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○ 主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求めた裁判
一 原告の請求の趣旨
1 原告の昭和五四年から昭和五六年までの各年分の所得税について、被告世田谷
税務署長(以下「被告署長」という。)がいずれも昭和五八年三月一四日付けでし
た各更正(昭和五六年分については異議決定によって一部を取り消された後のも
の)のうち、昭和五四年分については、総所得金額で二四六九万円、所得税額で八
一万二九〇〇円を、昭和五五年分については、総所得金額で三〇七九万七五〇〇
円、所得税額で一七九万四七〇〇円を、同五六年分については、総所得金額で三三
五〇万五〇〇〇円、所得税額で一六四万六〇〇〇円をそれぞれ超える部分及び各過
少申告加算税賦課決定(昭和五六年分については異議決定によって一部を取り消さ
れた後のもの)を、いずれも取り消す。
2 原告の昭和五四年から昭和五六年までの各年分の所得税について、被告国税不
服審判所長(以下「被告審判所長」という。)が昭和六一年四月一八日付けでし
た、被告署長のした前記各更正及び各過少申告加算税賦課決定に対する原告の審査
請求を棄却する旨の裁決を取り消す。
3 訴訟費用は被告らの負担とする。
二 請求の趣旨に対する被告らの答弁
主文同旨
第二 当事者の主張
一 原告の請求原因
1 本件課税処分の経緯
(一) 原告は、昭和五四年から昭和五六年までの各年分の所得税について、次の
とおりの確定申告を行った。
(1) 昭和五四年分
総所得金額    二四六九万〇〇〇〇円
所得税額       八一万二九〇〇円
(2) 昭和五五年分
総所得金額    三〇七九万七五〇〇円
所得税額      一七九万四七〇〇円
(3) 昭和五六年分
総所得金額    三三五〇万五〇〇〇円
所得税額      一五八万七三〇〇円
(二) 更に、原告は、昭和五七年八月九日、右昭和五六年分の所得税について、
次のとおりの修正申告を行った。
総所得金額    三三五〇万五〇〇〇円(確定申告額と同じ)
所得税額      一六四万六〇〇〇円
(三) これに対し、被告署長は、昭和五八年三月一四日付けで、次のとおりの更
正及び過少申告加算税の賦課決定を行った。
(1) 昭和五四年分
総所得金額    五九四七万九二五二円
所得税額     二二二六万八六〇〇円
過少申告加算税額  一〇七万二七〇〇円
(2) 昭和五五年分
総所得金額    六六七九万九二三三円
所得税額     二四九六万六四〇〇円
過少申告加算税額  一一五万八五〇〇円
(3) 昭和五六年分
総所得金額    四一五二万〇七八〇円
所得税額      六四七万八六〇〇円
過少申告加算税額   二四万一六〇〇円
(四) 右の各更正及び各過少申告加算税賦課決定に対して、原告が異議申立てを
したところ、東京国税局長は、昭和五八年六月二二日付けで、右昭和五六年分につ
いてのみ原処分の一部を取り消し、その総所得金額等を次のとおりとする異議決定
を行った。
総所得金額    四一三二万〇七八〇円
所得金額      六三四万八六〇〇円
過少申告加算税額   二三万五一〇〇円
(五) その後、右の各更正及び各過少申告加算税賦課決定について、原告のした
審査請求に対し、被告審判所長は、昭和六一年四月一八日付けで、右審査請求を棄
却する旨の裁決をした。
2 本件各課税処分の違法性等
(一) 右の各更正及び各過少申告加算税賦課決定は、いずれも原告の所得を過大
に認定した違法なものであるから、その取消しを求める。
(二) 被告審判所長のした右裁決は、次のとおり違法なものであるから、その取
消しを求める。
すなわち、原告は、昭和六〇年七月一八日、国税通則法九六条二項の規定に基づ
き、本件審査請求事件の担当審判官に対して原処分庁が被告審判所長に提出した書
類その他の物件の閲覧を請求した。ところが、原告の閲覧に供されたのは原処分の
理由を整理して記載した書面のみであった。しかし、本件裁決書によれば、原処分
庁から被告審判所長に対しては、A等の作成した支払明細表、計算メモや、同人ら
の原処分庁に対する陳述の録取書等の書面が提出されていたことが明らかであり、
担当審判官は、これらの書類を原告に対して秘匿していたこととなる。そうする
