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平成17年(行ケ)第10459号 審決取消請求参加事件
平成17年5月19日口頭弁論終結
     判    決
 参加人 ゼファーマ株式会社
 訴訟代理人弁護士 片山英二,林康司,弁理士 小林浩,古橋伸茂
 被 告 特許庁長官 小川洋
 指定代理人 森田ひとみ,中野孝一,一色由美子,井出英一郎
 脱退原告 アステラス製薬株式会社(藤沢薬品工業株式会社訴訟承継人)
     主    文
 参加人の請求を棄却する。
 訴訟費用は参加人の負担とする。
     事実及び理由
 以下において,「および」は「及び」と統一して表記するなど,文献を引用する
箇所においても公用文の表記に従った箇所がある。
第1 参加人の求めた裁判
 「特許庁が訂正2004-39083号事件について平成16年8月19日にし
た審決を取り消す。」との判決。
第2 事案の概要
 1 特許庁における手続の経緯
  脱退原告・藤沢薬品工業株式会社(平成17年4月1日,アステラス製薬株式
会社に吸収承継)が特許権者であった本件特許3264301号「局所投与製剤」
の発明は,平成6年3月29日に出願され,平成13年12月28日にその特許権
の設定登録がなされ,その後,その特許につき山之内製薬株式会社より特許異議の
申立てがなされ,平成15年1月14日に訂正請求がされたが,平成15年7月2
8日「訂正を認める。特許第3264301号の請求項1~3に係る特許を取り消
す。」との決定があった。その取消訴訟が知財高裁平成17年(行ケ)第10458
号事件として係属中である。
 本件特許権者(当時は藤沢薬品工業株式会社)は,平成16年4月28日,本件
特許につき訂正審判の請求をし,訂正2004-39083号事件として審理され
たが,同年8月19日,本件審判の請求は成り立たないとの審決があり,その謄本
は同月31日藤沢薬品工業株式会社に送達された。
 なお,藤沢薬品工業株式会社が上記審決の取消しを求める本訴を提起したが,参
加人は,平成16年10月1日,藤沢薬品株式会社から会社分割により本件特許権
を承継し,平成17年3月23日その旨特許登録原簿に登録され,本訴に訴訟参加
した。これに伴い,藤沢薬品工業株式会社の原告の地位を承継したアステラス製薬
株式会社は,本訴から脱退した。
 2 本件発明の要旨
 (1) 特許査定時の特許請求の範囲の記載
【請求項1】クロモグリク酸ナトリウム1%,抗ヒスタミン剤及び血管収縮剤を含
有することを特徴とする局所投与製剤。
【請求項2】抗ヒスタミン剤がマレイン酸クロルフェニラミンである請求項1に記
載の局所投与製剤。
【請求項3】血管収縮剤が塩酸ナファゾリンである請求項1又は2に記載の局所投
与製剤。
【請求項4】局所投与製剤が点鼻剤又は点眼剤である請求項1ないし3に記載の局
所投与製剤。
 (2) 訂正審判請求による特許請求の範囲の記載(請求項2~4は削除)
【請求項1】クロモグリク酸ナトリウム1%,マレイン酸クロルフェニラミン0.
25%及び塩酸ナファゾリン0.025%を含有することを特徴とする点鼻剤。
 3 審決の理由の要点
 訂正事項は,特許査定時の請求項2~4を削除し,請求項1の抗ヒスタミン剤を
マレイン酸クロルフェニラミン0.25%,血管収縮剤を塩酸ナファゾリン0.0
25%とし,局所投与製剤を点鼻剤に限定するものであるから,特許請求の範囲の
減縮を目的とするものである。
 しかしながら,訂正後の請求項1に係る発明(訂正発明)は,以下の理由で,特
許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないも
のである。
 【引用刊行物】
 刊行物1(甲1の1);第七改正日本薬局方第二部解説書 408頁25行~409頁8行
 刊行物2(甲1の2);一般薬・日本医薬品集(1992~1993)薬業時報社782頁~
783頁
 刊行物3(甲1の3);特公平1-49244号公報
 刊行物4(甲1の4);European JournalofRespiratory
Diseases,Vol.69,Suppl.146:A126,1986
 刊行物5(甲1の5);THEMERCKINDEX,ELEVENTHEDITION 項目6287,9993
 刊行物6(甲1の6);SouthAfricanMedical
Journal,Vol.67,p801-803,1985
 刊行物7(甲1の7):インタール(登録商標)点鼻液添付文書;3589頁7行~
3590頁11行
 刊行物8(甲1の8);BRITISHNATIONALFORMULARY,Number23,March1992 
381頁左欄下から12行~右欄18行
 刊行物9(甲1の9);アレルギー性鼻炎と花粉症の診療Q&A 臨床医薬研究協
会(1990年5月1日) 126頁左欄1行~7行,同27行~同右欄6行,同18行~21行,127
頁表,128~131頁,140~141頁,158~159頁
 刊行物10(甲1の10);日本臨床,第49巻,増刊号,955~956頁,1991年
 刊行物11(甲1の11);診断と新薬,第21巻,第10号,51~69頁,1984
 刊行物12(甲1の12);AnnalsofAllergy,28,548~553,1970 
 刊行物13(甲7);ClinicalAllergy,1973 Vol.3 p283~288
 【対比判断】
 刊行物7には,インタール(登録商標)点鼻液(クロモグリク酸ナトリウムを2
%含有するアレルギー性鼻炎治療用の点鼻液)が記載されている。
 訂正発明と上記製剤とを対比すると,両者はクロモグリク酸ナトリウムを含有す
る点鼻剤である点で一致し,以下の点で相違している。
 「前者はクロモグリク酸ナトリウムの濃度が1%マレイン酸クロルフェニラミン
0.25%及び塩酸ナファゾリン0.025%の配合剤であるのに対し,後者はク
ロモグリク酸ナトリウムの濃度2%の単剤である点」
 以下,相違点につき(A)配合自体の容易性,(B)配合量の容易性に分けて検討す
る。
 【(A)クロモグリク酸ナトリウムにマレイン酸クロルフェニラミン及び塩酸ナフ
ァゾリンを配合する点】
 アレルギー性鼻炎の治療に使用される各種薬物のうち,クロモグリク酸ナトリウ
ムなどのメジエター遊離抑制薬は遅効性,抗ヒスタミン薬,血管収縮薬は速効性で
あり(刊行物9,10),クロモグリク酸ナトリウムを有効成分とする点鼻薬は抗
ヒスタミン剤,血管収縮剤などと併用されることは広く知られている(刊行物7,
刊行物11)。また,刊行物3,4,8に見られるように,クロモグリク酸ナトリ
ウムに血管収縮剤(キシロメタゾリン)を配合したり,刊行物6のように抗ヒスタ
ミン剤(クロルフェニラミン)を配合して使用することも既に試みられている。
 このようにクロモグリク酸ナトリウム点鼻剤による治療時に併用される薬物をあ
らかじめ点鼻剤に配合しておき,クロモグリク酸の遅効性を補ったり,即効性成分
の副作用の緩和を図ることは当業者が普通に行う範囲のことである。
 ところで,刊行物3,4,8では専ら血管収縮剤としてキシロメタゾリンが配合
されているが,我が国では鼻炎に処方される血管収縮剤としては上記のキシロメタ
