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平成11年(行ケ)第21号 審決取消請求事件
     判    決
 原 告   株式会社佐竹製作所
 訴訟代理人弁護士 池田昭、弁理士 竹本松司、湯田浩一
 被 告   株式会社東洋精米機製作所
 被 告   財団法人雑賀技術研究所
 被告ら訴訟代理人弁理士 小原英一
     主    文
 原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は原告の負担とする。
     事実及び理由
第1 原告の求めた裁判
 「特許庁が平成9年審判第13660号事件について平成10年12月18日に
した審決を取り消す。」との判決。
第2 事案の概要
 1 特許庁における手続の経緯
 被告らは、名称を「洗い米及びその包装方法」とする特許第2615314号発
明(平成1年3月14日の特許出願(特願平1-62648号。親出願)の一部
を、特許法44条1項の規定に基づき新たに平成4年6月12日に特許出願(特願
平4-179248号)、平成9年3月11日設定登録。本件発明)の特許権者で
あるが、原告は、平成9年8月7日、本件特許を無効とすることについて審判を請
求し、平成9年審判第13660号事件として審理されたが、平成10年12月1
8日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は平成1
1年1月6日原告に送達された。
 2 本件発明の要旨
【請求項1】
 洗滌時に吸水した水分が主に米粒の表層部にとどまっているうちに強制的に除水
して得られる、米肌に亀裂がなく、米肌面にある陥没部の糠分がほとんど除去され
た、平均含水率が約13%以上16%を超えないことを特徴とする洗い米。(本件
発明1)
【請求項2】
 請求項1記載の洗い米を、気密性のある包装材を使用した包装用袋に入れ、当該
米と包装用袋との間に、米粒群のみかけの体積が最も小さい状態を保持するに必要
な空気のみを残し、余剰空気はすべて排除して密封することを特徴とする洗い米の
包装方法。(本件発明2)
 3 審決の理由の要点
 (1) 原告(請求人)の主張及び提出した証拠方法
 (1)-1 無効理由1
 本件明細書は、平成8年7月3日付けの手続補正書によって補正されたものであ
り、この補正により、「除水」とは「米粒表層部に付着吸収した水分を除去するこ
と」(本件公報第4欄28~29行)と定義されたことにより、本件発明1の構成
要件である「強制的に除水」が、本件出願の当初の明細書(原明細書)に記載され
た事項の範囲内でないものとなり、上記補正は、明細書の要旨を変更するものであ
って、特許法40条の規定により、本件出願日は、前記手続補正書が提出された平
成8年7月3日となる。
 そうすると、下記審判甲第1号証は、本件出願日前の国内において頒布された刊
行物であり、本件発明1及び2と審判甲第1号証に記載された発明を比較すると、
次の点で相違し、その他の点では一致する。
 (a)本件発明1及び2は、吸収された水分も除水されるが、審判甲第1号証記
載のものは、吸収された水分は除去されない。
 そして、本件発明1及び2の相違点(a)のようになすことは、下記審判甲第2
~第6号証に吸収した水分を洗滌後調整することが記載されていることから、当業
者が容易に想到できることである。
 以上のことから、本件発明1及び2は、審判甲第1号証記載のものを基礎に審判
甲第2~第6号証記載のものを用い当業者が容易に発明をすることができたもので
あるので、特許法29条2項の規定により特許を受けることができず、本件特許
は、無効とされるべきものである。
 (1)-2 無効理由2
 本件出願は、以下の(イ)~(ニ)のいずれの理由によっても適法な分割出願と
は認められないので、その出願日は、現実に出願した平成4年6月12日である。
 (イ)本件明細書の特許請求の範囲に記載された「除水」と親明細書(親出願の
出願当初明細書)に記載された「除水」とは、前記無効理由1で指摘した理由で、
相違するものであり、特許請求の範囲記載の「除水」は、親明細書に記載されてい
たものではない。
 (ロ)特許請求の範囲記載の「糠分」は、糊粉層を含んだ糠も包含するもので、
親明細書記載の「糠粉」とは相違し、親明細書に記載されていたものではない。
 (ハ)特許請求の範囲記載の「洗滌時に吸水した水分が主に米の表層部にとどま
っているうちに」との構成は、表層部における水分量が特定されず、水分が米粒の
深層部まで到達したものでも主に水分が表層部にあるものも包含するため、含水率
が16%を越えても、強制的な除水によって、米粒の内部である表層部に吸収され
た水分をも除去し、結果的に16%を越えないようにすることも意味するが、親明
細書には、洗滌水と表面付着水を除去したときに、16%以下になることしか記載
されてなく、上記記載は、親明細書に記載されていないものである。
 (ニ)特許請求の範囲記載に「米粒の平均含水率を約13%以上16%を越えな
い」とあり、これは、16%を越える付近も包含しているが、親明細書では、「含
水率は16以下%」と明記しており、親明細書に記載されていないことである。
 そうすると、下記審判甲第1号証は、本件出願前国内において頒布された刊行物
であり、本件発明1及び2と審判甲第1号証記載のものとは、前記無効理由1記載
の相違点があるが、この相違点は、下記審判甲第2~第4号証記載のものから当業
者において容易に想到できるものである。
 したがって、本件発明1及び2は、審判甲第1号証を基礎に審判甲第2~第4号
証記載のものを用い当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許
法29条2項の規定により特許を受けることができず、本件特許は、無効とされる
べきものである。
 (1)-3 無効理由3
 本件発明1の「洗い米」を得る方法においては、「水中への浸漬から除水までの
工程を米粒の吸水量が極くわずかであるうちに完了し」なければならず、しかも
「水の浸透を主に米粒の表層部にとどめるようにし、かつ米粒の含水率が除水した
時点で約13%以上16%を越えない」ようにしなければならない。しかし、本件
明細書には、これを実施できる具体的方法又は装置は記載されておらず、当業者と
いえども本件明細書記載事項から、本件発明1は、容易に実施できない。ちなみに
公知の連続洗米機や除水装置を調査した結果、下記審判甲第7~第20号証のもの
があったが、これらを改良しても本件発明1は実施できない。
 したがって、本件明細書は、当業者が本件発明1を容易に実施できる程度に記載
されていないので、特許法36条3項の規定を充足せず、本件特許は無効とされる
べきものである。
 (1)-4 無効理由4
 本件明細書の「発明の詳細な説明」の項に「除水とは米粒表層部に付着吸収した
水分を除去すること」とあるが、特許請求の範囲の記載には「強制的に除水して得
られる」との記載があるものの、「吸収した水分を除去する」記載はないので、請
求項1には、本件発明1の必須の構成が記載されていない。
 したがって、本件明細書は、特許法36条4項2号の規定を充足せず、本件特許
は、無効とされるべきものである。
 (1)-5 無効理由5
 本件発明1は、親出願の出願日前国内において頒布された刊行物である下記審判
甲第26号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたも
ので、特許法29条2項の規定により特許を受けることができず、本件発明1に係
る本件特許は無効とされるべきものである。
 (1)-6 証拠方法
 審判甲第1号証:特開平 2-242647号公報
 審判甲第2号証:特開昭59-183663号公報
 審判甲第3号証:特開昭61-115858号公報
 審判甲第4号証:特開平 3- 10646号公報
 審判甲第5号証:特開平 4-320656号公報
 審判甲第6号証:特開平 5- 15322号公報
 審判甲第7号証:特公昭30-  1833号公報
 審判甲第8号証:特公昭33-  2820号公報
 審判甲第9号証:実公昭35- 10989号公報
 審判甲第10号証:実公昭35- 14091号公報
 審判甲第11号証:実公昭45- 23588号公報
 審判甲第12号証:特公昭47- 34144号公報
 審判甲第13号証:特開昭50- 25767号公報
 審判甲第14号証:特開昭61- 50642号公報
 審判甲第15号証:特開昭62-282648号公報
 審判甲第16号証:実公平 1- 16515号公報
 審判甲第17号証:特公昭30-  1315号公報
 審判甲第18号証:実公昭47-    67号公報
 審判甲第19号証:実公昭48-  5160号公報
 審判甲第20号証:実公昭63- 27786号公報
 審判甲第21号証:特願平1-291938号に対する株式会社東洋精米機製作所
の特許異議申立理由補充書(平成6年11月5日付け)(1,20,21頁)
 審判甲第22号証:同上の弁駁書(平成8年4月12日付け)(1,3,5頁)
 審判甲第23号証:特願平1-291938号に対する柳野隆生の特許異議申立理
由補充書(平成6年11月4日付け)(1,33,34,40,49頁)
 審判甲第24号証:同上の弁駁書(平成8年4月12日付け)(1~3頁)
 審判甲第25号証:「稲学大成第1巻形態編」農山漁村文化協会、1990.1
1.10発行、311頁
 審判甲第26号証:特開昭57-141257号公報
 審判甲第27号証:特開平 3-154643号公報
 審判甲第28号証:平成9年(ワ)第9063号特許侵害差止請求事件 原告準備
書面(1)
 審判甲第29号証:同上 被告ら準備書面(1)
 審判甲第30号証:特願平1-62648号に対する株式会社東洋精米機製作所の
「早期審査に関する事情説明書」(平成4年1月21日付け)
 審判甲第31号証:特開昭59-103811号公報
 審判甲第32号証:広島県立食品工業技術センターの試験成績表(広食工技第14
3号)(平成10年3月30日付け)(平成10年10月13日付け、株式会社佐
竹製作所知的財産室長坂下隆一による審判長あて説明書添付)
 審判甲第33号証:特許第2616821号に対する株式会社東洋精米機製作所の
特許異議申立書(平成9年12月3日付け1,14頁)
 審判甲第34号証:特願平1-291938号に対する柳野隆生の特許異議申立理
由補充書(平成6年11月4日付け)(1,38頁)
 参考書面1:報告書:精白米の吸水試験、平成9年3月21日付け、株式会社佐
竹製作所科学研究室課長尾崎雄一作成
 参考書面2:表面付着水及び吸収水の説明図
 参考書面3:審判甲第7~第20号証の索引
 参考書面3:表面付着水及び吸収水の説明
 参考書面4:「穀物の水分測定方法の基準」(昭和50年5月)農業機械学会
(調製加工部会)(部会研究会資料No.1(1975))表紙、13頁
 参考書面5:「生体計測の実際」山下律也著、(有)山本健美術、平成7年3月
22日発行、表紙、奥付及び115頁
 参考書面6:特許第2616821号公報
 (2) 被告(被請求人)らの答弁及び提出した証拠方法
 (2)-1 無効理由1に対し
 「除水」が「米粒表層部に付着吸収した水分を除去すること」であることは、原
明細書に示唆されていた事項である。したがって、原告の主張するような要旨変更
はなく、本件出願日は、繰り下がらない。してみれば、審判甲第1号証は、本件出
願日以降に発行されたものであるので、これに基づき本件発明1及び2が容易に発
明をすることができたとする原告の主張に理由がないことは明らかである。
 (2)-2 無効理由2に対し
 本件出願は適法な分割出願であって、本件出願日は、親出願の出願日であり、審
判甲第1号証は、この出願日以降に頒布されたものであるので、本件発明1及び2
は、審判甲第1号証記載のものを基礎として、これと審判甲第2~第4号証記載の
ものから当業者が容易に発明をすることができたとする原告の主張に理由がない。
原告が適法な分割出願でないとする根拠として指摘する前記(イ)~(ニ)に対し
ては、以下の旨主張する。
(イ)に対しては、親明細書にも、「除水」が吸収した水分も除去することが示さ
