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平成16年5月26日判決言渡 
平成13年(ワ)第23142号 預金証書返還本訴請求事件
平成14年(ワ)第 5318号 反訴請求事件
 本訴原告・反訴被告(以下「原告」という。)大王製紙株式会社
 本訴被告・反訴原告(以下「被告」という。)秋田県 
    主文
1 被告は,原告に対し,別紙1の預金証書目録記載の預金証書を引き渡せ。
2 被告の反訴請求を棄却する。
3 訴訟費用は,本訴反訴を通じ,被告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
              事実及び理由  
第1 請求
 1 本訴事件
主文第1項同旨
2 反訴事件
  原告は,被告に対し,金83億9437万5244円並びにうち金80億0762万69
95円に対する平成13年11月10日から及びうち金3億8674万8249円に対す
る平成15年10月8日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 原告は,秋田市に製紙工場を建設するに当たり,被告及び秋田市(一括して,以
下「被告ら」という。)との間で,「大王製紙株式会社秋田工場建設に関する基本
協定書」(別紙3。以下「基本協定書」という。)を取り交わし,その後,これに付随
する「大王製紙株式会社秋田工場建設に関する基本協定書附属覚書」(別紙6。
以下「附属覚書」という。)を作成したところ,附属覚書には,天災地変以外の事
由(被告らの責めに帰すべき場合を除く。)により約定の期限までに原告と被告間
の工場用地の売買契約及び工業用水の給水契約が締結されない場合には,原
告が一定額の違約金を支払うとの約定があり,違約金支払に関する保証措置と
して,原告の別紙1の預金証書目録記載の預金証書(以下「本件預金証書」とい
う。ただし,同目録は,定期預金の書換継続手続後のものである。)について,違
約金債権を被担保債権とし,被告を質権者とする質権が設定されたが,結局,原
告は,計画していた秋田市への製紙工場建設を中止し,工場用地の売買契約及
び工業用水の給水契約は締結されないこととなった。
  本訴事件は,原告が,附属覚書所定の約定に基づく違約金債権の不発生が確
定したこと又は秋田市への進出に関する被告との質権設定契約を含む一連の契
約を解除したことにより質権設定契約は終了したとして,被告に対し,所有権に基
づき,本件預金証書の返還を求めた事案であり,反訴事件は,原告の秋田市へ
の製紙工場建設が中止され,工場用地の売買契約及び工業用水の給水契約が
締結されなかったことを理由に,被告が,原告に対し,附属覚書所定の約定に基
づき,違約金83億9437万5244円並びにうち金80億0762万6995円に対す
る平成13年11月10日(支払請求による弁済期の翌日)から及びうち金3億867
4万8249円に対する平成15年10月8日(訴え変更申立書送達の日の翌日)か
ら各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事
案である。
2 争いのない事実等(証拠等により容易に認定できる事実については,末尾に証
拠等を記載した。)
(1) 原告は,紙及び板紙の製造,加工及び販売,パルプの製造及び販売等を業
とする総合製紙メーカーである。
(2) 秋田湾地区は,昭和40年,新産業都市の区域の指定を受け,被告は,昭和
45年,秋田湾大規模工業開発計画を策定し,昭和53年には,二千数百ヘク
タールの海面を埋め立て,製鉄所の誘致を予定していた。
    そして,被告は,製鉄所の誘致に必要な工業用水を確保するため,国の玉川ダ
ム建設計画(昭和52年着工,平成2年完成)に参加した。しかし,社会経済情
勢の大幅な変動や鉄鋼需要の低迷等から製鉄所の誘致は実現せず,昭和60
年代には,玉川ダムに日量40万トンもの大量の未利用水を生ずることとなっ
た。そのため,被告は,緊急の課題として,未利用水の需要先となる工業用水
多消費型企業の誘致に取り組んでいた。
  (3) 昭和63年7月28日,被告商工労働部長は,原告の担当者と会談し,秋田市
への原告の製紙工場進出(以下「秋田進出」といい,建設予定の原告の製紙
工場を「本件工場」という。)を要請し,工場用地及び工業用水の単価,埠頭の
利用等の進出のための諸条件について説明した。その際,同部長は,既存の
秋田第一工業用水道から1トン当たり12円50銭の単価ですぐに工業用水の
供給が可能であり,原告から秋田進出の事業計画が示されれば,さらに具体
的な説明ができると申し入れた(本件工場へ供給する工業用水について,原告
が負担する料金の1トン当たりの単価を,以下「本件用水単価」という。)。
  (4) 製紙工場の操業には大量の工業用水を必要とし,同業他社の主力工場が地
下水の利用等により製造コストを低く押さえていたことから,経常費となる工業
用水の単価は,原告が秋田進出の経済的合理性を検討するに当たり重要な
要素となっていた。そこで,本件工場の競争力を確保するため,原告は,昭和
63年10月3日,被告に対して進出の計画概要を示す際に提出した「秋田港工
業用地に関する要望事項」と題する書面(甲第13号証)でも,進出を検討する
に当たっての要望として,用地や港湾施設の整備提供を求めるとともに,本件
用水単価を12円50銭以下として,1日当たり13万トンの取水権が確保される
ことを求めていた。
  (5) 原告と被告らは,平成元年1月20日,秋田進出に関する確認書として,次の
内容を含む「大王製紙株式会社秋田進出に係る覚書」(別紙2。甲第1号証,
以下「本件覚書」という。)に調印し,原告の秋田進出が正式に決定した。
   ア 本件用水単価は,次の使用水量を前提に12円50銭とし,このために必要な
措置を被告らが講ずる(第3条)。
(ア) 平成 7年 1日当たり 7万トン
(イ) 平成12年 1日当たり13万トン
(ウ) 平成17年 1日当たり20万トン
イ 原告と被告らは,本件工場の建設計画及び事業計画を確認後,工場建設
及び操業に係る基本協定,公害防止協定その他の必要な取決めについて
別途定める(第4条)。
  (6) 原告は,平成元年3月31日,被告に対し,本件覚書に基づく工場建設計画及
び事業計画を記載した同月24日付けの秋田港工業用地における事業計画を
提出した。この事業計画は,Ⅰ期工事(平成6年4月着工,平成7年7月完
成),Ⅱ期工事(平成11年着工,平成12年完成),Ⅲ期工事(平成16年着工,
平成17年完成)に分かれ,設備投資額は,Ⅰ期計画が1056億円,Ⅱ期計画
が806億円,Ⅲ期計画が927億円の合計2789億円(いずれも用地代を除
く。)というものであった(甲第45号証)。
  (7) 原告と被告らは,平成2年12月21日,秋田進出の円滑な遂行及び地域の健
全な発展を図ることを目的として,次の内容を含む基本協定書(別紙3。甲第2
号証)に調印した。
   ア 被告らは,本件工場の建設に必要な用地を造成する(第2条)。
イ 本件工場用地のうち,被告は56万1580平方メートル,秋田市は6万200
0平方メートルの造成等を行い,各議会の議決を得た後,原告と土地売買契
約を締結のうえ,平成6年4月までに譲渡する(第3条第1項。原告と被告間
で本件工場用地について予定されていた売買契約を,以下「本件売買契約」
という。)。
   ウ 被告らが原告に譲渡する用地の価格は,造成費用等をもとに定める(第4
条)。
エ(ア) 被告は,原告の操業に伴い発生する産業廃棄物の処分場7万4620
平方メートルを平成7年7月までに確保する(第6条第1項。秋田進出に関
して確保することが予定されていた産業廃棄物処分場を,以下「本件処分
場」という。)。
(イ) 原告は,本件処分場の整備等に要する費用を負担する(第6条第3
項)。
   オ(ア) 本件用水単価及び使用水量は,本件覚書に定めるところによる(第7条
第1項)。
(イ) 被告らと原告は,経済事情の変化等により,本件用水単価が不相当と
なった場合は,別途協議して改定する(第7条第2項)。
(ウ) 被告らと原告は,原告の事業運営に起因し,本件覚書第3条に定める工業
用水の使用水量及び時期について変更する必要が生じたときは,これに
伴う原告の費用の負担について,別途協議して定める(第7条第3項)。
カ(ア) 原告は,工場建設及び操業に当たり,住民の健康を保護し,地域の環
境を保全するため,公害の防止に最善の対策を講ずる(第8条第1項)。
 (イ) 前項の対策について,被告らと原告は,別途協議のうえ工場建設着工
前までに公害防止協定を締結する(第8条第2項)。
  (8) 被告は,原告に対し,平成4年5月12日,本件処分場の建設予定地である海
底地質の遮水性に関する問題が指摘されたことに対応してボーリング調査を
行うため,埋立工事の完成が遅れるとの見通しを伝え,同年6月30日,この埋
立工事が最大2年間程度遅れると通知した。
  (9)ア 秋田県の住民は,平成4年7月23日,被告知事及び秋田市長(一括して,
以下「被告知事ら」という。)を被告として,①被告知事が,本件用水単価を1
2円50銭とする原告との合意に基づき,工業用水道事業会計を補助するた
め,被告の公金を支出すること,②秋田市長が,秋田第二工業用水道の料
金支払を補助するため,原告に秋田市の公金を支出すること(①,②の公金
支出を一括して,以下「本件補助」という。)の差止めを求める訴訟を秋田地
方裁判所に提起した(同庁平成4年(行ウ)第3号,第5号事件。以下「本件
住民訴訟」という。)。
   イ 本件住民訴訟の主たる争点は,本件覚書第3条に基づき,本件用水単価を1
2円50銭以下とすることを目的とした本件補助の適法性にあった。そして,
この訴訟において,被告知事は,「高水準の料金を設定すれば,現実の問
題として秋田湾地域で工業用水を利用する企業の誘致は実現せず」,また,
「秋田県が大王製紙の誘致に成功した最大の要因は,製紙業にとって死活
的な意味を持つ大量の工業用水道の存在と,将来の国際競争に耐え得る
物流拠点としての秋田港の存在であった」と主張していた。
  (10) 原告は,被告に対し,平成4年8月25日,秋田進出の延期を申し入れ,平成
5年4月23日,操業開始を平成9年7月に2年間延期するとともに,本件工場
の建設計画に変更を加える内容の変更事業計画書を提出し,被告もこれを了
解した(この延期を,以下「第1回延期」という。)。
  (11) さらに,原告は,平成5年11月15日,本件工場の着工を平成10年4月に,
操業開始を平成12年7月に延期することを申し入れ,原告と被告らは,平成6
年3月29日,本件覚書及び基本協定書を変更するために,次の内容を含む
「大王製紙株式会社秋田進出に係る覚書の一部変更覚書」(別紙4。甲第3号
証,以下「第1変更覚書」という。),「大王製紙株式会社秋田工場建設に関す
る基本協定書の一部変更協定書」(別紙5。甲第4号証,以下「変更協定書」と
いう。)及び附属覚書(別紙6。甲第5号証)に調印し,本件工場の着工は平成
10年4月に,操業開始は平成12年7月に延期されることになった(この延期
を,以下「第2回延期」という。)。
   ア 第1変更覚書
     本件用水単価は,秋田への進出交渉の際に原告が示した使用水量を前提
に,12円50銭とし,このために必要な措置を被告らは講ずる。
     本件用水単価は,平成6年2月の原告の事業計画変更(平成12年7月・1日
当たり7万トン,平成18年・1日当たり13万トン,平成23年・1日当たり20
万トン)により,原告と被告らが協議して改定する。
   イ 変更協定書
    (ア) 本件工場用地の譲渡期限(基本協定書第3条第1項)を,平成10年4月に
変更する。
    (イ) 本件処分場の確保期限(基本協定書第6条第1項)を,平成12年7月に変
更する。
   ウ 附属覚書
    (ア) 被告が新たに造成する工場用地について,天災地変以外の事由(被告ら
