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平成25年9月5日判決言渡
平成25年(行ケ)第10045号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成25年7月9日
判決
原告カガミクリスタル株式会社
訴訟代理人弁理士小谷武
木村吉宏
伊東美穂
長谷川綱樹
永露祥生
被告特許庁長官
指定代理人前山るり子
大橋信彦
堀内仁子
守屋友宏
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1原告の求めた判決
特許庁が不服2012-422号事件について平成24年12月28日にした
審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,商標登録出願の拒絶査定を不服とする審判請求を成り立たないとした審
決の取消訴訟である。
争点は,本願商標と引用商標との類否(商標法4条1項11号)及び本願商標が
他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標に該当するか(商
標法4条1項15号)である。
1特許庁における手続の経緯
原告は,平成23年1月24日,下記の本願商標につき,登録出願をし(商願2
011-4144号・乙1),指定商品につき同年7月20日に補正(乙3)をした
が,同年10月7日,拒絶査定を受けた。原告は,平成24年1月10日に不服審
判請求をするとともに(不服2012-422号),同年3月2日付けの手続補正書
(乙5)により,指定商品を補正し,本願商標の指定役務は下記のとおりのものに
なったが,特許庁は,同年12月28日,「本件審判の請求は,成り立たない。」と
の審決をし,その謄本は平成25年1月21日に原告に送達された。
【本願商標】
指定商品:第21類「切子模様を備えるクリスタルガラス製品,切子模様を備え
るグラス,切子模様を備えるコップ類,その他の切子模様を備える食器類,切子模
様を備えるクリスタル製又はガラス製の像,切子模様を備えるクリスタル製又はガ
ラス製の造形品,切子模様を備えるクリスタル製又はガラス製の置物,切子模様を
備えるクリスタル製又はガラス製の花瓶・水盤・風鈴,切子模様を備える食品保存
用ガラス瓶,切子模様を備えるクリスタル製又はガラス製の容器,切子模様を備え
るクリスタル製又はガラス製こしょう入れ・砂糖入れ及び塩振出し容器,切子模様
を備えるクリスタル製又はガラス製調味料入れ,切子模様を備えるクリスタル製又
はガラス製コースター,切子模様を備えるクリスタル製又はガラス製ろうそく立て,
切子模様を備えるクリスタル製又はガラス製化粧用具,切子模様を備えるクリスタ
ル製又はガラス製愛玩動物用食器,切子模様を備えるクリスタル製又はガラス製水
槽」
2審決の理由の要点
【引用商標(登録第5085277号)】
「江戸切子」(標準文字)
・平成18年6月5日登録出願(地域団体商標)
・平成19年10月19日設定登録
・指定商品役務別紙「引用商標指定商品及び指定役務」記載のとおり
・商標権者東京カットグラス工業協同組合(本件組合)
(1)商標法4条1項11号について
本願商標において,「カガミクリスタル」の片仮名と「江戸切子」の文字とは,視
覚上分離して把握されるものであり,本願商標全体を称呼すると「カガミクリスタ
ルエドキリコ」と13音と冗長である上,本願商標にあっては,常に一体のものと
して看取されるとする特段の事情もないものであるから,これに接する取引者,需
要者は,その構成中,「カガミクリスタル」の文字よりも太く,大きく書された「江
戸切子」の文字に着目し,該部分をもって取引に資する場合も少なくないと判断す
るのが相当である。両商標は,「江戸切子」の文字において共通するものであり,「エ
ドキリコ」の称呼及び観念を共通にする類似の商標である。そして,本願商標の指
定商品中,「切子模様を備えるグラス,切子模様を備えるコップ類,その他の切子模
様を備える食器類,切子模様を備えるクリスタル製又はガラス製の置物,切子模様
を備えるクリスタル製又はガラス製の花瓶・水盤・風鈴,切子模様を備える食品保
存用ガラス瓶,切子模様を備えるクリスタル製又はガラス製の容器,切子模様を備