ゾリンと構造の類似した塩酸ナファゾリン(刊行物5参照)が汎用されており,ま
た,この成分は,抗ヒスタミン剤との配合によって一層その効果が増強されるた
め,マレイン酸クロルフェニラミンとの配合製剤の形で広く使用されている(刊行
物1,2参照)。
 そうすると,クロモグリク酸ナトリウムの遅効性であるという欠点を補うため
に,即効性薬剤である血管拡張剤としてキシロメタゾリンに代え,我が国で広く使
われている塩酸ナファゾリンを配合してみること,その際,点鼻剤として塩酸ナフ
ァゾリンと共に使用される抗ヒスタミン剤として周知であり,かつ刊行物6におい
てクロモグリク酸ナトリウムとの配合も試みられ,副作用のないことが確認されて
いるマレイン酸クロルフェニラミンを同時に配合してみることは,当業者が容易に
想到し得ることである。
 請求人(脱退原告)は,「配合」は一度に複数の薬剤を投与できるため,「併
用」よりも投与が簡便であるという利点は認めながら,配合された薬物同士での物
理的変化や化学的変化,副作用などの有害現象の可能性を挙げ,本件3剤の配合に
ついて動機付けられることはないと主張する。
 上記の有害現象の可能性は一般論としては首肯し得るものの,本件の有効成分の
1つであるクロモグリク酸ナトリウムは血管収縮剤との配合剤が検討され,英国で
は既に血管収縮剤との配合剤として一般用医薬品化がなされていること(刊行物
3,4,8)や,クロモグリク酸ナトリウムとマレイン酸クロルフェニラミンの配
合剤(刊行物6)や,塩酸ナファゾリンとマレイン酸クロルフェニラミンの配合剤
(刊行物1,2)について,それらの有効性が示され,製剤上の不都合や有害作用
の発生の報告はなされていない点からすれば,本件の特定成分の配合について躊躇
すべき事情があるとすることはできない。
 特に,当業界においては,軽度の疾病(例,感冒,胃炎,鼻炎など)の症状の改
善に使用される薬剤として,従来医療用単剤として症状ごとに使用され,安全性等
の評価が定まった複数の医薬成分を配合して,一般用医薬品として使用可能にする
こと(例,総合感冒薬,胃腸薬,点鼻薬など)が多数行われているのであり,この
観点からしても,刊行物1,2,3,4,6,8の記載は,当業者に対して,投与
の簡便化と同時に一般用医薬品化に向けてのクロモグリク酸ナトリウム含有配合剤
の開発に対する強い動機付けを与えるものということができる。したがって,上記
請求人の主張は採用できない。
 【(B)配合割合をクロモグリク酸ナトリウムを1%,マレイン酸クロルフェニラ
ミン0.25%及び塩酸ナファゾリン0.025%とする点】
 刊行物3には血管収縮剤であるキシロメタゾリンと配合する際のクロモグリク酸
ナトリウムの濃度範囲は,0.1~10%,より好ましくは約1又は2%w/vと記
載され,実施例では2%が採用されている。また,刊行物12,13によればクロ
モグリク酸ナトリウム1%溶液に薬理作用があることが確認されている。
 さらに,刊行物3の発明がなされたイギリスにおいて認可されたクロモグリク酸
ナトリウム単剤の点鼻スプレーにおける濃度は4%(5.2mg/squeeze)である
が,大衆向けの商品であるリナクロム配合剤ではクロモグリク酸ナトリウム2%
(2.6mg/metered spray)キシロメタゾン塩酸塩0.025%の濃度が採用され
ており,クロモグリク酸ナトリウムは単剤の1/2の濃度,半分の用量で使用されて
いる(刊行物8)。我が国ではクロモグリク酸ナトリウム単剤の濃度は2%で認可
されているのであるが,上述のとおり刊行物3,12,13で1%濃度での有効性
も知られていることを考慮するならば,血管収縮剤と併用する場合の濃度として単
剤の場合の1/2である1%程度を目安とすることは当業者が容易に想起することで
ある。
 また,刊行物2には,一般薬とする鼻炎用点鼻薬の製造(輸入)承認基準とし
て,塩酸ナファゾリンとマレイン酸クロルフェニラミンを配合する場合,塩酸ナフ
ァゾリンの最大濃度0.05%,最小濃度は0.025%,マレイン酸クロルフェ
ニラミンの最大濃度は0.5%,最小濃度は0.1%とされていること,刊行物6
ではクロモグリク酸ナトリウムと併用する場合のマレイン酸クロルフェニラミンの
濃度は0.2%より多くすることの示唆があることから,クロモグリク酸ナトリウ
ム,塩酸ナファゾリン,マレイン酸クロルフェニラミンの配合製剤を設計する場
合,上記濃度範囲を参考にしつつ,有効性,安全性の観点から,配合成分の濃度を
種々検討し,これらの薬剤の配合濃度としてクロモグリク酸ナトリウムを1%,マ
レイン酸クロルフェニラミン0.25%及び塩酸ナファゾリン0.025%の製剤
とすることは当業者が適宜設定し得る範囲内のものである。
 以上のとおり,3剤の組合せ及びその配合量の決定いずれにも格別の困難性はな
く,本件明細書の記載を見ても,その効果は,アレルギー鼻炎の諸症状の改善に有
効かつ作用機作の異なる3剤を配合したことによって当業者が期待する効果を格別
超えるものということはできない。
 したがって,訂正発明は刊行物1~13に記載された発明に基づいて当業者が容
易に発明することができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許出
願の際独立して特許を受けることができるものではない。
 なお,請求人(脱退原告)は,
 ① 刊行物2にはクロモグリク酸ナトリウムは配合すべき有効成分として挙げら
れていないから,そこにおけるマレイン酸クロルフェニラミンや塩酸ナファゾリン
の使用濃度範囲はクロモグリク酸ナトリウムを配合する点鼻剤には適用できない。
 ② 刊行物8には英国においてクロモグリク酸ナトリウム4%以外に2%の滴下
法による点鼻薬が医療用単剤として認可されているから,英国で単剤を配合剤に変
更する際にクロモグリク酸ナトリウムの濃度を半分にしたとする認定は誤りであ
る。
との主張をしている。
 しかしながら,前述のとおり医療用の単剤を配合剤として一般向けの薬とする試
みは多数行われており,その際,配合する各成分の濃度を,それらが単剤で使用さ
れる場合より減らし,医師の管理下で使用しなくとも副作用などの危険が少ない製
剤となるよう設計することは医薬品の開発分野における当業者の技術常識であっ
て,このことは刊行物8や刊行物2の製剤例からも明白である。すなわち,刊行物
2では配合成分の濃度を1/2から1/5に減らして使用すること,刊行物8におい
ては,一般向けのリナクロム配合剤(nasalspray)中のクロモグリク酸ナトリウム
濃度は,同じ剤型,同じ用法で使用される医療用単剤リナクロム(nasalspray)の
半量とされている。なお,医療用として用法(滴下)が異なるリナクロム(Nasal
drop)濃度2%の点鼻薬の存在することが上記認定を妨げるものではない。
 したがって,配合剤成分の各濃度を単剤で使用する場合よりも少なくし,安全か
つ効果の得られる量を選択決定すること自体に格別の創意を要するとする余地はな
い。
第3 参加人主張の審決取消事由
 1 配合の困難性
 訂正発明はクロモグリク酸ナトリウムにマレイン酸クロルフェニラミンと塩酸ナ
