弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1原判決を次のとおり変更する。
2控訴人が,被控訴人に対し,労働契約上の権利を有する地位にあることを
確認する。
3被控訴人は,控訴人に対し,435万2108円及び平成16年2月から
本判決確定の日の属する月の翌月まで毎月10日限り35万8774円の割
合による金員を支払え。
4控訴人の訴え中,本判決確定の日の翌日以降の給与の支払請求に係る部分
を却下する。
5控訴人のその余の請求を棄却する。
6訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2控訴人が,被控訴人に対し,労働契約上の権利を有する地位にあることを確
認する。
3被控訴人は,控訴人に対し,223万3508円及び平成15年12月から
毎月10日限り38万1902円を,並びに平成15年12月10日限り69
万8208円及び平成16年6月30日限り65万6588円を支払え。
4訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。
第2事案の概要
1被控訴人は,アメリカ合衆国(米国政府)との間で締結された「日本国とア
メリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6条に基づく施設及び区域
並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定(地位協定)12条4」
項に基づいて,アメリカ合衆国軍隊駐留軍(在日米軍)及び地位協定15条に
定める諸機関が必要とする労務を充足するため,労働者(駐留軍等労働者)を
雇用し,その労務を在日米軍及び諸機関に提供しており(いわゆる「間接雇用
」),,,,方式またその円滑な実施及び労働者の権利利益の擁護を図る観点から
米国政府との間で,3つの労務提供契約(そのうち,基本労務契約(MLC)
,,は米国政府の歳出予算で運営される在日米軍の司令部や部隊の機関において
,,,。)事務職技能職警備消防等の業務に従事する陸上勤務者を対象とするもの
を締結し,その労務管理について,日米両国政府が分担して行ういわゆる日米
。,,,共同管理方式を採用しているなお駐留軍等労働者は国家公務員ではなく
原則として労働基準法,労働組合法,労働安全衛生法等の我が国の労働法令が
適用される。
控訴人(昭和▲年▲月生)は,平成元年4月に,被控訴人にMLCに基づく
常用雇用のために採用され(当初6か月間は試用期間従業員,α空軍基地米)
空軍太平洋放送局のエンジニアリング/メンテナンスで「クラークタイピスト
職(職位としての語学手当級別第2級)に従事し,同年10月に常用従業員」
となり,その後昇格,昇給を重ね,平成10年12月15日には「報道編集専
門職(基本給表1の6等級,職位としての語学手当級別第4級)に昇格し,」
平成13年1月1日,α基地内の「(在日米軍司令HQUSFORCESJAPAN」
部)に転任する人事措置を受けるなどして引き続き「報道編集専門職」という
。,,,,職種が割り当てられたしかし控訴人は同年5月10日付けで上司から
労働能力が不足し,同年8月10日までの間に一定の業務を遂行することを求
め,遂行しない場合配置転換等がありうる旨の記載のある「救済援助プログラ
ム(HAP)と題する書面(乙13)を交付され,次いで,平成14年6月」
25日付け発信の,同年7月1日から休業手当支給の身分とし,勤務に就かな
いように通告する内容のファクシミリ文書(乙14)を見せられ,1年以上の
自宅待機を経た後,平成15年8月7日付けで,被控訴人から,東京防衛施設
局長名義の,不適格解雇により雇用を終了させるという人事措置通知の郵送を
受け,同年9月15日付けでその効力が発効したとされた(本件解雇。)
2本件は,控訴人が,本件解雇及びこれに先立つ休業手当支給身分とする措置
の無効を主張して,被控訴人に対し,労働契約上の権利を有する地位にあるこ
との確認並びに平成14年7月分から平成15年10月分までの本来支給され
るべき給与と実際の支給額との差額として223万3508円及び同年11月
分(同年12月10日支払分)以後の給与(月額38万1902円のほかに,
平成15年の年末手当69万8208円,平成16年の夏期手当65万658
8円)の支払を請求した事案である。
これに対し,被控訴人は,控訴人には,報道編集専門職としての職務を満足
にこなすことができず,状況判断能力や事務処理能力に欠けているという不適
格解雇事由が存在するし,MLCに基づく適正な手続も取られており,本件解
雇は有効であり,また,これに先立つ休業手当支給身分とする措置も有効であ
るとして,控訴人の請求を争っている。
3原判決は,()HAPを通じて使用者(在日米軍)は控訴人に勤務態度の1
是正を強く要求する必要があったものと推測され,HAPが控訴人に対して課
されたこと自体には一定の合理性があるものというべきであり,また,HAP
の内容も控訴人の職位で求められている業務処理内容のうちの基本的なところ
であることが窺われ,無理難題を課したものとは評価できない,ところが,控
訴人は,HAPへの拒否的姿勢を貫いていたから,このままHAPを拒否し続
けている控訴人を職場に出勤させておくことは職場である広報部の使命と生産
性に思わしくない影響を与えるとして控訴人に対し課した休職処分について,
権限の濫用で無効であるとか不当な意図に基づくもので違法無効であるといっ
た事情は見受けられない,()解雇予定通知書に添付されている中心的な理2
由は,HAPを実施したにもかかわらず,控訴人がこれに従わず,被控訴人が
求めている職務遂行能力に関する業務の改善や職に対する前向きな意欲を示さ
ず,また発揮しようとしなかったこと,MLC第10章4項aに従って配置転
換を模索しても控訴人が職位に対する応募の意思を示さなかったことにあると
ころ,この理由に符合する事情が見受けられる,()解雇の前提としての手3
続についても,使用者の在日米軍においては控訴人に対する不適格解雇手続が
MLCに則って行われており,雇用主の被控訴人においてもそのことを確認し
た上で控訴人を不適格解雇したものと認められるから,使用者ないし雇用主に
おいて解雇回避努力をすることなく,あるいはそのような努力が不十分なまま
に本件解雇がなされたものとはいえない,()その他,本件証拠上,被控訴4
人による控訴人に対する本件解雇が解雇権の濫用に当たるものと評価できるよ
,。,うな事情は見当たらないとして控訴人の請求を棄却したこれを不服として
控訴人が控訴したものである。
4前提事実
次の()のとおり訂正し,()のとおり付加するほか,原判決の「事実及び理12
由」の第2の1に記載のとおりであるから,これを引用する。
()原判決の訂正1
ア原判決5頁3行目から4行目にかけての「とがある」の次に「そのう。
ち,常用従業員は,日雇従業員,限定期間従業員,試用期間従業員,特殊
期間従業員以外の者で,期間を定めることなく継続的職務に配置される従
業員をいう」を加え,7行目から8行目にかけての「同年4月に被告に。
MLCに基づく常用従業員(当初6か月間は試用期間従業員)として雇用
され」を「同年4月3日に被控訴人にMLCに基づく常用雇用のために採
用され(当初6か月間は試用期間従業員」と,12行目の「試用期間を)
経て本採用となり」を「試用期間を経て常用従業員として雇用され」と各
改める。
イ同6頁17行目の「その文書には」から18行目末尾までを「その文書
は,休業手当の通知と題する文書であり,MLC第5章11項を参照規定
とし,控訴人が同年7月1日から休業手当支給の身分になること,この休
業手当支給身分の間,控訴人は,事前の署名による承認がない限り,いか
なる理由にせよ在日米軍の職場の訪問及び連絡は認められないことなどが
記載されていた(以下この休業手当支給身分とする措置を「休業処分」と
いう(乙14」と改める。。)。)
ウ同7頁12行目から13行目にかけての「別表2のとおり」の次に「1
か月当たり」を加え,16行目の「不明欄は乙19のとおり」を「平成1
4年6月分は同年5月分と同額の支給があり,平成15年5月分は同年4
月分と同様休業手当のみ21万2080円の支給があった」と改める。。
()付加する事実(乙2,50,52及び弁論の全趣旨により認められる)2。
