弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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平成28年6月29日判決言渡
平成27年(行ウ)第17号不当労働行為救済命令取消請求事件
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用(補助参加によって生じた費用を含む。
)は,原告の負担と
する。
事実及び理由
第1請求
中央労働委員会が,中労委平成25年(不再)第87号事件について,平成
26年12月3日付けでした命令を取り消す。
第2事案の概要
1事案の要旨
(1)本件は,被告補助参加人(以下「本件組合」という。
)が,東京都労働委
員会(以下「都労委」という。
)に対して,原告の次の行為がいずれも労働組
合法(以下「労組法」という。
)7条1号及び3号所定の不当労働行為に当た
るとしてした救済命令の申立て(以下「本件申立て」という。
)に係る事件で
ある。
ア原告が,
平成23年11月7日,
原告の運営するP1高等学校
(以下
「本
件高校」という。
)に勤務する労働者であり,本件組合所属の組合員である
P2を同人と本件高校の生徒らとの間に生じたトラブル(以下「本件トラ
ブル」という。
)を理由としてHRクラス指導教員(以下「クラス担任」と
いう。
)から解任したこと(以下「本件解任」という。

イ原告が,
平成23年11月7日,
P2の担当するクラスの生徒に対して,
本件解任の理由及びP2との間で本件トラブルを生じた生徒らのP2に対
する意見を記載した「▲年▲組のHR指導教員(クラス担任)変更のお知
らせ」
と題する文書
(以下
「本件文書」
という。

を配布したこと
(以下
「本
件配布」という。

(2)原告は,都労委が本件申立てを認めて発した別紙1「初審命令の主文」記
載の内容の救済命令(以下「初審命令」という。
)を不服として中央労働委員
会(以下「中労委」という。
)に対して再審査の申立てをしたが,中労委が再
審査の申立てを棄却するとの命令(以下「本件命令」という。
)を発したこと
から,本件命令の取消しを求めて本件訴えに及んだ。
2前提事実
(争いのない事実
〔中労委が認定した事実
(命令書の第3)
のうち,
原告が争っていない事実を含む。

及び後掲の証拠
〔枝番のあるものについては
特に断らない限り全ての枝番を含む。
〕により容易に認定できる事実。

(1)当事者等
ア原告
原告は,肩書住所地において女子校である本件高校,P3短期大学,P
4幼稚園及びP5こども園を運営する学校法人である。
P6(以下「P6校長」という。
)は,平成3年1月から原告理事長の地
位にあり,平成17年4月からは本件高校の校長を兼務している。
平成23年度の本件高校のクラス数は20であり,教職員数は,教員6
1名,
職員19名であり,
教員のうちクラス担任となる可能性のない校長,
司書,養護教諭,非常勤講師を除いた者は38名であった。
【争いのない事実,乙A51,乙B27】
イ本件組合
本件組合は,平成5年4月17日,本件高校の教職員が中心となって結
成された労働組合であり,P7組合連合に加盟している。本件組合が平成
24年1月6日に本件申立てをした際の組合員は12名であり,このうち
原告に在職中の組合員は9名であったが,その後,2名が退職したことに
より,平成26年8月25日の時点での在職中の組合員は7名となった
(以下,本件組合の組合員を「本件組合員」という。


なお,原告には,本件組合のほかP8組合,P9ユニオンの2つの教職
員組合が存在し,平成23年度の両組合の組合員はそれぞれ3名であっ
た。
【争いのない事実,乙A51,62】
ウP2
(ア)P2は,平成3年4月,1年ごとの契約更新を必要とする常勤の専
任講師として原告に採用され,その後,1年ごとに契約を更新されてい
る。P2は,平成5年4月17日の本件組合の結成とともに本件組合に
加入し,平成8年からは本件申立て時まで本件組合の会計担当を務めて
いた。
【争いのない事実,乙A21の1,乙A22の1,乙A29,36,67
の5】
(イ)P2は,HR指導副教員(以下「クラス副担任」という。
)となっ
た平成11年度を除き,本件解任が行われるまでの間,毎年クラス担任
を務めており,平成23年度は▲年▲組の担任であった。
P2は,平成22年度に当時担任であった▲年▲組の生徒が退学した
件について,原告から同年5月14日付け注意書により「保護者がいじ
めについて報告して下さいと求めたにもかかわらず,P2はそれを怠り
ました。そして,その冷淡な態度に失望した保護者と生徒は退学を申し
出,P2はその事態を回避することが出来ませんでした。
」として注意
を受けたが,平成23年4月からも▲年▲組の担任を務めた。
【争いのない事実,乙A36,42,51の2,乙B1,38】
(2)クラス担任等の職務分担について
アクラス担任,クラス副担任及び学年付き担任の職務について
(ア)原告において,クラス担任は,受け持つクラスの生徒に対する指導
全般やクラス運営等を行うことをその職務とする。
(イ)クラス副担任は,クラス担任とともに受け持つクラスの生徒に対す
る指導を行う者として任命されるが,必ず置かれるものではない。
(ウ)学年付き担任は,本件解任の際に初めて設けられた職位であり,そ
の職務は学年主任を補佐し,例えば,受け持つ学年のクラス担任が不在
の際に,そのクラス担任の代行をすること等である。
【争いのない事実,乙B38,乙C1,3】
イ本件組合の組合員のクラス担任,クラス副担任への就任状況は,別紙2
「本件組合員のクラス担任,クラス副担任への就任経過」記載のとおりで
ある。
(ア)原告は,後記(6)アのとおり,平成23年度及び学期の途中である
平成23年11月7日,本件解任を行い,P2を2学年の学年付き担任
とし,平成24年度及び平成25年度もP2を学年付き担任に任命した
が,原告が,P2に対して,学年付き担任として業務上の具体的指示を
出すことはなかった。
(イ)本件解任より前に年度及び学期の途中のクラス担任の変更が行われ
た例は,平成19年6月,本件組合以外の組合に所属する教員をクラス
担任としての責任感不足を理由に解任した1例のみである(なお,この
解任の理由については,当該教員と原告との間に争いがあったことが窺
われる。


【争いのない事実,甲2から4まで,乙A36,42,51,62,66,
70,71の1,乙B33,38,乙C1】
(3)原告における生徒指導
ア退学した生徒の校内への立入禁止
原告は,私物の引取りなどの例外的な場合を除き,原則として,退学し
た生徒の構内への立入りを認めておらず,転校先への提出書類等の授受に
ついても玄関ロビーで対応することとしていた。
【争いのない事実,乙A62,乙C1,4】
イ校舎見回り
(ア)原告では,授業開始のチャイムが鳴っても教室に入らない生徒がい
たことから,P10生徒指導部長(以下「P10」という。
)の指定し
た計画に基づいてクラス担任による校舎の見回りを実施していた。
(イ)P10の作成した「校舎見回り表」には「新年度が始まり早1ヶ月
が過ぎました。新しい校舎になり生徒たちも楽しく学校生活をエンジョ
イしているように思えます。ただ,授業開始チャイムが鳴っても教室に
入らず廊下や多目的ホールで友達と会話をしている状況ではありません
か。今月末には中間試験が控えています。50分間の授業を大切にさせ
るためにHR指導教員に校舎見回りの協力をお願い致します。
」と記載
され,本件高校の生徒を授業に参加させることが目的とされている。
【争いのない事実,乙A9,乙C1,2】
(4)本件トラブルの概要
本件解任は,
後記(6)アのとおり,
P2と生徒との間の本件トラブルを理由
としてされたものであるところ,本件トラブルは,原告を退学した生徒(以

「MA」
という。

が平成23年11月2日に本件高校を訪れることとなり,
本件高校の2学年の生徒約10名(以下「本件生徒ら」ということもある。

がMAに対して手紙を渡すなどしようとして,同日の5校時(午後1時30
分から午後2時20分まで)の教室に入らず,校舎3階のコミュニケーショ
ンスペース「P11」に集まっていたことから,これに対してP2が行った
指導に関して生じたものであり,その内容,経過の概要は次のとおりである
(なお,本件トラブルの詳細については,原被告間で一部に争いがあり,ま
た,本件トラブルについては動画(甲5)が存在するところ,そこに示され
た時刻は実際の時刻より4分遅れている。


アMAの来校予定
諸般の事情によって平成23年10月31日に原告を退学した生徒MA
は,私物の引取りのため,在校時に担任であったP10に対し,事前に同
年11月2日の本件高校への来校予定を連絡し,P10の了承を得た。P
10は,MAからの来校予定の連絡を受け,その旨を一部の生徒に伝えた
が,P6校長,P12副校長及びP2ら他の教員には伝えることをしなか
った。
【争いのない事実,乙C1,4】
イ平成23年11月2日(水曜日)の状況(以下,この項において年月日
の記載は省略する。

(ア)3校時(午前11時から午前11時50分まで)の出来事
P2は,午前11時10分ころ,P13教頭から3校時の授業が開始
しているにもかかわらず,P11に2年生が大勢いるとして,見に行く
よう指示を受けた。
P2は,前記指示を受けて教員T1とともにP11に向かったとこ
ろ,P2の担任クラスの生徒Iがいたことから,Iに声をかけて教室に
入るよう促した。
その際,P2は,Iから「MAが仲間一人一人にお別れの手紙を寄越
したので,今,返事を書いている。今日,MAが来る。
」と言われた
が,3校時の授業中であると説得してIを教室に入らせた。
【争いのない事実,乙A36】
(イ)5校時の出来事
aP2は,平成23年11月,2学年についての校舎見回りのうち,
月曜日の4校時・6校時,火曜日の2校時・5校時,水曜日の5校
時,金曜日の2校時を担当を割り当てられており,本件トラブルのあ
ったこの日も,午後1時30分から5校時の校舎の見回りを開始し
た。
【争いのない事実,乙A9の1及び8,乙B22,乙C1】
bP11での経過
(a)P2は,午後1時32分ころ,P11に担任クラスの生徒I,
AZ及びMの3名を含む約10名の本件生徒らが集まっているのを
発見し,P11のカーテンを開け,P11にある椅子の片付けなど
をしながら,本件生徒らに対して,教室に入るよう繰り返し呼びか
けたが,本件生徒らは教室に行こうとしなかった。
【争いのない事実,甲5,乙A39,40,乙B21,23から2
5まで,32】
(b)P2の前記(a)の呼びかけによる指導に対して,EHがP2に
近づき,その足許に椅子を押し当ててきたことから,P2は,EH
に対し,
「暴力を振るうのか。
」という趣旨の発言を強い口調でした
ところ,EHから胸ぐらを掴まれた。そのため,P2が,
「110
番通報してください。
」など警察を呼んで欲しい旨の声を上げ,ま
た,付近にいた現業職員らに対し,
「職員を呼んでください。
」と言
った(以下,これらの発言を併せて「本件110番発言」とい
う。
)ところ,EHはP2から手を離した。
なお,EHが,P2に対し,P2に向けて椅子を押す前,MA
が最後であり,P11に来るMAに手紙を渡したいことから少し待
って欲しい旨の発言をしたか否かについては争いがある。
【争いのない事実,乙A11,36,39,40,乙B6,9から
12まで,15,17,18,乙C1〔いずれの証拠も信用性に争
いがあることから,原告提出の証拠と本件組合提出証拠が符合する
争いのない限度において,これを用いる。


(c)その後,P2は,近づいてきたEHに腰に手を回され,さらに
近づいてきたAZに右腕をつかまれるなどしたため,本件生徒から
離れて北側階段付近へと移動した。MAは,この間にP11に着
き,EH,AZ及びS以外の生徒の付近にいた。
AZは,EH及びSとともに北側階段付近に移動したP2に近づ
いてP2の左腕を掴んだが,その後,手を離し,EH及びSの近く
から離れて他の本件生徒らのもとへ移動した。
Sは,AZが移動した後,EHがP2に向けて手を伸ばしたこと
から,EHの腰に手を回してEHを抱きかかえて制止し,P2の腕
を掴んだEHをP2から引き離した。この様子を見ていたUは,P
2,EH及びSに近づき,P2がEH及びSから離れ,P11を立
ち去って同じ階の他のフロアへ移動するまでP2の横について歩い
たが,その後はついて行かなかった。
【甲5,乙A39,40,乙B21,23から25まで,32】
(d)P2がP11を立ち去った後,P10が下の階から北側階段を
上ってきてP11を訪れ,その後,P2が再びP11を訪れてP1
0に近づいたが,すぐにP11を立ち去った。P2が立ち去った
後,本件生徒らは,MAに手紙を渡したり,MAと写真を撮ったり
し,MAは午後1時38分ころ,P10とともに北側階段を下りて
P11を立ち去った。
【甲5,乙A39,40,乙B21,23から25まで,32】
cMAがP11を立ち去った後の経過
(a)EHは,MAがP11を立ち去った後,P2がP11横の廊下
を▲年▲組の教室の方へ歩いて行ったのを追いかけてP11を離
れ,他の本件生徒らもこれに続いてP11を離れた。そのころ,P
13教頭,P14募集部長(以下「P14」という。
)ほか1名の
教員は北側階段を上ってP11を訪れ,そのまま本件生徒らが移動
した方向へと向かった。その後,本件生徒らは,階段を挟んでP1
1の反対側にある2年6組の教室前の非常扉付近において,P2の
周囲に集まり,P13教頭,P14,教師T3及び教師T4もP2
の周囲に集まっていた本件生徒らの近くに立った。
その際,Hは,P2に対し,
「今日が最後なのに,MAに手紙が
渡せなかったじゃないか。謝れよ。代わりに渡せるのかよ。
」と言
ったことから,P14が「何人の人が渡せなかったの。調べて渡そ
うか。
」と言うと,Hは,P2に対し,
「何でお前がやらないのか。
この先生にやらせるのかよ。
」と言った。
さらに,本件生徒らは,P2に対し,
「お前が沢山の先生たちに
迷惑をかけている。なぜ先生たちに謝らないのか。
」と言い始め,
AZは「お前の言うことはもう聞かないからな。
」と言ってEHと
ともにP2につかみかかろうとし,これをT3やT4,周囲の生徒
らが制止しようとした際に,AZの手がP2の右頬に当たった。
【争いのない事実,甲5,乙A36,39,40,乙B9,14,
16,20,21,23から25まで,32,証人P14】
(b)英語教室での経過
P2,P13教頭及びP14は,前記(a)のころにMAを送り戻
ってきたP10を加えて,午後1時54分ころ,本件生徒らからの
事情聴取を行うため本件生徒らの一部とともに校舎2階の英語教室
に移動した。
P10は,本件生徒らに対し,
「P2先生にこの時間の見回りを
命令しているのは私だ。教員として授業に参加させることが仕事で
す。


