弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成19年12月20日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成19年(ネ)第733号損害賠償請求控訴事件
(原審・大阪地方裁判所平成17年(ワ)第4418号)
判決
控訴人(1審原告)株式会社東京データキャリ
同代表者代表取締役A
同訴訟代理人弁護士岡崎守延
被控訴人(1審被告)株式会社スタンドオフ
(商号変更前有限会社スタンドオフ)
同代表者代表取締役B
被控訴人(1審被告)C
被控訴人(1審被告)D
被控訴人(1審被告)E
上記4名訴訟代理人弁護士千森秀郎
同佐藤竜一
主文
1原判決を次のとおり変更する。
2控訴人の主位的請求を棄却する。
3(1)控訴人の予備的請求に基づき,被控訴人らは,控訴人に対し,連帯して2
67万2832円及びこれに対する被控訴人Eにつき平成17年6月2日か
ら,その余の被控訴人らにつき同月1日から支払済みまで年5分の割合によ
る金員を支払え。
(2)控訴人のその余の予備的請求を棄却する。
4訴訟費用は,第1,2審を通じ,これを10分し,その9を控訴人の負担と
し,その余を被控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2被控訴人らは,控訴人に対し,連帯して2261万4880円及び
(1)内金1729万7073円に対する被控訴人Eにつき平成17年6月2日
(訴状送達の日の翌日)から,その余の被控訴人らにつき同月1日(同左)
から,
(2)内金313万2223円に対する平成17年8月31日(2005年8月
29日付け請求の趣旨拡張申立書送達の日の翌日)から,
(3)内金8万5584円に対する平成18年8月4日(2006年7月28日
付け請求の趣旨変更申立書送達の日の翌日)から,
それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
第2事案の概要
1事案の要旨
本件は,人材派遣事業等を営む控訴人が,控訴人の元従業員である被控訴人
C,被控訴人D及び被控訴人E(以下,被控訴人Cを「被控訴人C」と,被控
訴人Dを「被控訴人D」と,被控訴人Eを「被控訴人E」といい,これら被控
訴人3名を「被控訴人ら3名」という。)並びに同人らを雇用した被控訴人株
式会社スタンドオフ(以下「被控訴人会社」という。)は,控訴人の顧客に関
する情報及び派遣スタッフに関する情報(以下,順に「顧客情報」,「派遣ス
タッフ情報」といい,両者を併せて「本件情報」という。)を使用して,控訴
人の顧客の派遣元を控訴人から被控訴人会社に変更させ,控訴人の派遣スタッ
フを被控訴人会社の派遣スタッフとして登録させたとして,かかる被控訴人ら
の行為が不正競争防止法2条1項7号(被控訴人ら3名につき)又は同項8号
(被控訴人会社につき)所定の不正競争又は不法行為に当たると主張して,主
位的に不正競争防止法4条に基づき,予備的に民法709条に基づき,損害金
2261万4880円及びこれに対する民法所定の年5分の割合による遅延損
害金の支払いを求めている事案である。
原判決は,控訴人の請求をいずれも棄却し,控訴人が本件控訴を提起したも
のである。
2前提となる事実は,原判決第2,1(2頁26行目から4頁6行目まで)記
載のとおりであるから,これを引用する。
3争点及びこれに対する当事者の主張は,次のとおり,当審における主張を付
加するほかは,原判決第2,2及び3(4頁7行目から20頁26行目まで)
記載のとおりであるから,これを引用する。
【控訴人の当審における主張】
(1)争点(1)ア(本件情報の秘密管理性)について
ア営業秘密該当性の判断基準について
(ア)当該情報の営業秘密該当性は,当該情報の具体的管理状況に基づき,
当該営業情報の性質に応じて,当該企業の営業情報の秘密保持の必要性,
秘密管理の実態と従業員の職業選択の自由を総合的に比較考量して判断
されるべきものである。
その判断に当たり,刑事罰の対象となる行為の限界が不明確となるお
それがあるとして,過度に厳格な基準をとるべきではない。不正競争防
止法が営業秘密に関して刑事罰を科す行為は,詐欺的行為,窃取,施設
への侵入,不正アクセス行為とされ,対象行為が厳密に限定されている
からである。また,従業員の職業選択の自由を過度に重視すべきではな
く,営業情報の秘密保持の必要性との比較考量によって解決すべきであ
る。
(イ)営業秘密該当性の基準として,当該情報にアクセスした者が当該情報
が営業秘密であることを認識できるようにしていることは必要であるが,
パスワードの存否などの形式的基準で決せられるべきものではなく,当
該情報の管理実態を全体的にみて,管理者の秘密保持の意思とアクセス
者のそれに対する認識可能性が肯定されれば,この基準の該当性は肯定
されるべきである。
この関係で重視されるべきは,被控訴人ら3名は,控訴人の人材派遣
部門の幹部であり,中でも,被控訴人Cは同業務の中心である所長の地
位にあり,被控訴人E及び同DはF(当時の姓は「G」。以下「F」と
いい,被控訴人ら3名とFを併せて「被控訴人ら4名」という。)を含
めて社内で4名しかいないマネージャーのうちの3名を占めていること
である。被控訴人ら3名は,控訴人における本件情報の秘密保持の必要
性をもっともよく知る者たちであり,その立場を離れて一般的に判断さ
れるべきものではない。
(ウ)また,営業秘密の該当性基準として,当該情報にアクセスできる者が
制限されていることを一般的に掲げることには問題が多い。本件情報,
とりわけ,派遣スタッフ情報の場合,控訴人の人材派遣部門の従業員の
全員がこれに日常的に頻繁にアクセスせざるを得ず,よってこの情報に
対しアクセスできる者を制限することは全く現実性を欠くから,この要
件は機械的に判断するのではなく,当該情報にアクセスできる者が業務
上必要な範囲に限定されているかどうか,業務と無関係な者がアクセス
できない体制になっているかどうかによって判断されるべきである。
イ本件情報には,顧客情報と派遣スタッフ情報が含まれるところ,それぞ
れ管理形態,使用形態が異なるから,区別して秘密管理性を論じる必要が
ある。
ウパソコン中の本件情報について
(ア)控訴人の人材派遣部門の全員がその業務の遂行のために日常的にパソ
コン中の本件情報にアクセスする必要が存在する。したがって,人材派
遣部門の従業員であれば誰でも本件情報にアクセスすることができたこ
とは問題とならない。そして,本件のようにごく少数の従業員のみが勤
務する部署で,全員が本件情報に日常的にアクセスする場合には,パス
ワードの設定を要するとするならば,形式的にすぎ合理性がない。
(イ)また,控訴人の西日本支社の従業員であれば誰でも,本件情報を閲覧
できるわけではない。人材派遣部門において4Dがインストールされた
パソコンは,他の部門とは接続されていない。他の部門の従業員が業務
の必要性を離れて本件情報にアクセスしようと思えば,人材派遣部門の
従業員の不在時を狙って行うことになるが,このような通常の業務では
およそ想定しがたいような行いを念頭に置いて,誰でも閲覧可能として
営業秘密性を否定するのは著しく観念的である。
(ウ)当該パソコン自体に営業秘密であることの外形的表示を一律かつ形式
的に求めるのは合理的でない。日常の業務処理の中で当該情報に対する
秘密管理の意思が表明,周知されていれば,その要件は満たされるとい
うべきである。
エ派遣スタッフ通知書について
(ア)派遣スタッフ通知書は,派遣スタッフ各人に対して各派遣先ごとに作
成送付されるものであって,その枚数ははなはだ多数枚に及ぶ。これら
をその都度回収することは,はなはだ煩雑であり,およそ実行不可能で
あって,秘密管理性の要件とすべきではない。
(イ)しかも,派遣スタッフ通知書は,当該派遣スタッフに対し,自身の派
遣業務のスケジュールを知らせるものであって,人材派遣業務遂行上必
要な限度で同一派遣先に勤務する他の派遣スタッフの情報の一部(氏名,
連絡先(電話番号))が記載されているにすぎない。
(ウ)控訴人は,派遣スタッフ通知書につき,派遣スタッフへの研修におい
て,派遣先に置き忘れたりしないように注意し,またシフト後は細かく
破って捨てることを指導している(原判決24,28頁,F調書32,
33頁)。過去に派遣スタッフが職場に派遣スタッフ通知書を置き忘れ
たことがあるからといって,ごく例外的に発生した問題であり,そのこ
とから直ちに秘密管理性を否定するのはあまりにも短絡的である。
なお,派遣スタッフへの研修における注意,指導は派遣前に必ずすべ
ての派遣スタッフに対して行われており,体制的に行われていたといえ,
この点に係る社内規定がないからといって,注意,指導がどの程度徹底
して行われていたか明らかでないとすることはできない。
(エ)また,派遣スタッフに対する派遣スタッフ通知書に係る注意指導は,
派遣スタッフのプライバシー保護の観点から行っていたものであるが,
このことは,派遣スタッフ通知書を適法に蓄積し競業目的に利用するな
どは本来的に想定し難いことであるから当然のことである上,本件で問
題となっているのは派遣スタッフによる営業情報の使用ではなく,被控
訴人ら4名のような会社幹部である所長・営業マネージャーの認識であ
る。被控訴人ら4名は,派遣スタッフ情報の秘密保持の必要性を十分に
認識している,少なくとも認識して当然の者たちであり,派遣スタッフ
への研修において,その秘密管理を指導していたから,それが派遣スタ
ッフのプライバシー保護を主眼にしていようとも,それと併存して当該
情報の営業情報としての秘密保持の必要性を念頭に置いていると認める
ことは何ら不合理ではない。
オ携帯電話について
(ア)携帯電話に登録された本件情報は,被控訴人ら4名の退職時に控訴人
