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平成14年3月28日判決言渡
平成11年(行ウ)第5号 補助金支出差止等請求事件
(口頭弁論終結日 平成14年2月7日)
判決
主文
 1 被告らは,上川村に対し,連帯して963万円及びこれに対する平成11年3月25
日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 2 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
 3 訴訟費用はこれを5分し,その4を原告らの負担とし,その余を被告らの負担とす
る。
 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
 1 被告らは,上川村に対し,連帯して4815万円及びこれに対する平成11年3月25
日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 2 訴訟費用は被告らの負担とする。
 3 仮執行宣言
第2 事案の概要
   本件は,新潟県東蒲原郡上川村が被告有限会社Cに平成10年度山村振興等農
林漁業特別対策事業(以下「山振事業」という。)の補助金を交付したことは,地方
自治法232条の2,上川村補助金交付に関する条例(昭和30年7月1日条例第1
4号,以下「条例」という。)1条1項に反するとして,同村の住民である原告らが,同
法242条の2第1項4号に基づき,本件補助金交付当時の村長である被告B及び
被告有限会社Cに対し,不当利得の返還ないし損害賠償を請求した事案である(付
帯請求は,補助金の交付を受けた日から支払済みまで民法所定年5分の割合によ
る遅延損害金)。
 1 争いのない事実
  (1) 当事者
    原告らは,いずれも上川村の住民である。
    被告Bは,平成6年1月30日から上川村の村長の地位にあったものである。
    被告有限会社Cは,平成元年10月に設立された,ワラビ,ゼンマイ,きのこ等山
菜の加工等を業とする有限会社であり,肩書地に加工処理施設(以下「本件加
工場」という。)を有している。
    被告有限会社Cの代表取締役のDは上川村議会副議長であり,同取締役のEは
有限会社e運輸を経営するもの,同代表取締役のFは個人で酒店を経営するも
のである。なお,被告Bは,被告有限会社Cの出資者であったが,平成10年5月
16日,社員持分を他の出資者らに譲渡して脱退した。
  (2) 本件補助金の支出
    被告有限会社Cは,原材料に塩蔵品を使っており,塩分を含む排水を常浪川に
垂れ流していたため,漁業組合を中心とする地元住民から苦情が寄せられ,平
成7年9月28日には,新津保健所長から,水質汚濁の削減に努めるよう文書で
通知を受けていた。
    被告有限会社Cは,平成10年11月5日,被告Bに対し,平成10年度山振事業
費補助金として,次のとおり,被告有限会社Cが新規に開始する椎茸加工事業
のための加工施設の新設(①),連続焼き機,高速裁断機,プレハブ冷蔵庫,回
転式蒸気釜,作業台などの機械器具類の導入(③),塩蔵品原材料の加工・製
造に必要な排水処理施設の新設(②)及び附属工事(④,⑤)に要する次の費用
のうち,受益者負担金(合計事業費の25%)を除く4815万円(以下「本件補助
金」という。)の交付を申請した。
   ① 農産物処理加工施設 木造カラー鉄板葺平屋建
            1棟 92.75㎡      1142万0000円
   ② 排水処理施設 1式             4000万0000円
   ③ 機械器具費  1式             1086万1000円
   ④ 高圧受電設備 1式              189万6000円
   ⑤ 工事雑費                     2万3000円
                     合計事業費 6420万0000円
   (以下,この事業を「本件事業」という。)
    被告Bは,平成11年3月25日,被告有限会社Cに対し,本件事業実施のため,
本件補助金を交付した。
    本件補助金のうち,国庫補助金は3210万円(合計事業費の50%),県補助金
は642万円(同10%),上川村補助金は963万円(同15%)である。
 2 争点
  (1) 上川村が被告有限会社Cに対し,本件補助金を支出することが,「公益上必要
がある」と認められるか。
  (2) 上川村の損害額
 3 原告らの主張
  (1) 公益上の必要性の欠如
    地方自治法232条の2は「普通地方公共団体は,その公益上必要がある場合に
おいては,寄附又は補助をすることができる。」と定め,条例1条1項は「地方自
治法第232条の2の規定に基づき,次に掲げる事業であって公益上必要と認め
られる施行者即ち法人,団体及び個人に対し村費をもって補助することができ
る。」と定めているが,以下のとおり,本件補助金の支出に公益上の必要性は認
められない。
   ① 補助金支出の違法性
     被告有限会社Cは,有害物質を含んだ排水を排出する事業者であり,自己の責
任において公害の発生を防止しなければならず(原因者負担),排水処理施
設は,被告有限会社Cの固有の責務として設置すべきものである(環境基本
法8条1項・37条,公害防止事業費事業者負担法4条)。
     したがって,本件事業に補助金を支出することは,公害防止措置における原因
者負担を無視した違法があり,又は著しく不当なものである。
   ② 補助金支出により得られる利益(公益性)
     本件事業による上川村の利益の利益は全くないか,あったとしてもその効果は
支出する補助金額に比してわずかである。
    ア 被告有限会社Cの性格
      被告有限会社Cは,農林業者としての実態を有さず,山振事業実施要領にい
う「(農林漁業等の経済活動を行う農林業者の組織する団体に準じた団体
として)特に適当と認めた者」とはいえず,本件補助金を交付すべき事業主
体ではない。
    イ 被告有限会社Cの使用原材料
      被告有限会社Cは,地元の農家から原材料である山菜を一切仕入れず,専ら
輸入品に頼って山菜加工業を営んでいる民間会社であり,上川村の農林業
の振興や農家の所得の増加に寄与したことは全くない。今後も,被告有限
会社Cが農家から山菜を買い上げる予定はなく,同社への補助が農家の所
得の向上や農林業の発展に寄与することはあり得ない。
    ウ 排水処理施設・椎茸加工施設について
      焼き椎茸及び椎茸の佃煮の加工過程において,ほとんど汚水は発生せず,椎
茸加工施設と排水処理施設との間に関連性はない。本件事業は,以前か
ら保健所から改善を指摘されてきた,塩蔵原材料の漂白・洗浄の過程から
生じる汚水を処理するための排水処理施設を設置することが目的であり,
椎茸加工施設は,排水処理施設に対する補助金を正当化するために考え
られたものに過ぎない。
      椎茸加工施設及びこれに伴う機械の導入についても,上川村において椎茸栽
培に取り組むべき農家はおらず,採算性も望めないことに加え,被告有限
会社Cに商品価値のないC品(規格品中のCランクのもの)やC級(いわゆる
くずしいたけ)の規格外椎茸を買い取ってもらうことにより農家が得る利益
は極めて少ない。また,規格外椎茸は現在でも他に販路があり,財団法人
上川村農業振興公社(以下「公社」という。)がこれを被告有限会社Cに売却
