弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決主文第一項を次のとおり変更する。
     控訴人は被控訴人に対し金七九四三万三一四一円及びこれに対する昭和
五八年八月一八日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
     被控訴人のその余の請求を棄却する。
     訴訟費用は第一、二審を通じてこれを平等負担とする。
     控訴人が担保として金四〇〇〇万円を供するときは、仮執行を免れるこ
とができる。
         事    実
 第一 当事者の求める裁判
 一 控訴人
 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
 被控訴人の請求を棄却する。
 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
 控訴人敗訴の場合仮執行免脱の宣言
 二 被控訴人
 本件控訴を棄却する。
 控訴費用は控訴人の負担とする。
 第二 当事者の主張
 次のとおり付加するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用す
る。
 一 控訴人の付加主張
 1 学校設置者が生徒に対して負う安全配慮義務の内容
 学校設置者たる地方公共団体は、授業料を支払ってその公の施設である学校を利
用する生徒に対し、学校教育法その他関係法律の規定の定めるところに従い、学校
における生徒の教育、指導につき、生徒の生命、身体、健康に危険が生じないよう
に物的、人的環境の設置、整備、すなわち物的施設の整備、管理、十分な指導能力
をもつ教諭の担当業務の決定、教育計画の樹立、学校行事の立案、実施等をすべき
安全配慮義務を負うものであるが、同時に安全配慮義務はそれをもって足りる。配
置された人員の職務執行上の故意・過失による損害は、国家賠償法による不法行為
として処理されるべきものであって、安全配慮義務とは次元を異にする。
 そして、かかる安全配慮義務の履行補助者は、これらを決定する職責を負う校長
であり(学校教育法五一条、二八条三項)、校長の職務命令を受けて(地方公務員
法三二条後段)生徒の教育をつかさどる教諭(学校教育法五一条、二八条六項)は
これに該当しない。教諭は、職務執行上生徒の生命、身体を危険から保護する義務
を負うが、その懈怠により事故が発生した場合は教諭の故意・過失による不法行為
が成立するとしても、履行補助者による安全配慮義務の債務不履行が成立するわけ
ではない。
 2 安全配慮義務の履行
 A高校の当時の校長Bは、ラグビー部顧問に学生時代からラグビーの選手であ
り、九州ラグビーフットボール協会や高等学校体育連盟等の役員をし、同高校の体
育教諭であるC教諭を委嘱して指導に当たらせ、かつ、学校事故の防止に深い関心
を持ち、平素から一般的指導は勿論、特にラグビー等の危険を伴いがちな運動部の
顧問に対して、厳しい練習をする場合には十分危険防止に注意するよう指示してい
たし、今回のラグビー部の夏季合宿についても、危険防止について注意し、校長名
の文書で同校卒業生のラグビー部OB会長に対し指導コーチの人選、派遣の依頼を
したのであるから、同校長に安全配慮義務の履行補助者としての債務不履行はなか
った。
 3 損害額の算定について
 (一) 労働能力喪失率について
 被控訴人は昭和五九年三月九州大学法学部を卒業し、ワードプロセッサーを使用
して文書を作成することができ、同年宅地建物取引主任者の資格試験に合格し、同
六〇年五月自らを代表者とする「清家不動産サービス」を創設して、福岡県から不
動産業の営業許可を受けて二年余にわたり同業務を行っており、同六一年二月二五
日清家建設株式会社の取締役に就任し、その間同六〇年一一月から翌六一年九月ま
で単独でアメリカに留学した位であるから、本件後遺症による労働能力喪失率が一
〇〇パーセントになることはない。
 (二) 付添、介助費用について
 右(一)に述へた被控訴人の行動及び業務に照らし、被控訴人の付添、介助が終
