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平成26年8月29日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成26年(ワ)第6026号特許権侵害差止等請求事件(以下「第1事件」とい
う。)
平成26年(ワ)第11597号損害賠償請求事件(以下「第2事件」という。)
口頭弁論終結日平成26年6月20日
判決
大阪府和泉市<以下略>
第1事件原告・第2事件被告アテンションシステム株式会社
(以下「原告」という。)
東京都千代田区<以下略>
第1事件被告・第2事件原告株式会社NTTドコモ
(以下「被告」という。)
同訴訟代理人弁護士深井俊至
大阪府和泉市池田下町1598番地の1
第2事件被告A
主文
1第1事件に係る原告の本件訴えを却下する。
2(1)原告及びAは,被告に対し,連帯して30万円及びこれに対する平成2
6年5月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)被告のその余の請求をいずれも棄却する。
3第1事件の訴訟費用は,原告の負担とし,第2事件の訴訟費用は,これを
20分し,その17を被告の負担とし,その余を原告及びAの連帯負担とす
る。
4この判決は,第2項(1)に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1当事者の主張
1第1事件
(1)原告は,「被告は,売買禁止電話番号情報通信しないF-09E機使用
し,譲渡し,貸し渡し,又は譲渡若しくは貸渡しの申出をしてはならない。」,
「被告は,情報通信料口座引落契約行為に対し,売買禁止電話番号情報通
信しないF-09E機及び情報通信料口座引落全額を廃棄せよ。」,「被
告は,原告に対し,9万円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日から支
払済みまで年5%の割合による金員を支払え。」との判決を求め,請求原
因として別紙1のとおり主張した(なお,第1事件に係る訴状送達の日の
翌日は,平成26年4月12日である。)。
(2)被告は,本案前の答弁として主文第1項と同旨の判決を求め,その理由
として別紙2のとおり主張するとともに,本案の答弁として請求棄却を求
め,原告主張の請求原因事実のうち,原告及び被告が株式会社であること
並びに別紙1に定義する本件特許権を原告が有することを認め,その余を
否認する旨述べた。
2第2事件
(1)被告は,「(原告及びAは,被告に対し,)各自,200万円及びこれ
に対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を
支払え。」との判決を求め,請求原因として別紙3のとおり(ただし,同
別紙中,「原告」は「被告」と,「被告アテンションシステム株式会社(以
下「被告会社」という。)」及び「被告会社」は「原告」と,「被告A(以下
「被告代表者」という。)」及び「被告代表者」は「A」と,「被告ら」は「原
告及びA」と,「平成26年(ワ)第6026号,甲13-甲16,以下「第
五次訴訟事件」という。」は「第1事件,甲13-甲16」と,「第五次訴
訟事件」は「第1事件」とそれぞれ読み替える。なお,同別紙が言及する
書証はいずれも併合前の第2事件に係るものである。)主張した(なお,第
2事件に係る訴状送達の日の翌日は,平成26年5月15日である。)。
(2)原告及びAは,請求棄却を求め,「特許権者が特許権侵害を法的措置す
ることは当然である。」,「発明がわかる弁護士,弁理士がいない。」と述べ
た。
第2当裁判所の判断
1第1事件について
(1)当裁判所に顕著な事実,証拠(第1事件の乙1ないし7,併合前の第2
事件の甲6ないし12)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認めら
れる。
ア原告は,平成21年,被告による「P-08A」,「N-08A」,「P
-10A」,「SH-05A」,「F-09A」,「N-07A」,「P-07
A」,「SH-06A」,「N-09A」,「P-09A」,「HT-03A」,
「T-01A」,「SH-07A」という型番号の携帯電話機(以下「対