「今日MAが来てお別れ会をすることは言っていない。P2
先生は知らないのだから,言わなかった私が悪い。

(以下。これら
の発言を「本件P10説明」という。


「MAは今日は家に帰りた
がっていた。だから帰した。また会えるはずだ。
」などと説明し
た。
しかし,本件生徒らは,P2に対し,謝るように言い続け,EH
がP2に椅子を当てようとするなど興奮した状態にあり,P2が事
態を収拾するため「じゃあ,謝ります。
」と言った(以下「本件謝
罪発言」という。
)ところ,本件生徒らは「
『じゃあ』はないだろ
う。
」と言ってさらに反発したことから,P10は事情聴取を打ち
切った。
【争いのない事実,甲5,乙A11,36,39,46,乙B2
1,23から25まで,32】
ウP2の診断結果
P2は,平成23年11月2日,前記イc(a)のとおり,AZの手がP
2の右頬に当たったこともあり,医師の診察を受け,受傷日,受診日及び
診断日を同日として,諸検査に異常はなく,頭部・顔面打撲で3日間程度
の療養を要する見込みであると診断された(以下,同診断に係る診断書を
「本件診断書」という。


【争いのない事実,乙A10】
(5)本件解任に至る経過
アP2から原告への本件トラブルの報告
P2は,平成23年11月4日午前8時40分過ぎころ,P12副校長
に対し,本件トラブルの概略を口頭で報告するとともに,本件トラブルに
関する報告書(以下「本件報告書」という。
)及び本件診断書の写しを渡し
た。P12副校長は,P2からの報告により本件トラブルを知った。
【争いのない事実,乙A10,11】
イ本件トラブルの対応に係る団体交渉の申入れ
本件組合は,平成23年11月4日,午前9時から始まる1校時の前に
P6校長,P12副校長,P13教頭,P15校長補佐(以下「P15」
という。
)及びP10に対し,開催日時を同日午後4時20分からとして
本件トラブルについての経過及び指導内容を明らかにすることを求める団
体交渉の申入れをしたが,原告はこれに対して回答しなかった。
【争いのない事実,乙A12】
ウ本件解任及びP2の後任人事の決定
P6校長は,平成23年11月4日午後1時ころまでに,P2を▲年▲
組のクラス担任から外す本件解任を決定し,同日午後3時過ぎころには,
P12副校長,学年主任,P10及びP14が校長室で協議をしてP2の
後任の教員を選定した。一方,P10は本件トラブルに関して何らの処分
も受けていない。
【争いのない事実,乙C2ないし4】
エ原告が実施した本件トラブルに関する調査
(ア)生徒からの聴取
P13教頭,P10及びP14(以下「P13教頭ら」という。

は,平成23年11月4日から同月7日にかけて,本件生徒らからの事
情聴取をし(以下,同月4日の聴取を「4日付け聴取」という。

,ま
た,本件生徒らから本件トラブルの事実関係を記載した意見書(以下
「本件生徒ら意見書」という。
)の提出を受けた。
【争いのない事実,乙B5から16まで】
(イ)P13教頭らによる記録書の作成及びP6校長への提出
P13教頭らは,P6校長に対し,平成23年11月4日,連名で本
件生徒ら意見書のうち4人分からそれらの一部を抜粋した記録書(乙B
18。以下「記録書」という。
)を提出し,また,P10も,同日,P
6校長に対し,本件生徒ら意見書の一部を提出した。
【争いのない事実,乙B18,乙C3】
(ウ)P12副校長による報告書の作成及び提出
P12副校長は,P6校長に対し,平成23年11月4日,本件トラ
ブルについてP13教頭,P10,P14及び本件トラブルの際にP1
1付近にいた現業職員2名からの報告内容をまとめた同日付け報告書
(乙B17。以下「P12報告書」という。
)を作成して提出した。
【争いのない事実,乙B17】
(エ)本件トラブルに関する調査についてのその他の事情
a原告は,本件解任までに本件トラブルについてP2に対する事実
確認を行っておらず,前記(4)イ(イ)c(a)の際に現場にいたT3や
T4にも報告を求めていない。
bまた,原告は,本件解任までにP11に設置された防犯カメラ映像
を確認しておらず,本件トラブルの背景事情である退学したMAを
校内で多数の生徒が待ち受けていた経緯などについても確認してい
ない。
【争いのない事実,乙C4】
オ本件トラブルの対応に係る再度の団体交渉申入れ
本件組合は,平成23年11月5日,P6校長,P12副校長,P13
教頭,P15及びP10に対して,開催日時を同日午後1時50分からと
して再度,本件トラブルについての経過及び指導内容を明らかにすること
を求める団体交渉を申し入れたが,原告はこれに対して回答しなかった。
【争いのない事実,乙A43】
(6)本件解任及び本件文書の配布
アP6校長は,平成23年11月7日午前8時40分ころ,HR指導教員
室で授業の準備をしていたP2に近寄り,
「はい,これ。
」と言って人事異
動通知(以下「本件人事異動通知」という。
)を手渡した。
本件人事異動通知には「平成23年11月7日付けで,次のように人事
異動をします。人事異動の理由は▲年▲組のP2先生が▲年▲組の生徒お
よび他の組の生徒約10名とトラブルを起こしたためです。

との記載に続
けて,本件解任,すなわちP2を▲年▲組のクラス担任から解任して,2
学年の学年付き担任とすることが記載されていた。P6校長は,P2に本
件人事異動通知を交付する際,P2に本件解任の理由についての説明をせ
ず,またP2からの返答を待たずにすぐに立ち去った。
【争いのない事実,乙A13,62】
イ▲年▲組の生徒に対する本件解任に伴うクラス担任変更の告知
(ア)P6校長は,平成23年11月7日の朝のホームルームの時間にP
12副校長,P10,▲年▲組の新担任となるP16及び同組の副指導
教員P17とともに同組の教室に赴き,同組の生徒らに対して,クラス
担任が変更となることを伝え,新しいクラス担任及び副担任を紹介し
た。
なお,P16及びP17に対しては,同月5日にP16がP2の後任
として同組の担任に就任し,P17が同クラスの副担任に就任する旨が
告知されていた。
【争いのない事実,乙B19】
(イ)▲年▲組の生徒への本件配布
a原告は,平成23年11月7日の夕方のホームルームの時間に▲
年▲組の生徒に本件配布をした。本件文書には,
「教師と生徒とのト
ラブルが生じましたので,混乱を収拾し,再発を防ぐために,平成
23年11月7日付けで次のように校務分掌を変更します。
」とし
て,本件解任によりP2を同組のクラス担任から解任して2学年の
学年付き担任とし,新しい同組のクラス担任にP16を,副指導教
員にP17を任命するとの記載に続けて,変更理由が次のとおり記
載されている。なお,P2は,本件配布に当たって何も知らされて
いなかった。
「平成23年11月2日(水)に次のようなことがありました。
1号館3階中央階段の上がり口にP18というコミュニケーショ
ンスペースが設けられています。生徒同士の交流のための場所であ
って,2年生の生徒たちがクラスの枠を越えて自由に交流すること
ができます。この日は,ある生徒がやむを得ない事情で退学するこ
とになって,私物などを引き取りに来ておりました。この生徒のた
めに生徒たちが「お別れの手紙」を書いていたところ,授業開始の
チャイムが鳴り,P2先生が教室に入るように促し,生徒たちは
『1~2分待ってほしい』旨をお願いしたところ,P2先生は『授
業に出なさい』と言って取り合わなかったようです。
そのため,そこにいた生徒11~12人(2年1組・2組・3
組・4組・5組・7組)が感情的になってしまい,混乱が生じまし
た。その後,生徒たちは学年主任にP2先生に対する気持ちを述べ
てくれました。
①『P2先生は生徒に対して脅迫をし,挑発をし,警察を呼ぶと言
い出す。

『生徒を怒らせて事件を起こさせるようにしむける。

『クラスの生徒とのもめごとが多い。

『信頼されていない。

『生
徒を差別する。

『生徒を良くしようとする指導を感じることがで
きない。

②『P2先生が担任だと私の心を開けない。

『P2先生が担任だと
この先が不安である。

『P2先生には反省心がない。

『担任を替
えてほしい。

『このままでは私が学校をやめたい。

③『P2先生は教員としておかしい。

『自分が被害者ぶる。

『1年
生の時にP2先生と口げんかをしてP2先生に引っ張られ,右手
をひっかかれるなどした。

『この先生からは愛の心を感じること
ができない。

『生徒の気持ちも少しは分かってほしい。

『よく教
員としてここまできたなと思う。

④『P2先生はすぐに警察を呼んで下さいとか言い出す。

『P2先
生は被害者ぶる。

『手を払ったらたまたま手が当たってしまっ
た。

『叩いてはいない。

⑤『▲年▲組のP19先生は生徒の話を聞いてくれる。

『P2先生
は全く聞いてくれない。

『一方的な話をするばかりである。

『生
徒が質問しても都合が悪くなると,すぐにとぼける。

『すぐに親
を呼ぶと言い出して生徒を脅迫する。
』」
bなお,本件文書中に記載のあるP18は,P11と廊下を挟んで向
かい側にあるコミュニケーションスペースである。
【争いのない事実,乙A14,39,乙B20,乙C1】
(7)▲年▲組の生徒による本件解任に対する意見を記載した文書(以下「担
任生徒ら意見書」という。
)の作成
アP2は,平成23年11月9日,P16から▲年▲組の生徒36名中2
8名が作成した担任生徒ら意見書を受け取った。
担任生徒ら意見書は,P2の後任であるP16が,同組の生徒に本件文
書をもらった率直な思いを書いて欲しいと伝えて作成されたものである。
担任生徒ら意見書を作成していない生徒は,
P16がその作成を求めた際,
欠席していた生徒である。
イ担任生徒ら意見書の内容は,概ね,P2の本件生徒らに対する指導は間
違っていないこと,担任の変更はクラス全体の問題であり,一部の生徒の
意見だけで担任を変えるというのはおかしいこと,担任を戻して欲しいこ
と,本件文書に記載された生徒の意見は,怒っていたときの意見であって
本心ではなく,保護者に対してはP2が酷い先生だと誤解を与える内容で
あるため本件文書に載せるべきではなかったこと等であった。他方で,本
件トラブルについてP2及び本件生徒らの双方の非を指摘するもの,
「P2
先生は1年生の時は良かったけど,2年生になったら変わった。ちゃんと
生徒の話を聞いてもらいたい。

とした上で,
P2がいなくなってから掃除
係のさぼりが多くなり,クラスに乱れが生じた感じがするというものもあ
った。
担任生徒ら意見書を作成した生徒のうち▲年▲組に在籍するIは,その
意見書に「きれてた時には感情的になって,P2先生に対して悪い事しか
言えなかったけど,後から考えると言い過ぎだと思った。月曜日学校に来
て担任が代わっていてびっくりした。生徒が先生に対して生意気な事言い
すぎた。今さらおそいと思うけど,P2先生はいい先生だった。
」と記載し
た。
【争いのない事実,乙A59,乙C1,丙2,3】
(8)本件解任後の経過
ア本件解任についての団体交渉の申入れ
(ア)本件組合は,原告に対し,平成23年11月8日付け文書により
「一方的にP2をHR指導教員から外すことは異常なことで,教育的配
慮に欠けている。ここに厳重に抗議すると共に,団体交渉を申し入れ
る。
」として,同日午後4時20分から本件高校内において「P2を▲
年▲組HR指導教員から一方的に外したこと」を議題とする団体交渉を
実施するよう申入れをした。
(イ)本件組合は,原告に対し,平成23年12月8日付け文書により交
渉事項を「P2先生のHR指導教員解任の撤回と謝罪について」

