弁護士法人ITJ法律事務所

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主文
1本件控訴をいずれも棄却する。
2控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2福岡県知事が平成19年6月19日付けで社会福祉法人Aに対してした解散
認可処分を取り消す。
3訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
第2事案の概要(略称等は原判決の例による。)
1()本件は,社会福祉法人であるAが設置し経営するB学園に勤務していた1
控訴人らが,被控訴人に対し,県知事がしたAの解散認可処分(本件処分)
は,理事会及び保護者会によるB労組に対する不当労働行為に加担し又はこ
れを容認して行われた違法な処分であるなどと主張して,本件処分の取消し
を求めた事案である。
()原審は,本件処分について,県知事が理事会及び保護者会によるB労組2
に対する不当労働行為に加担し又はこれを容認して行ったなどの事情は認め
られないと判断して,控訴人らの請求をいずれも棄却した。
()控訴人らは,これを不服として,前記第1記載のとおり控訴した。3
2事案の概要は,次のとおり補正するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の
「第2事案の概要」に記載のとおりであるから,これを引用する。
8頁14行目の「の低下の発生」を「が低下するという事態が発生するこ
と」に改め,14頁3行目の「1条」を削る。
第3当裁判所の判断
当裁判所も,当審において提出された証拠を考慮に入れても,控訴人らの請
求はいずれも理由がないものと判断する。その理由は,後記1のとおり原判決
を補正し,後記2のとおり控訴人らの補充主張に対する判断を付加するほかは,
原判決の「事実及び理由」欄の「第3当裁判所の判断」に記載のとおりであ
るから,これを引用する。
1原判決の補正
()17頁26行目の「保護者数名と面談した外,」を削り,19頁17行1
目の「20名」を「21名」に,23頁14行目の「同年6月6日」を「平
成19年6月6日」に改める。
()28頁16行目の「認可がされ」の次に「清算が結了し」を加え,302
頁1行目の「保護」を削り,31頁9・10行目の「受けること」を「解散
認可処分がされ,これが違法である場合に,当該社会福祉事業従事者が上記
不利益」に改める。
()35頁2行目の「保護者と面談した外,」を削り,36頁18・19行3
目の「原告ら及びCとの間の地位確認等請求訴訟」を「控訴人らとの間の仮
処分申立事件に係る保全異議申立抗告事件」に,37頁18行目の「裁量権
の逸脱又は濫用の違法性」を「その他の違法性」に,20行目の「次のとお
り,被告には,裁量権の逸脱又は濫用」を「本件処分には,ほかにも,次の
ような違法」に,38頁10行目の「及びその是正を要望されたこと」を
「について報告を受けその是正を要望されており,また」に,39頁16行
目の「被告が」から17行目の「濫用した」までを「本件処分について,こ
れが違法である」に改める。
2控訴人らの補充主張に対する判断
()控訴人らは,本件処分は理事会及び保護者会によるB労組に対する不当1
労働行為に加担し又はこれを容認して行われたものである,あるいは不当な
動機,目的によって行われたものである旨の主張について,当審において,
次のとおり補充して主張する。
ア被控訴人は,不当労働行為に至らないように,期限を定めて,保護者の
説得等の必要な措置を採らなければならなかったし,また,Aにより事業
廃止届が提出され,控訴人らの解雇手続が進行していった際には,これら
が不当労働行為であり,控訴人らの解雇が労働基準法(ただし,平成19
年法律第128号による改正前のもの)18条の2に違反するものである
ことを認識していたのであるから,これらの観点から検査をし,また,必
要な措置を採るべき旨を命令すべきであったのに,これを怠った。
イ被控訴人は,Aの事業廃止届を受理した後も,解散決議や解散認可申請
に向けた指導をしておらず,仮処分申立事件が係属した後は,逆に解散手
続をとらないように指導し,さらに,同事件において控訴人らの労働契約
上の地位が認められた後は,Dに対し,控訴人らとの間の雇用関係が承継
されないことを前提に,Aの基本財産を無償で承継してもらうよう懇願す
るなどした。その意図は,Aから控訴人らを排除した上で,Aの事業を再
開させようとしたものの,上記事件において控訴人らの労働契約上の地位
が認められたため,控訴人らとの間の雇用関係がないDに事業を承継させ
ようとして,Aの解散に協力したというものであるから,上記事実は,被
控訴人が理事会及び保護者会によるB労組に対する不当労働行為に加担し
又はこれを容認していたことを示すものである。
()引用に係る原判決が判示するとおり,社会福祉法は,福祉サービスの利2
用者の利益の保護及び地域における社会福祉の推進等を図る手段として,社
