弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 弁護人松尾菊太郎の上告趣意第一点について。
 原判決が、被告人Aの行為について、同人が判示のような趣旨の選挙運動の資金
として金三万五千円の交付を受け(判示第一)、次でこの金額の中から、右と同じ
趣旨で合計金五千百五十二円二十五銭を使用し饗応をした(判示第二の(1)及び
(2))という事実を認定し、前者すなわち受交付の行為は、饗応に費した金額が
饗応の罪に吸収されるから、これを除いた残額についてのみ公職選挙法二二一条一
項五号に当り、後者すなわち饗応の行為は、同法同項一号に当り、この二つは併合
罪の関係にあるとして、それぞれ量刑の上原判決のような刑を言渡したことは、所
論摘示のとおりである。所論は、右のように金員の交付を受けた者が、その金員(
全部たると一部たるとを問わない趣旨と認められる)で饗応(または供与)した場
合は、受交付の行為はすべて饗応(または供与)の行為に吸収されるから別罪を構
成するものでないとするのが大審院判例並びに高等裁判所の判例の趣旨とするとこ
ろであり、原判決の解釈はこれらの判例に違反すると主張する。
 所論について判断するまえに職権をもつて記録により原審の認定する事実を調べ
てみるに、挙示の証拠と起訴状とを合せ考えると、判示第一の事実は、被告人は判
示のような趣旨で金三万五千円の全額を一たん自己に供与を受けたものと認むべき
であり、次で被告人はこのうちより金五千百五十二円二十五銭を使用し他の選挙人
等を饗応したことは判示第二のとおりである。してみれば原判決が破棄自判の上被
告人について罪となるべき事実第一の判示の末尾に「交付を受け」と記載し受交付
の罪と判断したのは誤りであつて、これを「供与を受け」とし前記の全額について
受供与の罪と解するのが正しかつたのである。従つてまた法令の適用において、原
判決が右判示第一の所為に対し公職選挙法二二一条一項五号を適用し、但し判示の
金三万五千円中金五千百五十二円二十五銭については判示第二事実に吸収されると
判示したのは誤りであつて、第一の所為は、金三万五千円全額について同法二二一
条一項四号を適用すべきものである。しかし受交付の罪と受供与の罪とは、いずれ
も公職選挙法二二一条第一項本文に掲げる同じ範囲内の刑罰を受けるのであるから、
右のような誤りがあつても、判決に影響を及ぼすものとは認められず、従つて原判
決を破棄しなければ著しく正義に反するものとはいえない。
 以上のとおりであるから、原審が前記第一の行為を受交付の罪とした見解を前提
として判例違反を主張する所論は、すべて前提において欠けることとなり、引用の
判例はいずれも適切でないことに帰するから、採用することはできない。
 同第二点について。
 原判決の支持する第一審判決が、被告人Bについて、同人が相被告人Cから、判
示のような方法による投票獲得の依頼を受け金一万円の交付を受けた事実を認定し、
これに対し同判決主文のような刑を言渡したことは所論摘示のとおりである。所論
は、この金員は、被告人からそのまま副委員長Dに交付されたのであるから、所論
引用の大審院判例(高等裁判所判例を含む)の判示する投票の報酬となるべき資金
を受領した共謀者間における当該資金の授受の行為は、それのみでは公職選挙法違
反その他なんらの罪を構成するものではないとする趣旨に違反するといい、かつ被
告人E、同Aについてもまた同様であると主張する。しかし被告人B、同Eについ
ては、原判決は第一審判決を是認したに止まるところ、所論は原審において控訴趣
意として主張されず従つて原審がなんら判断を示していない事項であるから、適法
な上告理由に当らない。
 被告人Aについては、原審は破棄自判をしているから、所論について判断するに、
第一点において説示したように、原判決が判示第一において同被告人が共同被告人
E及びCから金三万五千円を受け取つた事実を受交付の罪と認めたのは誤りであつ
て、全額受供与の罪と認むべきものである。従つて右受交付の罪であることを前提
とする所論判例違反の主張は前提において欠けることとなり、引用の判例はいずれ
も適切でないことに帰する。
 同第三点について。
 所論は、原審の支持する第一審判決が被告人Bに対する科刑として金一万円の没
収を言渡したことをもつて当裁判所大法廷の判例に違反すると主張する。しかし所
論引用の判例ほ、被告人が利益収受者でないとしてこれに対する没収を否定した趣
旨であるところ、本件被告人は、判示の趣旨の下に「その費用及び報酬として各現
金一万円の供与を受け」と認定されているから、事案を異にし本件に適切でない。
 同第四点について。
 所論は、第一審において共同被告人Cに対する弁論を分離する決定をしたことを
憲法三八条一項に違反すると主張する。しかし所論の実質は、単なる刑訴法違反の
主張に過ぎないばかりでなく、弁論の分離によつて被告人の権利に所論のような消
長を生ずるという根拠は認められないから、弁論の分離を刑訴法に違反するという
主張も失当であり、またこれらの理由を根拠とする違憲の主張も前提を欠くことに
帰する。
 同第五点について。
 所論は、被告人Fについて、原判決の刑訴法三二一条の解釈適用を非難し憲法に
違反するといい、かつ当裁判所の判例の変更を要望する。しかし所論の理由がない
ことは原判決の判示するとおりであつて、所論引用の当裁判所大法廷判例は、すで
に所論の調書に証拠能力を認めることがなんら憲法に違反するものでないことを明
らかにしており、今なおこれを改めるの要を認めない。次に所論は刑訴法二二七条
による証拠調の回数に制限がないことは、証人に供述を強制する結果となるから、
憲法の精神に反すると主張する。しかし同一証人を再度尋問したからといつて、所
論のような結果を生ずるものでないことはもとより、そのため証拠能力を否定する
根拠もない。違憲の所論は前提において成り立たない。
 同第六点について。
 所論は、原判決の認めた被告人F同Cの罪数を非難し、本件のような場合、各単
一犯意にもとづく一個の犯罪が成立すると解するのが相当であり、原審の判断は大
阪高等裁判所の判例に反すると主張する。しかし所論は原審において控訴趣意とし
て主張されず、従つて原判決も判断を示していない事項について判例違反を主張す
るのであるから、適法な上告理由に当らない。
 同第七点について。
 所論は、原審が起訴状の訴因と予備的訴因追加申立書の訴因との関係について判
示した判断は、大阪高等裁判所の判例に反すると主張する。しかし原判決の判示す
るところは、起訴の訴因と予備的訴因追加申立書の訴因とは、公訴事実の同一性を
失わないという趣旨であつて、所論のように、本件においては予備的訴因の追加申
立も不要だというようなことはなんら示していない。従つて原判決の判示していな
い事項に基づいて判例違反を主張するに帰し採用できない。
 同第八点について。
 所論は、単なる量刑不当の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
 被告人Gの上告趣意について。
 所論は、量刑不当を主張するに帰し、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
 被告人Eの上告趣意について。
 所論は法令違反、事実誤認又は量刑不当の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理
由に当らない。
 その他いずれも記録を調べても刑訴四一一条を適用すべき事由は認められない。
 よつて同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
  昭和三〇年六月七日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    本   村   善 太 郎

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