の責に帰すべき場合を除く。)により,平成10年4月までに土地売買契約
の締結に至らない場合は,原告は,被告が当該工業用地造成事業に要
する経費(本件処分場を含む秋田港飯島地区工業用地造成事業で予定
している全体事業費)の10分の3に相当する金額を被告に支払う(第1
条)。
    (イ) 被告が新たに建設する工業用水道について,天災地変以外の事由(被告
らの責に帰すべき場合を除く。)により,平成12年7月までに工業用水の
給水契約(被告が原告に供給を予定していた工業用水の給水契約を,以
下「本件給水契約」という。)の締結に至らない場合は,原告は,被告がそ
れまでに当該工業用水道事業に要した経費のうち,原告の給水契約予定
水量に按分して算定される金額を被告に支払う(第2条。附属覚書第1条
及び第2条を一括して,以下「本件違約金条項」といい,本件違約金条項
に基づき原告が支払義務を負担する金員を「本件違約金」という。)。
    (ウ) 原告は,本件違約金条項について,平成6年度中に被告の指定する方法
による保証措置を講ずるものとし,第1条の金額は,当初事業計画で見込
んだ当該工業用地造成事業費を,また,第2条の金額は,平成5年11月
までに当該工業用水道事業に要した経費をもとに算定する(第3条)。
  (12) 原告と被告は,附属覚書第3条に基づき,平成6年9月30日,本件違約金債
権を担保するため23億8500万円の定期預金について質権設定契約を締結
したが,その後これを一旦解約し,平成7年3月31日,原告は,被告に対し,
本件違約金条項の定める違約金債権を被担保債権とする質権を預金債権55
億6600万円(工業用地造成事業費79億5000万円の3割に相当する23億
8500万円と,秋田第二工業用水道事業費59億1680万1000円の37.2分
の20に相当する31億8100万円の合計額)に設定して,預金証書を引き渡し
た(甲第6号証,第7号証の1ないし5,第8号証。以下「本件質権設定契約」と
いう。)。この預金債権は,満期の到来に伴い書換継続手続が取られて,本件
預金証書記載の6件となった(甲第11号証)。
  (13) 秋田地方裁判所は,平成9年3月21日,本件住民訴訟について,地方公営
企業法第17条の3及び地方自治法第232条の2に違反するとの理由で,本
件補助の一部(①被告知事の公金支出のうち,a秋田第二工業用水道の専用
施設費のうち30万トン分の企業債支払利息分に対応する部分の補助,b借入
金の支払利息分(水源費及び専用施設費の30万トン分並びに先行投資分)に
対応する部分の補助,②秋田市長の公金支出のうち平成23年分以降の補
助)の支出を差し止める判決を言い渡した。
    これに対し,被告知事らは,同月28日,仙台高等裁判所秋田支部に控訴した
(同庁平成9年(行コ)第2号,同第3号事件)。
  (14) 原告と被告らは,平成10年4月30日,本件覚書,基本協定書,第1変更覚
書,変更協定書及び附属覚書を変更するため,次の内容を含む「大王製紙株
式会社秋田進出に係る覚書等を変更する覚書」(別紙7。甲第9号証,以下「第
2変更覚書」という。)を締結し,秋田進出を3年間延期することに合意した(こ
の延期を,以下「第3回延期」という。)。
   ア 本件用水単価は,秋田への進出交渉の際に原告が示した使用水量(平成15
年7月・1日当たり7万トン,平成21年・1日当たり13万トン,平成26年・1日
当たり20万トン)を前提に13円70銭とし,このために必要な措置を被告ら
は講ずる。
   イ(ア) 本件工場用地の譲渡期限を,平成13年4月に変更する。
    (イ) 本件処分場の確保期限を,平成15年7月に変更する。
   ウ(ア) 附属覚書第1条の本件売買契約の締結期限を平成13年4月に,同第2
条の本件給水契約の締結期限を平成15年7月に変更する。
    (イ) 附属覚書第4条として,「被告らと原告は,本件住民訴訟の控訴審に起因
して本件覚書第3条で定める条件によって,原告に対して工業用水の供
給を行えるか否かを平成13年3月末までに確定できないものと見込まれ
るときは,本件覚書,基本協定書及び附属覚書について協議を行う。」を
追加する(以下,第2変更覚書で追加された附属覚書第4条を単に「附属
覚書第4条」という。)。
  (15) 被告の県議会において,平成12年6月,本件工場も環境影響評価(環境ア
セスメント)の対象となる秋田県環境影響評価条例が可決された(平成12年秋
田県条例第137号,平成13年1月4日施行,以下「アセス条例」という。)。
  (16) 本件住民訴訟の控訴審は,平成12年7月26日,口頭弁論が終結されたが,
判決の言渡期日は追って指定とされた。この時期には,原告及び被告とも,本
件住民訴訟の控訴審判決については敗訴当事者による上告が必至であると
予想していた。
  (17) 原告のA会長及びB社長は,平成12年11月22日,東京本社を訪問した被
告のC知事に対し,秋田進出の可能性について否定的な発言をした(以下「原
告代表者発言」という。ただし,その経緯,内容及び趣旨には争いがある。)。
    C知事は,同月27日,県議会の政党懇談会及び記者会見において,原告代表
者発言に言及し,これを受けて,同月28日,原告が秋田進出を断念したとの
新聞報道がされた(甲第54号証,乙第5号証)。 
  (18) 原告は,被告らに対し,平成12年12月8日,秋田進出が事実上不可能にな
ったとの見解を表明して,附属覚書第4条に基づく協議(以下「三者協議」とい
う。)の開始を申し入れ,さらに,同月27日,再度,三者協議の早期開催を申し
入れ,原告と被告らは,三者協議を開始することとなった。
    平成13年1月29日及び同年2月15日の三者協議を経て,原告は,同年4月2
7日の三者協議の席上,被告らに対し,秋田進出の大前提となる本件用水単
価の確定時期が全く不透明であること等により進出は断念せざるを得ないと判
断したので,今後は進出がないことを前提に,残された問題を解決するよう協
議したいと表明した(以下「進出断念表明」という。)。
  (19) 本件住民訴訟の控訴審は,平成12年12月27日及び平成13年3月15日,
進行協議期日を開き,その後の続行期日として同年5月28日を指定してい
た。しかし,原告の進出断念表明により本件補助が行われる見込みがなくなっ
たことなどから,同年10月9日,「①被告知事は,今後,秋田第二工業用水道
について,上水等他の用途への転換も視野に入れつつ,活用の可能性を検討
していくものとする。②被告知事は,原告の誘致を目的として設置された本件
処分場について,他の目的での活用を図るときは,地域住民をはじめ県民へ
の情報公開に努め,法令及び条例の規定に基づき適切な環境保全及び安全
確保の措置をとるものとする。③第一審原告らである住民は訴えの全部を取り
下げ,被告知事らはこれに同意する。」旨の和解が成立して,終了した(乙第4
号証)。
(20) 原告は,被告に対し,平成13年10月19日付けの内容証明郵便で,本件
預金証書の返還を求めた(甲第33号証)。一方,被告は,原告に対し,同日,
本件違約金条項に基づき,本件違約金80億0762万6995円を同年11月9
日までに支払うよう催告し,また,平成15年10月7日送達の訴え変更申立書
により,請求金額を3億8674万8249円拡張して,83億9437万5244円を
本件違約金として支払うよう求めた(乙第7号証)。
3 争点
(1) 被担保債権(本件違約金債権)の不発生の確定による本件質権設定契約の
終了
ア 本件違約金条項の意義(本件用水単価の確定と違約金支払義務の関係)
イ 本件売買契約及び本件給水契約(一括して,以下「本件売買契約等」とい
う。)が締結されるに至らなかった理由
ウ 本件違約金債権の不発生の確定
  (2) 原告と被告間の本件覚書,基本協定書,第1変更覚書,変更協定書,附属覚
書,第2変更覚書及び本件質権設定契約等が一体となった秋田進出に関する
契約(以下「本件進出契約」という。)の解除による本件質権設定契約の終了
(3) 本件違約金の額
 4 争点についての当事者の主張
(1) 争点(1)ア(本件違約金条項の意義)について
ア 原告の主張
(ア) 本件違約金条項の適用に関する合意
 本件違約金条項は,損害賠償額の予定(民法420条1項)であり,「天
災地変以外の事由(被告らの責に帰すべき場合を除く。)」とは,債務者で
ある原告に帰責事由がある場合をいうから,原告は,帰責事由の不存在
を立証して損害賠償責任を免れることができると解するのが相当である。
そして,本件住民訴訟に起因して本件用水単価が確定しないことが被告
らの帰責事由に当たることは,原告と被告ら間の附属覚書の締結交渉の
過程においても確認され,その旨の合意が附属覚書の締結までに成立し
ていた。
(イ)a 製紙工場では大量の工業用水を必要とすることから,原告の秋田進
出は,本件用水単価が12円50銭(後に,13円70銭に変更)で長期的
に維持されることを重要な前提としており,被告もこれを十分に認識して
いた。したがって,秋田進出に当たっては,工場用地取得のための本件
売買契約に先立ち,本件給水契約の要素である本件用水単価が12円
50銭(後に,13円70銭に変更)に確定することが大前提となっており,
本件売買契約と本件給水契約は不可分の関係にあった。
b 本件用水単価の確定は秋田進出の可否を左右する重要事項であるこ
とから,本件覚書第3条及び基本協定書第7条は,本件売買契約締結
に際しての停止条件又は被告の先履行義務として,本件用水単価が1
2円50銭(後に,13円70銭に変更)に確定されることを前提にしてい
た。附属覚書第4条において,本件用水単価を確定する期限として平成
13年3月末と定めているのも,第3回延期で最終的に合意された本件
売買契約の締結期限である同年4月の直前とするためであった。
 そして,本件住民訴訟の提起により,本件補助及びこれを前提とした
本件用水単価の適法性に疑義が生じている状況下において,本件用
水単価を確定するためには,本件住民訴訟において,その適法性が確
認される必要があり,本件違約金条項も,本件用水単価の適法性が確
認されることを適用の当然の前提としていたし,このことは,附属覚書
の締結の際の協議でも確認されていたことである。
c 以上のとおり,本件違約金条項は,平成13年3月末までに本件用水
単価の適法性が確定し,本件売買契約を締結することができる状態と
なっていることを前提とした規定である。
イ 被告の主張
(ア)a 原告と被告らとの間において,本件違約金条項の適用に関し,本件
住民訴訟に起因して本件用水単価が確定しないことは被告らの帰責事
由に当たるとの合意があったことは否認する。
b 本件違約金条項でいう「天災地変以外の事由(被告らの責に帰すべき
場合を除く。)」とは,原告に帰責事由がある場合に限られず,天災地変
及び被告らに帰責事由がある場合を除く全ての事由を指すことは,そ
の文言上からも明らかであるから,原告が,帰責事由の不存在を立証
しても,本件違約金の支払義務を免れることはできない。
(イ)a 本件用水単価の確定及び本件住民訴訟における本件用水単価の適
法性の確認を本件売買契約締結の停止条件又は先履行義務とする旨
の合意があったことは否認する。
b 本件用水単価の確定及び本件住民訴訟における本件用水単価の適
法性の確認は,秋田進出に関して原告と被告ら間で取り交わされた本
件覚書,基本協定書,第1変更覚書,変更協定書,附属覚書及び第2
変更覚書等の書面(一括して,以下「本件進出合意書」という。)におい
て,その文言上,何の要件としても規定されていない。本件進出合意書
に何らの記載がない以上,当事者間にその合意が形成されていないこ
とは明らかである。
(2) 争点(1)イ(本件売買契約等が締結されるに至らなかった理由)について
ア 原告の主張
(ア) 本件住民訴訟は,控訴審判決の時期及び結論を見通すことができな
かったうえ,その後に予想される上告審での審理期間も考慮すると,平成