れており、本件明細書の「除水」と異なるものでない。
(ロ)に対しては、親明細書の「糠粉」も本件明細書の「糠分」も共に精米機や研
磨機では除去しきれない精白米表面に残留している糠を意味する用語で、両者は同
じである。
(ハ)に対しては、本件発明1及び2における「除水」は、親明細書に記載された
とおり「短時間に洗滌水及び表面付着水を除去する」ことであるから、原告主張の
よう深層部の水分除去(当然、長時間かける要あり)までして16%以下に水分調
整するものでないので、この点の原告の主張に理由がない。
(ニ)に対しては、「約」は、16%にはかからないことは明らかであり、16%
を越える付近は包含していない。
 (2)-3 無効理由3に対し
 本件明細書には、「除水装置は、洗滌水及び付着水を除去出来る機能さえあれば
公知の機器でよい」及び「公知の除水装置の中には、吸水の要因となる洗滌水等の
大部分を、瞬時に近い短時間に除去出来るものがあるから、それを選べばよいと云
うことである」と記載されている。そして、公知の除水装置には、遠心分離装置も
あるが、審判甲第1,第5~第8号証に記載されている風力を利用したバンド乾燥
機も古くから知られている。また、遠心分離装置では、洗滌米の微細な陥没部に入
り込んでいる付着水を短時間に除去することは不可能であり、含水率を16%以下
にすることはできないことが当業者において知られている。そうすると、短時間に
洗滌米を16%以下の含水率に除水しようと思えば、当業者であれば、遠心分離装
置と前記のようなバンド乾燥機との組合せ、若しくはバンド乾燥機で本件発明の除
水を行うことは容易になし得ることであり、またその際バンド乾燥機の送風量や洗
滌米の移送速度などは適宜決められることである。
 以上のことから、本件明細書には、除水装置について具体的な記載はないが、上
記のような明細書の記載及び公知の除水装置から当業者であれば、本件発明を容易
に実施することができ、本件出願は、特許法36条3項の規定を満たす。
 (2)-4 無効理由4に対し
 本件発明における吸収水の除去は、強制的な表面付着水の除去に伴う当然の結果
である。したがって、特許請求の範囲の記載としては、「強制的に除水して得られ
る」で十分である。よって、原告の主張する特許法36条4項2号違反の根拠はな
い。
 (2)-5 無効理由5に対し
 審判甲第26号証には、「洗滌時に吸収した水分が主に表層部にとどまっている
うちに強制的に除水して得られる」点について記載がなく、これに記載されたもの
は、亀裂米である。本件発明1は、本件出願前の技術課題(亀裂のない洗い米が望
まれていた)を具体的に解決したものであって、審判甲第26号証から当業者が容
易に発明をすることができたものではない。
 (2)-6 証拠方法
 審判乙第1号証:特開昭61-115858号公報
 審判乙第2号証:特開昭53-122975号公報
 審判乙第3号証:特公昭55- 25900号公報
 審判乙第4号証:実公昭40- 11180号公報
 審判乙第5号証:実公昭46- 34708号公報
 審判乙第6号証:実開昭61-121946号公報
 審判乙第6号証の1:実開昭61-121946号公報(実願昭60-4860
号)のパトリスによる出願経過調査結果
 審判乙第7号証:特公昭35-8642号公報
 審判乙第8号証:特開昭64-4257号公報
 審判乙第9号証の1:「世界大百科事典 5」初版第11刷、1968年5月2
0日、平凡社発行、346頁
 審判乙第9号証の2:「世界大百科事典 3」初版第11刷、1968年5月2
0日、平凡社発行、250頁
 審判乙第10号証:「商経アドバイス」昭和62年7月2日、(株)商経アドバイ
ス発行、4頁、(株)米山穀機発明所公告
 審判乙第11号証の1:「上新粉製造実証プラント見積書」昭和63年1月12日
付け、(株)躍進機械製作所食品機械事業部粉体機器事業部
 審判乙第11号証の2:和歌山地方裁判所平成4年(ワ)第459号事件における
平成7年10月18日の河合忠彰氏の本人調書
 審判乙第11号証の3:「増補 遠心分離」昭和60年1月5日、(株)化学工業
社発行、8頁
 審判乙第12号証:「食品製造工程図集」昭和45年10月1日、(株)化学工業
社発行、
 同号証の1~28は、それぞれ上記図集の2,3頁、4,5頁、6,7頁、8,
9頁、12,13頁、14,15頁、21頁、24,25頁、33頁、35頁、3
7頁、55頁、58頁、59頁、60頁、62頁、63頁、124,125頁、1
26,127頁、227頁、294,295頁、373頁、375頁、601~6
03頁、637~640頁、642頁、644頁及び646頁である。
 審判乙第13号証:「食料振興、No.49」’93年秋期号、(社)全国食料振興
会発行、4頁
 審判乙第14号証:「食料振興、No.49」’94年秋期号、(社)全国食料振興
会発行、13頁
 審判乙第15号証:「精米工業」No.142、平成5年9月、(社)日本精米工
業会発行、14、18頁
 審判乙第16号証:「商経アドバイス」平成4年3月2日、(株)商経アドバイス
発行、3頁、
 審判乙第17号証:「米穀新聞」平成4年12月10日、(株)米穀新聞社発行、
3頁
 審判乙第18号証:特許第2788091号公報
 審判乙第19号証:特開昭55-157335号公報
 審判乙第20号証:実開昭51-105092号公報
 審判乙第21号証:弁理士竹本松司による「口頭鑑定メモ」平成4年5月12日付

 審判乙第22号証:(株)椿本チェンカタログ「つばき小型コンベアチェーン」
(昭和62年4月1日発行)22頁
 審判乙第23号証:(株)椿本チェンカタログ「TSUBAKI POWER T
RANSMISSION PRODUCTS1975」295頁
 審判乙第24号証:食品技術士センター編「改訂食品加工技術ハンドブック」昭和
53年7月10日、(株)建帛社発行、557,558頁
 審判乙第25号証:和歌山県工業試験所所長名の平成9年8月8日付け「試験分析
等成績書」の写し
 審判乙第26号証:食糧庁検査課監修「農産物検査関係法規」平成4年9月1日、
(株)糧友社発行、79頁
 審判乙第27号証:食品設備実用総覧編集委員会編「食品設備実用総覧」昭和55
年1月15日、(株)産業調査会出版部発行、216,217頁、1-105頁
 審判乙第28号証:「米とその加工」倉澤文夫著、昭和57年11月25日、
(株)建帛社発行、332,336頁
 参考書面1:紙束のうち、上部3枚の拡大想像図
 参考書面2:精白米の吸水特性
 参考書面3:BG無洗米の吸水特性
 参考書面4:「米とその加工」倉澤文夫著、昭和57年11月25日、(株)建
帛社発行、66~68頁
 参考書面5:各精白米粒の洗米前、及び洗米後の拡大写真
 参考書面6:「ジフライス設備」平成3年5月、(株)佐竹製作所発行、8頁
 参考書面7:「標準計測方法」平成元年6月、食糧庁発行、25~29頁
 参考書面8:「食品製造工程図集」昭和45年10月1日、(株)化学工業社発
行、第646頁
 (3) 無効理由1及び2についての審決の判断
 原告は、無効理由1において、平成8年7月3日付けの手続補正書で、「除水」
を「米粒表層部に付着吸収した水分を除去すること」とした補正は、明細書の要旨
を変更するものであると主張するとともに、無効理由2において、前記(イ)~
(ニ)の理由にて、本件出願は適法な分割出願ではないと主張するので、以下これ
らの点について検討する。
 (3)-1 親明細書の内容を掲載した審判甲第1号証(親明細書公報)及び原明細
書の内容を掲載した特開平5-304910号公報(原明細書公報)をみてみる
と、以下の記載がある。
(A)「精白米は一旦水に漬けたら、これを乾燥せしめると必ず亀裂が入り、その
内に砕粒化してしまうので、今まで洗米した後、乾燥させた米、即ち「乾燥洗い
米」と云えるものは全く存在しなかった。」(親明細書公報2頁左上欄2~6行)
「従って、精白米は一旦水に漬けたら、これを乾燥せしめると必ず亀裂が入り、そ
の内に砕粒化してしまうので、今まで知られている乾燥洗い米は炊いて食しても美
味といえるものでなく、炊飯に適さなかった。水で洗った後乾燥して得られる乾燥
洗い米としては、」(原明細書公報第1欄30~34行)
(B)「本発明は、このような点に鑑み、消費者が洗わずに炊け、然も食味が落ち
ない「乾燥洗い米」及びその製造方法を開示するものである。」(親明細書公報2
頁左下欄5~8行)
「本発明はこのような点に鑑み、水洗、乾燥後も米粒に亀裂が入らず、しかも、炊
いた米飯の食味が低下しない乾燥洗い米を得ることを目的としており、更にその包
装方法を提供するものである。」(原明細書公報第2欄20~24行)
(C)「本発明の技術的手段は、精白米を水洗し、且つ、含水率が16%以下に除
水処理した乾燥洗い米であり、」(親明細書公報2頁左下欄12~14行)
「本発明の乾燥洗い米は精白米を水中で洗滌、除糠を行い、更に除水を行い、この
間米粒の主な吸水部は米粒の表層部であり、水への浸漬から除水までを数分以内に
行ったものであって、米肌には亀裂が生成しておらず米肌面にある陥没部の糠分が
充分に除去されており、平均含水率を約13%~16%としたものである。」(原
明細書公報第2欄32~37行)
(D)「一般的に、洗米によって含水してから乾燥させた米に先ず亀裂が入る原因
は、ひずみに弱い特性を有する米粒が吸水、除水の際、その都度、部分的に膨張と
収縮が生じ、ひずみができるからである。然らば、洗米時や除水時に、ひずみの因
子となる膨張と収縮が生じない程度の、僅かの吸水量、及び除水量に押さえること
が出来れば、精白米をたとえ水中へザブンと漬けて洗米し、乾燥させても亀裂が生
じないことになる。」(親明細書公報2頁右下欄4~12行)
「一般的に、洗米によって含水してから乾燥させた米に先ず亀裂が入る原因は、ひ
ずみに弱い特性を有する米粒が吸水、除水の際、その都度、部分的に膨張と収縮が
生じ、ひずみができるからである。然らば、洗米時や除水時に、ひずみの因子とな
る膨張と収縮が生じない程度の、僅かの吸水量、及び除水量に押さえることが出来
れば、精白米をたとえ水中へ漬けて洗米し、乾燥させても亀裂が生じないことにな
る。」(原明細書公報第5欄8~15行)
(E)「本発明は、高速度で攪拌する洗米工程で、ごく短時間に精白米を水に漬け
た状態で洗米して除糠を行い、直ちに除水行程によって洗滌水と表面付着水の除水
を行うのである。」(親明細書公報3頁右上欄5~8行)
「このように、充分な洗米が行われて、前記洗米機より排出されるようになるが、
大抵の洗米機の場合、米粒は大量の洗滌水と共に排出されるので、これを間髪をい
れず、直ちに前記洗米装置の後工程に設けた除水装置にて、洗滌水は勿論のこと、
米粒表面に付着している付着水をも除去するのである」(原明細書公報第4欄14
~20行)
(F)「本明細書で、乾燥洗い米と表現している「乾燥」なる意味であるが、米粒
を常温で保存していても、腐敗したり発カビしない限度、即ち、含水率が16%以
下の含水状態を指すのである。」(親明細書公報3頁左下欄10~13行)
「本明細書で、乾燥洗い米と表現している「乾燥」なる意味であるが、米粒を常温
で保存していても、腐敗したり発カビしない限度、即ち、含水率が16%をこえな
い含水状態を指すのである。」(原明細書公報第6欄15~18行)
(G)「除水後、即ち付着水分を除かれた時の水分、いわゆる内部含水率が16%
以下の含水率になっているように設計されることである。」(親明細書公報5頁右
上欄14~17行)
「除水後、即ち付着水分を除かれた時の水分、いわゆる内部含水率が16%以下の
含水率になっているように洗米機が設計されることが重要である。」(原明細書公
報第3欄20~23行)
(H)「以上の通りの要領で、精白米を洗米工程と除水工程を通過させると、精白
米は極く短時間に洗滌、除水が行われるので、米粒内に水がほとんど浸透すること
なく、除水装置より排出されたときには16%以下の含水率になっており、長期間
室内でそのまま放置しても表面にほとんど亀裂も生じず、勿論砕粒化もしていない
乾燥洗い米が得られるのである。」(親明細書公報6頁右上欄1~8行)
「以上の通りの要領で、精白米を洗米工程と除水工程を通過させると、精白米は極
