弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
債権者が、債務者のため金一五〇万円の保証を立てることを条件として、次のよう
に定める。
(一) 債務者は寒天原料海藻を、アルカリ処理した後水洗し、常温で機械を用い
て餅状またはペースト状(泥状を含む)となし、煮沸して心天溶液となし、これを
瀘過して凝固させた後圧搾し、乾燥する方法を用いて精寒天を製造し、またはこの
方法により製造した精寒天を販売、拡布してはならない。
(二) 岐阜県恵那郡<以下略>所在債務者工場内にある右精寒天の製品、半製品
並びに原料海藻を餅状またはペースト状(含む泥状)となす機械、機具(ボール・
ミル((トロ・ミル))及びその附属品)一切に対する占有を解いて債権者の委任
する岐阜地方裁判所多治見支部執行官の保管を命ずる。
執行官は右物件を封印その他の方法により、その使用、販売及び頒布ができないよ
うにしなければならない。
訴訟費用は債務者の負担とする。
       事   実
一、債権者代理人は主文同旨の判決を求め、申請の理由として
(一) 債権者は、寒天原料海藻より寒天質を採取する方法につき、昭和四〇年一
二月二五日特許出願(同年願第七九八五八号)し、同四三年七月三日公告ののち同
年九月三日第五三五四九八号をもつて「寒天原料海藻より寒天を採取する方法」な
る名称のもとに権利の登録を得た。同特許権の権利範囲は「寒天原料海藻を微アル
カリ性の状態において水に浸漬して膨潤して後水洗し、常温で機械を用いて餅状ま
たはペースト状となし、煮沸して心天溶液とすることを特徴とし後濾過して凝固さ
せ乾燥しなる精寒天の採取方法」であり、右特許の目的(権利の要部)は原料海藻
を常温で機械(エツジランナー、又はボール・ミルを用いる)にかけ微粒子化する
点にあり、これにより加熱工程処理の手数を省くと共に、常温で海藻中に含有され
る寒天質を破壊することなく海藻組織を破壊して寒天質の殆んど全部を採取するこ
とができ、歩上りがよく、良質の寒天が得られるのである。
(二) 然るに債務者は昭和四二年頃より、寒天原料海藻を摂氏八〇度乃至九〇度
の状態にある希苛性ソーダの溶液中に浸漬(アルカリ処理)したのち、水洗し、こ
れをトロ・ミル(ボール・ミルと同構造)内に入れ水を加えた上で破砕し、濃度の
薄い泥状の流動体となし、これを煮沸し(酢酸又は硫酸を添加し)濾過して凝固さ
せ、圧搾して乾燥する方法で精寒天を製造しており、右債務者の寒天製造方法は債
権者の前記特許権の権利範囲に抵触する。
(三) 債権者は前記特許権に基づき、寒天の製造販売の事業を起こす計画を進め
ており、且つ債務者近在の訴外A等と右特許の実施契約を取交しているが、近時債
務者にならつて本件特許権の無料使用をなすものが現われ、放置するにおいては債
権者は甚大な損害を蒙る虞れがある。
と述べ、債務者の主張を争い
(イ) アルカリ処理の主目的は原料海藻を軟質にし、脱色させることにあり、オ
ゴノリ等の凝固性に乏しい酸性原藻を原料に用いる場合は当然必要な処理でこの際
に加熱することは業界周知のことである。本件特許は右処理に関せず、この点は従
前の例によるべきで、右段階での加熱処理の如何が本件特許の技術範囲に含まれる
ものではない。
(ロ) 債務者主張の特許第一九三四八号(B特許)については、右発明がなされ
た明治四四年当時の技術水準をもつてしては「適当なる機械で破砕」して原料海藻
を餅状又はペースト状にすることは予想もできないことで、右特許の技術範囲に本
件特許の目的とする程度の原料海藻の微粒子が含まれていないことは明白である。
(ハ) 債務者の製造方法で煮沸時に酸を加える点は、寒天製造工程における公知
の事実に属し、右の点の差異あることをもつて債務者の製造方法が本件特許に抵触
しないというのは当らない。
と述べた。
二、債務者代理人は「債権者の申請を却下する。訴訟費用は債権者の負担とす
る。」旨の判決を求め、答弁として
 申請の理由(一)(二)の各事実を(両製造方法が抵触するとの点を除いて)何
れも認め、その余を争い
(1) 本件特許では機械的処理を施す前に加熱処理をしない点に特徴があること
が特許公報の記載から窺われるが、
債権者の製造方法では原料海藻をアルカリ処理する段階で加熱煮熟するほかアルカ
リ濃度にも両者に差異がある。右煮熟はこれによりアクを抜き、海藻を軟質にする
と共に、コロイドの結合状態を大きくして脱水工程において脱水を容易にする効果
を有する。
(2) 原料海藻を水に浸漬して膨潤させる時期が本件特許ではアルカリ処理後で
あるのに、債務者の製造方法ではアルカリ処理の段階中である。
(3) 債務者の製造方法では海藻を破砕する際に水を加えるため、餅状又はペー
スト状にならず、泥状になる。
(4) 債務者の製造方法では煮沸の際酢酸又は硫酸を添加する。
