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平成28年6月30日判決言渡
平成27年(行コ)第166号輸送施設使用停止命令並びに運賃の変更命令差止
請求控訴事件
(原審・大阪地方裁判所平成26年(行ウ)第86号)
主文
1原判決主文第2項を次のとおり変更する。
(1)近畿運輸局長は,被控訴人に対し,特定地域及び準特定地域における一般
乗用旅客自動車運送事業の適正化及び活性化に関する特別措置法16条の4第
3項に基づく運賃の変更命令に違反したことを理由として,同法17条の3第
1項に基づき,一般乗用旅客自動車運送事業の許可を取り消してはならない。
(2)被控訴人の,運賃変更命令違反を理由とする使用停止処分の差止請求に係
る訴えを却下する。
2控訴人のその余の控訴を棄却する。
3訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを5分し,その2を被控訴人の負担とし,
その余を控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
2(本案前の答弁)
1項の取消部分につき,被控訴人の訴えをいずれも却下する。
3(本案の答弁)
1項の取消部分につき,被控訴人の請求をいずれも棄却する。
第2事案の概要等(略称は,特記しない限り,原判決の例による。)
1事案の概要
本件は,特定地域及び準特定地域における一般乗用旅客自動車運送事業の適
正化及び活性化に関する特別措置法(平成25年法律第83号による改正後の
もの。特措法)3条の2第1項に基づき準特定地域に指定された大阪市域交通
圏において一般乗用旅客自動車運送事業(タクシー事業)を営む被控訴人が,
同法16条1項の規定により指定された運賃(公定幅運賃)の範囲外の運賃を
届け出たことにより,近畿運輸局長から同法17条の3第1項に基づく輸送施
設使用停止処分(以下「使用停止処分1」という。)及び同法16条の4第3
項に基づく運賃の変更命令(運賃変更命令)を受けるおそれがあり,さらに,
運賃変更命令違反により同法17条の3第1項に基づく使用停止処分(以下
「使用停止処分2」という。)及び一般乗用旅客自動車運送事業許可取消処分
(以下「事業許可取消処分」という。)を受けるおそれがあるなどと主張して,
控訴人に対し,これらの処分の差止めを求めた事案である。
原判決は,使用停止処分1の差止請求に係る訴えは不適法であるとして却下
し,その余の被控訴人の請求を認容したため,控訴人が敗訴部分を不服として
控訴した。
したがって,当審における審判の対象は,運賃変更命令,使用停止処分2及
び事業許可取消処分の差止請求である。
2関係法令等の概要,前提となる事実,争点及び当事者の主張は,次の3及び
4のとおり当審における当事者の主張を付加するほかは,原判決「事実及び理
由」の「第2事案の概要」の1から3までに記載のとおりであるから,これ
を引用する。
3当審における控訴人の主張
(1)運賃変更命令,使用停止処分2及び事業許可取消処分の差止請求に係る訴
えは,差止めの訴えにおける処分の蓋然性の要件,重大な損害の要件,補充
性の要件という訴訟要件を欠く不適法なものである。
とりわけ,重大な損害の要件,補充性の要件については,争訟の対象とな
る不利益処分が累次的にされることが予想されるとしても,処分によって生
じる損害の内容,性質,程度等は個別の処分ごとに異なる上,処分がされる
段階に応じて実効的な救済を図る必要性や緊急性の程度も異なるから,要件
充足の有無の判断は,個別の処分ごとに行うべきである。
(2)近畿運輸局長の公定幅運賃の範囲の指定に違法はない。
ア国土交通大臣等には公定幅運賃の範囲を指定するに当たり広範な裁量が
ある。
特措法16条2項が,公定幅運賃の範囲を指定する基準について,抽象
的,概括的にしか定めておらず,運賃額を一義的に定めることは不可能で
