弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人上告趣意第一点について。
 しかし、所論は、結局事実審である原裁判所の自由裁量に属する証拠の取捨判断
を非難し、惹いて、審理不尽、理由不備の違法ありとするものであるから、上告適
法の理由とならない。
 同第二点について。
 しかし、刑訴応急措置法第一二条は、所定の書類の供述者又は作成者を訊問する
機会を被告人に与えなければ、証拠とすることができないとしたに過ぎないもので
あるから、既にその供述者又は作成者を訊問する機会を被告人に与えた以上、その
書類を証拠とすることを毫も妨ぐるものではない。また、本件記録によれば被告人
は、昭和二二年六月九日判事の勾留訊問を受け、次で、同日勾留せられたが、その
勾留訊問の際本件犯行につき自白を為し、同年八月一六日第一審の第一回公判期日
においても同様自白を為し、翌年一月一四日の原審第一回公判期日及び同月三〇日
の同第二回公判期日においても、いずれも前同様自白を為し勾留前より終始一貫し
て自白を持続し来つたものであることを認めることができる。従つて原判決の証拠
として採用した右最後の自白は憲法第三八条第二項にいわゆる「不当に長く抑留若
しくは拘禁された後の自白」に該当しないものと認むべきである(昭和二二年(れ)
第二七一号同二三年六月三〇日大法廷判決参照)。それ故所論書類及び右自白を証
拠として採用した原判決には所論の違法はなく、論旨はその理由がない。
 同第三点について。
 しかし、所論朝鮮向け進駐軍用船舶が絶対に存在しないものであることはこれを
認むべき証拠なく、却つて、原判決挙示の証拠によれば、かゝる船舶が存在し、被
告人等もこれが来航を予期して本件犯行を為し、なおも翌日再び遂行すべく待機し
ていたもので、偶々当日は該船舶が判示三崎沖に来航しなかつたに過ぎないことを
認め得るから、本件密輸出遂行行為不成功の原由は単に相対的のものたるに止り、
その行為の性質上結果発生の危険を絶対不能ならしむるものとは言えない。論旨は
その理由がない。
 同第四点について。
 しかし、関税法所定の輸出行為は、海上にあつては、目的の物品を日本領土外に
仕向けられた船舶に積載するによつて完成するものである。そして同法の罰則等の
特例に関する勅令第一条第二項にいわゆる「輸出しようとした者」とは、未だ前記
積載行為の実行には達せざるも、輸出のための単なる準備行為の範囲を超えて、前
記積載行為に接着近接せる手段行為の遂行に入つた者を指すものと解するのが相当
である。されば、本件のごとく密輸出の目的を以て神奈川県三崎沖において、朝鮮
向け船舶に積載すべく、発動機船に物品を積込み横浜市より出港し目的地点に到達
した以上、未だ本船の積載に着手せざるも、前記輸出しようとした者に該当するこ
とは言うまでもないから、本論旨もその理由がない。
 同第五点について。
 しかし仮に第一審の手続に所論のような違法があつたとしても第二審の原判決に
影響を及ぼさないことは明白である。また、原審においては所論上告人申請の証人
を許容しこれが喚問を為すべき証拠決定を為したが所論のごとく召喚状不送達とな
つたものであるから、証拠決定の施行はこゝにおいて終了したものといわざるを得
ない。従つて原審は上告人の証人喚問権を不当に制限又は拒否したものとは言えな
いから原判決には所論の違法は存しない。
 同第六点について。
 しかし、原判決没収に係る所論謄写用原紙は、原審の公判期日前訴訟関係人より
提出した証拠物ではないから、必ずしも公判廷においてこれを被告人に示してその
証拠調を為すを要するものではない。そして原裁判所は公判廷において被告人に対
しこれが差押記録を読み聞かせた上判決理由において所論のごとき説示を為して、
これが没収を言渡したのであるから、原判決には所論の違法はない。
 よつて刑訴法第四四六条により主文のとおり判決する。
 この判決は裁判官全員一致の意見である。
 検察官 茂見義勝関与
  昭和二三年八月五日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    齋   藤   悠   輔
            裁判官    沢   田   竹 治 郎
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    岩   松   三   郎

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