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平成25年9月5日判決言渡
平成25年(行ケ)第10120号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成25年6月27日
判決
原告X
被告Y
訴訟代理人弁理士豊栖康司
豊栖康弘
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1原告の求めた判決
特許庁が取消2012-300729号事件について平成25年3月29日にし
た審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,商標法53条1項に基づく商標登録取消の審判請求を不成立とし,違法
確認の審判請求を却下した審決の取消訴訟である。主な争点は,通常使用権者によ
る類似商標の使用が,商品の品質誤認を生ずるものか否かである。
1特許庁における手続の経緯等
(1)被告は,以下の本件商標(登録第4323578号)の商標権者である。
(本件商標)
・平成10年4月10日出願登録
・平成11年10月8日設定登録
・平成21年9月15日更新登録
・指定商品:第31類いちご
(2)原告は,平成24年8月31日,①本件使用権者が平成22年2月13日
ころに使用した本件使用商標が商標法53条1項に該当するとする本件商標登録の
取消しと,②被告が商標法74条1項1号に違反したとの違法確認を求めて,審判
請求(取消2012-300729号)をした。特許庁は,「請求の趣旨中,『商標
法53条1項の規定により,登録第4323578号商標について登録を取り消
す。』については,請求は成り立たない。請求の趣旨中,『被請求人は商標法74条
1項1号に違反したとの違法の確認を行う。』との請求は,却下する。」との審決を
し,その謄本は同年4月7日に原告に送達された。
審判請求で原告が本件商標の使用者として主張したうち審決で認められたのは,
JA徳島市管内佐那河内支所のももいちご部会に属する生産番号者43番の生産者
(本件使用権者)である。被告は,同部会の元部会長であった者である(弁論の全
趣旨)。
2審決の理由の要点
(1)使用権者による本件商標の類似する商標の使用について
本件使用権者が,平成22年2月13日ころに使用した本件使用商標は,贈答用
化粧箱の上面全面に,左上から右下にかけて,斜め縦書きで一連に「ももいちご」
の文字を表してなるものであるところ,本件商標中の「ももいちご」の文字と,本
件使用商標とは,表示の方法に横書きと,左上から右下にかけての斜め縦書きとの
差異があるとはいえ,文字の構成を同じくするものであり,「モモイチゴ」の称呼を
同一にすることから,互いに類似するものといえ,本件商標と本件使用商標とは「も
もいちご」の文字部分において類似する商標というべきである。
本件使用権者は,平成22年2月13日ころ,本件商標の指定商品である「いち
ご」に,本件商標と類似する本件使用商標「ももいちご」を付して販売した。
(2)本件使用商標による商品の品質誤認の有無について
ア本件使用権者が本件使用商標を用いた当該「いちご」の品質が,商標権
者の商品「いちご」より劣悪な品質のものであるとか,本件使用権者が,本件使用
商標を本件商標の指定商品である「いちご」以外の商品に使用したとの事実を認め
ることはできない。
請求人(原告)は,本件使用権者が,一般的ないちご品種である「あかねっ娘」
を,36軒の農家でしか栽培されていない希少価値のあるイチゴ品種「ももいちご」
として販売していたのであるから,これは「商品の品質の誤認を生ずるもの」にあ
たる旨主張している。しかしながら,本件商標の指定商品は「いちご」であるとこ
ろ,本件において提出された全証拠によるも,本件において,本件使用商標が使用
された商品が「いちご」であることは確認できるものの,これがイチゴ品種「あか
ねっ娘」であることは確認することができない。
甲3の「大阪本場青果卸売協同組合HP」に,「ももいちごの開発/…産地の風土
や季候を生かした栽培方法で,共同開発した品種です。」として,「ももいちご」を
「品種」と説明した記載があるが,ここにいう「品種」は,種苗法等において登録
された「品種」として表示しているのではなく,日常用語として使用しているにす
ぎず,いちごの名称(ブランド)として理解し,表示しているものとみるのが相当
である。そうすると,たとえ,本件使用権者が,いちご品種の「あかねっ娘」に,
「ももいちご」との商標を付して販売したとしても,それは,通常の商標の使用と
いえるものであって,本条項でいう「商品の品質の誤認を生ずるもの」ということ
はできない。
イ請求人(原告)は,甲1の商品の箱には,「登録第4323578号/平
成10年商標登録願第30450号」と二段併記があるところ,実際には,上段の
登録番号は本件商標の登録番号を示すのに,意図的に「商標」の文字を表示してい
ないことにより,種苗法の登録番号と紛らわしく,品種の誤認をもたらしたと主張