ファゾリンを配合した3剤を含む点鼻剤であり,さらに前記3剤薬剤を所定の配合
量に設定したことによって,後述するように刊行物7記載の点鼻液に比べてアレル
ギー性鼻炎の諸症状を「消失」又は「著明改善」する,当業者の予想を超えた治療
効果を奏する発明である。
 刊行物に3剤(クロモグリク酸ナトリウム,抗ヒスタミン剤,血管収縮剤)から
選ばれる2剤の配合(併用)の例が記載されていても,当業者は,3剤を配合して
初めて生じる物理的変化や化学的変化,副作用,拮抗作用等の有害現象が生じ得る
と考える。したがって,2剤配合剤を組み合わせて,単純に3剤配合剤を容易に想
到し得るものではない。
 また,刊行物6によれば,クロモグリク酸ナトリウム単剤と,クロモグリク酸ナ
トリウムとマレイン酸クロルフェニラミンとの配合剤との間では治療効果に相違が
なく,かえって配合剤には副作用(鼻内への強烈な感触,鼻の灼熱感と痛み,鼻の
ほてり)が見られる。
 したがって,刊行物6の記載から,クロモグリク酸ナトリウムに配合すべきマレ
イン酸クロルフェニラミンの配合量を増加させることが示唆され,配合剤への積極
的な取り組みを強く促すとするのは誤りである。むしろ,刊行物6の上記報告によ
れば,当業者はクロモグリク酸ナトリウムとマレイン酸クロルフェニラミンとの配
合を避けようと動機付けられる。
 よって,訂正発明の3剤(クロモグリク酸ナトリウム,マレイン酸クロルフェニ
ラミン,塩酸ナファゾリン)の配合について躊躇すべき事情がないとして,前記3
剤を配合してみることは当業者が容易に想到し得るとする審決の判断は誤ってい
る。
 2 配合量の決定の困難性
 (1) クロモグリク酸ナトリウムの濃度
 (1)-1審決は,英国で配合剤の濃度を単剤の半分にしたから,日本でも配合剤
の濃度を単剤の濃度の半分にすると判断している。
 しかし,医薬業界では,「配合剤における各薬剤の濃度は,配合される薬剤,各薬
剤の有効濃度,配合される他の薬剤の濃度,治療効果,発生し得る有害事象等の要
素を総合的に判断して決定される」ことは当業者の技術常識である。そもそも,出願
当時,専門家の間では,クロモグリク酸ナトリウムにおける1%は有効濃度と考え
られていなかったことにかんがみれば,当業者は,クロモグリク酸ナトリウムを1
%に設定することを避け,1%よりも高濃度に設定しようと動機付けられたことは
明らかである。
 したがって,単純に,英国で単剤を配合剤へ変更する際にクロモグリク酸ナトリ
ウムの濃度4%から2%にしたから,日本では2%濃度の単剤から配合剤へ変更す
る際に1%に設定しようと考えるものではない。
 よって,英国で配合剤の濃度を単剤の半分にしたから,日本でも配合剤の濃度を
単剤の濃度の半分にするという審決の認定判断は,上記技術常識を無視したもので
あり,誤りである。
 (1)-2 被告は,ある程度安全性が確認された医療用の単剤に,通常併用される
その他の有効成分を配合し,一般薬(OTC薬)とすることは日本でも行われてい
ることであり,その場合有効成分量を医療用の場合よりも減らすことは当業者にお
いて普通に行われていることであると主張する。
 しかしながら,有効成分量について一般用医薬品は医療用医薬品よりも減らすこ
とが,OTC薬開発の通常の設計とはいえない。また,一般用医薬品(一般薬)は
複合剤であるための薬剤間の相乗作用や阻害作用を見極めなくてはならないから,
その有効濃度の設定は医療用医薬品よりも数段難しい。
 よって,医療用単剤に基づいてOTC薬とする際に,有効成分量を医療用の場合
よりも減らすことは,当業者において普通に行われているとすることはできない。
 (2) マレイン酸クロルフェニラミンと塩酸ナファゾリンの濃度
 被告は,クロモグリク酸ナトリウムに配合すべき塩酸ナファゾリン,マレイン酸
クロルフェニラミンの量を設定するに当たり,当業者であれば,既に他の一般用点
鼻剤において許容される範囲のこれらの成分の配合量を参考とすると主張する。
 しかし,刊行物2の別表1の濃度範囲は,別表1に記載された薬剤同士が組み合
わされた配合剤においてのみ適用されるものである。そして,クロモグリク酸ナト
リウムは別表1に記載されていないから,訂正発明の点鼻剤に配合されたマレイン
酸クロルフェニラミンと塩酸ナファゾリンの濃度について,別表1に基づく有効成
分の濃度範囲は適用されない。また,訂正発明等のOTC薬では,特に高い安全性
が要求されることにかんがみれば,なおさら当業者は刊行物2の別表1の濃度範囲
を参考としないのである。
 仮に,別表1の濃度範囲が参考になるとしても,訂正発明は,他の一般用点鼻剤
において許容される範囲から特定の濃度の組合せ,すなわち,マレイン酸クロルフ
ェニラミン0.25%と塩酸ナファゾリン0.025%の組合せのみを選択したの
であって,しかも当該組合せよりも高い濃度及び低い濃度の点鼻剤と比較してピー
ク的効果が得られたのであるから,当業者が適宜設定し得る範囲を超えているので
ある。
 よって,刊行物2の開示から,当業者がマレイン酸クロルフェニラミンと塩酸ナ
ファゾリンの濃度を適宜設定し得るとする審決の判断は,誤りである。
 3 訂正発明の効果
 (1) 訂正発明の顕著な効果
 (1)-1 相乗効果は予測可能との被告主張について
 被告は,「作用点の異なる薬剤を併用すると相乗効果が期待できることは古くから
知られており(乙3~4),・・・鼻アレルギーの3主徴である『くしゃみ,水性鼻
漏,鼻閉』に対し,異なる作用点で作用する3種の有効成分を配合すれば,少ない
量で上記3主徴を速やかに改善しその作用が持続するという相乗的効果が得られる
であろうことは当業者が十分予測可能である。」と主張するが,およそ現実的ではな
い。被告の主張に従えば,ある疾患に対する治療有効性が知られている複数の薬剤
の組合せである組成物の発明は,被告が過去に特許付与した発明も含めて,ほとん
どすべてが進歩性を否定されることになるからである。
 また,実際の専門家も,3剤(クロモグリク酸ナトリウム,マレイン酸クロルフ
ェニラミン,塩酸ナファゾリン)のうち1剤(倍量)又は2剤を含む点鼻剤の有効
率はすべて50%台であるにもかかわらず,3剤すべてを含有した途端にその有効
率は75%を超えるという有効率の上昇は,統計学上でも比較例1の点鼻剤と比べ
て5%の危険率で有意差があり,予測できる範囲をはるかに超えていると考えてい
るのである。よって,アレルギー鼻炎の諸症状の改善に有効かつ作用機作の異なる
3剤を配合したことによって当業者が期待する効果を格別超えるものではないとす
る審決の判断は,誤りである。
 (1)-2 訂正発明のアレルギー性鼻炎の諸症状の飛躍的改善効果
 訂正発明はアレルギー性鼻炎の諸症状(9つの症状)を飛躍的に改善する効果を
有する。これは本件明細書記載の比較例1(クロモグリク酸ナトリウム2%単剤)
や比較例2(クロモグリク酸ナトリウムとマレイン酸クロルフェニラミンとの配合
剤)との比較において,明細書記載の9つの症状を総合的に判定した有効率での統
計学的有意差,あるいは,9つの症状の各々の改善度として「消失(鼻炎症状が完治
する)」が圧倒的に多いことよって証明されている。
 このように,訂正発明は,明細書に記載の比較例1(クロモグリク酸ナトリウム
