弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中、上告人A1、同A2に関する部分を破棄し、同部分につき第
一審判決を取り消す。
     右上告人両名に関する部分につき、本件を横浜地方裁判所に差し戻す。
     本件訴訟のうち上告人A3に関する部分は、平成七年九月二〇日同上告
人の死亡により終了した。
         理    由
 上告代理人日置雅晴、同松島暁、同黒澤計男の上告理由について
 一 本件訴えは、平成四年二月二四日に被上告人がD株式会社及び株式会社E建
築事務所に対し都市計画法(同年法律第八二号による改正前のもの。以下同じ。)
二九条に基づいてした開発許可が違法であるとして、当該許可に係る開発区域に近
接する地域に居住する上告人らが、その取消しを求めるというものである。
 行政事件訴訟法九条は、取消訴訟の原告適格について規定するが、同条にいう当
該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により
自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるお
それのある者をいうのであり、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体
的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人
の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、
かかる利益も右にいう法律上保護された利益に当たり、当該処分によりこれを侵害
され又は必然的に侵害されるおそれのある者は、当該処分の取消訴訟における原告
適格を有するものというべきである。そして、当該行政法規が、不特定多数者の具
体的利益をそれが帰属する個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨
を含むか否かは、当該行政法規の趣旨・目的、当該行政法規が当該処分を通して保
護しようとしている利益の内容・性質等を考慮して判断すべきである(最高裁平成
元年(行ツ)第一三〇号同四年九月二二日第三小法廷判決・民集四六巻六号五七一
頁参照)。
 二 右の見地に立って、本件訴えについての上告人A1、同A2(以下「上告人
A1ら」という。)の原告適格について検討する。
 1 所論は、上告人A1ら個々人の利益を保護する趣旨を含む規定として都市計
画法三三条一項一四号を指摘する。しかし、同号が上告人A1らの個別的利益を保
護する趣旨の規定であるとは解されない。その理由は、次のとおりである。
 確かに、開発許可の基準を規定している同項のうち一四号は、開発行為をしよう
とする土地等につき当該開発行為の施行等の妨げとなる権利を有する者の相当数の
同意を得ていることを許可基準と定めている。しかし、右規定は、開発許可をして
も、許可を受けた者が開発区域等について私法上の権原を取得しない限り開発行為
等をすることはできないことから、開発行為の施行等につき相当程度の見込みがあ
ることを許可の要件とすることにより、無意味な結果となる開発許可の申請をあら
かじめ制限するために設けられているものと解され、開発許可をすることは、右の
権利に何ら影響を及ぼすものではない。したがって、右の規定が右の権利者個々人
の権利を保護する趣旨を含むものと解することはできない。
 2 ところで、原判決の摘示するところによれば、上告人A1らは、本件の開発
区域に近接する肩書住所地に居住しており、本件開発許可に基づく開発行為によっ
て起こり得るがけ崩れ等により、その生命、身体等を侵害されるおそれがあると主
張しているところ、都市計画法三三条一項七号は、開発区域内の土地が、地盤の軟
弱な土地、がけ崩れ又は出水のおそれが多い土地その他これらに類する土地である
ときは、地盤の改良、擁壁の設置等安全上必要な措置が講ぜられるように設計が定
められていることを開発許可の基準としている。この規定は、右のような土地にお
いて安全上必要な措置を講じないままに開発行為を行うときは、その結果、がけ崩
れ等の災害が発生して、人の生命、身体の安全等が脅かされるおそれがあることに
かんがみ、そのような災害を防止するために、開発許可の段階で、開発行為の設計
内容を十分審査し、右の措置が講ぜられるように設計が定められている場合にのみ
許可をすることとしているものである。そして、このがけ崩れ等が起きた場合にお
ける被害は、開発区域内のみならず開発区域に近接する一定範囲の地域に居住する
住民に直接的に及ぶことが予想される。また、同条二項は、同条一項七号の基準を
適用するについて必要な技術的細目を政令で定めることとしており、その委任に基
づき定められた都市計画法施行令二八条、都市計画法施行規則二三条、同規則(平
成五年建設省令第八号による改正前のもの)二七条の各規定をみると、同法三三条
一項七号は、開発許可に際し、がけ崩れ等を防止するためにがけ面、擁壁等に施す
べき措置について具体的かつ詳細に審査すべきこととしているものと解される。以
上のような同号の趣旨・目的、同号が開発許可を通して保護しようとしている利益
の内容・性質等にかんがみれば、同号は、がけ崩れ等のおそれのない良好な都市環
境の保持・形成を図るとともに、がけ崩れ等による被害が直接的に及ぶことが想定
される開発区域内外の一定範囲の地域の住民の生命、身体の安全等を、個々人の個
別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むものと解すべきである。そうす
ると、【要旨1】開発区域内の土地が同号にいうがけ崩れのおそれが多い土地等に
当たる場合には、がけ崩れ等による直接的な被害を受けることが予想される範囲の
地域に居住する者は、開発許可の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者と
して、その取消訴訟における原告適格を有すると解するのが相当である。なお、都
市計画法の目的を定める同法一条の規定及び都市計画の基本理念を定める同法二条
の規定には、開発区域周辺の住民個々人の個別的利益を保護する趣旨を含むことを
うかがわせる文言は見当たらないが、そのことは、同法三三条一項七号に関する以
上の解釈を妨げるものではない。
 以上の理解に立って本件をみると、本件開発区域は急傾斜の斜面上にあり、本件
開発行為は、六階建ての共同住宅の建築の用に供する目的で、斜面の一部を掘削し
て整地し、擁壁を設置するなどというものであるところ、上告人A1らは、右斜面
の上方又は下方の本件開発区域に近接した土地に居住している者であることが記録
上明らかである。そうすると、都市計画法三三条一項七号が開発区域の周辺住民個
々人の利益を保護する趣旨を含むものではないという解釈に基づき、本件開発区域
内の土地が同号にいうがけ崩れのおそれが多い土地等に当たるかどうか、及び上告
人A1らががけ崩れ等による直接的な被害を受けることが予想される範囲の地域に
居住する者であるかどうかについて、何らの検討もすることなく、上告人A1らの
原告適格を否定した原判決及び第一審判決は、いずれも法令の解釈適用を誤るもの
であり、その誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかである。
 三 以上によれば、原判決が上告人A1らの原告適格を否定したことを非難する
論旨は、右の趣旨をいう点において理由があり、その余の点について判断するまで
もなく、原判決中上告人A1らに関する部分は破棄を免れず、岡部分につき第一審
判決を取り消した上、これを横浜地方裁判所に差し戻すこととする。
 職権をもって調査するに、【要旨2】記録によれば、上告人A3は、本件訴訟が
当審に係属した後の平成七年九月二〇日死亡したことが明らかである。同上告人の
有していた本件開発許可の取消しを求める法律上の利益は、同上告人の生命、身体
の安全等という一身専属的なものであり、相続の対象となるものではないから、本
件訴訟のうち同上告人に関する部分は、その死亡により終了したものというべきで
ある。
 よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、三八八条
に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 千種秀夫 裁判官 園部逸夫 裁判官 可部恒雄 裁判官 大野
正男 裁判官 尾崎行信)

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