する。しかし,このような表示方法に接する需要者は,上段部分は商標の登録番号
を表示し,下段部分は商標の出願番号を表示したものと理解することができ,この
ような表示方法をもって,需要者が,上段部の番号が種苗法上の品種登録番号など
と誤認することはないものと判断される。
したがって,請求人(原告)が主張する意味における商品の品質の誤認を生じさ
せることはないものというべきである。
(3)商標法74条1項1号に違反したとの違法確認請求について
商標法は,虚偽表示の禁止を定めた商標法74条に該当する行為がなされている
か否かについて,審判合議体が審理できるとは定めていない。
したがって,請求人(原告)による,商標法74条1項1号に違反したとの違法
確認請求は,不適法な審判の請求であって,その補正をすることができないもので
あるから,商標法56条で準用する特許法135条の規定により,却下すべきもの
である。
第3原告主張の審決取消事由
1取消事由1(商品の品質誤認に関する判断の誤り)
(1)本件使用権者は,一般的な品種である「あかねっ娘」を品種改良した新種
のいちごである「ももいちご」として販売しており,商品の品質の誤認を生じさせ,
これにより,食べたこともない珍しい品種のいちごを食べてみたいという需要者の
期待を裏切ったのであるから,「商品の品質の誤認を生じるものをした」に該当する
ことは明らかであり,審決にはこの点の判断を誤った違法がある。商標権者であり,
ももいちご部会の会長であった被告が,「ももいちご」という品種のいちごを育種し
たと主張し,その会員である本件使用権者が,36件の農家でしか販売されていな
い希少な「ももいちご」という品種であると,その商品を宣伝しているネットショ
ップで一般的な品種であるところの「あかねっ娘」を販売したのであるから,これ
が「商品の品質の誤認を生じるものをした」ことに当たるのは明らかである。
(2)審決は,本件商標の指定商品は「いちご」であり,本件使用権者が本件使
用商標を「いちご」に用いたことは認められるが,これがいちご品種「あかねっ娘」
であることは確認できないとしているが,誤りである。すなわち,別件の審決取消
請求事件(平成23年(行ケ)第10243号)の判決において,本件商標の正式
な品種名は,「あかねっ娘」であることが認定されており,本件商標権者である被告
は,「ももいちご」生産者部会の会長であり,本件使用権者はその部会の会員である
から,本件で販売された甲1の写真のいちごの品種名は「あかねっ娘」と推定され
る。また,原告は当該いちごを食べており,食味においても「あかねっ娘」であっ
た。
2取消事由2(商標法74条1項1号違反の違法確認をしなかったことの違法
性)
行政事件訴訟法4条により確認訴訟が認められているのだから,被告が商標法7
4条1項1号に違反したとの違法確認について,当該審判請求部分を却下した審決
の判断は誤りである。
第4被告の反論
1取消事由1に対し
(1)被告は,本件使用権者と共に「ももいちご」というブランド名でいちごを
販売しているが,これが「ももいちご」という名の新品種であると述べた事実はな
いし,「あかねっ娘」と異なる風味であると喧伝した事実もない。被告や使用権者は
「ももいちご」ブランドのいちごの正確な品種名については公式に明らかにしてお
らず,原告が引用しているのは被告以外の第三者による説明である。その説明にし
ても,例えば甲11の2行目には『「ももいちご」は,徳島県佐那河内村だけで栽培
されているとても稀少な品種です」とあるだけで,その品種名が「ももいちご」で
あるとは述べていないし,また同号証には,ももいちごの姉妹品である「さくらも
もいちご」について「かけ合わせは謎で(非公開)」との記載もある。
一方,原告の引用するウィキペディアによるいちごの説明では(乙9)品種名と
して「あかねっ娘」,一般名として「(ももいろいちご)」(被告注:「ももいちご」の
誤記。なお,右欄の「外部リンク」には「ももいちご」と正しく表記されている。)
とあり,「...徳島県佐那河内村の30数軒の農家のみで栽培される品種。徳島と大
阪でしか手に入れることができず,ネット通販などで人気である。大粒で桃の形に
似ていることから名前が付いた。一季成。」と説明されている。また同記事でリンク
されている「いちご情報サイトひがしゃんのいちごなページ」における「あかね
っ娘(ももいちご)」(乙10)には,「(ももいちご)品種は「あかねっ娘」だが徳
島県が「ももいちご」で商標登録している。」と説明される。
これらから,被告や使用権者は品種名を明らかにしていないものの,一般需要者
の認識としては,「ももいちご」ブランドのいちごの品種が「あかねっ娘」であると
理解されていると捉えることもできる。そうであれば,仮に「ももいちご」ブラン
ドの品種が「あかねっ娘」であったとしても,需要者の予想した品質と異なること
は生じ得ず,いずれにしても原告のいう品質の誤認は生じ得ないと言える。
(2)被告の販売するいちごよりも,本件使用権者の販売したいちごの品質が劣