と、これによって、原告は、原処分の処分理由を根拠付ける証拠資料を検討し、こ
れに対する反証の機会を与えられるという、国税不服審査手続における最も重要で
基本的な利益を侵害されたこととなり、本件審査請求の審査手続には重大な手続上
の瑕疵があることとなるから、
これに基づいてされた本件裁決は、違法なものというべきである。
二 請求原因に対する被告らの認否等
1 請求原因1の本件課税処分の経緯に関する事実は認める。
2 同2の(一)の本件更正等が違法であるとの主張は争う。
3 同2の(二)の本件裁決の違法事由に関する主張のうち、原告による関係書類
等の閲覧の経緯が原告主張のとおりであったことは認める。
4 (一)国税不服審査手続において審査請求人に原処分庁から提出された書類等
の閲覧請求権が認められている趣旨は、審査請求人に原処分庁の手持資料を閲覧さ
せることによって、原処分の処分理由の当否を検討し、攻撃防御を行う機会を与え
ることにある。したがって、この書類等の閲覧が違法に拒否された場合において
も、これが当該審査裁決の取消事由となるのは、閲覧請求の対象となった書類等に
ついて審査請求人が他に適切な反証等を提出することによって、当該審査裁決の結
論に影響を及ぼすことが可能であったと認められるような事情がある場合に限られ
るものというべきである。
ところで、本件審査請求においては、専ら原告がA等から受け取っていたリベート
収入の金額と原告が右A等に対して手渡していた金員の金額の差額がいくらであっ
たかが争われていたのであり、原告は、右各金額が同額となるようにしていたの
で、双方が互いに交付する金額の間に原処分庁の主張するような高額の差額が生じ
ることはないと主張していたにすぎない。したがって、仮に原告が本件書類等を閲
覧していたとしても、これによって本件裁決の結論に影響を及ぼすような新たな主
張、立証を提出することが可能になったといった事情は認められないことは明らか
である。そうすると、本件における書類等の閲覧拒否は、本件裁決の取消事由とな
るものでないというべきである。
(二) また、本件で原告から閲覧請求のあった各書類は、いずれも税務署員が質
問検査権を行使して収集したものであるばかりでなく、その内容も被調査者の個人
的な秘密に関する記載が含まれているものであり、右書類を閲覧に供することによ
って被調査者に不測の損害を与えることにもなりかねないものであった。したがっ
て、担当審判官のした右書類等の閲覧拒否には、国税通則法九六条二項後段にいう
「正当な理由」があったものというべきである。
三 本件各課税処分の根拠に関する被告署長の主張
1 原告の昭和五四年から昭和五六年までの各年分の所得税の課税標準等の内容
は、次のとおりである。
(一) 給与所得の金額
昭和五四年分   二四六九万〇〇〇〇円
昭和五五年分   三〇七九万七五〇〇円
昭和五六年分   三三五〇万五〇〇〇円
(二) 雑所得の金額
(1) 原告は、昭和四八年四月ころから国際教育開発株式会社(以下「国際教育
開発」という。)の代表取締役専務の地位にあった者である。
国際教育開発は、株式会社テイビーエス・ブリタニカ(以下「テイビーエス・ブリ
タニカ」という。)の輸入製作に係る書籍等を販売する会社で、その販売組織は国
内をおよそ二分し、その一方を東日本販売事業本部が、他方を西日本販売事業本部
がそれぞれ統括していた。
昭和四九年九月ころから、Aは同社の東日本販売事業本部長(その以前は西日本販
売事業本部長)の地位にあり、Bは西日本販売事業本部長(その以前は西日本販売
事業本部次長)の地位にあった。原告は、これら各事業部の業務に関し、管理ない
し指示を行う立場にあったものである。
(2) 昭和四九年ころ、原告は、その絶大な権限を背景として、A、Bらに対し
て、原告の意に従わなければ人事上不利な取扱いをもしかねない旨をほのめかした
り、殊更に同人らの不利になるように組織(販売のテリトリー等)を改変したりす
るなどの各事業本部の仕事に支障を来すような嫌がらせをするようになった。同人
らは、これを、暗に原告が同人らが国際教育開発から書籍等の売上げに比例して受
けている手数料等の報酬の一部を原告に対して支払うように要求しているものと判
断し、仕事が円滑にいくようにするためには原告のこの要求に応ずることもやむを
