弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成28年6月17日判決言渡
平成24年(行ウ)第54号被保険者資格確認請求却下処分取消請求事件
主文
1○社会保険事務所長が平成21年12月4日付けで原告に対
してした,原告の厚生年金保険の被保険者の資格の確認の請求
を却下する旨の処分を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文1項に同旨
第2事案の概要等
本件は,A株式会社(以下「A」という。)との間で雇用契約を締結し,
英語講師として就労していた原告が,平成21年11月9日,○社会保険事
務所長(当時)に対し,厚生年金保険の被保険者(以下,特に断らない限り
「被保険者」という。)の資格の取得の確認の請求(以下「本件確認請求」
という。)をしたところ,同年12月4日付けで,これを却下する旨の処分
(以下「本件却下処分」という。)を受けたことから,同処分の取消しを求
める事案である。
1関係法令の定め
別紙「関係法令の定め」記載のとおりである(同別紙で定める略称は,以下
においても用いる。)。
2前提事実(当事者間に争いがない事実,後掲の証拠及び弁論の全趣旨により
認められる事実)
(1)原告がAにおいて就労するに至った経緯等
ア原告は,1969年(昭和44)年▲月▲日,フィリピン共和国にお
いて出生し,1975年(昭和50年),家族と共にカナダに移住し,1
979年(昭和54年),同国の国籍を取得し,以後同国の国籍を有する
外国人の男性である(甲1,37)。
イ原告は,1998年(平成10年)の1月ないし2月,日本のいわゆる
語学学校(B)が,講師を募集していたのに応じて面接を受け,同語学学
校で就労することとなり,その後本邦に上陸し,「人文知識・国際業務」
の在留資格をもって本邦に滞在し,同年5月から平成16年3月ないし4
月頃まで,BC校で英語講師として就労した(甲37)。
ウ原告は,平成16年6月15日付けで,語学学校を運営するAとの間
で,雇用契約(以下「本件雇用契約」という。)を締結し,以後現在に至
るまで,Aの適用事業所において就労している(甲6,37,乙34,原
告本人)。
エ原告は,平成18年8月1日に厚生年金保険の被保険者の資格を取得し
た。
(2)本件訴えの提起に至る経緯
アAは,平成21年8月1日付けで原告について被保険者の資格の喪失の
届出をした(甲18)。
イ○社会保険事務所長(当時)は,平成21年9月3日付けで,事業主で
あるAに対し,原告について同年8月1日付けで被保険者の資格の喪失が
確認された旨の通知をした。
ウ原告は,その後,Aから,上記イの内容の通知を受け,平成21年11
月9日,○社会保険事務所長に対し,「健康保険・厚生年金保険被保険者
資格確認請求書」(甲1)に,平成21年8月1日付けの「資格喪失の確
認」,「引き続き加入中であることを確認したい」などと記載して,厚年
法31条1項の規定に基づき,確認の請求(本件確認請求)をした(甲
1)。
エ○社会保険事務所長は,平成21年12月4日付けで,請求に係る事実
がないものと認めたとして本件確認請求を却下する旨の処分(本件却下処
分)をした(甲16)。
オ○社会保険事務所は,平成21年12月31日,廃止され,本件却下処
分は厚生労働大臣等がした処分とみなされ,同処分に係る権限の受任者は
日本年金機構となった(日本年金機構法1条,附則1条,7条)。
カ原告は,平成22年1月25日,本件却下処分を不服として関東信越厚
生局社会保険審査官に対して審査請求をしたが,同審査官は,同年11月
19日付けで同審査請求を棄却する旨の決定をした(甲17,19)。
キ原告について,平成22年12月1日付けで,厚生年金保険の被保険者
の取得の確認がされた。
ク原告は,平成23年1月18日,前記カの決定を不服として社会保険審
査会に対して再審査請求をしたが,同審査会は,同年7月29日,同再審
査請求を棄却する旨の裁決をした(甲20,24)。
ケ原告は,平成24年1月29日,本件訴えを提起した(顕著な事実)。
(3)厚生省保険局保険課長,社会保険庁医療保険部健康保険課長及び同部厚
生年金課長の連名による都道府県民生主管部(局)保険課(部)長宛ての昭
和55年6月6日付けの文書(乙1。以下「内かん」という。)について
内かんの体裁は,「拝啓時下益々御清祥のこととお慶び申し上げま
す。」という書き出しから始まり,「敬具」という結語で終わるというもの
であり,短時間就労者(いわゆるパートタイマー)に係る健康保険及び厚生
年金保険の被保険者資格の取扱いについて,次のとおり記載している。
「短時間就労者(いわゆるパートタイマー)にかかる健康保険及び厚生年
金保険の被保険者資格の取扱いについては,各都道府県,社会保険事務所に
おいて,当該地方の実情等を勘案し,各個別に取扱基準を定めるなどにより
その運用が行われているところです。もとより,健康保険及び厚生年金保険
が適用されるべきか否かは,健康保険法及び厚生年金保険法の趣旨から当該
就労者が当該事業所と常用的使用関係にあるかどうかにより判断すべきもの
ですが,短時間就労者が当該事業所と常用的使用関係にあるかどうかについ
ては,今後の適用に当たり次の点に留意すべきであると考えます。
1常用的使用関係にあるか否かは,当該就労者の労働日数,労働時間,就
労形態,職務内容等を総合的に勘案して認定すべきものであること。
2その場合,1日又は1週の所定労働時間及び1月の所定労働日数が当該
事業所において同種の業務に従事する通常の就労者の所定労働時間及び所
定労働日数のおおむね4分の3以上である就労者については,原則として
健康保険及び厚生年金保険の被保険者として取り扱うべきものであるこ
と。
32に該当する者以外の者であっても1の趣旨に従い,被保険者として取
り扱うことが適当な場合があると考えられるので,その認定に当たって
は,当該就労者の就労の形態等個々具体的事例に即して判断すべきもので
あること。」
(4)社会保険庁運営部医療保険課長による地方社会保険事務局長宛ての平成
17年5月19日付けの文書(甲23,乙2。以下「課長通知」とい
う。)について
課長通知は,「語学学校に雇用される外国人講師に係る健康保険・厚生年
金保険の適用について」との表題が付され,「標記については,平成17年
3月28日付庁保険発第0328002号「外国人講師に係る健康保険・厚生年金
保険の適用について」により,外国人講師を雇用する語学学校については,
重点的に調査を行う事業所に選定し事業所調査を実施することとしたところ
であるが,非常勤として雇用されている外国人講師(以下「非常勤外国人講
師」という。)の取扱いに当たっては,下記の取扱いに留意の上,事業所調
査を実施するよう特段の配慮をお願いする。」との記載に続き,非常勤外国
人講師の健康保険及び厚生年金保険の被保険者資格の取扱いについて,次の
とおり記載している。
「1非常勤外国人講師に係る適用基準
(1)非常勤外国人講師が,当該語学学校と常用的使用関係にあるかど
うかについては,1日又は1週の所定労働時間及び1月の所定労働時
間日数が当該事業所において,常勤として雇用されている外国人講師
(以下「常勤外国人講師」という。)の所定労働時間及び所定労働日
数のおおむね4分の3以上である場合には,健康保険及び厚生年金保
険の被保険者(以下「被保険者」という。)として取り扱うこと。
(2)語学学校に雇用されている講師が全員非常勤外国人講師であるた
め,所定労働時間及び所定労働日数がおおむね4分の3以上であるか
否かを判断する際に,比較すべき常勤外国人講師がいない場合につい
ては,当該語学学校において常勤として雇用されている一般的な従業
員(いわゆる正社員)の所定労働時間及び所定労働日数のおおむね4
分の3以上であるか否かをもって,被保険者として取り扱うこと。
(3)就業規則または雇用契約において,非常勤外国人講師の1日又は
1週の所定労働時間は規定されているが,1月の所定労働日数が規定
されていない場合には,常勤外国人講師及び非常勤外国人講師の所定
労働時間から,それぞれの1月の総労働時間を算出したもの(以下
「総労働時間」という。)を比較しておおむね4分の3以上であるか
否かをもって被保険者として取り扱うか否かを判断すること。
2月によって労働時間が異なる場合の取扱い
前記の1に該当しない場合であっても,残業が常態的であったり,給
与形態が出来高払いとなっている等のため,労働時間が月によって変動