アMLCに基づき日本国政府によって雇用され,在日米軍に提供され,そ
の施設で勤務する従業員の労務関係を律するものとして「駐留軍従業員,
就業規則(乙52)が定められており,同規則の中には,次の定めがあ」
る。
(ア)従業員の雇用の終了に関する基準,手続,その他の事項は,基本労
務契約第8章第9章第10章及び第11章に定めるところによる7,,(
条。)
(イ)給与の決定,計算及び昇給は,基本労務契約第3章,第5章及び第
21章に定めるところによる(16条前段。)
(ウ)制裁の種類,要件,手続等は,基本労務契約第8章に定めるところ
による(21条。)
(エ)この規則に特に定めのない雇用条件及び就業条件は,基本労務契約
の関係規定によるものとする(29条。)
イ上記のとおり,基本労務契約(MLC)は,上記従業員の労務関係を規
律するものとなっており,従業員の採用のときに,従業員に「従業員ハン
ドブック」が交付され,同契約の内容が周知されるようになっている。
ウMLC(乙2)の「第5章給与の管理」には,従業員に支給する基本
給及び給与の決定基準が定められており,休業手当について「従業員が,
在日合衆国軍の都合により正規の所定勤務時間中に勤務することを許され
ない場合には,正規に勤務した場合に支給すべき給与の60パーセントを
支給するものとする」と定められている(11項。。)
エMLCの「第8章従業員の行為」には,従業員に対する制裁措置の実
,「」,施に関する手続が定められており制裁措置の1つとして減給があり
「減給とは,平均賃金の1日分の半額をこえない範囲で給与を一時的に減
額する措置をいう」と定められている(2項b。。)
オMLCの「第10章雇用の終了」には,人員整理,特例解雇,制裁措
置又は保安解雇措置に基づくもの以外のすべての雇用の終了に適用される
規定があり,その中には次のような規定が含まれている。
(ア)雇用の終了に関する要求は,A側(アメリカ合衆国政府)が「ML
C人事措置要求書」の様式をB側(日本国政府)に送付することにより
行うものとする(2項)。
(イ)不適格な従業員の雇用は,その者が不適格であると決定された場合
に,A側の要求に基づいて解除されるものとする(以下略(3項d)。)
(ウ)不適格解雇の手続(4項)
予備措置a
常用従業員が最小限度の職務上の要求を満たさないため不適格であ
ると認められる場合には,A側(アメリカ合衆国政府−本件では在日
米軍司令部,以下同様)は,その不十分な点について,その従業員に
忠告し,その者の成績を向上させるため援助を与える計画をたてるも
のとする。
この計画を実行した後,なおその者が十分に職務を遂行できない場
合には,A側は,その者の能力に相応する職務が得られるか否かを確
認するものとする。
その職務が得られる場合には,その者の同意を得た上,その者をそ
の職務に配置するものとする。
従業員が十分にその職務を遂行することができず,かつ,その能力
に相応した職務が得られない場合又はその者が能力に相応した職務に
つくことに同意しない場合には,その事情に関する報告書を契約担当
官代理者に提出するものとする。
(以下略)
解雇予定通知b
契約担当官代理者は,事案を審査し,必要な非公式の調査を行わせ
るものとする。契約担当官代理者が,解雇措置手続を開始すべきであ
ると決定した場合には,調査報告書の写し1部及び「MLC解雇予定
通知書」の様式による解雇予定措置の通知書2部をB側(日本国政府
−本件では東京防衛施設局,以下同様)の地方機関の長に送付するも
のとし,B側の地方機関の長は,従業員にその通知書の原本を交付す
るものとする。この場合,通知書には,次の事項を記載するものとす
る。
()解雇の予定措置及びその性質1
,()従業員がその疑いに対して適当に抗弁することができるように2
明確,かつ,詳細に記述されている解雇の予定措置に関するすべて
の理由
()従業員は,通知書を受領した後7日以内にB側の地方機関の長3
,(,を通じ母国語で文書により回答する権利を有することこの場合
B側の地方機関の長は,その回答の原本に受領の日付を記入し,遅
滞なく契約担当官代理者に提出するものとする)。
()従業員は,回答の裏付けとなる証拠を文書により提出する権利4
を有すること
調整c
契約担当官代理者は,その事案について意見を求めるため,B側の
地方機関の長と協議するものとする(以下略)。
解雇要求書d
解雇要求書は「MLC人事措置要求書」の様式によりB側の地方,
機関の長に送付されるものとする。解雇の措置は,B側の地方機関の
長が行うものとする。
(e,f略)
(エ)この契約に別段の定めがある場合を除き,解雇すべき従業員(特殊
期間従業員を含む)に対しては,30日前の解雇予告を行なうものと。
する。解雇予告を要する場合において,予告期間が30日に満たないと
き又は予告を行わないときは,第4章B節3に定めるところにより,従
業員に解雇手当を支払うものとする(6項。)
カ控訴人に対する休業処分は,MLC第5章11項に基づくものであり,
また,本件解雇は,MLC第10章4項に基づくものである。
5争点
()不適格解雇の有効性1
ア不適格解雇事由の存否
イ不適格解雇の手続要件充足の有無
ウ本件解雇は解雇権の濫用に当たるか否か
()休業処分の有効性2
6争点についての当事者の主張
()不適格解雇事由の存否(争点()ア)11
ア被控訴人の主張
(ア)控訴人は,在日米軍広報部の報道編集専門職(職種番号95,基本
給表1の6等級,職位としての語学手当級別第4級)の職位に応募し,
試験及び面接の後,平成10年12月15日に当該職位に選抜された。
この報道編集専門職の職務内容はMLCにおいて規定されている。その
うち,報道機関の窓口としての業務における不適切な対応が控訴人に多
数見られ,また,窓口以外の基礎的な事務処理についても指示に従わず
問題点が控訴人に度々指摘されるなど,控訴人は基本的な職務を満足に
こなすことができなかった。
,,(イ)控訴人に職務遂行能力上問題があると認められたのは具体的には
次の諸点などである。
控訴人の就いている職位に求められている語学能力が語学手当級別a
第4級であるにもかかわらず,控訴人は資格として語学手当級別第2
級にとどまったまま語学能力向上の努力をせず,そのため,電話対応
を効果的に行うことができなかった。
控訴人は,基本給表1の6等級という高い職務遂行能力を求められb
ている職務に2年以上就いていたにもかかわらず,監督者の明確な指
示がなければ職務を遂行できなかった。
報道機関からの問い合わせに対し,不完全,不正確な情報を提供しc
たり,期限に間に合わなかったりするなど,基礎的な技能及び判断力
を欠いており,その結果,軍からも報道機関からも苦情を受けること
があった。控訴人の不適切な対応の例として,別紙の「被告準備書面
()の主張」欄の()アないしキのようなことがあった。31
控訴人は,報道関係機関に対する窓口業務以外の基礎的な事務処理d
,,。,についても指示に従わず問題点が度々指摘されたその具体例は
別紙の「被告準備書面()の主張」の()アないしウのとおりである。32
控訴人は,平成13年,同僚の自殺未遂事件について,指揮命令系e
統に従わず,同僚の直接の上司に報告しなかったことで職場の混乱を
招いたとしてMLC違反行為の嫌疑書(乙12)の発出を受けた。
(ウ)控訴人の直属の上司であり監督者であるP1は,控訴人に報道編集
専門職に従事する者としての状況判断能力や事務処理能力が欠けている
と判断し,その原因の一つには控訴人の語学力の不足もあるとの結論に
達した。これを受けて契約担当官代理者は,平成13年5月10日付で
,。,HAPを適用することとし即日発行したこのようなHAPの内容は
控訴人の職位の日常業務を通常に遂行すれば当然に満たすことのできる
妥当なものであった。
(エ)しかるに,控訴人はHAPが適用された意味を理解しようとせず,
監督者,副部長及び広報部長に対してHAPのレターに記載されている
職務の意味を説明するように求めて数週間を過ごし,HAPの実行をし
なかった。控訴人はHAP期間以前の平成13年2月9日とそれ以降の
同年9月28日の2回にわたり,語学手当級別試験を受験したが,語学
力の向上を証明することができず,語学力の向上に向けた努力や意欲も
なかったことを示唆するものであったことからすると,控訴人に対する
HAPが適正に行われたにもかかわらず合格できなかったことは明らか
である。
