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平成一一年(ワ)第九三二号 損害賠償請求事件
口頭弁論終結日 平成一一年八月二七日
         判           決
原        告 社団法人日本音楽著作権協会
    右代表者理事     A
    右訴訟代理人弁護士     葛西栄二
    被        告有限会社鴨田
右代表者代表取締役B
    被        告     B
    右両名訴訟代理人弁護士原山剛三
主         文
一被告らは、原告に対し、連帯して、八五八万一六八〇円及びうち別紙使用料相
当損害金・遅延損害金明細書の使用料欄記載の各金額に対する各々の起算日欄記載
の日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを一〇分し、その一を原告の負担とし、その余を被告らの連帯
負担とする。
四 この判決の第一項は、仮に執行することができる。
事 実 及 び 理 由
第一請求
被告らは、原告に対し、連帯して、九三四万一六八〇円及びうち別紙使用料相当損
害金・遅延損害金明細書の使用料欄記載の各金額に対する各々の起算日欄記載の日
から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
一 本件は、内外国の音楽著作物の著作権者から著作権ないしその支分権の移転を
受けるなどしてこれを管理する社団法人である原告が、カラオケ歌唱室(いわゆる
カラオケボックス)を経営する有限会社及びその代表取締役である個人に対し、右
カラオケ歌唱室における音楽著作物の使用が、原告の管理する音楽著作物に関する
著作権を侵害するものであるとして、不法行為、有限会社法三〇条の三による損害
賠償請求権の行使として、また、不当利得返還請求権の行使として、著作物使用料
相当額の金員等を請求するものである。
二 争いのない事実等
1 当事者
(一) 原告は、「著作権ニ関スル仲介業務ニ関スル法律」(昭和一四年法律第六七
号)に基づく許可を受けたわが国唯一の音楽著作権仲介団体であり、内外国の音楽
著作物の著作権者から著作権ないしその支分権(演奏権、録音権、上映権等)の移
転を受ける(内国著作物については、その著作権者から著作権信託契約により、外
国著作物については、わが国の締結した著作権条約に加盟する諸外国の著作権仲介
団体との間の相互管理契約による。)などしてこれを管理し、国内の放送事業者を
始め、レコード、映画、出版、興行、社交場、有線放送等各種の分野における音楽
の使用者に対して音楽著作物の利用を許諾し、その対価として使用者から著作物使
用料を徴収するとともに、これを内外の著作権者に分配することを主たる目的とす
る社団法人である(甲一、二)。
 別添「カラオケ楽曲リスト」記載の音楽著作物(以下「本件管理著作物」とい
う。)は、原告がその著作権者から著作権の信託的譲渡を受けて著作権を管理する
ものである。
(二) 被告有限会社鴨田(以下「被告会社」という。)は、平成六年六月二七日
に、カラオケルーム、遊戯場の経営、飲食店業等を目的として設立され、同年八月
一一日から、愛知県岡崎市<以下略>に「カラオケ天国ゴリラ」(以下「本件店
舗」という。)を開店し、訴外Cに本件店舗の営業を譲渡した平成一〇年九月三〇
日まで、本件店舗において、カラオケ歌唱室を経営していた有限会社であり、被告
B(以下「被告B」といい、被告会社及び同Bをあわせて「被告ら」という。)
は、被告会社設立以来、その代表取締役として、被告会社の業務執行に携わってい
るものである。
2 カラオケの使用状況等
(一) 本件店舗の営業時間は、月曜日から木曜日までは、午後零時から翌日の午前
三時まで、金曜日、日曜日、祝日及び祝前日は、午後零時から翌日の午前四時ま
で、土曜日は、午後零時から翌日の午前五時までであり、年中無休であった。
(二) 本件店舗は、カラオケ伴奏及び歌唱用の部屋が二六室あり、各カラオケ歌唱
室内にカラオケ装置を備え付けていた。
(三) 各部屋のうち、二二室ではスーパーインポーズ方式を伴う通信カラオケを、