あることからすると,公定幅運賃の範囲を具体化するには,行政庁の専門
技術的な知識経験や公益上の配慮に基づく判断が必要であり,国土交通大
臣等は広範な裁量を有している。
イ本件における近畿運輸局長の,公定幅運賃の範囲の指定に関する判断に
裁量権の範囲の逸脱・濫用の違法はない。
(ア)自動認可運賃の幅は合理的に定められており,特措法の趣旨に沿う
適正な運賃の幅である。
自動認可運賃は,道路運送法における運賃認可制度の下で,適正な原
価及び利潤をまかなうものであって,輸送の安全が確保されていると認
められる運賃として,個別審査が不要とされた運賃である。元をたどる
と,同一地域同一運賃制度の下における基本運賃に行きつき,この基本
運賃は標準的な事業者の適正な運賃であったといえる。
したがって,自動認可運賃の幅は,公定幅運賃の範囲と趣旨・目的を
同じくする。
(イ)自動認可運賃は適時変更されてきたが,その運賃幅は公定幅運賃制
度導入時においても標準的な事業者の適正な運賃であった。
(ウ)自動認可運賃の下ですら,供給過剰により減少した売上げ,歩合制
の賃金を増やそうとする過当競争に起因すると考えられる事故が発生す
るなど,輸送の安全が脅かされるおそれがあった。公定幅運賃の範囲を
定めるに当たって,上記の点を考慮するのは当然である。
ウ下限割れ運賃で営業していたタクシー事業者の運賃や経営実態等を個別
具体的に考慮しなければ違法であるとはいえない。
下限割れ運賃が認められたときの道路運送法9条の3第2項3号のいう
運賃に係る不当競争とは,原価を著しく下回るようなものを想定している
にすぎない。
下限割れ運賃で営業しているタクシー事業者が存在すること自体によっ
て運賃値下げ競争が行われるおそれがあり,供給過剰状態の解消ないし予
防が阻害されることとなる。このような下限割れ運賃を排除するために公
定幅運賃制度が導入されたのである。
(3)原判決の判決主文には違法がある。
ア原判決主文1項では,本件公定幅運賃公示を前提としない運賃変更命令
まで差し止めることになるが,そのような理由はない。
イ原判決主文2項では,今後全ての特措法16条の4第3項に基づく運賃
変更命令の違反を理由とする同法17条の3第1項に基づく使用停止処分
及び事業許可取消処分を差し止めることになるが,そのような理由はない。
4当審における被控訴人の主張
(1)運賃変更命令,使用停止処分2,事業許可取消処分は,同一の目的を持
って順次行われる処分であり,事業者にとっては破綻へと反復継続的かつ累
積的に行われるから,早期の段階でこれらの処分を差し止める必要がある。
訴訟要件の充足について,これらを一体として評価するということは行わ
ないとしても,その密接な関係は無視すべきではない。
(2)そもそも,規制の根拠となるほどのタクシーの供給過剰のおそれはなく,
供給過剰が安全性を損なう主要な原因ではない。安全性の悪化を防止するた
めには,直接的な規制を行うべきである。労働条件も悪いとはいえず,悪い
としても,その原因は経営者にある。
特措法のシステムは,営業の自由を侵害する規制として,目的においても
手段においても明白に合理性・必要性を欠き,違憲である。
(3)下限割れ運賃事業者も,適正原価・適正利潤の原則を満たして営業してき
たのであるから,公定幅運賃の範囲の指定に際し,下限割れ運賃事業者の利
益を考慮しないことは,裁量権の範囲の逸脱・濫用に当たる。
(4)下限割れ運賃で適法に営業してきた被控訴人の地位を無視する公定幅運
賃の定めであれば,今後変更があっても,本件判決の効力を及ぼすべきであ
るから,原判決の判決主文に違法はない。
第3当裁判所の判断
1当裁判所は,被控訴人の使用停止処分2の差止請求に係る訴えは不適法であ
り,運賃変更命令及び事業許可取消処分の各差止請求は理由があるものと判断
する。その理由は以下のとおりである。
2争点1(本件訴訟の適法性)について
(1)運賃変更命令,使用停止処分2,事業許可取消処分がされる蓋然性につい