得ないものと考え、以後、その手数料等の報酬の一部を原告に支払うようになっ
た。
(3) A及びBが本件各年度に原告に対して支払った金額の原則的な計算方法
は、次のとおりである。
ア 昭和五四年分
(ア) Aの一月から一〇月まで分及びBの一月から一二月まで分
次のaとbの金額の合計額である。
a 国際教育開発から支給される手数料等の報酬額から、経費相当分として同手数
料等の報酬額の四割相当額と同人らが負担することになる所得税及び地方税相当額
(その計算方法は、
別表二及び三の各一及び二記載のとおりである。)との合計額を控除した残額の二
分の一
b 同手数料等の報酬額の四割相当額の三分の一
(イ) Aの一一月及び一二月分
国際教育開発から支給される手数料等の報酬額の二割
イ 昭和五五年分及び昭和五六年分(昭和五六年分は一一月まで)
国際教育開発から支給される手数料等の報酬額の二割
(4) 右金額の算出に当たってその基礎とした国際教育開発から支給される手数
料等の報酬額は、別表一の「A」欄及び「B」欄の各「収入金額」欄記載のとおり
であり、別表二及び三の各一及び二記載のような算出過程からすると、右の計算方
法に従った右両名の原告に対する支払額は、同各表の「支払額」欄に記載された各
金額となる。
ただし、右両名は、国際教育開発から支払いを受けるべき手数料等について課税対
策上その現実の支払時期を翌月以降に遅らせる等していたことがあり、そのような
場合には、原告に対して概算払いとして二〇〇万円の前渡金を支払い、翌月に精算
を行うという方法をとっていた。そのため、Aの原告に対する支払額は、右の計算
式にかかわらず、昭和五四年一月が二三六万五七三〇円、同年一二月が二〇〇万
円、昭和五五年一月が一八三万三八〇〇円、同年一二月が二〇〇万円、昭和五六年
一月が一〇七万五二〇〇円となる。また、Bの原告に対する支払額は、その他に二
か月分を一度に支払ったことがあったこと等から、右の計算式にかかわらず、昭和
五四年一月が一七五万一四〇五円、同年八月が二〇〇万円、同年九月が一九三万八
五九六円、同年一〇月が〇円、同年一一月が四〇五万二七七〇円、同年一二月が二
〇〇万円、昭和五五年一月が二九二万四七五〇円、同年八月が二〇〇万円、同年九
月が二二九万四二二二円、同年一二月が二〇〇万円、昭和五六年一月が一六四万一
四七三円、同年四月が〇円、同年五月が四〇八万二八四九円となる。
すなわち、右両名が原告に対して現実に支払った金額は、別表一の「A」の欄の
「(1)支払金額」の各欄及び「B」の欄の「(2)支払金額」の各欄記載のとお
りとなり、その合計額は、昭和五四年分が四七三六万〇五四四円、昭和五五年分が
四七三三万二四一五円、昭和五六年分が三四一二万九七八三円となる。
(5) 右両名が原告に支払った金額は、
国際教育開発における原告の絶大な権限を背景として原告と右両名との間で成立し
た合意に基づくリベート収入であり、所得税法上の雑所得となるものと考えられ
る。したがって、原告の本件各年分の雑所得の金額は、次のとおりとなる。
昭和五四年分    四七三六万〇五四四円
昭和五五年分    四七三三万二四一五円
昭和五六年分    三四一二万九七八三円
(三) 総所得金額(右(一)の給与所得金額と(二)の雑所得金額の合計額)
昭和五四年分    七二〇五万〇五四四円
昭和五五年分    七八一二万九九一五円
昭和五六年分    六七六三万四七八三円
(四) 所得控除額の合計額
昭和五四年分     一二六万一八八〇円
昭和五五年分      九九万五〇四〇円
昭和五六年分     一〇六万〇五〇〇円
(五) 住居取得控除額
昭和五五年分       六万〇〇〇〇円
(六) 特別減税額
昭和五六年分         一〇〇〇円
(七) 源泉徴収税額
昭和五四年分     八三三万二四四八円
昭和五五年分    一〇七九万六三三三円
昭和五六年分    一二五七万九三二八円
(八) 所得税額
昭和五四年分    三〇九七万九一〇〇円
昭和五五年分    三二八九万七四〇〇円
昭和五六年分    二三七八万一四〇〇円
2 そうすると、被告署長がした本件更正における原告の総所得金額及び所得税額
はいずれも右の金額の範囲内にあるから、本件更正は適法である。
また、原告については、本件更正によって納付すべきことになった所得税額を過少
に申告していたことについて国税通則法(昭和五九年法律第五号による改正前のも