く短時間に洗滌、除水が行われるので、米粒内に水がほとんど浸透することなく、
除水装置より排出されたときには約13%~16%をこえない含水率になってお
り、長期間室内でそのまま放置しても表面にほとんど亀裂も生じず、勿論砕粒化も
していない乾燥洗い米が得られるのである。」(原明細書公報第4欄28~35
行)
(I)「然るに、本発明では、洗米しても高含水化するのは極表面だけで、内部ま
で高含水化させないから、1粒全体としては、僅かに含水率が高くなるだけで、ほ
とんど元の乾燥した状態のままになっているのである。」(親明細書公報6頁右上
欄18行から同頁左下欄2行)
「然るに、本発明では、洗米しても高含水化するのは極表面だけで、内部まで高含
水化させないから、1粒全体としては、僅かに含水率が高くなるだけで、ほとんど
元の乾燥した状態のままになっているのである。」(原明細書公報第4欄43~4
7行)
 そこで、これら記載事項をみてみると、親明細書又は原明細書には、(A)の記
載から、「乾燥洗い米」は、洗米した後、乾燥させた米と認められ、(B)の記載
から、親明細書又は原明細書でいうところの本発明は、この「乾燥洗い米」及びそ
の製造方法又はその包装方法を開示するものと認められる。また、(C)(H)及
び(I)の記載からは、この「乾燥洗い米」は、含水率が16%以下又は約13%
~16%に除水処理されたもので、この除水(装置)では、極く表面だけが高含水
化して16%以下又は16%を越えない含水率で、ほとんど元の乾燥した状態で排
出されるものと認められる。さらに、(D)の記載に、吸水、除水の際にひずみが
生じやすく、吸水量と除水量をわずかに押さえれば、米を水に浸けて洗米し、乾燥
させても亀裂が生じないとあるように、除水と乾燥を同一視している記載が認めら
れる。
 そうすると、これら記載を総合すると、親明細書及び原明細書における「除水」
は、「乾燥」手段によることが示されていると認められる。なお、(F)の記載に
ある「乾燥」は、「乾燥洗い米」における「乾燥」状態について規定するもので、
(A)及び(D)の記載にある「乾燥させ」は、乾燥手段によって乾燥させること
を意味していると解される。
 他方、(E)の記載から、除水は、洗滌水と表面付着水を取り除くことであると
認められる。
 ところで、親明細書及び原明細書記載全体からこれら明細書記載の「除水」は、
機械的手段によって行われるものと認められる。そして、本件出願前、精白米を洗
滌した後に洗滌水を機械的に除去する手段としては、大別して審判甲第7号証にみ
られるような遠心力によるものと審判乙第1,第5~第7号証にみられるような空
気を吹き付ける通風によるものがあると認められるところ、遠心脱水は、粒子と粒
子の間に毛管上昇の作用で存在する水又は液体を除去することが狙いで、粒子表面
に付着している水分、粒子内の間隙に存在する水分などはその対象でないことが当
業者において技術常識であること(要すれば、審判乙第11号証の3参照)を考え
ると、遠心力に即ち遠心脱水によっては、前記付着水を短時間で除去できず、当業
者であれば、前記除水は、空気を吹き付ける通風によるものと解すると認められ
る。
 以上のことから、親明細書及び原明細書に記載された「除水」は、空気を吹き付
ける通風による乾燥手段によってなされることが示されていると、当業者であれ
ば、理解する。また、除水は、極く短時間で行う必要性から、当業者であれば、こ
の乾燥手段と他の除水手段との組合せもあることは当然理解するところでもある。
 してみれば、親明細書及び原明細書には、これらに記載された「除水」は、洗滌
水と表面付着水を除去することを目的とし、少なくとも空気を吹き付ける通風によ
る乾燥手段によって洗滌水と表面付着水の除去を行うことが示されていると認めら
れる。そして、表面付着水を前記通風による乾燥によって除去すれば、その際当
然、除去される前記洗滌によって吸収された前記表層部の水分があることは、当業
者にとって自明のことである。
 なお、被告らは、前記(G)の記載の水分は、その水分という文言の意味すると
ころから、前記表層部に吸収された水も含んでいると主張するが、前記付着水分と
は、付着した水と解するのが前記(G)記載の文言からは自然であり、この点の被
告らの主張は採用できない。
 (3)-2 親明細書と本件明細書には、「精白米の表面には肉眼では見えない無数
で微細な陥没部あり、それに入り込んでいる澱粉粒や糠粉を除去するには、やは
り、どうしても米粒群を水の中にザブンと漬けて、少なくとも30回以上攪拌して
洗米する必要がある。その理由は、糠粉等が入り込んでいる陥没部は、開口面より
も深みが長く、然も大半はミクロン単位の狭い開口面だから、その奥の方に入り込
んでいる糠等を除去するには、水中に浸して激しく攪拌している間に、糠等を水に
浮遊させて洗い流す以外にない。然もそのような洗米は、前記の通り、僅かの時間
内に行う必要がある。そのような考察のもとに本発明は、高速度で攪拌する洗米行
程で、極く短時間に精白米を水の中に漬けた状態で洗米して除糠を行い、直ちに除
水行程によって洗滌水と表面付着水の除水を行うのである。」(親明細書公報3頁
左上欄12行~右上欄8行、本件明細書を掲載した特許第2615314号公報
(本件公報)第7欄40行~第8欄4行)と記載されているように、両明細書に
は、洗米によって除糠する糠は、精白米表面の陥没部に入り込んでいる糠粉である
ことを明示している。そして、本件明細書には「本発明の洗い米は精白米を水中で
洗滌、除糠を行い、更に強制的に除水を行い、この間米粒の主な吸水部は米粒の表
層部にとどまり、水への浸漬から洗滌、除糠、除水までの数分以内に行ったもので
あって、米肌には亀裂が発生しておらず米肌面にある微細な陥没部の糠分がほとん
ど除去されており、平均含水率を約13%~16%を越えないものとしたものであ
る。」(本件公報第4欄22~28行)と記載されており、これに記載された「糠
分」は、洗滌すなわち洗米によって、除去される米肌面の陥没部にある糠であるこ
とが明示されている。そうすると、両明細書に記載された「糠粉」と本件明細書に
記載された「糠分」とは実質的に同じものと認められる。したがって、本件明細書
の特許請求の範囲に記載された「糠分」は、親明細書に記載されていたものであ
る。
 (3)-3 親明細書及び本件明細書には、精白米を水に漬け、その内部まで水が浸
透したものを乾燥させると亀裂が生じるので、洗滌、除水の各工程での米粒吸水部
が米粒の表層部であるうちの短時間で洗滌、除水を行った洗い米が記載されている
ことは明らかである。そして、両明細書には、「本発明(の洗い米)は・・・、約
2%の水分を吸収するまでの極く短時間に、水洗から除水までの各行程を全部処理
することにより」(親明細書公報6頁左下欄6~8行、本件公報第7欄5~7行、
括弧内の文言は、本件公報記載の事項)と記載され、吸収される水分量が具体的に
示され、その量も同じである。そうすると、両明細書に示された除水される時の米
粒の吸水状態は、同じであり、本件明細書には、吸収した水分が、主に米粒表層部
にあれば、米粒全体の吸水量に構わず除水して約13%~16%の平均含水率にす
ればよいことは示されておらず、むしろ、前記吸収した水分が米粒内部に浸透しな
いうち、すなわち表層部にとどまっているうちに洗滌、除水を行うことが強調され
ている。また、本件明細書の特許請求の範囲に記載された「水分が主に米粒表層部
にとどまっているうちに」の「主に」とは、水分が極く僅か米粒の内部に浸透する
可能性を想定して付した文言であり、「水分が主に米粒表層部にとどまっているう
ちに」とは「水分が米粒表層部にとどまっているうちに」とほぼ実質的に同じであ
ることは、本件明細書全体の記載から明らかである。なお、本件明細書の「除水」
については、上記(1)で説示したとおり、親明細書の記載に示されていたことで
ある。
 したがって、本件明細書の「水分が主に米粒表層部にとどまっているうちに」は
親明細書に記載されていたことである。
 (3)-4 「約13%以上16%」の「16%」に約が付されないことは、本件明
細書の記載に例えば「このような米粒の平均含水率(以下、単に「含水率」とい
う。)は16%以下である。」(本件公報第4欄37~39行)とあることから明
らかであり、原告の主張するような16%を越える付近も包含しているものではな
い。
 (3)-5 以上のことから明らかなように、前記(3)-1で説示したことから、前
記補正において「除水」を「米粒表層部に付着吸収した水分を除去すること」とし
たことは、原明細書に記載されていたことから当業者において自明のことであり、
前記補正は、明細書の要旨を変更するものではなく、本件出願日は、前記補正をし
たときに繰り下がらない。
 よって、原告の主張する無効理由1は、本件出願日が、前記補正をしたときに繰
り下がることを前提としたもので、本件出願日(親出願の出願日)以降に頒布され
た刊行物である審判甲第1号証と本件発明1、2を比較して、本件発明1、2の容
易性を主張するものであるので、この理由1は採用できないものであることは明ら
かである。
 (3)-6 また、前記(3)-1~4で説示したことから、原告の主張する理由によ
っては、本件出願が不適法な分割出願とすることができない。
 よって、原告の主張する無効理由2は、本件出願日が、現実の出願日に繰り下が
ることを前提としたもので、親出願の出願日以降に頒布された刊行物である審判甲
第1号証と本件発明1、2を比較して、本件発明1、2の容易性を主張するもので
あるので、この理由2も採用できないものであることは明らかである。
 (4) 無効理由3についての審決の判断
 (4)-1 本件明細書の内容を掲載した本件公報をみてみると、「精白米の水中で
の洗滌、除糠工程及び除水工程を従来とは桁違いに短い時間内で行えば、米粒に亀
裂が入らず炊飯に適する洗い米が得られることを見出し、発明を完成した。前記目
的を達成するため、本発明の洗い米は精白米を水中で洗滌、除糠を行い、更に強制
的に除水を行い、この間米粒の主な吸水部は米粒の表層部にとどまり、水への浸漬
から洗滌、除糠、除水までの数分以内に行ったものであって、米肌には亀裂が発生
しておらず米肌面にある微細な陥没部の糠分がほとんど除去されており、平均含水
率を約13%~16%を越えないものとしたものである。」(第4欄18~28
行)とし、「数分以内とは大体3分~4分より短い時間であり、好ましくは2分~
3分、更に好ましくは1分以内である。」(第4欄42~44行)と記載され、
(実施例1)及び(実施例2)において、それぞれ45秒、約5秒としたものが記
載されている。
 (4)-2 そこで、このような短時間で洗滌、除水を行うための手段についてみて
みると、「本発明の洗い米を得るための洗滌方法は短時間で効率よく除糠、除水で
きる方法であれば特に限定されない。」(第5欄9~11行)とし、洗滌について
は、「精白米の洗滌に当っては、公知の連続洗米機を用いることも出来るが一部改
造の要がある。即ち、洗米槽を小径となし回転数も毎分600回転以上が可能とな
るように改造するのが望ましい。」(第5欄11~15行)と記載され、この連続
洗米機における米の在槽通過時間と洗米機の回転数の設定の仕方についても記載さ
れ(第5欄42行~第6欄10行参照)、(実施例1)及び(実施例2)におい
て、洗滌水の温度、精白米の含水率及び投入量を具体的に示し、前記回転数がそれ
ぞれ毎分600回転、毎分1800回転と記載されている。そうすると、本件発明
における洗滌、除糠において吸水部分が主に米粒の表層部である洗い米とするため
の具体的手段として、連続洗米機が例示され、この連続洗米機が本件発明1、2の
目的を達成するための必要な諸条件が具体的に示されており、またこれら示されて
いる条件では、当業者が容易に本件発明1、2を実施することができないとする理
由もないので、本件明細書の記載に基づき、本件発明1、2における洗滌、除糠を
当業者は容易に実施できるものと認められる。
 (4)-3 他方、除水について、その方法は前記のように本件発明1、2の目的が
達成できるものであれば、特に限定されないとし、「米粒は大量の洗滌水と共に排
出されるので、これを間髪をいれず、直ちに前記洗米装置の後行程に設けた除水装
