弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を次のとおり変更する。
     被控訴人は控訴人に対し金六六二万円及び内金六〇二万円に対する昭和
五三年一一月二九日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
     控訴人のその余の請求を棄却する。
     訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
         事    実
 一 控訴人は「原判決を取り消す。被控訴人は控訴人に対し金七一六万四〇〇〇
円及び内金六〇二万円に対する昭和五三年月一一月二九日から支払済みに至るまで
年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とす
る。」との判決を求め、被控訴人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負
担とする。」との判決を求めた。
 二 当事者の事実上の主張及び証拠関係は、次のとおり改め加えるほか、原判決
事実摘示のとおりであるからこれを引用する。
 1 原判決二枚目裏七行目の「、また、……」から同九行目の「……これを取下
げ」までを削除する。
 2 同三枚目表五行目の「表示登記」の次に「及び所有権保存登記の各」を、同
一〇行目の「そして、」の次に「控訴人の所有権保存登記の申請は、四月一一日同
出張所A登記官がその取下げを指導したため、控訴人の右登記申請代理人司法書士
Bは、これを取下げ、」を各加える。
 3 同三枚目裏七行目の「申請があ」の次に「り、これにつき実地調査を要する
ものとして即日処理がなされず、いまだ登記がなされていなか」を、同一〇行目の
「表示登記をなし」の次に「(さらに、これに引き続き仮差押えの登記をなしたが
右登記嘱託にかかる物件の表示は、主たる建物の床面積は一一五・四二平方メート
ル、付属建物の床面積は二一・六〇平方メートルとなつており、控訴人申請の表示
登記の物件の表示の主たる建物の床面積の一一五・三八平方メートル、付属建物の
床面積の二二・九六平方メートルと明らかに相違しているので、もし控訴人申請の
表示登記が受付順位を間違うことなく登記されていたならば、右仮差押えの登記嘱
託は不動産の表示が登記簿と牴触することとなり、法四九条五号により却下される
べきものであつた。)」を各加える。
 4 同四枚目表一〇行目の次に改行して「しかしながら、右仮差押登記嘱託によ
る表示登記が完了した四月六日の時点では、控訴人の所有権保存登記申請はいまだ
取下げられておらず、控訴人の表示登記申請の受付番号は第一二七六三号、右所有
権保存登記申請の受付番号は第一二七六四号であり、裁判所からの仮差押登記嘱託
の受付番号は第一五四七一号であるから、(前記主張のとおり、まず控訴人の先順
位受付けにかかる表示登記申請があつたのであるが、それが順番とおり処理されな
かつたとしても)右嘱託にかかる表示登記後、同出張所登記官は、登記申請の右受
付番号順に従つて、まず控訴人申請の右所有権保存登記をなすべき義務があつたの
である。しかるに、同出張所C登記官は、右注意義務を怠り、漫然と受付番号が先
順位の控訴人の(右表示登記申請及び)右所有権保存登記申請を看過し、受付番号
が後順位である裁判所からの右仮差押登記嘱託に基づき職権により同嘱託登記の登
記義務者である訴外Dを所有者とする所有権保存登記をなしたうえ、右仮差押登記
をなした過失により控訴人に損害を与えた。」を、同一一行目の「ところで、」の
次に「仮に、控訴人の所有権保存登記申請がその受付日である三月二四日に遡つて
取下げるという方法で処理されたと評価されるとしても、」を各加える。
 5 同六枚目表末行の「7」を「4」と、同裏三行目の「6」を「3」と各改め
る。