運賃変更命令,使用停止処分2,事業許可取消処分がされる蓋然性がある
ものと認められることは,原判決「事実及び理由」の第3の1(1)に記載の
とおりであるから,これを引用する。
(2)重大な損害を生ずるおそれの有無について
ア行政事件訴訟法37条の4第1項にいう「重大な損害を生ずるおそれ」
があることの趣旨は,原判決「事実及び理由」の第3の1(2)アに記載のと
おりであるから,これを引用する。
イ引用した原判決「事実及び理由」の第3の1(1)アのとおり,被控訴人は,
本件届出①について,運賃変更命令公示に則った行政指導,勧告及び弁明
の機会の付与の通知を受け,弁明書を提出したから,運賃変更命令の要件
は満たされており,近畿運輸局長は直ちに運賃変更命令をすることができ
る状況にある。また,引用した原判決「事実及び理由」の第2の2(3)及び
弁論の全趣旨によれば,被控訴人が運賃変更命令を受けた場合,処分基準
公示の定めるところに従い,所定の期間(15日程度)内に公定幅運賃の
範囲内の運賃の届出をしないと,運賃変更命令違反(初違反)として,6
0日車の自動車等の使用停止を内容とする使用停止処分(使用停止処分2)
の要件が満たされ,弁明の機会を付与する旨の通知(弁明書の提出期限は
2週間程度)がされた上で,使用停止処分2がされる蓋然性があること,
被控訴人がその後再度運賃変更命令を受けた場合,運賃変更命令違反(再
違反)として,事業許可取消処分の要件が満たされ,所定の期間(15日
程度)内に公定幅運賃の範囲内の運賃の届出をしないときは,聴聞の手続
がとられた上で(聴聞期日は聴聞の通知から17日以上の期間を置いて開
かれる。),事業許可取消処分がされる蓋然性があること,さらに,被控訴
人が運賃変更命令を受けた場合,この命令に反する運賃を収受すれば,特
措法20条の3第4号の構成要件を満たし,罰金刑に処せられる可能性が
あることが認められる。そして,被控訴人は,本件届出①及び本件届出②
をし,その後公定幅運賃の範囲内の運賃を届け出ないから,本件届出及
び本件届出によって届け出た運賃を収受する意思を持っていると認めら
れる。
そこで,まず,運賃変更命令についてみると,運賃変更命令がされれば,
被控訴人がその後特措法20条の3第4号の構成要件を満たす蓋然性は極
めて高く,刑事罰の対象となることは確実であると解される。同号違反の
法定刑は100万円以下の罰金刑であり,仮にその上限の刑を受けたとし
ても,そのこと自体が被控訴人の事業基盤に深刻な影響を及ぼすとは解さ
れない。しかし,刑事罰を受けることは,単に経済的な負担だけではなく,
被控訴人の社会的信用を著しく損ない,また,いったん刑が確定した場合
に,それを覆し,社会的信用を回復することは困難又は不可能と解される。
そうすると,被控訴人が運賃変更命令を受けることにより生ずるおそれの
ある損害(刑事罰を受けることによる損害)は,処分がされた後に取消訴
訟等を提起して執行停止の決定を受けることなどにより容易に救済を受け
ることができるものではなく,処分がされる前に差止めを命ずる方法によ
るのでなければ救済を受けることが困難なものであるというべきである。
控訴人は,運賃変更命令違反の運賃を収受することによる刑事罰を避ける
ために取消訴訟を提起して執行停止を得るまでの短期間営業を差し控えた
としても,それによる損害は金銭賠償で十分回復可能であると主張するが,
この場合,被控訴人は営業を全面的に停止しなければならないことになり
かねないのであるから,控訴人の上記主張は採用することができない。
次に,運賃変更命令違反による使用停止処分についてみると,使用停止
処分2は,処分基準公示上,運賃の設定違反を理由とするものよりも重い
とされるが,なお60日車の自動車等の使用停止にとどまり,1つの運賃
変更命令に基づいてその違反を理由に複数回の使用停止処分をすることは
