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平成18年3月30日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成16年(ワ)第25297号営業行為差止請求事件
平成18年2月2日口頭弁論終結
判決
東京都渋谷区<以下略>
原告平成電電株式会社
訴訟代理人弁護士若林弘樹
同檜山聡
同浅井孝夫
同池添崇正
東京都中央区<以下略>
被告ソフトバンク株式会社
東京都中央区<以下略>
被告日本テレコム株式会社
上記両名訴訟代理人弁護士中村直人
同角田大憲
同松本真輔
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1原告の請求
1被告ソフトバンク株式会社は,別紙営業秘密目録1ないし3,4①,5①,
6及び7記載の各営業秘密を開示してはならない。
2被告日本テレコム株式会社は「おとくライン」と称する固定電話サービス,
を販売してはならない。
第2事案の概要
本件は,原告が,いわゆる回線交換方式による直収電話サービスに関する営
業秘密を被告ソフトバンク株式会社ほか2社に開示したところ,同被告ほか2
社が,同営業秘密を被告日本テレコム株式会社に不正に開示し,同被告がその
営業秘密を不正に利用して原告と同様の電話サービスを提供しているとして,
被告ソフトバンク株式会社に対しては,当該営業秘密の開示の差止めを,被告
日本テレコム株式会社に対しては,原告の営業秘密を不正に使用した電話サー
ビスの販売差止めをそれぞれ求めている事案である。
1前提となる事実(当事者間に争いのない事実及び証拠により容易に認定され
。,。)る事実証拠により認定した事実については該当箇所末尾に証拠を掲げた
()当事者1
ア原告は,電気通信事業等を目的とする株式会社である。
なお,原告は,平成17年10月3日,東京地方裁判所に対し,民事再
生法に基づく再生手続開始の申立て(平成17年(再)第159号)を行
い(甲67,同年10月17日,再生手続開始決定を受けた(甲68。))
イ被告ソフトバンク株式会社(以下「被告ソフトバンク」という)は,。
電気通信事業等を営む会社の事業活動を支配及び管理することなどを目的
とする株式会社である。
ウ被告日本テレコム株式会社(以下「被告日本テレコム」という)は,。
電気通信事業等を目的とする株式会社である。被告日本テレコムは,被告
ソフトバンクのいわゆる100%子会社である。
()原告が提供している電話サービス2
ア原告は,遅くとも平成15年11月ころから,加入者宅からの電話回線
を,日本電信電話株式会社グループの地域会社である東日本電信電話株式
会社(以下「NTT東日本」という)及び西日本電信電話株式会社(以。
下「NTT西日本」といい,NTT東日本とまとめて単に「NTT」と,
もいう)の交換機を通さずに,原告の交換設備に直接収容して利用者に。
提供する固定電話サービスである回線交換方式による直収電話サービスを
提供している(開始当初の名称は「平成電話」であり,現在の名称は「C
HOKKA」である。以下「原告サービス」という。。)
イ直収電話サービスとしては,現在,原告サービスと同様の回線交換方式
のほか,①一部のCATV事業者が自社のCATVケーブルを利用して提
供する回線交換方式による直収電話サービス,②いわゆる新電電会社が自
社またはNTTの専用線を利用して提供する回線交換方式による直収電話
サービス,③いわゆるDSL事業者がNTT加入者線を利用して提供する
IP電話(パケット交換)方式による直収電話サービスがある。
()原告と被告ソフトバンクの資本提携交渉などについて3
ア原告は,他社との資本提携を検討していたところ,平成16年3月30
日,原告のアドバイザーであった大和証券エスエムビーシー株式会社の打
診を受けた被告ソフトバンク代表取締役から原告の事業に強い関心がある
旨の連絡を受けたことから,同被告との間で資本提携交渉を開始すること
になり,同年4月2日,資本提携交渉等の過程において相互に開示する情
報の取扱いについて,同被告と秘密保持契約を締結した(以下「本件秘密
保持契約」という。同契約において,情報受領者は,情報開示者の事。)
前の書面による承諾なく,情報開示者から開示を受けた秘密情報を第三者
(本件秘密保持契約当事者以外の一切の者)に開示又は漏洩してはならな
い旨が定められていた(3条1項。ただし,4条2項によりソフトバンク
〔,「」。〕。)。BB株式会社以下ソフトバンクBBというは除外されていた
イ原告は,資本提携交渉において,被告ソフトバンクに対し,原告の事業
内容等を説明するなどした。また,被告ソフトバンクは,平成16年5月
3日から同月20日ころまでの間,原告の福岡本部において原告に関する
詳細な調査(デュー・デリジェンス。以下「本件調査」という)を行っ。
た。同調査において,原告の事業内容や財務内容が被告ソフトバンクに開
示された(甲3,5,6。原告は,同調査において,被告ソフトバンク)
に対し,原告が主張する別紙営業秘密目録1ないし3,4①,5①,6,
7記載の営業秘密(後記のとおり,同目録記載の各営業秘密が不正競争防
止法上の営業秘密に該当するか否かについては当事者間に争いがある。以
,,「」。下同目録記載の営業秘密をそれぞれ本件営業秘密1のようにいう
また,各秘密を総称して「本件各営業秘密」という)の一部について,。
開示した。
ウ被告ソフトバンクは,平成16年5月25日,原告に対し,原告を買収
しない旨の申入れをした。
()被告日本テレコムによる同種サービスの提供4
被告ソフトバンクは,平成16年7月30日,直収電話サービスを提供す
るため,被告日本テレコムの全株式を取得し,被告日本テレコムは,被告ソ
フトバンクの100%子会社となった。被告日本テレコムは,その1か月後
の同年8月30日「おとくライン」との名称で回線交換方式による直収電,
話サービス(以下「被告サービス」という)を同年12月1日から開始す。
る旨発表し,実際に同サービスを提供している(甲8ないし10,12。)
2争点
()本件営業秘密1は営業秘密に当たるか(争点1。1)
ア本件営業秘密1の有用性(争点1-1)
イ本件営業秘密1の非公知性(争点1-2)
ウ本件営業秘密1の秘密管理性(争点1-3)
()本件営業秘密2は営業秘密性に当たるか(争点2。2)
ア本件営業秘密2の有用性(争点2-1)
イ本件営業秘密2の非公知性(争点2-2)
ウ本件営業秘密2の秘密管理性(争点2-3)
()本件営業秘密3は営業秘密に当たるか(争点3。3)
ア本件営業秘密3の有用性(争点3-1)
イ本件営業秘密3の非公知性(争点3-2)
ウ本件営業秘密3の秘密管理性(争点3-3)
()本件営業秘密4は営業秘密に当たるか(争点4。4)
ア本件営業秘密4の有用性及びその帰属主体(争点4-1)
イ本件営業秘密4の非公知性(争点4-2)
ウ本件営業秘密4の秘密管理性(争点4-3)
()本件営業秘密5は営業秘密に当たるか(争点5。5)
ア本件営業秘密5の有用性及びその帰属主体(争点5-1)
イ本件営業秘密5の非公知性(争点5-2)
ウ本件営業秘密5の秘密管理性(争点5-3)
()本件営業秘密6は営業秘密に当たるか(争点6。6)
ア本件営業秘密6の有用性(争点6-1)
イ本件営業秘密6の非公知性(争点6-2)
ウ本件営業秘密6の秘密管理性(争点6-3)
()本件営業秘密7は営業秘密に当たるか(争点7。7)
ア本件営業秘密7の有用性(争点7-1)
イ本件営業秘密7の非公知性(争点7-2)
ウ本件営業秘密7の秘密管理性(争点7-3)
()本件営業秘密2,3,4①,5①,6及び7は,一体として営業秘密に当8
たるか(争点8。)
ア一体としての営業秘密の有用性(争点8-1)
イ一体としての営業秘密の非公知性(争点8-2)
ウ一体としての営業秘密の秘密管理性(争点8-3)
()本件各営業秘密の不正開示行為及び不正使用の有無(争点9)9
ア被告ソフトバンクによる被告日本テレコムに対する不正開示行為の有無
(争点9-1)
イ日本電気株式会社(以下「NEC」という)及びルーセント・テク「。
ノロジー社(以下「ルーセント」という)による被告日本テレコムに対。
する不正開示行為の有無(争点9-2)
ウ被告日本テレコムによる不正使用行為の有無(争点9-3)
()本件各営業秘密の不正開示行為及び被告サービスの各差止めの必要性10
(争点10)
第3争点に関する当事者の主張
1争点1(本件営業秘密1は営業秘密に当たるか)について。
()争点1-1(本件営業秘密1の有用性)について1
(原告の主張)
ア本件営業秘密1の内容は,別紙営業秘密目録1記載のとおりである。本
件各営業秘密は,従来NTTが独占していた加入者線の回線交換方式によ
る固定電話サービスを,NTT以外の事業者(以下「他事業者」というこ
とがある)により提供可能とする原理(本件営業秘密1)と,当該サー。
ビスを国内で初めて実施するに当たって必要な手段ないし方法(本件営業
秘密2ないし7)により構成される。NTT加入者宅からNTT電話局と
の間に設置されたメタル(端末)回線(電話回線網を構成する加入者回線
のうち,未使用の回線であるいわゆるドライカッパーを借り受けることを
その前提とする)の電話音声帯域(概ね0~4kHz程度)を含む全周。
波数帯域をNTTから借り受け,同メタル(端末)回線において電話音声
帯域を使用して回線交換方式による直収電話サービスを提供するには,制
度上,技術上種々の制約があり,原告サービスが提供されるまで,ビジネ
スモデルとして検討した他事業者はなく,採算上の見通しもなかった。原
告は,原告サービスを提供するため,独自に回線交換方式による直収電話
サービスについて検討し,それらの制約を初めて克服した。現在において
も,原告及び被告日本テレコム以外の他事業者は,回線交換方式による直
収電話サービス提供における制約の克服方法(本件各営業秘密)を知らな
いのであるから,本件各営業秘密は極めて高いビジネス的価値を有してい
る。だからこそ,被告らは,本件調査により入手した本件営業秘密1を用
いて被告サービスを提供しているのである。
イ本件営業秘密1の原理に基づく直収電話サービスを提供した場合の事業
者のメリットは以下のとおりであって,本件営業秘密1には極めて高い有
用性が認められる。
)他事業者は,電話加入者から,NTTに代わって,独自に設定した基a
本料金の支払を受けることが可能となる(いわゆるADSL〔asym
metricdigitalsubscriberline〕サ
ービスと異なり,ドライカッパーはNTT以外の他事業者の交換設備に
直接収容され,NTTの交換設備を通さないので,電話加入者は,NT
Tに対して基本料金を支払う必要がない。原告サービスは,平成1。)
1年のドライカッパー開放後もNTTが維持していた電話サービスの独
占を打破するという大きな意義を有していた。
)原告サービス利用者同士の通話では,NTTに対する接続料の支払はb
不要である。また,NTTの固定電話サービス利用者から原告サービス
利用者に対して発信する場合,原告の交換設備を経由することから,接
続料(着信料)収入を得ることができる。
)既に敷設されているドライカッパーを借り受けるから,専用線によるc
電話サービスなどと比較して設備投資費用も低額である。また,CAT
Vケーブルを利用しないため,サービス提供範囲も限定されない。
)NTTの従来からの固定電話サービスと同様の品質及び付加機能(発d
信番号通知,キャッチホンなど)が利用できるほか,番号ポータビリテ
ィ(従来使用していたNTT固定電話の電話番号を原告サービス加入後
もそのまま使用すること)を提供することが可能である。したがって,
通話品質が劣るパケット交換方式によるIP電話,音声の品質確保が困
難であること等から0AB~J番号(市外局番+市内局番+加入者番号
で構成される通常の番号。電気通信番号規則9条参照)が割り当てら。
れていないDSL回線を用いたIP電話より,競争上優位である。
)ドライカッパーの全周波数帯域を借り受けることにより,DSL回線e
IntegratedServicesDigitalを用いたIP電話では提供できないISDN(
)サービスも提供することができ,回線使用頻度の高い法人顧Network
客に対するサービス提供が可能となる。
ウ被告らは,被告日本テレコムなどが提供してきた専用線電話サービス
(リンクITJ「クイックライン)と原告サービスは,ドライカッ「」,」
パーを利用するか専用線を利用するかの違いであって,その仕組みは基本
的にはほとんど同じであるし,そのほかにもIP電話等の類似する電話サ
,(,),ービスが存在していることや各種文献乙1ないし乙4乙24など
及び公開特許公報(乙25)などを例示して,本件営業秘密1が公知であ
って,有用性が存しないと主張する。しかし,専用線電話は「専用線」,
を用いることから,機器構成が本件営業秘密1により開示された原理とは
まったく異なるし,NTTと利用者が契約関係に立つことからも明らかな
とおり,専用線を利用したサービスと本件営業秘密1を用いた直収電話サ
ービスは明らかに異質なサービスである。しかも,被告日本テレコムが提
供しているクイックラインサービスは,同被告の加入者線収容装置から遠
くても30キロメートル以内に事務所を構える大規模法人顧客のみを想定
したサービスであるという点も異なる。専用線を借り受ける場合には,1
回線当たり数万円が必要であるが,原告サービスにおいては,NTT局舎
内においてNTTの回線収容装置を使用しないため,NTTがデータ通信
や音声通話などの品質を確保する立場にはないから,1回線当たり100
0円台程度で借り受けることが可能で,その点においても相違は明らかで
ある。もちろん,回線交換方式とIP電話サービスは全く異なる方式であ
り,使用機器やネットワーク構成なども異なるから,IP電話サービスが
存在することをもって,本件営業秘密1が公知であるともいえない。類似
のサービスがいかに存在しようとも,原告サービスの独創性に及ぶものは
ないのである。さらに,被告らが指摘する各種文献の各記載は,いずれも
概括的,表面的な記載が存在するにすぎないものであって,これらにより
本件営業秘密1が公知となっているものではないことは,争点1-2にお
いて後に述べるとおりである。
(被告らの主張)
ア本件営業秘密1は,内容自体が十分特定されているものではないし,特
定の電話サービスの原理と呼べるものでもない。しかも,平成15年12
月1日付け電気通信事業紛争処理委員会/IT時代の公正な紛争解決に向
けて〔第4版(乙1。以下「乙1文献」という,日経コミュニケーシ〕。)
ョンズ2003年5月12日号(乙2。以下「乙2文献」という,同。)
(。「」。),1999年10月14日号乙3以下乙3文献というにおいて
遅くとも平成15年12月1日までには既に原告サービスの原理なるもの
は公開されていたのみならず,原告自身も,遅くとも平成15年6月30
日までには,原告サービスに関するプレスリリースを自ら行っていた(乙
4。以下「乙4文献」という。。)
したがって,本件営業秘密1は,遅くとも本件調査開始前において,既
に公知であって,有用性も認められないものというべきである。
イNTTが,他事業者に対しドライカッパーの提供を容認するようになっ
た平成11年以前から,CATV事業者・新電電会社・DSL事業者など
により,直収電話サービス自体は多数提供されていたことは周知のとおり
である。実際に,被告日本テレコムが平成9年10月1日に吸収合併した
日本国際通信株式会社(以下「ITJ」という)は,既に平成3年11。
月ころから直収電話サービス「リンクITJ」を提供しているし,被告日
本テレコムも,既に平成8年10月ころから直収電話サービス「クイック
ライン」を提供しているのである。
また,平成11年以降は,国内において他事業者がNTT加入者線を借
り受けて,データ通信サービス(DSL)とともにIP電話サービスを提
供していることも周知のとおりである。被告ソフトバンクは,既に平成1
3年から,子会社(ソフトバンクBB)により,ADSLサービス(ヤフ
ーBB)とともに,IP電話サービス(BBフォン)を提供している。し
かも,被告ソフトバンクは,平成16年2月6日,総務省から,事業計画
中の「局内収容BBフォンサービス」がアナログ電話サービスであるとの
指摘を受けた以降,遅くとも平成16年2月19日時点では,ドライカッ
パーの電話音声帯域を利用した回線交換方式による直収電話サービスの検
討を開始していたのである(乙18参照。)
ウ被告日本テレコムは,十数年以上第1種電気通信事業者として電気通信
事業を営んでおり,NTTのサービス,技術的条件を熟知しているのであ
るから,ドライカッパーをアナログ電話の回線として用いることができる
ことも,当然,他の電気通信事業者同様に従前から知っていた。NTT技
(。「」。)術ジャーナル1996年10月号乙24以下乙24文献という
にも,他事業者が電話サービスを提供するためにドライカッパーに接続す
る形態が説明されており,原告サービスと同様の接続形態が図示されてい
る。したがって,原告サービスの形態は,遅くとも平成8年10月当時に
は当業者に広く知られていたものというべきである。そのほか,公開特許
(。),,公報特開平11-285035号乙25にもドライカッパーには
①電話サービスのみに使用する,②DSLサービスのみに使用する,③電
話サービスとDSLサービスに使用するという3とおりの使用方法がある
ことが記載されており,遅くとも平成11年10月当時にはこれらの技術
情報が公知であったことは,明らかである。さらに,アメリカ合衆国にお
いて,電話回線を所有する通信業者とは別の通信業者がドライカッパーを
借り受けて電話サービス用に利用していたことは,日本においても広く知
られていた(乙25参照。)
,,,「」,「」,エ原告はさらに原告サービスはリンクITJクイックライン
「IP電話サービス」とは根本的に異なるものであるなどとも主張する。
しかし,原告サービスと「リンクITJ「クイックライン」は,ドラ」,
イカッパーを利用するか専用線を利用するかの違いしかなく,その仕組み
は基本的にほとんど同じであるし「リンクITJ「クイックライン」,」,
は専用線を利用したサービスであるとはいっても「ラストワンマイル」,
(顧客と最寄りの局舎との間の回線)はメタル回線を利用するのが主流で
あり,サービスを提供するために必要な技術もほとんど変わらないもので
ある。原告は,専用線とドライカッパーの違いを強調するが,専用線とド
ライカッパーは,単に呼び方の差に過ぎず,電話回線自体は同じである。
ドライカッパーとは,加入者宅からNTT-GC局(GroupCen
ter。加入者線交換機〔以下「LS交換機」という〕が設置されてい。
るセンターであり「NTT局舎」ともいう)のMDF(主配電盤)ま,。
での電話回線をいい,専用線とは,ある特定の2地点間を結ぶデータ通信
専用の(主としてNTTから借りて利用する)回線のことをいうのであっ
て,ドライカッパーが電話回線の引かれている場所に着目した呼称である
のに対し,専用線は,電話回線の用い方に着目した呼称ということもでき
る。したがって,原告サービス,被告サービス,クイックラインのいずれ
も,ドライカッパーの電話音声帯域をすべて借り受ける点,回線交換方式
による直収電話サービスである点において共通しており,これらのサービ
スが既に提供されていることは,本件営業秘密1が公知であり,有用な情
報ではないことを端的に示しているものである。また,原告サービスがI
P電話サービスと比較して格段に優秀であるというわけでもない。
したがって,本件営業秘密1に記載された情報が,何ら有用な情報でな
いことは明らかである。
()争点1-2(本件営業秘密1の非公知性)について2
(原告の主張)
ア原告は,本件営業秘密1を使用した原告サービスを,国内で初めて提供
した通信事業者である。しかも,基本原理である本件営業秘密1自体を説
明ないし記載した書面は,一般に一切公開ないし公刊されていない。した
がって,本件営業秘密1は非公知性を有することは明らかである。なお,
原告は,国による規制及びNTTからのドライカッパーの借入れの関係か
ら,総務省やNTTに対して本件各営業秘密の一部を開示したことはある
が,それは極めて限定された範囲に対してであって,それにより非公知性
が失われるものでもない。
イ原告サービスは,①NTT加入者線であるドライカッパーを利用した,
②回線交換方式の,③直収電話サービスである。専用線を利用したサービ
スは,①の点で,回線交換方式ではなく,IP網を利用しているサービス
は②の点で,原告サービスとは異なる。被告らは,原告サービスを単なる
直収電話サービスであるかのように歪曲して理解して,従来から存在して
いたかのように主張するが,その前提自体が誤りであって,原告サービス
はNTTからのドライカッパーの借受け形態を含めて,独自性が高いサー
ビスなのである。
そのほか,被告らは,本件営業秘密1は,乙1文献ないし乙4文献など
により公知であるなどとも主張する。しかし,これらはいずれも原告サー
ビスとは異なる形態の電話サービスが記載されているにすぎなかったり,
原告サービスについて概括的な紹介記事やプレスリリースにすぎないもの
であり,これらによって原告サービスの基本原理を推知することは不可能
である。断片的な関連情報が公知であったとしても,その組合せが知られ
ていなければ,それだけでは本件営業秘密1の非公知性が否定されるもの
ではない。
被告らは,原告サービス開始後も,本件営業秘密1を用いた直収電話サ
ービスについて着想することはなかった。しかし,被告ソフトバンクは,
本件調査において原告から本件営業秘密1の開示を受けた後に初めて被告
サービスの提供を検討していることからすると,本件営業秘密1の非公知
性は明らかである。
(被告らの主張)
ア争点1-1において述べたとおり,遅くとも平成15年6月30日まで
には,本件営業秘密1は公知となっていたものである。したがって,本件
営業秘密1は,非公知性を有しない。原告は,乙1文献ないし乙4文献に
は概括的な情報しか記載されていないなどと主張する。しかし,これらの
各文献には具体的な図面などにより詳細な情報が記載されており,電話サ
ービスを営む他事業者からすれば,これらの情報から原告サービスと同様
の電話サービスを構築することは容易である。
イ原告は,原告サービスの借受け形態が,従前の形態と全く異なる形態で
あるかのようにも主張する。しかし,原告の借受け形態は,従前の形態に
おけるNTTの局内スプリッタを利用しない場合であるいわゆる「typ
eⅡ」に属するものにすぎず,何ら新しい形態ではない。結局のところ,
ドライカッパーを借り受ける形態の直収電話サービスという形態は,原告
サービスの開始以前にも,技術上,NTTとの契約関係上など,些末な点
での差異が存するとしても,従前から多数の他事業者により採用されてい
たのであるから,本件営業秘密1は,本件調査前において,公知であった
というべきである。
()争点1-3(本件営業秘密1の秘密管理性)について3
(原告の主張)
ア原告は,本件各営業秘密の管理を厳重に行っており,本件各営業秘密の
いずれについても秘密管理性の要件を充足していることは明らかである。
,,原告においては営業秘密が記載された紙媒体の文書の管理方法として
①同文書を施錠可能なキャビネットや書棚に収納し施錠の上,鍵を所轄部
門長又はこれに準ずる者が管理し,同文書にアクセスできる者を所轄部の
特定の従業員又はその所属する部門の担当部長の許可を得た従業員に限定
し,②保管場所に部外者が立ち入ることを禁止し,③同文書を廃棄する場
合には文書管理者立会いの下でシュレッダー(裁断機)にかけて廃棄した
上で,文書管理台帳の廃棄欄に廃棄の日付と担当者名を記載させるなど,
同文書へのアクセスを物理的かつ人的に制限している。また,営業秘密が
含まれる電子文書や電子データの管理方法としても,①同文書や同データ
をアクセスするためにパスワードの入力が要求されるフォルダに保存した
上で,当該パスワードを所轄部門の関係者以外には開示しない,②社内の
コンピュータ・ネットワークにおいても,技術的に(かつ人的に)同文書
や同データへのアクセスを制限しているほか,③CD等の媒体に記録され
ている場合には当該媒体を紙媒体の文書に準じて取り扱い,同媒体へのア
クセスを物理的に(かつ人的に)制限している。そして,物理的かつ技術
的なアクセス制限を施すことによって,対象情報が秘密であることが認識
できるようにしているのである。
営業秘密が記載された紙媒体の文書には,さらに加えて「秘」又は「社
外秘」の表示その他何らかの形で秘密である旨の表示を付して(文書管理
規程17条。甲17,閲覧者又は保有者に同文書が営業秘密に該当す。)
る旨の警告をして同文書の取扱いに対する注意を喚起する場合もある。も
っとも,営業秘密は,情報という無形の性質ゆえにすべてが文書や何らか
の媒体に記載又は記録されているものではなく,当該営業秘密に接した担
当者に記憶や知識として,技術や経験として残るものである。情報が物的
媒体に固定されてしまうと,そのまま正確に第三者に漏洩し再現される危
険性は高い。したがって,むしろ,機密性の高い情報であればあるほど,
それを文書や媒体等に記録することなく,各担当者の記憶にとどめておく
ことで秘密管理している場合もある。加えて,原告は,就業規則において
従業員の秘密保持義務を定めるとともに,入社する従業員からは秘密保持
義務及び秘密情報の報告義務を明記した誓約書を,退社する従業員からは
秘密保持義務及び競業避止義務を明記した誓約書を提出させるなど,秘密
管理の徹底を図るとともに,役員・従業員に対して定期的に情報管理に関
する教育を実施し,情報管理役員あるいは部門ごとに情報管理担当者を設
置し,さらには,定期的に文書管理規程や情報管理方針の見直しを行うな
ど,労務ないしは社内組織の側面からも営業秘密に該当する情報の管理に
細心の注意を払っている。例外的に取引先に営業秘密に該当する情報を開
示しなければならない場合には,かかる取引先との間で秘密保持契約を締
結し,同契約上に定められた手続を経るなど,法的・契約的な側面からも
厳重に管理している。
イ以上のとおり,通信事業者として情報管理には細心の注意を払っている
原告においては,営業秘密に該当する情報の秘密管理も徹底していたので
あるから,本件各営業秘密もこのような取扱いにより,秘密管理性が確保
されているものである。
ウ原告は,被告ソフトバンクから持ち掛けられた資本提携交渉に先立ち,
本件調査をはじめ交渉の過程で被告ソフトバンクに開示する情報には原告
の機密情報(不正競争防止法上の営業秘密に限られない)が含まれざる。
を得ないことから,被告ソフトバンクとの間で本件秘密保持契約を締結し
て,被告ソフトバンクに対し,原告から開示を受けた秘密情報を被告ソフ
トバンク及びソフトバンクBB以外の第三者に開示又は漏洩してはならな
いものと定めた。その上で,本件調査等を通じて原告から被告ソフトバン
クに対し本件各営業秘密やその他の機密情報を含む各文書を開示し,又は
口頭で開示する際には,同契約に基づいて「機密」である旨を告知した。
しかも,原告は,本件調査の開始に当たり,被告ソフトバンクに対し,包
括的かつ事前に,同調査において被告ソフトバンクやソフトバンクBBに
対して開示する情報は,いずれも秘密情報に該当する旨を口頭で告知した
のみならず,原告から開示する各書類を備えた原告福岡本部内のデータル
ームには原告の担当者又は代理人が立ち会い,被告ソフトバンクの役員・
従業員及び代理人がデータルームを入退室する際には入退室記録を取るな
ど,秘密管理には細心の注意を払い,物理的かつ人的に原告の本件各営業
秘密を含む機密情報へのアクセスを制限していた。したがって,本件調査
を含む被告ソフトバンクとの資本提携交渉においても,本件各営業秘密の
秘密管理は徹底されていたものというべきである。
エ本件営業秘密1は,その一部が文書化されているが,その全体像は原告
の代表取締役,技術担当役員及びNTTとの相互接続交渉を担当した上級
管理職従業員が把握するのみであり,各人には機密に取り扱わなければな
らない旨の指示が出されていた。本件営業秘密1は,明確には物的媒体に
固定されていないため,むしろ外部への漏洩が防止されており,かつ,本
件営業秘密1を知る者も少人数に限定されていた。そのほか,紙媒体や電
子データについては,秘密である旨の表示やパスワードによる厳重な管理
がされていた。したがって,本件営業秘密1は,秘密管理性を有するとい
うべきである。
よって,本件営業秘密1は,不正競争防止法における営業秘密に該当す
るというべきである。
(被告らの主張)
ア原告は,文書管理規程を定めるなどして営業秘密の管理を徹底していた
