弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     一、 原判決中、控訴人(附帯被控訴人)Aに対し家屋等収去、土地明
渡を命ずる部分を取消す。
     被控訴人(附帯控訴人、以下単に被控訴人という)の控訴人Aに対する
家屋等収去、土地明渡を求める請求部分を棄却する。
     原判決中、控訴人Aに対し金員の支払を命ずる部分を次のとおり変更す
る。
     控訴人Aは被控訴人に対し
     昭和二七年一〇月九日から同二八年一〇月八日までは、一ケ月金一六、
七二〇円、
     同二八年一〇月九日から同三〇年一〇月九日までは、一ケ月金一九、一
五二円、
     同三〇年一〇月一〇日から同三一年一〇月九日までは、一ケ月金三二、
四八二円、
     同三一年一〇月一〇日から同三二年一〇月九日までは、一ケ月金三五、
二一八円、
     同三二年一〇月一〇日から同三三年一〇月九日までは、一ケ月金四〇、
〇五二円、
     同三三年一〇月一〇日から同三五年八月七日までは、一ケ月金四二、七
二七円、
     同三五年八月八日から大阪市a区bc丁目d番地、宅地一六〇坪明渡済
に至るまでは、一ヶ月金四四、九七六円、
     の各割合による金員を支払え。
     二、 原判決中、控訴人(附帯被控訴人)池島物産株式会社及び同B
(以下単に控訴人池島物産)に対する部分を取消す。
     被控訴人の右控訴人両名に対する請求ならびに附帯控訴はいずれもこれ
を棄却する。
     三、 控訴人(附帯被控訴人)Cの本件控訴を棄却する。(但し被控訴
人の請求減縮により、原判決中、同控訴人に対し家屋等収去、土地明渡を命ずる部
分は失効し、金員の支払を命ずる部分は「被告Cは原告に対し昭和二七年一〇月九
日から同二八年一〇月八日までは一ヶ月金二、四〇〇円、同二八年一〇月九日から
同三〇年四月七日までは一ケ月金二、七四九円を支払え」と変更されている。)
     四、 原判決中、控訴人(附帯被控訴人)Dに対する部分を次のとおり
変更する。
     控訴人Dは被控訴人に対し
     大阪市a区bc丁目e番地宅地二一坪八合二勺を、同地上に存在する木
造瓦葺平家建店舗一棟、建坪一四坪六合三勺(同市同区bfg丁目h番地のi、同
番のj地上家屋番号同町第六八番)を収去して明渡し、かつ、
     昭和三〇年四月八日から同年一〇月九日までは、一ケ月金二、七四九
円、
     同三〇年一〇月一〇日から同三一年一〇月九日までは、一ケ月金五、三
四五円、
     同三一年一〇月一〇日から同三二年一〇月九日までは、一ヶ月金六、一
二〇円、
     同三二年一〇月一〇日から同三三年一〇月九日までは、一ケ月金六、八
一六円、
     同三三年一〇月一〇日から右土地明渡済に至るまでは、一ケ月金七、五
四〇円、
     の各割合による金員を支払え。
     被控訴人の控訴人Dに対するその余の請求を棄却する。
     五、 訴訟費用は第一、二審を通じ、これを一〇分し、その八を被控訴
人の、その一を控訴人Aの、その余を控訴人C、同D両名の各負担とする。
     六、 この判決は、被控訴人において、第一項中金員の支払を命ずる部
分について、控訴人Aのため金一二〇万円の、第三項について控訴人Cのため金二
万円の、第四項中家屋収去、土地明渡を命ずる部分について、控訴人Dのため金三
〇万円、金員の支払を命ずる部分について同控訴人のため金一八万円の各担保を供
するときは、それぞれ仮に執行することができる。
     七、 控訴人Aにおいて金二〇〇万円の、控訴人Cにおいて金三五、〇
〇〇円の、控訴人Dにおいて家屋収去、土地明渡に関する部分について金五〇万
円、金員の支払に関する部分について金三〇万円の各担保を供するときは、それぞ
れ前項の仮執行を免れることができる。
         事    実
 控訴人A、同池島物産、同B代理人及び控訴人C、同D代理人はそれぞれ「原判
決を取消す。被控訴人の請求ならびに附帯控訴はいずれもこれを棄却する。訴訟費
用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決、ならびに控訴人ら敗訴の
場合につき仮執行免除の宣言を求め、
 被控訴代理人は「本件控訴をいずれも棄却する。訴訟費用は第一、二審とも控訴
人らの負担とする。」との判決、ならびに附帯控訴に基き「原判決を左のとおり変
更する。被控訴人に対し控訴人Aは大阪市a区bc丁目d番地、宅地一六〇坪の土
地上にある別紙目録記載の家屋、及び塀その他の工作物を収去し、控訴人池島物
産、同Bは右家屋から退去し、それぞれ右土地を明渡し、かつ右控訴人ら三名は連
帯して主文第一項記載の金員を支払え。被控訴人に対し控訴人Dは大阪市a区bc
丁目e番地、宅地二一坪八合二勺の土地上にある主文第四項記載の家屋、及びその
他の工作物を収去して右土地を明渡し、かつ主文第四項記載の金員を支払え。被控
訴人に対し控訴人C及び同Dは連帯して主文第三項記載の金員を支払え。訴訟費用
は第一、二審ともこれを一〇分し、その九を控訴人A、同池島物産、同Bの連帯負
担とし、その一を控訴人C、同Dの連帯負担とする。」との判決ならびに仮執行の
宣言を求め、控訴人Cに対する請求を右附帯控訴請求の趣旨の限度に減縮した。
 当事者双方の事実上の主張ならびに証拠の提出、援用、認否は、事実関係につ
き、
 被控訴代理人において、
 一、 本件土地については被控訴人においてその所有権を取得した以前である昭
和二六年四月六日付をもつて、大阪復興特別都市計画事業土地区画整理施行地区整
理施行者大阪市長Eにより、(イ)の土地に対しては大阪特別都市計画事業復興土
地区画整理西区第六区(江戸堀付近)土地区画整理ブロツク番号一五二、符号一一
の仮換地(地積一六〇坪)が(ロ)、(ハ)の土地に対しては同区画整理ブロツク
番号一五一、符号七の仮換地(地積二一坪八合二勺)がそれぞれ指定されていた
が、昭和三六年二月二三日付をもつて大阪都市計画西地区復興土地区画整理事業施
行者大阪市長Fから(イ)の土地を前示仮換地符号一一に、(ロ)、(ハ)の土地
を前示仮換地符号七にそれぞれ換地処分した旨の通知があり、同年三月三〇日に大
阪市告示第一三四号をもつて換地処分の公告があつたから、翌三一日から換地は従
前の宅地とみなされ、被控訴人がその所有権者となつた。しかして(イ)の換地の
地番、地目、地積は大阪市a区bc丁目d番地、宅地一六〇坪であり、(ロ)、
(ハ)の換地のそれは同所二〇番地宅地二一坪八合二勺である。控訴人Aは、被控
訴人が本件(イ)の土地の所有権を取得した日以降、被控訴人に対抗しうる権原な
くして同土地の仮換地及び換地上に別紙目録記載の建物及び塀その他の工作物を所
有し、控訴人池島物産及び同Bは右建物を使用し、もつて右三名共同して同土地の
仮換地及び換地一六〇坪を不法に占有し、被控訴人の仮換地に対する使用収益権及
び換地に対する所有権を侵害し、また控訴人Cは、被控訴人が本件(ロ)、(ハ)
の土地の所有権を取得した日以降、被控訴人に対抗しうる権原なくして同土地の仮
換地上に前記主文第四項に記載の家屋を所有し、控訴人Dは同家屋を使用し、もつ
て両名共同して同土地の仮換地を不法に占有していたが、昭和三〇年四月八日控訴
人Cは右家屋の所有権を控訴人Dに譲渡し、その登記を経たので、同日以降は控訴
人D単独で右土地の仮換地及び換地二一坪八合二勺を不法に占有し、被控訴人の仮
換地に対する使用収益権及び換地に対する所有権を侵害し、控訴人らはそれぞれ被
控訴人に対し各占有土地の地代相当の損害を被らせている。よつて被控訴人は所有
権に基き、控訴人A、同Dに対しては前記各所有建物を収去して各不法占有土地の
明渡を、控訴人池島物産及び同Bに対しては前記各使用建物から退去して各不法占
有土地の明渡を求めるとともに、控訴人全員に対しそれぞれ(共同不法占有の分に
ついては連帯して)別表の地代相当の損害金(控訴人Cに対しては昭和三〇年四月
七日まで)の支払を求める。
 二、 控訴人ら主張の抗弁事実はすべてこれを争う。
 (一) 被控訴人が本件土地を買受け、本訴を提起するに至つた経緯は次のとお
りである。被控訴人は昭和二六年暮頃、その父Gと特別眤懇で親族同様の交際をし
ている訴外Hから金融を頼まれ、やむをえずこれを承諾したところ、その後同人か
らいつそのこと本件土地を買取つて貰いたいとの申出を受けた。
 しかし被控訴人としては控訴人Aが本件土地を買取れば好都合と思い、昭和二七
年四月頃控訴会社を訪れ、控訴人Aに用件を切り出したところ、所用ありと称して
座を外したので、Aの使用人らしき人に買取り方を勧めたところ、一坪八、〇〇〇
円の割合で毎月一坪宛なら買取るとの返答で、到底真面目な商談とは受け取れなか
つたので、その日は辞去し、その後二回訪問したが、Aは不在であつた。そこで被
控訴人は父とHとの関係から本件土地を買取ることを承諾したのであるが、被控訴
人は左記事情により本件土地を必要とするので本訴を提起したものである。被控訴
人は大阪市k区lにおいて呉服類の卸小売業を営んでいるが、右店舗は小売業には
適するが卸売業には不適当な土地柄である上に、店舗が狭隘で、妻子六人と従業員
二十数名の住居及び来集には極めて不便であり、商品の置場もない状態である。ま
た店舗前の道路が午前零時まで通行止めのため、取扱商品高年三億円に相当する六
万貫の商品の入出荷共に意の如くならぬので、卸売部門の店舗を他に移そうと考
え、かねてm方面に適当の土地を物色していたが、容易に入手し難いので、土地柄