が一時的に携帯電話を預けた事実からすると,営業秘密として管理して
いたとみることはできないとするのは失当である。
(イ)上記事実の評価に当たっては,控訴人の人材派遣部門の中枢にあった
被控訴人ら4名が一斉に退職し,しかも,退職の意思の表明がわずか1
か月前であり,控訴人がこれを了解したのが11月20日過ぎという状
態であって,到底容易とはいえないシフト配置業務をそれまで経験のな
いH支社長一人で処理せざるを得なくなったという特殊な事情を考慮す
る必要がある。しかも,被控訴人ら4名は,退職目的を偽り,控訴人を
して,被控訴人ら4名が携帯電話にある本件情報を濫用するおそれがな
いと信じさせた。
(ウ)携帯電話を託された被控訴人ら4名は,単なる「契約関係もない元従
業員」ではなく,携帯電話にある本件情報が営業秘密であることを最も
よく知る者たちであったことも軽視できない。
カロングシフトについて
(ア)H支社長は,被控訴人ら4名を含めマネージャーがロングシフトを休
日に自宅に持ち帰る業務上の必要性を踏まえた上で,これを自宅に持ち
帰ってもまた会社に戻し,廃棄することを日常的に指導していたのであ
り,単に持ち帰りを黙認していたものではない。
(イ)すなわち,H支社長は,日常的に,所長やマネージャーに,ロングシ
フトを会社に戻すよう指導しており(H調書8頁),被控訴人Cはこれ
に応じて,ロングシフトを自宅に持ち帰った場合,これを自宅で廃棄す
ることはなく,西日本支社の事務所に持ち戻して廃棄し,他の従業員に
も同様にするよう指示していた(C調書36頁)と認められる。その実
態は,秘密管理性を肯定するに十分といえる。
(ウ)ロングシフト廃棄の目的の中にプライバシー保護の観点が含まれてい
るとしても,営業秘密保持の観点とは二律背反的なものではない。ロン
グシフトには,派遣スタッフの氏名,派遣状況以外に,顧客情報並びに
控訴人の営業状況を示す事項も記載されており,企業がそれらの情報を
秘密にすることは当然の行いであり,被控訴人ら4名はそのことを最も
よく知る者たちであった。H支社長が従業員にかかる文書の取扱いを注
意していたのは,会社の営業上の秘密保持の利益も踏まえたものと観念
できるのであって,これを単に派遣スタッフのプライバシー保護のみに
限定的に解釈すべき理由は全くない。
キ控訴人の従業員に対する文書管理の指示について
(ア)H支社長は,従業員への研修並びに定例の会議の場で,顧客情報もス
タッフ情報も会社の秘密であって,外に漏らさない,流用しないことを
口頭で伝えていると述べている(H調書27頁)。このことは,Iが会
議の場などでH支社長から,「ロングシフトを自宅に持ち帰ったときも,
必ず会社に返却するように」指示され,そのようにしていた旨を述べて
いること(I調書10,11頁)によって裏付けられているほか,前記
のとおり,被控訴人Cがロングシフトを持ち戻している事実や派遣スタ
ッフへの研修の中で派遣スタッフ通知書の取扱いが必ず触れられている
事実によって裏付けられている。
(イ)このような日常的な口頭での注意,指導を正当に評価すれば,コンピ
ューターにパスワードがなくても,会社の全体的な体制として秘密管理
の要素が保持されており,本件情報の秘密管理性は肯定されるというべ
きである。
ク文書廃棄システムについて
(ア)控訴人においては,従業員からロングシフトを回収し,廃棄処分業者
に処分させていたが,このような文書廃棄システムによって廃棄するこ
とを指示していたことは,秘密管理意思の表れと評価することができる。
そして,所長である被控訴人Cをはじめとする従業員は,現実にこの指
示に従ってロングシフトを廃棄し,控訴人の秘密管理意思を認識してい
たと認められる。
なお,人材派遣部門では,派遣スタッフに送付する派遣スタッフ通知
書を除いて,ロングシフト以外には文書が発生しない。
(イ)控訴人は,文書を配布する際にその内容,枚数等を確認して配布した
うえ,事後に,この事前の確認内容と照合して配布文書を回収するなど
のシステムを整えていたものではないが,このような厳格な行いを求め
るのは誤りである。
ケ研修による従業員,派遣スタッフへの秘密管理の指示について
(ア)所長である被控訴人Cのほか,マネージャーは,前記のとおり,派遣
スタッフへの研修において,体制的に派遣スタッフ通知書の取扱いを注
意していたし,被控訴人ら4名は,この研修を主催してきた者たちにほ
かならない。
(イ)I以外の他の研修担当者が,派遣スタッフに対し,シフト終了後の派
遣スタッフ通知書の廃棄を命じていた事実が認められないとしても,被
控訴人Cも,研修において,派遣スタッフ通知書は必ず持ち帰るよう指
示していたのであり(C調書33頁),大量の派遣スタッフ通知書の回
収が甚だしく非現実的であることを考慮すると,外に放置せず自宅に持
ち帰ることは当該文書の秘密管理を指示していることにほかならず,控
訴人が被控訴人ら4名との関係で,秘密管理意思を明らかにしていたと
認めることに支障となるものではない。
コ就業規則による規制について
(ア)控訴人は,就業規則の規定のみを根拠に本件情報について秘密管理性
を肯定すべきと主張するものではない。
(イ)しかし,控訴人の就業規則は,会社の業務上機密及び会社の不利益と
なる事項を他に漏らすことを禁じ(甲32・33条(5)),会社の秘密
を漏らし損害を与えたときには制裁を科すことまで規定しており(同3
7条(5)),控訴人における「会社の業務上機密及び会社の不利益とな
る事項」に対する秘密管理意思の明確な徴表といえる。
そして,被控訴人Cは,本件退職の直前に,自ら就業規則に目を通し,
上記規定も確認しており(C調書25頁),また,人材派遣部門の一番
の責任者である所長として,本件情報が「会社の業務上機密及び会社の
不利益となる事項」に該当することを十分認識していたといえる(C2
7頁)ことは無視できない。
サ従業員に秘密保持の誓約文書の作成を求めていることについて
(ア)個人情報秘密誓約書(甲7)は,主に個人情報の保護を対象とした文
書であるが,個人情報に対する管理が適正に行われているという事実は,
翻って営業情報管理状況の推認要素になるのであって,会社の全社的情
報管理体制を踏まえて,本件情報の秘密管理性を判断すべきである。
(イ)本件情報のうち,顧客情報は「業務提携先」として上記誓約書の3条
④に,派遣スタッフの電話番号等は「人事等に関する情報」として同条
③に該当すると解釈し得る。
そして,被控訴人ら4名は,パソコンのLAN機能による事実上のア
クセス制限,研修による派遣スタッフ通知書の管理の指導,日常の業務
の場での支社長から所長ほかへのロングシフトの会社持ち戻し廃棄の指
示などにより,本件情報が控訴人にとって秘密情報であることを実際に
も認識している。特に,被控訴人ら4名は,控訴人の人材派遣部門の幹
部社員であって,本件情報が控訴人の人材派遣業務の遂行に欠かせない
重要な営業情報であることを問題なく認識していたと認められる(C調
書27頁,I調書13頁)。したがって,被控訴人ら4名については,
その地位を考慮すると,本件情報が営業秘密に含まれていないと理解す
る可能性は否定される。
(ウ)控訴人が,このような被控訴人ら4名にコンプライアンスに係る誓約
書(甲8)を示して署名を迫った行為は,本件情報の秘密管理意思の明
確な表明と評価すべきである。Cは,同誓約書のすべてに目を通し,普
通に読めばその第3条に本件情報が含まれることを認識した(C調書5
5,56頁)上,その内容が不都合であったために署名を拒んだ(同4
6,47頁)ものである。
また,控訴人は,被控訴人ら4名が退職する直前に,同人らに同誓約
書を示してその署名を迫ったものであり,被控訴人ら4名は本件競業の
事実を秘しながらこの文書を目にし,それ故にこそ署名を拒んでいる。
被控訴人ら4名が署名を拒んだとしても,控訴人が「誓約書」への署名
を求めることによって本件情報の使用禁止を求め,被控訴人ら4名がそ
の控訴人の意思を認識し,あるいは認識し得たことは優に認定できる。
このような場合にも,不正競争防止法の保護が働かないのであれば,同
法の規制は甚だしく実効性のないものとなってしまう。
シ退職時の関係文書類の返還について
(ア)本件顧客情報との関係で,取引先の担当者の名刺は重要な書類である
ところ,控訴人は,これを被控訴人ら4名に要求して厳格に返還を求め
ている。
(イ)この点に関し,Fは,退職時に控訴人から,「家にある書類などは全
部会社に戻すようにいわれてそのように実行した」「名刺も返還を求め
られて,そのように処理した」ことを述べている(F調書31頁)。こ
の事実は,控訴人における顧客情報の秘密管理意思を明確に示している
し,被控訴人ら4名がこれによってその点を明確に認識していることも
明らかである。
ス顧客情報について
(ア)上記のとおり,「各店舗を担当する信販会社の支店の担当者の氏名及
び連絡先」は,基本的にパソコンの中で管理されている。この情報は,
外部に出ることはなく,文書化されることもない。
(イ)唯一,文書の形で存在するのは,取引先から交付を受けた名刺である
が,上記のとおり,被控訴人ら4名の退職時に返還を受けている。本件
情報の中でも,とりわけ,「各店舗を担当する信販会社の支店の担当者
の氏名及び連絡先」は,被控訴人ら4名において明確に秘密情報と認識
できるものであり,現に被控訴人ら4名はこれを秘密情報と認識して行
動してきた。
セまとめ
以上の点を総合すれば,本件情報の秘密管理性は十分に肯定できる。
(2)争点(4)(被控訴人らは本件情報を使用して違法行為を行ったか(不法行
為の成否))について
ア被控訴人会社と被控訴人ら3名は,共謀の上,被控訴人ら3名が一斉に
平成16年11月末に(被控訴人Dのみ12月末)控訴人を退職するとと
もに被控訴人会社に移籍して人材派遣部門を新設し,その後,直ちに被控
