弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中上告人敗訴部分を破棄する。
     前項の部分につき本件を東京高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告指定代理人蓑田速夫、同鎌田泰輝、同吉戒修一、同金丸義雄、同石戸忠、同
高橋欽一、同小野拓美、同鎌谷稔徳、同鈴木恒雄、同伊窪幸雄、同平山救馬、同甲
元孝和、同武田健の上告理由について
 民法七一五条にいわゆる「事業ノ執行ニ付キ」とは、被用者の職務執行行為その
ものに属しないが、その行為の外形から観察して、あたかも被用者の職務の範囲に
属するものと認められる場合をも包含するものと解すべきことは、既に当裁判所の
判例とするところである(当裁判所昭和三〇年(オ)第二九号同三二年七月一六日
第三小法廷判決・民集一一巻七号一二五四頁、同年(オ)第二八一号同三六年六月
九日第二小法廷判決・民集一五巻六号一五四六頁、同三九年(オ)第一一一三号同
四〇年一一月三〇日第三小法廷判決・民集一九巻八号二〇四九頁、同四一年(オ)
第六一〇号同四三年一月三〇日第三小法廷判決・民集二二巻一号六三頁)。
 これを本件についてみるのに、原審の適法に確定した事実によれば、(一) 航空
自衛隊にはその機構として、補給処及び補給統制処が置かれ、(1) 補給処におい
ては、航空自衛隊の需品、火器、弾薬、車両、航空機、施設器材、通信器材、衛生
器材等の調達、保管、補給又は整備及びこれらに関する調査研究を行い、(2) 補
給統制処においては、補給処の行う右の事務に関する統制業務を行うものとされて
いる。(二) 航空自衛隊補給統制処第三部には、第三整備課、第三補給課及び第三
調達課の三課が置かれているところ、第三整備課においては、通信器材、電波器材、
気象器材、写真器材、計測器、訓練器材等及びこれらの部品について、(1) 整備
業務の統制及び指導に関すること、(2) 整備の計画に関すること、(3) 整備に
関する調達請求に関すること、(4) 改善及び改修業務に関すること、(5) 技術
関係図書の審査に関すること、(6) 整備に関する基準の資料の作成に関すること、
(7) 計画諸元に関する資料の作成に関すること、(8) 整備に関する標準化業務
に関すること、(9) 関係予算の調整に関すること、(10) 部内の業務総括に関
すること、(11) 部内の他の課の所掌に属しない事項に関することをつかさどる
ものとされ、同課には計画班、総括班、地上通信電子班、警戒管制班、支援器材班
及びとう載通電班が置かれ、計画班(班長一名、班員三名が所属)においては、(
イ) 部の所掌業務について、部の計画作成、事務の総括、調整、所掌予算の総括、
調整及び現況把握、支援状況の総合把握、分析検討及び処理促進、エス・オー・ピ
ー(業務準則)の作成維持に関すること、(ロ) 部内の他の課の所掌しない事項
に関することをつかさどるものとされている。(三) 本件売買当時、航空自衛隊補
給統制処においては、会計法上売買等の契約を実施する権限を有していたのは、支
出負担行為担当官及び契約担当官として任命されていた者に限られており、(1) 
分任支出負担行為担当官は整備基準部調達課長であつて、補給統制処長(補給分任
物品管理官)の調達要求に基づき、日本国とアメリカ合衆国との間の相互防衛援助
協定一条の規定に基づく有償譲渡物品につき契約を実施し、(2) 契約担当官は業
務課会計班長であつて、補給統制処長(一般分任物品管理官)の調達要求に基づき、
市ケ谷基地所在の部隊(航空自衛隊の中央航空通信群、幹部学校、補給統制処)で
使用する事務用の備品及び消耗品につき契約を実施する、ものとされており、した
がつて、補給統制処においては、ごく限られた物品について売買契約を締結するこ
とがあるのみで、海産物等の契約業務は行われていなかつた。(四) 補給統制処に
おける職員の福利厚生に関する事務は、業務課厚生班がこれを担当していたが、右
厚生班において職員のため衣料品、食料品等の購入をあつせんした例はなく、基地
内には酒保が置かれ、委託業者がこれを経営し、隊員、職員の日用品、飲食物等の
需要をまかなつており、市ケ谷基地における隊員等の糧食については、陸、海、空
の各部隊が協力して、その業務を陸上自衛隊市ケ谷駐とん地の業務隊に一任してい
たが、その業務は同基地内に所在する建物のうち、補給統制処の所在する第一二号
館とは別の建物である第二号館において実施されていた。(五) 本件売買当時、補
給統制処第三部第三整備課計画班所属のQの担当職務は、(1) 同部の各課が作成
した業務計画の進捗状況等の分析検討書を取りまとめ、部長承認を得るための諸準
備に関する業務、(2) 会計検査院実施検査受検時に説明実施者が作成した質疑応
答書の整備業務、(3) 補給統制処の作成する機関誌「装備」の編集委員としての
業務、(4) 第三部一般秘密保全責任者としての業務、(5) 技術指令書案の接受、
記録及び送達の業務、(6) 装備品の維持管理を能率化するための標準化について
の会議日時等を部内担当者へ連絡する業務であつて、もとよりQには売買契約締結
権限、その他の契約締結の代理権を与えられてはいなかつた。(六) Qの本件加害
行為は、防衛庁事務官の地位を利用し自らの利を図る意図のもとに防衛庁との取引
ができるという口実を設けて被上告会社から魚卵を騙取しようと企て、訴外Rと共
謀のうえ防衛庁が魚卵を買い受け、その代金を支払うものではなく、Qらもその代
金を支払う意思と能力がなかつたのに、被上告人の専務取締役Sに対し、あたかも
防衛庁が被上告会社から数の子及びすけとうだらの子を買い受けその代金を支払う
もののように装い、購入物品名とその数量を口頭により注文し、その旨誤信したS
から数回にわたり代金総額四〇九九万六五〇〇円にのぼる数の子及びすけとうだら