えるクリスタル製又はガラス製こしょう入れ・砂糖入れ及び塩振出し容器,切子模
様を備えるクリスタル製又はガラス製調味料入れ,切子模様を備えるクリスタル製
又はガラス製コースター」は,引用商標の指定商品と同一又は類似のものであるか
ら,本願商標は,商標法4条1項11号に該当するものである。
(2)商標法4条1項15号について
本願商標は,その構成中に,取引者,需要者間に広く認識されている引用商標と
同一の綴り字からなる「江戸切子」の文字を有するものであり,しかも,本願商標
の指定商品と引用商標の指定商品及び指定役務とは,密接な関連性を有するもので
あることからすれば,本願商標をその指定商品に使用する場合には,これに接する
取引者,需要者は,周知・著名となっている引用商標を連想,想起し,該商品が引
用商標の商標権者又は同人と経済的・組織的に何らかの関係を有する者の業務に係
る商品であるかのごとく,その出所について誤認,混同を生ずるおそれがあるもの
と判断するのが相当である。
したがって,本願商標は商標法4条1項15号に該当するものである。
(3)以上によれば,本願商標は,商標として登録を受けることはできない。
第3原告主張の審決取消事由
1取消事由1(商標法4条1項11号該当性判断の誤り)
(1)本願商標の「江戸切子」部分についての分離観察の可否について
ア原告について
原告は,創業以来80年近くの伝統を有し,戦前は皇室御用達の指示を受け,戦
後は宮内庁・官邸・外務省等に主にクリスタルガラス食器やグラスを納入する,日
本を代表し,世界に知られているガラス食器メーカーである。日本全国で高級クリ
スタルガラス製品を販売し,我が国において最も高級なクリスタルガラス製品メー
カーとして知らぬ者はいないというほどの著名性を有しているといっても過言では
ない。原告は,長年に亘る積極的な宣伝・販売活動を行い,自身の日本全国に広が
る販売ネットワークを通じて「カガミクリスタル」ブランドによる江戸切子を販売
しており,原告によるこれらの活動が,江戸切子が日本全国に広く知られるように
なる上で,非常に大きく貢献していることは明らかである。その結果,「カガミクリ
スタル」=「江戸切子」,あるいは「江戸切子」=「カガミクリスタル」という構図
をもって,伝統的な高級カットグラス器を愛好する需要者や取引者に広く知られて
いるのである。
イ「江戸切子」の自他商品識別力について
引用商標「江戸切子」は引用商標権者である本件組合が有する地域団体商標であ
るところ,江戸切子の「江戸」は,産地や時代を表するものではなく,江戸時代に
その起源を持つ伝統的なガラス細工の技法と,これによって製造されたカットグラ
ス製品,といった意味合いを表すにとどまる。しかも,江戸切子が周知性を獲得す
る過程において,本件組合員ではない原告が大きく貢献している。また,過去から
現在に至るまで,原告や引用商標権者以外にも,江戸切子の製造販売を行っている
事業者が,東京以外においても存在しているのである。
そうとすれば,「江戸切子」の文字が付されたカットグラス製品について,我が国
の需要者等は,それから明確な出所や地域を想起するというよりも,所定のカット
グラス技法とこれを用いて製作されたカットグラス製品一般を意味するものとして
認識されるとするのが自然である。その意味で,「江戸切子」の文字は,カットグラ
ス製品について出所表示機能を果たしているとはいい難く,その結果,自他商品等
識別力を欠くか,極めて乏しいものである。
ウ分離観察の可否について
以上の事実を踏まえると,次のように考えるべきである。
本願商標は,「カガミクリスタル」の片仮名文字,及び「江戸切子」の漢字を縦書
きしてなる。これらは2列に分けて配置され,文字の大きさも異なってはいるが,
いずれも筆文字風の同一の書体でまとまりよく書されている。審決では,両者は視
覚上分離して把握されるものと認定されているが,「カガミクリスタル」の文字が,
同じ書体からなる「江戸切子」の文字の右上に小さめに配置されているという構成
からすれば,本願商標に接する需要者等は,両者を一体的に結合されたものとして
認識すると考えるのが自然である。
また,「江戸切子」が一定の技法を用いて製作されたカットグラス製品の一般的な