「事実
隠蔽の誹謗中傷文書『お知らせ』の撤回と,保護者・生徒への説明会開
催について」

「全教職員で統一した『生徒指導』を行うために,職員会
議を開催することについて」として,同月15日までに団体交渉を実施
するよう申入れをした。
【争いのない事実,乙A15,16】
イ本件申立て
本件組合は,平成24年1月6日,都労委に対し,本件申立てをした。
【争いのない事実,甲1】
ウ本件解任に関する団体交渉
本件組合は,原告に対し,本件解任後にこれを交渉事項とする団体交渉
を17回にわたって申し入れ,平成24年1月27日,本件組合と原告
は,本件解任を交渉事項とする団体交渉を行った。
この団体交渉において,P6校長は,本件組合が本件解任について団体
交渉で解決する意思があるかと質問したのに対し,黙し続けて答えなかっ
た。また,本件組合が,本件解任に当たって原告が行った調査の内容,P
2が本件生徒らに対して行った教室に入るようにとの指導についての原告
の見解,本件解任の理由,本件解任の就業規則上の根拠規定について質問
したのに対しては,質問を繰り返すよう求めたり,本件組合の発言をオウ
ム返しにしたり,無言でメモをとり続けたりして答えなかった。本件解任
に当たってP2からの事情聴取を行ったかとの質問に対しても,質問をオ
ウム返しにしたり,
「P2先生は,私に報告してくださいませんでした」
などと述べたりするだけであった。
【争いのない事実,乙A44】
エ初審命令
都労委は,平成25年11月5日,本件申立てについて,本件解任及び
本件文書の配布がいずれも労組法7条1号及び3号所定の不当労働行為に
当たるとして,別紙1「初審命令の主文」の内容の初審命令を発し,初審
命令の命令書の写しを同月28日に原告に交付した。
【争いのない事実】
オ原告による再審査の申立て
原告は,平成25年12月11日,中労委に対し,初審命令を不服とし
て再審査の申立てをしたが,中労委は,平成26年12月3日,再審査の
申立てを棄却するとの本件命令を発し,同月17日,本件命令の命令書の
写しを原告に交付した。
【争いのない事実,甲1】
カ原告は,
平成27年1月15日,
当裁判所に対し,
本件訴えを提起した。
【当裁判所に顕著な事実】
(9)本件解任前の原告と本件組合の関係
ア本件組合による別件の救済命令の申立て
(ア)別件に係る救済命令の発令
本件組合は,平成10年3月から平成12年3月にかけて,都労委
に対し,原告が平成9年3月から平成12年3月までの間に行った不
当労働行為を主張して4件の救済命令の申立てをし(都労委平成10
年(不)第14号,同第49号,平成11年(不)第16号,平成1
2年(不)第31号)
,都労委は,前記4件の申立てを併合した上,平
成19年9月4日付けで原告が平成9年春闘要求に関する本件組合か
らの団体交渉の申入れについて団体交渉の実施を遅らせ,また回答の
根拠を示さなかったことは労組法7条2号の不誠実交渉に,本件組合
の組合員をクラス担任及び卓球部の顧問ないし副顧問から解任し,原
告の管理職に登用しないことは同条3号の支配介入に,本件組合の組
合員に対して平成10年5月20日,同月21日,平成11年8月1
1日及び同年9月25日付けで行った各懲戒処分は同条1号の不利益
な取扱い及び同条3号の支配介入に,平成8年3月から平成9年3月
までの間の賞与並びに平成10年3月及び平成11年3月の賞与の計
8回の各賞与支給に係る本件組合の組合員に対する差別は同条1号の
不利益な取扱いにそれぞれ当たるとして救済命令を発した。
原告は,前記救済命令を不服として,中労委に対し,再審査の申立て
をし(同平成19年(不再)第58号)
,中労委は,平成21年2月1
8日付けで前記賞与の査定のうち常勤講師であるP2については原告
が低い査定をしたとは認められず不当労働行為に当たらないとした
が,その余の再審査の申立てについては棄却した。
(イ)別件に係る救済命令不履行による過料
中労委は,平成21年12月18日,東京地方裁判所(以下「東京地
裁」という。
)に対し,原告が別件による救済命令によって命じられた
本件組合からの賃金,賞与等に関する団体交渉の申入れに速やかに応
じ,誠実に団体交渉に応じること,本件組合の組合員をクラス担任及
び卓球部の顧問ないし副顧問から外すことによって本件組合の運営に
支配介入しないこと,本件組合の組合員を管理職に登用しないことに
よって本件組合の運営に支配介入しないことに違反していると通知し
(同平成21年(ホ)第60002号)
,東京地裁は,平成22年6月2
9日,原告が別件に係る救済命令中,誠実に団体交渉を応じることを
命じる部分への違反の事実を認め,原告を過料50万円に処する決定
をした。
原告は,前記決定を不服として東京高等裁判所(以下「東京高裁」と
いう。
)に対する抗告をしたが(同平成22年(ラ)第1339号)
,東
京高裁は,平成22年12月27日,抗告を棄却する決定をし,ま
た,これに対する原告の許可抗告の申立てについても,平成23年2
月18日,抗告を許可しない決定をした(同平成23年(ラ許)第1
号)

【争いのない事実,乙A1から3まで】
イ賃金訴訟
本件組合の組合員は,東京地裁立川支部に対し,原告が,平成10年以
降,就業規則(給与規定,手当規定をはじめとする各附属規定を含む。

を変更して行った賃金減額の無効や労使慣行を廃して定期昇給を廃止した
ことの違法などを主張して,平成14年8月25日支給分以降の差額賃金
の支払を求める訴訟(同平成16年(ワ)第1959号。以下「第一次賃金
訴訟」という。

,平成17年4月25日支給分以降の差額賃金の支払を求
める訴訟(同平成19年(ワ)第2444号。以下「第二次賃金訴訟」とい
う。
)を順次提起した。同支部は,第一次賃金訴訟について平成19年5
月24日に,第二次賃金請求訴訟について平成22年2月4日に,いずれ
も本件組合の組合員らの請求を全部認容し,原告に各訴訟の請求に係る期
間の差額賃金の支払を命じる判決をした。原告は第一次賃金訴訟について
控訴し(同平成19年(ネ)第3028号)
,東京高裁は,平成20年1月
24日,組合員の一部について早退や欠勤による控除のみ認めて原判決を
一部変更したものの,その余の部分については原判決を維持した。
また,本件組合の組合員らは,東京地裁立川支部に対し,原告が,平成
21年以降,本件組合の組合員らに対して労使慣行となっている定期昇給
を実施しなかったのは不当であるとして,定期昇給が実施されていれば得
られたであろう賃金との差額分の支払を求める訴訟を提起し(同平成23
年(ワ)1093号)
,同支部は,平成25年3月21日,本件組合の組合
員らの請求を認めて原告に前記賃金の差額分の支払を命じる判決をした。
【争いのない事実,乙A4から6まで,8,60】
ウ立ち番訴訟
(ア)本件高校では,本件高校の教員が,登下校の際の安全指導及びマナ
ー指導のために登下校の時間帯に最寄り駅からの通学路及びその周辺の
指定の場所に立つこと(以下「立ち番」という。
)を当番制で長年実施
し,平成19年9月4日からは授業時間帯に立ち番を行うマナー指導立
ち番を実施してきたが,原告は,平成20年11月6日以降,立ち番実
施の時間や場所を順次拡大して,本件高校の学校行事の際も実施した。
(イ)本件組合の組合員は,東京地裁立川支部に対し,立ち番の割当て
が,管理職に対してはない一方で,本件組合の組合員に対しては増加
し,学校行事の際にはほとんどが本件組合の組合員に対して割り当てら
れており,立ち番の指示は,原告が本件組合の存在及び活動を嫌悪し,
本件組合の組合員を非組合員や生徒から隔離して本件組合の組合員の授
業準備や学習支援などの教育業務を妨害し,心身ともに過酷な負担を課
すとともに組合活動を萎縮させ,退職に追い込むことを目的として実施
された指揮命令権の違法な行使ないし濫用であり,組合員の人格権及び
団結権を侵害する共同不法行為であるとして,原告及びP6校長を被告
とする損害賠償請求訴訟を提起した(同平成21年(ワ)第1076
号)

同支部は,平成24年10月3日,原告が本件組合の組合員に対し
て行った立ち番の指示は,本件組合の組合員から教育の出発地点とい
うべき生徒とのコミュニケーションの機会,業務遂行を通じての自己
研さんの機会その他教師の職責を果たす重要な機会を奪い,適切な処
遇を受ける地位をも失わせるなど,原告らの教師としての誇り,名
誉,情熱を大きく傷つけるとともに,本件組合の組合員らを不利益に
取り扱い,かつ,原告らの団結権及び組合活動を侵害するものであっ
て,労働契約に基づく指揮監督権の逸脱・濫用に当たる違法なもので
あるとして,原告及びP6校長に対し,共同不法行為に基づく不真正
連帯債務として本件組合員一人当たり27万円ないし160万円の慰
謝料及び弁護士費用相当損害金の賠償等の支払を命じる判決をした。
原告は,東京高裁に対し,控訴をしたが(同平成24年(ネ)第70
68号)
,東京高裁は,平成25年6月27日,控訴棄却の判決をし,
同判決は確定した。
【争いのない事実,乙A7,35,61,62,乙D1】
エ本件解任以前の平成23年の団体交渉の状況
(ア)平成23年1月28日の団体交渉
本件組合は,原告に対し,平成23年1月28日の団体交渉におい
て,原告傘下の他の大学等では支払われた平成22年度の一時金を本
件高校の教員にも支払うよう要求したが,原告は応じなかった。
(イ)平成23年2月12日付け団体交渉の申入れ
本件組合は,平成23年2月12日付け文書において,同年1月28
日の団体交渉が不誠実なものであったと抗議し,ただちに誠実な団体交
渉を行うように求めて原告に団体交渉の申入れをし,その交渉事項の1
つとして「常勤講師P2教諭の定昇保障と専任教諭化については,年度
末を控えているため至急協議しなければならない。
」として本件組合の
結成直後の平成5年4月19日から問題としている常勤講師(専任講
師)の専任教諭化を掲げた。
また,本件組合は,前記文書において,
「前回団交で理事長が読み上
げた事項に関する反論を組合が述べたところ,それに対してまたもや前
回読み上げた内容を繰り返し,合理的な説明は全くないという不誠実極
まりないものであった。
」として,P6校長の団体交渉における態度を
非難した。
(ウ)平成23年3月10日付け団体交渉の申入れ
本件組合は,平成23年3月10日付け文書でも団体交渉の申入れを
し,その交渉事項の1つとして「常勤講師P2教諭の定昇保障と専任教
諭化については,年度末を控えているため至急協議しなければならな
い」ことを掲げた。
(エ)P2の平成23年度雇用契約の締結等
aP2と原告は,平成23年3月7日付けで期間を同年4月1日から
平成24年3月31日とする雇用契約を締結した。
b本件組合は,P2と原告の雇用契約締結を受けて,平成23年3月
15日付け通知書により,
「組合員P2は常勤講師として,授業だけ
でなく,担任を持ち,進路指導や研修旅行・修学旅行の引率を行い,
各行事の準備,部活動の指導,校務分掌,募集業務,入試業務,入試
問題作成など,専任と同様の仕事を行ってきた。業務内容は『専任』
と同様であるにも関わらず『雇用調整のための臨時的雇用』とし,平
成10年度以来定期昇給を停止され,手当等の削減により極めて低い
賃金に抑えられている。


「東京都労働委員会での協約内容について
は,これまで団体交渉の場で交渉すら成り立っていない状況であり,
前述したような低賃金が継続されている。ここに強く抗議するととも
に,団体交渉で引き続き協議していくことを要求する。
」と通知し
た。
(オ)平成23年5月30日の団体交渉
本件組合は,原告に対し,平成23年4月26日付け文書により団
体交渉を申し入れ,同年5月30日,団体交渉が行われた。
本件組合は,上記文書において,交渉事項の第1項として「7月1
日に支給された『一時金』名目の『未払い賃金』について」を掲げ,
常勤講師に対しても「未払い賃金」を支払うことを要求して「P2は
勤続19年であり,
『一時金』額は626万0448円に相当する」と
指摘した。P6校長は,団体交渉において,P2は常勤講師であり,
定期昇給はないこと,中央労働委員会の判断でも一切の不当労働行為
はないとされたのでありこと,未払賃金も発生しないことを回答し
た。
また,本件組合は,交渉事項の第6項に「常勤講師の専任教諭化」を
掲げ,
「①1999年度に定期昇給が停止されている。この年度にさか
のぼり未払い分の賃金を支払うこと。P2の1999年から2010年
の未払い賃金は1224万1104円である。


「②常勤講師を専任教
諭にすること。
」と要求した。P6校長は「P2さんは常勤講師なの
で,契約上定期昇給はありません。ご存知ですよね。


「今後も定期昇
給は考えておりません。これが議題の6の①の回答です。


「教諭が余
剰になっていますので,よほど学校に貢献して下さっている常勤講師で
ない限りは,専任教諭への転換はありません。

,よほどの貢献の基準に
ついては,今のところ該当者はなく,
「よほど」についての基準はな
い,この基準は今日現在のものであり,過去とは違う,
「じゃあ今日の
回答もよほど学園に貢献して下さっている常勤講師でない限りは専任教
諭への転換はありません。これは,今日の回答でこれでとどめさせてい
ただきます。
」などと回答した。
団体交渉では,他に交渉事項第2項の賃金の支払についての協議が
行われたが,その他の交渉事項は時間不足のため協議されなかった。
(カ)平成23年9月27日の団体交渉
本件組合は,原告に対し,平成23年9月24日付け文書により団体
交渉を申し入れ,同月27日,団体交渉が行われた。本件組合が交渉
事項として掲げた内容は,概ね同年5月30日の団体交渉の交渉事項
と同じであり,原告も常勤講師は正社員ではないことを述べて本件組
合の要求を拒否し,それ以上の具体的な回答をしなかった。
【争いのない事実,乙A17,18,22,62から65まで】
オ職員室の変更
原告は,校長等の管理職及びクラス担任のための職員室とクラス担任で
はない本件組合や他組合の組合員が席を置く職員室を分け,後者を「第2
職員室」と称していたところ,平成23年4月,クラス担任等のための職
員室を新たに建設した新校舎に移して,その名称も「HR指導教員室」に
変更し,クラス担任等ではない組合員の職員室についてはHR指導教員室
とは別棟にある旧校舎に移したが,その後,第2職員室の名称を「職員
室」とした。
【争いのない事実,乙A41,55,62,乙B37】
3本件の争点及びこれについての当事者の主張(被告の主張にはこれと抵触し
ない本件組合の主張を含む。

