弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を東京高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人木村和夫、同林良二の上告理由第一について
 一 本件記録によれば、上告人らが本件訴訟を提起するに至った経過は、次のと
おりである。
 1 茅ヶ崎市土地開発公社は、昭和六一年三月二六日、茅ヶ崎市の代理人と表示
して、日本国有鉄道との間で、国鉄を売主、茅ヶ崎市を買主とし、代金四億九五八
一万四〇〇〇円でa駅北口前の本件土地外一筆を買い受ける旨の本件売買契約を締
結し、同月二八日、右売買を原因として同市に所有権の移転登記がされた。本件売
買契約には、買主は右土地を所定の期間内は交番・多目的ホール敷地に供するもの
とし、買主が右土地を右用途以外に供したとき又は右期間内に第三者に譲渡したと
きは、売主は売買契約を解除することができ、右契約が解除されたときは、買主は
売買代金の一〇分の一に相当する違約金を売主に支払うものとする特約条項があっ
た。
 2 本件土地は、国鉄の承諾を得ないまま、所定の期間内である昭和六一年八月
二二日、第三者に売り渡され、同月二六日、右売買を原因として所有権移転登記が
された。
 3 国鉄を承継した日本国有鉄道清算事業団は、昭和六二年一〇月八日、茅ヶ崎
市に対し、本件売買契約の特約に違反して本件土地が転売されたことを理由に、同
契約を解除する旨の意思表示をするとともに、違約金四九五八万一四〇〇円の支払
を催告した。これに対し、茅ヶ崎市は、本件売買契約に違反するところはなく、契
約解除及び違約金の支払請求には応じられない旨の回答をした。そこで、国鉄清算
事業団は、同年一二月八日、茅ヶ崎市に対し、違約金四九五八万一四〇〇円の支払
等を求める訴えを提起した。茅ヶ崎市は、これに応訴し、本件売買契約における特
約の有効性自体を争い、請求の棄却を求める旨の答弁書を提出した。
 4 平成元年八月一五日、右訴訟の第一五回口頭弁論期日において、茅ヶ崎市が
国鉄清算事業団に対し和解金一四九〇万円を同年一二月末日までに支払うこと等を
内容とする裁判上の和解が成立した。茅ヶ崎市は、同年一一月七日、国鉄清算事業
団に、右和解金を支払った。
 5 茅ヶ崎市の住民である上告人らは、平成二年三月二三日、右和解金一四九〇
万円の支払は本件売買契約の違約等に基づく違法不当な支出であり、これにより同
市は損害を被ったから、同市の市長である被上告人個人の負担でこれを補てんさせ
るため必要な措置を執ることを請求する旨の本件監査請求をした。これに対し、茅
ヶ崎市監査委員は、同年五月一九日、本件土地を国鉄から買い受けて第三者に売却
したのは茅ヶ崎市土地開発公社であると認められ、茅ヶ崎市と国鉄との間の売買契
約は存在せず、和解金の支払にも違法不当性はないから、上告人らの主張には理由
がないとして、右請求を棄却する旨の監査結果の通知をした。
 6 上告人らは、右の監査結果を不服として、平成二年六月一五日、被上告人は、
本件売買契約における前記特約の存在を知りながら、あえてこれに違反して本件土
地を第三者に転売し、茅ヶ崎市に違約金一四九〇万円の支払を余儀なくさせて同額
の損害を与えたから、同市に対して右損害を賠償する義務があるところ、同市は損
害賠償請求権の行使を怠っていると主張して、右怠る事実の相手方である被上告人
に対して、同市に代位して損害賠償金一四九〇万円及び平成元年一一月七日以降の
遅延損害金の支払を求める本件住民訴訟を提起した。
 二 原審は、財務会計上の行為が違法、無効であることに基づいて発生する実体
法上の請求権の不行使をもって財産の管理を怠る事実とする監査請求については、
右行為のあった日又は終わった日を基準として地方自治法二四二条二項の規定を適
用すべきものであり(最高裁昭和五七年(行ツ)第一六四号同六二年二月二〇日第
二小法廷判決・民集四一巻一号一二二頁)、上告人らは本件土地の転売行為が違法
であることに基づいて発生する損害賠償請求権の不行使をもって財産の管理を怠る
事実として本件訴訟を提起したのであるから、その前提としての本件監査請求は、
右転売の日を基準として同項の規定を適用すべきであり、同項の期間を徒過してさ
れた不適法なものであると判断し、上告人らの前記の訴えを不適法として却下した。
 三 しかしながら、原審の右判断は、是認することができない。その理由は、次
のとおりである。
  前記事実関係によれば、本件売買契約における特約に違反して本件土地の転売
がされたとしても、それだけで当然に違約金請求権が発生するものではないとされ
ているから、右転売行為の時点において直ちに茅ヶ崎市が違約金相当の損害を被っ
たという余地はない。そうすると、右時点においては、転売行為が違法であること
に基づく茅ヶ崎市の被上告人に対する損害賠償請求権はいまだ発生していないこと
になるから、監査請求の対象となるべき右損害賠償請求権の行使を怠る事実も存在
しないというほかはない。それにもかかわらず、当該怠る事実を対象とする監査請
求につき、転売行為の日を基準として地方自治法二四二条二項の規定を適用し、同
項本文の期間が進行するものと解することはできない。前示第二小法廷判決の判旨
は、右のような場合にまでそのまま妥当するものではなく、財務会計上の行為が違
法、無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使をもって財産の
管理を怠る事実とする住民監査請求において、右請求権が右財務会計上の行為のさ
れた時点においてはいまだ発生しておらず、又はこれを行使することができない場
合には、右実体法上の請求権が発生し、これを行使することができることになった
日を基準として同項の規定を適用すべきものと解するのが相当である。
 本件においては、上告人らの主張するように被上告人が本件転売行為をし、これ
が違法であったとすると、国鉄清算事業団が本件売買契約の解除をしたことにより、
契約条項の上では茅ヶ崎市の同車業団に対する売買代金の一割相当の違約金債務が
発生したことになるが、前記の事実関係によれば、地方公共団体である同市が同じ
く公的団体である同事業団の請求に対して右債務の存在を否定する対応をし、同事
業団の提訴に対しても転売禁止の特約の有効性自体を否定する答弁をして応訴し、
その後二年八箇月余にわたってこの争いが続行した結果、最終的に裁判上の和解に
よる解決をみたのであって、その間、同市は、右債務負担を否定し続けていたとい
うのであるから、他方で被上告人に対して右債務負担によって損害を被ったと主張
して損害賠償請求をすることはできない立場にあったものというべきである。そう
だとするなら、右主張の下においては、前記和解により右違約金の一部に相当する
とみられる和解金の支払が約され、茅ヶ崎市の債務負担が確定した時点において、
初めて同市の被上告人に対する損害賠償請求権を行使することができることとなっ
たというのが相当であるから、右和解の日を基準として地方自治法二四二条二項の
規定を適用すべきである。
 以上によれば、右和解が成立した平成元年八月一五日から一年が経過する以前に
された本件監査請求は、同項の期間を遵守したものとして適法であり、これを不適
法と判断して上告人らの前記訴えを却下した原判決は、同項の解釈適用を誤るもの
というべきである。したがって、予備的請求に係るその余の上告理由について判断
するまでもなく、原判決は全部破棄を免れない。そして、本案につき更に審理させ
るため、本件を原審に差し戻すこととする。
 よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意
見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    園   部   逸   夫
            裁判官    可   部   恒   雄
            裁判官    大   野   正   男
            裁判官    千   種   秀   夫
            裁判官    尾   崎   行   信

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