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平成19年(行ケ)第10128号審決取消請求事件
平成19年12月26日判決言渡,平成19年11月28日口頭弁論終結
判決
原告小橋工業株式会社
訴訟代理人弁理士小橋信淳,小原英一,松嶋芳弘
被告松山株式会社
訴訟代理人弁理士樺澤襄,樺澤聡,山田哲也
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2006−80045号事件について平成19年3月5日にした審
決を取り消す。
第2当事者間に争いがない事実
1特許庁における手続の経緯
()原告は,発明の名称を「折り畳み農作業機の駆動方法」とする特許第341
57497号(平成9年4月30日出願,平成15年8月1日設定登録〔以下「本
件特許」という。〕)の特許権者である(甲7)。
()被告は,平成18年3月16日,原告を被請求人として,本件特許を無効2
とすることを求めて審判の請求をし,原告は,同年6月19日付け訂正請求書によ
り明細書及び図面の訂正を請求した。特許庁は,後述のとおり,上記審判請求を無
効2006−80045号事件として審理した上,平成19年3月5日,「訂正を
認める。特許第3457497号の請求項1に係る発明についての特許を無効とす
る。」との審決をした。
2発明の要旨
平成18年6月19日付け訂正請求書による訂正後の明細書(甲10。以下,
訂正後の図面も含めて「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1に記
載された発明(以下,同請求項に記載された発明を「本件発明」という。)の要旨
(下線部が訂正箇所)
【請求項1】トラクタ(T)の後部に3点リンクヒッチ機構を介して農作業機
(1)の長さ方向中央部分(4)を昇降可能に装着し,上記トラクタ(T)から農
作業機の中央部分(4)に動力を伝達すると共に,上記中央部分(4)に対し,該
中央部分(4)から左右両側に延出している作業機部分(5)を,それぞれ中央部
分(4)側に折り畳み可能とした農作業機(1)において,
上記農作業機は,伝動シャフトを内装した本体フレームに支持されたシールド
カバーの後端部に上端部が上下方向に回動自在に枢着されて砕土・代掻きされた土
を受けるエプロンを背面側に備え,
上記農作業機(1)を中央部分(4)と左右の作業機部分(5L,5R)とに3
分割し,この分割した中央部分(4)及び左右の作業機部分(5L,5R)のそれ
ぞれにチェン伝動ケース(9)を設けて作業部を駆動可能とし,
上記中央部分の左右の端部と左右の作業機部分の内端部とをそれぞれ回転支点
によりほぼ180°回転可能に連結し,
上記中央部分(4)と左右の作業機部分(5L,5R)の全部で作業する形態,
上記中央部分(4)に対し左右の作業機部分(5L,5R)を背面重ね合わせに,
上記中央部分のエプロンと上記左右の作業機部分のエプロンとが対面するように折
り畳んで中央部分(4)だけで作業する形態,上記中央部分(4)に対し左右の作
業機部分(5L,5R)の何れかを背面重ね合わせに,上記中央部分のエプロンと
上記左右の作業機部分のエプロンとが対面するように折り畳んで中央部分(4)と
左右の作業機部分(5L,5R)の何れかで作業する形態とに切換えられるように
したことを特徴とする折り畳み農作業機の駆動方法。
3審決の理由
()審決の理由の概要1
審決は,本件発明は,特開平8−191611号公報(甲1。審判甲1),特公
昭57−1号公報(甲2。審判甲2),特開昭62−248408号公報(甲3。
審判甲3),特開昭61−282001号公報(甲4。審判甲4)に記載された発
明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから,本件発明に係る特許は,
特許法29条2項の規定に違反してされたものであり,無効とすべきであるとした
(以下,審決を引用する場合を含めて,上記各公報をそれぞれ,「甲1公報」など
といい,それらの公報に記載された発明をそれぞれ「甲1発明」などという。)。
()審決が認定した甲1発明の要旨(10頁第2段落)2
「トラクタの後部に三点リンク25を介して農作業機の長さ方向中央作業部8を
昇降可能に装着し,上記トラクタから農作業機の中央作業部8に動力を伝達すると
共に,上記中央作業部8に対し,該中央作業部8から左右両側に延出している左右
作業部9,10を,それぞれ中央作業部8側に折り畳み可能とした農作業機におい
て,上記作業機は,第一出力軸63と第二出力軸65を内装した中央フレーム16
と左右フレーム17,18に支持されたロータカバー11の後端部に上端部が上下
方向に回動自在に枢着された均平板13を背面側に備え,上記農作業機を中央作業
部8と左右作業部9,10とに3分割し,この分割した左作業部9の外側端に設け
たチェーンケース77により中央作業部8及び左右の作業部9,10を駆動可能と
し,上記中央作業部8と左右の作業部9,10の内端部とをそれぞれ支持ピン19
により90°以上回転可能に連結した折り畳み農作業機の駆動方法。」
()審決が認定した本件発明と甲1発明の一致点及び相違点(14頁第2段落3
∼15頁第1段落)
ア一致点
「トラクタの後部に3点リンクヒッチ機構を介して農作業機の長さ方向中央部分
を昇降可能に装着し,上記トラクタから農作業機の中央部分に動力を伝達すると共
に,上記中央部分に対し,該中央部分から左右両側に延出している作業機部分を,
それぞれ中央部分側に折り畳み可能とした農作業機において,
上記農作業機は,伝動シャフトを内装した本体フレームに支持されたシールドカ
バーの後端部に上端部が上下方向に回動自在に枢着されて砕土・代掻きされた土を
受けるエプロンを背面側に備え,
上記農作業機を中央部分と左右の作業機部分とに3分割し,
上記中央部分と左右の作業機部分とをそれぞれ回転支点により回転可能に連結し
た折り畳み農作業機の駆動方法。」
イ相違点(〔〕内に示されているのは,引用された公報における用語であ
る。以下同じ。)
(ア)相違点1
「本件発明が『分割した中央部分及び左右の作業機部分のそれぞれにチェン伝動
ケースを設けて作業部を駆動可能と』するものであるのに対し,甲1発明は,分割
した左の作業機部分[左作業部9]に設けたチェン伝動ケース[チェーンケース7
7]によりすべての作業部を駆動するようにした点。」
(イ)相違点2
「中央部分と左右の作業機部分とを回転支点により回転可能に連結した構成に関
して,本件発明が『中央部分の左右の端部と左右の作業機部分の内端部とをそれぞ
れ回転支点によりほぼ180°回転可能に連結』したものであるのに対し,甲1発
明は,中央部分[中央作業部8]と左右の作業機部分[左右作業部9,10]とを
それぞれ回転支点[支持ピン19]により90°以上回転可能に連結したものであ
る点。」
(ウ)相違点3
「本件発明が『上記中央部分と左右の作業機部分の全部で作業する形態,上記中
央部分に対し左右の作業機部分を背面重ね合わせに,上記中央部分のエプロンと上
記左右の作業機部分のエプロンとが対面するように折り畳んで中央部分だけで作業
する形態,上記中央部分に対し左右の作業機部分の何れかを背面重ね合わせに,上
記中央部分のエプロンと上記左右の作業機部分のエプロンとが対面するように折り
畳んで中央部分と左右の作業機部分の何れかで作業する形態とに切換えられるよう
にした』のに対し,甲1発明は,このような3つの作業する形態に切換えることを
可能としたものではない点。」
()本件発明についての審決の判断の要旨4
ア相違点1についての判断の要旨(15頁第3段落∼第4段落)
(ア)「甲3公報には,甲1発明と同様の折り畳み農作業機[ロータリ耕耘
装置]において,分割した中央部分[中央部耕耘機構19]及び左右の作業機部分
[左右一対の側部耕耘機構20,21]のそれぞれにチェン伝動ケース[伝動ケー
ス25,36,36]を設けて作業部を駆動するようにしたことが記載されてい
る。」
(イ)「そうすると,甲1発明の分割した中央部分及び左右の作業機部分を