等の各点で本件特許と債務者の製造方法では差異があり、債務者の製造方法は本件
特許に抵触しないものである。
 仮りに右抵触が存在するとしても、左の、a、bの理由により本件は被保全権利
を欠く
a 寒天原料にアルカリ処理を施した後煮沸し、濾過して寒天質を製造する方法は
公知のことで本件特許に新規性を求めるとすれば、アルカリ処理した原料海藻を
「常温で機械を用いて餅状又はペースト状となし」という点につきるものであると
ころ、B発明にかかる改良粉末寒天製造法(特許一九三四八号)において既に「天
草ヲ水ニ浸シ全ク柔軟トナシタル後石臼或ハ適当ナル機械ヲ以テ破砕シ――水ヲ加
エテ・・・煮沸・・・」する方法が採られており、本件特許と右B発明とは本質的
に差異がなく、右B氏の特許が失効し右先行技術が公知となつている現在本件特許
には何ら新規性がなく、右特許は実質的に無効なものであり、このように無効事由
が明白で無効審判の申立(昭和四五年六月六日本件特許の無効審判の申立がなされ
た)のあるときは、早晩無効審判により消滅の運命にある特許権として被保全権利
たり得ないものである。
b 債務者には先使用による通常実施権がある。即ち、債務者は昭和三七年四月設
立の三岐化学食品株式会社の営業一切を譲り受けて同四〇年四月一日設立されたも
のであるが、右三岐化学食品株式会社においては、本件特許出願のなされる以前よ
り原料海藻を常温で肉挽機等の機械を用いて切断、磨潰し、泥状の流動体として精
寒天を製造する方法が用いられていた。
 更に本件において被保全権利が存在するとしても保全の必要性がない。即ち、債
権者は現に本件特許を実施しておらず、債務者の前記寒天製造により直ちに大きな
損害を蒙る虞れはないのに反し、債務者は従業員一三名の小企業で現在の製造方法
を止められるときは企業の成立自体危殆に瀕し、回復できない損害を蒙る虞れがあ
る。
と述べた。
三、疎明(省略)
       理   由
 債権者がその主張通りの寒天製造方法を有すること、債務者が原告主張通りの寒
天製造方法を実施していることは当事者間に争いがないので、被保全権利の有無
は、先ず、右争なき債務者使用の精寒天製造方法が債権者の本件特許の技術範囲に
抵触するか否かにかかることになる。
 そこで、右本件特許の寒天製造方法と債務者実施の寒天製造方法を対比して、そ
の異同を検討すると、寒天原料海藻をアルカリ性の水に浸潰して膨潤させ、水洗し
た後に、常温で機械を用いてこれを破砕して微粒子化(水分の多寡により餅状また
はペースト状、泥状となる)し、これを煮沸し、濾過して心天溶液とし、凝固させ
乾燥させて寒天を製造する点で両者は一致し、①原料海藻をアルカリ性の水中に浸
潰する際に、債務者実施の製造方法(以下債務者の方法という)では水溶液の温度
を摂氏八〇乃至九〇度に高めているのに本件特許の方法では右の温度について別段
定めがされていないこと、②右水溶液のアルカリ濃度が債務者の方法(希苛性ソー
ダを用いる)の方が本件特許の方法(微アルカリ性)より高いこと、③膨潤した海
藻を破砕する際に、債務者の方法では相当量の水を加える(このため破砕された海
藻は濃度の薄い泥状の流動体となる)こと、④煮沸する際に債務者の方法では酢酸
又は硫酸を投入添加することの四点で差異が認められる(尚債務者は本件特許では
水に浸漬するのがアルカリ処理後に行なわれる旨主張し、これをも差異点の一とす
るが、甲第二号証(本件特許公報)中発明の詳細な説明によつても、右主張の時間
的先後関係を見出すことはできず、他に右差異点の存在を窺わしめる資料はない)
ところ、右の差異点①、②については、成立に争ない甲第二号証の発明の詳細な説
明及び実施例の記載よりみて、本件特許の方法では、アルカリ処理が常温で微アル
カリ性の溶液を用いて行なわれることが通常予想されていることが窺えないではな
いが、証人Cの証言及び債権者、債務者各本人の供述並びに弁論の全趣旨によれ
ば、右アルカリ処理の目的は海藻中の寒天成分を安定させて寒天抽出の歩止りを高
めるためであつて、このアルカリ処理をより短時間内に効果的に行なうのにはアル
カリ濃度を高くし、且つ加温することがより適当であり、殊にオゴのり等の酸性原
藻をアルカリ処理する場合は右の処理が寧ろ必須であるといつてよいこと、及び右
のようなアルカリ処理の有効性と実施方法は既に寒天製造業界において公知の事実
であること等の事実が一応認められ、これによると本件特許の方法においても、原
藻の種類によつてはアルカリ濃度の高い水溶液を加温してアルカリ処理を行なうこ
とが当然に必要となる場合が考えられ、これを債権者が意識的に除外しているもの
とは理解できないから、債務者の方法程度のアルカリ濃度の水溶液、加温の施用
は、本件特許の技術範囲を逸脱するものではないと考えられる。次に差異点③につ