は遥かに劣るが、本件土地は父Gにとり因縁浅からぬ土地でもあるので、その明渡
を受けて右営業に適する建物を新築することを決意したのである。左様な次第で父
の生存中に開店したいと考え本件土地の明渡を請求するものである。
 (二) 控訴人らは、被控訴人が訴外Hから本件土地を買得したことをもつて、
Hの窮迫、無智、無経験に乗じた暴利行為で、民法第九〇条に違反する無効のもの
であると主張するけれども、被控訴人はHの窮迫に乗じたことはない。Hは本件土
地を売却したかつたのであつた。しかも初めは控訴人Aに売りたかつたのである
が、それが不調に終つたのである。被控訴人もHの意を酌み、前述のように本件土
地を取得する半年以前に控訴人A方へ買受け方を勧めに行つたが、同人は話に乗ら
なかつたばかりでなく、本件土地について自分は地上権を持つているからHが他に
売つてもかまわぬとまで放言したのであつた。
 その後被控訴人はHの度々の懇請によつてやむをえず、本件土地を買取つたので
あつて、Hの窮迫に乗じたことはないのである。また代金七二万円で買受けたこと
をもつて暴利であるというのも当らない。昭和二七年九月一七日当時本件土地附近
の土地の価格は固定資産税課税標準価格よりも低額であつた。また控訴人らは被控
訴人が本件土地に対する換地清算金の交付を受けることによつて本件上地売買代金
七二万円は零になると主張するけれども、被控訴人は本件土地買受け当時、換地の
結果上地所有者に対し清算金の交付があるものかまたは清算金の徴収があるものか
全く不明であつた。被控訴人が自分に清算金の交付があることを知つたのは昭和三
六年二月二三日付換地処分通知書を受取つたときである。このことを考慮せず、ま
た昭和二七年九月頃と右換地処分通知当時とでは貨幣価値に非常な差があるにかか
わらずこれを全く度外視して単なる抽象的な数字の比較によつて被控訴人が暴利を
得たもののように主張するのは失当である。しかのみならず売主Hと被控訴人間に
おいて何らの苦情もなく履行済となつている売買契約につき、契約の当事者でない
控訴人らが無効であると主張し、本訴請求に対する抗弁とすることは許されない。
 (三) 次に控訴人らは訴外Hと被控訴人間の本件土地売買契約は借地権付でな
されたものであると主張するけれども、借地権付で売買するというような特約はし
ていない。以下この点についての控訴人らの主張が根拠のないものであることを明
らかにする。
 (1) 控訴人Aに真実心があれば同人と訴外Hとの間に、本件上地について一
坪八、〇〇〇円の割合で、毎月二坪宛の代金支払の定めで売買契約が成立し、Hも
満足するところであつたと窺知しうる。一般的にいつて、本件土地を毎月一六、〇
〇〇円宛の月賦金の支払を八九回受けて、八九ヶ月日に代金完済となる取引と、代
金七二万円を一時に、売買契約成立後日ならずして受ける取引とを比較していずれ
の場合が売主に利益であろうか。答を待つまでもない。されば代金七二万円は安き
に失するとの控訴人らの非難は当らない。
 (2) 本件土地の売買により訴外Hの控訴人Aに対する賃貸借が履行不能とな
る結果を招来することを、Hにおいて意識していたかどうかは疑問である。また現
在看取しうる訴訟資料から見て、控訴人AがHに対し賃貸義務不履行による損害賠
償請求権を有するかどうかも甚だ疑問である。
 (3) 敷金を返還していない事実をもつて、借地権付売買であるとなす主張も
とるに足らぬ。AがHに返還を請求すればHはいつでも敷金を返還するものであ
る。
 (4) 本件土地所有権移転登記申請書中、下辺鉛筆書きの「本土地Aなる者賃
借中」との表示についての控訴人らの主張は牽強附会の説である。これは登記申請
当事者が、登録税の安きを望んで登記官吏の登録税課税標準額認定の資料に供する
ため記載したものに過ぎない。本件(イ)の土地についてのみ右記載があり、
(ロ)、(ハ)の上地について記載がないのは、(ロ)、(ハ)については他人が
賃借中であつたことを登記官吏に対して証明する資料がなかつたからであつて、
(イ)の土地についてのみ特に賃貸借の承継を認めたからではない。
 (四) 次に控訴人らは被控訴人が本件建物の保存登記の欠缺を主張することは
信義に反するから、被控訴人はその登記の欠缺を主張し建物収去、土地明渡を請求
するについて正当な利益を有する第三者にあたらないと主張するけれども、控訴人
ら独自の見解であつて到底首肯できない。被控訴人は本件土地を買受け所有権移転
登記を経由した後に初めてI弁護士にその見解を求めたものである。
 また本件土地を買取ることに決意したのは、控訴人ら賃借権者を害する意思をも
つてしたのではない。
 (五) 控訴人らはさらに被控訴人の本訴請求をもつて権利の濫用であると主張
するけれども、前叙被控訴人が本件土地を買受けるに至つた経過、事情、殊に訴外
Hが控訴人Aに売却の申入れをしたこと、被控訴人自身も本件土地を取得する六ヶ
月以前に控訴人Aに対して本件土地の買取方を勧めに行つたこと、被控訴人が控訴
人らに本件土地の明渡を請求する事情等から推して本訴請求は権利の濫用にあたら
ぬこと明白である。
 なお控訴人Aは本件上地を明渡すことが困難であるとして種々の事情を述べてい
るけれども、本件土地は大阪市の都市計画による商業地帯の区域に属し、控訴人A
の経営する工場設置には全く適しないものである。また同控訴人は大阪市n区o町
p丁目q番地上に工場を設置していることを附言する。地震売買の弊害は夙に建物
等の保護に関する法律により防止せられているのである。自己の権利は自らの手で
擁護しなければならない。その労を惜しみ、なおかつ本件土地について地上権を持
つているから訴外Hが他に売却してもかまわぬとまで放言しておきながら、今にな
つて被控訴人の本訴請求を権利濫用呼ばわりするのは首肯し難い。
 (六) 控訴人C、同Dの自白の取消には異議がある。同控訴人らは本件(ロ)
(ハ)の換地上の家屋が昭和三〇年四月八日までは控訴人Cの所有に属し、同日以
降控訴人Dの所有に帰したことを従来認めて争わなかつたもので、右自白が真実に
反し、錯誤に基くものであるとの主張は否認する。
 と述べ
 控訴人A、同池島物産、同B代理人において、
 一、 本件土地につき昭和二七年九月一七日、売買を原因として被控訴人を取得
者とする所有権移転登記がなされたこと、本件土地について被控訴人主張の如く仮
換地の指定及び換地処分がなされたこと、控訴人Aが本件(イ)の土地の仮換地及
び換地上に被控訴人主張の建物を所有し、これを同控訴人経営の池島物産株式会社
において使用していることはいずれもこれを認めるが、同土地は控訴人Aにおいて
賃借権に基き適法に占有しているもので不法占有ではない。控訴人池島物産は控訴
人Aとの使用貸借契約に基いて右建物を使用しているものであるから、退去の義務
はなく、また敷地に対する占有関係はない。控訴人Bは控訴会社の工場の管理人で
あつたが、昭和三四年八月六日解雇せられて右建物より退去した。被控訴人主張の
損害の発生及びその数額は争う。なお控訴人池島物産及び同Bは、建物収去の場
合、退去義務代あつても上地の不法占有者として地代相当の損害金を支払うべきい
われは全くない。
 二、 控訴人Aと訴外H間の本件(イ)の土地の賃貸借契約、及び同地上の建物
につき、被控訴人が本件上地の所有権を取得したと主張する当時、登記がなされて
いなかつたことは認めるが、右Hと被控訴人間の本件土地売買契約には、被控訴人
において右賃貸借契約を承継する旨の合意があつた。即ち本件土地売買は借地権付
売買であつて、このことは左記の諸点から推認するに十分である。
 (1) 被控訴人は控訴人Aが本件(イ)の土地を訴外Hから賃借し、同地上に
本件建物を所有して洋家具製造販売業を営んでいる事実を承知の上本件上地を買受
けたものである。
 (2) 本件土地の売買当時における時価は、借地権の付著しない場合には、控
訴人Aの占有地は一坪当り金四万円(更地の場合は坪当り金五万円であるが、地上
に収去可能の建物が存在するとしてその八割の評価)、控訴人Cの占有地は一坪当
り金四八、〇〇〇円(更地の場合は坪当り金六万円)、右両地で合計金七、三六
四、六四〇円相当であつたところ、被控訴人はこれを僅か金七二万円で買受けたも
のである(訴外Hは昭和二六年一二月頃被控訴人から金四〇万円を借受けたが、そ
の返済に窮し、本件土地を代金七二万円で売渡し、右借金を差引いて金三二万円を
受領したものである)。右売買代金七二万円は仮換地坪数を標準にして換算して
も、一坪当り金四、〇〇七円の割合となり(旧坪計二五六坪七合八勺を標準にして
換算すると一坪当り金二、八〇〇円に過ぎない)、実に時価の一〇分の一にも達し
ない驚くべき安価である。また通例取引価格の三分の一ないし四分の一に過ぎない
固定資産税標準価格(本件土地の昭和二七年度の同評価額は二、六八八、六〇〇
円)と比較しても、その三・七分の一に当る低額である。訴外Hは借金返済のため
やむなく本件土地を売却するに至つたもので、かかる事情の下では経済的に窮迫せ
る売主としてはできるだけ価格の高額を望むのが通常であるにも拘らず、右の如く
売買価格が格安、むしろ捨値であつたということは、売主と買主間に本件土地を控
訴人らに対し安い地代で引続き賃貸するとの合意があつたものと解するよりほかな
く、この点から見ても本件の土地の売買は借地権付売買であつたと推認せしめるに
十分である。
 (3) 訴外Hと控訴人Aとの間には、本件(イ)の土地につき、建物所有を目
的とする期間満三〇年の賃貸借契約が締結せられており、訴外Hと被控訴人間にお
ける本件土地売買当時におけるその残存期間はなお二三年余の長期間であつた。若