駆動する構成として,甲3公報に記載のものを適用して,分割した中央部分及び左
右の作業機部分のそれぞれにチェン伝動ケースを設けて作業部を駆動するものと構
成することは,当業者が容易に想到し得た設計的事項であるといえる。」
イ相違点2についての判断の要旨(15頁第5段落∼16頁第2段落)
(ア)「甲2公報には,甲1発明と同様の折り畳み農作業機[ロータリ耕耘
装置]において,中央部分[主ロータリ耕耘装置1]の右側端部とこれより右側に
延設した作業機部分[延長ロータリ耕耘装置15]の内端部とを回転支点[枢支軸
24]として,ほぼ180°回転可能に連結した構成を採用したものが記載されて
いる。そうすると,甲1発明の中央部分と左右の作業機部分とを回転支点により回
転可能に連結した構成に代えて,甲2公報に記載された上記構成を適用して,中央
部分の右の端部と右の作業機部分の内端部とを回転支点によりほぼ180°回転可
能に連結するとともに,これと同様に,中央部分の左の端部と左の作業機部分の内
端部とを回転支点によりほぼ180°回転可能に連結するように構成することは,
当業者が容易に想到し得た設計上の変更であるといえる。」
(イ)「なお,被請求人(判決注:原告)は,答弁書9頁11行∼10頁2
5行において,甲1公報に記載のものは,支持ピン19を跨いで中央フレーム16
と左右フレーム17,18間に油圧シリンダ30,31を介在させて折り畳みを行
うから左右フレーム17,18を180°回転させる折り畳みが構造上不可能なも
のであり,また,支持ピン9の位置を中央作業部8の両端より中央寄りにすること
が必要不可欠であるから,甲2公報に記載された枢支軸24のように,支持ピン1
9の位置を中央作業部8の両端に位置することに対して技術的な阻害要因があると
言え,甲1公報と甲2公報との組み合わせを考える上で,甲1公報の「支持ピン1
9」の位置を甲2公報の「枢支軸24」と同様にすることは,技術的な内容を無視
した適用であって当業者の技術常識からは想起できない旨,主張する。確かに,被
請求人が主張するように,甲1公報の実施例には,支持ピン19を跨いで中央フレ
ーム16と左右フレーム17,18間に油圧シリンダ30,31を介在させて折り
畳みを行ない,その支持ピン9の位置を中央作業部8の両端より中央寄りに設置し
たものが記載されているものの,当該甲1公報には,中央部分[中央作業部8]と
左右の作業機部分[左右作業部9,10]とをそれぞれ回転支点により90°以上
回転可能に連結したという上位概念の発明も,当業者が把握できるものとして記載
されているということができる。そして,甲1公報の【図11】や段落【000
2】∼【0005】に,従来の技術として挙げられているように,(油圧シリンダ
を使うことなく手動により)中央部分の左右の端部と左右の作業機部分の内端部と
をそれぞれ回転支点により回転可能に連結する態様も,従来より周知の技術であっ
たといえるのであるから,上述した上位概念の発明であるところの甲1発明の連結
態様として,従来より周知の連結態様と同様の甲2公報に記載の連結態様を採用す
ることも,当業者が容易に想到し得た設計的事項であるといわざるを得ない。」
ウ相違点3についての判断の要旨(16頁第3段落∼18頁第5段落)
(ア)「本件発明の『中央部分に対し左右の作業機部分を背面重ね合わせに,
中央部分のエプロンと左右の作業機部分のエプロンとが対面するように折り畳』む
とした点は,特許請求の範囲の記載事項からは,その技術的意義が必ずしも明確で
はない。そこで,本件特許明細書の記載を参照すると,本件特許明細書の段落【0
009】に『…中央部分4の左右の端部と左右の作業機部分5L,5Rの内端部と
をそれぞれ回転軸(回転支点)6,6によりほぼ180°回転可能に連結し,上記
中央部分4の背面4aと左右の作業機部分5L,5Rの背面5La,5Raとを重
ね合わせるようにして折り畳み可能としている。…』との記載が,また,段落【0
011】に『…砕土・代掻ロ−タ13の上方は,本体フレームに支持されたシール
ドカバー15により覆われており,このシールドカバー15の後端部に,後端位置
にレベラー17を枢支したエプロン16の上端部が上下方向に回動自在に枢着され
ている。レベラー17の折り畳み対向部分は,上記回転軸6の軸心とほぼ等しい軸
心で回動するヒンジ18により連結されている。また,レベラー17は,土壌を均
平する均平位置と土壌を掻き寄せる土寄せ位置とに変位可能である。』との記載が
あるとともに,『代掻ハローを折り畳んだ状態の概略側面図』である図面の図3を
見ると,その左上方から右下に向かって傾斜させて配置した態様の『回転軸6』が
示されている。また,被請求人は,答弁書によれば,『…中央部分の背面側空間を
効果的に活用してコンパクトな折り畳み状態が可能になる。これによると,下記参
考図に示すように,折り畳み状態での農作業機後方のオーバハングHを抑えること
ができ,折り畳み状態での農作業機の機高V1を抑えることができるので,折り畳
み状態での作業を安定化させることができると共に,折り畳み状態での後方視界を
確保して,砕土・代掻きの仕上がり状態を確認しなが作業することができる。また,
畦際作業も視認し易く容易に行うことができる。』(3頁下3行∼4頁5行)と主
張するとともに,その4頁に『〈参考図〉』として,上記図3と同様の回転支点を
傾斜させて配置した態様のものを提示している。
以上のことからすると,本件発明の上記した点の技術的意義は,中央部分の左
右の端部と左右の作業機部分の内端部とをそれぞれ回転可能にする回転支点の配置
態様を,前後方向で前方が高くなるように傾斜させて配置した構成とすることによ
り,中央部分の背面と左右の作業機部分の背面とを重ね合わせるようにすることで
上記中央部分のエプロンと上記左右の作業機部分のエプロンとが対面するように折
り畳み可能となることを意味するものと解することができる。」
(イ)「ところで,甲1公報には,その段落【0012】に『…支軸ピン1
9は平面視で進行方向に延び,且つ前方が高くなるように僅かに傾斜している。
…』(3欄31∼32行)との記載があるとともに,【従来の技術】として,段落
【0002】に『例えば実開平1−163907号公報のものは,左右に延びた作
業機を本体フレームに設けた垂直な或いは傾斜した連結ピン回りに回動させること
で機幅を実質的に縮小させ,路上走行や格納の便宜を図るようになっている。』
(1欄22∼26行)(実願昭63−53924号(実開平1−163907号)
のマイクロフィルムの明細書22頁4∼17行参照)との記載が,また,同上段落
【0002】に『特開昭61−282001号公報に開示された耕耘装置は,図1
1に示すように,トラクター101の後部に連結した中央耕耘装置102と,その
両側に設けた側部耕耘装置103,104とで構成されており,必要に応じて水平
方向の軸105,106回りに回動されるようになっている。』(1欄26∼3
1行)との記載があるように,その回転軸ないし回転支点の配置態様を,垂直,傾
斜,水平の何れかの配置態様のものとして構成することは,いずれも従来より周知
の技術であったといえる。さらに,甲1公報の段落【0003】に『ただしこれら
従来の農作業機においては,相当の重量を有した左右の作業機を展開することで,
重心が上方或いは後方に大きく移動し,折り畳み姿勢における操縦性及び安定性が
低下するという問題があった。』(1欄32∼35行)との記載がある。
してみると,上記相違点1で説示したところの設計上の変更をするに際して,そ
の回転支点の配置態様を,前後方向で前方が高くなるように傾斜させて配置した構
成のものと設定することは,折り畳み状態の重心位置や前後方向の突出具合等を適
宜考慮して,当業者が適宜選択し得た設計的事項であるといえる。」
(ウ)「次に,本件発明が,上記3つの作業形態に切換えられるようにした点
について検討する。上記『(相違点1について)』で説示したように,甲3公報に
は,甲1発明と同様の折り畳み農作業機[ロータリ耕耘装置]において,分割した
