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平成16年(わ)第497号証券取引法違反被告事件
判決
主文
被告人を懲役10月及び罰金80万円に処する。
上記罰金を完納することができないときは,金5000円を1日に
換算した期間被告人を労役場に留置する。
この裁判の確定した日から3年間上記懲役刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
 被告人は,株式会社A銀行と業務委託契約を締結していた有限会社Bからの派遣社
員として,同銀行の経営再建のための経営企画管理等の職務に従事していたものであ
るが,平成14年6月27日ころ,その職務に関し,証券取引所に上場されていたC株式
会社(以下「C」という。)との間で銀行取引約定を締結していた株式会社D銀行の名古
屋法人営業第4部部長Eが,上記契約の履行に関して知り,その後,同銀行東京本部
企画部調査役Fがその職務に関して知って,上記A銀行副頭取執行役員Gに伝えたこと
により同人がその職務上知った,Cの業務執行を決定する機関が,同月中に民事再生
手続開始の申立てを行うことを決定した旨のCの業務等に関する重要事実を,告げられ
て知ったのを奇貨として,Cの株式を空売りして知人のHに利益を得させようと企て,法
定の除外事由がないのに,同年7月5日,同人をして,I証券株式会社を介し,東京都a
区b町c番d号所在の株式会社Jにおいて,Cの株式5万株を合計360万4000円で空
売りさせた。
(証拠の標目)(省略)
(法令の適用)
1 罰条           平成14年法律第65号による改正前の証券取引法198条18
号,証券取引法166条3項,1項4号,5号,2項1
号ヨ,同法施行令28条7号
2 刑種の選択        懲役刑及び罰金刑を併科
3 労役場留置        刑法18条
4 執行猶予         懲役刑につき,刑法25条1項
(量刑の理由)
 本件は,派遣先のA銀行において経営再建のためのビジネスモデル作成等の業務に
従事していた被告人が,その職務に関して,副頭取から,大口融資先であるCが民事再
生手続開始の申立てを行うことを決定した旨知らされたことから,知人女性に利益を得
させる目的で,Cの株式5万株を空売りさせたという証券取引法違反(いわゆるインサイ
ダー取引)の事案である。
 被告人が,A銀行の経営再建という重責を担い,精神的に疲労した状態にあったとし
ても,直接本件犯行と結びつく事情にはあたらず,経緯や動機は酌量の余地に乏しい。
知人女性の利得が約246万円と多額にのぼるばかりでなく,証券市場の公正に対する
信頼が著しく害されており,本件犯行が社会に与えた影響も大きい。
 そうすると,被告人の刑事責任は決して軽くない。
 しかしながら,被告人は,体調を崩して休職中の知人女性を経済的に援助しようとした
もので,被告人自身は何ら利益を得ていないこと,捜査公判を通じて事実を率直に認め
反省する態度を示していること,本件により職を失うなど一定の社会的制裁を受けてい
ること,扶養すべき家族がいること,前科前歴がないこと等の酌むべき事情も認められ
るので,主文の懲役刑及び罰金刑に処した上,懲役刑についてはその執行を猶予し
て,社会内における更生の機会を与えることが相当と判断した。
(求刑-懲役10月及び罰金80万円)
  平成16年5月27日
名古屋地方裁判所刑事第5部
裁判長裁判官   伊藤新一郎
裁判官   後藤眞知子
裁判官   鈴木清志

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