弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成15年(ネ)第5103号損害賠償請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平
成12年(ワ)第361号) 
(平成15年12月3日口頭弁論終結)
          判    決
      控訴人(原審原告)      株式会社ドムス設計事務所
      同訴訟代理人弁護士     上 野   勝
同補佐人弁理士  松 永 善 蔵
      被控訴人(原審被告)     松下電工株式会社
      同訴訟代理人弁護士     小 松 陽一郎
  同福 田 あやこ
  同宇 田 浩 康
  同井 崎 康 孝
  同辻 村 和 彦
  同井 口 喜久治
  同             平 野 和 宏
  同補佐人弁理士  中 川 文 貴
          主    文
    1 本件控訴を棄却する。
    2 控訴費用は控訴人の負担とする。
          事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 控訴人
  (1) 原判決を取り消す。
 (2) 被控訴人は、控訴人に対し、1億1120万0120円及びこれに対
する平成12年1月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 (3) 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。
2 被控訴人
  主文同旨
第2 事案の概要
 1 本件は、木質防振床材に関する実用新案権を有する控訴人が、被控訴人に対
し、被控訴人が製造販売した製品が当該実用新案権の考案の技術的範囲に属し、そ
の製造販売が実用新案権を侵害するとして、不当利得返還請求権に基づき、実施料
相当額合計1億1120万0120円及びこれに対する平成12年1月24日(本
件訴状送達日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による利息の支払を求め
た事案である。
   原判決は、控訴人が有する実用新案権の考案が、実用新案法3条1項2号、
3号に違反して登録されたものであり、同法37条1項2号の無効事由を有するこ
とが明らかであるから、同実用新案権に基づく損害賠償(不当利得返還)の請求
は、権利の濫用に当たるとして、控訴人の請求を棄却した。
   これに対し、控訴人は、原判決の取消しを求めて、本件控訴を提起した。
2 前提事実、争点及びこれに関する当事者の主張は、次のとおり当審における
控訴人の控訴の理由の要点及び被控訴人の反論の要点を付加するほか、原判決の
「事実及び理由」中の「第2 事案の概要の1、2」及び「第3 争点に関する当
事者の主張」に記載のとおりであるからこれを引用する(ただし、原判決9頁18
行目の「仕上板」の次に「3」を、「スリット」の次に「4」を、同11頁9行目
の「3~5行」の次に「目」をそれぞれ加え、同12頁5行目の「8.5mm」を
削除する。同13頁16行目の「そ根拠として」を「その根拠として」と、同16
頁2行目及び6行目の各「変更出願時」を「本件変更出願時」とそれぞれ改める。
同24頁23行目、26行目、同25頁6行目及び同26頁10行目の各「235
円」を「235円/㎡」と、同25頁13行目の「265.55円」を「265.
55円/㎡」と、それぞれ改める。同25頁13行目から14行目にかけての「9
912万3707円」の次に「の内金9912万円」を加え、同頁15行目の「平
成4年12月9日(出願公告の日)」を「平成12年1月24日(本件訴状送達
日)」と改める。原判決別紙1の2頁5行目の「上気」を「上記」と、同4頁11
行目の「ゴム上弾性層」を「ゴム状弾性層」と、それぞれ改める。)。
3 控訴人の控訴の理由の要点
 (1) 原判決の「本件補正」に関する事実認定の誤り
 原判決が、「本件補正によって付加された「可撓性薄板が仕上板および最
上層の木質床化粧板よりも多分に薄目」の構成によって、「リバウンドの防止によ
る床衝撃音防止性能の向上」という本件変更出願の明細書および図面に記載されて
いない効果が付加されたから、要旨の変更に当たる」(30頁16ないし23行
目)と認定判断したことは誤りであり、本件補正は、何ら新しい作用効果を付加し
ていない。
 すなわち、原判決の記載(28頁20行ないし29頁19行目)によれ
ば、原判決のいう「本件補正」とは、平成3年2月9日付手続補正書(乙48)に
おける補正のことであり、「本件変更出願」とは、平成元年3月24日付実用新案