(オ)控訴人は,控訴人が資格として語学手当級別第2級であることを承
知しながら,職位として語学手当級別第4級が必要とされるポストに採
用した被控訴人が,控訴人が資格として同第4級を取得しないといって
解雇できるのはおかしい旨指摘する。しかしながら,被控訴人は,控訴
人が資格として同第4級を取得しないとして解雇したものではなく,H
APにおいても,控訴人に同第4級の取得は要求していない。被控訴人
は,控訴人が自らの英語力を高めるべく努力改善した事実すら認められ
ないことを解雇の理由の1つにしたものである。
イ控訴人の反論
,。。,被控訴人の主張は争う控訴人には不適格解雇事由はないすなわち
(ア)被控訴人は,平成14年1月30日にMLC解雇予定通知書を受け
取ってから平成15年8月7日に本件解雇をするまでの間,同通知書の
内容を調査,検討,審査することを一切しておらず,本件訴訟が提起さ
れてからも控訴人の不適格解雇事由をなかなか特定できないでいた。要
するに,被控訴人は,客観的に合理的な解雇理由を認識しないまま本件
解雇を行ったものであって,本件解雇は,無効である。
(イ)被控訴人の不適格解雇事由は,MLC解雇予定通知書(乙15)に
記載されているところ,これらは,結局のところ控訴人の英語力不足の
問題に収斂する。しかし,控訴人には解雇されるほどの英語力不足はな
い。控訴人は,資格としての語学手当級別が第2級で「平均的能力を,
要するもの」であるところ,全体のMLC労働者の英語力上位4分の1
に入るものであり「平均的能力ゆえに解雇」という主張は奇異という,
ほかない。
(ウ)被控訴人の主張(イ)について
同aについてa
語学手当級別第2級の控訴人を第2級と知って登用したのは被控訴
人であり,平均的英語力の者が「特段の英語力」に容易になるはずが
ない。しかし,控訴人は,語学能力向上の努力を続けており,また,
電話対応に窮したことはない。
同bについてb
被控訴人の主張を争う。なお,控訴人の上司,なかでもP1一等軍
曹は,メディアからの問い合わせに控訴人の一存で回答することを許
さないなど,控訴人には業務の裁量性が認められていなかった。
,,「」c同cdに対する反論は別紙の原告の認否・反論・コメント等
欄に記載のとおりである。
同eについてd
平成12年12月11日,控訴人の同僚であり報道編集専門職のP
2が,職場(当時は東京都港区βホテル)で突然具合が悪くなり,パ
ニック状態に陥ったことから,控訴人は,上司であるP1に報告し指
示を仰ごうとしたが,同人がまだ職場に来ていなかったので,報告で
きなかった。やむなく,控訴人は,βホテルの警備責任者であるP3
,,に相談し同人が自動車通勤してきている他の従業員に援助を求めて
その従業員に送られてP2は病院に行った。その後もP1がなかなか
来ないので,控訴人は,やむを得ず,報告を後回しにして病院に向か
った。その後,控訴人は,病院から職場に戻ったが,P1はまだ来て
いなかった。
翌12日,P2が出勤してこず,かつ自宅に電話しても誰も出なか
ったので,控訴人は,P1に,P2と連絡が取れないこと,同人が前
日具合が悪くなって病院に行ったことを報告した。
したがって,控訴人が当日報告しなかったのはP1の責任であり,
翌日には報告している。
控訴人は,翌13日もP2と連絡が取れなかったが,翌14日朝,
同人の母から電話があり,自殺未遂の件を告げられ,公にしたくない
。,,のでP4空軍大佐にだけ話してほしいと頼まれたそこで控訴人は
家族の意向を無視できないし,P4はP1の上司であり,控訴人の指
揮系統に属する上司であるから,P4に報告したものである。
控訴人に対し,4時間の減給が科せられる旨の嫌疑書(乙12)が
発出されたのは事実であるが,その後同嫌疑書は撤回され,同減給は
実際には行われなかったものである。
(エ)控訴人に対しHAPを実施すること自体相当性を欠くし,その内容
は,わずか90日間に第4級の「特段の能力」になることを要求するな
ど,実現不可能なものである。
()不適格解雇の手続要件充足の有無(争点()イ)21
ア被控訴人の主張
(ア)前記のとおり,控訴人に対するHAPが適正に行われたにもかかわ
らず,控訴人は,これに合格できなかった。
(イ)在日米軍は,控訴人に対し他の職位を見つける最大限の努力を行う
とともに,他の職位の模索を行ったが,控訴人の能力に相応した職務を
得ることはできなかった。
被控訴人である日本国政府も,在日米軍の協力を受け,控訴人と面談
を重ね,数々の職位を提供し,また,海軍のみならず空軍や陸軍にも協
力を申し入れ,控訴人が応募してきた場合便宜を図ってもらうようにと
の申し入れを行った。しかしながら,控訴人は,結局,自身が主張する
,,,,通勤可能なγの募集に応募したのみでδεαについては希望せず
更に,4等級以下の職種や,IHAの職種にも応募する気はないとし,
他の空席の職位に応募しようとはしなかった。
なお,MLC第10章4項によれば,常用従業員が不適格であるとa
認められる場合には,在日米軍は,不適格解雇対象者の能力に相応する
職務が得られるか否かを確認し,得られる場合には,本人の同意を得た
上で配置するとされているところ,かかる配置は,本人の同意が条件と
なっている。そもそも,駐留軍等労働者の雇用は,職務を限定して雇用
する制度であり,控訴人もそのことを理解して自らの意思で上位等級の
職位の募集に応募してきたものである。したがって,在日米軍は,配置
転換あるいは転任の措置を一方的に「命令」することはできない。
控訴人は,配置先について通勤可能であればどこでもよい旨被控訴人
に述べたと主張するが,否認する。
また,控訴人は,被控訴人である日本国政府に職位を提供して配置転
換を命じる権限があり,義務があった旨主張する。しかしながら,ML
C第1章B節「雇用手続」をみれば「5面接及び採用」の最終的な,
決定者は,あくまで在日米軍側にある旨が明記されているのであって,
日本国政府が単独で職位を提供して配置転換を命じることができないこ
とは明らかである。
(ウ)その他,本件解雇の手続は,適正に行われた。
イ控訴人の反論
(ア)HAPの内容は,著しく苛酷であり,実現不可能なものであった。
(イ)HAPを行っても,十分に職務を遂行できない場合,次に,人事異
動の試みが必要となることは,MLCの条項上明らかであるが,控訴人
に対し,人事異動の試みがされていない。
被控訴人は,控訴人が応募の努力をしなかったから配置転換命令を出
さなかったとの趣旨の主張をするが,別件の沖縄裁判では,人事異動を
命じられて拒否した労働者が制裁解雇されて訴訟となっており,同訴訟
では,国側は人事異動命令に労働者の同意は不要と主張しているのであ
って,控訴人に対して被控訴人は解雇を回避すべく配置転換のための人
事異動を命ずるべきであった。しかも,人事異動に労働者の同意が必要
であることと,労働者が積極的に職位の募集に応募することとは,別の
,,次元の問題であって不適格解雇を回避するための人事異動については
人事権者の側で異動先を探してそれを労働者に提案していく必要がある
(その提案に同意するか,同意しないで解雇されることを選択するかは
労働者が決めればよい)のに,本件ではそれがされていない。。
()本件解雇は解雇権の濫用に当たるか否か(争点()ウ)31
ア控訴人の主張
,,本件解雇は①不適格解雇事由が存在しないことから明らかなように
客観的に合理的な理由がなく,また,②解雇を回避すべく配置転換のた
めの人事異動を命ずることをしないで行ったものであって,解雇という労
働者に対する極刑をもって臨むことが社会通念上相当であるともいえない
から,解雇権濫用により無効である。
イ控訴人の認否
争う。
()休業処分の有効性(争点())42
ア被控訴人の主張
MLC第5章11項では「従業員が在日合衆国軍の都合により正規の,
所定勤務時間中に勤務することを許されない場合には,正規に勤務した場
合に支給すべき給与の60パーセントを支給するものとする」と規定さ。
れている。この「従業員が在日合衆国軍の都合により正規の所定勤務時間
中に勤務することを許されない場合」に休業を命じるのは在日米軍側が行
うこととなる。
在日米軍は,MLC解雇予定通知書の控訴人への交付が留保され,控訴
,,人が解雇されるまでに相当の時間を要する状況であったことからその間
「広報部における使命と生産性に思わしくない影響を与える」こと等を理
