犯行手
口の類似性を有したものであるが,このうち4件はG議員に関係する場所で
の犯行であるのに,残り1件については関係のない場所での犯行であって一
貫しないことから,犯行動機や関係者については犯行態様からは判然としな
いところがあったが,Fの検察官調書においては,G議員に恨みを抱き,同
人から金を取ることを目論んだ被告人Bが,G議員に脅しをかけることをA
組組長である被告人Aに頼み,その組の仕事として,組員であるC,E,F
がG議員宅や事務所への火炎びんの投げ込みを実行した旨述べて,その背景
や動機,全体の概要についても語られているところであって,そこではG議
員をターゲットにした暴力団組員複数による組織的な犯行であったことが明
らかにされており,しかも,下関第1事件のみが関係のない場所であった点
についても,Cが場所を間違えたものであることと間違えた理由を述べてい
ることからも,下関第1事件の特殊性も矛盾なく説明しうる,整合的な内容
を述べるものであって,この点からも,かなり信憑性が高いといえる。
そして,Fの検察官調書においては,その犯行に用いられた特徴的な火炎
びんの製作等についても詳細に述べられているところ,下関第3事件の犯行
後,FがEに電話で火炎びんの作り方を聞いたとする点,C及びEと共に試
し投げをしたとする点については,Eの当時の内妻F1(以下「F1」とい
う)が,Eが電話に出てFらしき人物に火炎びんの作り方を教えていたこ。
,,,「。」とあるいはそのころEがFと思われる人物と一緒に試し投げに行く
と言って出掛けたことを証言していることに合致している。Fは,下関第4
及び下関第5の犯行前日にEと一緒に中間市の同人の居住先から犯行に使用
,,する車を取りに行ったがその際Eに帽子等を準備するよう指示したところ
Eがビニール袋を持ってきた旨供述しているところ,やはり,F1は,平成
12年8月の花火大会の日(8月13日と考えられる)にFが中間市の居。
住先にEを迎えに来て同人は出て行ったが,その際,青色のビニール袋を持
っていたとFの検察官調書における供述に合致する供述をしているのであ
る。このように,Fの検察官調書における供述のうちの上記の各点にF1の
供述が合致していることなどはFの検察官調書の信用性を高めるものであ
る。
この点について,Cの弁護人は,平成12年8月当時,F1には,生後間
もない乳児がいたのであり,水道が使用できない状況であった中間市の居住
先で生活していたとは考えられないこと,組織内での上位者であるCがわざ
わざ下位者であるEの居住先に出向くのは不自然であること,中間市の家の
中からは道路を見ることができないから,電話中に突然Cが来たのを見たと
する供述は不自然であることなどを挙げて,F1の供述が信用できない旨主
張する。
しかしながら,F1の供述は,その供述内容に照らして,自己の体験した
ことを記憶どおりに供述したものと認められ,全体として誠実に供述してい
るとうかがえるもので,内容も自然であり,また,F1は,Eのかつての内
妻であり,殊更Eやその関係者に不利益な供述をすることも考えられないこ
とからすれば,F1の供述は基本的に信用性できるというべきである。しか
も,F1の供述によれば,F1及びEは,中間市の居住先に徐々に出入りし
て生活の基盤を築いていったと認められるから,同月当時に中間市の居住先
で水道が使用できないからといって乳児が育てられないとは必ずしもいえ
ず,同月13日ころに中間市の居住先にEが居たことは何ら不自然なもので
はないといえ,Cの弁護人の主張は採用することができない。
また,火炎びん投擲の準備をしていることを周囲の人間に気付かれないた
めに,Cの居住地にEを呼びつけるのではなく,Cが出向いて行くことも十
分に考えられるのであるから,この点に関するCの弁護人の主張は採用する
ことができない。
さらに,F1が中間市のEの居住先にCが来たのを見たという点について
であるが,F1は,当公判廷において,電話中に来たとは述べていないから
Cの弁護人の主張は失当であるが,念のため同弁護人の主張を検討するに,
F1は,Eといた際,Cの普段乗っている白い自動車が来たのを見たため,
,,Eが家から道路に続く階段を下りていってCと話していたと証言しており
家の中で見たとは述べていないから,やはりCの弁護人の主張は採用するこ
とができない。
Fの捜査段階の供述経過をみると,Fは否認から自白に転じているもので
はあるが,当初は知らないと述べていたのが,取調べが進むにつれ,やがて
下見など犯行への関わりを述べるようになって,遂に自らの実行への関与を
認めるようになって,自白調書が録取されるようになり,続いて複数の自白
調書の作成がなされているが,その自白調書の内容は,時間の順を追って詳
しく本件各犯行や共犯者の動きについて述べられるようになっているもの
で,その間に自白と否認が交錯するといったような供述の変遷や動揺は見ら
れないものであるから,このことは,むしろFの検察官調書の信用性を基礎
づける事情のひとつというべきである。
Fは,当公判廷で,捜査官による誘導や執ような取調べ等により,やむな
く嘘の供述するに至ったなどと供述したが,そうであったとすれば,火炎び
んを投擲した犯人が誰であるかを捜査機関は特定できないのであるから,そ
れに乗じて,少しでも自己の刑事責任を軽減するために,関与は認めるとし
ても,下関第2及び下関第3の犯行で火炎びんを投げたのはF以外である旨
述べることもできたとも考えられるのに,そのような供述は捜査段階ではし
ていないばかりか,前記のとおり,下関第2及び下関第3の犯行で火炎びん
を自分が投げたことを述べた上,本件各下関事件の実行方法や犯行に赴く車
内の会話などについて実際に体験しなければ供述できないと考えられるよう
な臨場性の高い供述をしたのであって,この点からいっても,同人の公判廷
における供述は信用できず,捜査段階で作成された同人の検察官調書の方が
信用できるというべきである。
ウCの弁護人は,下関第3事件で使用したとされるタイヤレンチについての
Fの説明は,純正のレンチホイールの形状と異なっていて不自然であると主
張するが,事件発生から約3年強経過している取調べ時において,記憶が減
退し,他の記憶と混同したりすることは十分あり得ることであるし,レンチ
ホイールの先端の形状が特に正確に記憶されないとおかしいというような状
況にあったわけではなく,レンチホイールを用いて犯行に及んだとの基本的
部分の供述には変更はないのであるから,この点をもって,Fの捜査段階の
供述の信用性が減殺されるとはいえない。
また,Cの弁護人は,下関第2事件の火炎びんの投擲位置等に変遷がある
と主張するが,それらの供述調書の内容を対比しても,主要部分での変遷と