し右売買契約において右Aの賃借権を存続せしめない即ちこれを被控訴人に承継せ
しめないという約旨であつたとすれば、Hは控訴人Aに対し賃貸人の責に帰すべき
事由による賃貸義務履行不能の責任を負わなければならず、控訴人Aが本件地上建
物を収去し土地を被控訴人に明渡すことによつて蒙る莫大な損害を賠償しなければ
ならない。かようなことは法律知識のない素人にも十分判つていた筈であるから、
取得代金の数倍の損害を負担してまで被控訴人の犠牲となることを訴外Hにおいて
甘受する筈がないことも、反面において本件売買が借地権付売買であつたことを有
力に証拠付けるものである。
 (4) 控訴人Aは訴外Hに対し本件(イ)の土地の賃貸借につき敷金三、〇〇
〇円を差入れていたが、今なおその返還を受けていない、通常売買によつて賃貸借
が終了したと信ずる者は必らずや預り金である敷金を賃借人に返還するのが当然で
あるから、若しHが被控訴人に対し本件土地を売渡すことによつて賃貸借が終了し
たものと信じていたものとすれば、売買代金残額三二万円を受取つたときに控訴人
Aに敷金を返還していた筈である。しかるにそのことがなかつたのは、本件(イ)
の土地の賃貸借を被控訴人に承継せしむる意思をもつて売買契約をしたことを推認
せしめるに足るものである。
 (5) 訴外Hから被控訴人に対して本件土地の所有権移転登記申請をなすに当
り、右両名は所有権移転登記の目的物件の登録税標準価格を算定するにつき、本件
(イ)の土地は「他人Aなる者賃借中」と記載し、賃貸価格四、一五三円一銭の一
五〇倍である六二二、九七一円と算定したが、本件(ロ)、(ハ)の上地について
は更地として賃貸価格の三〇〇倍の一五六、三〇〇円と算定している。このこと
は、本件(イ)の土地に限つては、訴外Hと控訴人A間の賃貸借関係を買主たる被
控訴人(所有権移転登記申請人)においてその儘承継する旨の合意のあつたことを
雄弁に物語るものである。蓋し所有権移転登記の申請に当り、登記官庁に対し登記
物件につき賃貸借関係の存続中なることを申告しておきながら、登記完了後直ちに
その賃借人に不法占有による明渡を請求するが如きは、特別の事情のない限り考え
ることができないからである。もつとも不動産登記の申請に当り、税金負担の軽減
を計るために、稀には故らに賃貸借関係の存在を記すこともありうるであろうが、
その目的ならば同時に売買された(ロ)、(ハ)の土地についても訴人Cにおいて
賃借中であつたのであるから、この土地についてもその旨を表示すべきであるの
に、(イ)の土地についてのみ賃借中なる旨表示し、他の土地についてこれを表示
していないことは、税金の軽減のためではなく、控訴人A賃借中の(イ)の土地に
ついてのみ賃貸借関係存続の合意が売買当事者間になされていたことを明示したも
のと解するほかはない。なお仮に右の表示が本件(イ)の土地につき税金関係を顧
慮したものであるとしても、この一事により右賃貸借関係存続の合意を否定する理
由とはならない。蓋し当事者の意思は税金関係を顧慮しつつもなおかような合意の
存在を前提とするにあつたものと解することができるからである。若しこの場合賃
貸借関係存続の意思がないのに、唯単に税金の軽減のみを目的として関係官庁を欺
罔するにあつたと解することは、意思解釈の邪道といわなければならない。
 以上の諸点から見て、本件上地の売買に当つては賃貸借関係を存続する旨の合意
のあつたことは疑のないところであるが、この合意は売主たる旧賃貸人と買主たる
新賃貸人間の合意(民法第五三七条の第三者のためにする契約)に過ぎないのであ
るから、このことだけでは賃借人たる控訴人Aに対し従来の賃貸借が、控訴人Aと
買主たる被控訴人間に承継されるという効力を生じることにはならない。しかしな
がら控訴人Aが右の合意を承認しさえすればそれで十分であり、新旧賃貸人と賃借
人の三者が賃貸借関係の承継を約することも必要でない。ところで控訴人Aは、被
控訴人を供託物を受取るべきものと指定して本件土地の賃料を昭和二七年一〇月一
三日に弁済供託したから、このときにおいて利益享受の意思表示をしたことにな
り、これにより訴外Hと被控訴人間の合意は控訴人Aについても効力を生じ、控訴
人Aは本件(イ)の土地につき賃借権を取得したものといわなければならない。若
し右弁済供託の事実のみによつては利益享受の意思表示としては不十分であるとす
れば、本訴においてその意思表示をする(昭和三三年七月一一日付準備書面に基
き、同年一〇月二七日の原審口頭弁論期日において右意思表示をした)。
 三、 仮に本件土地の売買が借地権付売買でないとしても、被控訴人は訴外Hの
無智、無経験、軽卒及び窮迫に乗じて、普通取引価格の一〇分の一という極めて格
安の価格で所有権を取得したものであつて、甚だしく過当の利益を獲得したもので
あるから本件土地売買契約は暴利行為に該当し、民法第九〇条により公序良俗に反
する法律行為として無効である。
 訴外Hは被控訴人から金四〇万円を借受けていたが、その金の返済について目途
がつかなかつたため、窮余、本件土地を被控訴人に売却することとなつたものであ
るが、Hは売買契約当時は大阪府北河内郡r村に居住していた老人であつて、法律
知識に暗いため、本件土地が地代家賃統制令の適用除外地であることを知らず、従
つて控訴人A等賃借人に対し時価相当額(鑑定人Jの鑑定書によれば、売買当時の
本件土地の地代相当額は一坪当り一ヶ月一一〇円となつている)まで地代の値上げ
請求をなしうるのにこれをなさず、本件土地を所有していても固定資産税が地代よ
りも多くかかり利益がないものと考え、また本件地上に存する控訴人等の所有建物
は保存登記がしてないので建物保護法の適用がなく買主たる被控訴人から買受後直
ちに建物収去土地明渡を問題とすることができるものであることをも知らずして、
被控訴人の言うが儘に時価の一〇分の一という著しい低額で売却したものであるか
ら、Hがいかに窮迫していたとはいえ、軽卒、無智、無経験の致すところといわな
ければならない。結局被控訴人はHの窮迫軽卒、無智、無経験に乗じ本件土地を格
安に買取つたもの、或は格安の値段で貸金の代物弁済に取上げたもので、被控訴人
は当初から過当の利益を獲得すべく狙つたものである。
 被控訴人の行為がいかに暴利行為であるかは前掲本件土地の時価と売買代金との
比較によつて明らかであるが、さらに被控訴人が本訴で請求している地代額と比較
して見ても買受代金七二万円は僅か三四ケ月分の地代で完全に回収しうる計算とな
るのである。(不動産取得税その他の費用を加算しても三年一ケ月余りで回収でき
る)。
 なお最近発見した事実によれば、被控訴人は換地清算金として、本件(イ)の土
地につき金八四六、一六九円、(ロ)、(ハ)の土地につき金一二六、七二一円を
大阪市より交付決定を受けているから、右換地清算金のみで被控訴人がHに支払つ
た売買代金七二万円、及び登録税三八、九六二円、不動産取得税二三、三七八円以
上合計金七八二、三四〇円は回収されて零となり、却つて余剰を生ずる計算とな
る。この清算金は被控訴人がHから本件土地買取り当時から予見せられていたもの
であるから、被控訴人の暴利行為の事実は一層顕著となつた。そうすると本件土地
売買は若し借地権付売買でないとすれば、民法第九〇条の違反として無効であり、
右無効は契約当事者以外の何人によつても、また何人に対してもかつ何時でも主張
しうるものであるから、控訴人らはここに右売買契約の無効を主張し、被控訴人の
所有権に基く本訴請求を拒否する。
 四、 仮に右主張が認められないとしても、被控訴人が本件土地の所有権を取得
した当時同地上に存在する控訴人A所有の建物につき、保存登記がなされていなか
つたことを理由として訴外Hと控訴人A間の賃貸借契約が被控訴人に対し対抗力の
ないものであることを主張することは、既に述べて来た事情及び以下に述べる諸事
情に照らし、信義の原則に反するから、被控訴人は右保存登記の欠缺を主張するに
ついて正当な利益を有する第三者に該当しない(昭和三一年四月二四日最高裁判決
参照)。
 (1) 被控訴人は本件土地の所有権所得の事前に、建物保存登記の欠缺を知
り、かつ伯父のI弁護士から、建物の保存登記がなければ、控訴人Aが訴外Hに対
し有する本件土地の賃借権の対抗力なきことの法律知識を得ながら、売主であるH
にはこれを秘して、その法的無知を利用して借地権付売買とし、極めて低廉なる価
格(坪当り僅か四、〇〇七円、時価の一〇分の一)で本件土地を買受けたものであ
る。
 (2) 訴外Hが賃借権者である控訴人Aに対し買受けを希望した価格は一坪に
つき金八、〇〇〇円であるのに、被控訴人は一度に支払うのであるから安くしてく
れといつて借地権者たる控訴人Aの買う値段の半額に減額させ、貸金四〇万円を差
引き、残金三二万円を支払つて所有権移転登記をなさしめたものである。
 (3) 被控訴人が本件土地を買取ることに決意したのは、控訴人ら借地人を害
する意思をもつてなされたものである。
 (4) 登記は不動産の権利移転に関与しない者に対する公示手段であるとこ
ろ、被控訴人は訴外Hの依頼により、控訴人Aに対して、本件土地の買取り方を慫
慂し(それが単なる斡旋か、代理かは暫らくおく)、売買条件のことから不調とな
るや、自らこの土地を買受けたものであるから、登記制度の趣旨からいつても、本
件建物の登記の欠缺を主張するにつき正当な利益を有する第三者ではない。
 五、 以上の抗弁がいずれも認められないとしても、控訴人側のすべての事情な
らびに被控訴人側の事情に照らし、被控訴人の本件建物収去、土地明渡の請求は、
所有権の行使の外形にかかわらず、著しく信義誠実の原則に背反し、法が権利を認
