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平成26年4月23日判決言渡
平成25年(行コ)第399号更正すべき理由がない旨の通知処分取消等請求控
訴事件
主文
1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2(主位的請求)新宿税務署長が平成23年11月28日付けで控訴人に対し
てした原判決別紙1の「事業年度」欄記載の各事業年度の更生会社A株式会
社の法人税に係る控訴人の同年7月12日付け各更正の請求に対する更正を
すべき理由がない旨の各通知の処分をいずれも取り消す。
3(予備的請求)被控訴人は,控訴人に対し,2374億6470万6270
円及びこれに対する平成23年7月13日から支払済みまで年5分の割合に
よる金員を支払え。
4訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
第2事案の概要(略称は原判決のものを用いる。)
1本件は,更生会社A株式会社(本件更生会社)が原判決別紙1の「事業年
度」欄記載の各事業年度(本件各事業年度)において,利息制限法に規定す
る利率(制限利率)を超える利息の定めを含む金銭消費貸借契約に基づき利
息及び遅延損害金(約定利息)の支払を受け,これに係る収益の額を益金の
額に算入して法人税の確定申告をしていたところ,本件更生会社についての
更生手続(本件更生手続)において,約1兆3800億円の過払金返還請求
権に係る債権が更生債権として確定したことから,本件更生会社の管財人で
ある控訴人が,本件各事業年度において益金の額に算入された金額のうち上
記更生債権に対応する制限利率を超える約定利息に係る部分は過大であると
して,同部分を益金の額から差し引いて法人税の額を計算し,本件更生会社
の本件各事業年度の法人税に係る課税標準等又は税額等につき各更正をすべ
き旨の請求(本件各更正の請求)をしたことに対し,処分行政庁である新宿
税務署長は,更正をすべき理由がない旨の各通知の処分(本件各通知処分)
をしたことから,控訴人が,被控訴人に対し,主位的に,本件各通知処分の
取消しを求め,予備的に,民法703条に基づき,本件各更正の請求に基づ
く更正がされた場合に還付されるべき金額に相当する金額の不当利得の返還
を求める事案である。
原審が,控訴人の請求をいずれも棄却したところ,控訴人が控訴した。
2本件における関係法令等の定め,前提事実,争点及び争点に関する当事者の
主張は,後記3に当審における控訴人の補足的主張を加えるほかは,原判決
の「事実及び理由」欄の第2の1から5まで(原判決3頁18行目から同3
9頁11行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
3当審における控訴人の補足的主張
(1)過年度の課税所得の修正を認めるべきであることについて
ア過年度の申告内容の是正については,国税通則法(通則法)にその定め
があり,当初申告の際の基礎とされた所得(経済的効果)が後発的に失わ
れた場合の処理についても,法人税法ではなく,通則法にその原則的処理
方法が定められているのであるから,通則法の定める規定の意義・趣旨を
踏まえ,本件における適用可能性を論じるべきである。
イ法人税法と企業会計は,その目的及び役割が相互に異なっており,法人
税法は,立法上の合理性,節約の観点から,企業会計における合理的な処
理方法や考え方を原則として認めつつも,課税の公平その他の法人税の目
的に照らして認め難い事項については,別段の定めとして明文化している
し,別段の定めが存在しない場合も,法人税法22条4項を媒介にして企
業会計が直接法規として法人の課税所得計算を規律するものではなく,企
業が採用した会計処理の基準が公正処理基準として税務上も尊重(是認)
されるか否かは,当該処理によって課税の公平その他税法独自の要請が満
たされるか否かによって規律されるべきものである。
企業会計原則において前期損益修正の処理が規定されているが,企業会
計原則自体当然に企業会計上の法的拘束力を有する規範ではないし,会計
上前期損益修正が行われる場合であっても,税務上も一律に当期の損益と
して取り扱わなければならない必然性はない。企業会計上確定した計算書
類が事後的な修正になじまないことや法人税法上欠損金の取扱いに関する
調整規定の存在によって,税務上前期損益修正の処理が義務付けられたり,
通則法23条2項の更正の請求が認められず,所得なき課税が正当化され
る理由にはならないし,実際の課税実務においても,短期土地譲渡益重課