などと主張する。しかし,文書管理規程等を定めていることと,本件営業
秘密1が実際に秘密として管理されていたこととは別問題であって,本件
営業秘密1が文書管理規程における機密文書ないし社外秘文書として取り
扱われていて初めて秘密管理性があるといえるものである。原告の文書管
理規程17条は,機密文書には「秘,社外秘文書には「社外秘」と表示」
すると定めてはいる。しかし,原告が本件営業秘密1に含まれるものと主
張する各文書には,そのような表示はない。
イ原告は,本件秘密保持契約が存在することをもって,本件営業秘密1が
秘密管理性を有することの根拠とする。しかし,同契約は,M&Aにおけ
るデュー・デリジェンスを行う際に通常締結される類のものにすぎず,本
件営業秘密1が特に他の営業秘密でない情報と区別されて秘密として厳重
に管理されていたこともない。なお,被告ソフトバンクは,本件調査にお
いて,原告から開示される情報がいずれも原告の営業秘密に属する旨の伝
達を受けていない。開示する情報のすべてが営業秘密に該当するというの
であれば,あらかじめ本件秘密保持契約においてその旨を定めれば足りた
のであって,事前に包括的に営業秘密である旨を伝達すればすべてが営業
秘密となるものではない。
よって,本件営業秘密1に秘密管理性がないことも明らかである。
以上のとおり,本件営業秘密1は,有用性も非公知性も秘密管理性もな
く,不正競争防止法に定める「営業秘密」とは認められない。
2争点2(本件営業秘密2は営業秘密に当たるか)について。
()争点2-1(本件営業秘密2の有用性)について1
(原告の主張)
ア本件営業秘密2の内容は,別紙営業秘密目録2記載のとおりである。本
件営業秘密2は,本件営業秘密1を用いた直収電話サービスを現実に実現
するために制度上必要な情報である。他事業者がドライカッパーを利用し
て電気通信サービスを提供する場合,NTT加入者線がNTTの第一種指
定電気通信設備を構成していることから,電気通信事業法に基づき,NT
Tとの間でNTTの第一種指定電気通信設備と当該事業者の電気通信設備
との接続に関する協定を締結する必要がある。原告は,原告サービスを開
始するに当たり,NTTに対し,DSLサービスを前提としない新しいド
ライカッパー借用形態を申し入れたことから,NTTとの間で様々な事項
について交渉し,確認する必要が生じた。DSL事業者が提供していたA
DSLサービス,IP電話方式による直収電話サービスは,NTTによる
電話サービスと重畳して利用されていたため,NTT加入者線とNTTの
電話交換機との接続を完全に切断するものではなかった。したがって,N
TT加入者線とNTTの電話交換機との接続を完全に切断し,NTT加入
者線と原告が設置する装置とを接続する原告サービスを実施するために
は,新規開通に伴う事務処理・工事,番号ポータビリティの取扱い,切り
戻し(原状復帰・契約解除・回線調整・情報提供に関する事務処理,費)
用分担,業務フロー,タイムフレーム等,NTTと交渉して調整すべき事
項が数多く存在した。しかも,NTT自体が想定していなかった原告サー
ビスが一般化すると,NTTが提供するサービスの利用者数が減少するお
それがあり,NTTが当該形態に関しては非常に難色を示したため,原告
は,電気通信事業法に基づき,電気通信事業紛争処理委員会に対して,紛
争あっせんを申請したほどであった。
イ原告サービスの形態は,接続約款に規定されておらず,NTTに接続を
許可してもらうための交渉とともに,原告サービスを提供することにより
既存の公衆電話交換網やサービスに影響を与えないか否かを事前に調査す
る必要もあった。原告は,平成13年10月ころから実際の運用において
生じ得る問題点や課題,あるいはあらかじめNTTとの間で確認すべき事
,,。項を抽出した上でNTTと交渉するなどにより課題を解決していった
このような事前確認は,過去に前例がなく,多大な時間が必要となった。
また,原告は,原告の電気信号をドライカッパーに通すことにより,電気
信号同士の緩衝や過電流により,NTTの既存の設備やサービスに技術的
障害が発生しないかを慎重に検討した上で,社団法人情報通信技術委員会
による確認も受けたのである。
このように,他事業者は,制度上,NTTからドライカッパーを借用し
て電話サービスを提供しようとする場合,様々な調査,交渉を経る必要が
あり,それらを経ることにより,ようやくサービスの提供が実現できるも
のである。NTTとの交渉においては,NTTから確認事項などについて
具体的に提示されることはなかったから,原告が,あらゆる問題点及び解
,,,。決方法を自ら考案し交渉した上で合意に達し確認する必要があった
原告は,このような困難な交渉を通じて,制度上の各問題を克服し,よう
やく原告サービスを開始することができたのである。本件営業秘密2は,
このような過程を経て,案出されたものである。
なお,本件営業秘密2においては,全く新しい形態である他事業者によ
るドライカッパーを用いた直収電話サービス事業をNTTが認めていると
,。,いう事実自体が既に有用性を有しているものというべきであるさらに
原告が案出した各交渉事項等は,新しいドライカッパーの形態に合わせて
新たに創出された情報であって,前例としてのその有用性は極めて高いも
のである。しかも,各個別合意事項を知ることによって,他事業者は,N
TTと具体的な交渉に臨む以前から,前もって,NTTと交渉して合意す
べき事項を全部知ることができ,さらには,原告と他事業者との間におけ
る契約内容を知っていれば,当然NTTとの交渉を優位に進めることが可
能となるのであるから,その有用性は極めて高いものである。
ウ本件営業秘密2の具体的内容は以下のとおりである。
)相互接続協定変更書(NTT東日本)a
******************************
*******************************
*****************
)相互接続協定変更書(NTT西日本)b
******************************
***************************
)受付等事務処理確認事項(NTT東日本,第2版)c
******************************
*******************************
*******************************
*******************************
**********
)受付等事務処理確認事項(NTT西日本,第0.0版)d
******************************
*******************************
*******************************
*******************************
**********
)料金事務処理確認事項(NTT東日本,第1版)e
******************************
****************
)受付等事務処理確認事項(NTT東日本,第1版)f
*********
)保守確認事項(NTT東日本,第1版)g
******************************
************
エ被告らは,少なくとも他事業者により同様の接続が既に実施されている
場合,法令上,NTTは各事業者に公平な取扱いをする義務があるから,
NTTに対して接続を希望すれば,NTTから基本的に他事業者と同内容
の提案があるのが通常であるし,実際,被告日本テレコムがNTTに対し
てドライカッパーを利用した直収電話サービスを提供したい旨を申し入れ
た際には,NTTから具体的な協定案等の必要情報が提示されたのである
から,原告とNTTとの協定等の実質的な内容は非公知などではないし,
有用な情報でも何でもないなどと主張し,NTTからこれらの情報につい
て開示を受けた証拠として,電子メール(乙42~46)を提出する。
しかし,原告以外の他事業者が,NTTに対してドライカッパーを利用
した直収電話サービスを提供したい旨申し入れたからといって,NTTか
ら必要な情報が必ず提供されるものではない。確かに,被告らが書証とし
て提出した電子メールには,これらの情報がNTTから開示される旨の記
載があるが,当該メールはNTTと被告日本テレコムとの交渉過程におけ
,,,るいずれの段階のものか明らかではなくむしろ同被告がNTTに対し
本件営業秘密2を提示しつつ交渉を行った結果として,最終的に,NTT
がそれを踏まえて各案を提示したものと強く推測されるのであるから,他
事業者からの申入れに対して,NTTが必要な情報を提供したことの根拠
とはならない。また,電気通信事業法30条3項1号は「他の電気通信,
事業者の電気通信設備との接続の業務に関して知り得た当該他の電気通信
事業者及びその利用者に関する情報を当該業務の用に供する目的以外の目
的のために利用し,または提供すること」を禁止しており,NTTが被告
らに対し,原告との合意内容をそのまま提供したり,原告との合意内容に
基づいた必要情報を提供したとは想定し難い。
さらに,被告らは,相互接続協定変更書記載の各条件のほとんどは,公
,,表約款が準用されているかあるいは同約款に準拠しているのであるから
本件営業秘密2のほとんどは公表されている情報であり,有用性は存しな
いなどと主張する。しかし,公表約款のどの規定を準用し,又はどの規定
に準拠しているかは非公知であり,むしろ具体的な準用規定・準拠規定こ
そが重要な情報というべきである。したがって,被告らの主張は失当であ
る。
(被告らの主張)
ア本件営業秘密2も,その内容自体が不明確であるが,原告の主張を前提
としても,既にNTTにおいて公開されている接続条件等に従った結果程
度の内容にすぎず,他事業者でも同様に入手できた情報であるから,目新
しいことでも原告が独自に積み上げたノウハウなどでもなく,有用性を有
しない。そもそも,NTTがドライカッパーを用いた直収電話サービス事
業を認めている事実自体は,乙2文献においてNTTとの合意に基づいて
そのようなサービスを提供する業者が存在することが明らかにされている
以上,既に公知の事実である。なお,被告ソフトバンクは,原告から相互
接続協定書及び相互接続協定変更書については開示を受けていないし,口
頭で説明を受けてもいない。
イNTTは,法令(電気通信事業法)上,他事業者に対する不当な差別的
取扱いを禁止されているため,平成11年11月30日以降,接続約款の
ほか接続に関する極めて詳細にわたる事項を公開している。結局,他事業
者が,NTTに対し,直収電話サービスのみ又はISDNサービスの提供
を前提にドライカッパーの借受けを申請すれば,当該他事業者が,原告と
の協定等の内容を知っているか否かにかかわらず,NTTは,原告と同じ
条件の協定等を締結せざるを得ないのであり,そこに交渉の余地はない。
実際,被告日本テレコムが,NTTに対し,ドライカッパーを利用した直
収電話サービスを提供したい旨申し出たところ,NTTから具体的な協定
案等の必要情報が提示されている(乙42~46参照。NTTから提供)
された情報には,原告に関する情報は一切記載されていない。仮に,原告
との合意内容と同様の事項が記載されていたとしても,それはNTTが自
ら有する情報を自ら利用したにすぎない。したがって,原告がどのような
事項について交渉したかとか,どのような合意または確認をしたかという
情報,原告とNTTとの間の相互接続協定書そのほか事務処理確認事項が
何ら有用性を有しないことは明らかである。
ウ本件営業秘密2の一内容である原告とNTTとの協定及び事務処理確認
事項の条件のほとんどは,公表約款を準用ないし公表約款に準拠している
ものであるから,いずれも公表されていると評価し得るものである。協定
書と公表約款とが異なる条件を定めている事項のうち,重要な事項は1回
線ごとの月額料金が1690円であること程度であるが,そのことは乙2
文献にも明記されている。さらに,原告は,原告サービスが全く新しい形
態の電話サービスであることを前提として,NTTとの交渉における困難
性を強調し,協議事項自体が有用性のある情報であるなどと主張するが,
協議が困難であったか否かは情報の有用性には全く関係のない事実である
し,争点1で述べたとおり,原告サービスの借受け形態はいわゆる「ty
peⅡ」に属し,全く新しい借受け形態などではないから,原告の主張は
その前提において既に誤りである。
()争点2-2(本件営業秘密2の非公知性)について2
(原告の主張)
ア原告が,NTT東日本及びNTT西日本との間で各締結した相互接続協
,()定変更書は改正前の電気通信事業法38条の2第7項現33条10項
に基づくものであるため,認可接続約款等とは異なり公表されていない。
また,受付等事務処理確認事項などは,いずれも公表されておらず,原告
からの申入れに応じて,NTT東日本及びNTT西日本も,上記各書面の
内容を原告以外の他事業者に開示しない旨了解している。なお,先に述べ
たとおり,NTTは,特定の電気通信事業者に対し,不当な差別的取扱い
をすることを禁止されているものの,このような行政法上の義務が存する
からといって,原告との協定の内容が公知となるものではない。したがっ
て,本件営業秘密2は非公知性を有する。
イ先に述べたとおり,電気通信事業法30条3項1号により,NTTが被
告らに対し,原告との合意内容をそのまま提供したり,原告との合意内容
,,に基づいた必要情報を提供したりしたとは考えにくいのであるから仮に
被告日本テレコムがNTTに対してドライカッパーを利用した直収電話サ
ービスを提供したい旨申し入れた際にNTTが必要な情報を提供したとし
ても,それにより本件営業秘密2の非公知性が失われるものではない。
(被告らの主張)
争点2-1において述べたとおり,本件営業秘密2は,公開されている接
続条件にしたがった結果程度を意味するにすぎず,原告以外の他事業者でも
容易に取得することが可能な情報であるから,非公知性を有しない。
()争点2-3(本件営業秘密2の秘密管理性)について3
(原告の主張)
ア本件営業秘密2は,原告の代表取締役,一部の取締役,NTTとの相互
接続に関する担当上級管理職従業員や交渉担当者が知るのみであり,各人
には機密に取り扱わなければならない旨の指示が出されている。また,本
件営業秘密2のすべてが物的媒体に固定されているわけではないため,む
しろ外部への漏洩が防止されている。
イ本件営業秘密2を含む相互接続協定変更書その他種々の相互接続協定書
及び確認事項を記載した合意書,NTT東日本及びNTT西日本との交渉
経過等の記録文書は,すべて原告福岡本部13階の企画推進部(現在は建
設計画部)の施錠キャビネットにおいて管理されており,物理的なアクセ
ス制限が施されている。したがって,本件営業秘密2は,秘密管理性を有
するものというべきである。
よって,本件営業秘密2は,不正競争防止法における営業秘密に該当す
るというべきである。
(被告らの主張)
争点1-3において述べたとおり,原告がいかに秘密管理規程を定めてい
たとしても,それらが本件営業秘密2において実行されていなければ秘密管
理性を認めることはできない。原告が本件営業秘密2に含まれると主張する
文書には,秘密である旨の表示がされていない。したがって,本件営業秘密
2は,秘密管理性を有しないというべきである。
よって,本件営業秘密2は,不正競争防止法における営業秘密に該当しな
い。
3争点3(本件営業秘密3は営業秘密に当たるか)について。
()争点3-1(本件営業秘密3の有用性)について1
(原告の主張)
ア本件営業秘密3の内容は,別紙営業秘密目録3記載のとおりである。
本件営業秘密3は,本件営業秘密1を用いた直収電話サービスにおいて
必要な機器の内容及びメーカーに関する情報である。
本件営業秘密1を用いた直収電話サービスを実現するためには,①NT
Tの提供する電話サービスと競争力を有するのみならず,利用者の利用形
態を満足する機能と品質を備え,②電気通信事業法その他の国内法規制に
適合し,③NTTローカルの通信網の特性に合致し,既設の通信設備に誤
作動を及ぼさない能力を有するLS交換機が必要である。原告サービスの
提供開始までは,本件営業秘密1を用いた直収電話サービスを実施する通
信事業者は存在しなかったから,当然,同サービスに適合するだけの処理
能力と機能を有するLS交換機は存在しなかった。そこで,原告は,NE
Cに秘密裏に打診し,NECと共同で,新たに,本件営業秘密1を使用し
た直収電話サービスに適合する処理能力と機能を有したLS交換機NEA
X61ΣJを共同開発した(原告とNEC自体との通信設備取引基本契約
〔「」。〕。,,書以下本件NEC基本契約という14条参照なお同契約は
本件訴訟提起後に締結されたものであるが,LS交換機の共同開発開始当
初から,原告とNECは同契約と同様の内容において合意していたもので
ある。これまでにも,NEAX61ΣJという名称の機器は存在した。)
が,それは原告サービスに適合する能力を有するものではなく,また,そ
の実績もなかったものである(以下,原告サービスにおいて導入されてい
るLS交換機NEAX61ΣJを「本件交換機」といい,従前存在して,
いた機種を総称して,NEAX61ΣJシリーズという。。)
したがって,国内において,NTT加入者線を利用した回線交換方式に
よる直収電話サービスに対応したLS交換機を開発できるメーカーは,N
EC以外にないのであり,原告がいかなる取引先と上記の各装置の開発に
取り組んでいるかは,競業者にとっても有用な情報であることは明らかで
ある。本件営業秘密3は,原告サービスを現実のビジネスとして実現する
ために必要不可欠な情報であり,有用性を有することは明らかである。
イ被告らは,国内サービス向けのLS交換機と海外サービス向けのLS交
換機は異ならないなどと主張するとともに,NEAX61ΣJシリーズに
ついて,豊富な接続実績がある旨明記された文書(乙19。以下「乙1,
9文献」という)の存在を指摘する。しかし,乙19文献に記載されて。
いる接続実績は,本件営業秘密1を用いた直収電話サービスに関するもの
ではないし,国内向けと海外向けのLS交換機は全く異なる製品であるか
ら,被告らの主張は失当である。
(被告らの主張)
NECがNEAX61ΣJシリーズ(Σ」はバージョンを「J」は国「,
内向けであることをそれぞれ表す)を製造していることは,既に公然と知。
られており,事業活動に有用な情報ではない。NECは,古くから,他3社
と並ぶ大手国内電話交換機メーカーであり,電話サービス用の各種交換機の
国内シェアの約50ないし60%パーセントを占めるといわれていること
も,周知の事実である。
NECは,LS交換機「NEAX61」を,昭和52年10月ころに発表
している。ITJも,平成3年ころには,被告日本テレコムも,平成8年こ
ろには,海外向けLS交換機「NEAX61」を導入している。さらに,被
,,告日本テレコムは国内向けNEAX61ΣJシリーズを導入するに当たり
平成12年8月11日には,NECから「NEAX61ΣJ-LSは国内,
複数のキャリアで採用され,現在稼働中の交換機です」との説明を受けて。
おり,遅くとも平成12年8月11日までには,NEAX61ΣJシリーズ
は,国内複数のキャリアで採用され,稼働中であった。しかも,被告ソフト
バンクは,平成16年2月19日時点で,被告日本テレコムの買収(同買収
プロジェクトは,被告ソフトバンク及びソフトバンクBBにおいて「スパ,
イダープロジェクト」と呼ばれていた)を検討するに当たり,LS交換機。
NEAX61ΣJシリーズを採用することを独自に検討していた。この時点
では,被告ソフトバンクは,原告と接触していないばかりか,被告日本テレ
コムに対する本件調査も開始していなかった。被告ソフトバンクは,平成1
6年4月20日の時点でユーティースターコムジャパン株式会社以下U,(「
Tスターコム」という)から,直収電話サービスに使用する機器等の紹介。
を受けているが,その紹介書面には,LS交換機の接続例と「NEAX61
Σ」が候補として掲げられ,接続実績があることが記載されていたから,U
Tスターコムも,独自にNEC製LS交換機NEAX61ΣJシリーズの採
用を念頭に置いていたのである。原告は,海外向けLS交換機と国内向けL
S交換機が全く異なるものであるかのように主張するが,両者には大きな相
違点は存在しない。したがって,ドライカッパーを利用した直収電話サービ
スに使用できるLS交換機がNECから調達可能であることは公知の事実で
あり,何ら有用な情報ではなかったというべきである。
()争点3-2(本件営業秘密3の非公知性)について2
(原告の主張)
ア先に述べたとおり,原告はNECと共同して秘密裏に本件交換機を開発
,。したものであるから本件営業秘密3が非公知であることは明らかである
さらに,本件NEC基本契約21条において,原告及びNEC双方に秘密
保持義務が課されていることからも非公知性は明白である。実際,被告ら
が提出する書証(乙13~19)には,NECがLS交換機を販売してい
る事実についての記載はあるが,本件営業秘密1を使用した直収電話サー
ビスに適合するだけの処理能力と機能を有したLS交換機に関する記述は
一切存在しない。公表されているのは,いずれも海外向け製品に関する情
報であったり,特定の企業による限定的な利用形態のみに対応した専用線
を利用した電話サービス用機種に関する情報にすぎない。
イ被告らは,被告日本テレコムは,以前からNEAX61ΣJシリーズを
使用していたと主張する。しかし,それは,LS交換機ではなく,あくま
でも中継交換機として使用されていたにすぎず,本件営業秘密1を用いた
直収電話サービスに使用される本件交換機とは同一機種名の異質な交換機
である。
(被告らの主張)
ア争点3-1で述べたとおり,本件営業秘密3は,遅くとも本件調査以前
において公知であったというべきである。実際に,日本テレコムは,以前
からNEAX61ΣJシリーズを使用していたのである。
イNECが本件交換機を製造可能となった事実は,原告のみが保有する情
報ではなく,NECも保有する情報である。本件NEC基本契約21条に
より守秘義務が課されるのは「相手方」の情報であり,NECにおいて,
製造可能になったというNEC自身の情報にまで守秘義務が課されるもの
ではない。
()争点3-3(本件営業秘密3の秘密管理性)について3
(原告の主張)
ア本件営業秘密3は,原告の代表取締役,技術担当役員,技術系上級管理
職従業員が知るのみであり,各人には機密に取り扱わなければならない旨
の指示が出されていた。また,原告の代表取締役は,NECに対して,本
件営業秘密3に該当する情報を他事業者に開示しないように依頼してい
る。
イ本件営業秘密3に関する各文書のうち,原告の秘密情報である旨が明記
されているものもある(甲3。また,そのほかの文書の中にも,原告福)
岡本部13階の経理部の施錠キャビネットにおいて管理しており,物理的
。,,アクセス制限が施されているものもあるしたがって本件営業秘密3は
秘密管理性を有する。
よって,本件営業秘密3は,不正競争防止法における営業秘密に該当す
る。
(被告らの主張)
争点1-3において述べたとおり,原告がいかに秘密管理規程を定めてい
たとしても,それらが本件営業秘密3において実行されていなければ秘密管
理性を認めることはできない。原告が本件営業秘密3に含まれると主張する
各文書には,秘密である旨の表示がされていない。したがって,本件営業秘
密3は,秘密管理性をも有しない。
よって,本件営業秘密3は,不正競争防止法における営業秘密に該当しな
い。
4争点4(本件営業秘密4は営業秘密に当たるか)について。
()争点4-1(本件営業秘密4の有用性及びその帰属主体)について1
(原告の主張)
ア本件営業秘密4の内容と有用性
本件営業秘密4の内容は,別紙営業秘密目録4記載のとおりである。す
なわち,本件営業秘密4①は,原告サービスにおける本件交換機の位置付
け及び機器構成であり,本件営業秘密4②は,原告サービスに適合させる
ための本件交換機の仕様変更の内容(その前提である課題内容自体も含
む)である。。
本件営業秘密4は,本件営業秘密1を用いた直収電話サービスにおいて
必要な機器の内容,意義,機能,利点,他の機器との接続方法,機器構成
及び仕様変更に関する情報であって,本件営業秘密1を用いた直収電話サ
ービスを現実のビジネスとして実現するために技術上必要な情報であるか
ら,極めて有用性の高い情報であることは明らかである。特に,本件交換
機は,加入者宅からのドライカッパーを通った音声信号を,RT装置等を
経由することによって直接収容するものであって,まさに本件営業秘密1
を用いた直収電話サービスの根幹をなす装置である。本件営業秘密4によ
,,って①本件交換機を具体的にどのように他の機器と接続すればよいのか
ソフトウェア等の機器構成はどのようなものか,②具体的に直収電話サー
ビスに使用するために克服すべき課題はどのようなものか,また,その課
題に対する対応結果である仕様変更の内容はどのようなものかなどについ
て現実に知ることができるものである。
イ本件営業秘密4①の有用性
)本件営業秘密4①の本件交換機の位置付け及び機器構成は,本件営業a
秘密1を用いた直収電話サービスにおける同交換機の意義,機能,利点
及び他の機器との接続に関する事項である。特に,原告サービスでは,
比較的コストの安いRT装置を使用することにより,コストが高いLS
交換機設置数を減少させることができるため,総設備投資額を抑えるこ
とが可能となるなどの利点がある。したがって,LS交換機とRT装置
との接続に関する情報(基本的な接続原理のほか,具体的に,どこの拠
点ないし局舎に各装置を設置するかという情報も含む)は,本件営業。
秘密4①の「位置付け」のうち,特に重要な情報といえる。
)被告らは,本件営業秘密4①は,乙1文献,乙2文献などにより公知b
であるなどと主張する。しかし,本件営業秘密4①は,本件交換機が,
NTT加入者線であるドライカッパーを利用した回線交換方式による直
収電話サービスにおいて実際に運用されていることがその本質的要素で
ある。乙1文献及び乙2文献には,NEAX61ΣJといった具体的な
機器の名称が一切記載されていないなど,抽象的かつ概括的な記載にと
どまっており,これらによっては本件交換機の位置付けが公知になって
いるとはいえない。
ウ本件営業秘密4②の有用性
)本件営業秘密4②の仕様変更内容は,原告サービスに本件交換機を適a
合させる際の課題内容及びそれに対する対応結果である。従来,NTT
加入者線を利用した回線交換方式直収電話サービスは,NTTが電電公
社時代から独占していたため,他事業者は,当該サービスのノウハウを
有していなかった。しかも,NTTは,ハードウェアこそメーカーから
購入していたが,ソフトウェア(汎用ソフトウェアを除く)やその運用
・保守については独占していたため,NTTに対して電話網構築に必要
な装置・部品を納入しているメーカーも,電話網の構築・維持・管理に
必要な技術又はノウハウを有していなかった。原告は,海外向けのLS
交換機であったNEAX61ΣJシリーズを,国内対応させるように調
整したのみならず,コンディショニング,通信ネットワークへの接続の
同期調整といった技術上のノウハウも積み上げてきた。本件交換機の開
発においても,原告の指示に基づいて,仕様の作成その他様々な機能の
設定及び追加が行われ,全体的なアーキテクチャーを構築したのみなら
ず,より上位かつ高性能のCPUを搭載するなどの改良を加えることに
より,本件交換機をNECと共同開発し,原告サービスに導入したので
ある。
)本件営業秘密4②は,仕様変更結果だけではなく,その前提となる課b
題内容自体も含まれる。このような課題内容は,様々なシステム調整や
接続試験などを重ねる過程において初めて発見されるものである上,様
々な不具合のうち,本件営業秘密1を用いた直収電話サービスを実現す
るために必要な課題内容を特定して的確に把握する必要があり,誰でも
簡単に把握できるものではないから,それだけで有用性を有するもので
ある。いわゆるネガティブ・インフォメーションであっても,経済的に
重要な価値を持つ情報である限りは営業秘密となり,法的に保護される
べき情報であるというべきである。これらには,CPU等の交換による
能力強化及びそれに伴うソフトウェアの更新に関する情報も含まれる。
NECは,当初,原告サービスの実施においては,ハードウェアのバー
ジョンが「V2M」のLS交換機を導入すれば能力的に十分であるとし
た。しかし,実際に原告サービス提供開始後に生じた様々な問題点に対
応するためには「V3M」へのバージョンアップが必要であることが,