2%)及び比較例2(クロモグリク酸ナトリウム1%+マレイン酸クロルフェニラ
ミン0.25%)に比べて,アレルギー性鼻炎の諸症状を飛躍的に改善でき,これ
は当業者の予測を超えた効果である。
 (1)-3 本件明細書の比較試験の有効率について
 被告は,本件明細書の比較試験は30名前後で行われたものであり,しかもそれ
ぞれ鼻炎の症状やその程度の異なる患者を対象とする試験であり,医師の診断のみ
ならず患者の自己申告という主観的評価を判定資料とする以上,常に同じ有効率の
値が得られるものではないと主張する。
 しかしながら,本件明細書の比較試験は,訂正発明,比較例1と2について同時
に実施した試験結果を統計処理することにより,5%の危険率で有意差が確認され
たものであり,統計処理は,患者間の有効率のばらつきや患者数を考慮に入れた上
で計算が行われており,その結果,有意差があると判定されたのである。したがっ
て,本件明細書の比較試験は,当業者が医学的に評価可能な試験結果である。
 (2) 化学分野の発明の進歩性判断について
 訂正発明は化学組成物の発明であり,当業者の予測を超えた顕著な効果(アレル
ギー性鼻炎の諸症状の飛躍的改善効果)が証明された,特定の有効成分を特定量含
有する組成物のみに限定した発明である。
 したがって,訂正発明は,技術的意味のある数値限定(有効成分の含有量の特
定)によって当業者の予測を超えた顕著な効果を有するのであるから,その顕著な
効果を参酌して進歩性を認められるべきである。
第4 審決取消事由に対する被告の反論
 1 配合の困難性について
 (1) 2剤を組み合わせても3剤配合を容易に想到し得ないとの主張に対して
 訂正発明は,医療用医薬品としてのクロモグリク酸ナトリウムのスイッチOTC
化を図ったもので,OTC薬開発の常法(乙1)どおりに作られた点鼻薬である。
 刊行物10(特に表1参照)にも記載のとおり,アレルギー性鼻炎の特徴はくし
ゃみ,水性鼻漏,鼻閉であり,一般に対症薬としては,くしゃみ,水性鼻漏の症状
には抗ヒスタミン剤,鼻閉にはα-交感神経刺激薬(血管収縮剤),3症状にはメジ
エター遊離抑制薬,局所ステロイドが知られている。
 メジエター遊離抑制剤に属するクロモグリク酸ナトリウム単剤の市販薬インター
ルの添付文書である刊行物7の臨床適用の欄には「⑥併用禁忌の薬剤は報告されて
いない。⑦本剤によりアレルギー性鼻炎の症状がコントロールされてくると,・・
抗ヒスタミン剤,ステロイド剤,血管収縮剤を減量離脱することができる。」の記
載があり,クロモグリク酸ナトリウムにより症状がコントロールされる前の段階で
は抗ヒスタミン剤や血管収縮剤の併用は当然に行われることが前提とされているこ
とから,上記⑥は,複数の薬剤の併用による拮抗作用や副作用が格別報告されてい
ないことを示すものである。甲13の意見書は,このような事実を前提とした上で
の見解を表明してはいない。
 したがって,当業者が3剤の配合を躊躇すべき事情は存在しない。
 (2) 各刊行物の具体的記載から3剤配合は容易でないとの主張に対して
 クロモグリク酸ナトリウムに併用される血管収縮剤を選択するに当たり,通常
は,安全性の観点から最も汎用されているものを第一選択成分とするのが普通であ
って,点鼻薬(一般薬として)の分野で最も多用されていることが一目瞭然である
塩酸ナファゾリン(刊行物2参照)に着目するのは,当業者として極めて自然なこ
とである。
 マレイン酸クロルフェニラミンの選択も同様であって,最も汎用され,しかも塩
酸ナファゾリンとの配合剤の形でも多用されているマレイン酸クロルフェニラミン
は,当業者が他の抗ヒスタミンに先んじて第一に配合成分として想起する成分であ
るということができる。
 2 配合量の決定の困難性について
 (1) クロモグリク酸ナトリウム濃度
 刊行物3には,クロモグリク酸ナトリウムの好ましい濃度として0.1~10%
好ましくは0.5%~5%そしてより好ましくは約1又は2%w/vという明確な範
囲が示されているのであるから,格別の事情がない限り,上記濃度範囲で製剤化が
可能と解すべきである。刊行物12は,鼻粘膜に対し作用が期待できかつ危険性の
少ない用量として1%濃度は当業者がまず最初に想定し得る濃度であったことを示
している。刊行物13には「過去の著作Taylor&Shivalkar(1970)では,・・溶液を
使用したところ,2%溶液が,1%又は4%溶液よりも効果的(moreeffective)で
あることがわかった。」と記載されているのであり,仮に1%が通常は有効と考え
られない濃度であるとすれば,それをわざわざ2%や4%と比較してどれがより有
効であるかを決定する必要はない。
 甲13,14,16,17の意見書には,クロモグリク酸ナトリウム1%濃度は
有効濃度と考えられていなかった旨記載されているが,これらの意見は医師や大学
教授という,専ら既に開発された医薬を使用する立場から述べられたものであっ
て,医薬品の製造開発の分野における技術常識とはいえない。
 医療用として広く使用され,ある程度安全性が確認された医療用の単剤に,通常
併用されるその他の単剤の有効成分を配合し,一般薬(OTC薬)とすることは,
英国のみならず日本の製薬業界でも広く行われていることであり,その場合,一般
薬は医師の管理下での使用がされないため,有効成分含量を医療用の場合より減ら
すことは当業界において常識的に行われている(乙1)。そうすると,クロモグリ
ク酸ナトリウムの濃度を医療用の半量の1%とすることはむしろ上記常識に沿った
手法である。
 (2) 塩酸ナファゾリンとマレイン酸クロルフェニラミン濃度
 参加人は,刊行物2の一般用の鼻炎用点鼻薬の承認基準の別表1にはクロモグリ
ク酸ナトリウムは記載されていないから,これを含む点鼻薬は別途,有効性,安全
性等の審査を受ける必要があり,この表に基づく有効成分の濃度範囲は適用されな
いと主張する。
 しかし,一般薬としてクロモグリク酸ナトリウムを含む点鼻剤に配合すべき塩酸
ナファゾリン,マレイン酸クロルフェニラミン成分の量を設定するに当たり,当業
者であれば,既に他の一般用点鼻剤において許容される範囲のこれらの成分の配合
量を参考とし,更に刊行物6におけるマレイン酸クロルフェニラミン0.2%より
多くすることの示唆を考慮しつつ,有効性,安全性の観点から各成分の配合比を決
定することは極めて常識的手法であると考えられ,クロモグリク酸ナトリウムが一
般用医薬品成分として新規であるとしても,これに対して配合する成分について,
わざわざ既存の一般薬中での配合量の範囲を超える量(安全性が問題となる。),
あるいは下回る量(有効性が問題となる。)を含めて検討しなければならない理由
はない。
 3 訂正発明の効果について
 作用点の異なる薬剤を併用すると相乗効果が期待できることは古くから知られて
おり(乙3,4),刊行物10(955頁,956頁の表1)に見られるように,
鼻アレルギーの3主徴である「くしゃみ,水性鼻漏,鼻閉」に対し,異なる作用点
で作用する(即効性でくしゃみ,水性鼻漏に効果がある抗ヒスタミンと鼻閉に効果
のある塩酸ナファゾリン,遅効性であるが3症状に有効なメジエター遊離抑制剤)
