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裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 被告人B弁護人佐竹晴記上告趣意第一点について。
 しかし、犯行の共謀の事実を判示するには謀議の日時、場所その他共謀の具体的
内容を一々判示し、且つとれを認めた証拠上の理由を説明する要のないことは当裁
判所の判例とするところであつて、所論の原判示は被告人等の本件犯行の共謀の事
実の判示として何等欠くるところがなく、そして原判決の判示している被告人等が
共謀して本件入場税の一部の逋脱を企てた事実の認定は、原判決挙示の証拠によつ
てこれを肯認するに足りその間反経験則等の違法はない。されば原判決には所論の
理由不備の違法は認められない。
 同第二点について。
 原判決はE興行協会の理事長であつた被告人B、同協会の理事であつた相被告人
C、同専務理事であつた同Dの三名が共謀の上、中華民国人たるA等と相謀り表面
あたかもA等の主宰興行するものの如く仮装し、その実右E興行協会とA等共同で
興行して不正に入場税の一部を納入せずして利益をえようと企て、該謀議に基きA
は判示の頃判示のごとく地方税の逋脱を行つた旨を認定判示しているのであつて、
所論証八号契約の範囲において脱税することを共謀したとは認定していない。従つ
て、被告人Bが地方税たる入場税逋脱の共謀者であり、Aが右謀議に基き判示入場
税逋脱の実行をしたものであることは原判決の確定した事実である。されば、被告
人Bが共犯者たるAが判示入場税逋脱の手段として所論のような観覧券の二重販売
の方法をとつたことについて何等関係しなかつたとしても、その逋脱についての責
任を免れることのできないのは勿論、その責任も判示の逋脱金額の全額に及ぶもの
であることも多言を要しないところであつて、これと異なる弁護人の見解は独自の
見解であつてとるをえない。
 同第三点について。
 原判決は所論の判示事実を所論の証第八号証(但し謄本)の存在又はDに対する
検事第二回聴取書、若しくは原審第四回公判調書中の証人Fの供述記載だけで認定
しているのではなく、その他原審被告人Dの原審第三回公判調書中の供述記載、第
一審第一回公判調書中の同人の供述記載、第一審公判調書中の被告人Bの供述記載、
被告人Cに対する検事の第一、二回各聴取書中の各供述記載、Aに対する検事の聴
取書中の供述記載、第一審第二回公判調書中証人Gの供述記載、Hに対する検事の
聴取書中の供述記載、第一審第二回公判調書中Hの供述記載、Iに対する検事の第
一回聴取書中の供述記載等を綜合して認定していることは、判文上明らかなところ
である。そしてこれ等の原判決挙示の証拠に照して鑑みるに、証八号契約書の作成
名義がDの個人名義であり、且つ所論のように同契約書の締結について被告人Bが
事前の承諾を与えたことはなく、証八号契約は被告人D個人の利益の為に締結され
たもので、被告人Bの為には利益とならぬものであるとしても、原判決が判示事実
の認定の資料として所論証八号証の存在する事実等を証拠としたからといつて原判
決には所論の審理不尽、採証の法則に違反する違法あるものとはいえない。そして
原判決挙示の各証拠を綜合すると原判示事実の認定はこれを肯認することができ、
その間反経験則等の違法も存しない。論旨は結局原審の裁量に属する証拠の取捨判
断を非難し判示共謀の事実の認定を不当とするに帰し上告適法の理由とならぬ。
 同第四点について。
 論旨は映画「逢引」の興行は被告人から映画館を借り受けてA等だけでしたもの
であるのを、原判決が被告人B等とA等との共同興行と誤認し被告人BをA等の判
示入場税逋脱犯の共犯として処断したのは、原判決が被告人Dの供述を全面的に措
信し被告人Cの供述を誤解し、被告人Bの供述を採用しなかつたことに基づくもの
で、結局原判決は動かし得ない現実と条理を無視し、他の有力なる証憑に対し何の
考察をも加えず、これらと相反するDの供述を採択し、且つCの供述を曲解し、被
告人の有罪を認めたのは全く違法であるというのである。しかし記録を精査するも
原判決の証拠の取捨判断について条理を無視した違法あることを認め難く、その他
論旨は畢竟原審の裁量権内において適法にした証拠の取捨判断乃至事実認定を非難