由として,平成14年7月1日から休業処分とする旨の同年6月25日付
休業手当通知書(乙14)を控訴人に発出したのであって,無効とすべき
理由はない。
イ控訴人の認否,反論
被控訴人の控訴人に対する休業手当支給身分とする文書の発出に関する
主張については,不知ないし争う。
平成14年6月25日付休業手当通知書(乙14)は,控訴人に対して
交付されていない。控訴人は,同月28日,P5から当該通知書を見せら
れ,その後,職場から強制的に追い出されたものである。
第3当裁判所の判断
1事実関係
前提事実,証拠(甲3ないし6,8,12,15,16,18,19(枝番
全部。以下,枝番のあるものについて同じ,20,乙8ないし17,21,。)
22,26ないし29,31ないし48,50,53,54,56,59,証
人P6,同P1,同P7,控訴人本人)及び弁論の全趣旨を総合すると,次の
事実を認めることができる。
()報道編集専門職への昇格1
ア控訴人は,平成9年5月からα空軍基地の第374補給中隊で管理専門
職として勤務していたが,東京都港区のζにおける報道編集専門職の求人
情報を見て応募し,平成10年11月10日の採用面接を経て,同年12
月15日に在日米軍司令部広報渉外部門への転任及び報道編集専門職への
(,。)。昇格の人事措置を受けた高齢で退職したP8の後任でありζで勤務
控訴人の直属の上司は,メディア連絡事務所長P1であり,その更に上司
は,広報部長P4空軍大佐,副部長P9空軍中佐であった。しかし,ζに
常駐していたのは,控訴人及びその同僚のP2の2人だけであり,P1は
1週間のうち2日ないし3日同センターで執務し,その余はα基地内で執
務を行っており,P4らは,専らα基地内で執務を行っていた。
イその後,ζ内の広報事務がα空軍基地内の在日米軍司令部に集約される
こととなり,控訴人は,平成13年1月1日付けで同一職位による転任の
人事措置を受けた。
ウ報道編集専門職の仕事の概要は,次のとおりである。
(ア)MLCの附表1「職務定義書(乙29)に,次のとおり記載され」
ている。
通訳又は翻訳者として助言し,かつ,行動することにより,並びにニ
ュース事件及び時事問題を取扱って資料の公表その他の発表を便らしめ
るために,新聞,ラジオ,その他の公報機関の代表者等と友好関係を確
立することにより,協議を行い,又は協議において監督者を補佐する。
選択,時期,発表物,特殊記事,写真,ラジオ,テレビジョン番組,そ
。,,,の他の報道題材について監督者に助言する毎日日本の新聞週刊誌
その他の出版物を閲覧し,評価し,監督者に提出するために概略の整理
をする。善良な社会関係問題に関する記事を翻訳する。原稿,発表物,
パンフレット,視覚資料その他の刊行又は配付用資料を書き,改作し,
編集し,翻訳する。米軍施設に勤務する日本人従業員のための日本語新
。,聞の準備に関与する日本人従業員に適する報道価値のある項目を集め
正しい文法的構成,読みやすさ,配列,綴り,均整形態に対して責任を
もって日本語で刊行するために,項目と解説を準備し,監督者の同意を
得たのちに出版する必要な措置をとる。割り当てられた他の関連的又は
附随的職務を行う。
(イ)また,平成13年1月12日付けで作成されたタスクリスト(職務
表。乙48)には,次のとおり記載されている。
1.回答を受領,翻訳,作成及び調整し,在日米軍に関する報道機関の
問い合わせを委託もしくはそれに回答する。
2.電子ファイル及び文書ファイルで,認可された日本及び国際報道機
関の資料を保持する。担当者情報を常時更新する。
3.在日米軍もしくは安全保障問題に関する報道機関からの質問,在日
米軍の回答,出版もしくは放映された記事/プログラムをデータベー
スで保持する。報道範囲と傾向を評価する。
4.米軍関連資料の発表及び出版に資するため,報道機関及びその他の
防衛関連広報職員(防衛庁,外務省)と関係を築く。
.,,,5報道機関連絡業務に関する専門用語を使用して英語を話し読み
書く。例:機密演習,講習会への参加,必要に応じて広報関連ガイダ
ンスを出す。
6.日本の報道機関との会議において,必要に応じてJ021及び在日
米軍職員のため通訳をする。
7.メディア連絡事務所職員の事務管理を行ない(例:タイムカード,
休暇申請,備品,コンピューター,ソフトウェアもしくは訓練の必)
要性を管理する。
8.メディア連絡事務所長不在時は,メディア連絡事務所職員により行
われる仕事の責任を負う。
9.必要に応じて他の付随的および/もしくは関連業務を行う。
(ウ)報道編集専門職の仕事は,職位として語学手当級別が第4級とされ
るところ,控訴人は,同専門職の採用に当たり,資格として第2級しか
有してなかったが,資格として語学手当級別第4級を取ることを要求さ
れなかった。なお,語学手当級は,MLC第4章D節2項に定められて
おり,次の五段階に分けられている。
無級
第1級初歩的能力を要するもの
第2級平均的能力を要するもの
第3級流暢な能力を要するもの
第4級特段の能力を要するもの
()控訴人の勤務状況が問題とされた様子2
アP1は,控訴人が勤務をはじめてから数か月後には控訴人の勤務状態,
とりわけ報道機関関係者への口の利き方,電話の応対態度や依頼事項への
対応の即応性等について同人への苦情を耳にし,その仕事振りに不満を感
じるようになった。
イそして,P1は,平成12年8月30日付けで,374業務支援中隊民
間人人事部労務課に対し,同日,控訴人が不適切でプロとしてふさわしく
ない服装をしていたため家に帰されたこと,これまでも服装の件で数回忠
告を受けたが,服装を替えることを拒否していることがMLC違反である
,()。として戒告を提案する旨のMLC違反行為報告書乙42を提出した
ウ次いで,P4大佐は,同年11月17日付けで,控訴人に対し,メディ
ア連絡事務所の人事異動に関する情報をプレスリリースの発表より前にメ
ディアに話したとして,これが職業道徳に背くとともに,判断力の欠如を
示すものであり,今後,上司又は広報部長によって明確に許可されていな
い限り,在日米軍又は広報部人事問題に関する情報を話したり,発表した
りしてはならない旨の非公式警告書(乙11)を交付した。
エ控訴人は,同年12月11日,同僚のP2が急病となったため,ζのセ
キュリティーマネジャーであるP3に相談してP2を病院に行かせたが,
その後,P2が出勤しなくなっていたところ,同月14日になり,P2の
母からの電話で,P2が自殺未遂をしたことの連絡を受け,このことをP
4に報告したものの,P1には報告しようとしなかった。この件で,P1
は,同年12月20日付けの在日米軍様式329で,控訴人が同年12月
11日,同僚のP2の急病を彼の直上監督者もしくは広報部指揮命令系統
にある誰にも報告しなかったこと,同月14日,控訴人が在日米軍に電話
をし,話題がP2の健康に関するものであったにも関わらず,広報部長の
P4大佐以外の者と話すことを拒否したことなどを理由に,控訴人の報道
編集専門職としての職務遂行能力について,判断力不足と管理責任の欠如
を示したと表明し,これを受けて民間人人事部従業員管理関係調整職のP
10は,MLC違反行為報告書を取り纏め,結論として,控訴人の不当な
行為は事務所内で騒動,混乱,秩序の乱れを引き起こし,職場の運営を混
乱させたため,勧告された「4時間の減給」の制裁措置は妥当と思われる
旨の意見を付した。そして,374業務支援中隊民間人人事部労務課の契
約担当官代理者P11(以下「P11」という)は,平成13年4月1。
3日付けで,控訴人に対し,同僚職員であるP2の病状について上司であ
るP1への伝達を怠り,P2の自殺行為の件をP1ではなく広報部長のP
4大佐に報告するなど指示伝達系統に従わないで報告し,そのため,職場
を混乱させて秩序を乱し,職場の機能をも混乱させたとして,MLC第8
章3項0“秩序を乱す行為”の嫌疑がかけられており,4時間の減給に処
「」。,せられるのが相当である旨のMLC違反行為の嫌疑書を発したなお
同契約管理官代理者は,同日付けで,日本国政府側の防衛施設事務所長宛
,(),てにP10作成の上記報告書を添付してこのことを報告したが乙34
その後,本件解雇の手続とMLC違反行為による減給の手続が同時期に実
施されることについて,日本政府側の東京防衛施設局から疑義が出された
ため,平成14年3月22日付けで,上記嫌疑書は,撤回された。
オさらに,P1は,平成13年4月16日付けで,374業務支援中隊民
