弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成16年5月28日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成15年(ワ)第4922号 不当利得返還請求事件(利息制限法違反)
口頭弁論終結日 平成16年4月22日
判決
主文
1被告は,原告に対し,126万1153円及びこれに対する平成14年5月21日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2訴訟費用は,被告の負担とする。
3この判決は仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
主文1項同旨
第2事案の概要
本件は,貸金業者である被告との間で,平成3年4月13日以降,金銭の借入と返
還を繰り返した原告が,利息制限法所定の制限利率を超えて支払った部分を元
本充当することによって過払金が生じているとして,被告に対し,不当利得返還請
求権に基づいて,126万1153円の過払金及びこれに対する利得の日の後(最
終弁済日の翌日)である平成14年5月21日から支払済みまでの民法所定の年5
分の割合による利息の支払を求めた事案である。
1争いのない事実
(1)被告は,「A」の屋号で貸金業を営む者である。
(2)原告は,被告との間で平成3年4月13日に下記金銭消費貸借基本契約(以下
「本件基本契約」といい,本件基本契約に係る基本契約書(乙1)を「本件基本契
約書」という。)を締結し,原告は金銭を借り受けた。

借入限度額金20万円
利率年43.8パーセント
返済方法毎月15日限り元金1万5000円以上と支払日までの利息を支払う
(3)原告,被告間の借入れ及び弁済状況は,別紙計算書の年月日,借入額及び返
済額記載のとおりである。
2争点1
貸金業の規制等に関する法律(以下「法」という)43条1項のみなし弁済規定の適
用の可否
(1)被告の主張の要旨
ア法43条1項の「みなし弁済」の主張
(ア)取引の実情について
原告,被告間の取引は合計234回あり,このうち貸付取引は店頭貸付取引が3
回,店頭返済取引が7回,払込による返済取引が1回,その余はすべてATMによ
る取引であった。
そして,原告が店頭にて返済取引した時には,原告は「領収書兼取引確認書」(又
は残高確認書)(「残高確認書」は,「領収書兼取引確認書」と同内容で複写して作
成される。)を,振込の場合には金融機関から払込金受取書を,ATM取引の場合
には領収書兼ご利用明細書(乙19の8)をそれぞれ受け取っている。
(イ)店頭取引について
「領収書兼取引確認書」(又は残高確認書)及び本件基本契約書には,法17条1
項の「返済期間」と「返済回数」を除き,法17条,18条所定の記載事項の全部が
記載されている。
原告が被告から受け取った本件基本契約書と「領収書兼取引確認書」(又は残高
確認書)と併せて法17条1項所定の事項を記載した書面(以下「17条書面」とい
う。)であり,原告が店頭での返済時受け取った「領収書兼取引確認書」(又は残
高確認書)は法18条1項所定の事項を記載した書面(以下「18条書面」という。)
である。
なお,イ(イ)で述べるように,返済期間及び返済回数の記載がなくても17条書面
の要件を満たす。
(ウ)振込入金について
本件基本契約書と金融機関が発行する払込金受取書と併せて17条書面である。
法18条2項が払込等の返済の場合には交付請求がなければ払込金受取書とは
別に法18条1項の書面を交付する必要がないと規定し,この場合には刑罰も科さ
れないこと等からすると,法18条2項規定の返済取引にあっては,払込金受取書
が18条書面を擬制するものであるといえる。
仮に,払込金受取書が18条書面を擬制することが認められないとしても,原告は
18条書面の受領に関して民法413条の受領遅滞の事由がある。すなわち,原告
は契約時に銀行口座への振込等による弁済の場合は18条書面の送付をしない
でほしい旨を申出ており,その後も,原告は18条書面の交付を求めたことはな
い。被告は銀行口座への振込の場合は18条書面を取引の都度作成しているが,
これを送付せず保管している。したがって,原告は銀行口座への振込による返済
の場合,18条書面に当たる「領収書兼取引確認書」の送付を断っていたので,こ
れは民法413条の受領遅滞である。
また,原告が本件訴訟提起前に全取引履歴の交付を要求しこれを受取ったことを
以て受領遅滞は解消し,法律的に「直ちに」18条書面を受けたこととなったもので
ある。
(エ)ATM取引について
本件基本契約書とATMが発行する「領収書兼ご利用明細」(乙19の8)と併せて
17条書面である。
被告の作成する「領収書兼ご利用明細書」は,領収書兼取引確認書又は残高確
認書(乙21の1ないし166)と同一内容であり,18条書面として不備はない。仮
に,不備があるとしても,(ウ)に述べたのと同じ理由により,18条書面であることが
擬制される。
(オ)以上より,被告と原告間の金融取引は法43条1項を満足する取引であるの
で,「みなし弁済」が認められるものである。
イ原告の主張等に対する反論
(ア)支払の任意性について