めた本来の趣旨を逸脱するから、該請求は法の保護に値することなく権利の濫用と
して排斥さるべきものである。
 (1) 被控訴人は控訴人Aが本件(イ)の土地を訴外Hより賃借し、池島物産
株式会社名義で洋家具製造販売の店舗及び工場敷地として同土地を使用している事
情を十分知悉していたものである。
 (2) 被控訴人は遅くとも本件土地買受け直後には控訴人A所有建物の登記の
欠缺を発見し、賃借権の対抗力のないことの法律知識を伯父I弁護士から得、控訴
人Aには事前に何らの交渉をもしないで、所有権移転登記の日の一二日後に早くも
本訴を提起したものである。
 (3) 被控訴人はs筋において延七三坪三階建の店舗を所有し、高級京呉服の
卸小売業を営んでおり、年間取引高三億に達するというのであるから、控訴人Aの
営業を壊滅させてしまつてまで、更に呉服卸商を営むため本件土地の明渡を求める
緊急性も必要性もない。しかのみならず、被控訴人は本件土地の買受代金七二万円
のうち四〇万円は売主たる訴外Hに対する貸金債権と相殺し、所有権取得当時現実
に出金したのは差額三二万円と、所有権移転登記登録税三八、九六三円、不動産取
得税二三、三七八円合計金七八二、三四一円に過ぎないのであるから、訴外Hとの
賃貸借関係を承継し、適正賃料をえて控訴人Aに賃貸しても、被控訴人としては何
ら財産的損害を蒙ることはありえないわけである。なお前述の如く、被控訴人は本
件土地の換地清算金の交付決定を受けているから、買受代金、費用の全部を償つて
余りあることになる。
 (4) これに反し若し被控訴人が控訴人ら所有の建物を収去させ、本件土地を
明渡させて更地となし、他に売却処分すると仮定せば、前述被控訴人が本件土地を
取得した元本総計七八二、三四一円にに過ぎないのに対し、本件土地の現在の更地
価格は坪当り一七万円ないし二五万円であり(甲第二四ないし二六号証鑑定書によ
り)、当審調停の際における被控訴人主張価格によれば坪当り三〇万円であるか
ら、被控訴人は実に三千万円ないし五千万円余の巨額の利益をうることとなるので
ある。
 (5) 控訴人Aは昭和一七年頃、元本件地上に存在した訴外H所有の建物を、
被控訴人の父Gの仲介によつて賃借し、洋家具製造販売業を営んでいたところ、昭
和二〇年三月一屯爆弾が落下して賃借家屋は焼失し、家屋敷地には大穴が出来て池
になつていたが、控訴人Aは昭和二一年二月Hから、改めて本件(イ)の土地を期
間三〇年の約で賃借した上、爆弾による大穴を相当の費用を投じて埋立てをなし、
同年一二月同地上に本件家屋を建築し、昭和二二年九月には池島物産株式会社(旧
名池島工業株式会社)を設立し、爾後同会社名義をもつて本件家屋において洋家具
の製造販売を営み現在に至つているものである。しかして右会社の業績も近年にな
つて漸く躍進を見て、勤務する工員も五五名(その家族を加えて約百名)を数える
に至つたのであるが、(原判決事実摘示に従業員十数名とあるは数十名の誤りであ
る)今仮に本件建物を収去し、本件土地を明渡すときは、右会社の業務はここに一
頓挫を来たし、控訴人Aはもとより、右従業員一同の生活にも莫大な支障を来たす
ことは必定である。蓋し控訴人Aとしては昭和一七年頃以来の老舗の所在地であつ
て、「靱のA」といえば全国地方の洋家具の顧客から注文が来ているが、他に適当
の土地を買求め、若しくは新たに土地を賃借して店舗及び工場を移転し、或は適当
な建物を賃借するということは、本件建物を無二の資産として僅かにその営業によ
つて生計を営む控訴人Aによつては経済事情が許さないからである。しかも本件建
物を取壊ち収去するが如きことは、現下の払底せる住宅事情から見ても社会経済上
重大な損失といわなければならない。
 (6) 控訴人Aは本件建物につき保存登記さえしておけばかような憂目を見る
ことはなかつたわけであるが、法律に暗く、登記の欠缺がこのような重大な結果を
招来するとは夢想もしなかつたのみならず、建物新築当時は終戦直後のこととて、
右建物も戦災地跡復旧仮設建築物許可申請に基き建設したものであつたので、つい
にこれが保存登記を経なかつた次第である。
 以上のような事情の下における登記の懈怠の故に、控訴人Aとその従業員らは、
精神上はもとより経済的にも壊滅的な損害を蒙る半面において、被控訴人側が巨大
な利益を獲得するというが如きことが、正義公平を理念とする法律の世界において
黙過することができるであらうか。ここに民法第一条を根拠として権利濫用の理論
が展開さるべき十分の根拠が存するものと思料する。
 なお被控訴人は本件土地を買受けるに当り控訴人Aに対しこれを買受けるよう申
入れた旨主張ているが、かかる事実があつたとしても、この一事をもつて権利濫用
の法理の適用を排除する理由に乏しい。
 蓋し控訴人Aとしては当時会社の躍進に伴う営業資金の獲得に専念し、それ以外
に本件土地を買収する余裕がなかつたので代金全額一時払による申入れを拒否した
に過ぎないからである。しかして被控訴人が控訴人Aに対し先ず本件土地買取りを
申入れたという一事は、却つて被控訴人の本件上地明渡の緊急性を否定する一資料
とすることができる。
 と述べ、
 控訴人C、同D代理人において、
 一、 本件土地につき昭和二七年九月一七日、売買を原因として被控訴人を取得
者とする所有権移転登記がなされたこと、本件土地につき被控訴人主張の如く仮換
地の指定及び換地処分がなされたこと、控訴人Dが本件(ロ)、(ハ)の土地の仮
換地及び換地上に被控訴人主張の家屋を所有し、同土地二一坪八合二勺を占有して
いることはいずれもこれを認めるが、同控訴人は賃借権に基き適法にこれを占有し
ているものである。控訴人Cはもと右家屋を所有していたが、昭和二六年三月二五
日控訴人Dに代金四〇万円でこれを売渡したので、被控訴人が本件土地を取得した
と主張する日以後、控訴人Cにおいて右家屋を所有し、同土地の仮換地を占有した
ことはない。控訴人Dに対する右家屋の所有権移転登記がなされた日が昭和三〇年
四月八日であることは認めるが、登記が遅れたのは控訴人Dにおいて控訴人Cを信
用していたし、早急に移転登記をする必要もなかつたからであるが、なお昭和二八
年に控訴人Cが国税庁より右家屋の差押を受け所有権移転登記が円滑にできなかつ
たという事情にもよる。控訴人Dは控訴人Cの滞納税金を完納し差押を解除して貰
つて後漸く移転登記を完了したのである。控訴人らにおいて右家屋が昭和二六年三
月以降も控訴人Cの所有であることを認めたことはないが仮に認めたとしても権利
自白であるから自由に取消すことができる。さらに仮に被控訴人主張の事実を認め
たものとすれば、真実に反し、かつ控訴代理人の錯誤に基くものであるからこれを
取消す。
 二、 控訴人Dが本件(ロ)、(ハ)の土地につき賃借権を取得した経過は次の
とおりである。同土地は控訴人Cにおいて昭和二三年頃訴外Hから建物所有の目的
で賃借し、同地上に本件建物を建築所有していたが、昭和二六年三月二五日控訴人
Dは控訴人Cから右建物を買受けるとともに、右H承諾の下に右賃借権の譲渡を受
け、爾来控訴人D名義をもつてHに地代を支払つて来た。従つて被控訴人が本件土
地を取得したと主張する当時、右賃貸借はHと控訴人D間に有効に存続していたも
のである。しかして右賃貸借及び地上建物につき当時登記がなされていなかつたこ
とは認めるが、被控訴人はHから本件土地を借地権付で買受けたものであるから、
控訴人DとH間の右賃貸借契約は被控訴人に承継せられたものである。仮に然らず
としても、Hと被控訴人間の本件土地売買契約は民法第九〇条に違反する無効のも
のである。仮に然らずとするも、被控訴人は控訴人Dの前記登記の欠缺を主張する
につき正当な利益を有する第三者ではない。仮に然らずとするも、被控訴人の本訴
請求は権利の濫用であつて許されない。以上の点に関する理由の詳細については、
左記の点を附加するほか控訴人Aらの主張をすべて援用する。
 控訴人Dは本件家屋に家族とともに居住し、青果業を営んでいるが、その営業は
店舗を構えて顧客が買いに来るのを待つというやり方ではなく、主としてm辺の一
流料理飲食店より電話で注文を受け、或は定期的に巡回して青果を売込むやり方で
あるが、このような商売方法としては本件家屋は最適の立地条件にあり、本件家屋
と同様な立地条件の家屋を他に探すことは至難であつて、控訴人Dが本件家屋を失
うことは住居を失うとともに生活の糧を失うことになり、家族とともに路頭に迷う
結果となる。これに反し被控訴人としては、本件土地を明渡せしめんとするのは経
済的利益を追求することが目的であつて、自ら住居として使用するものではないか
ら、控訴人Dに対する請求は権利の濫用として許されない。
 なお被控訴人主張の損害額は争う。
 と述べ、
 証拠関係につき、
 被控訴代理人において、甲第四ないし第九号証(第五号証は一、二、三)を提出
し、当審における証人K、同L、同M、同N(第二回)の各証言、検証(第一、二
回)の結果、鑑定人Jの鑑定及び被控訴人本人尋問の結果(第一、二回)を援用
し、乙第六号証の一、二、第七号証、第一〇号証の一ないし三、第一九号証、第二
二号証、第二七号証、第三一号証、第三二号証の一、二は不知(但し第六号証の一
中公署作成部分、第一〇号証の一ないし三中官署作成部分は成立を認める)、その
余の後記乙号各証(乙第八号証の一以下)は全部成立(乙第三六号証の一、二は控
訴人主張の被写体の写真であること)を認める。丙第三号証の一、二は不知、同第
七号証は官署作成部分のみ成立を認め、その余は不知、その余の後記丙号各証(第
四号証の一以下)は全部成立を認めると述べ、