置にて、洗滌水は勿論のこと、米粒に付着している付着水をも除去するのである。
尚、除水装置は、洗滌水及び付着水を除去出来る機能さえあれば公知の機器でよい
が、只、洗滌水や付着水の除去に時間のかかるものではいけない。何故ならば、折
角洗米工程で、米粒内部に吸水させないようにしたのに、除水工程にて、洗滌水や
付着水の除去に時間がかかり洗滌水や付着水が米粒内部に吸収されては無意味だか
らである。尤も公知の除水装置の中には、吸水の要因となる洗滌水や付着水の大部
分を、瞬間に近い短時間に除去出来るものがあるから、それを選べばよいと云うこ
とである。」(第6欄19~32行)と記載されているが、(実施例1)及び(実
施例2)の記載を含め他に具体的な除水手段の記載はない。
 (4)-4 ところで、「一般的に、洗米によって含水してから乾燥させた米に先ず
亀裂が入る原因は、ひずみに弱い特性を有する米粒が吸水、除水の際、その都度、
部分的(米粒表面と深層部)に膨張と収縮が生じ、ひずみが出来るからである。然
らば、洗米時や除水時に、ひずみの因子となる膨張と収縮が生じない程度の、僅か
の吸水量、及び除水量に押さえることが出来れば、精白米をたとえ水中へ漬けて洗
米し、乾燥させても亀裂が生じないことになる。」(第7欄14~22行)という
記載では、除水と乾燥を同一視しており、また、この記載から当業者は本件発明
1、2のような洗滌後の洗い米がわずかの吸水量であるものは、乾燥によって除水
しても亀裂が生じないものと理解する。
 (4)-5 また、「本発明で除水とは米粒表層部に付着吸収した水分を除去するこ
とであって、米粒がもともと有している水分を乾燥させることではない。」(第4
欄28~31行)と記載されている。この記載は、前記した除水装置が洗滌水と米
表面に付着した付着水を除去するという記載と整合性を欠くが、当業者であれば、
本件発明1、2の除水は、前記洗滌水と表面付着水の除去を目的とするが、その
際、除去される洗滌時に米粒表層部に吸収された水分も対象とするものであると理
解するところである。そして前記のように本件発明1、2において使用される除水
装置は、公知のものから選べばよいとしていることから、公知の洗滌後の洗い米を
除水する装置を考えると、無効理由1、2の項で述べたように((3)-1)、大別し
て審判甲第7号証にみられるような遠心力によるものと審判乙第1,第5~第7号
証にみられるような空気を吹き付ける通風によるものとがあると認められる。そこ
で、遠心脱水における前記技術常識を考えると、当業者であれば、遠心力によるす
なわち遠心脱水によっては、前記付着水は短時間で除去できず、ましてや前記吸収
水分は除去できないと理解し、前記除水は、空気を吹き付ける通風によるものと解
する。
 さらに、この記載では、米粒がもともと有している水分を乾燥させることではな
いとして、「除水」が、内部水分の除去を意図する乾燥すなわち通常行われる米の
乾燥とは違うことを言及していることから、「除水」がこれとは違う乾燥によるも
のであることをうかがい知ることができる。
 (4)-6 以上のことから、本件明細書に記載された「除水」は、空気を吹き付け
る通風による乾燥手段によってなされることが示されていると、当業者であれば、
理解する。また、除水は、極く短時間で行う必要性から、当業者であれば、乾燥手
段と他の除水手段との組合せもあることは当然理解するところでもある。
 (4)-7 そして、審判乙第1,第5~第7号証に記載されるような、空気を吹き
付ける通風による乾燥手段は、当業者において公知であり、また、前記通風の温
度、湿度、風量(風速)及び洗滌米の移送速度によって前記「除水」の程度が決ま
るものであることは、当業者において技術常識であり、本件発明1、2の「除水」
を行うためには、前記の公知のものと比べ、前記風量などにおいて高出力化等を図
る必要があることは当然理解されるところである。さらに、被告らが説明した、本
件明細書に記載の(実施例1)及び(実施例2)の具体的除水手段(この手段は、
本件発明1、2における「除水」を達成することができないという理由がないもの
である。)は、上記風量等において当業者が容易に設定できないというものではな
い。
 (4)-8 以上のことを考慮すると、本件明細書の記載から、当業者は、本件発明
1、2の、とりわけ洗滌、除糠及び除水を容易に実施することができるものと認め
られる。
 (4)-9 なお、原告は、次の旨主張している。
 ① 洗米装置への投入後、除水装置から排出されるまでの所要時間がわずか5秒
であるということは、除水装置としては高性能の遠心脱水機だけしか考えておら
ず、乾燥は除外されていることが明確に示唆されているものである。けだし、仮に
遠心脱水機の後行程に乾燥装置を取り付けたとすれば、約5秒内外といった極めて
短時間にて全行程を完了させることは技術的に不可能である。
 ② 審判甲第22、第34号証などにみられるように、被告らが本件発明の除水
装置として考えているのは、遠心脱水機であり、バンド乾燥機は、本件出願当時は
認識しておらず、当業者も本件明細書から除水手段として、バンド乾燥機は想到す
ることができない。
 ③ 被告らが、本件発明1、2の実施例として口頭審理で説明した審判乙第1,
第5~第7号証のバンド乾燥機をもってしても種々の調製及び工夫を必要とし、こ
れを使用して本件発明1、2を実施することは当業者といえども容易でない。
 ④ 遠心分離機によっても、水分16%にすることは可能であるので、被告らの
主張する遠心分離機で16%以下にはできないことが当業者において常識であると
いう主張に根拠がない。そして、これは亀裂が生じ本件発明の目的を達成すること
ができない。
 (4)-10 そこで、原告の主張する①~④について検討すると、①、③について
は、前述したように、本件発明1、2の除水は少なくとも前記通風による乾燥手段
によるものであり、これによった場合、全行程約5秒でできないという技術的理由
がない。また被告らが説明した、本件発明の(実施例1)及び(実施例2)の具体
的除水手段において、洗米をならすための「ならし板」を設けたり、ファンを増設
する程度のことは当業者であれば、技術常識的に対応することでもある。そうする
と、この①、③の理由で本件発明1、2が当業者において容易に実施できないとす
ることはできない。次に、②については、前述したように本件明細書の記載から、
前記「除水」手段は、少なくとも前記通風による乾燥手段が使用されるものである
と認められる以上、たとえ、被告らが、審判甲第22、第34号証などにおいて
「除水」が遠心分離で行われるものであると主張したとしても、前記認定はこれに
左右されるものではない。さらに④については、前記のように本件発明1、2の
「除水」は、少なくとも前記通風による乾燥手段が使用されるものであると認めら
れることから、遠心分離のみで「除水」することは、本件発明1、2の実施例にな
らないものであるので、遠心分離のみの「除水」に基づくこの主張は当を得ない。
 したがって、これら原告の主張は採用できない。
 (4)-11 以上のことから、本件明細書の記載から、当業者は本件発明1、2を
容易に実施することができ、本件出願は、特許法36条3項の規定を充足してお
り、この無効理由3によって、本件特許を無効にすることはできない。
 (5) 無効理由4についての審決の判断
 本件明細書の発明の詳細な説明の項には前記したように「本発明で除水とは米粒
表層部に付着吸収した水分を除去すること」と規定されていることから、特許請求
の範囲に、この吸収された水分も除去させることが明記されていなくとも、特許請
求の範囲の「強制的に除水して得られる」との記載の「除水」は、除水工程におい
て洗滌水と表面付着水と前記吸収した水分(洗滌水と付着水の除去に際し、除去さ
れるもの)を除水することを意味していることは明らかであり、原告の主張するこ
の無効理由4によって、本件出願が特許法36条4項2号の規定を充足しないとす
ることはできない。なお、前記無効理由3で述べたところの、本件発明1、2にお
ける「除水」が、少なくとも前記通風による乾燥手段によって行われることは、そ
れを実施するための態様であって、本件発明1、2の「除水」において、この通風
による乾燥手段が必須の構成となるものではない。
 (6) 無効理由5についての審決の判断
 審判甲第26号証には、精米後の米を水洗いし、この米を脱水乾燥させ、含水量
が通常の精米よりも多い所定の含水量となった状態で該米を真空パックするもの
で、上記所定の含水量が14.7%としたものが記載されている。しかしながら、
本件発明1でいう「洗滌時に吸水した水分が主に米粒の表層部にとどまっているう
ちに強制的に除水する」ことについての記載はなく、またこれを示唆する記載もな
い。そして、米肌に亀裂がなく、米肌面にある陥没部の糠分がほとんど除去された
洗い米が本件出願前当業者において望まれていたことであるとしても、審判甲第2
6号証には、このような洗い米を製造する方法についての記載がない以上、審判甲
第26号証から当業者は本件発明1を容易に発明することができたとすることはで
きない。
 そうすると、原告のこの理由によっても本件特許を無効にすることはできない。
 (7) 審決の結語
 したがって、前記請求項1及び2に係る本件特許は、原告の主張する前記各理由
及び提出した証拠方法によっては無効にすることができない。
第3 原告主張の審決取消事由
 1 取消事由1(補正が要旨変更に当たらないとした審決の認定の誤り)
 審決は、親明細書及び原明細書に記載の事項の認定を誤り、本件出願において
は、補正により「除水」の対象が洗滌水及び表面付着水のみならず、米粒の表層部
に吸収された水分にまで拡大されており、これに伴って除水手段につき遠心脱水の
みならず「風力、熱力」をも含ませているが、これは、親明細書が除水の対象を
「洗滌水及び表面付着水」に限定し、かつ除水手段につき遠心脱水に限定していた
こととの関連においては、要旨変更となる点を誤認したものである。
 (1) 審決は、その理由の要点(3)-1において、
「親明細書又は原明細書には、(A)の記載から、「乾燥洗い米」は、洗米した
後、乾燥させた米と認められ、(B)の記載から、親明細書又は原明細書でいうと
ころの本発明は、この「乾燥洗い米」及びその製造方法又はその包装方法を開示す
るものと認められる。また、(C)、(H)及び(I)の記載からは、この「乾燥
洗い米」は、含水率が16%以下又は約13%~16%に除水処理されたもので、
この除水(装置)では、ごく表面だけが高含水化して16%以下又は16%を越え
ない含水率で、ほとんど元の乾燥した状態で排出されるものと認められる。さら
に、(D)の記載に、吸水、除水の際にひずみが生じやすく、吸水量と除水量をわ
ずかに押さえれば、米を水に浸けて洗米し、乾燥させても亀裂が生じないとあるよ
うに、除水と乾燥を同一視している記載が認められる。
 そうすると、これら記載を総合すると、親明細書及び原明細書における「除水」
は、「乾燥」手段によることが示されていると認められる。なお、(F)の記載に
ある「乾燥」は、「乾燥洗い米」における「乾燥」状態について規定するもので、
(A)及び(D)の記載にある「乾燥させ」は、乾燥手段によって乾燥させること
を意味していると解される。」
と認定判断しているが、誤りである。
 (2) すなわち、この「乾燥」については、親明細書及び原明細書のいずれにおい
ても「米粒を常温で保存していても、腐敗したり発カビしない限度、すなわち、含
水率が16%以下の含水状態を指すものである。」と明確に定義されている。この
定義は、親明細書及び原明細書における「乾燥洗い米」は「含水率が16%以下の
含水状態」によっているものであるから、米粒に残存している含有水分の上限値を
数値的に限定したものといえる。
 それゆえ、「含水率が16%以下の含水状態」を達成するための手段を、この
「乾燥」の定義から演繹することは理論的に不可能である。
 (3) 親明細書及び原明細書において、「乾燥洗い米」以外に使用されている「乾
燥」の技術的意味内容はいろいろあるが、いずれも米粒の内部水分を除去すること
を指しており、内部水分を除去することを意味する。
 そして、親明細書及び原明細書における「除水」は、「除水装置」にて行われる