生必要であるとは考えられない。
 4 過失相殺
 被控訴人は過去一年間のC教諭の指導下での練習により、フッカーとしての基本
動作は十分に会得、経験していたものであるのに、相手方チームとスクラムを組む
に際し、左右プロップとバインドしないまま、一人で相手フォワードに立ち向かう
という、フッカーとしての基本動作としてあり得ない行動をとったが故に本件事故
が起きたのであるから、これは被控訴人の重大な過失であると言わざるを得ず、被
控訴人の損害額算定に当たり斟酌されるべきである。
 5 損益相殺
 (一) 障害福祉年金、障害基礎年金
 被控訴人が右各年金として、昭和五二年二月二四日から本判決言渡日(予備的に
本件口頭弁論終結日)までに給付を受けた金員(昭和六二年七月二四日現在四五二
万七四七五円)は勿論、これから給付を受けるべき金員(昭和六二年七月二五日以
降分三六〇二万二六〇〇円)は本件損害から控除されるべきである。
 (二) 福祉手当、特別障害者手当
 被控訴人が右各手当として、昭和五二年二月二四日から本判決言渡日(予備的に
本件口頭弁論終結日)までに給付を受けた金員(昭和六二年七月二四日現在一二七
万八九五〇円)及び将来給付を受けるべき金員(昭和六二年七月二五日以降分一一
五三万六八〇〇円につき中間利息を差し引いたうえ)は本件損害の付添看護料から
控除されるべきである。
 (三) 福岡市重度心身障害者福祉手当
 被控訴人が右各手当として、昭和五二年二月二四日から本判決言渡日(予備的に
本件口頭弁論終結日)までに給付を受けた金員(昭和六二年七月二四日現在二〇万
円)及び将来給付を受けるべき金員(昭和六二年七月二五日以降分九二万円につき
中間利息を差し引いたうえ)は本件損害の付添看護料から控除されるべきである。
 二 控訴人の付加主張に対する被控訴人の反論
 1 控訴人の付加主張1は争う。
 学校教育において、学校設置者が負っている安全配慮義務とは、実際の教育現場
において、その教育活動の種類による危険度と生徒の技能、体力を照らし合わせ、
当該具体的教育の状況下において生徒の生命、身体に危険か生じないよう万全を期
すべきことである。そして、学校設置者の生徒に対する安全配慮義務の履行補助者
は、校長のみならず、その監督下にある教諭である。したがって、C教諭の指導上
の過失は控訴人の安全配慮義務違反にほかならない。
 2 同2は争う。
 3(一) 同3(一)は争う。
 被控訴人が、宅地建物取引主任者としての資格試験に合格し、ワードプロセッサ
ーを操作できるとしても、それは被控訴人の人一倍の努力の賜物である。また、資
格はとったものの、仕事は一件もしておらず、清家建設株式会社の役員就任も被控
訴人の父親が会社をやめて自宅で細々と開業した際に、名義を貸しているだけで、
現実に勤務したり、報酬を得ているわけではない。
 (二) 同(二)は争う。被控訴人の後遺症の程度と家族の状況から、職業付添
看護人の看護料は不可欠である。
 4 同4は争う。
 本件事故は被控訴人が、控訴人主張のようにフッカーとしての基本動作としてあ
り得ない行動をとったが故に起きたのであるが、それは、被控訴人にフッカーとし
ての技能、経験がないのに、C教諭が被控訴人をフッカーとして起用したが故に起
きたのであるから、過失相殺すべきではない。
 5 同5は争う。
 控訴人主張の年金は損害の填補を目的とするものではないから、損益相殺の対象
とはならない。仮に、既給付分が控除できるとしても、未給付分は控除できない。
 第三 証拠(省略)
         理    由
 一 当事者、本件事故の発生に至る経緯、本件事故の原因及び被控訴人のその後
の症状の経過についての認定判断は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決の
示すところ(同一三枚目裏初行から同二〇枚目裏八行目まで)と同じであるからこ
れを引用する。
 1 原判決一四枚目表三行目の「一、二、」の次に「第一五号証」を加える。
 2 同行目から同四行目にかけての「原告主張どおりの写真であることにつき争
いのない甲第一二号証の一、二」を「昭和四七年一一月ころ被控訴人及びその級友