,,,間人人事部労務課に対し控訴人に次のMLC違反行為があるとし規律
人名,財産及び運営に対し重大な危険があると認められるため,即刻控訴
人を職務から解任することを要求する旨の報告書(乙41)を提出した。
(ア)控訴人の職位の職務を遂行するにおいて不十分な判断力を示し,責
任感の欠如及び職場における自身の態度及び行為を改善することに関心
を欠如した。
控訴人は,平成13年1月13日,急を要する仕事を任されたにもa
かかわらず,3時間後までその仕事を始めなかった。
控訴人は,在日米軍内の部局の様々な機能を覚えることに義務感もb
自発性も示さないため,報道機関からの問い合わせを受けたとき,問
い合わせを正しい部局に委託することができない。
控訴人の方から職場における態度又は行為を改善しようとする努力c
がなかった。
(イ)控訴人の無礼な行為及び非協力的なふるまいに関して顧客から数
件の苦情を受けた。
平成13年1月25日,メディアレセプションの最中,アメリカ大a
使館職員の1人が,控訴人から,いつも横柄だと思っていたと言われ
た。
,,,b控訴人は平成13年2月1日J−2警備部長のP12の面前で
P1に対して敵対的でけんか腰になった。この出来事の後,上記P1
2は,P1に対し,P12も,控訴人の書類作成作業を手伝おうとし
たとき,無礼な扱いを受けたことがあると述べた。
控訴人は,平成13年2月23日,廊下で他人とすれ違うときに顔c
を背け,控訴人に話しかけている相手を見ようともしなかった。
(ウ)控訴人の不適切な行為及び不適切なふるまいは,他の職員の注意
をひきつけ,彼らが自分自身の仕事を遂行することを妨げた。
控訴人は,仕事の指示を受けているとき注意を払わず,又は,仕事a
,,の一定の行程を学ぶことを拒否したため自分の職務を行うに当たり
他の職員に常時支援を求めなければならず,他の者の仕事を妨げた。
控訴人は,他の者と有意義に協力しあうことをしないため,他の者b
,。は控訴人に与えられた職務を始めるか完了しなければならなかった
例えば,平成13年1月19日,控訴人は,自分の保安上の身上調査
に関する書類作成作業を完了して期限に間に合うように提出するか,
又は,期限に間に合わないのであれば監督者に通知するように指示さ
れていたが,退社後に,期限に間に合わなかったと通知するため電話
した。
(エ)控訴人は,チームの一員であることに対する関心が欠如している
ため,職員間に混乱を生じさせ,マネジメントは,追加の仕事をしなけ
ればならなくなった。
()救済援助プログラムの発付3
ア上記のとおり,控訴人の勤務状況が問題になる中で,P1は,平成13
年5月10日付けで,控訴人に宛てて救済援助プログラム(HAP。乙1
。)。,,,3を発したなおP1は同プログラムを控訴人へ渡すのに先立ち
同年4月24日,374業務支援中隊民間人人事部労務課のP11契約担
当官代理者あてに救済援助案をメールで送り(乙32,助言を請うてい)
る。
イHAPに係る文書(乙13)には,要旨,次の記載がある。
(ア)過去2年間の控訴人の仕事を観察した結果,控訴人の仕事に対する
知識及び能力は,報道機関の問い合わせに適切に回答したり,その他の
報道機関支援業務を行うには不適切であるという大まかな意見に達し
た。すなわち,①控訴人の在日米軍の任務及び運用についての知識,
スタッフ業務を効果的に行う能力,ニュースを正確に翻訳し,評価する
能力が向上したという形跡がほとんどない。②職務記述書において必
要な語学手当級別第4級に相当する英語試験に合格できていない。③
他の広報部スタッフから直接監督を受けないで,報道機関の問い合わせ
を時宜を得た方法でさばくことができることを証明していない。④報
道機関のニュース及び動向を効果的に評価するデータベースを発展さ
せ,維持管理することができなかった。⑤報道機関との会議で,J0
21の通訳の補佐をしたくないことを示した。
(イ)このプログラムは,平成13年5月10日から発効し,3か月間有
効である。同年8月10日現在で,控訴人が無事に本プログラムを完了
しなければ,不適格解雇の勧告が人事部へ提出されることになる。
(ウ)HAPに必要な事項及び達成すべき事項の概要
一労働日ごとに,少なくとも2つの報道機関の評価を完了するこa

控訴人が報道機関の問い合わせを割り当てる第一の責任者となり,b
監督者の承諾なしに控訴人は職務を他に委任しないこと
毎週,日本の新聞又は雑誌からの,安全保障又は基地に関する短いc
記事を少なくとも2つ翻訳すること
勤務時間中に開かれる英語強化クラスへ出席し,英語力の向上を証d
明するために再試験を受けること
HAPを無事完了するかどうかは,控訴人が職務リストで要求されe
ていることを十分に満たすことができるかにかかっている。特に,割
り当てられた報道機関の問い合わせを制限時間内に完了し,語学手当
級別第4級の英語熟達レベルに達すること
(エ)控訴人は,任務の遂行において要求される水準まで向上すれば,現
在の職務にとどめ置かれるかもしれないが,任務遂行が受け入れられる
水準まで向上しなければ,空席があれば配置転換,低い等級への変更が
とられるかもしれないし,不適格解雇の措置がとられるかもしれない。
ウ374業務支援中隊民間人人事部労務課のP10と控訴人の上司のP1
は,控訴人のところに赴き,HAPの文書を読み上げたが,その際,控訴
人は,同書面への署名・受取りを拒否し,HAPの提示のあった平成13
年5月10日付けで,控訴人はHAPに関する書類を受け取れない理由を
書いた書面(乙21)を在日米軍に宛てて出した。同書面には,自己の勤
務内容が不適切であるとの指摘への反論やHAPの文書における指摘事項
を理解できないことなどが記載されており,HAPを課されることへの不
満が表現されている。
()HAPの実行から休業処分にかけて4
アP1は,平成13年5月10日以降,控訴人につき救済援助プログラム
に則った職務遂行状況の観察に入った。控訴人は,同年6月12日から3
0日間傷病休暇を取ったため,HAPの期間は,同年8月31日まで延長
された。
イその間に控訴人の上司がP1からP5に代わった。
ウ平成13年7月11日には,P4(広報部長,P1(メディア連絡事)
務所長,P10(374業務支援中隊民間人人事部労務課職員)が控訴)
人を交えて控訴人のHAPに関する会合を持ち,P4は控訴人の前記乙第
21号証による質問に答えようとしたが,控訴人が自己の主張を強くする
あまりに遮られ,対立は深まるばかりでその目的を遂げることができなか
った状況が会議の覚書に記されている。このときに,P10は控訴人に対
して,HAPは既に始まっていることを告知している。
エHAPの期間が経過した後,在日米軍側による,控訴人のHAPに関す
るマネージメントの観察/評価は,次のとおりであり,満足できるもので
はなかった。
(ア)1労働日ごとに,少なくとも2つの報道機関の評価を完了すること
について
控訴人は,208項目を調べたが,指示に従って真に評価したのは,
そのうち14項目だけであった。控訴人の作業のほとんどは,質問,問
い合わせに答えたことを確認しただけであり,内容分析が行われず,控
訴人から提供された評価の大部分は妥当でなく,更に有用でなかった。
(イ)控訴人が報道機関の問い合わせを割り当てる第一の責任者となるこ
とについて
控訴人は,単にアシスタントとしての任務を果たしただけであり,他
の者がメディアに対応せざるを得なかった。
(ウ)毎週,日本の新聞又は雑誌からの,安全保障又は基地に関する短い
記事を少なくとも2つ翻訳すること
控訴人は,要求された16件の翻訳のうち2件を完了したが,どちら
も満足できるものではなかった。
(エ)勤務時間中に開かれる英語強化クラスへ出席し,英語力の向上を証
明するために再試験を受けることについて
控訴人は,平成13年7月16日,同月17日及び同月23日の電話
,,会話授業を首尾良く修了したが控訴人の以前の語学力手当試験成績は
平成2年6月25日の56点及び平成11年7月25日の68点,平成
13年2月9日の68点であったのが,HAP終了後の同年9月28日
の英語適性試験の結果は67点であり,何らの改善も向上しようとする
意欲もなかったことを示している。
オHAP実施当初の控訴人に関する在日米軍側の契約担当官代理者はP1
1であったところ,平成13年11月から,P6が在日米海軍司令部契約
担当官代理者として控訴人の措置に関わるようになった。