象製品1」という。)の製造,販売,販売の申出が本件特許権を侵害する
と主張して,被告に対し,その製造等の差止め及び廃棄並びに損害賠償
を求める訴訟を大阪地方裁判所に提起した(同裁判所平成21年(ワ)第1
1480号)。
同裁判所は,平成22年4月22日,原告が主張する対象製品1の具
体的構成は明らかでなく,本件特許発明と対比するに足りる対象製品1
の構成が全く主張,立証されていないので,本件特許発明と対象製品1
とを対比することすらできず,対象製品1が本件特許発明の技術的範囲
に属すると認めることはできないと判示して,原告の請求を棄却する旨
の判決を言い渡した。
原告は,同判決を不服として控訴し,控訴審において差止め及び廃棄
等の請求を変更したが,知的財産高等裁判所は,平成22年9月29日,
控訴を棄却するとともに,原告が控訴審で変更した請求を棄却する旨の
判決を言い渡した。
原告は,同判決を不服として最高裁判所に上告及び上告受理申立てを
したが,知的財産高等裁判所は,平成22年12月6日,上告受理申立
てを却下する旨の決定をし,最高裁判所は,平成23年2月1日,上告
を棄却する旨の決定をし,原告の請求を棄却した上記第1審判決及び控
訴審判決が確定した。
イ原告は,平成22年,被告による「『第1の呼び出し番号と第2の呼び
出し番号』を無断で記憶した携帯電話機」(以下「対象製品2」という。)
の販売の申出が本件特許権を侵害すると主張して,被告に対し,その販
売と無線通信料等口座振替決済の無料化及び損害賠償を求める訴訟を大
阪地方裁判所に提起した(同裁判所平成22年(ワ)第17304号)。
同裁判所は,平成23年3月29日,原告に釈明を求めたにもかかわ
らず,本件特許発明の解釈,本件特許権を侵害するという製品(対象製
品2)の具体的構成,被告の具体的侵害行為について,主張立証しない
と判示して,原告の請求を棄却する旨の判決を言い渡した。
原告は,これに対して控訴せず,上記判決は,そのころ確定した。
ウ原告は,平成25年,被告による「持主いない電話番号記憶SH-0
5D携帯電話機」(以下「対象製品3」という。)の販売,販売の申出が
本件特許権を侵害すると主張して,被告に対し,その使用等の差止め及
び廃棄並びに損害賠償を求める訴訟を東京地方裁判所に提起した(同裁
判所平成25年(ワ)第11550号)。
同裁判所は,平成25年9月27日,原告に対して対象製品3の構成
と本件特許発明との対比について具体的に主張するよう釈明を求めたに
もかかわらず,対象製品3の構成を具体的に明らかにせず,本件特許発
明の構成要件と対象製品3の構成とを対比することもできないと判示し
て原告の請求を棄却する旨の判決を言い渡した。
原告は,これに対して控訴せず,上記判決は,そのころ確定した。
エ原告は,平成25年,被告による「持主いない電話番号売買禁止の売
上利益目的機」(以下「対象製品4」という。)の製造,販売の申出が本
件特許権を侵害すると主張して,被告に対し,その使用等の差止め及び
廃棄並びに損害賠償を求める訴訟を東京地方裁判所に提起した(同裁判
所平成25年(ワ)第30485号)。
同裁判所は,平成26年3月6日,上記アないしウの事実関係のほか,
原告が目的物である対象製品4の具体的構成を特定せず,特定すること
を期待することもできないこと,被告の応訴の負担も小さくないことを
判示した上,原告の訴えを訴権の濫用と判断し,これを却下する旨の判
決を言い渡した。
原告は,これに対して控訴せず,上記判決は,そのころ確定した。
オ原告は,平成26年3月12日,訴状を当庁に提出して,第1事件に
係る本件訴えを提起した後,同月31日付け補正書,同年4月7日付け
補正書及び同年5月6日付け弁論書(これらは,いずれも訴状の記載を
補正する趣旨の書面である。)を提出し,同事件の第1回口頭弁論期日(平
成26年5月14日)において,これらを訴状と合わせて陳述した。
その結果,原告の請求は,同年4月7日付け補正書の請求の趣旨記載
のとおり,「被告は,売買禁止電話番号契約できないdocomo通信機
使用し,譲渡し,貸し渡し,又は譲渡若しくは貸渡しの申出をしてはな
らない。」,「被告は,情報通信料口座引落契約行為に対し,売買禁止電話
番号契約できないdocomo通信機及び情報通信料口座引落全額を廃
棄せよ。」,「被告は,原告に対し,9万円及びこれに対する本訴状送達
