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平成21年4月27日判決言渡
平成20年(行ケ)第10353号審決取消請求事件
平成21年4月15日口頭弁論終結
判決
原告スミスクラインビーチャム
ピーエルシー
同訴訟代理人弁理士青山葆
同田中光雄
同植村昭三
同伊藤晃
同冨田憲史
同西野満
被告特許庁長官
同指定代理人塚中哲雄
同伊藤幸司
同中田とし子
同小林和男
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日
と定める。
事実及び理由
第1請求
特許庁の不服2005−4880号事件に対する平成20年5月16日付け
審決を取り消す。
第2事案の概要
1特許庁における手続の経緯
原告は,発明の名称を「チアゾリジンジオンおよびスルホニルウレアを用い
る糖尿病の治療」とする発明につき,平成10年6月15日,国際特許出願を
し(パリ条約による優先権主張1997年(平成9年)6月18日,199
8年(平成10年)3月27日,いずれも英国。請求項の数は21であっ
た。以下「本願」という。),平成16年10月6日付け手続補正書(甲
2)を提出したが,同年12月21日付けの拒絶査定を受けたので,平成17
年3月22日,これに対する審判請求をした(不服2005−4880号事
件)。
特許庁は,平成20年5月16日,「本件審判の請求は,成り立たない。」
との審決をし(付加期間90日),その謄本は同年6月3日に原告に送達され
た。
2特許請求の範囲
平成16年10月6日付け手続補正書(甲2)による補正後の本願発明の請
求項1は,下記のとおりである(請求項の数は9となった。)。
【請求項1】「糖尿病および糖尿病関連症状の治療に用いられる医薬組成物
であって,2ないし8mgの5−[4−[2−(N−メチル−N−(2−ピリ
ジル)アミノ)エトキシ]ベンジル]チアゾリジン−2,4−ジオン(化合物
I)またはその医薬上許容される塩;およびグリベンクラミド,グリピジド,
グリクラジド,グリメピリド,トラザミド,トルブタミドまたはレパグリニド
から選択されるインスリン分泌促進物質,および医薬上許容される担体を含む
医薬組成物。」(以下,この発明を「本願発明」という。)
3審決の内容
別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本願発明は,特開平9−67
271号公報(甲3。以下「引用例」という。)の記載に基づいて,当業者が
容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定によ
り特許を受けることができない,とするものである。
審決は,上記結論を導くに当たり,引用例記載の発明(以下,「引用発明」
という。)の内容並びに本願発明と引用発明との一致点及び相違点を次のとお
り認定した。
(1)引用発明の内容
ピオグリタゾンとグリベンクラミドとを組み合わせてなる,糖尿病時の血
糖値の上昇を抑制する医薬。
(2)一致点
糖尿病および糖尿病関連症状の治療に用いられる医薬組成物であって,イ
ンスリン感受性増強剤とインスリン分泌促進物質としてのグリベンクラミド
を含む医薬組成物である点。
(3)相違点
ア相違点1
本願発明は医薬上許容される担体を含むのに対し,引用発明は医薬上許
容される担体を含むことが特定されていない点。
イ相違点2
本願発明では,インスリン感受性増強剤が2ないし8mgの5−[4−
[2−(N−メチル−N−(2−ピリジル)アミノ)エトキシ]ベンジル
]チアゾリジン−2,4−ジオン(化合物I)であるのに対し,引用発明
では,インスリン感受性増強剤がピオグリタゾンであり,その含有量が特
定されていない点。
第3取消事由に係る原告の主張
審決は,相違点2についての容易想到性の判断を誤ったものであるから,取
り消されるべきである。
1相違点2についての容易想到性の判断の誤り(その1)
審決は,相違点2に関して,「引用発明において,インスリン感受性増強剤
として,同じく引用例に記載の一般式(I)で示される化合物及び(II)で示
される化合物の1つでもある5−〔〔4−〔2−(メチル−2−ピリジニルア