(1)本件解任が労組法7条1号の禁止する不利益な取扱い,同条3号に禁止
する支配介入に当たるか
(被告の主張)
ア本件解任が労組法7条1号の禁止する不利益な取扱いに該当すること
本件解任は,本件トラブルの際のP2の本件生徒らへの対応に不適切な
点がなく,この指導によってP2と本件高校の生徒との信頼関係も全く崩
れていないことから必要性及び合理性を欠く措置であり,本件解任が十分
な調査を経ずに性急すぎる拙速な判断によって行われているなど相当な手
続を経ていないことや原告が本件解任当時に対立する本件組合を嫌悪して
いたことに照らして,P2が組合員であることや正当な組合活動を理由と
する労組法7条1号の不利益な取扱いに当たる。
(ア)P2の本件生徒への対応に不適切な点はなかったこと
aP11での本件生徒らに対する指導は不適切なものではないこと
(a)P2が,平成23年11月2日5校時に見回り当番として校内
を巡回中,P11において,本件生徒らに対して5校時の教室に入
るように指導したことは,既に5校時は始まっていたことや校舎見
回りが実施されるようになった趣旨,これを担当するクラス担任の
立場に照らして,至極当然の指導であり何ら非難されるべき点はな
い。
P2が本件生徒らに対して前記指導をした際,
本件生徒らから
「M
AがP11に来る,自分たちはMAに手紙を渡そうとしている,M
Aと会えるのはその日が最後であり,少し待って欲しい」旨の発言
(以下「本件懇請発言」という。
)はなかった。P2は,3校時にI
に対して教室に入るよう指導した際に「今日,MAが来る。
」と聞か
されたにとどまり,5校時にMAがP11を訪れることまでは知ら
ず,そもそも原告において,退学した生徒が校舎内に立ち入り,在
校生と交流することを原則として禁止しているのであるから,MA
が5校時にP11に来ることを前提として,この禁止事項に違反す
る退学者MAと本件生徒らの交流が授業中に行われる可能性まで想
定した特別の配慮や対応をするよう求めることは,P2に対する過
剰で酷な要求であり,このような特別の配慮や対応を欠く指導を行
ったとしても,
P2のクラス担任の適格性を疑わせるとはいえない。
(b)P2は,前記P2の指導に反発するEHがP2に椅子を当てた
り,胸ぐらを掴んできたのに対し,本件110番発言をしたが,こ
のP2の発言は不適切な発言ではない。
生徒の暴力をやめさせることは教師の職務であり,
「暴力を振る
うのか。

と強い口調で注意することは本件生徒らに対する挑発に当
たらない。原告の主張は,生徒から椅子を押し当てられそうになっ
ても強い言葉で注意してはならず,注意した以上は胸ぐらを掴まれ
ることを受け入れるべきことを意味し,
これは教員の職務に反する。
その後の
「110番通報してください。


「職員を呼んでください。

との発言も,生徒から暴力を振るわれ,更なる暴力を振るわれそう
になっている突発的な状況下に出た言葉として不自然なものではな
く,本件生徒らを挑発するクラス担任の適格性を疑わせる言動では
ない。
原告は,P2が身の危険を感じて110番通報を求めなければな
らないような客観的状況にはなかったと主張するが,本件高校にお
いて現業職員は,P6校長の指示を受けて立ち番従事中の本件組合
員らの状況を監視するなどさせられており,
その支援は期待できず,
現業職員がいたことによってP2が身の危険を感じたことは左右さ
れないし,本件生徒らがP2の動静に関心を払っていないとしても
EHがP2に向けて椅子を押し当て,P2の胸ぐらを掴んでいる以
上,緊迫した状況にある。P2に恐怖の表情が見られないのは,教
員として冷静にふるまおうと努めたからであって,緊迫した状況に
あったことは否定されない。この点,本件命令は生徒の不相当な行
動を端緒とする教員の言動を一切不問にすると判断したものではな
く,P2の本件110番発言は,本件生徒らを挑発することを意図
したものではなく,P2のクラス担任としての適格性を疑わせるも
のではない。
b英語教室での発言が不適切とはいえないこと
P2の本件謝罪発言は,
前記a(a)の指導について本件生徒らから謝
罪を求められてのものであるが,この指導は教員として当然の指導で
あり,本件生徒らの一部は,結果的にMAに手紙を渡したり,MAと
一緒に写真を撮ったりすることができている。P2において,この当
然の指導に生徒から反抗されて,その場で謝罪をしてとにかく事態を
収めたいという対応をとることは,教員として納得しがたいと思った
としても,それ自体,不相当とはいえない。
原告の主張に従えば,P2は,不本意な心情を表に出さずに謝罪す
べきこととなるが,これではP2が本件生徒らに対して授業に出るよ
う指導すべきではなかったのに指導したこととなり,教育が成り立た
なくなることから,本件謝罪発言によってP2の教員あるいはクラス
担任としての適格性に疑念が生じるとはいえない。
(イ)本件解任に係る手続が相当でなかったこと
a本件解任は十分な調査を経ていないこと
(a)本件解任は,P2を年度途中からクラス担任から外すという重
大な決定であるにもかかわらず,実質的には,P12副校長が平成
23年11月4日午前8時40分に本件トラブル知ってから半日と
いう極めて短期間で決定されており,この間に本件トラブルに関す
る調査がすべて揃っていたとは考えがたい。
(b)本件解任は十分な調査を経ておらず,このことは本件生徒ら意
見書の内容によって正当化されない。
本件解任の決定は,本件トラブルの一方当事者である本件生徒ら
の言い分を主要な根拠としてされたものであるが,P2の弁明を直
接聴取する機会は設けられておらず,P11に設置されたカメラ映
像等の客観的資料の確認すら行われていない。
本件生徒ら意見書は,P13教頭らが本件生徒らの一部から本件
トラブルについて聴取した際に作成されたものである。
この聴取は,
個別ではなく本件生徒らが相席した形でまとめて行われており,聴
取をしたP13教頭らは,本件トラブルの断片的な一部分しか経験
していないし,聴取に当たって事前の検討やP2の作成した本件報
告書に目を通すこともしておらず,本件生徒らから聴取した内容と
P2作成の本件報告書が齟齬する部分について確認するなどの内容
の真実性及び正確性の検証をしていない。その上,この聴取の実施
を主導したP10は,生徒指導部長の地位にありながら,原告の禁
止している退学者MAが校内に立ち入って在校生である本件生徒ら
との交流の機会を,しかも授業中に与えて本件トラブルの原因を作
った者である。P10はこれによって何らかの処分を受ける可能性
のある立場にあったといえ,また,本件生徒らは,P10からMA
と交流する機会を与えてもらう計らいを受けたとの意識を持ってい
たというべきであるから,P10主導による聴取は手続の適正を欠
くものである。本件解任は年度途中に担任を変更するものであり,
その影響は,P2のみならず,P2が担任である▲年▲組の生徒全
体にとっても重大であり,本件生徒ら意見書が,公正な立場の者が
適正な方法で聴取を行って作成されたものではなく,その内容の真
実性及び正確性の検証も何らされていないことに照らして,本件解
任を決定する上で根幹となる事実を認定する資料として十分という
ことはできない。
P13教頭ら作成の報告書も,P13教頭らが本件トラブルの断
片的な一部分しか直接経験していないことやP10には本件トラブ
ルの原因を作り何らかの処分を受ける可能性があったこと等に照ら
せば,本件解任を決定する手続の合理性を担保するため不可欠なP
2の弁明に代わるものとはいえない。
b担任生徒ら意見書に照らせば,本件解任に当たって不十分な調査を
正当化する緊急の必要性はなかったこと
本件解任は,年度途中で担任を変更するものであり,その影響はP
2が担任である▲年▲組の生徒全体にとって重大であるが,同組の生
徒は大半が本件トラブルの当事者ではなく,担任生徒ら意見書によれ
ば,P2と本件トラブルの当事者ではない同組の生徒との信頼関係は
全く崩れていない。本件生徒ら以外の生徒の意見を聴取していれば,
担任をP2から変更することを求めない意見,要望も多数得られ,少
なくとも年度途中に本件解任を行うことは適切でないとの判断に傾
いたはずである。
原告は,本件生徒らが揃ってP2に対する信頼を失い,速やかに担
任を変えることを求めており,このままでは同組の学級運営に支障が
あることから,早急に新しい担任による学級運営をスタートする緊急
の必要があったと主張するが,本件生徒らは,本件トラブルによって
P2に敵意を抱いていたごく一部の生徒であり,ごく一部の生徒であ
る本件生徒らの要望を本来なすべき適正な手続を欠く状態で即座に
実現させた本件解任は不合理なものである。
c本件解任の通知は相当なものではないこと
本件人事通知書には本件解任の理由として「▲年▲組のP2先生が
▲年▲組の生徒及び他の生徒約10名とトラブルを起こしたためで
す。

と記載されるにとどまり,
本件解任についての事実に即した理由
も今後に向けた注意指導も記載されておらず,通知方法として相当で
はない。
(ウ)原告は,本件解任当時,対立する本件組合を嫌悪していたこと
原告は,本件解任当時,前提事実(9)のとおり,本件組合が提起した各
訴訟に敗訴し,新たに提起された訴訟への対応に当たらなければならず,
また,P2の専任教諭化等を繰り返し要求されている状況にあり,対立
的な本件組合の存在を嫌悪していたといえ,P2の専任教諭化を認める
余地がないとの態度も本件組合に対する嫌悪感の表れの一端である。本
件組合は,平成23年1月28日の団体交渉において積み残しになった
P2の専任教諭化や定期昇給及び差額賃金の支払を至急協議するよう
求めて,同年2月12日付け及び同年3月10日付けの各団体交渉申入
れをしており,同年1月28日の団体交渉においてもP2の専任教諭化
や定期昇給及び差額賃金の支払は団体交渉の議題とされていた。
同年11月4日及び同月5日の団体交渉の申入れで掲げた交渉事項
であるP2が生徒から暴力を振るわれた本件トラブルの経過及び指導
内容は,本件組合員に対する安全配慮義務という労働条件や待遇に関す
る重要な問題であり義務的団体交渉事項である。本件高校における生徒
らへの教育的観点から見ても校長等管理職と教員が本件トラブルにつ
いての情報を共有し,生徒に対する指導について話し合うことは不可欠
であり,本件解任の不当労働行為性の判断に当たって考慮されるべきで
ある。
(エ)以上のとおり,P2が行った本件トラブルの際の指導は不適切なも
のではなく,生徒との信頼関係も崩れていないことから,本件解任を原
告がその裁量に基づく人事権の行使として行った必要かつ合理的な措置
ということはできず,本件解任に当たって適正な手続を経ていないこと
や原告が対立する存在である本件組合を当時嫌悪していたことに照らせ
ば,本件解任は,P2が組合員であること又は正当な組合活動を理由と
するものといえ,労組法7条1号の不利益な取扱いである。
イ本件解任は,労組法7条3号の禁止する支配介入に該当すること
本件解任は,前記アのとおり,P2が組合員であること又は正当な組合
活動を理由とし,本件組合や教職員らに対して,組合員であることを理由
として殊更不利益な措置を講じることがあることを知らしめるものといえ,
本件解任は原告に多大なマイナスの影響も及ぼしているから,労組法7条
3号の禁止する支配介入に当たる。
(原告の主張)
ア本件解任が労組法7条1号の禁止する不利益な取扱いに該当しないこと
本件解任は,P2の本件生徒らに対する不適切な指導によって,P2の
担任していた▲年▲組に在籍する生徒を含む本件生徒らとP2との信頼関
係が崩れて成り立たない状況に至り,不安定な状況にある生徒との関係を
第1に考えて,本件生徒らに落ち着いた学校生活を送らせ,また再発を防
止するための対策を講じる緊急の必要性から,原告がその裁量に基づく人
事権の行使として行った必要かつ合理的な措置であり,これを講じる緊急
の必要性に照らして必要な調査を実施しており手続の相当性に欠けるとこ
ろはないから,P2が組合員であることや正当な組合活動を理由とするも
のではなく,労組法7条1号の不利益な取扱いには当たらない。
(ア)P2の本件生徒らに対する対応が不適切であったこと
aP11での本件生徒らに対する指導が不適切であったこと
(a)P2が,
平成23年11月2日の5校時,
P11に集まっていた
本件生徒らに対して,教室に入るよう指導した際,EHからの本件
懇請発言に対して,
「私は知りません。