の。以下同じ。)六五条二項に規定する正当な理由があるとは認められないので、
同条一項の規定に基づき本件更正により納付すべき税額に一〇〇分の五の割合を乗
じて計算した金額に相当すろ過少申告加算税を納付すべきものとした本件過少申告
加算税賦課決定も適法である。
四 被告署長の課税根拠に対する原告の認否等
1 被告署長の主張1の(一)給与所得の金額は認める。
2 同1の(二)の雑所得の金額に関する主張のうち、(1)の事実は認める。同
(2)から(4)までの事実については、原告がA及びBの両名から一定の金員の
交付を受けていたことは認めるが、その金額及び趣旨は争う。同(5)の主張は争
う。
3 同1の(三)の総所得金額に関する主張は争う。
4 同1の(四)から(七)までの各項目及びその金額は認める。
5 同1の(八)の所得税額に関する主張は争う。
6 同2の本件更正等が適法であるとする主張は争う。
7 (一) 原告が代表取締役専務に就任した当時の国際教育開発は、多額の累積
赤字を抱えており、A、Bらの西日本販売事業本部の役職者が本社に上京する際
は、経費を節約し、原告との間で起居寝食を共にしながら販売対策を協議する等の
目的から、原告宅に寝泊まりすることが常態となっていた。このような状況のもと
で、原告と右両名らは、当時刊行、販売を開始していた国際百科大事典を総力を挙
げて販売するために、一種の運命共同体を結成することを約し、相互に国際教育開
発から受領する手数料等の報酬や給与等の収入の一部を拠出し合い、これを右書籍
の販売実績の向上を図るためのさまざまな費用に充てることとしていたのである。
したがって、原告と右両名との間での金員の相互拠出は、国際教育開発の販売する
書籍の販売成績の維持、向上を目的とする一種の組合契約に基づく出資ともいうべ
き実質を持つものであって、被告署長の主張するようにリベートの相互支払と見る
べきものではないから、これを所得税法上の雑所得に当たるものとする被告署長の
主張は失当である。
また、原告と右両名との間での金員の相互拠出は、互いに税引き後の可処分所得た
る金銭を贈与し合っていたというものであるから、これによって生じた所得は、贈
与税の課税対象とされることはともかく、所得税法上は九条一項二〇号(昭和六三
年法律第一〇九号による改正前のもの。改正後は同項一五号。以下同じ。)の非課
税所得に当たるものというべきである。更に、このような金員の相互拠出による所
得を雑所得として、これに所得税を課することは、一度課税済みの所得に対して二
重の課税をすることとなり、この点からしても、右のような課税は許されないもの
というべきである。
(二) 更に、本件各年度においては、原告から右両名に対して原告の受ける給与
の手取り額の三分の一ずつを拠出するとともに、右両名から原告に対しても、両名
が国際教育開発から受ける手数料等の報酬額のうち経費及び税金分を差し引いた残
額の各三分の一を拠出することとされていたものである。したがって、原告が右両
名から交付を受けていた金額は、
被告署長が主張する金額ではない。
第三 証拠(省略)
○ 理由
第一 本件課税処分の経緯について
本件各更正及び各過少申告加算税賦課決定並びに本件審査裁決がされるに至った経
緯については、いずれも当事者間に争いがない。
第二 本件各更正及び各過少申告加算税賦課決定の適否について
一 原告の各年度の雑所得以外の所得の金額等について
被告が前記事実欄の第二の三において本件課税処分の根拠として主張する原告の昭
和五四年分から昭和五六年分までの課税標準等の内容のうち、(一)の給与所得の
金額、(四)の所得控除額の合計額、(五)の住居取得控除額、(六)の特別減税
額及び(七)の源泉徴収税額については、いずれも当事者間に争いがない。
二 原告の各年度の雑所得の金額について
1 原告がA及びBから交付を受けた金員の性格等について
(一) 原告と右両名との間での金銭の授受に関し、次のような事実については、
当事者間に争いがない。
すなわち、国際教育開発は、テイビーエス・ブリタニカの子会社であって、ブリタ
ニカ国際百科事典等の書籍等を販売することをその目的としており、その販売組織
は国内をおよそ二分し、その一方を東日本販売事業本部が、他方を西日本販売事業
本部がそれぞれ統括していた。原告は、昭和四八年六月ころから、右国際教育開発