訴人ら3名が控訴人の業務で得た本件情報を使用して,控訴人の取引先に
対し被控訴人会社への契約先の変更を勧めるとともに,控訴人に登録して
いる派遣スタッフの多数に被控訴人会社への登録換えを勧誘し,もって,
控訴人の取引先を被控訴人会社に変更させたものである。
控訴人は,これらの被控訴人らの行為につき,特に以下の点についてそ
の違法性を主張する。被控訴人らの行為は,自由競争の範囲内ということ
は到底できない。
イ被控訴人ら3名による在職中からの派遣スタッフへの勧誘行為
(ア)被控訴人ら3名は,仮にその全員でなくても少なくとも被控訴人Dが,
いまだ控訴人に在籍中の時点から,控訴人の派遣スタッフに対し,被控
訴人会社への登録替えを勧誘した。
(イ)上記(ア)の点は,以下のことから明らかである。
a被控訴人ら3名は,退職日である11月30日の翌日である12月
1日からいきなり被控訴人会社の人材派遣部門をスタートさせている
から,控訴人在職時点から既に開業準備行為に着手していたと容易に
認定できる。
そして,被控訴人ら4名は,退職からわずか2か月の間に,控訴人
に登録していた約30名の派遣スタッフを被控訴人会社に登録させて
いる(原判決39頁セ)のであり,併せて同時期までに本件の5件の
取引先を変更させている。
これだけ短期間の間にこれだけの営業成果を上げようと思えば,退
職時以前から,控訴人の派遣スタッフの多数を被控訴人会社に登録替
えさせてそれを前提に控訴人の取引先にセールスすることが企図され
ていたと容易に推認される。被控訴人ら3名が退職した後で,全く新
たにかかる営業方法を考えついたということはあり得ない。
また,株式会社ジャックスは,信販会社の大手であり,派遣会社の
選定に当たって一定の手順を踏んでなすシステムであると考えられる。
かかる会社が,被控訴人ら4名が退職後別会社に就職したとして営業
活動を行ったとしても,いきなり即座にそれに答えるなどとは容易に
想定し難い。被控訴人ら4名は,その退職前から株式会社ジャックス
の担当者にそれなりの打診をしていたものとして理解が可能であるし,
被控訴人ら4名はかかる取引先変更の見通しがあったからこそ,何の
実績もない被控訴人会社に移籍して人材派遣業務を新たに始めるとい
う判断に至ったものと考えられる。
b被控訴人ら4名は,被控訴人Cを除き,退職の直前に有給を大量に
使用している(甲33の1ないし4)。被控訴人Eは,11月に5日
の有給を,同Dは12月に7日の有給を,そしてFは10月に4日,
11月に2日の有給を使用している。この時期の被控訴人ら4名によ
る有給の使用頻度は異常であり(I証人調書2,3頁),このことは,
被控訴人ら4名がこれらの有給を使用して本件の開業準備行為を行っ
た事実を強く推認させる。取り分け,後記の被控訴人Dの派遣スタッ
フへの面談のように,被控訴人ら4名がこの時期に控訴人の派遣スタ
ッフに面談して被控訴人会社への移籍を勧誘したことが強く推認され
る。
なお,被控訴人Cの有給使用がないのは,同被控訴人はもともと派
遣スタッフとの接触が少なく(主に接触するのはマネージャーであ
る。),よって被控訴人Cは派遣スタッフの登録替えの勧誘をあまり
担当しなかった(C調書45頁)ことによると考えられる。
c被控訴人Dは,退職前に,控訴人の派遣スタッフを勧誘している。
このことは,12月28日18時01分のJから発信されたメールや,
Kのメール(いずれも甲29)から明らかである。後者によれば,被
控訴人Dが「先日」わざわざ「ヤマダ八幡まで来て頂いた」こと,そ
して,その際に「控訴人での仕事の今後の先行きが不安」であること,
並びに「Dさん達に着いていくこと」「ジャックスのこと」などが話
し合われたことが明白である。
右のように認められることは,甲29のメールの発信者が本件7店
舗に関して被控訴人会社に登録した者ではないとしても,何ら変わり
がない。被控訴人ら4名は,控訴人の派遣スタッフに広範に登録替え
を勧誘してわずか2か月間に30名者登録替えを実現している(原判
決39頁セ)。甲29から読み取れる勧誘は,その一環の一部である
と認められる。
そして,甲29に「Dさん達」(Kメール),「皆さん退職され
た」「最後の砦?のD」(Lメール)とあることから,被控訴人Dの
行いは他の被控訴人らとの共謀によってなされていることは明白であ
る。
ウ被控訴人ら3名の退職後の行為(その1−派遣スタッフへの勧誘行為)
(ア)被控訴人ら3名は,平成16年12月から翌年1月にかけて,多数の
控訴人派遣スタッフに被控訴人会社への登録替えを勧誘したが,その中
には既に控訴人において1月のシフト配置がされている派遣スタッフも
含まれていた。その結果,多数の派遣スタッフが1月より控訴人と連絡
を取れない事態となって,多数のシフト漏れが生じるなど1月の控訴人
のシフト配置に甚大な混乱が発生した(H調書20頁,I調書3頁)。
(イ)また,被控訴人ら3名は,控訴人派遣スタッフに対し,控訴人の取引
先がすべて被控訴人会社に変わるかのごとき虚偽の文言をもって登録替
えを勧誘した。
すなわち,控訴人派遣スタッフであったMは,今後,Fから,コジマ
電気NEW高野店の派遣会社が被控訴人会社に変わると勧誘され,Nは,
同様に控訴人派遣スタッフであったOを通じて,今後ジャックスの仕事
は被控訴人会社が全部引き受けるので,被控訴人会社に登録しなければ
仕事がなくなると勧誘されている(原判決38,39頁ク,ケ)。これ
らの勧誘は,表面に出たごく一部であり,被控訴人ら4名が同様の勧誘
行為を多数の控訴人派遣スタッフに対して行ったと推認することができ
る。
なお,Oの発言は,本件取引先変更の過程について何の知識もない派
遣スタッフの個人的意見とは到底考え難く,被控訴人ら4名がその基と
なる情報を与えたものと考えられる。同発言には株式会社ジャックスの
契約を被控訴人会社に移転させようとする被控訴人ら4名の企図が表れ
ているが,甲29のKからの受信メールにおいて,「来年,ジャックス
のことも含めてよいお知らせを期待していますので!」と述べられてい
るのは,このことと符合するし,実際にも,本件の株式会社ジャックス
を取引先とする7件は被控訴人ら3名が意図したとおり,被控訴人会社
が全部引き受けるという事態に至っている。
また,被控訴人ら4名の勧誘行為は,電話をかけたという程度のもの
(原判決46頁)にとどまるものではなく,被控訴人ら自身,P,Q,
R,S,Mには被控訴人ら4名が直接会って勧誘していることを認めて
いるし(原審における被控訴人ら第2準備書面5頁以下,F証人調書3
3頁),甲29からは被控訴人DがKに直接面談している事実,同被控
訴人がJに面談を求めている事実が認められ,被控訴人ら4名の勧誘の
面談は相当広範囲に及んでいる。さらに,被控訴人Dは,派遣スタッフ
のTに8回も執拗に電話をかけている(原判決39頁シ)。
エ被控訴人ら3名の退職後の行為(その2−取引先への勧誘行為)
(ア)被控訴人ら3名は,上記のように多数の控訴人派遣スタッフを被控訴
人会社に登録替えさせた上で,控訴人の取引先に対し,従前の控訴人の
ときと同じ派遣スタッフを派遣できることをセールスポイントにして派
遣会社の変更を求めた。
(イ)そして,被控訴人ら3名の取引先への勧誘は,幹部社員である被控訴
人ら4名の突然の一斉退職と,多数の派遣スタッフの登録替えにより控
訴人の人材派遣業務に著しい混乱が生じた状態を利用してなされた。す
なわち,被控訴人ら自身が原因を作出した事態をあたかも控訴人の営業
上の欠陥のごとく喧伝して取引先の変更を実現した。
(ウ)控訴人の人材派遣業務に生じた著しい混乱として,別紙1・12月度
シフト変更一覧表(以下「別紙一覧表」といい,個々の事例は欄外に記
載した番号で特定する。)のとおり,平成16年12月に大量のシフト
漏れが発生している(甲34)。人材派遣業務においてスタッフの配置
漏れは絶対に回避すべき事態であるから,控訴人では各月ごとに当該月
のスタッフ配置が未了な者を一覧表として表示するシステムを採用して
おり,甲34は,平成16年12月のスタッフ配置で当月当初未了で
あったもの(甲28)のうち,被控訴人ら4名に関係するものを抜き出
したものであり,機械的に作成されたものであって,信用性がある。
なお,別紙一覧表において,「シフト日」は派遣先にスタッフを派遣
する日を,「変更日」は「スタッフ(変更後)」欄に記載されたスタッフ
にシフト配置の変更がされた日を指す。「スタッフ(元)」欄に「×」と
あるのは当初のシフト配置が行われなかったことを示し,「スタッフ
(変更後)」欄に記載されたスタッフが「シフト日」に派遣されることが
「変更日」に決定され,シフト配置が新たに行われたことを意味する
(ただし,欄外に記載したとおり,その後,矢印右側の氏名の者がキャ
ンセルするなどして実際には他の者が派遣されたものを含んでいる。)。
「スタッフ(元)」欄に氏名の記載があるものは,当初のシフト配置の行
われたのが12月1日以降であるもののみを記載している。また,「変
更日」欄の日付が「シフト日」の日付より新しいもの(番号11など)
は,「変更日」欄の記載漏れが後になって発見され,補充されたもので
ある。
被控訴人らはシフト漏れの事実を争うが,前記のとおり,被控訴人E,
同D,Fは,同年11月ないし12月に前月以前に比して甚だしく大量
の有給を使用して業務を休んでいる。人材派遣業務における派遣スタッ
フのシフト配置は,時間と経験を要する作業であって簡単なものではな
い(C調書11頁)から,12月のシフト漏れが強く推認される。
具体的には,被控訴人らが12月に入ってから派遣要請があった年末
増員であると主張するもののうち,番号1,2,11,12,21,2
2,24,26,33,37,52,53,61,65,66のシフト
配置は土曜日,日曜日ないし祝日の定例派遣であり,このほか,3,4,
5,9,10,16,17,45ないし47,51,54ないし60,