13年3月末までに,本件用水単価13円70銭の適法性が確認されないこ
とは確実であった。したがって,本件用水単価の確定が本件売買契約締
結の停止条件又は被告の先履行義務である以上,同年4月末までに本
件売買契約を締結することも事実上不可能であった。
 このように,本件売買契約等の締結に至らなかった原因は,本件住民訴
訟の未解決による本件用水単価の未確定にあったものというべきである。
(イ) なお,秋田進出が中止されたのは,①秋田進出が,3回にわたる延期
を重ね,当初の工場用地取得予定時期(基本協定書第3条第1項)から7
年,本件覚書の締結から12年を経過していたこと,②本件住民訴訟の帰
趨が全く不明であったこと,③同業他社が次々と大型投資を行っていた
中,原告は,本件違約金債務の担保として本件預金証書を差し入れてい
たため,他に大型投資を行うことができなかったこと,④最終的に,本件用
水単価の適法性が確認されたとしても,本件住民訴訟の解決,アセス条
例に基づく環境影響評価の実施(ただし,環境影響評価の実施は,事業
計画の修正変更による対応ができるから,原告にとって,進出の障害とな
るものではなく,解決すべき手続上の問題点の一つにすぎなかった。)等
により,製紙工場の操業開始は,10年以上先になると予想されたことを
考慮し,厳しい競争にさらされ,株主の利益を図るべき責任を有する民間
企業である原告にとって,これ以上,秋田進出を延期し,長期間にわたり
進出の可否が不確定な状況を継続することには到底耐えられないとのや
む得ない判断に基づくものであった。
イ 被告の主張
 原告の秋田進出が中止され,本件売買契約等が締結に至らなかったの
は,専ら原告の都合,企業事情に基づく経営判断によるものであった。
 本件住民訴訟において,本件用水単価の適法性が平成13年3月末まで
に確認されなかったとしても,原告は,附属覚書第4条に基づく被告らとの三
者協議のうえ秋田進出を延期すべきであったにもかかわらず,一方的に進
出を断念するという意思決定を行った。これは,原告の経営判断の結果であ
り,原告主張のア(イ)①ないし④は,いずれも原告の企業事情にほかならな
い。
(3) 争点(1)ウ(本件違約金債権の不発生の確定)について
ア 原告の主張
(ア) 本件住民訴訟において,平成13年3月末までに本件用水単価の適法
性が確認されず,本件用水単価が確定できなかったことは,本件住民訴
訟の当事者ではない原告の帰責事由に当たらないから,本件違約金条項
に基づく違約金債務は発生しないことが確定した。
(イ) 次の事情によれば,平成13年3月末までに本件用水単価が確定され
なかったことは,被告らの帰責事由に当たるというべきである。
a 被告は,原告に対し,当初,秋田第一工業用水道から工業用水を供給
すると申し出ていたが,昭和63年11月25日,秋田第二工業用水道に
供給元を変更した。秋田第一工業用水道においては,1トン当たり12
円50銭での供給実績があったから,本件補助及び本件用水単価の適
法性が問題視される余地はなかった。
b 被告は,本件用水単価を決定するに当たり,地方自治法,地方公営企
業法等の関連法規を十分に検討し,本件補助及び本件用水単価の適
法性に疑義を生じさせない措置を取るべきあったのに,これを怠った結
果,被告知事らは,本件住民訴訟の第一審において敗訴した。
c 秋田進出及び本件補助についての住民の反対運動及び反対意見へ
の被告の対応は不十分なものであり,本件住民訴訟が提起される一因
となった。
d 被告は,本件住民訴訟の第一審で十分な主張立証をせず,また,その
早期解決を図るための十分な努力をしなかった。
e 被告は,本件住民訴訟の判決内容及び審理期間の見通しについて,
極めて甘い見通しを原告に伝え続け,その判断を誤らせた。
f 原告代表者発言は,東京本社を表敬訪問した被告のC知事から,「秋
田進出に関する率直な見解を聞かせて欲しい。」との申出を受け,本件
住民訴訟及び環境影響評価の必要性を理由に挙げて,個人的かつ非
公式な見解として,秋田進出が事実上不可能であるとの認識を示した
ものであった。しかし,C知事は,A会長やB社長が用いなかった「秋田
進出を断念」との断定的な表現を用いて,あたかも原告が秋田進出の
断念を公式に決定し,その旨を被告に通知したかのような報道発表を
行ったのであり,これは,本件住民訴訟での敗訴判決を避けるため,原
告代表者発言を意図的に利用したものである。
(ウ) なお,附属覚書第4条は,平成13年3月末までに,本件住民訴訟の控
訴審において本件用水単価の適法性が確認されない場合,すなわち,本
件用水単価が13円70銭に確定しない場合には,原告が秋田進出自体を
見直し,これを中止することも含めて包括的な協議を行うことができること
を明らかにする趣旨で設けられた規定である。附属覚書第4条について
の被告の主張によれば,原告は,何らの目処もないまま,秋田進出の延
期だけを強いられ,さらに被告らとの間で秋田進出の時期に関する協議
が整わない場合には,本件用水単価が未確定であっても本件違約金の
支払を免れるために本件売買契約等を締結するほかないことになるが,
一方的に原告の不利となるこのような合意に,原告が応ずることはあり得
ない。
イ 被告の主張
(ア) 次の事情によれば,本件用水単価が確定しなかったことは,本件違約
金条項所定の天災地変や被告らの責に帰すべき事由には当たらないか
ら,原告は,本件違約金を支払う義務がある。
a 原告代表者発言は,A会長やB社長が,東京本社を訪れたC知事に対
し,本件住民訴訟やアセス条例に基づく環境影響評価のため,秋田進
出には長期間を要するところ,製紙業界では,その市場,原材料等の
変化が激しく,進出の構想を描くことはできず,秋田進出は事実上不可
能であるとの見解を表明したものである。このため,本件住民訴訟の控
訴審は,平成12年末から平成13年3月までの間に被告知事らが勝訴
する判決の言渡しが見込まれていたにもかかわらず,進行協議を重ね
ることになったのであり,本件住民訴訟が同月末までに解決しなかった
原因及び責任は,専ら原告にある。
 なお,原告代表者発言に関する報道発表については,その表現を含
めて事前に原告の了解を得ており,何らその真意に反するものではな
かった。
b 住民訴訟の提起は,住民の権利であり,訴訟の進行は,裁判所の訴
訟指揮によるものであるから,本件住民訴訟が平成13年3月末までに
解決しなかったことについて,被告らに責任があるとはいえない。
(イ) 附属覚書第4条は,平成13年3月末までに本件住民訴訟が解決せ
ず,本件用水単価の適法性が確認されなかった場合に,秋田進出の実施
を前提に,その時期について,原告と被告らが協議するとの趣旨を明らか
にしたものにすぎない。そもそも,進出の中止という根幹に関わる事項を,
本件覚書及び基本協定書に附帯する契約にすぎない附属覚書で規定す
ることなどありえないことである。
(4) 争点(2)(本件進出契約の解除による本件質権設定契約の終了)について
ア 原告の主張
 本件進出契約は,秋田進出を目的とする一体の契約であるが,原告は,
平成13年4月27日の三者協議の席上,被告らに対して,秋田進出の断念
を表明し,次の理由により,本件進出契約を解除するとの意思表示をしたか
ら,本件質権設定契約は終了した。
(ア) 法定解除
 被告は,本件進出契約において,本件用水単価13円70銭の適法性を
平成13年3月末までに確定する義務を負っていたところ,これを怠った。
(イ) 約定解除
 附属覚書第4条は,本件住民訴訟に起因して本件用水単価13円70銭
の適法性が平成13年3月末までに確定しない場合,原告が,被告らとの
三者協議を経たうえで,本件進出契約を解除できると定めているところ,
同時期までに,本件用水単価の適法性は確定しなかった。
(ウ) 事情変更の原則による解除
 本件進出契約の中核となる本件覚書及び本件協定書は,本件用水単
価が12円50銭(後に,13円70銭に変更)と確定されることをその基礎と
していたが,本件住民訴訟に起因して,本件用水単価の適法性に疑義が
生じ,原告は,秋田進出が可能な時期を見通すことができない状況となっ
た。このような状況は,本件進出契約を締結した当時,原告が予想できな
かったことであり,前記(2)ア(イ)の①ないし④で主張した各事情に照らす
と,これ以上,原告を本件進出契約に拘束することは著しく不当であり,事
情変更の原則により,原告は,本件進出契約を解除することができる。
イ 被告の主張
 解除に関する原告の主張はいずれも争う。
(5) 争点(3)(本件違約金の額)について
ア 被告の主張
(ア) 被告は,基本協定書第3条の規定に基づき,次のとおり工業用地(本
件処分場を含む。)の造成・取得を行った(面積は,造成工事等完了後の
実測値である。)。
a 新規埋立造成地        41万1161平方メートル
  (内訳)
    工場用地           30万8157平方メートル
道路用地              8827平方メートル
緑地用地            1万9557平方メートル
 (小計)    33万6541平方メートル
    本件処分場部分         7万4620平方メートル
 b 既存用地(国有海浜地) 5万5297平方メートル
  c 既存用地(既存埋立地) 18万4540平方メートル
     d 合計          65万0998平方メートル
    (イ) 被告は,平成2年度に,本件覚書第3条及び基本協定書第7条に基づき,
取水口から本件工場まで総延長1万5315メートルの管路を敷設する工
事に着手し,平成12年度末までの管路延長は,送水管5150メートル,
配水管1520メートルの合計6670メートルとなった。
(ウ) 被告が実施した工業用地造成事業及び工業用水道事業のための経費の
内訳並びにこれに基づく本件違約金額は,別紙8記載のとおりである。
 イ 原告の主張
(ア) 被告の工業用地造成事業及び工業用水道事業の実施内容及びその費
用は知らない。
  (イ) 附属覚書第1条は,工業用地造成事業に係る本件違約金額を,同事業
で予定している全体事業費の10分の3としているから,実際に要した経費
を基礎とする被告の本件違約金額についての主張は失当である。
(ウ) 原告と被告は,平成5年11月5日,同月以降の工業用水道事業の配管
工事の発注を中断すると合意したが,被告は,平成11年5月,原告の同
意を得ないまま工事発注を再開した。したがって,平成5年11月までに要
した工事経費59億1680万1000円を超える部分は,本件違約金額の
算定基礎とするべきではない。
(エ) 次の部分は,本件違約金額の算定基礎とするべきではない。
 a 本件処分場を除く新規埋立造成地33万6541平方メートルのうち,基
本協定書第3条に基づき造成する面積を超える部分
 b 基本協定書の締結時,既に造成済みの25万3400平方メートル
c 道路用地,緑地用地,既存用地(国有海浜地)
  d 借入金に係る利息
第3 争点に対する判断
 1 前記第2の2の争いのない事実等に加え,証拠(甲第1ないし第6号証,第7号証
の1ないし5,第9ないし第32号証,第34,第35号証,第41ないし第47号証,
第49ないし第56号証,第59ないし第66号証,第68号証,乙第1ないし第6号
証,第8ないし第10号証,第16,第17号証,第18号証の1ないし7,第19号
証,第24ないし第31号証,証人D,同E及び同Fの各証言)及び弁論の全趣旨
によれば,次の事実を認めることができる。
  (1) 昭和63年6月ころ,A会長(当時は社長)が,秋田県選出の国会議員から進出
を打診されたことを契機に,原告の秋田への進出計画が検討されることとなっ
た。その後,同年7月28日,原告のG常務と被告のH商工労働部長(以下「H
部長」という。)が会談し,原告に対して進出が要請され(第2の2(3)),原告は,
同年10月3日,被告に対し,事業計画の概要を提出するとともに,本件用水単
価等についての要望事項を提出した(第2の2(4))。そして,H部長は,同月17