するに帰し採ることができない。
 同第五点について。
 原判決は公訴第一事実昭和二三年八月四日から同月一〇日迄の映画興行(映画逢
引の上映興行)はE興行協会の理事長たる被告人B、理事たる被告人C、専務理事
たる被告人D等が中国人A等と相謀つて表面は同中国人の主催興行の如く装つて、
その実E興行協会とA等共同で契約したもので、よつて、被告人Bは判示入場税の
逋脱を企てたものと認定判示しているのであつて、その判示事実の認定にいささか
も違法のかどがないことは第三点第四点において説明したとおりである。しかるに、
原判決は公訴第二事実たる同年八月一八日から同月末日迄の映画興行(映画「ウオ
ータール街」及「二十一の指紋」上映興行)については、被告人Bは当時Dの高圧
的態度に已むを得ずM劇場における興行から手を引いたので、被告人DがA等と提
携してE興行協会の業務と関係なく行つたものである旨を認定しているのである。
されば原判決が公訴第一事実については被告人Bを有罪として、公訴第二事実につ
いては被告人Bを無罪としたからといつてその間矛盾もなく、原判決には所論のよ
うな理由齟齬の違法は存しない。論旨は原判決の採用しない証拠に基き、原判決の
有罪と認めた公訴第一事実も原判決が無罪と認めた公訴第二事実と同一性質のもの
で、断じて区別すべきでないとするもので結局事実誤認の主張に帰しとるをえない。
 同第六点について。
 原判決は判示入場税の逋脱行為は被告人BD等とAとの共同謀議の末、Aにおい
て該共同謀議に基き実行したものと認定判示しているのであるから、被告人Bが現
実に共犯者Aの逋脱行為を阻止しない以上、たとえ被告人Bが判示入場税の納入期
日には最早映画興行から手を引いていたとしても、Aの実行した入場税逋脱の責を
免れるものではない。論旨はとるをえない。
 同第七点及び被告人B、同Cの弁護人山口貞昌、同伊藤一郎の上告趣意第四点に
ついて。
 原判決がその証拠説明中に所論摘示の公判請求書記載の事実を掲げたことは所論
のとおりである。しかし、原判決は証拠として「三、原審第一回公判調書中Dの公
判請求書記載の公訴事実一はその通り相違ない旨の供述記載」を挙示しているので
あるから、右Dの供述記載の内容を明確にする趣旨で所論公判請求書の記載を挙示
したにとどまり、所論のようにこれを独立の証拠とする趣旨で挙示したものでない
ことは判文上明らかなところである。されば原判決には所論の違法は存しないから
論旨はいずれも理由がない。
 弁護人佐竹晴記の上告趣意第八点、弁護人山口貞昌外一名の上告趣意第八点、被
告人D弁護人鍛治利一の上告趣意第一点について。
 地方税法一三六条一項の規定は地方税の納税義務者が詐欺、その他不正の行為に
よつて地方税を逋脱した場合の処罰規定であり、同条二項の規定は特別徴収義務者
が徴収すべき地方税を納税義務者から徴収せず、又は納税義務者から徴収した地方
税を納入しなかつた場合の処罰規定であつて、その不徴収又は不納入の手段、方法
の如何を問わないから、本件のごとき特別徴収義務者が地方税たる判示入場税不納
入の場合において、たとえ所論のような詐欺その他不正の行為が伴つたとしても同
条一項を適用すべきではなく、同条二項を適用すべきであることは多言を要しない
ところである。されば、原判決には所論のような擬律錯誤の違法は存しないから、
佐竹弁護人の論旨前段はとるをえない。次に原判示とその挙示する各証拠とを対照
してみると原判決は判示入場税の特別徴収義務者はAであつて被告人B、同C、同
D等は徴収義務者たる身分のない者で、徴収義務者Aの判示入場税の一部逋脱に加
功したものであると認め、刑法六五条第一項を適用して被告人B等をAの判示逋脱
犯の共犯者として処断したものであることを推断しえられるのである。そして刑法
六五条第一項の規定のごとき総則規定は、これを適用するを以て足り、特にこれを
判決中に明示する必要のないものであるから、論旨後段並びに爾余の弁護人の論旨
も亦理由がない。
 被告人B、同C、弁護人山口貞昌、同伊藤一郎の上告趣意第一、七点について。
 国税犯則取締法によれば、国税局長又は税務署長は間接国税に関する犯則事件に
ついては原則として犯則者を告発すべく、そして、この告発は公訴提起の訴訟条件
と解すべきこと、間接国税犯則者処分法施行規則第一条によれば入場税が間接国税