し,非常勤外国人講師の労働時間が,常勤外国人講師の労働時間のおお
むね4分の3以上となる月や下回る月がある場合には,非常勤外国人講
師の総労働時間と常勤外国人講師の総労働時間を比較し,おおむね4分
の3以上となる月が連続で2ヶ月を超えていれば,被保険者として取り
扱うこと。
なお,この場合の資格取得日は,おおむね4分の3以上となった最初
の月の1日とすること。
3勤務時間がレッスン単位で定められている場合の取扱い
(1)就業規則または雇用契約において,勤務時間がレッスン単位で定
められている場合には,1日又は1週のレッスン数に1レッスン当た
りの時間数を乗じ,1日又は1週の労働時間を算出し判断すること。
(2)おおむね4分の3以上であるか否かを判断する際には,レッスン
の間における休憩時間は労働時間に含めないこととするが,当該休憩
を活用して次のレッスンの準備を行う等実質的に就労を行っている場
合には,労働時間に含めて判断するものとする。」
(5)Aにおける被保険者に関する取扱い等
アAは,平成19年11月20日付けで,平成20年1月18日から適用
される従業員(教師)の厚生年金保険を含む社会保険加入の基準につい
て,次のとおり,従業員に通知した(乙3)。
(ア)これまでは,6か月期間ごとに社会保険の加入・脱退の見直しを行
っていたが,変更日(平成20年1月18日)以降は3か月期間ごとの
見直しに変わる。
(イ)見直しの(基準とする)期間は,次のとおりとなる。
1月18日~4月17日
4月18日~7月17日
7月18日~10月17日
10月18日~1月17日
(ウ)見直しの基準は次のとおりとなる。
a各月の正確な授業数に基づいて計算する。
b教師が3か月期間,連続で各月198レッスン以上担当した場合
は,社会保険に強制加入となる。
c教師が3か月期間のうち,1か月でも担当したレッスン数が198
レッスン以下であった場合は,社会保険に入る必要はない。
dただし,教師が1か月で198レッスン以上担当した場合は,社会
保険に加入することができる。
e社会保険に加入した教師が引き続き加入を続けたい場合は,上記3
か月期間のうち最低1か月は176レッスン以上担当することが必要
である。このレッスン数は,平成17年8月1日以降の加入者に適用
される。
イまた,Aにおいては,上記アの基準に基づくほか,教師が6か月連続し
て1か月当たりの担当したレッスン数が176レッスンを下回った場合
は,社会保険の資格を喪失する旨の運用がされていた(甲37,乙4)。
なお,Aにおいては,それぞれの月の18日から翌月の17日を1か月
の単位として報酬等の算定の基礎としており,上記アの社会保険加入・喪
失に関するレッスン数の計算についても,その単位を基礎としていた(甲
14,18。以下,その単位について,平成21年1月18日から同年2
月17日までを「平成21年2月期」などと表記する。)。
ウ原告の平成21年1月18日から同年7月17日まで(平成21年2月
期から同年7月期まで)の勤務状況(担当したレッスン数)は,次のとお
りであり(甲12,14,17),1か月当たりのレッスン数は,いずれ
も176レッスンを下回っていた。
平成21年2月期(同年1月18日~同年2月17日)168レッスン
平成21年3月期(同年2月18日~同年3月17日)152レッスン
平成21年4月期(同年3月18日~同年4月17日)171レッスン
平成21年5月期(同年4月18日~同年5月17日)159レッスン
平成21年6月期(同年5月18日~同年6月17日)163レッスン
平成21年7月期(同年6月18日~同年7月17日)160レッスン
エこのため,Aは,前記(2)アのとおり,平成21年8月1日付けで原告
について被保険者の資格の喪失の届出をした(甲18)。
3争点
本件における争点は,原告が平成21年8月において,厚生年金保険の被
保険者(「適用事業所に使用される70歳未満の者」(厚年法9条))であ
ったと認められるか否かである。
4当事者の主張の要旨
(被告の主張の要旨)
(1)内かんについて
ア国民健康保険法(以下「健保法」という。)3条1項及び厚年法9条に
規定する「使用される者」とは,常用的使用関係にある者と解すべきであ
ること
(ア)健保法3条1項及び厚年法9条にいう「使用される者」は,常用的
使用関係にある者と解すべきであることは,①健康保険制度及び厚生年
金保険制度の制定当初から,自己の労働力を唯一の資本とし,その提供
した労働力の対価として得た賃金のみを生計の基盤として生計を支える
労働者を制度の対象とすることを想定していたこと,②保険制度上の仕
組みとして,健保法及び厚年法は,その保険料につき「標準報酬月額」
に基づき計算すべきものとしているところ(健保法156条,厚年法8
1条),「標準報酬月額」の決定方法(被保険者が継続的に雇用されて
いることを前提に「報酬月額」算定の基礎となる賃金の期間が定められ
ており,被保険者の勤務日数が一定以上あることを前提として,「報酬
月額」算定の基礎となる賃金の支払い基礎日数が少ない月の賃金が除外
されている)等は,両各法における被保険者が,全ての労働者ではな
く,「常用的使用関係にある者」に限定することを前提としているこ
と,③健康保険制度及び厚生年金保険制度において常用的使用関係を判
断する意義は,労働者だけでなく使用者に対しても保険料負担を求める
保険制度によって事業主に使用される労働者を保護するという目的に鑑
みれば,これらの保険制度によって保護するに値する労働者を,保険料
負担者でもある使用者との関係の緊密さを基準とした一定の範囲の労働
者に限定して解することにあることから明らかである。
(イ)「標準報酬月額」は,被保険者が常用的使用関係にある者であるこ
とを前提として設定されている。すなわち,健保法及び厚年法における
「標準報酬月額」は,被保険者の賃金額に基づき決定される「報酬月
額」に応じて区分された「標準報酬月額等級」に基づき定められ,「標
準報酬月額等級」は,健保法においては第1級から第47級まで,厚年
法においては第1級から第30級までの等級があるところ(健保法40
条1項,厚年法20条1項),健保法156条及び厚年法81条が,か
かる「標準報酬月額」を基礎として保険料の額を算定することとしたの
は,保険料の額を被保険者の賃金額に見合ったものとする趣旨である。
そして,健保法及び厚年法における「標準報酬月額等級」の下限は,
毎月勤労統計調査(毎月勤労統計調査規則に基づき,厚生労働省(旧労
働省)が実施している調査)に基づく事業所規模5人以上の事業所にお
ける労働者の出勤日数の平均日数に,最低賃金法に基づく1日(8時
間)当たりの最低賃金を乗じた金額を参考に定められてきた。すなわ
ち,健保法及び厚年法における「標準報酬月額等級」は,被保険者が上
記毎月勤労統計調査に基づく労働者の平均的な出勤日数以上に終日勤務
をしていることを前提に設定されており,常用的使用関係にある者を被
保険者とすることを前提とするものである(乙30)。
イ「使用される者」が適用事業所に使用されている全ての労働者を指すも
のではないこと
(ア)健康保険及び厚生年金保険の被保険者となる「使用される者」が適
用事業所に使用されている全ての労働者を指すものではないことについ
ても,①各種家族給付制度の存在自体が,被保険者の範囲が限定される
ことを前提としていること,②健保法及び厚年法は,全ての労働者を適
用対象とする労働者災害補償保険法とは異なる保険料の算定方法を採用
していることからすれば明らかである。
(イ)さらに,保険料の算定や保険給付の額は,みなし報酬月額である標
準報酬月額に基づくこととされ,厚年法では最低等級の9万8000円
の標準報酬月額については報酬月額の下限が定められておらず,報酬月
額が10万1000円未満の者は全てこの9万8000円の標準報酬月
額に属することになる。
そのため,1月当たりの労働時間が相当程度短く報酬月額が9万80
00円を大幅に下回るような者が被保険者となるとするならば,事業主
及び被保険者の双方について,実際の報酬月額ではなく,9万8000
円の標準報酬月額に基づいた保険料の納付義務が発生することになる。
この点について,まず,事業主についてみれば,自身が雇用する労働者
から提供を受ける労務に比べて過大な保険料負担を強いられることにな
る。また,同じ点を被保険者についてみれば,仮に,原告が主張するよ
うに,被保険者の範囲につき全ての労働者と解釈する場合に,例えば,
月1日しか労働を提供せず1万円の報酬しか得ていない労働者であって