カP6は,HAP実施後の観察/評価その他前任者からの引継情報を踏ま
えて,MLC解雇予定通知書(乙15)に平成14年1月30日付けで署
名し,控訴人に対するHAPの書面及び上記観察・評価に係る書面等を添
付し,日本国政府側である東京防衛施設局担当官に宛てて送付した。
キ控訴人は,同年5月7日ころ,α防衛施設事務所において,MLC解雇
予定通知書の写しを見せられたことから,そのころ,HAP等に対する疑
問点を日本語で綴った長文の書面(乙22)を作成し,同事務所に提出し
た。
クP6は,同年6月25日付けで控訴人に対してMLC第5章11項によ
る「休業手当の通知(乙14,47)を発し,同月27日ころにP5を」
通じて同通知を控訴人へ交付しようとしたが,受領を拒否された。同通知
,()には同年7月1日から休業手当支給月額給与の40パーセントの減額
の身分とし,職場への訪問,連絡を許可なく認めないこととしたこと,措
置の理由としては,控訴人がHAPを拒否し続けた結果によるものである
こと,適した職位を努力して見つけるための(援助計画への)参加を拒否
しているためであること,そのため広報部における使命と生産性に思わし
くない影響を与えることが記されている。
()HAP後の解雇回避に向けた行為5
ア控訴人のMLC解雇予定通知書を受領した東京防衛施設局総務部労務対
策官(当初はP13であり,平成15年4月1日からP7)は,使用者で
ある在日米軍側の控訴人に対する不適格解雇の提案がMLC規定に則って
いるかどうかの精査に入ったが,同通知書には,HAPの開始前に控訴人
に対し他の職務の空席情報を提供した旨の記載があるだけで,HAPの実
行後に能力に相応する職務の有無の確認の手続がされた旨の記載がないこ
とから,MLCの規定どおりの不適格解雇の手続が十分に実施されていな
いと判断した。
イそこで,P7あるいはその前任者P13は,在日米軍から得た情報に基
づき,平成14年10月29日,平成15年5月28日,同年7月3日こ
ろの3回にわたり,控訴人に対し,次のとおり,本邦米軍基地内の職位に
ついての求人情報を提供した。
(ア)平成14年10月29日の会合
横浜市内で,P13労務対策官,P14主席労務対策調査専門官が控
訴人と会い,求人情報等(乙50の17枚目から43枚目まで)を提供
したが,これらは,いずれもインターネットで収集可能な情報であり,
在日米軍が控訴人の配置転換先として受入れを検討した職位の情報では
なく,一般的な求人情報にすぎなかった。そして,その中に記載された
求人情報は,募集締切日を経過したものや募集締切日まで1日しかない
もの,冷蔵及び空気調節機械工や従前の等級より高い等級の職位など控
訴人の配置転換先としてはふさわしくないものが多数含まれており,実
際に控訴人の配置転換先として応募可能なのは2件程度にすぎなかっ
た。
なお,この会合の際,控訴人は,δやεを希望せず,γ,次いでα基
地を希望すること,5等級よりも下の職位は希望しないことなどを述べ
ていた。
(イ)平成15年5月28日の会合
控訴人の加入している全駐労東京地区本部において,P7,α防衛施
設事務所長,P15首席労務対策調査専門官が同本部P16委員長と会
合し,同委員長にα基地の防衛会計事務所の会計技術職(基本給表1の
4等級,語学手当級別第2級)の空席情報を提供し,同委員長から控訴
人にこれが交付された。しかし,これも,在日米軍や日本国政府が控訴
人の配置転換先として受入れを検討した職位の情報ではなく,一般的な
求人情報にすぎなかった。
(ウ)平成15年7月3日ころの情報提供
P7は,同日,上記P16委員長に対し「空席情報ー相模総合補給,
廠」というインターネット上の情報をコピーしたもの(乙50の13枚
目から16枚目まで)をファクシミリ送信し,翌4日,同委員長から控
訴人に同情報が転送された。同情報で提供された職位は2件であるが,
そのうち1件は等級が高いので,現実に控訴人の応募対象として考えら
れるのは1件だけであった。しかも,その件の締切日は同年7月8日で
あり,応募方法は郵送に限られ,基地内の郵便事情により届くまでに1
週間程度かかることがあるとされており,現実に応募できるか不確かな
上に,これも,在日米軍や日本国政府が控訴人の配置転換先としての受
入れを検討したものではなかった。
()本件解雇6
アP6は,平成15年6月25日付け書面(乙26)で,α防衛施設事務
所長に対し,日本国政府がMLCに基づいて残りの必要な措置を取り,遅
くとも同年7月1日発効で控訴人の不適格解雇を実施するよう要請した。
イこれを受けて,被控訴人は,同年7月16日付けで,MLC解雇予定通
知書を控訴人に交付しようとしたが,受領を拒絶された。
ウそして,東京防衛施設局長は,同年8月7日付で,控訴人に対して,控
訴人を同年9月15日に不適格解雇で雇用終了する旨の人事措置通知書
(乙16の2)を送付した。
2不適格解雇事由の存否(争点()ア)について1
()MLC第10章4項aによれば,不適格解雇は「最小限度の職務上の要1,
求を満たさないため不適格であると認められる場合」に,その不十分な点に
ついて,HAPを実行した後「なおその者が十分に職務を遂行できない場,
合」に認められるものである。そこで,以下,控訴人に,上記の不適格要件
(不適格解雇事由)が存在するか否かを検討する。
()被控訴人は,控訴人の不適格解雇事由として,控訴人が報道編集専門職2
の職務遂行能力上問題があったこと,具体的には,①語学手当級別第2級
にとどまったまま語学能力向上の努力をせず,そのため,電話対応を効果的
に行うことができなかったこと,②職務に2年以上就いていたにもかかわ
らず,監督者の明確な指示がなければ職務を遂行できなかったこと,③報
道機関からの問い合わせに対し,別紙の「被告準備書面()の主張」欄の()31
アないしキのとおり問題があったこと,④報道関係機関に対する窓口業務
以外の基礎的な事務処理についても別紙の被告準備書面()の主張の(),「」32
アないしウのとおり問題があったこと,⑤平成13年,同僚の自殺未遂事
件について,指揮命令系統に従わず,同僚の直接の上司に報告しなかったこ
とで職場の混乱を招いたとしてMLC違反行為の嫌疑書(乙12)の発出を
受けたこと,その後,HAPが適用されたが,成績が向上しなかったことを
指摘する。そして,前記1で認定の経緯及び証拠(甲8,乙15)を総合す
ると,本件解雇は,被控訴人指摘の上記事由を不適格解雇事由としてされた
ものと認めることができる。
控訴人は,被控訴人が,客観的に合理的な解雇理由を認識しないまま本件
解雇を行った旨主張する。しかし,前記1で認定のとおり,本件解雇は,H
APを経てされたものであること,HAPに係る文書(乙13)には,おお
むね被控訴人主張の上記不適格解雇事由に添う内容が記載されていたこと,
在日米軍側の契約担当官代理者から日本国政府側に対し送付されたMLC解
雇予定通知書(乙15)には,HAPに係る文書及びHAPにおける控訴人
,,の勤務状況に対する観察・評価に係る文書等も添付されていたことその後
被控訴人は,同通知書を控訴人に交付しようとした上で,本件解雇をしたこ
とが認められるのであって,以上の経過に照らせば,被控訴人が,解雇理由
を認識しないまま本件解雇をしたということはできない。
また,控訴人は,被控訴人の不適格解雇事由は,結局のところ控訴人の英
語力不足の問題に収斂する旨主張するが,上記認定の経緯に照らし,同主張
は,採用できない。
()そこで,上記不適格解雇事由が認められるか否かについて検討する。3
ア被控訴人は,控訴人が語学手当級別第2級にとどまったまま語学能力向
上の努力をせず,そのため,電話対応を効果的に行うことができなかった
ことを不適格解雇事由として主張する。
そして,前記1で認定の事実及び弁論の全趣旨によれば,控訴人の職位
である報道編集専門職は,職位としての語学手当級別が第4級であるにも
かかわらず,控訴人は,語学手当級別が第2級にとどまっていること,し
かも,控訴人が報道編集専門職になった翌年の平成11年7月25日に受
けた英語適性試験で68点であったのが,平成13年2月9日の同様の試
験で68点であって,向上がみられなかったこと,控訴人の英語力はHA
P期間経過後も上昇した様子はなかったことを認めることができ,以上の
事実によれば,報道編集専門職に相応する英語力を身につけようとの向上