名称であって,その指定商品について自他商品識別力に乏しく,かつ,「カガミクリ
スタル」が指定商品に係るガラス関連商品について広く知られており,江戸切子と
も密接な関係にあるという取引の実情からすれば,「カガミクリスタル」と「江戸切
子」とはさらに強く結び付けられて把握される。その結果,本願商標は特に冗長な
ものとは認識されず,商標全体で「カガミクリスタルエドキリコ」と一連に称呼さ
れ,その観念には「カガミクリスタル株式会社が製造販売する江戸切子製品」とい
った内容が想起される。
そして,複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて,商標
の構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの
類否を判断することは,その部分が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別
標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分か
ら出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などを除き,許さ
れないというべきである(最高裁判所平成20年9月8日判決(平成19年(行ヒ)
第223号))とされているところ,「江戸切子」は自他商品識別力に乏しい表示で
ある一方,上記のとおり,「カガミクリスタル」は我が国において最も高級なクリス
タルガラス製品メーカーとして知られる原告を指すものと認識され,強く識別力を
発揮する部分であるから,具体的な出所を示す「カガミクリスタル」よりも「江戸
切子」の方が出所識別標識として強く支配的な印象を与えるということはあり得な
い。「カガミクリスタル」から出所識別標識としての称呼,観念が生ずるため,「そ
れ(「江戸切子」)以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認
められる場合」にも該当しない以上,本願商標において,「江戸切子」のみを分離抽
出して類否判断を行うべき事情は見受けられない。
(2)本願商標と引用商標の類否について
本願商標は,筆文字風の書体で,「カガミクリスタル」の片仮名文字,及び「江戸
切子」の漢字を縦書きしてなり,その称呼は「カガミクリスタルエドキリコ」又は
「カガミクリスタル」,観念は「日本を代表するガラス製品メーカーであるカガミク
リスタル株式会社が製造販売する高級な江戸切子製品」又はその出所である「カガ
ミクリスタル株式会社」である。これに対し,引用商標は「江戸切子」の文字を標
準文字で書してなり,これより「エドキリコ」の称呼及び「江戸切子」の観念を生
ずる。
外観については,本願商標と引用商標とは,明らかに構成が異なり,両者は一見
して区別できるから,両商標は外観上非類似の商標である。
称呼については,本願商標からは「カガミクリスタルエドキリコ」又は「カガミ
クリスタル」の称呼が生ずるのに対して,引用商標からは「エドキリコ」の称呼が
生ずる。両称呼は音構成及び音数において明らかな差異を有し,明確に区別し得る
ものであるから,両商標は称呼上非類似の商標である。
観念については,本願商標からは「日本を代表するガラス製品メーカーであるカ
ガミクリスタル株式会社が製造販売する高級な江戸切子製品」又はその出所である
「カガミクリスタル株式会社」の観念が生ずるのに対して,引用商標からは「江戸
切子」の観念が生ずる。両観念が同一でないことから,両商標は観念においても非
類似の商標である。
以上のとおり,本願商標と引用商標とは,外観・称呼・観念のいずれにおいても
非類似であり,商標法4条1項11号に該当するとした審決の認定は誤りである。
2取消事由2(商標法4条1項15号該当性判断の誤り)
地域団体商標は,本来であれば,全国的な周知性を獲得して商標法3条2項の適
用を受けなければ登録を受けられない性質の商標について,登録要件である周知性
の程度を引き下げて,隣接都道府県に及ぶ程度で周知性を獲得していれば商標登録
を認めるものである。
それに対して,商標法4条1項15号の制度趣旨は,類似範囲のほか,非類似範
