弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決および第一審判決を破棄する。
     本件を東京地方裁判所に差し戻す。
         理    由
 弁護人金井友正名義の上告趣意は、事実誤認の主張であつて、刑訴法四〇五条の
上告理由にあたらない(なお、被告人本人の昭和四五年一〇月二二日付および同年
一二月三日付、弁護人堀博一の昭和四六年一月二九日付各上告理由補充書は、いず
れも上告趣意書提出期限後に提出されたものであるから、これについては判断を加
えない。)。
 しかし、所論にかんがみ、職権をもつて調査するに、本件の第一審判決は、被告
人が、「裁判所を欺罔して、曾て内縁関係にあつたAの所有にかかる東京都世田谷
区a町b番地所在の木造瓦葺二階建居宅一棟(建坪七坪、二階三坪七合五勺)の所
有権移転登記手続及び明渡訴訟の勝訴判決を得て右建物を騙取しようと企て、昭和
三五年一〇月二四日同都千代田区霞ケ関一丁目一番地所在の東京地方裁判所に対し、
情を知らない弁護士Bを介してAを被告とする前記建物の所有権移転登記手続及び
明渡を請求する旨の民事訴訟(東京地方裁判所昭和三五年(ワ)第八八〇七号)を
提起し、昭和三六年三月二三日同裁判所で開かれた口頭弁論期日において、同裁判
所裁判官柳川眞佐夫に対し、前記建物が自己の所有であるかのように装い『本件建
物は形式上その登記名義人をAとしてあるが、実質は被告人が他から買い受けた被
告人所有にかかるものであり、かつ、被告人が必要であるときは何時でも明渡す約
定のもとに居住させていたものである。』旨の虚偽の事実を主張したうえ、同年四
月二七日同裁判所で開かれた口頭弁論期日において、同裁判官に対し、被告人の偽
造にかかるAの署名を冒用した同女作成名義の念書と題する『右建物の名義は私名
義にしておくが、あくまで貴方のものであるから売却の時は勿論のこと、如何様に
処分されても異議は決して申さぬことを念の為一札差入れる』旨の記載ある私文書
一通を真正に成立したもののように装い、証拠として提出し行使し、以て同裁判所
を欺罔して、前記Aより前記建物を騙取しょうとしたが、右民事訴訟係属中の為、
いまだその目的を遂げないものである。」旨の事実を認定して、被告人に対し有罪
の言渡をし、原判決も、弁護人の事実誤認の控訴趣意を排斥し、第一審判決の右認
定を是認して被告人の控訴を棄却した。
 ところで、原判決の判示するところによると、第一審判決に判示する前示a町所
在の木造瓦葺二階建居宅一棟(以下、a物件という。) は、昭和三五年三月、従
来Aの住居に使用していた東京都練馬区c町d番のeの宅地およびその地上の家屋
を売り払い、新に買いかえた建物であるが、このa物件に関する念書は、昭和三四
年二月二八日前記c町のA方において白紙の便箋にAをしてその住所・氏名を記載
させたものを利用して、被告人がほしいままに本文と日付を書き入れて作成した偽
造のものであるとされている。しかし、第一審判決が前示認定の証拠として挙示す
る押収にかかる念書(いわゆるa念書、東京地方裁判所昭和四一年押第四一四号の
一、原審昭和四三年押第五九号の一)の体裁を見るに、右念書は、便箋の最初の行
に「念書」と題し、次の行から第一〇行目にわたつて第一審判決判示の趣旨の本文
を書き、第一一行目に「昭和三十五年四月二十日」と日付を記し、第一二行目と第
一三行目の二行にわたつてAの住所・氏名が記載されており、右Aの住所・氏名の
筆跡は明らかにその余の部分(すなわち表題・本文・日付)の筆跡とは異なること
が認められるけれども、右住所・氏名とその余の部分との間には一行の余白も存し
ないのであつて、白紙の便箋に書かれた住所・氏名の前にあとから本文・日付等を
書き入れたものとしては、余りにも巧妙に書かれており、a念書はいまだ直ちにA
をして白紙にその住所・氏名を書かせたのちに本文・日付等を記入したものと断定
することはできない。のみならず、本件記録に存し、第一審において適法に証拠調
を経たところの、本件被告人よりAに対する本件第一審判決判示の民事訴訟事件(
すなわち、東京地方裁判所昭和三五年(ワ)第八八〇七号建物所有権移転登記手続
等請求事件)の第一審判決書(写)の判示によれば、Aは最初はa念書(右民事訴
訟においては甲第七号証)における同人の住所・氏名についてもその自筆であるこ
とを否認していたが、同裁判所における鑑定の結果、右住所・氏名の記載はAの筆
跡であることが明らかにされるや、同人は、本件第一審判決が証拠として挙示する
押収にかかる念書(いわゆる東大泉念書、前同押号の二―右民事訴訟においては甲
第六号証)の作成日である昭和三四年二月二八日頃前記c町の当時のA方へ被告人
が来て、白紙の便箋に住所と名前を書けというので、いわれるままに住所と氏名だ
けを書いたものであるとして、その自筆であることを肯定するに至つたことがうか
がわれる。してみれば、Aの供述には十全の信憑力があるものとはいいえないので、
a念書は、Aが何の用に供せられるのかも知らず白紙にその住所・氏名を記載した
ものである旨の同人の右供述が、果して真実であるかどうかも疑なきをえない。
 そうであるとすれば、a念書は被告人が偽造したものであり、同人が、a物件が
Aの所有であることを知りながら、これを騙取するため、前記民事訴訟を提起した
ものと速断することはできないといわなければならない。
 しかるに、本件の第一審判決は、前示のように、被告人に対し右a念書の偽造行
使、a物件の詐欺未遂の所為の存在を認定し、有罪の言渡をし、原判決もまたこれ
を維持しているのであるから、第一審判決および原判決には重大な事実誤認を疑う
べき顕著な事由があるものであつて、これを破棄しなければ著しく正義に反するも
のと認められる。
 よつて、刑訴法四一一条三号により、原判決および第一審判決を破棄し、同法四
一三条本文により、本件を第一審裁判所である東京地方裁判所に差し戻すこととし、
裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 検察官横井大三 公判出席
  昭和四七年二月三日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    大   隅   健 一 郎
            裁判官    岩   田       誠
            裁判官    藤   林   益   三
            裁判官    下   田   武   三
            裁判官    岸       盛   一

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