日,原告の担当者に対し,工業用水については秋田第一工業用水道から12
円50銭の用水単価で供給が可能であると説明した。その後,被告企業局管理
者は,同年11月25日,原告に対し,他企業から給水契約の申込みがあった
ので,原告への工業用水の供給元を新たに敷設する秋田第二工業用水道に
変更すると伝えた。
(2) 平成元年1月20日に本件覚書が調印されたこと(第2の2(5))を受けて,原
告は,本件工場の操業に備えて,秋田県出身者の採用を開始し,その後の採
用者は延べ185名に達した。また,被告らは,同年2月以降,秋田進出に関し
て住民に対する説明会を開催したところ,住民から進出に伴う公害の発生を懸
念する意見が出された。
    このころ,秋田県内では,原告の秋田進出について,経済発展の起爆材になる
と積極的な評価を与える見解がある一方,公害や環境破壊の原因になるとの
見解もあり,平成3年2月には,原告の秋田進出に反対する市民団体が結成さ
れるなど進出に反対する運動も始められた。
(3) 平成2年12月21日に基本協定書が調印されたこと(第2の2(7))を受けて,
被告は,平成3年3月,秋田第二工業用水道の配管工事に着工し,また,平成
4年には,秋田港飯島地区において工場用地の造成事業にも着手した。
(4) 秋田県及び秋田市の住民らは,平成4年4月30日,本件補助に関する公金
支出について地方自治法242条に基づく住民監査請求を行ったが,同年6月
26日付けで,本件補助は違法又は不当な行為ではないとして,監査請求が棄
却されたため,住民らは,同年7月23日,本件住民訴訟を提起した(第2の2(9
))。
 これを受けて,被告商工労働部の工業振興課長は,同月24日,原告の秋田
事務所長に対し,本件住民訴訟において敗訴することはないとの見解を表明し
た。また,被告土木部の港湾課長も,同年8月3日,原告のI取締役らに対し,
本件住民訴訟は間違いなく勝つと思うと発言した。さらに,被告商工労働部の
工業振興課長は,I取締役らに対し,平成5年2月12日にも,本件住民訴訟は
間違いなく勝訴するとの意見を述べた。また,被告企業局長は,同年6月29
日,県議会商工労働委員会における本件住民訴訟に関する質問に対して,
「敗訴するとは考えていない。法律改正でもない限り勝てると思う。」と答弁し
た。
  (5) 原告は,平成4年8月25日,被告に対し,当初Ⅰ期工事で予定していた新聞
用紙の需要が減少し,Ⅱ期工事で予定していたコート紙の需要が増加している
こと,Ⅱ期工事の対象地区の埋立工事が2年間遅れること(第2の2(8))などを
理由に,当初の事業計画のⅠ期工事とⅡ期工事を入れ替えるとともに,秋田
進出の日程を2年間延期したいと申し入れた。
    そして,原告は,平成5年4月2日,被告に対し,この延期に伴う同年3月31日
付けの変更事業計画書案を提出するとともに,「当社の事業計画書提出に当
たっての確認・要望事項」と題する書面(甲第18号証)を提出した。同書面で
は,秋田進出の事業計画は,本件住民訴訟の勝訴が前提であるとするととも
に,本件用水単価が12円50銭であることが原告の秋田進出の前提条件の一
つであるため,若干の取水時期の遅れ等により本件用水単価が改定されるこ
とがないようにとの要望がされていた。これに対し,被告のJ商工労働部長(以
下「J部長」という。)は,同年4月2日,原告のI取締役らに対して,本件住民訴
訟については,「間違いなく勝てるので,心配はいらない。」と発言した。
    原告は,同月23日,被告に対し,操業開始時期を平成9年7月に延期する他,
工場の建設順序を変更した変更事業計画書を提出し,被告もこれを了解した
(第1回延期。第2の2(10))。
  (6)ア 第1回延期があったことなどにより原告の秋田進出の実現に疑問が提起さ
れるようになったこともあって,被告は,秋田進出の中止により損害を受ける
のを避けるため,基本協定書に加えて,原告の都合により工場用地を引き
取ることができない事情や工業用水の使用量及び時期の変更が生じた場
合,工業用地造成事業及び工業用水道事業に要した経費を原告も負担する
義務があることを明確にしておく方針を固めた。そこで,被告のK知事は,平
成4年12月11日,県議会において,この方針を表明し,さらに,平成5年3
月9日,県議会商工労働委員会において,この負担義務の取決めは附属覚
書を締結する方式で行うと表明した。
   イ 被告商工労働部の企業誘致対策室の担当者は,平成5年6月8日,原告の
秋田事務所長に対し,議会対策を理由に,天災地変以外の事由(被告の責
に帰すべき場合を除く。)により本件売買契約の締結に至らなかった場合,
当該工業用地造成事業に要する経費に相当する金額の10分の3の違約金
を,また,本件給水契約の締結に至らなかった場合,工業用水道事業の実
施のために借り入れた企業債の元利償還金及び施設維持管理費のうち固
定費に相当する金額の3分の2をそれぞれ原告が被告に対して支払う旨の
附属覚書案(甲第17号証)を提示したが,その際,「天災地変以外の事由」
について,進出できる状況が整っているにもかかわらず,原告の都合により
本件売買契約等を締結しない場合を指すと説明した。
     そこで,原告は,この附属覚書案をもとに負担することとなる金額を試算したと
ころ,458億円にも上ったことから,この提案をこのまま受け入れることはで
きないものの,違約金支払の約定自体を拒絶した場合,県議会が秋田進出
の受入れを巡り紛糾し,住民の反対運動も激化するおそれがあると判断し,
被告との協議には応ずることとなった。
  (7) 原告と被告らは,平成5年8月5日,秋田進出に関する協議を行い,その際,
被告商工労働部の工業振興課長は,本件住民訴訟に勝訴する自信を表明し,
原告の秋田事務所長が,本件住民訴訟に敗訴した場合の本件違約金の支払
義務の有無について質問したところ,被告商工労働部の企業誘致対策室長
は,「それは県の問題です。原告は一切関係ありません。」と回答した。
(8) (7)の協議に関して,原告のI取締役は,被告商工労働部の工業振興課長及
び企業誘致対策室長に対し,平成5年8月17日付けの「基本協定付属覚書の
協議における確認事項」と題する書面(甲第19号証)を提出し,その内容の確
認を求めた。この書面には,公害防止協定の締結に至らなかった場合,裁判
に敗訴して本件処分場を確保できなくなった場合及び本件用水単価を当初の
12円50銭から増額する場合には,附属覚書の効力は発揮しないことを条件
に入れてほしいと原告が要望したこと,原告の要望について,被告知事らが本
件住民訴訟に敗訴した場合は,附属覚書案所定の「被告の責に帰すべき場
合」に当たり,一切原告の責任はないと被告側から説明を受けたこと,附属覚
書全般について,原告の考えや要望を被告のトップに報告し,再度検討すると
被告側が述べたことが記載されていたが,この書面に対して,その後,被告側
から異議は述べられなかった。
(9) 被告のJ部長は,平成5年8月31日,原告のL副社長らと面談した際,本件住
民訴訟に敗訴した場合や公害防止協定の締結に至らなかった場合は,本件違
約金条項の「被告らの責に帰すべき場合を除く。」との文言により,本件違約金
の支払義務は生じないと説明した。
  (10) 原告のL副社長は,平成5年9月14日,被告のM副知事に対し,操業開始時
期を3年間延期し,平成12年としたいと考えているとの理由で,工事中の工業
用水道事業及び埋立事業の一時中断を申し入れた。これは,原告が,①本件
違約金の試算結果が458億円にも上ったこと,②不況が長期化する気配が強
まっており,社会経済環境の変化に伴う急激な需要の変動を踏まえて,確実に
実施が可能な事業計画を策定する必要があること,③本件住民訴訟が係属中
であることを考慮し,秋田進出の時期を最も経済的に合理性のある時期に変
更する必要があるとの判断を固めたことを理由とするものであった。これに対
し,M副知事は,「こういう情勢なので,予定通り進めるのは難しいのかなと思
っていた。知事とも相談するが,情勢の変化には柔軟に対応するのが知事の
基本姿勢だ。」と回答した。
(11) 被告は,原告からの第2回延期の申入れに対し,これを受け入れるものの,
本件売買契約等を締結する責任を明確化するため,原告の違約金支払義務
を定める附属覚書を締結し,その担保として定期預金債権に質権を設定するこ
とを求める方針を固め,被告のJ部長は,平成5年10月6日,原告のI取締役
に対し,議会対策を理由に,担保の提供を申し入れた。
  これに対し,原告は,同年6月8日に被告から提案されていた附属覚書案(甲
第17号証)について,①本件違約金の算定基礎から,秋田進出とは無関係の
玉川ダムの建設費,維持管理費等を除くこと,②本件違約金の算定基礎の比
率を,3分の2から給水能力日量37.2万トンに対する原告取水分日量20万ト
ンの割合に変更すること,③秋田進出の延期に伴なう本件違約金の増額を防
止するため,同年11月以降の工業用水道事業の発注を中止することを申し入
れた。
(12) 被告のJ部長は,平成5年11月5日,原告のL副社長に対し,担保の提供
方法として,被告の指定する金融機関に定期預金を預け入れ,これに質権を
設定する方法を提案するとともに,被告は,原告からの申入れを受けて,同月
以降の工業用水道事業の工事発注を中止した。
 原告のL副社長は,平成6年2月25日,K知事らに対し,被告から申入れの
あった担保の提供を了解するとの意向を伝えた。
(13) K知事は,平成6年3月4日,県議会の答弁で,原告からの第2回延期(第2
の2(11))の申入れに関して,原告が今後の経済動向や被告への担保提供な
どを慎重に検討した結果であり,秋田進出は十分に実現可能なものであると考
えているが,仮に原告側の事由によりさらに延期の申入れがあった場合,附属
覚書には,本件売買契約等の締結期限が設定されるから,担保の取扱いは一
義的に被告側に委ねられるとの認識を示した。
(14) 被告は,平成6年3月,県議会商工労働委員会において,「大王製紙(株)
関係資料」(甲第22号証)を配布し,原告から平成5年11月にされた延期申入
れ(第2回延期)について,原告側の事由により本件売買契約等の締結に至ら
ない場合,原告が被告に対して違約金を支払うとの規定を置いた附属覚書を
締結するなどの金銭的な保証措置を取ったうえ,原告の申入れを受け入れる
との方針を説明した。これに対し,委員からは,本件用水単価を12円50銭と
することにこだわらずに,原価に相当する単価を求めるべきであるとの意見も
出されたが,被告商工労働部の工業振興課長は,本件覚書は依然として有効
であり,工業用水の原価に相当する額まで本件用水単価をさらに増額する考
えはないと答弁した。
 また,同課長は,原告の秋田事務所長に対しても,上記「大王製紙(株)関係
資料」を交付し,県議会商工労働委員会において,附属覚書案は異議なく承認
されたと説明した。
(15) 被告のJ部長は,平成6年3月22日,県議会商工労働委員会において,附
属覚書による本件違約金及びその担保のための措置は,経済情勢の変化を
踏まえ,原告の秋田進出の確実性を確保し,金銭的な保証措置を取るために
行ったものであり,本件違約金条項は,本件売買契約等の締結期限までに原
告の都合により履行できないことが明らかになった場合の規定であると答弁し
た。
また,被告商工労働部の企業誘致対策室長は,同日,原告の秋田事務所
長に対し,県議会での審議内容について,これまでに原告と被告との間で協議
してきた内容を再確認するための質問は出たが,異議は出なかったと説明し
た。
同月29日,第1変更覚書,変更協定書及び附属覚書が調印され(第2の2(
11)),同年9月に一旦質権設定契約が締結され,さらに,平成7年3月に本件
質権設定契約が締結された(第2の2(12))。そして,原告は,同年1月には秋
田工場建設プロジェクトチームを,また,同年4月には,三島工場に秋田計画
建設委員会をそれぞれ発足させて,秋田進出に向けての準備作業を進めてい