四室ではレーザーディスクカラオケを、それぞれ使用することができた。
(四) 各部屋のうち、二四室は定員一〇名までの部屋(以下「小部屋」とい
う。)、二室は定員一〇名を超え三〇名までの部屋(以下「中部屋」という。)で
あった。
(五) 本件店舗においては、まず、従業員が客から利用人数及び利用時間を聴取し
た上、これに対応する代金を受領し、使用すべき部屋を指定してカラオケ装置のリ
モコン装置を持参して同部屋へ案内している。各部屋には、カラオケ選曲早見目次
集が複数部置いてある。客は、同部屋に設置されているカラオケ装置を操作して、
本件管理著作物を再生(演奏・上映)し、伴奏音楽に合わせて歌唱している。ま
た、被告会社は、指定した部屋において客に飲食物を提供している。
3時効の援用
 被告らは、本訴において、原告の被告らに対する不法行為に基づく損害賠償請求
権につき、消滅時効を援用した。
三 争点
1 著作権侵害の有無。被告会社は、本件管理著作物の利用主体か。
(原告の主張)
(一) カラオケ歌唱室において、客がカラオケ装置を使ってカラオケ伴奏音楽を再
生(演奏・上映)する場合はもちろんのこと、歌唱する場合についても、当該音楽
著作物の利用主体は、当該カラオケ歌唱室の経営者というべきである。
(二) 本件店舗において、被告会社は、各部屋に設置されているカラオケ装置を客
に操作させて、本件管理著作物を再生(演奏・上映)し、伴奏音楽に合わせて客に
歌唱させていた。
(被告らの主張)
  被告会社が、カラオケ装置を客に操作させたり歌唱させたりしたことはなく、
客が望めば、自ら操作及び歌唱ができた状況であったから、本件管理著作物の利用
主体は客である。
2 被告会社の責任
(原告の主張)
(一) 被告会社は、本件管理著作物の著作権を侵害したから、民法七〇九条、七一
五条の責任がある。
(二) 被告会社が本件管理著作物を使用するには、原告の許諾を得て、著作物使用
料規程所定の使用料を支払わなければならないのに、被告会社は、これを知りなが
ら、許諾を得ることなく本件管理著作物を使用し、使用料の支払いを免れて同額の
利益を利得している。よって、被告会社は、民法七〇三条、七〇四条により原告に
対して不当利得を返還する義務がある。
(被告会社の主張)
(一) 前記時効の援用により、平成八年三月九日以前の損害については時効消滅し
た。
(二) 被告会社が、本件管理著作物の使用料を支払わなかったことが、直ちに被告
会社の利得であるとはいえないし、当然支払うべきものを支払わなかったというの
であれば、そもそも利得はないと考えるべきである。
3 被告Bの責任
(原告の主張)
(一) 被告Bは、被告会社の本件店舗の営業の業務に関し、本件管理著作物の著作
権を侵害したものであり、民法七〇九条の責任がある。
(二) 被告Bは、被告会社の代表取締役として、法令を遵守して同社の業務執行を
なすべき義務があるところ、悪意又は重大な過失により、著作権法に違反して、本
件管理著作物の著作権を侵害し、原告に損害を与えたものであるから、有限会社法
三〇条の三に基づく責任がある。
(被告Bの主張)
  争う。
4 損害及び損失額
(原告の主張)
 原告は、被告らの平成六年八月一一日から平成一〇年九月三〇日までの、本件管
理著作物についての著作権侵害行為により、弁護士費用一五六万円のほか、以下の
とおり、本件管理著作物の著作権行使につき通常受けるべき金銭の額に相当する損
害を被った。
(一) 平成六年八月一一日から平成九年八月一〇日まで
 昭和五九年六月一日認可の著作物使用料規程(以下「旧使用料規程」という。)
第二章第二節「演奏等」の3「演奏会以外の催物における演奏」の(7)「その他の演
奏」の規定に基づき定められた「カラオケ歌唱室の使用料率表」(以下「本件使用
料率表」という。)によれば、レーザーディスクカラオケ及びスーパーインポーズ
方式を伴う通信カラオケは、「ビデオカラオケ」として分類されるものであるとこ
ろ、ビデオカラオケの使用料は、小部屋では月額四〇〇〇円、中部屋では月額八〇
〇〇円である。