いうことはできないから,供述の信用性に影響を及ぼすものではない。さら
に,Cの弁護人は,Fが犯行等に使用したとする自動車について,当時Cが
使用していなかったものや修理に出していたものがあるなどと主張するけれ
ども,仮に同弁護人の主張を前提としても,本件各下関事件については犯行
に複数の車が利用されていることにかんがみると,その点が正確に供述され
ていないとしても,Fの供述のうち各犯行状況に関する部分やCやEの関与
を述べる部分は他の証拠によって補強されているから,Fの供述全体の信用
性に影響を及ぼすものではない。
Cの弁護人は,Fが,下関第2事件の際,G議員の自宅近くで自動車のエ
ンジンをかけたまま10分ほど様子をうかがったと供述していることを前提
として,そのような行動は不自然であると主張するが,上記認定のとおり,
Fは自動車のエンジンを切った旨供述しているのであり,犯罪に及ぼうとす
る者が犯行場所で自動車のエンジンを切って外の様子をうかがうことは決し
,。,,て不自然ではないから同弁護人の主張は失当であるまたCの弁護人は
Fが,下関第3事件の際,G議員後援会事務所前に自動車を止めてエンジン
をかけたまま事務所の周りを三,四十分徘徊したと供述していることを前提
として,このようなことは不合理であると主張するが,Fは,CはG議員後
援会事務所の周辺を自動車で三,四十分くらいかけて回ったが,逃げ道を確
認したり,様子見をしていると思ったと供述しているのであって,弁護人の
主張はFの供述を正確に理解しないもので明らかに失当である。さらに,A
及び同弁護人の主張中には,Fが,火炎びんの試し投げの日時を平成12年
8月13日と供述していることを前提とする部分があるが,上記認定のとお
り,Fは火炎びんの試し投げの日時は同月5日又は6日ころと供述している
のであって,同弁護人の上記主張はやはり不正確で失当である。
なお,被告人Aは,公判廷や上申書(弁3)でFの捜査段階の供述に対す
る疑問等を指摘しているけれども,Fの供述の信用性が肯定できることは上
記のとおりであり,被告人Aが指摘する点はFの供述の核心部分の信用性を
揺るがすようなものではない。
エFの捜査段階における供述のうち,Cが本件各犯行に関与したとする点に
ついては,被告人Aの知人であるYが,当公判廷において,平成12年6月
初めころ被告人Aと会った際,被告人Aが一緒にいたCを指して「Gの件で
はこれにやらせよう思うとる」と言った旨証言したことや,Cが,平成1。
2年8月終わりか同年9月ころ,Yに対し「盆も行ったもんね」と言っ,。
たなどと証言したことにも整合しているのであるから,Fの捜査段階の供述
の信用性は基本的に高いというべきである。
Fにとっては,被告人A及び同Cは組の上位者であるから,虚偽の供述を
して被告人A及び同Cを陥れるようなことをすれば,両名ないしA組等の暴
力団組織からいかなる報復を受けるやもしれないのであって,Fが自らの危
険を顧みずに,あえて虚偽の供述をするとは考えられない。他に考えられる
こととしては,本件は暴力団による組織的犯行であるから,仮に組織の中の
誰かの名を伏せるため,身代わり犯人を装い虚偽の自白を考えるということ
もあり得るが,そうであれば,捜査機関側は複数人による犯行とは知らなか
,,,ったのであるからFの単独実行犯を装えば辻褄合わせもしやすくなるし
他の組員に嫌疑を及ぼして迷惑をかけることにはならないはずなのに,わざ
わざ組織の上位者であるCまでも実行犯人として引き込んで虚偽自白をした
というのは,暴力団組織の一員である者の行動としてみても不自然である。
取調官から強く誘導されたわけでもないし,あえて他の組関係者を引き込む
ような内容の嘘をつくこと自体にも合理性に欠けるところがある。これらの
ことからしても,Fの捜査段階における供述は信用性が肯定できるものであ
る。
Fは,当公判廷で供述するに当たり,ビデオリンク及び遮へい措置を申し
出て供述したものの,核心部分については黙秘して具体的な供述をしなかっ
たのであり,本件の捜査段階の自白のCとの共同実行に関する部分はすべて
嘘であるとの供述は,このような供述態度からみても信用性は低いものであ
る。
Cは,本件各下関事件に関与したことを否認し,とりわけ,平成12年8
月14日の下関第4及び第5事件に関し,同月12日には大分県の別府に行
き,翌13日午前4時ころまでには小倉の自宅に戻り,同日の午後6時ない
し午後7時ころには門司のG1方に赴いて午後11時ころまで滞在し,その
後自宅に戻ったので,犯行に関与していないし,同日中間市のEの居住先に
赴いたこともない,同月上旬に火炎びんを作って試し投げをしたこともない
と供述するほか,第10回公判においては平成12年5月11日から同年8
月11日までぐらいはFやEには電話は一切かけていない自信があるなどと
供述しているし,弁護人は,CがFと事件当時連絡をとった形跡は全く存し
ないと主張している。
しかしながら,上記のCの供述のうち,平成12年8月13日の午前4時
ころから午後6時ころまでと同日午後11時以降の自身の行動に関する部分
は,これを裏付けるものがないのであり,それだけでは同日中間市のEの居
住先に赴いていないことや下関第4及び第5事件に関与していないことをう
かがわせるものではない。そうすると,Cが同月12日に別府に行ったこと
が認められ,かつ,同月13日にG1方に赴いた可能性があるとしても(証
人G1の供述は,一応Cの供述に沿うともいえるが,CがG1方を訪れたの
が平成12年8月13日であると断定できるものでもない,FやF1の。)
供述の信用性の判断には影響を与えないというべきである。
のみならず,通話明細一覧表作成に関する報告書(甲181)によると,
Cが当時使用していた携帯電話からFが使用していた携帯電話に対して,平
成12年8月3日午後8時47分と午後9時36分に,同月4日午前11時
18分と午前11時51分に,同月6日午後2時19分に,同月9日午前2
時20分と午前11時37分に,同月11日午後7時52分に,同月12日
午後8時38分(発信地域は大分)に,同月13日午後2時(発信地域は福
岡)と午後5時29分にそれぞれ発信されて通話が行われていることが認め
,,,られるのであってこれらの事実は上記Cの供述や弁護人の主張と相反し
その信用性を著しく減殺するものであるばかりか,Fが火炎びんの試し投げ
をしたとする時期と下関第4及び第5事件の直前の時期にいずれもCと連絡
,。をとっていたことを示すものであってFの供述の裏付けとなるものである
なお,上記報告書で確認できるのは,平成12年6月20日から同年11
月20日までのCが使用していた携帯電話の発信状況であるから,下関第1
及び第2事件前後の発信状況は結局不明である。下関第3事件(平成12年