も,適用事業所に使用されてさえいれば,健康保険及び厚生年金保険の
被保険者に当たることとなるが,この場合の当該労働者の保険料の額
は,収入を超える額となるのであって,被保険者の範囲について,原告
が主張するような解釈を採り得ないことは明らかである。
(ウ)内かんは,健保法及び厚年法における「使用される者」が「常用的
使用関係にある者」を指すことを前提にして,法律の解釈の統一化(具
体的には「常用的使用関係にある者」の解釈の統一化)のためにその目
安を示したものであり,内かんの示す目安は,健保法及び厚年法の解釈
に合致するものであって,合理性を有する。加えて,最終的にはあくま
で個々の事例に即して実態としての使用関係に着目すべきことを示して
いるのであって,機械的に一律に判断すべきとはしていないのであるか
ら,「使用される者」の範囲を内かんにより不当に限定しているとの原
告の主張は当たらない。
(2)課長通知について
課長通知は,語学学校における外国人講師の就労実態も踏まえながら,内
かんで示す短時間就労者の適用の目安に準拠した内容で,語学学校の講師向
けの適用の目安として示したものであり,単に内かんの示す目安を,語学学
校の場合に具体的に適用して,判断基準を分かりやすく示したものにすぎ
ず,課長通知の例示に該当しないような労働者については,内かんの1及び
3に即して判断することとなるので,内かんの範囲を逸脱した違法な内部基
準であるなどとする原告の主張は失当である。
(3)Aにおける短時間労働者の適用の目安
アAにおける短時間労働者の適用の目安となる所定労働時間
Aにおいては,Aが区分するところの常勤講師は複数存在するが,課長
通知の1(1)に定めるような基準となる常勤講師とその所定労働時間等を
一義的に特定することができないため,課長通知1(2)を参考に,雇用形
態は考慮せず,Aにおいて非常勤講師に係る適用の目安とすべき所定労働
時間等について考えると,Aにおける一般的な従業員の1日の労働時間は
8時間であり,週休2日制であることから,Aにおける非常勤講師に係る
適用基準となる所定労働時間は1週につき40時間(1月につき176時
間)となり,所定労働日数は1週につき5日(1月につき22日)とな
る。この基準となる所定労働時間は,Aが区分するところの常勤講師の雇
用形態に照らすと,「40HIS」(1週間の所定労働時間〔雇用契約
書又は勤務規定上,最低限履行が求められている通常就業(勤務)時間を
いう。〕を40時間とし,この所定労働時間を前提とした基本給が支払わ
れる。さらに,所定労働時間を超えた部分については,9時間までの範囲
内で時間給に基づく支払が行われる。)の所定労働時間数等と一致するこ
とを踏まえると,Aにおける非常勤講師に係る適用の目安となる「常勤講
師」は「40HIS」といえることとなる。
また,業務のうちわずかでも管理業務が含まれる「40HIS」は,
もっぱら講師業務のみを行う「MG35/40」(1週間当たり35レッ
スンを担当するものとし,この35レッスンを前提とした基本給が支払わ
れる。さらに,35レッスンを超える勤務を行った場合は,1レッスン当
たりの時間給に基づく支払が行われる。原告が属する雇用形態。)の比較
対象とはならないとすれば,Aにおける他の常勤講師の雇用形態は,常勤
外国人講師であると評価できない雇用形態であることから,Aには課長通
知の「常勤外国人講師」の概念に合致する常勤講師は存在しないこととな
る。このような場合の適用の例示である課長通知1(2)に従えば,Aにお
いて常勤として雇用されている一般的な従業員(いわゆる正社員)の所定
労働時間(1日8時間・1週40時間)と所定労働日数(週5日)を目安
とすることになる。
イAにおける「おおむね4分の3の基準」
上記の基準を内かんに当てはめると,Aにおける「おおむね4分の3」
の目安は,労働日数は月22日の4分の3である16.5日,労働時間は
176時間の4分の3である132時間を超える状態であるか否かを目安
として判断することが適当である。
(4)原告の月別労働時間を踏まえた検証
ア原告の1か月間の労働日数については,20日から23日の間で推移し
ており,雇用契約が「40HIS」の常勤講師と比して,「おおむね4
分の3」を超えることは争いがない。
しかしながら,労働時間に関しては,月別の労働時間では,始業前及び
休憩(準備)時間を除いた場合では,月108時間から125時間にとど
まる。
これらのことから,原告の平成21年8月以降の労働時間は「おおむね
4分の3」を超えているとはいえない。
イ原告が始業30分前に出勤し事前準備を行っていたと主張する部分に関
しては,Aの指示による有給のものを除けば,そのような準備をする義務
が原告に課せられていたとはいえず,「原告がAの指揮命令下に置かれて
いると客観的に評価できる時間」,つまり「実質的に就労している時間」
には当たらない。
また,原告が休憩時間に行っていたと主張する義務は,本来レッスン中
に行うべき業務であること,全てのレッスンの後に必ず生徒から質問があ
ったとは考えにくいこと等から,全ての休憩時間を労働時間に含めるとい
う発想は取り得ない。
そして,原告は,本人尋問において,スタッフが帰った後に教材の作
成,部屋の消灯や戸締まりをすることがあり,レッスン以外にも仕事をす
る旨供述しているが,スタッフが帰った後にAが命令して講師に教材の作
成をさせることはなく,部屋の消灯や戸締まりには数秒しかかからないか
ら,レッスンの終了後にやるべきことは数秒しかかからない。
これらのことから,始業前,休憩,終業後の時間が実質的な労働時間に
当たるとの原告の主張は失当であり,それらの時間を「おおむね4分の
3」を判断する際の労働時間に含めるべきではない。
ウ仮に,始業前及び休憩(準備)時間を原告の労働時間に含めたとして
も,平成21年8月以降において,月ごとの労働時間が132時間を超え
るのは平成21年9月(月142時間)のみであり,原告の労働時間は
「おおむね4分の3」を超えているとはいえない。
エ以上から,原告は,平成21年8月から平成22年10月までの間にお
いて,Aと常用的使用関係にあったとはいえず,原告からの被保険者資格
の確認の請求を却下する旨の処分を行ったことは妥当であり,何ら法令に
反するものではない。
(5)以上述べたとおり,内かん及び課長通知は適法なものであり合理性を有
するものであるから,その目安に基づいて行った,原告からの被保険者資
格の確認の請求を却下する旨の処分は妥当である。
(原告の主張の要旨)
(1)厚年法9条の「被保険者」
厚年法9条は,「適用事業所に使用される70歳未満の者は,厚生年金保
険の被保険者とする」と規定している。その上で,「適用除外」を同法12
条に限定列挙している。すなわち,厚年法は,雇用期間(同法12条)をメ
ルクマールに,しかも形式的な契約の名称に縛られることなく現実の就労実
態に着目した上で,幅広い労働者を被保険者として把握する立場をとってい
る。そうすると,厚年法が予定している被保険者がいわゆる「正社員」のみ
でないことは明らかであり,むしろ,「労働者及びその遺族の生活の安定と
福祉の向上に寄与すること」を目的とする厚年法の趣旨からは,老後や障
害,死亡の場合の生活保障の必要性が高い非正規労働者をできるだけ被保険
者として取り扱い,厚年法の保護の範囲に加えるべきである。
したがって,原告が「適用事業所に使用される70歳未満の者」に該当
し,厚生年金保険の被保険者に該当することは明らかであるから,本件却下
処分は違法である。
(2)内かんが違法であること
ア内かんは,法律上の授権を受けることなく,行政機関が発出したもので
あり,法規命令に当たらないことは明らかである。そうすると,仮に,内
かんの行政通達としての法形式が適切であるとした場合,裁量基準として
の行政内部の効力が生じる可能性があり得るが,本件では,「被保険者」
該当性について行政裁量が認められないため,裁量基準としての効力も認
められない。保険料負担者の範囲決定が行政機関の裁量に委ねることは租
税法律主義(憲法84条)の趣旨に反する上,法文上も行政裁量が生じる
ような文言になっていないからである。また,私人の権利義務を確定する
だけでなく,地方自治体との関係をも規定する効果を有する決定を,一省
庁内部の行政機関が,法律の授権なしに決定することができるとは考えら
れないという観点からも裁量基準だとは考えられない。
イ被告は,「使用される」という法文の文言から離れて創出した「常用的