判明し,原告及びNECは,提供中のサービスに対する影響を最小限に
するための方策などについて,1年以上にもわたる検討を経て「V3,
M」化を実現した。なお,仕様変更内容は,同営業秘密目録4②記載の
ものに限らない。原告及びNECは,何度も協議を重ね,原告が具体的
仕様を確定し,NECに対して実装を指示するなどして,仕様変更等を
繰り返したのであって,特に項番5の付加機能に関する仕様変更は,極
めて多岐にわたる。原告が通信事業者として有するノウハウを十分活用
し,積極的かつ主体的にかかわっていたことは,原告とNECとの間の
電子メール(甲57~60)などからも明らかであり,被告らが主張す
るような,発注者として通常の指示を行っただけにとどまるものではな
い。本件営業秘密1を用いた直収電話サービスを考案したのは原告であ
って,その原告がNECに対して,LS交換機についての改修・改善指
示を技術的な観点から詳細に行い,原告の評価ノウハウ等をNECに提
供するとともに,具体的な仕様開示ないし提示を原告からNECに対し
て行っていたのであるから,本件営業秘密4②は,むしろ原告が保有す
る情報であるというべきである。
原告は,NECとの共同開発を通じて,これらの課題を一つ一つ発見
し,解決していった。これらの情報は,本件NEC基本契約上,原告と
NECが共有する「技術的成果(14条1項)にほかならない。被告」
らは,当初から大容量のLS交換機を導入すればすむかのように主張す
るが,原告サービスに適合するようなLS交換機は,およそ市場に存在
していなかったのであるから,被告らの主張は失当である。
)被告らは,本件営業秘密4②について,これらの仕様変更は通常のイc
ンテグレーション(統合)作業にすぎないし,NECが行った仕様変更
等については,原告ではなくNECが有する情報であり,守秘義務を負
わないなどと主張する。しかし,原告が,長時間かけて必要な接続試験
等を繰り返し実施したことは先に述べたとおりであって,通常のインテ
グレーション作業にすぎないものではないし,原告とNECが共同で行
った仕様変更等について,NECが秘密保持義務を負うことは明らかで
ある。
(被告らの主張)
ア本件営業秘密4①の有用性
本件営業秘密4①の内容自体が,不明確ではあるが,いずれにせよ,既
に公然と知られており,事業活動に有用な情報ではない。争点3において
述べたとおり,そもそもNEAX61ΣJシリーズは,国内複数のキャリ
アで採用され,稼働中であったから,既に公然と知られており,その位置
付け自体は事業活動に有用な情報などではない。乙1文献及び乙2文献に
は,機種名こそ明記されていないが,原告サービスにおけるLS交換機の
「位置付け」自体も記載されていたし,UTスターコムからの紹介文書に
も,LS交換機の位置付けは記載されていたのである。しかも,原告と被
告日本テレコムでは,ネットワーク構成や顧客数,トラフィック量等が全
く異なるのであるから,本件交換機の具体的な機器構成などは,全く参考
にならないものであるし,通信事業者にとって,原告が本件交換機にいか
なる機器を追加して使用しているかという情報には何ら有用性がないとい
うほかない。
イ本件営業秘密4②の有用性
)本件営業秘密4②のうち,CPUを改良(換装)した事実などは,単a
に,原告の購入したLS交換機の容量が少なかったために,当初登載さ
れていたCPUが能力の低いものだったことを意味するにすぎず,最初
からより大容量のLS交換機を購入すればよかったのであるから,およ
そ有用性を有しない。電気通信事業者は,LS交換機の製造委託をする
場合,要求仕様書を提示し,メーカーがそれに基づいて製造し,接続試
験において不具合が判明した場合には,メーカーとの協議により解決す
,,るものであるからLS交換機の仕様変更を行い機能を追加したことは
(),通常のいわゆるインテグレーション統合作業と呼ばれているものか
製造委託者として当然にすべき指示というべきものにすぎず,原告の主
張するような共同開発の実態などはない。また,被告日本テレコムは,
「NTTと同様の機能を追加するための仕様を確定」したこともない。
同被告は,接続条件に関する詳細事項としてNTTによる情報開示によ
って公知となっていた情報に従っただけであるから,新たに仕様確定す
る必要があるものではない。したがって,これらまで「営業秘密」に含
まれるものではないことも明らかである。
なお,原告は,ネガティブ・インフォメーションも有用な情報たり得
ることを根拠に,本件営業秘密4②の課題内容自体も有用性を有するな
どと主張する。しかし,開発された製品の購入者にとって,開発過程の
失敗に関する情報などは無用であるというほかなく,何ら有用性がない
ことは明らかである。
)製造委託契約においては,対象物の運用・保守等に関して生じるノウb
ハウを含む知的財産権は,製造・運用・保守を行う受託製造業者に帰属
するのが通常であって,委託者に帰属するとされることは異例である。
本件NEC基本契約は,単なる製造委託契約であり,原告はNECに
対してLS交換機の製造を委託し,NECがその委託にしたがって本件
交換機を製造しただけであるから,原告がNECと本件交換機を共同開
発したものではない。同契約14条は,単に原告及びNECが共同でし
た発明等があれば,その知的財産権は原告及びNECの共有であること
を定めているにすぎず,当該条項の存在をもって,共同開発の合意がさ
れたものと解することはできない。また,当該契約書自体も,本件訴訟
提起後に作成されたものである。国内向けサービスへの対応も,NEC
が公表されている国内仕様に対応させる作業を行ったものにすぎないと
いうべきである。海外向けの機器を国内向けサービスにおいて使用する
場合,適合作業が行われることはむしろ当然であって,当然行われるべ
き作業を,製造メーカーであるNECが行ったことが,原告による開発
と評価されるはずがない。元来,NEAX61ΣJシリーズは,限定的
な利用を目的として製造されたものではなく,インターフェースを切り
替えることにより,加入者用,国内長距離中継用,国際中継用等,一般
家庭を含む多種多様な利用形態にも対応していた。本件交換機も,他の
NEAX61ΣJシリーズも「Generic」という基本ソフトウ,
。,,ェアを用いているという点においては同一である仮に本件交換機が
NEAX61ΣJシリーズと全く異なるものであれば,別の製品名が付
けられているはずである。もちろん,原告サービスに適合するように,
周辺のソフトウェアは従来のものと異なる点もあるかもしれない。しか
し,原告の主張からはその内容は不明であるし,被告サービスにおいて
使用されているLS交換機は,周辺のソフトウェアには改変が加えられ
Synchronousており,本件交換機とは異なり,いわゆる「STM(」
」(),TranceportModule乙38参照にも対応可能であることからしても
被告日本テレコムが採用したLS交換機は,本件交換機とは全く異なる
機種というべきである。さらに,原告は,各種バージョンアップを行っ
たことが共同開発の内容であると主張するとともに,本件交換機が国内
唯一であるとも主張するが,そもそも当初からバージョンアップされた
製品を購入すれば,あえてバージョンアップを行う必要はなかったので
あるし,本件交換機は,ヨーロッパの標準化団体が定める標準に準拠す
る一般的なインターフェースを搭載する機種であり,同様のインターフ
ェースを搭載した流用可能な機種をNECが従前から海外向けに製造販
売していたことは公知である。
)原告は,本件NEC基本契約において,本件営業秘密4②は「技術的c
成果(14条1項)に該当すると主張する。しかし,単なる不具合の」
解消が仮に「技術的成果」に含まれるとしても,同契約上,当該「技術
的成果」は,NECが被告日本テレコムを含む第三者に自由に使用許諾
することができるものとされている(15条1項。しかも,NECか)
ら被告日本テレコムに原告とNECが共有する「技術的成果」が存在す
る旨の説明は一切なかったのであるから,少なくともNECは原告と共
有する技術的成果が存在するという認識はなかったというほかない。
ウ以上によると,本件営業秘密4①は,遅くとも本件調査開始時点におい
ては既に有用性を有していなかったというべきであるし,本件営業秘密4
②は,NECに帰属するものであり,そもそも原告に帰属すべきものでは
ない。
()争点4-2(本件営業秘密4の非公知性)について2
(原告の主張)
ア本件営業秘密4①は,いまだに公知になっているとはいえず,当該情報
が記載された書面が一般に公開ないし公刊されているという事実もない。
また,本件営業秘密4②について原告及びNECの双方に秘密保持義務が
課されていることからも非公知性は明白である。
イ原告及びNECは,秘密裏に本件交換機を共同開発したものであり,か
,,つこのような具体的な機器に関する詳細な情報である本件営業秘密②は
高度な技術情報であり極めて価値が高いことから,原告とNECしか知ら
ない情報であって,全く公開されていないものである。
(被告らの主張)
争点4-1で述べたとおり,本件営業秘密4①は,遅くとも本件調査以前
において公知であったというべきである。
()争点4-3(本件営業秘密4の秘密管理性)について3
(原告の主張)
ア原告とNECは,共同して,本件営業秘密1を用いた直収電話サービス
に適合する処理能力及び機能を有する本件交換機を新たに開発したもので
あり,本件営業秘密4は,原告とNECとの共同開発による技術的成果で
ある。これらの技術的成果は,本件NEC基本契約14条1項により,原
告とNECの共有となる。
イ本件営業秘密4は,原告の代表取締役,技術担当役員,技術系上級管理
職従業員が知るのみであり,いずれも各人には機密に取り扱わなければな
らない旨の指示が出されていた。また,本件営業秘密4のすべてが物的媒
体に固定されているわけではないことから,外部への漏洩が防止されてい
る。また,本件営業秘密4に関する文書のうち,原告の秘密情報である旨
が明記されていたり,電子データに対するアクセス制限が施されているも
のも存する。
,,,,,原告はNECとの間で当初から本件交換機の位置付け機器構成
システム調整,接続試験その他調整試験等の過程において生じた課題の内
容及びそれに対する対応結果(仕様変更)の内容等に関し,原告及びNE
C双方が秘密保持義務を負う旨の合意をしていた。
したがって,本件営業秘密4は秘密管理性を有するというべきである。
よって,本件営業秘密4は,不正競争防止法における営業秘密に該当す
るというべきである。
(被告らの主張)
ア争点1-3で述べたとおり,原告がいかに秘密管理規程を定めていたと
しても,それらが本件営業秘密4において実行されていなければ秘密管理
性を認めることはできない。
イ原告は,NECに対し,本件営業秘密4は原告だけが有する営業秘密で
ある旨説明しているなどと主張する。しかし,仮に仕様変更等が原告だけ
が有する営業秘密であったならば,原告としては当然NECとの間で秘密
保持契約を締結した上でこれを開示するはずである。原告は,当初,信義
則上の秘密保持義務を根拠に本件営業秘密4が秘密管理性を有すると主張
していたものの,その後,本訴提起後に締結された本件NEC基本契約に
基づいて,NECが守秘義務を負担するなどと主張を変遷させた。主張の
変遷に合理性が見られないことをさておくとしても,当該契約書において
も,仕様変更等の「ノウハウ」について,NECが秘密保持義務を負担す
るような条項は存しない。
したがって,本件営業秘密4は,秘密管理性を有しないというべきであ
る。
よって,本件営業秘密4は,不正競争防止法における営業秘密に該当し
ない。
5争点5(本件営業秘密5は営業秘密に当たるか)について。
()争点5-1(本件営業秘密5の有用性及びその帰属主体)について1
(原告の主張)
ア本件営業秘密5の内容と有用性
本件営業秘密5の内容は,別紙営業秘密目録5記載のとおりである。す
なわち,本件営業秘密5①は,原告サービスにおけるRT装置(遠隔多重
加入者線伝送装置「(以下,原告サービスにより使用されて)」AnyMedia
いる同装置を「本件RT装置」という。また,ルーセントが製造販売す,
る同種シリーズを総称して「シリーズ」という)の位置付け,。AnyMedia
及び機器構成であり,本件営業秘密②は,原告サービスに適合させるため
(。)の本件RT装置の仕様変更の内容その前提である課題内容自体も含む
である。
本件営業秘密5は,本件営業秘密1を用いた直収電話サービスにおいて
必要な機器の内容,意義,機能,利点,他の機器との接続方法,機器構成
及び仕様変更(その前提である課題内容自体も含む)に関する情報であ。
って,本件営業秘密4と同様,本件営業秘密1を用いた直収電話サービス
を現実のビジネスとして実現するために技術上必要な情報であるから,極
めて有用性の高い情報であることは明らかである。しかも,原告による改
,,,良仕様変更等がなければ本件RT装置が完成しなかったのであるから
本件営業秘密5は,特に有益な情報である。
イ本件営業秘密5①の有用性
)本件営業秘密5①における本件RT装置の位置付けは,本件営業秘密a
1を用いた直収電話サービスにおける本件RT装置の意義,機能,利点
。,及び他の機器との接続に関する事項である本件RT装置の採用により
設備投資額を抑えることができるのであるから,本件RT装置の意義,
機能及び利点,LS交換機と本件RT装置との接続に関する情報(具体
,。)的にどこの拠点ないし局舎に各装置を設置するかという情報も含む
は,特に重要な情報である。シリーズは,本来,海外サービAnyMedia
ス向けのRT装置であり,そのままでは国内の電話サービスに利用でき
なかったものの,国内向け仕様のRT装置と比較して格段に安価であっ
た。もっとも,本件RT装置についても,LS交換機と同様に,NTT
との競争力を有する電話サービスを提供する能力を有し,国内法規制に
適合し,さらに既存のネットワークの障害とはならない能力を確保する
必要性があった。そこで,原告は,本件RT装置を国内でも利用できる
ように,その仕様変更等を含めルーセントに指示しながら改良を加えた
のみならず,同装置と本件交換機との接続に関する調整(コンディショ
ニング)を行った。特に,国内においては,諸外国には例のない細心導
体通信網が構築されているため,国内通信網に適合する装置として機器
構成を確立する必要性があったのである。乙1文献及び乙2文献におけ
る表面的な記載が,本件営業秘密5①の有用性を否定するものではない
ことは,本件営業秘密4①と同様である。
)被告日本テレコムは,被告サービス開始時点においては,本件RT装b
置を使用しておらず,同装置は追加機器として平成17年2月5日にN
TT局舎内に搬入したにすぎないと主張する。しかし,追加機器として
設置した理由までは明らかにされていないし,同被告が当初設置した装
(。「」。),置であるというAGW以下AGWというがAccessGateWay
被告らが主張するとおり本件RT装置より優れていたならば,本件RT
装置を追加設置する必要はない。結局,被告らが当初採用したUTスタ
ーコム製のAGWは信頼性が低く,必要な機能を具備していないなどの
理由により被告サービス開通に支障が生じたことから,これまでの十分
な実績があり信頼性の高い装置である本件RT装置を追加ないし増設機
器として設置せざるを得なくなったものと推測される。被告日本テレコ
ムが本件RT装置を設置した事実は,同装置が本件営業秘密1を用いた
直収電話サービスを実現するための必要な機器であること,すなわち本
件営業秘密5①の有用性を裏付けるものといえる。
ウ本件営業秘密5②の有用性
)本件営業秘密5②の仕様変更内容は,原告サービスに本件RT装置をa
適合させる際の課題内容及びそれに対する対応結果である。原告は,こ
れまで電話通信事業者として有していたノウハウを活用して,ルーセン
トに対して具体的な仕様を開示し,改修・改良の指示を出し,本件RT
装置を共同開発したものであるから,当該サービスに適合させるための
仕様変更の内容(その前提である課題内容も含む)である本件営業秘。
密5②は,原告が保有する情報である。また,原告は,試験,仕様変更
等を繰り返し行っており,その内容も多岐にわたっている。これらはす
べて,本件営業秘密5②に該当するものである。なお,本件営業秘密4
②と同様に,仕様変更の前提となる課題内容自体も,それだけで有用性
を有するものというべきである。
)被告らは,ダイヤルパルス方式の追加変更指示は通常の指示にすぎなb
いなどと主張し,本件営業秘密5②はノウハウとは呼べないなどと主張
する。しかし,ダイヤルパルス方式の追加変更は,原告による仕様変更
において最も重要なものであって,通常の指示などといえるものではな
い。
)被告らは,被告日本テレコムが採用したRT装置は,原告が採用したc
本件RT装置とは異なるなどとも主張する。しかし,被告日本テレコム
が採用したRT装置は,本件RT装置と実質的には同一であるから,む
しろ本件営業秘密5②の内容である仕様変更結果が,原告からルーセン
トを経由して被告日本テレコムに開示され,被告日本テレコムがそれを
使用していることを端的に示しているといえる。
(被告らの主張)
ア本件営業秘密5①の有用性
)本件営業秘密5の内容自体,不明確であるが,いずれにせよ,既に公a
,。,,然と知られており事業活動に有用な情報ではないしかもそもそも
被告サービスにおいては,本件RT装置を使用していない。原告は,本
件RT装置が,ドライカッパーを利用した直収電話サービスを実現する
。,,ために必要な装置であるなどと主張するしかし被告日本テレコムは
AGWを使用して被告サービスを提供していることからしても,原告の
Any主張はその前提を欠くものである被告が追加設置したRT装置は。,
シリーズに属するものではあるが,本件RT装置とは異なるものMedia
である。
)乙1文献及び乙2文献により,原告サービスにおける本件RT装置のb
位置付け,すなわち,RT装置を使用することによりLS交換機の設置
を少なくでき,設備投資額を抑えることができるという情報や,RT装
置をNTT-GC局に設置することも明らかとなっており,原告がRT
装置の位置付けとして主張する情報は遅くとも平成15年12月には公
知となっていたものであるから,有用な情報でもなかったことは明らか
である。原告は,これらには表面的な記載しかされていないなどと主張
する。しかし,乙2文献には,本件RT装置の位置付けに加え,写真や
価格まで掲載されているのであるから,当業者からすれば,本件RT装
置の位置付けは容易に判明する事実である。また,乙19文献にも,R
T装置の接続例と,同装置の調達先候補としてルーセントが掲げられ,
接続実績があることが記載されていた。そのほか,RT装置の機器構成
などは,ルーセントのウェブページにおいて公開されている公知情報で
ある。
イ本件営業秘密5②の有用性
)本件営業秘密5②のうち,運用・保守に関するノウハウとされる事項a
も,ダイヤルパルス方式への変更指示などというおよそノウハウと呼べ
るようなものではないものや,通常行われる仕様変更にすぎない事項で
あるから,それらが営業秘密としての有用性を有しないことは明らかで
ある。システム調整,接続試験その他調整試験等の過程において生じた
課題内容及びその対応結果等も,原告がNTTの技術参考資料等にした
がってNTT仕様に適合するように指示したものや,機器保守上の利便
性確保のために機能を追加したものであったりするなど,当然解決しな
ければならない事項について,いずれも通常のインテグレーション試験
の結果,判明した不具合をルーセントが解消したにすぎない。
)争点4において述べたとおり,製造委託契約においては,対象物の運b
用・保守等に関して生じるノウハウを含む知的財産権が委託者に帰属
するとされることは極めて稀である。原告は,原告とルーセントとの
間において本件RT装置の運用・保守等に関して生じるノウハウを含
む知的財産権が原告に帰属するとの合意がされた事実を何ら主張して
いない。また,被告らは,ルーセントから,RT装置について原告の
営業秘密が関係する旨の指摘は一切されていない。これらがルーセン
トと原告との共同開発における技術的成果に該当しないことは,NE
Cについて述べたとおりである。
ウ以上のとおり,本件営業秘密5も,遅くとも本件調査開始時点では,既
に,有用性を有しないというべきである。
()争点5-2(本件営業秘密2の非公知性)について2
(原告の主張)
ア本件営業秘密5①に関する情報は,いまだに公知となっているものでは
なく,具体的に記載されている書面が一般に公開ないし公刊されていると
いう事実もない。
イ原告とルーセントは,秘密裏に本件営業秘密1を用いた直収電話サービ
スに適合する本件RT装置を共同開発したものであり,かつ,このような
具体的機器に関する詳細な情報は,高度な技術情報であり極めて価値が高
いことから,原告とルーセントしか知らない事実であって,全く公開され
ていないものである。
ウ被告らは,乙1文献,乙2文献,乙19文献などにより,本件営業秘密
5①は公知であるなどと主張する。しかし,本件営業秘密4について述べ
たとおり,抽象的かつ概括的なこれら各文献により,本件営業秘密5①の
非公知性が失われるものではない。
(被告らの主張)
争点5-1において述べたとおり,本件営業秘密5は,本件調査時点で,
既に公知の情報であったものというべきである。
()争点5-3(本件営業秘密5の秘密管理性)について3
(原告の主張)
ア本件営業秘密5は,原告の代表取締役,技術担当役員,技術系上級管理
職従業員が知るのみであり,いずれも各人には機密に取り扱わなければな
らない旨の指示が出されていた。また,本件営業秘密5のすべてが物的媒
体に固定されているわけではないことから,むしろ外部への漏洩が防止さ
れている。本件営業秘密5に関する文書などのうち,秘密である旨が明示
されていたり,アクセス制限がされていたものもあることは,本件営業秘
密4において述べたとおりである。
イ原告は,書面化はされていないが,ルーセントとの間で,当初から,本
件RT装置の位置付け,機器構成,システム調整,接続試験その他調整試
験等の過程において生じた課題の内容及びそれらに対する対応結果(仕様
変更)の内容等に関し,原告及びルーセント双方が秘密保持義務を負う旨
。,の合意をしていた原告とルーセントが共同開発した機器に関する情報が
秘密保持義務の対象となることは明らかである。したがって,本件営業秘
密5は,秘密管理性を有するものというべきである。
ウ被告らは,原告からソフトバンクBBに対して送付された一部書類にパ
スワードによる保護が施されていなかったことをもって,原告における秘
密管理は徹底していなかったなどと主張する。しかし,原告における秘密
管理方法は,個別の電子ファイルごとに個別のパスワードを設定している
のではなく,データ保存場所に対するアクセスに対してパスワードを設定
しているものであるから,個別の電子ファイルにパスワードが設定されて
いないのはむしろ当然である。原告は,被告ソフトバンクやソフトバンク
BBが,本件秘密保持契約に基づく秘密保持を徹底するものと信頼して,
パスワードを付さずに本件各営業秘密を開示したのである。
エよって,本件営業秘密5は,秘密管理性を有し,不正競争防止法におけ
る営業秘密に該当するというべきである。
(被告らの主張)
ア争点1-3で述べたとおり,原告がいかに秘密管理規程を定めていたと
しても,それらが本件営業秘密5において実行されていなければ秘密管理
性を認めることはできない。本件調査において,原告が本件営業秘密5に
含まれるという情報が原告からソフトバンクBBに対して電子メールによ
り送信されたが,パスワードによる保護は施されていなかった。
イ原告は,ルーセントに対し,本件営業秘密5は原告だけが有する営業秘
密である旨説明しているなどと主張する。しかし,仮に仕様変更等が原告
だけが有する営業秘密であったならば,原告としては当然ルーセントとの
間で秘密保持契約を締結した上で開示するはずであるにもかかわらず,原
告は,当初,信義則上の秘密保持義務を根拠とする主張をし,その後,ル
ーセントとの間にも,NECと同様の合意が成立していたなどと,不合理
に主張を変遷させており,いずれにせよルーセントが秘密保持義務を負担
していたものと解することはできない。また,仮に,NECと同様の合意
がされていたとしても,ルーセントが秘密保持義務を負うのは相手方の情
報であって,RT装置の仕様変更等のノウハウは含まれない。
したがって,本件営業秘密5は,秘密管理性を有しないというべきであ
る。
6争点6(本件営業秘密6は営業秘密に当たるか)について。
()争点6-1(本件営業秘密6の有用性)について1
(原告の主張)
ア本件営業秘密6の内容は,別紙営業秘密目録6記載のとおり,原告サー
ビスの利用状況,収支状況,当該サービスを提供するために導入している
設備,機器,装置及び備品等に関する設置状況及び費用情報,その他直収
電話サービス事業の収益性・採算性の検討及び判断に有用な情報である。
従来,公衆電話交換網(PSTN:)PublicSwitchedTelephoneNetwork
における回線交換方式による固定電話サービスやISDNサービスはNT
Tが独占して提供していたため,他事業者がこれらの分野に進出した場合
,,の採算性や収益性は全く未知でありこれらの新事業を開始するためには
採算性や収益性が重要な検討課題であった。特に,NTTによる独占状態
において,新規顧客を獲得し,原告サービスを採算性のある事業として遂
行するためには,NTTと同等又はそれ以上のサービスを,NTTよりも
低額で提供することが不可欠であった。原告は,いかなる設備,機器や装
置を導入し,利用するかについて試行錯誤を重ねた結果,原告サービスを
実用化するに至ったのである。
イ本件営業秘密6には,原告サービスを実施するために必要な電気通信設
備をどのような機器構成にするかに関する情報も含まれる。どの商品をい
くつ組み合わせてネットワークを構築するか,その場合の費用はどの程度
かについては,決して公表されるものではなく,原告による試行錯誤の結
果により明らかとなった重要な情報である。そのほか,NTTの電話局に
他事業者が電気通信設備を設置するための設置場所の賃借料等(コロケー
ション・スペース費用,IP-VAN構築に必要な費用,電話網展開に)
要する費用,電話網の各ケーブルの区間,種別,芯数,利用開始日及び賃
借料等も,原告サービスと同様のサービスを提供していく上で極めて重要
な情報である。さらに,本件営業秘密6には,原告がNTT局舎に設置し
ている,本件RT装置に,どのようなパッケージがそれぞれ何枚Acemap
ずつ実装されているかを示す一覧表も含まれている。これらにより,全体
のネットワークの中で,各局の位置付けに応じて各局舎に設置する設備機
器をどのように構成すべきかが明らかになると共に,原告サービスのため
に各局舎に設置する設備機器の費用を見積もることができるのである。実
際,被告らは,本件調査において,の実装図やその価格についてAcemap
詳細に問い合わせをしており,被告らが主張するとおり,これらがいずれ
も汎用品の価格にすぎないのであれば,あえて問い合わせをする必要性は
存しない。このように,本件営業秘密6は,回線交換方式による直収電話
サービスの採算性を検討する上で,電気通信事業者にとって極めて有用な
情報である。
ウ被告らは,本件調査前の段階で,既に被告ソフトバンクは被告サービス
開始に必要な各種設備等を採用済みであったから,本件営業秘密6は同サ
ービスを開始するために有用な情報でなかったなどと主張する。
しかし,本件調査前における被告らの電話サービス構想は,被告サービ
スとは全く異なるものであって,被告らの主張はその前提を欠くものであ
る。被告らは,本件調査開始後,電話サービスの基本構想を回線交換方式
による直収電話サービスへと大きく変更したのであるから,本件営業秘密
6を利用して,新たに各種設備等の採用を決定したものと推認される。し
,,たがって被告日本テレコムが現在提供している被告サービスにとっても
本件営業秘密6が有用な情報であったことは明らかである。
(被告らの主張)
ア本件営業秘密6のうち,コロケーション・スペース費用やダークファイ
バなどに関する情報は,本件営業秘密2と同様,接続条件に関する詳細事
項として,NTTよりウェブページなどにおいて情報開示されており,公
知となっているものであるから,事業活動に有用な情報ではない。また,
,,被告ソフトバンクの子会社であるソフトバンクBB被告日本テレコムは
従前からADSLサービスを提供しており,NTT局舎(GC局)にDS
LAM等の設備をコロケーション契約に基づき設置していたから,コロケ