 6 同六枚目裏七行目の「(三)の事実」の次に「中、控訴人の所有権保存登記
申請の取下げがなされたのが四月一一日であるとの点は争うが、その余」を、同八
行目の末尾に続けて「すなわち、控訴人の所有権保存登記申請書が四月六日の時点
において同出張所に残存していたことは認めるが、右登記申請自体の効果が右時点
まで継続していたとの点は争う。右登記申請は、本来申請の時点で直ちに却下ない
し取下げられるべきものであつたが直ちに却下した場合の却下手続及びそれに付随
する手続の煩雑さから免れるため、又取下げるにしても、再提出の時期及び実地調
査時期の連絡確保のため、実地調査が可能になるまで、法務局がその申請書を事実
上預つておくという、法務局と司法書士との間の慣行に基づき、事実上法務局に残
存していたに過ぎないものであつて、その受付日である三月二四日に遡つて取下げ
るという方法で処理されたと評価さるべきである。」を各加える。
 7 当審における新たな証拠として、控訴人は、甲第一二ないし第一四号証を提
出し、証人E、同Bの各証言を援用し、後記乙号各証の成立をすべて認め、被控訴
人は、乙第一一号証の一、二、第一二、一三号証の各一ないし三、第一四号証の一
ないし四、第一五ないし第一七号証、第一八号証の一、二、第一九ないし第二六号
証を提出し、証人Fの証言を援用し、前記甲号各証の成立をすべて認めた。
         理    由
 一 成立に争いのない甲第一〇ないし第一三号証、乙第二、三号証、第四号証の
一、二、第五号証、第六号証の七ないし一二、第九、一〇号証、第一五号証、原・
当審証人F(ただし、後記措信できない部分を除く。)、原審証人G、当審証人
E、同Bの各証言、及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の各事実が認められ、前記
証人Fの証言中右認定に反する部分は前掲各証拠に照らして措信できず、ほかに右
認定を左右するに足りる証拠はない。
 1 控訴人は、三月一三日訴外Dから、本件建物をその敷地とともに代金一〇〇
〇万円で買い受け、同日手付金一〇〇万円を支払い、同月一七日残代金九〇〇万円
を支払つて、その約一週間後に本件建物及びその敷地の引渡しを受け、これに控訴
人現代表者及びその家族が居住した。
 2 右敷地については、三月一八日控訴人名義に所有権移転登記がなされたが、
本件建物については、未登記であつたため、控訴人は三月二四日福岡法務局西新出
張所に対し控訴人名義の表示登記及び所有権保存登記の各申請をなした(以上の事
実は当事者間に争いがない。)。
 3 右各登記の申請書は、同出張所の総括係が担当する受付の窓口に同時に提出
され、右表示登記申請書が同出張所同日受付第一二七六三号、所有権保存登記申請
書が同第一二七六四号の各受付番号で受け付けられ(以上の点は当事者間に争いが
ない。)、登記申請書の審査を担当する登記第二係に回付されたが、他方、当時同
出張所においては、表示登記申請書の調査は建築基準法に基づく建築確認通知書及
び同検査済証、建築請負人の引渡証明書等の所有権を証する書面、建物図面、建物
宅地調査書(福岡法務局とその管内の土地家屋調査士会との申合わせによつて作成
添付するもの)等の各添付書類を参照してなされ、右建築確認通知書、検査済証が
添付されていて書類審査で問題がなければ、実地調査を省略して差し支えないとの
取扱いがなされていたところ、本件において控訴人は、表示登記の申請に際し、本
件建物の所有権を訴外西島から売買により取得したにもかかわらず、本件建物の建
築主が控訴人である旨の記載のある建築請負人及び付帯(左官)工事人ら作成の建
築工事完了引渡証明書並びに「無届による建築のため確認通知書及び検査済証はあ
りません。」との記載のある土地家屋調査士作成の建物実地調査書を申請人の所有
権を証する書面として提出したため、受付けから四、五日後の三月二七日、八日頃