登録願(乙49)による変更出願であって、本件変更出願が本件補正に基づき本件
考案に補正されたものである。そして、控訴人が「リバウンドを防止することによ
る効果」を説明したのは、本件補正が行われる以前の平成2年9月8日付意見書
(甲21、以下「本件意見書」という。)においてであって、この意見書は、原出
願である特許出願を変更した本件変更出願の考案が具備している作用効果を、拒絶
査定で示された引用例と対比しつつ、具体的に説明したものである。
 このように、原判決が要旨を変更する理由として認定した、本件補正の構
成によって付加されたとする作用効果が、本件補正が未だ行われていなかった平成
2年9月8日付意見書で、既に説明されていたという事実は、原判決の上記認定判
断が誤っていることを如実に示すものである。
 (2) 原判決の認定における矛盾
 原判決は、本件考案には「本件変更出願に係る明細書及び図面に記載され
ていない発明の効果が付加されているから、上記変更は明細書の要旨の変更にあた
る」(30頁20ないし22行目)と認定しているが、上記下線部の原判決の判断
によれば、原出願の特許発明の構成には、リバウンドの防止による作用効果が既に
具備されていたことになる。
 これは、本件補正によって、本件考案にリバウンドの防止による作用効果
が付加されたという原判決の前記認定判断と、明らかに矛盾するものである。この
ことは、リバウンドを防止することによって床衝撃音防止性能を向上させるという
作用効果が、原出願の特許発明にもともと具備されていたことを示すもので、本件
考案は原出願との同一性を有し、何ら要旨の変更に当らないことを意味する。
 (3) 原判決における明細書及び図面の審理不尽
 特許請求の範囲あるいは実用新案登録請求の範囲に示されるクレームの技
術的範囲は、明細書の詳細な説明ないし図面の記載を参酌して解釈することができ
る。そして、原出願の特許発明及び本件変更出願に係る考案と本件考案とは、同一
構成であって、第1図、第2図にその実施例が図示され、構成材の厚さの関係(厚
さの割合、プロポーション)として、厚さ1mmの可撓性薄板の下面には、これより
もかなり分厚い厚さ9mmのスリットを設けた仕上板があり、上面には、可撓性薄板
よりも分厚い木質床化粧板が示されている(木質床化粧板の厚さについて具体的な
寸法の記載はないが、上記図面において、木質床化粧板が仕上板よりは薄く、可撓
性薄板より厚くした構成が図示されている。)。したがって、本件考案の「仕上板
および木質床化粧板よりも多分に薄目の可撓性薄板」という構成は、上記の明細書
及び図面の記載を表現したものにすぎず、これによって何ら新規な効果が生じるこ
とはあり得ない。
 また、原出願の特許発明の床衝撃音防止性能を示す実施例の試験データ
は、明細書の第4図、第5図に、本件変更出願及び本件考案の床衝撃音防止性能を
示す実施例の試験データは、各明細書の第5図、第6図にそれぞれ示されており、
その性能数値(dB)とグラフ波形は、三者とも全く同一であって、原判決の「本件
変更出願に係る明細書及び図面に記載されていない発明の効果が付加されている」
という形跡は、上記のとおり、各明細書における試験データを調べてみても皆無で
ある。
 原判決の前記認定は、このように明細書の詳細な説明ないし図面に記載さ
れている実施例の構成や性能に留意せずになされたものでる。
 なお、控訴人は、平成4年7月10日付回答書(乙4、以下「本件回答
書」という。)において、厚さ1mmの可撓性薄板の効果である床衝撃音防止性能の
優位性を実験データを用いて実証したが、この効果は、原出願の特許発明がもとも
と具備していたものであり、本件変更出願及び本件考案の効果と同一のものであ
る。
 (4) 原判決による本件考案の出願日と無効事由の誤認
 上記のとおり、本件補正による構成の付加が、原出願の要旨を変更するも
のではないことは明らかであるから、原判決の「本件補正の日である平成3年2月
9日が本件考案の出願日とみなされる」(31頁9ないし10行目)との判断は誤
りであり、本件考案の出願日は、原出願の出願日である昭和60年12月27日と
みなすべきである。
 そうすると、原判決が、本件考案が、証拠(乙50ないし53、59)に
よる実用新案法3条1項3号の無効事由を有し、かつ、証拠(乙2の2、56)に
よる同法3条1項2号の無効事由を有していると判断したことは、いずれも本件考
案の出願後に刊行物として頒布され、あるいは、公然実施されたものに基づくもの
であるから、誤った判断である。
4 被控訴人の反論の要点
 (1) 本件補正について
 控訴人は、本件意見書において「リバウンドを防止することによる効果」