の代表取締役専務の地位にあり、また、昭和四九年九月ころから、Aは東日本販売
事業本部長、Bは西日本販売事業本部長の、各地位にあった者である。
原告と右両名との間では、昭和四九年ころから、右両名が国際教育開発から書籍等
の売上げに比例して受けている手数料等の報酬の一部を原告に対して支払うという
ことが行われており、本件各年度においてもそのような支払いが行われていた。
(二) 乙一号証から同三号証まで及び同三二号(C、D、B及びAからの大蔵事
務官による聴取書)並びに証人A及び同Bの各証言によれば、右のような原告と右
両名との間での金銭の授受は、次のような経緯で行われるようになったものである
ことが認められる。
すなわち、右A、B、C及びDは、いずれも国際教育開発の販売する百科事典等の
訪問販売に関する事務を担当しており、その配下の販売員等の販売額に応じて歩合
制で同社から手数料等の報酬の支給を受けていた。昭和四八年ころから、同人ら
は、
同じような内容の仕事をしながら国際教育開発から各人の受ける報酬額にアンバラ
ンスが生ずるという事態に対処するため、各人が会社から受け取る報酬を拠出し合
ってこれを再分配するという、一種のプール制のようなシステムを採用するに至っ
ていた。
ところが、原告は、国際教育開発の専務の職にあり、右A、B等に対する人事権等
の権限を行使する立場にあったにもかかわらず、収入の面では、会社から一定額の
役員報酬を受けるのみであったため、歩合制による手数料等の報酬を得ている右
A、B等に比べると格段に収入額が少ないという状況にあり、かねてからこの点に
関する不満を右Aらに対しても漏らすことがあった。昭和四九年六月ころ、原告の
手によって、右A、B等の手数料等の報酬額がそれまでより減少するような形に、
会社の訪問販売に関する地域割りが変更されたりすることがあり、右A、B等の方
では、これを右のように原告の収入が同人等の収入に比して少ないこと等を不満と
する同人らに対する嫌がらせであると受け取った。そこで、同人らは、前記のよう
な報酬の再分配のシステムに原告をも加えることによって、右のような嫌がらせを
やめてもらうようにしようと考え、各人が受理する手数料等の報酬の一部を原告に
対しても支払うようになった。なお、このようなことが行われるようになって間も
なく、前記の訪問販売に関する地域割りは、元の形に戻されるに至っている。
その後、右C及びDが国際教育開発を退社してしまったため、本件各年度当時にお
いては、右A及びBの両名から、それぞれ別個にその手数料等の報酬の一部が毎月
原告に対して支払われていた。
他方、このような右A、Bらからの金員の支払いに対応して、原告からも自己が会
社から受け取る報酬の一部が右Aらに支払われるようになり、本件各年度当時にお
いては、原告の報酬の手取り額の三分の一ずつが毎月右A及びBに対して支払われ
ている。しかし、このような原告からの支払いは、右Aからの要求や同人らとの話
し合いによって行われるようになったものではなく、原告の方から自発的に行うよ
うになったものであり、右Aらは、原告は同人らから一方的に前記のような金員の
支払いを受けることに後ろめたさを感じてこのような自らの支払いを行うようにな
ったものと受け取っていた。
(三) 右に認定した事実関係からすれば、本件各年度においてA及びBの両名が
原告に対して交付した右の金員は、国際教育開発の会社内における原告と右両名と
の前記のような地位を前提として、原告から社内での書籍の販売活動等の面で便宜
を図ってもらうために継続的に供与されたものと考えられ、右金員を受領したこと
によって原告に発生した所得は、一時的、偶発的な所得たる一時所得に該当しない
ことはもとより、その他の各種所得のいずれにも該当しないものであることは明ら
かであるから、所得税法上の雑所得に当たるものと考えるのが相当である。
この点について、原告は、右の金員の交付は、国際教育開発の販売する書籍の販売
成績の維持、向上を図るための費用に充てることを目的として、相互に自己の収入
の一部を拠出し合うという、一種の組合契約に基づく出資ともいうべき実質を持つ
ものであると主張しており、甲七四号証(原告作成の「錆びついた国税局」と題す
る印刷物)や本人尋問においても、右の主張に沿う供述をしている。しかしなが
ら、前記各証拠によれば、少なくとも昭和五〇年一月以降は、原告と右両名との間
