弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     一、 第一審参加人の控訴(昭和三七年(ネ)第六一五号事件)はこれ
を却下する。
     二、 第一審原告の第一審被告に対する控訴はこれを棄却する。
     三、 第一審原告の第一審参加人に対する控訴及び第一審参加人の第一
審被告に対する附帯控訴に基づき、原判決中第三、四、五項を次の通り変更する。
     四、 第一審参加人と第一審原告との間において、債権者第一審原告の
債務者第一審被告に対する売掛代金債権(第一審原告が破産者三進工業株式会社か
ら譲受けたもの)金三九八、三六五円は、否認により右破産者の破産財団に復帰し
たことを確認する。
     五、 第一審参加人の第一審原告に対するその余の債権復帰確認の請求
はこれを棄却する。
     六、 第一審参加人に対し、第一審被告は、金三九八、三六五円と、こ
れに対する昭和三一年四月一一日以降完済まで年六分の割合による金員を支払わな
ければならない。
     七、 第一審参加人の第一審被告に対するその余の請求を棄却する。
     八、 訴訟費用は第一、二審を通じこれを四分し、第一審参加人及び第
一審被告は各その一を、第一審原告はその余を負担しなければならない。
     九、 この判決は第六項に限り金八〇、〇〇〇円の担保により、仮りに
執行することができる。
         事    実
 第一審参加人は第六一五号事件、第六四号事件(附帯控訴事件)につき、各「原
判決中第一審参加人敗訴部分を取消す。第一審被告は第一審参加人に対し、金一、
三九八、〇〇〇円及びこれに対する昭和二八年二月一日から完済に至るまで年六分
の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも第一審被告の負担とす
る。」との判決及び仮執行宣言(第六四号事件のみ)を求め、第六三三号事件につ
き、控訴棄却の判決を求めた。
 第一審原告代理人は第六三三号事件につき、「原判決中第一審原告敗訴部分を取
消す。第一審被告は第一審原告に対し、金一、三九八、〇〇〇円及びこれに対する
昭和二八年六月二七日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。第一
審参加人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも第一審被告及び第一審参加
人の負担とする。」との判決を求めた。
 第一審被告代理人は第六一五号事件につき「本件控訴を棄却する。控訴費用は第
一審参加人の負担とする。」との判決を求め、第六三三号事件につき「本件控訴を
却下する。控訴費用は第一審原告の負担とする。」との判決を求めた。
 当事者双方の事実上の主張、証拠の援用認否は、
 第一審参加人において、否認による目的債権の破産財団復帰につき、仮りに民法
第四六七条を類推適用すべきものとしても、同法条の承諾には別段の要式が定めら
れていないから、本件の如き債権譲渡人、譲受人、債務者の間の三面訴訟におい
て、判決により債権復帰が確認された以上は、債務者たる第一審被告は債権の財団
復帰を当然了知していることになるから、今更譲渡人たる第一審原告から譲渡通知
をする必要は有り得ず、債務者たる第一審被告が右の通知のないことを理由として
譲渡を認めず支払を拒むことは著しく信義に反するものである。なお、本件債権譲
渡の原因となつた第一審原告の債権は、組合員外に対する貸付金債権であるから、
組合目的の範囲外に属し、無効である、と述べ、乙第六号証、甲第九号証は不知と
述べ、
 第一審原告代理人において、立証として、甲第九号証を提出し、証人Aの証言、
第一審原告代表者尋問の結果を援用し、乙第六号証は不知と述べ、
 第一審被告代理人において、第六三三号事件の第一審原告の控訴は、原判決に対
し第一審参加人がすでに控訴の申立(第六一五号事件)を為し、当事者全部に対す
る判決確定が阻止され、事件が上級審に移審した後で、第一審原告も第二審の当事
者(控訴人又は被控訴人)となつた後であるから、二重控訴として不適法であり、
却下せらるべきである、と述べ、立証として乙第六号証(原審にて援用した株式会