使用関係」という用語,「生活の安定と福祉の向上」という法の目的から
離れて「常用的使用関係」に沿うような趣旨・目的を前提に主張してい
る。
しかし,このような趣旨・目的の理解は誤っている。現在,いわゆる非
正規労働者が労働者全体の40パーセント近くを占めるようになってお
り,その中で単身者である低賃金労働者が増加していることは顕著な事実
である。こうした低賃金労働者の「生活の安定と福祉の向上」は法の目的
とするところであって,これらの労働者を「家族の生計」を支えるに足り
る賃金を得ていないということで排除することは法の趣旨に反する。
また,使用者負担は厚年法により当然に生じる使用者の義務であり,理
念的には使用者が集団として労働者に対してその生活の安定と福祉の向上
に寄与する社会連帯責任の一環である。社会保険としての厚生年金保険
は,個別企業の福利厚生制度の一つではない。具体的な使用者保険料負担
は,短時間就労の場合でも支払賃金に比例して負担するにとどまってお
り,賃金が標準報酬の下限と比較して極端に低額の場合は別にして,特に
過重な負担を使用者に課すものではない。
したがって,「常用的使用関係」は「生活の安定と福祉の向上」という
厚年法の趣旨とは無関係の用語であり,内かんの違法性を判断する際に
は,考慮してはならないものである。
ウ仮に,厚年法が,行政に「適用事業所に使用される」者(厚年法9
条),「厚生年金保険の被保険者としない」(同法12条)又は同法12
条各号該当性についての要件裁量を与えているとしても,この裁量権行使
の基準である内かんは,与えられた範囲を逸脱・濫用するもので違法であ
る。
(ア)目的・動機違反
法律の趣旨・目的とは異なる目的や動機に基づいて裁量処分がされた
場合には,その行政処分は違法となる。内かんにいう「短時間就労者」
は,単に1日又は1か月の就労時間が短いというだけであり,使用され
る期間の長短とは無関係の概念である。そうすると,「短時間就労者」
を適用除外とするのは,給付と負担の均衡という動機・目的に基づくも
のでしかなく,厚年法12条の「臨時的に使用されている者は,使用期
間が短いため,必ずしも被保険者の利益とならないことから,適用除外
とする」という適用除外の趣旨から明らかに逸脱するもので違法であ
る。
(イ)要考慮事項不考慮・他事考慮の違法
a厚年法12条の規定の趣旨及び同条各号が明確かつ具体的に適用除
外対象者を規定していることからすると,要件裁量は,厚年法12条
各号が規定する適用除外対象者に類似している者を適用除外とするこ
とに限定されており,この類似性判断についての要件裁量が認められ
ると解するのが合理的であるところ,内かんは,「同種の業務に従事
する通常の就労者の所定労働時間及び所定労働日数のおおむね4分の
3以上である就労者」を被保険者とする基準を規定しており,厚年法
12条各号が規定する適用除外対象者との類似性判断という要考慮事
項を考慮せず,他方で本来考慮してはならない「常用的使用関係」や
「所定労働時間」等を考慮しており,裁量権を逸脱・濫用した裁量基
準であり違法である。
b厚年法12条の趣旨が「給付と負担の均衡を図る」ところにあると
すると,被保険者の「賃金(所得)」はその均衡を検討するに当たっ
て極めて重要な要素である。いわゆるフルタイム労働者に比して著し
く低い「賃金(所得)」でなければ不均衡は生じないからである。
内かんは,本来重視すべき「賃金(所得)」という極めて重要な
考慮要素を一切考慮せず,また本来過大に評価すべきでない「労働時
間」を過大に評価するものであり,裁量判断の過程に裁量権逸脱の違
法があるといえる。
(ウ)平等原則違反
「短時間就労者」には,様々な就労形態,賃金形態があり,いわゆる
フルタイムの労働者の半分以上の労働時間で,労働によって生計を立て
ていると評価できる賃金を得ている労働者も含まれるところ,このよう
な労働者まで適用除外とすることは,厚年法の趣旨に照らして明らかに
不合理な差別である。
したがって,「4分の3」という労働時間をもって「短時間就労者」
といわゆるフルタイム労働者を別異に扱う内かんは,不合理な理由によ
る差別であるため,平等原則(憲法14条)に反する裁量権行使の基準
であるため,違憲・違法である。
(3)課長通知が違法であること
内かんが違法であれば,当然それに基づく課長通知も違法である。
仮に,内かんが適法だとしても,課長通知は,①内かんの趣旨に反して,
画一的基準のみを定めていること,②本来比較できない一般従業員と語学講
師を比較し,単純な時間数に無理に換算することで比較しようとする不合理
な基準設定となっていること,③1日8時間,間断なく授業を行う,という
ようなフルタイム労働者を「通常の就労者」として設定するという不合理な
基準になっていることから,明らかに違法である。
(4)本件却下処分が違法であること
原告は,レッスン間の休憩時間中及び始業前の30分間に,質問対応,
教材準備等の授業準備をしなければならず,休憩をとることができなかっ
た。そして,Aにおいては近い将来,休憩時間の5分についても給料の支
払が予定されていることが明らかにされており,Aとしても,生徒の休憩
時間の間も講師が授業準備等をしなければならないことを認識していたと
いえる。
また,1コマ当たりの賃金は,Aからの業績評価によって変動し,授業
の事前準備等なくして「いい授業」ができないことが認められ,賃金の減
少につながるような準備不足の授業ができないこと,Aから講師による事
前準備等を制約するような指示はなく,原告が詳細かつ具体的に事前準備
の内容を明らかにしていることからすると,Aが事前準備を黙認し,黙示
的に指揮命令していたと考えるのが合理的であること,「いい授業」を提
供するのは,講師が提供すべき債務の内容になっているともいえることか
ら,レッスン間の休憩時間中及び始業前の30分間の授業準備等について
Aの指揮命令下にあったといえる。
よって,原告は,少なくともレッスン前後の5分は,Aの指揮命令下に置
かれていたといえ,原告の平成21年8月から同年11月までの月別の総労
働時間は,次のとおりとなる。
平成21年8月130.82時間
平成21年9月142.91時間
平成21年10月122.95時間
平成21年11月126.24時間
そうすると,内かん及び課長通知を前提としても原告が被保険者に該当す
ることは明らかである。
(5)以上から,本件却下処分は違法であり,取り消されるべきことは明らか
である。
第3当裁判所の判断
1「適用事業所に使用される70歳未満の者」(厚年法9条)の範囲について
(1)厚年法9条は,適用事業所に使用される70歳未満の者は,厚生年金保
険の被保険者とする旨を定め,同法12条(平成24年法律第63号によ
る改正前のもの。以下特に断らない限り同じ。)は,同条各号のいずれか
に該当する者は,同法9条の規定にかかわらず,厚生年金保険の被保険者
としない旨等を定めており,同法12条各号には,臨時に使用される者で
あって,日々雇い入れられる者(1月を超え,引き続き使用されるに至っ
た場合を除く。)又は2月以内の期間を定めて使用される者(所定の期間
を超え,引き続き使用されるに至った場合を除く。)(同条2号),季節
的業務に使用される者(継続して4月を超えて使用されるべき場合を除
く。)(同条4号)及び臨時的事業の事業所に使用される者(継続して6
月を超えて使用されるべき場合を除く。)(同条5号)等が定められてい
る。
そして,厚年法の規定中,同法12条各号のほかに,適用事業所に使用さ
れる者について,厚生年金保険の被保険者に該当しない旨を具体的に定めた
明文の規定は見当たらない。
(2)もっとも,以下の各点を考慮すると,厚年法12条各号に規定する者以
外の全ての労働者が被保険者に該当するということは相当ではないと解さ
れる。
ア厚年法による保険給付には,老齢厚生年金,障害厚生年金及び障害手当
金並びに遺族厚生年金があり(同法32条),このうち老齢厚生年金の額
は,基本的に,被保険者期間における各月の標準報酬月額と標準賞与額と
の一定率を乗じて算定される(同法20条1項)。また,厚生年金保険事
業に要する費用に充てるために徴収される保険料の月額は,標準報酬月額
及び標準報酬賞与額にそれぞれ所定の保険料率を乗じて得た額とされ(同
法81条),被保険者及び被保険者を使用する事業主は,それぞれ保険料
の半額を負担するものとされ(同法82条1項),標準報酬月額は,被保
険者の報酬月額に基づき,所定の等級区分によって定めるものとされてい
る(同法20条1項)。