囲であっても出所混同のおそれが生じ得るほどに高い周知性を有する商標を保護し,
該当する商標の登録を阻却することを目的としている。そのため,同号が適用され
るのは,相当程度の周知性を有する商標に限られる。商標審査基準では,同号の適
用例として全国的に周知となっている場合を例示しているように,同号に該当する
ためには,相当程度の周知性を獲得していることが前提となる。
とすれば,地域団体商標の登録に求められる周知性の程度は,商標法4条1項1
5号における周知性の程度よりも低いと考えられ,地域団体商標として登録を受け
ているとはいえ,その認定のみをもって商標法4条1項15号を適用し得るほどの
周知性を獲得しているということはできない。
以上のことからすれば,第三者が「江戸切子」の表示を使用したとしても,引用
商標権者又はその構成員の業務に係る商品又は役務であると誤認し,その商品又は
役務の需要者が商品又は役務の出所について混同するおそれ(狭義の混同),若しく
は,引用商標権者又はその構成員と経済的又は組織的に何らかの関係がある者の業
務に係る商品又は役務であると誤認し,その商品又は役務の需要者が商品又は役務
の出所について混同するおそれ(広義の混同)があるということはできない。
したがって,本願商標が商標法4条1項15号に該当するとした審決の認定は誤
りである。
第4被告の反論
1取消事由1に対し
(1)分離観察の可否について
本願商標は,「カガミクリスタル」の片仮名を縦書きし,その左に,「カガミクリ
スタル」の文字よりも3倍程度の大きさで顕著に大きく表された「江戸切子」の漢
字を,筆書き風の書体で,「カガミクリスタル」の「ミ」の文字部分を書き始めとし,
低い位置に縦書きしてなるものであるところ,「カガミクリスタル」の文字部分と「江
戸切子」の文字部分とは,文字種が異なり,2行に分けて書されており,文字の大
きさも異なり,文字の書き始めの位置も異なるものである。そうすると,外観上,
極めて容易に分離されて観察され,本願商標に接する需要者は,本願商標が,「カガ
ミクリスタル」の文字部分と,「江戸切子」の文字部分の,2つの文字部分から構成
されていると,一見して直ちに看取し得るといえる。そして,本願商標の構成中,
「江戸切子」の文字部分は,やや特徴的な筆書き風の書体で,「カガミクリスタル」
の文字に比して,3倍程度の大きさで書されているから,強い印象を与えるものと
いえる。
「江戸切子」は,本件組合が主催又は参加した展示会・販売会等や,構成員が参
加した展覧会・販売等においてPRされており,そのことは新聞によって本件組合
及びその構成員の名称とともに報道されている。これにより,引用商標権者の業務
に係る商品を表示するものとして,また,伝統的工芸品として,需要者の間に広く
知られているから,この意味においても,「江戸切子」の文字部分は,強い印象を与
えるといえる。
そうすると,本願商標は,「江戸切子」の文字部分が強く支配的な印象を与えるも
のといえるから,本願商標と引用商標との類否判断の際には,本願商標のうち「江
戸切子」の部分だけを引用商標と比較することも,許されるというべきである。
(2)本願商標と引用商標との類否について
本願商標と引用商標の外観は,本願商標の外観が前記のとおりであることから,
差異を有するが,本願商標は,その構成中に,引用商標と同一の綴り字からなる「江
戸切子」の文字を有するものであり,一定程度の類似性を有するといえる。
また,称呼・観念について,本願商標は,需要者に強く支配的な印象を与える「江
戸切子」の文字部分から「エドキリコ」の称呼が生じ,「東京(江戸)の切子」とい
った程度の観念が生ずる。これに対し,引用商標は,「江戸切子」の文字を表してな
るから,これより「エドキリコ」の称呼が生じ,「東京(江戸)の切子」といった程
度の観念が生ずるのであり,本願商標と引用商標は,「エドキリコ」の称呼及び「東
京(江戸)の切子」の観念において共通する。
さらに,「江戸切子」は,引用商標権者の業務に係る商品を表示するものとして,
また,伝統工芸品として,需要者の間に広く知られているものといえる。
そうすると,本願商標に接する需要者は,「江戸切子」の文字部分に着目して記憶
し,取引に当たることも決して少なくないといえる。
以上によれば,本願商標は,引用商標と,その称呼及び観念を共通にし,外観も