 本件店舗には、小部屋が二四室、中部屋が二室あり、これらの部屋ではいずれも
ビデオカラオケを利用できるので、使用料相当損害金は、消費税(平成九年三月分
までは三パーセント。平成九年四月分からは五パーセント。)相当額を加算する
と、平成九年三月分までは一か月あたり一一万五三六〇円、平成九年四月分以降
は、一か月あたり一一万七六〇〇円である。
(二) 平成九年八月一一日から平成一〇年九月三〇日まで
 平成九年八月一一日、旧使用料規程が文化庁長官の認可を受けて一部変更され
(以下、変更後のものを「新使用料規程」という。)、同日から施行されたとこ
ろ、新使用料規程第二章第二節「演奏等」の4「カラオケ施設における演奏等」
の(1)によれば、カラオケ歌唱室における同日以降の一部屋ごとの本件管理著作物の
使用料相当額は、小部屋については月額九〇〇〇円、中部屋については月額一万八
〇〇〇円である。
 本件店舗には、小部屋が二四室、中部屋が二室あり、これらの部屋ではいずれも
ビデオカラオケを利用できるので、使用料相当損害金は、消費税相当額を加算する
と、一か月あたり二六万四六〇〇円である。
(三) 以上により、平成一〇年九月三〇日までに、原告の被った使用料相当損害金
の合計は、別紙使用料相当損害金・遅延損害金明細書の使用料欄記載の合計欄記載
の七七八万一六八〇円である。
(被告らの主張)
(一) 著作物使用料規程は、著作物の利用についての許諾契約を締結する場合の使
用料を定めたものにすぎず、許諾がなく著作物を使用した場合の損害の算定根拠と
はならない。
(二) 旧使用料規程においては、本件使用料率表は認可されていない。
 旧使用料規程第二章第二節「演奏等」の3「演奏会以外の催物における演奏」
の(7)「その他の演奏」によれば、「本規定の(1)の規定の範囲内において、使用状
況等を参酌して使用料を決定する」とあるが、本件使用料率表は、旧使用料規程の
使用料の範囲内にないから、旧使用料規程に対する認可が、本件使用料率表に及ぶ
と解することもできない。
 したがって、少なくとも平成九年八月一〇日以前の分については、旧使用料規程
を根拠とすることはできない。
第三 当裁判所の判断
一 争点1(著作権侵害の有無。被告会社は、本件管理著作物の利用主体か。)に
ついて
1 証拠(甲六、一一)及び弁論の全趣旨によれば、本件店舗の各カラオケ歌唱室
においては、客自らが各部屋に設置されたカラオケ装置を操作することで、レーザ
ーディスクカラオケ又は通信カラオケにより、本件管理著作物である伴奏音楽の再
生による演奏が行われ、本件管理著作物たる歌詞及び伴奏音楽の複製物を含む映画
著作物であるレーザーディスクカラオケの上映によって、本件管理著作物たる歌詞
及び伴奏音楽の複製物の上映が行われていることが認められる。
 そして、本件店舗の経営者である被告会社は、各部屋にカラオケ装置を設置し
て、客がカラオケ装置を操作できるようにした上で、本件店舗の従業員に、カラオ
ケ装置のリモコン装置を持参して、客を各部屋に案内し(当事者間に争いがな
い。)、リモコンの操作方法について説明をさせていること(甲一一)、客は被告
会社が用意した曲目の範囲内で選曲するほかないことに照らせば、被告会社は、客
の選曲に従って自ら直接カラオケ装置を操作する代わりに、客に操作させていると
いうことができるから、各部屋においてカラオケ装置によって本件管理著作物の演
奏ないしその複製物を含む映画著作物の上映を行っている主体は、被告会社である
というべきである。
2 また、前記争いのない事実等記載のとおり、本件店舗の各カラオケ歌唱室にお
いては、客が各部屋に設置されたカラオケ装置を操作し、再生された伴奏音楽に合
わせて歌唱することによって、本件管理著作物の演奏が行われていることが認めら
れるし、被告会社は、各部屋に、カラオケ装置と共に、カラオケ選曲用早見目次集
を複数部備え置いて、客の選曲の便に供し、また、客は指定された部屋において定
められた時間の範囲内で時間に応じた料金を支払って歌唱し、歌唱する曲目は被告
会社が用意した範囲に限られることが認められる。
 これらのことからすれば、客による歌唱は、本件店舗の経営者である被告会社の