 控訴人A、控訴会社、控訴人B代理人において、乙第六ないし第三六号証(第六
号証は一、二、第八号証は一ないし四、第一〇号証は一ないし三、第二一号証は一
ないし四、第二三号証は一ないし三、第二九号証は一ないし六、第三〇号証は一な
いし三、第三二、三六号証は、各一、二)を提出し、当審における証人H、同N
(第一、二回)、同O、同J、同Pの各証言、鑑定人Q、同Rの各鑑定の結果、検
証(第二回)の結果及び控訴人A本人尋問(第一、二回)の結果を援用し、甲第四
ないし第九号証(第五号証は一、二、三)の成立を認め、控訴人C、同D代理人に
おいて、丙第三号証の一、二、第四号証の一ないし一〇、第五号証の一ないし三
九、第六ないし第八号証を提出し、前記控訴人Aら提出援用にかかる全証拠を援用
し、甲第四ないし第九号証(第五号証は一、二、三)の成立を認めたほか、原判決
事実摘示と同一(但し原判決六枚目表二行目から三行目にかけ「事実」とあるを
「事業」と、同一二行目に「被告A」とあるを「被告C」と訂正する)であるか
ら、ここにこれを引用する。
 当裁判所は職権で控訴人C、同D各本人の尋問を行つた。
         理    由
 一、 本件(イ)の土地(大阪市a区bfg丁目tのu、宅地二三〇坪七合三
勺)、本件(ロ)の土地(同所h番のi、宅地二〇坪三合)、本件(ハ)の土地
(同所h番のj、宅地五坪七合五勺)が、もと訴外Hの所有であつたこと、右三筆
の土地につき昭和二七年九月一七日、売買を原因として右Hから被控訴人に所有権
移転登記がなされたことは当事者間に争がなく、成立に争のない甲第一号証、証人
H(原審、当審)、同N(原審、当審一、二回)の証言及び被控訴人本人尋問の結
果(原審、当審一、二回)によると、被控訴人は同年同月一六日右Hから本件三筆
の土地を代金七二万円で買受け所有権を取得したことを認めることができる。
 控訴人らは、右売買契約は被控訴人において右Hの無智、無経験、軽卒、窮迫に
乗じ、暴利を得る目的をもつて締結したものであるから、公序良俗に反し無効であ
る旨主張するけれども、当時右Hが金に困り時価よりも著しく低廉な価格で売渡し
たものであるとしても、後記認定の被控訴人が本件土地を買受けるに至つた経緯
と、H家と被控訴人家の昵懇関係に照らし、被控訴人がHの無智、無経験、軽卒、
窮迫に乗じ、暴利を得る目的をもつて本件土地を買受けたものとはにわかに認め難
いから、右控訴人らの主張は採用しえない。
 二、 次に本件三筆の土地が大阪復興特別都市計画事業による土地区画整理地域
内にあり、昭和二六年四月六日付で被控訴人主張の如くそれぞれ仮換地が指定され
ていたが、昭和三六年二月二三日付で換地処分がなされ、同月三〇日その公告があ
つて、本件(イ)の土地は大阪市a区bc丁目d番地、宅地一六〇坪となり、本件
(ロ)、(ハ)の土地は同所e番地、宅地二一坪八合二勺となつたこと、控訴人A
が本件(ロ)の土地の換地(換地処分前は仮換地)上に、被控訴人において同土地
の所有権を取得する以前から、別紙目録記載の建物を所有し同土地全部を占有して
いること、控訴人池島物産が右建物を使用していること、ならびに控訴人Dが本件
(ロ)、(ハ)の土地の換地(換地処分前は仮換地)上に被控訴人主張の家屋(木
造瓦葺平家建店舗一棟、建坪一四坪六合三勺)を所有し、同土地全部を占有してい
ることはいずれも当事者間に争がない。
 三、 そこで先ず控訴人A、同池島物産、同Bに対する請求の当否について判断
する。
 同控訴人らは、控訴人Aにおいて本件(イ)の土地の換地(換地処分前は仮換
地)について賃借権を有する旨主張するので、先ずこの点について考えて見るに、
証人Hの証言(原審)により真正に成立したものと認める乙第一、二号、同証人及
び証人Nの証言(原審、当審一、二回)の各証言、及び控訴人A本人尋問の結果
(原審、当審一回)によると、控訴人Aは昭和二一年二月一日、右Hから本件
(イ)の土地を、木造建物の所有を目的として、期間同日より満三〇年の約定で、
敷金三、〇〇〇円を差入れて賃借し、同地上に洋家具製造販売の工場、事務所を建
築所有し、被控訴人において本件土地を買受けた当時、右賃貸借の残存期間はなお
二三年余存したことを認めることができる。しかしながら右賃貸借ならびに右地上
建物につき当時登記がなされていなかつたことは当事者間に争がないから、控訴人
Aは右賃借権をもつて右土地の取得者である被控訴人に対抗しえないことはいうま
でもない。ところで控訴人らは、前記Hと被控訴人間の本件土地売買契約には、被
控訴人において右賃貸借契約を承継する旨の合意があつた即ち被控訴人は本件土地
を借地権付で買受けたものであるところ、控訴人Aはこれが受諾の意思表示をした
から、右賃貸借は被控訴人に承継せられたものである旨主張するけれども、控訴人
らの全立証によるもいまだもつて右合意の存在を認めるに十分でなく、却つて前示
H、Nの証言と被控訴人本人尋問の結果(原審、当審一、二回)によると、かかる
合意は存しなかつたことを認めることができるから、右控訴人らの主張は採用しえ
ない。
 控訴人らはさらに、被控訴人において前記登記の欠缺を主張することは控訴人ら
主張の諸事情に照らし著しく信義に反するから、被控訴人は右登記の欠缺を主張す
るにつき正当な利益を有する第三者ではない旨主張するけれども、第三者が登記の
欠缺を主張するにつき正当な利益を有しない場合とは、当該第三者に不動産登記法
第四条、第五条により登記の欠缺を主張することの許されない事由がある場合、そ
の他これに類するような登記の欠缺を主張することが信義に反すると認められる事
由がある場合に限るものと解すべきところ(昭和三一年四月二四日)最高裁第三小
法廷判決参照)、本件の場合は、被控訴人において控訴人Aの登記を妨げた事実は
全くなく、唯後記認定のような所有権濫用の事実が存在するけれども、いまだもつ
て被控訴人において、控訴人Aをして賃貸借の承継を期待せしめるような行為、そ
の他後に登記の欠缺を主張すること自体が控訴人Aに対する背信的行為となるよう
な行為をしたものと認めるに足りないから、被控訴人が前記登記の欠缺を主張する
につき正当な利益を有する第三者に該当しないものと認めることはできない。従つ
て右主張もまた採用しえない。
 そうすると控訴人Aは、被控訴人が本件(イ)の土地の所有権を取得した日以
降、同土地の仮換地及び換地につき賃借権を有しないものというべく、他に同控訴
人が同土地占有の権原を有することの主張はない。
 そこで進んで権利濫用の抗弁について考えて見るに、
 (一) 証人Hの証言(原審)及び被控訴人本人尋問の結果(原審、当審一、二
回)によれば、被控訴人は、控訴人Aが訴外Hから本件(イ)の土地を賃借し、同
地上に建物を所有して控訴会社名義で洋家具製造販売業を営んでいることを知りな
がら同土地を買受けたものであること明らかである。
 (二) 証人H(原審)、同N(原審、当審一、二回)、同S(原審)、同K
(原審)の各証言に、控訴人A及び被控訴人各本人尋問の結果(いずれも原審及び
当審一、二回)を綜合すると、被控訴人が本件土地を買受けるまでの間の事情及び
買受け経過は次のとおりであつたことを認めることができる。
 訴外Hは終戦後落魄し、宗教にこつて遊び暮し、売り食いの生活を続けていた
が、本件土地に賦課される固定資産税が地代を上廻る状況で収益がなかつたので、
賃借人に買取つて貰おうと考え、昭和二五年頃から(イ)の土地については控訴人
Aに、(ロ)、(ハ)の土地についてはその賃借人であつた控訴人Cにそれぞれ買
取方を求めていたが、同人らにおいても経済的に余裕がなかつたので分割払でなけ
れば買えないといつて応じなかつた。しかしHもそのうち益々窮迫して来たので、
昭和二六年一〇月頃、控訴人Aの申出でた坪当り六、〇〇〇円、毎月一坪宛分割売
りの条件を一応承諾し、昭和二七年一月から実行する口約をしたが、Aにおいて実
行しなかつたので右約束はそのまま立消えの形となつた。ところでHは昭和二六年
一二月頃、かねて親族同様の交際をしていて特別昵懇の間柄である訴外Tに依頼
し、同人の息子である被控訴人から金四〇万円を、無利息で期限の定めなく借用し
たがその返済の見込も立たないので心苦しく思い、昭和二七年四月頃被控訴人に対
し、本件三筆の上地を、他に売却の世話をするか、または被控訴人において買取つ
て貰いたい旨依頼したので、被控訴人は、本件(イ)の土地を賃借し、同地上で洋
家具の製造販売業を営んでいる控訴人Aに買取つて貰うのが好都合であると考え、
早速同人に当つて見たが、前同様一括しての買受けには応じ難く、坪当り八、〇〇
〇円の割合による毎月一坪宛の分割売りの条件で売つてくれるなら買受けてもよい
というような意向で話にならなかつたので、その旨Hに伝えるとともに、他に一、
二当つて見たが適当な買手もなく、さりとても被控訴人自身進んで買受ける気も起
らなかつたのでその儘放置していた。ところが同年九月頃になり、Hが前示四〇万
円の借金の返済や生活費等に窮した結果、是非被控訴人において買取つて欲しい旨
懇請して来たので、被控訴人も情誼上やむなくこれを承諾した。しかして代金額に
ついてはHよりの申出はなく、被控訴人より即金で支払うから坪四、〇〇〇円の割
合にして欲しい旨申出でたところ、Hにおいても借地人が地上に建物を所有してい
ることとて、更地の価格よりは遥かに下廻ることは十分諒解していた際であり、異
議なく右申出を承知したので同月一六日売買契約を締結したが、当時本件三筆の土
地は区画整理中で約三割減坪になる予定であるとのことだつたので、整理後残る坪
数を約一八〇坪と見積り、代金総額を七二万円と定め、即日そのうちから前示貸金