社大和銀行B支店に対する調査嘱託の回答書)を提出し、甲第九号証は不知と述べ
たほか
 原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。
         理    由
 一、 先ず職権を以て本件各控訴の適否を按ずるに、第一審参加人の申立てた控
訴(第六一五号事件)は、同人に対する第一審判決の送達が昭和三七年五月七日
(但し、第一審原告に対する送達は同月一一日、第一審被告に対する送達は同月一
〇日)であるに対し、その控訴申立の日は同月二二日(水曜日)であること記録上
明白であるから、右控訴については上訴期間徒過の疑があり、また第一審原告の申
立てた控訴(第六三三号事件)は、さきの控訴により事件が移審し、第一審原告も
すでに第二審当事者になつているものとすれば、二重控訴の問題を生ずる余地があ
るから、先ず右の点を検討するにつき必要な限度において、本件第一審において成
立した参加訴訟の性格と効果につき考察を試みる。
 本件訴訟が、第一審原告が本件売掛代金債権を訴外三進工業株式会社から譲受け
て取得したものとして、債務者たる第一審被告に対し、これが支払を請求するもの
であつたところ、第一審参加人が破産管財人として右債権の譲渡を否認することに
より、右債権が破産財団に帰属し、第一審参加人がその管理処分権を取得すること
を理由として第一審被告にその支払を請求し、第一審原告がその債権者たることを
否定することを目的として、右当事者双方を相手方として当事者参加の申立をした
ものであることは、参加申立書の記載により明白であつて、それが民事訴訟法第七
一条に基く参加であるとする第一審参加人の主張はそのまま首肯し得るところであ
る。
 ところで、右民訴法第七一条に基く参加訴訟における民訴法第六二条の準用につ
いては、かかる訴訟における三個の当事者は、必ず互に対立する関係に在つて、訴
訟物より生ずる利益共通関係には全く立たず、単に訴訟進行と裁判統一の要求の面
からのみその歩調を一にする関係に在るに過ぎないことと、参加により生ずる右の
関係が、専ら参加人の意思によつて生ずるもので、その拘束力も、参加人の右訴訟
関係の離脱可能機会にその離脱意思(相手方の同意ある場合、又は相手方の意思に
拘らない場合)に基く行動を抑制しないもの、例えば参加の取下による参加関係の
解消の如きものを妨げないこと、の二点を考慮に入れてこれを決すべきである。
 そうすると、参加人の原判決に対する不服の有無は、参加の取下と同様、参加人
の参加関係離脱の機会の一であり、しかも相手方の意思に拘らない場合であるの
と、参加人はその相手方たる原、被告とは決して利益共通関係には立つものではな
い点から見て、参加人の上訴期間については同法第六二条第一項の準用なく、その
期間は他の当事者のそれとは無関係に進行し、その上訴期間徒過はその不上訴と同
様に、参加関係解消行為としてそのまま是認されてよいものと考えられねばならな
い。そうすると、本件において第一審参加人の申立てた控訴(第六一五号事件)
は、独立控訴としては控訴期間徒過後の控訴として不適法であるから、これを却下
すべきである。
 次に第一審原告の申立による控訴(第六三三号事件)は、第一審参加人の右の控
訴か不適法である以上、二重控訴となることなく、他に右控訴を不適法とする理由
はないから、これが却下を求める第一審被告の申立は理由がない。
 よつて以下、右第一審原告の控訴及びこれに対する第一審参加人の附帯控訴(第
六四号事件)に基き審判する。
 二、 先ず訴外三進工業株式会社の第一審被告に対する債権の存否につき按ずる
に、成立に争のない丙第八号証、原審証人Cの証言によつて成立を認める甲第三号
証と同証人、証人Dの証言、及び弁論の全趣旨を綜合すると、訴外会社はかねてよ
り第一審被告に対しミシン・テーブル等を売渡し、その売掛代金として昭和二八年
二月二四日(帳簿上)現在合計金二、一八〇、七六五円二九銭の債権(二月二五日
現在は金二、三九八、三六五円二九銭)を有していたことが認められ、後記相殺の
点を除き右認定に反する証拠はない。
 三、 次に第一審被告の相殺の抗弁について判断する。成立に争のない甲第四号
証、乙第四号証、証人E、Dの証言により成立を認める乙第一号証(第一審参加人