らを撮影した写真であることにつき争いのない甲第一二号証の一、同四八年六月こ
ろ被控訴人を含むラグビー部員らを撮影した写真であることにつき争いのない同号
証の二」と改める。
 3 同七行目の「同D」の次に「、当審証人B」を加える。
 4 同一一行目の次に改行して「(一)A高校には全日制生徒全員をもって構成
される福岡県立A高等学校生徒会があり、生徒会規約により、機関、財務、活動等
が規定され、生徒によって自主的に運営されている。生徒会は議決機関として、生
徒総会(全会員で組織される最高の議決機関)、中央委員会(各クラスから二名ず
つ選出された中央委員により組織され、生徒総会に次ぐ議決機関)、部長会(運動
部部長会、文化部部長会で構成される。)等を持つ。生徒会の中に、会員の個性を
伸ばし、友情を育てるとともに、心身の鍛練をはかることを目的として部が設置さ
れる。部細則によれば、部は文化部、運動部、事業部よりなり、部は原則として生
徒会会員中よりの入部または入部希望者により組織され、部として成立するために
は、中央委員会及び職員会の承認をえなければならず、各部には学校で定められた
顧問をおくこととされている。かかる生徒会活動の一環としての運動部の一つにラ
グビー部があり、昭和四八年当時C教諭他一名の顧問がおかれていた。」を加え
る。
 5 同一二行目の「(一)」を「(二)」に、同枚目裏五行目の「(二)」を
「(三)」に、同一二行目の「(三)」を「(四)」に、同一五枚目裏八行目の
「(四)」を「(五)」に、同一六枚目表六行目の「(五)」を「(六)」に、同
枚目裏五行目の「(六)」を「(七)」に、同一七枚目裏八行目の「(七)」を
「(八)」に、同一八枚目表一一行目の「(八)」を「(九)」に、同一九枚目表
五行目の「(九)」を「(一〇)」にそれぞれ改める。
 二 控訴人の責任について
 これについての認定判断は、次のとおり、付加、訂正するほかは、原判決の示す
ところ(同二〇枚目裏一〇行目から同二三枚目表一〇行目まで)と同じであるか
ら、これを引用する。
 1 原判決二〇枚目裏一一行目の「原告」の二字前に「(一)」を加える。
 2 同二一枚目表一二行目の「高校の設置者」から同裏二行目までを、「通常の
場合、生徒は学校設置者から就学場所を指定され、その供給する設備、器具等を用
い、配置された教師の指導、監督のもとに教育を受けるものであるから学校設置者
である県は、信義則上、生徒に対し教育義務遂行のために設置すべき場所、施設も
しくは器具等の配置管理又は学校職員の指導のもとに遂行する教育の管理に当たっ
て、生徒の生命、身体及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務(安全配
慮義務)を負っているものと解するのが相当である。なお、右の安全配慮義務の具
体的内容は、当該学校の種類、教育活動の内容等安全配慮義務が問題となる当該具
体的状況等によって異なるべきものである。」と改める。
 3 同七行目の次に改行して、以下を加える。
 <要旨第一>「(二) 以上の学校設置者と生徒との法律関係からすれば、高等学
校教育において、学校設置者が在学中の生徒に対して負う安全義務と
は、実際の教育現場において、その教育活動の種類による危険度と生徒の技能、体
力を照らし合わせ、当該具体的教育活動の状況下において生徒の生命、身体、健康
に危険が生しないよう万全を期すべきことである。生徒に対する関係でこの安全配
慮義務を遂行できるのは、生徒と接触している校長を頂点とする教頭、教諭及び事
務職員、その他の職員(学校教育法五〇条)の全体であり、したがって、学校設置
者の安全配慮義務の履行補助者も校長を頂点とする職員全体であると解するのが相
当である。控訴人は、学校教育法その他関係法律の規定の定めるところに従い、生
徒の生命、身体、健康に危険が生じないように物的、人的環境の設置、整備、すな
わち物的施設の整備、管理、十分な指導能力をもつ教諭の担当義務の決定、教育計
画の樹立、学校行事の立案、実施等をすべき義務を負うものであるが、同時に安全
配慮義務はそれをもって足り、したがって、校長のみが履行補助者であり、教諭は