3種の有効成分を配合すれば,相乗的効果が期待できることは当業者が十分に予測
可能である。
第5 当裁判所の判断
 1 配合自体の容易性の判断(相違点(A)の判断)の誤りについて
 (1) 3剤の配合を躊躇すべき事情の有無について
 (1)-1 参加人は,3剤(クロモグリク酸ナトリウム,抗ヒスタミン剤,血管収
縮剤)から選ばれる2剤の配合(併用)の例が各刊行物に記載されていても,当業
者は,3剤を配合して初めて生じる物理的変化や化学的変化,副作用,拮抗作用等
の有害現象が生じ得ると考えるのであるから,2剤配合剤を組み合わせて,単純に
3剤配合剤を容易に想到し得るものではないと主張し,A意見書(甲13)を援用
する。
 そのA意見書(甲13)には,配合剤の開発過程における障害の理由として,
「配合することにより化学変化を起こした場合,薬効低下に留まらず,有害事象を
起こす可能性」があること,「配合によって優れた治療効果を引き出せないことも
あること」,これらは「臨床試験によって確認する必要がある」ことの指摘があ
る。
 (1)-2 しかしながら,A意見書(甲13)は,その記載からみて,3剤配合に
おける有害現象の発生可能性に言及するものではあるが,その言及は一般論として
のものであって,訂正発明に係る具体的3剤の配合を対象として,刊行物3,4,
7~11に記載された技術情報をも十分に踏まえた上での,訂正発明に係る3剤の
配合に固有の見解として,その薬効低下・有害現象の発生が懸念されるべき具体的
事情があることに言及しているものではなく,むしろ,訂正発明に係る3剤の配合
に対する具体的な見解としては,クロモグリク酸ナトリウムの濃度は「医療用の半
分の濃度」であり,マレイン酸クロルフェニラミンと塩酸ナファゾリンの濃度は
「それぞれ許容濃度の半分の濃度」を配合した薬剤であるにもかかわらず「良好な
結果」が得られたと言及していることからみれば,安全性については,少なくと
も,濃度の観点からは,直ちにその配合を躊躇するべきであるといえるような格別
の事情はない,との理解を排斥するものではないと解される。
 したがって,A意見書(甲13)をもって,訂正発明に係る3剤の配合は躊躇す
べきであるとの主張の正当性を直ちに根拠付けることはできない。
 (2) 刊行物6について
 (2)-1 参加人は,刊行物6によれば,クロモグリク酸ナトリウム単剤と,クロ
モグリク酸ナトリウム/マレイン酸クロルフェニラミン配合剤との間では治療効果
に相違がなく,かえって配合剤には副作用(鼻内への強烈な感触,鼻の灼熱感と痛
み,鼻のほてり)が見られるから,刊行物6においては,当業者はクロモグリク酸
ナトリウムとマレイン酸クロルフェニラミンとの配合を避けようと動機付けられ
る,と主張する。
 (2)-2 しかしながら,刊行物6の801頁の要約には,「抗ヒスタミン剤/ク
ロモグリク酸ナトリウム点鼻剤の鼻腔内への使用によるいかなる副作用も報告され
なかった」(脱退原告提出の訳文)と記載され,また,同頁右欄19~23行に
は,実験の目的として,「2%クロモグリク酸ナトリウムと0.2%マレイン酸ク
ロルフェニラミンを含む鼻スプレーの活性の開始,総合的な効果及び安全性を2%
クロモグリク酸ナトリウムのみをふくむ鼻スプレーと比較することである。」(被
告提出平成16年12月20日付け訳文)と記載され,同803頁右欄7~40行
には,実験結果に関し,「この研究は,クロモグリク酸ナトリウムがアレルギーの
季節性鼻炎の症状や徴候をコントロールするのに非常に効果的であることを裏付け
た。最終的な所見では,1,2の両グループ(各々84%及び88%)のほとんど
の患者は症状の十分なあるいは程よいコントロールが達成されたと評価した。季節
性鼻炎の症状のコントロールにクロモグリク酸ナトリウムの鼻スプレーが非常に効
果的であるにもかかわらず多くの患者はまだ,通常は抗ヒスタミンの併用療法を必
要とするかもしれない。クロモグリク酸ナトリウムの鼻スプレーに0.2%クロル
フェニラミンを配合することによってシステマチックな抗ヒスタミン療法の望まし
くない副作用なしに症状のコントロールが達成されることが望まれた。しかし,2
%クロモグリク酸ナトリウム鼻スプレーへクロルフェニラミンを加えてもその効果
に重大な改善はなかった。これは0.2%クロルフェニラミンという量が少なすぎ
たことによるのかもしれない。抗ヒスタミン鼻スプレーからの副作用は見られなか
ったので,より高濃度の抗ヒスタミンを含む鼻スプレーをテストすべきであること
が示唆される。季節性鼻炎症の治療においては,クロモグリク酸ナトリウムのみと
クロモグリク酸ナトリウム/クロルフェニラミンの配合を含む鼻スプレーの間に総
合的効果や活性の開始,安全性に有意の差はないという結果であった。両治療法と
もに季節性鼻炎の症状をコントロールするのに非常に効果的であり,コントロール
は2,3日で達成された。クロモグリク酸ナトリウムのみの場合より配合剤療法の
患者の方が速やかな症状のコントロールが達成されることが示され,グループ2の
患者のデイリーカードスコアはより大きな改善を示した。グループ2の患者はスプ
レーの使用に伴う鼻の一時的ほてりを報告したが,副作用は最小であった。抗ヒス
タミン/クロモグリク酸ナトリウムスプレーの使用に関連する他の副作用はなかっ
た。」(被告提出平成16年12月20日付け訳文)と記載されている。
 (2)-3 してみると,刊行物6から,クロモグリク酸ナトリウム単剤の使用によ
る治療と,クロモグリク酸ナトリウム/クロルフェニラミン配合剤の使用による治
療との間には,総合的効果や活性の開始,安全性において有意の差はなく,両剤と
もに季節性鼻炎の症状のコントロールに非常に効果的であったこと,特に,配合剤
療法の患者の方により速やかな症状のコントロールが達成されたことが理解され
る。また,副作用に関しては,配合剤療法の患者の方が鼻の一時的なほてりを報告
する患者数より多かったとも触れられているが,これは,あくまで,副作用は最小
であったことを述べる一文において言及されたところであり,続けて,他の副作用
はなかったとも述べられていることからみて,その真意は,配合剤についても副作
用が最小であったことを報告することにあると解され,さらに,刊行物6では,
「クロルフェニラミンを加えてもその効果に重大な改善はなかった」ことの原因を
分析し,その一因として,「0.2%…という量が少なすぎたこと」を想到し,
「副作用は見られなかったので,より高濃度の抗ヒスタミンを含む鼻スプレーをテ
ストすべきである」との示唆があるものと解するのが相当である。
 (2)-4 ちなみに,訂正発明の出願後の文献である甲23の2(医学と薬学・3
4巻2号・1995年8月)303頁左欄下から7~3行においては,刊行物6が
引用されて,「Niekerkは2%DSCG及び2%DSCG+0.2%マレイン酸クロ
ルフェニラミンを季節性アレルギー性鼻炎に使用し,2%DSCG+0.2%マレ
イン酸クロルフェニラミンの方が効果が高かったと報告している。」と記載されて
いる。
 (2)-5 以上からみると,刊行物6の解釈としては,少なくともその筆者である
Niekerk自身は,副作用がなかったと総括的に認識していたと解すべきであ