の子の交付を受けこれを騙取したものであるが、Qは右売買の折衝にあたり購入予
算の提示、購入物品の単価、代金について格別の取り決めをせず、しかも発注書又
は契約書の作成、交付もしなかつた、というものである。
 これによると、航空自衛隊補給統制処第三部第三整備課計画班所属の防衛庁事務
官にすぎないQが、被上告会社との間で魚卵売買名下に行つた総額四〇九九万六五
〇〇円にも及ぶ取引行為は、前記補給統制処、同処第三部第三整備課及び同計画班
の各業務内容、Qの担当職務内容、補給統制処において売買等の契約を実施する権
限を有する者並びに補給統制処における物品購入等の実情に照らせば、他に特段の
事情がない限り、とうてい、これをもつて官庁としての防衛庁のする取引行為であ
り、同人の職務上の行為に属すると認められる外形を有するものであるとはいいえ
ないというべきである。
 ところが原判決は、本件Qの魚卵売買名下にした行為がQの職務行為と外形上認
められる事情として、(一) 補給統制処の置かれている第一二号館建物の表出入口
には「補給統制処」と、裏出入口には「航空自衛隊補給統制処」と、それぞれ大書
された木製の看板が掲げられていること、(二) Qから注文を受けたSは、取引の
相手方の真意を確認すべくQに面会しようとし、昭和五〇年一二月一三日、Rとと
もに市ケ谷基地薬王寺門から同基地に入門した際、面会申請書に面会の相手方を「
Q」、面会の目的を「商談」と記入してこれを係員に提出し、入門の許可を得て第
一二号館二階のQの執務室に至り、Qから右執務室向い側の第一会議室に招き入れ
られて取引の折衝をしたこと、(三) Qは、取引の折衝にあたり、Sに対し、「防
衛庁で数の子を購入したいので、早急に五トンほど調達してもらいたい。お国のた
めだと思つて何とかお願いします。隊員が年末年始で帰省する前に納入してもらい
たい。」旨申し入れたこと、(四) Qは、昭和五〇年一二月一三日、第一会議室に
おいて、Sに対し、「航空自衛隊補給統制処第三部防衛事務官」と肩書を付した自
らの名刺を手交し、以後第三整備課計画班に設置された電話機を使用して数回にわ
たりSと通話したこと、の各事実を認定、指摘し、次いで、右事実のうち、(イ)
 まず(一)の事実からすると、第一二号館建物表出入口に掲げられた看板を見てそ
の掲示にかかる「航空自衛隊補給統制処」なる官署が防衛庁又は自衛隊において必
要とする物資の購入等を所掌するところと考えるのは無理からぬことであると解し、
(ロ) また、(二)及び(四)の事実からすると、一般人としてもQは職務の執行と
して取引をしているものと考えるのが通常であるといえる旨判示している。しかし
ながら、(イ)の点については、およそ官署の機関の所掌する事務の内容が該官署
の名称だけから明らかにされるのが通常であるとはいえず、現に航空自衛隊の機関
たる右補給統制処の設置並びにその所掌する事務の内容については自衛隊法二四条、
二六条及び二六条の二の規定により定められているのであるから、前記名称のみか
ら右官署の所掌事務が物資の購入等であるとの外観が存するということはできない。
また、(ロ)の点についても、右の(二)の事実は、単に部外者であるSが航空自衛
隊基地内に入り基地部内の者と面接するにあたり、他の外部入門者と同じく通常要
請されている面会申請書提出の手続をとつたというだけのことであるし、(四)のQ
に第一会議室へ招き入れられてQと面談したとの一事をもつて直ちにQが職務執行
として取引をしていると外形上認めうる事実とはいえないことも明らかである。更
に原判決が前記(三)の事実によれば右Qの注文の言をもつて、一般人としては防衛
庁又は自衛隊が隊員又は職員のために正月用品の一つである数の子をあつせんし、
あるいは隊員又は職員の正月の食用に供するため、五トン程度の量の数の子を購入
するということはその付随的な業務として行われたものであると考えても不思議で
はないと推断している点についても、一般に防衛庁又は自衛隊において職員又は隊
員のために物品購入をすることも付随的業務の範囲に属すると考えても不思議とは
いえないということができるとしても、そうだからといつて、当該注文をしたQの
本来の職務内容との関連性を全く抜きにして右Qの発言がQの職務執行行為である
と外形上認められる事情となりうるものとはとうていいうことができない。
 そうすると、原判決が援用する前記事情は、いずれも本件Qの行為が外形上同人
の職務行為と認められるに足りる特段の事情とするに当らないから、原判決が、他
にかかる事情の存在を認定することなく、本件Qの行為が民法七一五条一項にいう
上告人の「事業ノ執行ニ付キ」なしたものであるとして、上告人に同条項の責任を
肯定したのは、同条項の解釈適用を誤つたものといわざるをえず、右違法が原判決
の結論に影響を及ぼすものであることは明らかであるから、論旨はこの点において
理由があり、原判決中上告人敗訴部分は、その余の論旨について判断するまでもな
く破棄を免れない。そして、本件については、更に審理を尽くさせる必要があるか
ら、これを原審に差し戻すのが相当である。
 よつて、民訴法四〇七条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決す
る。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    谷   口   正   孝
            裁判官    団   藤   重   光
            裁判官    藤   崎   萬   里
            裁判官    中   村   治   朗
            裁判官    和   田   誠   一

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