する必要はない。
    エ 被告有限会社Cによる環境汚染行為等
      被告有限会社Cは,次のような公益に反する行為を繰り返しており,補助金交
付を受けるものとして不適格である。
     (ア) 被告有限会社Cは,地域住民らの再三の苦情にもかかわらず,塩蔵品の
原材料を洗浄した際に発生する汚水を,何の措置もとらずに常浪川に流
し続けた。
     (イ) 被告有限会社Cは,平成7年9月28日まで水質汚濁防止法所定の特定施
設設置者の届出を行わず,約10年間にわたって届出義務を懈怠してい
た。
     (ウ) 被告有限会社Cは,排出基準を定める総理府令別表第2の排水基準の適
用を免れるため,前記(イ)の特定施設設置届出書において,虚偽の排水
量を申告していた。
     (エ) 被告有限会社Cは,水質汚濁防止法3条1項,排水基準を定める総理府
令別表第2所定の排水の生物化学的酸素要求量(BOD)を大幅に上回
る排水を排出していた。
     (オ) 被告有限会社Cは,排水の化学処理を一切行わず,水質汚濁防止法12
条1項・3条1項,環境基本法8条で事業者が行わなければならないとさ
れる公害防止措置を講じていなかった。
     (カ) 被告有限会社Cは,本訴提起に至るまで,産業廃棄物であるポリ容器を焼
却炉で焼却したり,不法投棄を繰り返していた。
     (キ) 被告有限会社Cは,産業廃棄物である山菜くずを常浪川支流の沢の岸に
不法投棄していた。
   ③ 補助を受ける者の利益を図る意図
     被告有限会社Cの前身であるC組合は,被告Bの発意により設立されたもので
あり,被告Bは設立当初から平成10年5月16日まで,被告有限会社C(C組
合)の出資者であった。また,被告有限会社Cの代表者のDは,被告Bの選挙
の応援をしていた者であり,取締役のEは被告Bの後援会長である。
     被告Bは,被告有限会社Cに本件補助金を与えて救済するために,国や県に対
して,あたかも被告有限会社Cが地元農家の山菜を買い上げて加工業を営ん
できたかのような誤解を与える計画書や協議書を提出し,被告有限会社Cか
らの補助金交付申請の不当性を十分に認識しながら,これを黙認して交付決
定をした。
     したがって,本件補助金の支出は,もっぱら被告有限会社Cだけの利益を図る
意図でなされたものである。
   ④ 本件補助金の必要性
     被告有限会社Cは本件補助金を得なくても排水処理施設を設置することが可能
であり,そもそも補助金支出の必要性はなかった。
  (2) 損害額
    本件補助金4815万円のうち,3210万円は国庫補助金,642万円は県費補助
金を財源としているが,これらの補助金は上川村に交付されることにより上川村
の公金となり,本件補助金の交付により上川村の公金が減少したから,4815
万円全額が返還の対象となる。
 4 被告らの反論
  (1) 公益上の必要性
    公益上の必要性は,第1次的には当該地方公共団体の議会及び長の判断を尊
重すべきであり,補助金額に比較して得られる地方全体の利益がかなり低いこ
とが明白であるか,または,地方全体の受ける利益よりも補助を受ける特定の
者の利益を図る意図でなされたことが明白である場合に限って,裁量の逸脱を
問題とすべきである。
    本件補助金の支出は,手続面でも議会の承認を得ており,国(農林水産省)及び
新潟県の事業認定を受けている。
    さらに,本件補助金には,次のとおり,公益上の必要性が認められる。
   ① 補助金支出の違法性について
     本件では,環境基本法で「公害」の定義として定める「相当範囲にわたる水質の
汚濁」はなく,「人の健康または生活環境に係る被害」も生じていないから,被
告有限会社Cの排水は,公害には当たらない。
     また,同法8条は,事業者に対し,公害を防止し又は自然環境を適正に保全す
るために必要な措置を講ずる責務を課しているが,別段,事業者自らが主体
となって補助金を受けた上でかかる措置を講ずることを禁じているわけではな
い。同法37条及び公害防止事業費事業者負担法の諸規定は,国又は地方
公共団体が主体となって実施する公害防止事業について,その費用の一部
又は全部を事業者に負担させるための規定であり,本件の場合とは事案が異
なる。
   ② 補助金支出により得られる利益(公益性)
     本件で問題となっている山振事業は,山菜加工施設整備事業だけでなく,椎茸
培養ハウスの設置等を行う新規作物導入支援事業及び4路線の農道舗装を
行う農道整備事業の3事業を総合的に行い,もって,上川村内でも過疎化及
び高齢化の進んでいるG地域における就業機会を創出し,生活基盤の整備を
進めることを目的とするものである。
     本件事業において,被告有限会社Cは,公社と連携して,G地域における地域
の特性を生かした高付加価値型農業の振興を図り,就労の場を確保し,農家
所得を向上させることが期待されている。
    ア 被告有限会社Cの性格
      被告有限会社Cの前身であるC組合は,昭和59年に,当時,上川村の産業土
木課長であった被告Bが,若者の村外流出に危機感を持ち,地場産業の振
興等,就業の場の確保のために,自らが中心となって設立したものである。
      このように,被告有限会社Cは,もともと営利目的ではなく,地元で産出される
山菜の加工を行い,山村農業の活性化を図ることを目的とし,その公益性
から,開業資金として,新潟県農林水産業総合振興事業の中の山村農業
活性化事業に基づく補助金が交付され,昭和61年には同事業の補助金に
より本件加工場を新設したという経緯がある。
    イ 被告有限会社Cの使用原材料
      被告有限会社Cは,設立当初から一貫して野菜や山菜の加工販売をしている
ところ,原材料は,当初は地場物を使用するようにしていたが,経営の安定
化のために,徐々に県外からの塩蔵品や輸入品に頼らざるを得なくなった
ものである。
    ウ 排水処理施設・椎茸加工施設について
      排水処理施設の新設は,被告有限会社Cが安定的な経営基盤を築く上で必
要不可欠である。また,これにより,常浪川の水質が向上し,自然環境が改
善される。
      椎茸加工施設については,上川村では,平成6年から,中山間地域活性化推
進事業として「きのこの里づくり支援事業」に取り組んでおり,平成7年には
公社を設立して菌床椎茸の栽培を行うこととなったが,椎茸栽培に伴い,規
格外の椎茸も発生するようになった。そこで,加工技術・設備や流通のノウ
ハウを有する被告有限会社Cに規格外椎茸の加工を行わせることにしたも
のである。規格外椎茸の引き取り先を確保することによって,椎茸の需要の
安定化を図り,農家への椎茸栽培の普及を容易にすることができ,農家所
得の向上につながる。また,椎茸加工を行うことによって,上川村の特産品
が創出される。
    エ 被告有限会社Cによる環境汚染行為等
      被告有限会社Cは,ポリ容器や山菜くずの不法投棄や焼却をしたことはない。
    オ 雇用の創出
      被告有限会社Cは,上川村内でもとりわけ過疎化・高齢化が進んでいるG地域
において,雇用を創出し,生活基盤の整備を進めることを目的とするもので
ある。被告有限会社Cは,平成13年9月1日時点で31名の従業員を雇用
しており,通年雇用者数は村内で2位である。
    カ 特産品の開発
      被告有限会社Cは,上川村の特産品の販売に多大な貢献をしている。被告有