であつたこと、並びに地方税法一二六条の二によれば地方税に関する犯則事件につ
いては国税犯則取締法を準用すべく、この場合取締法に規定する局長又は署長の職
務は道府縣税については原則として道府縣知事がこれを行い、また、市町村税につ
いては原則として市町村長が行うものであること及び本件については、高知縣知事
又は高知市長の告発がなかつたことはいずれも所論のとおりである。
 しかし、従来国税であつた入場税は昭和二三年七月法律第一一〇号地方税法(以
下旧地方税法という)中に道府縣税として規定され、なお、入場税附加税が市町村
税として規定され、同年八月一日から施行となり同時に入場税法(昭和一五年法律
六〇号)は廃止となつたのである。(旧地方税法四六条九九条一四一条、一五一条
参照)従つて国税であつた入場税の犯則事件について適用されていた国税犯則取締
法の規定は昭和二三年八月一日以後に係る道府縣税たる入場税及び市町村税たる入
場税附加税の犯則事件には特にこれを適用又は準用する趣旨の規定が定められない
限り、当然には適用を見ないことになつたものといわなければならぬ。ところが、
国税入場税の犯則事件に適用されていた国税犯則取締法の規定を地方税たる入場税
及び同税附加税の犯則事件に準用する旨の特別規定が設けられたのは、昭和二四年
五月法律一六九号地方税法の一部を改正する法律中の「地方税法一二六条の次に次
の一条を加える。一二六条ノ二、地方税に関する犯則事件については国税犯則取締
法の規定(第二二条の規定を除く)を準用する。……」の規定であつて、しかも右
改正法律は入場税及入場税附加税に関する改正規定は昭和二四年六月一日から施行
する旨規定し(附則一項)且つ地方税法一二六条の二の規定はこの法律施行前にし
た行為には適用がない旨(附則三項)をも明定しているのである。されば本件のよ
うな昭和二三年八月一日以後同二四年六月一日以前に係る高知縣税入場税、高知市
税入場税附加税犯則事件には国税犯則取締法の規定は適用も準用もされえない筋合
であることは多言を要しないところである。従つて本件高知縣税入場税高知市税入
場税附加税の犯則事件に国税犯則取締法の規定の適用又は準用あることを前提とす
る各論旨はいずれもその前提を欠きとるをえない。
 同第二点について。
 原判決が所論に摘録する原判示事実の認定資料の一として挙示している原審第四
回公判廷における証人Fの証言は同証人が中華民国人であるにかかわらず、宣誓の
上になしたものであることは記録上認められるが偽証の罰について告げられたこと
の形跡は記録上発見しえないこと所論のとおりである。しかし一九五〇年一〇月一
八日附連合国最高司令官総司令部覚書施行期日たる同年一一月一日以前においては、
連合国人である証人に対しては一般に宣誓をさせる場合でも偽証の罰を告げないの
を相当と解すべきである(昭和二四年(れ)一六七号同年七月九日第二小法廷判決
判例集三巻八号一一九三頁以下参照)ばかりでなく、旧刑訴一九九条は証人に偽証
の罪に陥ることのないようにその注意を喚起せしめる趣旨の訓示的規定と解するを
相当とするから、たとい同規定に反して裁判所が証人に偽証の罰を告げなかつたと
しても、その供述は証言たるの効力を妨げられるものではない。されば原判決には
所論のような違法は存しない。論旨は理由がない。
 同第三点について。
 しかし所論のAが不法に拘禁されていたものであることは記録上認め得られない
し、また、拘禁が不法であつてもその一事を以て直ちに拘禁中の供述が強制その他
不任意のものであると速断することもできない。されば所論検事に対するAの供述
聴取書の記載を以て証拠能力を欠くものとなす論旨は、理由がない。
 同第五点について。
 しかし原判決挙示の各証拠によれば、被告人等とAとの共同興行にかかる映画逢
引の上映興行の実収入が四九万七一三六円であり、その入場税(縣市税)が二九万
八四七三円六〇銭なるにかかわらず、縣市に納入した税金は四万九一四〇円だけで
あつて、その残額二四万九三三三円六〇銭の納入を免れた旨の判示事実の認定はた
やすくこれを肯認することができ、その間反経験則等の違法はない。論旨は独自の
見解に立つて原審の裁量権内で適法になした事実認定を非難するにとどまり上告適
法の理由とならぬ。
 同第六点について。