四〇万円を差引き残額三二万円をHに支払い、翌一七日所有権移転登記を了したこ
と、右契約の際控訴人Aらとの間に存在した賃貸借の処置については何らの話合い
も行われなかつたことを認めることができ、前掲証人及び控訴人、被控訴人各本人
の供述中叙上の認定に反する部分は採用しない。
 (三) そこで被控訴人の右買受け価格を当時の時価と比較して見るに、本件土
地の昭和二七年九月当時の時価は、各鑑定人のうち最低の評価をなせる当審鑑定人
Qの鑑定結果によつても、更地の場合は一坪につき三〇、〇〇〇円、賃借権付売買
の場合はその半額の一坪につき一五、〇〇〇円相当であつたことを認めることがで
きるから、被控訴人の買受け値段は更地としては勿論、賃借権付としても時価より
も著しく低廉であつたことが明らかである。しかし本件土地についての前掲事情か
ら見て当時本件土地を右時価で容易に売買できたものとは考え難いが、さりとて被
控訴人の申出でた一坪につき四、〇〇〇円なる価格は、前記事情を斟酌してもなお
かつ著しく低廉であるといわなければならないから、売買当事者は少くとも控訴人
Aの賃借権の存するものとしての評価額を本件売買取引の基準としていたものと推
定せざるをえない。もつとも右賃貸借の処理について売主Hとの間に何の話合も行
われなかつたことは前述のとおりである。被控訴人は、当時の本件土地の価格は固
定資産税評価額以下であつたと主張するけれども、これを肯認するに足る何らの証
拠もない。
 (四) 次に被控訴人が本訴を提起するに至るまでの経過について見るに、被控
訴人本人尋問の結果(原審、当審一、二回)に、弁論の全趣旨を綜合すると、被控
訴人は大阪市k区lにおいて呉服類の卸小売業を営んでいるものであるが、本件土
地は前述の経過でやむをえず買受けたもので、買受直前まではこれが利用方法につ
いては何ら考えておらず、また控訴人Aの賃借権が被控訴人に対抗しうるものであ
るか、えないものであるかについても知識を有しなかつたが、買受直後たまたま伯
父である弁護士Iより、地上建物に登記がなければ対抗力がなく、明渡を求めるこ
とができる旨の法律知識をえたので、早速本件地上建物の登記の有無について調査
して見たところ、未登記であることを発見したので、これを奇貨とし、にわかに土
地明渡請求の決心をし、控訴人Aら賃借人に対し、買受けの事実も告げなければ、
事前に何らの交渉もすることなく、買受け登記後一三百目の昭和二七年九月三〇日
突如本訴を提起したものであることを認めることができる。
 被控訴人は、右明渡を求める必要事情として、被控訴人の難波新地における店舗
が狭隘であること、そこが呉服類の卸売店舗としては不向であること、希望のm方
面において適当の土地を入手することが容易でないこと、本件土地が被控訴人の父
にとり因縁浅からざる土地であること等を挙げ、父の生存中に本件土地の明渡を受
け卸売部門の店舗を建築したい意思である旨主張するけれども、前認定の本件土地
入手経過から見て少からず疑なきをえないのみならず、仮に真意であるとしても、
被控訴人が本件土地は卸売店舗を設けるには必らずしも最適の土地柄ではないと自
ら主張していること自体から見ても、本件土地に対する自己使用の必要性はさして
切実なものとは考え難い。いわんや被控訴人は年間三億円の取引をする大商人であ
るというのであるから、卸売店舗設置に最適の土地を他に求めることもさして困難
であるとは考えられず、後記認定の控訴人A側の損害、犠牲を考えるとき、強いて
本件土地に固執してその明渡を求めんとするのは甚だしく自己本位の考えに傾き過
ぎるの感がある。また被控訴人は、事前に交渉せずして本訴を提起した点につき、
控訴人Aが本件土地買受けの誠意を示さず、地上権があるから他に売つても構わな
いとまで放言し、交渉しても無駄であると考えられたからである旨主張するけれど
も、控訴人A本人尋問の結果(原審、当審一、二回)によれば、当時同人は資金的
に余裕がなかつたから買取らなかつたものであつて、必ずしも不誠意で買取らなか
つたものではないこと、当時同人には被控訴人同様借地権の対抗力についての法律
知識がなかつたことを認めることができるから、被控訴人において買受後控訴人A
の賃借権が対抗力のないものであることを知つた以上、改めてその事実を告げて交
渉して見る程度の誠意はあつてしかるべきものと考えられる。しかるに抜打的に本
訴を提起しその後も全く妥協しない態度から考えると、交渉の余地がなかつたから
ではなく、所有権を楯に遮二無二本件土地を明渡さしめようとの意思であつたこと
を看取するに難くない。
 (五) 次に本件(イ)の土地に対する控訴人A側の必要事情ならびに明渡によ
る損害について考えて見るに、証人H(原審)、同N(原審、当審一回)、同U
(原審)の各証言に控訴人A本人尋問(原審、当審二回)の結果を綜合すると、控
訴人Aは昭和一七年頃、本件(イ)地上にあつたH所有の家屋を賃借し洋家具製造
販売業を開始したが、昭和二〇年三月の空襲で同家屋が焼失したので、昭和二一年
二月一日改めて本件(イ)の土地をHから賃借し、罹災跡を整地して工場、事務所
等を建築して右営業を再開し、昭和二二年九月頃控訴会社(当初の商号は池島工業
株式会社)を設立し、爾後同会社名義で営業し、一時経営困難な時期もあつたが、
それを切抜けて、本訴提起当時漸く本件土地を根拠として手広く発展の基礎を築き
つつあつたものであるところ、その後業績は次第に向上し、今日では多数従業員を
使用し、相当盛大に営業していること、従つて本件(イ)の土地は控訴人A側にと
り必要度は極めて高く、永年営業の根拠としてきた本件土地を明渡し他に移転する
とせば営業上多大の打撃、損失を蒙るばかりでなく、自己及び多数従業員の生活に
も少なからず脅威を感ずるに至ること、他に移転先を求めることも実際問題として
容易でなく、本件(イ)の土地に対する控訴人A側の必要度は被控訴人側に比し遥
かに高く、切実であることを認めることができる。被控訴人は、本件土地付近は商
業地域であるから洋家具製造業には不向であると主張するけれども、控訴人Aの営
業が発展している点から見て右主張は首肯し難い。また被控訴人は、控訴人Aがn
区の方にも工場を設置しているというも、そちらへ移転し、本件土地を明渡すこと
が可能ないし容易であると認めるに足る証拠は何もない。
 (六) 次に被控訴人が本件土地の明渡を受けることによつて獲得する利得につ
いて考えて見るに、当審証人Jの証言、当審鑑定人Q、同Rの各鑑定の結果及び成
立に争のない乙第二四ないし第二六号証を綜合すると、本件土地附近の宅地の取引
価格は本訴提起当時より現在に至るまで更地価格を一〇〇%として、(イ)、地上
に他人所有の建物が存在し、これを収去せしめて土地の明渡を受くることを要する
場合には約八〇%(ロ)借地権が付着する場合には約五〇%が一般の相場であるこ
とを認めることができるところ、被控訴人は(イ)の場合に該当する土地を(ロ)
の場合の土地の評価額で買受けたものであるから、本件土地の明渡を受ける場合に
は更地価格の約三〇%の利得をする勘定である。ところて原審鑑定人Jの鑑定の結
果、前示Q、Rの各鑑定の結果によると、本件土地(換地坪数にして全部で一八一
坪八合二勺)の本訴提起当時の更地価格は坪当り三万円ないし五万円相当であつた
ことが認められ、また前示乙第二四ないし第二六号証によると、本件土地の昭和三
六年一一月当時の更地価格は坪当り一七万円ないし二五万円相当であることを認め
ることができるから、被控訴人は本件土地の明渡を受けることにより、本訴提起当
時を標準とすれば少くとも一六三万円余(坪当り九、〇〇〇円)の、昭和三六年一
一月当時を標準とすれば九二七万円余(坪当り五一、〇〇〇円)ないし一、三六三
万円余(坪当り七五、〇〇〇円)の利得をする計算となる。ところで既に認定した
本件土地売買契約当時の状況から考えると、右利得は契約当時利得者及び利害関係
人が現実に予期せず、たまたま控訴人Aらの賃借権の対抗要件の欠缺なる事情の発
見によつて生ずることとなつたものといわなければならず、しかもその利得の獲得
(即ち本件土地明渡請求権の権利行使)は権利者の切実な必要に基いて行われるも
のでなく、単なる意欲即ち恣意によつて行われるもので、かつ右利得の反面に利害
関係人たる控訴人Aら賃借人に多大の損害を蒙らせ、その結果の利害の差が権利行
使の前の状態即ち当事者が予期し満足していた相互の利害関係に比して著しく均衡
を失し、その度合は社会通念上許容の限度を超えるものと認めなければならない。
 (七) しかるに当裁判所が職権で付した本件の民事調停の経過を見るに、被控
訴人側は賃貸には頑として応ぜず、また売渡すとしても坪当り三〇万円以下の価格
では応じない態度を示し、控訴人A側の到底受諾し難い金額を提示したので、調停
も不調に終つたことが、控訴人A本人尋問の結果(当審二回)と弁論の全趣旨によ
つて認められるから、被控訴人の態度は自己の利益の追求にのみ急にして、相手方
の立場、利益を無視して顧みないものであるとの非難を免れない。
 以上認定の事実を綜合して考えると、被控訴人は、単に控訴人Aが本件(イ)の
土地を賃借し、同地上に建物を所有して営業している事実を知つて本件土地を買受
けたものであるに止らず、時価よりも著しく低廉な、しかも賃借権付評価で取得し
た土地につき、たまたま控訴人Aの賃借権が対抗力を欠如していることを発見し、
これを奇貨として予想外の新たな利益を収めようとするものであり、その方法とし
ては事前に何らの交渉もしないで抜打的に本訴を提起し、その反面に、相手方に予
期しない不利益を与えるもの、即ち正当な賃借権に基き地上に建物を所有して平穏