このような年金の額及び保険料額の算定の基準となる標準報酬月額は,
被保険者の報酬月額に基づき,第1級から第30級までの等級区分によっ
て定められており(同法20条1項),その金額は,最低額である第1級
については,報酬月額が10万1000円未満の場合に9万8000円,
第2級については,報酬月額が10万1000円以上10万7000円未
満の場合に10万4000円,第3級については報酬月額が10万700
0円以上11万4000円未満の場合に11万円などと順次定められ,最
高額である第30級については,報酬月額が60万5000円以上の場合
に62万円とされている(同法20条1項)。
イそして,標準報酬月額は,被保険者が毎年7月1日現に使用される事業
所において同日前3月間に受けた報酬の総額をその期間の月数で除して得
た額を報酬月額として決定(定時決定)され,その標準報酬月額は,その
年の9月から翌年の8月までの各月の標準報酬月額とされている(同法2
1条1項及び2項)。ただし,被保険者が現に使用される事業所において
継続した3月間に受けた報酬の総額を3で除して得た額が,その者の標準
報酬月額の基礎となった報酬月額に比べて,著しく高低を生じた場合にお
いて,必要があると認めるときは,その額を報酬月額として,その著しく
高低を生じた月の翌月から,標準報酬月額を改定することができるとされ
ている(同法23条1項)。
また,このような標準報酬月額の定時決定及び報酬月額に著しく高低を
生じた場合の標準報酬月額の改定において,標準報酬月額を決定する基礎
となる報酬月額を算定するに当たり,報酬支払の基礎となった日数が17
日未満の月の報酬を除外するものとされている(同法21条1項,23条
1項)。
ウ厚年法が,上記のとおりの標準報酬月額を基礎として年金額や保険料を
算定する制度を採用しているのは,被保険者が受ける報酬ごとに保険料額
等を計算すると極めて煩雑になるところ,報酬額を実額に近似する一定の
額に定型化し,かつ,1年間その標準報酬額を用いることとして,大量の
事務を正確かつ迅速に行うためであると解される。
そして,上記アのとおり,標準報酬月額の最低額が9万8000円とさ
れているところ,その額を大きく下回るような報酬月額の支払を受けてい
る労働者も被保険者に該当するものとした場合,保険料の半額を負担しな
ければならない当該労働者及びその事業主に,その労働実態に見合わない
過大な負担を負わせることになることからすると,厚年法は,一般にその
ような事態を想定しないものとみることができる。
また,上記イのとおり,標準報酬月額を決定する基礎となる報酬月額を
算定するに当たり,報酬支払の基礎となる日数が17日未満の月の報酬を
除外するものとしていることからすると,厚年法は,月に18日以上の勤
務日数を有するような労働者を被保険者として想定しているとみることが
できる。
エさらに,昭和19年法律第21号により名称が厚年法と改められる前の
労働者年金保険法については,政府により,その提案の理由として,「惟
フニ労働者ハ,自己ノ労働能力ヲ以テ生活維持ノ唯一ノ手段トシテ居ルノ
デアリマシテ,老齢,廃疾及ビ死亡等,其ノ労働能力ヲ減退又ハ喪失セシ
メマスル事故ハ労働者ニ取リマシテハ,其ノ生活ヲ不断ニ脅カスモノデア
リマスガ,年金保険ノ制度ハ,是等ノ事故ニ際シテ労働者ノ生活ヲ保障
シ」旨の説明がされていたことが認められ(乙27,28の2),この説
明からすれば,労働者年金保険法は,制定された当初において,自己の労
働力を唯一の資本とし,その提供した労働力の対価として得た賃金を生計
の基盤として生計を支える労働者を対象とし,これらの者の生活の安定を
図ることを目的としていたものであると解される。
(3)以上のとおり,厚年法上の標準報酬月額の最低額の定め方や標準報酬月
額を決定する基礎となる報酬月額の算定方法から,同法は,労働者のう
ち,その報酬月額が標準報酬月額を大きく下回る者や,常に月に17日未
満の勤務日数を有するにすぎない者は被保険者として想定していないとみ
るのが相当であるところ,上記(2)エのとおりの厚年法の前身の労働者年金
保険法の沿革や,一般に報酬の額は労働時間の長短に相関するといえるこ
とも踏まえると,厚年法は,労働力の対価として得た賃金を生計の基盤と
して生計を支えるといい得る程度の労働時間を有する労働者を被保険者と
することを想定しており,そのような労働者といえない短時間の労働時間
を有する者(以下,単に「短時間の労働者」という。)は,厚年法9条に
いう「適用事業所に使用される70歳未満の者」に含まれないというべき
である。
したがって,厚年法9条にいう「適用事業所に使用される70歳未満の
者」には短時間の労働者は含まれないものと解するのが相当である。
なお,平成24年8月10日に成立した「公的年金制度の財政基盤及び最
低保障機能の強化等のための国民年金法等の一部を改正する法律」(平成2
4年法律第62号)によって,厚年法12条各号に定める適用除外対象者に
加え,一定の短時間の労働時間を有するにすぎない者を適用除外対象者とし
て具体的に定める規定が設けられることとなったところ(平成24年法律第
62号3条。同条の規定は,平成28年10月1日から施行される〔同法附
則15号〕),これは,厚年法が明確にしていなかった被保険者の対象から
除外される短時間の労働者の範囲を具体的に定め,明確にする趣旨が含まれ
るものとみることができる。
(4)そして,上記改正後の厚年法が施行される以前においては,厚年法及び
同法に関する政省令に被保険者とされない短時間の労働者を判断する具体
的な基準についての定めは見当たらないことからすれば,被保険者とされ
るか否かについては,上記のような趣旨に照らして,個々の事例ごとに,
労働日数,労働時間,就労形態,職務内容等を総合的に勘案して判断する
べきものと解するのが相当である。
2内かん及び課長通知について
(1)前提事実(3)のとおり,内かんは,厚生省保険局保険課長(当時)等の
連名による都道府県民生主管部(局)保険課(部)長宛ての文書であっ
て,当時の上級行政機関(厚生大臣及び社会保険庁長官)の補助機関が,
下級行政機関(都道府県知事)の補助機関に対して,法令の解釈・運用の
基準ないし目安を示したものと解される。そして,その内容は,「1日又
は1週の所定労働時間及び1月の所定労働日数が当該事業所において同種
の業務に従事する通常の就労者の所定労働時間及び所定労働日数のおおむ
ね4分の3以上である就労者については,原則として健康保険及び厚生年
金保険の被保険者として取り扱うべきものである」(内かんの2)とした
上で,これに該当する者以外の者であっても,「当該就労者の労働日数,
労働時間,就労形態,職務内容等を総合的に勘案して認定すべきものであ
る」(同1)とし,この「趣旨に従い,被保険者として取り扱うことが適
当な場合があると考えられるので,その認定に当たっては,当該就労者の
就労の形態等個々具体的事例に即して判断すべきものである」(同3)と
するものであるところ,前述のとおり,厚年法は,常に月に17日未満の
勤務日数を有するにすぎない者を被保険者として想定していないものとみ
られること,「17日未満」は,週休2日で週5日勤務する一般にいわゆ
るフルタイムの労働者とされる者の労働日数の4分の3未満に当たること
などを踏まえると,同種の業務に従事する通常の労働者の所定労働時間及
び所定労働日数のおおむね4分の3以上である労働者については,それだ
けで厚年法上の被保険者に該当するものとすること自体に不合理な点はな
く,それ以外の者についても,上記の趣旨に従って個々具体的事例に即し
て判断すべきものとしているのであるから,その記載内容をみる限り,前
記1(4)で述べた判断の枠組みに反するものではない。
(2)そして,課長通知は,内かんを踏まえ,語学学校における外国人講師に
ついて被保険者とされるか否かの判断に当たっての基準ないし目安を示す
ものというべきところ,課長通知に例示されたものに該当しない者につい
ては,被告の主張するとおり,上記(1)に述べた内かんの趣旨(内かんの1
及び3)に即して判断することとなるものとすれば,これについても,そ
の限りにおいて,前記1(4)で述べた判断の枠組みに反するものということ
はできない。
3原告の具体的な労働日数,労働時間,就労形態,職務内容等について
前記1(4)で述べた判断の枠組みに従い,まずは,原告の具体的な労働日
数,労働時間,就労形態,職務内容等について検討することとする。