こと、また、「除水」の対象は内部水分でなく、外部水分たる「洗滌水及び付着
水」であり、その「洗滌水及び付着水」を除去することによって「内部水分16%
以下の含水率」の状態にするものと解される。したがって、親明細書及び原明細書
における発明に直接関連した「除水」とは、「除水工程」を担う「除水装置」によ
って行われるものであり、「除水」の対象となるものは米粒の内部水分ではなく、
外部水分たる「洗滌水及び付着水」であることが明白である。
 このような外部水分たる「洗滌水及び付着水」を除去することによって、米粒の
「内部含水率が16%以下の含水率」の状態にするものと解される。
 (4) このように、親明細書及び原明細書における発明に直接関連した「除水」と
は、外部水分たる「洗滌水及び付着水」を除去することであって、決して内部水分
を取り除くことではない。これに対し、親明細書及び原明細書における「乾燥洗い
米」以外の「乾燥」とは、前述のように、内部水分を取り除くことである。
 したがって、「除水」と「乾燥」とは同じ水分除去であっても、取り除く対象が
前者は外部水分、後者は内部水分と明確に異なるので、審決が、「除水」と「乾
燥」とを同一視したり、「除水」は「乾燥」手段によるものと認定したのは、誤り
である。
 (5) 「除水」の意義と親発明(親出願に係る発明)の基本原理からみても、審決
の上記認定は誤りである。
 すなわち、本件においてその解釈が問題となっている「除水」なる用語は、親明
細書のクレームに記載されている文言である。それゆえ、「除水」なる用語の解釈
は、親明細書の発明の詳細な説明の項の記載を参酌する以前において、まず、通常
のクレームの解釈論によるべきである。
 各種工学辞典、ハンドブック、便覧及び教科書等の技術関係文献では、「除水」
なる用語自体を見いだし得ない。そうだとすると、「除水」なる用語は、学術上の
技術用語ではなく、一般用語であることから、「広辞苑」によるものとし、これに
よれば「水を排除する」という意味を有するにとどまり、「除水」とは、「水をお
しのけのぞくこと」を意味する。「除水」とは、液体としての水を排除するもので
あって、この用語によって、固体粒子(米粒等)から水分(液体とは厳然と区別さ
れた「みずけ」)を除去するという意味合いを導き出すのは理論上不可能である。
 これに対し、「乾燥」なる用語は、学術上の技術用語であって、親明細書のクレ
ームにおける「除水」とは、液体としての水を排除することであるのに対し、技術
用語としての「乾燥」とは、熱の導入によって水分を気化蒸発させることであり、
前者が液体としての水をそのまま除去するのに対し、後者は固体に含まれている水
分を相変化により気化蒸発させるという明白な差異が存する。
 (6) 親発明の基本原理について述べると、親明細書の発明の詳細な説明の項の
「作用」欄には次のような記載があり、次のとおり評価することができる。
 ① 精白米の吸水特性について
「精白米は水中に浸漬後、約1時間で飽和点の含水率約30%に到達する。・・・
浸漬時間と水分上昇の関係は定率で進行するのではなく、極めて反加速度的に進行
する。
 従って、浸漬直後、最初の1秒間の吸水量は、最終の10分間の吸水量に匹敵す
る程、最初は最も急上昇し、更にその最初の1秒間について分析しても、最後の
0.1秒間の吸水量よりも最初の0.1秒間の吸水量の方が、はるかに多いことは
いうまでもないことである。このように米の吸水特性は、水に侵漬(「浸漬」の誤
記)直後より、時間の経過と共に吸水速度は加速度的に鈍化する。従って、浸漬直
後は極く短時間でも、かなりの量の吸水をするので、それに到らない僅かの時間内
に洗米を完了し、直ちに除水することである。」(親明細書公報2頁右下欄15行
ないし3頁左上欄10行)
 この記載によると、米粒は、水に漬けると直ちに吸水を開始し、かつ、その吸水
量は当初ほど大きく、吸水速度は極めて反加速度的なものであるとしているが、こ
の米粒の吸水速度に関する記載は、親明細書の発明者の独自の見解にすぎない。
 ② 精白米の洗米特性について
「精白米の表面には肉眼では見えない無数で微細な陥没部があり、それに入り込ん
でいる澱粉粒や糠粉を除去するには、やはり、どうしても米粒群を水の中にザブン
と漬けて、少なくとも30回以上は攪拌して洗米する必要がある。その理由は、糠
粉等が入り込んでいる陥没部は、開口面よりも深みが長く、然も大半はミクロン単
位の狭い開口面だから、その奥の方に入り込んでいる糠粉等を除去するには、水中
に浸して激しく攪拌されている間に、糠粉等を水に浮遊させて洗い流す以外にな
い。
 然もそのような洗米は、前記のとおり、僅かの時間内に行なう必要がある。」
(親明細書公報3頁左上欄12行ないしないし右上欄4行)
 この記載によると、洗米によって除去すべき対象物は、無数で微細な陥没部に入
り込んだ澱粉粒や糠粉であって、これらを洗い流すといった手法が見いだされてい
る。
 (7) 親明細書の記載では、水洗から除水までの全行程を完了させる間に、米粒に
は約2%の水分しか吸収させないことが述べられている。
 ところで、精白米の通常含水率は約14%であるから、これに増加水分たる約2
%をプラスしても、約16%の含水率にしかならない。これにより、除水は付着水
分(もちろん、洗滌水も含む。)の除去のみで事足りることになり、それゆえ、米
粒の表面部若しくは内側部に吸収された水分を除去する必要は毛頭ない。
 (8) 以上のとおり、「表層部」に吸収された水分を除去することは親明細書に包
含されていないのであり、原明細書からも同様に読み取ることができる。したがっ
て、「表層部」に吸収された水分を除去することは、原明細書にも包含されていな
い。
 (9) 本件明細書には、表面付着水の除去と吸収された水分との関係についての記
載があり、この記載によれば、本件発明は最大限において約2%までの水分増加を
許容している。そこで、精白米におけるこの増加した約2%の水分の所在分布を考
察すれば、次のとおりである。
 精白米の吸水試験(甲第25号証)によれば、水中への浸漬からおおむね45秒
以内の短い時間帯では、脱水後の精白米の水分値にはほとんど差が認められない。
すなわち、3秒目から45秒目までの42秒間において、わずか0.1%しか含水
率が増加しておらず、この増加した0.1%の水分は、精白米に吸収された水分と
推察される。
 このように、精白米の水分吸収速度が誠に遅々たるものだとすると、浸漬時間3
秒における増加した精白米の含水率1.9%のほとんどは、表面付着水と考えられ
る。そうだとすると、最大限約2%近くの表面付着水が精白米に残留しているの
に、これを飛び越えて精白米に吸収された水分の除去を想定することは、物理的に
は背理である。
 また、甲第25号証を基に付着水分の厚さを計算すると、米粒の表面には最大値
でいまだ厚さ11.6μmの水分が付着しているから、米粒内部に吸収された水分
を除去する必要はない。
 (10) レーザー顕微鏡による吸水試験の追試(甲第64ないし第66号証)から
も、水中への浸漬からおおむね45秒以内の短い時間帯では、脱水後の精白米の水
分値にはほとんど差が認められないことは明らかである。すなわち、米粒内面への
水の浸透は、約45秒経過時点まではほとんど認められず、60秒経過時点から徐
々に浸透が始まっているのである。
 したがって、本件発明においては、増加が許容されている2%の水分の大部分
は、表面付着水であり、除水の対象となるのは、洗滌水の全部と表面付着水の全部
ではなくその一部であって、除去された後の米粒にはいまだ表面付着水が残存して
いるもので、吸収された水分の除去は毛頭必要ない。
 (11) 審決は、「遠心脱水は、粒子と粒子の間に毛管上昇の作用で存在する水又
は液体を除去することが狙いで、粒子表面に付着している水分、粒子内の間隙に存
在する水分等はその対象でないことが当業者において技術常識である」と認定して
いる。
 しかし、遠心脱水に関する文献の記述によると、遠心脱水(若しくは遠心力)に
よって物体の表面に付着している液体は除去されることが明白であり、したがっ
て、審決の認定の基礎となった審判乙第11号証の3(「増補 遠心分離」昭和6
0年1月5日、(株)化学工業社発行、8頁。本訴甲第11号証)の「粒子表面に
付着している水分・・・は遠心脱水の対象ではない。」との記載は一学者の意見で
あって、当業者の技術常識でもない。
 そうだとすると、審決が、唯一この文献を根拠に、遠心脱水では表面付着水を除
去することはできないと認定したのは誤りである。
 (12) 遠心脱水により粒子表面に付着している水分が除去できることは、甲第2
6~第28号証により明らかである。甲第26~第28号証の試験1ないし3の結
果によれば、遠心脱水にて洗滌水及び表面付着水を除去して、米粒の含水率を16
%以内に抑えることが充分可能であるといった結果が導き出されている。
 したがって、遠心脱水にて表面付着水を除去した結果、米粒の含水率は16%以
内に抑えることができるものであるから、審決の認定は誤りである。
 (13) 審決は、上記の事実誤認に端を発して、「遠心脱水によっては、前記付着
水を短時間で除去できず、当業者であれば、前記除水は、空気を吹き付ける通風に
よるものと解する。」と認定しているが、これも誤りである。
 すなわち、遠心脱水によって短時間に米粒の含水率を16%以内に抑えるような
表面付着水を除去できるものであるから、当業者であれば、前記「除水」はこの遠
心脱水によるものと解するのが一般であったからである。
 2 取消事由2(分割出願の適法性の判断の誤り)
 本件出願は適法な分割出願ではなく、その出願日は、現実に出願した平成4年6
月12日となる。
 (1) 本件発明は、分割出願の当初から「表層部」に吸収された水分を除去するこ
とを包含していたとすれば、分割出願の基となった親明細書には、「除水行程によ
って洗滌水と表面付着水の除水を行う」(3頁右上欄7行及び8行)と記載されて
いるだけで、「表層部」に吸収された水分を除去することについての言及がないだ
けでなく、示唆もされていないこととの対比において、分割出願は要旨を変更した
ものであって、不適法である。
 (2) 審決は、本件明細書と親明細書とには、「洗米によって除糠する糠は、精白
米表面の陥没部に入り込んでいる糠粉であることを明示している」、「糠分」は、
「洗滌すなわち洗米によって、除去される米肌面の陥没部にある糠であることが明
示されている。」として、両明細書に記載された「糠粉」と本件明細書に記載され
た「糠分」とは、実質的に同じもので、本件明細書の特許請求の範囲に記載された
「糠分」は、親明細書に記載されていたものと認定しているが、以下に述べるとお
り誤りである。
 (3) 本件明細書には、本件発明の効果として、次のような記載がある。
「米肌面に亀裂がなく、米肌面陥没部の糠分が殆ど除かれているので、炊き上がっ
た飯は糠の臭みがなく、光沢があり、おいしいご飯である。又、糠粉をほとんど除
去された本発明品は、従来の米よりも鮮度が落ちず、保存性がよい。」(7頁第1
4欄5行ないし8頁15欄4行)
 この効果に関する記載によれば、「糠分」は、炊飯米についての糠臭みとか、光
沢・食味に関連しているのに対し、「糠粉」は、精白米の鮮度保持・保存に関連し
ている。そして、炊飯米に糠臭みがあるとか、光沢がないことについては、精白米
表面の縦溝に一部残留した糊粉層が原因と考えられ、精白米の鮮度が劣化して保存
が効かないことについては、「糠粉」を栄養源とした黴の発生が原因と考えられて
いる。
 そうだとすると、「糠分」は、精白米表面の縦溝に一部残留した糊粉層であるの
に対し、「糠粉」は、精米過程で一度米粒から剥離された糠が、その後、精白米表
面の微細な陥没部に入り込んだものであることが明白である。
 それゆえ、「糠分」と「糠粉」とを実質的に同一のものとした審決の認定は誤り
である。
 (4) 本件発明の出願過程において、親明細書に記載されていた「糠粉」を「糠
分」に変更した背景として、次のようなものが考えられる。
 すなわち、本件発明は精白米の「洗滌」を必須の要件とするものであるところ、
この「洗滌」とは、精米過程において一度米粒から剥離された糠が米粒に付着した
ものを、米粒群が水中に漬かるほどの大量の水の中で攪拌することによって、その