り,上記甲23の2の記載にも照らしてみると,当業者は,クロモグリク酸ナトリ
ウムとマレイン酸クロルフェニラミンとの配合について,これを避けようと動機付
けられるというよりは,むしろ,マレイン酸クロルフェニラミンの配合量を0.2
%よりも増やして配合しようと動機付けられていたということができる。
 (3) 長期連続使用されるクロモグリク酸ナトリウムと,症状が現れているときだ
け使用する薬剤との組合せについて
 (3)-1 参加人は,遅効性で長期連続使用されるクロモグリク酸ナトリウムと,
即効性で症状が現れているときだけ使用する薬剤との組合せは容易でないと主張
し,複数の薬剤の配合によって生ずる有害現象は,投与経路や投与時期が異なる併
用では必ずしも生じないものであるから,たとえ,インタール(クロモグリク酸ナ
トリウム)が,抗ヒスタミン剤や血管収縮剤と併用される例があったとしても,併
用される薬剤とは投与経路や投与時期が異なるため,配合時の有害現象が生じない
とまで予測されるものではない,と主張する。
 (3)-2 しかし,有害現象が全く生じないとの予測があったとまでは,当然なが
ら認めることはできないが,他方で,有害現象が生じない可能性のあることまでも
否定すべき事実も認めることはできない。そうだとすると,少なくとも,これら薬
剤を組み合わて配合することの阻害要因が存したとまで認めることはできない。む
しろ,被告主張のように,訂正発明に係る具体的3剤の作用点が異なるため,相乗
効果が期待される組合せであるということもでき,この観点からして,参加人主張
の組合せに対する動機付けがなかったということはできない。
 (3)-3 してみると,クロモグリク酸ナトリウム点鼻剤による治療時に併用され
る血管収縮剤や抗ヒスタミン剤(刊行物7(3590頁上段⑥⑦),刊行物11
(特に59頁右下欄及び60頁の表12右側中段の併用療法の欄)参照。)を,あ
らかじめ当該点鼻剤に配合しておくことによってクロモグリク酸の遅効性を補完す
ることを想到することについての阻害事由があったと認めることはできない。遅効
性で長期連続使用されるクロモグリク酸ナトリウムと,速効性で症状が現れている
ときだけ使用する薬剤との組合せは容易でないとの参加人主張は,理由がない。
 (4) 塩酸ナファゾリン(血管収縮剤)を継続使用することによる副作用(西山意
見書:甲6)について
 (4)-1 市立泉佐野病院薬剤部長・B作成の意見書(甲6)には,「強度の鼻閉
がある場合には血管収縮剤やステロイド剤の鼻内噴霧を短期間だけ併用することも
あるが,あくまで対症療法としての使用である。血管収縮剤は連用すると,かえっ
て反応性充血を起こすことがあり,連用による鼻閉症状が問題となり,医療の現場
では,医師,薬剤師が治療薬と対症療法薬とを投与量や使用期間など適切に判断し
ながら使用している。このように,発症を抑える治療薬(クロモグリク酸ナトリウ
ム)の投与にあたって,別の薬剤である対症療法薬(血管収縮剤)を鼻閉症状の程
度に応じて適宜併用的に投与することは一般的であるものの,これらの薬剤を配合
剤として製剤化し,治療薬(クロモグリク酸ナトリウム)とともに対症療法薬(血
管収縮剤)をも相当期間継続的に使用する処方としてしまうことは通常は考えない
ことである。英国では配合処方例もあると聞いているが,英国は血管収縮剤の使用
による副作用が問題化してきているとも聞いている。日本のように,特に副作用に
対して慎重な国民性のもとでは配合にためらいがある組み合わせといえる。」との
記載がある。
 この意見書には,医療の現場では,治療薬(クロモグリク酸ナトリウム)に,対
症療法薬である血管収縮剤を症状に応じて適宜併用投与する処方が一般的であるこ
と,しかも,英国では,対症療法薬の副作用の問題が指摘されてはいるものの,現
にその配合処方例もあること,に対し,一応の認識を示しながらも,結論として
は,わが国の実情等を考えると,これらを配合剤として製剤化することは「通常考
えない」という意見が提示されている。
 (4)-2 しかしながら,抗アレルギー剤について記載された英国法人による特許
出願に係る特許公報である刊行物3には,
 「キシロメタゾリン濃度は,ナトリウムクロモグリケートと混合して使用される
場合,その治療持続期間及び効果をなお保有しながら劇的に減少され得ることが見
出された。キシロメタゾリンの濃度そしてそれゆえ薬用量における減少は望まぬ副
作用の危険を除くか又は緩和することとなる。また驚くべきことに,この混合物は
ナトリウムクロモグリケート単独より効力がありそしてキシロメタゾリンの存在が
ナトリウムクロモグリケートの作用を延長させる傾向がある。」(2頁3欄13~
22行),「本発明によれば,ナトリウムクロモグリケート及びキシロメタゾリン
又はその薬学的に受容し得る塩の混合物が提供される。その溶液が透明であること
が好ましい。この溶液はナトリウムクロモグリケートを0.1~10%,好ましく
は0.5~5%そしてより好ましくは約1%又は2%w/vの量で含有し得る。」
(2頁3欄29~35行)とあり,アレルギー性鼻炎患者に対して,ナトリウムク
ロモグリケート2.0%w/v,キシロメタゾリン塩酸塩0.025%w/vを含
有する保存用鼻用スプレー溶液を使用して二重盲群比較で処置した例2が示されて
いる(3頁6欄18行~4頁8欄4行)。
 次に,クロモグリク酸ナトリウム+キシロメタゾリンの配合の季節性鼻炎治療効
果及び長期結果をクロモグリク酸ナトリウムと比較した二重盲検法による比較試験
について記載された刊行物4には,
 「この試験の目的は2%クロモグリク酸ナトリウム単独と,0.025%キシロ
メタゾリンとクロモグリク酸ナトリウムの配合の6週間以上の治療の有効性,効果
の徴候及び許容性を比較することである。」とあり(脱退原告提出の訳文6~8
行),「いずれの治療も季節性鼻炎の症状と徴候の治療に有効であった。試験の終
了時には配合群の患者の100%が症状が良好に抑制されたと考え,クロモグリク
酸ナトリウム単独群の患者では75%だったのに比べて配合はわずか
に(slightly)優れていた。クロモグリク酸ナトリウム単独群ではたった3名の患
者であるのに比べ,配合群では9名の患者が2日以内に症状が抑制されたと考えた
(P=0.08)。痒み,鼻閉,出膿に関する患者の日誌カードスコアでは,配合
群に顕著に低い症状スコアが観察された。わずかに1つの治療関連の副作用が観察
され,これは非常に軽症であった。いずれの群の患者にもリバウンド充血は見られ
なかった。」(脱退原告提出訳文下から8行~最終行)と記載されている。
 さらに,リナクロム配合物(ファイソンズ)について記された英国雑誌である刊
行物8(甲1の8)には,「点鼻液剤,クロモグリク酸ナトリウム2%(2.6m
g/噴霧)及び塩酸キシロメタゾリン0.025%(32.5μg/噴霧)。正価
ポンプ入26ml=£5.94。各鼻孔に1噴霧を1日4回投与する。(注)クロ
モグリク酸ナトリウム2%及び塩酸キシロメタゾリン0.025%の登録商標(レ
ジストワン)は公衆に市販されている。」と記載されている。
 以上からみれば,「わずかに」との限定付きではいるが,客観的には,単独群