6月28日)の前後にはFの携帯電話への発信の記録はないが,Fの供述に
よると,下関第3事件についてはCがA組事務所に赴いて直接指示したとい
うのであるから,そのころCからの発信の記録がないとしても不自然ではな
い。
また,上記報告書には,Cの携帯電話の発信先の携帯電話の使用者として
Eの名前が認められないけれども,上記報告書によると,Cはプリペイド式
の携帯電話に頻繁に発信していることが認められるから,Eがプリペイド式
の携帯電話を利用していたとすれば(平成12年8月上旬ころFがEに電話
をして火炎びんの作り方を聞いたことは,F1の供述からも認められるとこ
ろであり,Eが携帯電話等の通信手段を保有していたことは一応うかがえる
ところである,上記報告書にEの名前が出てこないことは当然であるし,。)
下関第4及び第5事件については,前日にEの居住先で会って打ち合わせを
しているのであるから,携帯電話によって会話する必要がなかったとも考え
られるのであって,上記報告書にEの名前がないからといって,Fの捜査段
階の供述の信用性が揺らぐものでもないし,Cの供述の信用性が高まるもの
でもない。
さらに,Cが下関第1事件現場付近の地図を手書きで記入し,近くに火炎
()びんが隠してあることを知らせる内容の記載の含まれた書面甲184号証
を別人が所持しており,同人に対する捜索によって発見されている。Cは,
留置中にこれを作成し,留置担当者に分からないよう同房者にこれを託した
ことを認めるものであるが,その作成目的については,ミスズという女性か
ら,地図を書いて,ガソリンの入ったビールびん2本隠しているから下関に
行ったときこれを捨ててきてくれと頼まれたことがあり,これを見つけても
らい,自らの嫌疑を晴らすため,その記憶に基づいて書いた旨を当公判廷等
において述べている。しかし,自らの嫌疑を解消するのに資する証拠の存在
を弁護人に告げることもせずに,外部に知らせようとしたということ自体が
不自然であり,火炎びんの処理を頼まれたという話も唐突で,その経緯も曖
,,。昧な話をいうだけでその裏付けもなくその弁解は信用し難いものである
むしろ,Cが第1事実の犯行現場付近の地図を作成するなどし,火炎びんの
所在を暗に告げて罪証隠滅を図ることを意図して上記書面を作成した可能性
が高く,上記書面を作成し,同房者にそれを委託したという事実は,Cが少
なくとも下関第1事件に関与していることを推認させるものである。
,,,以上検討したところによればFの検察官調書は全般的に信用性が高く
下関第2ないし下関第5の犯行の際,CがE及びFと共に犯行現場に赴いた
などとCの関与を述べる部分も十分に信用できるものである。Fの公判供述
中これに反する部分及び本件各下関事件への関与を否定するCの公判廷にお
ける供述は,信用性が乏しく,採用することができない。
(4)Eの供述の信用性
本件各下関事件への関与を認めるEの検察官調書の内容は,CとEとの平成
12年6月ころの関係からみて,被告人Aから本件各下関事件の実行を指示さ
れたCがその配下のEに犯行をすべて手伝わせることが自然であると考えられ
ることからみて,首肯できるものである。その上,下関第2ないし下関第5の
各犯行までの関与を認める部分については,前記のとおり信用できるFの供述
と一致するから,Eの検察官調書は,概括的であるとしても,その供述する限
度では信用性が認められる。
(5)被告人Aの供述の信用性
被告人Aは,被告人Bから依頼されて知人の暴力団組員であるRに対しG議
員側への攻撃を指示したことは認めるが,C,F及びEに指示したことや同人
らとの共謀はないとしている。
まず,G議員側への攻撃を被告人Bから依頼されたとする点について,被告
人Aは詳細な供述をしないけれども,U,Y及びFの各供述からは,本件各下
関事件の敢行前後に,被告人Aが被告人Bと接触して,G議員側への攻撃の相
談や攻撃したことに対する報酬の支払いを巡るやり取りをしていたことが明ら
かであり,被告人AやA組にはG議員に対する怨恨等の本件各下関事件を起こ
す直接的な動機はうかがえないにもかかわらず,G議員宅等への5回も繰り返
して執ように犯行を敢行したのであり,被告人Bからの相当に高額な報酬が得
られるとの期待があって被告人Bからの依頼を引き受けたということであれ
ば,その動機や経緯は十分に了解可能なものといえるのであるから,この点に
関する被告人Aの供述は信用性が肯定できるというべきである。
他方,被告人AがG議員側への攻撃の指示はRにしたのであり,C,F及び
,()Eには指示していないとする点についてはその経緯を公判廷や上申書弁3
で述べるも,具体性に乏しく,真実そのような事実があったとうかがわせるよ
うな内容でない。また,事実の経緯を考えてみても,当初,被告人Aに同道さ
せてFにわざわざG議員宅等の下見までさせたというのに,その後,上申書に
記載するような理由だけで,Fから手を引かせて,Rに犯行を指示したという
のは首肯し難いし,仮にFを除いてRに実行させることになったとしても,下
見をして状況が分かっているFに対して場所や行き方の説明をRにさせてもお
かしくないのに,そのようなことがあったこともうかがわれない。そして,何
よりも本件各下関事件は,G議員側から金銭を得るために敢行されたのである
から,被告人AがRに実行させたというのであれば,事件を実行した後のG議
員側等の反応を把握しつつ,更に事件を実行するかあるいは中止するのか等を
検討するのが自然であり,そうであるとすれば,被告人Aは実行犯であるRと
緊密な連絡をとりつつ合計5回の事件を敢行したはずで,その間のRとの連絡
等の実情についても容易に説明できると考えられるのに,この点について被告
人Aは,下関第1事件の後にRから連絡があったとはいうものの,その後はR
がどのようにしたかは分からないとして,報告や連絡がなかったかのような説
明しかしていないのであって,このことはそもそも,被告人AがRに実行を指
示していないことをうかがわせるものである。以上のとおりであって,被告人
Aのこの点に関する供述は,前記のF,E,Yの供述に照らして,到底信用す
ることができないものである。
4判断
前記2で認定した事実によれば,被告人Bは,G議員側に金銭を要求したが,
G議員側からそれを拒絶され,かえって恐喝未遂の疑いで逮捕されるに至ったこ
とに恨みを持ち,当初は,損害賠償請求や虚偽告訴を理由とした示談を弁護士を
通じて行い,多額の金銭を得ようとしていたが,それができないとなると,懇意
にしていた被告人AにG議員への報復を依頼し,その被告人Aが,報復の実行を
Cに指示し,Cが下関第1事件ではEと,下関第2ないし下関第5事件ではE及
びFと共に犯行を敢行したものであることが明らかであるから,被告人B及び被