限会社Cは,本件加工場前において自社商品と近隣の農家の農産物を販
売して好評を博し,平成5年に上川村物産直売所ができるに至った。同直
売所の販売商品のうち,加工品は被告有限会社Cの商品だけであり,全販
売の18.9%を占める。
   ③ 補助を受ける者の利益を図る意図
     被告有限会社Cの設立の経緯,G地域において果たしてきた役割に照らせば,
原告らの主張するような意図はない。
   ④ 本件補助金の必要性
     被告有限会社Cは本件補助金を得なくても排水処理施設を設置することが可能
であったとの原告の主張は争う。
  (2) 損害額
    仮に公益上の必要性が認められないとしても,損害は本件補助金のうち,上川村
が負担した963万円に限られるべきである。
第3 当裁判所の判断
 1 本件の事実関係
   当事者間に争いのない事実及び証拠によって認められる事実は次のとおりであ
る。(〔 〕内は認定に用いた証拠である。)
  (1) 上川村の概要
    上川村は,昭和29年にG村,H村,I村が合併してできた,新潟県東蒲原郡の東
南県境に位置する村であり,このうち,旧G村にあたるG地域は,越後山脈によ
る山岳地帯に属し,常浪川沿いに点在する20の集落から成る。同地域の総面
積は,村全体の約60%にあたる21.522ヘクタールで,その97.9%が林野
で,経営耕地面積は1.1%である。
    上川村は昭和45年に全村が過疎地域の指定を受けており,G地域においても,
昭和40年代から昭和50年代後半にかけて大幅に人口が減少し,平成7年度の
国勢調査では1697人となった。
同地域における平成7年の農家の総数は274戸であり,そのほとんどは第2種兼
業農家である。また,若年層の人口流出により,農業従事者の高齢化が進んで
いる。
    このため,上川村は,平成10年3月に,「上川村山村等活性化ビジョン」として,
ふるさと産品の開発・販売促進,体験プログラムの開発,集客促進等の方針を
示し,その実現に努力している。〔甲8,乙12,81の2,弁論の全趣旨〕
  (2) 被告有限会社Cの概要
   ① 昭和59年,当時,上川村の産業土木課長であった被告Bの発案により,上川
村に地場産業を起こし,雇用の場を創出・拡大するとの目的で,被告有限会
社Cの前身であるC組合が設立された。当時の出資者(組合員)は,被告Bの
ほか,同被告が呼びかけた,D,E,F,J及びKの6名であった。〔乙49,65,
77〕
     このうちKは,商工会の経営指導員で,農地及び山林を所有していない非農家
であり,被告Bも山林を所有するのみであった。その他の組合員は農地及び
山林を所有していたが,Dは漬物業兼村議会議員,Eは運送業,Fは酒店経
営兼商工会会長,Jは山菜集荷業であり,いずれも農林業を主たる収入源と
はしていなかった。〔甲45,乙49,65,被告有限会社C代表者及び弁論の全
趣旨〕
     被告Bは,平成6年1月30日に上川村長となったが,Dは,村長選挙の際,被
告Bの応援活動を行った。また,Eは被告Bの後援会長である。〔被告有限会
社C代表者〕
   ② C組合は,開業に際し,出資金及び銀行からの借入れ600万円のほか,県の
単独事業(以下「県単事業」という。)である新潟県農林水産総合振興事業の
中の,山村農業活性化事業に基づいて,県から補助金を受けて,殺菌施設,
二重釜,真空包装機,ボイラー等を購入した。〔乙49,65〕
     同補助金を受ける際の事業計画書には,現状と問題点として,「村の総面積の
97%を占める山林原野は山菜の宝庫である。山菜やきのこは季節の味覚と
して地域住民のみならず,都会人にも人気を集め,近年のふるさと嗜好,山菜
ブームにのり,その需要は伸びる一方である。しかしながら,山菜類の生産・
出荷は一部の出荷業者以外は,ほとんどが自家用に利用されている程度で
ある。」,事業の目的と必要性として,「出荷業者から直接,山採りのままで村
外に流出している山菜を,二次加工・製品化し,付加価値を高めて出荷す
る。」,原材料の確保として,「現在,村内で生産出荷されている量は135tで
あるが,そのほとんどが村外の業者により,村外に流出している。この山菜を
C組合で一切買入れを図ると共にさらに採取農家を増やすため,安定価格で
取り引きを行ない原料の確保を図る。又畑を利用した山菜の人工栽培により
処理量270tのうち,180tを村内買入とする。」との記載がある。〔乙78〕
   ③ C組合は,当初,旧上川村学校給食センターで操業していたが,昭和61年に
肩書地に本件加工場を建設した。この際,C組合は,土地購入資金,機械購
入費用及び運転資金として東蒲原郡農業協同組合から3000万円を借り入
れたほか,建設費用として,県単事業である新潟県農林水産総合振興事業の
中の,ふるさと特産品開発事業に基づいて,県から900万円,上川村から60
0万円の補助金を受けた。〔乙44,49,77,78,〕
   ④ C組合は,平成元年10月に法人化し,被告有限会社Cが設立され,Fが代表
取締役に就任した。その後,平成10年3月にDが代表取締役に就任した。〔乙
49〕
   ⑤ 被告有限会社Cは,上川村内で山菜加工を行っている唯一の会社であり,県
内外に向けて,山菜やきのこの水煮等を販売している。〔甲46,乙77〕
     C組合の設立当初の従業員は7名であったが,本件補助金が交付された平成1
1年3月当時,被告有限会社Cの従業員は27名になっていた。〔乙49,被告
有限会社C代表者〕
  (3) 被告有限会社C(C組合)の使用する山菜原材料
    C組合は,設立当初,村内の農家団体と栽培契約を締結して,みぶ菜や赤蕪等
の野菜を仕入れていたことがあった。〔乙68,被告有限会社C代表者〕
    しかし,山菜については,設立当初から,全て塩蔵品又は乾燥品の状態で仕入
れており,本件補助金が交付された平成11年3月当時には,輸入品が約7割,
国内産(村外の卸業者からの仕入れ)が約3割の割合になっていた。村内の農
家からの仕入れは,設立から現在に至るまで,少量の山うど・塩蔵わらび等を除
けば,ほとんど行われていない。〔乙45,81の9,被告有限会社C代表者〕
  (4) 被告有限会社Cの排水問題等
   ① 被告有限会社C(C組合)の使用する山菜は,輸入品の約63%,国内産の全
てが塩蔵品であり,これを水洗い,ボイル,漂白,脱塩する過程において,塩
や漂白剤を含有する排水が大量に発生していた。
     被告有限会社Cは,当初は防油沈殿槽を設置するだけで,その後,山菜くず(残
さ)を除去するための掻き上げ機(スクリン機)を設けたものの,排水を化学処
理することなく常浪川に流しており,平成6年ころ,地域住民から排水の臭い
に関して同社に苦情が寄せられたことがあった。〔甲44,乙49,被告有限会
社C代表者〕
   ② 被告有限会社Cは,平成5年に本件加工場の増築を行ったが,水質汚濁防止
法に基づく特定施設(原料処理施設,洗浄施設,湯煮施設)に関する届出を保
健所に提出していなかった。〔乙14,49,被告有限会社C代表者〕
   ③ 被告有限会社Cの排水に関する住民の苦情が,県議会の河川懇談会を通じて
新津保健所に連絡されたため,同保健所は,平成7年9月14日,被告有限会
社Cの本件加工場の立入検査を行った。〔甲44,48〕
     その結果,被告有限会社Cの排水のBOD値は,目標値(水質汚濁防止法,排
水基準を定める総理府令所定の排水基準。甲31)の160mg/?(日間平均12
0mg/?)を上回る,250mg/?であった。このため,同保健所は,同月28日付け