(75%)より配合群(100%)の方が症状の抑制に効果的であったことは明ら
かであり,2日以内の症状抑制については,単独群(3名)より配合群(9名)の
方が即効性があることが理解されるといえ,また,英国では,血管収縮剤がクロモ
グリク酸ナトリウムとの配合剤として,既に一般用医薬品化(OTC化)されてい
る状況にあったこともうかがわれる。
 (4)-3 そして,刊行物1には,塩酸ナファゾリンとマレイン酸クロルフェニラ
ミンを成分として含有する「ナファゾリン・クロルフェニラミン液」が記載され,
その薬効として,「ナファゾリンの効果を抗ヒスタミン剤の併用により一層強化す
ることを目的とした処方である」と記載され,「アレルギー性又は炎症性の粘膜充
血,腫脹の治療に有効」であり,「それゆえ抗ヒスタミン剤マレイン酸クロルフェ
ニラミンの配合は効果を増強する」とも記載され,刊行物2に,塩酸ナファゾリン
とマレイン酸クロルフェニラミンを成分とする種々の鼻炎用点鼻薬が記載されてい
る。
 (4)-4 以上のとおり考えると,英国において既に一般用医薬品化された点鼻剤
である,クロモグリク酸ナトリウムと血管収縮剤塩酸キシロメタゾリンを配合した
ものにおいて,血管収縮剤を日本における汎用の塩酸ナファゾリンに代え,その際
に,前記の抗ヒスタミン剤マレイン酸クロルフェニラミンの配合により効果が増強
された,ナファゾリン・クロルフェニラミン液を用いることを想到することは,前
記(2)で説示したように,クロモグリク酸ナトリウムに抗ヒスタミン剤マレイン酸ク
ロルフェニラミンを配合した場合においては,特に留意すべき副作用が確認されな
かったことも踏まえると,これを阻害するべき具体的な事情はない(甲6の意見書
指摘の事情も阻害するべき事情にはならない。)といわざるを得ない。
 (5) 相違点(A)の判断についてのまとめ
 以上のとおりであり,「(A) 配合自体の容易性」についてした審決の判断には,
参加人が主張するような誤りはなく,取消事由1は理由がない。
 2 配合量の容易性の判断(相違点(B)の判断の誤り)について
 (1) クロモグリク酸ナトリウムの濃度について
 (1)-1 A意見書(甲13)は,「医療用の半分の濃度であって,有効濃度範囲
と証明されていない1%クロモグリク酸ナトリウム」というだけであって,1%は
有効濃度範囲から排除されるべき値であるとまでの見解を示すものでない。榎本意
見書(甲14)も,「実際の臨床試験において1%濃度の有効性は証明されておら
ず,さらに諸外国で1%濃度の製品化されたものがないことからも,1%濃度がク
ロモグリク酸ナトリウム単剤での有効濃度であるとみなすことは困難と考えるのが
医学的常識といえる。」というだけであって,単剤でなく配合剤の場合に,1%は
有効濃度範囲から排除されるべき値であるとまでの見解を示すものでない。C意見
書(甲16)も,「我が国において,クロモグリク酸ナトリウム濃度2%の医療用
単剤が認可されているが,血管収縮剤を配合した大衆向けのクロモグリク酸ナトリ
ウムの点鼻剤を開発するに当たり,英国のように医療用で認められているそのまま
の濃度(2%)を採用せず,半分の濃度の1%に設定して2%の医療用単剤と同等
以上の有効性を確保できるかどうかは,1%濃度が有効濃度であると世界的に証明
されていない中で,臨床試験を実施してみなくては全く予測ができないものであ
り,医薬品開発の現場において容易に想起できるものではない。」というだけであ
って,1%が有効濃度範囲から排除されるべき値であるとまでの見解を示すもので
ない。そして,D意見書(甲17)も,「1%の濃度のクロモグリク酸ナトリウム
単独の有効性が世界的に証明されていない現在,この効果はセレンディピティブな
発見であり,明らかに特許として認められるものと確信する。」というだけであっ
て,1%が有効濃度範囲から排除されるべき値であるとまでの見解を示すものでな
い。
 (1)-2 他方,刊行物3(甲1の3)には,クロモグリク酸ナトリウムの好まし
い濃度として「0.1~10%,好ましくは0.5%~5%そしてより好ましくは
約1又は2%w/vの量で含有し得る」と明示されているから,実施例が濃度2.
0%w/vのもののみであっても,少なくとも1%を有効ではないと解すべき根拠
はない。
 刊行物12(甲1の12)は,鼻粘膜に対し作用が期待できる濃度として,現に
1%が想到されて実験されたことを示すものであり,クロモグリク酸ナトリウムの
アレルギー性鼻炎及び花粉症の治療の用途を示唆していると解することができる。
 刊行物13(甲7)には「過去の著作Taylor&Shivalkar(1970)では,1%,2%
及び4%のクロモグリク酸ナトリウム溶液を使用したところ,2%溶液が,1%又
は4%溶液よりも効果的であることがわかった。」と記載されているところ,これ
は,1%,2%及び4%の濃度の溶液の中では2%濃度が最も効果を奏したことを
説明するものであって,必ずしも,1%,4%溶液の効果を否定するものではない
と解されるから,1%や4%の効果の程度はともかく,配合剤の設計における目安
ないし参考になり得べき値(候補値)としては,少なくとも1%,4%もその射程
範囲内にあると解することができる。
 したがって,刊行物13からは,刊行物12と同様に,クロモグリク酸ナトリウ
ム濃度を検討するに当って,当業者が1%をその候補値として取り上げるべき現実
的な薬剤濃度であったことを裏付けるものであるということができるとしても,1
%がその候補値から排除されるべき値であるとはいえない。
 してみると,「出願当時,当業者は,クロモグリク酸ナトリウムの濃度を1%に
設定することを避け,1%よりも高濃度に設定しようと動機付けられたことは明ら
かである」とする参加人の主張は,理由がない。
 そして,前記1及び上記(1)-1で検討したところも踏まえれば,単剤として有効
であることが確認されている濃度2%のクロモグリク酸ナトリウムに基づいて,配
合剤の濃度として1%をその候補値の1つとすることを想到することが,医薬業界
の技術常識に反するものであるということもできない。
 したがって,この点に関する参加人の主張も,理由がない。
 (2) マレイン酸クロルフェニラミンと塩酸ナファゾリンについて
 一般用医薬品として,クロモグリク酸ナトリウムを含む点鼻剤に配合すべき塩酸
ナファゾリン,マレイン酸クロルフェニラミンの量を設定するに当たっては,既に
他の一般用点鼻剤において許容される範囲のこれらの成分の配合量を参考とするこ
とは当業者にとって当然のことであり,さらに前記1の(2)-5で説示したように,
刊行物6(甲1の6)には,マレイン酸クロルフェニラミンの濃度を0.2%より
多くするべきであるとの示唆があることをも考慮しつつ,有効性,安全性の観点か
ら各成分の配合比を決定することは極めて常識的な手法であると考えられ,クロモ
グリク酸ナトリウムが一般用医薬品成分として新規であるとしても,これに対して
配合する成分について,あえて既存の一般薬中での配合量の範囲を超える量(安全
性が問題となる。),あるいは下回る量(有効性が問題となる。)を含めて検討し
なければならない理由はない。
 参加人は,予備的に,仮に,別表1の濃度範囲が参考になるとしても,訂正発明