ミノ)エトキシ〕フェニル〕−メチル〕−2,4−チアゾリンジオンを採用す
ることは,当業者が容易に想到し得ることである」と判断したが,誤りであ
る。
引用例には,無数に近い種類のインスリン感受性増強剤が開示されると共
に,それと組み合わされるべき薬剤となる化合物も無数に近い種類開示されて
いるので,無数に近い薬剤化合物の組合せが記載されている。そして,引用例
には,本願発明に係る化合物(Ⅰ)またはその医薬上許容される塩と,グリベ
ンクラミドをはじめとする特定のインスリン分泌促進剤という特定かつ具体的
な組合せについて何ら教示ないし示唆するものではない。したがって,当業者
が,引用例に示された膨大な組合せの候補薬剤の中から,本願発明に係る上記
組合せを選択することは困難である。また,引用例の実施例3の実験例1及び
実験例2において,インスリン感受性増強剤としてピオグリタゾンを用いた組
成物から良好な結果が得られているので,当業者がピオグリタゾンと異なるイ
ンスリン感受性増強剤を用いてみようとする動機付けは存しない。
2相違点2についての容易想到性の判断の誤り(その2)
審決は,相違点2に関して,「2ないし8mgという医薬組成物中のその用
量の範囲も当業者が適宜定め得ることである。」と判断したが,誤りである。
薬剤の用量の決定は,臨床試験を積み重ね,かつ副作用等を考慮した上でな
されるものであり,当業者といえども適宜定め得るものではない。そして,引
用例には,化合物(Ⅰ)をインスリン分泌促進物質と組み合わせて使用した場
合の2ないし8mgという用量について記載も示唆もない。本願に係る明細
書(甲1,2。以下「本願明細書」という。)記載の臨床実験データ(甲5の
1,2)によれば,上記用量範囲は,副作用を考慮した場合の有意な抗高血糖
効果を得るための数値であり,当業者が適宜定め得るものではない。
3本願発明の顕著な作用効果の看過
審決は,本願発明の作用効果に関して,「引用例には,インスリン感受性増
強剤とインスリン分泌促進物質とを組み合わせてなる医薬は,各薬剤の単独投
与に比べて著しい増強効果を有し,2種の薬剤をそれぞれ単独投与した場合に
比較し,これらを併用投与すると高血糖あるいは耐糖能低下の著明な改善がみ
られ,薬剤の単独投与より一層効果的に糖尿病時の血糖を低下させ,糖尿病性
合併症の予防あるいは治療に適用しうることや,各薬剤の単独投与の場合と比
較した場合,少量を使用することにより十分な効果が得られることから,薬剤
の有する副作用(例,下痢等の消化器障害など)を軽減することができること
などが,記載されているので,当業者であれば,容易に予測し得る範囲内のも
のである。」と判断したが,誤りである。
甲6の53頁の図2には,2年間にわたりスルホニルウレア投与に加えてロ
シグリタゾンを4mg/日で投与する臨床試験において,試験期間中,血糖値
が上昇せず,血糖制御が非常に安定して行なわれたことが示されており,これ
は予測できない顕著な作用効果である。また,甲8には,本願発明の化合物(
Ⅰ)に相当するロシグリタゾンとスルホニルウレアとの組合せ治療が,18か
月にわたりⅡ型糖尿病患者の血糖の優れた制御をもたらすだけでなく,血圧の
適度な低下ももたらすことが示されている。他方,甲7の図3を見ると,2年
間にわたるスルホニルウレア投与に加えて,ピオグリタゾン(15∼45mg
/日)を投与する臨床試験において,甲6に示されたような血糖の持続的調節
に成功せず,試験期間の経過と共に血糖が増加している。
以上のとおり,甲6ないし8に示された結果を総合すると,本願発明には,
長期間にわたって血糖値をうまく制御することができ,患者が低血糖症に陥る
ことがなく,しかも血圧の適度な低下もみられることは明らかであり,このよ
うな効果は,引用発明からは予測もできない顕著な作用効果を奏するものとい
える。審決はかかる本願発明の顕著な作用効果を看過している点で誤りであ
る。
第4被告の反論
原告主張の取消事由には理由がなく,審決の認定判断には誤りがない。
1相違点2についての容易想到性の判断の誤り(その1)に対し
(1)原告は,引用例には,本願発明に係る化合物(Ⅰ)またはその医薬上許