心がないとの判断がされるのもやむを得ないところである。
もっとも,控訴人は,報道編集専門職に採用されるに当たり,語学手当
級別第4級を取ることを要求されなかったのであるが,上記のとおり,報
道編集専門職の職位としては語学手当級別第4級であることが明らかなと
ころであるから,第2級しか取得していない控訴人に英語力の向上に向け
た努力が要求されるのは当然のところである。
イ被控訴人は,控訴人が,基本給表1の6等級という高い職務遂行能力を
求められている職務に2年以上就いていたにもかかわらず,監督者の明確
な指示がなければ職務を遂行できなかったことを不適格解雇事由として主
張する。
そして,前記認定のMLC附表1「職務定義書(乙29)やタスクリ」
スト(乙48)に記載の報道編集専門職の仕事の概要によれば,報道編集
専門職は,自らの判断で報道機関の問い合わせに対する回答をしたり,そ
の回答のための準備を関係機関に委託することが期待されているところ,
前記1で認定の経緯,証拠(証人P1)及び弁論の全趣旨によれば,控訴
人は,報道機関からの問い合わせに対し,その上司が期待するような自主
的な判断による対応をとることができなかったこと,HAPの期間を終え
てもその対応の仕方に改善が見られなかったことを認めることができる。
控訴人は,その上司,なかでもP1が,メディアからの問い合わせに控
訴人の一存で回答することを許さないなど,控訴人には業務の裁量性が認
められていなかった旨主張する。しかし,同主張は,タスクリストの記載
と矛盾するし(前記認定のタスクリストは,平成13年1月12日付けで
作成されたものであるが,証人P1の供述によれば,その内容は同日前の
ものとほとんど変わっていないことを認めることができる。なお,控訴人
作成の乙22の9頁にも,そのことを認める趣旨の記載がある,ζで勤。)
務していた当時,同センターに常駐していたのは控訴人とP2の2人だけ
であり,常に上司に相談できる体制にはなかったことに照らすと,控訴人
の上記主張は,採用できない。
ウ被控訴人は,控訴人が,平成13年,同僚の自殺未遂事件について,指
揮命令系統に従わず,同僚の直接の上司に報告しなかったことで職場の混
乱を招いたとしてMLC違反行為の嫌疑書(乙12)の発出を受けたこと
を控訴人の不適格解雇事由として指摘する。
そこで検討するに,前記1で認定したとおり,控訴人は,平成12年1
2月11日,同僚のP2が急病となったため,ζのセキュリティーマネジ
ャーであるP3に相談してP2を病院に行かせたが,その後,P2が出勤
しなくなっていたところ,同月14日になり,P2の母からの電話で,P
,,2が自殺未遂をしたことの連絡を受けこのことをP4に報告したものの
P1には報告しようとしなかったものであり,この件で,民間人人事部従
業員管理関係調整職のP10は,MLC違反行為報告書を取り纏め,結論
として,控訴人の不当な行為は事務所内で騒動,混乱,秩序の乱れを引き
起こし,職場の運営を混乱させたため,勧告された「4時間の減給」の制
裁措置は妥当と思われる旨の意見を付したものである。そして,証拠(乙
34)によれば,P10は,上記事件の関係者との面接調査を実施し,問
題点を検討した結果,上記の判断に至ったことを認めることができ,その
判断過程に不合理なところは見当たらない。そうすると,被控訴人指摘の
上記事実は,認められる。
,,「」,エ被控訴人はさらに控訴人に別紙の被告準備書面()の主張欄の()31
()に記載のような不適切な対応があった旨主張し,同欄に引用されてい2
る各書証や証人P1の供述中には,同主張に沿う部分がある。
しかし,控訴人は,別紙の「原告の認否・反論・コメント等」欄のとお
り反論し,その本人尋問や陳述書(甲15)において,同反論に沿う内容
の供述ないし記載をする。
そして,いずれの主張も,不合理なものとして一概に排斥できない内容
のものであるし,また,本件記録を精査しても,いずれかの主張を裏付け
る的確な客観的証拠が提出されているわけでもない。
そうすると,控訴人が別紙の「被告準備書面()の主張」欄の(),()312
に記載のような不適切な対応をしたと断ずることは,困難であるというべ
きである。
オ以上によれば,控訴人については,被控訴人主張の不適格解雇事由のう
,。,ち上記アないしウで認定した限度でこれを認めることができるそして
上記認定された事由は,前記認定の報道編集専門職の仕事の概要に照らす
と,その職務を遂行する上で重大な支障になるということができ,そうす
ると,控訴人について,MLC第10章4項aの「最小限度の職務上の要
求を満たさないため不適格であると認められる場合」に該当すると認める
のが相当であり,また,前記1で認定した経緯によれば,HAPを実行し
た後も,控訴人の上記問題点は改善されていないから「なおその者が十,
分に職務を遂行できない場合」に該当するものと認めることができる。
3不適格解雇の手続要件充足の有無(争点()イ)について1
()MLC第10章4項(不適格解雇の手続)のa(予備措置,b(解雇予1)
定通知)によれば,HAPを実行した後,なおその者が十分に職務を遂行で
きない場合には,米国政府側(在日米軍司令部)は「その者の能力に相応,
する職務が得られるか否かを確認するものと」し「その能力に相応した職,
務が得られない場合又はその者が能力に相応した職務につくことに同意しな
い場合」に,その事情に関する報告書を契約担当官代理者に提出し,契約担
当官代理者において事案を調査して解雇手続を開始するか否かの判断をする
こととされている。
そこで,控訴人に対し「その者の能力に相応する職務が得られるか否か,
を確認する」措置(以下「相応職務確認措置」という)を取ったか否かを。
検討する必要がある。
()上記のMLCの規定によれば,相応職務確認措置は,米国政府側がHA2
Pを実行した後解雇予定通知を送付する前にすべきこととされているが,本
件において,米国政府側が,HAPを実行した後解雇予定通知を発する前に
(,そのような措置を講じたと認めるべき証拠はない前記1で認定したとおり
被控訴人の東京防衛施設局総務部労務対策官も,控訴人に対するMLC解雇
予定通知書を受領した後,同通知書に,米国政府側でHAPの実行後に能力
に相応する職務の有無の確認の手続がされた旨の記載がないことから,ML
Cの規定どおりの不適格解雇の手続が十分に実施されていないと判断してい
る。。)
()被控訴人は,被控訴人である日本国政府が,在日米軍の協力を受け,控3
訴人と面談を重ね,数々の職位を提供し,また,海軍のみならず空軍や陸軍
にも協力を申し入れ,控訴人が応募してきた場合便宜を図ってもらうように
との申し入れを行ったが,控訴人がγ以外の空席の職位に応募しようとしな
かった旨主張する。
そこで検討するに,前記1で認定したとおり,東京防衛施設局総務部労務
対策官は,在日米軍の協力を得て,平成14年10月29日,平成15年5
月28日,同年7月3日ころの3回にわたり,控訴人に対し,本邦米軍基地
内の職位についての求人情報を提供した事実が認められる。
ところで,MLCの定める予備措置は,解雇が従業員に与える影響の大き
いことを配慮し,当該職務については不適格者であっても,他の職務につい
てまで不適格者とはいえないことから,米国政府側(在日米軍司令部)にお
いて,その者に適する職務を提供できるか否かを確認し,これを提供できる
場合で,当該従業員がその職務への配置転換に同意するのであれば,在日米
軍司令部でその配置転換を実行することで,解雇を回避しようとした手続と
いうことができる。そうすると,米国政府側ですべき相応職務確認措置は,
当該従業員が同意すれば配置転換を実行できるような職務を同従業員に提供
できるか否かを確認すること,これを提供できる場合にはその情報を同従業
員に提供することを意味するものと解するのが相当である。
これを本件についてみるに,前記1で認定したとおり,東京防衛施設局総
務部労務対策官が控訴人に提供した情報は,インターネットで確認できるよ
うな一般的な求人情報にすぎず,在日米軍が控訴人の配置転換先として受入
れを検討した職位の情報ではない(この程度の情報であれば,控訴人自ら収
集し,その情報に基づき応募すれば足りるのであって,被控訴人ないし在日
米軍の果たした役割は,ほとんどない。しかも,そこで提供された求人情。)
報の多くは,募集締切日が経過したものや差し迫っていて応募が間に合わな