「授業に出なさい。
」と繰り
返したことは不適切な指導である。
教員には生徒の声を聞き,生徒の言葉に耳を貸し,生徒の立場に
立った指導を行うことが求められ,EHの要望には,本件生徒らの
意見を聞きながら,本件生徒らの要望が間違っていると繰り返し説
得し,
あるいは,
本件生徒らの要望を聞き入れることはできないが,
P2が本件生徒らからMAへの手紙を預かって代わりに渡すことを
提案して説得したり,手紙を書き終わっていない生徒に書き終わる
までの見込時間を尋ね,
書き終わるまでP11に留まることを認め,
書き終わったらMAに渡すことを約束してその場は教室へ行くよう
説得したりする対応をすべきであり,P2はこれらをせずに教室に
入るよう繰り返すことしかしていない。
被告は,前記のような対応によって本件生徒らがP2の指示に従
い,教室に入ることはないと主張するが,教員として本件生徒らの
説得に努めるべきである。これを行わずに効果が見込めないと速断
して行動に移さないことは誤りであり,P2が前記のような対応を
とらなかったことを正当化する理由とはならない。
(b)P2の本件110番発言(ただし,
「職員を呼んで下さい。
」では
なく,
「誰か見ていてください。
」と発言したなど細部については異
なる旨を主張している。
)は不適切である。
P2が本件110番発言をした際,P11の前の廊下には掃除を
している現業職員もいて教職員はP21人ではなく,EH以外の
本件生徒らは,P2の動静に全く関心を示しておらず,P2ともめ
て危害を加えるような素振りや状況もないなど,P2が身の危険を
感じて110番通報を求めなければならない客観的状況にはなかっ
た。また,P2には本件生徒らが本件トラブル以前に教員や生徒に
暴力を振るったことがあるとの認識はなく,P2の表情からも身の
危険を感じた直後のような恐怖は窺われない。
本件高校の生徒は未だ心身の発達段階にあり,教員には,その言
動が精神状態の不安定な生徒に及ぼす影響への教育的配慮が求めら
れる。本件生徒らは,本件110番発言をP2から脅された,挑発
されたと受け止めており,この発言が混乱を拡大させた原因である
とともに,このような発言が教育的配慮に欠けるものであることは
明らかである。
そもそもEHがP2の胸ぐらを掴んだのは,
前記(a)
の不適切な指導に反発してP2に椅子を押しつけたところ,P2に
「暴力を振るうのか」と挑発されたからである。仮に,この発言が
本件生徒らの不相当な行動に端を発したものであって,本件生徒ら
を挑発する意図はなかったとしても,生徒の不相当な行動が端緒と
なっていることを理由として,それに続く教員の言動を一切不問と
するがごときは,原告の教育方針に照らしても是認できるものでは
ない。
本件高校は,平成24年6月7日にP6校長が通報して警察を導
入したが,この件では,生徒間の暴力事件について当事者の生徒か
ら事情を聴取していた際,この生徒が暴れて本件高校のみで収拾す
ることが不可能であり,もう一方の当事者である生徒の身の危険も
危惧されたことから,本件とは具体的状況を大きく異にする。
b本件謝罪発言が不適切であったこと
P2は,英会話教室において,本件生徒らからMAに手紙を渡すこ
とができなかった責任はP2にあるとして謝罪を求められ,ふてくさ
れて本件謝罪発言をしたところ,
「じゃあ」
という言葉は不本意ややむ
を得ないといった心情を表す表現であり,謝罪の言葉の前につけるこ
とが不適切な,相手の心情を著しく毀損する不相当な言動である。本
件生徒らは「じゃあ,はないだろ」などと言い返し,
「これ以上話し合
ってもどうしようもない。

として英語教室を出て行き,
P2に対して
強い怒りと半ば諦めや呆れたという感情を抱くに至っている。
このP2の発言は,
前記a(a)の指導に対応するものであって,
こう
したP2の指導は教員に求められる,生徒の声を聞き,生徒の言葉に
耳を貸し,生徒の立場に立ち状況に応じたものではない不適切な指導
であり,本件生徒らが結果的にP10の立会いの下でMAに手紙を渡
すことができたことによっても,P2の口先だけの謝罪は正当化され
ない。本件では,P2の不適切な指導が本件トラブルに発展し,さら
に不適切な本件謝罪発言によって生徒との信頼関係が成り立たない
状況に至っており,P2が自身の不適切な対応に気づくことができな
かったという事実は,教員,担任としての適格性を欠くことを表して
いる。
(イ)本件解任に当たっては必要な調査を実施しており,手続上の相当性
に欠けるところはないこと
a本件解任は必要な調査を経てされていること
(a)本件解任は,P13教頭らが本件トラブル後の平成23年11
月4日の1校時から本件生徒らのうちI,H,Z,K,T,Uの6
名に対する4日付け聴取を行い,
同生徒らから意見書の提出を受け,
P12副校長に対して,この生徒らの意見書及びその内容を抜粋し
た記録書を作成して提出し,また,P13教頭らが本件トラブルに
ついて体験した内容を報告し,P12副校長が,P13教頭らの報
告内容に現業職員2名の報告を加えた報告書を作成し,これらの内
容をP6校長に都度報告して,協議した上で決定された。そして,
本件生徒ら意見書は,
本件生徒らが,
P11で自分たちがしたこと,
P2がしたことなどの具体的な状況やP2に対する評価を本件トラ
ブルに極めて近接した時点で記したものであり,本件トラブルの認
定に当たり最も重要な証拠である。
(b)本件解任にはこれを行う緊急の必要性があり,P2に対する事
情聴取や防犯カメラの映像を確認していないことによって,本件解
任が性急すぎる拙速な判断であるとはいえない。
本件トラブルの当事者である本件生徒らは,P2の担任する▲年
▲組に在籍する生徒のみならず,2学年の7クラス中6クラスの生
徒であり,本件生徒ら意見書にはすべてP2の教員やクラス担任と
しての適格性を否定する内容が記載されている。特にP2のクラス
の生徒は「P2が担任だと心がひらけない。前向きになれない。


「この先不安であり,思いやられる。


「学校を退学したい,担任を
代えて欲しい。
」と記載しており,原告は,P2と本件生徒らの間で
再度トラブルを生じ,少なくとも▲年▲組の学級運営に支障を生じ
るおそれがあり,一刻も早く生徒の安全を守り,生徒に安心して学
校生活を提供するための対策を講じる緊急の必要があると判断し,
そのためには本件トラブルの翌週から新しい担任による学級運営を
スタートさせる以外に方法はないと判断した。
新しい担任による学級運営をスタートさせ本件トラブルに対応す
る緊急の必要性に照らせば,
原告が,
本件解任を決定するに当たり,
本件生徒ら意見書やP12副校長作成の報告書とP2作成の報告書
の相違点について確認せず,またP10にMAを多数の生徒が校内
で待っていた経緯を確認していないことをもって,本件解任が性急
すぎる拙速な判断であるとはいえない。特に,トラブルの原因を正
確に把握して,本件生徒らとP2のいずれの言い分が正しいのかを
確定することは,時間的にも教育的配慮の観点からも相当でない。
また,P12副校長らが,本件トラブル直前の新校舎建設の際に初
めて設置された防犯カメラの映像を確認して本件トラブルの状況を
把握することが思い浮かばなかったことをもって性急すぎる拙速な
判断であるとする非難は当たらない。
b担任生徒ら意見書によって本件解任を行う必要性は否定されない。
担任生徒ら意見書は,P16の担当する授業時間中に校長その他管
理職の許可を得ずに秘密裡に作成され,その後,早々にP2に引き渡
されており,P16が本件解任に反対の考えのもとで▲年▲組の生徒
らに作成を求めたものといえ,同組の生徒らの素直な気持ちが記載さ
れているとはいえない。
そもそも本件高校を設置運営する原告は,担任との信頼関係が崩壊
して回復が困難な生徒に対して,速やかに安心した学校生活を送るこ
とができるよう対応する義務を負い,執るべき対応は,信頼関係が崩
れた生徒との関係で検討しなければならないから,担任の変更は,本
件トラブルの当事者ではない生徒の意見を聞いた上での多数決によ
って決すべきものではない。本件トラブルによって本件生徒らとP2
の信頼関係が崩壊している以上,他の生徒とP2の信頼関係に特段の
変化が生じていないことにより本件解任の相当性は否定されない。
c本件解任は相当な方法によって通知されたこと
解任の通知は,使用者において適宜の方法によることができ,その
際に将来の注意指導まで含めるかは使用者の判断に委ねられている
ところ,本件人事異動通知には「人事異動の理由は▲年▲組の生徒お
よび他の組の生徒約10名とトラブルを起こしたためです。
」と事実
に即した簡潔な理由のほか必要事項が記載されており,その理由に照
らせば,将来の注意指導も理解できるから,P6校長が本件人事異動
通知をP2に交付する際に説明をせず,また,何らの注意及び指導を
しなかったことをもって通知方法が不相当であるとはいえない。
(ウ)本件解任はP2が組合員であることや正当な組合活動を理由とする
ものではなく,不当労働行為に当たらないこと
a本件解任は,前記のとおり,原告がP2と本件生徒らとの再度のト
ラブルや▲年▲組の学級運営に支障が生じることを防止し,早急に生
徒の安全を守り,生徒に安心な学校生活を提供するために対策を講じ
る緊急の必要性に基づいて,原告が裁量に基づく人事権を行使して行
った必要かつ合理的な措置である。P2は組合執行部の地位に就いた
ことはなく,組合活動を積極的に行ってきたものでもないことから,
原告は,P2を本件組合結成当初からの組合員ではあるものの一組合
員であると認識しており,本件解任が本件組合の活動に打撃を与える
ことは頭になく,これらによる組合活動への支障も生じていない。
b原告が敗訴し,あるいは新たに提起された訴訟は,いずれも本件組
合が提起した訴訟ではなく,原告は,本件組合から本件解任以前の平
成23年1月28日の団体交渉において,P2の専任教諭化や定期昇
給及び差額賃金の支払は要求されていない。長年常勤講師として専任
教諭としておらず,差額賃金の支払もしていない教員は,P2以外に
もいることから,原告が本件組合をP2の専任教諭化等を繰り返し要
求する対立的な存在として嫌悪し,P2を専任教員としないことが本
件組合に対する嫌悪感の表れの一端であるとすることは誤りである。
同年11月4日及び同月5日の団体交渉の申入れは,本件トラブル
の事実経過及び指導内容を明らかにすることを求めるものである。こ
の申入れは,申入書の「今後教員全員が共通認識に立って適切な指導
を行うために,今回の事件についての事実経過と指導内容について明
らかにするよう求める」との記載に照らして,本件組合員の安全配慮
の観点ではなく,生徒指導という教育問題の観点からの申入れであり,
使用者が団体交渉義務を負う組合員である労働者の労働条件その他
の待遇や原告と本件組合との団体的労使関係の運営に関する事項に
は当たらず,本件解任が労組法7条1号の不利益な取扱いに当たるか
を判断する際に考慮されるべきではない。
(エ)以上のとおり,本件解任は原告がその裁量に基づく人事権行使とし
て行った必要かつ合理的な措置であり,P2が組合員であることや正当
な組合活動を理由とするものではないから,労組法7条1号の禁止する
不利益な取扱いに当たらない。
イ本件解任は労組法7条3号の禁止する支配介入に該当しないこと
本件解任は,前記アのとおり,原告がその裁量権に基づく人事権行使と
して行った必要かつ合理的な措置であり,P2が組合員であることや正当
な組合活動を理由とするものではない。本件解任が本件組合の活動に打撃
を与えることは頭になく,組合や教職員らに組合員であることを理由に殊
更に不利益な措置を講じることがあることを知らしめるものではないし,
本件解任によって本件組合が積極的に活動することが困難になり,あるい
は,本件組合の組合活動が衰退するなど組合活動への支障も生じていない
から,労組法7条3号の禁止する支配介入に当たらない。
(2)本件配布が労組法7条1号の禁止する不利益な取扱い,同条3号の禁止
する支配介入に当たるか
(被告の主張)
ア本件文書は,本件トラブルにおいて本件生徒らの一部に粗暴な言動があ
ったことが記載されていないなど本件生徒らの行動状況を読み取ることが
できず,本件トラブルの原因はP2の対応に一方的に問題があり,P2の
教師としての適格性に問題があるかのようにあえて印象づけて,P2に教
師やクラス担任としての適格性がないと生々しい言葉で非難するものであ
り,これによってP2の教師としての評価が下落し,将来的に生徒やその
保護者との間で信頼関係を構築することが困難となり得ることが明らかで
あり,職務上,精神上不利益な行為といえる。
そして,クラス担任を年度途中に変更することになったからといって,
前記のような内容を生徒や保護者が目にする本件文書に記載する必要性は
考えがたく,本件配布はP2が組合員であること,あるいは正当な組合活
動を理由としてされたといえるから,労組法7条1号の禁止する不利益な
取扱いに当たる。
イまた,本件配布は,将来的にP2が生徒や保護者との間の信頼関係を構
築することを困難にさせ,教職員らに対して組合に加入すると原告から殊
更不利益な取扱いを受けることがあると知らしめ,組合の組織,活動に打
撃を与える行為であり,前記アのとおり,P2が組合員であること又は正
当な組合活動を理由とすることから,労組法7条3号の禁止する支配介入
に当たる。
(原告の主張)
ア本件文書は,年度途中に担任を変更する本件解任が,本件生徒らのP2
に対する怒りやP2と本件生徒らの信頼関係の崩壊に対処するため執らざ
るを得ない措置であることを▲年▲組の生徒及び保護者に理解してもらう
ため配布したものであり,P2の教師としての適格性に問題があるかのよ
うに印象づける意図はない。
本件トラブルの原因は,
P2の本件生徒らに対する不適切な指導にあり,
本件文書に本件生徒らの粗暴な言動を記載して▲年▲組の生徒,保護者に
配布すれば,他の生徒や保護者からは,原告がP2の不適切な対応の責任
を本件生徒らに転嫁してP2を擁護していると受け取られ,あるいは,粗
暴な言動を取った生徒は誰かなど生徒に対する非難が生じるおそれが十分
に予想され,このような事態に至れば学校運営が成り立たないことは容易
に予見でき,本件命令はこのような学校教育における生徒,保護者への配
慮や対応の難しさについて考慮していない。
イ被告は,本件配布が労組法7条3号の禁止する支配介入に当たるとする
が,
本件文書の内容は,
組合活動に対する非難を含むものではなく,
また,
組合活動を理由とする不利益な取扱いを暗示するものでもなく,本件配布
が本件組合の運営に影響を及ぼした事実もないことから,労組法7条3号
の禁止する支配介入に当たらない。
第3当裁判所の判断
1後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる(以下,認定
した事実を「認定事実」という。