告人Aは本件各下関事件を敢行することを共謀し,被告人Aにおいて,配下のC
に本件各下関事件の敢行を指示し,これを受けたCは,被告人Aの命を受けたF
から,G議員宅や後援会事務所の位置を教えてもらい,Eと共にIをG議員後援
会事務所と間違って,下関第1事件を敢行し,下関第2及び下関第3事件は,F
及びEと共に赴き,Fに命じて火炎びんを投擲させ,下関第4及び下関第5事件
では,F及びEと共に赴き,自ら火炎びんを投擲したことが優に認められる。
以上から,判示第1のとおり認定した。
(判示第2ないし第4の各事実に関する補足説明)
1被告人Aの弁護人は,第2ないし第4の各事実につき,被告人Aには全く身に
覚えがなく,被告人Aは,共犯者とされるK(以下「K」という)に対して,。
腕の1本でもへし折ってやれと述べただけであって,Kの行った放火及び発砲の
行為までは認容しておらず,無罪であり,仮にKとの共謀が成立するとしても,
共同正犯の錯誤の問題として暴行ないしは傷害の限度で責任を負うに過ぎない旨
主張するので,この点につき検討する。
2関係各証拠によれば,以下の各事実が認められる(括弧内には認定に供した主
な証拠を摘示した。。)
(1)被告人Aは指定暴力団D組組長であり,KとFは同組組員である。被告人
Aは,以前からH1(以下「H1」という)が座長をするI1劇団(大衆演。
劇の旅回り一座)と関わりがあり,同劇団員がもめごとを起こした際にはその
相手との間に入って仲裁するなどしたり,H1からお金を借りたりする関係に
あった。
M(第3の犯行の被害者,以下「M」という)は,I1劇団の看板役者で。
あったJ1(以下「J1」という)の母親であり,L(第2,第4の1の各。
犯行の被害者,以下「L」という)は,Mの内縁の夫である(以上,証人。。
L17回)
(2)被告人Aは,平成13年5月,J1のI1劇団からの退団話が持ち上がっ
た際,元暴力団組員のLが関与してきたことから,H1らからMらとの交渉等
を依頼されて上京した。被告人Aは,同月27日のMらとの交渉の際,Mら側
が交渉現場の喫茶店に警察官を呼んだため,これに憤慨し,翌28日未明,同
劇団宿舎ビルにおいて,自分の面子が潰されたなどと怒りを露わにしてMのこ
とを罵って,Mの家に火をつけて脅かしてやろうかとの趣旨の発言をし,その
発言をその場にいたK1(H1の義母,以下「K1」という)に諫められて。
も,これは自分の顔が潰されたもので自分とMの問題であり誰にも口出しはさ
せない旨述べて,K1の言葉を聞こうとしなかった。被告人Aは,その後程な
くして劇団員のL1(以下「L1」という)に依頼してK及びEをL方に案。
内させた(証人L17回,8回,証人K110回)。
被告人Aは,KとFが第2の犯行(L方への放火)を実行した後である同(3)
月10日ころ,I1劇団の福岡県春日市の公演先でK1と会った際,Mのこと
について「ガラス2,3枚ぐらい割ってから,そんなことじゃ承知できない,
が,今度は絶対あぶり出してやる」と,第2の犯行への関与と再度の放火をう
かがわせる発言をし,K1が被告人Aに対しMに断りに来させるからと述べて
も,これは自分とMの問題だから口出ししないでくれと述べ,やはりK1の言
葉を受け入れようとしなかったほか,MがLと子供のところを行き来している
はずだと,その動向と所在を把握している旨の発言もした。
被告人Aは,同月中旬ころ,上記公演先で再びK1に会いMのことが話題に
なった際も「Mはもうとんでもない女だから,1回ひどい目に遭わせてやら,
」,,「,な気が済まないと述べK1に諫められてももう矢を放しとるんだから
」。(,誰が何と言ってももうだめだと述べるばかりであった証人K110回
甲176,177,乙29)
,(「」(4)被告人Aは前記(2)の上京に先立ってFにけん銃1丁以下本件けん銃
という)と実弾十数発(以下,これらをまとめて「本件けん銃等」という)。。
を持たせて上京させて,L1に預けさせており,L1は,本件けん銃等を春日
市の上記公演先に持ってきて衣装ケースの中に隠していたが,平成13年6月
中旬ころ,被告人Aは,Kを連れて公演先のL1の楽屋を訪れ「トモ(F),
から預かったものはあるな」と,本件けん銃等のことを尋ねた後「もう少し,
持っとけ」と言い,また,Kをあご先で指し示しながら「今,これにさせよ,
るからの」とも述べた(証人L17回)。
その後,同月22日,Kが第3の犯行(M方への放火)を実行した(乙3。
0ないし33)
(5)被告人Aは,翌23日,L1に対し「トモから預かったものをKに渡し,
てくれ」と電話で伝え,L1は,Kと連絡をとって本件けん銃等を同人に手渡
し,被告人Aにその旨電話で報告した。被告人Aは,L1に「お疲れさん」と
ねぎらいの言葉を述べた(証人L18回)。
同月27日,Kが本件けん銃及び実弾6発を使用して第4の犯行(L方への
),(。)発砲等を実行し宿泊したホテルの浴場の排水口に本件けん銃弾倉を含む
を遺棄した(乙36)。
(6)被告人Aは,平成13年7月,I1劇団の北九州市の公演先でK1と会っ
た際「道具も安いもんじゃない。ぶち壊しやがって」と,第4の犯行に使用,
された本件けん銃をKが捨てたことに関するものと思われる発言をした(証。
人K110回)
また,被告人Aは,同じころ,M1(K1の夫,以下「M1」という)に。
依頼して同人の住居地である大分県日田郡y1町にKをかくまわせたが,その
際,K1は,本件第2ないし第4の各犯行はKがしたのかをK本人に尋ね,そ
れを肯定したKに更にその理由を尋ねたところ,親指を立てて「そこまでしな
ければ,これが承知しません」と,自分の親分に当たる被告人Aを指して言っ
。(,,,)たと思われる返答をした証人K110回証人M1甲165乙40
(7)被告人Aは,平成14年,別件の傷害事件で逮捕されたが,M1が拘置所
に接見に来た際,立会刑務官に見られないようにして,右手でけん銃の引き金
を引くような動作をした後,人差し指を口元にもっていくなど他言しないこと
を示唆するような動作をし,M1はこれが第4の発砲事件を他言しないように
被告人Aが頼んでいると勘付いて「おぉ,分かっちょる」と返答した(甲,。
168)
3以上の認定は,主にL1,K1,M1の各供述によるものであるが,上記各認
定事実と同旨の各人の供述は,被告人Aの言動に関していずれも具体的であり,
その内容は証拠から認められるKの一連の行動とも整合している上,共通体験部
分は相互に符合もしているなど,自然なものであって,十分に信用できるもので
ある。また,各人と被告人Aとの人的関係等にも照らしていずれの者も暴力団組
長である被告人Aを殊更犯行の首謀者に仕立てるだけの動機も実際上見出し難
,。,く上記各供述の信用性に特段の疑義は生じないものというべきであるそして