で,この検査結果と,「(水質汚濁防止法で定める)特定施設設置届出及び特
定施設使用廃止届出を至急提出すること」,「排水処理施設の設置計画が平
成9年又は10年とのことであるが,設置計画をできるだけ早めること」等の留
意事項を被告有限会社Cに通知した。〔甲10中の「事業計画の概要」以下30
頁〕
     この検査結果は,被告有限会社C代表者から上川村の産業課に伝えられ,同
課は,補助金で被告有限会社Cの排水処理施設を建設することを検討するよ
うになった。〔乙77,被告B〕
     被告有限会社Cは,同年10月26日,「平成9年度を目標に工場下排水処理施
設の建設を課題とし現在計画を立て社内協議を行っております」との内容の
書面を新津保健所に提出した。〔甲10中の「事業計画の概要」以下31頁,乙
49〕
     被告有限会社Cは,同月27日に新津保健所長宛に特定施設設置届出書及び
遅延理由書を提出した。同届出書には,日間平均排出量は10?,一日の最大
排水量は12?と記載されていた。〔甲37,乙14,49,被告有限会社C代表
者〕
     保健所は,その後も被告有限会社Cに指導を行い,平成10年を最終年度とし
て本件加工場に排水処理施設を設置するよう勧告を行った。このため,平成8
年12月7日に行われた被告有限会社Cの定時決算総会においても,排水処
理施設の設置が今後の大きな課題であるとの報告がなされた。〔甲10中の
「事業計画の概要」以下34頁,乙49,被告有限会社C代表者〕
     なお,同総会の議案書では,1日の平均排水量は325.3?とされ〔甲10中の
「事業計画の概要」以下35頁〕,被告有限会社Cが同月10日に行った排水調
査では,1日の総排水量は271?であった〔甲16〕。
   ④ これらの排水に関する問題以外にも,平成5年4月ころ,東蒲原郡漁業組合か
ら,被告有限会社Cに対し,山菜くずが川に流れているとの苦情が寄せられ,
同社が本件加工場の排水口に掻き上げ機2台を設置したことがあった。〔乙4
9,被告有限会社C代表者〕
     また,被告有限会社Cが,ポリ容器を山林に放置したり,焼却したことにより,地
域住民が上川村役場に苦情を申し出,役場が,ポリ容器の焼却を中止するよ
う同社に指導したことがあった。〔甲44,被告有限会社C代表者〕
  (5) 椎茸加工事業を開始した経緯
   ① きのこの里づくり支援事業
     上川村は,昭和62年の第2次総合計画の「健康で豊かな福祉村の建設」の基
本理念のもと,平成7年度から9年度の中山間地域活性化推進事業として,
「きのこの里づくり支援事業」を実施した。
     同事業は,村内の農林家がきのこの種駒を一定量以上購入し,駒打ちをした場
合に,種駒等代金の50%を助成するというものであり,国及び県から各3分
の1の補助金を得て行うものであった。〔乙62の3,65,77〕
   ② 公社の設立
     被告Bは,平成7年3月6日,選挙公約にしたがって公社を設立し,理事長に就
任した。公社の基本財産積立額5000万円は上川村が全額を出捐し,このう
ち800万円は,県単事業である新潟県地域農業担い手公社支援事業として
受けた補助金から支出したものであった。〔乙61,65〕
     公社の設立目的は,農業従事者の高齢化と若者の農業離れが進行する上川
村において,自分で農作業をできない農家から,田畑の耕作を受託したり,人
手がかかる稲刈り等農作業を受託したりすることにより,農業従事者の育成と
農地の保全を図るというものであった。〔乙13,61,77,被告B〕
     公社は,上記農作業の受託のほか,ニジマス養殖,牧草生産,草刈り,除雪,
ごみ収集等を行っていたが,平成8年ころ,上川村では,産業課が中心となっ
て,農業振興策として菌床椎茸栽培を導入することになり,公社がモデル的に
菌床椎茸を栽培していくとの方針を決定し,平成9年から椎茸栽培を行うよう
になった。〔乙13,61,65,76,73,77,被告B〕
   ③ 規格外椎茸の加工について
     産業課と公社は,公社における菌床椎茸の栽培に伴い,1割程度発生する規格
外椎茸をいかに処理するかを協議した結果,被告有限会社Cが買い取って,
加工販売するとの方針を決定し,農政課長が,平成8年秋ころ,被告有限会
社Cに対し,規格外椎茸の加工及び販売をしてほしいと依頼した。〔乙49,6
5,被告有限会社C代表者,被告B〕
  (6) 本件補助金交付に至る経緯
   ① 山振事業については,平成7年2月9日(平成9年4月1日最終改正),「山村振
興等農林漁業特別対策事業実施要領について」と題する農林水産事務次官
依命通達によれば,実施要領及び実施基準は,概略以下のとおりなされてい
た。〔甲7〕
    ア 趣旨
      山村等の中山間地域において,(ア)高付加価値・高収益型農業の確立,(イ)就
業機会の確保,所得の増大,(ウ)農林地の適正な利用・管理の促進,(エ)
生活環境の整備等による地域間格差の是正のための対策の充実が喫緊
の課題になっているとの認識のもと,平成12年度までの期間に,多面的機
能の強化による地域の活性化と定住の促進のために必要な事業を総合的
かつ効果的に実施する。
    イ 実施地域
      今後とも農林漁業が地域の重要な産業であることが見込まれる地域であっ
て,自然的,社会的,経済的諸条件に恵まれない,山村振興法の規定に基
づき指定された振興山村地域等の要件を満たす地域
    ウ 事業の類型
      市町村の全部又は一部の地域を受益対象とした基本型及び複数の市町村の
区域を受益対象とした広域型
    エ 事業の種類
      基本型にあっては,山村振興等活性化推進事業,農林漁業振興事業,農林
地利用・保全管理促進事業,就業・所得機会創出事業,地域社会生活環境
整備事業及び特認事業
    オ 事業実施計画
     (ア) 市町村長等が本事業を実施しようとするときは,山振事業実施計画を樹立
し,都道府県知事に提出して,その認定を受ける。
     (イ) 都道府県知事は,前記事業実施計画が適当と認められるときは,予め地
方農政局長と協議して,当該事業実施計画の認定を行う。
    カ 事業の実施
     (ア) 山振事業は,事業実施計画に基づき実施するものとし,毎年度の実施手
続は次のとおりとする。
      a市町村長等は,毎年度,年度別事業実施計画を作成し,都道府県知事に
提出する。
      b 都道府県知事は,年度別事業実施計画を調整のうえ,地方農政局長に提
出する。
      c 年度別事業実施計画に基づく事業は,それぞれの事業主体が所要の手続
を経て実施する。
     (イ) 事業実施計画に基づく事業の実施期間は,原則として4年間とする。
    キ 助成
      国は,毎年度,予算の範囲内において,次に掲げる経費について,その2分の
1以内を補助するものとする。
    (ア) 事業実施計画の樹立及び事業の推進等に要する都道府県の経費
     (イ) 事業実施計画の樹立及び事業実施の推進等に要する市町村の経費
    ク 事業の実施後の措置
     (ア) 計画主体は,事業実施計画に基づく全ての事業が完了したときは,その旨
を都道府県知事に報告する。
     (イ) 報告を受けた都道府県知事は,これを地方農政局長に報告する。
    ケ 事業実施基準
     (ア) 山村振興等活性化推進事業
       事業実施計画に基づき,地域の自主性及び地域関係者の創意工夫の発揮