た。
(16) 被告のN商工労働部長(以下「N部長」という。)は,平成9年1月29日,原
告のL副社長に対して,本件用水単価の値上げを申し入れ,その理由として,
①費用の見直しの結果,その増額があったこと,②県議会において工業用水
の原価を原告から回収すべきであるとの意見が強いこと,③被告の財政負担
が大きいことは,本件住民訴訟において,被告知事らの不利な事情となるおそ
れがあることを挙げた。これに対し,原告は,本件用水単価を12円50銭とす
ることは進出の前提であり,その値上げには応じられないと回答した。
(17) 平成9年3月21日の本件住民訴訟の第一審判決(第2の2(13))を受けて,
被告のN部長は,同月25日,原告のL副社長に対して,敗訴した本件住民訴
訟について控訴する方針を説明するとともに,仮に控訴審でも被告知事らが敗
訴した場合には,本件用水単価は19円10銭になるとの見通しを示した。これ
に対し,原告のL副社長は,本件用水単価を12円50銭とすることは進出の大
前提であり,値上げは受け入れられないと再度回答した。
(18) 平成9年3月,K知事が退任し,同年4月,新たにC知事が就任した。原告と
被告は,同年7月以降,本件住民訴訟の第一審判決を受けて秋田進出に関す
る協議を行い,被告は,本件用水単価を15円に値上げしたいと提案し,その
根拠及び財政負担の在り方についても説明し,これを実現しなければ,本件住
民訴訟の控訴審での勝訴は難しいとの見解を示した。しかし,原告は,進出の
大前提である本件用水単価の値上げは受け入れられず,現状のままでは進出
ができないから,本件住民訴訟の判決が言い渡されるまで秋田進出を延期し
たいとの意向を表明した。
  そのため,原告と被告との協議では,被告が本件住民訴訟の勝訴を保証する
ことができるかが問題となったが,被告は,本件住民訴訟について何らかの保
証を行うのは困難と判断し,進出の延期申入れを受け入れることとなった。そし
て,被告は,その当時,本件住民訴訟の控訴審判決が言い渡されるまでの期
間を2年間程度と見込んでいたことから,その後の諸手続に要する期間を考慮
して3年間延期するとの方針を決定し,平成10年2月5日,原告に対し,進出
延期の申入れを受け入れると通知した。同日付けで被告商工労働部の工業振
興課が作成した「延期期間及び延期の理由について」と題する書面(甲第26
号証)には,延期期間について,「二審判決までの期間は,今から数えて2年程
度と考えられることから,その後の諸手続き期間などを考慮すれば,工事着工
については3年とすることが適当」と,延期の理由について,「延期の理由につ
いては,対外的にも理解が得られ,受け入れられるものでなければならず,『新
しい県・市の財政負担方式については会社としても適法性を確信しているもの
の,司法判断がなされていない以上,二審判決の結果次第によっては会社側
が大きなリスクを背負うことにもなりかねず,工場建設着工については二審判
決の動向を見極めてから行う』ということを理由とすることとし,議会等に対して
もそのような説明を行う。」と記載されていた。
(19) 被告知事らは,本件住民訴訟の控訴審における平成9年7月18日付け準
備書面において,「大王製紙側からみれば,秋田工場を東日本の拠点工場とし
て,総額で2900億円もの多額の投資を行うものであり,長期間にわたり安価
な工業用水の供給を受けられる確実な見通しが立って,秋田市への誘致に応
じたものであり,秋田市の優遇策は,大王製紙秋田進出のための,言わば『誘
致の条件』といえるものであり,これを覆すことは秋田市と大王製紙との信義に
もとることとなり,大王製紙の秋田進出の計画撤回につながりかねないのであ
る。」,「秋田県・秋田市が提示した誘致の条件である長期かつ安価な工業用
水の供給は,大王製紙の秋田市への誘致を決定づける最大の理由といえるも
のであった。」,「補助の効果は何よりも大王製紙を秋田市に誘致・立地させる
ことができるか否かにかかっているのである。そして,この誘致・立地を円滑に
行わしめるものが,大王製紙の秋田市誘致の話が持ち込まれた際に,当初に
秋田県・秋田市・大王製紙の三者間で確認された『覚書』に基づく長期かつ安
価な工業用水の供給が受けられる『誘致の条件』にほかならない。」と主張して
いた。また,被告知事らは,平成10年6月4日付けの準備書面においても,
「豊富低廉な工業用水の安定供給と会社負担額の平準化は,企業の長期的な
事業見通しや経営の安定といった観点から,大王製紙が秋田に進出するに当
たっての重要な前提条件であり,・・・」とも主張していた。
 (20)ア 被告は,平成10年2月13日,原告との協議において,本件用水単価を13
円70銭とし,秋田進出を3年間延期するのに伴い,「被告らが,平成13年3
月末までに本件覚書第3条に定める条件により原告に対する工業用水の供
給を確定できないこととなった場合には,被告ら及び原告は,本件違約金条
項に定める期日について協議するものとする。」との条項を新設する附属覚
書の一部変更案(甲第27号証)を提示した。その際,被告のN部長は,13
円70銭との本件用水単価は,本件住民訴訟の控訴審において勝訴するた
めに最低限必要な単価であると説明した。
   イ これに対し,原告は,次の内容の本件覚書,第1変更覚書及び附属覚書に優
先する覚書案(甲第28号証)を提案した。
    (ア) 秋田進出を,本件住民訴訟の控訴審の終了までの間延期する。
    (イ) 工場用地の譲渡及び本件処分場の確保を,秋田進出の延期に伴い延期
する。
    (ウ) (ア)及び(イ)の定めに伴い,本件違約金条項は適用しない。
    (エ) 本件用水単価は(確定的に)12円50銭とし,被告らは,このために必要な
万全の措置を講ずる。
    (オ) 原告は,本件住民訴訟が終了し,本件用水単価の合意が被告らにより確
実に遵守・履行されることが明らかになった後は,秋田進出を行う。この場
合,被告ら及び原告は,協力して工場用地の譲渡,本件処分場の確保,
公害防止協定の締結等,秋田進出のために必要な措置を直ちに講ずる。
    (カ) 原告は,本件用水単価の合意が被告らにより遵守・履行されないときは,
秋田進出を全面的にあるいは一部取り止めることができる。この場合,被
告らは,原告に対し,進出の取止めに関する一切の損害賠償請求をする
ことができない。
ウ この覚書案は,原告が本件住民訴訟の影響により秋田進出を決定できな
い状態が継続し,その期間を明確に予想できなかったことから,長期間にわ
たり進出の準備を強いられることを防止するため,被告らと進出の中止を含
めた包括的な協議を行うことができるとの趣旨を明確化し,併せて,これまで
の被告らとの協議において確認されていると原告が考えていた合意内容を
明文化することをも意図したものであった。
(21)ア その後の協議を踏まえ,原告は,本件用水単価を13円70銭とする被告
提案の算定基礎が,原告の主張をも取り入れたものであったことから,本件
住民訴訟において被告知事らが有利になるようこれを受け入れることとし,3
年後も本件住民訴訟の判決が出ない場合には,社会経済環境及び需要構
造の変化に対応して進出の中止も含めた協議ができるようにしておくとの方
針を決定した。
 イ 被告のN部長は,平成10年2月20日,原告に対し,附属覚書に「被告ら
は,本件住民訴訟の控訴審に起因して,本件覚書第3条で定める条件で,
原告に対し工業用水の供給を行えるか否かを平成13年3月末までに確定
できないものと認める場合には,本件覚書,基本協定書及び附属覚書で定
める条項の変更について,原告に協議を申し入れなければならない。」及び
「本件違約金条項は,本件住民訴訟の控訴審係属中は適用しない。」との条
項案を含む本件覚書,基本協定書,第1変更覚書,変更協定書及び附属覚
書の一部を変更する覚書案(甲第41号証)を提示した。
ウ これに対し,原告は,アの方針に基づき,附属覚書第4条による協議の対
象を「本件覚書,基本協定書及び附属覚書で定める条項の変更」としたこと
は,進出の中止を含む包括的な協議ができるとの趣旨を十分に反映してい
ないなどの理由で,被告に対して,さらに修正を要求した。
  (22) 被告は,平成10年3月4日,本件覚書,基本協定書,第1変更覚書,変更協
定書及び附属覚書の一部を変更する覚書案について,原告からも協議の申入
れができることを明記するため,附属覚書第4条第1項として,「被告ら及び原
告は,本件住民訴訟の控訴審に起因して,本件覚書第3条で定める条件によ
って,原告に対して工業用水の供給を行えるか否かを平成13年3月末までに
確定できないものと見込まれる場合には,本件覚書,基本協定書及び附属覚
書で定める条項について協議を行うこととする。」との条項を追加する案(甲第
42号証)を提示した。
しかし,附属覚書第4条による協議の対象についての文言に修正がなかっ
たため,同月5日,原告の秋田事務所長は,被告商工労働部の工業振興課長
補佐に対し,「で定める条項」との文言を削除しなければ,原告と被告らの代表
者会談に応ずることはできないと申し入れたところ,同課長補佐は,原告の秋
田事務所長に対し,この申入れを了解したと回答した。
(23) 原告のB社長,被告のC知事及び秋田市長は,平成10年3月6日,協議を行
い,①本件用水単価を13円70銭とすること,②本件住民訴訟により本件用水
単価の適法性が確認されるまで秋田進出を延期することとし,本件住民訴訟で
の司法判断が出るまでの期間を考慮し,延期は3年間とすることを合意した
(第2の2(14))。
  (24) 原告と被告は,平成10年3月18日の協議で,本件覚書,基本協定書,第1
変更覚書,変更協定書及び附属覚書の一部を変更する覚書として,附属覚書
第4条に,「被告ら及び原告は,本件住民訴訟の控訴審に起因して,本件覚書
第3条で定める条件によって,原告に対して工業用水の供給を行えるか否かを
平成13年3月末までに確定できないものと見込まれる場合には,本件覚書,
基本協定書及び附属覚書について協議を行うこととする。」との条項を追加す
ることに合意し,これをもとに,同年4月30日,第2変更覚書が調印され,第3
回延期が決定した(第2の2(14))。
  (25)ア 平成10年3月19日の県議会において,工業用水道事業の専用施設の建
設費利息の負担に関する質問に対し,C知事は,「3年延期については,止
むを得ないと思っている。訴訟との関係で3年の縛りがあったことは事実で
あり,一連の交渉の中で,県として勝訴を担保できるかどうかが論点となっ
た。進出の時期については,訴訟判決時期との関係で3年延期となったこと
を理解していただきたい。」,「司法の判断が出ていない状況の中にあって,
1900億円という投資の担保を県が行うのは困難ということで3年延期にな
ったということはご理解いただきたい。」と答弁した。また,N部長は,「操業
前の費用については県が負担するという考え方に基づいて,今回は原告の
責に帰しがたい理由による延期であり,県が財政負担することに整理し
た。」,「今回は訴訟との関連で延期になったが,今後のことについては協議
によって定める。」,「弁護士の意見によると,裁判の判決が出るまでには2
年程度と見込まれるとのことであり,その後の諸準備の期間を含めて3年延
期としたものである。二審において決着がつけば,会社側の投資のリスクは
低くなることになる。」と答弁した。
 イ 被告商工労働部の工業振興課長は,平成10年3月23日,県議会商工労
働委員会で,次のように答弁した。
 (ア) 本件違約金条項では,本件違約金の発生事由から,天災地変及び被
告らの責によるものは除くと規定されており,本件住民訴訟に関するもの
も除かれるが,原告の都合による秋田進出の中止の場合は,本件違約金
の支払義務が発生する。
 (イ) 現在,原告が秋田進出のための工事に着工すると,本件住民訴訟の結
果次第によっては巨額のリスクを抱えることになるため,進出を延期した