62,64,67も定例派遣である。13ないし15,18ないし20,
23,25,27ないし32,34ないし36,38ないし44,48
ないし50は定例派遣ではなく,年末増員であるが,あらかじめ予想さ
れ,11月中に派遣要請があったものである。7,8は12月5日ない
し8日の4日間にスタッフ5,6名を集中的に派遣する依頼であり,突
然の追加依頼では容易には対応できず,一定の余裕を持って11月中に
派遣依頼がされたものである。63は短期間の集中的派遣依頼であり,
相当前に依頼がなされている。
(エ)また,平成17年1月のシフト配置を考察しても,「慣れないスタッ
フを派遣する」,「平成17年1月頃,原告の人材派遣については,当
日になって,突然派遣スタッフの派遣が出来なかったり,信販会社が派
遣してほしい日にスタッフを派遣できないといった事態が生じた」,
「原告は1月に回収業務に慣れた派遣スタッフが派遣される日を少なく
するシフトを組んだ」(原審における被控訴人ら第1準備書面8頁②な
いし⑤)という事態が生じた。
このようなシフト配置の混乱は,一つには被控訴人ら4名が一斉に退
職したことにより生じたものである。控訴人の人材派遣部門でシフト配
置を担当してきた所長,マネージャー計5名のうち,被控訴人ら4名が
一斉に退職し,Iのほか,それまでシフト配置の経験のないH支社長し
か担当する者がいないという状況になり,名古屋から転勤してきたUと
本社からの応援でVを含めて対応したが(H調書34頁,I調書2頁),
派遣スタッフのシフト配置は相当に知識と経験が必要である(C調書1
1頁)から,混乱が生じたことはやむを得ない。被控訴人らは,引継体
制の不十分さを理由に反論しているが,かかる突然の引継ぎを求める方
が常識にはずれている。
そして,被控訴人ら3名は,所長,マネージャーという地位からして,
退職後に控訴人においてかかるシフト配置業務の混乱という事態が出現
するであろうことを当然予想していたと認められる。Fも予想していた
ことを述べている(F調書17頁)ほか,甲29のLの送信メール
(「最後の砦?のDさんもとなると,データはガタガタや」)からもう
かがえる。
(オ)前記のシフト配置の混乱は,もう一つには,被控訴人ら4名がシフト
配置済みの派遣スタッフに被控訴人会社へ登録替えするよう勧誘したこ
とにより生じている。勧誘に応じて登録替えした派遣スタッフは,控訴
人と連絡がとれないようにし,既に控訴人においてシフト配置していて
も,連絡なくシフトを放棄し,結果として当日になって突然派遣スタッ
フの派遣ができなかったという事態に至った。かかる点につき,被控訴
人らの責任が大きいことはいうまでもなく,これは控訴人に対する明白
な営業妨害行為である。
(カ)以上のような混乱を利用したこと,これにより本件取引先の変更に
至ったことは,被控訴人らは自認するところであり(原審における被控
訴人ら第1準備書面8,9頁),被控訴人Cも「1月に入って,控訴人
のシフト配置が,適材適所の配置もなく・・・初めての新人を投入す
る」などが,派遣会社変更の「大きな」原因であると述べている(C調
書15頁)。
(キ)被控訴人ら4名の勧誘行為で見逃せないのは,被控訴人ら4名が取引
先に対し,「従前と同じ派遣スタッフを配置できる」ことを積極的にセ
ールスポイントとした点である。
原判決は,取引先にとって特定の派遣スタッフの派遣希望が例外的な
ものであると判示するが(46頁),誤りである。ミドリ電化尼崎店,
伊丹店はこれまで派遣されたことのあるスタッフでないと受け入れない
ことを表明してきた店舗であり(I調書4頁),被控訴人らは,株式会
社ジャックスのW支店長に対し,もともといたスタッフをそのまま使う
という条件を提示して派遣会社の変更を実現させたものである(H調書
19頁,I調書4頁)。また,コジマNEW高野店も,被控訴人C自身
が「慣れた者の配置がされなくなっているのが,店舗が変わった理由」
であることを自認しているし(C調書19頁),さらに,株式会社ジャ
ックス神戸支店契約書回収業務についても,被控訴人ら自身が同旨を認
めている(原審における被控訴人ら第1準備書面9頁⑤)とおりである。
現実に本件7か所の移転した取引先をみても,原判決40,41頁にあ
るとおり,その全てにそれまでの控訴人派遣スタッフが配置されている
事実が認められるのみならず,移転した7か所はそれまでの控訴人派遣
スタッフが占める割合が相当に高い。逆に言えば,被控訴人等において
従前の各店舗担当の控訴人派遣スタッフの登録替えを確保できた取引先
が,被控訴人会社に移転されている傾向が顕著である。
仮に,例外的であるかどうかをさておくとしても,本件では被控訴人
らは慣れたスタッフの派遣をセールスポイントして営業活動を行い,慣
れた派遣スタッフの派遣を原因として取引先の変更が行われた事実が認
められるから,被控訴人らの行為は控訴人に対する営業妨害として違法
性を肯定されるべきである。
オ退職直後の携帯電話の一時的預託によるフォロー業務について
フォロー業務は,被控訴人ら4名の唐突な退職により大きな業務上の混
乱が予想された以上,被控訴人ら4名の幹部社員としての地位からして条
理上,従業員に求められる行為といえる。また,その期間はせいぜい1週
間程度であった。このごくわずかなフォロー業務によって,以後の被控訴
人ら4名の行為の違法性が阻却されることには到底ならない。
【被控訴人らの当審における主張】
(1)争点(1)ア(本件情報の秘密管理性)について
ア「秘密管理」とは,当該営業秘密について,従業員,外部者から,認識
可能な程度に客観的に秘密の管理状態を維持されていることが前提として
必要とされるから,本件情報についても,客観的な管理状況がどのような
ものであったかが,秘密管理性を判断する上で重要であるところ,本件情
報の具体的な管理状況に照らせば,秘密管理がされていたとはいえない。
イ派遣スタッフ通知書や携帯電話などの情報保管媒体の管理状況からする
と,控訴人には本件情報について秘密管理の意思があったということはで
きない。
ウ被控訴人ら4名の認識においても,本件情報が営業秘密として管理され
ていることの認識可能性があったとはいえない。
エ以上の点を各媒体等について具体的に検討すると,次のとおりである。
(ア)パソコン中の本件情報について
営業秘密の秘密管理性の判断に当たり,アクセス者が制限されている
か否かという基準は裁判例や解釈上,定着しているものであり,本件情
報については,アクセス者が制限されている事実は認められない。パソ
コン中の情報については,パスワードを設定することは容易であり,現
実に企業一般で行われていることであるが,その設定がなかった。それ
ばかりでなく,事務所に遊びに来ていた派遣スタッフもアクセスできて
いたというのであり,かかる状況からも,アクセス制限がされていない
ことは明らかであり,控訴人西日本支社の人間であれば誰でも閲覧可能
であった。
(イ)派遣スタッフ通知書について
派遣スタッフ通知書には,本件派遣スタッフ情報のみならず,顧客情
報も記載され,本件で問題となっている情報のほとんどが記載されてい
た。月ごと,店舗ごとに各派遣スタッフに配布されるところ,用済み後
に各派遣スタッフから回収する措置は一切執られていなかった(H証人
調書26,27頁)。
また,控訴人においては,派遣スタッフ通知書の取扱いを定めた社内
規定は整備されておらず(C調書6頁),かかる状況からすると,派遣
スタッフへの注意,指導を体制的に行ってきたとは到底いえない。
派遣スタッフ通知書に関する研修が就労前に行われていた事実はなく
(C9頁),普段からの口頭指導はあったにしろ,体制的なものとはい
えないし,派遣スタッフのプライバシーを部外者から保護する観点から
されているにすぎず(I調書8,9頁),控訴人における派遣スタッフ
通知書の取扱指導は実効性のあるものではなかった(H調書28頁)。
(ウ)携帯電話について
控訴人は,被控訴人ら4名に携帯電話を一時預託したが,退職して契
約関係もなくなった元従業員に対して本件情報の一部の保管媒体の管理
をゆだねていたのであるから,このような場合に本件情報について秘密
管理がなされていたとは到底いえない。
(エ)ロングシフトについて
ロングシフトにどの範囲の情報が掲載されていたのか,必ずしも明ら
かでないが,ロングシフトの取扱がどのようなものであれ,パソコン,
派遣スタッフ通知書及び携帯電話の管理状況からすると,本件情報の秘
密管理性の判断には影響しない。また,ロングシフトの社内での廃棄が
励行されていた事実はない(F調書30頁)。
(オ)控訴人の従業員に対する文書管理の指示について
H支社長は,顧客情報や派遣スタッフ情報に関して,日常的に口頭指
示をすることはなかった(C調書9頁,F調書7頁)。H支社長自身,
口頭による文書管理の指示が効果を挙げていなかったことを認めており
(H調書28頁),派遣スタッフ通知書や携帯電話等,本件情報の保管
媒体の管理実態からも到底秘密管理ができていたとはいえないから,H
支社長から従業員に対して日常的な文書管理の指示がなされていたとは
認定できない。
(カ)文書廃棄システムについて
控訴人の主張する文書廃棄システムは,営業秘密が記載された文書を
廃棄するためのシステムではなく,業務上生じた様々な文書を重要度に
よって溶解処分ないし焼却処分するというにすぎず,およそどの会社で
も行っている文書廃棄と異なるものではない。したがって,文書廃棄シ
ステムを理由として秘密管理性を認めることはできない。
(キ)研修による従業員,派遣スタッフへの秘密管理の指示について
被控訴人Cは,個人情報保護の観点から秘密保持の徹底を図るという
ことはあっても,顧客情報や派遣社員に関する情報につき社員に研修を
行うことはなかったと述べているとおり,控訴人においては,個人情報