では、各人の拠出する金員がいったん一か所に集められて統一的に管理されるとい
うのではなく、各人と原告との間でそれぞれ別々に相互の金員のやり取りが行われ
ているにすぎないことが認められること、また、このようにして相互に交付された
金員についてはその使途について互いに特段の制約等が付されていなかったことが
認められること、更にまた、後記のとおり、本件各年度分の原告と右両名との間で
の相互の金員の交付額を対比してみると、原告が右両名から交付を受ける金額の方
が原告の支払額に比べて常に桁外れに大きく、専ら原告のみが大きな利益を得ると
いう形になっていること等からして、右の金員のやり取りを原告と右両名との対等
の立場での相互拠出的あるいは互助的なものと解することは困難なものというべき
である。
また、原告は右の金員の交付は法的にみると贈与に当たるものであるから、これに
よる所得に対して贈与税を課することは格別、これを雑所得として所得税を課する
ことは、所得税法九条一項二〇号により許されないとも主張している。しかし、そ
もそも贈与税が相続税を補完する性格を持つ税として設けられていること等からし
て、本件の場合のように、実質的にみるとその見返りに経済的利益がもたらされる
ことを前提として継続的に行われる金銭の供与については、これを贈与税の課税対
象となる贈与(これを右の贈与に当たると解した場合には、所得税の場合より格段
に高い贈与税の超過累進税率が適用されることになってしまう。)と解するより
も、これによる所得を所得税の課税対象となる雑所得に当たると解する方が相当な
ものというべきである。
更に、原告は、原告の右の所得を雑所得としてこれに所得税を課することは、一度
課税済みの所得に対して二重課税をすることになるから許されないとも主張する。
しかし、現行税法上、ある者の課税後の所得が他者に供与されたことによって右他
者に生じた利得について、更に所得税を課することが許されないものと解すべき根
拠は何ら存しないから、原告の右の主張も採用できない。
(四) また、本件各年度において、原告から右両名に対しても、原告自らが国際
教育開発等から受領する毎月の給与等の一部を支払っていたことは前記のとおりで
あり、その支払額は、昭和五四年分が右両名に対して各五七六万八八三二円の合計
一一五三万七六六四円であることについて当事者間に争いがなく、また、乙九号証
から同一一号証までの各二及び三(照会回答書)並びに本人尋問における原告の供
述によれば、昭和五五年分が右両名に対して各六二〇万二八一二円の合計一二四〇
万五六二四円、昭和五六年分が右両名に対して各一四五一万八三八四円の合計二九
〇三万六七六八円であることが認められる。
しかし、この原告からの右両名に対する金員の支払いは、前記のとおり、原告の方
から自発的に行われたものであり、原告が右両名から前記のような金員の支払いを
受けるために必要な支出として行われたというものではないことが認められる。し
たがって、原告が前記のとおり右両名から金員を受領したことによって原告に発生
した雑所得の金額を計算するに当たっては、右の原告が右両名に対して支払った金
額を原告の受領額から控除する等の措置をとる必要は認められないこととなる。
2 原告がA及びBから交付を受けた金員の金額について
(一) 乙一二号証の一から三まで(照会回答書)及びA証人の証言によれば、A
には、昭和五四年から昭和五六年までの間に、国際教育開発から別表一の「A」の
各欄の「収入金額」の各欄記載の金額が前記の手数料等として支払われていること
が認められる。
そして、A証人の証言によれば、Aは、原告に対し、昭和五四年一月から一〇月ま
での間は、(1)右の各月の収入金額からその四〇パーセントの経費相当額と国税
及び地方税相当額の合計額を控除した残額の二分の一と(2)右の各月の収入金額
の四〇パーセントの経費相当額の三分の一を合算した額、昭和五四年一一月から一
二月までの間は、右の各月の収入金額の二〇パーセント(ただし、右のような算式
にかかわらず、昭和五四年一月は二三六万五七三〇円、同年一二月は二〇〇万円)
を、また、昭和五五年及び昭和五六年(ただし、一一月まで)には、右の各月の収
入金額の二〇パーセント(ただし、昭和五五年一月は一八三万三八〇〇円、同年一
二月は二〇〇万円、昭和五六年一月は一〇七万五二〇〇円)を、それぞれ支払って