 しかし、旧地方税法一三六条二項の規定は、特別徴収義務者が徴収すべき地方税
を故意に徴収せず又は徴収した地方税を故意に納入しなかつた場合に成立する脱税
に関する犯罪の処罰規定であつて、地方税の単なる滞納の場合の規定ではない。さ
れば同条項の犯罪事実を判示するには、所論のごとき知事又は市長の発令の有無、
特別徴収義務者が払込告知書を受取つたか否か及び指定期日に払込を了したか否か
等の事実を確定判示するの要はない。そして、原判決の判示は前示条項の犯罪既遂
の判示として欠くるところがないから、所論理由不備の主張は採用し難い。
 同第一〇点について。
 原判決が法律適用の説示において罰金等臨時措置法(以下措置法と略称する)二
条一項の他に同法四条二項を挙示しないで同条一項のみを摘示したのは錯誤である
こと所論のとおりである。しかし本件は措置法施行前の犯罪にかかるものであつて、
犯行当時の旧地方税法一三六条二項の罰金科料の刑は犯行後の法律たる措置法で重
く変更されたので、本件は刑法六条にいわゆる犯罪後の法律により刑の変更ありた
るときに該当し、同条を適用して軽き旧地方税法の刑を適用すべき関係上、原判決
は旧地方税法一三六条二項の他に念のため措置法の規定及び刑法六条一〇条を挙示
したものと解されるから、所論の措置法摘示の錯誤は原判決に影響ないものといわ
なければならぬ。論旨は理由がない。
 被告人D弁護人鍜治利一の上告趣意第二点について。
 被告人Dが(イ)被告人B及びCその他と(ロ)A等と夫々共謀して、故意に入
場税を納入期日に納入しないでこれが逋脱をしたものであるとの原判示第一の事実
の認定は、その挙示する証拠に照してたやすくこれを肯認することができその間反
経験則等の違法はない。論旨に主張する被告人DはAにおいて関係当局と折衝して
納入金を軽減して貰つたものと信じていたものであつて、不正な方法で税金の納入
を免れんとする意思はなかつたとの事実は結局独自の見解に立つて、原審の適法に
なした事実認定を非難するものに帰し、上告適法の理由とならぬ。
 同第三点について。
 しかし、旧地方税法一三六条二項の犯罪は、特別徴収義務者が徴収すべき地方税
を故意に徴収せず、又は徴収した地方税を故意に納入しないときは直ちに成立し、
不徴収又は不納入の手段方法の如何を問わないものであり、従つて、判示虚偽の報
告が所論同法一三七条一号に触れることがあつても、前記条項の犯罪の成立を阻却
しないものであるから、原判決が判示事実に対し同条項を適用処断したのは正当で
あつて、原判決には所論の違法は認められない。
 同第四点について。
 本件入場税の納入期日が徴収した月の翌月中であることは法令である高知縣条例
によつて明らかであり、判示逋脱の入場税については昭和二三年八月中に徴収され
たものであることは原判決の認定判示したところである。そして特別徴収義務者の
徴収した入場税の納入期日が右のごとく条例上徴収した月の翌月中に到来すべきも
のであるから、徴収した月が認定判示されていれば特にその納入期日を明示しなく
とも自ら確定されるわけである。されば原判決は判示入場税の徴収日を八月(四日
から同月一〇日迄及び一八日から月末頃迄の間)と確定判示し、その納入期日をそ
の頃納入すべかりし期日にと説明した以上、旧地方税法一三六条二項違反罪の判示
として何等欠くるところは存しない。又督促状を発することは納入しない入場税金
について徴収義務者に対して滞納処分を行う法律上の要件であるにとどまり、不納
入罪成立の要件ではない。されば原判決が判示逋脱の入場税金について督促状の発
せられた事実及指定納入期日を判示しなかつたからといつて、原判決には違法のか
どは存しない。論旨は理由が左い。
 よつて旧刑訴四四六条に従い裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
 検察官 竹原精太郎関与
  昭和二六年三月一五日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    澤   田   竹 治 郎
            裁判官    齋   藤   悠   輔
            裁判官    岩   松   三   郎

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