の日の翌日からから支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。」
というものとなった。
当裁判所が,原告に対し,「売買禁止電話番号契約できないdocom
o通信機」を具体的に特定するとともに,本件特許発明との具体的な対
比について主張するよう促したところ,原告は,同補正書の請求の趣旨
第1,2項記載の「売買禁止電話番号契約できないdocomo通信機」
を製品名,型番等で特定し,上記「売買禁止電話番号契約できないdo
como通信機」の具体的構成の特定及び本件特許発明との具体的な対
比を主張した準備書面を同年5月21日までに提出する旨述べた。
原告は,その後,同月19日付け弁論書(2)及び同年6月16日付け弁
論書(3)(これらは,いずれも補正後の訴状の記載を更に補正する趣旨の
書面である。)を提出し,第1事件の第2回口頭弁論期日(同月20日)
において,これらを合わせて陳述した。
その結果,原告の請求及び請求原因は,前記第1の1の(1)のとおりと
なった。
なお,原告は,同口頭弁論期日(ただし,第2事件の口頭弁論が併合
された後である。)において,当裁判所の釈明に対し,「被告製品の具体
的構成の特定及び本件特許発明との対比については,これまでの主張で
十分であり,他に主張立証を追加又は補充する予定はない。」旨述べた。
(2)上記(1)の認定事実によれば,原告は,第1事件に係る本件訴えの提起
までに,被告に対し,4回にわたり,被告による携帯電話の製造等が本件
特許権を侵害すると主張して,その差止め及び廃棄並びに損害賠償を求め
る訴訟を提起してきたが,第1事件においても,同様に,被告による「売
買禁止電話番号情報通信しないF-09E機」(被告製品)の製造等が本件
特許権を侵害すると主張して,その差止め及び廃棄並びに損害賠償を求め
ているものである。
原告は,上記4回にわたる従前の訴訟(以下「前訴4件」という。)にお
いて,対象製品1ないし4の具体的構成を特定しなかったのと同様に,第
1事件においても,目的物(被告製品)である「売買禁止電話番号情報通
信しないF-09E機」の具体的構成を特定しないのであって,結局のと
ころ,原告は,被告の製品について,その具体的構成によることなく,本
件特許発明の技術的範囲に属するとし,被告がこれを製造等しているだけ
で,本件特許権を侵害するとの主張を繰り返しているにすぎないものとい
うべきである。
そして,原告による第1事件に係る本件訴えの提起の結果,被告は,同
事件につき応訴を強いられたのであり,原告が目的物(被告製品)の具体
的構成を特定していないことに鑑みると,その応訴の負担が小さいとはい
えない。
これらの事情に照らすと,第1事件に係る原告の本件訴えは,訴権の濫
用であって,訴訟上の信義則に反するといわざるを得ず,不適法であると
いうべきである。
2第2事件について
(1)原告に対する損害賠償請求について
ア民事訴訟を提起した者が敗訴の確定判決を受けた場合において,上記
訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは,当該訴訟におい
て提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くもの
である上,提訴者が,そのことを知りながら又は通常人であれば容易に
そのことを知り得たといえるのにあえて訴えを提起したなど,訴えの提
起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められると
きに限られるものと解するのが相当である(最高裁昭和63年1月26
日第三小法廷判決・民集42巻1号1頁)。
そして,上記判断基準は,当該敗訴の確定判決に係る訴えの提起自体
についての不法行為の該当性を判断する場合だけでなく,当該敗訴の確
定判決後の,実質的に同一の訴訟の提起・維持に係る不法行為の該当性
を判断する場合についても,同様に適用されると解するのが相当である。
イこれを本件についてみるに,当裁判所に顕著な事実,証拠(第1事件
の乙1ないし7,併合前の第2事件の甲3,6ないし12)及び弁論の
全趣旨によれば,Aは,原告の代表取締役であり,前訴4件及び第1事
件についての原告の意思決定に主体的に関与し,これらの訴訟に係る各
