弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人蓑田速夫、同藤浦照生、同上田勇夫、同石川隆、同豊住政一、同篠原
一幸、同上原健嗣、同小林修爾、同谷本巍、同西浜温夫の上告理由について
 論旨は、本件係争の退職金名義の金員を所得税法上の退職所得にあたるとした原
審の認定判断には著しい経験則・採証法則の違反及び法令の解釈適用の誤りがあり、
これが判決に影響を及ぼすこと明らかな法令の違背にあたるというのである。
 よつて、以下に判断する。
 一 本件退職金名義の金員の支給に関して原審の確定した事実関係は、次のとお
りである。
 1 被上告人は、電気製品の製造販売を目的とする株式会社であり、従来、従業
員の定年につき満五五歳定年制を実施していたが、定年時に支給する退職金につい
ては、その額を、退職時の基本給に勤続年数を乗じた額とするとともに、勤続年数
が一〇年を超える場合には一律に一〇年分として計算することとしていたため、従
業員の間では、かねてから不満が多く、退職金規程を改正して勤続年数に応じた退
職金を支給することを要求する声が高まつていた。
 2 ところが、被上告人は、昭和四〇年ころから経営が行き詰まり、多額の負債
をかかえ、同年九月会社更生法の適用を申請するに至り、その後更生計画が認可さ
れて会社再建が進められることになつた。このような状況のもとで、従業員側は、
会社がいつ倒産するかわからないのでは、右の要望どおりに退職金規程が改正され
ても画餅に等しいものであるから、それよりもむしろ勤続満一〇年をもつて定年と
し、その時点で退職金を支給し、その後引き続き勤務する場合は再雇用という形に
するようにしてほしいとの要望をするに至つた。他方、会社側も、右の勤続満一〇
年定年制を実施すれば、高齢者に対する多額の給与負担を免れることになるうえ、
さほど熟練を要しない職種であるから永年勤続者が退職しても会社運営に支障を来
すおそれも少なく、更に、被上告人のような中小企業では、満五五歳の定年まで働
いてもらうよりも四〇歳前後で独立させてやるように指導していく方が本人のため
にもよく、その意味で一つの区切りとして、また一つの目標として、勤続満一〇年
定年制を実施する方が望ましいとの判断に到達した。
 3 このようにして労使双方の意向が合致したので、被上告人は、勤続満一〇年
定年制を実施することとし、まず昭和四三年一〇月二一日実施の退職金規程にこれ
が盛り込まれ、次いで昭和四五年一一月一六日就業規則が改正され、その二八条に
おいて「従業員の停年は満五五才とする。又は、勤続満一〇年に達したもの。ただ
し停年に達した者でも業務上の必要がある場合、会社は本人の能力、成績、および
健康状態などを勘案して選考のうえ、あらたに採用することがある。」と規定され
るに至つた。
 4 被上告人は、昭和四四年三月二〇日、D、E、F、G、H、I、J、K、L、
Mに対し、昭和四五年三月二〇日、Nに対し、昭和四六年四月二〇日、Oに対し、
同年五月二〇日、P、Qに対し、同年一一月二〇日、Rに対し、いずれも右退職金
規程により勤続満一〇年に達したものとして退職金を支給した。
 5 右退職金の支給を受けた者のうちD及びMは右支給後ほどなく退職したが、
その余の従業員は被上告人に引き続き勤務し、これらの者の役職、給与、有給休暇
の日数の算定等には変化がなく、また社会保険の切替えもされなかつたが、右の者
のうちその後に退職したJ、F、K、P、Qについての退職金の算定には、前記一
〇年間の勤続年数は加味されていなかつた。
 6 右のように定年に達した者の大半が引き続き被上告人に勤務しているのは、
労働市場において退職者に代わるべき若い労働力を確保できなかつたことと、会社
の主力になつて働くべき者が多く含まれていたことによるものであり、また、勤務
条件等が変化していないのは、勤続満一〇年定年制採用当初の事務的な不慣れが原
因であつたものであり、現在では明確な区切りをつけている。
 二 原審は、使用者から被用者に対して支給された金員が所得税法上の退職手当
に該当するためには、原則としてそれが被用者の退職すなわち雇用契約の終了に伴
い退職者に支給されるものであることを要するが、この場合、被用者が常に事業主
体から完全に離脱しこれと絶縁することを要するものと解すべきではなく、例えば
被用者が一たん退職金名義の金員の支給を受けたのち引き続き雇用関係を継続して
いる場合であつても、当該退職金が支給されるに至つた経緯など特段の事情がある