管理の下で行われているというべきであり、また、カラオケ歌唱室の営業の性質
上、被告会社は、客に歌唱させることによって営業上の利益を得ていることからす
れば、各部屋における客の歌唱による本件管理著作物の演奏についても、その主体
は本件店舗の経営者である被告会社であるというべきである。
3 前記認定のとおり、伴奏音楽の再生及び客の歌唱により本件管理著作物を演奏
し、その複製物を含む映画著作物を上映している主体である被告会社にとって、本
件店舗に来店する客は不特定多数の者であるから、右の演奏及び上映は、公衆に直
接聞かせ、見せることを目的とするものということができる。
 ところで、著作権法附則(以下「附則」という。)一四条によれば、適法に録音
された音楽の著作物の演奏の再生については、公衆送信に該当するもの及び営利を
目的として音楽の著作物を使用する事業で政令(著作権法施行令附則(以下「施行
令附則」という。)三条)で定めるものにおいて行われるものを除き、当分の間自
由に行い得るものとされている。
 この点につき検討するに、被告会社は本件店舗において客に飲食物の提供を行っ
ている(当事者間に争いがない。)から、被告会社の本件店舗における営業は、施
行令附則三条一号の「喫茶店その他客に飲食させる営業」に該当する。また、客が
カラオケ歌唱室においてカラオケの伴奏音楽を再生してこれを聴くこと及び再生さ
れた伴奏音楽に合わせて歌唱を行ってこれを聴くことは、いずれも「音楽の鑑賞」
に当たり、弁論の全趣旨によれば、被告会社は本件店舗においてカラオケ歌唱室で
あることを表示して営業している(被告会社は、この点を争うことを明らかにしな
い。)から「客に音楽を鑑賞させることを営業の内容とする旨を広告し」ていると
いうべきであり、本件店舗の各カラオケ歌唱室にカラオケ装置を設置することによ
り「客に音楽を鑑賞させるための特別の設備を設けている」というべきである。
 したがって、被告会社の本件店舗における営業は、施行令附則三条一号の事業に
該当するから、附則一四条は適用されない。
4 以上によれば、被告会社は、本件店舗においてカラオケ装置を使って、①本件
管理著作物である伴奏音楽を公に再生することにより、原告の本件管理著作物の演
奏権(法二二条)を侵害し、②映画の著作物において複製されている本件管理著作
物たる歌詞及び伴奏音楽を公に上映して、原告の上映権(法二六条二項)を侵害
し、③再生された伴奏音楽に合わせて本件管理著作物を客に公に歌唱させることに
より、原告の本件管理著作物の演奏権(法二二条)を侵害しているものと認められ
る。
二 争点2(被告会社の責任)について
1 前記一の4のとおり、被告会社は、本件管理著作物の演奏権及び上映権を侵害
したものであるところ、後記三の2に認定した事実によれば、被告会社代表者にお
いて、右著作権侵害についての故意又は過失があることが明らかであるから、民法
七〇九条により、これによって生じた損害を賠償する責任がある。
 ところで、前記争いのない事実等3のとおり、被告会社は本訴において消滅時効
を援用したところ、本件管理著作物の演奏権及び上映権侵害による損害は、演奏等
の都度発生しているものと認められるから、本訴が提起された平成一一年三月一〇
日より三年前に発生したもの、即ち、平成六年八月一一日から平成八年三月九日ま
でに発生したものについては、時効により消滅したものと認められる。
 もっとも、次項で認定するとおり、本件管理著作物の無断演奏による原告の損害
(損失)については、無断演奏の全期間を通じて不当利得返還請求権が認められる
ところ、原告は、右損害、損失については、不法行為による請求と不当利得による
請求を選択的に請求していると認められるから、当裁判所は不当利得返還請求によ
ってこれを認める。
2 適法に他人の著作物を使用するには、著作権者の許諾を得ることが必要であ
り、そのためには相当の使用料を支払わなければならないのが通常である。したが
って、他人の著作物を無許諾で使用する者は、他人の著作物を使用しながら、法律
上の原因なく、その使用料の支払を免れて、同額の利益を得たことになる。他方、