上記1の(2)ないし(7)の一連の認定事実からは,被告人Aが暴力団組長としての
面子をMに潰されたことに対する報復として第2ないし第4の各犯行を配下のK
らに実行させたことを優に推認することができるものである。
この点について,被告人Aの弁護人は,L1は任意の事情聴取がされたのみで
あり,K1及びM1は,不起訴処分とされたのであるから,L1,K1及びM1
の各供述は,捜査機関による違法な司法取引によって取得されたものであり,違
法収集証拠として証拠排除すべきであると主張するが,L1,K1及びM1の供
述は前記認定に沿うもので,事実をありのまま述べていると考えられるところ,
その供述するところからすれば,例えば,K1は,被告人AがMの家に火をつけ
て脅かしてやろうかとの趣旨の発言をしたときや「1回ひどい目に遭わせてやら
な気が済まない」と述べたときには,これを諫めるなどしていてMらに攻撃をす
ることについては消極的な態度をとっていたことが明らかであり,K1が劇団員
のN1を探すためにKやFの協力を得たことがあるとしても,そのことがMらに
対する攻撃と結びつくものでなく,L1も被告人Aに依頼されてやむなくけん銃
を保管したに過ぎないのであり,結局,L1,K1及びM1は,第2ないし第4
の各犯行に積極的に関与したとは認められないのであるから,L1,K1及びM
1が不起訴処分とされたことが違法な司法取引によるものともうかがえないもの
である。したがって,弁護人の主張は採用することができない。
一方,Kは,当公判廷では,K1から指示を受けて犯行を敢行した旨供述する
が,捜査段階では,第2及び第3の各放火の犯行の原因は,J1の退団問題を契
機に被告人Aらが劇団の依頼でM側と交渉したが警察を呼ばれるなどしてもめご
とになったことにあるのは間違いない旨,前記認定事実に沿う反面,公判供述と
は異なる供述をし(乙35,第2の犯行につきFもKの捜査段階の供述と同旨)
の供述をしていたほか(甲173,174,Kは,上記各放火は,ある人の指)
示を受けて行った,あるいは,第4の発砲事件は,自分一人で決断して起こせる
ものではないが,誰から指示があったのか,被告人Aとの共謀があったのか否か
については一切言いたくない旨供述していたものであり(乙35,41,上記)
公判供述自体,Kの証人尋問の際に突如出てきたもので,その供述の変更に何ら
合理的な理由も示されていないのであって,K1から依頼を受けたとする旨の公
判供述はおよそ信用することができない。
また,弁護人は,被告人Aは前記のとおり,Mに傷害を与える旨の指示をした
のみであると主張し,被告人Aもこれに沿う弁解をするが,前記認定事実によれ
ば,各犯行前後に,被告人Aの放火を示唆する言動やけん銃発射に関わる指示や
言動がみられるだけであり,被告人Aの予想を超えた事態が生じたと被告人Aが
思っていたことをうかがえわせるような事情は見当たらないことからすると,K
に対し,前記内容の指示に止まり,Kらの各犯行の実行はその予想を超えていた
ものであったという事実は認め難く,上記弁解は信用できず,これを前提とする
共同正犯の錯誤の主張もまた採用できない。
結局,KやFの上記捜査段階の各供述にも照らせば,上記認定のとおり,本件
第2ないし第4の各犯行は,いずれも被告人AがMに自分の面子が潰されたこと
に対する報復として配下のKとF(第2)あるいはK(第3及び第4)に実行さ
せたものであることが優に認められるのである。
4以上の次第であり,判示第2ないし第4のとおり認定した。
(被告人Aの累犯前科)
1事実
平成10年12月21日福岡高等裁判所宣告
脅迫及び不動産侵奪の各罪により懲役1年2月
平成11年10月11日その刑の執行終了
2証拠
前科調書併合前の平成14年(わ)第294号等事件の乙6判決書謄本同(),(
乙11)
(被告人Bの確定裁判)
1事実
平成13年8月10日山口地方裁判所下関支部宣告
恐喝未遂罪により懲役1年2月
平成13年8月25日確定
2証拠
前科調書(乙10)
(被告人Cの累犯前科及び確定裁判)
1累犯前科の事実
(1)平成5年7月23日福岡地方裁判所小倉支部宣告
覚せい剤取締法違反の罪により懲役2年
平成7年7月2日その刑の執行終了
(2)平成9年2月17日福岡地方裁判所小倉支部宣告
(1)の刑の執行終了後に犯した覚せい剤取締法違反の罪により懲役3年
平成12年5月10日その刑の執行終了
2確定裁判の事実
平成14年5月30日福岡地方裁判所小倉支部宣告
傷害罪により懲役2年8月
平成14年11月20日確定
3証拠
前科調書(乙16,判決書謄本(乙17,18,20))
(法令の適用)
1被告人Aにつき
罰条
判示第1の1ないし5の各所為のうち
各火炎びんを使用した点(判示第1の3のうち火炎びん1本をぜん板上に置
いて点火した点を除く。同行為はびんに注入されたガソリンが流出又は飛散
しうる状態に置くものではないので,火炎びんの使用等の処罰に関する法律
2条1項における「使用」に該当しない)。
刑法60条,火炎びんの使用等の処罰に関する法律2
条1項(第1の1及び2の各火炎びんの使用はそれぞ
れ包括1罪)
各非現住建造物等放火未遂の点
刑法60条,112条,109条1項(刑の長期は,
行為時においては平成16年法律第156号による改
正前の刑法12条1項に,裁判時においてはその改正
後の刑法12条1項によることになるが,これは犯罪
後の法令によって刑の変更があったときに当たるか
ら,刑法6条,10条により軽い行為時法の刑によ
る)。
判示第2の所為刑法60条,112条,108条(有期懲役刑の長期
は,行為時においては平成16年法律第156号によ
る改正前の刑法12条1項に,裁判時においてはその
改正後の刑法12条1項によることになるが,これは
犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たる
から,刑法6条,10条により軽い行為時法の刑によ
る)。
判示第3の所為刑法60条,108条(有期懲役刑の長期は,行為時
においては平成16年法律第156号による改正前の
刑法12条1項に,裁判時においてはその改正後の刑
法12条1項によることになるが,これは犯罪後の法
令によって刑の変更があったときに当たるから,刑法
6条,10条により軽い行為時法の刑による)。
判示第4の1の所為のうち
,,けん銃を発射した点包括して刑法60条銃砲刀剣類所持等取締法31条
3条の13(有期懲役刑の長期は,行為時においては
平成16年法律第156号による改正前の刑法12条
1項に,裁判時においてはその改正後の刑法12条1
項によることになるが,これは犯罪後の法令によって
刑の変更があったときに当たるから,刑法6条,10
条により軽い行為時法の刑による)。
