弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人塚本義明、同土川修三の上告趣意第一点について。
 所論は畢竟、第一審判決が証拠に採用した被告人の司法警察員に対する第一回乃
至第六回供述調書(自白)が取調官の強要によるものであるとして、同判決を是認
した原判決の違憲を主張するに帰着する。
 よつて記録を調査すると、所論のように被告人が昭和二六年一一月一〇日午前三
時頃羽島地区警察署に出頭を求められ、同署に任意出頭していることが認められる
が、たとえそれが被告人の任意によるとしても、記録上その必要が認められない本
件の場合において、かくの如く早暁に被告人の出頭を求めた警察官の処置は甚しく
非常識であり、極めて妥当を欠くものといわなければならない。そしてかかる不当
な処置によつて被告人の司法警察員に対する供述(自白)が或は取調官の強要によ
るのではないかとの疑念をいだかしめることとなり、ひいてはかかる情況の下に作
成された供述調書は、直ちに採つて証拠となし難い場合のあることは肯定し得ない
訳ではない。
 しかし翻つて本件について見ると、被告人が警察署に出頭後、適法な手続によつ
て逮捕されたのは同日午後六時三〇分のことであり、次いで適法に勾留されたこと
は一件記録によつて認め得るところであるし、その後において作成せられた前記司
法警察員に対する各供述調書について検討しても、被告人の供述が取調官の強要に
よるものであつてその任意性を疑わしめるに足る形跡はどこにも発見し得ないので
ある。そしてまた記録によれば被告人及び弁護人は第一審公判において右各供述調
書を証拠とすることに同意していて、前記警察官の不当な処置を攻撃し以つて該供
述調書の証拠能力を争うような挙に出たことは全くないのである。
 これを要するに被告人をして前記のような時刻に出頭せしめた警察官の処置は十
分非難するに足るとしても、叙上のような特段の事情の認められる本件の場合にお
いて、被告人の司法警察員に対してなした供述の証拠能力を認めることは相当であ
つて、原審のこの点に関する判断は是認するに足り、結局所論違憲の主張はその前
提を欠くものといわなければならない。従つて論旨は採用し得ない。
 同第二点について。
 所論は事実誤認の主張であつて適法な上告理由に当らない。
 また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。
 よつて同四一四条、三九六条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決す
る。
 検察官川井寛次郎出席。
  昭和三一年一二月一一日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    河   村   又   介
            裁判官    島           保
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    垂   水   克   己

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