を説明していたことをもって、原判決の本件補正に関する事実認定が誤っている旨
主張しているが、控訴人の主張は失当である。
 すなわち、控訴人の主張は、本件意見書の当該説明について、明細書又は
図面に記載があるのと同様に取り扱われることを前提としているが、意見書の記載
に補正と同様の効力を認めるのは相当でない。この点は、原判決の判示(31頁2
ないし7行目)のとおりである。
 (2) 原判決の認定における矛盾について
「発明の効果が付加されている」との原判決の判断は、本件補正により、
可撓性薄板が仕上板及び最上層の木質床化粧板よりも多分に薄目であるという構成
が付加されるとともに、本件変更出願に係る考案及び原出願に係る発明の効果に、
上部からの衝撃加振に際して仕上板にリバウンドによる振動増幅が生じて衝撃音防
止性能が低下したり、衝撃音の発音量が増大することを防止するという効果が付加
されたものであることを述べているにすぎない。すなわち、原判決は、「原出願に
係る発明の効果が付加されている」と述べたのではなく、「考案の効果が付加され
ている」又は「効果が付加されている」とすべきものであった。
 そうすると、原判決の事実認定には、何ら矛盾が存しないのであり、控
訴人の主張が失当であることは明らかである。
  (3) 原判決における明細書、図面の審理不尽について
 控訴人は、原出願に係る発明と本件考案は同一構成であると主張してい
るが、数次にわたる補正の結果、原出願に係る発明と本件考案の構成が異なるもの
となっていることは、原出願に係る発明の特許請求の範囲の記載と、本件考案の実
用新案登録請求の範囲の記載とを対比すれば明らかである。
 そして、本件変更出願の明細書(乙49)の考案の詳細な説明中には、
実施例として、木質防振床材の各層の厚さについて仕上板9mm、可撓性樹脂シー
ト(可撓性薄板)1mm(第5図、第6図共通の説明)、緩衝板10mm(第5図
の説明)、25mm(第6図の説明)との具体的な数値が記載されているものの、
木質床化粧板の厚さについての数値の記載はなく、各層の厚さについての一般的な
説明も、各層の厚さの関係についての説明もないことは、原出願と同様である。実
施例において、それぞれの厚さが具体的に示されている可撓性薄板と仕上板につい
てさえ、実用新案登録請求の範囲にその関係を新たに追加することは、本件変更出
願に係る考案と本件考案との同一性を失わせるものである上、実施例において、そ
の厚さが記載されていない木質床化粧板と可撓性薄板との厚さの関係を新たに追加
することは、当然に、本件変更出願に係る考案と本件考案との同一性を失わせるこ
とになる。
 したがって、たとえ実施例に関する記載、図面、試験データが同じであ
ったとしても、原出願に係る発明及び本件変更出願に係る考案と本件考案に同一性
はないのであり、控訴人の主張は失当である。
 また、原出願に係る発明は乾式防振床に関するものであるのに対し、本
件考案は木質防振床材であること、原出願に係る発明及び本件変更出願に係る考案
においては木質床化粧板の厚さの数値が明らかでないことなどからして、原出願に
係る発明及び本件変更出願に係る考案と本件考案とでは、実施例に関する記載、図
面、試験データが同じであるとはいえず、控訴人の主張はその前提において誤りが
ある。 
(4) 本件考案の出願日と無効事由について
  前記のとおり、本件補正は、考案の要旨の変更を伴う補正であり、出
願日は遡及せず、本件補正の日である平成3年2月9日が本件考案の出願日とみな
される。そうすると、本件考案の出願日が昭和60年12月27日であり、かつ、
証拠(乙2の2、乙50ないし53、56、59)記載の発明が本件考案の出願後
の刊行物ないし公然実施されたものであることを前提とした控訴人の主張は失当で
ある。
第3 当裁判所の判断
 当裁判所も、控訴人の被控訴人に対する本訴請求は、理由がないものと判断する
が、その理由は、次のとおり補正、付加するほかは、原判決「事実及び理由」中の
「第4 当裁判所の判断」の記載のとおりであるからこれを引用する。
1 原判決26頁23行目の「21」の次に「32,33,」を加え、同行目の
「乙5,」を「乙3ないし5,9,」と改め、同24行目の「57」の次に「,6
1,62」を加え、同26行目の「乾式防振床材」を「乾式防振床」と改める。
2 同27頁9行目の「実願」の前に「乙49,」を加え、同16行目の「溶
接」を「密接」と、同28頁17行目の「6頁7行」を「6頁14行」と、それぞ
れ改める。
3 同29頁11行目の「第図4は」を「同第7頁第19~第8頁第2行目にお
いて、『第4図は」と、同13行目の「合板上にの厚さ記載」を「合板上に』の厚