建造物損壊の点刑法60条,260条前段
判示第4の2の所為刑法60条,銃砲刀剣類所持等取締法31条の3第2
項,1項,3条1項
判示第5の所為行為時においては平成16年法律第156号による改
正前の刑法204条に,裁判時においてはその改正後
の刑法204条に該当するが,これは犯罪後の法令に
,,よって刑の変更があったときに当たるから刑法6条
10条により軽い行為時法の刑による。
判示第6の所為行為時においては平成16年法律第156号による改
正前の刑法60条,204条に,裁判時においてはそ
の改正後の刑法60条,204条に該当するが,これ
は犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当た
るから,刑法6条,10条により軽い行為時法の刑に
よる。
科刑上一罪の処理
判示第1の各罪1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるので,刑
法54条1項前段,10条により1罪として重い各非
現住建造物等放火未遂の罪の刑で処断
判示第4の1の罪1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるので,刑
法54条1項前段,10条により,1罪として重い判
示けん銃を発射した罪の刑で処断
刑種の選択(第2,第3及び第4の1)
有期懲役刑を選択
累犯加重(判示各罪)
,,被告人Aの前記1の前科があるので刑法56条1項
57条により再犯の加重(判示第1の各罪,第2,第
3,第4の1及び2については,行為時においては,
上記改正前の刑法14条の加重の制限に従い,裁判時
においてはその制限はされないが,これは刑の変更が
あったときに当たるから,刑法6条,10条により軽
い行為時法の刑により,上記改正前の刑法14条の制
限に従う)。
併合罪の処理刑法45条前段,47条本文,10条により犯情の
最も重い第3の罪の刑に上記改正前の刑法14条の制
限内で法定の加重(行為時においては上記改正前の刑
法14条の加重の制限に従い,裁判時においてはその
制限はされないが,これは刑の変更があったときに当
たるから,刑法6条,10条により軽い行為時法の刑
による)。
訴訟費用の不負担刑事訴訟法181条1項ただし書
2被告人Bにつき
罰条
判示第1の1ないし5の各所為のうち
各火炎びんを使用した点(判示第1の3のうち火炎びん1本をぜん板上に置
いて点火した点を除く。同行為はびんに注入されたガソリンが流出又は飛散
しうる状態に置くものではないので,火炎びんの使用等の処罰に関する法律
2条1項における「使用」に該当しない)。
刑法60条,火炎びんの使用等の処罰に関する法律2
条1項(判示第1の1及び2の各火炎びんの使用はそ
れぞれ包括1罪)
各非現住建造物等放火未遂の点
刑法60条,112条,109条1項(刑の長期は,
行為時においては平成16年法律第156号による改
正前の刑法12条1項に,裁判時においてはその改正
後の刑法12条1項によることになるが,これは犯罪
後の法令によって刑の変更があったときに当たるか
ら,刑法6条,10条により軽い行為時法の刑によ
る)。
科刑上一罪の処理(判示第1の各罪)
1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるので,刑
法54条1項前段,10条により1罪として重い各非
現住建造物等放火未遂の罪の刑で処断
併合罪の処理刑法45条前段及び後段,50条により確定裁判を
経ていない判示第1の1ないし5の各罪について更に
処断することとし,47条本文,10条により犯情の
最も重い第1の2の罪の刑に上記改正前の刑法14条
の制限内で法定の加重(行為時においては上記改正前
の刑法14条の加重の制限に従い,裁判時においては
その制限はされないが,これは刑の変更があったとき
に当たるから,刑法6条,10条により軽い行為時法
の刑による)。
訴訟費用の不負担刑事訴訟法181条1項ただし書
3被告人Cにつき
罰条
判示第1の1ないし5の各所為のうち
各火炎びんを使用した点(判示第1の3のうち火炎びん1本をぜん板上に置
いて点火した点を除く。同行為はびんに注入されたガソリンが流出又は飛散
しうる状態に置くものではないので,火炎びんの使用等の処罰に関する法律
2条1項における「使用」に該当しない)。
刑法60条,火炎びんの使用等の処罰に関する法律2
条1項(判示第1の1及び2の各火炎びんの使用はそ
れぞれ包括1罪)
各非現住建造物等放火未遂の点
刑法60条,112条,109条1項(刑の長期は,
行為時においては平成16年法律第156号による改
正前の刑法12条1項に,裁判時においてはその改正
後の刑法12条1項によることになるが,これは犯罪
後の法令によって刑の変更があったときに当たるか
ら,刑法6条,10条により軽い行為時法の刑によ
る)。
科刑上一罪の処理(判示第1の各罪)
1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるので,刑
法54条1項前段,10条により1罪として重い各非
現住建造物等放火未遂の罪の刑で処断
累犯加重
判示第1の1ないし3の各罪
被告人Cの前記1(1)(2)の各前科があるので,刑法5
9条,56条1項,57条により3犯の加重(行為時
においては,上記改正前の刑法14条の加重の制限に
従い,裁判時においてはその制限はされないが,これ
は刑の変更があったときに当たるから,刑法6条,1
0条により軽い行為時法の刑により,上記改正前の刑
法14条の制限に従う)。
判示第1の4及び5の各罪
被告人Cの前記1(2)の前科があるので,刑法56条
1項,57条により再犯の加重(行為時においては,
上記改正前の刑法14条の加重の制限に従い,裁判時
においてはその制限はされないが,これは刑の変更が
あったときに当たるから,刑法6条,10条により軽
い行為時法の刑により,上記改正前の刑法14条の制
限に従う)。
併合罪の処理刑法45条前段及び後段,50条により確定裁判を
経ていない判示第1の1ないし5の各罪について更に
処断することととし,47条本文,10条により犯情
の最も重い第1の2の罪の刑に上記改正前の刑法14
条の制限内で法定の加重(行為時においては上記改正
前の刑法14条の加重の制限に従い,裁判時において
はその制限はされないが,これは刑の変更があったと
きに当たるから,刑法6条,10条により軽い行為時
法の刑による)。
訴訟費用の不負担刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑の理由)
本件は,指定暴力団D組組長である被告人A(以下「被告人A」という)が,。
