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平成28年3月8日判決言渡
平成27年(行コ)第38号所得税更正処分取消等,所得税通知処分取消請求控
訴,同附帯控訴事件(原審名古屋地方裁判所平成19年(行ウ)第50号(A事
件),同第51号(B事件),同第52号(C事件),平成20年(行ウ)第29号(D
事件),同第30号(E事件),同第77号(F事件))
主文
1原判決中,各過少申告加算税賦課決定処分に係る部分を取り消す。
2被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
3第1項の部分に関する訴訟の総費用は,被控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨(差戻し後のもの)
主文と同旨
第2事案の概要(略称は,新たに定義するものを除き,原判決別紙2「略称一覧
表」の例による。以下,本判決において同じ。)
1本件は,アメリカ合衆国(米国)デラウェア州の法律に基づいて設立された
リミテッド・パートナーシップ(LPS)が行う米国所在の中古集合住宅の賃
貸事業に係る投資事業に出資した亡a,亡b及び被控訴人c(以下,上記3名
を併せて「亡aら3名」という。)が,当該賃貸事業により生じた所得が亡a
ら3名の不動産所得(所得税法26条1項)に該当するとして,その所得の金
額の計算上生じた損失の金額を亡aら3名の他の所得の金額から控除して所
得税の申告又は更正の請求をしたところ,所轄税務署長から,当該賃貸事業に
より生じた所得は亡aら3名の不動産所得に該当せず,上記のような損益通算
(同法69条1項)をすることはできないとして,それぞれ所得税の更正処分
及び過少申告加算税賦課決定処分又は更正をすべき理由がない旨の通知処分
を受けたことから,亡aら3名が控訴人を相手に上記各処分(ただし減額更正
後のもの)の取消しを求める訴訟を提起した事案である。
第1審は,通知処分の一部を除き上記各処分を取り消す旨の判決をし,差戻
し前の控訴審は,第1審判決に対する控訴及び附帯控訴をいずれも棄却する判
決をしたところ,控訴人が上告受理を申し立てた。最高裁は,上告受理決定の
上,控訴審判決中の控訴人敗訴部分を破棄し,各所得税の更正処分等に係る部
分については請求棄却とし,各過少申告加算税賦課決定処分に係る部分につい
ては差戻しとした(最高裁平成25年(行ヒ)第166号同27年7月17日
第二小法廷判決・民集69巻5号1253頁。以下「本件上告審判決」という。)。
なお,亡bが第1審係属中の平成20年▲月▲日に死亡したため,被控訴人
dがその地位を承継し,また,亡aが差戻し前の控訴審の口頭弁論終結後の同
25年▲月▲日に死亡したため,被控訴人eがその地位を承継した。
したがって,差戻し後の控訴審である当裁判所においては,第1審判決中に
おける各過少申告加算税賦課決定処分(原判決別紙1「取消処分目録」の1(1)
ないし(3),2(2),3(1)ないし(3)に記載された各過少申告加算税賦課決定処分。
以下「本件各賦課決定処分」という。)の取消請求を認容した部分に対する控
訴人の控訴の当否が審理判断の対象となるものである(なお,附帯控訴につい
ては,当裁判所の審理判断の対象となる部分はない。)。
2前提事実及び税額等に関する当事者の主張は,原判決「事実及び理由」欄の
第2の3及び4に記載のとおりであるから,これを引用する(ただし,原判決
8頁4行目から5行目にかけての「241万4900ドルを」を「241万4
900米国ドル(以下,単に「ドル」という。)を」に,9頁7行目から8行
目にかけての「537万米国ドル(以下,単に「ドル」という。)を」を「5
37万ドルを」にそれぞれ改める。)。
また,差戻し後における本件の争点は,本件各LPSを組成して行われた本
件各不動産事業から生じた損失をもって損益通算をした亡aら3名の各所得
税の確定申告について,国税通則法65条4項の定める「正当な理由があると
認められる」場合に当たるか否かであり,これに関する当事者の主張は,次項
以下のとおりである。
3被控訴人らの主張
(1)法解釈が確定しておらず,課税庁がその取扱いを周知していない状況下に