税制度の場合など,会計上の処理と税務上の処理を異にする実例もある。
税務上も会計上の処理と同一の処理が義務付けられるとすれば,現実の課
税実務において行われる過年度の課税所得の是正が違法との結論を導くこ
とになり,相当ではない。
ウまた,企業会計原則が定める前期損益修正の処理は,継続企業の公正処
理基準を前提とする処理であり,税務上の前期損益修正の処理も,継続企
業の公正処理基準を前提に,欠損金が生じたとしても後の事業年度に獲得
する利益と相殺することで所得なき課税が避けられるという基本的な思考
の下ではじめて合理化される。本件更生会社は更生手続開始決定を受け,
会社分割によって消費者金融事業をスポンサー企業に対して承継し,今後
は更生計画に従って解散するため,継続的に所得を上げる見込みがないの
であるから,通常の事業継続を行う法人とは別異に取り扱うべきである。
エ最高裁判所平成5年11月25日第1小法廷判決においては,法人の収
益の計上は,法的な権利行使の可能性に基づく権利確定主義を原則とする
ものの,現に法人が行っている会計処理における収益の認識が企業会計上
の合理性を持ち,かつ,かかる処理を税法上是認しても公平な課税所得計
算といった税法独自の要請に反するものでない限りはこれを公正処理基準
に該当するものとして,納税者が行った会計上の処理を税法上も尊重すべ
き場合があるとの判断を示したものであり,公平な課税所得計算という税
法独自の要請に反しない限りは,納税者が採用した処理を尊重する態度を
示している。本件更生会社は,税務上,本件における引き直し計算による
影響額のうち本件各更正の請求において計算対象とした金額について,こ
れを当該事業年度の損失ではなく,本件各事業年度の所得が修正されるこ
とを前提として処理しており,本件においては,このような過年度の税務
上の損益(所得)の修正を認めなければ所得なき課税という税法上看過し
得ない課税の不公平が生ずるのであるから,この点からも,本件更生会社
が選択した税務上の処理を拒絶し,税務上も前期損益修正を義務付けるこ
とには合理性がない。
オ税務上の前期損益修正の処理が一律に公正処理基準に該当することの根
拠とする費用収益対応の原則についても,その基礎となる継続企業の前提
が本件では妥当しないし,同原則の本来的な意義は,ある会計期間に発生
した費用のうち,その会計期間の収益獲得に貢献した部分をその期の期間
費用として認識・測定し,適切な期間損益を計算することにあるから,本
件更生会社において,過去長期間にわたり顧客から収受してきた制限超過
利息が法的に無効であり,収益・益金を構成しなかったことが客観的に確
定した本件において,その影響額を引き直し計算あるいは債権調査時の一
時の損失として計上することは,適切な期間損益計算という費用収益対応
の原則の趣旨から乖離した状態を招くのであり,むしろ,過去の各事業年
度の損益の修正とすることが,費用収益対応の原則の実質的な意義に適合
する。
カ本件における引き直し計算及び債権調査等の結果として失われた所得
(経済的成果)について,過年度の課税所得の是正を許さず,前期損益修
正の処理が一律に義務付けられる場合,本件更生会社が欠損金の繰越控除
等の法人税法上の課税調整規定による救済を受ける余地はなく,結果とし
て,国は実体的に保有する理由のない法人税額を不当かつ永続的に保持し,
他方,本件更生会社は所得なきところに課税される結果となり,担税力に
応じた課税という通則法23条2項の趣旨・目的及び公平な課税所得計算
という法人税法22条4項の要請にも反することになるのである。したが
って,本件各更正の請求は,通則法23条2項1号の手続要件を満たすだ
けではなく,確定判決と同一の効力をもって確定した(後発的に明らかに
なった)事実関係に即して過年度の課税所得を再計算して当初申告の内容
を是正することこそが,通則法23条2項及び法人税法22条4項の解釈
として必要である。
(2)不当利得返還請求について
ア不当利得返還請求制度の趣旨は,形式的・一般的には正当視される財産
的価値の移動であっても,実質的・相対的には正当視されず,公平に反す
ると認められるときに,公平の理念に従って財産状態の帰すうを調整し,
その実質的不公平を除去することにある。
本件では,過払金債権の存在及び額が確定したことにより,課税の前提
となった制限超過利息に係る本件更生会社の所得が事後的に喪失されてお
り,本件各更正の請求が認められず,被控訴人が徴収した税額を保有し続
けることができるとすれば,所得なきところに課税することに等しく,著
しく公平に反する。また,被控訴人が保持し続けることとなる税額は,過
払債権者が本件更生会社に支払った制限超過利息を原資とするものである