水流を利用しながら「糠粉」を水に浮遊させて洗い流すことを意味している(本件
公報4頁第7欄40行ないし末行、同頁第8欄25行ないし27行)。
 ところで、親明細書の出願当時、当業界における無洗米の製造方法としては、次
のような技術が周知であった。
 a 水と米粒との混合物に加圧旋回流を与え、水の存在下に、米粒相互及び米粒
と円筒壁とを摩擦接触させることによって「糠粉」のみならず「糠分」(残留した
糊粉層)をも除去する水中搗精方式。
 b 精白米に2%以下の微量の水を添加して精白米の表面(特に、糊粉層)を湿
潤軟化させながら、噴風精白作用によって右糊粉層に残留した糠を除去する湿潤研
米方式。
 これら2つの無洗米の製造方式は、精白米表面の縦溝に残留した糊粉層を除去す
ることを目的としていた。
 被告らは本件出願において、親出願の後に世上に出回った無洗米が、前a記載の
水中搗精方式を採用していたことから、これをも本件洗い米特許発明の技術的範囲
に取り込むべく、分割出願に当たって親出願における「糠粉」を精白米表面の縦溝
に残留した糊粉層を意味する「糠分」に拡大変更してきたものである。このような
背景を考えるならば、親明細書における「糠粉」を、糊粉層をも一部含んだ「糠
分」に変更拡大することは許されない。
 3 取消事由3(明細書の記載要件の判断の誤り-特許法36条3項)
 審決は、公知の連続洗米機と公知の除水装置とによって米粒に亀裂を有さない洗
い米を製造することは当業者が容易に実施できる事項であると認定しているが、審
決のかかる認定は、次に示すとおり誤りである。
 (1) 本件明細書には、本件発明における除水の意義とその技術的構成要件が記載
されておらず、当業者は、明細書の記載に基づいて、公知の機器の中からそれを実
施できる除水装置を選ぶことができない。そもそも、除水は学術上の技術用語とし
ては存在せず、国語の意味では水を排除する、すなわち排水のことであって、洗滌
槽や脱水槽に貯留した水を排水することが普通の意味である。
 したがって、公知の除水装置という文言からは、連続洗米機の洗米槽から洗滌水
を排水する装置という意義しか導けず、米粒に付着している付着水を除去する機能
は奏さないものである。すなわち、公知の除水装置によって洗滌水と表面付着水と
を除去できるものであれば、それは極めて特殊な除水装置であるということにな
り、その具体的構成が明らかにされない限り、当業者は本件発明を容易に実施をす
ることができない。
 (2) 本件発明の特許請求の範囲の「米肌に亀裂がなく」とは、米肌に亀裂が全く
ない米粒の集合であるが、かかる課題を克服する必要な公知の連続洗米機と公知の
除水装置とが何ら明らかにされておらず、また、遠心脱水機だけで水分が16%以
下になるが、遠心脱水機だけで水分を16%以下にした場合に亀裂のない洗い米を
得ることは不可能である。
 (3) 第2実施例で「除水装置を高性能にした」(本件公報第10欄25行)とい
っても、元々の除水装置の内容が明らかではない上に、どの部分をどのように高性
能にしたのか明らかではないから、公知の連続洗米機と公知の除水装置の具体的構
成が特定できない限り、どのように改造したら亀裂のない洗い米が製造できるのか
は本件明細書には全く不明であり、当業者はどのように改造してよいのかを理解す
ることができない。
 (4) 本件発明の「除水」概念の内容において送風乾燥手段を含むとするなら、当
業界における前述したような熱を利用した送風乾燥の急速処理をタブー視していた
現実を打破するような記載があってしかるべきである。なぜなら、本件発明の「除
水」概念の内容を考えるについては、当時、米穀業界において熱を利用した送風乾
燥については、ゆっくり徐々に行うといった周知の事項を考慮に入れると、極めて
短時間に除水処理するには、遠心脱水しか当業者は思い至らなかったからである。
 しかるに、そのような記載はない。
 4 取消事由4(明細書の記載要件の判断の誤り-特許法36条4項)
 審決は、「本件発明1、2における「除水」が、少なくとも前記通風による乾燥
手段によって行われることは、それを実施するための態様であって、本件発明1、
2の「除水」において、この通風による乾燥手段が必須の構成となるものではな
い。」と認定している。
 他方審決は、無効理由1及び2に関する判断部分において、「除水」は、機械的
手段によって行われること、洗滌水を機械的に除去する手段は、大別して遠心脱水
か空気を吹き付ける通風によることを認定している。
 以上の認定を前提として、審決は、付着水を短時間で除去できる手段は、遠心脱
水ではなく、空気を吹き付ける通風による乾燥手段であるから、「親明細書及び原
明細書」記載の「除水」は、空気を吹き付ける通風による乾燥手段によってなされ
ることが示されていると結論づけている。
 してみると、審決は、一方において、本件発明1及び2における「除水」につ
き、通風による乾燥手段は必須の構成ではないと認定しておきながら、他方におい
て、審決は、これとは反対に、通風による乾燥手段はあたかも必須の構成であるか
のように認定しており、これら両認定は齟齬する。
 したがって、本件発明1及び2における「除水」の解釈について、審決には審理
不尽が存する。
第4 審決取消事由に対する被告らの反論
 1 取消事由1に対して
 (1) 審決は引用箇所(F)を乾燥状態の定義であると認定しているが、それをも
って、その乾燥状態に至らしめる行為、すなわち乾燥手段によることまで演繹して
いるわけではなく、引用箇所(A)及び(D)に記載されている「乾燥させ」か
ら、乾燥手段によって乾燥させると解されるとしているものである。
 (2) 親明細書及び原明細書においては「乾燥」なる語句が多々用いられている
が、動詞、名詞、形容詞付きの名詞等によって「乾操」なる用語を用いているか
ら、その用い方によって意味が異なるのは当然である。審決が引用した(D)の
「然からば」以降に記載される「乾燥させても」は、本件発明の原理説明に関する
除水手段としての「乾燥」を表しているものである。
 (3) 本件発明は、除水することによって「内部水分が16%以下の含水率の状
態」にするものではない。洗滌時に、米粒の内部、すなわち深層部にまで吸水させ
るわけではないから、米粒内部は、洗米、除水に関係なく元の16%以下の状態の
ままである。
 (4) 洗米時に米粒表層部に吸収された水も吸収時において物理的状態の変化が生
じるわけではなく、この米粒表層部の「水分」「みずけ」も「洗滌着水」と区別の
ない「液体の水」であって、本件発明における「除水」の対象となる「水」は、そ
れぞれの文意から、「液体である水」、「水分」、「みずけ」等に理解すべきであっ
て、同じ「水」という記載がされていても、全体の文意から「粒子群の付着液」あ
るいは、「粒子に付着している水分」とそれぞれに理解すべきものである。
 本件発明の要件として「16%以下」が不可欠なのに、それを原告は、その「以
下」を見落とし、処理前にどのような含水率の精白米でも、すべて「16%」に仕
上げるものと誤認して主張しているにすぎない。本件発明は、確かに米粒の内部
(深層部)には吸水させないし、また、その内部の水分(元からの水分)を除去す
ることはしない。表面部(表層部)に吸収された水分のうち、表面に近い部分の水
分は必然的に表面付着水と共に除去されるのである。そもそも米粒は、洗米工程中
は無論のこと、除水工程中の初期においても吸水する。除水工程に入っても、米粒
に付着している水が除去されるまでの間は、その水が米粒表層部に吸収されるので
あり、本件発明では、ほとんどの場合、表層部の表面寄りでない部分の吸収水は除
去されず残存する。
 してみると、米粒の付着水のうち、米粒表層部に吸収されかつ除去しきれず吸収
残存水となったもの以外の付着水は除去していることになる。
 (5) また、本件明細書において「約2%」に関する記載は一箇所しかなく、それ
は「本発明の洗い米は上記したように、約2%の水分を吸収するまでの極く短時間
に、水洗から除水までの各工程を全部処理することにより製造されるものであ
る。」(本件公報第7欄5~8行)と記載されている箇所である。そこには「水分
を吸収するまで」と記載されているとおり、「約2%」は吸収される水分であり、
この「約2%」には付着している水は一切含まれていないことは、上記記載により
明白である。さらに本件明細書には、「なお、本発明で洗い米の「含水率」という
のは付着水を除いた時の「平均含水率」のことである」(本件公報第5欄2~4
行)と明確に記載され、除水後の米粒の増加した水分は、付着水ではなくすべて吸
収された水分であることは明白である。
 親明細書の記載を参照すれば、親明細書に、表面部(表層部)のうち、表面寄り
の部分の吸収水が除去されていることが示されていることも明らかである。
 (6) 甲第25号証の報告書の水分値はいずれも作為的数値の疑いが濃厚であり、
その内容は事実に反する。
 (7) 甲第64ないし第66号証のような試験は、米の吸水試験にはなり得ない。
米粒の特性として、米粒の表面に近い部分は別として、それより深部には水以外の
物質は全くといってよいほど浸透しないのである。したがって、甲第64ないし第
66号証のように、サフラニン1%水溶液(ほかの水溶液でも同じであるが)に、
精白米粒を1時間浸漬しても、サフラニンは表面に近い部分より深部には浸透でき
ない。
 このことは業界の常識であり、1時間浸漬していても赤色のサフラニンは表面部
分より内部へは浸透していないとの結果を示す乙第57号証によれば、甲第64な
いし第66号証の試験では米粒の吸水状態を捉えられていないことは明白である。
 (8) 本件発明は除水手段として遠心脱水の使用を限定するものではない。本件明
細書には「除水装置は、洗滌水や付着水を除去できる機能さえあれば公知の機器で
よいが、只、洗滌水や付着水を除去の時間がかかるものではいけない。何故なら
ば・・・尤も公知の除水装置の中には、吸水の要因となる洗滌水や付着水の大部分
を、瞬時に近い短時間に除去できるものがあるから、それを選べばよいと云うこと
である」(本件公報第6欄23~32行)と記載されているのであるから、本件発明
において「除水」を遠心脱水に限定していないことは明らかである。
 したがって、原告主張のように、「除水」手段としては、原明細書の出願当時、
原明細書によれば当業者は遠心脱水によるものと理解するのが通常であるとするこ
とはできない。
 (9) 本件補正の当初案では、通常の乾燥(長時間かけて徐々に水分を減らしてい
く乾燥)と誤解されるおそれのある「乾燥」の文字は削除していたものの、親明細
書に示されていた本件発明の構成に不可欠な「除水」の範疇に含まれる「瞬間的乾
燥」までも削除されたかのような文意となっているとの指摘が、審判官からあっ
た。この経緯を経て、本件発明の「除水」の範疇に入る「乾燥」が、長時間かける
通常の乾燥や、特別の乾燥(例えば、紙袋入りの高含水玄米を低湿度倉庫に少なく
とも10日以上保管して含水率を下げる乾燥)をするものと誤解されたり、又は、
親明細書にも記されている「付着水分の除去」を行うための「瞬間的乾操」までし
ないものとの誤解を避けるため、正式な手続補正により、明細書に「なお本発明で
除水とは米粒表層部に付着吸収した水分を除去することであって、米粒がもともと
有している水分を乾燥させることでない。」との文言を挿入したものである。
 したがって、手続補正書の補正は、通常の意味の長時間「乾燥」との混同を避け
るためにしたのであって、要旨変更には当たらない。
 2 取消事由2に対して
 「糠」には、①玄米の外部を構成している糠層を粉状に剥離したもの、②精白米
粒の表面に剥離されずに残っているもの、③剥離されてから再び米粒に付着してい
るもの、などいろいろあり、当業界では、これらを特定した呼称はない。
 ②及び③の呼称も「糠」「糠粉」「糠分」「付着糠」「残存糠」「糊粉糠」「糊
粉層の残留物」「残留糊粉糠片」「アリューロン残留物」など、多種多称に呼称さ
れていたのであり、親出願を含む本件出願時には、上記の命名もなく、②及び③の
呼称を単に「糠粉」「糠分」等と記したにすぎず、いずれも同じものを指してい
る。
 3 取消事由3に対して