会福祉事業従事者の処遇,すなわち労働条件や労働環境等を改善することを
もその趣旨及び目的としており,社会福祉法人の違法な解散によって,当該
社会福祉法人に勤務する社会福祉事業従事者が著しい不利益を受けないとい
う利益について,これを個々人の個別的利益としても保護する趣旨を含むも
のと解される。
このように,社会福祉法は社会福祉事業従事者の労働条件や労働環境等を
改善してこれを保護することをもその趣旨及び目的とするものであるから,
同法を全体的・総合的に解釈すると,所轄庁には社会福祉事業従事者の労働
条件や労働環境等に配慮する義務があるというべきであり,この義務は社会
福祉法人の解散認可手続にも及び得るものと解される。
もっとも,社会福祉法が社会福祉事業従事者の労働条件や労働環境等を改
善してこれを保護することをもその趣旨及び目的とするものであるとしても,
これは,福祉サービスの利用者の利益の保護や地域における社会福祉の推進
等という,より高次の目的達成のための手段にとどまるものであるから,こ
れに対応して,社会福祉事業従事者の労働条件や労働環境等の改善に関し,
所轄庁に付与されている権限も,指導及び助言(社会福祉法91条)にとど
まり,不当労働行為の存否や解雇の有効性等の個別の労働問題について公権
的に介入する権限までは付与されていない。また,上記義務の履行が解散認
可処分等の処分要件として明定されているわけでもない。
そうすると,所轄庁に社会福祉事業従事者の労働条件や労働環境等に配慮
する義務があるとしても,その内容・程度は相当に限定的なものといわざる
を得ず,特段の事情がない限り,同義務に違反することを理由として,所轄
庁の行為が違法となることはないと解される。そして,上記特段の事情があ
る場合とは,所轄庁が,社会福祉法人の労働条件や労働環境等に問題がある
ことを認識しながら,社会福祉法91条に基づく指導又は助言を行うことな
く放置し,かえって問題状況を容認しこれを助長する処分を行ったような場
合が考えられる(原判決が,被控訴人が理事会及び保護者会による不当労働
行為に加担し又はこれを容認したか否かを基準として本件処分の違法性を判
示する部分は,この趣旨をいうものとして是認できる。)。
()以上を前提にして,控訴人らの前記各主張について検討する。3
引用に係る原判決が認定するとおり,被控訴人は,控訴人らが不当労働行
為と主張する事実について認識はしていたが,前記のとおり,所轄庁には,
不当労働行為の存否や解雇の有効性等の個別の労働問題について公権的に介
入する権限までは付与されていないところ,被控訴人は,Aに対し,多数回
にわたり,B学園の職員と協力し,保護者と職員との間で話合いの場を設け
るなどして,適切な労使関係を確保するよう指導していたのであるから,控
訴人らの上記主張アは採用できない。
また,控訴人らの上記主張イについては,仮に主張に係る事実を前提にす
るとしても,これらの事実から,直ちに主張に係る被控訴人の意図を推認す
ることはできず,ほかにこれを認めるに足りる証拠はないから,本件処分の
違法性を基礎付ける特段の事情を認めることはできない。
()次に,控訴人らは,本件処分における被控訴人の審査が違法である旨の4
主張について,当審において,次のとおり補充して主張する。
ア社会福祉法46条1項1号に基づく解散認可処分の申請においても,施
行規則5条により申請書に解散の理由を記載しなければならないとされて
いるのであるから,被控訴人は,Aの解散認可申請書に記載された解散の
理由(「利用者の減少により,B学園の運営が不可能な為,又その補充も
考えられない事。」)の存否について審査する義務があったのに,これを
怠った。
イ被控訴人は,解散決議をした理事の真意が労働組合の消滅ないし労働組
合との紛争の消滅を図るところにあり,解散決議は理事の真意に基づくも
のではないことを認識しながら本件処分をしており,解散認可に当たって
必要とされる形式的審査すら怠った。
()しかしながら,社会福祉法46条1項1号,3号及び同条2項の各規定5
並びにその趣旨を前提にして,Aから提出された解散認可申請書及びその添
付書類を合理的に解釈すれば,Aの申請が社会福祉法46条1項1号に基づ
くものであることは明らかであるから(解散認可申請書(甲102)の「解
散する理由」欄の「利用者の減少により,B学園の運営が不可能な為,又そ
の補充も考えられない事。」との記載は,法的には誤記と考えられる。),
被控訴人としては,同申請が同号所定の手続を経ているか否かを審査すれば
足りるところ,被控訴人は添付書類に基づき上記審査を行った上で本件処分
をしたのであるから,控訴人らの上記各主張はいずれも採用できない。
()以上によれば,控訴人らの請求はいずれも理由がない。6
第4結論
よって,原判決は相当であり,本件控訴はいずれも理由がないから棄却する
こととして,主文のとおり判決する。
福岡高等裁判所第1民事部
裁判長裁判官古賀寛
裁判官川野雅樹
裁判官中園浩一郎

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