弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
       原判決を破棄し,第1審判決中上告人敗訴部分を取り消す。
       同部分につき被上告人の請求を棄却する。
       訴訟の総費用は被上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人姫野敬輔,同松本智之,同橘英樹の上告受理申立て理由について
 1 本件は,滋賀県滋賀郡に属するa町(以下「町」という。)の住民である被
上告人が,町の新庁舎竣工式において来賓に記念品を贈呈するために行われた費用
の支出は違法であると主張して,地方自治法(平成14年法律第4号による改正前
のもの)242条の2第1項4号に基づき,町に代位して,町長の職にあった上告
人に対し,損害賠償を求めた事案である。
 2 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
 (1) 町は,平成12年1月18日に行われた町の新庁舎竣工式において,来賓
148人に対し,記念品として1人当たり5000円相当の商品券(以下「本件記
念品」という。)を贈った。本件記念品は,町商工会が発行し,町内の商店でのみ
利用することができるものであった。
 (2) 新庁舎竣工式に来賓として招かれたのは,新庁舎建設に尽力した人,長年
にわたり町に貢献した人,町民を代表する立場の人,関係自治体の代表等であり,
具体的には,滋賀県内選出の衆参両院議員,同県知事,町と関係の深い同県の役職
者,同県議会議員及び国等の出先機関の代表,近辺の市町村の代表,町議会議員,
町の各委員会の代表,前町長,前助役,町内各区の区長,町内各公的団体の代表,
新庁舎の敷地の地権者,施工関係者,報道関係者等であった。
 (3) 上告人は,本件記念品の購入費用74万円の支出命令を行った。
 (4) 町は,新庁舎竣工式の後,来賓1人から本件記念品の返還を受けた。
 3 原審は,上記事実関係の下において,次のとおり判断して,被上告人の請求
を一部認容した第1審判決を是認し,上告人の控訴を棄却した。
 (1) 本件記念品は,町内において5000円相当の現金に準ずる役割を果たす
ものである。また,本件記念品は,来賓148人のみに贈られたものであり,それ
以外の町民には贈られておらず,新庁舎の竣工に関して町民に配られたものはない。
そうすると,本件記念品の贈呈が新庁舎完成の喜びの気持ちや来賓の日ごろの功労
に感謝の意を表することにあったからといって,招待した来賓のみに本件記念品を
贈ることが相当であったということはできず,本件記念品の贈呈は,社会通念上相
当な範囲を超えた違法なものである。
 (2) 上告人は,少なくとも過失によって本件記念品の購入費用の支出を命じた
ものであるから,町の最終支出金額である73万5000円を賠償すべき義務を負
う。
 4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
 普通地方公共団体も社会的実体を有するものとして活動している以上,記念行事
等に際して来賓等に記念品等の贈呈を行うことは,それが社会通念上儀礼の範囲に
とどまる限り,許されるというべきである(最高裁昭和38年(オ)第49号同3
9年7月14日第三小法廷判決・民集18巻6号1133頁参照)。
 【要旨】本件についてこれをみると,本件記念品は,町が開催した新庁舎竣工式
において,新庁舎の完成を祝すとともに,その建設に尽力するなどした来賓に対す
る感謝の意を表する趣旨で贈呈されたというのであるところ,① 来賓148人は
,いずれも新庁舎の建設に尽力した,長年にわたり町に貢献してきた,町民を代表
する立場又は町と関係の深い自治体等の役職にあるなどの事情から竣工式に招待さ
れた者であった,② 本件記念品は,5000円相当の商品券ではあるが,町商工
会が発行し,町内の商店のみで利用することができるものであり,本件記念品の贈
呈のために支出された費用は合計74万円にとどまったというのであるから,原審
認定に係る町の人口等をも勘案すれば,本件記念品の贈呈が社会通念上儀礼の範囲
を逸脱したものとまでいうことはできない。そうすると,本件記念品贈呈のために
上告人がその購入費用の支出を命じたことを違法であるということはできず,これ
を違法とした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反がある。
この点をいう論旨には理由がある。
 5 以上によれば,原判決は破棄を免れず,被上告人の請求は理由がないから,
第1審判決中被上告人の請求を認容した部分を取り消した上,同部分につき被上告
人の請求を棄却すべきである。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 島田仁郎 裁判官 深澤武久 裁判官 横尾和子 裁判官 甲斐
中辰夫 裁判官 泉 徳治)

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