容される塩と,グリベンクラミドをはじめとする特定のインスリン分泌促進
剤という特定かつ具体的な組合せについて何ら教示ないし示唆するものでは
ないと主張するが,誤りである。
引用例には,インスリン感受性増強剤として,一般式(Ⅰ)又は(Ⅱ)と
して広範な化合物が開示されているとしても,具体的な化合物として記載さ
れているのは,ピオグリタゾンをはじめとする12の化合物である。そし
て,引用発明において,インスリン感受性増強剤をピオグリタゾンに代えて
これら11の化合物を使用し,糖尿病時の血糖値の上昇を抑制する医薬とし
ての薬理効果等を試験し,好ましいインスリン感受性増強剤の選択を試みる
ことは当業者が容易に想到し得ることであり,その試験方法も,引用例の実
験例1,2にも記載されているように公知の手法により実施できるものであ
る。さらに,本願出願前の刊行物である乙1によれば,本願発明の化合物(
Ⅰ)は,改善された血糖低下活性を示しそれ故に高血糖の治療及び/又は予
防に用いられる可能性がありさらにⅡ型糖尿病に特に用いられることが開示
され,同じく乙2によれば,本願発明の化合物(Ⅰ)であるBRL4965
3が,チアゾリジンジオン誘導体の中では最も効力のある薬剤として認識さ
れていたことが認められる。そうすると,当業者であれば,引用発明におい
て,インスリン感受性増強剤をピオグリタゾンに代えてこれら11の具体的
な化合物の1つとして挙げられているBRL49653,すなわち本願発明
の化合物(Ⅰ)を選択することは当然のことである。
(2)原告は,引用例の実施例1∼3には,インスリン感受性増強剤としてピ
オグリタゾンを用いた組成物から得られた良好な動物実験データが示されて
いるので,当業者がピオグリタゾンと異なるインスリン感受性増強剤を用い
てみようとする動機付けは存在しないと主張するが,誤りである。
本願発明の「糖尿病及び糖尿病関連症状の治療に用いられる医薬」は,患
者の糖尿病の病状程度の違い,関連症状の種類の違い,患者の性別や年齢の
違い,副作用の種類や程度,製剤化上の観点等の様々な観点から検討し,評
価されるべきものである。そうすると,引用例にインスリン感受性増強剤と
してピオグリタゾンを用いた組成物から得られた良好な動物実験データが示
されていたとしても,当業者であれば,種々の観点からみて,より好ましい
医薬を得ようとして,ピオグリタゾン以外のインスリン感受性増強剤の使用
を試みることは当然に考えることである。
2相違点2についての容易想到性の判断の誤り(その2)に対し
臨床試験には時間と労力がかかるとしても,従来の手法により行うものであ
り,本願発明の化合物(Ⅰ)の2ないし8mgという医薬組成物中の用量は,
当業者が適宜,試験や調査を行って1日の用量を決め,1日の投与回数を考慮
して適宜定め得ることである。引用例にも引用発明の医薬の投与量は,個々の
薬剤の投与量に準ずればよく,投与対象,投与対象の年齢及び体重,症状,投
与時間,剤形,投与方法,薬剤の組み合わせ等により適宜選択することができ
ると記載されている(段落【0039】)。
3本願発明の顕著な作用効果の看過に対し
本願明細書には,本願発明の作用効果について一般的な記載があるのみで何
ら具体的な記載がなされていないのであり,本願明細書に記載された本願発明
の一般的な効果は,当業者が引用例の記載から予測し得るものにすぎない。
原告は,甲6,7に示された実験結果を総合すると,本願発明は,引用発明
よりもはるかに良好な治療効果を長期間にわたって奏すると主張する。しか
し,同効果は,本願明細書に具体的に記載されていない効果であり,これをも
って本願発明の進歩性の根拠とすることはできない。また,引用発明のインス
リン分泌促進剤はグリベンクラミドであるのに対し,インスリン分泌促進剤と
して,甲6の実験ではグリピジドを,甲7の実験ではグリクラジドをそれぞれ
使用しており,甲6,7により本願発明と引用発明の効果を比較することはで
きない。したがって,仮に甲6,7を参酌したとしても,ロシグリタゾンとイ
ンスリン分泌促進剤との組合せが実際の治療において,引用例のピオグリタゾ
ン及びインスリン分泌促進剤との組合せよりも優れた作用効果を奏するとはい