いとの原告の申出に対し,被告もこれをやむを得ないものと認めた。被告
は,本件住民訴訟が原告の責任ではないと考えている。経済情勢の変化
により秋田進出が断念された場合は,本件違約金条項が適用される。
 (ウ) 附属覚書第4条は,本件住民訴訟の控訴審の審理の遅れにより,平成
13年3月末時点でも進出が未定の場合の規定である。
ウ 被告商工労働部の工業振興課長は,平成10年4月27日,県議会商工労
働委員会において,第2変更覚書について,次のように答弁した。
(ア) 本件売買契約の締結期限を3年間延期しただけで,附属覚書について
の従来の考え方,本件違約金の担保の取扱いは従来と同じである。
(イ) 再協議条項は,本件住民訴訟が平成13年3月末までに終結しなかっ
た場合,再度,秋田進出の時期について協議をするとの趣旨である。
 (26) 原告は,平成10年8月,本件工場建設予定地において,住民説明会を開催
したが,秋田進出の環境対策について疑念を表明し,進出に反対する意見が
相次いだ。
  (27) C知事は,平成10年12月2日,県議会決算特別委員会において,本件住民
訴訟の控訴審が解決すれば秋田進出が行われるとの認識を表明し,再度,進
出が延期された場合は,進出の中止も含めた検討を行うと答弁した。
  (28) C知事は,平成12年6月9日,原告のB社長に対し,本件住民訴訟の控訴審
について,同年7月にも結審し,早ければ年内にも判決が言い渡されるとの見
通しを述べたうえ,アセス条例案の提出を伝えた。この際,C知事は,環境影響
評価に要する期間について,1,2年程度と見込まれるが,今後,原告と被告
の実務担当者で協議を行いたいと説明した。これに対し,B社長は,アセス条
例案の提出を了解するとともに,原告の秋田進出の意思に変わりはないと回
答した。
  (29) C知事は,平成12年7月3日,県議会において,本件住民訴訟の控訴審につ
いて,同年7月にも結審し,早ければ年内にも判決が言い渡されるとの見通し
を述べたうえ,秋田進出を実現するためには,本件住民訴訟の控訴審で勝訴
判決を得ることが重要であり,判決の結果によっては様々な影響が生ずると考
えられるが,アセス条例による環境影響評価のため,進出の日程(平成13年4
月着工,平成15年7月操業開始)の見直しは避けられず,本件住民訴訟の控
訴審判決が言い渡された後,改めて日程を原告と協議したいと答弁した。
(30) 平成12年6月に被告の県議会でアセス条例が成立したこと(第2の2(15))
を受けて,原告は,アセス条例による環境影響評価に要する期間をコンサルタ
ント会社に見積もらせたところ,同年7月,順調にいっても4年程度かかるとの
報告を受けた。他方,被告生活環境文化部の担当者は,同年10月19日,ア
セス条例の秋田進出への影響についての原告との勉強会の席上,環境影響
評価に関する指針を策定中のため,これに要する具体的な期間を予測するこ
とはできないと説明した。
(31)ア C知事は,平成12年11月22日,原告の東京本社を訪問した。その際,
C知事の問いかけに対して,A会長やB社長は,本件住民訴訟が解決しない
こと及びアセス条例による環境影響評価の必要を理由に挙げて,秋田進出
は事実上不可能ではないかとの認識を示した(原告代表者発言)。C知事
は,事前に原告に対して通知した上で,同月27日,県議会の政党懇談会及
び記者会見の席上,原告代表者発言について言及し,これを受けて,同月2
8日,原告が秋田進出を断念したとの新聞報道がされた(第2の2(17))。
イ 秋田市長は,平成12年11月27日,B社長に対し,被告らとの三者協議を
経ずに秋田進出の中止を表明したとして抗議した。これに対し,B社長は,
秋田進出が事実上不可能ではないかとの個人的見解を非公式な場で述べ
ただけであると釈明した。
ウ 原告は,平成12年12月27日,C知事に対し,非公式な場での個人的な
発言が,真意,本来の趣旨に反する内容で報道されているとして,県議会や
記者会見の発言により誤解を与えないよう留意を求めるとの書面を提出し
た。
(32) 原告は,平成12年12月8日,被告らに対し,本件覚書及び基本協定書の
変更について三者協議を開催するよう申し入れた。その理由は,本件住民訴
訟が解決する時期の不透明さ及び新たな環境影響評価の必要により,秋田進
出が可能になるまで相当長期間を要し,実行を保証できる事業計画の策定は
困難と考えられるところ,社会経済の構造変化が激しい時代にあって,上記の
事由により先行きが全く不透明な状況では,進出が事実上不可能と考えられ
るというものであった(第2の2(18))。また,原告は,同月27日にも,三者協議
の早期開催を申し入れた。
(33) 原告と被告らとの三者協議は,平成13年1月29日及び同年2月15日に開催
され,原告は,被告らに対し,本件住民訴訟の控訴審判決を早期に得るよう求
めたが,被告らは,原告に対し,秋田進出を行う意思の有無を明らかにするよ
う求めて,協議は平行線をたどった。
    そして,原告は,同年4月27日,進出断念表明をするに際し,被告らに対して,
「秋田進出に関する当社の見解」と題する書面(乙第6号証)を提出した。この
中で,原告は,進出断念の理由として,本件住民訴訟の控訴審判決が言い渡
されず,本件用水単価の適法性が確認されないまま,平成13年4月の本件売
買契約の締結期限を迎えたところ,社会経済環境の変化が著しく,迅速な経営
判断が求められる時代にあって,進出の前提となる本件用水単価の確定時期
が不透明であり,確定後に要する期間も予測できないことを挙げた(第2の
2(18))。
2 争点(1)ア(本件違約金条項の意義)について
  (1) 本件違約金条項は,天災地変以外の事由(被告らの責に帰すべき場合を除
く。)により,平成13年4月までに本件売買契約の締結に至らない場合及び平
成15年7月までに本件給水契約の締結に至らない場合は,原告が本件違約
金を支払うというものである。この「天災地変以外の事由(被告らの責に帰すべ
き場合を除く。)」の意義について,原告は,原告に帰責事由があった場合を指
し,本件住民訴訟に起因した本件用水単価の未確定はこれに当たらないと主
張し,他方,被告は,原告に帰責事由がある場合に限られず,天災地変及び
被告らに帰責事由がある場合を除く全ての事由を指し,本件用水単価の未確
定は,この除外事由には当たらないと主張するので,まず,本件違約金条項の
意義(本件用水単価の確定と違約金支払義務の関係)について検討する。
    ところで,契約書は,一般に当事者の法律行為の内容を表示するものではある
が,そのすべてを的確に表現することには自ずから限界があり,必ずしも合意
の内容がすべて表示されているとは限らないものである。したがって,契約書
による法律行為の内容を確定するためには,そこに用いられた文言を中心とし
ながらも,当事者の合意の内容を,当該契約によって当事者が達成しようとし
た経済的又は社会的目的に従い,これに適合するように解釈するのが相当で
あり,その意味で,必ずしも契約書に使用された文言だけにとらわれるべきで
はないと考えるのが相当である。本件違約金条項の「天災地変以外の事由(被
告らの責に帰すべき場合を除く。)」との約定も,一義的に明白なように見えて
も,原告の責めに帰すべき事由と被告らの責めに帰すべき事由が複合してい
る場合や,天災地変以外の不可抗力に当たる事由があった場合などにどのよ
うに適用されるかは文言上は必ずしも明らかではないのであり,結局,本件違
約金条項の趣旨,締結の経緯等を総合考慮して,社会通念に従いその適用を
判断することになるものというべきである。したがって,本件違約金条項の意義
及びその適用についても,当事者がこれにどのような意味を持たせるものとし
て合意したかについて検討する必要がある。
  (2)ア 本件用水単価の確定と本件売買契約等の締結について
    (ア) 前記第2の2の争いのない事実等及び前記1において認定した事実によ
れば,①原告と被告の間において,本件用水単価を12円50銭(後に,1
3円70銭に変更)と確定することは,原告の秋田進出の大前提であり,そ
の可否を決する重要事項と認識されていたこと(第2の2(3)ないし(5),(7),
(9),(11),(14),第3の1(1),(5),(8),(14),(16)ないし(25)),②本件覚書,
第1変更覚書及び第2変更覚書では,被告らは,原告に対して,本件用水
単価を12円50銭(後に,13円70銭に変更)とするために必要な措置を
取る義務を負うと定められていたこと(第2の2(5),(11),(14)),③附属覚
書第4条には,本件住民訴訟に起因して本件用水単価が平成13年3月
末までに確定できないものと見込まれる場合には,本件覚書,基本協定
書及び附属覚書について協議を行うと定められ,また,本件用水単価を
確定する期限は,本件売買契約の締結期限の1か月前に定められていた
こと(第2の2(14)),④第2回及び第3回延期は,いずれも本件住民訴訟
により本件用水単価が確定しないことも理由としており,原告と被告らは,
本件住民訴訟の解決を見極めるために進出延期を重ねてきたこと(第2
の2(11),(14),第3の1(10),(11),(18)ないし(25))が明らかである。そし
て,本件給水契約を締結するためには本件用水単価が確定する必要が
あることは当然のことであるが,①ないし④の事実によれば,本件用水単
価が12円50銭(後に,13円70銭に変更)に確定しなければ秋田進出の
前提が確定せず,原告は進出自体を決定できなかったのであるから,本
件においては,本件用水単価が確定しなければ,原告は,本件工場用地
を取得するための本件売買契約を締結することが決定できないという関
係にあったというべきである。
      以上を総合すると,本件売買契約と本件給水契約は,本件用水単価の確定
に関する条項を前提とし,秋田進出の実現に向けて締結された本件進出
契約と一体となるものであり,原告と被告らは,本件用水単価の確定を本
件売買契約等の締結の先決問題と位置づけていたものと考えるのが相当
である。そして,その意味で,被告らは,原告に対して,本件売買契約等
の締結に先立ち,本件用水単価を原告との合意に基づく金額に確定する
義務を負担していたと判断するのが相当である。
    (イ) 被告は,本件用水単価の確定及び本件住民訴訟における本件用水単価
の適法性の確認は,秋田進出に関して原告と被告ら間で取り交わされた
本件進出合意書において,その文言上,何らの要件としても規定されてい
ないから,当事者間にその合意が形成されていないことは明らかであると
主張する。確かに,原告は,第3回延期に向けての協議の過程で,「原告
は,本件住民訴訟が終了し,本件用水単価の合意が被告らにより確実に
遵守・履行されることが明らかになった後は,秋田進出を行う。この場合,
被告ら及び原告は,協力して工場用地の譲渡,本件処分場の確保,公害
防止協定の締結等,秋田進出のために必要な措置を直ちに講ずる。」と
の文案を含む覚書案(甲第28号証。前記1(20))を被告に提示したもの
の,結局,この提案自体は被告の受け入れるところとはならなかったこと
が認められるところである。
      しかしながら,原告と被告らとの間において,本件用水単価の確定が秋田進
出の重要な前提事項と認識されていたことは前述のとおりであり,原告と
被告らは,その後の第3回延期に関する協議を踏まえて,平成10年3月
6日,本件住民訴訟により本件用水単価の適法性が確認されるまで秋田
進出を延期すると合意し,同年4月30日に調印された第2変更覚書に
は,本件売買契約の締結期限を平成13年4月と,本件給水契約の締結
期限を平成15年7月と規定している一方,「被告ら及び原告は,本件住民
訴訟の控訴審に起因して本件覚書第3条によって,原告に対して工業用
水の供給が行えるか否かを平成13年3月末までに確定できないものと見
込まれる場合には,本件覚書,基本協定書及び附属覚書について協議を
行う」と規定しており,本件進出合意書においても,本件用水単価の確定