著作権者は、受けるべき使用料の支払を受けることなく、自己の著作物を利用され
ているわけであるから、これと同額の損失を被ったものということができる。した
がって、著作権の侵害があれば、特別の事由のない限り、常に使用料相当額につき
不当利得が成立するということができる。
 本件において、右特別の事由は認められないから、被告会社には、本件店舗にお
ける本件管理著作物の無断使用期間である平成六年八月一一日から平成一〇年九月
三〇日までの使用料相当額の不当利得が成立している。
 そして、被告会社は、後記認定のとおり、原告から再三にわたる請求や警告を受
けながら、本件管理著作物を使用してきたものであるから、悪意の受益者として民
法七〇四条により受けた利益に利息を附して返還すべきである。
三 争点3(被告Bの責任)について
1 被告Bが、被告会社の設立以来、その代表取締役として、被告会社の業務執行
に携わってきたものであることは、当事者間に争いがない。
2 そして、証拠(甲六ないし一〇)によれば、原告は、平成六年一一月九日、平
成七年二月九日、同年五月二四日、同年一二月八日及び平成八年四月二日に、その
担当者を本件店舗に出向させ、応対した従業員に著作権手続の必要性を説明し、手
続書類を手渡して、被告会社に右書類を回付するように要請し、被告会社に対し、
平成九年五月二九日付けの文書で、無断使用期間の使用料相当額の支払及び今後の
利用許諾契約の締結を督促し(甲七)、平成一〇年五月二九日付けの文書で、期限
内に許諾契約手続を完了しない場合には、無断使用期間の使用料相当額のほか、損
害金を請求することを通知し(甲八)、同年六月一八日付けの文書で、過去の無断
使用にかかる使用料相当額及び遅延損害金の支払と今後の利用許諾手続を完了する
よう督促するとともに、期限内に一切の手続を完了しない場合は、本件管理著作物
の使用の差止め並びに使用料相当額及び損害金の請求についての法的措置を採らざ
るを得ないことを警告し(甲九)、被告らに対し、それぞれ、平成一一年一月一九
日付けの内容証明郵便で、無断使用期間の使用料相当損害金及び遅延損害金の支払
を督促したことが認められる(甲一〇)。
3 右事実によれば、被告Bは、被告会社が著作物の無断使用による著作権侵害行
為を行っていること、及び、被告会社の代表取締役として、無断使用期間の使用料
相当損害金及び遅延損害金を支払った上、利用許諾契約を締結しなければならない
ことを知りながら、これを放置していたと認められ、右職務懈怠について、少なく
とも重過失があると認められるから、原告に対し、原告が被告会社の著作権侵害行
為によって被った損害について、有限会社法三〇条の三に基づく損害賠償義務を負
う。
四 争点4(損害及び損失額)について
1 著作権法(以下「法」という。)一一四条二項は、著作権者は、著作権侵害者
に対し、その著作権の行使につき通常受けるべき金銭の額に相当する額を、自己が
受けた損害の額として、その賠償を請求することができる旨定めている。
 著作物使用料規程は、著作物の利用についての許諾契約を締結する場合の使用料
を定めたものであり、通常受けるべき金銭の額を定めたものであるから、使用料規
定は、許諾がなく著作物を使用した場合の損害の算定根拠とはならないとの被告ら
の主張は、採用できない。
2 証拠(甲四、六)によれば、カラオケ歌唱室における本件管理著作物の演奏等
は、被告会社の本件店舗における営業開始前から原告が制定し、文化庁長官の認可
を受けた、旧使用料規程の第二章第二節「演奏等」の3「演奏会以外の催物におけ
る演奏」の(7)「その他の演奏」に該当するものとして、原告が著作物使用料の支払
を受けることができると解されており、そのように取り扱われていたことが認めら
れる。そして、本件店舗におけるカラオケ装置を使う方法による演奏等は、右「演
奏会以外の催物における演奏」のうちの(1)ないし(6)のいずれにもあたらないの
で、(7)「その他の演奏」に該当するものとなるところ、本件使用料率表は、右「そ
の他の演奏」の規定に基づいて、旧使用料規程の範囲内で定められたものと認めら