保護の観点から情報管理について注意を喚起するようなことはあっても,
営業秘密の観点から情報管理の徹底が図られることはなかった。また,
I以外の研修担当者が派遣スタッフにシフト終了後の派遣スタッフ通知
書の廃棄を命じていたことも,それを実行あらしめる措置が執られてい
たことも認められない。
(ク)就業規則による規制について
本件情報の客観的な管理状況に照らせば,就業規則の規程のみでは本
件情報にアクセスした者が,本件情報につき営業秘密に該当することを
認識できたとは認められない。
(ケ)従業員に秘密保持の誓約文書の作成を求めていることについて
a控訴人は,個人情報秘密誓約書(甲7)について,個人情報保護
の趣旨で求めているものであるとしても,個人情報に対する管理が適
正に行われているという事実は,営業秘密の適正管理も推認させると
主張するが,かかる推認は間接的で弱いものである。
bまた,控訴人は,被控訴人ら4名にコンプライアンスに係る誓約書
(甲8)を示して署名を迫った行為は,本件情報の秘密管理意思の明
確な表明と評価すべきであると主張するが,被控訴人ら4名が本件情
報を営業秘密であると認識していたことを前提としている点で誤って
いる。すなわち,派遣スタッフ通知書の取扱いや,派遣スタッフ通知
書について苦情申立てがあった際のH支社長の対応(電話番号の掲載
についての申し出があってもこれに対応しなかったこと)から考える
と,控訴人においては誰も本件情報を営業秘密であると認識していな
かったということができる。また,同誓約書3条各号は,抽象的な定
めであり,これの中に本件情報が含まれるのか否かを判断することは
容易ではない。
したがって,控訴人が同誓約書を提示して被控訴人ら4名に署名を
求めたとしても,そのことにより被控訴人ら4名が本件情報を営業秘
密であると認識したことにはならない。
cまた,控訴人がコンプライアンスに係る誓約書(甲8)に署名を求
めたからといって,それが秘密管理意思の表明であるとはいえない。
すなわち,同誓約書は,控訴人から被控訴人ら4名にその内容を説明
し署名を求めたのではなく,単に机の上に置くなどして配布し,それ
を事務的に回収したにすぎない(C調書45頁,F調書27頁,H調
書43頁)。控訴人では,誰がこの誓約書に署名をしたのか責任者で
あるH支社長が把握する体制になっておらず,被控訴人ら4名が署名
していないことを本件紛争発覚まで気付かないまま推移し,被控訴人
ら4名が署名しない理由も尋ねなかった(H調書42,43頁)。
(コ)退職時の携帯電話,関係文書類の返還について
企業退職時に関係書類を返還するのは当然のことであり,本件情報の
秘密管理性とは関連性が極めて薄い。
(2)争点(2)(被控訴人ら3名は本件情報を不正に使用又は開示したか)につ
いて
ア派遣スタッフへの働きかけについて
被控訴人ら4名は,本件情報を使用して派遣スタッフの勧誘を行った事
実は全くない。各派遣スタッフは,他のスタッフの連絡先が記載された派
遣スタッフ通知書を持っていたこと,各派遣スタッフの中には仲のよいグ
ループがあり相互に連絡を取り合っていたこと(F調書15頁,I調書1
8,19頁)からすると,被控訴人ら4名は個人的に連絡先を知っている
派遣スタッフに連絡を取りさえすれば,その他の者にも容易に連絡を取る
ことができる状況にあった(F15頁)。
イ信販会社への営業活動について
被控訴人ら4名が営業活動を行うに当たって,本件情報を使用する必要
性は全くなかった。すなわち,個別の派遣先店舗において人材派遣が必要
となっているという情報は,信販会社と基本契約を締結した被控訴人会社
が当然開示してもらえる情報であり,本件情報を使用する必要性はなかっ
た。
(3)争点(4)(被控訴人らは本件情報を使用して違法行為を行ったか(不法行
為の成否))について
ア被控訴人ら3名の在職中の行為について
(ア)被控訴人ら4名の行為について
被控訴人ら4名は,退職前に開業準備行為を一切行っていない。控訴
人は,被控訴人ら4名が退職した後の事実から退職前の開業準備行為を
推認できると主張するが,誤りである。
すなわち,被控訴人会社の人材派遣部門がスタートした平成16年1
2月1日の時点では,全く事業の方向性等が決まっていない状況であっ
て,被控訴人会社への派遣スタッフの登録が行われたのはおおむね平成
17年1月以降であり,信販会社と基本契約を締結できたのが平成17
年1月14日になってからであった(C調書43頁)。
また,被控訴人Eが退職前に有給を使用した事実から,同人が退職前
に開業準備行為を行っていたと推認することは全くできない。
(イ)被控訴人Dの退職前の派遣スタッフの勧誘行為について
a控訴人は,甲29のメール記録から被控訴人Dの退職前の勧誘行為
が認められると主張するが,返信メールの文案から被控訴人Dが送信
したメールの要件及び被控訴人Dの行動を推測すること自体に無理が
あり,控訴人主張とは異なった読み方が可能である。
bKのメールは,単に退職のあいさつをした被控訴人Dに対して,同
人の将来を慮って,退職後に人材派遣の仕事をするのであれば,また
その時は声をかけてほしいと希望を述べただけであるとも考えられる。
派遣スタッフにしてみれば,複数に登録していれば派遣のチャンスが
広がるのであるから(C22頁),Kから声をかけることも十分考え
られるのである。また,同メールの受信日である12月28日は,ジ
ャックスと被控訴人会社との間の労働者派遣に係る基本契約がまだ締
結すらできていない時期であり,ジャックスなどの業務が被控訴人会
社に移動する可能性を被控訴人Dが示唆することはあり得ない。単に,
被控訴人Dが退職後もジャックスを相手に仕事をするかもしれないと
の可能性を示唆し,その点についてKが励ましの言葉を述べただけで
あると考えられる。
イ被控訴人ら3名の退職後の行為(その1−派遣スタッフへの勧誘行為)
(ア)被控訴人ら3名の勧誘文言について
被控訴人ら3名が事実に反することを述べたという証拠はない。Oが
Nに「今後,株式会社ジャックスの仕事は被控訴人会社が全部引き受け
るので,被控訴人会社に登録しなければ仕事がなくなる。」と言ったこ
とをIが聞いたという点であるが,その旨のIの証言は二重の伝聞であ
り,その信用性を極めて低い。たとえ,Oの供述があったとしても,そ
れはOの個人的意見と考えられる。
控訴人は,甲29のメールを援用してOの発言が被控訴人ら4名の情
報提供を受けてなされたものと認められるとするが,前記のとおり,メ
ール文書から被控訴人ら4名の行動を推認することは無理である。メー
ルが作成された時期(平成17年12月28日)にはいまだジャックス
との基本契約さえ締結していないのであるから,時期的な点からも,被
控訴人ら3名の派遣スタッフへの働きかけを立証することはできない。
(イ)執拗な勧誘をしたとは認められないこと
控訴人は,IがTから「被控訴人Dから8回も被控訴人会社に登録す
るようにとの勧誘の電話を受けた」と聞いた事実から,被控訴人Dがは
なはだ執拗に勧誘を繰り返したと主張するが,これに沿うIの証言は伝
聞であり,その信用性は低い。また,I証人は,平成17年度中に8回
勧誘を受けたと平成18年3月に聞いたと述べるのみであって,Tが被
控訴人Dから勧誘を受けた具体的時期,期間,その態様は一切不明であ
る。したがって,被控訴人Dがはなはだ執拗な勧誘を繰り返したと認め
ることはできない。
(ウ)控訴人は,被控訴人ら4名が派遣スタッフに面談した事実があり,電
話をかけた程度ではないと主張するが,Fが派遣スタッフのうち何人か
と退職のあいさつのため面談したことはあるが,控訴人主張のような態
様での勧誘行為は行っていない。
(エ)以上のほか,被控訴人ら3名の退職後の行為については,被控訴人ら
3名のうちの誰の,どのような行為が事実に反することを述べたのか,
あるいはどのような態様によりいつ頃執拗に勧誘を繰り返したのか,全
く特定されていないから,被控訴人ら3名の退職後の派遣スタッフへの
勧誘行為に問題があったとする主張は理由がない。
ウ被控訴人ら3名の退職後の行為(その2−取引先への勧誘行為)につい

(ア)控訴人の平成16年12月のシフト配置について
平成16年12月に大量のシフト漏れが生じた事実はなく,控訴人が
主張の根拠とする甲34には全く信用性がない。また,控訴人は,被控
訴人E,同D,Fの有給休暇の取得からシフト漏れが窺われると主張す
るが,有給休暇の取得とシフト漏れの発生は何ら関連性がない。
甲34については,①それ自体,不備が多く信用性がないし(「スタ
ッフ(元)」欄に氏名の記載があるもの,「変更日」欄の日付が「シフト
日」の日付より新しいものないし11月中の日付となっているもの,派
遣されたスタッフが甲35ないし63〔枝番があるものは枝番を含
む。〕と符合していないものが見られる。),②甲34を,被控訴人ら
4名と関係のないシフト配置漏れを含んでいたとする甲28と比較する
と,被控訴人ら4名と関係のない多数のシフト配置漏れの存在がうかが
われることなどを指摘することができる。
なお,別紙一覧表については,被控訴人ら4名の記憶では,番号1,
2,11ないし15,18ないし37,48ないし50,52,53,
61,65は12月に入り派遣依頼がされた年末増員であり,7,8,
57は12月に入り追加依頼がされたものである。4ないし6はいまだ
在職中の被控訴人Dがシフト配置を担当しており,55,56,58な
いし60はFが穴埋めをしている(乙7)。
(イ)控訴人の平成17年1月のシフト配置について
控訴人において平成17年1月にシフト配置の混乱が生じたことは,
控訴人の責任であって,被控訴人らの責任ではない。被控訴人ら4名は,
退職表明後,H支社長に何度も引継ぎの時間を取るよう求めたにもかか
わらず,H支社長はこの時間をなかなか取ろうとせず,わずか1日1時
間か1時間半程度の時間しか取らなかった(C調書10頁,H調書33