中央部分[中央部耕耘機構19]及び左右の作業機部分[左右一対の側部耕耘機構
20,21]のそれぞれにチェン伝動ケース[伝動ケース25,36,36]を設
けて作業部を駆動するようにしたことが記載されているとともに,耕耘作業時にお
いて,当該左右の作業機部分をそれぞれ耕耘作業を行なう水平姿勢とするか又は耕
耘作業を行わない傾斜姿勢とするかにより,耕耘幅を変更することを可能としたこ
とが,併せて記載されている(・・・)。また,甲2公報には,一方の側部に延出
している作業機部分を折り畳んだ状態として中央部分のみで作業する状態と延出し
ている作業機部分を延出した状態として中央部分とともに作業する状態との何れに
おいても作業する形態となるように切換えられるようにしたことが記載されている
(・・・)。
そうすると,甲1発明のように左右の作業機部分とを備える農作業機において,
(上記相違点1で説示したところの甲3公報に記載のものを適用するに際して)そ
の作業する形態として相違点3に係る本件発明の3つの作業する形態が切換え可能
なものと設定することは,当業者であれば適宜選択し採用し得た設計的事項である
といわざるを得ない。
(ちなみに,上記甲4公報には,作業機の中央部分[中央耕耘装置3]と左右の
作業機部分[側部耕耘装置6,6]とを備える折り畳みの作業機において,作業機
の中央部分と左右の作業機部分の全部で作業する形態だけでなく,作業機の中央部
分に対し左右の作業機部分の何れかを折り畳んで作業機の中央部分と左右の作業機
部分の何れかで作業する形態にも切換えられるようにしたことが記載されている
(・・・)」
エ効果についての判断及びまとめ(18頁第6段落∼第7段落)
(ア)「そして,本件発明の奏する効果も,甲1公報∼甲4公報記載の事項
から当業者が予測できるものであって,格別なものということができない。」
(イ)「したがって,本件発明は,甲1公報∼甲4公報記載の発明に基いて
当業者が容易に発明できたものである。」
第3原告主張の審決取消事由
審決は,相違点についての認定判断を誤り(取消事由1ないし6),その結果,
本件発明は,当業者が容易に発明をすることができるとの誤った結論に至ったもの
であり,違法であるから,取り消されるべきである。
1取消事由1(相違点1についての認定判断の誤り)
()審決は,相違点1についての判断に当たり,甲3公報に甲1発明と同様の1
「折り畳み農作業機」が記載されていると認定した(上記第2の3()ア(ア))が,4
誤りである。
甲3発明は,中央部耕耘機構19(本件発明の中央部分に相当)の左右両端部と,
左右一対の側部耕耘機構20,21(本件発明の左右の作業機部分に相当)の内側
端部とが,「球継手40」を介して連結されていて,左右一対の側部耕耘機構20,
21は,中央部耕耘機構19に対して,「水平姿勢」と「傾斜姿勢」とに姿勢変更
可能に構成されているものであり,甲3発明の伝動機構は,油圧シリンダー41の
ストロークを考慮すれば,傾斜角度がせいぜい45°にも満たない傾斜姿勢が限度
で,この場合でも,耕耘部51,52は,中央作業機3の外側に大きく張りだした
ままで,決して,機構的にも折り畳まれた状態にはならない。「折り畳む」という
用語は,「折って重ね合わせ,小さくする。」という意味であり,甲3発明の側部
耕耘機構は,折って重ね合わせ,小さくするという意味での「折り畳み農作業機」
ではない。
()審決は,甲1発明の農作業機の作業部の駆動機構を甲3発明の駆動機構に2
することは,当業者が容易に想到し得た設計的事項であるとする(上記第2の3
()ア(イ))が,誤りである。4
本件発明は,作業巾が変わることにより,圃場の形状等に合わせて,4つの作業
形態を選択することができ,作業範囲を拡大できるとともに,作業機の機巾が変わ
ることにより,特殊な形状の圃場へも出入りすることができるという効果を奏する。
そして,本件発明は,折り畳み構成として,農作業機を中央部分と左右の作業機部
分とに3分割した構成とし,分割した中央部分(4)と左右の作業機部分(5L,5
R)のそれぞれにチェーン伝動ケース(9)を設けて各作業部を単独に駆動可能とし,
中央部分(4)と左右の端部と左右の作業機部分(5L,5R)の内端部とを回転支点
によりほぼ180°回転可能に連結し,左右の作業機部分(5L,5R)を,180
°回転させて折り畳んだ際に,中央部分4に対し,左右の作業機部分5L,5Rが
「背面重ね合わせ」の状態になり,中央部分4のエプロンと左右の作業機部分5L,
5Rのエプロンとが互いに「対面」するように折り込まれ,中央部分4の背面側に
折り返すように反転して,中央部分4の背面側の空いたスペースに位置させた状態
で互いに平行になるように折り畳まれるから,農作業機の背面側の空いたスペース
を利用することで,従来の甲1発明,甲2発明に比較して低い位置で,左右の作業
機部分と中央の作業機部分とが横向きに平行する状態に折り畳まれる。また,その
折り畳み動作は,農作業機の背面側領域において行われるから,中央部分4の上方
個所に突出して配置される「変速ギャボックス3」や,前方個所に存在する「トラ
クタへの連結部2」等の部材が折り畳み動作に干渉する不都合がなくなって,左右
の作業機部分5L,5Rを,両者同時に,また,各別に,中央部分4の背面側にお
いて横向きにほぼ180°回転させるコンパクトな農作業機の折り畳み方法を提供
することができる。
甲1公報には,上記のように機巾,作業巾を変える本件発明と異なり,機巾を変
える農作業機だけが記載され,作業巾を変える旨の記載もその示唆もないから,甲
1発明において,作業巾を変えるため,分割した中央作業部8と左右の作業部9,
10とを各別に駆動する必要性は全く予測し得ない。そして,甲3発明には,作業
巾を変更する構成はあるが,機巾を変更するという技術思想が全くない。甲1発明
と作業巾を変更するだけの甲3発明に課題や作用効果の共通性はなく,それらの技
術を結び付ける動機付けは何もないから,甲1発明の農作業機に対して,作業巾を
変えるために甲3公報の構成を用いることに想到することはできない。
しかも,甲1発明の作業部の駆動伝達は,すべて左作業部9の左端のチェーンケ
ース77から伝動されていて,左作業部9を跳ね上げると,中央作業部8及び右作
業部10は駆動できない構造であり,仮に,作業巾を変えて作業しようにも,本件
発明の4つの作業形態をとることは不可能である。また,仮に,甲1発明の農作業
機において,作業巾を変えて作業し得るように支軸ピン19を支点にして左右作業
部9,10を中央作業部8の上に折り畳んだ状態にすると,第一クラッチ機構66
を介して,第一出力軸63から第二出力軸65に至る動力伝達が遮断されることで,
左作業軸6b,中央作業軸6a,右作業軸6cは共に非駆動の状態になるから,分
割した中央作業部8及び左右作業部9,10のそれぞれにチエーン伝動ケースを設
けて各作業部を駆動する構成にすること自体,不可能である。甲1発明の前提技術
は,「残耕のない完全な作業を達成するために,動力伝達機構を機体の一側端にの
み設けた」というものであり,この目的のための特徴的な構成も無視して,甲1発
明の農作業機に,甲3発明の開示技術を適用することは考えられない。
2取消事由2(相違点2についての認定判断の誤り1)
審決は,相違点2において,本件発明が「中央部分の左右の端部と左右の作業機
部分の内端部とをそれぞれ回転支点によりほぼ180°回転可能に連結」したもの
であるとした(前記第2の3()イ(イ))が,同構成は,本件発明の構成の一部では3
あるものの,本件発明は同構成を有するとともに,回転の際には,上記中央部分
(4)に対し上記左右の作業機部分(5L,5R)を背面を重ね合わせに,上記中央部
分のエプロンと上記左右の作業機部分のエプロンとが対面するように折り畳んだ状
態になることが,必須で密接不可分の構成であって,この構成によって,「第1作
業形態∼第4作業形態」の構成が可能となり,かつ,左右の作業機部分の低い位置
での収納が可能となって圃場での農作業機の運転操作が安定するものである。
容易想到性判断において,密接不可分な構成を細分化し独立させて相違点とする