さの記載」と、同17行目の「5頁6行」を「5頁7行」と、同21行目の「乙3
8」を「乙36」と、それぞれ改める。
4 同29頁23行目の「行い」の次に「(乙37の1,2)」を、同24行目
の「提起した」の次に「(乙38の1)」を、それぞれ加える。
5 同30頁4行目の「以下」の前に「乙47,」を、同5行目の「確定し
た。」の次に行を改めて、「特許庁は、平成15年8月12日、本件実用新案権に
係る実用新案登録を無効とする旨の審決を行った(乙62)。」を、それぞれ加
え、同12行目の「実用新案登録請求の範囲」を「特許請求の範囲」と改める。
6 同30頁21行目及び同31頁5行目の各「発明」を、いずれも「考案」
と、同32頁26行目の「昭63」を「昭62」と、同33頁24行目から25行
目にかけて及び同34頁4行目から5行目にかけての各「クッション層」を「クッ
ション材層」と、それぞれ改める。
7 同34頁1行目及び11行目の各「3.3mm」を、いずれも「3.2m
m」と、同2行目の「化粧版」を「化粧板」と、同9行目の「弾性シート層」を
「軟質シート層」と、同15行目の「従来例」を「該従来例」と、それぞれ改め、
同19行目「条溝5」の次に「の部分で遮断されて条溝5」を、同20行目から2
1行目にかけての「防音効果」の前に「…」を、それぞれ加える。
8 同35頁4行目の「介在」を「介」と、「防音基材」を「防音床材」と、同
25行目及び同36頁8行目の各「3mm」を、いずれも「3.3mm」と、それ
ぞれ改める。
9 同39頁3行目の「損害賠償の請求」を「不当利得返還請求」と改める。
10 原判決の「本件補正」に関する事実認定の誤りについて
   控訴人は、原判決が要旨を変更する理由として認定した、本件補正の構成
によって付加されたとする「リバウンドを防止することによる効果」が、本件補正
が未だ行われていなかった平成2年9月8日付本件意見書で既に説明されていたと
いう事実は、原判決の上記認定判断が誤っていることを示すものであると主張す
る。
   しかしながら、本件補正前の願書添付の明細書の考案の詳細な説明におい
て、可撓性薄板を仕切板及び最上層の木質床化粧板よりも多分に薄めとする構成及
びそれに基づくリバウンドの防止効果に関する開示ないし示唆がないことは、原判
決摘示(30頁15行目ないし31頁7行目)のとおりであり、その後に提出され
た本件意見書において、原告が、可撓性薄板を仕切板及び最上層の木質床化粧板よ
りも多分に薄めとすることに基づく作用効果を説明したとしても、当該明細書自体
に開示ないし示唆がないという事実が左右されるものでないことは明らかであっ
て、更にその後に行われた本件補正において、上記の構成及び効果が付加されれ
ば、明細書の要旨の変更に当たるものといわなければならない。
   したがって、控訴人の上記主張は、採用することができない。
11 原判決の認定における矛盾について
 控訴人は、原判決が、本件考案に「本件変更出願に係る明細書及び図面に
記載されていない発明の効果が付加されている」と認定したことは、原出願の特許
発明の構成にリバウンドの防止による作用効果が既に具備されていたことを認定す
るものであり、本件補正により本件考案にリバウンドの防止による作用効果が付加
されたとする原判決の前記認定判断と、明らかに矛盾すると主張する。
 しかしながら、原判決は、「本件補正においては、可撓性薄板について、
仕上板及び最上層の木質床化粧板よりも多分に薄目であるという構成が付加されて
いる。そして、上記のような構成を付加することによって、上部からの衝撃加振に
際して仕上板にリバウンドによって振動増幅が生じて衝撃音防止性能が低下した
り、衝撃音の発音量が増大することを防止するという、本件変更出願に係る明細書
及び図面に記載されていない発明の効果が付加されている」(原判決30頁16な
いし22行目)と判示するものであり、この判示は、本件補正により、本件考案
に、可撓性薄板が仕上板及び最上層の木質床化粧板よりも多分に薄目であるという
構成が付加されるとともに、本件変更出願に係る明細書及び図面に記載されていな
いリバウンドの防止効果が付加されたことを述べるものである。その際、本件考案
について、「発明」の効果が付加されたと説示したことは誤りであり、正確には
「考案」の効果が付加されたと説示すべきであったが、このような表記上の誤り
は、原判決の上記説示全体から容易に認識できるところである。原判決が、「発
明」という語句を使用したからといって、控訴人主張のように、原出願の特許発
明に上記の効果が開示されていたと認定するものでないことは明らかといわなけれ
ばならない。
 したがって、原判決の認定に矛盾はなく、控訴人の上記主張も、採用する
ことができない。