一定程度の類似性を有するから,取引の実情も考慮すれば,引用商標の指定商品と
同一又は類似の商品に使用されるときは,その出所について混同を生ずるおそれが
あり,引用商標に類似する商標というべきである。したがって,審決の判断に誤り
はない。
2取消事由2に対し
前記のとおり,本願商標と引用商標は,類似性が高く,引用商標は,引用商標権
者に係る商品を表示するものとして著名であり,引用商標権者の業務に係る商品と
本願商標の指定商品の関連性は高いから,需要者においてこれらのことを普通に支
払われる注意力を基準として総合的に判断すれば,本願商標は,原告がその指定商
品に使用するときは,引用商標権者の業務に係る商品を示すものとして著名である
「江戸切子」を連想,想起し,その商品が引用商標権者又は同人と経済的若しくは
組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように,商品の出所
について混同を生ずるおそれが極めて高いものといわなければならない。
したがって,本願商標が商標法4条1項15号に該当するとの審決の判断に誤り
はない。
第5当裁判所の判断
1取消事由1(商標法4条1項11号該当性判断の誤り)について
(1)商標法4条1項11号に係る商標の類否は,対比される両商標が同一又は
類似の商品又は役務に使用された場合に,商品又は役務の出所につき誤認混同を生
ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,そのためには,まずその外観,
観念,称呼の対比を基準にして需要者等に与える印象,記憶,連想等を総合し,要
部が抽出できるならばそれに基づいて考察すべく,その商品又は役務の取引の実情
を明らかにし得る場合には,その具体的な取引状況に基づいて判断すべきものであ
る。
(2)本願商標の要部について
本願商標は,「カガミクリスタル」の片仮名文字と「江戸切子」の漢字文字とが縦
書き二段に配列されてなるところ,「江戸切子」の文頭はその右上にある「カガミク
リスタル」の「ミ」の位置あたりから始まり,「江戸切子」が字下げされた段違いの
配列となっている。「カガミクリスタル」の文字は,「江戸切子」の文字と比較して,
一文字につき高さで約2分の1,幅で約3分の1の大きさで示され,文字の太さも
2分の1程度である。いずれも筆文字体であるところ,やや特徴のある字体である
ため,「江戸切子」部分は,漢字で大きく示されていることや「江戸切子」製品自体
が全国的に周知であること(争いがない)から,当該文字が「江戸切子」との表記
であるとすぐに判読できるが,「カガミクリスタル」部分は,一見して判読が容易で
あるとまではいえない。そして,「切子」は,広辞苑において「(1)四角な物の,か
どかどを切り落とした形,(2)切籠灯籠の略,(3)切り子グラスの略」(甲1)とされ,
「切り子グラス」について,「彫琢または切込細工を施したクリスタルガラス。きり
こガラス。」(甲2)とされていることから,「江戸」と結びついて,江戸時代又は江
戸地方の切り子ガラスとの観念が自然に生じるほか,東京及びその周辺地域で製作
される金属や砥石の円盤を用いて表面をカットする技法により製作される伝統工芸
品としての江戸切子(甲3,5)を想起するものと解される。
以上からすると,「江戸切子」部分の文字は,「カガミクリスタル」の文字から明
瞭に区別することができ,本願商標に接した需要者等は,大きく記された「江戸切
子」の漢字部分を強く意識することが多いものと認められる。
「カガミクリスタル」部分についても,後記(4)で認定するところを踏まえると,
自他識別機能があることは否定し得ないが,「カガミクリスタル」の文字と「江戸切
子」の間には,上記のとおりの配置や大きさ等の違いがあり,片仮名と漢字の違い
もあることからして,需要者や取引者は,両者を分離して観察し,外観上,大きく
注目され,かつ製品としてその名が知られていて観念上も注目される「江戸切子」
文字が,一見して判読しにくい「カガミクリスタル」文字を凌駕して,取引者,需
要者の注意をひく部分として本願商標の要部をなすというべきである。したがって,
以下の判断においては,この要部を中心に対比するのが相当である。