ときは、退職所得の優遇課税の制度の趣旨に照らし、これを税法上の退職所得と認
めるべき場合が存するとしたうえ、右の事実関係に基づき、勤続満一〇年定年制が
就業規則に明記されている以上、従業員には勤続満一〇年に達したのち引き続き雇
用されることを会社に要求する当然の権利はなく、再雇用については原則として会
社に選択権があるといわざるをえないこと、右定年制が租税回避の目的で設定され
たものではなく、被上告人の倒産状態からの再建過程にあつて労使双方の一致した
意見により採用されたという特殊な事情があることなどを考慮し、右勤続満一〇年
定年制に基づく退職は、その後の再雇用のいかんにかかわらず、社会一般通念上も
退職の性格を有するものと認めるのが相当であるとし、被上告人が本件係争の一二
名の者(前記一4記載の一五名のうちD、M、Oを除いた一二名)に支給した退職
金名義の金員は、まさに右の満一〇年の定年に達した者に一時に支給されたもので
あつて、所得税法上、給与所得ではなく、退職所得にあたるものと解すべきである
と判断した。
 三 思うに、所得税法が、退職所得を「退職手当、一時恩給その他の退職により
一時に受ける給与及びこれらの性質を有する給与」に係る所得をいうものとし(三
〇条一項)、これにつき所得税の課税上他の給与所得と異なる優遇措置を講じてい
るのは、一般に、退職手当等の名義で退職を原因として一時に支給される金員は、
その内容において、退職者が長期間特定の事業所等において勤務してきたことに対
する報償及び右期間中の就労に対する対価の一部分の累積たる性質をもつとともに、
その機能において、受給者の退職後の生活を保障し、多くの場合いわゆる老後の生
活の糧となるものであるため、他の一般の給与所得と同様に一律に累進税率による
課税の対象とし、一時に高額の所得税を課することとしたのでは、公正を欠き、か
つ、社会政策的にも妥当でない結果を生ずることになることから、かかる結果を避
ける趣旨に出たものと解されるのであつて、従業員の退職に際し退職手当又は退職
金その他種々の名称のもとに支給される金員が、所得税法にいう退職所得にあたる
かどうかについては、その名称にかかわりなく、退職所得の意義について規定した
同法三〇条一項の規定の文理及び右に述べた退職所得に対する優遇課税についての
立法趣旨に照らし、これを決するのが相当である。かかる観点から考察すると、あ
る金員が、右規定にいう「退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給
与」にあたるというためには、それが、(1) 退職すなわち勤務関係の終了という
事実によつて初めて給付されること、(2) 従来の継続的な勤務に対する報償ない
しその間の労務の対価の一部の後払いの性質を有すること、(3) 一時金として支
払われること、との要件を備えることが必要であり、また、右規定にいう「これら
の性質を有する給与」にあたるというためには、それが、形式的には右の各要件の
すべてを備えていなくても、実質的にみてこれらの要件の要求するところに適合し、
課税上、右「退職により一時に受ける給与」と同一に取り扱うことを相当とするも
のであることを必要とすると解すべきである(最高裁昭和五三年(行ツ)第七二号
同五八年九月九日第二小法廷判決・民集三七巻七号登載予定参照)。
  そこで、右のような見地に立つて本件についてみるに、被上告人が従業員につ
いて勤続満一〇年定年制を採用することになつたのは、労使双方の一致した意見に
よるものであつて、租税回避の目的に出たものとはみられないこと、そして、これ
を就業規則に定めるにあたつて、労使の合意により、定年の事由として、従前の満
五五歳という年齢を基準とした事由に加え、勤続満一〇年に達したことという勤続
年数を基準とした事由を新たに設けるとともに、定年に達した場合においても、選
考のうえ再採用することがある旨を明定したことは、いずれも原審の確定するとこ
ろであるが、他方において、被上告人が右の勤続満一〇年定年制の採用を決意した
直接の動機は、主として、従業員の側において、会社倒産の危険に備えて、満五五
歳の定年時まで待たなくても退職金の支給を受けられる方法として右定年制の採用
を要望したからであつて、使用者の側において、従業員を満五五歳の定年の前に独
立させることが望ましく、そのようにしても会社の運営に支障を来すことがないな
どと考えたのは、必ずしも右定年制を採用するについての直接の動機であつたわけ