おいても,納税者は毎年1回確定申告をせざるを得ないことからすれば,そ
の間にした納税者の申告に相応の根拠があり,一般的な取扱いとも合致して
いる限りは,それが結果的に誤りであると判断されたとしても,納税者に過
少申告加算税を課すことは不当又は酷であるといえる。
そうすると,本件においても,亡aら3名が平成13年分から平成15年
分までの所得税の確定申告を行った当時(平成14年3月頃から平成16年
3月頃までの間。以下「本件各申告当時」という。),①法令の解釈が確定し
ていたか否か,②納税者のした申告がその当時の一般的な取扱いに合致して
いたか否か,という観点から「正当な理由」の有無が判断されるべきである。
(2)本件各申告当時,米国のLPSは我が国の法人に該当しないという理解は,
私法や米国の法制度について一般的に参照される主要な文献に多数現れてお
り,従前から,民商法や英米法の専門家における常識とされてきた(甲A全
4・64頁,14・59頁,38・202頁・624頁)。上記のような私法
上の理解を受けて,租税法の専門家の中でも,米国のLPSは日本の租税法
上「法人」には該当しないという理解が一般的であった(甲A全154・2
79頁,155・432頁)。
以上に述べたような理解を前提として,財務省(当時の大蔵省)主税局が
作成し,政府税制調査会法人課税小委員会に提出した討議用資料の記載内容
からは,財務省(当時の大蔵省)が,米国のLPSは「法人」に該当しない
と解釈していたことが看取できる(甲A全26・48頁)。そして,これを受
けて取りまとめられた,政府税制調査会作成の平成12年7月14日付け中
期答申においては,外国のパートナーシップのような事業体がその外国にお
いて法人とされていないため,現状では我が国で法人課税の対象とならない
という問題意識が表明されており,LPSのような外国事業体を我が国の租
税法上「法人」として扱うことはできないという解釈が当然の前提とされて
いたことが強くうかがわれる(甲A全25・343~344頁)。
平成10年の立法により認められるようになった投資事業有限責任組合は,
米国のLPSをモデルに立案されたものであり,我が国の課税上,構成員課
税を受ける取扱いとなっている(甲A全10の2・23頁)。かかる立法がさ
れていることも,租税法の立法当局を含む政府当局により,米国のLPSが
法人ではなく,課税上も「法人」には該当しないものとして扱われているこ
とを示すものである。
以上のとおり,本件各申告当時,米国のLPSが我が国の租税法上「法人」
に該当しないという法解釈が支配的であった。
(3)税務大学校研究部教育官が平成10年に発表した研究論稿では,税務実務
上,外国のパートナーシップが任意組合や匿名組合のような法人格を有さな
い事業体として取り扱われていることを明らかにしている(甲A全27・1
41頁)。また,税務大学校研究部教授を務めた税務当局関係者は平成20年
の講演において,米国のLPSには法人格がないものと整理している(甲A
全75・186頁)。さらに,日米の税務や会計に携わってきた公認会計士や
日米のパートナーシップに関する税務問題を取り扱ってきた弁護士といった
実務家も,LPSが税務上「法人」に該当しないことを前提としていた(甲
A全108・233頁,109・550頁)。
このように,税務実務上も,米国のLPSは「法人」に該当しないものと
して取り扱うことが一般的であり,かかる取扱いが問題とされてきた形跡は
存しない。
(4)上記のとおり,本件各申告当時,税務当局やその関係者は,米国のLPS
を含む外国のパートナーシップを「法人」に該当しないものとして取り扱っ
ていたものの,かかる取扱いが通達等で公的に示されることはなく,平成1
7年に示された財務省主税局担当者らによる改正法の解説や平成18年に公
表された国税庁個人課税課からの情報によって,LPSは「法人」に該当し
ないとする従前の理解に沿った説明がされるとともに,パートナーシップ契
約であっても,その事業体の個々の実態等により外国法人と認定される場合
がある旨の課税庁の理解が示された(甲A全16・156~157頁,15
6・10~11頁)。また,国税不服審判所は,平成19年1月22日の裁決