履行補助者に含まれない旨主張するが、この考えはとりえない。その理由は以下の
とおりである。
 (1) 学校教育の遂行過程では、本質的に危険が内包されている場合があり、
いつそれが顕在化するかもしれないのに、未だ危険を防止し、あるいは回避するに
十分な能力を備えていない未成年者であっても、生徒は両親等保護者の保護のもと
を離れて学校設置者の完全な支配下におかれ、保護者は生徒の生命、身体、健康を
危険から保護する手段を具体的に行使することが出来ず、これを学校設置者に全面
的に委ねざるをえないのであるから、生徒が安んじて学校教育を受けるためには、
学校設置者が生徒に対し安全配慮義務を尽くすことが必要不可欠である。
 (2) 学校教育の現場においては、生徒と日常的に接触している職員(校長ま
たは教頭である場合もあろうが、殆どの場合、原則的には教諭であろう。)こそ
が、教育を施す義務を履行する過程で、生徒に対する具体的な安全配慮義務をも履
行できる立場にあるから、当該職員の行為が介在して始めて、学校設置者の安全配
慮義務は万全を期すことが現実に可能となる。したがって、学校設置者の生徒に対
する安全配慮義務は、校長のみならず、その監督下にある教諭を含む職員の全体を
とおして具体化されるのである。
 (3) 要するに、学校設置者が生徒に対して負う安全配慮義務の履行は、第一
次的(一般的)には、物的設備及び人的配置の整備充実によってなされるが、それ
をもって足りるのではなく、これを更に補充するものとして、第二次的に、生徒と
日常的に接触している職員が、その教育活動を実践する過程で遭遇するであろう個
々の危険から生徒を保護するため具体的状況に応じた方策を講じることによって、
始めて万全たりうるから、学校設置者の支配、管理のもとに教育業務に従事する職
員が、その実践過程で右業務に関連して生徒に対する危険の発生を未然に防止する
ために尽くすべき注意義務がまたとりも直さず学校設置者の負うべき安全配慮義務
の内容となるというべきである。」
 4 同一〇行目の次に、改行して「前記のとおり、被控訴人が所属していたA高
校のラグビー部は、同校生徒の自主的な生徒会活動の一環としての運動部の一つで
あるが、部としての成立には、生徒会の議決機関である中央委員会のほか職員会の
承認を要し、顧問を置くことも義務づけられ、実際にもC教諭他一名の顧問がおか
れていた。そして、本件事故が発生したのは、保護者のもとを離れ、A高校の学内
にある合宿施設に寝泊まりしながら練習を繰り返す同ラグビー部恒例の、夏期休暇
中の一週間に及ぶ合宿訓練中の過程で生じたものである。したがって、右ラグビー
部の合宿訓練が正課の授業とはおのずから異なるものであるにしても、かかるクラ
ブ活動がまた、学校教育活動の一環であることも否定できず、顧問教諭を始め、学
校側に生徒を指導監督し事故の発生を未然に防止すべき一般的な注意義務があるこ
とはいうまでもない。そして、当該クラブ活動の訓練、練習が本来的に危険を内包
するものであれば、その実施について、指導監督の任にあたっている顧問教諭とし
ては、その危険性を十分注意し、もって、生徒の生<要旨第二>命及び健康等を危険
から保護するよう配慮すべき義務があるものというべきである。本件についてこれ
見るに、」(編注 要旨第二該当の第一審判決部分は本書七〇頁)を
加える。
 5 同末行の「あること」の次に「を客観的に予測しえたのであるから、同教諭
としてはかかる危険」を加える。
 6 同二三枚目表初行の「に鑑み、」の次に「事故の発生を未然に防止するた
め、」を加える。
 三 被控訴人の損害
 1 逸失利益
 これについての認定判断は、以下のとおり訂正するほかは、原判決の示すところ
(同二三枚目表末行から同二四枚目表一〇行目まで)と同じであるから、これを引
用する。
 (一) 同二三枚目表末行から同裏八行目の「なり得ない)。」までを「成立に
争いのない甲第一七号証、原審における被控訴人本人尋問の結果及び弁論の全趣旨
によれば、被控訴人は昭和五九年三月九州大学法学部を卒業し、ワードプロセッサ
ーを使用して文書を作成することができ、同年宅地建物取引主任者の資格試験に合