書類審査を終つた段階で、右実地調査省略の取扱いができず、同出張所A登記官に
より実地調査が必要と判断され、控訴人の表示登記申請は、実地調査のうえ受否を
決定すべきものとして、その処理が留保され、A登記官の補助者である同出張所F
事務官が、その申請書の第一葉上部欄外に「要実地調査」の印判を押捺したうえ、
関係書類を登記第二係に備え付けられている実地調査を要する申請書類のみを保管
しておく書類入れに収納し、実地調査の実施に備えた。
 4 また、当時同出張所においては、表示登記申請書と所有権保存登記申請書と
が同時に提出された場合、書面審査の結果表示登記について実地調査省略の取扱い
がなされるときでも当日(即日)のうちに登記までなされる実情にはなく、現実に
は右各申請書の受付けから各登記の登記簿への記入まで平常の場合でも約三日を要
し、各登記申請共に却下されたり、あるいは取下げの指導を受けることもなく、表
示登記、所有権保存登記共に各登記申請の日付でそれぞれ記入がなされていたが、
表示登記に実地調査省略の取扱いがなされず登記申請の当日(即日)に処理できな
いときは、その権利の客体たる不動産についての表示登記を欠くものであるから法
四九条二号に当り、かつ、その欠缺は即日補正することができないのであるからこ
れを却下できるとの見解が一応とられていたものの、現実にはその登記申請書をそ
のまま登記所に保留し、表示登記申請代理人である土地家屋調査士などに対し、実
地調査のため現地に臨む旨をあらかじめ通知する際、右所有権保存登記申請を、申
請の日付に遡らせた取下書により、取下げるよう指導し、あわせて表示登記の登記
簿への記入予定時期を示唆して所有権保存登記の再申請を促し、さらに、右土地家
屋調査士などは所有権保存登記申請代理人である司法書士などに同様の連絡を取る
慣例であつた(ちなみに、福岡法務局箱崎出張所においては、未登記不動産の表示
登記と所有権保存登記が同時申請され、右表示登記申請が実地調査を必要とする場
合も、通常は所有権保存登記申請を取下げさせないで処理し、表示登記の日付は登
記の日ではなく受付日とする〔もとより所有権保存登記の日付はその受付日とす
る〕取扱いが行われていたが、それでも同出張所における昭和五五年四月から昭和
五六年八月までを調査した結果、所有権保存登記が〔現実に登記の日付が記入され
た〕表示登記の先日付で登記されている事例が一五三件中二一件あつた。)。
 5 控訴人からの表示登記申請の受否決定が保留された後、訴外国際航業株式会
社から福岡地方裁判所に対し、本件建物が訴外西島の所有であるとしてこれに対す
る仮差押命令の申請がなされ、同裁判所は、四月四日本件建物に対する仮差押えの
決定をなし、同月六日同出張所にその旨の登記嘱託をし、右登記嘱託は、同出張所
同日受付第一五四七一号として受け付けられたところ、同出張所C登記官は、本件
建物に対する右登記嘱託の受付番号が控訴人の表示登記及び所有権保存登記の各申
請の受付番号より後順位であつたにもかかわらず(なお、右登記嘱託にかかる物件
の表示は、主たる建物の床面積は一一五・四二平方メートル、付属建物の床面積は
二一・六〇平方メートルとなつており、控訴人申請の表示登記の物件の表示の主た
る建物の床面積の一一五・三八平方メートル、付属建物の床面積の二二・九六平方
メートルと明らかに相違していた。)、控訴人の右各登記申請の受否決定が保留さ
れていることを看過し、同日職権により、本件建物の表示登記及び訴外西島を所有
者とする所有権保存登記をなしたうえ、訴外会社のために仮差押登記を了した(以
上の事実中、括弧内の物件の表示に関する事実及び同出張所C登記官が控訴人の右
各登記申請の受否決定が保留されていることを看過したことを除く、その余の事実
は当事者間に争いがない。)。
 6 同出張所は、もともと福岡法務局管内でも繁忙庁とされていたが、控訴人の
各登記申請があつた三月下旬は年度末にあたり、官公署からの嘱託登記事件が増加