等で,本件各LPSと同様,州LPS法を準拠法として組成されたデラウェ
ア州のリミテッド・パートナーシップが「法人」に該当するとの課税庁の主
張を排斥している。さらに,東京地裁の行政専門部,本件の第1審,差戻し
前の控訴審において,それぞれ本件各LPSは「法人」に該当しないとして
納税者勝訴の判決が下されているが,このことは,被控訴人らが依拠する見
解が相応の根拠を有することを強く裏付けている。
以上のとおり,本件上告審判決が下されるまで,米国のLPSが「法人」
に該当するとの法解釈が確立することはなかったものであり,本件申告当時
は,むしろ米国のLPSは「法人」に該当しないとの理解が一般的であり,
税務実務上も米国のLPSは「法人」に該当しないものとして取り扱うこと
が一般的であったから,被控訴人らが依拠した見解が相応の根拠を有してい
たことは明らかである。
(5)以上の事情に鑑みれば,亡aら3名が,本件各申告当時,本件各LPSは
「法人」に該当しないとの一般的な理解に従って,本件各不動産投資事業に
係る所得が亡aら3名に直接帰属するものとして損益通算を行ったことは,
真に亡aら3名の責めに帰することのできない客観的な事情があり,亡aら
3名に対して過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合に該
当する。
したがって,本件は,国税通則法65条4項にいう「正当な理由があると
認められる」場合に当たり,本件各賦課決定処分はいずれも取り消されるべ
きである。
4控訴人の主張
(1)被控訴人らが主張する上記3(2)ないし(4)の各事情は,亡aら3名の法解
釈の誤りに関する主観的な事情であるから,これらの事情をもって,真に納
税者の責めに帰することができない客観的な事情があり,過少申告加算税の
趣旨に照らしても,なお,納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又
は酷になる場合とは認められない。
(2)そもそも,本件各不動産賃貸事業は,損益通算による租税負担の減少を目
的としたスキームの一環であり,亡aら3名は,かかる利益にあずかるため,
本件スキームに参加し,本件各不動産賃貸事業から生じた損失を亡aら3名
の不動産所得の金額の計算上生じた損失として所得税の確定申告をしたこと
が強く推認される。
そして,f証券が投資家向けに作成したDOITプログラム(本件スキー
ム)の説明書(乙A全14)には,一定額以上の所得条件を前提として,損
益通算制度を利用することにより節税額が生じる旨の説明があるが,これに
加えて,税務・法務上のリスクとして,税務上の取扱はあくまで税務当局の
判断で決定されるので,上記説明等とは異なる場合がある旨の説明がされて
いる。このことからすれば,亡aら3名は,自らが,米国のLPSは我が国
の租税法上の法人には当たらないと判断して投資事業に参加し,税務申告に
至ったといえるのであって,亡aら3名に,納税者の「責めに帰することの
できない客観的な事情」や「過少申告加算税を賦課することが不当又は酷に
なる場合」が認められる余地はない。
(3)被控訴人らが上記3(2)において主張する本件各申告当時の文献は,税務当
局の公的見解ではないことは明らかであるし,米国デラウェア州の法律に基
づき設立されたLPSについて具体的に記述したものではない。また,文献
中には,LPSを課税目的上法人とみなすのが望ましい旨の問題提起をする
ものもあり(甲A全154・279頁),政府税調中期答申の記載内容も,政
府の公式見解として表明されたものではないし,むしろ,外国の多様な事業
体の中には,その実態を見れば法人税の課税対象とするのがふさわしいもの
があるから,法人課税の対象とするかどうかの基準等,検討すべき点が多岐
にわたるとしている。さらに,米国のLPSと投資事業有限責任組合とは同
一のものではないから,課税上の取扱いが同一であると解釈すべき理由もな
い。
したがって,本件各申告当時,米国のLPSが「法人」に該当しないとい
う法解釈が支配的であったとの被控訴人らの主張には理由がない。
(4)被控訴人らが上記3(3)において主張する税務の実務家の文献等は,個人的
見解を述べたものにすぎないものであり,これらにおいて米国のLPSは我