及び本件住民訴訟における本件用水単価の適法性の確認が,原告の秋
田進出の前提要件として取り上げられているというべきである。したがっ
て,被告の主張は採用することができないし,また,甲第28号証による原
告の提案を被告がそのまま受け入れていないからといって,前記認定判
断を左右するに足りるものとはいえない。
   イ 本件違約金条項の解釈に関する当事者の対応について
     本件違約金条項には「天災地変以外の事由(被告らの責めに帰すべき場合を
除く。)」と規定され,「原告の責めに帰すべき場合」とは規定されていないの
であり,その文言上からは,原告が主張するように原告の責めに帰すべき事
由があった場合にだけ本件違約金の支払義務が発生するということにはな
らない。
     他方,前記認定判断のとおり,被告らは,本件売買契約等の締結に先立ち,
本件用水単価を原告との合意に基づく金額に確定する義務を負担していた
ものと考えるべきところ,①本件違約金条項は,原告の秋田進出の確実性を
確保し,金銭的な保証措置を取るために行ったものであること(第3の1(6),(
11),(14),(15)),②原告の担当者は,本件違約金条項を含む附属覚書を締
結するに当たり,本件住民訴訟において被告知事らが敗訴し,本件用水単
価の適法性が確定しない場合には原告に違約金支払義務が発生すること
にはならないことを何度となく被告の担当者との間で確認していたこと(第3
の1(6)ないし(9)),③これに対し,被告の担当者も,本件住民訴訟で被告知
事らが敗訴することはあり得ず,敗訴した場合には原告の責任とはならない
ことを原告の担当者に再三にわたり説明していたこと(第3の1(6)ないし(9
)),④被告側の県議会における答弁においても,経済情勢の変化等に伴い
原告がその都合により秋田進出を中止した場合に違約金の支払義務が生
ずると一貫して説明していたこと(第3の1(14),(15),(25))が明らかである。
これらの経緯に照らすと,本件違約金条項が,天災地変及び被告らに帰責
事由がある場合を除く全ての場合に適用され,それ以外にも適用を除外さ
れる場合があることを全く予定していなかったとは解することができない。
  (3)ア 原告と被告らとの間では,本件用水単価の確定が本件売買契約等の締結
の先決問題と位置付けられていたこと((2)ア)に加え,本件違約金条項の解
釈に関する当事者の対応((2)イの①ないし④)を総合すると,本件違約金条
項は,秋田進出の実現に向けて長年にわたり多額の先行投資をしてきた被
告らが,被告ら側の準備が整えられているにもかかわらず,被告らが関わら
ない原告側だけの都合で進出が中止され,本件売買契約等が締結されない
結果となる事態を避けるために設けられたものであると解するのが相当であ
る。そして,このような事情に照らせば,原告と被告らは,本件住民訴訟に起
因して本件用水単価が12円50銭(後に,13円70銭に変更)と確定しない
ことは,原告側の都合には該当せず,その結果,本件売買契約等の締結義
務は生じず,本件違約金条項の適用が排除され,原告の違約金支払義務
は発生しないとの共通の認識を有していたというべきである。
     したがって,本件住民訴訟に起因して本件用水単価の適法性が確認されない
場合が,被告らの責めに帰すべき事由に当たるかどうかはともかく,附属覚
書は,本件住民訴訟に起因して本件用水単価の適法性が確認されないこと
により,本件売買契約等が締結されるに至らなかった場合は本件違約金支
払義務の発生障害事由に当たるとの前提で締結されたものと解するのが相
当である。
   イ なお,原告は,第3回延期に向けての協議の過程で,被告に対し,「原告は,
本件用水単価の合意が被告らにより遵守・履行されないときは,秋田進出を
全面的にあるいは一部取り止めることができる。この場合,被告らは,原告
に対し,進出の取り止めに関する一切の損害賠償請求をすることができな
い。」との文案を含む覚書案(甲第28号証。第3の1(20))を提示したものの,
結局,この提案自体は被告の受け入れるところとはならなかったことが認め
られる。しかしながら,この原告の提案は,当時,被告が本件住民訴訟の控
訴審で勝訴するために最低限必要なものと主張し,原告も最終的にはこれ
を受け入れることとなった13円70銭への本件用水単価の増額を拒否する
内容を含むものであったうえ,その後の協議を踏まえて,第2変更覚書第4
条によって表現は異なるものの原告の提案が一定程度取り入れられている
ことに照らすと,原告のこの提案を被告がそのまま受け入れていないからと
いって,前記認定判断を左右するに足りるものとはいえない。
  (4) 本件用水単価の確定と違約金支払義務の関係は以上のとおりであるが,本件
違約金条項が設けられた趣旨は,前記(第3の1(6),(11),(14),(15))認定のと
おり,原告の秋田進出を確実なものとするための保証的措置であり,原告が秋
田進出を中止した際に,被告に生ずる損失の一部についての原告の賠償義務
を定めるものであること,附属覚書第4条では,平成13年3月末までに本件住
民訴訟に起因して本件用水単価を確定することができない場合であっても,原
告と被告らは,まず協議を行うべきこととされ,進出自体が当然に中止されると
までは規定されていないことからすれば,本件用水単価が平成13年3月末ま
でに確定しなかったことによって,直ちに本件違約金条項に基づく違約金の支
払義務の不発生が確定することにはならず,原告が,本件用水単価の確定と
は無関係の事情により進出を中止して,本件売買契約等を締結しなかった場
合や,本件用水単価の確定が近接した時期に見込まれるにもかかわらず,特
段の理由もなく本件売買契約等の締結に応じなかった場合など,本件売買契
約等が締結されるに至らなかった理由によっては,原告に本件違約金の支払
義務が発生する場合もあり得るものと解するのが相当である。
 3 争点(1)イ(本件売買契約等が締結されるに至らなかった理由)について
(1) 前記第2の2の争いのない事実等及び前記1で認定した事実を総合すれば,
原告の秋田進出が中止されたのは,本件住民訴訟の控訴審が,口頭弁論を
終結した後も,判決言渡期日を指定しなかったため,原告代表者発言が行わ
れた当時,平成13年3月末までに判決が言い渡されるか否かは不明であり,
原告と被告らが必至と予想していた上告審における審理期間も見込むと,本
件住民訴訟の最終的な解決の時期及び結論を予測することは極めて困難な
状況にあったこと,アセス条例制定による環境影響評価に5年程度を要し,本
件住民訴訟の上告審での審理期間,被告の環境審議会での審議及び公害防
止協定締結のために住民の同意を得る手続に要する期間を加えると操業開始
までさらに10年を要する可能性があったこと,その間,原告としては,本件違
約金債務の担保として,本件預金証書を差し入れていたため,他に大型投資
を行うことができない状況が継続せざるを得ない状態になっていたこと,当初,
秋田進出で生産を計画していたコート紙が生産過剰となっており,また,秋田
県は,製紙原料として再利用が促進されつつあった古紙の最大の発生地であ
る東京から遠く,立地条件が不利であることなどの将来にわたっての社会経済
情勢や需要動向の見通しに照らし,10年後でも実行を保証できる事業計画の
策定は事実上不可能であると総合的に判断した結果であると考えるのが相当
である。したがって,原告の秋田進出の断念決定は,本件住民訴訟が係属して
いることにより本件用水単価の適法性が確定しなかったことだけではなく,アセ
ス条例の制定に伴う手続の見通し,社会経済情勢や需要動向の変動なども総
合考慮した経営判断の結果であるというべきであるから,被告が関わらない原
告側の都合という要素が全く考慮されていないとはいうことができない。
 被告は,これらの事情をもって,秋田進出の中止は原告の経営判断によるも
のであり,本件違約金条項の「天災地変以外の事由(被告らの責めに帰すべ
き場合を除く。)」に当たると主張する。しかしながら,本件用水単価の適法性
の確定の問題自体が原告にとっては同業他社との競争力を確保するための経
営判断の対象そのものであって,本件のように,平成元年の当初計画におい
ても用地代を除き合計2789億円もの巨額の投資を予定していた大プロジェク
トに関して,営利を追求し,株主の利益を図る必要がある株式会社である原告
の意思決定に経営判断という側面がないということはそもそもあり得ないことで
あるから,経営判断であるとの一事をもって,直ちに単なる原告側の都合によ
る進出中止であると決め付けることはできない。そして,環境影響評価の必要
については,既に認定判断したとおり,アセス条例の制定前から,環境保全及
び公害防止のための対策を取るべきことがもともと予定されていたのであるか
ら,原告にとって,著しく予測に反する作業や期間を強いられるものではなく,
その期間については,原告代表者発言の当時,既にある程度の見込みが立て
られており,原告代表者も,早ければ平成12年中に本件住民訴訟の控訴審
の判決が言い渡されるとの前提で,アセス条例の制定後も,秋田進出の意思
に変わりはないとの意向を表明していたところである(第3の1(28))から,アセ
ス条例による環境影響評価の手続の必要が生じたことが,本件売買契約等が
締結されなかった主たる理由とは認めることができない。また,社会経済情勢
や需要動向の変動については,原告が,営利の追求を目的とする株式会社で
ある以上,常に考慮の要素とせざるを得ないものであり,これだけが進出中止
の理由であるならばともかく,これを他の事情と合わせて考慮したことが,直ち
に原告の経営判断の結果であるとして,原告側の都合による進出中止であり,
本件違約金条項が適用されることになるともいうことはできない。他方,前記認
定判断のとおり,本件住民訴訟のために本件用水単価の適法性が確定しない
ことにより,本件売買契約等の締結時期が延期された経緯及び秋田進出にお
ける本件用水単価の重要性に照らすと,秋田進出の断念を表明した平成13
年4月の段階において,本件用水単価の適法性が確定していなかったことは
原告の秋田進出の最大の障害となっていたものというべきである。
(2) 以上の認定判断を総合すれば,原告は,進出断念表明に際し,アセス条例
の影響や社会経済情勢・需要動向の変動をその考慮要素としていなかったと
はいえないものの,これらは,秋田進出及び本件売買契約等の締結の前提と
なる本件用水単価の適法性が確定せず,確定の内容及び時期すら見通すこと
ができない状況において,その影響の程度を検討するための付随的要素とし
て考慮されたものというべきである。そして,既に認定した秋田進出における本
件用水単価の重要性に照らすと,本件住民訴訟に起因して本件用水単価13
円70銭の適法性が確認されていなかったことは,原告にとってそれだけで秋
田進出の可否を左右するほどの最大の要因であったことは明らかであり,原告
が,秋田進出を中止し,本件売買契約等が締結されるに至らなかったのは,本
件住民訴訟の解決の見通しが立たず,被告らと合意していた本件用水単価の
適法性が確定しないことを決定的な要因としていたものというべきであり,前記
2で認定判断した本件違約金条項における原告の違約金支払義務の発生障
害事由があったと判断するのが相当である。
 なお,上記のとおり,本件住民訴訟の解決の見通しが立たず,本件用水単価
の適法性が確定しなかったことが,本件売買契約等が締結されるに至らなかっ
た決定的な理由であると認められる以上,原告が,その他の事情も総合考慮し
ていることを取り上げて,原告側の都合による進出中止であり,本件違約金条
項が適用されると解するのは相当ではないというべきである。
4 争点(1)ウ(本件違約金債権の不発生の確定)について
(1) 本件用水単価の適法性を確定することが,本件売買契約等の締結の先決問
題と位置づけられ,被告らは,本件売買契約等の締結に先立ち,平成13年3
月末までに本件用水単価を原告との合意に基づく金額に確定する義務を負担