(3)本願商標と引用商標の対比
本願商標は,前記(2)に述べた外観であるのに対し,引用商標は標準文字で示され
るものであるから,前記に述べたとおり,本願商標の要部が「江戸切子」部分であ
ることからすれば,漢字で「江戸切子」と記載されている点において共通しており,
外観において共通する部分がある。
また,称呼は,本願商標の要部である「エドキリコ」において共通し,「江戸切子」
という観念についても共通する。
さらに,本願商標の指定商品のうち「切子模様を備えるグラス,切子模様を備え
るコップ類,その他の切子模様を備える食器類,切子模様を備えるクリスタル製又
はガラス製の置物,切子模様を備えるクリスタル製又はガラス製の花瓶・水盤・風
鈴,切子模様を備える食品保存用ガラス瓶,切子模様を備えるクリスタル製又はガ
ラス製の容器,切子模様を備えるクリスタル製又はガラス製こしょう入れ・砂糖入
れ及び塩振出し容器,切子模様を備えるクリスタル製又はガラス製調味料入れ,切
子模様を備えるクリスタル製又はガラス製コースター」は,引用商標の指定商品と
同一又は類似のものである。そして,次の(4)で認定するところを踏まえると,原告
の本願商標と本件組合又はその組合員の使用する引用商標とで,いずれかが他方を
凌駕して圧倒的に顕著な著名性を有するとまではいえず,取引における誤認混同の
おそれが存在している。
そうすると,本願商標と引用商標は,外観において共通する部分があり,称呼と
観念を共通にする類似の商標というべきであり,また,指定商品は同一又は類似し
ていると認められるから,本願商標が商標法4条1項11号に該当するとした審決
の判断に誤りはない。
(4)原告は,引用商標が地域団体商標であることから,本件組合の引用商標は
周知性を獲得していないとし,他方で,江戸切子が周知性を獲得する過程において,
本件組合員でない原告の貢献が大きい旨主張する。この主張は,引用商標の登録要
件欠如までの主張ではなく,本願商標と引用商標との類否判断における総合判断要
素として考慮すべきものとの主張と理解されるので,検討を加える。
本件組合は,大正7年に東京硝子研磨業組合として発足し,昭和30年に現名称
である「東京カットグラス工業協同組合」と名称変更した団体で(乙9),平成18
年に地域団体商標として引用商標の登録出願をしているところ,証拠(甲6,乙1
0ないし乙63)によれば,同組合は,ホームページや店舗における直販により江
戸切子製品を販売し,東京及び東京以外でも開催される各種の展示会を開催し,そ
の案内や成果が東京版に限定されず各種新聞に掲載されているほか,昭和60年に
東京都の伝統工芸品指定を受け,平成14年1月に経済産業省の伝統的工芸品指定
を受けるなどしており,本件組合による「江戸切子」商品は周知性を有していると
いえ,「江戸切子」文字自体に自他識別機能がある。
他方で,原告が取消事由1(1)アで主張するような創業以来80年近くの伝統を有
するクリスタル製品メーカーとして全国的に知られる会社であり,「カガミクリスタ
ル」のブランドで商品展開していることは証拠上明らかである(甲7ないし56,
66ないし70,73,76ないし79,89)。
しかし,現に引用商標が地域団体商標として登録され,本件組合の商標として江
戸切子が一定程度の周知性を保っていることも否定することができない以上,原告
の本願商標が,要部と認めざるを得ない「江戸切子」部分において引用商標の自他
識別機能を凌駕していると認めることはできないといわなければならない。原告の
上記商品展開の経緯をもってしても,前記類否判断の結論は動かないといわざるを
得ない。
2取消事由2(商標法4条1項15号該当性判断の誤り)について
前記のとおり,本願商標が商標法4条1項11号に該当する以上,同項15号の
適用についての判断は必要がない。
第6結論
以上によれば,審決の判断に誤りはないから,原告の請求を棄却することとして,
主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
塩月秀平
裁判官
中村恭
裁判官
中武由紀
平成25年(行ケ)第10045号判決別紙
引用商標指定商品及び指定役務
第14類「東京地方に由来する製法により東京都江東区・墨田区・葛飾区・江戸