ことは誤りであり,仮に,分節した個々構成が公知の機構であった場合でも,これ
ら公知の構成を組み合わせた密接不可分な構成全体の容易性を論じなければ,当該
発明を正当に理解して,認定判断したことにはならない。
本件では,「ほぼ180°回転可能に連結した」という極めて限定した部分的機
構だけを抽出して,相違点2として単独に容易性を検討しても無意味であるから,
不適切な抽出操作による相違点2の認定は誤りである。
3取消事由3(相違点2についての認定判断の誤り2)
()審決は,甲1発明の構成に代えて,相違点2に係る本件発明の構成とする1
ことは当業者が容易に想到し得た設計上の変更であるとした(前記第2の3()イ4
(ア))が,論理の飛躍があり誤りである。
()審決は,本件発明の左右の作業機部分の中央部分への折り畳み構成につい2
て,「回転支点によりほぼ180°回転可能に連結し」という,回転角度の構成の
みを着目しているが,相違点に係る構成の容易想到性判断において,「中央部分
(4)に対し左右の作業機部分(5L,5R)を背面重ね合わせに,上記中央部分
のエプロンと上記左右の作業機部分のエプロンとが対面するように折り畳」む構成
とを一体の構成として合わせて検討しなければ,機巾と作業巾を変更し安定的な操
作が求められる農作業機に関する本件発明を正確に把握したことにはならない。
甲1発明は,中央部分と左右の作業機部分[左右作業部9,10]をそれぞれ回
転支点[支持ピン19]により90°以上回転可能に連結してはいるものの,ほぼ
90°近くに折り立て状態にするものであり,180°折り畳んで水平とし,さら
に,背面に備えるエプロンとが「対面する」ように折り畳んで,充分に重心が低い
位置に収納することができる本件発明のものとは全く異なる。
この点について,審決は,甲1公報には,「中央部分[中央作業部8]と左右の
作業機部分[左右作業部9,10]とをそれぞれ回転支点により90°以上回転可
能に連結したという上位概念の発明も,当業者が把握できるものとして記載されて
いるということができる。」(前記第2の3()イ(イ))とするが,甲1発明の「94
0°以上回転可能」とは,重心を低くすることよりは,機体の横幅の縮小を目的と
して左右作業部をほぼ90°に近い折り立て状態に収納したのであって,「90°
以上」とは,左右の作業機部分が中央でぶつからない範囲で,できるだけ機体の横
巾を縮小できる角度であることを意味するものであり,審決のように「上位概念」
で同じであると把握できるものではなく,審決の認定は,甲1発明の「90°以上
回転可能」の技術的意味を自然に解釈するのではなく,本件発明に適用するために
無理に曲解している。
したがって,甲1発明と甲2発明の作業機の回転状態に関して同じ上位概念で把
握できるとの誤った認識を根拠にして,甲1発明の連結態様として,甲2公報に記
載の連結態様を採用することも,当業者が容易に想到し得た設計的事項であるとし
た審決の判断は誤りである。
また,甲1公報にも,作業機部分の重心を低くした方が良いであろうことを認識
していたことが記載されているにもかかわらず,甲1発明は機体の上方に左右作業
部をハの字状(ほぼ90°)に折り立てていて,これは,本件発明のような,回転
支点によりほぼ180°回転可能に連結する構成を単純には採用できない阻害要因
たる技術上の問題があったことによる。
しかも,甲2発明は,本件発明とは具体的構成が異なり,本件発明の中央部分
(4)に相当する[主ロータリ耕転装置1]の真上に,[延長ロータリ耕転装置1
5]を単純に180°反転させただけであり,これでは作業機部分[延長ロータリ
耕転装置15]が真上に移動して,重心も高くなり不安定になり,操作性も良くな
いし,本件発明のようにエプロンを装着したままの上方への移動となると,重心も
より高くなり不安定になる。
()相違点2についての審決の認定判断を是認したとしても,相違点2と相違3
点3の構成を結合した構成についての検討,すなわち,少なくとも「特許請求の範
囲」の記載で特定されている左右の作業機部分を展開した位置から「回転支点」に
より「180°回転させて中央部分の背面側に折り畳んだ際」,中央部分の背面と
左右の作業機部分の背面とを「重ね合わせる」ようにすること,中央部分の背面に
備えるエプロンと,左右の作業機部分の背面に備えるエプロンとが「対面する」よ
うに折り畳む構成についての容易性の認定判断がされていないから,審決の認定判
断は誤りである。
4取消事由4(相違点3についての認定判断の誤り1)
()審決は,相違点3についての判断をするに当たり,本件発明について,1
「背面の重ね合わせ・エプロンの対面」という構成の技術的意義が,①回転支点の
配置態様を,前方が高くなるように傾斜させて配置した構成とすることにより,②
中央部分の背面と左右の作業機部分の背面とを重ね合わせにすることで,③中央部
分のエプロンと上記左右の作業機部分のエプロンとが対面するように折り畳み可能
となること意味するものとした(前記第2の3()ウ(ア))が,誤りである。4
()「回転支点」については,①の構成だけで,②,③のような折り畳み状態2
が可能となるものではない。
相違点2における,「回転支点によりほぼ180°回転可能に連結し」た構成と,
①の「回転支点」を傾斜させた構成とは,密接不可分の構成であり,更に,「回転
支点」に関しては,軸の位置,軸の傾斜方向,軸の傾斜角度を規定しなけれ
ばならず,①の構成だけで,②,③の状態に折り込まれことが可能になるものでは
ない。すなわち,両作業機のエプロン同士を互いに「対面する形態」に具体化する
には,「回転支点」が配置されている位置,「回転支点」の軸の傾斜方向,
「回転支点」の軸の傾斜角度等を総合的に設定する必要がある。そして,両作業機
の背面を重ね合わせ,中央部分のエプロンと左右の作業機部分のエプロンとが対面
するように折り畳みがなされることによって,本件発明では,間接的に,の要
件が特定されている。
したがって,審決が,「背面の重ね合わせ・エプロンの対面」という構成の技術
的意義について,「回転支点」に関連する,の要件を考慮しないで,の要件
として挙げた「回転支点」の軸の傾斜方向のみに着目したことは,誤りである。
5取消事由5(相違点3についての認定判断の誤り2)
()審決は,相違点1で説示したところの設計上の変更をするに際して,その1
回転支点の配置態様を,前後方向で前方が高くなるように傾斜させて配置した構成
のものと設定することは,当業者が適宜選択し得た設計的事項であるとした(前記
第2の3()ウ(イ))が,誤りである。4
()審決は,本件発明の上記4()の,の要件を看過し,の要件である22
「回転支点」の軸方向傾斜だけに着目し,また,②中央部分の背面と左右の作業機
部分の背面とを「重ね合わせる」ようにして③中央部分の背面に備えるエプロンと,
左右の作業機部分の背面に備えるエプロンとが「対面する」ように折り畳む構成だ
けでなく,中央部分の左右の端部と左右の作業機部分の内端部とをそれぞれ回転支
点によりほぼ180°回転可能に連結した構成とを一体として検討しなければ,本
件発明を正しく理解したことにはならないにもかかわらず,必須で密接不可分な折
り畳みに関する構成を無理に分割して相違点2として抽出して,相違点についての
容易想到性判断を行った。
本件発明は,上記構成を備えることで,折り畳み状態での農作業機後方のオーバ
ハングを抑えることができ,折り畳み状態での農作業機の機高を抑えることができ
て,折り畳み状態での作業を安定化させることができるとともに,折り畳み状態で
の後方視界を確保して,砕土・代掻きの仕上がり状態を確認しながら作業すること
ができ,畦際作業も視認し易く容易に行うことができる。これに対し,甲1発明の
「回転支点」の軸が傾斜しているだけでは,甲1公報の図2に示されるように,約
100°程度に折り立てるだけであり,運搬や移動に適用できても,農作業を行う
には重心が高くなるので,農作業時の操作性や運転性が悪くなる。
()甲1公報に,左右の作業機について回転支点の配置態様を垂直,傾斜,水3