格し、同六〇年五月自らを代表者とする「清家不動産サービス」を創設し、福岡県
から不動産業の営業許可を受け、同六一年二月二五日清家建設株式会社の取締役に
就任し、その間同六〇年一一月から翌六一年九月まで単独でアメリカに留学したこ
とが認められる。この事実に前記認定の被控訴人の後遺症の程度をあわせれば、被
控訴人の本件後遺症による労働能力喪失率は九〇パーセントとみるのが相当であ
る。原審における被控訴人本人尋問の結果によれば、被控訴人が、右資格試験に合
格し、ワードプロセッサーを操作できるとしても、それは被控訴人の人一倍の努力
及び親族の援護の賜物であることが認められるが、だからといって労働能力喪失率
を一〇〇パーセントとみるのは相当でない。」と改める。
 (二) 同二四枚目表九行目の「金七二九一万三七四二円」から同一〇行目まで
を「金六五六二万二三六七円(円未満切り捨て。以下同じ。試算式は四一五五六〇
〇×〇・九×一七・五四五九=六五六二二三六七である。)となる。」と改める。
 2 付添看護科
 これについての認定判断は、原判決二五枚目裏六行目の「七六歳までの五〇年」
を「四九年余」と、同一二行目の「七六歳に至るまで」を「四九年間」と、同二六
枚目表初行の「金四二三五万六九三六円」を「金四二一〇万六一三三円」と、同二
行目全文を「七八八九×三六五×(一八・一六八七三・五四五九)=四二一〇六一
三三」とそれぞれ改めるほかは、原判決の示すところ(同二四枚目表一二行目から
同二六枚目表二行目まで)と同じであるから、これを引用する。
 3 入院雑費
 これについての認定判断は、原判決の示すところ(同二六枚目表四行目から同八
行目まで)と同じであるから、これを引用する。
 4 過失相殺
 前記認定の事実によれば、被控訴人は、ラグビー部に入部して約一年、フォワー
ドに転向してから二、三月を経過していたのであるから、その間の練習により、フ
ッカーとしてスクラムを組むに際し、左右プロップとバインドを密にして相手方に
立ち向かうという基本動作をとるべきことは十分に知っていたものと推認される
が、被控訴人はこの基本動作を怠り、バインドを密にしなかったため、両プロップ
の動きを察知できないまま、単独で行動した結果、前記のとおりの経過で本件事故
が生じたものである。そうだとすれば、本件事故は前記のとおりかかる未熟者を本
件ゲームにフッカーとして起用したC教諭と被控訴人の右過失があいまって発生し
たものということができ、その過失割合は七対三と認めるのが相当である。 5 
慰謝料
 前記認定の被控訴人の後遺症の程度、療養経過、将来の見通し、前記のとおり、
ラグビーは本来危険度の高いスポーツであるところ、被控訴人が自ら選んでラグビ
ー部に入り、このスポーツに身を投じたこと、前記過失相殺の事情その他諸般の事
情を考慮すると、被控訴人が本件事故により受けた精神的苦痛を慰謝するには金七
〇〇万円をもって相当と認める。
 6 損害の填補
 (一) 日本学校安全会から支給された一五〇〇万円が本件損害から控除される
べきことは、原判決二六枚目裏三行目の「一五〇〇万円が」の次に「昭和五三年一
二月二三日」を加え、同四行目から五行目にかけての「日本体育・学校健康センタ
ー法第四四条」を「日本学校安全会法第三七条」と改めるほか、原判決の示すとこ
ろ(同二六枚目裏初行から同六行目まで)と同じであるから、これを引用する。
 (二) 控訴人は、本件事故による被控訴人の障害に対し、国から被控訴人に支
給された障害福祉年金、障害基礎年金が控除されるべきである旨主張するので検討
するに、当審における福岡県民生部国民年金課に対する調査嘱託の結果によれば、
被控訴人は昭和五二年三月から同六一年三月まで障害福祉年金として三〇八万八二
〇〇円、同年四月から同六三年四月まで障害基礎年金として一六二万六八五八円、
以上合計四七一万五〇五八円の支給を受けていることが認められる。ところで、右
障害福祉年金は昭和六〇年法律第三四号による改正前の国民年金法五八条に根拠を
置き、右障害基礎年金は昭和六〇年法律第三四号による改正後の国民年金法三〇条
の四第一項に根拠を置くものであるが、右各保険給付は、被保険者が負傷により一