したのに加え、昭和四七年は固定資産の評価替えの年にあたつており、登録免許税
が四月一日から新評価額を基礎として算出される関係から、平常の場合の約二倍
(週日一日当りの平均三三〇件、最も少ない日で二二五件、最も多い日で四九七
件)の登記申請事件が集中した。登記申請事件の処理件数の限度としては、職員一
人当り一日ほぼ一〇件が目安とされており、同出張所には二〇名(内登記官六名)
の職員が配置されていたが三月二五日及び四月一日付で定期人事異動があり、同出
張所においても登記官三名、事務官五名の計八名が配置換えとなり、後任の職員の
着任がほぼ完了した四月五、六日頃までは、定員の六割(登記官は半数)にあたる
同出張所職員のみで、勤務時間後も二、三時間の残業をし、平常時に倍する案件の
処理にあたつた。そこで、受付後書類審査がなされるまで約一週間かかり、特に問
題のない登記申請事件であつても登記の完了まで一週間を要していた。
 そして、実地調査を要するとされた事件についても、三月下旬から四月上旬まで
はほとんど実地調査は実施されなかつた。しかして、控訴人の表示登記申請代理人
E土地家屋調査士は、同出張所へ五、六回行つたほか、電話も何回かかけ、あるい
は側面から司法書士を通じ、同出張所に対し、迅速処理を催促ないし懇請したりし
たが、控訴人の本件表示登記申請も、受付けから書面審査まで約一週間かかり、人
事異動の余が落ち着いた四月一一日になつて、右書面審査を担当したF事務官によ
つて(同出張所H事務官も帯同し)、E土地家屋調査士の現地案内のうえ、実地調
査が実施され(ちなみに、相互に連絡を欠いたまま、同日同出張所A登記官も裁判
所からの本件嘱託登記関係の実地調査を実施した。)、同日頃事実上同日付で登記
簿へ記入がなされ同出張所I登記官による校合作業も完了した。ところが、右完了
後、同出張所は、E土地家屋調査士に対し二重登記を理由に控訴人の表示登記申請
を取下げるよう要請したが、応じなかつたため、四月二八日法四九条二号の規定に
該当するものとしてこれを却下した。これとは別に、右実地調査前、F事務官が控
訴人の所有権保存登記申請代理人B司法書士を電話で呼び出し、右登記申請を申請
受付日の三月二四日付に遡らせて取下げるよう勧告したため、B司法書士は、これ
を取下げたところ、四月一一日のうちに同出張所から再度電話があり「翌一二日に
所有権保存登記申請書を再提出してくれ、午後には下げるから」との連絡があつた
ので、翌一二日右登記申請書を再提出すると、新たに同出張所同日受付第一六三〇
三号で受け付けられ、同日頃事実上記入及び校合の段階まで作業が進められたが、
同一地番の本件建物について裁判所からの本件嘱託登記がなされていて二重登記と
なることが判明し、同出張所から再度右登記申請の取下げが勧告されたたため、や
むなく同日付でこれを取下げた。
 <要旨>二 ところで、未登記不動産について、表示登記申請書と所有権保存登記
申請書が同時に窓口に提出された場合は、その提出の趣旨に従い右表示登記
申請書、所有権保存登記申請書の各順序で受け付け一連の受付番号を記載し、右表
示登記が実地調査を行なうため、あるいは、その他登記所の登記事務処理に関する
人的物的諸制約などのため登記申請の当日内(即日)に登記の実行ができなかつた
と否とに拘わらず、法四八条の「登記官ハ受附番号ノ順序ニ従ヒテ登記ヲ為スコト
ヲ要ス」との規定は、登記の順序が権利の順位を定める標準となることに鑑み設け
られ、直接には登記事務取扱いに関し登記官が登記をする順序を定めたもので、直
ちに対抗力にかかわるところの権利に関する登記間に限らず、右権利に関する登記
の手続上その必須の前提となる表示に関する登記間にも適用され、もとより嘱託に
よる登記間についても準用される(法二五条二項)のみならず、それぞれ右の各登
記相互間においても、その登記申請書あるいは登記嘱託書の、調査並びに登記がい
ずれも受付(順位)番号の順序に従つてなされなければならない趣旨を定めたもの