平にすることや,重心が折り畳み姿勢における操縦性及び安定性に影響することが
記載されているとしても,甲1発明の発明者は,それを認識してもなお,左右作業
機をハの字状に折り立てることにとどまり,本件発明のように,操縦性及び安定性
が向上するにもかかわらず,操作レバー52を避ける等の阻害要因を排除して左右
の作業機を180°回転させて折り畳むようにすることまでは想到しなかったので
ある。本件発明のように,180°回転させてエプロンとが対面するよう折り畳む
ように設計することは,当業者といえども思い至らなかったものであり,審決の容
易想到性判断は誤りである。
6取消事由6(相違点3についての認定判断の誤り3)
()審決は,本件発明が3つの作業形態に切り換えられるようにした点につい1
て,甲1発明に甲3発明を適用するに際して,本件発明の3つの作業する形態が切
り換え可能なものと設定することは当業者であれば適宜選択し採用し得た設計的事
項であるとし(前記第2の3()ウ(ウ)),また,甲4公報にも,作業する形態が切4
り換えられる農作業機が記載されているとした(同)が,誤りである。
()甲3発明のロータリ耕耘装置の左右の耕耘機構21は,耕耘幅を変更する2
場合に左右の耕耘機構21を持ち上げて耕地から離した傾斜姿勢を取るだけであっ
て,通常の移動に際しては,機巾を短縮するものではない。すなわち,甲3公報に
は,作業巾を変えることは開示されているが,本件発明のように機巾と作業巾との
両方を変えることができるものではなく,折り畳める構成ではないのであるから,
審決が,3つの作業する形態が切換え可能なものと設定することは,当業者であれ
ば適宜選択し採用し得た設計的事項であるとした点に根拠はない。
()審決が,甲1発明に,相違点1で説示したところの甲3発明のものを適用3
するに際して,その作業する形態として相違点3に係る本件発明の3つの作業する
形態が切換え可能なものと設定することは,当業者であれば適宜選択し採用し得た
とした(前記第2の3()ウ(ウ))のは,取消事由1についての誤った認定判断を前4
提としているものであり,誤りである。
主引用例である甲1発明は,作業巾を変えることは全く意図しておらず,仮に,
作業巾を変えようとしても,作業部の駆動はすべて左作業部9の左端のチェーンケ
ース77から伝動されていることから,左作業部9を跳ね上げると,中央作業部8
及び右作業部10は駆動できない構造であり,「第2作業形態」と「第3作業形
態」を構成することは不可能であって,作業巾の変更する構成をも兼ね備えるよう
に設計変更することは予測できるものではないし,まして,甲1発明の農業機械を
3(4)つの作業する形態に切換え可能な構成とし,これらを切り換え可能なものと
設定することは困難である。また,甲1発明は,「残耕のない完全な作業を遂行す
る」(甲1公報の10欄34行)ために,動力伝達機構を機体の一側端にのみ設けた
のであって,この目的のための特徴的な構成を無視して,甲1発明の農作業機に,
甲3発明の開示技術を適用することは考えられない。
甲2発明のロータリ耕耘装置は,背面重ね合わせに中央部分のエプロンと左右の
作業機部分のエプロンとが対面するように折り畳み,本件発明のように農作業機の
背面側の空いたスペースを利用することで,操作性や安定性を向上させたものでは
ないし,甲2発明のものは,主ロータリ耕耘装置1と右側の延長ロータリ耕耘装置
15だけであり,中央部分といった概念が存在しない。また,延長ロータリ耕耘装
置15を主ロータリ耕耘装置1の左側に設けようとしても,チェーンケース5が配
備されていることから,何らかの工夫を施さない限り直ちには設けることはできず,
本件発明のような「第1作業形態」ないし「第4作業形態」を構成することは不可
能である。
甲4発明のものは,浅く耕耘する側部耕耘装置6を両側に設けて,同じ箇所を重
複して耕耘する二段耕耘形態のためのものであり,本件発明のような「第1作業形
態∼第4作業形態」を意図したものではなく,側部耕耘装置6が中央耕耘装置3よ
りも外側に突出しているもので,機巾を短縮するものではない。甲4公報には,作
業形態を切り換えることが記載されてはいるが,それは特殊な二段耕耘形態のため
のもので,側部耕耘装置6の折り畳みもほぼ90°折り立てており,重心が上位に
あるばかりでなく,耕耘装置の左右両側には側部耕耘装置6を跳ね上げただけで側
部耕耘装置6が邪魔になり,特殊な形状の圃場へも出入りすることができない。
したがって,甲1発明は,単に機巾の変更ができるだけであるところ,甲1発明
に存在しない相違点3に係る本件発明の構成について,甲3発明は,機巾を全く考
慮していないものであり,甲1公報と課題・作用・効果の共通性がないのであるか
ら,これらを組み合わせることに困難性があり,甲2発明は本件発明とは構成・作
用が異なり,甲4発明も構成・用途が全く異なるものであり,これらを甲1発明と
組み合わせても本件発明の構成にはならない。
第4被告の反論
1取消事由1(相違点1についての認定判断の誤り)に対して
()原告は,甲3公報には,「折り畳み農作業機」が記載されていないこと,1
甲1発明と甲3発明を結びつけることができない旨主張するが,失当である。
()甲3発明の農作業機は,中央部分(中央部耕耘機構19)の端部と左右の2
作業機部分(側部耕耘機構20,21)の端部とが回転可能に連結され,その回転
により中央部分に対して作業機部分を折り畳むことが可能であるため,折り畳み角
度は小さいが,「折り畳み農作業機」である。
また,甲1発明の農作業機と甲3発明の農作業機とは,トラクタに昇降可能に装
着される中央部分とこの中央部分に回転支点を中心として回転可能に設けられた作
業機部分とを備えこれら中央部分及び作業機部分がそれぞれ有する作業部を駆動し
て農作業をする点において,基本的な作用,機能が共通するとともに,同一の技術
分野に属するものであるため,これらを結び付ける動機付けがある。
そうすると,甲1発明の農作業機において,作業巾を変更できるようにするに際
し,分割した中央部分及び左右の作業機部分を駆動する構成として,甲3発明の構
成を適用して,分割した中央部分及び左右の作業機部分のそれぞれにチェーン伝動
ケースを設けて作業部を駆動する構成にすることは,当業者が容易に想到し得た設
計的事項である。
()甲1発明の農作業機が機巾を変えるだけのものであり,甲3発明の農作業3
機が作業巾を変えるだけのものであるとしても,そのことは,甲1発明に甲3発明
を適用することの阻害要因になるものではない。
原告は,「機巾」及び「作業巾」という言葉を使って本件発明の作用効果を議
論するが,そのような議論に意味はなく,本件発明の「特殊な形状の圃場へも出入
りすることができ,作業範囲を拡大することができる。」という作用効果は,中央
部分に対して作業機部分を背面重ね合わせに折り畳んだ状態で作業ができるという
本件発明の構成に基づくものである。
2取消事由2(相違点2についての認定判断の誤り1)に対して
原告は,「ほぼ180°回転可能に連結した」との構成だけを抽出して,相違点
2として単独に容易性を検討することが,誤りである旨主張するが,相違点を分説
して判断することは一般的な手法であり,失当である。なお,仮に相違点2と相違
点3とを合わせて1つの相違点にしたとしても,審決の結論に何ら影響がないこと
は明らかである。
3取消事由3(相違点2についての認定判断の誤り2)に対して
原告は,審決は,本件発明の左右の作業機部分の中央部分への折り畳み構成につ
いて,「回転支点によりほぼ180°回転可能に連結し」という回転角度の構成に
のみ着目しているが,この構成は,「背面の重ね合わせ・エプロンの対面」という
構成と一体の構成として検討しなければ本件発明を正確に把握したことにならない
などと種々主張するが,いずれも合理的な根拠がない。
4取消事由4(相違点3についての認定判断の誤り1)に対して
原告は,「回転支点」について,「回転支点」の軸の傾斜方向だけでなく,
「回転支点」が配置されている位置,「回転支点」の軸の傾斜角度等を総合的に