との関係では成立に争なし)と右各証人、証人F、Cの乱言を綜合すると、第一審
被告は訴外会社との間において、第一審被告が有していたとする前受金返還債権一
〇〇万円、出資金返還債権一〇〇万円計二〇〇万円の債権と、右売掛代金債務二一
八万余円のうち金二〇〇万円とを同月八日付を以て対当額において相殺する旨合意
したこと(但し右相殺の日付は、実際の合意成立の日より相当遡つたもので、実際
の合意成立の日は前記帳簿記載数額の点から見て、同月二四日と認められる)が認
められ、右日付についての甲第四号証、乙第四号証中の記載は右認定を左右するに
足らず、他に右認定を覆すべき証拠がない。
 そこで右相殺約定の効力について検討する。
 四、 右相殺当時において、第一審被告が訴外会社に対し前受金(前渡金)返還
債権一〇〇万円を有していたことは、第一審原告の認めるところであり、第一審参
加人に対する関係においても、前掲甲第四号証、乙第四号証、証人Fの証言により
成立を認める乙第三号証の七、八、右証人及び証人D、G、Cの証言により右債権
の存在はこれを認めることができる。従つて、右債権についての相殺は、他に特段
の事由のない限り有効と認めらるべきである。次に、前記出資金(返還債権)と表
示された債権一〇〇万円についての相殺について検討するに、右相殺当時第一審被
告か訴外会社に対して前記前渡金返還債権一〇〇万円以外に、金一〇〇万円の債権
を有していたことは、第一審原告の認めるところであり、ただ右債権の性質につい
て、第一審被告は、これもまた前渡金返還債権であると主張するに対し、第一審原
告は、右は増資新株の払込金であつて、相殺の対象たり得ないものであると抗争す
る。そして第一審参加人に対する関係において、第一審被告の右金一〇〇万円の債
権の存在は、証人C、D、Fの証言によりこれを認めることができる。そして右債
権の性質については右各証人の証言と前掲甲第四号証、乙第四号証、成立に争のな
い甲第五号証とを綜合するときは、第一審被告より訴外会社に対し、右に該当する
金一〇〇万円が交付されたのは、単純な前渡金の趣旨ではなく、訴外会社において
昭和二六年一二月に実施すべき金二〇〇万円の増資(新株発行)の計画があり、右
増資は完了して同月一九日その登記を了したが、第一審被告は昭和二五年夏頃より
行われた訴外会社の懇請により、右新株の払込資金に充てる目的で、現金に代る約
束手形で右金額相当のものを交付したことが認められる。ところで真正の成立を認
むべき乙第五、六号証と、第一審参加人においてその成立を認め、第一審被告との
関係では証人Cの証言により成立を認める甲第六、七、八号証を綜合すると、右の
新株払込に際して、払込金は訴外日本ベニヤ製造株式会社振出の金額一〇〇万円の
小切手(昭和二六年一二月一四日大和銀行B支店の訴外会社預金口座へ入金され、
同月二〇日新株払込金として振替えられたもの)を以て支払われ、その株式申込人
は、第一審被告の関係者たるH(一万株、五〇万円)、同I(八千株、四〇万円)
のほか、訴外会社の関係者たるC(二千株、一〇万円)として払込がなされた事実
が認められ、右認定を左右すべき証拠がない。そうすると、右金一〇〇万円の資金
は、決してその全部又は少くとも一部が第一審被告の株式払込資金として使用され
たものでないことが明白であるばかりでなく(右認定に反する証人Cの証言部分は
措信できない)、商法が株式払込金について相殺を禁じているのは、会社の資本増
加に際して資本充実が果されないことを防止するための配慮であるから、右禁止に
該当する法律関係は、払込関係それ自体の問題であり、払込人に対して、他人が払
込のための資金を供する関係は右相殺禁止に関係がなく、本件においていわゆる出
資金と表示された右金一〇〇万円についても、その授受は直接払込行為自体には該
当せず、現にその払込が前記小切手を以て行われた事蹟に徴しても、右授受の趣旨
は、将来払込に充てる資金の交付又はたかだか払込委託のための交付行為の域を越
えるものでないと解するを相当とし、この関係より生ずる返還請求権は、相殺禁止
に該当しないものというべきである。訴外会社が右払込用の金一〇〇万円の決済が
未了であること、即ち返還債務の存在することを確認した上で、前認定の通り反対
債権とこれを相殺することを約定することについては、法律上何等の支障も矛盾も