訴状その他の書面作成,訴え提起,裁判所出頭等の訴訟追行に必要な各
行為を原告代表者本人として自ら追行したものと認められる。
そして,前記1で検討したところによれば,第1事件に係る原告の本
件訴えは,訴権の濫用であって,訴訟上の信義則に反するといわざるを
得ず,不適法であるばかりか,前示の事実関係,とりわけ前訴4件で敗
訴した後(殊に,東京地方裁判所平成25年(ワ)第30485号事件の判
決言渡し直後)に,第1事件に係る原告の本件訴えが提起されたことか
らすれば,同訴えは,原告の代表取締役であるAにおいて,原告が主張
する権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くものであることを知
りながら(少なくとも,原告の代表取締役としてのAの立場に置かれた
通常人であれば容易にそのことを知り得たにもかかわらず),あえて提起
したものと認めざるを得ない。
したがって,第1事件に係る原告の本件訴えの提起は,裁判制度の趣
旨目的に照らして著しく相当性を欠くものというべきであり,被告に対
する不法行為(民法709条,会社法350条)を構成するものという
べきである。
ウ当裁判所に顕著な事実及び弁論の全趣旨によれば,被告は,原告の第
1事件の提起により,応訴を余儀なくされ,そのために被告訴訟代理人
に訴訟の追行を委任し,弁護士費用の負担を余儀なくされたことが認め
られる。
そして,本件事案の内容,その他記録に顕れた諸事情を斟酌すると,
原告の不法行為と相当因果関係のある損害は,30万円と認めるのが相
当というべきである。
(2)Aに対する損害賠償請求について
前記(1)で検討したところによれば,Aは,第1事件において原告が主張
する権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くものであることを知り
ながら,同事件に係る原告の本件訴えの提起に主体的に関与したものであ
って,Aは,原告の代表取締役の職務を行うについて悪意(又は少なくと
も重大な過失)があったと認められるから,会社法429条1項に基づき,
第1事件に係る原告の本件訴えの提起によって被告に生じた損害(前記(1)
ウ)を賠償する責任を負うというべきである。
(3)小括
そうすると,被告は,原告及びAに対し,損害賠償金30万円(原告に
ついては不法行為〔民法709条及び会社法350条〕,Aについては会社
法429条1項に基づくもの)及びこれに対する平成26年5月15日(第
2事件に係る訴状送達の日の翌日)から支払済みまでの民法所定年5分の
割合による遅延損害金の連帯支払を求めることができるというべきである
が,被告のその余の請求はいずれも失当というべきである(なお,被告は,
原告とAの共同不法行為〔民法719条〕の主張もしているが,上記損害
賠償金及び遅延損害金を超えて金員の支払を求めることができる理由とな
るものではない。)。
3結論
以上によれば,第1事件に係る原告の本件訴えは,不適法であるからこれ
を却下すべきであり,第2事件に係る被告の本件請求は,原告及びAに対し,
損害賠償金30万円及びこれに対する平成26年5月15日(第2事件に係
る訴状送達の日の翌日)から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅
延損害金の連帯支払を求める限度で理由があるから認容し,その余はいずれ
も理由がないから棄却すべきである。
よって,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官
嶋末和秀
裁判官
西村康夫
裁判官森川さつきは,差し支えのため,署名押印することができない。
裁判長裁判官
嶋末和秀
(別紙1)
第1事件原告の平成26年5月19日付け弁論書(2)の「第2」ないし「第
5」。ただし,「第2」の「3」は平成26年6月16日付け弁論書(3)の
とおり置き換える。
(別紙2)
第1事件被告の平成26年5月2日付け答弁書の3頁3行目~6頁8行目。た
だし,5頁下から3行目~下から1行目,6頁3行目~5行目を除く。
(別紙3)
第2事件原告の訴状の2頁10行目~8頁9行目

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