していたこと,附属覚書は,本件住民訴訟に起因して本件用水単価が12円50
銭(後に,13円70銭に変更)に確定されない場合は,本件違約金支払義務の
発生障害事由に当たるとの前提で締結されたこと,原告は,本件住民訴訟の
解決の見通しが立たず,被告らが本件用水単価の適法性を確定できないこと
を主たる理由として,秋田進出を断念し,本件売買契約等が締結されるに至ら
なかったことは前記2及び3で認定判断したとおりである。そこで,このような違
約金支払義務の発生障害事由が原告に存在することを前提に,さらに,本件
違約金債権の不発生が確定したか否かについて検討する。
(2) 附属覚書第4条においては,本件住民訴訟に起因して本件用水単価を平成
13年3月末までに確定できないものと見込まれる場合には,本件覚書,基本
協定書及び附属覚書について協議することが定められている。この附属覚書
第4条によれば,協議事項について特に限定した文言はないから,秋田進出
の延期の協議だけが可能であり,これを中止する場合を除外しているとは解す
ることができない。むしろ,前記1(20)ないし(22)で認定したところによれば,原
告は,被告らとの協議において,秋田進出の中止を含めた三者協議を可能と
するための条項を設けるよう要求し,附属覚書の改定について被告が当初提
案した「被告らが,平成13年3月末までに本件覚書第3条に定める条件により
原告に対する工業用水の供給を確定できないこととなった場合には,被告ら及
び原告は,本件違約金条項に定める期日について協議する」との文案を,最終
的に「被告ら及び原告は,本件住民訴訟の控訴審に起因して,本件覚書第3
条で定める条件によって,原告に対して工業用水の供給を行えるか否かを平
成13年3月末までに確定できないものと見込まれる場合には,本件覚書,基
本協定書及び附属覚書について協議を行う」と修正して,附属覚書第4条が合
意されたこと,被告も,再度,秋田進出が延期される事態となった場合には,秋
田進出が中止される結果となる可能性があることを認識していたこと,そもそも
本件違約金条項は,原告が秋田進出を中止した場合に備えて定められたもの
であることに照らすと,原告と被告らは,附属覚書第4条を,単に進出の時期に
限らず,その中止という事態も含めて協議対象とする趣旨であることを共通の
認識としていたものというべきである。
 したがって,附属覚書第4条は,平成13年3月末までに本件住民訴訟の控
訴審に起因して本件用水単価の適法性が確定しなかった場合には,原告は,
被告らとの協議を経たうえで,秋田進出を中止することをも許容する趣旨で定
められた条項であると判断するのが相当である。
 これに対し,被告は,附属覚書第4条の規定上,原告には,被告らと協議のう
え,進出を延期することだけが認められていたにすぎないと主張する。たしか
に,前記認定(1(25)イ(ウ),ウ(イ))のとおり,被告商工労働部の工業振興課長
は,県議会において,附属覚書第4条について,秋田進出の時期を協議する
趣旨であるとの答弁をしていることが認められる。しかし,前述のとおり,附属
覚書第4条の文言上は,被告が主張するような協議事項の限定はされていな
いうえ,第2変更覚書により附属覚書第4条が追加された経緯に照らすと,原
告と被告らとの間で,被告が主張するような解釈が共通の認識となっていたと
も認められないから,被告の主張は採用することができない。
 なお,被告は,進出の中止という根幹に関わる事項を,本件覚書及び基本協
定書に附帯する契約にすぎない附属覚書で規定することなどありえないと主張
する。しかしながら,附属覚書及び第2変更覚書は,その余の本件進出合意書
と一体となって秋田進出の実現に向けて締結された契約の一部であり,いず
れも原告と被告らのそれぞれの代表者が調印して作成されているうえ,附属覚
書第4条は,本件覚書及び基本協定書の一部を変更した第2変更覚書の中
で,それらの変更と一体のものとして追加変更されているのであるから,被告
の主張は,附属覚書第4条についての上記判断を左右するものとはいえない。
(3) ところで,前記認定の事実(第2の2(17),(18),第3の1(31)ないし(33))によれ
ば,原告は,三者協議の当初から,秋田進出の中止を前提とする姿勢でこれ
に臨み,他方,原告に対して,秋田市が,進出中止の撤回を迫っているにもか
かわらず,被告には,その再検討を真摯に働きかけるという姿勢に乏しかった
ことは真に遺憾なことであったといわざるを得ない。長年にわたり関係者が地
道な努力を積み重ね,多額の先行投資が行われ,地域振興への多大な貢献
が期待された巨大プロジェクトであればこそ,本来ならば,最後まで状況を慎重
に見極め,秋田市も含めた三者協議の場において,十分に論議を尽くし,秋田
進出の実現の可能性を探りつつ,結果的に進出を中止せざるを得なかったとし
ても,可能な選択肢についての十分な検討を踏まえて,三者の合意のもとに秋
田進出の可否及び事後処理等を協議すべきであったにもかかわらず,やや不
用意ともいえる原告代表者発言とこれに対するC知事の対応を契機として,巨
大プロジェクトの中止が決まった最終段階における原告と被告双方の対応は
その社会的責務に十分に応えないものであったというべきである。
 しかしながら,既に認定判断したとおり,原告は,一応,被告らとの三者協議
を経て,秋田進出の断念を公式に表明したのであり,この三者協議の当時は,
附属覚書所定の平成13年3月末までに本件住民訴訟が解決する可能性はほ
とんどなくなっており,被告らがこれを解決できる見通しを立てることもできない
状況にあった以上,社会経済情勢の変動が急激に加速する中にあって,既に
本件覚書の調印から12年,当初の事業計画における操業開始予定時期から
6年もの年月が経過し,さらに操業開始まで今後少なくとも10年の期間を要す
ると見込まれる事業について,株式会社である原告に対して,実行を保証でき
る事業計画の策定を求めて,本件売買契約等の締結を強いることは信義則上
からも相当ではなかったというべきである。したがって,本件用水単価を確定す
る期限である同年3月末が経過した後に,もはや進出を前提とした協議を続け
る意味はないとして進出断念を表明した原告の判断にはやむを得ない事情が
あったというべきである。
 そうすると,原告の秋田進出は,本件住民訴訟に起因して本件用水単価13
円70銭の適法性が平成13年3月末までに確定しなかったことを主たる理由と
して,附属覚書第4条に基づき三者協議を経たうえ,中止されているのである
から,他に,原告において本件売買契約等を締結する義務があるとするに足り
る特段の事情が認められない限り,本件違約金条項に基づく原告の違約金支
払義務は発生しないことに確定したというべきである。
(4)ア これに対し,被告は,本件住民訴訟の控訴審が,平成13年3月までには
被告知事ら勝訴の判決の言渡しが見込まれていたにもかかわらず,原告代
表者発言がされたために進行協議期日が重ねられることになったと主張す
る。確かに,前記認定の事実(第2の2(17)ないし(19),第3の1(31)ないし(33
))を総合すれば,本件住民訴訟の控訴審において,口頭弁論終結後,進行
協議期日が重ねられたことについて,原告代表者発言が影響を及ぼしてい
る可能性は否定できず,また,秋田進出の中止は,三者協議を踏まえて,共
同して公表される筋合いのものであったから,その意味で,原告代表者発言
は慎重さに欠けたといわざるを得ないものである。しかしながら,本件住民
訴訟の控訴審で,被告知事らが平成13年3月までに勝訴判決を得る見込
みであったことを認めるに足りる証拠はない。また仮に,本件代表者発言が
本件住民訴訟の手続の進行に何らかの影響を及ぼしたとしても,そもそも原
告代表者とC知事の非公式な会談の結果を県議会の政党懇談会や記者会
見で公表したのは,被告のC知事自身であり,その公表までの間に,被告
が,原告に対して,真摯に秋田進出の再検討を働きかけた形跡は認められ
ない。さらに,原告は,三者協議の場でも被告らに対して早期に本件住民訴
訟の判決の言渡しを受けるよう主張していたのであるから,被告としても,本
件住民訴訟の控訴審で勝訴し,本件用水単価の適法性を確定できる見込
みがあったのであれば,本件住民訴訟の早期判決を求めるとの対応が考え
られるはずであったにもかかわらず,そのような働きかけをした形跡も認めら
れない。その意味で,事の真偽は別として,原告が,C知事は原告代表者発
言を意図的に利用したと受け止めていることも無理からぬような被告の対応
であったというべきである。したがって,原告代表者発言をもって,原告の責
めに帰すべき事由により本件住民訴訟の被告知事らに有利な解決を妨げた
とはいうことができない。しかも,仮に本件住民訴訟の控訴審の判決が平成
13年3月末までに言い渡されたとしても,敗訴当事者において上告すること
は必至と予想される情勢にあった(第2の2(16))のであるから,同月末まで
に,本件住民訴訟が解決せず,本件用水単価の適法性が確認されないこと
は明らかな状況であり,いずれにしても被告の上記主張は採用することがで
きない。
イ また,被告は,住民訴訟の提起が住民の権利であり,訴訟の進行が裁判
所の訴訟指揮によるものであるから,本件住民訴訟で,本件用水単価の適
法性が期限までに確定しなかったことは本件違約金条項所定の天災地変や
被告らの責めに帰すべき事由には当たらないとも主張する。たしかに,本件
住民訴訟が被告らの意思だけで解決できないものであることは当然である
が,原告が求めていたのは,被告らとの合意により取り決めていた本件用水
単価の適法性の確定であり,既に認定判断したとおり,附属覚書は,本件住
民訴訟に起因して本件用水単価が12円50銭(後に,13円70銭に変更)に
確定されない場合は,本件違約金支払義務の発生障害事由に当たるとの前
提で締結され,本件用水単価の確定は,本件売買契約等の締結の先決問
題と位置づけられ,被告らは,原告に対する関係で,本件売買契約等の締
結に先立ち,本件用水単価を原告との合意に基づく金額に確定する義務を
負担していたのである。したがって,本件住民訴訟とは無関係に原告は本件
売買契約等の締結義務があり,本件違約金の支払義務が発生するとの被
告の主張は到底採用することができない。
 6 結論
   以上によれば,被告が他に特段の違約金発生事由について主張立証していない
本件においては,平成13年3月末までに本件住民訴訟に起因して本件用水単
価13円70銭の適法性が確定しなかったことから,附属覚書第4条の約定に従っ
て三者協議を経たうえで,原告が進出断念を表明している以上,原告の本件売
買契約等の締結義務は消滅したものと解すべきである。したがって,本件違約金
条項に基づく違約金の支払義務が原告に発生する余地はなくなり,本件質権設
定契約は付従性により終了したものというべきであるから,原告の本訴請求はす
べて理由がある。
   他方,上記の進出断念表明により,原告の本件売買契約等の締結義務は消滅
し,本件違約金条項に基づく違約金の支払義務も発生しないことに確定したので
あるから,その他,特段の違約金発生事由についての主張立証がない以上,被
告の反訴請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がないことにな
る。
   よって,主文のとおり判決する。
    東京地方裁判所民事第50部
          裁判長裁判官    奥   田   隆   文
         裁判官    金   澤   秀   樹
         裁判官    若   松   光   晴
(別紙1) 預金証書目録
(別紙2) 本件覚書
(別紙3) 基本協定書
(別紙4) 第1変更覚書
(別紙5) 変更協定書
(別紙6) 附属覚書
(別紙7) 第2変更覚書
(別紙8) 別表
 以上の別紙については,省略しました。

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