ーション・スペース費用,ダークファイバー費用等については熟知してい
た。さらに,電気通信事業者であれば,機器構成は独自に決定し得るので
あり,どのような機器構成にするかという情報に何ら有用性はない。現に
被告日本テレコムは,被告サービスの機器構成を独自に決定しており,原
告サービスにおいて使用されているDSLAMやを使用していなAceMap
い。
イ原告サービスの収益性などに関する情報であると原告が主張する情報に
しても,いわゆるマイラインと直収電話サービスをおおざっぱに比較した
表にすぎないものであったり,各通信事業者によって異なる収益構造を前
提としたものであるから,有用性を有しないことは明らかである。原告サ
ービスにおける番号利用状況も,独自に「0ABJ番号」を取得している
電気通信事業者にとっては何ら有用性がないものであるし,どの事業者が
どの番号を取得しているかについては,総務省のホームページにより把握
できる公知の情報にすぎない。
ウ争点9において詳述するとおり,被告サービスは,本件各営業秘密に何
ら依拠することなく,被告日本テレコムにおいて独自に開発したものであ
る。本件調査において,被告ソフトバンクが各装置の仕入れ価格に関する
,,情報について開示を受けたのは原告の固定資産台帳が不備であったため
各装置の資産価値を把握する必要が生じたためにすぎないし,コロケーシ
ョン等に関する情報について開示を受けたのは,買収価格の妥当性を評価
するために実際に稼働している接続状況を把握する必要があったからにす
。,,,ぎないそのほか本件営業秘密6にはDSLAMやAceMAPなど
汎用品の仕入れ価格が含まれている。しかし,被告日本テレコムは,これ
らの機器を被告サービスにおいて使用していないし,また,そもそも容易
に判明する汎用品の価格が営業秘密に該当するはずがない。
以上のとおり,本件営業秘密6の一部は既に公知であるし,いずれにせ
,。よ有用性がないのであるから営業秘密に当たらないことは明らかである
()争点6-2(本件営業秘密6の非公知性)について2
(原告の主張)
ア原告以外に,原告サービスと同様のサービスを提供していた電気通信事
業者はNTT以外には存在しなかったのであるから,原告が通信業界で初
めて原告サービスの採算性,収益性などについて算出し,検討したもので
あって,本件営業秘密6が非公知であることは明らかである。
イ被告らは,本件営業秘密6の一部は,NTTの情報開示により公知にな
っているなどと主張する。しかし,NTTのインターネットサイトなどに
おいて,これらの情報は開示されていない。また,コロケーション・スペ
ース費用等はNTTに対して所定の手続を経た上でなければ利用できない
情報であって,公知ではない。
さらに,被告らは,汎用品の仕入れ価格はメーカーに問い合わせれば容
易に知り得るものであるし,被告らは自前の光ファイバー網・基幹系ネッ
トワークを有していたのであるから,ネットワーク構成などについては公
知性を有しないなどと主張する。しかし,本件営業秘密6は,原告サービ
スと同様の直収電話サービスを提供するためにどの機器を採用し,どの程
度のコストが生じるかについての情報であるから,汎用品の価格を意味す
るものではないし,原告サービスと同様の直収電話サービスを提供するた
めにどの程度のコストが生じるかについては被告らも知らなかったのであ
るから,汎用品の価格が公開されていたからといって,非公知性が失われ
るものでもない。
(被告らの主張)
争点6-1で述べたとおり,本件営業秘密6は,汎用品の価格などに関す
る情報や,NTTから容易に入手できる情報などにすぎないのであるから,
本件調査時点で既に公知であったというべきである。
()争点6-3(本件営業秘密6の秘密管理性)について3
(原告の主張)
本件営業秘密6に関する文書の多くは,原告福岡本部13階の建設部,企
画推進部(現在は建設計画部,経理部において,それぞれパスワードや施)
錠キャビネットにより保護・管理されているのみならず,物理的なアクセス
制限も施されていた。
また,原告の一従業員が本件調査のために新たに作成し,同従業員が使用
するコンピュータ内にしか保存されていないものもある。保守運用のため全
役員及び従業員が閲覧可能な情報もあるが,閲覧には認証を要し,個々人の
アカウントごとの閲覧記録等が記録されるようになっているから,本件営業
秘密6の秘密管理性は明らかである。
よって,本件営業秘密6は,不正競争防止法における営業秘密に該当する
というべきである。
(被告らの主張)
争点1-3で述べたとおり,原告が秘密管理規程を定めていたからといっ
て,本件営業秘密6の秘密管理性が認められるものではない。原告が本件営
業秘密6に含まれると主張する各文書には,機密文書である旨の表示がされ
ていない。本件秘密保持契約も,一般のM&Aにおけるデュー・ディリジェ
ンスを行う際に通常締結される種類のものであり,本件営業秘密6が特に他
の営業秘密ではない情報と区別して秘密として厳重に管理されていたものと
は認められない。
したがって,本件営業秘密6に秘密管理性がないことも明らかである。
よって,本件営業秘密6は,不正競争防止法における営業秘密に該当しな
いというべきである。
7争点7(本件営業秘密7は営業秘密に当たるか)について。
()争点7-1(本件営業秘密7の有用性)について1
(原告の主張)
ア本件営業秘密7の内容は,別紙営業秘密目録7記載のとおり,原告のネ
ットワークアーキテクチャーに関する情報である。
本件営業秘密7は,原告サービスの全国ネットワーク構成を示したもの
である。具体的に,どの局舎とどの局舎をどのようなルートで,どのよう
なファイバーを使って接続するのか,どの局舎にどのような機器を設置す
るのかなどのネットワーク構成や,各ケーブルの起点及び終点,種別,芯
数,利用開始日並びに賃貸借料等を一覧表にしたものなども含まれる。
イ本件営業秘密7は,本件営業秘密1を用いた直収電話サービスにおける
具体的なネットワーク構成に関する情報であって,同サービスを現実のビ
ジネスとして実現するために技術上必要な情報であるから,極めて有用性
が高い。
,,被告らは自前の基幹系ネットワークを有している通信事業者にとって
本件営業秘密7には有用性がないなどと主張する。しかし,本件営業秘密
1を用いた直収電話サービスにおけるネットワーク構成と,従来の中継電
話サービスのネットワーク構成は異なるのであるから,他事業者が既存の
基幹系ネットワークを有していることは,本件営業秘密7の有用性を失わ
せるものではない。もちろん,他事業者は,本件営業秘密1を用いた直収
電話サービスを検討するに当たって,本件営業秘密7を参考にしながら,
自前のネットワーク構成を考案することになるから,その意味で,本件営
,,業秘密7と同一のネットワーク構成を採用しなくても本件営業秘密7は
なお有益な情報であるといえる。
(被告らの主張)
ア本件営業秘密7の内容自体も,不明確であるというほかないが,被告日
本テレコムは,大手電信電話会社として,平成13年時点で,総延長約1
万キロメートルに達する自前の国内光ファイバ網・基幹系ネットワークを
有していたし,他の大手新電電会社等の電気通信事業者もそれぞれ自前の
基幹系ネットワークを有しているのであるから,本件営業秘密7は,そも
そも事業活動に有用な情報とはいえない。
イ原告は,被告日本テレコムが有していたのは,直収電話サービスのネッ
トワークとは異なる中継電話サービスのネットワークであるから,本件営
業秘密7はなお有用性を有するなどと主張する。しかし,中継電話サービ
スか直収電話サービスかによりネットワークの構築方法に違いがあるわけ
ではないことは先に述べたとおりであって,自前のネットワークを有する
被告日本テレコムや他の電気通信事業者は,ネットワークの構築方法を熟
知しているのであるから,それが何ら有用な情報ではないことは明らかで
ある。また,自前のネットワークを有する被告日本テレコムや他の電気通
信事業者のように,既に中継電話サービスを有している場合には,それを
利用しつつ,拡張・延長することによって容易に直収電話サービスのネッ
トワークを構築できるのであるから,原告のように一からネットワークを
構築する場合とは全く事情が異なる。このことは,原告自ら「バックボ,
ーンや交換機は,従来の中継電話サービスと共用」していること(乙2文
献参照)からも明らかである。
また,原告は,本件営業秘密7には,どの局舎とどの局舎をどのような
ルートで,どのようなファイバーを使って接続するのか,また,どの局舎
にどのような機器を設置するのかという情報が含まれる旨主張する。しか
し,それらも乙2文献において平成15年5月12日ころには既に公知と
なっていた情報であり,有用性を有するものではない。
()争点7-2(本件営業秘密7の非公知性)について2
(原告の主張)
ア本件営業秘密7は,原告サービスのネットワーク構成についての具体的
かつ詳細な情報であって,当然のことながら,機密情報として,外部には
一切公表されていない。したがって,本件営業秘密7が非公知であること
は明白である。
イ被告らは,乙2文献によって,本件営業秘密7は公知であると主張する
が,同文献に記載されている図面や説明は表層的でごく簡単なものにとど
まっているのであるから,これらの情報によって,極めて詳細なネットワ
ーク構成を前提とする本件営業秘密7の非公知性が否定されるものではな
い。
(被告らの主張)
本件営業秘密7は,乙2文献により既に公知となっている情報であるし,
争点7-1において述べたとおり,自前の基幹系ネットワークを有する当業
者にとって,本件営業秘密7程度の内容であれば容易に想到し得るものであ
るから,むしろ公知であるというべきである。
()争点7-3(本件営業秘密7の秘密管理性)について3
(原告の主張)
本件営業秘密7に関する文書は,ほとんどが物理的・技術的なアクセス制
限が施されている。また,原告福岡本部13階の建設部において保管され,
保守運用のため全役員及び従業員が閲覧可能なものもあるが,閲覧には認証
を要し,個々人のアカウントごとの閲覧記録等が記録されるようになってい
る。したがって,本件営業秘密7には,秘密管理性が認められる。
よって,本件営業秘密7は,不正競争防止法における営業秘密に該当する
というべきである。
(被告らの主張)
争点1-3で述べたとおり,原告が秘密管理規程を定めていたからといっ
て,本件営業秘密7の秘密管理性が認められるものではない。原告が本件営
業秘密7に含まれると主張する各文書には,機密文書である旨の表示がされ
ていない。本件秘密保持契約も,一般のM&Aにおけるデュー・ディリジェ
ンスを行う際に通常締結される種類のものであり,本件営業秘密7が特に他
の営業秘密でない情報と区別して秘密として厳重に管理されていたものとは
認められない。
したがって,本件営業秘密7に秘密管理性がないことも明らかである。
よって,本件営業秘密7は,不正競争防止法における営業秘密に該当しな
いというべきである。
8争点8(本件営業秘密2,3,4①,5①,6及び7は,一体として営業秘
密に当たるか)について。
()争点8-1(一体としての営業秘密の有用性)について1
(原告の主張)
ア本件営業秘密2,3,4①,5①,6及び7は,本件営業秘密1を用い
た直収電話サービスを現実のビジネスとして実現させるために必要不可欠
な情報であり,これらの情報がなければ,同サービスを現実のビジネスと
して実施することは不可能である。したがって,これらの情報は,同サー
ビスを現実のビジネスとして実現するための方法ないし手段として位置付
けられる。具体的には,本件営業秘密2は,同サービスを制度上実現する
ために必要な情報であり,本件営業秘密3,4①,5①及び7は,技術上
実現するために必要な情報であり,本件営業秘密6は,採算上実現可能性
,,を判断するために必要な情報であってそれらが互いに有機的に結びつき
有機的一体として1個の営業秘密を構成する(以下,上記各秘密を総称し
て「本件一体的営業秘密」という。原告は,本件調査において,被告,。)
ソフトバンクに対し,書面及び口頭により本件一体的営業秘密を一括して
開示したものであり,被告ソフトバンクは,それにより,本件営業秘密1
を用いた直収電話サービスを実現するための手段を,いわばワンセットと
してまとめて入手したのである。そしてさらに,被告ソフトバンクは,被
告日本テレコムにそれらを不正開示して使用させることにより,被告サー
ビスを開始させたのである。
イ本件一体的営業秘密が極めて極めて高い有用性を有することは,現に,
被告ソフトバンクは,本件調査を通じて,原告から,本件一体的営業秘密
を一括して入手し,それをそのまま被告日本テレコムに開示したことによ
り,極めて短期間で本件営業秘密1を用いた直収電話サービスである被告
サービスを実現させたことに端的に現れている。
(被告らの主張)
本件一体的営業秘密を構成する各要素は,争点2ないし7において述べた
とおり,いずれも有用性を有しないか,非公知性を有しないのであるから,
有用性のない情報をいくら集めても,いずれにせよ有用性が高まるものでは
ない。
()争点8-2(一体としての営業秘密の非公知性)について2
(原告の主張)
ア本件一体的営業秘密は,まとめて公開されたり,公知となっているわけ
ではないから,その非公知性は明らかである。仮に,本件一体的営業秘密
を構成する一部情報が公知になっていたとしても,各情報の組み合わせ自
体が非公知である以上,一体としての営業秘密の非公知性には何ら影響を
与えることはない。本件一体的営業秘密を保有しているのは,原告,原告
からその開示を受けた被告ソフトバンク,被告ソフトバンクから不正開示
を受けて使用している被告日本テレコムの3社しか存在しない。
先に述べたとおり,本件営業秘密1を用いた直収電話サービスは,極め
て有用性が高く,ビジネスモデルとして高い価値を有しているにもかかわ
らず,原告以外に同電話サービスの提供を開始した電気通信事業者が存在
しなかったという事実,現在においても,原告及び被告日本テレコム以外
に同電話サービスの提供を開始した電気通信事業者は存在しない事実,被
告らも,被告ソフトバンクが本件調査において原告から本件一体的営業秘
密の開示を受けた後に初めて原告サービスと同じ直収電話サービスを検討
,,し被告日本テレコムを通じて提供するまでに至っているという各事実は
本件一体的営業秘密が非公知であることを端的に示しているものである。
イ被告らは,本件一体的営業秘密がまとめて公開されなくても,個別に公
開されていれば非公知性は失われるなどと主張するが,公知情報の組み合
わせでも,その組み合わせ自体が知られていなければ,非公知性の要件を
満たすというべきであるから,本件において,仮に本件一体的営業秘密の
一部が公知となっていたとしても,本件一体的営業秘密の非公知性には何
らの影響を与えないものというべきである。
(被告らの主張)
ア本件一体的営業秘密を構成する各情報がまとめて公開されていなくて
も,個別に公開されていることなどにより,既に公知となっているのであ
れば,それらが一体となってもいずれにせよ公知情報であるというほかな
い。
イ原告は,現在においても,原告及び被告日本テレコム以外にドライカッ
パーを利用した回線交換方式による直収電話サービスの提供を開始した通
信事業者が存在しない事実が,本件一体的営業秘密が非公知であることを
示しているなどと主張する。しかし,先に述べたとおり,ドライカッパー
を利用した直収電話サービスについては既に多数の通信事業者が参入して
いる上,原告サービスと回線交換方式かIP方式かという違いしかないド
ライカッパーの電話音声帯域を利用した直収電話サービスについては,既
(「」。)。にKDDI株式会社以下KDDIというも提供を開始している
また,他の通信事業者がドライカッパーを利用した回線交換方式による直
収電話サービス事業に参入しない理由には,他に経営資源を投入すべき事
業を行っている等,様々なものが考えられるのであって,本件一体的営業
秘密なるものが非公知であるからではない。
また,原告は,被告らが本件調査前にはドライカッパーを利用した直収
電話サービスを着想していなかった等と主張するが,被告ソフトバンクが
本件調査前に当該サービスを着想していたことは先に述べたとおりである
し,被告日本テレコムも,本件調査以前から同様のサービスを着想してい
たのであるから,原告の主張は失当である。
()争点8-3(一体としての営業秘密の秘密管理性)について3
(原告の主張)
本件各営業秘密が,それぞれ秘密管理性を有することは先に述べたとおり
であって,本件一体的営業秘密が秘密管理性を有することもまた明らかであ
る。
(被告らの主張)
本件一体的営業秘密を構成する各秘密が,秘密管理性を有しない以上,本
件一体的営業秘密もまた,秘密管理性を有しないことは明らかである。
9争点9(本件各営業秘密の不正開示行為及び不正使用の有無)について
()争点9-1(被告ソフトバンクによる被告日本テレコムに対する不正開示1
行為の有無)について
(原告の主張)
,,,,ア原告は本件調査において被告ソフトバンクに対し本件営業秘密1
2,3,4①,5①,6及び7を開示した(当然,本件一体的営業秘密も
また,開示したことになる。。)
)原告は,本件調査において,別紙営業秘密目録記載の各書面のほか,a
多数の文書をすべて被告ソフトバンクに対して開示したため,被告ソ
フトバンクは,本件調査を通じて,原告サービスに関する情報を網羅
的かつ大量に入手した。その上,原告は,被告ソフトバンクに対し,
原告の事業内容や財務内容の詳細をも開示した。原告としては,被告
ソフトバンクとの買収交渉は平成16年4月30日には既におおむね
合意に至っており,覚書案まで作成されていたから,本件調査に可能
な限り協力したのである。
原告は,本件調査において,被告ソフトバンクに対し,原告の代表
取締役,取締役や幹部職員が,被告ソフトバンクからの問い合わせに
応じるなどして,口頭でも,本件各営業秘密について説明した。本件
調査が,平成16年5月2日から20日にかけて,長期にわたり詳細
に行われたのも,被告ソフトバンクからの要望に基づくものである。
また,原告は,被告ソフトバンクの社員を原告が設備を設置するNT
T局舎を案内して見学させ,本件RT装置についての詳細な説明を行
った。
)被告らは,本件調査において,原告は非協力な態度に終始したなどとb
主張する。しかし,先に述べたとおり,原告は,被告ソフトバンクに
対して,多数の資料を開示すると共に,口頭で十分な説明を行ったの
であるから,被告らの主張は事実に基づかないものである。原告とし
ては,被告ソフトバンクの質問事項は,原告の財務状況,リスク,将
来性を検討する上で必要性に乏しい事項が含まれていると思料したも
のの,買収を検討している被告ソフトバンクとの関係を悪化させるこ
とは相当ではなく,また,原告買収後の被告ソフトバンクにとって有
益な情報であると考え,被告ソフトバンクに対しては回答を渋ること
なくすべて開示したのである。
,,c)被告ソフトバンクは本件調査により本件各営業秘密が開示されると
同秘密を不正に使用して原告サービスと同様の被告サービスを提供する
ことを企て,被告ソフトバンクが原告を買収する合意がほぼ整っていた
にもかかわらず,平成16年5月25日,突然原告との買収交渉を一方
的に終了し,同年7月30日,被告日本テレコムを100%子会社とし
た上で,同被告に対し,本件各営業秘密を不正に開示し,同被告は,平
成16年8月30日,被告サービスの開始を表明した。前記のとおり,
本件調査により本件各営業秘密の開示を受けるまで,本件営業秘密1を
使用した直収電話サービスについてまったく検討していなかった被告ら
が,被告サービスを極めて短期間に提供開始したこと自体,不自然であ
,。り本件各営業秘密が不正に開示されたことを強く疑わせるものである
被告ソフトバンクが,原告の買収を断念した理由として主張する各事情
,。,,も合理的なものではないしかも原告と被告ソフトバンクの間では
平成16年7月ころから,被告ソフトバンクからの申し入れを受けて,
原告サービスに関する業務提携交渉が開始され,被告サービスの開始が
発表された後には,被告ソフトバンクが原告サービスを買い取るか,借
り入れる案などが検討され,代表者間では2度にわたり合意に至ってい
た。しかし,合意後に被告ソフトバンクから提示された合意書案は,被
告ソフトバンクに有利すぎるものであった上に,被告ソフトバンクは,
社内稟議を通すためなどの理由により,原告に対し,原告サービスの開
局状況や消防との接続状況など,およそ社内稟議とは無関係な事項につ
いて詳細な説明を求めるなどした。原告は,被告ソフトバンクが業務提
携交渉を口実として,原告サービスに関する情報を被告サービスに利用
しようとしているだけではないかと疑い,同年11月,被告ソフトバン
クとの交渉を打ち切ったのである。
イ)被告ソフトバンクから被告日本テレコムに対する本件各営業秘密のa
不正開示があったことを裏付ける最大の根拠は,被告サービスが,原告
サービスとその基本的仕組み及び機器構成において同一であり,サービ
スの特徴においてもほぼ同一であることである。すなわち,原告サービ
スも,被告サービスも,いずれもNTT加入者線であるドライカッパー
を利用した回線交換方式による直収電話サービスであること,つまり,
音声を①ユーザー宅から局内加入者線収容装置までの間は,ドライカッ
パーの概ね0~4kHz程度の音声帯域を使用して伝送し,②自前のR
,,T装置に集線した上でRT装置において64kデジタル信号に変換し
③さらに,V5.2という回線制御方式で本件交換機へ伝送するという
点で,全く同じ構造を有する電話サービス(本件営業秘密1の基本原理
)。,,を用いた直収電話サービスなのであるその結果としてユーザーは
④NTTの電話加入権がなくとも,⑤0AB~J番号を利用して音声電
話サービスを受けることができ,さらに⑥ユーザーが希望すればISD
Nサービスを受けることもできるのである。
)そのほか,本件各営業秘密が被告日本テレコムに対して不正開示されb
たことを示す事情として,以下の各事情が挙げられる。
①被告らは,平成16年7月30日時点において,A,B,Cの3
名が共通して取締役に就任しており,このうちAは,被告ソフトバ
ンクの代表取締役として本件調査に深く関与していた。また,本件
調査に先立つ秘密保持契約において秘密開示禁止の対象外とされた
ソフトバンクBBの本件調査当時の代表取締役であったDは,平成
16年7月30日,被告日本テレコムの取締役に就任した。本件調
査に深く関与した人物が被告サービスの開発,提供を主導している
以上,原告から取得した本件各営業秘密が不正開示されていない方
がむしろ不自然である。
②被告日本テレコムは,当初,本件RT装置は使用していないと主
張していながら,実際には被告サービス開始後の平成17年2月2
5日ころ,本件RT装置を導入した。これらの事実は,被告日本テ
レコムに対し,本件営業秘密5が不正に開示されたことを端的に示
している。
③本件調査において本件各営業秘密を入手した被告ソフトバンクが
中心となって,被告サービスの発表を行っている。
ウ被告らは,被告日本テレコムは,被告サービスを独自に開発したと主張
し,その根拠として,①被告ソフトバンクにおいて,本件調査以前に「局
内収容型BBフォン」サービスや「スパイダープロジェクト」を開発して
いたこと,②被告ソフトバンクは,同被告が開発中であった電話サービス
が,総務省によりアナログ電話サービスであると指摘されたことから,回
線交換方式による直収電話サービスの検討を開始したこと,③原告サービ
スと被告サービスには相違点が存することなどを主張する。
しかし,①被告ソフトバンク(実際は,ソフトバンクBBがその主体で
ある)が検討していた各サービスは,具体的な機器構成,NTTとの協。
議状況など,何も明らかにされておらず,いずれも実現可能性の不確かな
計画段階において終了しているし「局内収容型BBフォン「スパイダ,」,
ープロジェクト」のいずれもIP電話を想定していたものと推測され,そ
もそも原告サービスとは全く異なるものである。被告らが独自開発の根拠
として指摘するAGWは,少なくとも平成16年3月11日までは,IP
電話サービス用の装置(VoIP装置)を前提としていたにすぎず,これ
を運用して回線交換方式の直収電話サービスを提供することは不可能であ
った。先に述べたとおり,被告サービスとIP電話サービスは,基本的原
,,理も使用装置もまったく異なるのであるから独自開発を行うのであれば
装置の開発,運用試験だけでも長期を要するはずである。被告サービスの
開発,AGW(RT装置)の開発等の期間があまりにも短すぎることから
すると,本件各営業秘密が不正開示された可能性は極めて高いものという
ほかない。また,②被告ソフトバンクに対する総務省見解は,被告ソフト
バンクが検討していた「局内収容型BBフォン」サービスが制度上実現不
可能であることを宣言されたものにすぎなかった。仮に,同見解により,
公衆回線網(PSTN)迂回機能を有するIP電話サービスから回線交換
方式による直収電話サービスに方針転換したのであれば,その後作成され
たBBマイライン(仮)アクセスGW要求仕様書(乙33)において,公
衆回線網(PSTN)迂回機能に関する記載があるはずがない。さらに,
③原告サービスと被告サービスは,本件営業秘密1を用いた直収電話サー
ビスであるという基本的仕組みが同一であり,当該基本的仕組みとは無関
係な些細な相違点が存在したとしても,原告サービスと被告サービスの同
一性を否認する根拠とはならない。しかも,被告らは,被告サービスには
本件RT装置が使用されておらず,AGWが使用されているなどと主張す
るが,両者は名称が異なるのみである。そもそも,本件調査以前において
は,AGW(VoIP装置)のメーカー選定がされていた程度であって,
AGW(RT装置)のメーカー選定がされていたわけではなかった。被告
サービスの開発及び販売に際し,被告ソフトバンクから被告日本テレコム
に対する営業秘密の開示を容易とする環境があり,かつ本件各営業秘密の
不正開示がされたことを示す複数の間接事実が存在することからすると,
被告らの主張は失当である。
,,,エ以上の経緯からすると被告ソフトバンクが被告日本テレコムに対し
本件各営業秘密を不正開示したことは明らかである。したがって,被告ソ
フトバンクが本件各営業秘密を被告日本テレコムに対して開示した行為
は,不正競争防止法2条1項7号が定める不正競争行為に該当するという
べきである。
(被告らの主張)
ア)被告ソフトバンクは,原告の買収や事業提携に必要不可欠な情報とa
,,,,して原告の財務状況リスク将来性に関する資料の提出を求めたが
これらは,被告ソフトバンクが原告の買収の可否・当否を判断するうえ
で必要なものであった。いずれも,原告買収の経済性を測定し,買収後
の事業見通しを検討する上で必要な基礎情報であり,原告の買収を検討
する上で必要不可欠の情報であった。原告サービスに関する各種情報を
入手する目的によるものではない。
)被告ソフトバンクは,原告買収の検討開始の約半年前である平成15b
年9月ころから,原告とは全く無関係に,直収電話サービス実施のため
。,に被告日本テレコムを買収する検討を開始していた先に述べたとおり
被告ソフトバンクは,原告のアドバイザーからの働きかけにより原告と
の交渉を開始したのであり,原告サービスに関する情報を入手する目的
で原告との接触を試みたものではない。被告ソフトバンクが原告買収の
検討を開始した理由は,既に回線交換方式による直収電話サービスを開
始し,必要設備を有している原告の買収により,被告日本テレコムにお
いて企図していた直収電話サービスの開始をより早期化できるのではな
いかと考えたためである。
)本件調査も,直収電話サービスの開始をより早期化できるか,原告のc
希望する買収価格で原告の企業価値を評価できるかどうか等の確認を
含め,公開会社たる被告ソフトバンクの当然の責務として,原告買収
の可否・当否を判断するために行われたものであり,原告サービスに
関する情報を入手して被告らにおいて使用するために行われたもので
はない。もっとも,本件調査において,原告サービスには,種々の不
具合が存在し,原告の財務関係資料にも不備がみられたので,被告ソ
フトバンクは,原告の企業価値を原告の希望する買収価格で評価する
ことは到底困難であると判断し,買収を断念したのである。
)本件調査開始時点で,原告と被告ソフトバンクとの買収交渉が概ね合d
意の段階に至っていたものではない。原告は,覚書案(甲25)も作
成されていたと主張するが,結局のところ覚書すら締結されないよう
な状況であった。
)本件調査において,原告は,M&Aにおけるデュー・デリジェンスでe