G衆議院議員(以下「G議員」という)に恨みを持った被告人B(以下「被告人。
B」という)から報復を依頼されて,被告人C(以下「被告人C」という)に。。
命じ,E(以下「E」という)及びF(以下「F」という)と共に,平成12。。
年6月から8月にかけて,5回にわたり,G議員後援会事務所と間違えた総合結婚
式場I(以下「I」という(第1の1,G議員宅車庫付き倉庫(第1の2及び。))
5)及び同後援会事務所(第1の3及び4)に火炎びんを投擲して,放火しようと
した火炎びん使用等の処罰に関する法律違反,非現住建造物等放火未遂の事案,並
びに被告人AがMに自分の面子を潰されたとして同女への報復を画策し,その配下
のK以下Kというらに指示して敢行した一連の現住建造物等放火未遂第(「」。)(
2,現住建造物等放火(第3,けん銃による弾丸6発の発砲及びこれによる建))
()(),造物損壊第4の1とその際のけん銃及び実包6発の所持第4の2の各事案
被告人Aによる傷害の各事案(第5,6)である。
1第1の各犯行について
第1の各犯行は,下関市長選に関してG議員側に協力したことで金銭を要求し
たがG議員側からその要求を拒絶されたことから,G議員側に対して恨みを持っ
た被告人Bが,怨恨を晴らすとともに暴力団組織の力を借り,暴力に訴えるなど
してG議員側から多額の金銭を得ようと企て,親交のあった被告人Aに依頼し,
同被告人が,被告人Bからの報酬を得ようと目論み,配下のC,F及びEに命じ
て敢行されたものであり,金銭を得るためには火炎びんを投げ付けたり,放火す
ることをも厭わない身勝手な動機に基づくものであり,その理不尽な動機に酌量
の余地は全くない。
被告人A,同C,F及びEは,G議員宅及びG議員後援会事務所の所在を地図
で確認して下見をし,犯行使用車両の調達,火炎びんの作製や試し投げ等の準備
を分担して行い,火炎びんを投げる実行犯,自動車の運転手役,現場での見張り
役等の役割分担を決めた上,犯行の発覚しにくい深夜の時間帯を狙って第1の各
犯行に及んだものであり,第1の各犯行は,用意周到に準備した組織的かつ計画
的なものである。
第1の各犯行は,いずれもガソリンを詰めたビールびんで作った火炎びんを用
い,それを投擲して,5回にわたり放火しようとしたものであり,各被害建物の
周辺状況などからすると,一歩間違えば火勢が広がり物的被害のみならず人命被
害も出かねない危険性の高い極めて悪質な犯行である。
また,被告人らは,IをG議員後援会事務所と間違えて第1の1の犯行を敢行
,,しその後数日のうちにG議員宅倉庫棟に火炎びんを投擲する第1の2の犯行を
その10日ほど後にはG議員後援会事務所に火炎びんを投擲する第1の3の犯行
を立て続けに敢行し,さらには,被告人B周辺に捜索の手が及んだ後も第1の4
及び5の各犯行を敢行したものであって,大胆不敵で,執ようである。
本件第1の各犯行の結果,第1の1の犯行では,ガラスの取替えや塗装の修理
費用の合計約16万6000円,第1の2の犯行では,車庫棟の修理費用約33
8万円及び車庫に駐車してあった車両3台の損害合計約395万円,第1の3の
犯行では,修理費用約2万7440円,第1の4の犯行では,修理費用約1万6
380円,第5の犯行では,修理費用約10万円弱の被害が生じており,その結
果は重大であるとともに,深夜,火炎びんを用いて放火したことにより,G議員
宅及び後援会事務所の関係者及び周辺住民に与えた不安感は多大なものであった
ことは想像に難くない。現に,最も被害の大きかった第1の2の犯行の際にG議
員宅にいた者は多大な恐怖心を抱いている。
また,暴力団関係者によるけん銃を用いた発砲の犯行をはじめとする一般市民
に対する威嚇・嫌がらせが頻発しているという社会情勢を踏まえると,この種の
過激で,社会不安を増大させるような反社会的犯行に対しては,治安の回復,同
種事案の抑制といった一般予防の見地からも厳重な処罰が必要である。
2第2ないし第4の犯行について
第2ないし第4の犯行動機は,暴力団特有の発想に基づいた極めて身勝手かつ
反社会的なものである上に,いずれの犯行も,深夜ないし未明に計画的に敢行さ
れた陰湿,卑劣なものであり,また,Mを一層脅かすべく,立て続けに執ようか
つ徹底的になされたものでもあって,一連の犯行全体をみても犯情は悪質極まり
ないものである。
各犯行態様を個別にみても,第2の犯行では,人家の密集する住宅街にあり隣
家への延焼等による被害拡大のおそれも高い木造スレート葺家屋であるL方に対
し,ガソリンを4リットル用オイル缶に相当量購入して準備し,その大半を壁や
雨どいに撒布した上,火を放ったもので,焼損には至らなかったものの,ガソリ
ンを火柱が上がるまでに燃焼させ,その火力で窓ガラスが割れ,雨どいやエルボ
を融解させるなどしたものであり,相当に危険なものである。また,第3の犯行
でも,やはり上記同様の住宅街にありプロパンガスボンベも側に設置されている
木造スレート葺共同住宅中のM方に対し,ガソリンを4リットル用オイル缶一杯
に購入して準備し,判示の方法で火を放って玄関扉表面の塩化ビニールシートを
焼損したものであるが,焼損の程度が比較的小さいものにとどまったのは放火の
事実にすぐに気付いたMの娘や隣人らによる懸命な消火活動がされたからであ
り,玄関外で炎が勢いよく燃え上がったほか室内にも炎が上がり,何度も水をか
けてようやく消火できたものであって,これもまた極めて危険な犯行である。さ
らに,第4の1の犯行では,上記L方の外壁目掛けて弾倉に込めた6発の弾丸す
べてを続けざまに撃ち込んだもので,狙いがそれれば窓に命中するおそれもあっ
,,た上に閑静な住宅街でL方の家人らが起床していたなかでの発砲行為であって
危険かつ悪質極まりないものである。
本件第2ないし第4の各犯行により,第2の犯行では約61万円余り,第3の
犯行では約38万円余り,第4の犯行では約100万円の修繕ないし補修工事相
当分の財産的被害が生じたのみならず,第3の犯行では家に一人いたMの娘が全
治4日を要する両下腿部熱傷の傷害を負い,これが原因と思われる外傷後ストレ
ス障害に罹患して現在も通院を続けているなど,特に同女が事後に引きずった被
害は大きく,Mの処罰感情も当初は厳しいものであった。また,本件第2ないし
第4の各犯行はいずれも住宅街で敢行されたもので,近隣住民に与えた不安感や
衝撃が大きいことは想像に難くない。
本件のような暴力団関係者による犯行が平穏な市民生活に多大な悪影響を及ぼ
すことも到底看過できないところであり,その点からも本件第2ないし第4の各
犯行の結果は重大であって,この種の反社会的犯行に対しては一般予防の見地か
ら厳重な処罰が必要である。
3第5及び第6の犯行について