れるから(本件使用料率表に規定された月額使用料は、平成九年八月一一日に文化
庁長官の認可を受けて変更された新使用料規程の第二章第二節「演奏等」の4「カ
ラオケ施設における演奏等」の、年間の包括的利用許諾契約を結ぶ場合の月額使用
料と同額である。また、右「演奏等」の節に規定されたその他の使用料は変更され
ていない。)、本件使用料率表に基づいた額が、少なくとも原告の通常得べき金銭
であると認められる。
3 なお、カラオケ歌唱室における本件管理著作物の演奏等については、新使用料
規程になって初めて規定が設けられたことが認められる(甲五)。
 しかしながら、カラオケ歌唱室における演奏等が、平成九年八月一〇日までは、
旧使用料規程の第二章第二節「演奏等」の3「演奏会以外の催物における演奏」の
うち(7)「その他の演奏」に該当したことは、右2認定のとおりであって、その演奏
の方法としてカラオケ歌唱室におけるものが排除されていたとすべき根拠はない。
したがって、平成九年八月一〇日以前の使用料相当額の損害及び損失につき、旧使
用料規程に基づく請求が許されないものではない。
4 本件店舗における著作物の無断使用期間が平成六年八月一一日から平成一〇年
九月三〇日までであること、本件店舗の部屋数が、小部屋二四室、中部屋二室であ
ること、本件店舗において使用することのできたカラオケが、スーパーインポーズ
方式を伴う通信カラオケ及びレーザーディスクカラオケであることは、いずれも争
いがなく、証拠(甲四、五)によれば、レーザーディスクカラオケ及びスーパーイ
ンポーズ方式を伴う通信カラオケは、「ビデオカラオケ」として分類されること、
ビデオカラオケの使用料は、平成六年八月一一日から平成九年八月一〇日までは、
小部屋では月額四〇〇〇円、中部屋では月額八〇〇〇円であったこと、平成九年八
月一一日から平成一〇年九月三〇日までは、小部屋については月額九〇〇〇円、中
部屋については月額一万八〇〇〇円であることが、それぞれ認められる。
 したがって、本件管理著作物の使用料相当額は、平成六年八月一一日から平成九
年三月三一日までは、一か月あたり一一万五三六〇円、平成九年四月一日から同年
八月一〇日までは、一か月あたり一一万七六〇〇円、平成九年八月一一日からは、
一か月あたり二六万四六〇〇円であると認められ、原告が、被告会社の前記著作権
侵害行為によって被った使用料相当額の損害及び損失は、消費税込みで、別紙使用
料相当損害金・遅延損害金明細書の使用料欄記載の金額合計七七八万一六八〇円で
あると認められる。
5 また、原告が、本訴の提起と遂行を弁護士に委任していることは、本件記録上
明らかなところ、本件事案及び本件請求の内容を総合すれば、八〇万円の限度をも
って、被告会社の本件不法行為及び被告Bの有限会社法三〇条の三違反の行為と相
当因果関係のある弁護士費用と認める。
6 なお、被告Bの損害賠償義務は、被告会社の右著作権侵害行為を放置したこと
により原告に与えた損害を賠償するものであり、被告会社の不当利得返還義務も、
やはり、著作権侵害により原告に与えた損失をてん補するものであるから、被告B
の右損害賠償義務と同一の性質を有するものである。したがって、被告らは、著作
権侵害による損害という同一の損害を、それぞれの立場において、てん補すべき義
務を負担しているといえるから、被告らの債務は、不真正連帯債務である。
五以上のとおり、原告の本訴請求は、主文第一項の限度において理由があるから
これを認容し、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき
民事訴訟法六一条、六四条本文及び六五条一項ただし書を、仮執行の宣言につき二
五九条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。
名古屋地方裁判所民事第九部
     裁判長裁判官  野   田   武   明
        裁判官   佐   藤   哲   治
        裁判官   達   野   ゆ   き

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