により取り組まれる地域の活性化と定住の促進に関する各種の事業が,
効果的かつ自立的に行われるよう企画・調整するために必要な活動事業
とする。
     (イ) 農林漁業振興事業
       事業実施計画に基づいて,高付加価値・高収益型農業の確立等による農林
漁業の振興のために必要な小規模生産基盤及び近代化施設の整備を
行う事業とする。
    コ 事業主体
      農林漁業振興事業にあっては,都道府県,市町村,地方公共団体の一部事
務組合,農業協同組合,土地改良区,森林組合,生産森林組合,漁業協同
組合,漁業生産組合,農林漁業者等の組織する団体,地方公共団体等が
出資する法人,農業委員会,又は都道府県知事が地方農政局長と協議し
て特に適当と認めた者。
   ② 被告Bは,平成8年9月30日付けで,新潟農政事務所長から,平成9年度新潟
県中山間地域活性化総合対策事業(以下「ふるさと県単事業」という。)の実
施希望の照会を受けた。〔乙72〕
     被告Bは,同年10月11日,農政事務所長に対し,ふるさと県単事業として,L
地区の多目的集会施設の建設と被告有限会社Cの排水設備の建設を実施し
たいとの希望を報告した。〔乙72,77〕
     同年12月6日,上川村の産業課長が,農政事務所のM参事らに対し,ふるさと
県単事業に菌床椎茸の栽培施設の建設を追加したいと要望したところ,同人
らは,予算規模が大きくなるため,県単事業よりも,国庫事業である山振事業
で実施した方がよいと述べた。〔乙76,77,被告B〕
     被告Bは,同月11日,農政事務所長に対し,ふるさと県単事業として,これら3
つの事業を実施したいとの希望を報告した。〔乙74,76,77〕
     翌12日,農政事務所の職員が,ふるさと県単事業の打ち合わせのために上川
村を訪れ,希望のあった3つの事業の事業費は1億3000万円になるため,
県単事業で実施することは困難であり,山振事業で実施したらどうかと述べ
た。〔乙76,77〕
   ③ このため,被告Bは,被告有限会社Cの排水処理施設及び菌床椎茸の栽培施
設の建設を山振事業で実施することとし,同月24日,県知事に対し,平成9年
から平成12年度を事業実施期間とする,山振事業の希望地区個表を提出し
た。〔乙76〕
     この個表には,農業振興事業として,公社を事業主体とする新規作物導入支援
施設事業(椎茸培養ハウス,椎茸発生ハウス,附属機)及び本件事業が挙げ
られていた。〔乙1,49〕
     その後,ヒアリングや打ち合わせを経て,被告Bは,県知事に対し,平成9年4
月1日付けで,山振事業実施計画の認定申請書を提出した。〔甲8,乙49,7
6,77〕
     同申請書に添付された事業実施計画書には,農林漁業振興事業として,本件
事業が挙げられており,受益戸数は274戸(G地域の全農家)とされている。
また,「現状と問題点」として,「当地域内には,昭和61年度に山菜加工施設
が設置され,山菜類の付加価値を高め県内外に出荷し,年々その出荷量が
増加する一方,地域の就労の場としても重要に位置づけられている。しかし,
施設の規模から生産量も限界にきており,規模拡大が急務となっている。」,
「推進方針」として,「地域に既存する山菜加工施設や生産組織等と連携し,
地域農家と一体化した中で,新規作物の生産及び加工によって高付加価値
型農業の振興と就労の場の安定確保を図る。」,「事業効果」として,「本施設
の導入により地域農林産物の付加価値が高められ(ると)ともに排水処理施
設の整備により安定生産が可能となり農家所得の向上と就業機会の拡大が
図られる。」,「就業者数 常時雇用23人→24人,臨時雇用(延べ)552人→
1104人,製品出荷額3億2000万円→3億3400万円」と記載されている。
〔甲8〕
     新潟県知事は,同日,北陸農政局長と協議のうえ,同計画を認定し,同年9月こ
ろ,被告Bに通知した。〔甲9,乙19〕
   ④ 前記認定では,公社の椎茸栽培に関する事業は平成10年度,本件事業は平
成11年度とされていたが,その後,公社の事業は平成9年度に,本件事業は
平成10年度に行うこととなった。〔乙49,65,77〕
     このため,被告有限会社Cは,平成9年12月12日,被告Bに対し,平成10年
度の山振事業の実施要望書を提出した。〔乙20,76,77〕
   ⑤ 平成10年3月16日,村議会において,本件事業に対する補助金6753万60
00円(合計事業費8442万円から被告有限会社Cの負担分20%を除いたも
の。上川村の補助割合20%)の予算の審議が行われた。
     しかし,N議員が,補助事業とすることに反対したため,O議員から,被告有限
会社Cの負担分を25%に引き上げ,上川村の補助割合を15%に引き下げる
こととし,さらに事業費も削減すべきであるとの提案がされた結果,翌17日に
この提案どおりに修正のうえ,予算案が可決された。〔甲22の1,44,乙49,
65,77,被告有限会社C代表者〕
   ⑥ 被告有限会社Cは,予算案可決を受け,同年4月6日,被告Bに対し,平成10
年度の山振事業として,本件事業の実施を申請した。〔乙21〕
     被告Bは,同月8日付けで,平成10年度の山振事業の年度別計画書を新潟県
知事に提出した。〔甲10〕
     同計画書には,農林漁業振興事業として本件事業が挙げられており,「事業計
画の概要」として,「上川村の総面積の97%を占める山林原野から算出され
る山菜やきのこは,季節の味覚として地域住民のみならず,都会人にも人気
を集め,その需要は伸びる一方,生産出荷は一部の出荷業者以外は,ほとん
ど自家消費であったことから,昭和61年に4名の農林家等によりC組合が組
織され,農産物加工に着手した。その後施設の規模拡大や施設設備の拡充
により,村内の数少ない就労の場としての役割を果たし,平成元年に組合組
織から有限会社に変更し,大量の生産出荷,雇用の拡大に取り組んでき
た。」,「地域の農林業者の高齢化等により,地場産の農産物の安定確保でき
ず,年々塩蔵品の加工が増加してきたことと規模拡大等により,排水処理能
力の限界を超過し,」との記載がある。
     新潟県知事は,平成10年4月8日,北陸農政局長と協議のうえ,被告有限会社
Cを事業主体として認定した。〔甲11,12〕
   ⑦ 被告有限会社Cは,同年3月1日,社員規程を定め,総社員数並びに総出資口
数の4分の3以上を林地又は農地を保有する農林業者で構成するものとし
た。〔甲13〕
     また,被告B及びKは,同年5月16日の被告有限会社Cの臨時社員総会で自
己の社員持分を他の社員に無償譲渡し,被告Bが,同月18日,新潟県知事
に事業主体の構成員の変更を報告した。〔甲13,乙65,85〕
   ⑧ 被告Bは,同年4月8日及び同年6月17日に,県農林水産部長から平成10年
度の山振事業費補助金の割り当ての内示を受け,同月19日,被告有限会社
Cにこれを内示した。〔乙26,27,76〕
   ⑨ 被告有限会社Cは,同年7月8日,被告Bに対し,被告有限会社Cにおいて,椎
茸加工業の新規開始に伴う施設の増築(ア),連続焼き機,高速裁断機,プレ
ハブ冷蔵庫,回転式蒸気釜,作業台などの機械器具類の導入(ウ)と,排水処
理施設の設置(イ)事業を実施したいとして,平成10年度の山振事業費補助
金6331万5000円の交付を申請した。
    ア 山菜加工施設(木造カラー鉄板葺平屋建1棟 92.75㎡)
913万5000円