川区及びその周辺で生産されたガラス製ブローチ,東京地方に由来する製法によ
り東京都江東区・墨田区・葛飾区・江戸川区及びその周辺で生産されたガラス製
ループタイ,東京地方に由来する製法により東京都江東区・墨田区・葛飾区・江
戸川区及びその周辺で生産されたガラス製ペンダント,東京地方に由来する製法
により東京都江東区・墨田区・葛飾区・江戸川区及びその周辺で生産されたガラ
ス製時計」
第21類「東京地方に由来する製法により東京都江東区・墨田区・葛飾区・江戸
川区及びその周辺で生産されたガラス製酒瓶,東京地方に由来する製法により東
京都江東区・墨田区・葛飾区・江戸川区及びその周辺で生産されたガラス製冠水
瓶,東京地方に由来する製法により東京都江東区・墨田区・葛飾区・江戸川区及
びその周辺で生産されたガラス製徳利,東京地方に由来する製法により東京都江
東区・墨田区・葛飾区・江戸川区及びその周辺で生産されたガラス製ぐい呑み,
東京地方に由来する製法により東京都江東区・墨田区・葛飾区・江戸川区及びそ
の周辺で生産されたガラス製盃,東京地方に由来する製法により東京都江東区・
墨田区・葛飾区・江戸川区及びその周辺で生産されたガラス製グラス,東京地方
に由来する製法により東京都江東区・墨田区・葛飾区・江戸川区及びその周辺で
生産されたガラス製皿,東京地方に由来する製法により東京都江東区・墨田区・
葛飾区・江戸川区及びその周辺で生産されたガラス製小鉢,東京地方に由来する
製法により東京都江東区・墨田区・葛飾区・江戸川区及びその周辺で生産された
ガラス製菓子鉢,東京地方に由来する製法により東京都江東区・墨田区・葛飾区・
江戸川区及びその周辺で生産されたガラス製銚子,東京地方に由来する製法によ
り東京都江東区・墨田区・葛飾区・江戸川区及びその周辺で生産されたガラス製
三段重,東京地方に由来する製法により東京都江東区・墨田区・葛飾区・江戸川
区及びその周辺で生産されたガラス製水指,東京地方に由来する製法により東京
都江東区・墨田区・葛飾区・江戸川区及びその周辺で生産されたガラス製ボンボ
ニエール,東京地方に由来する製法により東京都江東区・墨田区・葛飾区・江戸
川区及びその周辺で生産されたガラス製なつめ,東京地方に由来する製法により
東京都江東区・墨田区・葛飾区・江戸川区及びその周辺で生産されたガラス製水
差し,東京地方に由来する製法により東京都江東区・墨田区・葛飾区・江戸川区
及びその周辺で生産されたガラス製ナプキンホルダー,東京地方に由来する製法
により東京都江東区・墨田区・葛飾区・江戸川区及びその周辺で生産されたガラ
ス製花瓶,東京地方に由来する製法により東京都江東区・墨田区・葛飾区・江戸
川区及びその周辺で生産されたガラス製飾り皿,東京地方に由来する製法により
東京都江東区・墨田区・葛飾区・江戸川区及びその周辺で生産されたガラス製室
内装飾用置物,東京地方に由来する製法により東京都江東区・墨田区・葛飾区・
江戸川区及びその周辺で生産されたガラス製飾箱,東京地方に由来する製法によ
り東京都江東区・墨田区・葛飾区・江戸川区及びその周辺で生産されたガラス製
風鈴,東京地方に由来する製法により東京都江東区・墨田区・葛飾区・江戸川区
及びその周辺で生産されたガラス製香炉」
第40類「東京都江東区・墨田区・葛飾区・江戸川区及びその周辺で行われる東
京地方に由来するガラスの加工」

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弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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71期修習生 72期修習生 求人
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職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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ロースクール生歓迎
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