第5の犯行は,何度も連絡がとれるようにしておくようにと命じていたにもか
かわらず,企業舎弟の被害者と連絡がとれないことに立腹して,判示犯行に至っ
たものであり,短絡的で粗暴な犯行である。
第6の犯行は,被害者が暴力団事務所に来ることを知り,反撃しようと3人が
かりで一方的に被害者を多数回殴打するなどの暴行を加えたものであって,その
犯行態様は,執ようかつ粗暴であり,被害者の受けた精神的苦痛も重大である。
また,第5,第6の各被害者の傷害結果も軽くはない。
以上によれば,第5,第6の各犯行についての被告人Aの刑事責任も軽視でき
ないといわざるを得ない。
4被告人Aの個別情状
第1の各犯行において,被告人Aは,被告人Bの依頼を受け,報酬を得るため
に,配下のCらに命じて,首謀者として犯行を敢行したものであり,その刑事責
任は重大なものがある。
また,第2ないし第4の各犯行についても,被害者のMに暴力団組長としての
面子を潰されたとして報復を決意し,Kら配下の組員に命じて,首謀者として犯
行を敢行したものであり,その刑事責任は重い。
しかるに,被告人Aは,第1の各犯行については,自らの刑事責任は認めるも
のの,Cら配下の組員に指示をした点については否認し,第2ないし第4の各犯
,,行についてはKが勝手に過剰なことをしたとして自らの刑事責任を争っており
その反省の情は十分ではない。
また,被告人Aは,服役前科4犯を有し幾度となく更生の機会が与えられたに
もかかわらず,前記累犯前科の服役を終えて出所した後わずか8か月余りで第1
,,,の犯行に及びその後も立て続けに各犯行に及んだものであってその遵法精神
規範意識の欠如は著しいものがある。
以上のような被告人Aについての不利な情状,すなわち,暴力団組長の被告人
Aが,その配下の組員を用いて,組織的かつ計画的に犯行を行ったものであり,
現住建造物放火既遂,未遂罪,けん銃発射罪については,その選択刑に無期懲役
刑もあるなど,その罪質は極めて重いものであること,他に非現住建造物放火は
未遂を含めて6件,傷害2件もあり,その犯罪の数も多いこと,代議士宅などを
狙い,火炎びんを使用して連続して行った犯行はその社会的影響も大きかったこ
と,各犯行の動機や経緯に斟酌すべきところはなく,態様も悪質で,被告人Aの
果たした役割の大きさや,累犯前科等の多数の前科を有すること,暴力団組長の
立場にあり,その規範意識の低さなどを考慮すると,被告人Aの刑事責任には重
いものがあり,検察官が被告人Aについて無期懲役刑を求刑していることも理解
できるところがあるというべきである。
他方,各放火罪の結果やけん銃発射罪の結果をみると,幸いにも人の死亡とい
う重大な結果まで生じておらず,物的被害に止まっていること,第1の各犯行で
は自らの関与を認め,その刑事責任を認める態度を示していること,第5及び第
6の各犯行では事実を素直に認めていること,第2ないし第4の各犯行について
は,自らの道義的責任を認めているほか,被害弁償等については,判示第3犯行
の被害者で第2及び第4の1の犯行の被害者の内妻であるMに300万円の示談
金を支払っており,Mは被告人Aに対し宥恕の意思を示すに至っていること,第
5及び第6の各被害者に対して各10万円の示談金を支払い,各被害者が被告人
Aに対し宥恕の意思を示していること,第1の各犯行につき,法律扶助協会に対
して50万円の贖罪寄付をした上,被害者側に対し,平成19年2月5日総額1
,,006万円余りを被害弁償金として供託するなど被害の回復に努めていること
また,第6の犯行では被害者にも落ち度があったことといった被告人Aにも酌む
べき事情が認められる。とりわけ,第1の各犯行についての被害弁償額は,上記
のとおり,1000万円を超えるものであり,被害者側が受け取る意思を持つに
至れば被害回復が実現するものであるから,被告人Aの量刑を決する上では無視
できない事情であるほか,第2ないし第4の各犯行に関連してMに示談金を支払
って宥恕の意思表示を得ていることなど,被告人Aが被害回復のための上記のよ
うな努力をしたことは,その反省の情を示すものというべきであって,これを軽
視することは相当ではないというべきである。
,,これらの事情を考慮すると被告人Aを無期懲役刑に処するのは相当ではなく
主文のとおりの刑に処するのが相当と考えられる。
5被告人Bの個別情状
被告人Bは,G議員へ報復として脅しをかけ,金銭を得ようと思い,報酬を約
束して,親交のあった暴力団組長である被告人Aに依頼して,第1の各犯行を敢
行させたものであり,報酬の約束をすることで暴力団組織を自らの目的実現のた
めの手足とした被告人Bの刑事責任は,犯行を指示した被告人Aと同等の重い刑
事責任を負うべきものである。
しかるに,被告人Bは,第1の各犯行への関与を否認し,自らの刑事責任を免
れることに汲々としているのであり,反省の情は微塵も感じられない。
また,被告人Bは,前科8犯を有し,そのたびに服役して何度となく更生の機
会が与えられていたにもかかわらず,第1の各犯行を親交ある暴力団組長である
被告人Aに依頼したのであり,その規範意識の鈍麻は著しいものがある。
以上によれば,被告人Bの刑事責任には重いものがある。
他方,被告人Bは高齢であること,被告人Aにより被害弁償のための前記供託
がされていることが記録上明らかであることといった被告人Bにも酌むべき事情
が認められるので,以上の諸情状を総合考慮して主文のとおり量刑した。
6Cの個別情状
Cは,第1の各犯行において,被告人Aからの指示を受けていわば実行担当の
責任者として,犯行を敢行したものであり,犯行完遂に必要不可欠な役割を果た
したことが明白である。
,,,。しかるにCは第1の各犯行を否認しその反省の情は微塵も感じられない
また,Cは,前科10犯を有し,幾度となく服役して更生の機会が与えられた
にもかかわらず,前記累犯前科の刑執行終了後わずか1か月余りで,被告人Aの
指示を受けてためらうことなく第1の各犯行を立て続けに敢行したものであり,
その規範意識の欠如は著しく,Cの暴力団加入歴に照らせば,再犯のおそれも否
定し難い。
以上によれば,Cの刑事責任は重大である。
他方,Cは,組織内の上位者である被告人Aに指示されて各犯行に及んだもの
であること,被告人Aにより被害弁償のための前記供託がされていることが記録
上明らかであることといったCにも酌むべき事情が認められるので,以上の諸情
状を総合考慮して主文のとおり量刑した。
(求刑被告人Aにつき無期懲役,被告人Bにつき懲役15年,Cにつき懲役13
年)
平成19年3月9日
福岡地方裁判所小倉支部第1刑事部
裁判長裁判官野島秀夫
裁判官森岡孝介
裁判官中直也

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