債務者は乙19の5及び乙19の6のATMの画面に表示された利息額と前回の元
本残を確認したうえで,債務者の選択で返済の額を決定して返済を実行するか否
かを選択することになっている。又,被告はATM画面上のデータを参考に利息等
に加えて支払うべき元本内入額の支払金額を任意に決定し,入金処理を自ら行っ
たのであるから,原告の「債権者の指示されるままそのATMの表示された金額を
返済し続けていただけであり,利息として任意に支払ったとは到底いえない。」との
主張は,理由がない。
(イ)本件基本契約書が17条書面の要件を満たすかについて
原告は,本件基本契約書に「返済期間及び返済回数」の記載がないと主張する
が,本件基本契約のような「包括契約」にあっては特定及び記載が不能な事項で
あるから,これらの記載を求めることには理由がないというべきである。
(ウ)平成3年6月15日の取引について
同日の取引は,従業員のBが担当していたものであるが,乙21の4,乙21の5の
「残高確認書」の外に,切替の事実を確認する「ご利用確認書」(乙23)が作成さ
れており,同「ご利用確認書」の手書記載分は従業員Bの筆によるものである。同
「ご利用確認書」には,通常同確認書の受取を確認する署名をもらうところ,原告
の署名はない。しかし,被告は,従前よりコンピュータのシステム上の制限から切
替である旨の伝票の打出しが出来ないので,「ご利用確認書」を印刷して用意して
おり,これを作成して交付し,控えを保存している。当該「ご利用確認書」に原告の
署名がないのは,単に手落ちから署名漏れとなったにすぎない。したがって従業
員の店長のCが陳述(乙25)しているとおり,同確認書は他の債務者と同様に原
告に手渡されている。
更に,乙21の4「残高確認書」には,貸金業法施行規則13条1号カが規定する
「内訳(元本,利息及び当該貸付けの契約に基づく債務の不履行による賠償額の
別をいう。)」の記載がなされている。又,同証には「切替」である旨のゴム印が押
印されており,原告に手渡した同計算書にも同じく「切替」のゴム印が押印されて
おり,切替取引である旨は表示されている。したがって,切替取引であることから,
乙21の4にある「お取引金額」を乙21の5にある「お取引金額」から差引くことによ
り,その切替取引時に現実に原告に手渡された金額は判明する。
したがって,平成3年6月15日の取引の借り換え処理に関する原告の主張には理
由がない。
(2)原告の主張の要旨
ア支払の任意性について
原告の各利息の支払は,法43条にいう「利息として」支払ったとはいえない。同条
にいう「利息として支払った」というには,債務者が消費貸借契約に基づく利息であ
ることを認識した上で支払うことだとされる。
そしてATMにより返済する場合には,約定に従い機械的に利息,損害金,元金に
充当されるいう抽象的な認識では足りず,具体的に一定の金額の利息,損害金,
元金に充当されるという認識を有していることが必要である。
本件の場合,ほとんどが被告設置のATMによる返済であったが,被告のATMで
は入金する前に利息,残元金の金額が画面に表示はされていたようであるが,そ
れは被告が予め決めている利息額が表示されるだけで,その利息額がどのような
利息で算出されたものか,それが高利であるかは債務者には認識できない。この
ような場合においては法43条にいう任意の支払とはいえない。特に,本件の場
合,平成3年4月の最初の借入の際,基本契約書を交わしただけで,その後10年
以上の間契約書を更新することなくただ借入と返済を繰り返したのである。このよ
うな古い基本契約であるから原告としても当初の契約に基づく利息の支払をして
いるとは認識できなくなっていたことは容易に想像がつく。また,その間,平成3年
11月には利息が43.8%から40%へ引き下げられていた。これは,基本契約の
重大な変更であったが原告にはその事実も全く知らされることもなかった。したが
って,少なくとも平成3年11月以後においては,原告の各利息の支払は契約に基
づく支払でなかったことになる。
以上,債務者である原告も各利息支払において,債権者に指示されるままそのA
TMの表示された金額の返済を続けていただけであり,法43条にいう「利息として
任意に支払った」とは到底いえない。
イ本件基本契約書が17条書面の要件を満たすかについて
被告が予め作成している本件基本契約書は一応所定の必要事項が記載されてい
るが,それが法17条の契約書面といえるには,債務者が自己の債務の内容を正
確に認識し,弁済計画の参考としうる程度に一義的,具体的に明確でなければな
らないと解される。
ところが,乙1の基本契約書は返済金額に応じて月々の返済金額がばらばらであ
り,債務者には一体どのように返済すればいいのかがこの契約書からは容易に理
解できない記載になっている。債務者が交付を受けた契約書面の記載につき,具
体的借入金を当てはめ,その返済期間,返済回数,各回の返済期日及び返済金
額並びに充当関係などを時間をかけて計算しなければ理解できない程度の記載
であれば法17条1項が要求する内容を満たしているといえない。被告が交付した
乙1の基本契約書や乙19の8の「領収書兼ご利用明細」,乙21の「領収書兼取
引確認書」では具体的返済金額に基づく返済期間,返済回数,返済金額,返済の