ではないこと、また、勤続満一〇年に達したものとして退職金名義の金員の支給を
受けた前記一五名の者は、その後ほどなく退職した二名の者を除き、引き続き被上
告人に勤務していたこと、そして、これらの者の役職、給与、有給休暇の日数の算
定等の労働条件に変化がなく、社会保険の切替えもされなかつたことは、原審の確
定した事実関係から明らかである。
  このように、被上告人において、従業員との合意により、従前の満五五歳定年
制を存置させたまま、それ自体では従業員にとつて不利となる勤続満一〇年定年制
という新たな制度を設けた直接の動機は、主として、従業員が早期に退職金名義の
金員の支給を受けられるようにするためであるとみられるのであつて、この場合、
従業員の関心は、専ら、勤続満一〇年に達した段階で退職金名義の金員の支給を受
けられるということにあつたもので、従業員としては、その段階で退職しなければ
ならなくなるということは考えておらず、かえつて、従前の勤務関係がそのまま継
続することを当然のこととして予定していたものとみるのが相当である。本件にお
いては、原審の確定したところによると、前記退職金名義の金員の支給を受けた一
二名の従業員のうち、八名は昭和四四年三月二〇日限り勤続満一〇年に達したもの
として右金員の支給を受け、その余の者も、昭和四六年一一月二〇日までには同様
に右金員の支給を受けたというのであり、この事実によれば、退職金規程が実施さ
れた昭和四三年一〇月二一日の時点において、早い者は五か月後に、遅い者でも約
三年後に、勤続満一〇年の定年を迎えることが予定されていたことは、客観的に明
らかであつて、被上告人の従業員が、いかに会社倒産の危険が迫つていたとはいえ、
かくも早い時期に原則として退職することになり、しかも再雇用の保障がないもの
となることを予定していたと考えるのは困難であるといわなければならない。右事
実関係のもとにおいては、右従業員らは、むしろ、近く勤続満一〇年に達すること
となつても勤務関係が終了することはなく、しかも退職金の支給を受けることはで
きると確信していたからこそ、勤続満一〇年定年制の採用を希望したものと考える
のが合理的であつて、このことも前記のみかたを裏付けるものということができる。
他方、勤続満一〇年定年制が設けられたのちにおけるこの制度の実際の運用をみる
と、原審の確定したところによれば、前記のように、勤続満一〇年に達して退職金
名義の金員の支給を受けた従業員の大多数が引き続き勤務し、その労働条件、社会
保険の取扱い等の上で前後全く変動を生じていないというのであるから、使用者の
側の意識も、従業員のそれと特段異なるものではなく、被上告人の本意としては、
右の定年制は、勤続満一〇年に達した従業員に退職金名義の金員を支給するための
制度上の手当てとして設けられたにすぎず、したがつて、右定年制のもとにおいて
は、従業員は勤続満一〇年で当然に退職することになるものではなく、むしろ従前
の勤務関係をそのまま継続させることを予定し、当初からこのような運用をするこ
とを意図していたものとみるのが相当である。
  本件勤続満一〇年定年制についての使用者及び従業員の意識が右のようなもの
であるとすると、従業員の勤務関係が外形的には右定年制にいう定年の前後を通じ
て継続しているとみられる場合に、これを、勤続満一〇年に達した時点で従業員は
定年により退職したものであり、その後の継続的勤務は再雇用契約によるものであ
るとみるのは困難であるといわなければならず、このような場合にその勤務関係が
ともかくも勤続満一〇年に達した時点で終了したものであるとみうるためには、右
制度の客観的な運用として、従業員が勤続満一〇年に達したときは退職するのを原
則的取扱いとしていること、及び、現に存続している勤務関係が単なる従前の勤務
関係の延長ではなく新たな雇用契約に基づくものであるという実質を有するもので
あること等をうかがわせるような特段の事情が存することを必要とするものといわ
なければならない。
  しかるに、原審は、勤続満一〇年に達して退職金名義の金員の支給を受けた一
五名の従業員のうち二名の者がその後ほどなく退職した事実を認めながら、その退
職が勤続満一〇年定年制の適用によるものであるか、それとも他の事由によるもの
であるかにつき、なんら認定判断せず、定年に達した者の大半が引き続き被上告人
に勤務しているのは、労働市場において退職者に代るべき若い労働力を確保できな
かつたことと、会社の主力になつて働くべき者が多く含まれていたことによるもの