は数か月間は開設されるのが通常であるデータルームをわずか約10
日間しか開設せず,被告ソフトバンクが要求した資料もほとんど開示
しなかった。また,原告の取締役などによる口頭の説明も,ごく簡潔
な説明のみであり,書類で確認することもできなかった。NTT局舎
見学も,原告には固定資産台帳すら整備されておらず,口頭による説
明も食い違うような状況において,本件RT装置の確認のために実施
されたが,まさに施設を見学しただけの意味しか有さず,口頭での説
明を検証する機会は与えられなかった。さらに,原告は,被告ソフト
バンクの問い合わせについて,電子メールにて回答することもあった
が,それらはいずれも一部についての回答・資料提供があったのみで,
原告の企業価値を算定する上で極めて重要な損益計算書や重要業績指
数すら開示されないような状況であった。このように,原告は,本件
調査において非協力な態度を取っていたのであって,原告が主張する
ように,本件各営業秘密を含めた詳細かつ具体的な営業秘密が開示さ
れたものではなく,被告ソフトバンクとしては,表層的な情報が得ら
れたにすぎなかったのである。
)なお,平成16年7月以降にも,被告ソフトバンクは,原告と業務提f
携交渉などを行った。しかし,それは,もっぱら原告から要請された
ものであって,被告ソフトバンクから試みたものではない。2度にわ
たる合意を一方的に破棄したのは,むしろ原告である。
イ原告は,原告サービスと被告サービスが同一のサービスであることが,
被告ソフトバンクが被告日本テレコムに対して本件各営業秘密を不正開示
した根拠であるように主張するが,被告サービスは,別紙基本サービス詳
細記載のとおり,原告サービスとは異なるサービスである。以下,主要な
相違点について詳述する。
)原告サービスと被告サービスにおいては,00xyにかかる国際電話a
の取扱い,UUI(ユーザー間情報通知サービス,任意チャネル着信)
サービス,移転トーキ案内について相違している。
)原告サービスにおける本件RT装置と,被告サービスにおいて当初かb
ら使用されたAGWは,加入者線を集線する装置である点では共通して
いるものの,本件RT装置は一種類のインターフェースしか有しないの
に対し,AGWは,3種類のインターフェースを有する点で大きく異な
る。すなわち,AGWは,IPネットワーク網や通常の電話回線を20
16回線収容できるSTM-1回線との接続が可能で,本件RT装置と
比較して,拡張性に優れている。被告ソフトバンクは,AGWを独自に
開発し,平成15年4月ころにはその基本設計を終了し,原告との資本
提携交渉を開始する前である平成16年3月11日には仕様書のまとめ
も終了していた。
)原告サービスと被告サービスでは,ISDNサービスにおける伝送方c
式が根本的に異なる。原告サービスは,ISDNのBRI回線(Bas
icRateInterface。乙39)の提供方式においてE
C方式(海外仕様)を採用しているため,コンバータが必要となるが,
被告サービスでは,コンバータは不要である。
ウ)被告ソフトバンクは,平成14年には「局内収容型BBフォンサーa,
ビス」の開発を開始し,平成15年1月には,使用装置の試験などを
行っていた。同サービスは,従来,ユーザー宅内にあったスプリッタ
内蔵モデム及びBBフォンターミナルをNTT局社内に設置し,IP
網及び公衆回線網(PSTN)の双方に接続できる装置(AGW,ア
クセスAG,ゲートウェイ,局内VoIP装置)を設置して提供する。
ものであり,被告サービスの原型となった。被告ソフトバンクは,平
成15年4月ころには,AGWの基本設計などを完了しており,平成
16年3月11日には,詳細な仕様書を完成させていた。原告は,A
GW(VoIP装置)とAGW(RT装置)は全く異なるなどと主張
する。しかし,被告サービスにおいて使用されているAGWにおいて
は,両者は異なるものではない。
)被告ソフトバンクは,平成15年12月ころから,NTTに説明を行b
うなどしていたが,平成16年2月6日,総務省より,被告ソフトバ
ンクが検討していたサービスが,IP網を使用した直収電話サービス
ではなく,アナログ電話サービスである旨の連絡を受けたことから,
以後,アナログ方式のサービスを検討することとしたのである。その
ため,被告ソフトバンクは,平成16年2月ころから,LS交換機の
機種選定を開始したが,買収を検討していた被告日本テレコムがNE
CのNEAX61ΣJシリーズを採用していたため,同月19日には,
同シリーズの採用をほぼ決定していた。RT装置については,遅くと
も平成16年2月ころには,ルーセント以外のメーカーに発注するこ
とを決定していた。したがって,被告ソフトバンクは,本件調査開始
前である平成16年2月までには,直収電話サービスの設備設計と機
種選定を終了したものである。原告が主張するように,わずか1か月
で被告サービスを開発したものではない。原告は「局内収容型BBフ,
ォン」も「スパイダープロジェクト」も,IP電話電話サービスを検,
討していたにすぎないなどとも主張するが,局内収容型BBフォンは,
総務省見解を受けて回線交換方式の直収電話サービスに切り替えるこ
ととされたのであるし,スパイダープロジェクトは,まずドライカッ
パーを利用した回線交換方式の直収電話サービスとして開始し,順次
IP電話サービスに移行する計画であった。このように,被告サービ
スは,本件各営業秘密とは無関係に,被告らが独自に開発したもので
ある。被告日本テレコムが長年築き上げたノウハウをもってすれば,
従来の直収電話サービスの接続形態を変更するだけで,容易にドライ
カッパーを利用した直収電話サービスを開始することが可能であった
のである。原告サービスが独創的なものではないことは,原告に対し
て何ら接触をしていないことが明らかなKDDIも,被告日本テレコ
ムが被告サービスの発表をした平成16年8月30日の直後である同
年9月15日に,回線交換方式による直収電話サービスである「メタ
ルプラス」の発表をしていることからも明らかである。
エ被告ソフトバンク及び被告日本テレコムの間で,役員の兼任関係がある
からといって,当然に被告ソフトバンクが被告日本テレコムに対して本件
各営業秘密を不正に開示したことになるはずがない。そもそも,本件調査
は,被告ソフトバンク及びソフトバンクBBの実務レベルの者が行ったの
であるから,多忙を極める被告ソフトバンク代表取締役らが原告との交渉
に参加したことがあるからといって,被告サービスの開発や提供に関する
実務に直接携わることができないことは明らかである。
()争点9-2(NEC及びルーセントによる被告日本テレコムに対する不正2
開示行為の有無)について
(原告の主張)
ア原告は,NEC及びルーセントに対して,本件交換機及び本件RT装置
について,それぞれ具体的仕様を開示して,その変更を指示しており,N
EC及びルーセントに対して,本件営業秘密4及び5を開示したものとい
うべきである。もちろん,原告は,その際,それらが原告の営業秘密であ
る旨の説明をした(仮に,明確な説明をしていなかったとしても,NEC
及びルーセントは,本件営業秘密4及び5が原告独自の直収電話サービス
に関する情報であることについては当然知っていたのであるから,それら
が原告の営業秘密であることを当然知り得たものである。したがって,。)
NEC及びルーセントは,少なくとも原告との間の製造委託契約に付随す
る信義則上の義務として,本件交換機や本件RT装置の製造過程において
原告から示された本件営業秘密4及び5を第三者に開示してはならない義
務を負っていたというべきである。
,,,,また先に述べたとおり原告とNECは本件NEC基本契約により
互いに秘密保持義務を負担していた。契約書が作成されていたわけではな
いが,ルーセントも,同様の合意に基づく秘密保持義務を負担していた。
NEC及びルーセントは,本件交換機及び本件RT装置を被告日本テレ
コムに供給したこと自体により,被告日本テレコムに対し,本件営業秘密
4及び5を,それぞれ開示したか,又は各装置に付属している仕様書等の
書面を通じて開示したものというべきである。なぜなら,本件交換機及び
本件RT装置を入手することにより,本件交換機及び本件RT装置の原告
サービスにおける位置付けが開示されたと評価することができると共に,
被告らが本件営業秘密4②及び5②の内容(仕様変更等の結果など)を受
領し,その効果ないし利益を享受している以上,これらの営業秘密を取得
したものと評価することができ,さらには,装置自体を分析することによ
り,課題内容の有無,課題内容の克服結果である仕様変更などの情報を入
手することができるからである。したがって,NEC及びルーセントの被
告日本テレコムに対する本件営業秘密4及び5の各開示は,上記各秘密保
持義務違反行為であり,同秘密の不正開示行為に当たるものというべきで
ある。
イ被告らは,本件調査を通じて,原告がNEC及びルーセントと,本件交
換機及び本件RT装置をそれぞれ共同開発した事実が営業秘密であること
を知りながら,あえてNEC及びルーセントに対して商談を持ちかけてい
るのであるから,被告日本テレコムが本件営業秘密4及び5の取得につい
て悪意重過失であることは明らかである。
さらに,本件営業秘密4及び5は,NEC及びルーセントから被告ソフ
トバンク又はソフトバンクBBに対して不正開示され,さらに被告日本テ
レコムは,NEC及びルーセントの被告ソフトバンク又はソフトバンクB
Bに対する不正開示行為が介在したことについて悪意重過失で,被告ソフ
トバンク又はソフトバンクBBから取得したものというべきである。
(被告らの主張)
ア被告ソフトバンクは,NEC及びルーセントから,本件営業秘密4及び
同5について,開示を受けていない。
また,被告日本テレコムも,NEC及びルーセントから本件交換機を原
告との間で共同開発したとか,原告の営業秘密を利用して製造したなどと
いう説明を受けたこともない。
そもそも機器メーカーが自社製品を販売する際,あえて過去の課題内容
やその対応結果を購入者に開示することなどは通常あり得ないことである
から,NECが,NEAX61ΣJシリーズを被告日本テレコムに販売す
る際,本件営業秘密4②を開示したはずがない。当然,仕様書にも,本件
営業秘密4②に記載されているような仕様変更等が明示的に記載されてい
るものでもない。
また,原告は,NECが同シリーズの供給自体によって,本件営業秘密
4②を開示したか,又は各装置に付属している仕様書等の書面を通じて開
。,,示したものであるなどと主張するしかし製品の供給を受けただけでは
仕様を変更したこと自体や変更前の仕様,さらにはその前提である課題内
容に関する情報を取得したことになるものではない。機器メーカーがある
会社に納入した製品に不具合が発見された場合,以後,当該製品を納入す
る場合にはそのような不具合を解消してから納入できることはむしろ当然
であり,機器メーカーによる不具合の解消が発注者の営業秘密に当たり,
機器メーカーが他社に不具合を解消した製品を製造・販売することが不正
開示に当たるなどということは通常あり得ない。当然のことながら,製品
の供給を受けた被告日本テレコムが,製品の供給自体が営業秘密の不正開
示であることに悪意又は重過失と評価されるはずがないのである。
イ被告日本テレコムは,単に,営業の顧客獲得予測から見て,AGWの供
給が間に合わない可能性があったため,追加機器としてシリAnyMedia
ーズを設置したが,現在も一部被告サービスの仕様に合致しない点がある
ため,試験導入に止まっている。本件交換機について先に述べたとおり,
開発された製品の購入者にとっては開発過程における課題内容に関する情
,。,報などは不要であるというほかない機器メーカーであるルーセントが
顧客に自社製品の過去における課題内容などを開示することが通常あり得
ないこと,製品の供給を受けたことが変更前の仕様や課題内容などについ
ての情報を取得したことになるわけではないこと「不正開示について悪,
意又は重過失であることが観念できないこと」なども,NECについて先
に述べたとおりである。
()争点9-3(被告日本テレコムによる不正使用行為の有無)について3
(原告の主張)
ア先に述べたとおり,被告日本テレコムが本件各営業秘密を使用すること
なく被告サービスを開発したことはありえず,被告日本テレコムは,被告
ソフトバンクが本件調査により入手した本件各営業秘密の開示を受け,ま
た,NEC及びルーセントから本件営業秘密4及び5の開示を受け,初め
て被告ソフトバンクが従来検討していた電話サービスの問題点を解消させ
る方法や,NTTとの競争力を有するビジネスモデルが存在することを知
り,本件各営業秘密を不正に利用して,被告サービスを開発し,その販売
を継続しているものというべきである。
したがって,被告日本テレコムは,被告サービスを実施するために必要
不可欠である本件各営業秘密を不正に取得し,それらを利用して,被告サ
ービスを極めて短期間で開発し,発表したものというべきである。本件各
営業秘密は,いずれも被告サービスを提供するためには必要不可欠なもの
であるから,被告サービスを提供すること自体,本件各営業秘密の使用に
当たるというべきである。被告日本テレコムは,被告ソフトバンクの10
0%子会社であるから,被告ソフトバンクによる被告日本テレコムに対す
る本件各営業秘密の開示行為が,不正競争防止法2条1項7号の不正開示
行為であること又は本件秘密保持契約に違反する行為であることを当然知
っていたし,仮に知らなかったとしても,知らなかったことについて重大
な過失が認められる。
イ被告日本テレコムは,先に述べたとおり被告ソフトバンクから入手した
原告サービスに関する情報に基づいて,自ら,NEC及びルーセントに対
して,本件交換機や本件RT装置の製造を働きかけたのであるから,NE
C及びルーセントによる被告日本テレコムに対する本件営業秘密4及び5
の各開示行為が,NECやルーセントと原告との間の秘密保持義務に違反
することを知っていたか,又は重大な過失により知らなかったことは明ら
かである。したがって,被告日本テレコムによる本件各営業秘密の不正使
用行為は,不正競争防止法2条1項8号に該当するというべきである。
(被告らの主張)
本件各営業秘密は,そのほとんどが遅くとも本件調査開始前に既に公知で
あり,いずれにせよそのすべてが事業活動において有用な情報ではないとこ
ろ,被告ソフトバンクは,被告サービスを開始するために必要な各種設備等
を既に採用済みであったのであるから,本件各営業秘密は,被告ソフトバン
クから被告日本テレコムに対して開示する必要も,被告日本テレコムにおい
て使用する必要性もない。実際,争点9-1及び9-2で述べたとおり,被
告ソフトバンク,ルーセント及びNECは,被告日本テレコムに対し,本件
各営業秘密を開示してもいないのであるから,被告日本テレコムが本件各営
業秘密を使用することもあり得ないのである。
10争点(本件各営業秘密の不正開示行為及び被告サービスの各差止めの10
必要性)について
(原告の主張)
()被告日本テレコムは,平成16年12月1日から,本件各営業秘密を不正1
に利用して,被告サービスの提供を開始した。被告サービス開始後であって
も,サービス提供に伴う障害を克服するために要する多大の時間と費用を節
約し,同サービスを円滑に提供するために,被告ソフトバンクから被告日本
テレコムに対する不正開示行為が継続されるおそれがあることは否定できな
い。
なお,被告ソフトバンクは,原告買収交渉が合意に至らなかったことを受
けて,秘密漏洩を防止する措置を講じており,これらを被告日本テレコムを
含む第三者に開示・漏洩したことはないし,今後,開示・漏洩するおそれも
全くないなどと主張する。しかし,被告ソフトバンク自身が意図的に本件各
営業秘密を被告日本テレコムへ不正開示した以上,仮に被告ソフトバンクが
これらの措置を講じていたとしても,不正開示行為の差止めの必要性が存す
ることは明らかである。
()被告による被告サービス提供により,原告は原告サービスに関するノウハ2
ウを含む本件各営業秘密を違法に使用され続け,被告サービスに顧客を奪わ
れる可能性が高い。現に,被告日本テレコムが被告サービスを発表した平成
16年8月以降,その前月までは毎月100件未満であった原告サービスの
解約数が,毎月100件を超えている。
原告が,不本意にも,再生手続開始の申立てを余儀なくされた原因の一つ
には,原告が本件各営業秘密を用いて開始した原告サービスと同様の被告サ
,。,,ービスが被告日本テレコムにより提供されたことにある特に被告らは
本件調査を経て,原告の本件各営業秘密を取得し,被告らが当初検討してい
た直収電話サービスの形態を変更してまで,原告サービスと同一形態の被告
サービスを,本来必要になるはずの多大な時間と費用をかけることなく提供
,,するようになった結果原告サービスの顧客及び潜在的顧客を奪取したため
原告サービスの既存顧客の解約の増加及び新規開通数の伸び悩みが生じたこ
とが大きな要因である。そして,このまま,本件各営業秘密が使用された被
告サービスが提供され続けるならば,原告サービスの顧客及び潜在的顧客が
さらに被告らに奪取されることは確実である。
以上から,原告は,被告らの不正競争行為によって,現に営業上の利益を
侵害されており,かつ今後も侵害されるおそれが極めて高いことは明らかで
ある。
したがって,被告ソフトバンクによる本件各営業秘密の不正開示行為及び
被告日本テレコムによる被告サービスの提供を差し止める必要性は高い。
(被告らの主張)
先に述べたとおり,被告ソフトバンクなどによる不正開示行為,被告日本
テレコムによる不正使用行為が認められない以上,差止めの必要性もまた存
しないことは明らかである。
なお,被告ソフトバンクは,原告買収をうち切った平成16年5月31日
,,,以降秘密漏洩を防止するために本件調査において受領した資料について
余分なコピーを廃棄するとともに,その他の資料についても,施錠された部
屋において厳重に保管しており,これを被告日本テレコムを含む第三者に開
示・漏洩したことはないし,今後,開示・漏洩するおそれも全くない。
また,被告日本テレコムは,少なくとも本件訴訟が提起されるまで,被告
ソフトバンクが上記のとおり本件調査において受領した資料を保管していた
ことも知らなったし,同資料を取得・使用したこともない。
したがって,被告ソフトバンクによる本件各営業秘密の不正開示行為及び
被告日本テレコムによる被告サービスの提供を差し止める必要性は,その前
提自体を欠くものであるというべきである。
第4当裁判所の判断
1本件営業秘密1について
()本件営業秘密1の非公知性(争点1-2)について1
ア原告が主張する本件営業秘密1は,NTT加入者宅からNTT電話局と
の間に設置されたメタル(端末)回線(ドライカッパー)の電話音声帯域
(概ね0~4kHz程度)を含む全周波数帯域をNTTから借り受け,同
メタル(端末)回線において電話音声帯域を使用して提供する回線交換方
式による直収電話サービスに関する原理である。
イ)電気通信事業紛争処理委員会が,平成15年12月1日付けで作成a
した乙1文献(乙1)には,その別紙「平成電電株式会社の要望する接
続形態」記載のとおり,原告がNTTに対して希望する接続形態が図示
されており,同別紙図面には,原告がドライカッパーをNTTから借り
受け,MDF(主配電盤)を介して原告が設置するRT装置(1台でい
わゆるRT及びいわゆるDSLAM及びスプリッタの機能を有する設
備)に音声信号を集約した上で,原告が設置するLS交換機に接続する
直収電話の形態が記載されている。
()b)平成15年5月12日ころ発行された雑誌記事である乙2文献乙2
には,次の記載がある。
「……NTT東西地域会社のメタル加入者線を利用した初の直加入電話
『』。,。」平成電話だIP電話よりもやすい上に緊急電話へも発信できる
(41頁上段)
「ADSL()などのブロードバンド回線asymmetricdigitalsubscriberline
を使ったIP電話サービスが注目を集める中,NTT電話と同様の交換
機を利用しながら,IP電話より安く機能制限も少ない新手の電話サー
ビスが始まる。……NTT東西会社から電話用メタル加入者線を借り受
けて,NTT加入者交換局に置いた集線装置に収容する『直加入電話サ
ービス』である(写真1(41頁左欄))。」
「平成電話がこのような低料金を実現できる最大の理由は,加入者宅か
ら電話局までの加入者線回路に,東西NTTから調達した『ドライ・カ
ッパー(メタル回線を伝送媒体として使う形態のこと)を利用するか』
ら。ドライ・カッパーの仕組みは,xDSLサービスでも使用されてい
るが,平成電話はこれを日本で初めて直加入電話に採用した。平成電話
のユーザー間の通話は東西NTTの交換機を通らないため,NTTに支
払う接続料が発生しない。……貸し出し料金が徐々に下がっていること
も追い風だ。2000年度のドライ・カッパー料金は月額1905円だ
ったが,総務省が認可した2002年度の料金は,NTT東日本で月額
1690円,NTT西日本で同1803円。NTT電話の基本料と同様
の水準に下がった(42頁)。」
「交換機は東京・大阪の2台だけ平成電話は,NTT電話と同じ回線
交換技術を使いながら,バックボーンの低コスト化を徹底した。加入者
remote交換局には交換機を一切置かず,1台200万円程度のRT(
)でドライ・カッパーを集線。その上で,東京と大阪にある2terminal
台の中間交換機のどちらかに直結する(図1。米ルーセント・テクノ)
ロジーズ製のRT(写真1)は,ADSLに使うDSLAM(DSL
)やISDN用終端装置なども収容でき,投資を抑えaccessmultiplexer
ながらサービスを増やせる。交換機とRTを結ぶバックボーンも低コス
ト化を追求した。東西NTTや他の通信事業者などから借りたダーク・
ファイバで構築を進めており,8月には全国規模の10Gビット/秒の
光バックボーンが完成する。これらのバックボーンや交換機は,従来の
中継電話サービスと共用する(42~43頁)。」
また,乙2文献の写真1には「平成電話が使う加入者線集線装置,
米ルーセント・テクノロジーズの装置『。加入電話やISAnyMedia』
,,。。」DNADSL専用線などに対応自前の中継網へ電話を中継する
(41頁)との説明文と共に,本件RT装置の写真が掲載されている。
さらに,図1には「平成電話の加入者「東西NTTのGC「平,」,」,
成電電の東京局(中継交換機「大阪局「GC「NTT電話の加)」,」,」,
入者へ」などの接続関係が図示されていると共に,以下のとおりの説明
文が記載されていた。
「『』。」ドライ・カッパーを使った初めての直加入電話平成電話の仕組み
「網構成・交換機は東京・大阪に置いた2台だけ・RTと交換機の
間は,東西NTTや他事業者から借りたダーク・ファイバで結ぶ・平
成電電の電話網と,NTT電話網はZCや一部のGCで接続・携帯電
話会社とも接続に着手」
「アクセス回線・加入者線(ドライ・カッパー)はすべてGCに置い
たRTで集線」。
「」……GC:加入者交換局ZC:中継交換局RT:remoteterminal
(42頁)
)平成11年10月4日ころ発行された雑誌である乙3文献(乙3)にc
は,次の記載がある。
「ドライ・カッパーとダーク・ファイバ目を覚ます通信インフラの正
体新規事業者が注目する理由なぜ高速でも安くできるのか(98」
頁見出し)
「NTTなどが敷設した通信ケーブルを,他の通信事業者が活用する手
法が脚光を浴びている。ドライ・カッパーとダーク・ファイバだ(9。」
8頁上段)
「ドライ・カッパーとは,敷設済みでありながら使っていない銅線ケー
ブルのこと。……ドライ・カッパー/ダーク・ファイバの活用が本格化
すれば,通信サービスの低料金化と高速化が一気に加速する可能性が高
まる。……多額の投資と長い時間が必要なケーブル敷設工事を割愛でき
。。」()ること……最新の伝送技術を利用できること……98~99頁
「ドライ・カッパーは12月にも実現ドライ・カッパーおよびダーク
・ファイバの対象となる第1の候補は,日本中に張り巡らされているN
TT地域会社の加入者線だ。その大半は銅線ケーブルだが,約3割は途
中の区間までが光ファイバに置き換えられている。これまでNTT地域
,。会社はドライ・カッパーとダーク・ファイバの提供には消極的だった
その理由は,①NTTのサービスのために敷設したケーブルを他社に貸
,,,したくない②保守・管理ができないため電気通信設備とは言えない
③接続したいという通信事業者がいない---の3点だった。だがこれ
らの指摘は,提供を拒絶する十分な根拠となるものではない。①につい
,。てはNTT地域会社は他社から要望があれば接続に応じる義務がある
②の問題は,98年9月まで開催した郵政省の『接続料算定に関する研
究会』で整理された。NTTは『電気通信設備でないものを提供するの
は,制度的に問題ではないか』と反論したが,研究会は『電気通信設,
備と見なせる。制度的に問題はない』という判断を下した。③について
は,東京めたりっく通信が『ドライカッパーを使いたい』という要望を
出した。こうして,99年7月まで,接続料算定に関する研究会の具体
的な議論が交わされた。その後郵政省は,NTT地域会社にドライ・カ
ッパーの提供を要請。NTT地域会社もこれを受け入れた(99~。」
100頁)
「接続方法を巡り,意見が対立……MDF接続では,借り受ける通信
事業者がxDSL回線として使う。xDSLには,ADSLのように1
。,本の銅線で電話音声と多重できる製品がある二つの信号を分けるのが
『』。,,スプリッタと呼ぶ装置電話音声と多重するがスプリッタを誰が
どこに置くか---などによって接続形態は複数ある(100頁)。」
「……ドライカッパーが2000円以下で提供されれば,安いインター
ネット接続サービスが実現できそうだ。例えば日本テレコムは『AD,
SL機器の価格は1対向で1000ドル以下のレベルまで下がってい
る。ドライ・カッパー料金が月1631円程度なら,インターネット接
続料を含めて月5000円のサービスも可能(経営企画本部経営企画』
部のE担当部長)と試算する(100~101頁)。」
「ダーク・ファイバで瞬時に全国網をNTT地域会社以外の通信事業
者が所有している敷設済み未使用ケーブルの利用はすでに始まってい
る。例えば,近畿日本鉄道がKDDとDDIにダーク・ファイバを提供
中だ。関西電力CATV事業者に提供している(表1。ほかにも,通)
信事業者が大学などに,通信サービスではなく賃貸契約で提供している
例がある(101~102頁)。」
また,乙3文献の図1「MDF接続の形態」には「・電話回線,x,
DSL回線として利用」する形態が図示されており,欄外には「電話,
音声と多重できる=電話音声は4kHz以下,ADSL信号は30kH
z~1MHzと周波数帯を分けて伝送する」と記載されている。。
)平成15年4月2日の原告による原告サービスのプレスリリースにつd
(。「」。)いて報道するインターネットニュース甲1以下甲1文献という
には,次の記載がある。
「平成電電は4月2日,直収線の固定電話サービス『平成電話』を6月
に開始すると発表した。ユーザーの回線を平成電電のインフラに直収す
るサービスで,通信料は……業界最安の水準。……(1頁)」
「このような『直収サービス』は,過去にあまり例がない。理由は,N
TT局舎内の設備であるRTを,NTT東西が独占的におさえていたこ
とにある。RTとは,加入者宅まで通じる,メタルケーブルを使用する
電話線と,局舎から先の光ファイバーバックボーンを中継する装置。平
成電電は今回,海外仕様のRTをとから調LucentTechnologySamsung
達しており,全国のNTT局舎内に随時,設置を進める予定。これによ
,,,,りユーザー宅で生じた音声データはメタル回線を通じて全国10
000Kmにわたって敷設された平成電電の光ファイバーバックボーン
に入る(直収。気をつけなくてはならないのは,このメタル線,およ)
び光ファイバーを流れるのは“VoIPパケット”ではない点。あくま
で,従来の加入者電話網で利用されてきた通信方式を採用する。……1
局あたりのRT設置料は200万円程度。10月までに全国1,138
カ所,年内には2,000カ所以上にRTを設置する予定で,これによ
り地域カバー率は9割に達する見込みだという(2~3頁)。」
)NTTコミュニケーション情報誌平成8年10月号乙24以下乙e(。「
24文献」という)には,次の記載がある。。
「加入者回線接続の取り組み……NTTは1995年9月に,加入者回
線接続を含む,アクセス系のオープン化の考え方を発表し,1996年
3月に電話の加入者回線接続のインターフェース開示を行いました」.