が国の租税法上の「法人」に該当しないとする課税実務上の運用や税務当局
の公式見解が示されたことはないから,税務実務上も米国のLPSは「法人」
に該当しないものとして取り扱うことが一般的であったとする被控訴人ら
の主張には理由がない。
(5)被控訴人らの主張は,本件各申告時において,国税通則法65条4項所定
の「正当な理由」の有無が判断されるべきであるというものであるから,本
件各申告時後の事情は,被控訴人らの主張において意味を持たないものであ
る。
第3当裁判所の判断
1当裁判所は,本件各賦課決定処分の取消しを求める被控訴人らの請求はいず
れも理由がないものと判断する。その理由は,次のとおりである。
2当初から適正に申告し納税した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正
を図るとともに,過少申告による納税義務違反の発生を防止し適正な申告納税
の実現を図るという過少申告加算税の趣旨に照らせば,過少申告があっても例
外的に過少申告加算税が課されない場合として国税通則法65条4項の定め
る「正当な理由があると認められる」場合とは,真に納税者の責めに帰するこ
とのできない客観的な事情があり,上記のような過少申告加算税の趣旨に照ら
してもなお納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合
をいうものと解するのが相当である(最高裁平成17年(行ヒ)第9号同18
年4月20日第一小法廷判決・民集60巻4号1611頁,最高裁平成17年
(行ヒ)第20号同18年10月24日第三小法廷判決・民集60巻8号31
28頁,最高裁平成24年(行ヒ)第408号同27年6月12日第二小法廷
判決・民集69巻4号1121頁参照)。
3本件上告審判決は,デラウェア州法において本件各LPSが日本法上の法人
に相当する法的地位を付与されていること又は付与されていないことが疑義
のない程度に明白であるとはいい難いとした上で,本件各LPSは,自ら法律
行為の当事者となることができ,かつ,その法律効果が本件各LPSに帰属す
るものということができるから,権利義務の帰属主体であると認められる旨を
判示する。
そこで,このように,日本法上の法人に相当する法的地位を付与されている
か否かは疑義のない程度に明白ではないが,権利義務の帰属主体としての属性
を有する本件各LPSについて,亡aら3名の損益通算制度の利用を前提とし
た各所得税の確定申告が国税通則法65条4項の定める「正当な理由があると
認められる」場合,すなわち,真に納税者の責めに帰することのできない客観
的な事情があり,上記のような過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお納税者
に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合に当たるか否かに
ついて,以下に検討を加える。
4(1)弁論の全趣旨によれば,本件各申告当時(平成14年3月頃から平成16
年3月頃までの間),外国のパートナーシップ,米国のLPS,あるいはデ
ラウェア州法に基づくLPSが租税法上「法人」として取り扱われるか否か
について,通達等により課税庁の公的見解が明示されていたものとは認めら
れない。
(2)被控訴人らは,税務大学校研究部教育官が平成10年に発表した研究論稿
では,税務実務上,外国のパートナーシップが任意組合や匿名組合のような
法人格を有さない事業体として取り扱われていることを明らかにしている
(甲A全27・141頁)と主張する。
しかし,同文献は,企業が外国のPS(パートナーシップ)に投資を行っ
た場合の法人税法上の課税関係を検討し,「PSがわが国の法人税法上いかな
る事業組織に類似しているかにより,課税関係を調整するアプローチがとら
れ,実務においては,任意組合あるいは匿名組合として課税所得金額の計算
が行われている。」(同頁)と記述するものであって,その内容は,パートナ
ーシップが「法人税法上いかなる事業組織に類似しているか」により課税関
係が調整される旨を論ずるものであるから,外国のパートナーシップがどの
ような属性を有していようとも,一律に任意組合や匿名組合として扱われる