(1)原告の労働日数・時間,就労形態,職務内容等について
前提事実,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,原告のAにおける就労
の内容等について,次のとおりの事実が認められる。
ア原告とAとの雇用契約の内容等
原告は,Aとの間において,英語講師として,1週間で35レッスン
(1レッスンは40分)を担当して勤務を行い,それを超えてレッスンを
担当した場合には,そのレッスンごとに報酬が加算されるという内容を有
する雇用契約を締結していた(甲6,乙4ないし6)。
原告とAが平成16年6月15日付けで締結した当初においては,基本
給が月額25万円,時間給として,「規定スケジュール外の勤務」が1レ
ッスン当たり1920円,「時間外,超過勤務」が1レッスン当たり22
80円,交通費は上限2万5000円として実費が支払われるものとされ
ていた(甲6)。もっとも,その報酬の額は,その業績によって変動する
ものとされていた(原告本人)。
原告は,Aでの勤務によって得られる報酬以外に収入を得ていない(原
告本人)。
イ労働日数,レッスン数
原告の平成21年1月18日から同年10月17日まで(平成21年2
月期から同年10月期まで)の労働日数及び担当したレッスンの数は,次
のとおりである(甲12ないし14,17)。
平成21年2月期21日168レッスン
平成21年3月期20日152レッスン
平成21年4月期23日171レッスン
平成21年5月期21日159レッスン
平成21年6月期22日163レッスン
平成21年7月期23日160レッスン
平成21年8月期22日172レッスン
平成21年9月期23日188レッスン
平成21年10月期22日162レッスン
ウ報酬の額
原告がAから支給された交通費等を含めた報酬の総支給額(ただし,移
動交通費を除く)は,次のとおりである(甲14,21)。
平成21年2月期34万1780円
平成21年3月期31万9860円
平成21年4月期31万5913円
平成21年5月期31万4320円
平成21年6月期30万6780円
平成21年7月期31万4748円
平成21年8月期34万7320円
平成21年9月期35万9438円
平成21年10月期30万4892円
エAにおける従業員について
Aにおいては,原告のように,1週間に担当するレッスン数を定めた上
で,それを超える勤務を行った場合に報酬が加算される雇用形態で就労す
る者のほか,常勤講師(40HIS)として,1週間の所定労働時間を
40時間とし,この所定労働時間を前提とした基本給が支払われ,所定労
働時間を超えた部分については,時間給が加算される従業員が存する。常
勤講師(40HIS)は,管理職の立場も有しており,講師業務のみを
行うわけではない(甲7,乙5)。
(2)労働時間について
ア原告が平成21年1月18日ないし同年10月17日(平成21年2月
期ないし同年10月期)に担当したレッスンの数は,上記(1)イのとおり
であるところ,原告は,レッスン間の休憩時間中及び始業前の30分間
に,質問対応,教材準備等の授業準備をしなければならず,休憩をとるこ
とができないなどとして,少なくともレッスン前後の5分を労働時間に含
めるべきである旨主張し,概要次のとおり供述する(陳述書によるものを
含む。甲38,原告本人)。
(ア)原告は,レッスンの約30分前に教職員室に行き,そこでレッスン
を担当する各生徒のフォルダにある○カード(各生徒が使用している教
材の種類や進行具合が記載されたカード)と生徒の情報が記載された紙
を見て,各生徒の進行具合を確認し,教材に照らしてレッスンですべき
ことを確認し,生徒の仕事などの情報を確認してレッスンの準備をし,
教材等を持って教室に行き,レッスンを行う。その準備には,1つのレ
ッスンごとに約10分かかる。
(イ)レッスンが終わると,○カードにレッスンの記録をする。その記録
に要する時間は約30秒である。また,同じ生徒に対し,2つのレッス
ンが連続で行われる場合が多いところ,その場合でも教職員室に戻るこ
ととなっており,2つめのレッスンで担当講師が変わる場合には,記録
した○カードをその担当講師に渡すこととなる。また,レッスン終了後
に生徒から質問がある場合には,それに対し答えることとなり,レッス
ン終了後も5分は仕事をしていることになる。そして,次のレッスンが
違う生徒であれば,その準備をする。レッスンの合間は5分である。
(ウ)生徒が子どものときは,レッスンの前後の各5分の合計10分が労
働時間として認められ,賃金が支払われている。
(エ)レッスン以外にも,新しい生徒が入るグループについてスタッフと
相談をすることや,スタッフが生徒のカウンセリングを受けた場合,そ
のスタッフの依頼により,その生徒に関するメモを書くこと,スタッフ
が早く帰った場合には戸締まり等をすること,レッスンのために教材を
作成し,レッスンで使用するゲームのための道具を購入することなど,
様々な仕事をしている。もっとも,Aから,教材を作成することについ
て,具体的な指示がされているわけではない。
イ以上の原告の主張や供述を踏まえ,原告が被保険者と認められるか否か
の判断に際し,考慮要素となる労働時間について,レッスンを担当してい
る時間に前後の時間等を加えて算定すべきか検討する。
(ア)原告は,レッスン前に,その準備として○カードと生徒の情報が記
載された紙を見て,各生徒の進行具合を確認し,教材に照らしてレッス
ンですべきことを確認し,生徒の仕事等の情報を確認してレッスンに臨
んでおり,その準備には,レッスンごとに約10分かかる旨供述する。
一般に,語学学校において,英語講師がレッスンの前に,原告が供述
するように,生徒の進行具合や教材に照らしてレッスンですべきことを
確認し,生徒の仕事等の情報を確認するということは,十分考えられる
ことである。また,Aにおいては,生徒ごとに,使用している教材や進
行具合等の記載がされた○カードが存在することが認められるところ
(甲30),原告の供述によれば,原告は,各レッスンの準備として一
定の時間を割いていたことが認められ,上記のような原告の準備の内容
からすると,少なくとも上記の作業に5分は要するものとみることがで
きる。このことに加え,前記のとおり,Aにおいて,講師がレッスンを
続けて担当する場合,その合間に5分の間隔があるところ,その5分に
ついては,職場を離れることは事実上不可能であることは明らかであ
り,事実上職場又はその付近にいることが強制されるといわざるを得な
いことをも併せ考えると,少なくとも,連続したレッスンの間の5分を
含む各レッスン前の5分については,被保険者とされるか否かの検討に
当たって考慮すべき労働時間と認めるのが相当である。
(イ)原告は,レッスン終了後,○カードにレッスンの記録をするほか,
生徒から質問がある場合には,それに対し答えることとなり,その時間
のために5分は仕事をしている旨も供述する。しかしながら,原告は,
レッスンの記録に要する時間は約30秒にすぎないとも述べており,そ
うであれば,レッスンの時間内に記載することも可能であると考えられ
ること,レッスン後,常に生徒から質問があると認めるべき証拠等も見
当たらないことからすると,その時間を労働時間として認めることはで
きないといわざるを得ない。
また,原告は,レッスンの約30分前に教職員室に行き準備をしてい
る旨,レッスン以外にも仕事をしている旨を供述するものの,それら
が,Aから具体的に求められているものであるなど,就労している中で
不可避なものであるとまで認めるに足りる証拠は見当たらないといわざ
るを得ず,原告が供述するような準備等に要する時間を労働時間として
考慮すべきということは相当ではない。
(ウ)以上によれば,連続したレッスンの間の5分を含む各レッスン前の
5分について,労働時間に算定すべきことになる。
ウそうすると,原告の労働時間については,前記(1)アのとおり,各レッ
スンの時間は40分であり,上記イのとおり,これに連続したレッスンの
間の5分を含む各レッスン前の5分を加えることになるから,レッスン数
に45分を乗じた時間を基に算定すべきことになるところ,前記(1)イの
とおりのレッスン数を踏まえた原告のAにおける労働時間,及びこれと1
週間の所定労働時間を40時間とする常勤講師(40HIS)の労働時
間(1月当たり22日勤務するとして176時間)とを比較した値(小数
点以下四捨五入。括弧内に記載。)は,次のとおりとなる。
平成21年2月期126時間(72パーセント)
平成21年3月期114時間(65パーセント)