予定されていない。また,再度の運賃変更命令の違反による使用停止処分
があり得るとしても,先の使用停止処分との間には相当の間隔が生じるこ
とになると解される。そうすると,使用停止処分2がされた後に取消訴訟
を提起して執行停止の決定を受けることなどにより救済を受けることが可
能であると考えられる。また,被控訴人が運送収入の減少等の経済的損害
を被るとしても,車両数90台で営業する被控訴人の事業基盤に深刻な影
響を及ぼすとまでは考えられず,上記経済的損害は,後の金銭賠償によっ
て十分回復可能というべきである。そうすると,使用停止処分2によって
被控訴人に「重大な損害を生ずるおそれ」があるものとは認められない。
これに対し,事業許可取消処分については,被控訴人が同処分を受けた
場合,タクシー事業の遂行自体が不可能になり,そうなれば当然被控訴人
の事業基盤に深刻な影響が及ぶものといえる。したがって,同処分が違法
であった場合,同処分がされることにより生ずる損害は,処分がされた後
にその取消訴訟等を提起して執行停止の決定を受けることなどにより容易
に救済を受けることができるものであるとはいえず,処分がされる前に差
止めを命ずる方法によるのでなければ救済を受けることが困難なものであ
るというべきである。
控訴人は,事業許可取消処分がされても,被控訴人が取消訴訟を提起し
かつ執行停止決定を受ければ,一定期間でタクシー事業を継続できる地位
を回復することができるし,事業許可取消処分による損害は,事後的な金
銭賠償により回復可能である旨主張する。しかし,上記のとおり,事業許
可取消処分によりタクシー事業の継続は全く不可能になる。また,その後
取消訴訟を提起して執行停止を申し立て,その決定を得るまでには相応の
期間を要する。したがって,仮に執行停止を得ることができても,それま
でに多大な経済的損害を受けるおそれがある。よって,控訴人の上記主張
は採用することができない。
なお,被控訴人は,運賃変更命令,使用停止処分2,事業許可取消処分
は事業許可取消処分に向けて反復継続的かつ累積的にされるから,一体と
して評価すべきである,一体として評価しないとしても,密接な関係を無
視すべきではない旨主張する。しかし,上記判示のとおり,運賃変更命令,
使用停止処分2及び事業許可取消処分は,その目的は共通であるが,要件・
効果を異にし,重大な損害の要件の有無を個別に判断することを妨げる事
情は認められない。したがって,これらを一体として評価すべき理由はな
く,一体として評価することは適切でもない。密接な関係があるといって
も同様である。
ウ以上によれば,運賃変更命令及び事業許可取消処分については,これら
の処分がされることにより「重大な損害を生ずるおそれ」があると認める
ことができる。一方,使用停止処分2については,そのように認めること
はできない。
(3)補充性の要件について
運賃変更命令及び事業許可取消処分の差止めを求める訴えが補充性の要件
を満たすことは,原判決「事実及び理由」の第3の1(3)に記載のとおりで
あるから,これを引用する。ただし,原判決33頁20行目の「,運賃変更
命令違反を理由とする使用停止処分」を削る。
(4)以上のとおり,運賃変更命令及び事業許可取消処分の差止めを求める訴え
は,差止めの訴えの訴訟要件を満たし,適法である。
一方,使用停止処分2の差止めを求める訴えは,差止めの訴えの訴訟要件
を満たさず,不適法というほかない。
3争点4(近畿運輸局長による裁量権の逸脱濫用)について
(1)当裁判所も,公定幅運賃の範囲の指定に関する国土交通大臣等の判断には
一定の裁量が存すること,しかし,本件公定幅運賃公示に係る公定幅運賃の
範囲の指定については,近畿運輸局長の判断に裁量権の範囲を逸脱し,又は
その濫用があるものと判断する。その理由は,(2)のとおり,当審における
控訴人の主張に対する判断を付加するほかは,原判決「事実及び理由」の第
3の2に記載のとおりであるから,これを引用する。