なく、第一審原告の主張する無効原因は存しないものといわねばならぬ。
 ところで第一審参加人は、右相殺約定に対して、破産法第七二条第二号による否
認権を主張し、第一審被告は右否認権に対し、消滅時効を援用するので按ずるに、
訴外会社が破産宣告決定をうけたのは昭和三〇年三月二三日であることは、第一審
参加人の自認するところであり、右相殺に対する否認の主張は、昭和三四年三月九
日に陳述された同月六日受付準備書面に記載されているものに外ならないから、破
産法第八五条所定の時効期間経過後の否認権行使としてその否認原因の存否を審査
するまでもなく、失当たるを免れない。右の権利につき時効が完成しないとする第
一審参加人の見解は採用できない。けだし、破産管財人の否認権は、客観的に存在
する否認対象行為に対し、これを調査してその行使可能の時から行使すべきもの
で、その対象たる行為か偶々訴訟上主張されたと否とを問うものではない。従つ
て、否認対象たる相殺が破産宣告後の訴訟において始めて成立したような場合を除
き、否詔権の時効は、破産宣告の時から進行を始めるものと解すべきであるからで
ある。
 五、 そこで訴外会社の第一審被告に対する債権の第一審原告への譲渡の成否に
つき審按する。訴外会社が、右の債権がなお金一、三九八、〇〇〇円あるものとし
て、これを第一審原告に譲渡(債務の弁済に代えて)したのは、第一審原告主張の
通り昭和二八年二月二五日であり、その譲渡通知を同年四月一四日到達の書面によ
りなしたこと(この点は第一審被告において認めるところ)は、証人Cの証言によ
り成立を認める甲第一号証、第二号証の一、二(いずれも第一審参加人はその成立
を認める)によつて認められ、前段認定の金二〇〇万円の相殺は、右譲渡に先立つ
ものであるから(右認定に反する証人Cの証言はたやす措信できない)、右譲渡当
時において訴外会社の第一審被告に対する債権は同年二月二四日現在高の残額金一
八〇、七六五円二九銭、及び同月二五日精算増加額金二一七、六〇〇円、合計金三
九八、三六五円二九銭に外ならないことは、前掲丙第八号証、甲第三号証によつて
明白であり、右認定に反する証人Cの証言は、前記明白な証拠に対比して到底措信
できず、他に右認定を左右する証拠がない。なお、第一審被告は、右残金中金一八
〇、〇〇〇円は、訴外会社より更に訴外三和産業株式会社へ譲渡されたと主張する
が、右譲渡が第一審原告に対する譲渡に先行することについては何等の確証がな
く、むしろ乙第一号証(第一審参加人は成立に争なく、他の関係では証人D、Eの
証言により成立を認める)によれば、右は同年三月五日の行為であつて、第一審原
告に対する譲渡に遅れかつ譲渡承諾には確定日付のないことが認められるから、こ
の点の第一審被告の抗弁は採用できない。
 六、 次に第一審参加人は、右債権の訴外会社から第一審原告への譲渡行為が、
破産法第七二条第一、二、四号に該当するものとして、否認権を主張するので審按
する。前掲甲第五号証、証人Cの証言により成立を認める丙第一、二、三号証と証
人Cの証言を綜合すると、訴外会社は昭和二六年四月一〇日資本金一〇〇万円を以
て設立され、ミシン・テーブルの製造販売等を業としてきたが、昭和二七年五月頃
から運転資金に窮し、手形の支払に甚だ困難を生じ、不渡防止に腐心していたが、
昭和二八年二月五日に至り遂に手形不渡を出し、銀行取引は停止きれ、一般の支払
を停止することになつたが、その債務は二、〇〇〇万円に達し、資産としては、工
場建物、機械等は特定の債権者に売渡担保となし、債権者の一般担保とはなり得
ず、本件売掛金債権以外の債権は五〇万円ないし一〇〇万円程度に過ぎなかつたこ
とが認められ、右認定を左右する証拠がないから、右支払停止後における第一審原
告に対する債権譲渡は、それが特に自己の金銭債務の弁済に代えるもの(即ち代物
弁済)であれば猶更、その性質上一般債権者を害する行為であつて、破産法第七二
条第一、二、四号各本文に該当することは明白である。そして前掲証人Cの証言に
よると、Cは訴外会社の主宰者であると同時に訴外大農物産株式会社の代表取締役
であり、同会社も昭和二八年一、二月頃その経営は危急を告げており、右会社が第
一審原告に対して負担していた債務の弁済をする目的で訴外会社の犠牲において本