えない。
第5当裁判所の判断
当裁判所は,原告が主張する取消事由には理由がなく,審決を取り消すべき
違法は認められないから,原告の請求を棄却すべきものと判断する。以下,理
由を述べる。
1刊行物の記載
(1)引用例(甲3)には,以下の記載がある。
ア「【請求項2】インスリン感受性増強剤が一般式
〔式中,Rはそれぞれ置換されていてもよい炭化水素または複素環基;
Yは−CO−,−CH(OH)−または−NR−(ただしRは置換され33
ていてもよいアルキル基を示す。)で示される基;mは0または1;nは
0,1または2;XはCHまたはN;Aは結合手または炭素数1∼7の2
価の脂肪族炭化水素基;Qは酸素原子または硫黄原子;Rは水素原子ま1
たはアルキル基をそれぞれ示す。環Eはさらに1∼4個の置換基を有して
いてもよく,該置換基はRと結合して環を形成していてもよい。Lおよ1
びMはそれぞれ水素原子を示すかあるいは互いに結合して結合手を形成し
ていてもよい。〕で示される化合物またはその薬理学的に許容しうる塩で
ある請求項1記載の医薬。」(【特許請求の範囲】)
イ「【請求項26】一般式(II)で示される化合物がピオグリタゾンであ
り,インスリン分泌促進剤がグリベンクラミドである請求項15記載の医
薬。」(【特許請求の範囲】)
ウ「また,一般式(II)のR’は,mおよびnが0;XがCH;Aが結合
手;Qが硫黄原子;R,LおよびMが水素原子;かつ環Eがさらに置換1
基を有しないとき,R’はベンゾピラニル基でないという点を除き,上記
一般式(I)のRと同意義を有する。」(【0018】)
エ「一般式(I)で示される化合物の好適な例としては,例えば……5
−〔4−〔2−(5−エチル−2−ピリジル)エトキシ〕ベンジル〕−2
,4−チアゾリジンジオン(一般名:ピオグリタゾン),・・一般式(I
I)で示される化合物は,好ましくは一般式(III)で示される化合物およ
び(R)−(+)−5−〔3−〔4−〔2−(2−フリル)−5−メチル
−4−オキサゾリルメトキシ〕−3−メトキシフェニル〕プロピル〕−2
,4−オキサゾリジンジオンであり,さらに好ましくはピオグリタゾンで
ある。」(【0025】,【0026】)
オ「本発明に用いられるインスリン感受性増強剤としては,上記した以外
に,さらに例えば・・・5−〔〔4−〔2−(メチル−2−ピリジニルア
ミノ)エトキシ〕フェニル〕−メチル〕−2,4−チアゾリンジオン(B
RL−49653)なども挙げられる。」(【0029】)
カ「本発明において,一般式(II)で示される化合物またはその薬理学的
に許容しうる塩と組み合わせて用いられる薬剤としては,インスリン分泌
促進剤および/またはインスリン製剤が挙げられる。インスリン分泌促進
剤は,膵B細胞からのインスリン分泌促進作用を有する薬剤である。該イ
ンスリン分泌促進剤としては,例えばスルフォニル尿素剤(SU剤)が挙
げられる。該スルフォニル尿素剤(SU剤)は,細胞膜のSU剤受容体を
介してインスリン分泌シグナルを伝達し,膵B細胞からのインスリン分泌
を促進する薬剤である。SU剤の具体例としては,例えばトルブタミド;
クロルプロパミド;トラザミド;アセトヘキサミド;4−クロロ−N
−〔(1−ピロリジニルアミノ)カルボニル〕−ベンゼンスルフォンアミ
ド(一般名:グリクロピラミド)およびそのアンモニウム塩;グリベン
クラミド(グリブリド);グリクラジド;1−ブチル−3−メタニリルウ
レア;カルブタミド;グリボルヌリド;グリピジド;グリキドン;グリソ
キセピド;グリブチアゾール;グリブゾール;グリヘキサミド;グリミジ
ン;グリピナミド;フェンブタミド;およびトルシクラミドなどが挙げら
れる。その他,インスリン分泌促進剤としては,例えばN−〔〔4−(1
−メチルエチル)シクロヘキシル〕カルボニル〕−D−フェニルアラニ
ン(AY−4166);(2S)−2−ベンジル−3−(シス−ヘキサヒ
ドロ−2−イソインドリニルカルボニル)プロピオン酸カルシウム2水
和物(KAD−1229);およびグリメピリド(Hoe490)等が挙
げられる。インスリン分泌促進剤は,特に好ましくはグリベンクラミドで