頁)。被控訴人ら4名は,これでは不十分だと考え,文書による引き継
ぎ資料を作成して控訴人に渡した(C11頁)。H支社長は,自らの引
継体制の不十分さを補うため,被控訴人ら4名に退職後に携帯電話を
持ってもらって,シフトに穴が開いた場合等のフォロー業務をしてもら
いたい旨申し出,被控訴人C,同E,Fらはこれに応じた(C調書11,
12頁,F調書9頁,H調書35頁)。
また,被控訴人会社に登録替えした派遣スタッフが控訴人と連絡が取
れないよう行動したと主張している点については,係る事実自体が十分
立証されていないことに加え,それが被控訴人ら4名の責任であるとい
う点については証拠がない。
以上のとおり,控訴人が,平成17年1月にシフト配置の混乱が生じ
た原因が,被控訴人らの責任であるとし,その混乱を充分認識した上,
積極的に営業に利用したと主張する点は,その前提が誤っており,控訴
人の主張には全く理由がない。
(ウ)被控訴人ら4名の取引先への営業活動について
控訴人は,被控訴人ら4名の営業活動態様につき,従前と同じ派遣ス
タッフを配置できることをセールスポイントとして売り込んだものであ
るとし,これが控訴人に対する営業妨害活動であると主張する。
しかしながら,派遣スタッフが各電器店で行う仕事は,クレジットカ
ードの勧誘やクレジットローン契約の締結業務なのであり,仕事内容が
各店舗で変わるものではない(C調書17頁)。また,各派遣スタッフ
は,研修を受けた後,電器店の各店舗に派遣されるので,誰かが都合で
休むような場合は,代わりに派遣される(穴を埋める)ことがよくあり,
派遣スタッフとして働くこと自体が短い場合が多く,大多数のものは1
年未満にすぎない(C調書17頁)。これらからすると,例外的に店舗
とのつながりが強い派遣スタッフは存在するものの,大多数のものは店
舗とのつながりが強いわけではない(H調書30頁)。控訴人が掲げる
株式会社ジャックス神戸支店契約書回収業務などは例外的な場合であり,
信販会社の方が被控訴人会社に要望してきたものであり,被控訴人会社
が特定の派遣スタッフを配置できることをセールスポイントとして営業
活動を行ったわけではない。
(エ)被控訴人ら4名のフォロー業務について
控訴人は,被控訴人ら4名が平成16年12月のシフト配置漏れを故
意に作出したものであると主張しているが,12月のシフト配置漏れを
故意にもたらそうとするなら,退職後に控訴人のフォロー業務を行うは
ずがない。フォロー業務を行ったのではシフト配置漏れを故意にもたら
した意味がなくなるからである。同様のことは,平成17年1月のシフ
ト配置についても当てはまる。
被控訴人C,同E及びFがフォロー業務を行ったことは,同人らの行
為が不法行為に該当しないことを端的に示す事実である。
第3当裁判所の判断
1争点(1)(本件情報の秘密管理性)について
(1)認定事実
次に付加するほか,原判決第3,1(2)(21頁10行目から27頁4行
目まで)記載のとおり認められるから,これを引用する。
ア認定に供する証拠にI証人を加える。
イ本件情報の保管媒体①(パソコン)のアクセスにつき,派遣スタッフの
中に,当該パソコンを操作した者がいたが,注意したマネージャーはいな
かった(乙5,F調書2,3頁)。
ウ本件情報の保管媒体②(ロングシフト)の管理につき,H支社長は,自
宅への持ち帰りを容認するとともに,ロングシフトを会社に戻すよう指導
しており(H調書8頁),被控訴人Cはこれに応じて,ロングシフトを自
宅に持ち帰った場合,これを自宅で廃棄することはなく,西日本支社の事
務所に持ち戻して廃棄し,他の従業員にも同様にするよう指示していた
(C調書36頁)。
エ本件情報の保管媒体③(派遣スタッフ通知書)の管理につき,これを置
き忘れないようにと,派遣スタッフに対する研修において,被控訴人Cの
ほか,マネージャーが注意しており,また,Iは細かく破って捨てるよう
にとも指示していた(I調書8,9頁)。
オ本件情報の保管媒体④(携帯電話)の管理につき,被控訴人C,同E及
びFは平成16年12月7日ころ当該携帯電話を返却し,業務フォローを
行った期間は約7日間であった。
カコンプライアンスに係る誓約書(甲8)につき,被控訴人Cは,同誓約
書のすべてに目を通し,6条の在職中及び退職後2年間の競業避止義務が
目にとまり,退職後の就職に不都合があると考え,署名をせず,他のマネ
ージャーにも署名しなくていいと言い(C調書46,47頁),また,普
通に読めばその3条に本件情報が含まれることを認識した(同55,56
頁)。
(2)本件情報の秘密管理性につき,上記認定事実に基づいて検討するに,当裁
判所もこれを認めることができないと考える。
その理由は,控訴人主張にかんがみ,次に付加するほか,原判決第3,1
(4)ないし(6)(27頁15行目から36頁4行目まで)記載のとおりである
から,これを引用する。
ア本件情報は,控訴人西日本支社の人材派遣部門のパソコンに保存されて
いたものであり,同パソコンを立ち上げるためのパスワードの設定はされ
ていなかったところ,人材派遣部門のパソコンは他部門のパソコンとは接
続されておらず,他の部門の従業員は,人材派遣部門のパソコンを利用し
ない限り,本件情報にアクセスすることはできず,他の部門の従業員が人
材派遣部門のパソコンを利用する業務上の必要性があったとは通常,認め
難いから,パソコン中の本件情報に日常的にアクセスするのは,控訴人西
日本支社の人材派遣部門の従業員7名ないし9名に限られていたとみるこ
とができるが,前記認定のとおり,それ以外の者のアクセスも可能であっ
たのであり,現にアクセスした派遣スタッフがいたのにこれを阻止しな
かったことは管理上の不適切さを示している。そうすると,パソコンを立
ち上げるためのパスワードが設定されておらず,また,人材派遣の部署は,
他部署と同じフロアーにあって,遮蔽等されておらず,上記の7名ないし
9名以外の者のアクセスが可能で,派遣スタッフがアクセスしたのを阻止
しなかったことも併せ考慮すると,管理が十分ではなかったというべきで
ある。
イ本件情報のうち,派遣スタッフのシフト配置に必要な情報はロングシフ
トに記載され,各マネージャーは必要に応じて担当地域のロングシフトを
所持しており,被控訴人Cも人材派遣センター所長としてシフト管理を行
う必要から,同様にロングシフトを所持していた。シフト配置は,会社が
休日の場合にも行わざるを得ない場合があり,被控訴人C及び各マネージ
ャーは,ロングシフトを自宅に持ち帰ることがあり,H支社長はこれを容
認していたがロングシフトを会社に戻すよう指導し,被控訴人Cはマネー
ジャーに対し同様の指導をし,自身,会社に戻しており,会社に戻された
ロングシフトは,控訴人において,焼却処分ないし溶解処分により処理さ
れていたが,同被控訴人以外のマネージャーが会社に戻していたかは明ら
かでない。そうすると,ロングシフトの管理が一定程度されていたといえ
るものの,徹底されていなかったというべきである。
ウ控訴人では,派遣店舗ごと,月ごとに,派遣スタッフ通知書を作成して
各派遣スタッフに配布していたが,派遣スタッフ通知書には,本件情報の
うち,当該店舗に当該月にシフト配置される派遣スタッフ全員の氏名及び
携帯電話番号,各店舗を担当する信販会社支店担当者の氏名及び連絡先が
記載されていた。自己のみならず,他の派遣スタッフの氏名・連絡先が記
載された派遣スタッフ通知書が各派遣スタッフに配布されていたのは,同
一店舗に向かう派遣スタッフがタクシーを利用するとき,待ち合わせて1
台で向かうよう連絡を取ったり,当週の派遣スタッフが前週の派遣スタッ
フからの引継ぎを受けるべく連絡を取ったりするなどの業務上の必要性に
基づくものであった(C調書33,34頁)。
上記情報は,本件情報の一部であり,各派遣スタッフに開示されていた
ことになり,派遣スタッフに対する研修において,所長である被控訴人C
のほか,マネージャー(被控訴人E,同D,Fを含む。)から派遣スタッ
フ通知書を置き忘れないようにと注意されていたが,派遣スタッフ通知書
の回収まではされていなかった。
そうすると,派遣スタッフ通知書の取扱いについての社内規定がなかっ
たところ,派遣スタッフ通知書が回収されていなかったことは重大であり,
各派遣スタッフに開示された情報は,顧客情報,派遣スタッフ情報の双方
の重要部分を含み,量的には一部であるものの,蓄積すれば一定の量とな
るものであって,その管理が杜撰であったというべきであり,本件情報の
秘密管理性を否定する事実というべきである。
エコンプライアンスに係る誓約書(甲8)においては,3条(秘密保持の
誓約)に「貴社秘密管理規程を遵守し,次に示される貴社の調査上または
営業上の情報(以下「秘密情報」という)について,貴社の許可なく,如
何なる方法をもってしても,開示,漏洩もしくは使用しないことを約束致
します。」として,「①業務に係わる企画,資料,調査等の情報,②取引
先関係者の一切の個人情報,③財務,人事等に関する情報,④他社との業
務提携に関する情報,⑤上司または営業秘密等管理責任者により秘密情報
として指定された情報,⑥以上のほか,貴社が特に秘密保持対象として指
定した情報」が列挙されてはいるが,秘密保持を要する情報を特定するた
めの規定としては概括的,抽象的すぎる上,同条所定の秘密管理規程も実
際には存在せず,結局,被控訴人らは,その署名に応じていないこと,ま
た,控訴人の就業規則にしても,「社員は服務の遂行にあたっては,常に
次の事項を守り業務に精励しなければならない。」として,「(5)会社
の業務上機密および会社の不利益となる事項を他に漏らさないこと」とす
る抽象的な定めがあるにとどまっていることからすれば,上記誓約書等を
もって秘密管理性を肯定する積極的な根拠とまではできない。
オ以上のとおりであって,控訴人の当審主張を考慮して検討を加えても,