であり、また、勤務条件等が変化していないのは、勤続満一〇年定年制採用当初の
事務的な不慣れが原因であつたと認定しているにすぎないのであつて、右の程度の
事実では、いまだ上記の特段の事情があるものということはできない。
  いずれにしても、原審の確定した事実関係からは、直ちに、本件係争の退職金
名義の金員の支給を受けた従業員らが勤続満一〇年に達した時点で退職しその勤務
関係が終了したものとみることはできないといわなければならない。そうすると、
右金員は、名称はともかく、その実質は、勤務の継続中に受ける金員の性質を有す
るものというほかないのであつて、前記所得税法三〇条一項にいう「退職手当、一
時恩給その他の退職により一時に受ける給与」にあたるための三つの要件のうち「
退職すなわち勤務関係の終了という事実によつて初めて給付されること」という要
件を欠くものといわなければならない。
  次に、右のように継続的な勤務の中途で支給される退職金名義の金員が、実質
的にみて右の三つの要件の要求するところに適合し、課税上、右「退職により一時
に受ける給与」と同一に取り扱うことを相当とするものとして、右の規定にいう「
これらの性質を有する給与」にあたるというためには、当該金員が定年延長又は退
職年金制度の採用等の合理的な理由による退職金支給制度の実質的改変により精算
の必要があつて支給されるものであるとか、あるいは、当該勤務関係の性質、内容、
労働条件等において重大な変動があつて、形式的には継続している勤務関係が実質
的には単なる従前の勤務関係の延長とはみられないなどの特別の事実関係があるこ
とを要するものと解すべきところ、原審の確定した前記事実関係のもとにおいては、
いまだ、右のように本件係争の金員が「退職により一時に受ける給与」の性質を有
する給与に該当することを肯認させる実質的な事実関係があるということはできな
い。
  以上のとおりであるから、原審が、本件係争の退職金名義の金員を所得税法三
〇条一項にいう退職所得にあたるものとした判断は、法令の解釈適用を誤り、ひい
て審理不尽の違法をおかしたものというべきであり、右違法は判決に影響を及ぼす
ことが明らかであるから、原判決は破棄を免れない。そして、本件については更に
審理を尽くさせるのが相当であるから、これを原審に差し戻すこととする。
 よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官横井大三の反
対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 裁判官横井大三の反対意見は、次のとおりである。
 私は、多数意見と異なり、被上告人がEほか十数名に対し昭和四四年三月二〇日
より同四六年一一月二〇日までの間に退職金として支給した金員が所得税法上の退
職所得に該当するとした一・二審の見解を支持する。
 たしかに、右退職金名義の金員は、所得税法が退職所得に対する税法上の優遇措
置を設けるにあたつて予定した退職という事実に基づく給付金とはいえないかも知
れない。しかし、一たん退職金に対する税法上の優遇措置を採用すると、当初予定
したような退職という事実がないにもかかわらず、そのような優遇措置を与えるに
ふさわしいものとして、これに準じた優遇措置を与えるのを適当とする場合が生ず
る。現に所得税法自体その三〇条一項において、「退職所得」を定義し、「退職に
より一時に受ける給与」のほか「これらの性質を有する給与に係る所得」をいうと
して、退職という事実を必ずしも必要とせず、しかも退職した場合の一時金と同じ
税法上の優遇措置を与えるべき場合のあることを予定しており、税務当局はこれを
うけて、所得税基本通達三〇―二において、いわゆる定年に達した後引き続き勤務
する使用人に対しその定年に達する前の勤務期間にかかる退職手当として支払われ
る給与でその給与が支払われた後に支払われる退職手当の計算上その給与の計算の
基礎となつた勤務期間を一切加味しない条件の下に支払われるものも、また退職手
当として取り扱うこととしているのである。この基本通達の趣旨につき論旨は、お
よそなんらかの社会的必要性に基づいて使用者としての身分継続中にいわゆる退職
金打切り支給をした場合に、それが一般的合理性を有すると認められる限り、広く
これを法にいう退職手当等として取り扱うべきものとしたものではなく、勤務関係
の性質や内容に重大な変動を生じたため従前の勤務期間についての退職給与を精算