ある。……」(段落【0033】)
キ「……一般式(II)で示される化合物またはその薬理学的に許容しうる
塩とインスリン分泌促進剤および/またはインスリン製剤とを組み合わせ
てなる医薬は,これらの有効成分を別々にあるいは同時に,生理学的に許
容されうる担体,賦形剤,結合剤,希釈剤などと混合し,医薬組成物とし
て経口または非経口的に投与することができる。……」(段落【0035
】)
ク「……本発明の医薬の投与量は,個々の薬剤の投与量に準ずればよく,
投与対象,投与対象の年齢および体重,症状,投与時間,剤形,投与方
法,薬剤の組み合わせ等により,適宜選択することができる。……」(段
落【0039】)
ケ「……一般式(II)で示される化合物またはその薬理学的に許容し得る
塩とインスリン分泌促進剤であるグリベンクラミドとを組み合わせて用い
る場合,該化合物またはその薬理学的に許容し得る塩1重量部に対し,グ
リベンクラミドを通常0.002∼5重量部程度,好ましくは0.025
∼0.5重量部程度用いればよい。本発明の医薬は,各薬剤の単独投与に
比べて著しい増強効果を有する。例えば,遺伝性肥満糖尿病ウイスター・
ファティー(Wistarfatty)ラットにおいて,2種の薬剤を
それぞれ単独投与した場合に比較し,これらを併用投与すると高血糖ある
いは耐糖能低下の著明な改善がみられた。したがって,本発明の医薬は,
薬剤の単独投与より一層効果的に糖尿病時の血糖を低下させ,糖尿病性合
併症の予防あるいは治療に適用しうる。また,本発明の医薬は,各薬剤の
単独投与の場合と比較した場合,少量を使用することにより十分な効果が
得られることから,薬剤の有する副作用(例,下痢等の消化器障害など)
を軽減することができる。」(段落【0040】)
(2)乙1には,「或る新規な置換チアゾリジンジオン誘導体が改善された血
糖低下活性を示しそれ故高血糖の治療及び/又は予防に用いられる可能性が
ありさらにⅡ型糖尿病の治療に特に用いられることが驚くべきことに見い出
された。」(〔発明の概要〕)との記載と共に,実施例30において,本願
発明の化合物Ⅰと同一の化合物が開示されている。そして,乙2には,化合
物Ⅰに当たる「BRL49653」がチアゾリジンジオン誘導体のなかで
は「最も効力のある薬剤」との記載がある。
2相違点2についての容易想到性の判断の誤り(その1)について
(1)前記認定の引用例の記載によれば,①引用発明で用いるピオグリタゾン
は,一般式(II)で示される化合物の一つとされること,②一般式(II)で示さ
れる化合物は,一般式(I)で示される化合物のごく一部の場合のものが除か
れたものであること,③一般式(I)で示される化合物はインスリン感受性増
強剤であるとされていることが認められる。そうであれば,当業者にとって
は,一般式(II)で示される化合物もまた,インスリン感受性増強剤であると
認識するものということができる。そして,前記引用例の記載によれば,イ
ンスリン感受性増強剤として,5−〔〔4−〔2−(メチル−2−ピリジニ
ルアミノ)エトキシ〕フェニル〕−メチル〕−2,4−チアゾリンジオン(
BRL−49653)(以下,「ロシグリタゾン」という。)が記載され,
前記乙1,2の記載によれば,チアゾリジンジオン誘導体が改善された血糖
低下活性を示し,その中でもロシグリタゾンが最も効力のある薬剤とされて
いるのであるから,引用例の記載に接した当業者であれば,引用発明におけ
るピオグリタゾンに代えて,ピオグリタゾンと同様にインスリン感受性増強
剤として引用例に記載されているロシグリタゾンを用いることは容易に想到
し得るものといえる。
(2)原告は,①引用例は,本願発明が規定する,化合物(I)またはその医
薬上許容される塩と,グリベンクラミドをはじめとする特定のインスリン分
泌促進剤という特定かつ具体的な組合せを教示ないし示唆するものではな
い,②引用例の表2の動物実験データは良好なものなので,当業者がピオグ
リタゾンと異なるインスリン感受性増強剤を用いる動機付けは存在しないな
どと主張する。
しかし,原告の上記主張は失当である。
すなわち,本願発明に用いるロシグリタゾンは,前記引用例の記載におい