件債権譲渡が行われたものであることが推認でき(第一審参加人は、右債務が、第
一審原告の組合員外に為した貸付によつて成立したものとして無効である旨を主張
するけれども、債権譲渡自体はその対価の不存在によつて当然に無効となるもので
はないのみならず、第一審参加人の申立は、債権譲渡を有効としてこれを否認する
に在るから、右第一審参加人の主張はそれ自体理由がない。)、第一審原告は、右
債権が前記認定額以上に多額なものと信じてこれを取得しようとしたものであり、
同人が訴外会社の支払停止又は右譲渡が破産債権者を害するものであることを知ら
なかつたことについては、にわかに措信し難い証人J、Aの証言を措いて、これを
確認すべき証拠がないから、本件債権譲渡は、少くとも前記法条第一、四号所定の
否認の対象たる行為に該当するものと認むべきであつて、第一審参加人の否認権行
使は理由のあるものといわねばならない。
 七、 そうすると、第一審参加人の否認により、さきに第一審原告に帰属した訴
外会社の債権は、第一審原告から訴外会社に代るべき破産財団に復帰したことにな
るのであるが、かかる債権の移転を債務者たる第一審被告<要旨>に対抗するため
に、債権譲渡の場合と同様の対抗要件を履践することを要するか否かにつき検討す
るに、およそ債務者に対して債権譲渡の対抗要件を履践せしめる必要は、そ
の債務者に対して債権者が移動したことを告知して、その効果を承認せしめる(一
方的又は合意により)目的に外ならないのであるから、譲受人が譲渡人と債務者と
を共同の相手方とした訴訟において、当該訴訟の裁判により、右の債権移転が発生
し確認される場合には、そ当事者たる債務者は当然これを覚知すると共に、その効
果を受けざるを得ない立場に在るものであるから、改めて債権移転を告知せしめる
ための対抗要件の具備はその必要を見ないと共に、否認による債権移転は通常甚だ
譲渡人の意に反する移転であり、譲渡人による任意の通知は到底期待するに由な
く、これを履行させるために改めて別の訴の方法に依るが如きは、その目的に比
し、過度の負担を強うるものであつて、当該訴訟の当事者たる債務者について、そ
の相手方にかような過度の要求を課する如き対抗要件欠缺の主張を容認するような
利益は想定することができないから、結局本件否認による債権復帰の効果を債務者
に主張するためには、その否認がなされたことを主張するを以て足り、他に債権譲
渡の対抗要件を必要としないものと解するを相当とする。よつて、この点の第一審
被告の抗弁は理由がない。
 八、 以上の関係に基き第一審原告の請求の当否を按ずるに、第一審原告の前認
定の債権は、第一審参加人の否認により、同人の管理する破産財団に移転し、その
反面第一審原告は右債権を喪失したもので、かつ、その効果は本訴において第一審
参加人より債務者たる第一審被告に対しても主張され、容認せらるべき関係に在る
のであるから、第一審原告は右の反面より、第一審被告に対しても自己の債権を主
張することはできず、従つて第一審被告に対する支払請求は失当である。そうする
と第一審原告の第一審被告に対する控訴は理由なく棄却を免れない。
 九、 次に第一審参加人の第一審被告に対する請求(附帯控訴に基くものを含
む)につき按ずるに、そのうち前認定の金三九八、三六五円(円以下切捨)とこれ
に対する参加申立書陳述(送達日は不詳)の日の翌日たる昭和三一年四月一一日以
降完済まで(右以前の分の損害金の譲渡又は新たな発生については立証がない)年
六分の商事法定利率による遅延損害金の支払を求める部分は正当として認容すべき
であるが、その余は失当であるから棄却を免れない。また第一審参加人の第一審原
告に対する本件債権の破産財団復帰の確認を求める請求については、そのうち右金
三九八、三六五円の限度については正当で認容すべきであるが、その余は失当であ
るから、棄却すべきものであり、第一審原告の控訴は右の限度で一部理由がある。
 一〇、 よつて右と相容れない原判決は、その限度において変更を免れず、訴訟
費用につき民事訴訟法第九六条第九三条第九二条仮執行宣言につき同法第一九六条
を適用して主文の通り判決する。
 (裁判長判事 岡垣久晃 判事 宮川種一郎 判事 鈴木弘)

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