(1)MAの来校に対する対応について
ア前提事実(4)アのとおり,
P10は,
MAが平成23年11月2日に来校
する予定であることを一部の生徒には伝えたが,他の教員には伝えていな
いところ,
P12副校長は,
「生徒を呼んでどうこうするというようなこと
は…聞いておりません。ですから,その経過,こういう形で来るよという
のは,もしそれがお別れ会ということをするのだったら,当然,私は,止
めていると思います。
」として,MAの来校予定については知らず,知って
いればこれを認めないのが原告の原則的な対応であるとの認識を示してい
る。
【乙C4】
イP12副校長は,平成23年11月4日の朝,P10から同月2日にM
Aが教室に来たことを聞き,また,時期は判然としないが,

『お別れ会』
という言葉は1つも出てきませんでしたけれども,退学者を呼んで,生徒
がお別れのあれをする,手紙を渡したりという。そういう手紙だとか何か
を渡したいという形で生徒がP11にいた」と聞いており,お別れ会とい
うかはともかく,本件生徒らは,P11において退学者MAと同人に手紙
を渡すなどの交流をするためにP11に集まっていたと認識していた。
【乙B17,乙C4】
(2)本件生徒らからの聴取について
ア当裁判所が認定した事実
(ア)4日付け聴取の態様等
P13教頭らは,平成23年11月4日の1校時に,応接室において
本件生徒らのうちI,H,Z,Kから4日付け聴取を行った。その際,
本件組合所属の組合員であり,クラス担任でなかったP20及びP21
は,同時間帯は,全体のロングホームルームの時間であり,P13教頭
らはいずれもクラス担任であったことから,
P13教頭らに対して,
「お
手伝いしましょうか」と声をかけたところ,P10は「結構です。私が
部長ですから。
」といって応接室のドアを閉めた。
なお,同日,その他の本件生徒らから本件トラブルに関する聴取を行
った事実は,後記イのとおり,認められない。
【乙A41,乙B5から9まで,乙C2,弁論の全趣旨】
(イ)本件生徒ら意見書(乙B5から16まで)の記載等について
a本件生徒ら意見書のうちI,H,Z,Kの作成に係るもの(乙B5
から9まで)は,いずれも作成日を平成23年11月4日とし,本件
トラブルの状況に関するものと思われる記載として「生徒に対して,
恐はく,ちょうはつ(警察を呼んで欲しい)


「人の話を聞かなかった
1~2分待っていてくれれば」

「むなぐらをつかまれた→ケイサツを
呼んで下さい」

「胸ぐらをつかまれた時,すぐにケイサツを呼んで下
さいとか被害者ぶる」と記載されているが,これ以上の本件トラブル
の内容に関する記載はない。また,いずれにも「上記のとおり相違あ
りません」という趣旨の記載がある。なお,I,H,Z,Kのうち▲
年▲組に在籍する生徒はIのみである。
b本件生徒ら意見書のうちEHの作成に係るもの(乙B13)の本文
は,本件生徒ら意見書の中で唯一パソコンにより作成されており,作
成日として平成23年11月4日と手書きされている(ただし,原告
作成の証拠説明書によれば作成日は同月7日である。


その他の本件生徒ら意見書には,作成日の記載がなく(ただし,原
告作成の証拠説明書によれば乙B10から12まで及び14は同月
4日,
乙B15及び16は同月7日である。


その内容は前記I,
H,
Z,Kが作成した文書と比較して本件トラブルに関してかなり詳細に
記載されている。
なお,乙B11号証を作成したMは同月4日に,乙B16号証を作
成したAZは同月7日に本件高校を欠席している。
【前提事実(4)イ(ア),
乙B5から16まで,
乙C2】
(ウ)記録書(乙B18)について
前提事実(5)エ(イ)のとおり,
P13教頭らは,
平成23年11月4日,
本件生徒ら意見書の一部を抜粋した記録書を作成してP6校長に提出
したところ,記録書には,本件生徒ら意見書のうちI,H,Z,Kの作
成に係るもののみが抜粋されている。
また,記録書には,本件生徒ら意見書に記載のある本件生徒らの意見
以外の,本件生徒ら意見書には記載されていないがP13教頭らがI,
H,Z,Kから直接聴取した事情などは記載されていない。
【前提事実(5)エ(イ),
乙B18】
(エ)本件文書に記載された本件生徒らの意見
本件文書に記載された内容は,前提事実(6)イ(イ)のとおりであると
ころ,本件文書に記載されている生徒の意見は,本件生徒ら意見書のう
ちI,H,Z,Kの作成に係るものに記載されている内容である。
【前提事実(6)イ(イ)(乙A14)
,乙B5から16まで,1
8】
イ補足説明
(ア)原告は,本件解任に当たり,P13教頭らが本件トラブル後の平成
23年11月4日の1校時に,本件生徒らのうち一部の者から4日付け
聴取を行い,同生徒らから意見書の提出を受けたところ,その対象者に
ついては,平成27年5月14日付け準備書面(1)では9名(8名の誤
記と認める。

,証拠説明書上は,本件生徒ら意見書のうち同日に作成さ
れたものはI,EH,H,Z,M,K,T,Uの8名作成に係る9通
(乙B5から12まで及び14)としていたが,平成28年3月14日
付け最終準備書面においては,I,H,Z,K,U,Tの6名からと主
張し,また,原告関係者であるP6校長及びP14も概ねこれに沿う供
述をすることから,本件解任に当たって原告が実施したとする4日付け
聴取等の調査について検討する。
aP14の供述内容等(甲6,乙B5から9まで,証人P14)
P13教頭らは,平成23年11月4日の1校時から本件生徒らの
うちI,H,Z,K,U,Tの6名に対して応接室で4日付け聴取を
行い,本件生徒ら意見書のうち同生徒ら作成に係る6通(乙B5から
10まで)の提出を受けた。その際,前記生徒らから個別に話を聞く
のではなく,全員一緒に話を聞いた。
P14は,4日付け聴取に当たって,前記生徒ら全体に向けて,本
件トラブルについて,自分で体験したこと,それから感じたこと,思
ったことを正直に書きなさい,ただ,お友達とお話をしたり相談して
はいけませんよと伝え,P10は前記生徒らに対して「上記の通り相
違ありません」と書くよう説明した。
なお,本件生徒ら意見書のうち「上記のとおり相違ありません」と
のいう趣旨の記載があるものは,I作成に係る乙B5,H作成に係る
乙B8,Z作成に係る乙B6,K作成に係る乙B9のみである。
bP6校長の供述内容等
P6校長は,平成25年3月14日付け陳述書(乙B27)におい
て後記(a)のとおり供述し,その後,都労委の審理において,後記(b)
のとおり供述した(乙C3)

(a)P13教頭らは,平成23年11月4日,本件生徒らのうち7
名(ただし,生徒は特定されていない。
)について4日付け聴取を
行って意見書を提出させた。
同日に欠席していた1名についてはP10が電話で本件トラブル
に関する聴取を行って,同月7日に意見書を提出させ,同月4日に
聴取を行うことのできなかった2名については,同月7日に聴取を
行って意見書を提出させた。
なお,同陳述書では,P10において,平成23年11月2日,
P2から直接に現場(P11を意味するものと解される。
)で状況
説明を聞いたとされているが,原告は,本件訴訟において,この事
実を否認している。
(b)本件生徒ら意見書のうちI,H,Z,M,K,U,Tの7名作
成に係る8通(乙B5から11まで及び14)を同月4日にP10
から受領したについては,かなり前であるため記憶がはっきりしな
いが,前記8通全部ではなかった気がする,少し多すぎるような気
がすると供述した(なお,前記ア(イ)bのとおり,同日,Mは欠席
している。


(イ)しかしながら,P13教頭らが行った4日付け聴取及び本件生徒ら
意見書の提出についてのP6校長及びP14の主張ないし供述の内容は
一貫ないし整合しているものとはいえないのに対し,他方で,P20
は,P13教頭らが応接室で本件生徒らに対して4日付け聴取を行って
いた際,本件生徒らからの聴取への協力を申し出たが,その際,応接室
にはI,H,Z,Kしかいなかったことを都労委で供述(乙C2)して
いるところ,P20の供述は,記録書及び本件文書に本件生徒意見書ら
のうちI,H,Z,Kに係るものの内容のみが引用され,また,P10
が記載するよう説明したとされる「上記のとおり相違ありません」との
趣旨の記載も同生徒ら作成に係る生徒ら意見書にしか記載されていない
こと,また,作成年月日は前記生徒ら作成に係る本件生徒ら意見書にし
か記載がなく,その年月日が平成23年11月4日とされていること
(なお,EH作成に係る乙B13号証にも作成日を同日とする記載があ
るが,原告も同書面が同日に作成されたとしていない上,唯一手書きで
作成されていないことから,信用できない。
)といった客観的な事実に
整合していることが認められる。そうすると,4日付け聴取は,I,
H,Z,Kに対する限度でしか行われていないというべきであり,平成
23年11月4日の時点でP6校長に交付された本件生徒ら意見書は同
人ら作成に係る乙B5から9までの5通でしかなかったというべきであ
る。
(3)P12報告書(乙B17)について
ア報告書の作成経過について
P12副報告書は,前提事実(5)エ(ウ)のとおり,P13教頭,P10,
P14及び現業職員からの報告内容をまとめたものであるが,
前提事実(4)
イ(イ)b及びcの本件トラブルのうち英会話教室に移動する前にP2と本
件生徒らが言い争いになり,EH及びAZがP2につかみかかろうとした
際にその場に居合わせたT3及びT4やその後に駆けつけた教員のP20
及びP22からの聴取結果は記載されておらず,P6校長もこれらの教員
から直接の聴取等をしていない。
なお,T3及びT4はP8組合所属の組合員であり,P20及びP22
は本件組合所属の組合員である。
【前提事実(5)エ(ウ),乙A41,45,乙B17,乙C2】
イ報告書の内容について
(ア)P13教頭の報告部分
P13教頭の報告部分には,P14と本件高校の3階に赴いたとこ
ろ,
「5~6人の生徒が居て,P2が『早く教室に入りなさい』とせか
していた。生徒たちは『1~2分待って』と返答したが,P2はそれに
何も答えなかった。私はP2と生徒の『入れ』

『待って』の押し問答が
続いたのを見聞きした」と記載されている。
しかしながら,実際は,P13教頭が,P2と本件生徒らの本件トラ
ブルに立ち会ったのは,MAがP11を訪れ,本件生徒らの一部がMA
に手紙を渡すなどしてMAが帰宅し,P2及び本件生徒らがP11を立
ち去った後であった。
【前提事実(4)イ(イ)c,甲5,乙B17,23,32,証人P14】
(イ)P10の報告部分
P10の報告部分には,何があったのか全く把握していないので英語
教室において本件生徒らから話を聞いたところ,
「退学したMAに最後
の手紙を渡したいのにP2は『教室に入りなさい。
』の一点張りで生徒
たちの言うことに耳を貸さなかった。…そのようなP2の生徒に対する
対応に興奮し口論となった。P2がEHの腕を何度も強く引っ張り,P
2はEHの腕を離さなかったのでEHは腕を振り払った。腹を立てたE
Hは近くの白い椅子を少し動かしたところ,その椅子はP2に当たらな
かったが,P2は『警察を呼んでください。暴力です。
』と大声で騒ぎ
立てた。
」と記載されている。
しかしながら,P2がEHの腕を何度も強く引っ張り離さなかった事
実はなく,本件P10説明がされたことについても記載がない。
しかも,本件トラブルの原因となったMAの来校予定,特にP10が
MAの来校予定を一部の生徒には伝えたが,他の教員には伝えていなか
ったことの記載はなく,また,P10は本件生徒らがP11においてM
Aに手紙などを渡した際にその場にいたところ,その際の状況などにつ
いても直接の経験として記載されていない。
【前提事実(4)ア及びイ(イ),乙B1
7】
(4)その他本件解任に至るまでの調査に関する事情
アP6校長は,平成23年11月4日の午前中,本件高校には在校してお
らず,
本件トラブルについてP12副校長から電話で報告を受け,
その後,
同日午前12時ころにP12副校長から本件解任についての上申を受けた。
その際に記録書やP12報告書,本件生徒ら意見書を確認していたかにつ
いては明らかではなく,これらを確認したことを認めるに足りる証拠もな
い。P6校長は,同日午後1時ころに本件高校を訪れた。
【乙C3,4】
イP12副校長は,中労委の審理において,本件トラブルを理由とする本
件解任の決定に当たっての記録書及び本件生徒ら意見書の内容の真偽の確
認について,
「4日,
1日で状況をつかむという時間的なものも含めてです
けれども,そこまで私は余裕がなかったです。
」と,何か時間的に切迫した
事情があったのか,平成23年11月4日中に結論を出すようにというP
6校長からの指示があったのかとの質問に対しては,
「いや,
指示はござい
ませんけれども,日程的に考えて,4日が,曜日はちょっと忘れましたけ
れども,
金曜日だったかな,
そして5日が土曜日,
そして6日が日曜日で,
7日の月曜日からとにかく新しい形で生徒の学校生活をちゃんとした形に
させるためには,残された4日,5日で担任の決定までしなければいけな
いという,そういう事実はあります。
」と供述し,同月7日から新たな担任
による学級運営をスタートさせることを前提としたスケジューリングであ
ったとの認識を示している。
【乙C4】
ウ本件解任は,P6校長が同日午後1時ころに本件高校を訪れた時点で決
まっていた。
【乙C4】
2争点(1)について
(1)本件解任の必要性及び合理性について
ア原告は,
本件解任が,
P2の本件生徒らに対する不適切な指導によって,
本件生徒らとの信頼関係が崩れて成り立たなくなったことから,本件生徒
らに落ち着いた学校生活を送らせ,また再発を防止するための対策を講じ
る緊急の必要性に基づき行った必要かつ合理的な措置であるとして,労組
法7条1号の不利益な取扱いや同条3号の禁止する支配介入に当たらない
と主張する。そこで,本件解任が原告の裁量に基づき人事権を行使した必
要かつ合理的な措置といえるかについて検討する。
イ本件生徒らに対するP2の指導に不適切な点があったか否かについて
(ア)P11において教室に入るよう指導した点について
a本件トラブルは,5校時の見回り当番であったP2が,P11を訪
れたところ,既に5校時の始業時間を過ぎているにもかかわらず,本
件生徒らがP11に集まっていたことから教室に入り,授業に参加す
るよう指導したことを契機とするものであるところ,教員であり,か
つ見回り当番の担当として巡回中であるというP2の立場に照らせ
ば,P2の本件生徒らに対する指導は,至極当然のものであって,こ
の点に何ら非難されるべき点はない。
b原告は,EHが,前記P2の指導に対し,本件懇請発言をしたにも
かかわらず,P2はEHの本件懇請発言を意に介さず,事務的,機械
的に教室に入るよう指導したことが不適切であると主張する。
この点,本件生徒らの意見書のうちEH,AZ,Z,S,M,T作
成に係るもの(乙B6,10から12まで,15,16)には,EH
がP2に椅子を押し当てる前に本件生徒らが「今日でMAが最後だか
ら少し待ってて」と本件懇請発言があった旨,あるいは本件トラブル
の原因についてP2が本件懇請発言を無視したことにある旨の記載
があり,他の記載部分について殊更虚偽の内容を記載していることは
窺われず,P2作成の報告書(乙A11)にも,EHから椅子を押し
当てられる際にMAが来るから少し待って欲しいと言われたことの
記載はないが,その後,P10がP11を訪れて立ち去った後に「生
徒たちには『授業に行きましょう。
』と言い続けていたが,
『MAが来
ると言ったのに,手紙が渡せなかったじゃないか。謝れよ。今日が最
後なのに。
事情を聞けよ。