 (1) 親出願当時の当業界の実状は、「洗米から除水完了までを短時間に行う」こ
とにより、従来にない、亀裂のない洗い米が製造可能であることが知られていたに
もかかわらず、そのように短時間に処理する具体的方法や装置がなかったために、
そのような洗い米の製造ができなかったというようなものではなかった。
 しかし、当時の当業界では、それはプラス効果など全くなく、しかも、著しいマ
イナス効果が生じるとだれもが信じていたのである。したがって、本件発明の開示
は「短時間に洗米除水をするだけで、何故亀裂のない洗い米ができるのか」を当業
者に理解させることが最も重要であり、「どのようにして短時間に洗米除水を達成
するか」は、当業者にとって、格別教えられなくとも十分知り得たことである。
 (2) 本件明細書の実施例1の説明文中には、
 ①「公知の構造の回転式連続洗米機の攪拌体を毎分600回転となし」、
 ②「その出口のところに連続して除水装置を設けてなる水洗工程と除水工程を構
成し」、
 ③「該洗米機に3℃の水を注入し乍ら・・・精白米を連続的に毎分1kgペース
で投入する」、
 ④「精白米は洗米機の洗米槽の中で運動している注入水の中にザブンと入り、水
中で攪拌され洗米され乍ら洗米機の出口より洗滌水と共に排出され、直ちに次工程
の除水装置に入る」、
 ⑤「ここで洗滌水及び付着水が強制的に除去されて除水装置より排出される」と
記されている。
 実施例2の説明文中には、
 ⑥「上記洗米機の回転数を1800回転となし」、
 ⑦「除水装置を高性能にした除水行程を構成し」、
 ⑧「25℃の水を注入し乍ら・・・精白米を連続的に毎分10kgペースの速さ
で投入する」、
 ⑨「精白米が洗米槽の水に漬かった時から、除水装置から排出されるまでの時間
は約5秒であった」、
 ⑩「除水工程より出たての米は含水率14.5%になっており」と記されてい
る。
 以上により、当業者は本件明細書の実施例の洗米機は乙第1号証のような洗米機
であること、また、実施例の除水装置は単独、若しくは併用のいずれの場合でも、
最終工程はバンド式通風乾燥装置が用いられていることを知ることができる。
 洗米機と除水装置との組合せの構成は、洗米機の出口から排出された米が除水装
置に直ちに入るように組み合わされていることも、前記②にて知ることができる。
 (3) 「米肌に亀裂がなく」とは、本件発明の実施例1においても、「10粒に1
粒の割合でしか亀裂が入らず(元の精白米が約50粒に1粒の割合で亀裂の入った
米であった)」(本件公報第10欄8~10行)と記載されているように、せいぜ
い2%から10%程度に増加する程度であるとしているのであり、100%亀裂が
入らないとしているのではないことは明らかである。
 (4) 本件明細書にも、「本発明の洗い米を得るための洗滌方法は短時間で効率よ
く、除糠、除水できる方法であれば特に限定されない。精白米の洗滌に当たって
は、公知の連続洗米機を用いることも出来るが一部改造の要がある。即ち、洗米槽
を小径となし回転数も毎分600回転以上が可能となるように改造するのが望まし
い」(本件公報第5欄9~15行)と記載され、さらに、「そこで、・・・洗米機
での米粒の在槽通過時間が短くなるように考慮して、回転数や槽の大きさを定める
必要があると云うことである。・・・前記の通り、短い在槽時間内で、充分な洗米
に必要な数だけ攪拌を行おうとすれば、洗米機の攪拌体の回転数を速くする必要が
ある。要は、連続洗米機により洗滌を行う場合は従来とは桁違いに短い在槽通過時
間内に、充分な洗米に必要な攪拌回数が行われる回転数を設定することである。」
(本件公報第5欄39行~第6欄10行)と記載されており、また、米粒の在槽通
過時間が「吸水部が米粒の表層部である時間巾は、洗滌法、洗滌条件等によって変
わるが数分以内である必要がある。数分以内とは大体3分~4分より短い時間であ
り、好ましくは2分~3分で、更に好ましくは1分以内である。」(本件公報第4欄
41~44行)と記載されているのであるから、これらの条件に適う適宜の設定時
間内に充分な除水・除糠ができるように、回転数が毎分600回転以上に運転でき
るように装置を設計すればよいのであって、詳細な数値等の設計内容を明細書に記
載するまでもない。
 4 取消事由4に対して
 審決は、除水手段として「遠心脱水手段」か「通風乾燥手段」かの説示の際には
「通風乾燥手段が使用される」との認定をしているのに対し、原告が「通風乾燥手
段が必須の構成ではないと認定している」と指摘するのは、本件発明における除水
の要件について説示した部分におけるものである。その間に齟齬はない。
第5 当裁判所の判断
 1 取消事由1(明細書の要旨変更の判断の誤り)について
 (1) 原明細書の記載中審決が引用したのに代表される「除水」に関する部分を摘
示すると、次のものがある(甲第5号証)。
 (1)-1 「精白米は一旦水に漬けたら、これを乾燥せしめると必ず亀裂が入り、
その内に砕粒化してしまうので、今まで知られている乾燥洗い米は炊いて食しても
美味といえるものではなく、炊飯には適さなかった。」(第1欄30~33行)
 (1)-2 「本発明はこのような点に鑑み、水洗、乾燥後も米粒に亀裂が入らず、
しかも、炊いた米飯の食味が低下しない乾燥洗い米を得ることを目的としており、
更にその包装方法を提供することを目的とするものである。」(第2欄20~24
行)
 (1)-3 「一般的に、洗米によって含水してから乾燥させた米にまず亀裂が入る
原因は、ひずみに弱い特性を有する米粒が吸水、除水の際、その都度、部分的に膨
張と収縮が生じ、ひずみが出来るからである。然からば、洗米時や除水時に、ひず
みの因子となる膨張と収縮が生じない程度の、僅かの吸水量、及び除水量に抑える
ことが出来れば、精白米をたとえ水中に漬けて洗米し、乾燥させても亀裂が生じな
いことになる。」(第5欄8~15行)
 (1)-4 「本発明の乾燥洗い米を製造する場合は、洗米工程で、極く短時間に精
白米を水の中に漬けた状態で洗米して除糠を行ない、直ちに除水工程によって洗滌
水と表面付着水の除水を行なうのである。」(第5欄44~48行)
 (1)-5 「このように、充分な洗米が行われて、前記洗米機より排出されるよう
になるが、大抵の洗米機の場合、米粒は大量の洗滌米と共に排出されるので、これ
を間髪をいれず直ちに前記洗米装置の後工程に設けた除水装置にて、洗滌水は勿論
のこと、米粒表面に付着している付着水をも除去するのである。」(第4欄14~
20行)
 (1)-6 「本明細書で、乾燥洗い米と表現している『乾燥』なる意味であるが、
米粒を常温で保存していても、腐敗したり発カビしない限度、即ち、含水率がほぼ
16%をこえない含水状態を示すのである。」(第6欄15~18行)
 (2) 親明細書においても、「除水」に関連性を有するものとして、次のとおり原
明細書の記載とほぼ同一の記載があったことは、審決認定の記載のうち次のものか
ら明らかである(甲第4号証)。
 (2)-1 「精白米は一旦水に漬けたら、これを乾燥せしめると必ず亀裂が入り、
その内に砕粒化してしまうので、今まで洗米した後、乾燥させた米、即ち『乾燥洗
い米』と云えるものは全く存在しなかった。」(2頁左上欄2~6行)
 (2)-2 「本発明は、このような点に鑑み、消費者が洗わずに炊け、然も食味が
落ちない『乾燥洗い米』及びその製造方法を開示するものである。」(2頁左下欄
5~8行)
 (2)-3 「一般的に、洗米によって含水してから乾燥させた米に先ず亀裂が入る
原因は、ひずみに弱い特性を有する米粒が吸水、除水の際、その都度、部分的に膨
張と収縮が生じ、ひずみが出来るからである。然らば、洗米時や除水時に、ひずみ
の因子となる膨張と収縮が生じない程度の、僅かの吸水量、及び除水量に押えるこ
とが出来れば、精白米をたとえ水中へザブンと漬けて洗米し、乾燥させても亀裂が
生じないことになる。」(2頁右下欄4~12行)
 (2)-4 「本発明は、高速度で攪拌する洗米工程で、極く短時間に精白米を水の
中に漬けた状態で洗米して除糠を行ない、直ちに除水行程によって洗滌水と表面付
着水の除水を行うのである。」(3頁右上欄5~8行)
 (2)-5 「本明細書で、乾燥洗い米と表現している『乾燥』なる意味であるが、
米粒を常温で保存していても、腐敗したり発カビしない限度、即ち、含水率が16
%以下の含水状態を指すのである。」(3頁左下欄10~13行)
 (3) 上記のとおり、原明細書及び親明細書は、従来存在しなかった、消費者が洗
わずに炊け、食味が落ちない「乾燥洗い米」及びその製造方法を開示するものであ
り、従来の洗い米においては、洗米の際の吸水、乾燥に伴う膨張、収縮により、ひ
ずみを生じて米粒に亀裂が生じることから、それらの記載においては、これを生じ
ないほどのごく短い時間に洗滌、除糠と除水を行うという方法により実現するもの
であることが開示されている。このように、原明細書及び親明細書に開示されてい
る技術は、極めて短い時間内に米粒の洗浄及び除水を行うことによって、米粒の吸
水を最小限に抑えることにより米粒のひずみの発生を抑え、これにより米粒のひび
割れ、砕粒の発生を防止するという作用効果を奏するものであることが明らかであ
る。
 そうすると、その作用効果を奏するためには、洗米後、速やかに、洗滌水のみな
らず、表面付着水も完全に除去する必要があることも、原明細書及び親明細書の記
載から明らかに認められる。
 (4) そして、甲第11号証によれば、「増補 遠心分離」昭和60年1月5日、
(株)化学工業社発行8頁(審判乙第11号証の3)に、「遠心脱水は主として堆
積層をなす粒子と粒子の間に毛細上昇の作用で存在する水または液体を除去するこ
とがねらいである。したがって、粒子表面に付着している水分・・・は遠心脱水の
対象ではない。」と記載されていることが認められ、この記載によれば、少なくと
も、遠心脱水の方法によっては、物質の表面付着水の全部をごく短時間に除去する
ことはできないものと認められる。したがって、原明細書及び親明細書に開示され
ている除水を達成する手段としては、公知の送風乾燥等の手段を用い、あるいはこ
れと組み合わせて他の脱水手段を用いるべきことは、当業者にとって自明の事項と
認めることができる。
 原告は甲第26ないし第28号証の試験結果をもって、遠心脱水でも粒子表面に
付着している水分の除去が可能であると主張するが、仮にそれが可能であるとして
も、当業者としては、甲第26ないし第28号証に示された遠心脱水による試験結
果(本件審判請求後に行われたものである。)から、遠心脱水の手段のみが開示さ
れていると理解するよりは、一般的な技術文献の記載によって原明細書及び親明細
書に開示の除水達成手段の適用を考えるのが自然であると認められる。
 なお、甲第2号証の本件明細書によれば、本件発明は、除水手段について特に限
定するものではなく、公知の遠心分離装置の利用を排除しているものではないと認
められるが、上記「増補 遠心分離」の記載からすると、本件発明が構成とする1
6%以下の平均含水率を達成するためには、遠心分離装置を利用するときには他の
除水手段と併用する必要があるものと、一般的に理解されるものと認められる。
 (5) したがって、原明細書及び親明細書に記載された「除水」を、本件明細書に
おいて「米粒表層部に付着吸収した水分を除去すること」と補正した点において、
明細書の要旨の変更があったものと認めることはできない。取消事由1は理由がな
い。
 (6) 上記の判断に関連する原告の主張について、以下判断する。
 (6)-1 「除水」は、クレーム上の文言である点に関し
 原告は、「除水」は技術用語や国語の通常有する意味に解釈すべきであり、「除
水とは、液体としての水を排除するもの」であって、個体粒子(米粒等)から水分
を除去する意味合いを導き出すのは不可能であると主張している。
 しかし、洗滌時に米粒表層部に吸収される水は、その吸収時に物理的状態が変化
するわけでもなく、米粒表層部に吸収された水分と米粒表面の付着水との間に物理
的状態に差異がなく、いずれも液体としての水であって、両者に、原告の主張する
ような厳然たる区別のあることを認めることはできず、原告の主張は採用すること
ができない。
 (6)-2 表面付着水の除去と吸水された水分との関係に関し