(24頁)
「加入者線回線接続とは,加入者回線がNTTの交換機に入る手前で他
事業社者向けに振り分け,他事業者の交換機によるサービスを受けられ
るようにするものです.……加入者回線接続では,NTTの持っている
,.加入者回線設備を他の通信事業者の交換機に接続できるようにします
これにより,新しい通信事業者はサービス開始当初からすべての加入者
への回線設備を用意しておかなくてもサービスを開始することが可能と
なります(図1(24頁).).」
「加入者回線接続の考え方NTTの加入者回線を他事業者の通信網に
接続する場合,現在加入しているお客様への影響や今後のネットワーク
の高度化計画との影響を考慮して,以下の条件を前提として相互接続す
る方法を考えています(1)試験・切分けなどのオペレーションが容.
易であること……(2)ネットワークハムを防止すること……(3)事
業者間の振分けが容易であること……(4)伝送媒体により接続に影響
を受けないこと(25頁)」
「電話サービスにおける加入者回線接続の方法(図2)電話サービス
では,加入者回線接続装置を介して加入者線回線接続を実現します.こ
のインタフェースはNTTの代表的な加入者交換機であるD70向けに
つくられているインタフェースです.相互接続は標準的なインタフェー
スで行うことが望ましいのですが,加入者回線と交換機との間のオープ
ン化のための標準インタフェースは現在,存在していません.また,こ
のインタフェースを標準化してからオープン化するのでは時間がかかっ
てしまいます.早期実現するために,NTTが現在使用しているインタ
フェースを開示することとしました.将来的には標準化を行い,標準イ
ンタフェースで接続することを考えています.なお,加入者回線接続装
置については,順次導入を進めており,数年で全国の主要ビルに設置さ
れる予定ですが,それ以外のビルで早期接続の要望がある場合には,加
入者ケーブルの光化時にはインタフェースを変更していただくことを前
提として,RT(遠隔多重化装置)から直接接続する形態にも対応して
いきます(25~26頁).」
「電話加入者回線接続のインタフェース電話加入者回線接続のインタ
フェースでは,物理インタフェース,伝送フレーム構造,および加入者
回線監視・制御インタフェースについて規定します(図3.物理イン)
タフェースは加入者回線接続装置と交換機の間のインタフェースとして
156Mbit/sの光インタフェース仕様(図4)および伝送フレー
ム仕様(図5)を規定しています.電話サービスを実現するための基本
である音声を運ぶ通話情報インタフェースとともに,加入者回線を制御
する監視・制御インタフェースを規定します(図6.監視制御インタ)
フェースは,D70交換機固有のインタフェースを規定しています.ま
た,伝送フレーム構造として通話情報と監視制御情報の割り当て方法も
規定します.ここで監視信号とは,交換機が加入者回線のループの有無
を監視するための信号のことであり,制御信号とは交換機から加入者回
線に対する給電の状態を変化させたり,呼出信号音源の制御を行ったり
するための信号をいいます(26~27頁).」
また,乙24文献の図1ないし6には,加入者回線接続におけるLS
交換機,RT装置の設置位置などと共に,接続形態が紹介されている。
)平成15年4月14日ころ発行された雑誌(乙22。以下「乙22文f
献」という)には,次の記載がある。。
「この電話サービス『平成電話』は,一般家庭や企業にNTTが引いた
電話回線を,平成電電が1回線当たり月額1400円程度で借りてサー
ビスを行う。加入者はNTTと契約する代わりに,平成電電に月額基本
料1800円(法人は2400円)を支払う。この結果,平成電話の加
入者同士は,月額300~500円を追加すれば通話が無料になった。
電話回線をNTTから借りる仕組みは,そもそもネット接続業者がAD
SL(非対称デジタル加入者線)サービスを提供できるように整備され
。,たもの……かつては地域電話局ごとに必要だった高価な電話交換機は
東京と大阪に1台ずつ導入しただけ。音声データを光ファイバー経由で
センターに集めれば,少ない台数で処理できるからだ。音声と光信号を
変換する装置は,1台200万円程度のものを海外メーカーから購入。
NTTの設備がある地域電話局のスペースを借り,全国1138カ所,
年内に2000カ所に設置する。……(13頁)」
ウ)乙1文献には,ドライカッパーをNTTから借り受け,MDF(主a
配電盤)を介して他事業者が設置整備するRT装置に集約した上で,L
S交換機に接続する直収電話サービスの構成が開示されている。
)乙2文献には,NTTからドライカッパーを借り受け,NTT-GCb
(NTT局舎)においてルーセント社製のシリーズ(1台AnyMedia
200万円程度)を設置し,これを東京局と大阪局に各設置した2台の
LS交換機と結ぶ直収電話サービスの構成が,サービス加入者,NTT
のGC(NTT局舎,サービス提供者の東京局(中継交換機)及び大)
阪局,GC,NTT交換網などの接続関係図と共に開示されている。
)乙3文献には,NTTのドライカッパーを借り受けた直収電話サービc
スを開始することが可能となっており,同サービスにおける接続形態と
,。して電話回線及びxDSL回線として利用する形態が開示されている
なお,同文献には,xDSL回線と多重できる電話音声は4kHz以下
であることも開示されている。
)甲1文献には,原告が,加入者宅まで通じるメタルケーブルを使用すd
る電話線と,局舎から先の光ファイバーバックボーンを中継するRT装
置をルーセントなどから1台200万円程度で調達したことにより直収
電話サービスを実現したことが開示されている。
,,,,e)乙24文献にはNTTが平成7年9月に加入者回線接続を含む
アクセス系(ドライカッパーを含む)の自由化を発表し,平成8年3月
に,電話の加入者回線接続のインターフェース開示を行ったこと,加入
者線回線接続,すなわち,加入者回線がNTTの交換機に入る手前で他
事業者向けに振り分け,他事業者の交換機による電話サービスを受けら
れるようになること,NTTとの相互接続条件としては(1)試験・,
切分けなどのオペレーションが容易であること(2)ネットワークハ,
ムを防止すること(3)事業者間の振分けが容易であること(4),,
伝送媒体により接続に影響を受けないことが挙げられることなどが開示
されている。
)乙22文献には,原告が,ドライカッパーを1回線当たり月額140f
0円程度でNTTから借り,音声データを光ファイバー経由でセンター
に集めることにより地域電話局ごとに必要だった高価なLS交換機の設
置数を東京と大阪の各1台のみで対応し,さらに,音声と光信号を変換
する装置として1台200万円程度の海外メーカー製品を全国のNTT
の地域電話局のスペースを借りて設置することにより,直収電話サービ
スを実現可能としたことが開示されている。
エ甲1文献,乙1文献,乙2文献,乙3文献,乙22文献及び乙24文献
により開示されている各事項を総合すると,NTT加入者宅からNTTの
地域電話局との間に設置されたドライカッパーを,その電話音声帯域(4
kHz以下)を含んでNTTから借り受け,NTTのGC(NTT局舎)
にルーセント製のRT装置(1台200万円程度)を設置し,これを東京
と大阪の2か所に設置したLS交換機と光ファイバー経由で接続するとの
ネットワーク構成を構築した上で,同回線において電話音声帯域を使用す
る回線交換方式による直収電話サービスを行うことができることは,これ
らの文献のうち,最も遅く発行された文献である乙1文献が発行された平
成15年12月1日ころには当業者である電気通信事業者においては公知
であったというべきである。原告が遅くとも平成15年11月ころから,
国内において初めての回線交換方式による直収電話サービスを実施したも
のであるとしても,原告と被告が本件秘密保持契約を締結した平成16年
4月2日には,本件営業秘密1は,上記各文献において,既に開示されて
いたものである。したがって,本件営業秘密1は,非公知性を欠くもので
あり,営業秘密として保護されるべきものではない。
原告は,本件営業秘密1は,従来全く存在しなかった原告独自の直収電
話サービスの形態であり,乙1文献ないし乙4文献にはいずれも原告サー
ビスとは異なる形態の電話サービスが記載されているにすぎなかったり,
原告サービスについて概括的な紹介記事が記載されているにすぎないもの
であるから,これらに記載された断片的な情報からは,原告サービスの基
本原理である本件営業秘密1を推知することは不可能であるなどと主張す
る。
しかし,先に述べたとおり,上記各文献においては,LS交換機及びR
T装置など,本件訴訟において原告が原告サービスを構成する重要な機器
であると主張する各機器について,その位置付けや本件RT装置の価格ま
で記載されており,ネットワーク構成についても,乙1文献及び乙2文献
には,原告サービスを前提とした具体的な開示がされているものであるか
ら,これらの文献の記載は概括的,断片的,表面的な記載とはいえず,当
業者である電気通信事業者からすれば,原告が本件営業秘密1であると主
張する直収電話サービスに関する原理を認識することができることは明ら
かである。原告の主張は採用することができない。
()よって,本件営業秘密1は,その余の点について判断するまでもなく,営2
業秘密に当たるものと認めることはできず,本件営業秘密1に基づく原告の
請求は理由がない。
2本件営業秘密2について
()本件営業秘密2の有用性と非公知性(争点2-1,2-2)について1
ア原告が主張する本件営業秘密2の内容は,NTT加入者宅からNTT電
話局との間に設置されたメタル(端末)回線(ドライカッパー)において
電話音声帯域(概ね0~4kHz程度)を使用して提供する回線交換方式
による直収電話サービスに関して,原告がNTT東日本及びNTT西日本
との間で交渉し,合意又は確認した事項である。
原告が本件営業秘密2に含まれると主張する別紙2-1「NTT東日本
と平成電電間の相互接続に関する受付等事務処理確認事項(第2版。平」
成15年11月,別紙2-2「NTT西日本と平成電電間の相互接続に)
関する受付等事務処理確認事項(第0・0版。平成15年11月)は,」
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また,原告が本件営業秘密2に含まれると主張する別紙2-3「相互接
続協定変更書(甲20。平成15年7月1日付け。原告とNTT東日本」
との間で締結されたもの)及び別紙2-4「相互接続協定変更書(平成」
15年7月1日付け。原告とNTT西日本との間で締結されたもの)に記
載された内容は,*************************
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****************************さらに,別
紙2-5「東日本電信電話株式会社の音声帯域回線と平成電電株式会社の
音声帯域回線収容装置との接続及びITU-T勧告G.991.2SHD
SL方式のDSLサービス又は直収電話重畳しているDSLサービスを提
供するDSL回線を利用した相互接続に関する事業者間確認事項(平成」
15年7月9日付け)に記載された内容は,*************
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イ不正競争防止法における「営業秘密」とは,秘密管理性と非公知性のほ
かに,有用性,すなわち「生産方法,販売方法その他の事業活動に有用,
な技術上又は営業上の情報(平成17年法律第75号による改正後の同」
法2条6項)であることを要する。したがって,原告の事業活動に役に立
つ技術上又は営業上の情報であるならば,それは,有用性の要件を充足す
ることになるものである。原告が営業秘密2であると主張している上記各
情報は,原告がNTTと交渉して確認した事項であるから,原告が原告サ
ービスを遂行するに当たって,有用な情報であることは明らかである。ま
た,上記情報の中には,公知である原告サービスの構成から当然に推認さ
れる内容や公表された接続約款をそのまま準用するものなどもあるもの
の,原告がNTTと交渉し,確認した上記の相互接続に関する受付等事務
処理確認事項及び相互接続協定変更書並びに相互接続に関する事業者間確
認事項の内容自体は,公表されていないものであり,その確認事項がどの
ようなものであるかは一般に知られているということはできず,その非公
知性も一応認められる。したがって,原告が営業秘密2として主張する上
記各情報はその秘密管理性が肯定されれば不正競争防止法における営,,「
業秘密」として保護されるべきものである。
()被告ソフトバンクによる被告日本テレコムに対する本件営業秘密2の不正2
開示行為の有無(争点9-1)について
原告が本件営業秘密2として主張する上記各情報は,その秘密管理性が肯
定されれば,不正競争防止法における「営業秘密」として保護されるべきも
のであることは前記のとおりである。しかし,本件全証拠によっても,これ
らの情報を被告ソフトバンクが被告日本テレコムに開示したことを認めるに
足りる証拠はない。その理由は次のとおりである。
アNTTは,電気通信事業法上の第一種指定電気通信設備を設置する電気
通信事業者でもあるから,他事業者との接続条件について接続約款を定め
て総務大臣の認可を受けなければならず,他事業者に対し不当な差別的取
扱いをすることは,当該認可の不適合事由とされている(電気通信事業法
33条4項4号。そして,NTTは,電気通信市場における公正競争を)
促進し,電気通信全体の均衡ある発展を図るという観点から,接続約款を
,,,公表し相互接続を行う電気通信事業者に対し相互接続上必要な情報を
(,,,法的保護義務等のあるものを除いて開示している甲16乙1112
27。さらに,電気通信事業者であるNTTが,電気通信設備の接続等)
について他事業者に対し不当な差別的取扱いをすることは,総務大臣によ
る業務改善命令等の対象とされている(電気通信事業法29条1項11
号。)
イ原告が本件営業秘密2に含まれると主張する別紙2-1ないし2-5記
載の上記各情報は,NTTと原告間における相互接続に関する受付等事務
処理確認事項,相互接続協定変更書及びNTTの音声帯域回線と原告の音
声帯域回線収容装置との接続及びDSL回線を利用した相互接続に関する
事業者間確認事項である。これらの情報は,被告日本テレコムが被告サー
ビスを実施しようとする場合には,必然的にNTTと協議しなければなら
ない事項である。そして,NTTは,他事業者に対し不当な差別的取扱を
禁止されているのであるから,公示されている接続約款等に基づき,原告
サービスと基本的な構成を同じくする被告サービスを営む被告日本テレコ
ムに対し,その協議の過程において,本件営業秘密2と基本的に同じ内容
を確認事項案として開示する義務を負う。現に,被告日本テレコムとNT
Tとの交渉内容の経緯に関する電子メールには,NTTが格別交渉すべき
事項を秘匿していたり,交渉に消極的であるかのような記載も見られない
のである(乙42~46。したがって,被告ソフトバンクが本件秘密保)
持契約に反してまで本件営業秘密2を被告日本テレコムに開示する必要性
はほとんどないのである。
ウなお,原告は,回線交換方式の直収電話サービスのパイオニアであるこ
とは事実であり,NTTのドライカッパーを利用したこのような事業を成
立させる過程において,NTTとのさまざまな困難な交渉を経て,ようや
く別紙2-1ないし2-5の各確認事項及び相互接続協定変更書の締結に
至り,その事業を実現するに至ったことは容易に推認することができると
()。,,ころである甲69しかし原告の事業がひとたび実施された以上は
NTTは,原告に続く第2,第3の電気通信事業者に対し,その差別的取
扱をすることを禁じられているのであり,被告日本テレコムやKDDIな
どの他事業者を原告と平等に取り扱わなければならず,これらの他事業者
が原告よりも短期間にNTTと交渉し,上記各確認事項及び相互接続協定
変更書とほぼ同一ないし類似の内容を合意し,その事業を実現することに
なったとしても,特段異とすべきことではない。
()よって,本件営業秘密2に基づく原告の請求は,理由がない。3
3本件営業秘密3について
()本件営業秘密3の有用性,非公知性及び秘密管理性(争点3-1ないし31
-3)について
ア原告が主張する本件営業秘密3の内容は,原告及びNECが協同して,
NTT加入者宅からNTT電話局との間に設置されたメタル(端末)回線
(ドライカッパー)を利用した回線交換方式による直収電話サービス事業
に不可欠なLS交換機を開発した結果,NECが,NTT交換機以外では
国内唯一の当該直収電話サービス事業に適合するLS交換機を製造するこ
とが可能になった事実(NTT以外の通信事業者にとって,これまで事実
上入手不可能であった当該直収電話サービスに適合するLS交換機が,N
ECから調達可能となった事実)である(このうち,原告とNECが共同
して開発したかどうかは,後記のとおり,争いがあるところであるから,
以下,原告サービスに適合するLS交換機をNECから調達したとの事実
を本件営業秘密3として論じる。。)
イ前記1において認定したとおり,本件営業秘密1すなわち原告サービス
の基本的なシステム構成は,平成15年12月1日ころには当業者である
電気通信事業者においては公知であったものであり,原告の回線交換方式
による直収電話サービスにおいて,原告が設置するLS交換機を利用する
ことは公知の事項であった。
,,,,またNECは昭和62年9月16日ころにおいて富士通株式会社
株式会社日立製作所,沖電気工業株式会社と並ぶ通信機メーカー大手4社
として知られており(乙13,昭和52年ころ,LS交換機「NEAX)
61」を発表し(乙14,平成元年5月ころには,同機種の1号機が稼)
動し(乙15,同機種は,昭和61年11月15日ころには,受注累計)
が1000万回線を超え,開局数も1000局を上回り,北米を除く世界
市場においては第2位の地位を占めるに至ったものである(乙16。ま)
た,被告日本テレコムは,平成12年8月11日ころ,NECより,NE
AX61ΣJシリーズの1機種であるNEAX61ΣJ-LSについて,
国内複数のキャリアで採用され,現在稼働中の交換機であると紹介されて
おり,同時点において,同交換機が日本国内において既に複数機稼働して
いることを知っていた(乙17。さらに,被告ソフトバンクの子会社で)
あるソフトバンクBBも,平成16年2月19日ころに計画していた直収
電話サービスであるスパイダープロジェクトにおいて,既にNECのNE
AX61ΣJシリーズを採用することを独自に検討していた(乙18。)
また,UTスターコムは,平成16年4月20日,被告ソフトバンクに対
し,RT装置に接続するLS交換機(加入者線交換機)として,NECの
NEAX61Σシリーズに接続実績があることを他社の2機種と共に紹介
していた(乙19。なお,RT装置として,ルーセント製品も紹介されて
いる。。)
ウ乙1文献,乙2文献,乙3文献及び乙24文献においては,本件交換機
やNEAX61ΣJシリーズが利用されることまでは明記されてはいない
ものの,上記のとおり,NECが少なくとも海外仕様のLS交換機を昭和
52年ころから製造販売し,海外において多くのシェアを獲得するに至っ
ており,被告日本テレコムも,平成12年8月11日ころには,NEAX
61ΣJシリーズが既に国内において交換機として採用されているとの情
報を入手していたのであること,被告ソフトバンクの子会社であるソフト
バンクBBも,平成16年2月19日ころ計画していた直収電話サービス
において,既にNECのNEAX61ΣJを採用することを独自に検討し
ていたことからすれば,本件調査開始当時において,NECが回線交換方
式による直収電話サービスに適合し得るLS交換機であるNEAX61Σ
Jを製造する能力を有すると考えられる有力な国内メーカーであることは
既に業界内において知られていたことであるというべきである。しかし,
原告サービスにおいて,実際にNECのNEAX61ΣJが実用化され,
稼働しているとの事実と,NECが回線交換方式による直収電話サービス
に適合し得るLS交換機であるNEAX61ΣJを製造することが可能な
有力な国内メーカーであることとは,別なことであり,NECが原告サー
ビスに適合するNEAX61ΣJを実際に納入し,これが実用化されてい
るとの本件営業秘密3は,本件調査開始当時において少なくとも有用性を
有する情報であるというべきであり,また,これが公知の情報であったこ
とを認めるに足りる証拠はない。
エしかし,NECが回線交換方式による直収電話サービスに用いるLS交
換機として本件交換機を製造していたとの事実が本件調査当時に知られて
いなかったとしても,NECは,電気通信事業において用いられるLS交
換機の製造能力を有する有力企業の一つであるから,電気通信事業者とし
ては,回線交換方式による直収電話サービスを開始するに当たって,LS
交換機のメーカーとして,国内大手4社の中からLS交換機として大きな
シェアを有しているNEAX61ΣJシリーズを製造販売するNECに対
し問い合わせをすることは極めて自然なことであり,その際に,NECが
同直収電話サービスにおいて採用し得るLS交換機としてNEAX61Σ
Jシリーズを推奨することも当然である。そして,製造メーカーであるN
ECは,本件NEC基本契約(同契約の有効期間は,平成16年4月1日
から同17年3月31日であり,また,その契約締結日は本訴提起後の平
成17年3月11日であって(甲38,原告とNEC間の本件交換機の)
取引基本契約の後に締結された契約であるものの,他に契約書が作成され
ていないこと及び同契約の内容と弁論の全趣旨から,原告とNECとの間
では,本件交換機の開発譲渡については,口頭で同契約と同内容の合意が
なされていたこと,及び,その口頭の合意の内容が同契約により書面で確
認されたものと認める)の21条において「個別契約の履行に関して。,
知り得た相手方の情報」については,守秘義務を負っているものの(甲3
),,8NECにおいて原告サービスに適合するNEAX61ΣJを納入し
これが実用化されているとの情報は,NEC自身の業務実績に関する情報
でもあり,NECが守秘義務を負うべき「個別契約の履行に関して知り得
た相手方の情報」に当たるということはできないのであるから,NECが
上記契約において守秘義務を課されるものではない。したがって,原告サ
ービスに適合するLS交換機であるNEAX61ΣJをNECが納入し,
これが実用化されているとの情報については,NECがその業務実績とし
て電気通信事業者である顧客に開示することができる情報であるから,原
告がこれを秘密として管理することができる情報であると認めることはで
きない。
原告は,原告の代表取締役は,NECに対して,本件営業秘密3に該当
する情報を他事業者に開示しないように依頼している,と主張するが,同
主張事実を認めるに足りる証拠はない。
オ以上によれば,本件調査開始当時に,原告が原告サービスに適合するL
S交換機(NEAX61ΣJ)をNECが製造販売していたことが非公知
であったとしても,NECが原告サービスに適合しうるLS交換機をNE
AX61ΣJシリーズの中から製造販売していたとの情報については,秘
密管理性があると認めることはできない。
()よって,本件営業秘密3は,その余の点について判断するまでもなく,営2
業秘密に当たるものと認めることはできず,本件営業秘密3に基づく原告の
請求は理由がない。
4本件営業秘密4について
()本件営業秘密4の内容について1
原告が主張する本件営業秘密4①は,NTT加入者宅からNTT電話局と
の間に設置されたメタル(端末)回線(ドライカッパー)を利用した回線交
換方式による直収電話サービスにおける当該サービスに適合する本件交換機
の位置付け及び機器構成であり,本件営業秘密4②は,NTT加入者宅から
NTT電話局との間に設置されたメタル(端末)回線(ドライカッパー)を
利用した回線交換方式による直収電話サービスに適合させるための本件交換
機のシステム調整,接続試験その他調整試験等の過程において生じた課題の
内容及びそれに対する対応結果(仕様変更)の内容である。
()本件営業秘密4①の有用性及び非公知性及びその帰属主体(争点4-1,2
4-2)並びに被告ソフトバンクによる被告日本テレコムに対する本件営業
秘密4①の不正開示行為の有無(争点9-1)について
ア原告は,本件営業秘密4①の本件交換機の位置付け及び機器構成は,本
件営業秘密1を用いた直収電話サービスにおける同交換機の意義,機能,
利点及び他の機器との接続に関する事項であり,本件営業秘密4①に含ま
,,,。れる営業秘密として別紙1-13-14-1及び4-2を指摘する