本件情報の秘密管理性を肯定することはできない。
(3)よって,控訴人の主位的請求は,その余の点について判断するまでもなく,
理由がない。
2争点(4)(被控訴人らは本件情報を使用して違法行為を行ったか(不法行為
の成否))について
(1)認定事実
ア原判決第3,2(1)(36頁23行目から41頁末行まで)記載のとお
り認められるから,これを引用する。
イまた,前記認定事実並びに証拠(甲34ないし63〔枝番があるものは
枝番を含む。〕,65,乙4,7,証人H,同I,同F,被控訴人C)及
び弁論の全趣旨によれば,次の事実も認められる。
(ア)控訴人においては,派遣先店舗への派遣スタッフの配置は,前月末ま
でに行われ,月ごと,店舗ごとに派遣スタッフ通知書に記載され,派遣
依頼先(顧客である派遣依頼者をいう。以下同じ。)及び派遣スタッフ
に通知されていたが,平成16年12月分のシフト配置のうち,別紙一
覧表のうち,別紙2のものは,被控訴人ら4名が扱ったものであり,前
月(平成16年11月)に派遣要請が行われたが,前月末段階ではシフ
ト配置がされず,処理が漏れていたものである。これらのほとんどが控
訴人の顧客であった株式会社ジャックスの各支店からの派遣要請に係る
ものであり,これらの支店の中には,本件5店舗を派遣先とする大阪カ
ードファイナンスセンター,神戸支店が含まれている。
上記配置漏れに対しては,同年12月初め以降,派遣依頼先からこう
いうことでは困るという苦情があった(F調書16,17頁)。
(イ)控訴人の平成17年1月のスタッフ配置においては,正確なシフト配
置がなされず,慣れないスタッフを派遣するとか,派遣当日になって突
然派遣スタッフの派遣ができなかったり,信販会社が派遣してほしい日
にちにスタッフを派遣できないといった事態が生じた。このことは,株
式会社ジャックスに係る本件5店舗について,控訴人との人材派遣契約
が打ち切られ,被控訴人会社に切り替えられる重要な一因となった。
右のような事態が生じたのは,被控訴人ら4名が相次いで控訴人を退
職し,シフト配置を行うマネージャーとして従前から勤務する者がI一
人となり,マネージャーの後任者を関西以外の地域から急拠,転勤させ
たことなどによるものと認められる。
(ウ)被控訴人ら4名は,被控訴人Dを含め,遅くとも平成16年12月こ
ろから,控訴人派遣スタッフに対する被控訴人会社への登録の勧誘を開
始し,平成17年1月末には約30名の控訴人派遣スタッフが被控訴人
会社に登録したが,これは当時の被控訴人会社の派遣スタッフのほぼす
べてを構成するものであった。
被控訴人Dは,平成16年12月にはまだ控訴人に在職していたが,
退職前である同月中に,Kと面談し,被控訴人会社への登録を勧誘した
ほか,Jにも面談を求めている(甲29)。そして,時期は必ずしも明
らかではないが,被控訴人Dは平成17年中,Tに8回電話をかけ,被
控訴人会社に登録するよう勧誘した。
また,Fは,平成16年12月,P,Q,R,S,Mに面談して被控
訴人会社への登録を勧誘した(原審における被控訴人ら第2準備書面5
頁以下,F調書33頁)。
(エ)株式会社ジャックス神戸支店が派遣依頼する派遣先のうち,ミドリ電
化伊丹店,同JR尼崎駅前店は,これらの店舗への派遣経験者を強く要
望する派遣先であり(I調書4頁),株式会社ジャックス神戸支店の契
約書回収業務は同業務に慣れた経験者がふさわしく,同業務への派遣会
社が変更されたのは,控訴人が平成17年1月に同業務に慣れた派遣ス
タッフを派遣する日を少なくするシフトを組んだからであり(原審にお
ける被控訴人第1準備書面9頁⑤),また,コジマNew高野店への派
遣会社が変更されたのは同月に慣れた者の配置がされなかったことによ
る(C調書19頁)。
(オ)被控訴人ら4名は,ジャックス神戸支店のW支店長への営業活動に当
たり,もともと控訴人にいた派遣スタッフをそのまま使うことをセール
スポイントの一つとして派遣会社を被控訴人会社とするよう,売り込ん
だ上,同支店の管轄する派遣先への派遣会社の変更を得ている。
コジマNew高野店及びミドリ電化堺店は,同支店の管轄する派遣先
ではないものの,同様の営業活動がされたものと推認される。
ウ控訴人の主張について
(ア)控訴人は,被控訴人ら4名が平成16年12月に前記イ(ア)認定の
ものに限らず,別紙一覧表のとおり,シフト漏れを生じさせていたと主
張する。
しかしながら,顧客による派遣依頼の時期を具体的に明らかにする証
拠はなく,派遣実績からみて派遣依頼が前月末までにされたものの,前
月末までにシフト配置がされなかったと合理的に推認し,認定し得るの
は前記イ(ア)のものである。12月27日以降の年末増員については
前年度の実績等も明らかではなく,顧客があらかじめ予想をたてて前月
末までに派遣依頼を行うのが当然とまで断定するには躊躇せざるを得な
い。
(イ)控訴人は,被控訴人ら3名が控訴人派遣スタッフに対し,控訴人の取
引先がすべて被控訴人会社に変わるかのごとき虚偽の文言をもって登録
替えを勧誘したと主張し,FはMに対し「コジマ電気NEW高野店の派
遣会社が被控訴人会社に変わる」と,OはNに対し「今後ジャックスの
仕事は被控訴人会社が全部引き受ける」と勧誘したと主張する。
しかしながら,FがMを勧誘したのは平成16年12月からであると
認められるが(F調書33頁),上記文言を申し受けたのも平成16年
12月であったか否かはFの証言からでは明らかではなく,平成17年
1月中旬以降であれば必ずしも誤りではないということができる。また,
OがNに上記文言を申し向けたのは被控訴人ら4名の意向に基づくもの
と推測されるが,その時期は明らかではなく,平成17年中旬以降であ
るとすると,本件5店舗の派遣会社が被控訴人に変更される見込みと
なっていたから,誇張を含むとはいえるものの,必ずしも虚偽とは断じ
得ない。
エ被控訴人らの主張について
(ア)平成16年12月に大量のシフト漏れが生じた事実はなく,別紙一覧
表のシフト漏れが生じたとする甲34は信用性がないと主張する。
しかしながら,別紙一覧表のうち,土曜日,日曜日ないし祝日に係る
別紙2のものは,被控訴人ら4名が年末増員であるか,Fが同月に穴埋
めした記憶があると主張するものであるから(乙7),同月に入って初
めてシフト配置されたものと認められる。そして,電器店は土曜日,日
曜日のシフトがメインであり(F調書12頁),これらは対応する店舗
への同月11月,12月の派遣実績(甲35,40,45∼48,50,
55,56,58,60〔いずれも枝番を含む。〕)に照らしてみても,
曜日等の関係から定例派遣とみるのが自然であるから,同年11月中に
派遣依頼があったと推認することができるし,電器店にとってはメイン
のシフトであるから,これらが当初のシフト配置から漏れたことは被控
訴人ら4名が故意又は重大な過失によりシフト配置を怠ったものと推認
される。
なお,被控訴人らは,甲34は不備もあり全く信用性がないと主張す
るが,平成16年12月初め以降,派遣依頼先からシフト配置漏れに関
しこういうことでは困るという苦情があったと認められ(F調書16,
17頁),一定程度,シフト配置漏れが生じていたことはうかがわれる
ことを考慮すると,少なくとも,上記認定の限度では甲34は信用でき
るというべきである。
また,被控訴人らは,甲34を,被控訴人ら4名と関係のないシフト
配置漏れを含んでいたとする甲28と比較すると,被控訴人ら4名と関
係のない多数のシフト配置漏れの存在がうかがわれるなどと指摘する。
この点,確かに,甲34には姫路営業所関係のものが多数含まれてい
るが(甲65,乙6),姫路営業所は平成16年10月に立ち上げられ
た営業所であること(I調書2頁)からすると,被控訴人ら4名と同列
に論じ得るか疑問である上,上記認定のとおり,派遣依頼先からの苦情
が寄せられていたことからすると,被控訴人ら4名の行った12月分の
シフト配置に問題がなかったとすることはできない。
さらに,被控訴人らは,被控訴人ら4名がフォロー業務を行ったこと
などを考慮すると,故意にシフト配置漏れを生じさせたことはあり得な
いと主張する。
しかしながら,平成16年11月末で退職した被控訴人C,同E,F
がH支社長からフォロー業務を依頼されたのは,実際に退職のためそれ
まで使用していた控訴人の携帯電話を返還しようとしたときと認められ
(C調書11頁),あらかじめフォロー業務を行うよう依頼されていた
わけではなく,また,被控訴人ら4名は真の退職理由(被控訴人会社へ
の移籍)を秘し,退職後,若干静養してパートで働く(被控訴人C),
専業主婦となる(被控訴人E),夫が始める仕事を手伝う(F)と述べ
ていた(H調書16頁)から,フォロー業務を依頼されれば断れない立
場にあったと思われ,更に,被控訴人C,同E,Fが行ったフォロー業
務で結局はシフト漏れがカバーされたとしても,顧客に送付された当初
の派遣スタッフ通知書による内容が派遣依頼先を満足させるものでなけ
れば,顧客に不満をもたらし得る。これらの点を考慮すると,被控訴人
ら4名がフォロー業務を行ったことは前記認定を左右しないというべき
である。
(イ)被控訴人らは,控訴人において平成17年1月にシフト配置の混乱が
生じたことは,控訴人の責任であって,被控訴人らの責任ではないとし,
退職表明後,H支社長に何度も引継ぎの時間を取るよう求めたにもかか
わらず,H支社長はこの時間をなかなか取ろうとしなかったなどと主張
する。
しかしながら,同主張に沿うF証言や被控訴人Cの供述は,誘導的な
尋問に基づくものといい得る面が強く,額面どおりに採用し得るか疑問
である上,シフト配置は相当に知識と経験が必要であり(C調書11
頁),シフト配置のノウハウや経験のほか,担当地域における派遣依頼
先や派遣スタッフについて実情を把握していなければ,その業務をこな