いたことが認められるから、この間の各月の具体的な支払金額は、別紙二の一及び
二の各表記載のとおりの計算により、概ね別表一の「A」の各欄の「(1)支払金
額」の各欄記載の金額となることが推認できる。
なお、このようなA証人の証言内容については、乙一四号証の一から六まで及び同
一五号証の一及び二(Aが当時作成していた右の原告に対する支払金額の計算メ
モ)あるいは同八号証(Aが右の支払いを行うための現金を引き出した状況の記載
された銀行の普通預金月中移動明細表)及び同一三号証(右同様の預貯金等照会書
付表)等の、その証言内容の真実性を裏付ける内容の書証が提出されている。
(二) また、乙三四号証の一から三まで(照会回答書)、同七号各証(Bの秘書
のEによって支払金額等が記入されているカレンダー)及びB証人の証言によれ
ば、Bには、昭和五四年から昭和五六年までの間に、国際教育開発から別表一の
「B」の各欄の「収入金額」の各欄記載の金額が前記の手数料等として支払われて
いることが認められる。
そして、B証人の証言によれば、Bは、原告に対し、昭和五四年には、(1)右の
各月の収入金額からその四〇パーセントの経費相当額と国税及び地方税相当額の合
計額を控除した残額の二分の一と(2)右の各月の収入金額の四〇パーセントの経
費相当額の三分の一を合算した額(ただし、右のような算式にかかわらず、昭和五
四年一月は一七五万一四〇五円、同年八月は二〇〇万円、同年九月は一九三万八五
九六円、同年一〇月は〇円、同年一一月は四〇五万二七七〇円、同年一二月は二〇
〇万円)を、また、昭和五五年及び昭和五六年(ただし、一一月まで)には、右の
各月の収入金額の二〇パーセント(ただし、昭和五五年一月は二九二万四七五〇
円、同年八月は二〇〇万円、同年九月は二二九万四二二二円、同年一二月は二〇〇
万円、昭和五六年一月は一六四万一四七三円、同年四月は〇円、同年五月は四〇八
万二八四九円)を、それぞれ支払っていたことが認められるから、この間の各月の
具体的な支払金額は、別表三の一及び二の各表記載のとおりの計算により、概ね別
表一の「B」の各欄の「(2)支払金額」の各欄記載の金額となることが推認でき
る。
なお、このようなB証人の証言内容については、乙三二号証(右Eからの大蔵事務
官による聴取書)及び前記同七号各証あるいは同四号証及び同五号証(Bが右の支
払いを行うための現金を引き出した状況の記載された銀行口座通帳)等の、その証
言内容の真実性を裏付ける内容の書証が提出されている。
(三) これに対し、原告は、原告が右両名から支払いを受けていたのは、右両名
が国際教育開発から受領した手数料等の報酬から経費と税金分を差し引いた残額の
三分の一にとどまると主張し、本人尋問において右の主張に沿った供述をしてい
る。
しかしながら、右の原告の供述は、抽象的に原告が右両名に交付した金員の金額と
原告が右両名から受け取った金員の金額がほぼ同じくらいであったと述べるのみ
で、それ以上に具体的な計算方法や金額については正確な記憶がないというもので
あり、また、書証等による裏付けを伴わないものであるから、前記のような書証等
の裏付けのあるA証人及びB証人の各証言内容に対比して、採用できないものとい
わなければならない。
3 原告の雑所得の金額について
したがって、原告の各年度の雑所得の金額は、概ね次のとおりとなる。
昭和五四年     四七三六万〇五四四円
昭和五五年     四七三三万二四一五円
昭和五六年     三四一二万九七八三円
三 本件各更正及び各過少申告加算税賦課決定の適否について
結局、原告の各年度の総所得金額及び所得税額は概ね次の被告の主張するとおりの
金額となることが認められる。
昭和五四年   総所得金額   七二〇五万〇五四四円
所得税額    三〇九七万九一〇〇円
昭和五五年   総所得金額   七八一二万九九一五円
所得税額    三二八九万七四〇〇円
昭和五六年   総所得金額   六七六三万四七八三円
所得税額    二三七八万一四〇〇円
そうすると、本件更正に係る総所得金額等はいずれも右の金額の範囲内にあること
は明らかであるから、本件各更正及び本件各過少申告加算税賦課決定は適法なもの
というべきことになる。
第三 本件審査裁決の適否について
一 原告の主張するとおり、原告が昭和六〇年七月一八日にした書類等の閲覧請求