と解されるから、所有権保存登記が、その対象である不動産の客観的、物理的現況
の公示を目的とする表示登記の存在を論理的に前提としているとしても、右の順序
に従つて登記がなされる以上、所有権保存登記を処理する段階においては、すでに
その表題部に右登記申請者が所有者として記載された表示登記が存在し、右の前提
はこれを充足していることとなり、表示登記を欠く不動産について直接所有権保存
登記申請がなされた場合と同一に取り扱うことはできないので、すべからく登記官
は後順位受付けの右所有権保存登記申請の処理はこれを保留し、右表示登記完了
後、その所定の登記手続を実行すべきであつて、右所有権保存登記申請を法四九条
二号の規定に該当するものとして却下し、あるいは、同じく却下すべきことを前提
にその取下げの指導をなすがごときは違法な行為というべきであるし(なお、法一
〇〇条一号は、表題部に自己が有者として記載されている者に対し自己名義による
所有権保存登記の申請適格を認めた規定にとどまり、同規定の趣旨は、以上のよう
に解釈するについてなんら影響を及ぼすものではない。)、右表示登記が実行され
るまでの間に裁判所から所有権の処分制限の登記嘱託がなされたときも、すでに先
順位受付けの表示登記、所有権保存登記の各申請が存する以上、これら各登記申請
の処理がなされるまで右登記嘱託の処理を保留し、右申請にかかる各登記の受否の
決定が順次なされた後に、後順位受付けの右登記嘱託の受否を決定すべきものと解
するのが相当である。
 けだし、もし右のように解さなければ、未登記の不動産について、表示登記が登
記申請の当日内(即日)に実行できる場合を除き、表示登記申請があれば実地調査
は原則としてこれを行わなければならないとされている(不動産登記事務取扱手続
準則〔以下単に準則という。〕八八条本文)(もつとも申請にかかる事項が相当と
認められる場合にはこれを省略しても差し支えない〔準則八八条ただし書〕が、そ
の判断とても登記官の裁量に委ねられている。)うえ、日を改めて実地調査が実施
され表示登記が実行されるまでには相当程度の時日の経過がどうしても避けられな
いにも拘わらず、その間は適法に所有権保存登記申請を行おうとしてもこれを行う
ことができず、未登記不動産の取引をなす場合も権利に関する登記の順位が対抗要
件取得の順位に直接影響する点では既登記不動産の取引の場合となんら本質的な差
異を認めることができないのに、表示登記後間を置かずして引き続き権利に関する
登記の手続をなすことにより、他に優先して対抗要件取得の順位を確保し、自己の
取得した所有権などの保全のために最善の努力を払おうとする者にその方途を閉ざ
し(もとより、表示登記申請後間断なく登記簿閲覧などのため登記所へ通い詰める
とか、登記所からの便宜的計らいにより表示登記後間髪を入れずに権利に関する登
記ができるよう連絡を受けるとか、その他これに類するような表示登記完了時を察
知する方法についてはおよそ論外というべきであるが、いずれ関係者は現実にはこ
れらの方法に頼らざるを得ないところまで追い込まれかねないと思われる。)、場
合によつては、職権により表示登記及び所有権保存登記がなされるところの裁判所
からの所有権の処分制限の登記嘱託(法一〇四条二項)が行われようとしていて
も、ただ拱手傍観を余儀なくさせ、これに劣後する結果を甘受させてしまうことと
なり、右のごとき事態を容認することにより未登記不動産の迅速、円滑な取引やそ
の安全にもたらされる弊害は、およそ不動産登記制度の根幹にも触れ、とうてい堪
え難いものとなるからである。
 一方、右のごとく所有権保存登記申請が却下されず、申請当日(即日)とは日を
改め実地調査が行われて表示登記がなされ、次いで所有権保存登記もなされた場合
には、権利に関する登記の申請については、その登記の日付は申請の受付けの日を
もつてなされる(法五一条二項)のに対し、表示に関する登記の申請については、