設定する必要があるにもかかわらず,これを看過したとして,種々主張するが,原
告独自の見解である。
本件発明の「背面の重ね合わせ・エプロンの対面」という構成の技術的意義は,
回転支点の配置態様を前後方向で前方が高くなるように傾斜させて配置した構成と
することにより,中央部分の背面と左右の作業機部分の背面とを重ね合わせるよう
にすることで中央部分のエプロンと左右の作業機部分のエプロンとが対面するよう
に折り畳み可能となることを意味するものと解され,審決の認定に誤りはない。
また,「回転支点」が配置されている位置及び「回転支点」の軸の傾斜角度につ
いての原告主張は,本件発明の特許請求の範囲の記載に基づかないものであり,失
当である。
5取消事由5(相違点3についての認定判断の誤り2)に対して
原告は,審決が,「回転支点」の軸方向傾斜だけに着目したこと,また,必須で
密接不可分な折り畳みに関する構成を無理に分割して相違点2として抽出したこと
から,相違点3についての認定判断を誤った旨主張するが,いずれも合理的な根拠
がない。
相違点1で説示したところの設計上の変更をするに際して,その回転支点の配置
態様を前後方向で前方が高くなるように傾斜させて配置した構成のものと設定する
ことは,折り畳み状態の重心位置や前後方向の突出具合等を適宜考慮して,当業者
が適宜選択し得た設計的事項である。
6取消事由6(相違点3についての認定判断の誤り3)に対して
()原告は,審決が,本件発明が3つの作業形態を切り換えられるようにした1
点について設計的事項としたのに対し,審決が引用した発明が本件発明と構成等が
異なるとして,審決の判断が誤りである旨主張するが,失当である。
()甲1発明,甲2発明,甲3発明及び甲4発明の各農作業機は,トラクタに2
昇降可能に装着される中央部分とこの中央部分に回転支点を中心として回転可能に
設けられた作業機部分とを備えこれら中央部分及び作業機部分がそれぞれ有する作
業部を駆動して農作業をする点で,基本的な作用,機能が共通するとともに,同一
の技術分野に属するものであるため,これらの発明を結び付ける動機付けがある。
そうすると,甲1発明のように左右の作業機部分を備える農作業機において,相
違点1で説示したところの甲3発明のものを適用するに際し,甲2発明ないし甲4
発明の構成を適用して,相違点3に係る本件発明の3つの作業する形態が切換え可
能なものにすることは,当業者であれば適宜選択し採用し得た設計的事項である。
また,甲1発明に,甲2発明ないし甲4発明の構成を適用することの阻害要因も
見当たらない。
第5当裁判所の判断
1取消事由1(相違点1についての認定判断の誤り)について
()審決は,相違点1についての判断に当たり,甲3公報に甲1発明と同様の1
「折り畳み農作業機」が記載されていると認定した(上記第2の3()ア(ア))のに4
対し,原告は,甲3公報に記載されている農作業機は,「折り畳み農作業機」でな
い旨主張する。
確かに,「折り畳む」とは,「折って重ね合せ,小さくする。」(広辞苑第4
版)などとされるところ,甲3発明は,中央部分に対して,左右の作業機部分を折
ることができるものではあるが,甲3公報の第3図に示されているのは,折った状
態でも左右の耕耘部が外側に大きく張り出したものであって,作業機の巾を小さく
するために,左右の耕耘部を重ね合わせるという構成が甲3公報に記載されている
とまではいえない。したがって,甲3発明の農作業機が作業機部分を折ったとして
も,作業機の巾が小さくなるとは限らず,甲3発明について,「折り畳み農作業
機」であると表現することは,必ずしも適切でないともいえる。
しかし,審決の上記認定は,それに続く説示(同(イ))に照らしても,甲1発明
に対し,甲3発明の構成を適用することが容易であると判断するためのものである
と認められるところ,審決の同判断に誤りのないことは,後記()以下のとおりで2
あるから,甲3公報に記載されている農作業機を「折り畳み農作業機」とするか否
かの認定が直ちに審決の結論に影響するものではない。
()審決は,甲1発明の農作業機の作業部の駆動機構を甲3発明の駆動機構に2
することは,当業者が容易に想到し得た設計的事項であるとする(上記第2の3
()ア(イ))のに対し,原告は審決の判断が誤りである旨主張する。4
ここで,審決が認定した甲1発明(その認定を原告も争わない。)は,「トラク
タの後部に三点リンク25を介して農作業機の長さ方向中央作業部8を昇降可能に
装着し,上記トラクタから農作業機の中央作業部8に動力を伝達すると共に,上記
中央作業部8に対し,該中央作業部8から左右両側に延出している左右作業部9,
10を,それぞれ中央作業部8側に折り畳み可能とした農作業機において,上記作
業機は,第一出力軸63と第二出力軸65を内装した中央フレーム16と左右フレ
ーム17,18に支持されたロータカバー11の後端部に上端部が上下方向に回動
自在に枢着された均平板13を背面側に備え,上記農作業機を中央作業部8と左右
作業部9,10とに3分割し,この分割した左作業部9の外側端に設けたチェーン
ケース77により中央作業部8及び左右の作業部9,10を駆動可能とし,上記中
央作業部8と左右の作業部9,10の内端部とをそれぞれ支持ピン19により90
°以上回転可能に連結した折り畳み農作業機の駆動方法。」というものであり,ト
ラクタの後部に昇降可能に装着され,トラクタから動力を伝達する農作業機におい
て,中央部分と左右の作業機部分とに3分割し,中央部分と,左右の作業機部分を
それぞれ回転支点によって,回転可能に連結した農作業機における駆動方法である。
他方,甲3公報には,トラクタに昇降可能に装着される農作業機において,中央
部耕耘機構と左右の側部耕耘機構とに3分割し,中央部分と左右の側部耕耘機構を
それぞれ回転支点によって,回転可能に連結し,その中央部と左右の耕耘機構のそ
れぞれに伝動ケースを設けて作業部である耕耘機構を駆動するようにしたことが記
載されている。
そして,甲1発明と甲3発明は,いずれも農作業機に関する発明であって,しか
も,トラクタに昇降可能に装着される農作業機において,中央部分とこの中央部分
に回転支点を中心として回転可能に設けられた左右の作業機部分とを備えるもので
あるから,両発明は,同一の技術分野に属すといえるものであり,かつ,その構成
における共通点の存在からも,上記の甲1発明に,甲3発明を適用することは容易
であったと認めることができ,審決の判断に誤りはない。
()原告は,甲1公報には,機巾を変える農作業機だけが記載され,作業巾を3
変える旨の記載もその示唆もないから,甲1発明において,作業巾を変えるため,
分割した中央作業部8と左右の作業部9,10とを各別に駆動する必要性は全く予
測し得ず,甲3発明には,作業巾を変更する構成はあるが,機巾を変更するという
技術思想が全くないから,甲1発明の耕耘機に対して,作業巾を変えるために甲3
公報を用いることに想到することはできないと主張する。
確かに,甲1公報に実施例として記載されている農作業機は,中央作業部と固定
された左右作業部で農作業を行うものであり,行う農作業の作業巾を変えるもので
はない。
しかし,審決が,甲1発明として認定したものは,主として,作業部分を中央部
分と左右の作業機部分とに3分割して,これを回転可能に連結している構成を有す
る農作業機における駆動方法であって,原告が主張する作業巾に関する点について
は,審決は,甲1発明は本件発明のような3つの作業形態を切り換えることを可能
としたものではないとして,本件発明と甲1発明の相違点3としている。そして,
甲1公報に接した当業者は,そこに記載された技術内容に照らしても,甲1公報に
記載されている発明として,作業部分を中央部分と左右の作業機部分とに3分割し
て,これを回転可能に連結している構成を有する農作業機における駆動方法の発明
であるという,審決が認定したような甲1発明をひとまとまりの技術として把握す
ることができると認められ,審決の甲1発明の認定に誤りはない。
原告は,甲1公報に記載された具体的な構成に基づいて,甲1発明に甲3発明を
適用することが容易でない旨主張するのであるが,審決は,甲1公報の実施例に記