(2)当審における控訴人の主張に対する判断
ア控訴人は,国土交通大臣等には公定幅運賃の範囲の指定に当たり広範な
裁量があると主張する。
確かに,国土交通大臣等の判断には一定の裁量が存するが,一定といお
うと広範といおうと,判断の過程において考慮すべき事項を考慮せず,そ
の内容が合理性を欠くものと認められるときは,裁量権の範囲の逸脱,濫
用というべきものである。
イ控訴人は,近畿運輸局長の判断に裁量権の範囲の逸脱・濫用がないとし
て,自動認可運賃の幅は合理的に定められており,公定幅運賃制度導入時
においても標準的な事業者の適正な運賃であった,自動認可運賃の幅は公
定幅運賃の範囲と趣旨・目的を同じくするなどと主張する。
しかし,引用した原判決「事実及び理由」の第3の2(1)のとおり,特措
法以前の道路運送法の下では,タクシー事業者は,運賃について国土交通
大臣の認可を受けなければならず,その認可は,能率的な経営の下におけ
る適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えないものであること等の基
準によるものとされていた。そして,行政運用上の措置として,すなわち,
それぞれの地域に膨大な数の事業者が存在するタクシー事業においては,
すべての事業者の運賃を個別に審査し,その適否を個別に判断することは
事実上困難であり,集合的に処理せざるを得ない面がある(乙18)ため,
自動認可運賃が設定されていたのであり,下限割れ運賃である場合にのみ,
原則どおり,個別の審査を行うこととされていた。
証拠(乙18)によれば,自動認可運賃の上限は,各地域において標準
的,能率的な経営を行っている複数事業者の全体の収支が償う水準の運賃
という考え方で設定され,下限は,これらの事業者のうちでも,他の事業
者に比べ,特に効率的な経営を行った場合に収支が償う水準の運賃という
考え方で設定されていたことが認められるが,乙18に示されている自動
認可運賃の下限の設定方法と下限割れ運賃に対する審査方法をみても,考
え方は連続している。したがって,下限割れ運賃の認可を個別に受けてい
た事業者も「特に能率的な経営を行った事業者」に分類することは,十分
可能である。
以上によれば,道路運送法の下では,自動認可運賃で認可を受けて営業
する事業者も下限割れ運賃のため個別の審査を受けた上で認可を受けて営
業する事業者も,等しく,効率的な経営の下における適正な原価に適正な
利潤を加えた運賃を設定して営業する事業者であったということができる。
そうすると,自動認可運賃制度において下限割れ運賃で営業していたタ
クシー事業者が特措法の「能率的な経営を行う標準的な」事業者から排除
されるいわれはないと解される。とりわけ,証拠(乙21の1・3)によ
れば,平成26年1月の時点で,近畿運輸局管内においては,他管内に比
べ,下限割れ運賃の事業者が多く,その割合も全事業者の12%を占めて
いたことが認められるから,これを「能率的な経営を行う標準的な」事業
者から排除することは不合理と考えられる。
そもそも,自動認可運賃の幅が合理的であったとしても,自動認可運賃
の幅は公定幅運賃の範囲と趣旨・目的を同じくするとの根拠は見当たらな
い。道路運送法の認可基準の規定と特措法16条2項の規定とは要件が一
致するわけではなく,特措法における公定幅運賃と道路運送法の下での自
動認可運賃とは要件・効果が明らかに異なる(繰り返すまでもなく,公定
幅運賃は,範囲外の運賃での営業を一切認めないという仕組みになってい
る。)。したがって,公定幅運賃制度という新たな制度を導入した以上,自
動認可運賃の範囲の上限を超える運賃の認可申請がなかったからといって,
運賃原価を見直す必要がなかったとは考えられない。
控訴人は,公定幅運賃の範囲を定めるに当たって,過当競争に起因する
と考えられる事故の発生など,輸送の安全が脅かされるおそれがあったこ
とを考慮すべきようにも主張する。