    イ 排水処理施設(1式)           6531万0000円    ウ 機械器具
費(1式)             997万5000円
                     合計事業費 8442万0000円
     合計事業費の負担区分は,国庫補助金4220万円(50%),県補助金844万2
000円(10%),上川村補助金1266万3000円(15%),受益者負担金21
10万5000円(25%,うち公庫資金2000万円)であった。
     同申請書中には,「地場産の農産物の安定確保ができず,年々塩蔵品の加工
が増大した結果,排水による水質汚染が指摘されてきた。」との記載がある。
〔甲5,乙34〕
   ⑩ 被告Bは,同年7月24日,新潟県知事に対し,平成10年度の補助金計画変
更(本件事業に対する補助金を含む。)の承認を申請し〔甲14,乙77〕,新潟
県知事は,同月27日,北陸農政局長に対し,この承認を申請した〔甲15〕。
     北陸農政局長は,新潟県知事に対し,申請のあった補助金全額について交付
決定を通知し,同年8月20日,新潟県知事は,被告Bに対し,補助金を交付
する旨の決定を通知した。〔乙28〕
     被告Bは,同月24日,被告有限会社Cに対し,本件事業について,平成10年
度の山振事業費補助金として,6331万5000円の交付決定を通知した。〔甲
3〕
   ⑪ 被告有限会社Cは,前記⑤に記載の3月議会での審議の経緯から,排水処理
施設の建設費用を引き下げるとともに,受益者負担金割合を増やすこととし,
同年11月5日,被告Bに対し,本件事業を次のとおり変更して実施したいとし
て,平成10年度の山振事業費補助金4815万円(本件補助金)の交付を申
請した。〔甲6,乙49〕
    ア 山菜加工施設(木造カラー鉄板葺平屋建1棟 92.75㎡)
1142万0000円
    イ 排水処理施設 1式            4000万0000円
    ウ 機械器具費 1式             1086万1000円
    エ 高圧受電設備 1式             189万6000円
    オ 工事雑費                    2万3000円
                     合計事業費 6420万0000円
     変更後の事業内容は,従前の事業内容から,山菜加工施設の建物工事の入札
(ア),排水処理施設の費用の見直し(イ),水煮・佃煮から焼き椎茸の機械へ
の変更(ウ)を行い,附属工事(エ,オ)を加えたものである。
     その結果,椎茸加工施設は,月間85tの加工処理が可能な機械器具を導入し,
排水処理施設は,BOD値を80㎎/?以下とすることのできる,活性汚泥方式
の中のバイオモジュール方式のものを採用した。〔甲16,被告有限会社C代
表者〕
     事業費の負担区分は,国庫補助金3210万円(50%),県補助金642万円(1
0%),上川村補助金963万円(15%),受益者負担金1605万円(25%,う
ち公庫資金0円)であった。
   ⑫ 被告Bは,同月9日,新潟県知事に対し,排水設備の設計の見直しによる事業
費の減を理由に,補助金計画変更の承認を申請した。〔甲16〕
     新潟県知事は,同年12月21日,被告Bに対し,申請のあった補助金を交付す
る旨の決定を通知した。〔乙29〕
     被告Bは,平成11年2月23日,被告有限会社Cに対し,本件本件補助金の交
付決定を通知した。〔甲4〕
  (7) 本件補助金の支出
    被告有限会社Cは,同年3月2日,被告Bに対し,本件事業を実施したとの実績
報告を行い,清算金(本件補助金)4815万円の交付を請求し,被告Bの支出決
定により,上川村は,同月25日,被告有限会社Cに対し,これを交付した。〔乙
6,7,9〕
    新潟県は,上川村に対し,同月24日,国庫補助金及び県補助金の合計3852万
円のうち3466万6000円を概算払いし〔乙5,8〕,同年5月21日に残金385万
4000円を支払った〔乙10,11〕。
  (8) 本件事業実施後の被告有限会社Cの状況
    被告有限会社Cは,平成10年7月から12月にかけて,本件事業にかかる各種
工事を実施し,機械を購入した。〔乙30,31,49〕
    被告有限会社Cは,平成10年12月から,公社から規格外椎茸を継続的に購入
して加工を行うようになり,平成10年12月から平成12年4月までの間に,合計
8554.5㎏の椎茸を公社から購入した。これを月数で割ると1月当たりの平均
は503.2㎏である。1㎏当たりの購入単価は,当初300円であったが,平成11
年4月以降は250円となった。〔乙49・別紙椎茸購入実績表〕
    また,排水処理施設を設置した結果,平成11年2月12日の検査では,処理水中
のBOD値は28㎎/?まで減少し〔乙4〕,同年12月2日の保健所による立入検査
でも2.4㎎/?であり〔乙58〕,目標値を満たすようになった。 
    被告有限会社Cの商品は,土産物として,P直売所のほか,上川村内の温泉施
設のQ及びRで販売されており,被告有限会社Cの総売上のうち,上川村内ない
し東蒲原郡内で土産物等として販売されている商品の売上は,平成10年度は
6.9%,平成11年度は7.6%,平成12年度は5.7%である。その余の商品
は,卸問屋を通じて,総菜工場,弁当工場,ホテル・旅館,食品メーカー,販売店
に販売されている。〔乙83の2・3・7〕
    被告有限会社Cは,平成10年度から,従来の山菜加工製品に加えて,焼き椎
茸,椎茸の佃煮,もろみ漬け,キムチ漬け等の椎茸加工製品を製造するように
なり,被告有限会社Cの総売上のうち,椎茸加工製品の売上は,平成10年度は
0.2%,平成11年度は1.7%,平成12年度は2.0%を占めている〔乙84の
2,被告有限会社C代表者〕。また,公社の平成10年度の被告有限会社Cに対
する規格外椎茸の売上は,椎茸販売事業(乾燥椎茸を除く。)による総収入223
1万9923円の約6%の133万0161円であり〔乙82の4〕,平成11年度は総
収入1187万3271円の約6.2%の約116万5758円〔同6〕,平成12年度は
総収入1597万9440円の約7.9%の126万5395円であった〔同5〕。
    被告有限会社Cは,平成13年度は,コリンキー2100㎏,糸カボチャ348㎏,茗
荷427㎏,塩蔵わらび30㎏を上川村内の農家から買い上げた。〔乙81の1・5・
9・10〕
    被告有限会社Cの平成11年5月14日時点における従業員(パートを含む。)は,
27名であり,このうち26名が上川村民,うち15名がG地域の住民であった〔乙
2〕。その後,平成13年9月1日には,同社の従業員は31名となった〔乙80〕。
平成13年に上川村で従業員を10名以上雇用している企業は10社であり,この
うち被告有限会社Cの従業員数は4位で,通年雇用では2位であった。〔乙71,
77〕
 2 争点1(公益上の必要性)について
   地方公共団体の長は,地域住民の多様な意見や利益を勘案して補助の要否につ
いて決定を行うもので,その決定には,当該地方公共団体の地理的,社会的,経
済的な個別事情や,行政施策の方針等を総合的に考慮した上での政策的判断を
要することから,地方自治法232条の2の「公益上必要がある場合」にあたるか否
かの判断にあたっては,地方公共団体の長に一定の裁量権があると解すべきであ
る。
   しかし,恣意的な補助金交付を防ぎ,地方公共団体の財政秩序を維持するとの観