ところ,本件更生手続の第1回弁済において,過払債権者は3.3パーセ
ントの弁済しか受けていないのであって,上記税額を被控訴人が保有し続
けることは,正義衡平の理念に反し,著しく不公平である。
仮に本件各更正の請求が認められないとすれば,上記の不当利得返還請
求制度の趣旨が妥当し,控訴人は,被控訴人に対して,制限超過利息に対
応する税額について不当利得返還請求ができるというべきである。
イ最高裁判所昭和49年3月8日第2小法廷判決は,貸倒れによって課税
の前提が失われ,旧所得税法に是正措置を認める規定がなく,貸倒れの発
生とその数額が課税庁による格別の認定判断を待つまでもなく客観的に明
らかであるときは,納税者が納付した所得税のうち貸倒れ額に対応する税
額につき不当利得返還請求権を行使することができることを明らかにした。
本件においても,制限超過利息に係る本件更生会社の所得が事後的に喪失
して課税の前提が失われており,本件更生会社の更生計画により会社の解
散・清算が確定しているから法人税法上の課税調整では救済されず,過払
金債権の存在及び額は客観的に明白であるから,課税庁に所得及び税額の
是正に係る認定判断権を留保する必要もないのであって,上記最高裁判所
判決に照らして,控訴人が不当利得の返還を請求できるというべきである。
ウ不当利得返還請求権の要件としての「法律上の原因がないこと」につい
てみると,本件において課税の前提となった制限超過利息に係る本件更生
会社の所得は事後的に喪失しているのであるから,被控訴人が本件各事業
年度に納付された法人税を保有する法律上の原因はないことになる。法人
税の納付当時に適法に確定され納付されたものであっても,事後的遡及的
に無効であることが確定している以上,これを保有し続ける法律上の原因
はなく,税額確定行為の公定力によって私法的救済が否定されるものでも
ない。
エまた,更正請求の原則的排他性についても,例外を否定するものではな
く,現に更正の請求の期限後における嘆願による個別的な減額更正処分が
認められたり,税務当局による更正処分の期限後の減額の再更正処分が認
められるなど,広く例外が認められているのであって,更正請求の原則的
排他性により本件における不当利得返還請求が否定されるものとはいえな
い。
第3当裁判所の判断
1当裁判所も,控訴人の請求はいずれも理由がないと判断する。その理由は,
後記2に当裁判所の補足的判断を加えるほかは,原判決の「事実及び理由」
欄の第3(原判決39頁12行目から同47頁26行目まで)に記載のとお
りであるから,これを引用する。
2控訴人は,前記第2の3のとおり主張し,当審においても,本件について税
務上前期損益修正の処理によるのは相当ではなく,過年度所得の更正を認め
るべきであり,そうでないとしても,本件更生会社が過大に納付した法人税
相当額は不当利得として返還されるべきである旨重ねて主張する。
しかし,前期損益修正の処理は,法人税法22条4項に定める公正処理基準
に該当すると解される一方,本件更生会社について,これと異なり過年度所
得の更正を行うべき理由があるとはいえず,通則法23条1項1号に該当す
るものとは認められず,本件更生会社が納付した法人税について法律上の原
因がないともいえないことは,前記引用に係る原判決の説示のとおりであり,
控訴人の主張はこれと立場を異にするものであって,その指摘や当審におけ
る提出証拠を踏まえても,上記判断を覆すに至らない。本件更生会社は,本
件更生手続において,会社分割によってその主たる事業である消費者金融事
業をスポンサー企業に譲渡し,本件更生会社自体は継続的に所得を計上する
法人とはせずに清算業務を行い,解散することとしたものであり,その結果,
前期損益修正による税務処理によって課税関係の調整を受ける余地がなくな
ったが,これは,本件更生会社が上記のような更生計画を立てたことによる
結果であるから,そのことをもって,本件更生会社について,更生会社一般
において特段の手当がされていない前期損益修正の処理と異なる処理を行う
べき理由は見いだし難いし,本件更生会社により納付された法人税を被控訴
人が保持し続けることが著しく公平に反し,不当利得としてその返還請求を
認めるべきということはできない。
3よって,原判決は相当であり,控訴人の本件控訴は理由がないからこれを棄
却することとし,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第9民事部
裁判長裁判官下田文男
裁判官橋本英史
裁判官小野寺真也

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