に営業し来つた控訴人A側の営業ならびに生活に多大の損失と脅威を与えることを
意に介せず、敢えて彼我の利益の均衡を破壊して巨利を博する結果を招来せんとす
るものと認めなければならないから、被控訴人の控訴人Aに対する本件建物収去、
土地明渡の請求は到底土地所有者とその既存利用者間の信義誠実の原則に則つた権
利行使とは認め難い。よつて右請求は権利の濫用として排斥するのが相当であると
認める。
 しかして控訴人Aに対する右請求が許容されない以上、同人との使用貸借契約に
基き本件(イ)地上建物を使用している控訴人池島物産に対する同地上建物よりの
退去及び同土地明渡の請求が理由のないことも多言を要せずして明らかであり、控
訴人Bについては成立に争のない乙第二八号証と控訴人A本人尋問の結果(当審二
回)によれば、昭和三四年八月頃右地上建物より退去したことが認められるから、
控訴人Bに対する建物退去、土地明渡の請求は既にこの点において理由がない。 
そこで次に損害金請求の点について考えて見るに、控訴人Aが被控訴人において本
件(イ)の土地の所有権を取得した日時以降同土地の仮換地及び換地について被控
訴人に対抗しうる占有権原を有しないことは前認定<要旨>のとおりである。しかし
て被控訴人の控訴人Aに対する同地上建物の収去及び土地明渡の請求が権利の濫 要旨>用として許されずその反射的効果として控訴人Aにおいて右建物収去、土地明
渡の請求を拒否しうる結果となるとしても、そのことから直ちに同控訴人の右土地
占有が正当権原に基く適法なものに転化するいわれはないから、同控訴人において
被控訴人が右土地の使用収益を妨げられることによつて蒙つた損害についてまで
も、賠償義務を免れるためには、さらに被控訴人において右損害賠償を請求するこ
と自体も権利の濫用と認められなければならないところ、前認定の建物収去、土地
明渡を権利の濫用と認めた事由はいまだ被控訴人の損害金の請求までも権利の濫用
と認むべき事由となすに足らず、他に損害金の請求を権利の濫用と認むべき特段の
事情もない。そうすると控訴人Aは被控訴人に対し本件(イ)の土地の仮換地使用
収益権及び換地の所有権に対する侵害の損害賠償として地代相当の金員の支払義務
を免れない。(元来他人の所有物をその者に対抗し得べき正権原なくして占有する
ことは、別の観点よりすれば、不法行為を構成することは論を俟たないところであ
り、ただこの場合は、別に所有権自体の権能に基いて、代償物たる金銭賠償よりも
一層有力な占有回復という直接的救済方法が認められる関係に在るに外ならず、ま
た右の占有回復が実現するまでの期間に対して通常許容される金銭賠償に対応する
損害は、回復の目的たる占有即ち所有権中の使用収益権能の分解即ちその時間的分
割部分の喪失と考えることができ、通例それは将来の占有回復という救済手段に附
随し、その遅延に対する損害の賠償と考えられることが多いが、右の損害は、本
来、占有妨害の成立する限り、占有回復の能否に拘らず独立的に発生し、その賠償
も独立した賠償方法であり、損害発生の期間に対応して考える限り、それは常にそ
の期間の損害の全部に対する賠償であると考えられる。ところで、今もし土地所有
権の侵害において、所有者の求める土地明渡の請求が権利の濫用として許容し難い
と見られても、このことは被侵害者の有する救済手段のうち、最も強力であり、直
接的で効果的な目的物の占有そのものの回復(救済の対象たる使用収益権能の根源
であり、総和であるものの即時、全面的回収)の途が拒否せられたことを意味する
に止まり、代償的救済手段としての金銭を以てする占有利益喪失の分割的補償の途
までが否定されたことにはならないし(これが否定されるためには、かかる第二次
的救済までが権利濫用になるか否かが、更に検討されねばならない筈であるが、こ
れは実質的には使用対価の支払と殆ど異なるところがないから、この権利濫用を肯
定することは至難であろう)、いわんや他人所有物の無権原占有行為の違法性が阻
却されて、不法行為の成立が否定されることを何等意味するものではないと考える
べきであつて、この場合における占有者の保護は、権利者の右第一次的救済の否定
から生ずる反射的なもの以上に出でず、これを更に高めて、その占有に正当性ない
し権利性を付与しなければならないとする根拠は、格別にこれを見出すことはでき
ない。そうすると、この場合の被侵害者の救済方法としては、本来独立した損害の
賠償としての意味を持つ右の占有喪失の継続に対する金銭的損害賠償が、他人の所
有物に対する無権原占有状態即ち不法行為状態の存続する限り、占有利益喪失の時
間的部分に対応する補償として、被侵害者に許容されるものに解すべきであつて、
もし関係当事者がこのような稍変則的な状態の継続を欲しないならば、相互の関係
を適法化すべき契約の成立、又は占有関係からの離脱についての意思の合致への努
力を致すべきものである。)
 しかして原審及び当審鑑定人Jの鑑定の結果によると、本件(イ)の土地(仮換
地及び換地)の地代相当額は一ケ月につき、一坪当り昭和二七年一〇月九日当時は
金一一〇円、昭和二八年一〇月九日当時は金一二六円、昭和三〇年一〇月一〇日当
時は金二一三円七〇銭、昭和三一年一〇月一〇日当時は金二三一円七〇銭、昭和三
二年一〇月一〇日当時は金二六三円五〇銭、昭和三三年一〇月一〇日当時は金二八
一円一〇銭であつたことを認めることができ、右認定に反する証拠はないから、控
訴人Aは被控訴人に対し本件訴状送達の翌日である昭和二七年一〇月九日から本件
(イ)の土地の換地明渡済に至るまで別紙明細表一、記載のとおりの損害金を支払
わなければならない。しかしながら、控訴人池島物産は控訴人Aとの使用貸借契約
に基き、控訴人Bは控訴会社の使用人として、単に本件(イ)地上建物の全部また
は一部を使用しまたは使用していたものに過ぎないことが控訴人A本人尋問の結果
(原審及び当審二回)によつて認められるから、前叙の如く控訴人Aにおいて右建
物収去、土地明渡義務がない以上控訴人池島物産及び同Bの右建物の占有(Bにつ
いては仮に独立占有があつたとしても)と被控訴人が本件(イ)の土地(仮換地及
び換地)を使用できないこととの間には相当因果関係を認めえない。そうすると控
訴人池島物産、同Bに対する損害金の請求は理由がないものといわなければならな
い。
 四、 次に控訴人C、同Dに対する請求について考えて見るに、控訴人Cが本件
(ロ)、(ハ)地上の家屋を昭和三〇年四月八日控訴人Dに所有権移転登記するま
で所有し、控訴人Dがこれに居住していたことは同控訴人らの認めて争わなかつた
ところである。同控訴人らは、右日時まで右建物が控訴人Cの所有であつたことを
認めたことはなく、仮に認めたとしても権利自白であるから自由に取消しうる旨主
張するけれども、右自白があつたこと、それが単なる権利自白でないことは弁論の
全趣旨によつて明らかである。同控訴人らはさらに控訴人Cより控訴人Dへ右家屋
を売渡し所有権を移転した日時は昭和二六年三月二五日で、単に所有権移転登記の
みが遅れていたものに過ぎないから、右自白は真実に反し、かつ訴訟代理人の錯誤
に基くものであると主張し、右自白を取消すも、丙第一号証、第二号証の一ないし
六は同控訴人ら代理人提出の昭和二九年七月二七日付証拠説明書(同日の原審口頭
弁論期日において陳述)の記載に照らし、右主張を肯認する資料となし難く、また
丙第三号証の一、二及び当審における控訴人C、同D各本人の供述も、原審におけ
る控訴人C本人の供述と弁論の全趣旨に照らしにわかに措信し難く、その余の丙号
各証及び証人Nの証言(原審及び当審一、二回)をもつてしてはいまだもつて前示
自白が真実に反し、かつ代理人の錯誤に基くものであることを認めるに足りないか
ら、右自白の取消は許されない。
 しかして控訴人Cが被控訴人において本件(ロ)、(ハ)の土地所有権を取得す
る以前から同地上の家屋を所有し、同土地の仮換地全部を占有し来つたことは弁論
の全趣旨によつて明らかである。 そこで控訴人Cが本件(ロ)、(ハ)の土地の
仮換地を使用収益する権原を有したかどうかについて考察するに、証人N(原審及
び当審一、二回)の証言、成立に争のない甲第三号証、原審における控訴人A、同
C各本人尋問の結果を綜合すると、控訴人Cは昭和二三年頃、訴外Hに無断で本件
(ロ)(ハ)地上に被控訴人主張の家屋を建築したが、その後事後承認をえて右H
から右土地を賃借するに至り、被控訴人が右Hから右土地の所有権を取得した当
時、右賃貸借はHと控訴人Cとの間に有効に存続していたことを認めることができ
るけれども、右賃貸借及び地上建物につき当時登記が存しなかつたことは争がない
から右賃貸借は被控訴人に対し対抗しえないものであること勿論である。控訴人C
は右Hと被控訴人間の本件土地売買が借地権付売買であつたこと、仮に然らずとし
ても被控訴人が右登記の欠缺を主張するにつき正当な利益を有する第三者でないこ
とを理由に、右賃貸借は被控訴人に承継せられたものである旨主張するけれども、
その理由のないことは控訴人Aの主張に対して説示したとおりである。そうすると
控訴人Cは被控訴人が本件(ロ)、(ハ)の土地所有権を取得した日以降同地上家
屋の所有権を控訴人Dに移転した前記日時まで、被控訴人に対抗しうる権原なくし
て(賃借権以外の占有権原については主張がない)同土地の仮換地を占有し、これ
に対する被控訴人の使用収益権を侵害していたものといわなければならない。控訴
人Cは被控訴人の本訴請求が権利の濫用である旨主張するけれども、仮に被控訴人
の控訴人Cに対する右地上家屋の収去、土地明渡の請求が権利の濫用として許され