点から,この裁量権の範囲には一定の限界があると解すべきであり,特定の事業
に対する公金の支出に公益上の必要性があるかどうかは,補助金交付の目的,対
象団体の性格・活動状況,補助に至る経緯,補助による具体的効果,地方財政に
及ぼす影響等を総合的に考慮して判断すべきである。
  (1) 本件補助金の目的
    本件補助金は,山振事業費補助金として交付されているところ,山振事業とは,
山村等の中山間地域の活性化と定住の促進のために,①高付加価値・高収益
型農業の確立,②就業機会の確保,③農林地の適正な利用・管理の促進,④生
活環境の整備等により,地域間格差を是正することを目的としており,その中で
も,本件事業が該当するとされた農林漁業振興事業は,高付加価値・高収益型
農業の確立等による農林漁業の振興のために必要な小規模生産基盤及び近代
化施設の整備を行う事業であるとされている。
    したがって,以下,本件補助金の支出が,高付加価値・高収益型農業の確立等に
より,農業の振興に資するものであるか否かを中心に検討する。
  (2) 被告有限会社Cの性格・活動状況
   ① 原材料の購入
     被告有限会社Cは山菜の加工を業としているため,まず,被告有限会社Cによ
る山菜等の原材料の購入が上川村の農業の振興に果たしている役割を検討
する。
     前判示のとおり,被告有限会社Cは,設立当初から,県外から仕入れた塩蔵
品,乾燥品を山菜加工品の原材料として使用しており,業績が拡大するに伴
って,安価な輸入品を大量に使用するようになっており,本件補助金交付当時
も含めて現在に至るまで,上川村内からの山菜購入はわずかである。
     確かに,山菜は大量採取になじまず,また,通年で安定供給を受けることが難し
いこと,人工栽培は困難であること等の事情も認められるところではあるが,C
組合が設立時に立案した事業計画書には,「現在,村内で生産出荷されてい
る(山菜の)量は135tである」との記載があることからすれば,上川村内から
相当量の原材料を購入することは可能であるにもかかわらず,被告有限会社
Cがこれを買い入れたり,山菜の栽培を試みた形跡は認められず,年間180t
を村内から買い入れるとの当初の事業計画に沿った経営はなされなかったの
である。
     したがって,被告有限会社Cが,本件補助金交付当時,山菜等の原材料を購入
することで上川村の農業の振興に寄与していたとは認められない。
   ② 特産物の創出
     次に,被告有限会社Cが山菜加工商品を販売することにより,上川村の農業の
振興に果たしている役割について検討する。
     確かに,被告有限会社Cは,山菜やきのこの加工製品を村内・郡内の観光施設
等で土産物として販売しており,これは,ふるさと産品の開発・販売を目指す,
「上川村山村等活性化ビジョン」の趣旨にも沿うものといえる。
     しかし,被告有限会社Cの総売上高のうち,村内・郡内での販売は5.7%に過
ぎず,その余は卸問屋を通じて,工場・食品メーカー等に販売されているとい
う状況に鑑みれば,被告有限会社Cの製品が,上川村の産品であることを広く
消費者に知らしめて,ブランドイメージを築いたりするものとは認め難く,上川
村の農家が山菜の採取又は栽培に取り組む動機付けとなる可能性は極めて
乏しいといわざるを得ず,被告有限会社Cには,上川村の特産物を製造する
という公益的性格は乏しいものと考えられる。
     したがって,被告有限会社Cが,補助金交付当時,山菜加工商品を販売するこ
とで上川村の農業の振興に寄与していたとは認め難い。
   ③ 椎茸加工事業
     本件事業は,椎茸加工施設の新規建設と排水処理施設の設置の2事業に大別
されるところ,被告らは,これらは不可分であり,椎茸栽培の普及と農家所得
の向上につながるものであると主張する。
     確かに,公社における椎茸栽培に伴って発生する市場価値のない規格外椎茸
を有効利用することには合理性があり,また,椎茸に付加価値を加えることで
新たな需要を開拓する効果も考えられるところである。
     しかし,椎茸栽培は新規事業であって,これが上川村の農家に普及するかどう
かは不明であること,規格外椎茸は,本来あってはならず,採算を維持するた
めには発生を抑制すべきものであり,その発生率は1割程度に過ぎないこと,
規格外椎茸は市場価値が少ないとはいえ,被告有限会社Cが公社から買い
取る価格は低廉であること等,このような効果が発生するか否かについて不
確定要素も多く見受けられる。
     また,被告有限会社Cが椎茸加工事業を行うことになった経緯を検討するに,平
成7年ころから,被告有限会社Cは,従来から操業してきた山菜加工業の過程
で発生する大量の汚水の処理施設を設置する必要が生じ,保健所から平成1
0年度が最終年度であるとの勧告を受けていたこと,これを被告Bも知ってお
り,補助金で排水処理施設を購入できないかを数年来検討していたものであ
る。他方,新たに椎茸の加工作業を行うとしても,化学処理が必要なほどの大
量の汚水が発生することは考えられなかった。(もっとも,被告有限会社C代
表者は,椎茸加工過程でも,洗浄機による洗浄,かごによる圧搾水切り,加熱
調味二重釜での加熱煮込み,瓶詰め作業台での瓶詰め,セイロによる加熱殺
菌,袋詰めのための計量などの際に排水が出,洗浄機による洗浄の際には
大量の水が必要であると述べるが〔乙49〕,加工に用いる原材料は生椎茸で
あり〔乙82の2〕,椎茸の洗浄は真水で行っていること〔被告有限会社C代表
者〕,BOD値が問題とされる脱塩のための煮沸の過程は,キムチ漬けの場合
に行うのみであること〔被告有限会社C代表者〕,被告有限会社Cの総売上高
に占める椎茸加工製品の割合は,年々上昇しているとはいえ,3年目の平成
12年度でも2%に過ぎないこと〔乙84の2〕等からすれば,上記のとおりと認
められる。)
     そうすると,平成8年ころから,被告有限会社Cが規格外椎茸を加工するとの話
が持ち上がっていること,当初ふるさと県単事業の希望はL地区の多目的集
会施設の建設及び被告有限会社Cの排水設備の建設の2事業であったが,
後に菌床椎茸の栽培施設の建設が加えられていること,被告Bが平成10年3
月の議会において,「そのほかでただ規格外として残ったものを今回そういう
ものとあわせながら実施をして,さらに村の産業の振興として位置づけをやっ
ていった方が,非常に同じ処理施設をつくるにしても,補助事業としてなじむと
いう話でございますので,そういう計画にさせていただいたわけであります。」
と述べていること〔甲22の1・134頁〕からすれば,椎茸加工は,被告有限会
社Cが排水処理施設を新設するに際して,補助金を受けやすくするために付
加されたものであることが強く推認されるものである。
     また,被告有限会社Cが行うとされる椎茸加工事業は,その経緯,予想される
規模,公社からの買い取り価格等に照らせば,上川村の農家に椎茸栽培を普
及させるなど,農業の振興に寄与するものであるかは疑わしかったといわざる
を得ない。
   ④ 被告有限会社Cの活動状況について
     なお,原告らは,被告有限会社Cによるポリ容器や山菜くずの不法投棄等を本
件事業の公益性を否定する根拠として挙げるが,これらの事実は,被告有限
会社Cに対する支出の公益性を直接否定するものではない。
  (3) 補助に至る経緯
    被告らが,被告有限会社Cの排水処理施設を補助金で購入できないかを数年来