という趣旨のものとは解されない。
そうすると,同文献は,当時の課税の実務において,外国のパートナーシ
ップが一律に「法人」ではないものとして取り扱われていることを明らかに
したものではなく,また,同文献の記述からは,外国のパートナーシップが,
本件各LPSのように権利義務の帰属主体としての属性を有する場合におい
て,課税の実務上「法人」として取り扱われるか否かは不明であるというこ
とができる。
(3)また,被控訴人らは,税務大学校研究部教授を務めた税務当局関係者が平
成20年の講演において,米国のLPSには法人格がないものと整理してい
る(甲A全75・186頁)ことから,税務実務上も,米国のLPSは「法
人」に該当しないものとして取り扱うことが一般的である旨を主張する。
しかし,同講演においては,日本の投資家が外国のパートナーシップや米
国のLLCなどに投資をする場合について,「外国事業体がわが国の租税法
において法人と取り扱われるのか又は組合類似の事業体と取り扱われるか
について,必ずしも明確にされておらず,課税関係が不明確な面があります。」
(甲A全75・185頁)とも述べられているのであって,米国のLPSに
は法人格がないという整理も,一般的,概括的な整理というべきであって,
これによって,米国のLPSを含む外国事業体に対する課税関係に不明確な
面があること自体は否定されているものとはいえず,結局,同講演において,
税務実務上,米国のLPSが一律に法人格を有しないとして取り扱われてい
ることが表明され,あるいは紹介されているものとはいえない。
(4)被控訴人らは,平成12年に作成された政府税制調査会法人課税小委員会
の討議用資料や同調査会の中期答申から,LPSのような外国事業体を我が
国の租税法上「法人」として扱うことはできないという解釈が当然の前提と
されていたことがうかがわれる(甲A全25・343~344頁,26・4
8頁)と主張する。
しかし,上記討議用資料は,法人課税の制度を検討するための資料であっ
て,各委員の理解に役立つように問題点を簡素化・単純化して作成されてい
ると見られるから,これをもって,政府ないし租税法立法当局において,米
国のLPSが一律に法人格を有しないとして取り扱われることを公に表明
したものということはできない。また,上記答申も,同様に制度に関する見
解等を表明するものであって,米国のLPSが一律に我が国の租税法上の
「法人」に含まれないことを表明するものではない。むしろ,上記答申は,
外国の多様な事業体の中には,その本国において私法上の法人とはされてい
ないものの,自己の名前で取引をしているなど,その実態を見れば法人税の
課税対象とするのがふさわしいものもあると考えられ,法人課税の対象とす
るかどうかの基準等,検討すべき点が多岐にわたると考えられるといった記
述もあること(甲A全25・344頁)からすれば,外国の事業体もその実
態しだいでは我が国の法人課税の対象とされ得ることを示唆すると見るこ
とも可能であり,特に,本件各LPSのように,デラウェア州法上,日本法
上の法人に相当する法的地位を付与されているか否かが疑義のない程度に
明白ではないが,自己の名前で取引をしている事業体については,所得税に
係る税務の実務上「法人」として取り扱われる可能性を否定するものではな
いと理解することができる。
したがって,上記の討議用資料や答申から,当時,政府ないし租税法立法
当局が,LPSのような外国事業体について,一律に,我が国の租税法上「法
人」として扱うことはできないという解釈を採っていたと認めることはでき
ない。
(5)被控訴人らは,民商法,英米法,租税法等の専門家の文献や論文(甲A全
4,14,38,108,109,154,155)を挙げて,本件各申告
当時,米国のLPSは日本の租税法上「法人」には該当しないという理解が
一般的であったと主張するところ,これらの文献等により直ちに,本件各L
PSのように権利義務の帰属主体としての属性を有するLPSを巡る課税
関係について,課税庁の見解や税務の実務上の取扱いが示されているという
ことはできない。
また,被控訴人らは,平成10年に米国のLPSをモデルに立案された投
資事業有限責任組合が構成員課税を受ける取扱いとなっていることから,租