て,好適なインスリン感受性増強剤として例示された10数個程度の化合物
のうちの一つであり,これを上記ピオグリタゾンに代えて上記グリベンクラ
ミドと組み合わせることに格別の困難は認められない。したがって,原告の
上記主張はいずれも採用することができない。
3相違点2についての容易想到性の判断の誤り(その2)について
原告は,本願発明の化合物(I)の最適用量の決定は,数多くの臨床データ
を積み重ね,これらを十分に精査し,副作用の危険性をも考慮してなされたも
のであり,そこで用いられた手法は通常のものであったとしても,臨床試験に
着手してから結論に至るまでには,多大な労力,費用,時間が費やされたので
あるから,当業者が適宜定め得るとはいえないと主張する。
しかし,原告の主張は失当である。
すなわち,前記1で認定した引用例の記載のとおり,医薬の投与量は,投与
対象,投与対象の年齢及び体重,症状,投与時間,剤形,投与方法,薬剤の組
み合わせ等により適宜選択されるものであり,これらの検討に当たって副作用
の危険性が考慮されるのは当然のことである。そして,医薬を構成する医薬化
合物もまた,上記要素等を考慮して最適用量が決定され,そのための臨床試験
を初めとするプロセスが経られ,その結果として,必ずその最適用量が得られ
るものである。そうすると,本願発明の化合物(I)すなわちロシグリタゾン
の最適用量の決定に多大な労力,費用,時間が費やされたとしても,通常想定
されることであり,ロシグリタゾンの用量を決定したことに,当業者が格別の
創意を要したものとはいえない。そして,「2ないし8mg」という用量も,
医薬化合物の用量として当業者が想定し得る通常のものといえるから,当業者
が容易になし得たものである。なお,原告は,上記用量の根拠として臨床実験
データ(甲5の1,2)を提出しているが,上記用量を決定するために通常行
なわれる実験にすぎず,上記判断を左右するものではない。原告の主張は理由
がない。
4本願発明の顕著な作用効果の看過について
(1)前記1(1)の引用例の記載(段落【0040】)のとおり,ピオグリタゾ
ンとグリベンクラミドとを組み合わせた医薬は,それぞれ単独投与した場合
と比較した場合,一層効果的に糖尿病時の血糖を低下させる効果を生じさせ
るものであると認められる。
(2)本願明細書には,以下の記載がある。
ア「今回,驚くべきことに,インスリン分泌促進物質と組み合わされた化
合物(Ⅰ)が血糖制御に対して特に有効な効果を発揮することが示され
た。それゆえ,かかる組合せは糖尿病,特にⅡ型糖尿病および糖尿病関連
症状の治療に特に有用である。その治療を行う場合も最小限の副作用しか
生じないことが示されている。」(6頁12∼16行)
イ「本発明治療により提供される血糖制御に対する特に有益な効果は,個
々の有効成分の合計に関して期待される対照効果に対する相乗効果である
ことが示される。慣用的方法,例えば,絶食時の血漿グルコースまたは糖
鎖付加ヘモグロビン(HbA1c)のごとき典型的に使用される血糖制御
指数により血糖制御を特徴づけてもよい。」(10頁8∼13行)
ウ以上によれば,本願発明におけるインスリン分泌促進物質と組み合わさ
れた化合物(Ⅰ)が血糖制御に対して有効であるという作用効果を奏する
ことが認められる。
(3)そこで,本願発明の上記作用効果が,引用発明から予測されない顕著な
作用効果といえるか否かについて検討する。
ア甲6によれば,スルホニルウレア(SU)療法で,最大推奨投与量の1
/4から1/2を2か月以上投与した60歳以上の合計227名のⅡ型糖
尿病患者に対して,ロングリタゾン(RSG。4mg/日投与)及びスル
ホニルウレア(SU。グリピシド1日2回10mgを使用)を104週間
併用投与したところ,FPG(空腹時血糖値)は,ベースライン(8.7
1mmol/L)から平均1.32mmol/L減少し,HbA1c(ブ
ドウ糖と結びついたヘモグロビンで,現時点より過去1∼1.5か月の平
均血糖値を反映している。)は,ベースライン7.72%から平均0.6
5%減少し,24週後までに最大の改善が認められ,その後も維持され,
治験終了時のHbA1cの平均値は7%未満であったことが認められる。