 原告は、原明細書及び親明細書における「除水」とは、洗滌水と、表面付着水す
なわち精白米の外部水分を取り除くことは明白であり、補正により米粒表面に吸収
された水分の除去をも付加したのは、要旨変更であると主張する。
 しかしながら、原明細書及び親明細書記載の除水工程に入っても、米粒に付着し
ている水が除去されるまでの間は、その水が米粒表層部に吸収されることは自明で
あり、米粒は洗米工程中のみならず、除水工程中の初期においても吸水するものと
認められる。そうすると、米粒の付着水のうち、米粒表層部に吸収されかつ除去し
きれずに吸収残存水となったもの以外の付着水は除去していることになる。
 また、甲第2号証によれば、本件明細書において「約2%」に関する記載は、
「本件洗い米は上記したように、約2%の水分を吸収するまでの極く短時間に、水
洗から除水までの各工程を全部処理することにより製造されるものである。」(本
件公報第7欄5~8行)との部分のみであることが認められるが、そこに「水分を
吸収するまで」とあるとおり、「約2%」は吸収される水分であり、この「約2
%」に、付着している水は含まれていないことは明らかである。さらに、本件明細
書には、「なお本発明で洗い米の「含水率」というのは付着水を除いた時の「平均
含水率」のことである」(本件公報第5欄2~4行)と記載されていることが認め
られ、除水後の米粒の増加した水分が、付着水ではなく吸収された水分であること
が示されている。
 そうすると、本件明細書及び親明細書中の「付着水分を除かれた時」(審決摘示
の(G)の記載)とは、「表面付着水を除去した結果、必然的に米粒表層部に吸収
された水分の一部まで除去された時」を意味するものと理解することができる。そ
して、そのような「付着水分」まで除去するには、当然のことながら、それよりも
外側にある「表面付着水」を除去した上でないと達成することができないのは自明
のことであって、「表面付着水」が除去される際、必然的に表面部(表層部)に吸
収されていた水分の一部も除去されるものということができ、補正により米粒表面
に吸収された水分の除去を付加した点をもって、要旨変更に当たるとする原告の主
張は理由がない。
 (6)-3 甲第25号証による主張に関し
 原告が甲第25号証(原告研究室の試験結果)を援用するのは、米粒の吸水速度
に関して、浸漬直後から約45秒間では、遠心脱水後の米粒水分値に大きな変化は
なく、この間に、大量に吸水しているとは認められず、米粒は、浸漬後、徐々に吸
水を開始するとして、吸水の速度に関する本件明細書の記載は独自の見解であると
の点にある。すなわち、甲第25号証の試験結果では、水中への浸漬からおおむね
45秒以内の短い時間帯では、脱水後の精白米の水分値にはほとんど差が認められ
ず、3秒目から45秒目までの42秒間において、わずか0.1%しか含水率が増
加してとされていることを援用し、この増加した0.1%の水分は、精白米に吸収
された水分と推察されると主張している。
 しかしながら、乙第56号証(和歌山県工業技術センターの行った試験分析等成
績表)の試験結果によれば、甲第25号証の実験結果と同じ機具及び方式により得
られたのが、45秒浸漬場合17.33%、17.21%、17.41%であるこ
と、3秒浸漬の場合16.91%、16.77%、16.85%であることが認め
られ、その平均は前者においては17.32%、後者においては16.84%であ
ってその差は0.48%となる。この第三者機関による乙第56号証の試験結果を
排斥すべき根拠は認められないので、甲第25号証の試験結果をもって、原告主張
のように本件明細書の記載に誤りがあると認めることはできない。
 (6)-4 甲第64ないし第66号証による主張について
 原告は、甲第64ないし第66号証の試験結果を根拠にして、本件発明において
は、増加が許容されている2%の水分の大部分は、表面付着水であり、除水の対象
となるのは洗滌水の全部と表面付着水の全部ではなくその一部であって、除去され
た後の米粒にはいまだ表面付着水が残存しているもので、吸収された水分の除去は
毛頭必要ないのであると主張する。
 しかしながら、乙57号証(和歌山県工業技術センターが行った「試験分析等成
績書」。米粒の特性として、米粒の表面に近い部分は別として、それより深部には
水以外の物質は浸透しないものであることを示している。)に照らせば、甲第64
ないし第66号証の試験結果をそのまま認めることはできないし、表面部(表層
部)に吸収された水分のうち、表面に近い部分の水分の一部は必然的に表面付着水
と共に除去されることは自明であるから、甲第64ないし第66号証の試験結果を
もってしても、吸収された水分の除去が行われないものということはできず、原告
の上記主張は理由がない。
 2 取消事由2(分割出願の適法性の判断の誤り)について
 (1) 取消事由2の(1)の分割出願は要旨を変更したものであって不適法であると
する主張は、その実質において、取消事由1の主張と同様のものであり、取消事由
1が理由のないものであるのと同様、理由がない。
 (2) 取消事由2の(2)の主張について
 (2)-1 原告は、本件明細書に記載された「糠分」と親明細書に記載された「糠
粉」を実質的に同一のものとした審決の認定は誤りであると主張している。
 しかし、そもそも、「糠」という用語自体に確立された定義のあることを認める
べき証拠はなく、被告らが主張するように、「糠」の用語は、① 玄米の外部を構
成している糠層を粉状に剥離したもの、② 精白米粒の表面に剥離されずに残って
いるもの、③ 剥離されてから再び米粒に付着しているもの、などを意味するもの
として多義的に使用されているというほかない。
 原告は、「糠分」は、飯の糠臭、光沢・食味に関連しているのに対し、「糠粉」
は精白米の鮮度保持に関連していると主張しているが、甲第4号証によれば、親明
細書の発明の詳細な説明の欄の効果の記載において、「炊き上った飯も、糠粉をほ
とんど除去されているので、糠の臭みもなく、光沢のあるおいしいご飯となる。
又、糠粉をほとんど除去された本発明品は、従来の米よりも鮮度が落ちず、保存性
がよい。」(6頁左下欄16行~末行)と記載されていることが認められる。この
ように、親明細書においても、「糠粉」は、本件明細書の「糠分」と同様に、飯の
糠臭、光沢、食味に関連して使用されていることが明らかである。
 したがって、両者は呼称は違うが、実質的に同一のものであるとした審決の認定
に誤りはない。
 (2)-2 分割出願に当たって親出願における「糠粉」を精白米表面の縦溝に残留
した糊粉層を意味する「糠分」に拡大変更してきたものである、とする原告の主張
事実もこれを認めるべき証拠はなく、他に、本件出願をもって不適法な分割出願と
することはできないとした審決の判断を誤りとすべき事実関係は認められない。取
消事由2も理由がない。
 3 取消事由3(明細書の記載要件の判断の誤り-36条3項)について
 (1) 原告は、審決は、公知の連続洗米機と公知の除水装置とによって米粒に亀裂
を有さない洗い米を製造することは当業者が容易に実施することができる事項であ
ると認定しているが、誤りであると主張する。
 しかしながら、甲第2号証、乙第3号証(審判乙第6号証)、乙第4号証(審判
乙第1号証)、乙第5号証(審判乙第5号証)及び乙第6号証(審判乙第7号証)
によれば、審決がその理由の要点(4)-1~8で説示したとおりの理由により、本件
明細書の記載により、当業者は本件発明を容易に実施することができるものと認め
ることができる。
 (2) 原告は、本件明細書には、本件発明における除水の意義とその技術的構成要
件が記載されておらず、当業者は、明細書の記載に基づいて、公知の機器の中から
それを実施することのできる除水装置を選ぶことができないと主張する。
 しかしながら、まず、本件発明における除水の要件さえ分かれば、当業者は、明
細書の記載に基づいて、公知の機器の中からそれを実施できる除水装置を選ぶこと
ができるのは当然である。次に、本件発明を実施するための除水装置は限定されて
おらず、当業界には、公知の除水手段として遠心分離装置以外の除水装置も数多く
知られており、洗滌米の除水には、ネットコンベアすなわちバンド式の通風乾燥機
を用いることが普遍的に行われてきたことは、乙第3ないし第6号証及び弁論の全
趣旨から認めることができる。
 本件発明の除水は、短時間に完了することが要件であるが、前記公知例として挙
げた乙各号証には、そのような記載はないが、本件発明における除水の要件は、従
来よりも短時間に行うだけのことであるから、公知の除水装置であっても、乾燥条
件の一部又は全部を高めるだけで本件発明における除水の目的を達成し得ること
は、当業者には容易に理解可能なものと認められる。
 (3) 原告は、本件特許請求の範囲の「米肌に亀裂がなく」とは、米肌に亀裂が全
くない米粒の集合であるとし、かかる課題を克服する必要な公知の連続洗米機と公
知の除水装置とが何ら明らかにされていないとし、そして、遠心脱水機だけで水分
が16%以下になるが、遠心脱水機だけで水分を16%以下にした場合に亀裂のな
い洗い米を得ることは不可能であると主張する。
 しかしながら、「米肌に亀裂がなく」とは、本発明の実施例1においても、「1
0粒に1粒の割合でしか亀裂が入らず(元の精白米が約50粒に1粒の割合で亀裂
の入った米であった)」(本件公報第10欄8~10行。甲第2号証)と記載され
ているように、せいぜい2%から10%程度に増加する程度であるとしているので
あり、100%亀裂が入らないとしているのではなく、多少の亀裂を許容している
ものである。また、前記1(4)のとおり、本件発明は除水手段について特に限定する
ものではなく、除水装置として遠心脱水機を限定して開示しているものでないこと
は明らかである。したがって、殊更特殊な装置でなく、公知の洗米装置を多少改良
し従来から良く知られた除水装置とを用いて、本件発明の実施は当業者にとって容
易に可能なものであるというべきである。
 (4) 原告は、本件出願当時、米粒の急激乾燥はタブー視されていたのであるか
ら、本件明細書にはそれを打破するような記載があってしかるべきであると主張す
る。
 しかし、甲第2及び第4号証によれば、親明細書及び本件明細書には、例えば、
「一般的に洗米によって含水してから乾燥させた米に先ず亀裂が入る原因は、ひず
みに弱い特性を有する米粒が吸水、除水の際、その都度、部分的(米粒表面と深層
部)に膨張と収縮が生じ、ひずみが出来るからである。然らば、洗米時や除水時
に、ひずみの因子となる膨張と収縮が生じない程度の、僅かの吸水量、及び除水量
に押さえることが出来れば、精白米をたとえ水中へ漬けて洗米し、乾燥させても亀
裂が生じないことになる。」(本件公報第7欄14~22行、親明細書公報2頁右
下欄4~12行。括弧内は本件公報のみ)と開示されていることが認められ、原告
の上記主張は理由がないことが明らかである。
 (5) 以上のとおりであり、取消事由3も理由がない。
 4 取消事由4(明細書の記載要件の判断の誤り-36条4項)について
 審決は、一方において、本件発明1及び2における除水につき、通風による乾燥
手段は必須の構成ではないと認定しながら、他方において、通風による乾燥手段は
あたかも必須の構成であるかのような認定もしていると主張する。
 しかしながら、この点に関しては、審決が「本件発明1、2における「除水」
が、少なくとも前記通風による乾燥手段によって行われることは、それを実施する
ための態様であって、本件発明1、2の「除水」において、この通風による乾燥手
段が必須の構成となるものではない。」と説示するとおり、原告主張の両者の間に
齟齬がないことは明らかである。
 取消事由4も理由がない。
第6 結論
 以上のとおり、原告主張の審決取消事由は理由がないので、原告の請求は棄却さ
れるべきである。
(平成13年3月27日口頭弁論終結)
 東京高等裁判所第18民事部
         裁判長裁判官   永   井   紀   昭
            裁判官   塩   月   秀   平
            裁判官   橋   本   英   史

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