すことは困難と思われるところ,被控訴人ら4名の相次ぐ退職により,
業務を支障なく継続していくことが困難となることを認識し得たといい
得る同人らが,自らが引き起こしたことの責任を他へ転嫁するもので
あって,採用し得る主張ではない。
(ウ)被控訴人らは,甲29のメール記録に記載された返信メールの文案か
ら被控訴人Dが送信したメールの要件及び被控訴人Dの行動を推測する
こと自体に無理があり,Kへの勧誘等は認定できないと主張する。
しかしながら,甲29のメール記録にあるKからの返信メールからす
ると,被控訴人Dは退職前から面談して被控訴人会社への登録を勧誘し
ていたとみるのがごく自然である。
また,被控訴人らは,被控訴人Dが平成17年中,Tに8回電話をか
け,被控訴人会社に登録するよう勧誘したとの控訴人主張に沿うI証言
は伝聞であり,このような事実は認定できないと主張する。
しかしながら,被控訴人会社の人材派遣部門は,平成16年12月に
スタートし,平成17年1月末の派遣スタッフは約30名であり,派遣
先は平成17年2月以降で本件5店舗,同年10月以降で本件7店舗で
あるから,被控訴人ら4名としては少なくとも同年中は派遣スタッフを
拡充し,顧客に対する営業活動を強化していくべく努力するのは当然で
あり,シフト配置に従事するのみならず,派遣スタッフを1人でも増や
すために強力な勧誘を行う余裕もあったと認められるから,前記認定事
実に沿うI証言は信用できるというべきである。
(エ)被控訴人らは,被控訴人会社が特定の派遣スタッフを配置できること
をセールスポイントとして営業活動を行ったわけではないと主張し,も
ともと控訴人にいた派遣スタッフをそのまま使うことをセールスポイン
トの一つとして派遣会社を被控訴人会社とするよう,売り込んだことを
争う。
しかしながら,平成17年1月に控訴人のシフト配置が混乱し,慣れ
ないスタッフを配置したり,スタッフを派遣できなかったりした事態が
生じたときに,自らの会社では従来から派遣実績のあるスタッフを派遣
し得るとして売り込むのは有効と考えられ,実際にも,被控訴人会社は
控訴人において本件5店舗への派遣経験のあるスタッフをそろえようと
していたといえるから(原判決第3,2(1)チ(40,41頁),原判
決第3,2(1)カ(38頁)の認定事実に沿うH及びIの証言は信用で
き(H調書19頁,I調書4頁),同認定事実及び同証拠によれば,前
記のとおり認定できるというべきである。
(2)上記認定事実に基づいて検討する。
ア被控訴人C,同E,Fは,平成16年11月末で控訴人を退職したが,
主として株式会社ジャックスの各支店を派遣依頼先とする同年12月分の
シフト配置を十分に行わず,11月までにされた派遣依頼に対しシフト配
置を怠ったものが相当数にのぼった。当該配置漏れ自体は,12月中にカ
バーされたが,シフト配置の混乱自体,顧客である株式会社ジャックスの
各支店に不安を与え,派遣会社の変更を検討させる要因となったと推認さ
れる。
そして,平成17年1月には,控訴人におけるシフト配置が混乱し,適
切なシフト配置が行えない事態が生じたことが重要な一因となり,本件5
店舗について控訴人との人材派遣契約が打ち切られたと推認される。
被控訴人ら4名としては,自分たちがほぼ一斉に退職すれば,控訴人で
はにわかに対応できず,シフト配置に混乱が生じることは十分予想できた
と認められる(F調書17頁)。
イ被控訴人ら4名は,控訴人の下で派遣スタッフとして稼働した経験のあ
る者を勧誘した上,本件5店舗の担当者に対し,今までどおりの控訴人の
スタッフを派遣できることを一つのセールスポイントとして派遣会社の変
更を働きかけた。
なお,被控訴人会社の平成17年1月末の派遣スタッフは約30名であ
るが,同年1月10日までの日付で雇用契約を締結した者は原判決第3,
2(1)チ(40,41頁)記載のとおり16名となっていた。また,同年
2月末までに雇用契約を締結した者で,本件5店舗に派遣される総勢25
名のうち当該店舗に派遣された経験のあるものは17名に及んでいた。
上記働きかけの結果,平成17年1月中ころには2月から派遣会社を被
控訴人会社に変更することの了解を取り付けた。
ウ派遣スタッフに対する勧誘の過程で,被控訴人Dは,平成16年12月
28日の退職までに被控訴人会社に登録するよう,控訴人の派遣スタッフ
であったKを勧誘したほか,Jにも面談を求めている事実が認められる。
そして,Fは,平成16年12月,控訴人の5名の派遣スタッフに面談し
て勧誘していると認められる。
また,被控訴人Dは,平成17年中,Tに8回電話をかけ,被控訴人会
社に登録するよう勧誘している。
これらの事実を考え併せると,被控訴人ら4名においては,本件5店舗
の派遣会社を被控訴人会社に変更することの了解を得る過程において,控
訴人に登録している派遣スタッフに対する勧誘を広範に行ったものと推測
され,被控訴人会社の平成17年1月末の派遣スタッフは約30名であっ
て,拒絶した者もいたであろうことを考慮すると,数十名に勧誘を試みた
と考えられる。もっとも,勧誘対象者をいかに選定したかは必ずしも明ら
かではなく,被控訴人ら4名のうちマネージャーであった被控訴人E,同
D,Fが,各人1人当たり10数名程度であれば,自らが連絡先を記憶す
る派遣スタッフを介して他のスタッフに連絡を取っていったことや,Kの
被控訴人Dに対するメール(甲29)にあるように実際に派遣先を訪問し
て勧誘することが考えられない人数ではない。
エそうすると,被控訴人ら4名が派遣会社の変更を実現したことについて
は,自ら故意又は重過失により作り出した平成16年12月のシフト漏れ,
一斉に退職したことによる平成17年1月のシフト配置の混乱に乗じたも
のであり,信義則に反する態様であって,その際,被控訴人ら4名が本件
情報から適宜の態様で顧客情報,スタッフ情報の少なくとも一部を得,こ
れを利用して派遣スタッフの勧誘を行い,派遣先に関する営業活動を行っ
たということができ,これにより,控訴人に登録する派遣スタッフの被控
訴人会社への登録がなければ取得し得なかった派遣先を被控訴人会社のも
のとし得たのであり,控訴人はこれに伴い,同派遣先を失うという損害が
生じたということができ,被控訴人3名につき不法行為が成立する。そし
て,被控訴人会社は,平成16年12月1日付けで従前なかった人材派遣
部門を設置したところ,同部門に所属する営業社員は被控訴人C,同E及
びFのみで,平成17年1月1日,被控訴人Dがこれに加わったのみであ
り,被控訴人会社は,同人ら4名の認識,決定をそのまま受容し,これを
そのまま同社の認識,決定としたものと評価し得るのであって,同人らと
共同して上記不法行為に及んだということができる。
3争点(5)(控訴人の被った損害)について
(1)控訴人は,被控訴人らの不法行為により,平成17年2月に本件5店舗の
派遣先を喪失し,同年10月から,本件2店舗の派遣先を喪失したものであ
り,被控訴人らの不法行為がなければ,今後少なくとも2年間は本件7店舗
に係る人材派遣契約を継続することができ,過去2年間の利益(売上額の合
計から派遣スタッフに支払った人件費を差し引いた金額)と同程度の利益を
確保できたことが想定されるとして,同利益額として算出した金額を請求す
る。
しかしながら,控訴人は,被控訴人ら4名退職に伴うマネージャーの応急
の配置を行えたのであり,また,直ちに後任所長,マネージャーの補充をな
し得たというべきところ,被控訴人ら4名の前記勧誘に伴う派遣スタッフ自
身の被控訴人会社への登録それ自体は当該派遣スタッフが任意に決定し得る
事柄であって,特段の事情がなければ違法でなく,その対応,補充も直ちに
なし得たであろうことが想定され,これらを考慮すると,本件不法行為によ
る前記派遣先の喪失の損害を回復するまでの期間を3か月とするのが相当で
ある。
そうすると,本件5店舗について,控訴人が平成17年2月から3か月に
上げ得たと想定し得る利益について損害と認めるのが相当であり,本件2店
舗に係る損害及び本件5店舗に係るこれを超える期間に対応する損害は認め
られない。
(2)証拠(甲13〔枝番を含む。〕)及び弁論の全趣旨によれば,控訴人が本
件5店舗について平成15年1月から平成16年12月までの2年間(㈱ジ
ャックス神戸支店契約書回収については,平成16年10月から平成17年
12月まで3か月間)において上げた利益は次のとおり認められる。
アコジマ電機New高野店137万4123円
イミドリ電化伊丹店384万6842円
ウミドリ電化堺店160万6958円
エミドリ電化JR尼崎駅店817万3759円
オ㈱ジャックス神戸支店契約書回収29万7622円
(3)したがって,控訴人は,被控訴人らの不法行為により,以下の合計217
万2832円(各店舗につき3か月分)の得べかりし利益を失った。
アコジマ電機New高野店17万1765円
イミドリ電化伊丹店48万0855円
ウミドリ電化堺店20万0870円
エミドリ電化JR尼崎駅店102万1720円
オ㈱ジャックス神戸支店契約書回収29万7622円
(4)控訴人が本件訴訟追行のため費した弁護士費用のうち,50万円は,被控
訴人らの不法行為と相当因果関係のある損害である。
4結論
よって,控訴人の請求は,主位的請求を棄却し,予備的請求につき267万
2832円及びこれに対する被控訴人Eにつき平成17年6月2日(訴状送達
の日の翌日)から,その余の被控訴人らにつき同月1日(同左)から支払済み
まで年5分の割合の金員の支払を命じる限度で認容し,その余を不相当として
棄却すべきであるから,原判決を上記のとおり変更し,主文のとおり判決する。
(当審口頭弁論終結日平成19年9月4日)
大阪高等裁判所第8民事部
裁判長裁判官若林諒
裁判官小野洋一
裁判官冨田一彦

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