は,他の一般用点鼻剤において許容される範囲から特定の濃度の組合せ,すなわ
ち,マレイン酸クロルフェニラミン0.25%と塩酸ナファゾリン0.025%の
組合せのみを選択したのであって,しかも当該組合せよりも高い濃度及び低い濃度
の点鼻剤と比較してピーク的効果が得られたのであるから,当業者が適宜設定し得
る範囲を超えているとも主張するが,この点は,取消事由3に関する判断で検討す
る。
 (3) 相違点(B)に関する判断のまとめ
 以上のとおりであるから,取消事由2についての参加人主張は理由がなく,これ
を採用することはできない。
 3 訂正発明の効果に関する判断について
 (1) ピーク的効果・9つの症状の飛躍的改善
 (1)-1 参加人は,投与回数や噴霧量などの試験プロトコールが異なるデータと
は単純に比較できないことを理由に,そのプロトコールを同一にした甲23の1~
5を参考資料として提出して訂正発明の効果を主張し,また,アレルギー性鼻炎の
9つの諸症状の各々の改善状況を示す甲21,22を証拠として提出して訂正発明
の「飛躍的」な改善効果を主張し,さらに,訂正発明の濃度の特異性を示すデータ
を補充して訂正発明の「ピーク的効果」を主張する。
 (1)-2 しかしながら,本件明細書に記載された実施例・比較例については,そ
もそも試験プロトコールが示されておらず,実施例・比較例ないし効果に関する記
載からは,比較例2と,訂正発明に相当する実施例1との3例について,アレルギ
ー性鼻炎の9つの諸症状の各々の改善度を,「消失」,「著明改善」,「改善」,
「不変」,「悪化」の5段階で評価し,これを,「極めて有用」,「有用」,「や
や有用」,「有用とはいえない」の4段階の有用性で総合的に判定し,その「極め
て有用」又は「有用」の判定の割合を各製剤につき算出した結果を「有効率」とし
て評価したものと理解されるが,明細書に記載された事項としては,その最終的な
算出結果である「有効率」の数値のみであって,前記9つの諸症状の各々の改善度
や,濃度の特異性を示すピーク的効果を看取し得る根拠となるデータは,具体的に
記載されていない。
 しかも,本件明細書における「飛躍的に改善」とは,前記9つの症状を「消失」
あるいは「著明改善」することであると定義されているところ(脱退原告準備書
面(1)最下行),本件明細書には,9つの症状ごとの改善度が一切記載されておら
ず,具体的にどの症状が「飛躍的に改善」するものであるのかを確認することもで
きない。
 (1)-3 したがって,参加人が主張する訂正発明のピーク的効果も9つの症状の
飛躍的改善も,本件明細書の記載からは具体的に確認することができないというほ
かない。
 (2) 有効率
 (2)-1 参加人は,専門家は,3剤(クロモグリク酸ナトリウム,マレイン酸ク
ロルフェニラミン,塩酸ナファゾリン)のうち1剤(倍量)又は2剤を含む点鼻剤
の有効率はすべて50%台であるにもかかわらず,3剤すべてを含有した途端にそ
の有効率は75%を超えるという有効率の上昇は,統計学上でも比較例1の点鼻剤
と比べて5%の危険率で有意差があり,予測できる範囲をはるかに超えていると考
えていると主張する。
 (2)-2 しかしながら,そもそも,訂正発明に係る具体的3剤,すなわち,クロ
モグリク酸ナトリウム,塩酸ナファゾリン,マレイン酸クロルフェニラミンは,い
ずれも鼻炎の症状緩和に使用され,その効果が確認されている成分であり,特に後
者の2成分は,日本においても,その配合剤(一般薬)としても広く使用されてい
るものであるところ,これら3剤の配合に当たっては,有効性,安全性が高い範囲
を考慮して設定されるのが常識であることは前記のとおりであり,最終的には臨床
的に有効性,安全性を確認することは当然に必要ではあるものの,設計の段階で
は,期待するところとしての効果は既に明確に存在している。
 参加人は,訂正発明によりアレルギー性鼻炎の諸症状を飛躍的に改善する効果が
達成されたと主張するが,そもそも「飛躍的に改善」については前記(1)-2のとお
り,本件明細書の記載からは具体的に確認することはできないというほかなく,ま
た,作用点の異なる薬剤を併用すると相乗効果が期待できることは古くから知られ
ており(乙3,4),刊行物10(955頁,956頁の表1)にみられるよう
に,鼻アレルギーの3主徴である「くしゃみ,水性鼻漏,鼻閉」に対し,異なる作
用点で作用する(即効性でくしゃみ,水性鼻漏に効果がある抗ヒスタミン剤と鼻閉
に効果のある血管収縮剤,遅効性であるが3症状に有効なメジエター遊離抑制剤)
3種の有効成分を配合すれば,少ない量で上記3主徴を速やかに改善しその作用が
持続するという相乗的効果が得られるであろうことは当業者が十分予測可能であ
る。
 この点につき,参加人は,「異なる作用点で作用する3種の有効成分を配合すれ
ば,当然に相乗効果が得られる」と当業者が期待するような技術水準はなく,訂正発
明がアレルギー性鼻炎の諸症状を飛躍的に改善できることは当業者が予測できるも
のではないとも主張するが,3剤の配合によれば「当然に得られる結果として予測
可能である」とまではいえないとしても,期待し得る効果として十分に期待可能で
あるという意味で,予測可能な範囲内にあるということができる。
 (2)-3 参加人は,訂正発明と本件明細書に記載の比較例1(ただし,比較例1
は,従来のクロモグリク酸ナトリウム2%単剤である。)の有効率の差をもって訂
正発明の効果が顕著であると主張するが,症例数は30前後であり,しかもそれぞ
れ鼻炎の症状やその程度の異なる患者を対象とする試験であり,医師の診断のみな
らず患者の自己申告という主観的評価を判定資料とするものであるから,常に同じ
有効率の値が得られるものでもないといえる。
 (2)-4 さらに,塩酸ナファゾリン及びマレイン酸クロルフェニラミンの配合量
に関して,訂正発明以外の他の態様が容易に想定されるところ,本件明細書中には
訂正発明の組成以外に,訂正発明に係る3剤が配合された他の態様は記載されてい
ない。したがって,従来公知の単剤である比較例1の有効率との比較のみをもっ
て,訂正発明の実施例の有効率が格別顕著であるということはできない。
 (2)-5 以上のとおりであるから,本件明細書の記載からみれば,有効率が75
%を超える一例をもってしても,訂正発明の効果の格別な顕著性を認めることはで
きない。
 (3) 効果に関する判断のまとめ
 以上検討したところによれば,審決に効果の格別な顕著性を看過した誤りがある
とはいえず,参加人主張の取消事由3は採用することができない。
第6 結論
 以上のとおり,参加人主張の審決取消事由は理由がないので,参加人の請求は棄
却されるべきである。
  知的財産高等裁判所第4部
         裁判長裁判官                   
塚   原   朋   一
            裁判官                     
塩   月   秀   平
裁判官                     
高   野   輝   久

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