定の障害の状態にあるとき、被保険者の障害の程度に応じて年金を支給し、もって
障害者の生活の安定を図るものであるから、民事上の損害賠償での損害のうち逸失
利益と同性質であり、相互補完性を有する関係にあり、したがって、本件事故に基
づく被控訴人の損害のうち逸失利益分とは同法二二条二項にいう「同一の事由」の
関係にあると解されるから(最高裁昭和六二年七月一〇日判決・民集四一巻五号一
二〇二頁参照)、この分は被控訴人が損害項目として掲げているもののうちの逸失
利益分から控除されるべきである。
 控訴人は、さらに、未給付分の障害基礎年金についても控除されるべきである旨
主張するが、未だ現実の給付がなされていない以上、これを控除するのは相当でな
く(最高裁昭和五二年五月二七日判決・民集三一巻三号四二七頁、最高裁同年一〇
月二五日判決・民集三一巻六号八三六頁参照)、右主張は採用しない。
 (三) 控訴人は、国から支給される福祉手当、特別障害者手当及び福岡市から
支給される福岡市重度心身障害者福祉手当は、いずれも付添看護料から控除される
べきである旨主張する。ところで、国から支給される右福祉手当は昭和六〇年法律
第三四号による改正前の特別児童扶養手当等の支給に関する法律の第三章に根拠を
置き、国から支給される右特別障害者手当は昭和六〇年法律第三四号による改正後
の同法第三章の二に根拠を置くものであるが、右各給付は、いずれも障害者の福祉
の増進を図ることを目的としているものである(同法一条)。また、福岡市から支
給される福岡市重度心身障害者福祉手当は福岡市の昭和四八年四月二日条例第四〇
号の「福岡市重度心身障害者福祉手当支給条例」に根拠を置くものであるが、右給
付は、重度心身障害者の福祉を増進することを目的としているものである(同条例
一条)。そして、右各手当は、たしかに付添看護料とその性質において一部重なり
合う部分がないとはいえないとしても、同法や同条例が特に、国民年金法二二条の
ような損害賠償請求権の代位や、給付の免責を定めていないことに徴すれば、両者
が全く同性質であり、相互補完性を有する関係にあるものと断ずることもできない
から、右主張は採用しない。
 7 以上によれば、被控訴人は控訴人に対し、本件事故による弁護士費用を除く
損害として、
 (一) 逸失利益六五六二万二三六七円の三割を過失相殺した四五九三万五六五
六円から、これまで既に支給を受けている障害福祉年金、障害基礎年金の合計四七
一万五〇五八円を差し引いた四一二二万〇五九八円及び
 (二) 付添看護料の五九五六万七六三三円、入院雑費の七三万六〇〇〇円の合
計六〇三〇万三六三三円の三割を過失相殺した四二二一万二五四三円
 (三) 慰謝料七〇〇万円
 (四) 以上(一)ないし(三)の合計九〇四三万三一四一円から、日本学校安
全会より支給された一五〇〇万円を控除した七五四三万三一四一円
 を請求できる筋合である。
 (五) 弁護士費用
 これについての認定判断は、原判決二六枚目裏一二行目の「五〇〇万円」を「四
〇〇万円」と改めるほか原判決の示すところ(同八行目から同末行まで)と同じで
あるから、これを引用する。
 四 結論
 以上の次第で、被控訴人は控訴人に対し、債務不履行に基づく損害賠償として、
七九四三万三一四一円及びこれに対する履行請求日である本訴状の控訴人への送達
日である昭和五八年八月一七日(これは原審記録上明らかである。)の翌日から完
済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を請求できるから、被控訴
人の本訴請求は右の限度で理由があり、その余は失当として棄却さるべきである。
よって、これと結論を一部異にする原判決を右の趣旨に従って変更し、訴訟費用の
負担につき民訴法九六条、八九条、九二条を、仮執行免脱宣言につき同法一九六条
三項を適用して主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 佐藤安弘 裁判官 富田郁郎 裁判官 簑田孝行)

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