検討していたことは既に述べたとおりであるが,環境基本法8条,37条や公害
防止事業費事業者負担法2条の2,4条1項の理念からすれば,本件加工場の
排水による水質汚濁は,できる限り事業者である被告有限会社Cの負担により
防止すべきである。それにもかかわらず,被告らが,被告有限会社Cが公的融
資を受けたり,常浪川の環境保全のために利用できる補助金を模索するなど,
本件補助金を得る以外の方策を検討した形跡は認められない。
    確かに,村議会において,O議員の提案により,被告有限会社Cの負担割合が5
%増し,上川村の負担割合が5%減少し,事業費も全体では減少したとの経緯
はあるものの,本件補助金の交付決定に先立って,被告Bが被告有限会社Cの
資産内容や財政状況を詳細に調査したり,設備工事や設置機械の性能・必要性
を検討した形跡もなく,椎茸の処理量(公社からの平均月間購入量503.2㎏)
を大幅に超える性能(月間処理量85t)の機械が購入されていることからみて
も,事業内容及びその費用の検討が十分になされたものとは認め難い。
  (4) 補助による効果
    被告らは,常浪川の汚染を防ぐことには公益上の必要性があると主張し,現に本
件補助金により,被告有限会社Cに排水処理施設が設置され,排水のBOD値
は基準を満たすまでに改善している。
    しかし,山振事業費補助金の目的である農業振興の観点からみれば,被告有限
会社Cに排水処理施設が設置されることにより,上川村内からの山菜の買い上
げ量が増加したり,菌床椎茸の栽培が普及するなどの効果が生じるとの関係は
認め難いし,被告有限会社Cが行うとされる椎茸加工商品の製造・販売について
も,前判示のとおり,これが菌床椎茸栽培の普及・発展に何らかの役割を果たす
かどうかは疑わしい。また,本件補助金交付後,被告有限会社Cの営業活動が
農業振興に寄与したと認めるに足りる証拠はない。
    さらに,就業機会を創出するとの被告らの主張についても,本件補助金は農業振
興のために交付されるものであることに鑑みれば,加工製造業を営む被告有限
会社Cにおいて就業する機会を創出することは補助金の本来の目的の範疇にあ
るものではないし,実施計画書において,本件事業を実施することにより増加す
るとされている就業者数の算出根拠も明らかでない。(被告有限会社Cの従業員
は,本件補助金交付後,増加しているが,本件事業を実施したことと従業員の増
加との間に明確な因果関係は認め難い。)
  (5) 上川村の財政に及ぼす影響
    本件補助金4815万円は,上川村の平成10年度一般会計予算(当初)である33
億5820万円〔甲44〕の約1.4%に及ぶものであるところ,本件補助金を支出
することにより期待される効果としては,被告有限会社Cが雇用を維持すること
により,上川村内の就業場所を確保するという副次的効果はあるにせよ,本件
事業が山菜や椎茸の栽培等の上川村の農業を振興させる余地はほとんど考え
られず,本件補助金の交付が上川村の財政に与える影響に比べて,得られる利
益は小さいというべきである。
    また,本件事業には,予想される椎茸の加工量を遙かに上回る性能を有する機
械の購入が含まれるなど,事業内容の必要性・相当性は疑わしく,本件補助金
は過大な出費であるといわざるを得ない。
  (6) 結論
    以上のとおり,本件補助金交付当時,被告有限会社Cが山菜の購入等により上
川村の農業振興に寄与していたとは言い難く,椎茸加工設備を導入することに
よる農業振興の効果もさほど期待できなかったのであり,椎茸加工設備を新設
することに伴う汚水処理の必要性は低いものであった。
    他方,被告有限会社Cは,従来から行ってきた塩蔵品等を原材料とする山菜の加
工過程で生ずる大量の排水を処理する必要性に迫られていたのであり,本件事
業は,この処理施設を建設することを主たる目的に行われたものと認められる。
    したがって,被告有限会社Cが上川村村民を多数雇用する企業であり,上川村産
品である山菜加工品を製造する企業であること,上川村が椎茸栽培等の振興を
政策に掲げていたことを斟酌しても,本件補助金がその目的とする地域活性化
のための農業振興に資するものとは認め難く,その交付に公益上の必要性があ
ったと認めることはできない。
    また,被告有限会社Cは,本件事業を山振事業として申請するにあたり,被告有
限会社Cが上川村内の農家から地場産の山菜を買い入れて加工し,付加価値
を高めているとの誤解を生じさせる表現を用いており,被告Bは,被告有限会社
Cの創設者であり,社員でもあったのであるから,被告有限会社Cが村内から原
材料を買い入れていないことを知っていたものと推認され,上記申請にあたり,
公益上の必要性があることを装うため,ことさら上記表現をしたものと認められ
る。
    以上の諸点に加えて,前判示のように,被告Bが被告有限会社Cの前身であるC
組合の設立当初から出資者になっていたことや,同被告が被告有限会社Cの役
員らと密接な人間関係を有することを考慮すると,本件補助金の支出は,主とし
て被告有限会社Cの利益を図る目的で行われたのではないかとの疑念を払拭
することができないのである。
    したがって,被告Bが本件事業を公益上の必要性があるとして本件補助金の支
出を決定したことには,明らかな裁量権の逸脱があったというべきである。
    そうすると,本件補助金の交付にかかる被告Bの財務会計行為は,地方自治法2
32条の2及び条例1条1項に違反するものであり,村議会において当該補助金
の支出にかかる予算案が承認されたからといって,当該財務会計行為の違法性
が治癒されるものではない。
 3 争点2(損害額)について
   本件補助金は,その財源に,国の補助金(3210万円)及び県の補助金(642万
円)を含んでいるところ,補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律及び
新潟県補助金等交付規則によれば,これらはいずれも当該認定事業以外の用途
に流用することはできず,仮に事業を施行しない場合にはこれを国及び県に返還し
なければならないという拘束を受けるものである。
   とすれば,本件補助金のうち,国及び県の各補助部分については,これを支出した
としても,上川村の固有財産に変動は生じず,同村に財産的損害を与えるもので
はないから,上川村が被った損害は,本件補助金のうち,同村の負担部分である9
63万円の限度にとどまると解すべきである。
   原告らは,財源次第によって違法な支出が住民訴訟の対象外におかれることは住
民訴訟の制度趣旨に反すると主張するが,住民訴訟制度が地方公共団体におけ
る住民の財産上の利益を擁護するためのものであることからすれば,その対象
は,当該地方公共団体の固有の財産に生じた損害に限られると解すべきである。
第4 結論
   以上の認定事実によれば,被告Bは違法な財務会計行為により上川村に損害を与
えたものであり,被告有限会社Cは当該財務会計行為の相手方であるから,地方
自治法242条の2第1項4号に基づいて,上川村に対し,主文第1項の限度でこれ
を連帯して賠償する責任があるが,原告らのその余の請求は理由がないので,棄
却することとし,主文のとおり判決する。
   新潟地方裁判所第2民事部
裁判長裁判官  犬飼眞二
            裁判官  大野和明
            裁判官  和田三貴子

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