いものであったり,従前の控訴人の等級より高いものであるなど,控訴人が
応募することが困難な職務についての情報であって,実際の配置転換先の候
補になり得るものは,わずかなものにすぎなかったものである。以上の事実
に照らすと,在日米軍司令部や被控訴人において,控訴人が同意すれば配置
転換を実行できるような職務を控訴人に提供できるか否かを確認する措置を
とったとは到底認められないのであって,被控訴人ないし在日米軍司令部が
控訴人について相応職務確認措置をとったとはいえない。
なお,控訴人は,被控訴人側に対し,δやεを希望せず,γ,次いでα基
地を希望すること,5等級よりも下の職位は希望しないことなどを述べてい
たものであるが,これはあくまでも希望の配置転換先を述べたのにとどまる
というべきであるから,上記条件に反した職務の提供を受ける機会を放棄し
たとはいえないし,また,上記条件に合った配置転換先の有無の確認につい
ても,十分に尽くされたとは認められない。
()以上のとおりであるから,本件解雇は,予備措置である相応職務確認措4
置を経たとは認められないところ,解雇を避けるための同措置の重要性にか
んがみれば,同措置を経ていない本件解雇は,その余の点を判断するまでも
なく,無効というべきである。
4休業処分の有効性(争点())について2
()控訴人に対する休業処分は,MLC第5章11項に基づくものであると1
ころ,同項は「従業員が在日合衆国軍の都合により正規の所定勤務時間中,
に勤務することを許されない場合には,正規に勤務した場合に支給すべき給
与の60パーセントを支給するものとする」と規定しており,休業処分の。
要件については「在日合衆国軍の都合により」とあるだけであって,明確,
な定めはない。この規定からすると,休業処分をするか否か,休業処分をす
る場合の期間等の決定は,在日米軍司令部の合理的な裁量に委ねられている
。,,ということができるしかしながらその裁量権の行使としての休業処分も
事実の基礎を欠くか,社会通念上著しく妥当性を欠き,裁量権の範囲を超え
又は裁量権を濫用してされたと認められる場合は,無効になるというべきで
ある。
()これを本件についてみるに,前記1で認定したとおり,控訴人に対する2
,「」(,)休業処分は平成14年6月25日付け休業手当の通知乙1447
によってされたものであるところ,同通知には,措置の理由として,控訴人
がHAPを拒否し続けた結果によるものであること,適した職位を努力して
見つけるための(援助計画への)参加を拒否しているためであること,その
ため広報部における使命と生産性に思わしくない影響を与えることが記され
ている。
なるほど,控訴人は,HAPの文書の受取りを拒否し,その理由を書いた
書面(乙21)を在日米軍に宛てて出し,HAPを課されることへの不満を
表現し,平成13年7月11日に,P4(広報部長,P1(メディア連絡)
事務所長,P10(374業務支援中隊民間人人事部労務課職員)とHA)
Pに関する会合を持った際も,自己の主張を強くするあまり対立を深めてお
り,真摯にHAPの実行に努力する姿勢はなかったという余地がないではな
い。しかしながら,控訴人は,HAPにのっとり,英語強化のための授業を
修了しており,また,HAPの期間が経過した後に在日米軍側によりされた
控訴人のHAPに関するマネージメントの観察/評価からすると,HAPで
控訴人に課された各項目について,控訴人がこれを完全に拒否したとまでは
いえないというべきである。
さらに,上記「休業手当の通知」には,控訴人が適した職位を努力して見
つけるための(援助計画への)参加を拒否している旨記載されているが,前
記3で検討したとおり,控訴人の適した職位の有無をまず確認すべきなのは
在日米軍側であるが,在日米軍側においてそのような努力をした形跡がない
のであって,控訴人に適した職位を努力して見つけるための参加を期待すべ
き状況になかったというべきである。
以上の事情を総合すると,控訴人に対する休業処分は,事実の基礎を欠い
,,,ておりまた社会通念上も著しく妥当性を欠くものというべきであるから
裁量権の範囲を超えていて無効と認めるのが相当である。
5以上のとおり,本件解雇及びその前提となる休業処分は,いずれも無効とい
うことができる。そこで,控訴人が被控訴人に対し請求できる給与の額につい
て検討する。
()前提事実記載のとおり,控訴人は,被控訴人から,平成14年7月分か1
ら平成15年10月分まで原判決別表2の「現実に支給された給料」欄記載
のとおりの給与(ただし,平成15年5月分は同年4月分と同様休業手当2
1万2080円のみ)の支払を受けたところ,証拠(乙19,20)及び弁
論の全趣旨によれば,控訴人が休業処分及び本件解雇を受けず通常どおり勤
務していれば,少なくとも控訴人主張どおり原判決別表2の「支給されるべ
き総額」欄記載のとおりの給与の支給を受けたはずであり(ただし,乙19
によれば,平成15年10月分の支給されるべき総額は,控訴人主張額より
多い38万5806円である,現実に支給された給与との差額は,少なく。)
とも控訴人主張の同別表2の「未払給料」欄記載のとおり(ただし,平成1
5年5月分は16万3112円であり,平成15年9月分までの未払累計は
223万3508円となる。同年10月分を加算すると控訴人主張額より多
額になる)であること,控訴人が通常どおり勤務すれば平成15年11月。
分及び12月分は1か月当たり38万1902円,平成16年1月分以降は
1か月当たり35万8774円の給与の支給を受けるはずであること,控訴
人が通常どおり勤務していれば,平成15年12月の年末手当として69万
8208円,平成16年6月の夏期手当として65万6588円の各支給を
受けたはずであることを認めることができる。
()上記事実によれば,被控訴人は,控訴人に対し,①平成14年7月分2
から平成15年10月分までの未払給与額のうち223万3508円,②
平成15年12月の年末手当69万8208円,③平成16年6月の夏期
手当65万6588円(上記②,③の各手当の履行期が到来済みであること
は,乙52及び弁論の全趣旨により認めることができる。以上の①ないし③
の被控訴人が支払うべき給与の合計額は358万8304円,④平成1)
5年11月分及び12月分の給与計76万3804円,平成16年1月分以
降の給与として,同年2月1日以後の毎月10日限り35万8774円の支
払義務がある。
()本件口頭弁論終結後の給与の支払請求について3
いわゆる将来の給付を求める訴えは,あらかじめその請求をする必要があ
る場合に限って認められるところ,被控訴人は,一貫して本件解雇の有効性
を主張しており,少なくとも,本判決が確定するまでの間はその主張を維持
するものと推認されるから,本判決が確定するまでの間の給与については,
あらかじめ請求しておく必要があると認めることができる。他方,本判決確
定の日の翌日以降の給与については,終期が無期限であるし,被控訴人の対
応や控訴人の配置転換等において不確定な部分が多く,現時点で将来の賃金
の支払を求める必要性を欠くというべきであり,その訴えの利益を肯定でき
ない。
6結論
()以上によれば,控訴人の被控訴人に対する訴えについて,1
ア控訴人が被控訴人に対し労働契約上の権利を有する地位にあることの確
認請求は理由があるからこれを認容すべきであり,
イ本判決確定の日までの給与に係る請求のうち,①平成14年7月分か
ら平成15年10月分までの未払給与額のうち223万3508円,平成
15年12月の年末手当69万8208円及び平成16年6月の夏期手当
65万6588円の合計358万8304円,②平成15年11月分及
び12月分の給与計76万3804円(上記①と②の総合計は,435万
2108円,③平成16年2月から本判決確定の日の属する月の翌月)
まで毎月10日限り35万8774円の割合による給与の支払を求める部
分は理由があるからこれを認容すべきであり,その余の部分は理由がない
から棄却すべきであり,
ウ本判決確定の日の翌日以降の給与の支払請求に係る部分は,これを却下
すべきである。
()よって,これと異なる原判決を上記()のとおり変更することとし,主文21
のとおり判決する。
東京高等裁判所第2民事部
裁判長裁判官太田幸夫
裁判官森一岳
裁判官石栗正子

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