弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中「当審における未決勾留日数のうち二八〇日を被告人Aに対す
る本刑に算入する。」との部分を破棄する。
     原審における未決勾留日数中六四日を被告人Aに対する本刑に算入する。
     検察官のその余の部分に対する本件上告を棄却する。
         理    由
 検察官の上告趣意について。
 記録によれば、被告人は、本件公訴事実中の傷害の事実について昭和四三年一二
月五日、同じく殺人の事実について同月二四日、それぞれ起訴前の勾留状の執行を
受け、爾来引き続き勾留されているものであるが、その間同四四年八月七日、一審
裁判所たる水戸地方裁判所土浦支部において、懲役一三年に処する旨の判決言渡を
受け、被告人はこれに対して同月一五日控訴を申し立てたところ、原審裁判所は、
同四五年七月二一日、その控訴を棄却するとともに、刑法二一条により、原審にお
ける未決勾留日数中二八〇日を一審判決の本刑に算入する旨の判決を言い渡した事
実、およびこれより先、被告人は、同四三年一二月七日、水戸地方裁判所麻生支部
で別件賭博開張図利等の罪(以下別件第一という。)により懲役一年の判決を受け
て収監され、勾留のまま控訴、上告していたが、同四四年一〇月一八日、上告棄却
決定の告知を受け、同月二二日、前記判決の確定を見るにいたつたので、即日右の
刑の執行が開始され、同四五年六月三日、その執行が終了した事実、さらに、被告
人は、これより先、同四二年五月二六日、水戸地方裁判所麻生支部で他の別件賭博
開張図利幇助の罪(以下別件第二という。)により懲役五月、三年間執行猶予の判
決を受けていたが、右別件第一の判決の確定により、同四四年一一月二六日、右執
行猶予は取消され、右取消決定は同月三〇日確定し、別件第一の刑の執行終了に引
き続き、同四五年六月四日から別件第二の刑の執行が開始され、原判決宣告当時、
被告人はなおその受刑中であつた事実、したがつて、原審における未決勾留は、別
件第一に関する上告棄却決定告知の日たる同四四年一〇月一八日からその確定の日
の前日たる同月二一日までの四日間は、別件第一の未決勾留でその刑に法定通算さ
れるべきものと重複しており、また同月二二日から同四五年六月三日までは別件第
一の刑の執行と、同月四日以降原判決宣告の日の前日までは別件第二の刑の執行と、
それぞれ競合している事実を認めることができる。
 しかるに、別件の刑に法定通算されるべき勾留と重複する未決勾留の日数、ある
いは懲役刑の執行と競合する未決勾留の日数を、刑法二一条により本刑に算入する
ことが許されないことは、当裁判所昭和二九年(あ)第三八九号同三二年一二月二
五日大法廷判決(刑集一一巻一四号三三七七頁)およびその趣旨により明らかであ
るから、原審における未決勾留日数のうち同条により本刑に算入することができる
限度は、被告人の本件における控訴申立の日である昭和四四年八月一五日から前記
別件第一の上告棄却決定告知の日の前日である同年一〇月一七日までの六四日であ
る。そこで、原判決中、右限度を超えて未決勾留日数を本刑に算入する旨の部分は、
所論判例に違反して刑法二一条を適用した違法があり、検察官のこの点に関する論
旨は理由がある。
 よつて、刑訴法四〇五条二号、四一〇条一項本文、四一三条但書により、原判決
中「当審における未決勾留日数のうち二八〇日を被告人Aに対する本刑に算入する。」
との部分を破棄し、刑法二一条により原審における未決勾留日数中六四日を本刑に
算入し、原判決中その余の部分に対する検察官の上告は、上告趣意としてなんらの
主張がなく、したがつてその理由がないから、刑訴法四一四条、三九六条により右
上告を棄却し、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 検察官木村喜和 公判出席
  昭和四六年四月二二日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    岩   田       誠
            裁判官    大   隅   健 一 郎
            裁判官    藤   林   益   三
            裁判官    下   田   武   三

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