悪であったとの主張はない。むしろ,原告の主張によれば被告のいちごも本件使用
権者のいちごも同じ「あかねっ娘」であり,よって品質は同じであるから,劣悪が
生じることはあり得ない。また,本件商標の指定商品が「いちご」であり,本件使
用権者の販売したのが「いちご」であることも争いがなく,当該登録商標の指定商
品とは異なる商品について使用することにより商品の品質の誤認を生じさせた場合
にも当たらないから,「商品の品質」を「誤認」させた場合に当たらない。
2取消事由2に対し
審決の判断に誤りはない。
第5当裁判所の判断
1取消事由1について
原告は,本件使用権者及び被告は,一般的な品種である「あかねっ娘」を品種改
良した新種のいちごである「ももいちご」として販売し,商品の品質の誤認を生じ
させたと主張し,これに沿うものとして,大阪本場青果卸売協同組合の平成18年
3月時点でのホームページ(甲3)における「大阪市中央卸売市場の卸会社とJA
徳島市佐那河内支所が,産地の風土や気候を生かした栽培法で,共同開発した品種
です。」との記載や「『ももいちご』は,徳島県佐那河内村だけで栽培されていると
ても稀少な品種です。」とのネットスーパーのホームページの記載(甲11)を指摘す
る。
しかしながら,証拠(甲2,3,乙1,2)によれば,ももいちご商品とは,徳
島県内の農家のみで生産されているいちごで,JA徳島市佐那河内支所と大阪中央
青果市場で作った身の大きさなどを特徴とするブランド力の高いいちごであるとこ
ろ,本件使用権者は,本件商標権者である被告が関係するJA徳島市管内の佐那河
内支所のももいちご部会内の43番の生産者番号を付された生産者であり,本件使
用権者による使用は当該生産者による出荷であって,徳島県佐那河内村の生産者だ
けの栽培のものとして,贈答用化粧箱に収められたいちごの商品表示であることが
認められるのであるから,いかなる意味においても,「商品の品質の誤認」があった
ということはできない。
そもそも,本件使用権者による本件使用商標は,本件商標を指定商品である「い
ちご」を販売する際に用いたものであり,その使用によって商品間の品質の誤認を
生じさせるものではない。
そして,甲3に上記の記載があることは認められるものの,その前段に「…その
姿形と,桃のようにジューシーな所から『ももいちご』と命名されました。」との記
載部分,その後ろに「ももいちごって高いですよね。あれは,ブランド名だってこ
ともあるようですが。すっかり高級いちごとして定着した徳島のももいちごですが,
元々は愛知県産で,奈良が許諾権を購入して栽培,『大和ももいちご』として奈良で
流通していましたが,その後,徳島も許諾権を購入して商標登録を先に取得し,奈
良に改名を迫ったため今では『大和ももいちご』ではなく,『あかねっ娘』という名
前でももいちごを売っています。」との記載などの前後の文脈に照らせば,種苗法に
いう「品種」としての「ももいちご」なるイチゴ品種が存在するということではな
く,徳島の特定農家で栽培される特定の条件を満たすいちごを「ももいちご」商品
のブランドとして使用したことが記載されているものと理解される。また,同様に,
甲11に種苗法等でいう意味の「品種」に当たる旨の記載はない。さらに,原告が,
被告がももいちご商品を新品種と喧伝している証左と指摘していると思われる被告
代理人弁護士作成の通知書(乙7)には,「新しい品種」との表現があるが,種苗法
にいう「品種」を意味するものとは認められない。原告指摘の別件審決取消訴訟判
決についても同様である。
原告は,「食べたことがない品種のいちご」とは異なると主張するのみで,中身が
いちごでなかったとか劣悪な商品を提供された旨を述べているわけではなく,具体
的な品質についての言及はない。
さらに,原告は,審決で本件使用に係るいちごが,「あかねっ娘」であるのに,「あ
かねっ娘」と確認することができないとした点が事実認定の誤りであると主張する
が,前記のとおり,被告が本件商標を特定のイチゴ品種を指すものとして使用して
いたのではないのであるから,当該いちごが「あかねっ娘」であるかどうかは,商
品の品質誤認との関係で意味を持つものでない。
以上からすれば,本件使用権者による本件使用が,商品の品質の誤認を生ずるも
のであるとすることはできず,原告主張の取消事由には理由がない。
2取消事由2について
原告は,審決が商標法74条1項の違法確認請求を却下したことにつき不服を述
べるが,違法確認についての審判請求ができる実定法上の根拠を欠くものであるか
ら,審決が,かかる請求を不適法として却下したのは正当であって,原告主張の取
消事由には理由がない。
第6結論
以上によれば,原告主張の取消事由はすべて理由がない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
塩月秀平
裁判官
中村恭
裁判官
中武由紀

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