と誰からともなく理に通らない言葉を浴び
せるので,
『授業に出ましょう。
』と連呼し続けた。
」とのEHがP2に
椅子を押し当てる前に「今日でMAが最後だから少し待ってて」との
発言があったことと矛盾しない記載がある。
しかしながら,P2においてEHがP2に椅子を押し当てる前に本
件生徒らが「今日でMAが最後だから少し待ってて」と説明した事実
を否定しており,原告の主張する4日付け聴取の対象となった生徒の
範囲も,
前記1(2)イのとおり,
証拠上認めるに足りない点があること,
また,この聴取を主導したP10は,原告において原則として禁止す
る退学者が校内に立ち入り,在校生と交流することを授業中に認める
ことで本件トラブルの原因を作り,本件トラブルについて何らかの処
分を受ける可能性があったこと,P13教頭らは本件生徒ら意見書の
内容の真偽を確認する作業を行っていないことなどの事情を踏まえ
ると,P11におけるP2の教室に入るようにとの指導がされる前か
らEHからP2が椅子を押し当てられるまでの間に,本件生徒らの前
記発言があったものと認めるべき的確な証拠はない。
cもっとも,仮に本件生徒らの本件懇請発言がEHがP2に椅子を押
し当てる行為の前にあったとしても,本件において,P2はP10か
らMAの来校予定を聞かされていたわけではなく,本件高校において
は,そもそも退学者が校内に立ち入り,在学生と交流することは原則
として禁止されている上,
既に5校時の始業時刻を過ぎており,
また,
P11において,前記本件高校における禁止事項に反し,また,授業
時間中に,MAと本件生徒らが本件高校内で交流することについて教
員その他の責任ある立場の者が立ち会っていたことを窺わせる事情
もないことから,本件高校の教員であるP2にとってEHの申出はそ
もそも容認できる内容ではない。仮に本件生徒らに対して一定の配慮
を示す必要があるとすれば,それはとりもなおさず,退学者との校内
における交流が原則として禁止され,授業の始業時刻も過ぎている本
件においては,P2の判断と責任において本件生徒らの禁止事項への
違反と怠学を容認するよう強いることを意味し,その結果としてP2
において,このような大元のルールに反し,規範意識に欠ける対応を
したとして後に職責違反を咎め立てられかねない状況に追い込まれ
る可能性があるといえるから,原告のいう配慮とは,不当な要求であ
るといわざるを得ない。
この点,P14は,自分なら,本件生徒らの申出に対して,自分が
後で渡すことを提案する,本件生徒らが書き終わるまで5分,10分
待つと供述するが,本件生徒らの目的はMAに直接手紙を渡すことに
あったから,本件生徒らから見て,P14の対応が本件生徒らの意を
汲んだ適切な対応であるとは解されないし,本件高校の規則という観
点から見るとき,MAは既に本件高校を退学しており,P2はMAの
来校予定を何ら聞かされておらず,MAが来校する時間帯も知らない
のであるから,P2が本件生徒らの手紙を渡すことを引き受けること
は軽率な対応とも解され,P14が自身の責任でこのような対応をす
ると考えることはともかく,教員としてとるべき対応であるとして,
他の教員に同様の対応を求めることが相当であるとは到底解されな
い。
d以上のとおり,P11において,P2が本件生徒らに対して教室に
入るよう指導したことは,本件生徒らからの本件懇請発言の有無にか
かわらず,また,本件生徒らの立場に立ってその心情を思えば,情に
おいて忍びないものがあることは否めず,P2の指導をもって,事務
的,機械的にすぎ,本件生徒らに対する配慮に欠ける面があるとの評
価があり得ないものでないことを踏まえても,不適切な指導であると
いうことはできない。
(イ)本件110番発言について
aそもそもP2の本件生徒らに対する授業に入るようにとの指導は,
前記(ア)のとおり正当なものであるから,仮にその指導が事務的,機
械的にすぎ,本件生徒らに対する配慮に欠ける面があると評価するに
しても,これに対して,EHがP2に対して椅子を押しつけ,胸ぐら
を掴む暴力に及ぶことは何ら正当化されない。
そして,原告は,P2が椅子を押し当ててきたEHに対して,暴力
を振るうのかとの趣旨の発言を強い口調でしてEHを挑発したと主
張するが,P2に椅子を押しつけたEHの行動は,P2の授業に入る
ようにとの正当な指導に対して,暴力で対抗しようとする不当なもの
であって,これに対する暴力を振るうのかとの趣旨の発言は強い口調
であったとしても正当な指摘であり,P2は教員としてEHの不当な
暴力に屈することなく,EHに暴力に出ることの不当性を指摘しての
毅然とした対応をしたものというべきであって,P2の発言がEHに
対する挑発であるなどとして非難の対象となるべき理由は何ら見出
だせない。
bP2は,EHがP2の暴力を振るうつもりかとの発言を受けて,さ
らにP2の胸ぐらを掴んだことから,
「110番通報してください。


「職員を呼んでください。

と発言したものであるところ,
その発言は
生徒の行為に対するものとしてやや穏当を欠く面があるものの,これ
をもって挑発と解すべき事情は窺われず,生徒が暴力を振るい,更な
る暴力を振るおうとしている緊迫した状況において,教員として生徒
の不当な暴力に屈することなく毅然とした対応を取ることが求められ
ることも踏まえれば,P2の発言を教員として不適切な発言というこ
とはできない。
原告は,EHがP2に椅子を押し当て,さらに胸ぐらをつかむとい
う事態をもって,緊迫した状況になかったとして縷々主張するが,P
2の暴力を振るうのかとの正当な指摘に対して,EHが更なる暴行に
及ぼうとしている事態そのものが,既に十分に緊迫した状況というべ
きである。
(ウ)本件謝罪発言について
P2の本件謝罪発言は,
「じゃあ」という言葉によって,本件生徒らに
対する謝罪が不本意な謝罪であるとのP2の心情を端的に表示しており,
謝罪の言葉としてみれば,確かに,必ずしも適切なものではないという
ことができる。
しかしながら,P2がP11において本件生徒らに対して行った指導
が正当なものであることは前記(ア)及び(イ)のとおりであって,P2が
本件生徒らに謝罪しなければならない理由は見出せない。また,P13
教頭らが英語教室において,P2の指導方法を不適切だとして非難した
などの事情は窺われず,かえってP10は,本件生徒らに本件P10説
明をしてP2の指導に非がなかったことを説明しており,その客観的状
況に照らしても,本件生徒らが原告の原則として禁止する退学者との校
内での交流を授業時間中にできなかった責任がP2にあるとして不当に
謝罪を求めているにすぎないものである。
このように,P2の本件謝罪発言には謝罪としての適切さには欠ける
面があったことは事実であるが,そもそも謝罪をしなければならない理
由が見出せず,P2は謝罪をしなければ事態を収束できないような状況
において,やむを得ず不本意ながら謝罪をしたものと解され,このよう
にやむを得ずにした謝罪の際の文言の不適切さが直ちに教員あるいはク
ラス担任として不適格であることを基礎付ける事情とはいえない。
この点,原告は,P2の英語教室での言動を非難しているが,それま
でのP2の指導に不適切な点はなく,他方,本件生徒らはP2の適切な
指導に対して暴力行為に及ぶほどの興奮状態にあるという状況において,
P2と本件生徒らを同席させて話を聞けば,P2が自身の指導の正当性
を説明し,これに本件生徒らがさらに興奮して反発することは容易に予
想できるのであって,それにもかかわらず,P13教頭らは,漫然とP
2と本件生徒らの同席の上で事情を聞こうとし,本件生徒らの反発に対
して事態を収拾させるために,P2をして不本意ながら謝罪をしなけれ
ばならない状況に置いたというべきであるから,P13教頭らの対応に
は相応の責任があるといわざるを得ない。また,そもそも本件生徒らが
P2の正当な指導に過剰に反発したのは,P10がMAの来校予定を他
の教員には伝えず,本件生徒の一部にのみ伝えたことやP10がP11
に来た時の様子に照らせば,本件生徒らにおいて,5校時にP11でM
Aと交流することはP10に了承されているにもかかわらず,これをP
2が邪魔しようとしたと理解したことに原因があると解される。そうす
ると,原告において,本件トラブルの背景やP13教頭らの対応の問題
性を棚上げし,P2が不本意ながらやむを得ずにした謝罪の際の文言の
不適切さのみを取り上げて,教員あるいはクラス担任としての適格性を
欠くとすることは公正さを欠くというべきである。
(エ)以上のとおり,P2のP11における本件生徒らに対する指導は,
正当な指導であって不適切な点はなく,本件110番発言及び本件謝罪
発言についても,教員あるいはクラス担任として不適格であることを基
礎付けるものではないというべきである。
ウ本件解任の決定が十分な調査を経て決定されたものであるか
(ア)本件解任は,P12副校長が平成23年11月4日午前8時40分
過ぎころにP2から本件トラブルに関する報告及び同人作成の報告書の
提出を受けてから同日午後1時ころまでの約半日という短期間の間に決
定されたものであり,この間に行われた本件トラブルに関する調査は,
前提事実(5)エ並びに認定事実(2)及び(3)のとおり,
約10人いた本件生
徒らのうち僅か4名に対する聴取と同生徒らによる意見書の作成,
提出,
この生徒らからの聴取を担当したP13教頭らによる記録書の作成,提
出,P12副校長による本件トラブルの直接体験したP13教員ら及び
現業職員2名からの報告に基づくP12報告書の作成,
提出のみである。
P12副校長は,P12報告書の作成に当たってP13教頭らと同様
に本件トラブルの一部を直接体験した組合員である教員らからの報告
を聴取していない。また,本件トラブルに関するP2からの直接の聴取
をしていないし,P2作成の報告書の内容が本件解任の決定前に精査さ
れたことも窺われず,本件トラブルの客観的証拠であるP11に設置さ
れた防犯カメラ映像の検証も行われていない。
(イ)このような調査をもって本件解任を決定したことについて,
原告は,
本件生徒らに対する聴取及び本件生徒ら意見書の内容に照らして,本件
解任を行い,本件トラブルの翌週である平成23年11月7日から新た
な担任による学級運営をスタートする緊急の必要性があり,
本件解任は,
この必要性に照らして十分な調査を経た上で行われており,P2から直
接本件トラブルに関する聴取をしていないことや防犯カメラ映像を検証
していないことによって本件解任に当たっての調査が不十分であるとは
いえないと主張する。
そこで検討するに,本件解任を決定するまでに行われた本件生徒らの
聴取及び本件生徒らによる意見書の作成は,十数名いた本件生徒らのう
ち僅か4名にすぎないから,その対象において十分であるとはいえず,
また,この聴取や意見書の作成は,本件トラブルについて原因のあるP
10が主導し,また,本件組合の組合員からの協力の申出を拒絶して組
合員でない教員のみで行われているなど実施方法の面でも公正さに疑
問の残るものである。
また,本件解任を決定するまでに作成された本件生徒ら意見書の内容
は,
認定事実(2)ア(イ)aのとおりであって,
本件トラブルに関する具体
的な記載を欠いており,本件解任をP2の本件トラブルに係る不適切な
言動を理由に行うには不十分な内容であるといわざるを得ない。P13
教頭らの作成した記録書の内容をみても,4日付け聴取により本件生徒
らの一部が作成した意見書の内容がほぼそのまま記載されており,同生
徒らから同人ら作成の意見書に記載された以上の本件トラブルに関す
る事情を聴取して把握したことは窺われないし,本件トラブルに関して
自分たちの直接体験していない事情を把握するよう努めたことも窺わ
れない。本件生徒ら意見書には,本件トラブルと直接関わりのないP2
に対する不満や批判,非難も記載されているが,この不満や批判,非難
は,必ずしも本件トラブルを前提としないものである。してみると,前
提事実(2)ア(ウ)・イ(イ)に照らして異例の対応というべき年度途中の
担任変更を行うだけの緊急の必要性を基礎付けるには足りないという
べきである。
さらには,P12報告書については,本件トラブルを直接体験した組
合員である教員からの聴取が行われておらず,これが行われなかった合
理的理由は何ら窺われない一方で,P13教頭の報告として同人が体験
した事実と異なる内容が記載されて報告されている。本件トラブルの原
因は,本件生徒らが原告の原則として禁止している校内での退学者MA
と交流を,しかも授業中に行おうとして5校時の始業時刻後にP11に
集まっていたことにあり,また,その経緯はP10がMAの来校予定を
生徒らの一部には伝えて,他の教員には伝えなかったというものであり,
P12副校長は,MAの来校予定を知っていれば認めないというのが原
告の原則的対応であるとするにもかかわらず,原告において,MAの来
校に対するP10の対応を問題としたことは何ら窺われない。
加えて,P12副校長は,平成23年11月4日午前8時40分にP
2から本件トラブルについての口頭の報告及び報告書の提出を受けて
本件トラブルを知ったものであるところ,本件解任の決定前にP2の作
成した報告書の内容が精査されたことは窺われないし,P2からの直接
の聴取も,例えば,P12副校長ないし他の教員において,P13教頭
らが本件生徒らの一部から本件トラブルに関する聴取を行うのと並行
してP2から本件トラブルに関する事情を聴取し,あるいは,P13教
頭らにおいて組合員である教員の申出を受けて,本件生徒らからの聴取
を組合員である教員に依頼し,P2からの聴取を行うことは可能であり,
その障害となる事情は何ら窺われないにもかかわらず,そのような対応
も行われていない。
以上によれば,本件生徒らからの聴取及び本件生徒ら意見書によって
も,P2からの本件トラブルに関する直接の聴取や本件解任についての
弁明の付与を不要とするだけの緊急の必要性は認められないというべ
きである。かえって,P12副校長の中労委の審理における供述(認定
事実(4)イ)に示された認識からすると,本件解任は,P2が生徒とトラ
ブルを起こしたことを奇貨とし決定されたものであって,本件トラブル
に係る調査結果を精査した決定されたものではないことが窺われる。
(ウ)また,本件解任を行うに当たっては,年度途中にP2の担任を変更
することが,P2の担任する▲年▲組の生徒の大半である本件トラブル
の当事者以外の生徒にも重大な影響を及ぼす措置であるから,同生徒ら
の意向も尊重されるべきところ,担任生徒ら意見書のほとんどは本件解
任に批判的であり,本件生徒らの一人も本件トラブル時の自身の言動を
反省しているなど,本件解任を正当化するものではなく,原告が本件解
任に当たって同組の生徒の意見を聴取する機会を設けていれば,このよ
うな意見を聴取することができたといえ,そうした意見も斟酌の上で本
件解任の適否を判断すべきものであったともいえる。
この点,原告は,担任生徒ら意見書について,P16からP6校長に
対する許可申請などがなく,P16の説明の仕方によって記載内容が左
右されたおそれがあるなどとして,その信用性を争うが,P16が担任
生徒ら意見書の作成を求めるに当たって,同組の生徒が予断や偏見を抱
くおそれのある説明をしたことは窺われず,担任生徒ら意見書の内容も
P2を全面的に肯定するもののみではないし,本件トラブルの責任の所
在や本件解任の是非には言及せず,本件文書の内容を非難するにとどま
るものや本件トラブルには何ら言及せずに単にP2が良い先生であると
するにとどまる意見もあり,その内容に照らしても同組の生徒らがそれ
ぞれ自身の意見,心情を記載したものとして信用できる。
エ以上をまとめると,原告が本件解任を決定するに当たって行った本件生
徒らの聴取や本件生徒ら意見書の提出については,その対象者や記載内容
に照らして,P2からの聴取や本件解任についてP2への弁明の機会の付
与を不要とするほどの緊急の必要性を基礎付けるものではなく,その他の
調査についても不十分であり,本件解任が▲年▲組の生徒全体に重大な影
響を及ぼすものであり,これに同クラスの生徒の大半が批判的な意見を持
っていることに照らしても,本件解任が十分な調査の上で行われたものと
いうことはできない。本件解任は,本件トラブルにおけるP2の指導に不
適切な点がなく,年度途中の解任が異例の措置であるにもかかわらず,十
分な調査を経ていないことから,その必要性及び合理性を認めることはで
きない。
なお,原告は,本件解任の通知が相当な方法で行われたと主張するが,
本件人事異動通知には単に「人事異動の理由は▲年▲組の生徒及び他の組
の生徒約10名とトラブルを起こしたためです。