別紙1-1「」には「直収線サービス『平成電BasicInformationPackage,
話』の概要」として,ユーザー,RT装置,LS交換機の位置付けが記載
されており,別紙3-1「Σ御見積書」には,本件交換機の見積が,別紙
4-1「平成電電基幹網ルート図」には,原告における本件交換機の設置
,「」,場所及びネットワーク構成が別紙4-2局舎ごと設備機器一覧には
全国のNTT局舎に配置される原告の設備機器などが記載されている。
イ原告の回線交換方式による直収電話サービスの構成については,1にお
いて認定したとおり,乙2文献において,原告の基本的なシステム構成,
すなわち,NTTからドライカッパーを借り受け,NTTの各地域局舎に
ルーセント製のRT装置を設置し,原告の東京局及び大阪局の2か所のみ
にLS交換機を設置するとの構成が開示されており,本件交換機の基本的
な位置付け及び機器構成が開示されている(ただし,別紙4-1及び4-
2に記載されているような,NTTのどの地域局舎に具体的にどのような
機器を設置するかということまでは開示されていない。よって,原告。)
が主張する本件営業秘密4①における本件交換機の位置付け及びその機器
構成のうち,その基本的な位置付け及び機器構成は既に公知となっている
ことから,その非公知性が認められないことは明らかである。
ウ本件交換機の具体的な位置付け及びその機器構成(別紙4-1及び4-
2に開示されているような,NTTのどの局舎に具体的にどのような機器
を設置するということ)と別紙3-1の本件交換機とその機器構成の見積
価格については,これが公知であることを認めるに足りる証拠はなく,そ
の非公知性を肯定することができる。また,これらの具体的な本件交換機
の位置付け及び機器構成とその見積価格は,原告の事業にとって役に立つ
情報であるから,その有用性も肯定することができ,その秘密管理性を認
めることができれば,これを不正競争防止法における営業秘密として保護
すべきである。
しかし,前記1認定のとおり,乙2文献において,原告の基本的なシス
テム構成,すなわち,NTTからドライカッパーを借り受け,NTTの各
地域局舎にルーセント製のRT装置を設置し,原告の東京局及び大阪局の
2か所のみにLS交換機を設置するとの構成が開示されており,本件交換
機と本件RT装置の基本的な位置付け及び機器構成が開示されているこ
と,及び,前記3において認定したとおり,NECが回線交換方式による
直収電話サービスに適合し得るLS交換機であるNEAX61ΣJを製造
販売する能力を有すると考えられる有力な国内製造メーカーであること
が,遅くとも本件調査開始前において,電気通信事業者間では十分に知ら
れていた情報であったこと,並びに,NTTが接続約款などでNTTとの
相互接続に関する情報を開示していることからすると,電気通信事業者に
とって,回線交換方式による直収電話サービスにおけるLS交換機やRT
装置等の具体的な機器構成については,NECやルーセント等の製造メー
カーとの協議などによって具体的に決定し得る事項であり,また,その価
格については,製造メーカーからの見積もりにより容易に判明する情報で
あるというべきである。また,回線交換方式による直収電話サービスにお
けるLS交換機やRT装置等の具体的な機器構成及びその見積価格につい
ては,各事業者の基幹網ルートや予想される音声データ等のトラフィック
量に従って,各事業者と各製造メーカーとの間で協議の上で決定されるべ
きことであるから,原告の基幹網ルートや予想される音声データ等のトラ
フィック量を前提とした具体的な機器構成やその見積価格が,他の事業者
にとって,直接的に利用し得る有用な情報となるわけでもない。
したがって,これらの情報は,基幹網ルートや予想される音声データ等
のトラフィック量などの前提となるものが異なる被告らにとっては,直接
的に有用な情報であるということはできず,また,上記のとおり,製造メ
ーカーとの協議や見積もりにより決定され,あるいは,判明する事柄であ
るから,被告ソフトバンクがこれを本件秘密保持契約に反し,被告日本テ
レコムに開示する必要性もないというべきである。本件営業秘密4①にお
ける本件交換機の具体的な位置付け及び具体的な機器構成に関する情報に
ついては,本件全証拠を検討しても,これを被告ソフトバンクが被告日本
テレコムに開示したことを認めるに足りる証拠はない(なお,被告ソフト
バンクによる被告日本テレコムに対する本件一体的営業秘密ないしその一
部の不正開示行為があったとは認められないことの詳細については,後記
7認定のとおりである。。)
()本件営業秘密4②の有用性及びその帰属主体(争点4-1)並びにNEC3
による本件営業秘密4②の不正開示行為の有無(争点9-2)について
ア本件営業秘密4②は,原告が本件交換機のシステム調整,接続試験及び
調整試験を行った過程で生じた課題の内容とその対応結果(仕様変更)の
内容であり,本件交換機におけるCPU処理能力不足,ISDN回線にお
ける不具合,NTTにより提供されている交換機付加機能と同様のサービ
スが提供できないという問題点に対して,本件交換機のハードウェア及び
ソフトウェアを改良したことをその内容とするものであり,原告の事業に
とって役に立つ情報であるから,その有用性を肯定することができる。
しかし,原告とNECとの本件NEC基本契約においては,原告とNE
Cが共同でなした発明,ノウハウ等の技術的成果は,両者の共有とし,そ
れぞれ,相手方の了承も,対価の支払いもなく自ら実施することができる
こと,及び,単独でなした発明及びノウハウは,当該発明等をなした者に
単独で帰属すること,並びに,コンピュータ・ソフトウエアに係る著作権
は,原則として,NECに帰属することが定められている(甲38,同契
)。,約書14条ないし16条参照本件NEC基本契約のこの条項によれば
NECが単独でなした発明及びノウハウはNECに単独で帰属するのであ
り,仮に,注文者である原告が本件交換機を導入後に試験を行い,その能
力を評価,検証し,課題ないし解決方法について助言をしたとの貢献によ
り当該ノウハウについてNECと共同発明者であると評価することができ
る場合があるとしても,上記契約によれば,NECは,単独でこのノウハ
ウを実施することができるのである。また,コンピュータ・プログラムの
著作権については,その権利はすべてNECに帰属する。
そして,原告が,共同開発の根拠として提出するNECが作成した各文
書(甲47~49,原告とNEC間の電子メール(甲57~61)の中)
には,原告が不具合を指摘し,NECに対応を依頼している内容を含むも
のがあるものの,技術的な対応策については,いずれもNECにより提案
されているものであるから(NECは,本件RT装置の機能追加,変更及
び問題点の対処についても対応しているものである。甲49,注文者。)
が自らが導入した機器について不具合が生じ,メーカーに対し対応を求め
たことをもって,注文者である原告を本件交換機に関するノウハウ(本件
営業秘密4②)について共同開発者とみることは原則として困難である。
NECが原告による課題の指摘に応じて,本件交換機のハードウエア及び
ソフトウエアに改良を加え,本件交換機に関して何らかの有益なノウハウ
,,を得たとしてもそれは原則としてNECが自社で製造した製品について
製造メーカーとして単独で発明したノウハウであると解すべきである。
以上によれば,NECが本件交換機の開発譲渡の際に,単独で,あるい
は,原告と共同で何らかのノウハウを取得し,その一部ないし全部を被告
日本テレコムに対し開発譲渡したLS交換機に利用したことがあったとし
,,てもこれはNECが原告の了承を得ずに単独でなし得ることであるから
原告は,製造メーカーとしてのNECが顧客である被告日本テレコムに対
しLS交換機(NEAX61ΣJ)を開発譲渡することを禁止する権利を
何ら有しないものである。すなわち,本件営業秘密4②は,原則として原
告が有する営業秘密であるということができず,仮に,その一部に,原告
とNECが共同で開発し保有する営業秘密が含まれるとしても,NECは
製造メーカーとしてこれを単独で実施し得るのであり,NECからその開
発されたLS交換機(NEAX61ΣJ)を譲り受けた被告日本テレコム
に対し,原告が不正競争防止法に基づき,その固定電話サービスの営業の
差止めを求める請求は理由がないことが明らかである。
イ原告は,本件NEC基本契約に基づいて,原告がNECと本件交換機を
共同開発したものであり(同契約14条参照,NECはそのノウハウに)
ついて秘密保持義務(21条)を負担しているとも主張する。
しかし,原告がNECと本件交換機を共同開発したと認めるに足りる十
分な証拠がないことは上記のとおりであるし,また,仮に,原告がNE
Cと共同開発したとしても,NECがこれを単独で実施することができる
。,()ことも上記のとおりであるまた同契約における秘密保持条項21条
,()も同契約及び個別の契約の履行に関して知り得た相手方すなわち原告
の情報であって,かつ,秘密である旨明示されたものを第三者に開示ない
し漏洩してはならないことを定めた規定であり(甲38,本件交換機に)
関する本件営業秘密4②は,むしろこれを開発したNECが保有する情報
であるということはできても,同契約において,原告からNECに対し秘
密であると明示された情報に当たることを認めるに足りる証拠はないので
,。あるから原告の上記主張を採用することができないことは明らかである
なお,原告は,本件交換機設置の際のシステム調整の過程において生じ
た課題の内容自体も本件営業秘密4②に含まれると主張する。しかし,契
約に特段の合意がない限り,製造メーカーであるNECが発注者である原
告からの要求に応じて仕様を変更し,改修,改良した過程で取得したノウ
ハウについては,製造メーカーであるNECがこれを取得すべきものであ
り,NECは,原告のシステムに関する秘密を保持する義務を負うとして
も,本件交換機のハードウエア及びソフトウエアに関し,自己が開発した
ノウハウを単独で実施することができると解すべきことは,前述のとおり
である。
()よって,本件営業秘密4に基づく原告の請求は,その余の争点について判4
断するまでもなく,理由がない。
5本件営業秘密5について
()本件営業秘密5の内容について1
原告が主張する本件営業秘密5①は,NTT加入者宅からNTT電話局と
の間に設置されたメタル(端末)回線(ドライカッパー)を利用した回線交
換方式による直収電話サービスにおける本件RT装置の位置付け及び機器構
成であり,本件営業秘密5②は,NTT加入者宅からNTT電話局との間に
設置されたメタル(端末)回線(ドライカッパー)を利用した回線交換方式
による直収電話サービスに適合させるための本件RT装置のシステム調整,
接続試験その他調整試験等の過程において生じた課題の内容及びそれに対す
る対応結果(仕様変更)の内容である。
()本件営業秘密5①の有用性,非公知性及びその帰属主体(争点5-1,52
-2)並びに被告ソフトバンクによる被告日本テレコムに対する不正開示行
為の有無(争点9-1)について
ア原告は,本件営業秘密5①における本件RT装置の位置付け及び機器構
成は,本件営業秘密1を用いた直収電話サービスにおける本件RT装置の
意義,機能,利点及び他の機器との接続に関する事項であり,本件営業秘
,「」,密5①に含まれる営業秘密として別紙1-1BasicInformationPackage
別紙1-2「平成電話収容の考え方,別紙1-3「平成電話の交換機」
Anyへの収容方法,別紙4-2「局舎ごと設備機器一覧,別紙5-1「」」
別紙5-2別紙5-3実装状況別紙5-4発MediaAceMap」,「」,「」,「
注申請書等(一式,別紙5-5「発注申請書等(保AnyMediaAnyMedia)」
守予備品」を指摘する。本件営業秘密4①と同様に,上記各別紙には,)
原告サービスにおける本件RT装置の位置付け(別紙1-1ないし1-
3,NTT局舎毎の具体的な機器構成とその設置場所(別紙4-2,5)
-3,本件RT装置の価格(発注価格)及び保守予備品(別紙5-1,)
5-4,5-5,ネットワーク構成(別紙1-1,の価格(別))Acemap
紙5-2)などが記載されている。
イ原告の回線交換方式による直収電話サービスの構成については,1にお
いて認定したとおり,乙2文献において,原告の基本的なシステム構成,
すなわち,NTTからドライカッパーを借り受け,NTTの地域局舎にR
T装置を設置し,原告の東京局及び大阪局の2か所のみにLS交換機を設
置するとの構成のみならず,本件RT装置がルーセント製であり,1台約
200万円程度であることを含めて,原告サービスにおける本件RT装置
の位置付けと価格及び基本的なシステム構成は開示されている(ただし,
別紙4-2,5-1ないし5-5に記載されているような,NTTのどの
局舎に具体的にどのような機器を設置するということまで開示されていな
い。よって,原告が主張する本件営業秘密5①における本件RT装置。)
の位置付け及び機器構成のうち,その基本的な位置付け及び機器構成は既
に公知となっていることから,その非公知性が認められないことは明らか
である。
ウまた,本件RT装置の具体的な位置付け及びその機器構成とその価格並
びに保守予備品(別紙4-2,5-1ないし5-5に記載されているよう
な,NTTのどの局舎に具体的にどのような機器を設置するということ)
については,これが公知であることを認めるに足りる証拠はなく,その非
公知性を肯定することができる。また,これらの具体的な本件RT装置の
位置付け及びその機器構成とその価格は,原告の事業にとって役に立つ情
報であるから,その有用性も肯定することができ,その秘密管理性を認め
ることができれば,これを不正競争防止法における営業秘密として保護す
べきである。
しかし,前記1認定のとおり,乙2文献において,原告の基本的なシス
テム構成,すなわち,NTTからドライカッパーを借り受け,NTTの各
地域局舎にルーセント製のRT装置を設置し,原告の東京局及び大阪局の
2か所のみにLS交換機を設置するとの構成が開示されており,本件RT
装置及びLS交換機の基本的な位置付け及び機器構成が開示されているこ
と,及び,前記3において認定したとおり,NECが回線交換方式による
直収電話サービスに適合し得るLS交換機であるNEAX61ΣJを製造
販売する能力を有すると考えられる有力な国内製造メーカーであること
が,遅くとも本件調査開始前において,電気通信事業者間では十分に知ら
れていた情報であったこと,並びに,NTTが接続約款などでNTTとの
相互接続に関する情報を開示していることからすると,電気通信事業者に
とって,回線交換方式による直収電話サービスにおけるLS交換機やRT
装置等の具体的な機器構成や保守予備品については,NECやルーセント
等の製造メーカーとの協議などによって具体的に決定し得る事項であり,
また,その価格については,製造メーカーからの見積もりにより容易に判
明する情報であるというべきである。また,回線交換方式による直収電話
サービスにおけるLS交換機やRT装置等の具体的な機器構成及びその見
積価格については,各事業者の基幹網ルートや予想される音声データ等の
トラフィック量に従って,各事業者と各製造メーカーとの間で協議の上で
決定されるべきことであるから,原告の基幹網ルートや予想される音声デ
ータ等のトラフィック量を前提とした具体的な機器構成やその見積価格
が,他の事業者にとって,直接的に利用し得る有用な情報となるわけでも
ない。
したがって,これらの情報は,基幹網ルートや予想される音声データ等
のトラフィック量などの前提となるものが異なる被告らにとっては,直接
的に有用な情報であるということはできず,また,上記のとおり,製造メ
ーカーとの協議や見積もりにより決定され,あるいは,判明する事柄であ
るから,被告ソフトバンクがこれを本件秘密保持契約に反し,被告日本テ
レコムに開示する必要性もないというべきである。本件営業秘密5①にお
ける本件交換機の具体的な位置付け及び具体的な機器構成に関する情報に
ついては,本件全証拠を検討しても,これを被告ソフトバンクが被告日本
テレコムに開示したことを認めるに足りる証拠はない(なお,被告ソフト
バンクによる被告日本テレコムに対する本件一体的営業秘密ないしその一
部の不正開示行為があったとは認められないことの詳細については,後記
7認定のとおりである。。)
()本件営業秘密5②の有用性及びその帰属主体(争点5-1)及びルーセン3
トによる本件営業秘密5②の不正開示行為の有無(争点9-2)について
ア本件営業秘密5②は,原告サービスに適合させるための本件RT装置
()のシステム調整,接続試験その他の調整試験等の過程におAnyMedia
いて生じた課題の内容及びそれに対する対応結果(仕様変更)の内容であ
り,具体的には,のダイヤルパルス信号読取方式が国内向けでAnyMedia
はなかったことに伴う変更や,加入者宅内の避雷器誤作動に対応したこと
などがその内容である。
しかし,新たな通信ネットワークにRT装置を導入した場合,当該機種
と当該ネットワークの仕様が異なる場合,製造メーカーがそれに対応する
,。,仕様を設定することはむしろ当然に予定されていることであるそして
原告サービスのシステム構成を前提とした不具合について,発注者である
原告の要求に応じ,製造メーカーであるルーセントがRT装置の譲渡契約
上の義務としてなしたRT装置の仕様の変更や改良についてのノウハウ
,,,は原告とルーセント間の譲渡契約に特段の合意がない限り原則として
製造メーカーであるルーセントが,これを自社のノウハウとして保持する
ことができるものであり,ルーセントが他事業者からの発注品について必
要な限度でそのノウハウを実施することを禁止すべき契約上の義務を負っ
ていたものと解すべき理由はない(このことは,ルーセントが取得したノ
ウハウが,発注者の仕様変更や改良の注文に応じた結果なされたものであ
るとしても,それがルーセントにより開発されたものである限り,ルーセ
ントに帰属すべきものと解すべきである。上記特段の合意を認めるに。)
足りる証拠はない本件においては,ルーセントがRT装置を原告に譲渡し
た際に,発注者からの要望に応じた仕様変更又は改良により,何らかのノ
ウハウを開発し取得し,被告日本テレコムに対し譲渡したRT装置にその
ノウハウの一部ないし全部を実施したことがあったとしても,これは本来
ルーセントが原告の了承を得ずになし得ることであると解すべきである。
以上によれば,原告は,ルーセントが被告日本テレコムに対し,上記ノ
ウハウを必要な範囲で実施したRT装置を譲渡することを禁止する権利を
何ら有しないものであり,ルーセントからRT装置を譲り受けた被告日本
テレコムに対し,原告が不正競争防止法に基づき,その固定電話サービス
の営業の差止めを求める請求は理由がないことが明らかである。
イ原告は,ルーセントとの間でも,本件NEC基本契約と同様の合意がさ
れており,自らルーセントに対して具体的な仕様を開示し,改修,改良の
指示をしていたと主張する。しかし,製造メーカーであるルーセントから
原告に対して,本件RT装置の各種仕様について種々の事項が記載された
提案書が存在するものの(甲40。なお,同提案書は,NECに対しても
交付されており,争点4において述べたとおり,NECは,本件RT装置
,。),の仕様を前提として本件交換機に対する仕様変更を行ったものである
原告がルーセントに対し,仕様を開示し,改修,改良の指示をしていたこ
とを認めるに足りる証拠はない。また,原告とルーセントとの間に本件N
EC基本契約と同趣旨の契約が存在していたとしても,ルーセントが本件
RT装置の仕様変更,改修,改良に関して,製造メーカーとして自ら開発
し,取得したノウハウを,他事業者にRT装置を譲渡する際に,必要な範
囲でこれを実施することができないとは認められないことは,前記4にお
いて認定したとおりである。
なお,原告は,本件RT装置設置の際のシステム調整の過程において生
じた課題の内容自体も本件営業秘密5②に含まれると主張する。しかし,
契約に特段の合意がない限り,製造メーカーであるルーセントが発注者で
ある原告からの要求に応じて仕様を変更し,改修,改良した過程で取得し
たノウハウについては,製造メーカーであるルーセントがこれを取得すべ
きものであり,ルーセントは,原告のシステムに関する秘密を保持する義
務を負うとしても,RT装置のハードウエア及びソフトウエアに関し,自
己が開発したノウハウを単独で実施することができると解すべきことは,
前述のとおりである。
()よって,本件営業秘密5に基づく原告の請求は,その余の争点について判4
断するまでもなく,理由がない。
6本件営業秘密6及び7について
()本件営業秘密6の有用性及び非公知性(争点6-1,6-2)について1
ア原告が主張する本件営業秘密6の内容は,原告サービスの利用状況,収
支状況,当該サービスを提供するために導入している設備,機器,装置及
び備品等に関する設置状況及び費用情報,その他直収電話サービス事業の
収益性・採算性の検討及び判断に有用な情報である。その例示としてあげ
AM32DSLAMAnyられているものとして別紙6-1()別紙5-1,「」,「
,別紙5-2「,別紙3-1「Σ御見積書,別紙6-2MediaAceMap」」」
「コロケーション・スペース費用<東日本>,別紙6-3「NTTコミ」
ュニケーションズ(コロケーション,別紙6-4「IP-VPNフレ)」
ームリレー,別紙6-5「ギガウェイ,別紙6-6「ダークファイバ」」
ーTOKAI・KDDI(TOKAI・KDDIが保有するダークファイ
バー,別紙6-7「ダークファイバーNTT東日本(NTT東日本が)」
保有するダークファイバー,別紙6-8「ダークファイバーNTT西)」
日本(NTT西日本が保有するダークファイバー,別紙4-1「平成)」
電電基幹網ルート図,別紙6-9「平成電電基幹網,別紙4-2「局」」
舎ごと設備機器一覧,別紙5-3「実装状況,別紙5-4「発注申請」」
書等(一式,別紙5-5「発注申請書等(保守予備AnyMediaAnyMedia)」
品,別紙6-10「マイラインと直収線の収益性の比較,別紙6-1)」」
1「CHOKKA3月,別紙6-12「平成電電番号利用状況,」」
別紙6-13「サービス申込承諾書(NTTコミュニケーショColocation
ンズ,別紙6-14「自前保守に係るコロケーション・スペース利用)」
に関する個別契約書,別紙6-15「コロケーション・スペース費用<」
西日本>,別紙6-16「光ファイバケーブル芯線に関するIRU設定」
個別契約書」がある。
イ本件営業秘密6中の,別紙6-15のコロケーション・スペース費用に
関する情報,別紙6-7及び6-8のダークファイバーに関する各種情報
については,NTTは,NTTと守秘義務契約又は相互接続協定を締結し
た電気通信事業者に対してのみ,コロケーションやダークファイバーに関
する情報の開示を行っているものであるから(甲64,乙11,12,)
この情報については,守秘義務を負った特定の者についてのみ公開されて
いるものとして,その非公知性を肯定することができ,また,原告の事業
活動に役に立つものであるから,その有用性も肯定することができる。ま
た,別紙6-5の「ギガウェイ」及び別紙6-16の「光ファイバケーブ
ル芯線に関するIRU設定個別契約書」に記載された内容についても,N
TTと交渉すれば自ずと明らかになる可能性のある情報であるものの,こ
れが公知であると認めるに足りる証拠はない。
また,別紙3-1「Σ御見積書」のように,各種機器の見積もり金額な
ど,製造メーカーなどに見積もりを依頼すれば容易に判明する情報につい
ては,具体的な機器構成が異なる他事業者にとっての有用性については疑
問が残るところである。しかし,本件交換機や本件RT装置の付属品の種
類及びその価格,原告サービスのネットワーク構成,原告サービスの収支
,,,,,に関する情報すなわち月間売上高原価粗利益に関する収支の比較
特定月の売上高,割引適用による減額料,開通済み回線数,解約数,顧客
別請求額一覧,回線数,課金開始日,利用料金額,実請求金額などの情報
については,その有用性もあり,一般的に公開されているものでもないか
ら,秘密管理性の要件を満たせば,営業秘密として保護されるべき情報が
含まれているものと認められる。
()本件営業秘密7の有用性及び非公知性(争点7-1,7-2)について2
ア本件営業秘密7の内容は,原告のネットワークアーキテクチャーに関す
る情報であり,原告サービスの幹網ルート図,基幹網,基軸網(東京都内
イメージ図,局舎ごと設備機器一覧などである。その例示として挙げら)
れているものとして,別紙4-1「平成電電基幹網ルート図,別紙6-」
9「平成電電基幹網,別紙7-1「基軸網(東京都内イメージ図」及」)
び別紙4-2「局舎ごと設備機器一覧」がある。
イこのうち,別紙4-1「平成電電基幹網ルート図」については,平成1