平成21年4月期128時間15分(73パーセント)
平成21年5月期119時間15分(68パーセント)
平成21年6月期122時間15分(69パーセント)
平成21年7月期120時間(68パーセント)
平成21年8月期129時間(73パーセント)
平成21年9月期141時間(80パーセント)
平成21年10月期121時間30分(69パーセント)
4原告が平成21年8月において厚生年金保険の被保険者と認められるか否か
について
(1)前提事実(2),(5)によれば,①原告について,Aにおける社会保険加入
の内部基準に該当しないこととなったことから,平成21年8月1日付け
で被保険者の資格を喪失したものとして,その旨の確認がされたこと,②
港社会保険事務所長は,同年9月3日付けで,Aに対し,その旨の通知を
したこと,③その後,原告は,Aからの通知を受けたが,上記の資格喪失
の確認に対して,これを取り消す旨の不服申立てはしなかったこと,④原
告は,同年11月9日,同事務所長に対し,上記の資格喪失の確認に対す
る不服として,「平成21年8月1日付けの資格喪失の確認」,「引き続
き加入中であることを確認したい」などと記載した「健康保険・厚生年金
保険被保険者資格確認請求書」(甲1)を提出して,厚年法31条1項の
規定による本件確認請求をしたこと,⑤港社会保険事務所長は,同年12
月4日付けで,上記の「請求に係る事実がないものと認めました」とし
て,本件確認請求を却下する旨の処分(本件却下処分)をしたことなどが
明らかである。そして,上記の資格喪失の確認は,不服申立てがなく,既
に確定しているものと解されるところであるが,処分行政庁から(又は事
業主を通じて)確認がされたことに対する不服申立ての教示がされた形跡
はない(なお,厚年法31条1項の規定に基づく確認の請求は,被保険者
の資格の取得又は喪失について,未だ確認の処分がされていないことを前
提として,その確認の処分をするよう求めるものと解される。)。
また,Aにおける雇用形態は,前記3のとおりであって,かかる事情を踏
まえて,前提事実(5)イのとおり,Aにおいては,3か月の期間ごと(平成
20年1月までは6か月の期間ごと)に,担当したレッスン数に応じて,被
保険者の資格の取得・喪失の見直しをしているところであって,被保険者の
資格を喪失した直後に資格を取得(再取得)することもあり得ることにな
る。
そうすると,厚年法31条1項の規定による確認の請求は,同法18条1
項の規定による被保険者の資格の取得又は喪失の確認(処分)をすることを
求めるものであって,本来,原告としては,上記の資格喪失の確認に対して
不服申立てをして,かかる確認(処分)の取消しを求めるべきであったこと
になるが,上記のような事情にも照らすと,本件確認請求については,「引
き続き加入であることを確認したい」としていることをもって,原告が平成
21年8月に被保険者の資格を取得(再取得)したことの確認を求めている
ものとして検討をすることとする。
(2)そこで,上記のような見地から,原告が平成21年8月において厚生年
金保険の被保険者と認められるか否かについて検討する。
アAにおける厚生年金保険を含む社会保険の加入・喪失についての内部基
準は,前提事実(5)ア,イのとおりであって,これによれば,上記内部基
準においては,教師が担当する1か月のレッスン数を基に,3か月間ごと
に加入・脱退の見直しをするものとされ,その中で,3か月間のうち1か
月で198レッスン以上担当した場合は,社会保険に加入することができ
るものとされていたほか,教師が6か月連続して1か月当たりのレッスン
数が176レッスンを下回った場合は,資格を喪失する旨の運用が行われ
ていたところ,Aのような語学学校においては,教師が担当するレッスン
数が月ごとに変動するものであることを考慮すると,被保険者の資格の有
無を判断するに当たり,一定の期間を考慮することには合理性があるとい
うことができる。したがって,本件においても,労働時間については,上
記のとおり,対象となる平成21年8月の前6か月及び後3か月について
みることとする。
イ前提事実(5)ア,イのとおり,Aにおける内部基準においては,1か月
当たり198レッスンあるいは176レッスンという値を判断基準の要素
として取り入れており,1レッスン当たり40分として労働時間を計算す
ると,198レッスンは132時間,176レッスンは117.3時間と
なり,これらは,常勤講師(40HIS)の労働時間が1か月当たり1
76時間であるのと比較すると,198レッスンは,その4分の3,17
6レッスンは,その3分の2に相当するものとなる。
そして,上記アの期間における原告の労働時間についてみると,レッス
ン前の5分を加えた場合の原告の労働時間は,前記3(2)ウのとおりであ
って,平成21年7月期までの6か月間(同年2月期ないし同年7月期)
の原告の1か月当たりの労働時間は,常勤講師(4HIS)の労働時間
と比して,順に,72パーセント,65パーセント,73パーセント,6
8パーセント,69パーセント,68パーセントに相当し,6か月の平均
でみると69パーセントに相当することとなる。また,原告の平成21年
8月期からの3か月間(平成21年8月期ないし同年10月期)の1か月
当たりの労働時間は,73パーセント,80パーセント,69パーセント
に相当し,3か月の平均でみると74パーセントに相当することとなると
ころ,原告の労働時間は,①平成21年7月期までの6か月間,②平成2
1年8月期からの3か月間のいずれにおいても,その平均は,常勤講師
(4HIS)の労働時間の3分の2を超えており,特に②の期間は,4
分の3に極めて近似していることを指摘することができる。
また,教師が6か月連続して1か月当たりのレッスン数が176レッス
ンを下回った場合は,資格を喪失する旨のAの運用について,労働時間を
基礎にして引き直してみると,教師が6か月連続して1か月当たりの労働
時間が常勤講師の労働時間の3分の2を下回った場合は社会保険の資格を
喪失するというものになるところ,かかる運用に照らしてみても,上記①
期間について,これを下回ったのは平成21年3月期の1か月のみである
から,レッスンの前の5分を加えた場合の労働時間でみれば,Aの内部基
準においても,平成21年8月において資格を喪失するには至らなかった
ということができる。
さらに,前提事実(5)ア(ウ)dのとおりのAにおける社会保険の加入に
係る内部基準について,労働時間を基礎にして引き直すと,3か月の期間
のうちで,1か月でも常勤講師の労働時間(176時間)の4分の3に相
当する132時間以上の労働時間を有する場合は,社会保険に加入するこ
とができるというものになるところ,原告の平成21年8月期からの3か
月のうち,平成21年9月期の労働時間は,141時間であって,常勤講
師の労働時間の4分の3を超えることとなるから,原告は,平成21年8
月期において社会保険に加入することができたことになる。
ウそして,原告の労働日数は,平成21年2月期から同年10月期まで,
いずれの月においてもおおむね22日であって,常勤講師のものと変わら
ないものといえる。
また,原告の報酬の月額は,平成21年2月期ないし平成21年10月
期において,1か月当たり30万4892円ないし35万9438円であ
り,いずれの月においても標準報酬月額の最低額を大きく上回り,かつ十
分に生計を支えるといい得る程度の額ということができる。さらに,この
ような報酬の額に加え,原告が平成16年6月15日にAと雇用契約を締
結して以後継続的に就労していることから,その雇用関係は安定している
と評価することができる。
エ以上に述べたところによれば,原告は,平成16年6月にAとの間で英
語講師として雇用契約を締結した後,継続的に相応のレッスンを担当して
いたところ,原告の労働時間については,内かんの2によれば直ちに厚生
年金保険の被保険者に該当するということにはならないものの,平成21
年7月期までの6か月,同8月期からの3か月のいずれにおいてみても,
常勤講師(4HIS)の労働時間と比較して4分の3に近似するもので
あった上,Aの内部基準を労働時間を基礎に引き直してみれば,同年7月
期までの間において,被保険者の資格を喪失するには至らなかったことに
なるとともに,同年8月期において被保険者の資格を取得することができ
たことになる。そして,このことに加え,上記各期間において,原告の労
働日数は,常勤講師(4HIS)のものと変わりがなかったこと,その