とのみ記載され,
本件ト
ラブルにおいてP2の指導のいかなる部分に非があったのかは読み取るこ
とができず,
年度途中の担任の変更が異例の措置であることも踏まえれば,
相当な方法によって通知されたとはいえない。
(2)本件解任は,P2が組合員であること又は正当な組合活動を理由として
された労組法7条1号の不利益な取扱いに当たるかについて
本件解任は,教員の重要な業務であるクラス担任としての職務を剥奪する
ものであり,クラス担任の年度途中での変更が異例の措置であり,教員とし
ての不適格性を推知させるものである上,本件解任は,前記認定のとおり,
必要性及び合理性を欠く措置であって,その決定に当たってP2の弁解の聴
取などの相当な手続を経ていないことからすると,本件解任によってP2は
職務上,精神上の不利益を被るものといえる。
そして,原告は,平成19年9月4日付けで救済命令を発令され,平成2
2年6月29日には,その一部を履行していないことを理由に過料に処され
ており,また,本件組合の組合員が提起する訴訟に敗訴し,また,その後に
提起された第三次賃金訴訟や立ち番訴訟が係属していて,その対応を迫られ
て本件組合と対立する状況にあり,P6校長が本件解任前後の団体交渉にお
いてもオウム返しや沈黙を繰り返して本件組合からの質問に誠実に回答して
いないことや原告が組合員の多くをクラス担任に就任させず,平成23年4
月には管理職及びクラス担任の職員室とそれ以外の教員の職員室を別棟に移
して結果的にクラス担任でない組合員を隔離したことなどに照らせば,原告
が本件組合を嫌悪しており,十分な調査を経ずに行われた必要性及び合理性
を欠く本件解任も原告の本件組合に対する嫌悪の情の表れであると推認する
ことができる。本件解任は,P2が組合員であること又は正当な組合活動を
理由としてされた不利益な取扱いであり,労組法7条1号の不利益な取扱い
に当たるというべきである。
(3)本件解任が労組法7条3号の禁止する支配介入に当たるか
労組法7条3号は,労働者が労働組合を結成し,又は運営することを支配
し,又はこれに介入することを禁止するところ,ここにいう支配介入とは,
使用者の組合結成ないし運営に対する干渉行為や諸々の組合を弱体化させる
行為など労働組合が使用者との対等な交渉主体であるために必要な自主性,
独立性,団結力,組織力を損なうおそれのある使用者の行為を広く含むもの
と解すべきであり,ある行為が支配介入に当たるか否かについては,当該行
為の内容や態様,その意図や動機のみならず,行為者の地位や身分,当該行
為がされた時期や状況,当該行為が組合の運営や活動に及ぼし得る影響を総
合考慮し,組合の結成を阻止ないし妨害したり,組合を懐柔し,弱体化した
り,組合の運営・活動を妨害したり,組合の自主的決定に干渉したりする効
果を持つものといえるかにより判断すべきである。
そして,本件解任が,P2が組合員であること又は正当な組合活動を理由
として行われたものであって,教員の重要な業務であるクラス担任としての
職務を剥奪し,年度途中でのクラス担任の変更という異例の措置であること
によって教員としての不適格性を推知させる職務上,精神上の不利益を伴う
取扱いであることは,前記(2)のとおりであり,そうすると,本件組合や組合
員に対して,組合員であることや正当な組合活動を理由に不利益な措置を講
じることがあることを知らしめて,組合の結成を阻止ないし妨害したり,組
合を懐柔し,弱体化したり,組合の運営・活動を妨害したり,組合の自主的
決定に干渉したりする効果を持つといえることから,労組法7条3号の支配
介入に当たるというべきである。
(4)小括
以上のとおり,本件解任は,P2が組合員であること,あるいは正当な組
合活動を理由とする不利益な取扱いであることから労組法7条1号の不利益
な取扱いに当たり,
また,
これによって組合の結成を阻止ないし妨害したり,
組合を懐柔し,弱体化したり,組合の運営・活動を妨害したり,組合の自主
的決定に干渉したりする効果を持つといえることから,同条3号の支配介入
にも当たる。
3争点(2)について
(1)本件配布が労組法7条1号の不利益な取扱いに当たるか
年度途中に担任を変更する措置が異例の措置であるところ,本件配布は,
P2について本件解任の措置がとられたことを生徒及び保護者に対して通知
することを目的とするものといえる。
しかしながら,本件配布の前提たる本件解任が十分な調査を経ずに行われ
た必要性及び合理性を欠く措置であり,P2が組合員であること,あるいは
正当な組合活動を理由とする労組法7条1号の不利益な取扱い,同条3号の
支配介入に当たることは,前記2のとおりである。
また,本件文書の記載は,前提事実(6)イ(イ)のとおりであり,P2がP1

(本件トラブルがあった正確な位置はP11である。

で11ないし12名
の生徒ともめ事を起こしたとして,生徒らの意見を掲記するものであるが,
その記載に照らせば,P2が日常から言動に,ひいては教員としての資質に
問題があり,本件生徒らが全員P2に対して批判的な感情を有しているよう
に読み取れるものの,引用されている意見は,P13教頭らが行った4日付
け聴取による本件生徒らの一部である僅か4名の生徒の意見であり,そのう
ちP2の担任する▲年▲組の生徒はIの1名にすぎず,しかも本件トラブル
後間もない時期の意見であって,I自身も担任生徒ら意見書で言いすぎた旨
を記載していることなどに照らしても,冷静な判断による真意に基づく意見
とは認めがたく,殊更過剰にP2の教員としての問題性を強調する内容であ
るというべきである。
そうすると,本件配布は,P2の日常の指導や本件トラブル時の指導を否
定して,これに関する生徒や保護者の誤解を生じさせ,生徒や保護者が,P
2が問題のある教員であるとしてその適格性に疑念を抱くおそれのあるもの
であり,その結果,クラス担任や教員としての職務を遂行する上で必要な生
徒や保護者との信頼関係の形成と維持を困難にし,また,不当な本件解任を
撤回してクラス担任に復帰させることを困難にし,職務上,精神上の不利益
を伴うといえる。原告が本件組合と対立して本件組合に対して嫌悪の情を有
していたことは前記2(2)のとおりであって,
本件解任が必要性及び合理性を
欠く措置であることも踏まえれば,本件配布もP2が組合員であること又は
正当な組合活動を理由とする不利益な取扱いであるというべきである。
(2)本件文書の配布が労組法7条3号の支配介入に当たるか
本件配布が,P2が組合員であること又は正当な組合活動を理由としてさ
れた不利益な取扱いであることは,前記(1)のとおりであり,これにより,本
件組合や組合員に対して,組合員であることや正当な組合活動を理由に不利
益な措置を講じることがあることを知らしめて,組合の結成を阻止ないし妨
害したり,組合を懐柔し,弱体化したり,組合の運営・活動を妨害したり,
組合の自主的決定に干渉したりする効果を持つといえることから,労組法7
条3号の支配介入に当たるというべきである。
第4結論
以上の次第であって,原告の本件請求には理由がないから,これを棄却する
こととし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事11部
裁判長裁判官佐々木宗啓
裁判官湯川克彦
裁判官杉山文洋は転補のため署名押印することができない。
裁判長裁判官佐々木宗啓
(別紙1)
初審命令の主文
1被申立人学校法人P23は,申立人P24組合の組合員P2を被申立人学園運
営のP1高等学校のHR指導教員に就任させなければならない。
2被申立人学園は,本命令書受領の日から1週間以内に,下記内容の文書を申立
人組合に交付するとともに,同一内容の文書を55センチメートル×80センチ
メートル(新聞紙2頁大)の白紙に楷書で明瞭に墨書して,被申立人学園の教職
員らの見やすい場所に,10日間掲示しなければならない。

年月日
P24組合
執行委員長P25殿
学校法人P23
理事長P6
当学園が,貴組合の組合員P2氏について,平成23年11月7日にP1高等
学校▲年▲組のHR指導教員から外したこと,及び「▲年▲組のHR指導教員
(クラス担任)変更のお知らせ」を同組の生徒らに配布したことは,東京都労働
委員会においていずれも不当労働行為であると認定されました。
今後,このような行為を繰り返さないよう留意します。
(注:年月日は文書を交付又は掲示した日を記載すること。)
3被申立人学園は,前各項を履行したときは,速やかに当委員会に文書で報告し
なければならない。

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