6年6月25日現在の内容を基準に作成された原告サービスのパンフレッ
ト(甲2)において「全国基幹網の構築全国基幹網11,000Km,
以上地域網20,000Kmのネットワーク完成」との説明と共に,。
その概略が一般に公開されているところである。しかし,別紙4-1の2
枚目,及び,別紙4-2「局舎ごと設備機器一覧,別紙6-9「平成電」
電基幹網」並びに別紙7-1「基軸網(東京都内イメージ図」などにつ)
いては,これらが公知であることを認めるに足りる証拠はなく,非公知で
あると認められ,その情報としての有用性も認められるから,秘密管理性
の要件を満たせば,不正競争防止法における営業秘密として保護されるべ
きものということができる。
()被告ソフトバンクによる被告日本テレコムに対する本件営業秘密6及び73
の不正開示行為の有無(争点9-1)について
被告ソフトバンクが,本件調査において,本件営業秘密6及び7の一部を
原告から開示を受けたことは,当事者間に争いがない。そして,本件営業秘
密6及び7には,①原告サービスにおいて使用されている設備,機器及び費
用情報,②原告サービスの収益性,採算性に関する情報,③原告サービスの
ネットワーク構成に関する情報が含まれる。
しかし,前記1認定のとおり,原告サービスの基本的なシステム構成,す
なわち,NTTからドライカッパーを借り受け,NTTの各地域局舎にルー
セント製のRT装置を設置し,原告の東京局及び大阪局の2か所のみにLS
交換機を設置するとの構成が公知であったことからすれば,①原告サービス
において使用されている設備,機器及び費用情報,並びに,③原告サービス
のネットワーク構成に関する情報については,被告日本テレコムは,これら
の情報がなくとも,その基幹網ルート及び予想される音声データ等のトラフ
ィック量を前提として,NECやルーセントなどの製造メーカーと具体的な
機器構成を協議し,また,その費用を見積もらせることにより,被告日本テ
レコム独自の具体的な機器構成によるネットワークを構築することになるこ
とは,前記認定のとおりである。また,②原告サービスの収益性,採算性に
関する情報についても,同種のサービスを営む予定の被告日本テレコムにと
って参考となる有用な情報であるということができるものの,具体的な機器
構成及び予想される音声データ等のトラフィック量などが異なる被告日本テ
レコムにとって,必ず必要な情報であるということもできない。
したがって,本件営業秘密6及び7の各情報は,基幹網ルートや予想され
る音声データ等のトラフィック量などの前提となるものが異なる被告らにと
っては,直接的に有用な情報であるということはできず,また,上記のとお
り,製造メーカーなどとの協議や見積もりにより決定され,あるいは,判明
する事柄であるから,被告ソフトバンクがこれを本件秘密保持契約に反し,
被告日本テレコムに開示する必要性もないというべきである。本件営業秘密
6及び7における情報については,本件全証拠を検討しても,これを被告ソ
フトバンクが被告日本テレコムに開示したことを認めるに足りる証拠はない
(なお,被告ソフトバンクによる被告日本テレコムに対する本件一体的営業
秘密ないしその一部の不正開示行為があったとは認められないことの詳細に
ついては,後記7認定のとおりである。。)
7本件一体的営業秘密ないしその一部の不正開示行為について
()本件一体的営業秘密の非公知性及び有用性(争点8-1,8-2)につい1

原告は,本件営業秘密2,3,4①,5①,6及び7(本件一体的営業秘
密)は,これを一体としてみたときに,本件営業秘密1を用いた直収電話サ
ービスを現実のビジネスとして実現させるために有用な情報である,具体的
には,本件営業秘密2は,同サービスを制度上実現するために必要な情報で
あり,本件営業秘密3,4①,5①及び7は,技術上実現するために必要な
情報であり,本件営業秘密6は,採算上実現可能性を判断するために必要な
情報であって,それらが互いに有機的に結びつき,有機的一体として1個の
営業秘密を構成する,と主張する。前記認定のとおり,本件営業秘密2,4
①,5①,6及び7は,それら単独でも有用性及び非公知性の要件を充足す
るものを含むものであるから,本件一体的営業秘密は,全体として,有用性
及び非公知性の要件を充足するものであることは明らかであり,秘密管理性
の要件も充足すれば,これを営業秘密として保護すべきものであることは当
然である。
()本件一体的営業秘密ないしその一部の被告ソフトバンクによる被告日本2
テレコムに対する不正開示行為(争点9-1)について
原告は,被告ソフトバンクは,本件調査を通じて,原告から,本件一体的
営業秘密を一括して入手し,それをそのまま被告日本テレコムに開示したこ
とにより,被告日本テレコムをして極めて短期間で本件営業秘密1を用いた
直収電話サービスである被告サービスを実現させた,と主張し,また,被告
ソフトバンクから被告日本テレコムに対する本件各営業秘密の不正開示行為
があったことを裏付ける最大の根拠は,被告サービスが,原告サービスとそ
の基本的仕組み及び機器構成において同一であり,サービスの特徴において
もほぼ同一であることである,とも主張する。
アそこで,原告サービスと被告サービスの同一性について検討する。
)原告サービスと被告サービスは,その基本的なシステム構成においてa
同一である。すなわち,原告サービスも,被告サービスも,いずれもN
TT加入者線であるドライカッパーを利用した回線交換方式による直収
電話サービスであること,つまり,音声を①ユーザー宅から局内加入者
線収容装置までの間は,ドライカッパーの概ね0~4kHz程度の音声
帯域を使用して伝送し,②これをNTTのGC(NTT局舎)に設置し
たRT装置に集線した上で,③回線制御方式でLS交換機へ伝送すると
いう点で,全く同じ構造を有する電話サービス(本件営業秘密1の基本
原理を用いた直収電話サービス)であることは,争いがない。
しかし,前記1認定のとおり,甲1文献,乙1文献,乙2文献,乙3
文献,乙22文献及び乙24文献により開示されている各事項を総合す
ると,原告サービスのシステム構成が,NTT加入者宅からNTTの地
域電話局との間に設置されたドライカッパーを,その電話音声帯域(4
),()kHz以下を含んでNTTから借り受けNTTのGCNTT局舎
にルーセント製のRT装置(1台200万円程度)を設置し,これと東
京と大阪の2か所に設置したLS交換機とを光ファイバー経由で接続す
るとのネットワーク構成を構築した上で,同回線において電話音声帯域
を使用する回線交換方式による直収電話サービスを行うことであること
は,遅くとも平成15年12月1日ころには当業者である電気通信事業
者においては公知であったというべきであるから,原告サービスと被告
サービスとが上記のような基本的システム構成において同一であって
も,このことにより,被告ソフトバンクが本件一体的営業秘密ないしそ
の一部(本判決において営業秘密性がないと判断されたものを除く。以
下同じ)を被告日本テレコムに開示したものと認めることができない。
ことは明らかである。
)NTTのどのGC(NTT局舎)にRT装置を設置するか,その他のb
機器や保守用備品をどの程度備えるかなどの,具体的なネットワーク構
成については,各電気通信事業者が,その基幹網ルートや予想される音
声データ等のトラフィック量を前提として,製造メーカーとの協議など
によって容易に具体化し得る構成であるとともに,平成13年時点で,
既に中継電話サービスを実施しており,総延長約1万キロメートルに達
(),する自前の光ファイバー網を有していた被告日本テレコムも乙20
具体的な機器構成としては原告とは異なる具体的な機器構成を独自に構
築することになることは当然である。
)原告サービスと被告サービスとにおいては,そのサービスや機器構成c
においてに次のような差異も存する。すなわち,①00xyにかかる国
際電話の取扱い,UUI(ユーザー間情報通知サービス,任意チャネ)
ル着信サービス,移転トーキ案内について相違し,また,②原告サービ
スにおける本件RT装置と,被告サービスにおいて当初から使用された
AGWは,加入者線を集線する装置である点では共通しているものの,
本件RT装置はE1用のインターフェースしか有しないのに対し,AG
Wは,IP及びSTM-1用のインターフェースも有する点で異なり,
,,(。さらに③原告サービスはISDNのBRI回線BasicRateInterface
)(),乙39の提供方式においてEC方式海外仕様を採用しているため
コンバータが必要となるが,被告サービスでは,コンバータは不要であ
る点でも異なるものである(乙18,39,弁論の全趣旨。)
)以上からすれば,原告サービスと被告サービスは,その基本的なシスd
テム構成において同一であるものの,具体的な機器構成及びそのサービ
スの内容において差異があり,このような差異があることは,被告日本
テレコムが独自にそのシステムの構築を行ったことを推認させるもので
ある。
イ次に,被告日本テレコムが極めて短期間で被告サービスの提供を開始し
たか否かにつき,検討する。
,,a)被告ソフトバンクは平成16年5月20日に本件調査を終了した後
同月25日に原告との買収交渉を打ち切り,同年7月30日には,被告
日本テレコムを買収して100%子会社としたこと,被告日本テレコム
は,平成16年8月30日「おとくライン」との名称で回線交換方式,
による直収電話サービス(被告サービス)を同年12月1日から開始す
る旨発表し,実際に同サービスを提供していることは,前提事実におい
て認定したとおりである。
,,,b)しかしながら前記認定のとおり①原告サービスのシステム構成が
NTT加入者宅からNTTの地域電話局との間に設置されたドライカッ
パーを,その電話音声帯域(4kHz以下)を含んでNTTから借り受
け,NTTのGC(NTT局舎)にルーセント製のRT装置(1台20
0万円程度)を設置し,これを東京と大阪の2か所に設置したLS交換
機と光ファイバー経由で接続するとのネットワーク構成を構築した上
で,同回線において電話音声帯域を使用する回線交換方式による直収電
話サービスを行うことであることは,遅くとも平成15年12月1日こ
ろには当業者である電気通信事業者においては公知であったこと,②原
告の事業がひとたび実施された以上は,NTTは,原告に続く第2,第
3の電気通信事業者に対し,その差別的取扱をすることを禁じられてい
るのであり,被告日本テレコムやKDDIなどの他事業者を原告と平等
に取り扱わなければならず,その結果,これらの他事業者が原告よりも
短期間にNTTと交渉し,NTTとの相互接続に関する確認事項及び相
互接続協定変更書を合意し,その事業を実現することが容易となってい
たこと,③被告日本テレコムは,平成12年8月11日には,NECか
ら,NEAX61ΣJが国内複数のキャリアで採用され,現在稼働中の
交換機であるとの説明を受けており,被告ソフトバンクの子会社である
ソフトバンクBBも,平成16年2月19日ころ計画していた直収電話
サービスにおいて,既にNECのNEAX61ΣJを採用することを独
自に検討していたこと,及び,NECにおいて原告サービスに適合する
NEAX61ΣJを納入し,実用化したとの情報は,NEC自身の業務
実績に関する情報でもあり,NECが原告との本件NEC基本契約にお
,,いて守秘義務を負うべき情報ではないこと④電気通信事業者にとって
回線交換方式による直収電話サービスにおけるLS交換機やRT装置等
の具体的な機器構成については,その基幹網ルートや予想される音声デ
ータ等のトラフィック量を前提として,NECやルーセント等の製造メ
,,ーカーとの協議などによって比較的容易に決定し得る事項でありまた
NECやルーセントが被告日本テレコムに納入したNEAX61ΣJや
RT装置が,NECやルーセントが原告に対しNEAX61ΣJやRT
装置を納入し,実用化したときの経験やノウハウを生かした装置であっ
たとしても,NECやルーセントにおいて,自己の製品を自己のノウハ
ウを実施して製造販売する限りにおいては,原告との関係で秘密保持義
務違反に問われることはないこと,並びに,⑤KDDIが,被告日本テ
レコムに続き,平成16年9月15日に,回線交換方式による直収電話
サービスである「メタルプラス」を同年12月から開始するとの発表を
していること(乙21)からすれば,電気通信事業者としてKDDIと
同じような経験と技術力を有する被告日本テレコムが,KDDIと同じ
ような時期に原告サービスを開始したとしても特に異とすべきことでは
ないこと,以上からすれば,被告日本テレコムが,回線交換方式による
直収電話サービスのパイオニアである原告と比べて短期間で被告サービ
スの提供を開始したとしても,パイオニアである原告とは上記のように
さまざまな状況が異なるのであるから,このことをもって,被告ソフト
バンクが被告日本テレコムに本件一体的営業秘密ないしその一部を不正
に開示したということはできない。
ウ原告は,本件一体的営業秘密ないしその一部が被告日本テレコムに対し
て不正開示されたことを示す事情として,①平成16年7月30日時点に
,,,おいて本件調査に関与していた被告ソフトバンクの取締役であるAB
Cの3名が共通して被告日本テレコムの取締役に就任していること,②被
告日本テレコムは,被告サービス開始後の平成17年2月25日ころ,本
件RT装置を導入したこと,③本件調査において本件各営業秘密を入手し
た被告ソフトバンクが中心となって,被告サービスの発表を行っているこ
とを挙げる。
しかし,被告らの取締役が共通であるから直ちに被告ソフトバンクから
被告日本テレコムに対し,本件秘密保持契約に反し,本件各営業秘密の不
正開示行為があったと認めることができないことは当然であり,また,被
告サービスにおいて,当初,ルーセントのRT装置ではなく,AGWが使
用されていたことは,むしろ,本件各営業秘密の不正開示行為がなかった
ことを推認させる要素であり,さらに,被告日本テレコムによる被告サー
ビスの発表をその親会社である被告ソフトバンクがなしたとしても,これ
をもって本件各営業秘密の不正開示行為の根拠とすることは到底できない
ところである。
エ以上によれば,被告ソフトバンクは,原告の買収や事業提携に必要不可
欠な情報として,本件調査により,原告の財務状況,業務内容,リスク,
将来性に関する資料の提出を求めたのであり,本件調査の結果,原告の企
業価値を原告が希望する買収価格で評価することは困難なことであると判
断したため,原告の買収を断念したものと推認することができ,被告ソフ
トバンクが本件各営業秘密を被告日本テレコムに不正開示するために,本
。,,件調査を行ったものとみることはできないそして被告ソフトバンクが
その当時において,被告日本テレコムに対し,本件一体的営業秘密ないし
,,その一部を不正に開示したと認めることができない以上将来においても
被告日本テレコムその他の第三者に対し,本件一体的営業秘密ないしその
一部を開示するおそれがあると認めることはできない。
第5結論
以上によれば,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく理由
がないから,いずれも棄却することとし,訴訟費用の負担について,民事訴訟
法61条を適用して,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官設樂隆一
裁判官鈴木千帆
裁判官荒井章光
営業秘密目録
1NTT加入者宅からNTT電話局との間に設置されたメタル端末回線ド()(
ライカッパー)の電話音声帯域(概ね0~4kHz程度)を含む全周波数帯域
をNTTから借り受け,同メタル(端末)回線において電話音声帯域(概ね0
~4kHz程度)を使用して提供する回線交換方式による直収電話サービスに
関する原理
上記秘密が記載されている書面(原告から被告ソフトバンクに対して開示し
たもの)としては,例えば別紙1ないし3がある。
BasicInformationPackage・別紙1-1
・別紙1-2平成電話収容の考え方
・別紙1-3平成電話の交換機への収容方法
2NTT加入者宅からNTT電話局との間に設置されたメタル端末回線ド()(
ライカッパー)において電話音声帯域(概ね0~4kHz程度)を使用して提
供する回線交換方式による直収電話サービスに関して,原告がNTT東日本及
びNTT西日本との間で交渉,合意または確認した事項(次で掲げるものを含
むが,これらに限られない)。
・別紙2-1NTT東日本と平成電電間の相互接続に関する受付等事務
処理確認事項(第2版。平成15年11月)
・別紙2-2NTT西日本と平成電電間の相互接続に関する受付等事務
処理確認事項(第0・0版。平成15年11月)
・別紙2-3相互接続協定変更書(平成15年7月1日付け。原告と東
日本電信電話株式会社との間で締結されたもの)
・別紙2-4相互接続協定変更書(平成15年7月1日付け。原告と西
日本電信電話株式会社との間で締結されたもの)
・別紙2-5東日本電信電話株式会社の音声帯域回線と平成電電株式会
社の音声帯域回線収容装置との接続及びITU-T勧告G.
991.2SHDSL方式のDSLサービス又は直収電話
重畳しているDSLサービスを提供するDSL回線を利用
した相互接続に関する事業者間確認事項(平成15年7月
9日付け)
3原告及びNECが協同して,NTT加入者宅からNTT電話局との間に設置
されたメタル(端末)回線(ドライカッパー)を利用した回線交換方式による
直収電話サービス事業に不可欠なLS交換機を開発した結果,NECが,NT
T交換機以外では国内唯一の当該直収電話サービス事業に適合するLS交換機
を製造することが可能になった事実(NTT以外の通信事業者にとって,これ
まで事実上入手不可能であった当該直収電話サービスに適合するLS交換機
が,NECから調達可能となった事実)
上記秘密が記載されている書面(原告から被告ソフトバンクに対して開示し
たもの)としては,例えば,次のものがある。
BasicInformationPackage・別紙1-1
・別紙3-1Σ御見積書
4①NTT加入者宅からNTT電話局との間に設置されたメタル(端末)回線
(ドライカッパー)を利用した回線交換方式による直収電話サービスにおけ
る当該サービスに適合する「Σ」交換機の位置付け及び機器構成(次に掲げ
るものを含むが,これらに限られない)。
BasicInformationPackage・別紙1-1
・別紙3-1Σ御見積書
・別紙4-1平成電電基幹網ルート図
・別紙4-2局舎ごと設備機器一覧
②NTT加入者宅からNTT電話局との間に設置されたメタル(端末)回線
(ドライカッパー)を利用した回線交換方式による直収電話サービスに適合
させるための本件交換機のシステム調整,接続試験その他調整試験等の過程
において生じた課題の内容及びそれに対する対応結果仕様変更の内容次()(
に掲げるものを含むが,これらに限られない)。
主な仕様変更等
項番課題内容結果
大量の回線開通が発生し,加入者NEAX61ΣJのハードウェア及1
データを投入し登録状況の検索をびソフトウェアを改良し,固定電話
行うタスクにおいてCPU処理能通信網用プログラムの運用に耐えう
力が不足しコマンドに対して応答るか否か,評価,検証を行った
不能となり,交換機運転(制御)が
困難になる
CPU処理能力が不足し過負荷状NEAX61ΣJのハードウェア及2
態が継続するため,基盤ソフトウびソフトウェアを改良し,固定電話
ェア(OS)と応用(交換)プログ通信網用プログラムの運用に耐えう
ラムとの間で状態不一致が顕在化るか否か,評価,検証を行った
し,異常状態に陥る
ISDN回線を大量に収容するこNEAX61ΣJのハードウェア及3
ととなり,一定の収容量を超えるびソフトウェアを改良し,固定電話
ため,「呼制御チャネル制御装置(L通信網用プログラムの運用に耐えう
APDC)」の割り付け規則に不具るか否か,評価,検証を行った
合を生じ,利用可能と利用不可能
の中間状態に陥る
ISDN(BRI)の加入者回線NEAX61ΣJのハードウェア及4
が,「時々断」を繰り返し,自然回びソフトウェアを改良し,固定電話
復しても,利用可能状態に自律復通信網用プログラムの運用に耐えう
旧しないるか否か,評価,検証を行った
「ダイヤルインサービス」「INS原告がNTTと同様の機能を追加す5,
ナンバーディスプレイ」「ナンバるための仕様を確定し,NEAX6,i-
ー」「着信転送機能(INS「代1ΣJのプログラムに実装した,)」,
表番号通知機能」等,NTTにより
提供されている交換機付加機能を提
供することができない
5①NTT加入者宅からNTT電話局との間に設置されたメタル(端末)回線
(ドライカッパー)を利用した回線交換方式による直収電話サービスにおけ
るRT(遠隔多重加入者線伝送装置)「」の位置付け及び機器構成AnyMedia
(次に掲げるものを含むが,これらに限られない)。
BasicInformationPackage・別紙1-1
AnyMedia・別紙5-1
AceMap・別紙5-2
・別紙1-2平成電話収容の考え方
・別紙1-3平成電話の交換機への収容方法
・別紙4-2局舎ごと設備機器一覧
・別紙5-3実装状況
・別紙5-4発注申請書等(一式)AnyMedia
・別紙5-5発注申請書等(保守予備品)AnyMedia
②NTT加入者宅からNTT電話局との間に設置されたメタル(端末)回線
(ドライカッパー)を利用した回線交換方式による直収電話サービスに適合
させるための「」のシステム調整,接続試験その他調整試験等のAnyMedia
過程において生じた課題の内容及びそれに対する対応結果(仕様変更)の内
容(次で掲げるものを含むが,これらに限られない)。
項番課題内容結果
のダイヤルパルス信号読取原告から仕様を提示することによ1AnyMedia
方式(10PPSのみ)が,国内仕様って,仕様追加を行った
の同読取方式(10PPSと20PP
Sがある)と異なるため,接続した。
電話機によっては発信不能となる
が送出する呼出信号が,加呼出信号の伝送に用いる加入者回2AnyMedia
入者回線において直流電流と重畳する線での呼出信号と直流電流との重
ことによって,加入者宅内の避雷器を畳方式を特殊なものに変更
誤作動させるケースが生じる
6原告の直収電話サービス(「CHOKKA)の利用状況,収支状況,当該サ」
ービスを提供するために導入している設備,機器,装置及び備品等に関する設
置状況及び費用情報,その他直収電話サービス事業の収益性・採算性の検討及
び判断に有用な情報(次に掲げるものを含むが,これらに限られない)。
・別紙6-1()AM32DSLAM
AnyMedia・別紙5-1
AceMap・別紙5-2
・別紙3-1Σ御見積書
・別紙6-2コロケーション・スペース費用<東日本>
・別紙6-3NTTコミュニケーションズ(コロケーション)
・別紙6-4IP-VPNフレームリレー
・別紙6-5ギガウェイ
・別紙6-6ダークファイバーTOKAI・KDDI(TOKAI・KD
DIが保有するダークファイバー)
・別紙6-7ダークファイバーNTT東日本(NTT東日本が保有するダ
ークファイバー)
・別紙6-8ダークファイバーNTT西日本(NTT西日本が保有するダ
ークファイバー)
・別紙4-1平成電電基幹網ルート図
・別紙6-9平成電電基幹網
・別紙4-2局舎ごと設備機器一覧
・別紙5-3実装状況
・別紙5-4発注申請書等(一式)AnyMedia
・別紙5-5発注申請書等(保守予備品)AnyMedia
なお,発注申請書等はこれらに限られず,各種機器やその
保守予備品等に関するものなど,多数存在する。
・別紙6-10マイラインと直収線の収益性の比較
・別紙6-11CHOKKA3月
・別紙6-12平成電電番号利用状況
・別紙6-13サービス申込承諾書(NTTコミュニケーショColocation
ンズ)
なお,コロケーションサービス申込承諾書はこれに限られ
ず,他にもコロケーション契約の数だけ多数存在する。
・別紙6-14自前保守に係るコロケーション・スペース利用に関する個
別契約書(NTT東日本)
なお,コロケーション・スペース利用に関する個別契約書
はこれに限られず,NTT西日本との間のものも含め,他
にもコロケーション契約の数だけ多数存在する。
・別紙6-15コロケーション・スペース費用<西日本>
・別紙6-16光ファイバケーブル芯線に関するIRU設定個別契約書
なお,光ファイバケーブル芯線に関する契約書はこれに限
られず,他にも多数存在する。
7原告のネットワークアーキテクチャーに関する情報(次に掲げるものを含む
が,これらに限られない)。
・別紙4-1平成電電基幹網ルート図
・別紙6-9平成電電基幹網
・別紙7-1基軸網(東京都内イメージ図)
・別紙4-2局舎ごと設備機器一覧

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