税法立法当局を含む政府当局によって,米国のLPSが課税上も「法人」に
は該当しないものとして扱われていることを示す旨主張する。しかし,米国
のLPSの実態は具体的な各州の法律に応じて多様なものであると見られ
るから,米国のLPSと投資事業有限責任組合とが一概に同一のものである
ということはできない。特に,本件各LPSは,組合員から独立した権利義
務の帰属主体としての属性を有する点で,組合財産につき組合員の共有に属
する(有限責任事業組合契約に関する法律56条,民法668条)などとす
る投資事業有限責任組合とはその属性を異にするから,租税法立法当局を含
む政府当局により,本件各LPSのようなものまで課税上「法人」には該当
しないものとして扱われていたということはできない。
(6)被控訴人らは,平成17年に示された財務省主税局担当者らによる改正法
の解説や平成18年に公表された国税庁個人課税課の情報によって,LPS
は「法人」に該当しないとする従前の理解に沿った説明がされるとともに,
パートナーシップ契約であっても,その事業体の個々の実態等により外国法
人と認定される場合がある旨の税務当局(租税法立法当局及び課税庁)の理
解が示された(甲A全16・156~157頁,156・10~11頁)と
主張する。
しかし,本件各申告当時より前に公表された上記(2)の研究論稿や上記(4)
の答申等は,パートナーシップ契約であっても,その事業体の実態等により
外国法人と認定される場合がある旨の理解を否定するものではなく,むしろ,
パートナーシップ契約を一律に法人格を有しないものとしては取り扱わず,
実態等に応じて取り扱うという考え方に親和するということもできる。
また,被控訴人らが援用する国税不服審判所の裁決例や裁判例は,本件各
申告当時において本件各LPSが法人ではないとする税務実務上の取扱いや
税務当局の見解が存在したことを裏付けるものとはいえない。
(7)控訴人主張のとおり,f証券が投資家向けに作成したDOITプログラム
(本件スキーム)の説明書(乙A全14)には,一方で,本件スキームにお
いて,損益通算制度を利用することにより節税額が生じる旨の説明(同5,
6頁)があるが,他方で,税務・法務上のリスクとして,税務上の取扱はあ
くまで税務当局の判断で決定されるので,上記説明等とは異なる場合がある
旨の説明(同20頁)がされている。
そうすると,亡aら3名は,本件各不動産投資事業に投資するに当たり,
税務当局の判断によっては損益通算制度の利用が許容されないリスクがある
ことを認識し得たと認められる。
5そうすると,本件各申告当時,税務当局が,米国のLPSについて,一律に,
我が国の租税法上「法人」として扱うことはできないという見解を採っていた
とは認められず,また,そのような見解を公的に表明していたとも認められな
い上,亡aら3名は,本件各不動産投資事業による損益について,税務当局の
判断によっては損益通算制度の利用が許容されないリスクがあることを認識
し得たと認められるから,亡aら3名の本件における損益通算制度の利用を前
提とした過少申告は,真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情
があり,過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお納税者に過少申告加算税を賦
課することが不当又は酷になる場合には当たらないと解される。
以上によれば,上記申告が国税通則法65条4項の定める「正当な理由があ
ると認められる」場合に当たるとする被控訴人らの主張は採用することができ
ない。
したがって,本件各賦課決定処分に被控訴人ら主張の違法はないものという
べきである。
第4結論
よって,原判決中,各過少申告加算税賦課決定処分に係る部分は相当ではな
く,本件控訴は理由があるから,上記部分につき原判決を取り消し,被控訴人
らの請求をいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。
名古屋高等裁判所民事第2部
裁判長裁判官孝橋宏
裁判官戸田久
裁判官森淳子

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