イ甲7には,以下の記載がある。
(ア)「104週目におけるベースラインからのHbA1c平均低下率
は,メトホルミンへのピオグリタゾン追加が0.89%,グリクラジド
追加が0.77%であった(p=0.200)・・ピオグリタゾンは,
既存のスルホニルウレア治療またはメトホルミン治療に対するアドオン
治療として血糖コントロールの改善をもたらし,改善された状態は2年
間にわたって持続した。」
(イ)「・・・このような単独治療の不泰効を克服し,Ⅱ型糖尿病の病因
が有する様々な側面に対処するためには,相加効果または相乗効果を有
する第二薬剤を追加することが必要とされる。最も多く用いられている
併用投与はメトホルミン+スルホニルウレアであり,最近では,チアゾ
リジンジオン(TZD),ピオグリタゾン,およびロシグリタゾンなど
の新規作用機序を有する薬剤が導入されている。」
(ウ)「ピオグリタゾンは,単独で用いた場合と併用治療での第二薬剤と
して追加した場合のいずれでも,血糖コントロールにおいて短期間の有
益な効果を発揮することが,数件の臨床試験から示されている。」
(エ)甲7の実験では,60才から69才まででHbA1cの平均値が約
8.82%の糖尿病患者319人に対して,スルホニルウレアとピオグ
リタゾン(45mg/日)を併用投与したところ,24週で約1.4%
減少し,その後やや増加し104週には約1.03%減少している。そ
して,104週目にHbA1cの目標値(7.0未満)に到達した患者
の割合は,30.2%であった。
ウ以上によれば,スルホニルウレア(グリピシド)とロシグリタゾンを併
用投与した場合(甲6)とスルホニルウレアとピオグリタゾンを併用投与
した場合(甲7)とを対比した場合,前者は,24週以降も持続して改善
が認められ,治験終了時のHbA1cの平均値は前者が7%未満であった
のに対し,後者は,開始時が約8.82%であったのが,24週時には約
1.4%減少して約7.4%となり,それ以降はやや増加し治験終了時は
約7.7%となっており,血糖効果の持続性は前者に認められるともいえ
る。
しかし,甲7の実験ではスルホニルウレアの物質を特定しておらず,そ
れがグリベンクラミドとピオグリタゾンとの併用投与の場合(引用発明)
であるということはできない。また,仮に甲7の実験が引用発明のそれと
いえたとしても,甲6の実験でも甲7の実験でも,血糖制御の効果が生
じ,かつその効果が104週にわたって持続しており,104週経過時点
でのHbA1cを比較すると,前者は7.72%から0.65%改善して
いるのに対し,後者は8.82%から1.03%改善しており,HbA1
cの改善の割合はむしろ後者の方が高くなっている。さらに,甲6の実験
と甲7の実験とを対比した場合,少なくとも治験の対象となる患者の病状
や投与量の増加割合といった試験条件が異なるものである(なお,被告
は,インスリン分泌促進剤として,甲6の試験ではグリピジドを使用して
いるのに対し,甲7の試験ではグリクラジドをそれぞれ使用していると主
張するが,甲6との比較の対象となるスルホニルウレアはグリクラジドと
はいえないので,誤りである。)。
以上によれば,本願発明の血糖制御の作用効果は,引用発明から,予測
できない顕著な作用効果ということはできない。原告の主張は理由がな
い。
なお,原告は本願発明の顕著な作用効果として,血圧の適度な低下とい
う作用効果を奏すると主張するが,同効果については,本願明細書に何ら
記載がないから,上記作用効果をもって本願発明の効果の顕著性を主張す
るのは相当でない。上記主張を採用することはできない。
したがって,原告の主張は理由がない。
5結論
以上のとおり,原告の主張する取消事由には理由がなく,他に審決に違法は
認められない。
したがって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文の
とおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
飯村敏明
裁判官
中平健
裁判官
上田洋幸

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