載されたような具体的な農作業機の構成をすべて含むものを甲1発明と認定したも
のではない。そして,上記のとおり,審決の甲1発明の認定が当業者の技術水準に
照らして不当なものとは認められないから,原告の上記主張のうち,甲1発明とし
て,引用していない構成を甲1発明の構成であるとの前提に基づいて主張するもの
は,前提を欠くものである。そして,甲1公報には作業の巾を変えることが記載さ
れていないとしても,甲1発明として審決において認定された構成をみれば,前記
()のとおり,甲1発明の農作業機と甲3発明の農作業機が技術分野を同じくし,2
かつ,その構成に共通性があることからも,甲1発明に甲3発明を適用することが
容易であるといえる。
()したがって,原告主張の取消事由1は理由がない。4
2取消事由2(相違点2についての認定判断の誤り1)について
原告は,「ほぼ180°回転可能に連結した」という極めて限定した部分的機構
だけを抽出して,相違点2として単独に容易性を検討しても無意味であるから,不
適切な抽出操作による相違点2の認定は誤りである旨主張する。
しかし,前記1のとおり,本件発明との対比において認定された甲1発明は,ト
ラクタの後部に昇降可能に装着され,トラクタから動力を伝達する農作業機におい
て,中央部分とこの中央部分に回転支点を中心として回転可能に設けられた左右の
作業機部分とを備え,その中央部分と左右の作業機部分のいずれにおいても農作業
を行うものであるところ,その作業機部分を中央部分と中央部分に回転支点を中心
として回転可能に設けるとの構成は,技術的に,独立した構成としてとらえること
ができるものであると認められるから,その構成を取り上げて,同構成について,
他の構成とすることが容易であるかを判断することが不当であるとはいえない。
原告は,その構成が,相違点3で示されている他の構成と密接不可分であるとし
て,審決の判断が誤りである旨主張するが,原告が主張する構成との関係を考慮し
て容易想到性判断を行っても,審決の結論に誤りのないことは,後記5()のとお2
りである。
したがって,原告主張の取消事由2は理由がない。
3取消事由3(相違点2についての認定判断の誤り2)について
()審決は,相違点2に係る本件発明の構成は,当業者が容易に想到し得た設1
計上の変更であるとしたのに対し,原告は,審決の判断を争う。
()甲1公報には,前記1のとおり,作業部分を中央部分と左右の作業機部分2
とに3分割して,これを回転可能に連結している構成を有する農作業機における駆
動方法である甲1発明が記載されているところ,このように中央部分と左右の作業
機部分とを回転可能に連結している構成を有する農作業機において,中央部分と
その側部の連結方法として,同じ農作業機の発明である甲2発明における構成であ
る,中央部分の端部と側部の内端部とを回転支点により,回転支点によりほぼ18
0°回転可能に連結するとの構成をとることは,当業者が容易に想到することがで
きたものと認められる。
()原告は,審決が,甲1公報には,「中央部分[中央作業部8]と左右の作3
業機部分[左右作業部9,10]とをそれぞれ回転支点により90°以上回転可能
に連結したという上位概念の発明も,当業者が把握できるものとして記載されてい
るということができる。」(前記第2の3()イ(イ))としたのに対し,甲1発明の4
上記構成は,機体の横幅の縮小を目的として左右作業部をほぼ90°に近い折り立
て状態に収納したのであることなどを挙げ,審決のように「上位概念」で同じであ
るとして把握できるものではない旨主張する。
しかし,甲1公報に記載されている農作業機の発明が,中央部分と左右の作業機
部分が90°以上回転可能といえるし,また,その構成や当業者に技術水準に照ら
せば,当業者が甲1公報にそのような発明が記載されていると把握できることは,
審決のとおりであると認められる。
また,原告は,甲1公報にも,作業機部分の重心を低くした方が良いであろうこ
とを認識していたことが記載されているにもかかわらず,甲1発明は機体の上方に
左右作業部をハの字状に折り立てていて,これは,本件発明のような,回転支点に
よりほぼ180°回転可能に連結する構成を単純には採用できない阻害要因たる技
術上の問題があったことによる旨主張する。
しかし,甲1公報に作業機の重心を低くした方がいいことが記載されていたとし
ても,審決の認定したような甲1発明において,その相違点2に係る構成について,
甲2発明の構成を採用することを阻害する要因があるとは直ちには認められない。
さらに,原告は,甲2発明は,本件発明とは具体的構成が異なり,本件発明の中
央部分(4)に相当する[主ロータリ耕転装置1]の真上に,[延長ロータリ耕転
装置15]を単純に180°反転させただけであり,これでは作業機部分[延長ロ
ータリ耕転装置15]が真上に移動して,重心も高くなり不安定になり,操作性も
良くないし,本件発明のようにエプロンを装着したままの上方への移動となると,
重心もより高くなり不安定になる旨主張する。
しかし,本件発明において,後記4のとおり,農作業機の中央部分と左右の作業
機部分の重ね合わせの方向については原告が主張するような限定はなく,本件発明
について,重ね合わせの方向に限定があることを前提とする主張は,採用の限りで
はない。
また,原告は,相違点2についての審決の認定判断を是認したとしても,相違点
2と相違点3の構成を結合した構成については検討されていない旨主張するが,原
告が主張する相違点2と相違点3の構成を結合した構成について,これを検討して
も審決の結論に誤りがないことは,後記5()のとおりである。2
()したがって,原告主張の取消事由3は理由がない。4
4取消事由4(相違点3についての認定判断の誤り1)について
()審決は,相違点3についての判断をするに当たり,本件発明について,1
「背面の重ね合わせ・エプロンの対面」という構成の技術的意義が,①回転支点の
配置態様を,前方が高くなるように傾斜させて配置した構成とすることにより,②
中央部分の背面と左右の作業機部分の背面とを重ね合わせにすることで,③中央部
分のエプロンと上記左右の作業機部分のエプロンとが対面するように折り畳み可能
となること意味するものとした(前記第2の3()ウ(ア))のに対し,原告は,本件4
発明においては,「回転支点」が配置されている位置,「回転支点」の軸の傾
斜方向,「回転支点」の軸の傾斜角度等を総合的に設定する必要があるのにもか
かわらず,審決が,「背面の重ね合わせ・エプロンの対面」の技術的意義について,
回転支点」に関連する,の要件を考慮しないで,の要件として挙げた「回転
支点」の軸の傾斜方向のみに着目したことが誤りである旨主張する。
()本件発明の特許請求の範囲には,農作業機の背面の重ね合わせやエプロン2
の対面について,中央部分の左右の端部と左右の作業機部分の内端部とをそれぞれ
回転支点によりほぼ180°回転可能に連結することができること,中央部分に対
し左右の作業機部分を背面重ね合わせとすることができること,中央部分のエプロ
ンと上記左右の作業機部分のエプロンとが対面するように折り畳んで中央部分だけ
で作業することができること,中央部分に対し左右の作業機部分のいずれかを背面
重ね合わせに,中央部分のエプロンと上記左右の作業機部分のエプロンとが対面す
るように折り畳むことができることが記載されているが,それ以上に,回転支点の
配置態様を特定していないし,回転支点の軸の傾斜方向,傾斜角度を特定するもの
ではない。
本件明細書の発明の詳細な説明をみても,回転支点の軸の傾斜方向や傾斜角度を
規定する記載があるものではなく,その図面をみても,【図3】には,代掻ハロー
を折り畳んだ状態の概略側面図が,【図6】には,代掻ハローを折り畳んだ状態の
側面図が,【図7】には,代掻ハローの部分平面図が示されており,本件発明の実
施例として,農作業機の「中央部分」と「作業機部分」との回転軸が傾斜して設置
されていて,両者が斜め上方に重ね合わされているものが図示されているのみであ
る。