現実に登記簿に記入される日をもつて登記の日付とされる(法五一条一項)から、
登記簿面上、いまだ表示登記がなされる以前に所有権保存登記がなされたような外
観を呈するに至ることは避けられないものの、あくまで現実の登記は、各申請受付
けの順序に従い、表示登記完了後に所有権保存登記が実行されるのであり、しかも
右各日付の意味するところは右各条項により明確に規定されているのであるから、
右外観を呈するということ以外にはなんらの不合理も考えられず、これをもつて格
別不動産登記制度を混乱させるものとはいい難い(ちなみに、およそ不動産上の権
利の対抗力は登記の時に発生するので、右の場合にも所有権の対抗力発生時は、右
表示登記完了後の所有権保存登記実行の時であることはもちろんであるが、登記簿
面上の記載からする対抗力発生時の事実上の推定の関係では、通常の場合とは異な
り、所有権保存登記の〔申請受付けの〕日付ではなく、右表示登記の日付に対抗力
が発生したものと推定されることとなろう。)。
 また、所有権保存登記など権利に関する登記の日付は申請受付けの日をもつてな
される定めである(法五一条二項)こと、及び登記申請自体の公示方法の制度が設
けられていない現行不動産登記制度の下で、その公示内容と異なる権利の状態は存
在しないであろうと信頼して取引に入る者の右信頼をできる限り保護する必要のあ
ることに着目すれば、登記事務は極力迅速に処理されなければならないのが当然で
あり(なお、登記申請の欠缺の補正の期間が即日と制限されている〔法四九条ただ
し書〕ことも右の迅速処理に資する趣旨を間接的に含むものであることはこれを否
定できない。)、およそ、登記は、権利に関する登記に限らず、表示に関する登記
も、登記申請の当日ないし同日から短時日のうちに迅速に実行されることを要し、
かつ、これをもつて足りるものと解するのが相当であり、登記申請のすべてをその
申請当日内(即日)に処理すること(いわゆる「即日処理の原則」)は、登記事務
処理上物理的に一定の時間が必要なことは当然として、登記所の登記事務処理量に
対する人的物的設備、執務体制の現状を直視する限り、いうべくして現実にはほと
んど不可能に近いし、もとより明文の規定も存しないのであるから、右のような厳
密な意味での「即日処理の原則」が、(登記官に向けられた登記事務処理上の準則
としてならともかく)現行不動産登記法上、法四八条の原則と比肩すべき重要な法
原則として採用されているものとはとうてい解し難いものというべきである。
 三 以上のところによれば、同出張所C登記官は、裁判所からの本件登記嘱託に
基づく各登記を実行した四月六日の時点において、右登記嘱託よりも先順位受付け
の控訴人の本件表示登記申請がその添付書類の問題から実地調査を行つたうえ受否
を決定すべきものとして保留され、これに伴つて右表示登記申請の次順位受付けの
控訴人の本件所有権保存登記申請も受否の決定を保留され(なお、登記申請書の欠
缺補正のため取下げをする場合において、たとえその取下書に登記申請受付けの日
付、あるいは、その他の日付が記載されていたとしても、その取下げの効果は現実
に取下げがなされた時に生ずるものと解するのが相当であるから、控訴人の本件所
有権保存登記申請は四月一一日の時点までは受否の決定が保留されたまま申請自体
の効果を継続していたものというべきである。)、F事務官により、同出張所登記
官が本件未登記建物について控訴人から右各登記申請がなされていることを容易に
知り得るような措置が講じられていたのであるから、当時殺到していた多数の登記
事件の処理に追われたとはいえ、控訴人の右各登記申請に気付いて、法四八条の趣
旨に沿い右受付順位に従つて控訴人の本件表示登記申請、所有権保存登記申請、次
いで裁判所からの本件登記嘱託を処理すべきであつたにも拘わらず漫然とその注意
義務を怠り、違法にも、控訴人の右各登記申請の受否の決定がそれぞれ保留されて