しかし,控訴人の主張のようなおそれがあることと,自動認可運賃をそ
のまま公定幅運賃にしてよいこととは直ちに結びつくわけではない。控訴
人は,下限割れ運賃の事業者では事故が多いということを言いたいのであ
ろうが,乙43のみで上記事実は認められず,また,これに反する結果(乙
5の34頁)もある。
さらに,控訴人は,下限割れ運賃を排除するために公定幅運賃が導入さ
れたと主張するが,特措法が自動認可運賃制度下で認められていた下限割
れ運賃による営業をすべて否定し,規制することを目的としていることを
表す規定は同法上見当たらない。下限割れ運賃で営業するタクシー事業者
の存在が運賃値下げ競争のおそれを助長していたことの的確な証拠もない。
下限割れ運賃で営業していた事業者における原価を公定幅運賃の設定に当
たって考慮したとしても,このような考慮をした上で設定された運賃の下
限を下回る値下げ競争は規制されるのであるから,特措法の趣旨を没却す
ることにはならない。
以上のとおり,公定幅運賃制度という新たな制度の下で近畿運輸局長が
公定幅運賃を設定するに当たり,下限割れ運賃で営業する事業者がいるの
であれば,このような営業をしていた事業者における原価も考慮すべきで
あったというべきであり,考慮しないことが近畿運輸局長の裁量権の範囲
内にとどまるということができない。
(3)よって,本件における近畿運輸局長の公定幅運賃の範囲の指定について
は,裁量権の範囲の逸脱又は濫用があったものと認められ,これを前提に運
賃変更命令や事業許可取消処分をすることにも裁量権の範囲の逸脱又は濫
用があるというべきである。
したがって,被控訴人の,運賃変更命令及び事業許可取消処分の差止請求
は理由がある。
4差止めの範囲について
控訴人は,原判決の主文によれば,本件公定幅運賃公示を前提としない運賃
変更命令や,今後全ての特措法16条の4第3項に基づく運賃変更命令違反を
理由とする使用停止処分や事業許可取消処分まで差し止めることになると主
張する。
しかし,差止めの訴えの訴訟物は,被控訴人の実体法上の(本件でいえば特
措法上の)差止請求権であり,その範囲は,主文(被控訴人の立場に立てば「請
求の趣旨」)のみで決まるものではなく,理由(被控訴人の立場に立てば「請
求の原因」)と合わせて決まることは,給付訴訟であれば当然のことである。
本件でいえば,被控訴人は,公定幅運賃制度が憲法22条1項に反して違憲で
あるとの主張とともに,本件公定幅運賃公示に係る公定幅運賃の範囲の指定に
近畿運輸局長の裁量権の逸脱濫用があり,そのような公定幅運賃を前提として
される運賃変更命令等の処分が違法であると主張して差止めを求め(後者の主
張につき,原判決「事実及び理由」の第2の3(4)の「(原告の主張)」),原判
決は,後者の主張を容れて運賃変更命令,使用停止処分2,事業許可取消処分
の差止請求を認容し,当裁判所も,運賃変更命令,事業許可取消処分の差止請
求については同様の判断に立つ。
したがって,本件で差し止められた運賃変更命令は,本件公定幅運賃公示に
係る公定幅運賃を前提とするものであり,事業許可取消処分は,上記の運賃変
更命令違反を前提とするものである。
なお,事実審の口頭弁論終結時以降,事実関係に変化が生じたとき(例えば,
行政庁が新たに公定幅運賃の範囲を指定した場合など)には,本判決の効力は
及ばないというべきである。
よって,控訴人の上記主張は採用することができない。
第4結論
よって,被控訴人の運賃変更命令及び事業許可取消処分の各差止請求は理由
があり,使用停止処分2の差止請求に係る訴えは不適法であるから,原判決の
うちこれと異なる部分を変更し,その余の控訴は理由がないから,これを棄却
することとして,主文のとおり判決する。
大阪高等裁判所第3民事部
裁判長裁判官江口とし子
裁判官影浦直人
裁判官新谷祐子

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