報酬の額も,標準報酬月額の最低額を大きく上回っており,十分に生計を
支えるこができる額であったこと,事業主との雇用関係も安定していると
評価することができることなど,労働日数,労働時間,就労形態,職務内
容等を総合的に勘案すると,平成21年8月当時において,原告につい
て,短時間の労働者として被保険者から除外するということは相当ではな
いというべきである。そうすると,原告は,本来,同月の前後を通じて,
厚生年金保険の被保険者の資格を有していたものとみるべきであって,こ
のことを,前記(1)で述べたところに照らし合わせてみると,原告は,平
成21年8月1日付けで被保険者の資格を喪失したものとされ,その旨の
確認がされているものの,同日において,被保険者の資格を取得(再取
得)したものと認めることができるというべきであるから,原告は,同月
において,「適用事業所に使用される70歳以上の者」に該当するという
べきである。
5以上より,原告が「適用事業所に使用される70歳以上の者」に該当するこ
とを否定し,原告の被保険者の取得の確認請求を却下した本件却下処分は,
違法なものであるといわざるを得ない。これと異なる被告の主張は,これま
で述べたところに照らし,採用することができない。
第4結論
以上の次第であって,原告の請求は,理由があるからこれを認容すること
として,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第3部
裁判長裁判官舘内比佐志
裁判官荒谷謙介
裁判官宮端謙一
(別紙)
関係法令の定め
1厚生年金保険法(以下「厚年法」という。)及び厚生年金保険法施行令(以下
「厚年法施行令」という。)の定め
(1)被保険者
ア厚年法9条は,適用事業所に使用される70歳未満の者は,厚生年金保
険の被保険者とする旨を定めている。
イ厚年法12条(平成24年法律63号による改正前のもの)は,次の各
号のいずれかに該当する者は,同法9条及び10条1項の規定にかかわら
ず,厚生年金保険の被保険者としない旨を定めている。
1号国,地方公共団体又は法人に使用される者であって,次に掲げるもの
イ恩給法19条に規定する公務員及び同条に規定する公務員とみなされ
る者
ロ法律によって組織された共済組合の組合員
ハ私立学校教職員共済法の規定による私立学校教職員共済制度の加入者
2号臨時に使用される者(船舶所有者に使用される船員を除く。)であっ
て,次に掲げるもの。ただし,イに掲げる者にあっては1月を超え,ロに
掲げる者にあっては所定の期間を超え,引き続き使用されるに至った場合
を除く。
イ日々雇い入れられる者
ロ2月以内の期間を定めて使用される者
3号所在地が一定しない事業所に使用される者
4号季節的業務に使用される者(船舶所有者に使用される船員を除
く。)。ただし,継続して4月を超えて使用されるべき場合は,この限り
でない。
5号臨時的事業の事業所に使用される者。ただし,継続して6月を超えて
使用されるべき場合は,この限りでない。
ウ厚年法13条1項は,同法9条の規定による被保険者は,適用事業所に
使用されるに至った日若しくはその使用される事業所が適用事業所となっ
た日又は同法12条の規定に該当しなくなった日に,被保険者の資格を取
得する旨を定めている。
エ厚年法14条2号(平成24年法律第63号による改正前のもの)は,
同法9条等の規定による被保険者は,その事業所に使用されなくなったと
きに該当するに至った日の翌日に,被保険者の資格を喪失する旨等を定め
ている。
オ(ア)なお,平成24年法律第63号1条は,厚年法12条中1号を削り,
2号を1号とし,3号から5号までを1号ずつ繰り上げる旨等を定めて
いるところ,平成24年法律第63号1条の規定は,平成27年10月
1日から施行されている(同法附則1条本文)。
(イ)また,平成24年法律第62号(公的年金制度の財政基盤及び最低保
障機能の強化等のための国民年金法等の一部を改正する法律)3条は,厚
年法12条に次の号を加える旨等を定めているところ,平成24年法律第
62号3条の規定は,平成28年10月1日から施行される(同法附則1
条5号)。
5号事業所に使用される者であって,その1週間の所定労働時間が同一
の事業所に使用される短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律2
条に規定する通常の労働者の1週間の所定労働時間の4分の3未満であ
る同条に規定する短時間労働者又はその1月間の所定労働日数が同一の
事業所に使用される通常の労働者の1月間の所定労働日数の4分の3未
満である短時間労働者に該当し,かつ,イからニまでのいずれかの要件
に該当するもの
イ1週間の所定労働時間が20時間未満であること。
ロ当該事業所に継続して1年以上使用されることが見込まれないこ
と。
ハ報酬(最低賃金法4条3項各号に掲げる賃金に相当するものとして
厚生労働省令で定めるものを除く。)について,厚生労働省令で定め
るところにより,厚年法22条1項の規定の例により算定した額が,
8万8000円未満であること。
ニ学校教育法50条に規定する高等学校の生徒,同法83条に規定す
る大学の学生その他の厚生労働省令で定める者であること。
(ウ)一方,平成24年法律第62号附則17条1項は,当分の間,特定適
用事業所(事業主が同一である1又は2以上の適用事業所であって,当該
1又は2以上の適用事業所に使用される通常の労働者及びこれに準ずる者
(1週間の所定労働時間が同一の事業所に使用される通常の労働者の1週
間の所定労働時間の4分の3以上であり,かつ,その1月間の所定労働日
数が同一の事業所に使用される通常の労働者の1月間の所定労働日数の4
分の3以上である短時間労働者をいう。)の総数が常時500人を超える
ものの各適用事業所をいう。)以外の適用事業所に使用される70歳未満
の者であって,その1週間の所定労働時間が同一の事業所に使用される通
常の労働者の1週間の所定労働時間の4分の3未満である短時間労働者又
はその1月間の所定労働日数が同一の事業所に使用される通常の労働者の
1月間の所定労働日数の4分の3未満である短時間労働者に該当するもの
については,厚年法9条及び10条1項の規定にかかわらず,厚生年金保
険の被保険者としない旨を定めている。
(2)被保険者の資格の確認の請求
ア厚年法18条1項本文は,被保険者の資格の取得及び喪失は,厚生労働
大臣(平成19年法律第109号による改正前は社会保険庁長官)の確認
によって,その効力を生ずる旨を定めている。
イ厚年法31条1項は,被保険者又は被保険者であった者は,いつでも,
同法18条1項の規定による確認を請求することができる旨を定めてい
る。
ウ厚年法31条2項は,厚生労働大臣(平成19年法律第109号による
改正前は社会保険庁長官)は,厚年法31条1項の規定による請求があっ
た場合において,その請求に係る事実がないと認めるときは,その請求を
却下しなければならない旨を定めている。
エ(ア)厚年法100条の4第1項3号及び9号は,厚生労働大臣の権限に
係る事務のうち,それぞれ同法18条1項の規定による確認並びに同法
31条1項の規定による請求の受理及び同条2項の規定による請求の却
下を被告に行わせるものとする旨を定めている。
(イ)なお,平成19年法律第109号による改正前の厚年法4条1項は,
同法に規定する社会保険庁長官の権限の一部は,政令で定めるところによ
り,地方社会保険事務局長に委任することができる旨を定め,同条2項
は,同条1項の規定により地方社会保険事務局長に委任された権限の全部
又は一部は,政令の定めるところにより,社会保険事務所長に委任するこ
とができる旨を定め,平成21年政令第310号による改正前の厚年法施
行令1条1項5号及び16号は,それぞれ同法18条1項に規定する権限
及び同法31条2項に規定する権限を地方社会保険事務局長に委任する旨
を定め,同令1条2項本文は,上記の各権限を社会保険事務所長に委任す
る旨を定めていた。
2日本年金機構法の定め
日本年金機構法附則73条2項は,同法の施行の際現に法令の規定により社
会保険庁長官等に対してされている申請,届出その他の行為は,法令に別段の定
めがあるもののほか,同法の施行後は,同法の施行後の法令の相当規定に基づい
て,厚生労働大臣等に対してされた申請,届出その他の行為とみなす旨を定めて
いる。

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