いることを看過したまま、職権により本件未登記建物について右登記嘱託に基づく
表示登記、所有権保存登記、仮差押えの登記の実行を完了し(ちなみに、同登記官
は、裁判所からの本件登記嘱託を処理するに際し、控訴人の右各登記申請と同登記
嘱託の各々それ自体、あるいは、これら相互の処理関係について、格別、法解釈
上、あるいは、実務上の一定の見解を正当と解しこれに従つてなしたわけではな
く、前示のとおり、ただ右各登記申請が保留されていることに気付かずにそのまま
右登記嘱託を処理したに過ぎないものと認められる。)、もつて控訴人の本件表示
登記申請及び同所有権保存登記申請が裁判所からの本件登記嘱託によりなされた表
示登記、所有権保存登記との関係で二重登記となる結果を招来し、法四九条二号の
規定に該当するものとして、右表示登記申請については却下、同所有権保存登記申
請については取下げを余儀なくさせてしまつた。
 以上によれば、同登記官の過失ある違法行為により控訴人は本件建物の所有権取
得を訴外会社に対抗し得なくなつたというべきであるから、右所有権取得につき対
抗要件を具備する機会を喪失したことによる損害は、国家賠償法一条一項に基づき
右登記官の違法行為と相当因果関係のある範囲て被控訴人においでこれを賠償すべ
き義務がある。
 四 成立に争いのない甲第六、七号証、原審証人Gの証言により成立が認められ
る甲第八、九号証、同証人の証言、及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の各事実が
認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
 1 訴外会社は、昭和五三年五月八日前示仮差押えにかかる本件建物について福
岡地方裁判所に強制競売の申立てをした。そこで、同裁判所は、同月九日強制競売
開始決定をなし、本件建物は、最低競売価額金六〇二万円で同年一二月五日競売に
付されることとなつた。そのため、すでに本件建物の引渡しを受けて控訴人現代表
者及びその家族を居住させていた控訴人としては、やむを得ず訴外会社と「控訴人
は、訴外会社に対し同月四日限り六〇二万円を支払う。右金員の支払と引換えに、
訴外会社は、本件建物の競売申立てを取下げ、本件建物についての一切の権利を放
棄する。」旨の和解をし、控訴人は、同年一一月二九日訴外会社に対し六〇二万円
を支払つた。
 2 控訴人は、本件訴訟の提起、遂行を控訴代理人らに委任し、着手金として五
七万二〇〇〇円を支払い、成功謝金として同額の金員を本訴の勝訴判決確定時に支
払う旨約した。
 以上によれば、前示登記官の違法行為と相当因果関係の範囲にある控訴人の損害
は、右和解に基づく支払金六〇二万円及び弁護士費用中六〇万円の合計六六二万円
と認めるのが相当である。
 五 以上のとおりであつて、控訴人の本訴請求は、前示損害金六六二万円及び前
示弁護士費用の損害金六〇万円を除く内金六〇二万円に対する損害発生日である昭
和五三年一一月二九日から支払済みに至るまで民事法定利率年五分の割合による遅
延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当
であるからこれを棄却すべきである。
 よつて、これと異なる原判決を右のように変更し、訴訟費用の負担について民訴
法九六条、八九条、九二条を適用して、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 美山和義 裁判官 谷水央 裁判官 江口寛志)

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弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
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採用担当宛