に対して、担当審判官が原処分の理由を整理して記載した書面のみを原告の閲覧に
供し、A等の作成した支払明細表、計算メモ、同人らの陳述録取書等の書面につい
ては、これらが原処分庁から提出されていたにもかかわらず、これを原告の閲覧に
供さなかったことについては、当事者間に争いがない。
二 ところで、国税通則法九六条二項による審査請求人の書類等の閲覧請求権は、
審査請求人に原処分庁から提出された審判所長の手持資料を閲覧させることによっ
て、原処分庁のした処分の具体的な処分理由の正当性を検討し的確な攻撃防御手段
を講ずることのできる機会を審査請求人に保障するという趣旨で認められた権利と
解されるところである。したがって、右条項にいう正当な理由がないのに審査請求
人の閲覧請求が拒否されたという場合であっても、これによって、審査請求人の右
のような手続上の利益が実質的に侵害されるところがなかったと認められるような
特段の事情があるときは、このことによって当該審査裁決自体に取消事由に該当す
るような瑕疵があることとなるものではないと考えるのが相当である。すなわち、
審査請求人の書類等の閲覧請求が違法に拒否された場合に、このことによって当該
審査裁決が違法として取り消されるべきこととなるのは、審査請求人が閲覧請求を
拒否された書類その他の物件を閲覧した場合に、これに関する適切な反論や反証等
を提出することによって、当該裁決の結論に影響を及ぼす可能性があったと考えら
れる場合に限られるものと解するのが相当である。
三 右のような考え方を前提として、原告がその閲覧を拒否された書類等と本件の
争点との関係をみると、丙一号証(審査裁決書)によれば、本件の審査請求段階に
おける争点もまた、専ら原告がA及びBから受け取った金額と原告が右両名に対し
て交付した金額がいくらであったのかという点にあったことが認められる。そうす
ると、このような争点に関して、原告がその閲覧を拒否された右Aらの陳述書等の
内容がどのようなものとなっているかは、本件各更正の内容自体からしても、原告
にとってはおのずから明らかになっていたものといわなければならない。更に、丙
二号証(判決正本)によれば、昭和六〇年三月二八日に東京地方裁判所八王子支部
において判決の言渡しのあった国際教育開発の右Aに対する貸金返還請求事件にお
いても、右の点が一つの争点となっており、国際教育開発と右Aとの間でこの点に
関する詳細な主張、立証がされており、前記甲七四号証によると、原告自身が右事
件で会社側の証人として証言を行う等して、右のような主張、立証の内容を承知し
ており、また、国税局の原告に対する調査の過程においても、右Aらが国税当局に
対してどのような申立て等を行っていたかについてその内容を十分に知悉していた
ことがうかがえるのである。しかも、この原告と右A及びBとの間で相互に授受さ
れた金員の金額がいくらであったかとの点については、原告の側では、自己の記憶
以外に、特にこれを明らかにできるような書類等の書証を所持していたものでない
ことは、前記のような本訴における原告側の立証の内容等からしても明らかなもの
といわなければならない。
このような事実関係からすれば、本件においては、仮に、原告が閲覧を拒否された
前記の書類等を閲覧することができた場合においても、これによって、右のような
争点に関して、本件裁決の結論に影響を及ぼす可能性のあるような新たな反論や反
証等を提出することができることとなったものとは到底考えられず、したがって、
本件においては、原告からの右のような書類等の閲覧請求が正当な理由なしに拒否
されたものであったとしても、これによって原告の前記のような手続上の利益が実
質的に侵害されるところがなかったと考えられる特段の事情が認められるものとい
うべきである。
四 結局、本件審査請求の審査手続に違法な点があるため本件裁決が違法として取
り消されるべきであるとの原告の主張は、採用できないものというべきである。
第四 結論
右のとおり、本件各更正及び各過少申告加算税賦課決定並びに本件裁決は、いずれ
も適法なものと認められるから、原告の本訴各請求は、いずれも失当として棄却を
免れない。
(裁判官 涌井紀夫 小池 裕 近田正晴)
別表一ないし三の二(省略)

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