いては、債務者本人の供述によると、右の水の添加は主に微粒子化された原料海藻
を煮沸窯に導入する際の便宜のためになされていることが窺われ、水の添加が債務
者の方法における海藻の微粒子化段階の重要な因子であることは認められない(こ
の重要性に関する債権者本人の供述部分は、債権者本人の供述並びに同供述により
成立の真正なことの認められる甲第一二号証の記載と対比して採用しない)から右
差異の存在をもつて債務者の方法が本件特許の方法の技術範囲を超えるものとはい
えず、更に差異点④については、債権者、債務者各本人の供述によると、煮沸の際
に硫酸を投入し、寒天の抽出を容易にすることは既に業界において公知の事実であ
ることが一応認められ、本件特許公報中に右処理についての何の設明も見当らない
のは、寧ろ右のような硫酸投入の如何はこれを問わない趣旨と解するのが相当であ
るから、債務者の方法における右硫酸投入の事実の存在をもつて本件特許の技術範
囲に属さないということはできない。
 右によると、債務者の方法は、前記各差異点の存在に拘わらず、結局、債権者の
本件特許の技術的範囲に含まれ、これと抵触するものというべきである。
 ところで、債務者の主張中本件特許に新規性がなく実質的に無効であるとの点に
ついては、一応特許登録がなされ、現に特許権が存在する限り、これが新規性がな
いとの理由で実質的に無効とし、被保全権利なしとし得ないこと勿論であるが、仮
りに本件特許がその要件を備えず近々に無効の審判が下ることが予想されるような
場合には、保全の必要を欠くに至ることも考えられるので、右の債務者の主張をこ
の趣旨に解して検討することにする。成立に争ない乙第一号証並びに弁論の全趣旨
によれば債務者主張の如き特許を明治末年訴外Bが有し、その発明の詳細の説明中
に債務者主張の如き文言を認めることができるが、債権者本人の供述により成立の
真正なことの認められる甲第一九号各証、同第二〇号証に同供述を併せると右文言
中の石臼を用いた破砕の実験では到底原料海藻を微粒子化することは不可能である
こと並びに右発明当時の一般的技術水準よりみては、「石臼その他適当の機械をも
つて」原料海藻を餅状またはペースト状になるまでの破砕をすることは凡そ意想外
のことであつたことを一応認めることができ、過去の発明の技術的範囲を画定する
にはその当時の技術水準を考慮し、考案者の予想し得たと推察される限度において
これを定めるのが相当で、右Bの発明において、本件特許の技術範囲を含むものと
することは右限度を超えるものと考えられるから、右B特許と本件特許とが抵触す
るとはいえず、これの抵触を前提とする債務者の主張は理由がない。
 次に債務者主張の先使用による通常実施権について検討する。債務者本人の供述
によれば、債務者主張のとおり債務者の前身(というべき)三岐化学食品株式会社
においては本件特許出願の前より肉挽機等を用いて原料海藻を細断する方法を寒天
製造工程に採り入れていた事実が一応認められるが、証人Dの証言並びに弁論の全
趣旨によると右のような機械を用いる方法では到底原料海藻をペースト状にまで微
粒子化することは不可能であることが窺われ、その他これに疎明する資料はなく、
右機械の使用の事実をもつて、先使用による通常実施権ありとすることはできな
い。
 そこで、本件保全処分の必要性について判断する。債権者本人の供述によれば、
債権者は本件特許を近々に自ら実施して寒天製造事業の再開を計画しており、また
現在訴外Aに対しこれの通常実施を許諾し、また他にも右実施許諾をし、実施料を
取得したい意向であるが、債務者において本件特許に抵触する製造方法を開発し、
これを利用しており、他にも二、三の業者が債務者にならつて同方法を採用してい
るため、債権者の右計画、意向の実現に支障を来たしている事実が一応認められる
ところ、債務者は債務者の実施方法が差止められるときは、債務者は事業を閉鎖の
止むなきに至り回復することのできない損害を蒙る虞れがある旨を主張するが、本
件特許の眼目である「原料海藻を常温で機械を用いて微粒子化する」方法は従来一
般に採られている寒天製造工程中の一工程に過ぎないから、債務者が右の方法を採
れなくなるとしても、その寒天製造事業の閉鎖を来たす破目に陥るとは到底考えら
れず、債務者の右主張は容れるに由ないところで、前記事実により、本件において
保全の必要性は肯認されるべきである。
 以上により、本件申請は理由があるので、これを認容することとし、弁論の全趣
旨によつて推認される本件製造方法使用による年間取得利益その他の諸事情を考慮
し、且つ訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決す
る。
(裁判官 金田智行)

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