弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人は無罪。
         理    由
 弁護人若山梧郎の控訴趣意は本判決末尾添附の控訴趣意書に記載のとおりである
から、これについて判断する。
 第二点について
 所論に基いて審按するに、被告人が原判示の如く、Aから本件偽造軍票二〇枚を
受け取るに至つた経過は、原判決中(弁護人の主張に対する判断)において説示す
るとおり、初めAが昭和三〇年四・五月頃Bから右軍票を受け取り、その後偽造物
と知つてから之を邦貨に両替しようと企て、五月下旬頃被告人に右事情を打ち明け
て相談した結果両名間に同偽造軍票を真正のものとして邦貨に両替すること而して
両替の直接の衝には被告人が当ることの通謀が成立し、その実行方法として前記C
附近において右Aより被告人が同偽造軍票を受け取つたのであり、而してその後被
告人は右の如き行使行為の実現に至らなかつたものなることは前記Aの検察官に対
する供述調書二通および被告人の検察官に対する供述調書によつて明らかである。
故に、被告人の右受取行為は、被告人とAとが右軍票の両替のための行使につき互
に共謀による共同正犯者の関係に立ち、右行使を実現する準備的行為として両名の
内部的相互間において同軍票の所在点を機械<要旨>的に移動させる措置なりしこと
が認められる。そこで進んで右受取行為による犯罪の成否につき審究するに、 旨>右の如く共謀による共同正犯者間の授受があつた以上、その共同正犯たる右行使
の対象物たる右軍票の受取行為は、刑法第一五〇条所定の「収得」に該当せざるの
みならず、斯る準備的行為を独立に処罰すべき規定もないから(刑法第一五三条参
照)、その他の犯罪をも構成することなく、此のことは、本件軍票の行使行為の成
立に至つたか否かによつて遡及的に結論を異にすべき理由はない。故に、右軍票の
行使をみるに至らなかつたことを根拠として右受取行為を刑法第一五〇条所定の収
得罪に該当するものとした原判決は、所論の如く、法律の解釈の誤より延いて事実
の誤認に至つたものであり、而して、同誤認は判決に影響すること明らかであるか
ら、原判決は此の点において破棄を免れない。論旨は理由がある。
 そこで刑事訴訟法第三九七条第三八二条第四〇〇条但書により原判決を破棄した
上更に判決する。
 本件公訴事実は、被告人は昭和三〇年五月下旬頃東京都板橋区a町C附近の道路
上においてAことAから内国に流通する外国紙幣であるアメリカ合衆国政府発行の
一〇ドル表示軍票を偽造したもの二〇枚をその偽造たる情を知りながら、邦貨と両
替する目的で受け取り、以て行使の目的を以て之を収得したものであるというに在
る。
 而して、被告人が右日時場所においてAから偽造物たる情を知りながら右の如き
偽造軍票二〇枚を邦貨と両替する目的で受け取つた事実は、Aの検察官に対する供
述調書二通、被告人の検察官に対する供述調書その他原判決が此の点につき引用の
各証拠によつてこれを認めるに十分である。然し、右軍票を被告人が受け取るに至
つた経過は前述の如く右Aと被告人とが右偽造軍票の行使につき共同正犯を共謀し
た結果その行使の準備的行動として授受したのであるから、前示説明の如く被告人
については右受取により刑法第一五〇条所定の偽造紙幣収得罪その他何らの犯罪も
成立しないものである。
 故に、刑事訴訟法第三三六条前段により、被告人の本件行為は罪とならないから
無罪の言渡をなすこととする。
 よつて主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 久礼田益喜 判事 武田軍治 判事 石井文治)

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