そして,本件発明の特許請求の範囲の記載によっても,中央部分と左右の作業機
部分とを重ね合わせる方向は,背面を重ね合わせることであれば,限定はないと解
される。本件発明の実施例として,農作業機の中央部分と作業機部分との回転軸が
傾斜して設置されていて,両者が斜め上方に重ね合わされているものが図示されて
いるとしても,それは,中央部分と左右の作業機械部とを重ね合わせる方向が「斜
め上方」のも場合が含むものであることを示したにとどまるものと解するのが相当
である。
審決は,この点,本件明細書の【図3】の存在を根拠に,本件発明の回転支点を
前後方向で前方が高くなるように傾斜させて配置した構成としたのであるが,本件
明細書の記載によっても,回転支点を上記のように限定する旨の記載はなく,審決
のように回転支点の傾斜方向を限定することは認められない。
もっとも,上記を考慮した上で,相違点3についての容易想到性判断を行ったと
しても,相違点3の容易想到性判断についての審決の結論に誤りがないことは,下
記5,6のとおりである。
()原告は,「背面の重ね合わせ・エプロンの対面」という構成の技術的意義3
について,審決の認定が誤りである旨主張する。
この点,上記()のとおり,審決が,本件発明の回転支点の配置態様を上記①の2
ように限定したのは相当ではないが,それは,本件発明について,審決のような限
定を付すことができないことを意味するだけであり,下記5,6のとおり,相違点
3の容易想到性判断についての審決の結論に誤りはない。原告は,「回転支点」
が配置されている位置,「回転支点」の軸の傾斜方向,「回転支点」の軸の傾
斜角度等を総合的に設定する必要があることを前提として,審決の認定が誤りであ
ると主張するところ,上記()のとおり,本件発明は,背面の重ね合わせやエプロ2
ンが対面するものであるが,それを可能にすることを超えて,回転支点の軸の傾斜
方向や傾斜角度等が限定されることは規定していないから,原告の主張は,前提を
欠くものである。
()したがって,原告主張の取消事由4は理由がない。4
5取消事由5(相違点3についての認定判断の誤り2)について
()審決は,相違点1で説示したところの設計上の変更をするに際して,その1
回転支点の配置態様を,前後方向で前方が高くなるように傾斜させて配置した構成
のものと設定することは,当業者が適宜選択し得た設計的事項であるとした(前記
第2の3()ウ(イ))のに対し,原告はその判断を争う。4
()審決は,本件発明の回転支点の配置態様を,前後方向で前方が高くなるよ2
うに傾斜させて配置した構成のものとして,その構成について,設計的事項である
としたのであるが,本件発明について,そのような限定がされるものでないことは
上記4のとおりである。審決は,本件発明について,回転支点の配置態様について
限定的に解釈した上で,本件発明において,相違点1で説示した設計上の変更に際
して,上記のように限定的に解釈した構成をとることは当業者が適宜選択し得た設
計的事項であるとしたのであるが,そもそも本件発明には,そのような限定事項は
ないのであるから,審決の上記説示の誤りは,直ちに審決の結論に影響するもので
はない。
そして,本件発明は,上記のように回転支点の配置態様について,前後方向で前
方が高くなるように傾斜させて配置させたものであるとの限定がなく,また,前記
4のとおり,回転支点の軸の傾斜方向や傾斜角度について限定がないのであるから,
中央部分と左右の作業機部分との連結した構成に係る相違点2に係る本件発明の構
成に当業者が容易に想到することができる(前記3())とき,本件発明のように,2
中央部分に対し左右の作業機部分を背面重ね合わせに,中央部分のエプロンと左右
の作業機部分のエプロンとが対面するように折り畳むようにすることは,当業者が
まず設計的事項としてするようなものであると認められる。
したがって,甲1発明に接した当業者が,中央部分に対し左右の作業機部分を背
面重ね合わせに,中央部分のエプロンと左右の作業機部分のエプロンとが対面する
ように折り畳むようにすることことは,当業者が容易に想到し得たものであり,審
決の結論に誤りはない。
()原告は,審決が,「回転支点」が配置されている位置,「回転支点」3
の軸の傾斜角度等について看過し,必須で密接不可分な折り畳みに関する構成を無
理に分割して相違点2として抽出して,相違点についての容易想到性判断を行った
旨主張するが,本件発明の回転支点について,原告が主張するような限定がないこ
とは上記4のとおりであり,同主張は前提を欠くものであるし,また,その背面重
ね合わせなどの構成について,上記()のとおり,相違点2に係る構成と総合的に2
考慮しても,審決の結論に誤りはない
()原告は,甲1発明の発明者は,左右の作業機について回転支点の配置態様4
を垂直,傾斜,水平にすることや,重心が折り畳み姿勢における操縦性及び安定性
に影響することを認識してもなお,左右作業機をハの字状に折り立てることにとど
まり,本件発明のように左右の作業機を180°回転させて折り畳むようにするこ
とまでは想到しなかったとして,審決の審決の容易想到性判断が誤りである旨主張
する。
しかし,甲1発明と本件発明の構成が異なったとしても,直ちにそのことが容易
想到性判断に影響するものではないし,審決の認定した甲1発明において,相違点
に係る本件発明の構成を採用することの困難性は認められず,審決の相違点につい
ての判断に誤りがないことは,前記のとおりである。
()したがって,原告主張の取消事由5は理由がない。5
6取消事由6(相違点3についての認定判断の誤り3)について
()審決は,本件発明が3つの作業形態を切り換えるようにした点について,1
当業者であれば適宜選択できた設計的事項であるとした(前記第2の3()ウ(ウ))4
のに対し,その判断が誤りである旨主張する。
()ここで,甲3公報に,中央部分と左右の作業機部分とからなる農作業機に2
おいて,左右の農作業機部分の姿勢を変えることにより,作業巾を変えることがで
きたことが記載され,甲2公報に,中央部分と側部の作業機部分とからなる農作業
機において,側部の作業機部分を折り畳むことにより,作業巾を変えることが記載
されていることは審決の認定(前記第2の3()ウ(ウ))のとおりである。甲1発明4
の農作業機は,トラクタに装着される農作業機であり,中央部分と左右の作業機部
分とからなるものであり,技術分野を同じくすることに,トラクタに装着される農
作業機で,中央部分と左右又は側部の農作業機部分を折り曲げる点で共通すること
から,甲1発明について,甲3発明,甲2発明において知られていたような,作業
する形態を切換え可能なものと設定することは,当業者が容易にできたものと認め
られる。
()原告は,本件発明が機巾と作業巾との両方を変えることができるところ,3
甲1発明ないし甲4発明は,そのようなものでなく,また,それらの引用発明に,
構成,作用などの共通点がないことを挙げて,審決の判断を争う。
しかし,前記1のとおり,審決が,甲1発明として認定したものは,主として,
作業部分を中央部分と左右の作業機部分とに3分割して,これを回転可能に連結し
ている構成を有する農作業機における駆動方法の発明であって,当業者は,このよ
うな甲1発明をひとまとまりの技術として把握することができると認められる。そ
して,このような甲1発明に対し,技術分野及び構成上の類似性から,甲3発明,
甲2発明において知られていたような,作業する形態を切換え可能なものと設定す
ることは,当業者が容易にできたものと認められることは,前記()のとおりであ2
る。
()したがって,原告主張の取消事由6は理由がない。4
7以上によれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がないから,原告の請求
は棄却することとする。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官塚原朋一
裁判官宍戸充
裁判官柴田義明

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