12 原判決における明細書及び図面の審理不尽について
 控訴人は、原出願の特許発明及び本件変更出願に係る考案と本件考案とが
同一構成であることは、第1図、第2図の実施例に図示され、また、各明細書に
は、厚さ1mmの可撓性薄板の下面に厚さ9mmの仕上板を設けることが示されている
にもかかわらず、原判決は、このような明細書及び図面の記載に留意していないと
主張する。
 なるほど、控訴人主張のとおり、原出願の特許発明及び本件変更出願に係
る考案の各明細書(乙5,49)において、実施例として、厚さ1mmの可撓性薄板
の下面に厚さ9mmの仕上板を設けることが記載されている。しかしながら、これら
の記載は、可撓性薄板及び仕上板の相互の厚さの関係を保持することにより、何ら
かの作用効果を生じる技術的事項として開示されているものとは認められないばか
りでなく、上記各明細書には、可撓性薄板が仕上板(及び木質床化粧板)よりも多
分に薄目であるという構成を有することによって、上部からの衝撃加振に際して仕
上板にリバウンドによる振動増幅が生じて衝撃音防止性能が低下したり、衝撃音の
発音量が増大することを防止するという作用効果が生じることは、全く開示されて
いない。また、可撓性薄板と木質床化粧板との相互の厚さの関係は、図面上のその
一例が示されているのみであって、上記各明細書には、実施例としても具体的な厚
さが示されていないから、上記の特定の構成が開示されているとは、到底、認める
ことができない。
 したがって、原判決が明細書及び図面の記載に留意していないとする控訴
人の主張は、採用することができない。
 また、控訴人は、原出願の特許発明の床衝撃音防止性能を示す実施例の試
験データが、明細書の第4図、第5図に、本件変更出願及び本件考案の床衝撃音防
止性能を示す実施例の試験データが、各明細書の第5図、第6図にそれぞれ示され
ており、その性能数値(dB)とグラフ波形は、三者とも全く同一であることを、原
判決が留意していないと主張する。
 しかしながら、これらの図面に関して、本件変更出願に係る明細書(乙4
9)には、「両図の実測結果共、仕上板3にスリット4を設刻することにより25
0サイクルにおける床衝撃音防止性能の改善結果が顕著に表れており、本願考案の
顕著な効果を示している。」(11頁9ないし12行目)と記載される(乙5の8
頁5ないし8行目にも同趣旨の記載がある。)ように、床衝撃音防止性能の顕著な
効果は、仕上板にスリットを設刻したことに基づくものであることが明記されてお
り、可撓性薄板が仕上板及び木質床化粧板よりも多分に薄目であるという構成を有
することによって、上記の効果を生じることは、全く開示されていない。したがっ
て、上記の各図面が同一であることを理由として、原出願の特許発明及び本件変更
出願に係る考案に、本件補正により付加されたリバウンドの防止という前記作用効
果が開示されていたとは、到底、いうことができない。
 そうすると、この点に関する控訴人の主張も採用することができない。
 なお、原告は、本件回答書(乙4)において、厚さ1mmの可撓性薄板の効
果である床衝撃音防止性能の優位性を実験データを用いて実証し、この効果は、原
出願の特許発明がもともと具備していたものであり、本件変更出願及び本件考案の
効果と同一のものである旨主張するが、原出願の特許発明及び本件変更出願に係る
考案に上記の構成に基づく作用効果に関する記載がないことは、前記説示のとおり
である。
 13 以上のとおり、本件補正による構成及び作用効果の付加は、明細書の要旨
を変更するものであるから、原判決が、「本件補正の日である平成3年2月9日が
本件考案の出願日とみなされる」(31頁9ないし10行目)と判断したことに誤
りはなく、本件考案の出願日が原出願の出願日である昭和60年12月27日とみ
なすべきであるとする控訴人の主張を採用する余地はない。
 そうすると、原判決が、本件考案は、証拠(乙50ないし53、59)に
よる実用新案法3条1項3号の無効事由を有し、かつ、証拠(乙2の2、56)に
よる同法3条1項2号の無効事由を有していると判断したことは、いずれも正当な
ことといわなければならない。
第4 結論
 以上のとおり、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却す
ることとして、主文のとおり判決する。
   東京高等裁判所第3民事部
    裁判長裁判官  北  山  元  章
裁判官  清  水     節
           
           裁判官  沖  中  康  人

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