支給するものである点において、従前の勤務関係が終了した場合と実質上同視しう
る場合、又は退職給与規程の制定若しくは相当な理由に基づくその改正の結果とし
て従前の勤続期間に対する退職給与の精算支給の必要を生じたような特別の場合に
限り、これを右の退職手当等として取り扱う趣旨であるというのであるが、この説
明も必ずしも説得力があるものとはいい難く、本件のように、従来一〇年以上勤務
しても退職金額はそれ以上増加しない取りきめとなつていて、それに不満を持つ従
業員から、一〇年経過後も勤務年数に応じ退職金額を増額すべきことが要求されて
いる間に、会社の経営が悪化し、会社更生法の適用を見るに至つたため、一〇年を
一区間として勤務関係を精算することとして、それまでの勤務期間に応ずる退職金
を支給し、その後も引き続き勤務する者のじ後の退職金の計算についてはすでに経
過した勤務期間を計算に入れないこととした場合には、このような退職金につき、
税法上退職所得扱いをすることは許されない、とまでいう必要はないと思う。退職
という以上その後継続雇用する場合すべての面において全くの新規採用と同じでな
ければならない、という理由もない。
 わが国の労働関係が原則として終身雇用であり、定年退職の時には、労働能力が
相当低下していて、他に再就職をするとしても賃金はかなり低額となるので、退職
金は将来の生活保障的な意味を持ち、担税力に乏しいところから、これを税法上優
遇するという退職所得優遇制度は、それなりに理解できる。しかし、終身雇用制に
も漸次変化が見られ、能力主義的雇用関係も芽生えつつあり、とりわけ中小企業に
おいては、一〇年という期間は労働者が同一使用者に雇用される期間としては必ず
しも短いものではなく、三〇年を終身雇用の平均勤務期間とすれば、それを分割し、
退職金を一〇年ごとに精算支給することとすることも、それぞれの企業の労使間の
事情に適するならば、税法上もそのままこれを受け容れるべきで、それを退職金と
いう名の一般給与と見て、年収全体の中に組み入れ累進税率を適用して所得税を課
するのは相当ではない。とりわけ、例えば五年を定年とするが如き場合は、かりに
右のように総合累進課税をしても課税所得自体がそれほど高くならないし、終身雇
用を原則とする目から見れば余りに短かすぎる定年制であるから、この場合に支給
される退職金名義の金員につき右のような配慮をする必要はないといつてよいが、
一〇年定年制となれば、終身雇用を原則とする目から見てもそれほど短いとはいえ
ないし、一〇年間分の退職金を一時にその支給年の一般給与に加算して累進税率を
課すれば、税額も相当高くなると思われるので、この場合には、右退職金につき前
記の所得税優遇軽課の措置を認めることは、十分に考慮に値するものというべきで
ある。これを更にふえんすれば、終身雇用制の場合の退職金に課される所得税につ
いては、控除額も高くなり税額も比較的低くなるのに、それを採用せず、退職金に
つき右控除額が少なくしたがつて税額が比較的高くなるなど不利な取扱いを受ける
おそれのある一〇年定年制を、敢えて採用するについては、当該企業に固有の、そ
れなりの事情があるはずであり、このような場合には、かかる事情を考慮し、一〇
年目に支払われた退職金名義の一時金が従来の継続的な勤務に対する報償ないし精
算金的性質を有するものである限り、その経済的実質に着目し、これを税法上の退
職所得として取り扱い、右のような不利益を受けることがないように配慮すること
を違法とまでいう必要はないと考えられる。本件において、被上告人が勤続満一〇
年定年制を採用するに至つた経緯ないし事情は、原審の確定した事実関係として多
数意見の冒頭に記載されているとおりであつて、まさに右のような取扱いを肯認し
うるものということができる。
 したがつて、本件係争の退職金名義の金員を所得税法上の退職所得にあたるとし
た原審の認定判断は正当であり、論旨は採用しえないものであつて、本件上告はこ
れを棄却すべきであると考える。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    伊   藤   正   己
            裁判官    横   井   大   三
            裁判官    木 戸 口   久   治
            裁判官    安   岡   滿   彦

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