ないものであつたとしても、右仮換地の使用収益権の侵害に対する損害賠償義務ま
でも免れえないものであることは、控訴人Aの場合と同様であるから、控訴人Cは
被控訴人に対し本件訴状送達の翌日である昭和二七年一〇月九日から、本件(ロ)
(ハ)地上の家屋の所有権を控訴人Dに移転した日の前日である昭和三〇年四月七
日まで、地代相当の損害金を支払うべき義務があるものといわなければならない。
しかして原審鑑定人Jの鑑定の結果によると、右地代相当額は一ケ月につき、一坪
当り昭和二七年一〇月九日当時は金一一円、昭和二八年一〇月九日当時は金一二六
円であつたことを認めることができ、右認定に反する証拠はないから、控訴人Cは
被控訴人に対し、昭和二七年一〇月九日から昭和二八年一〇月八日までは一ヶ月金
二、四〇〇円、同年同月九日から昭和三〇年四月七日までは一ケ月金二、七四九円
の各割合による損害金を支払わなければならない。
 被控訴人は、控訴人Dに対しても控訴人Cと連帯して右期間中の右損害金の支払
を求めるけれども、原審における控訴人C本人尋問の結果と弁論の全趣旨によれば
控訴人Dは右期間中は単に控訴人Cから本件(ロ)(ハ)地上の家屋を賃借して居
住していたに過ぎないものであることが認められ、かつ控訴人Cにおいて被控訴人
に対し家屋を収去して土地の明渡をしょうとしたに拘らず控訴人Dにおいて故らに
右家屋から退去せずこれを妨害する等直接被控訴人の右土地に対する使用収益を妨
げたことを認むるに足る何らの証拠もないから、控訴人Dの右家屋の占有使用と被
控訴人が右土地を使用収益しえなかつたこととの間には相当因果関係を認むること
ができない。従つて控訴人Dに対して右期間中の損害金の支払を求める被控訴人の
請求は理由がない。次に控訴人Dに対する家屋収去、土地明渡ならびに昭和三〇年
四月八日以降の損害金請求の当否について考えて見るに、
 同控訴人が昭和三〇年四月八日以降本件(ロ)(ハ)地上に被控訴人主張の家屋
を所有し、同土地の換地(換地処分前は仮換地)全部を占有していることは前示の
とおりである。
 控訴人Dは、右土地占有の権原として賃借権を有する旨主張し、その取得経過と
して、昭和二六年三月二五日控訴人Cから右地上家屋を買受けると同時に、訴外H
の承諾をえて控訴人Cが有した右土地に対する賃借権の譲渡を受け、被控訴人は右
土地の所有権を借地権付売買により取得することにより右賃貸借関係を承継するに
至つたものである。仮に借地権付売買でなかつたとしても、被控訴人は控訴人Dの
右賃貸借及び地上建物の登記の欠缺を主張するにつき正当な利益を有する第三者で
はないから、控訴人Dの右土地に対する賃借権を否認しえない旨主張するけれど
も、前認定の如く控訴人Dが右地上家屋の所有権を取得した日時は昭和三〇年四月
八日であるから、これに反する事実を前提とする右主張は肯認しえない。
 もつとも証人Nの証言(原審及び当審一、二回)中には、昭和二六年四月頃、右
地上家屋の居住者が控訴人Cから控訴人Dに変つていることを発見したので、控訴
人Dに家屋を売渡したものと考え、その後は控訴人Dを賃借人として扱い、同人か
ら地代を受領していた旨の供述部分があり、また前示丙第一号証(地料領収通帳)
及び同第二号証の一、二(地代預り証)の宛名もいずれも控訴人Dとなつているこ
とが認められるけれども、原審における控訴人C本人尋問の結果と弁論の全趣旨殊
に同控訴人らが「右書面の宛名がDとなつているのは、同人が本件地上家屋に居住
していてCに対する家賃と差引き、地代をCに代つて地主Hに納めていた関係から
であつて他意はない」と主張していた点(前掲昭和二九年七月二七日付証拠説明書
参照)に徴すると、賃貸人H側は、控訴人Dが本件(ロ)(ハ)地上の家屋の所有
者となり、土地の使用者が同人に変つたものと誤認して控訴人Dを賃借人として扱
つていたものに過ぎずして、真実の賃借人は依然控訴人Cであつたことが認められ
る。
 ところで控訴人Cの有した賃借権は被控訴人に対し対抗しえないものであること
は前述のとおりであるから、被控訴人において本件土地の所有権取得後において
は、被控訴人の承諾なき限り控訴人Dにおいて控訴人Cから有効に右賃借権を承継
取得することはできないものであるところかかる承諾のあつたことの主張はないか
ら、控訴人Dが本件(ロ)(ハ)の土地につき賃借権を有する旨の主張は採用する
に由がなく、他に占有権原についての主張はない。
 そうすると控訴人Dは本件(ロ)、(ハ)地上の家屋の所有権を取得した昭和三
〇年四月八日以降、無権原で同地上に右家屋を所有することによつて同土地の仮換
地及び換地を不法に占有し、被控訴人の右仮換地使用収益権及び換地の所有権を侵
害しているものといわなければならないから、被控訴人に対し右地上の家屋を収去
して右換地を明渡すとともに、地代相当の損害金を支払うべき義務があること明ら
かである。
 控訴人Dは、被控訴人の本訴請求をもつて権利の濫用であると主張するけれど
も、仮に被控訴人の控訴人Cに対する家屋収去、土地明渡の請求が控訴人Aに対す
る場合と同様の理由によつて権利の濫用として許されなかつたものであるとして
も、控訴人Dは本件(ロ)(ハ)の土地が被控訴人の所有に帰した後に同地上の家
屋の所有権を取得したものであるから、被控訴人が本件土地を取得した当時賃借権
を有し、たまたまそれが対抗要件を具備しないため被控訴人に対抗しえなかつた控
訴人A、Cとは全く立場を異にするものといわなければならない。従つて控訴人D
については、前示控訴人Aに対する建物収去、土地明渡の請求を権利の濫用と認め
た理由はそのまま通用せず、控訴人Aの特殊事情を除外すると、控訴人D主張の事
由は到底被控訴人の控訴人Dに対する本訴請求をもつて権利の濫用と認めるに足り
ない。
 次に本件(ロ)、(ハ)の土地(仮換地及び換地)の地代相当額は原審及び当審
鑑定人Jの鑑定の結果によると、一ケ月につき、一坪当り昭和三〇年四月当時は、
金一二六円、昭和三〇年一〇月一〇日当時は金二四五円、昭和三一年一〇月一〇日
当時は金二八〇円五〇銭、昭和三二年一〇月一〇日当時は金三一二円四〇銭、昭和
三三年一〇月一〇日当時は金三四五円六〇銭であつたことを認めることができ、右
認定に反する証拠はないから、控訴人Dは被控訴人に対し昭和三〇年四月八日から
本件(ロ)、(ハ)の土地の換地明渡済に至るまで別紙明細表二、(ロ)記載のと
おりの損害金を支払わなければならない。
 被控訴人は控訴人Dに対し、本件(ロ)(ハ)地上の家屋のほか工作物の収去を
も求めているけれども、同地上に如何なる工作物が存在するやを具体的に示さず、
また家屋のほかに工作物が存在することの立証もないから、工作物の収去を求める
請求部分は理由がない。
 五、 以上の理由により被控訴人の控訴人らに対する本訴請求中、控訴人Aに対
し損害金の支払を求める部分、控訴人Cに対する請求の全部、控訴人Dに対し建物
収去、土地明渡ならびに昭和三〇年四月八日以降の損害金の支払を求める部分は、
いずれも正当として認容すべきも、控訴人Aに対し建物等収去、土地明渡を求める
部分、控訴人池島物産及び同Bに対する請求の全部控訴人Dに対し工作物収去なら
びに昭和三〇年四月七日以前の損害金の支払を求める部分はいずれも失当として棄
却すべきものと認める。そうすると原判決は右認定と異る部分につき、一部取消、
一部変更を免れず、結局控訴人らの控訴は控訴人Aについては一部、控訴人池島物
産及び同Bについては全部、控訴人Dについては一部理由あるも、控訴人Cについ
ては請求減縮の結果全部理由なきに帰し、被控訴人の附帯控訴は控訴人A、同Dに
対する分の各一部についてのみ理由があることとなる。
 よつて訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条、第九二条本文、第九三条第
一項本文、仮執行ならびに同免除の宣言につき、同法第一九六条を各適用して主文
のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 岡垣久晃 裁判官 宮川種一郎 裁判官 鈴木弘)
       目    録
 (登記簿上の表示)
 大阪市a区bfg丁目t番地上
 家屋番号
 一、 木造杉皮葺平屋建店舗 一棟、建坪三三坪五合
 (付属建物)
 一、 木造杉皮葺平屋建工場 一棟、建坪六〇坪五合
 一、 木造杉皮葺平屋建居宅 一棟、建坪四坪
 一、 木造杉皮葺平屋建事務所 一棟、建坪四坪
 一、 木造杉皮葺平屋建便所 一棟、建坪一坪五合
 (現 況)
 大阪市a区bc丁目d番地、宅地一六〇坪以上
 一、 木造トタン葺平屋建倉庫、建坪約四〇坪七合六勺
    (北側庇下建坪約三坪一合六勺を含む、登記簿上木造杉皮葺平屋建工場建
坪六〇五合に該当)一棟
 二、 木造トタン葺平屋建倉庫(内事務室使用建坪約一二坪八合八勺)建坪約六
一坪八合
 三、 木造トタン葺片斜面屋根建物、建坪約一六坪七勺 一棟
 四、 木造トタン葺平屋建事務所(事務室、応接室)、建坪約一四坪九合二勺
(南側庇下建坪約三坪九合二勺を含む)一棟
 五、 木造トタン葺平屋建倉庫、建坪約一一坪三合六勺 一棟
 六、 木造トタン葺平屋建倉庫、建坪約一〇坪八合三勺 一棟
<記載内容は末尾1添付><記載内容は末尾2添付>

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なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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