充当関係が不明である。特に基本契約書に記載された最終返済期間である平成
8年4月12日を経過した以後の返済についてはその弁済計画はわかりようがな
い。少なくとも上記期限以後の貸付においては,基本契約の返済期間と実際の返
済の関係が不明瞭である。このような不明瞭な書面であれば,法17条にいう「返
済期間及び返済回数」の記載がなかったと解すべきである。
ウ平成3年6月15日の取引について
本件の一連の貸付においては,平成3年6月15日に借り換えがなされている。こ
のときには,同日の新たな30万円の貸付に当たりこの貸付額から従前の貸付の
残元本・未払い利息を差し引いているので,現実には金11万5283円しか原告に
は交付されていなかった。そして旧債務の利息をゼロとして処理しているが,その
処理は原告の了解や原告に説明したうえでのものではない。また,その際には新
たな書面の交付などもなかった。
したがって,この借り換えにおいての利息への充当は債務者である原告の了解の
ないものであり任意に支払ったものとはいえない。
また,貸金業法施行規則13条1号カによれば,従前の貸付に基づく債務の残高
を貸付金額とする貸付について,17条書面には「従前の貸付けの契約に基づく債
務の残高の内訳(元本,利息及び当該貸付けの契約に基づく債務の不履行によ
る賠償額の別をいう。)及び当該貸付けの契約を特定しうる事項」の記載が求めら
れている。
本件のように従前の貸付の残債務と現実に交付された金員の合計が貸借の目的
とされる場合では従前の債務の残高とその内訳(元本,利息,賠償金の別)及び
現実の交付額をもってする借り換えである旨の記述がなければ,法17条3号の
「貸付けの金額」を明らかにしたものとはいえないと解される。
しかし,本件では,現実の交付額をもってする借り換えである旨の記載がないか
ら,同規則1号カにいう,新たな貸付け契約を特定する事項の記載がないことにな
り17条書面を交付したとはいえない。
(エ)18条書面の交付について
17条書面の存在及びその交付並びに18条書面の存在が認められると仮定して
も,平成3年5月12日,同年6月8日,同月15日,同年7月14日,同年8月16
日,同年10月13日及び平成4年10月11日の各返済を除く返済については,18
条書面が交付されていないことは明らかであるから,少なくとも別紙計算書のとお
り,126万1153円の過払い金が生じている。
第3争点に対する判断
1法43条1項は,貸金業者が業として行う金銭消費貸借上の利息の契約に基づ
き,債務者が利息として任意に支払った金銭の額が利息の制限額を超え,利息制
限法上,その超過部分につき,その契約が無効とされる場合において,貸金業者
が,貸金業に係る業務規制として定められた法17条1項及び18条1項所定の各
要件を具備した各書面を交付する義務を遵守したときには,利息制限法1条1項
の規定にかかわらず,その支払を有効な利息の債務の弁済とみなす旨を定めて
いる。貸金業者の業務の適正な運営を確保し,資金需要者等の利益の保護を図
ること等を目的として,貸金業に対する必要な規制等を定める法の趣旨,目的(法
1条)と,上記業務規制に違反した場合の罰則(平成15年法律第136号による改
正前の法49条3号)が設けられていること等にかんがみると,法43条1項の適用
要件については,これを厳格に解釈すべきものである。
法43条1項の規定の適用要件として,17条書面をその相手方に交付しなければ
ならないものとされているが,17条書面には,法17条1項所定の事項のすべて
が記載されていることを要するものであり,その一部が記載されていないときは,
法43条1項適用の要件を欠くというべきであって,有効な利息の債務の弁済とみ
なすことはできない(最高裁平成16年2月20日第2小法廷判決同旨)。
2これを本件についてみるに,本件基本契約書(乙1)と「領収書兼取引確認書」
(又は残高確認書)又はATMが発行する「領収書兼ご利用明細」もしくは金融機
関が発行する払込金受取書を併せても,法17条1項所定の事項のうち「返済期
間」と「返済回数」の記載がなく(このことは被告も自認している。),法43条1項適
用の要件を欠くというべきであって,原告の支払を有効な利息の債務の弁済とみ
なすことはできない。被告は,この点について,本件各貸付が包括契約に基づく貸
付である以上は上記各事項の記載がないのはやむを得ないところである旨主張し
ているが,包括契約の場合に限って厳格であるべき法43条の適用要件が緩和さ
れるという趣旨の被告の主張は理由がないことは明らかであるといわなければな
らない。
したがって,他の法43条の適用要件について検討するまでもなく,少なくとも別紙
計算書記載のとおり,126万1153円の過払い金が生じていたことを認めること
ができる。
なお,原告の請求が権利濫用ないし信義則に違反する旨の被告の主張に理由が
ないことは明らかである。
3結論
以上によれば,原告の請求は理由があるからこれを認容し,訴訟費用の負担につ
いては,民事訴訟法61条を,仮執行宣言については,同法259条1項をそれぞ
れ適用して,主文のとおり判決する。
名古屋地方裁判所民事第4部
裁判官樋口英明
(別紙は省略)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